2025.01.15
令和6(ラ)10001 保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件 特許権 令和6年10月22日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。
当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、
後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお
り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原
決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記
載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記
2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2
−3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る
本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味
は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは
非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体
状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処
理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中
味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文
は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ
いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい
という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ
れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性
の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学
物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、
第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排
除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は
認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての
非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド
含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の
含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題
も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、
「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する
いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ
ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.
0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用
することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先
日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする
凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」
(乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ
とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を
PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然
検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更
に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製
造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう
とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題
を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量
と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1.
0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に
対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT
Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると
も認められない。
その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
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2025.01.14
令和5(ワ)70607 特許権 民事訴訟 令和6年10月22日 東京地方裁判所
構成要件Jを充足しない、さらに均等侵害も第5要件を満たさないと判断されました。
ア 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、「第 1 制御装置」(構成要\n件 J)は、自動回帰発動条件1)(「前記第 1 送受信アンテナにより一定時間以
上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」)、又は、
同2)(「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」)のうち、「少
なくともいずれか一方の判断が行われた場合」に、本件発明の遠隔操縦無人
ボートを、「前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記
初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する」
ものである(いずれも構成要件 J)。
もっとも、この記載によっても、本件発明の「第 1 制御装置」は、自動回
帰発動条件1)及び2)の各場合に自動回帰のための動作制御を行い得る構成\nをいずれも備えたものである必要があるか、いずれか一方の構成を備えた装\n置であれば足りるかについては、必ずしも明らかでない。
イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明は、「ボートが波に乗っ
て、リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてし
まった場合」、「波により船体が激しく揺れて、遠隔操縦装置からの電波を受
信するアンテナが岩等に当たり破壊されてしまった場合」及び「ボートに搭
載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難くなった場
合」、すなわち、遠隔操縦装置との通信途絶(前 2 者)及び電源残量の不足
(後者)という事態を具体例として示しつつ、そのような事態においてもな
お紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供することを
解決すべき課題とし(【0004】〜【0007】)、本件発明の構成を備えることに\nよって、「一定時間以上遠隔操縦装置地の間の通信が途絶えた場合、または、
電源の残量が半分以下になった場合」に、「自動的にボートを初期位置に回
帰させることができ」、「ボートを紛失してしまうことがない」として、この
課題を解決する作用効果が得られるとするものである(【0008】、【0009】)。
ここで、自動回帰発動条件1)の場合に初期位置に自動回帰させること及び
同2)の場合に初期位置に自動回帰させることは、前者が遠隔操縦装置との通
信途絶、後者が電源残量の不足という相互に原因の異なる危機的状況への対
処を想定したものである。このため、本件発明は、その作用効果を奏するた
めに、いずれの危機的状況にも対処できるようにすることを要するものと理
解される。そうすると、本件発明における「第 1 制御装置」(構成要件 J)
は、自動回帰発動条件1)に係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得
る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に\n自動回帰のための動作制御を行う装置を意味するものと解される。本件発明
の実施例としてはこのような装置のみが開示され、いずれか一方の機構のみ\nを備えるものが本件発明の技術的範囲に含まれることの明示的な記載も示
唆もない。これに加え、このように解することは、本件発明に係るボートが
電源の残量を検出する残量検出装置(構成要件 I)を備えることを発明特定
事項としていることによっても裏付けられる。仮に、自動回帰発動条件2)に
係る判断を行い得る機構がなく、同1)が満たされた場合に自動回帰のための
動作制御を行う機構のみを備えた装置も本件発明の技術的範囲に含まれる\nものと解した場合、本件発明の発明特定事項として電源の残量を検出する残
量検出装置を備える構成を採用したことの技術的意義が理解し難いものと\nなるからである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載によ
れば、本件発明の「第 1 制御装置」(構成要件 J)は、自動回帰発動条件1)に
係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前\n提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制
御を行う装置を意味するものと解される。これに反する原告の主張は採用で
きない。
3 争点 1-5(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品が本件発明の構成要件 J を充足しないとしても、電源の
残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件として、電源の残量が半分以下
となった場合とするか他の所定量以下となった場合とするかの相違は、本件発明
の本質的部分の相違ではなく、本件特許の出願経過において意識的に除外された
ものでもないことなどから、被告製品につき本件発明の均等侵害が成立する旨を
主張する。
しかし、前記認定事実(前記 2(1))によれば、本件特許の出願経過において、
特許庁審査官から、拒絶理由として、補正前請求項 1 発明の「所定の条件」につ
き明確性要件違反及びサポート要件違反を指摘され、また、補正前請求項 6 発明
の「所定値」につき明確性要件違反を指摘されたことを受け、原告は、本件補正
により、自動回帰のための動作制御の条件につき、本件発明の構成要件 J のとお
り補正したものである。原告によれば、本件補正は出願当初の明細書の記載内容
の範囲内で行ったものであるところ(乙 4)、本件明細書には、自動回帰発動条件
につき、本件発明の実施形態の 1 つとして、「上記実施形態では、自動回帰の際
に、障害物に衝突しないように、通ってきた経路を戻っている。しかし、通って
きた経路を戻らなくてもよい。この場合、ボート に障害物を検知するセンサ
を設け、自動的に障害物を回避できるようにすることが好ましい。電源 12 の残
量が少ない場合にボート を自動回帰させる場合、通ってきた経路を戻るので
は、少なくとも電源 12 の残量が半分以上あることを条件に戻す必要がある。障
害物センサを設けることにより、電源 12 の残量が半分以下になって、自動回帰
させても操作者の下までボート が戻って来ることができる。」との記載があり
(【0061】)、他に自動回帰発動条件としての電源の残量の数値に言及する記載は
見当たらない。この点を踏まえると、本件補正は本件明細書【0061】の記載に基
づいて行われたものと理解される。
そうすると、原告は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のため
の動作制御の条件につき、ボート が通ってきた経路を戻るケースにも対応し
得るものとする趣旨で、「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」
(自動回帰発動条件2))とする数値限定を行ったものとみるのが相当であり、「半
分以下」とするもの以外は特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべ
きである。
したがって、本件発明の構成要件 J の文言非充足との関係における均等侵害の
主張については、少なくとも均等の第 要件を欠き、自動回帰発動条件2)に係る
「半分以下」の構成を備えない被告製品について、均等侵害が成立するとは認め\nられない。この点に関する原告の主張は採用できない。
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2025.01.14
令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月10日 東京地方裁判所
特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。
前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド
アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが
オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること
で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが
オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ
ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消
灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ
の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整
するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間
が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ
ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む
と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ
ることはできないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品
は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。
これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に
つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る
前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな
く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件
の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお
くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な
自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題
とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ
ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線
を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され
る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\
成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが
できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001
9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、
乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板
50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ
ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光
板10を収容するものである。
そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収
容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収
容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき
ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明
に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8
−1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設
け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆
うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設
されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要
になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。
これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ
うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に
想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること
が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機
器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池
の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1
0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝
カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80
には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに
おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ
バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を
欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ
ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、
乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート
80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底
板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で
あったものと認めるに足りない。
しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当
する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける
という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8−
1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。
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2025.01.14
令和5(ワ)70272 特許権侵害排除等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月23日 東京地方裁判所
特許権侵害で、均等主張をしましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないとして非侵害と認定されました。
ア 本質的部分の認定について
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許
請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の
範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効
果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に
見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定す\nることによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値
は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定めら
れることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細
書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、
そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される
場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化した
ものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程
大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のも
のとして認定されるものと解される。
ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されてい
るところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、\n明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術
に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきで\nある。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及
び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記
載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると
解される。
・・・
ウ 本件発明の本質的部分
(ア) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本
件発明は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間が
かからない、親綱支柱取付治具を提供するという課題を解決することを
目的として(【0006】及び【0007】)、矩形状の板の端部で上下
方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を含み(構成要\n件C)、かつ、矩形状の板の第1の方向端部より逆方向の端部までの長
さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)\nという構成を採用したものであり、このような構\成を採用することによ
り、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱
支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形
鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具
を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】)もので
あると認められる。そして、上記の「U字状に折り曲げられた折り曲げ
部」は、これを幅の狭いフランジ部に係合した状態で親綱支柱の取付具
を位置決めして固定できることから、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱
支柱を設置するのに手間がかからないようにするという課題解決に寄与
する構成であるということができる。\n
他方、本件明細書には、乙17発明の存在を明示ないし示唆する記載
は存在しないが、前記イのとおり、本件出願までに公知となっていた乙
17発明は、命綱取付装置を梁に簡単に取り付けるために、本体下部の
U字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状
本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上
部と水平方向で係合させるという構成を採用しており、このうちコ字形\nフック部(乙17文献図面目録の【第3図】2b)は、命綱支持具を梁
の長手方向に沿った任意位置に配置して命綱を建物外周壁上部に沿った
任意位置へ簡単に取付けることができるという、構成要件Cの「U字状\nに折り曲げられた折り曲げ部」と同様の効果を奏するものと認められる。
そうすると、乙17発明は、本件発明との関係で従来技術に相当する
ものであり、かつ、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題とし
て記載されている部分は、本件出願時の従来技術に照らして客観的に見
て不十分であったと認められるから、本件発明の従来技術に見られない\n特有の技術的思想を構成する特徴的部分の認定に当たっては、乙17発\n明の内容も参酌して認定されるべきである。
そして、上記のとおり、設置するのに手間がかからないようにすると
の課題解決に寄与する構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ\n部」と同様の構成については、乙17発明が既に備えていたものである\nから、本件発明と従来技術である乙17発明との主な差異は、本件発明
では、折り曲げ部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが治具を
取り付ける形鋼のフランジ幅より長いのに対し、乙17発明では、コ字
形フック部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが同フック部と
係合させる梁の上部の幅(フランジ幅)と同一であるという点にすぎな
い。
したがって、本件発明は、従来技術と比較してその貢献の程度が大き
いとはいえないから、その特許請求の範囲の記載の一部について、これ
を上位概念化したものとして認定することはできず、本件発明の本質的
部分は、特許請求の範囲に近接したものとなるというべきである。
(イ) 以上によれば、本件発明における従来技術に見られない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分については、原告が主張するように「1)U字
状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、2)その反対方向における長さを
フランジ幅よりも長くしている」という構成であると認めることはでき\nず、矩形状の板の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられ
た折り曲げ部を設けた上で、この折り曲げ部の存在する端部から矩形状
の板の逆方向の端部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジ幅
よりも長くするという構成、すなわち、構\成要件C及びEにより近接し
た構成であると認定されるべきである。\n
エ 被告製品の第1要件の充足性
前記2で説示したとおり、被告製品は構成要件C及びEをいずれも充足\nするとは認められず、本件発明の「治具」は、「上下方向に間隔を開けて
U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が「前記矩形状の板の前記第1の方
向の端部」と連続する(構成要件C)のに対し、被告製品は、本件発明の\n「折り曲げ部」に相当するフック部が、同「矩形状の板」に相当する底板
ではなく、側板の端部と連続しており、また、本件発明の「治具」は、
「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、
前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」(構成要件E)のに\n対し、被告製品は、「矩形状の板」の「第1の方向端部より逆方向の端部
までの長さ」に相当する、形鋼に取り付けられた際に形鋼のフランジの二
辺と平行になる二辺に係る底板の端部間の長さが、形鋼のフランジの幅よ
り長いとはいえない。
したがって、本件発明と被告製品とは本件発明の本質的部分において異
なっているというべきであり、両者の異なる部分が本件発明の本質的部分
ではないといえないから、均等の第1要件を満たすとは認められない。
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2025.01.13
令和5(ワ)8403 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年10月22日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟にて、均等侵害を主張しましたが、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)が否定されました。\n
事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、\n傾斜部5)が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと
もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許\n請求の範囲に記載された構成とは異なる。\n原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材
の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決
めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部5)へと置き換えても、被告製品
が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな
い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限
られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明
の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機\n能の信頼性の高い笠木下換気構\造体を提供することにもあると認められる(前記
(1)ア(ア)b(a)〜(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被
告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口6)及び傾斜部5)と第1水平部2)との
隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構\成要件
Cにおける「換気部材」を傾斜部5)に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換\n気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵)
入を防止し、通気機能及び防水機能\の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると\nいう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏
するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅
速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入
するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾
斜部5)に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通
気性能と防水性能\を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮
蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る\nことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽
板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到\nし得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜
部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位
置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内
に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能\性がある。その
ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創\n意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記
置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵
害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間
接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範\n囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。
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2025.01.12
令和5(ワ)10237 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年11月14日 大阪地方裁判所
均等主張についても、第1、第5要件を満たさないとして非侵害と認定されました。
前記2(2)ア認定のとおり、本件発明は、非力な者であっても、危険な野生動物が
生息している場所において、簡単かつ確実に屠殺できるようにすることを解決すべ
き課題とし「(【0008】ないし「【0012】)、このような課題を解決するため、竿体を伸縮自在に構成することで、対象動物との距離を調整できるようにし、例え\nば、猛禽類に対しては距離を長く取ったり、安全性を確保できる場合には距離を短
く取って確実に電極を動物の体に接触させたりすることができるという効果が得ら
れるというものである。
一方、証拠(甲2、乙18)によれば、本件特許の出願時点で、野生動物を殺処
分する手段として、麻酔ガス等を用いることや電気スタナーを用いることなどが知
られていたことが認められる。これらの手段は、動物を殺害することはできるが、
即効性に欠けたり、即効性があっても動物に近づく必要があることから危険を伴っ
たりするものであった。
そうすると、本件発明は、従来技術である電流を用いた屠殺手段を踏まえ、簡単
かつ安全確実な屠殺手段を提供するものであり、本件発明の構成中の本質的部分は、\nこのような屠殺手段を提供する竿体の伸縮構造(構\成要件Aの「伸縮自在の所定長
さの竿体」)、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い構造(構\成要
件F)、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる通電コードの並列構\n造(構成要件G)に認められるものというべきである。\n
イ 前記2で検討したとおり、被告製品は、少なくとも、構成要件Aの「伸縮自\n在の所定長さの竿体」の部分、構成要件F及びGを充足しないのであるから、本件\n発明の構成中、被告製品と異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとの均等侵\n害の第1要件は認められない。
(2) 第5要件について
ア 証拠(乙8ないし17)によれば、本件特許の出願経緯について、以下の事
実が認められる。
・・・
イ 以上の審査経緯に鑑みれば、原告は、当初、竿体の伸縮構造については固定\n長の竿体も含むものとし、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い状
態の構成については携行可能\であるとするのみで背負い構造に限られないものと\nし、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる並列構造については双方\nの手でそれぞれ把持することが明示的に記載されていないものとし、土中の接地電
極と同電位とする回路構造については土中を閉回路に含まない回路構\造も含むもの
として、特許請求の範囲を記載していたが、進歩性欠如及び明確性要件違反を指摘
されたことから、拒絶査定を回避するため、現在の特許請求の範囲の請求項1の記
載のとおりに限定したのであり、限定により除外された部分は、いずれも本件特許
の特許請求の範囲から意識的に除外したものであることが認められる。
そうすると、被告製品と本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点
は、いずれも原告が意識的に除外した部分に該当するから、均等侵害に関するその
余の原告の主張を前提としても、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特
許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときと
の第5要件を満たさないというべきである。
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2025.01.12
令和6(ネ)10023 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年11月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審も、1審と同様に技術的範囲に属しないと判断しました。
(2) 当審における控訴人の補充主張について
ア 控訴人は、被告方法において、一つの辺でも最大粒径より小さなバリがあれ
ば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっ
ていることは原理・論理的に明らかであると主張する。
しかしながら、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体的な粒子径の形状・分布、樹
脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる圧力等により、隙間を通過する磁性体の\n量は変化するものと推測されるところ、被告方法においては、様々な粒子径、形状
の磁性体が使用されている(乙3,4)から、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体
的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造等がどのようなものであ\nる場合に隙間を通過する磁性体がどの程度あるのかについて、必ずしも一義的に明
らかではないといわざるを得ない。したがって、控訴人が主張する、磁性体粉末の
最大粒子径よりも小さなバリがあることをもって、当然に磁性体粉末容積比(バリ)
の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているものとはいえない。
また、仮に被告方法における磁性体粉末の粒子径分布とバリの大きさとの関係性
から一定の事実を推認することができる余地があり、例えば、磁性体モールド樹脂
内の全磁性体粒子のうちの最小粒子径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間
を通過することができないため、樹脂のみが隙間から流出することが推測される一
方、逆に、全磁性体の粒子径が隙間よりも十分に小さい場合には、樹脂と共に磁性\n体も隙間を通過することから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バ
リ)に変化がないものと推測される余地があるといえるとしても、被告方法におい
て磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用されている●●及びパンチで形
成される隙間よりも大きいことを示すなど、被告方法における粒子径分布とバリの
大きさとの関係性を示す証拠はないから、控訴人の上記主張は裏付けを欠き、採用
することができない。
イ 控訴人は、原判決は、控訴人の主張を誤解し、かつ、控訴人提出の証拠評価
を誤ったものと考えられると主張し、樹脂の流出が止まる原因については、パンチ
による加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡す
ることと主張しており、原判決のように「被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続け
ても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、
被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたこ
とが示されている」という主張はしていない旨を主張する。
しかしながら、樹脂の流出が控訴人の主張する機序によるものであるとしても、
前記アのとおり、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容
積比(コア)よりも小さくなっていることを認めることはできず、上記(1)の判断を
左右するものとはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 控訴人は、甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリに
おける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなること
が明らかとなっているから、原判決の判断は妥当ではない旨主張する。
この点、甲27の第4(10頁〜)に記載されている実験方法で利用・設定され
ている磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形し\nたコアの製造方法、加圧温度及び溶融粘度という条件が、実際の被告方法で用いら
れているものと同一であると認めるに足りる証拠はなく、それらが実際の被告方法
と同じ条件であると客観的に裏付ける証拠もない。
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2025.01.12
令和5(ネ)10042 特許権 民事訴訟 令和6年12月9日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n
ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道
発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機
能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の
故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には
明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障
発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明
を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している
か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明
を適用する動機付けに欠ける旨主張する。
しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部
の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され
ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を
出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装
置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装
置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明
において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に
おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ
レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな
ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記
の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた
め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する
動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して
運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る
といえる。
そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に
より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置
を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制
動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない
故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと
して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液
圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」
構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1
に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和3年(ワ)28206
対応する審決取消訴訟はこちらです。
◆令和6(行ケ)10018
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2025.01.12
令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年12月12日 東京地方裁判所
CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。
前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に
よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利
用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す
る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使
用することができないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金
の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ
ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という
記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」
の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件
明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提
供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に
属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に
よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。
しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を
参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示
したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と
「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001
4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ
スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である
から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも
のではないと解するのが相当である。
したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、
充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について
前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断
するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案
に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以
下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発
明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に
よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画
面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ
ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。
そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド
が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ
マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ
るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相
違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n
◆判決本文
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>> 104条の3
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