2024.11.19
令和4(ワ)3344 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 大阪地方裁判所
薬の製法特許の侵害として、102条1項1号の特定数量について、同項2号が適用され、計約31億円の損害賠償が認められました。
被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないもので
あることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これま
で毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関
における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。
前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬
剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができ
るというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるよう
になったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手
段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していない
し、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものでは
なく、採用できない。
一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことに
より、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法 用量や効能の
点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限
界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅
が認められるというべきである。
・・・
原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定
数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該
数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できる
ようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回
らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患
者にとって負担が軽い用法 用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされる
ことなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。
本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供
給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者に
とって負担が軽い用法 用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペ
プチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、
現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本
件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨
をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。
◆判決本文
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2024.09.16
令和3(ワ)1720 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月22日 大阪地方裁判所
電池の特許について、約5億3千万の損害賠償が認められました。
(2) 相当な実施料率について
ア 該当技術分野における実施料率の状況
本件において、本件発明1の実施許諾契約の実例を認めるに足りる証拠は
ないところ、証拠(甲43)によれば、アンケート結果による技術分類別ロ
イヤルティ料率の平均値のうち、電気の技術分類では、平均2.9%、最大
値9.5%、最小値0.5%であること、日本の司法決定によるロイヤルテ
ィ料率のうち、電気分野の平成9年から平成20年の累計は、平均値3.5%、
中央値3.0%、最高値8.0%であり、平成16年から平成20年は、平
均値3.0%、最大値7.0%、最小値1.0%であることが認められる。
イ 本件発明1の技術的意義等
本件明細書1によれば、従来の非水電解質二次電池は、作製が困難である
という課題があったことに対し、本件発明1は、正極側及び負極側において、
電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接
続部材、及び、活物質未塗工部と端子接続部材とを接続する集電接続板とを
備え、集電接続板は、発電要素の端部から中央方向に水平に延びるとともに
端子接続部材と接続される本体部と、同本体部から突設されて、活物質未塗
工部の外側面のうちの端部と活物質塗工部との間に、表面が接合される接続\n板部とを有する構成をとることにより、作製を容易にすることができる電池\nを提供することを目的とし、かかる効果を奏する発明である(【0006】、
【0008】ないし【0010】)。
また、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明1が端子接続
部材と集電接続板の本体部の構成を備えている技術的意義は、電池外装体の\n内外において、外部接続端子と集電接続板の接続板部との間の距離を長くす
ることができるようになり、外部接続端子に加えられるトルクや衝撃を接続
板部と発電要素の活物質未塗工部との接合部分に伝わりにくくすることが
可能となり、当該接合部分を損傷させたり、当該接合部分での接合が外れた\nりすることを防止できることにあることが認められる。これらの事実関係に
照らすと、本件発明1は、電池製作を容易にし、電池の耐久性を高めること
に資する電池に関する発明であることが認められる。
そして、被告が代替技術として指摘をする公開特許公報(乙66ないし69)は、いずれも発電要素からの集電を容易にする集電体を形成する構成を開示しているものの、本\n件発明1に係る構成要件B2及びC2(活物質未塗工部の端部と活物質塗工\n部との間に、表面が接合される接続板部とを有する構\成)や構成要件A4(電\n池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続
部材)に相当する構成を開示するものではないことから、本件発明1の代替\n手段であるとは認められず、その他これを認めるに足りる証拠はない(なお、
被告は、被告製品1及び3は、周知技術を用いているだけで本件発明1を用
いているわけではない旨を主張し、その証拠(乙75ないし82)を提出す
るが、被告製品1及び3が本件発明1の技術的範囲に属し、本件発明1に無
効理由は存在しないことは、前判示のとおりであって、該主張は実質的に侵
害論を蒸し返すものにほかならず、かつ、約一年間をかけてされた損害論の
審理の終盤にされたものであるから、民訴法157条に基づき、時機に後れ
た攻撃防御方法として却下することとする。)。
一方、本件発明1は、電池の機能に直接的に資するものではなく、また、\n被告製品1は蓄電システムであるところ、蓄電システムにおいて電池の占め
る価格割合は、家庭用蓄電システムでは約65.6%であること(甲47)、
被告製品3は電池パックであり、電池はその一部を構成するものであること\nから、本件発明1が被告製品1及び3の売上げに占める貢献の程度は、その
限りにおいて限定的である。
ウ その他の事情
原告と被告は競合関係にあること、原告と被告は紛争関係にあることに加
え、本件においては、被告は、確定した文書提出命令によって提出を命じら
れた文書の提出を拒み、原告は被告製品1及び3の正確な売上高の開示を受
けることができなかったことが当裁判所に顕著であるところ、この事情は、
実施許諾に当たり特許権者が実施権者の正確な販売数量、利益等を把握でき
ないリスクに相当するものであって、実施料の算定にあたり考慮されるべき
(上振れさせる)要因に当たるものというべきである。
エ 小括
上記アからウに述べた事情その他本件に表れた事情を総合考慮すると、本\n件発明1の実施に対して受けるべき料率としては「●(省略)●」を相当と
認める。これに沿わない原告及び被告の主張は、上記説示に照らし、いずれ
も採用することができない。
(3) 実施料相当額の損害
本件特許権1の侵害による実施料相当額の損害は、(1)の金額に(2)の料率を
乗じた4億4250万円となる。
該当特許は以下です
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5713127/15/ja
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6493463/15/ja
◆判決本文
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2024.09.16
令和5(ネ)10053 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)
マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。
(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権
者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、
同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和
元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)
はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している
ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に
発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と
して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極
大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、
特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式
の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ
とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で
ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ
ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として
持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ
り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ
は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに
よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ
とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し
ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平
成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び
指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価
することができる。
したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ
ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原
告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利
行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ
うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利
行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本
件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ
いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで
あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ
とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、
グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明
瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純
粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が
多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で
あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し
た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業
からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成
績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい
る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及
び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価
することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許
権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す
ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ
ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ
る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな
るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵
害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ
て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法
102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本
件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録
を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と
代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一
定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた
めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい
て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献
は乏しいとの主張について
証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし
てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被
告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ
のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値
か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売
買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、
手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし
て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ
スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ
ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長
期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」
などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス
ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ
るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に
は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。
以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと
認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上
げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審
被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により
1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各
発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか
ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ
ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ
ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄
与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用
動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与
割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と
の間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法
102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する
合計●●●●●●●●●円と認められる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)17104
関連の侵害事件です(当事者が同じ)
◆平成29(ネ)10073
原審
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
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2024.07.21
令和3(ワ)2873 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
大阪地裁は、102条2項の計算のために文書提出命令をしましたが、被告は提出しませんでした。原告の主張の通りだと利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限界利益率を、約31%としました。
原告は、被告が、本件書類提出命令にもかかわらず、正当な理由なく、本件提出
対象書類を提出しなかったなどとして、民訴法224条3項により、本件証明事実
を真実であると認めるべきであって、前記被告製品10台に係る限界利益を157
3万8528円と認定すべきである旨主張する。
この点、確かに、被告が本件書類提出命令に応じて本件提出対象書類を提出した
とは認められないものの、本件証明事実に係る原告の主張によると、被告製品10
台の利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限
界利益の額を前記のとおり認定するのが相当である。
(3) 損害の不存在ないし推定覆滅について
ア 被告は、佐賀県畜産公社においては、被告製品の購入に当たって競争入札が
行われたところ、原告と被告が入札して被告が落札したのであって、落札により販
売業者は1社に決定されるから、原告と被告が競合するような市場は存在せず、侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないとした上
で、ミヤチク、いわちく及びフードパッカー津軽についても同様であって、原告に
損害はなく、特許法102条2項は適用されない旨主張する。
しかしながら、そもそも、被告が主張する競争入札の存在や具体的内容が明らか
ではないところ、佐賀県畜産公社においては、競争入札自体は行われたとしても、
原告も同じ競争入札に参加していたというのであるし、その他の入札についても原
告に参加資格があり、落札したとされる被告が参加していなければ(本件特許権の
侵害品である被告製品がなければ被告は参加できなかったと考えられる。)、原告
が落札した可能性もあることを考慮すると、原告において被告の侵害行為がなかっ\nたならば利益が得られたであろうという事情は存在しない旨の被告の主張は採用で
きない。
イ 被告は、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」が本件発明の
唯一の特徴的部分であるといえるところ、仮に被告製品がこの構成要件を充足する\nとしても、利益に対して貢献しているのはその余の侵害品の性能(機能\、デザイン
等特許発明以外の特徴)であって、損害の推定覆滅事情に当たる旨主張する。しか
しながら、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」部分以外で顧客誘
引力のある被告製品の具体的性能や、その性能\の顧客に対する訴求の程度は明らか
でないから、被告の主張は採用できない。
ウ さらに、被告は、本件発明では旋回流を利用するのに対して(甲5)、被告
製品(乙15)では、突部9(別紙「被告製品写真・図面」の図2参照)が邪魔
板(バッフル)となって旋回流を阻害することで、上下循環流発生を発生させ、豚
足をランダムな動きとするものであり、また軸流においては豚足が下方へ潜り込ん
でいくこと、邪魔板(バッフル)に衝突することによる脱毛、豚足同士の水平方向
及び上下方向の衝突による脱毛の効果が甚だ大きく、性能において本件発明と比較\nして顕著な相違があるから、特許法102条2項の推定は覆滅される旨主張する。
この点、原告製品の動画(甲5)と被告製品の動画(乙15)とを比較すると、
豚足の動きに一定の差があり、被告製品では豚足が下に潜り込むような動きをして
いるように見え、被告が主張する上下方向の動きがあることがうかがわれる。かか
る動きによる豚足の脱毛効果への影響の程度や、その性能の被告製品の売上げへの\n貢献の程度は必ずしも明らかでなく、前記の性能を理由とする推定覆滅が認められ\nるとしても、その割合は、5%を超えるものではないというべきである。
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2024.06.16
令和4(ワ)2058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。
(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額
被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品
を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円
(税込)である。(争いなし)
被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実
施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する
限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅
事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得
た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける
ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱
包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし)
原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、
同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ
優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強
い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分
実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。
確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密
性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え
ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹
脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること
が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で
あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の
容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴
と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ
イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に
おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。
そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相
当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂
正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱
性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、
被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ
は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ
り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。
また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品
は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型
がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。
これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点
検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製
品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同
じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ
ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検
口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、
操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や
訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と
までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各
製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙
第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは
否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、
これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、
通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ
いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証
拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。
以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合
品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度
で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告
の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が
「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り
は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。
この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者
が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の
売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推
定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、
特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による
実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される
ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令
和4年10月20日特別部判決参照)。
本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一
つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに
足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する
ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推
定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による
原告の損害であると認められる。
また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用
171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。
したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。
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2024.06. 9
令和5(ネ)10037 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。
(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を
請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、
侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法
102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し
その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵
害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害
の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結
果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者
が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と
推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1
02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年
2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元
年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別
部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、
原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用
いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも
のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという
ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、
侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原
告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな
い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお
いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益
全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する
合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限
界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン
は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数
の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど
の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情
はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので
あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような
要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって
本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理
的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は
採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適
用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ
とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること
はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお
いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと
いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の
ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年
8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決
の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して
いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の
特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに
足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定
の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別
件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製
品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟
の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、
965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特
許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、
損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正
法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない
から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定
ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益
の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲
渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ
とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の
立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規
定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31
年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が
なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数
量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特
許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、
特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権
者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ
とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製
造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも
のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である
原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ
る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す
るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを
販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。
そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B)
のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●●
●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当
たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界
利益は4億1280万円となる。
なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物
であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を
用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件
各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい
てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低
追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込
んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも
のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売
していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認
めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万
円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害
額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た
りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施
料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数
量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損
害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する
ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾
をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施
料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで
きない。
◆判決本文
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◆平成30(ワ)28931
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2024.05.26
令和5(ネ)10084 特許権侵害損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。
当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12
69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円
に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2
4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日
から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理
由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで
あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を
後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に
対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対
する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目
から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)13317
関連事件です。
◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2024.02. 8
令和2(ワ)29523 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月15日 東京地方裁判所
施工方法の特許について、差し止めと損害賠償約300万円が認められました。算定は102条2項ですが、判決文中に控除される経費として具体的に記載されています。一つが下請業者への支給した栄養ドリンク剤です。
(1) 特許法102条2項所定の「その利益の額」について
前記9において説示したとおり、被告とAAによる本件工事の施工に係る
本件特許権侵害について共同不法行為が成立するから、原告が受けた損害の
額と推定される特許法102条2項所定の「その利益の額」は、本件工事に
よって、被告が受けた利益の額とAAが受けた利益の額との合計額となる。
(2) 被告の受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)イのとおり、被告が受領した本件工事の施工についての請負
代金の額は、377万2224円(税抜代金349万2800円、消費税
相当額27万9424円)と認められる。
そして、消費税法基本通達5−2−5柱書及び(2)によると、「無体財
産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する
損害賠償金」は、資産の譲渡等の対価に該当するものとされていることか
らすれば、特許法102条2項の「侵害の行為により利益を受けていると
き」にいう「利益」には消費税相当分も含まれると解すべきである。
したがって、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎となる売上高
は、377万2224円(消費税込み)というべきである。
イ 控除すべき経費
(ア) 材料費 100万3320円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(イ) 外注費 58万2740円(消費税込み)
証拠(乙64ないし69)によれば、被告は、本件工事の一部の施工
を下請業者に発注し、日当、残業代、ガソリン代及び高速料金代並びに\n飲料水代として、合計58万2740円(消費税込み)を支払ったこと
が認められる。
そして、証拠(乙80)により認められる本件工事の施工期間、施工
内容等に照らせば、上記支払のうち、日当、残業代、ガソリン代及び高\n速料金代は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たる
ものと認められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記の下請業者に対する支払のうち、
飲料水代については、暑い現場で作業している下請業者が水分補給でき
るようにとの趣旨で購入されたものと認められるところ、その内容及び
金額の水準に照らせば、当該支払についても、本件工事の施工に直接関
連して必要となった経費に当たると認めるのが相当である。
(ウ) 交際費 7201円(消費税込み)
証拠(乙70、80)によれば、被告は、本件工事の施工期間中、前
記(イ)の下請業者の昼食代として合計7201円(消費税込み)を負担し
たことが認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、当該
負担は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるもの
と認められる。
(エ) 消耗品費 1527円(消費税込み)
証拠(乙71)によれば、被告は、ポリ袋及びコピー用紙を合計69
7円(消費税込み)で、ナチ六角軸鉄工ドリル及び「リポビタンD」と
いう商品名の栄養ドリンク剤を合計830円(消費税込み)で、それぞ
れ購入したことが認められる。
そして、証拠(乙80)によれば、上記ポリ袋は、現場において発生
した廃材を処理するため、上記コピー用紙は、現場においてメモをとる
ため、上記ナチ六角軸鉄工ドリルは、母屋材にビス孔を空けるドリルの
交換用として、それぞれ購入したものと認められるから、これらの支払
は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるものと認
められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記「リポビタンD」は、暑い現場
で作業している下請業者が栄養補給できるようにとの趣旨で購入された
ものと認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、本件工
事の施工に直接関連して必要となった経費に当たると認めるのが相当で
ある。
(オ) 旅費交通費 310円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(カ) 車両費 6000円(消費税込み)
証拠(乙78、80)によれば、被告代表者は、本件工事の施工期間\nである令和元年7月5日から同月9日まで、数名の作業員や様々な工具
類・装備品を同乗・積載させた車両を運転して、当時の被告所在地(省
略)と施工現場との間を往復したこと、当時の被告所在地と施工現場と
の間の道のりは40キロメートル以上であることがそれぞれ認められる。
そして、弁論の全趣旨によれば、1キロメートル当たりのガソリン代\nは15円(消費税込み)を下回らないと認められるから、これらを基礎
として算定したガソリン代相当額6000円(=15円×40キロメー\nトル×2×5日)は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費
に当たるものと認められる。
(キ) 合計 160万1098円(消費税込み)
ウ 小括
前記ア及びイによれば、被告が本件工事の施工により受けた利益の額は、
217万1126円(消費税込み)と認められる。
(3) AAの受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)アによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる売上高は、472万3920円(消費税込み)と認められる。
イ 控除すべき経費
前提事実(5)イによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる控除すべき経費は、377万2224円(消費税込み)と認められる。
ウ 小括
前記ア及びイによれば、AAが本件工事の施工により受けた利益の額は、
95万1696円(消費税込み)と認められる。
(4) 損害額
前記(2)及び(3)によれば、特許法102条2項により算定される原告の損
害額は、312万2822円と認められる。
◆判決本文
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2024.02. 7
令和3(ワ)18262 損害賠償請求事件(特許権侵害) 特許権 民事訴訟 令和5年12月6日 東京地方裁判所
特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。
ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月
22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17
57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製
品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数
量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ
とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ
に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億
1460万円を下らないと主張する。
そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公
式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの
の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全
趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な
ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品
の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係
る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売
上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない
し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が
27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載
以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22
日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ
て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ
ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお
ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本
件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被
告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者
である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業
方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで
ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率
は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。
また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、
個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の
補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること
を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス
トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると
認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提
事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。
これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め
るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対
し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨
五入)と認められる。
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2024.02. 5
令和3(ネ)10084 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー
ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原
反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが
多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。
しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること
を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何
ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品
番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ
り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特
段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告
製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告
は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や
製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算
鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第
1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから
信用性が失われるものでもない。
また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で
ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす
るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が
高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●●
●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、
推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の
製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か
えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し
て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す
る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造
販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ
きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77%
の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と
する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で
きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ
ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな
いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1
02条2項の推定を覆すに足りるものではない。
◆判決本文
1審における推定覆滅の事情は以下です
◆平成30(ワ)1130
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
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2024.01.30
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
特許権侵害の損害賠償として、約11億円が認められました。102条2項の推定覆滅なしと認定されました。
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
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2024.01.24
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。
本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に
おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物
を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小
さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工
程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に
係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、
当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は
物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限
定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当
該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占
権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に
おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、
又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に
害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請
求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許
法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは
いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷
判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において
は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ
の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的
でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠
もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい
て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004
1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に
よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面
には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい
う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件
特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精
度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り
工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの
かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは
いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
◆令和3(行ケ)10140
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2023.10.25
平成28(ワ)21762等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(47部)は、文言侵害については「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする」との構成を欠くとしたものの、均等と認めて合計約2億円の損害賠償を認めました。
ウ 以上からすれば,前記アのとおり,構成要件Bの「サーボバンドを特定\nするためのデータをエンコードする」とは,「サーボバンドを特定するた
めのデータ」を「0」又は「1」の形式に変換することと解すべきところ,
被告製造方法において,上記の形式の変更を行っていることを示す証拠は
何ら存在しない
・・・
第1要件について
本件明細書に記載された従来技術は,隣接するサーボバンドのサーボパ
ターンをテープ長手方向にオフセットさせ,それらのサーボバンドの信号
を同時に読み取って比較することで,サーボバンドの特定を行うものであ
り(段落【0002】),片側のサーボ信号の読み取りが一時的又は恒久
的にできなくなった場合,サーボバンドの特定を行うことができなかった
という課題があった(段落【0004】)。
そこで,請求項1発明は,隣接するサーボバンドに書かれたサーボ信号
を比較せずに,サーボバンドを特定するために,各サーボバンド内に書き
込まれた各サーボ信号に,そのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定
するためのデータがそれぞれ埋め込まれ,前記各サーボ信号は,一つのパ
ターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構成する線の位置を,\nサーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中
に埋め込まれているようにした磁気テープであり(段落【0007】),
本件発明は,その製造方法である(段落【0017】)。
そうすると,本件発明の本質的部分は,構成要件A−3「前記各サーボ信号は,一つのパターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構\成する線の位置を,サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれていることを特徴とする磁気テープ」にあるといえ,構成要件B「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする第一工程と,」は本質的部分には当たらないというべきである(被\n告らも特に争っていない。)。よって,被告製造方法は,均等の第1要件を充足する。
◆判決本文
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2023.10.25
平成28(ワ)25436 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年9月24日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。
前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2
における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ
ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB
遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子
を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する
ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に
おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺
伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお
ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ
ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当
該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す
る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg
B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T
変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2
は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象
とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い
てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという
新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4
において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6
において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して
も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体
の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の
yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で
ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg
gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸
配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg
gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ
レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに
由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0
033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84
及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で
ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載
も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2
の本質的部分の認定には影響しないというべきである。
そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを
理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告
の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ
るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配
列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア)
及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型
yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体
的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9
8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという
点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変
異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも
のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1
9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法
4は均等の第1要件を充足すると認められる。
◆判決本文
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2023.09.25
令和2(ワ)13317 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月13日 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以
下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定
であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ
こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許
法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許
権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提
としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得
ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特
許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者
との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を
考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被
告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも
のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製
品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢
献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4)
に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響
機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度
の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1
6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平
均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め
られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発
明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ
ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4.
0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業
における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の
電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し
ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品
を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。
このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す
る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って
タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける
ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型
かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接
触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する
ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採
用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー
ン等の代替手段が存在する旨主張する。
しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP
od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押
すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音
量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ
スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高
くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは
できない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害
の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について
は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲
を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練
されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、
全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい
ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく
なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら
れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。
あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー
ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて
みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす
ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。
その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載
されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン
トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、
iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』
を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久
性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ
はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック
ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大
1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく
考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに
追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し
ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な
い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す
るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた
ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合
の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並
びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向
上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。
他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと
いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー
ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT
unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま
ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ
ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告
各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高
いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度
貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、
被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか
ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール
の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。
そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ
クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、
主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、
別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる
旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告
製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた
ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが
ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、
被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重
要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や
侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、
特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害
した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその
対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、
0.5%を下らないというべきである。
◆判決本文
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◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2023.09. 5
令和2(ワ)17104 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月16日 東京地方裁判所
漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。
ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF
X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引
回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入
及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。
そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の
全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す
る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に
より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた
め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取
引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る
被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利
益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす
るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注
文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX
取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定
時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金
融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以
上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に
係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額
算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び
トレーディング損益であると認めるのが相当である。
これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い
た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵
害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、
当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ
ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と
の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損
益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。
そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被
告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ
る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず
れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。)
2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引
(以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取
引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を
生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず
れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額
算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ
れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と
する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る
実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基
礎から除外するのが相当である。
なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被
告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、
取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め
られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた
取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、
被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、
相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること
が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買
い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ
ることを意図するのといえる。
これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取
引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な
るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相
場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し
たものであったことが認められる。
これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項
に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると
するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果
としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取
引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、
消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日
までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で
あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引
数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で
あることが認められる。
そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる
「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で
ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において
は、●(省略)●ことが認められる。
しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。
そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日
より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完
全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。
これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上
記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。
他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ
る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在
り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率
に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料
率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように
した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続
で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売
り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を
受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格
だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ
て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文
価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\
成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取
引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより
多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を
有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ
ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注
し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動
に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続
注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が
あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注
文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること
を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。
弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間
(平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧
客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買
い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する
取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報
の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ
ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引
のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも
のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの
貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3
1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5
月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6
月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること
になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告
による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは
できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として
の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子
会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること
が認められる。
そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完
全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ
るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、
その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に
現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な
料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め
るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、
●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。
◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。
◆平成29(ネ)10073
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2023.05.19
令和2(ワ)4913 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年4月20日 大阪地方裁判所
約4500万円の損害賠償が認められました。なお、本件では、102条2項の覆滅部分について、3項の重畳適用は否定されました。
(c) 原告は、前記の各製品について、アウタロータ型電動モータを採用しておら
ず、被告製品及び原告製品と構造が根本的に異なること、被告製品及び原告製品は、\n主として車輌工場において重要保安部位向けに使用されるのに対し、瓜生製作のU
BX−AFシリーズ以外は主にそれよりも重要度の低い部位に用いられること、デ
ソータやエスティックの製品は電動式衝撃締め付け工具ではなくナットランナーと\n思われること等を理由に、いずれも競合品に該当しないと主張する。
しかし、被告カタログ及び前記競合品の各カタログ(乙52の4、54の3、5
6の1・2、58、73、74)には、工具に採用されているモータの型がアウタ
ロータかインナロータかといった点に関する記載がないことや、モータの構造は製\n品の外部から確認できるものではないこと等を踏まえると、モータの構造それ自体\nが需要者の購入動機の形成に寄与する場合が多いとは認められず、アウタロータ型
電動モータを採用していないことをもって直ちに競合品から排除されるとするのは
相当でない。また、被告製品及び原告製品の各カタログを見ても、締め付け工具で
あること以上に各製品の用途を限定する旨の記載はなく(甲35、36、乙58)、
これらの製品が主に車輌工場において重要保安部位向けに使用される一方、他の製
品が異なることについて的確に裏付ける証拠はない。また、証拠(乙1、4、34)
によれば、一般に、ナットランナーは、インパクトレンチやパルスツールとはモー
タの回転を締付力に変換する方式が異なることから、高精度である一方でトルクが
低く抑えられ、反力受けが必要であるという特徴を有し、パルスツールとは性能・\n用途が異なる場合があるといえるが、デソータ及びエスティックの前記各製品は、\n低反力で反力受けを要さず、作業者が直接手に持って締め付け操作を行うことが可
能な製品であり、かつトルク範囲も被告製品のものと重複するものであることから、\n被告製品及び原告製品と性能・用途等において共通する競合品であると認められる。\nしたがってこの点の原告の主張は採用できない。
(d) 以上によれば、被告製品及び原告製品と共通する電動式締め付け工具の市
場において競合品が一定数存在することが認められる。もっとも、当該市場におけ
る被告製品や原告製品の市場占有率等が明らかではないことや、競合品と認められ
る製品の中には、被告製品との価格差が比較的大きいものもあると考えられること
等を踏まえると、競合品の存在を理由とする大幅な覆滅を認めることはできないと
いうべきである。
c 侵害品の性能\n
(a) 被告カタログ(乙58)によれば、被告製品は、その「主な特徴」として、
「バッテリーツール、高い生産性、高トルク、高精度、低反力、メンテナンス軽減、
多様な使用環境に対応」と記載されている。また、より具体的な特徴として、被告
製品は、バッテリー残量等を作業者から容易に確認できるLEDインジケータが表\n示されること、作業者の手になじむバランスのとれたツールであること、オイル漏
れの影響を軽減してメンテナンス周期を延ばす新型のパルスユニットを採用してい
ること、効率的な冷却システムを搭載していること、予備バッテリーを内蔵し通信\nを維持したままバッテリー交換が可能であること、回転速度が6000rpmまで\n設定可能であること、独自のコントローラ「Power Focus 6000」及びソフトウェア\nにより容易に作業内容等を設定可能であること、内蔵されたブザーからの音でも締\nめ付けが可能であること、デュアルアンテナにより無線環境に対応しツールの接続\n性を向上していること、高速バックアップユニット機能を搭載していること等が記\n載されている。一方で、モータの構造や、被告製品がアウタロータ型電動モータを\n採用していることについての記載はない。
また、被告カタログでは、前記のメンテナンス軽減・周期の改善に関して、新し
い特許技術と設計により、従来品よりもメンテナンス周期が長くなっていること、
オイル漏れ対策やエアセパレータの採用及び優れた冷却性能がパフォーマンスと稼\n働時間の向上に寄与していることの記載があるほか、「高いトルク性能」として、\n「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、「高度なモーター制御」により締付け
時間が早くなり生産性が向上する旨が記載されている。
そして、証拠(乙58、59)及び弁論の全趣旨によれば、ABは、次のとおり
の技術(発明)について、特許を出願し、その多くが日本国内を含めて登録されて
おり、これらの技術が被告製品に採用されていると認められる。
1) オイルパルスユニット内のオイルと空気を分離する機構を備え、オイルチャ\nンバから分離された空気が再びオイルチャンバに戻ることを防止する技術(乙
59の1)
2) 遠心作用によりオイルから空気を取り出すための分離手段を備え、パルスユ
ニット内の空気の割合を低くすることにより、高いパルス発生効率を実現する
技術(乙59の10)
3) 作動流体を利用したヒートパイプにより、電動モータの熱を効率的に放散し
て冷却する技術(乙59の2)
4) ステータ要素とロータ要素との間の相対変位を感知するセンサーに係る技術
でありモータ制御の精度に資する技術(乙59の3)
5) モータとパルスユニットとの接続を改良し、高い生産性、低反力、高トルク
及びメンテナンス周期を改善させる技術(乙59の4)
6) 電圧供給源の遮断時に、動作制御ユニット及び無線通信装置への電圧供給を
連続して維持することによりバッテリーユニットの交換立ち上げにおける遅
れを実質的に減少する技術(乙59の5)
7) 油圧パルスユニット内のオイルレベルが低すぎる場合に、警告信号を出す方
法及びシステムに関する技術(乙59の6)
8) トルク限度及び角度回転限度を超えて締結具が更に締め付けられることを防
止するため、締付具が事前に締め付けられていたか否かを検出する方法に係る
技術(乙59の7)
9) オイルパルスユニットについて機構及び各種部材の形状を工夫し、トルク衝\n撃が与えられた直後に高圧室の圧力を迅速に除去し、次のトルク発生のための
迅速な加速を可能とし、トルクの増大及びトルクの間隔の短縮を実現し、衝撃\n率の増加を実現する技術(乙59の8)
10) パルスユニットの部品の摩耗により生じた粒子を除去するための磁石を備え、
さらなる摩耗等を防ぎ、メンテナンス軽減を実現する技術(乙59の9)
そのほか、コントローラである Power Focus 6000 及びソフトウェアにより多種\n類のツールを接続し、作業内容に合わせたコントロールが容易であるという特徴は、
被告カタログ等において、前記記載以外にもページを費やして強く訴求されている
(乙58、85)。
(b) 衝撃発生部が油圧パルス発生部である電動式衝撃締め付け工具において、
アウタロータ型電動モータを採用するという本件訂正発明は、電動式衝撃締め付け
工具の基幹部分であるモータに関する発明であり、インナロータ型電動モータが採
用される場合と比較して、小型、軽量、低反力、耐久性実現の作用効果を有する点
で、相当の技術的価値があるといえる。実際に、被告製品のモータを本件訂正発明
の技術に属しない構造に変更するにはモータの構\造等を変更する必要があり、その
場合には製品全体の構造や技術を見直す必要があり、この点からの代替技術が採用\nされる可能性が高いとはいえない。\nもっとも、本件訂正発明の作用効果である「小型、軽量、低反力、耐久性」を実
現する技術及び被告製品で訴求される各特徴を実現する技術は、アウタロータ型電
動モータ以外にも存在する。被告製品においてアウタロータ型電動モータを採用し
たことによる作用効果は、被告カタログにおいて訴求されている「高トルク」、「低
反力」及び「メンテナンス軽減」に関連し得るが、前記(a)のとおり、被告カタログ
では、「高トルク」を実現する技術として「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、
「高度なモーター制御」が記載されており、実際に、被告が保有し被告製品で採用
されている技術においても実現されていると認められる。
そのほか、前記(a)のとおり、被告製品には、本件訂正発明以外にも多数の技術が
使用され、当該技術による作用効果が被告カタログにおいて被告製品の特徴として
記載されており、需要者に強く訴求されていることが認められる。
(c) したがって、被告製品は、本件訂正発明及びその作用効果以外にも、種々の
技術とこれに基づく特徴・性能を備えており、これらの要素が、需要者の購入動機\nの形成に相当程度寄与していると認められる。被告製品が多彩な機能を有し、これ\nが顧客誘引力に寄与していることは、被告製品が、対応する原告製品よりも総じて
●(省略)●であるという価格差にも裏付けられているといえる。
(d) 以上より、被告製品の性能に係るこれらの事情は、特許法102条2項に基\nづく推定を、相当程度覆滅する事由であると認められる。
d 本件訂正発明は被告製品の一部のみに使用されていること
前記1(2)のとおり、本件訂正発明は、インナロータ型電動モータを搭載した従来
の電動式衝撃締め付け工具の有する課題を解決するため、出力トルクが大きいアウ
タロータ型電動モータを採用し、小型及び軽量で、低反力かつ耐久性を有する電動
式衝撃締め付け工具を提供するというものであり、被告製品の特徴とされる「高ト
ルク、低反力、メンテナンス軽減」(前記c(a))の作用効果の実現に使用されてい
るといえるが、前記cで検討した諸事情からすれば、それらの作用効果は、本件訂
正発明のみによって実現されているとはいえない上、被告製品が備える種々の性能\nの一部にすぎないことが認められる。したがって、本件訂正発明が被告製品の一部
のみに使用されていることは覆滅事由に該当する。ただし、覆滅の基礎となる事情
は前記cの事情と重複することから、推定覆滅の程度の検討に当たっては被告製品
の性能を理由とする推定覆滅と実質的に重なるものとして評価するのが相当と解さ\nれる。
e 本件訂正について
本件訂正は、衝撃発生部について、油圧パルス発生部に限定するものであり、被
告製品における発明の作用効果やその実施に影響を与えるものではないこと等を踏
まえると、本件訂正の事実を覆滅事由として認めることは相当でない。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上のとおり、本件においては、一定数の競合品の存在、被告製品の性能及び本\n件訂正発明が被告製品の一部のみに使用されていることを理由とする推定覆滅が認
められ、前記(イ)のとおりの事情を総合的に考慮すると、6割の限度で損害額の推定
が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はい
ずれも採用できない。
(エ) 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、被告製
品ごとに、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「2項損害額」欄記\n載のとおりとなる。
イ 特許法102条3項の重畳適用について
(ア) 特許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、第
三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑みると、
侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特許権者が侵害者の侵害行為が
なければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸
失利益と実施許諾の機会の喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解され
る。
そうすると、特許法102条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該
推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるとき
は、同条3項の適用が認められると解すべきである。そして、同項による推定の覆
滅事由が、侵害品の販売等の数量について特許権者の販売等の実施の能力を超える\nこと以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情がある
ことを理由とする場合の推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下におい
て、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべきものと
解される(知的財産高等裁判所令和4年10月20日特別部判決参照)。
(イ) これを本件について見ると、本件において覆滅事由として認められるのは
競合品の存在、被告製品の本件訂正発明以外の性能及び本件訂正発明が被告製品の\n一部のみに使用されていることに係る事情であり、いずれも特許権者の実施の能力\nを超えること以外の理由により特許権者が販売等をすることができないとする事情
があることを理由とするものである。
市場における競合品の存在を理由とする覆滅事由に係る覆滅部分については、侵
害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された
蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ
とにより推定が覆滅される部分については、特許権者である原告が被告に対して実
施許諾をするという関係に立たないことから、原告が被告に実施許諾をすることが
できたとは認められないし、本件における競合品をみると、いずれも本件訂正発明
の効果と同様の性能等を有するものの、アウタロータ型電動モータを採用している\nと認められるものはなく、本件訂正発明の構成とは異なる機構\を有していると認め
られるから、この点からも、原告が、当該覆滅部分について、実施許諾の機会を喪
失したとはいえない。
また、被告製品が本件訂正発明以外の性能を有すること及び本件訂正発明は被告\n製品の一部のみに使用されていることを理由とする覆滅部分については、被告製品
の売上に対し本件訂正発明が寄与していないことを理由に推定が覆滅されるもので
あり、このような特許発明が寄与していない部分について、原告が実施許諾をする
ことができたとは認められない。
したがって、本件においては、特許法102条2項による推定の覆滅部分につい
て、同条3項の適用は認められない。
ウ 特許法102条3項に基づく損害額
(ア) 実施料率
本件訂正発明について実施許諾契約がされた事実はない(弁論の全趣旨)。
また、証拠(甲32、33)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年9月20日
に社団法人発明協会が発行した「実施料率〔第5版〕」において、「金属加工機械」
の技術分野における平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値についてイニシ
ャル有りが4.4%、イニシャル無しが3.3%であること、同様の最頻値が5%、
3%、中央値が4%、3%であること、平成22年8月31日に発行された経済産
業調査会が発行した「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プ
ログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、「成形」の技術分野における実施料
率の平均値が3.4%であることが認められる。これらに、原告と被告とが競業関
係にあること、本件訂正発明の内容、重要性、代替可能性、被告製品の売上に対す\nる貢献の程度のほか、本件訂正により特許請求の範囲が減縮されていること等本件
に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率
としては、4%が相当であると認める。これに反する原告及び被告の主張はいずれ
も採用できない。
(イ) 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、被告製品ごと
に、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「3項損害額」欄記載のと\nおりである。
エ 原告の損害額
(ア) 原告は、被告製品の型番ごとに、平成29年7月から令和3年10月の期間
につき、特許法102条2項に基づく損害額と、同条3項に基づく損害額のうち高
い方を選択的に請求していることから、被告製品の型番ごとに認められる損害額は、
別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1の「損害額」欄記載のとおりであり、合計す
ると4078万9003円(平成29年7月から令和2年3月31日分までが28
12万1254円、同年4月1日から令和3年10月31日分までが1266万7
749円)となる。
◆判決本文
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2023.05. 2
令和3(ワ)6908 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月30日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、特102条2項による推定覆滅として3割を認定されました。
前記本件明細書の記載によれば、本件特許発明は、落下物受取装置の基端部
の縁と足場構築体の作業空間の外側面の間に隙間が生じ小さい物品が落下し\n人体を負傷する危険があり、当該隙間を単純な板材で塞いだ場合には落下物受
取装置を格納する際に板材を取外す必要がある等姿勢変更の作業が困難であ
るといった課題に対し(【0008】【0009】)、当該隙間を覆うことができ、
かつ落下物受取装置の姿勢変更等によって隙間が変化する場合でもそれに追
従し確実に隙間を塞ぐことができる隙間遮蔽装置を提供するものである(【0
014】【0038】)。本件明細書には、本件特許発明の実施例として、隙間遮
蔽装置は、固定部材を落下物受取装置の基端部に取付一体化した構成とする場\n合と、落下物受取装置に後付けされるユニットを構成する場合とを挙げており\n(【0016】)、後付け可能かつ着脱自在の隙間遮蔽装置の実施例の一つ(ユ\nニット20a)として、固定部材に枢結手段を介して遮蔽部材を回動自在に連
結するものが記載されている(【0039】【0040】【0043】)。
このような固定部材に枢結手段22を用いて遮蔽部材を回動可能に枢結す\nる方法は、本件明細書上、「図4に示す1実施形態において」(【0039】)、
「図示のようにユニット20aを構成する場合は」(【0043】)と記載され\nているとおり、後付けユニットタイプの隙間遮蔽装置の一実施例という位置付
けで記載されているに過ぎない。また、本件明細書には、固定部材の大きさ及
び形状並びに落下物受取装置への固定方法については適宜の方法を採用する
ことができることが示唆されており(【0040】)、その余の本件明細書の記
載を見ても、「固定部材(21)」が、特定の構成を備えるべきものであるとか、\n枢結手段が、固定部材(21)と別途独立のもの(部材)であることが前提で
あることをうかがわせるとかの旨の記載はない。
したがって、本件特許発明における「固定部材(22)」とは、実施例のよう
に固定部材とは別の枢結手段が存在する場合に限らず、固定部材が枢結手段と
一体のもの、一つの部材が固定部材と枢結手段を兼ねるものなどもこれに当た
ると解される。
むしろ、枢結手段が固定部材から独立して存在すること(独立した部材であ
ること)等が要求されていないとの解釈は、上記のとおり実施例の一つとして
挙げられた固定部材に遮蔽部材を枢結する「蝶番」について、「枢結部材」では
なく「枢結手段」と記載されていることと整合するといえる(【0039】【0
043】)。
なお、構成要件Cないし同Fには「固定部材(21)」として符号が記載され\nているものの、これは請求項の記載内容を理解するために補助的に付されたも
のであると解され(特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕1
4のロ)、それ以上に本件特許発明における固定部材の構成を符号により特定\nされる実施形態に限定するものであると解すべき事情も見当たらない。
したがって、本件明細書の記載を参酌しても、本件特許発明において、上記
(1)のとおり、1)落下物受取装置の基端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成す\nる部材であること(構成要件C)、2)(隙間遮蔽装置使用時に)固定部材から足
場構築体に向けて遮蔽部材が延びていること(構\成要件D)、3)遮蔽部材が回
動自在に枢結されていること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮
蔽部材が固定部材に向けて回動することにより固定部材の上に重ねられるこ
と(構成要件F)という要素を充たせば「固定部材」(構\成要件C〜F)に相当
する部材であるといえ、これに加え、枢結手段とは独立して存在することを要
するものではないと解すべきである。
(4) 被告製品における「蝶番(の第1翼片)」が本件特許発明の「固定部材」に
相当するか(あてはめ)
別紙被告製品説明書のとおり、被告製品における蝶番は、第1翼片、第2翼
片及び回転軸から成り、第1翼片(図3右側のもの)が落下物受取装置の基端
部にリベット等で固着され、第2翼片(図3左側のもの)が遮蔽部材に固着さ
れている。これにより、被告製品の蝶番の第1翼片は、1)落下物受取装置の基
端部に固定され、隙間遮蔽装置を構成する部材であること(構\成要件C)、2)
(隙間遮蔽装置使用時に)固定部材(第1翼片)から足場構築体に向けて遮蔽\n部材が延びていること(構成要件D)、3)遮蔽部材が回動自在に枢結されてい
ること(構成要件E)、4)(隙間遮蔽装置不使用時に)遮蔽部材が固定部材に向
けて回動することにより固定部材の上に重ねられること(構成要件F)という\n要素を全て充たしているといえ、本件特許発明の「固定部材」に相当する部材
であるということができる。
被告は、このように解すると構成要件Fの構\成及びその構成の作用効果の説\n明と矛盾する旨主張するが、保管・運搬に便利となるとの作用効果は、遮蔽部
材を回動自在に枢結することによりもたらさせるものであって、固定部材の構\n成に由来するものではないから、その主張は失当である。
したがって、被告製品は、構成要件Cないし同Fを充足しており、構\成要件
A、同B、同Gを充足することは争いがないから、本件特許発明の技術的範囲
に属する。
・・・
(2) 推定覆滅事情
被告は、本件特許発明は、製品の一部のみに実施されるものであること、被
告製品には他の顧客誘引力がある一方、本件特許発明に顧客誘引力が乏しいこ
と、本件特許発明以外の特許発明の実施や被告商品に付された商標が顧客誘引
力を持つことから、上記損害額の8割は推定が及ばないものと主張する。
ア 本件特許発明の意義
前判示のとおり、本件特許発明は、建設現場等で高所からの工具等の落下
による負傷等を防止するために設置される落下物防止装置(朝顔)において、
「落下物受取装置は、…該落下物受取装置の基端部の縁と、足場構築体の作\n業空間の外側面の間には、狭小な隙間を生じることが不可避である。このた
め、…小さい物品が落下すると、前記隙間を通過することにより地上に向け
て落下するおそれがあり、金属製等の落下物の場合、微小な物品であっても
人体を負傷する危険がある。」等の課題に対して、隙間(S)を覆う隙間遮蔽装
置を設け、前記隙間遮蔽装置は、前記落下物受取装置の基端部に固定される
固定部材と、該固定部材から足場構築体に向けて延びる遮蔽部材を備え、前\n記固定部材に対して前記遮蔽部材を回動自在に枢結しており、前記遮蔽部材
は、不使用時に前記固定部材に向けて回動することにより、該固定部材の上
に重ねられるように構成することにより該課題を解決するものである。\n この点、証拠(甲3、4(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によると、被告
製品における遮断板によって遮蔽される隙間は、足場の設置態様によっては
相応に幅が広いものも想定され(少なくとも被告主張のような傷害結果が生
じることが極めて稀な小さなもののみが通過する隙間に限られないと認め
られる。)、被告製品においても、朝顔において隙間を塞ぐことが重要な意義
を有するものと扱われていることが認められるのであって、本件特許発明は、
これを効果的に行うものとしての技術的意義を有し、実施品の顧客誘引力を
高めるものであると認められる。
イ 他方、朝顔の性能としては、被告主張のとおり、上部から外方への落下物\nを直接受け止める部分であるパネル部分(本件特許発明でいう落下物受取装
置)の性能が重要であろうことは商品の性質上当然であり、被告が、本件特\n許発明以外の特許を実施している点を指摘するのも、この趣旨をいうものと
理解することができる。また、作業効率性、美観性といった被告製品の他の
要素も顧客誘引力に相応に寄与することも理解できるところである。もっと
も、被告商品2に付された被告商標については、これについて特段の顧客誘
引力があることをうかがわせる証拠はないため、本件において考慮すること
は困難である。また、本件特許発明が製品の一部に実施されているという主
張は、落下物受取装置が遮断板に向かって傾斜を持った態様で運用されるこ
とからすると、同装置で受け取られた落下物は遮断板に至り、遮断板によっ
て更に下方への落下が阻止されることになるのであって、このように、遮断
板と一体となって落下物の下方への落下が防止されるという被告製品の構\n成からすると、本来的な意味で特許技術が製品の一部にのみ実施されたもの
であるということはできない。なお、被告は、本件特許発明は、遮蔽部材を落下物受取装置の基底部に回動可能に固定することのみを特徴としている旨主張するが、抽象的には遮蔽部材を設置して隙間を塞ぐ構\成は他に考え得る趣旨をいうものと解したとしても、その具体的な競合品等に関する主張立証はされていないから、これを推定の覆滅に当たって考慮することは困難である。
ウ 本件において、イに述べた事情はあるものの、被告が指摘する事情はなお
同種の商品一般の顧客誘引力の重点の置き方を指摘するものにとどまって
おり、これらの事情を特許法102条2項による推定を覆滅させる事情とし
て重く見るのは相当でなく、総合的にみると、(1)で推定される原告の損害
のうち、3割の限度ではその推定の覆滅の立証があったものというべきであ
る。
◆判決本文
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2023.04.15
令和4(ネ)10073等 特許権侵害損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月23日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では、3項侵害の損害額の方が高いとして、2200万円弱の損害賠償を認めましたが、知財高裁は2項侵害の損害額の方が高いとして、約2250万円の支払いを命じました。
本件は、発明の名称を「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエ
アロゾルを発生させる方法」とする発明に係る本件特許権を有する控訴人が、被控
訴人らに対し、被控訴人らが共同で加熱式タバコ用デバイスである原判決別紙物件
目録記載の被告製品(被告製品1〜3)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をする\nことが本件特許権の侵害に当たると主張して、不法行為(民法709条)に基づき、
選択的に、1)特許法102条2項の損害額●●●●●●●●●円(同項の推定の覆
滅が認められた場合に当該覆滅部分について予備的に同条3項に基づく売上額の2\n0%相当の損害額)又は2)同条3項の損害額●●●●●●●●●円を請求するとと
もに、3)弁護士・弁理士費用相当額●●●●●●●●円(上記1)の同条2項の損害
額の1割に相当する額)を請求するものとして、●●●●●●●●●円及びこれに
対する不法行為の後であり被控訴人らへの各訴状送達の日の翌日である令和2年3
月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の連帯支払を原審で求めた事案である。
(2) 原審は、1)特許法102条2項による被控訴人らが受けている利益の額は3
706万0935円と推定されるが、被告製品の売上げにはそれらが別件発明の実
施品であることも貢献しているため5割の推定覆滅を認めるのが相当であり、同項
の損害額は1853万0467円となる(また、上記の覆滅の理由からして上記覆
滅部分についての同条3項の適用は認められない。)とする一方で、2)実施料率は
10%を下らないものと認めるのが相当であり、同条3項の損害額は1975万2
707円となるところ、より高額である上記2)の損害額をもって控訴人の損害額と
認め、これに弁護士・弁理士費用としてその1割である197万5270円を加え
た2172万7977円及びこれに対する前記遅延損害金の連帯支払を被控訴人ら
に求める限度で控訴人の請求を一部認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却
した。
・・・・
(c) 同じくAmazon seller centralに係る手数料等について、控訴人は、令和元
年7月のFBA運搬費は異常に高額であり、少なくとも本件FBA配送代行手数料
●●●●●●●●円は控除されるべきものではないなどと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲10、甲A38、44、甲46、47、51、52、
53の1〜4、54の1〜5、甲55、62、乙25、26)及び弁論の全趣旨に
よると、1)令和元年7月分のAmazonのFBA手数料(Amazon FBA/handling charge)
は●●●●●●●円、FBA運搬手数料(Amazon FBA/haulage express)は●●●
●●●●●円であったこと、2)平成30年7月から令和元年12月までの期間中、
FBA運搬手数料又はこれに相当し得るとみられる費用は、平成30年11月から
令和元年9月までの間において計上されているところ(ただし、平成30年11月
及び12月においては「Amazon /FBA haulage handling charge」である。)、同年
11月分及び12月分は●●●●円程度、平成31年1月分は●●●●円余りであ
ったものの、同年2月分から同年(令和元年)6月分まではいずれも●●●●円に
満たない額となっていたにもかかわらず、同年7月分として上記のとおり急激にそ
の額が増大し、その後、同年8月分として●●●円余り、同年9月分として●●●
円余りが計上された後、同年10月分以降は、FBA手数料とともにゼロ円となっ
たこと、3)同年4月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期
末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●●
●●●●円減少し、同年5月において、「商品評価損」●●●●●●●円の計上と
「期末商品棚卸高」●●●●●●●●円の計上により、「商品」が●●●●●●●
●円増加し、同年6月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期
末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●●
●●●●円減少したこと、4)同年7月30日及び同月31日の2日間に、「Fjp20190724PATENT-14」などの符号(末尾の数字のみ、3〜17の範囲で異なっている。)
のある一律●●●円のFBA配送代行手数料(FBA Per Unit Fulfillment Fee)が
●●●●件計上され、その合計額は●●●●●●●●円に上ったこと(本件FBA
配送代行手数料)、5)同月におけるFBA配送代行手数料の支出において、そのよ
うに同一の符号をもって一律の金額で同時期に多数のものが計上されている例は、
他に認め難いこと、6)控訴人は、別件仮処分決定に係る特許権侵害差止仮処分申立\n事件(東京地裁民事第29部にて審理)において、令和元年7月11日付けで、被
控訴人アンカーに対する申立てを取り下げ、その後、同月25日、別件仮処分決定\nがされたこと、7)控訴人は、別途、被控訴人らを債務者として、特許権侵害差止仮
処分命令の申立て(東京地裁平成30年(ヨ)第22123号(東京地裁民事第4\n0部にて審理))をしていたところ、当該事件で、被控訴人らは、令和元年9月3
0日付けの準備書面をもって、被控訴人ジョウズにおいては同月末までに被告製品
全ての在庫がなくなる予定であることから、保全の必要性がない旨を主張し、その\n後、それを疎明する資料として、被控訴人ジョウズが同月にAmazonに対し被告製品
の所有権放棄の依頼をしたことを示す書面を提出した上、同年11月5日付けの準
備書面をもって、保全の必要性がない旨を改めて主張したことが認められる。
前記1)〜7)の事情(なお、前記4)について、「20190724PATENT」の符号は、令和
元年7月24日付けのもので、特許に関連するものであることを強くうかがわせる
ものである。)のほか、AmazonのFBAサービスに係る証拠(甲53の1〜4。余
剰在庫の管理等のために、Amazonフルフィルメントセンターに保管されている在庫
について、出品者、出品者の倉庫、仕入れ先又は販売業者に返送したり、その所有
権を放棄したりする旨を依頼するサービスがあることなどが記載されている。)や、
配送手数料等についてはその対象となる行為が行われた後に請求がされるのも合理
的であると解され、本件FBA配送代行手数料が平成31年(令和元年)4月ない
し6月の在庫に係る会計上の処理と関連している可能性があることなども考慮する\nと、本件FBA配送代行手数料●●●●●●●●円については、別件仮処分決定の
発令に関連して、また、前記7)の仮処分命令申立事件に対する対応やその準備等の\nために、大量の被告製品について一律に、通常の販売とは異なる特別の取扱いがさ
れたことから発生したものであることが強く推認され、この推認を覆すに足りる事
情は見当たらない。
したがって、Amazon seller centralに係る手数料等のうち、本件FBA配送代行
手数料●●●●●●●●円については、被告製品の販売に直接必要となった経費と
して控除すべきものではなく、控除が認められる支払手数料額は●●●●●●●●
●円となる。
上記に反する被控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。なお、被
控訴人らは、当審で追加された特許法102条3項の損害に係る控訴人の主張に対
し、前記3)の商品評価損については、令和元年の期末の商品評価損調整でゼロとす
る仕訳を行ったなどと主張するところ、そのような事実を認めるに足りる証拠はな
いものの、仮に、そのような事後的な調整の事実があったとすれば、そのことは、
本件FBA配送代行手数料の支出が被告製品の販売とは直接関係なくされたもので
あるとの前記推認を裏付けるものであるとみることができる。
◆判決本文
原審はこちら
◆令和2(ワ)4332
関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求
◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円
◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却
◆令和3(ネ)10072
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2023.03.24
令和4(ネ)10087 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。
(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書
の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均
値を採用しなかったのは不当である旨主張する。
しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると
いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を
採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。
イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実
施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体
的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと
理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要
があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を
利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ
ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス
料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否
定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお
ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘
案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で
きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、
本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す
る。
しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事
情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると
はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00
32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され
ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語
の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反
する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び
「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007
9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし
【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者
は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説
明に記載したものといえる。
その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な
い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13
日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及
び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお
り判決する。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)32239
関連審決取消訴訟事件です。
◆令和3(行ケ)10139
◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です
◆令和4(ネ)10031
◆令和2(ワ)5616
◆令和3(ネ)10023
◆平成30(ワ)36690
◆令和4(ネ)10056
◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁
は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、
実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ
ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製
品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ
た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決
第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の
ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許
以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率
は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限
定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と
なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の
認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主
として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり
のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張
する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する
ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ
自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ
ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき
ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ
る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、
具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し
たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を
吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や
分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー
として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、
1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等
に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも
そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの
ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい
るのであるから、一審原告の主張は採用できない。
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2023.03.21
令和2(ワ)3473 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月23日 大阪地方裁判所
照明器具について技術的範囲に属するとして、約2億円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅8割と判断されました。
ア 本件各発明の技術的意義
本件明細書上、本件発明1には、ブラケットを放熱部に取り付けることに
より外装部の変形及び破損を防止すること(本件意義1)及び放熱部製造時
の不良率の低減(本件意義3)があるものと読み取れる。原告はこれに加え、
外装部が放熱部におけるブラケットの接続部分よりも後方に延びている構\n造により、ユーザーが、ブラケットが取り付けられている位置よりも後方の
外装部を掴み、自らの手が照明器具の照射する光を遮らずに、照射範囲を正
確に把握しながら照射方向を変更することを可能とする技術的意義(本件意\n義2)がある旨主張するが、本件明細書に記載はなく、構成要件Hとして追\n加された経緯等をふまえると(甲11の1、14の1)、後付けの感をぬぐえ
ず、本件各発明の直接の作用効果としての意義は乏しい。
イ 本件各発明の技術的意義が被告製品の売り上げに貢献する程度等
(ア) 本件意義1について
スポットライト製品一般は、本件特許発明より相当前から市場に存在
し、既に成熟した市場が形成されており(乙5、弁論の全趣旨)、市場動向
調査によれば、スポットライト製品は、演色性や色温度などにおいて高い
付加価値を有する製品の開発が期待されている状況にあり(乙30、3
1)、原告、被告、競合他社のカタログ等において、配光制御・特性、光色、
レンズ設計、省エネ、製品の大きさ、軽さ、デザイン等が訴求されている
こともうかがえる(甲5、6、乙15、16、25ないし29)
これに対し、外装部の変形及び破損防止という本件意義1は、いわば製
品として当然に担保されるべき機能及び要素であるといえ、また、材質、\nブラケットの取付方法及び取付部分の構造の工夫等、本件各発明以外の技\n術によっても実現可能であり、現に各照明器具メーカーにおいて一般に実\n現している効果であると考えられる。
また、原告は、平成26年以降、原告実施品と同じシリーズ名・製品名
で、ブラケットを放熱部ではなく外装部に取り付け、外装部を厚肉とする
ことで外装部の変形及び破損の防止を実現した原告後継品を販売してい
る(弁論の全趣旨)。すなわち、本件意義1は、これを欠いても、同一シリ
ーズ・製品として顧客に販売することが可能な程度の顧客誘引力しか有し\nないと評価し得る。このことは、カタログに文言上本件意義1が明示され
てないとしても、商品の写真から本件意義1に係る特徴を看取できること
を考慮しても同様である。
(イ) 本件意義3
本件意義3は、不良率低減という製造コスト削減に寄与するものである
といえるが、本件意義3によるコスト削減(製品価格への反映)の程度が
不明であること等を踏まえると、被告製品の利益に対する寄与度が大きい
とは認められない。
(ウ) 以上のような事情を踏まえると、本件意義1及び3の顧客誘引力は限
定的であり、本件意義1及び3が被告製品の売り上げに貢献する程度は低
いと言わざるを得ない。
ウ 原告実施品の販売実績等
原告は、本件期間前に原告実施品の販売を開始した後、本件登録日(平成
28年8月5日)以降は在庫品限りとして原告実施品を販売するにとどまっ
ており、平成28年以降の原告実施品の販売数は16個である(甲17、1
8)。
このように、原告が本件登録日以降原告実施品を製造しておらず、その販
売方法(販路)等が相当程度限定され、その規模も極めて小さいことや、原
告が原告後継品を販売しているものの、当該製品が本件各発明とは異なる技
術により本件各発明と同様の作用効果を奏していることは、前記(1)で説示
した特許法102条2項の推定の前提事実を欠くとまでいうことはできな
いものの、本件推定を大きな割合で覆滅させる事情というべきである。
エ 競合品の存在
本件期間中、ブラケットが外装部ではなく、放熱部を含む別の部分に取り
付けられているという特徴を有する製品は、パナソニックのTOLSOシリ\nーズ(乙25)、オーデリックのC1000シリーズ(乙27の2ないし27
の4)、三菱電機のAKシリーズ、彩明シリーズ、鮮明シリーズ及びLEDス
ポットライトシリーズ(乙29)をはじめ、複数存在する。これらの製品は、
原告実施品及び被告製品と価格帯も概ね同程度である。
以上の事情に鑑みると、被告製品には、競合品が存すると認められ、かか
る競合品の存在も推定を覆滅させる事情に当たる。
オ 原告の市場占有率
被告は、スポットライト市場又は店舗用照明市場における原告の市場占有
率が低いとして、被告製品が存在しない場合、その需要の多くが競合他社の
製品へ流れ、原告実施品を販売できたはずであるとはいえない旨主張する。
しかし、被告が主張する原告を含む照明器具メーカーの市場占有率は、ス
ポットライトを含む店舗用照明器具市場における機器全般ついてのもので
あって、スポットライト以外の幅広い商品群を含むものと解されるから、原
告実施品等との関連が乏しく、推定を覆滅させる事情に当たるとはいえな
い。
カ 覆滅の程度
以上の事情、とりわけ本件特許発明の技術的意義や実施品の販売状況を重
視した上総合的に考慮すると、本件においては、被告製品の販売がなかった
場合に、これに対応する需要が原告実施品ないし原告後継品に向かう蓋然性
はむしろ低いとみるべきであって、特許法102条2項により推定された損
害の8割について覆滅されるというべきである。これに反する原告及び被告
の各主張はいずれも採用できない。
◆判決本文
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2023.01. 3
平成29(ワ)7384 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年9月15日 大阪地方裁判所
ファミリーイナダVS富士医療器のマッサージ器の特許権侵害事件です。東京地裁は、富士医療器がファミリーイナダの特許を侵害してるとして、約28億円の損害を認めました。102条2項と3項の重畳適用を認めています。
原告・被告が逆の侵害訴訟(令和2年(ネ)第10024号)では、知財高裁は、逆転判決で、ファミリーイナダが富士医療器の特許を侵害しているとして、約4億円の損害を認めてます。
ウ 覆滅割合
(ア) 市場の同一性
原告と被告は、マッサージチェアの分野でシェアを競い合う企業でマッサージチ
ェアという需要者を共通にする同種製品を取り扱う同一の市場で競業している。
被告の主張は、具体的な被告の製品と原告の製品とを比較し、個別の販売相手先
や販売ルートを細かく分断して、これらが異なるから「市場の非同一性」があるな
どと主張している。しかし、このような立論が成り立つのであれば、個別の販売相
手先や販売ルートが共通の場合でない限り、市場は無意味に細分化されてしまう。
同種製品で共通する需要者層を対象にして潜在的に影響を受ける競争の場が想定で
きるのであれば、市場が同一性を有しているといえる。
また、本件特許II)及びIII)の実施品である原告の製品(以下「原告製品」という。)
には対象被告製品と同じような価格帯の製品も複数存在するから、この点からも市
場の同一性は否定されない。
(イ) 市場における競合品の不存在
侵害訴訟の損害論においては、特許権を侵害する製品が販売されることによって、
特許権者の特許実施製品の販売が減少するという関係があるか否かを問題とすべき
であるから、侵害関係のない製品についての適法な同種製品のシェア自体は、推定
覆滅事由としては関係がない。
また、競合品の範囲は、本件特許II)及びIII)の特許権の技術的構成を踏えて、その\n目的・作用効果を把握した上で、当該目的・作用効果が同じで原告製品の販売数量
に影響を与える製品という前提に立脚して考察されるべきであって、「背メカで被
施療者の首元から背中、腰にかけてマッサージを行うマッサージチェア」であるか
否かによって範囲を画し、これを前提とすると、殊更に本件特許II)及びIII)の具体的
な構成や解決手段をその考慮対象から一切捨象することになる。\n
(ウ) 侵害者の努力(ブランド力、宣伝広告)
原告は、古くから一貫してマッサージチェアを製造販売している老舗であり、被
告ともシェアを常に争う信用力のある会社である。また、原告は、世界で各種の受
賞実績のある国際的にも認知された会社であり、被告に劣らずグッドデザイン賞を
受賞するデザイン性を備える複数の原告製品を販売している。
したがって、原告企業より被告企業の方が格別に信用力を有し、原告のブランド
力に比して侵害品が利用者にとって購買動機となるなどということはない。
また、開発段階において開発に携わる従業員を配することは、ごく通常のことで
あり、原告においても日々機械によるマッサージを人間の揉み心地に近づけるべく
開発努力を重ねている。営業段階において、マッサージチェアの魅力を伝える為の
営業活動は、原告においても常時行っており、被告だけに特別の活動ではない。
(エ) 侵害品の性能\n
対象被告製品のカタログ等には、対象被告製品の仕様(発明の構成)が明記され\nており、本件発明II)及びIII)の作用の発現が示唆されていることから、需要者に一切
訴求されていない本件特許II)及びIII)の作用効果に関連する仕様、機能は、対象被告\n製品の購入動機になり得ない旨の被告の主張は失当である。
被疑侵害品である対象被告製品の具体的な実施態様に関するパンフレット等には、
利用者へ訴求する記載が多数ある。本件特許II)及びIII)の技術的構成を採用するから\nこそ、各種コースのマッサージや腕を含む人体全体のマッサージ効果を高めるマッ
サージチェアを提供できるのであり、これらの技術的構成を回避してマッサージチ\nェアを提供することは製品の性能に大きな影響を及ぼし、仮に回避し得たと考えて\nも、その代替的構成を採用するには無視できない費用がかかる。\n
(オ) 特許発明が侵害品の部分のみに実施されているものではないこと
本件特許II)及びIII)は、椅子式のマッサージチェアにあって身体のマッサージに関
する構成、構\造に係る基本的な技術である。被疑侵害品である対象被告製品の一部
に本件特許II)又は本件特許III)の発明が実施されていたとしても、対象被告製品は、
この実施部分を除いてしまえば、全体としての製品構成が成り立たない。すなわち、\n本件特許II)は、椅子式マッサージ機にあって肩を側方からマッサージする「肩また
は上腕の側部」の技術的構成に関する重要な特許であり、本件特許III)は、「腕部」
をマッサージする技術的構成に関する重要な特許であって、この実施部分があるか\nらこそ利用者の需要が喚起されているといえる。
本件特許II)に関し、被疑侵害品である被告製品II)を利用する利用者は、様々な自
動コースを自由に判断して設定するのであり、その際に、「肩または上腕の側部」
に効果的なマッサージを行うことができる構成を有している製品か否かが製品選択\nには重要である。本件特許II)の構成の内容は、取扱説明書の中でもこれを織り込ん\nでしばしば説明されており、それが被疑侵害品である被告製品II)の全般に亘ること
も明らかで、本件特許II)の構成を抜きにしては、被告製品II)の多くの自動コースも
成り立たないことも一見して明らかである。
本件特許III)に関して、開口の向きを考慮しつつ、腕のエアマッサージを行う本件
特許III)の技術的構成の具体的な実施態様は、これを採用する製品の外観にもマッサ\nージ効果にも大きな影響を及ぼす。
(カ) まとめ
以上を総合的に考慮すると、推定覆滅される割合は、少なくとも55%以上には
ならない。
エ 損害額
(ア) 特許法102条2項に基づく損害額の算出ができる対象被告製品について
不当利得期間及び損害賠償期間を通じた限界利益の額(前記イ(ウ))について、前
記ウのとおり、推定覆滅される割合は、55%以上にはならないから、被告が開示
した限界利益率を前提とした場合は、●(省略)●を下らず、原告が主張する限界
利益額を前提とした場合は、●(省略)●を下らない。
(イ) 特許法102条2項に基づく算出ができない対象被告製品について
被告の開示によれば、被告製品12、30及び32の限界利益はマイナスであっ
て、赤字が計上される製品であるので、これには特許法102条2項に基づく算出
ができない。前記3製品について、●(省略)●そして、前記3製品について、こ
の限度で特許法102条3項の主張を行う。
・・・
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)を総合すると、被告の開示した限界利益額による場合、特許法102条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、原告が主張する修正限界利益額による場合、同条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、少なく見積もっても50億円を下らない。
(3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張
ア 特許法102条1項と同条3項の関係と同条2項
特許法102条1項と3項の併用に関する令和元年法律第3号による改正(以下
「令和元年改正」という。)後の特許法に関する考え方として、産業構造審議会知\n的財産分科会特許制度小委員会の報告書(「実効的な権利保護に向けた知財紛争処
理システムの在り方」)において、わざわざ2項との関係でも「同様の扱いが認め
られることと解釈されることが考えられる」と記載されており、その解釈可能性が\nあることへの言及があるから、2項と3項の併用については、条文に明示されなか
ったとはいえ、全面的に併用適用が否定されたわけではなく、解釈に任されること
を明らかにしている。
したがって、特許法102条2項に基づき主張された損害のうち推定が覆滅され
た部分について、同条3項の重畳適用が認められるべきである。
◆判決本文(損害論)
◆判決本文(侵害論)
関連事件1です。
同じく富士医療器による特許権侵害を認定ししてるとして、約4800万円の損害を認めました。
◆平成30(ワ)1391
原告・被告が逆の侵害訴訟はこちら。
◆令和2年(ネ)10024
この1審はこちら。
◆平成30(ワ)3226
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2022.11.25
令和2(ネ)10024 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年10月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。
原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載
に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され
ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す
ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示
唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置
関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する
と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内
側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延
設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の
前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿
入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、
「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを
示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」
中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る
ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ
れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上
り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、
請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること
と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞
部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し
ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の
飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも
「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論
が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内
側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する
ことを看取できるものではない。
したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空
洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件
発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の
長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された
椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の
前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と
は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手
掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす
るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている
ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部
の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面
部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び
前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞
部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本
件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1
4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様
に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以
下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各
発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕
部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口
部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす
る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前
記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された
施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され
ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ
である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と
本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、
「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ
り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正
後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」
及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま
た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、
「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形
状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」
が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指
摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面
部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部
を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として
追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前
腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに
鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか
かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ
て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から
の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫
して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲
の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって
「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C−
1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部
に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を
設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で
は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな
い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態
を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部
(62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発
明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分
に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を
備えることを要しないことは明らかである。
また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設
けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感
を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨
げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし
【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁
を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと
により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無
が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に
わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え
るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、
手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」
及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が
「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。
次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出
願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004
6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として
挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、
本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」
が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され
ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請
求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最
初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙
C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明
細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて
いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1
4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ
てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決
の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞
部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、
控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す
る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき
ない。
したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空
洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特
許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同
一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅
部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ
た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認
められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製
品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合
関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴
人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること
ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも
のと認められる。
一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理
由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に
係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄
与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう
な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす
ることができたものと認められない。
そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由
に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める
のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて
いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、
侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを
判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由
と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適
用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、
そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、
覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の
喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上
困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施
されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、
特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々
の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件
推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい
ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認
められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自
己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た
部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する
「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法
を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」
を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の
推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算
過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる
わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ
ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽
されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を
適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同
条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ
いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この
ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条
3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告
製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定
覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、
あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における
利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特
許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、
法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか
ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条
3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特
許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、
第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ
とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特
許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた
実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の
喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特
許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、
特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ
た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので
あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が
実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上
げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施
料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二
重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令
和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様
の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推
定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと
いうべきである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成30(ワ)3226
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2022.11. 8
平成31(ネ)10007 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年8月8日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は4700万円の損害賠償を認めましたが、控訴審はこれを約5560万円としました。また、1審は102条2項の推定覆滅の割合は完全非公開としましたが、知財高裁は、貢献度99%+αと一部非公開としました。また、1審では2項と3項との重畳適用は主張されていません。
(3) 特許法102条1項に基づく損害について
ア 適用関係
令和元年法律第3号による改正について
存続期間の満了により、本件特許権1の侵害行為は令和2年3月31
日までに終了しているところ、令和元年法律第3号による改正後の特許
法102条1項は令和2年4月1日から施行されたものであるが、改正
法附則には経過措置がないことから、本件特許権1の侵害行為には、上
記改正後の特許法102条1項が適用される。
一審被告は、改正法を遡及適用せずに旧1項を適用すべきであると主
張するが(前記第2の4(16)参照)、改正後の特許法102条1項2号は、
実施相応数量を超える数量又は特定数量(通常実施権を許諾し得た場合
に限る)に応じた実施料相当額を損害の額とするものであるところ、そ
の実施相当額の損害が実体法上生じ得ないものとはいえないから、改正
法が実体法上の請求権を新たに創設したものとはいえない。したがって、
同号は、客観的には改正前から損害を構成するといえた実体法上の損害\nを推定する規定にとどまるものといえるから、一審被告の上記主張を採
用することはできない。
・・・
ウ 「単位数量当たりの利益の額」
原告の製品の1台当たりの限界利益の額が別紙1−1(1)のとおりである
ことは、当事者間に争いがない。
エ 「その侵害の行為を組成した物」の譲渡数量等について
販売数
本件では、一審被告による被告表示器A及び被告製品3の生産、譲渡\n等の行為について間接侵害の成立が認められるが、被告製品3は、被告
表示器AにOSを提供することによって被告表\示器Aと原告の製品と同
等なものを生産するという限度において侵害行為を組成しているもので
あるから、特許法102条1項の損害を算定するに当たり、被告表示器\nAと独立にその譲渡数量を論じる必要はない。
したがって、特許法102条1項の損害算定に当たっては、被告表示\n器Aの譲渡数量のみを算定基礎とすれば足りる。
そして、平成25年4月1日から令和2年3月31日までの被告表示\n器Aの販売数が別紙5に記載のとおりであることは、当事者間に争いが
ない(なお、被告表示器Aについては、各月ごとの販売数は明らかでは\nないので、別紙5のとおり半期ごとの販売数量に基づき、以下、損害額
の算定を行うものとする。また、前記2(2)オのとおり、本件特許権1の
間接侵害が成立するのは平成25年4月2日以降であるところ、同月1
日の被告表示器Aの販売数の有無又はその数量が不明であるが、同日の\n譲渡等が7年にわたる期間の損害額全体に影響するのはごくわずかであ
り、この1日分を含めるか否かの相違は以下の算定の中で吸収され、何
らかの影響を及ぼすことは想定し難いから、同日の販売数を改めて算定
することはせず、別紙5に記載の販売数をそのまま用いることとする。)。
譲渡数量
一審被告は、「その侵害の行為を組成した物」は直接侵害品であると
ころ、被告表示器A及び被告製品3を購入した者の全てが本件発明1の\n実施品(直接侵害品)を生産しているのではないと主張する(前記第2
の4(16)参照)。しかしながら、間接侵害行為は特許権を「侵害するものとみなす」
(特許法101条)とされており、そして、特許権侵害の損害の額につ
いて、「その侵害の行為を組成した物」(同法102条1項)とされてい
るところ、前記ア のとおり、間接侵害にも同法102条の適用がある
と解する以上、「侵害の行為を組成した物」とは間接侵害品を指すもの
と解するべきである。
もっとも、特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は、特許
権を侵害しない用途ないし態様で使用することができるものである。そ
して、そのような部品等の譲渡は、当該部品等の譲渡等により特許権侵
害が惹起される蓋然性が高いと認められる場合には、譲渡先での使用用
途ないし態様のいかんを問わず、間接侵害行為を構成するが、実際に譲\n渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には、
結果的には、間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与していない。そう
すると、そのような譲渡先については、間接侵害行為がなければ特許権
者の製品が販売できたとはいえないことになり、特許権者等に特許発明
の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲
渡によって得た利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すること
はできないというべきである。そして、このような場合は同法102条
1項1号の「販売することができないとする事情」に該当するものと解
するのが相当である。一審被告の主張は、仮に、直接侵害品の生産に用
いられた数量のみを損害算定の基礎とすべき主張が採用されない場合に
は、同一の事情を「販売することができないとする事情」として主張す
るとの趣旨も含むものと解され、その限度で採用することができる。
したがって、特許権者等の損害額の算定に当たっては、そのような販
売数量は、特許法102条1項の「譲渡数量」から控除されると解する
のが相当である。
オ 「販売することができないとする事情」について
販売することができないとする事情(その1)
一審被告は、1)原告の製品が一審原告製のプログラマブル・コントロ
ーラにしか接続できないこと、2)一審原告がプログラマブル・コントロ
ーラ用表示器の市場において意味のあるシェアを有しておらず、本件発\n明1の技術的特徴による販売への貢献も極めてわずかであるから、被告
表示器A及び被告製品3の購入者のほとんどは、一審原告以外のメーカ\nーの製品を購入する、3)原告の製品は本件発明1の実施品ではないから
本件特許権1の侵害によって一審原告に損害が発生する余地はない旨を
主張する(以下、この主張に係る事情を「販売することができないとす
る事情(その1)」という。)。
特許法102条1項1号の「販売することができないとする事情」と
は、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する
事情をいうものである。
本件発明1の特徴的技術手段は、異常発生時におけるタッチによる接
点検索にすぎず、回路モニタ機能全体ではないことや、従来製品として、\nモニタ上に表示される異常種類のうち特定のものをタッチして指定する\nと、その指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラ
ダー回路が表示され、異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定\nをタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番号を入力して
行う製品が存在していたことは、前記2(2)イ において認定したとおり
である。そうすると、本件発明1に係る機能を全て使用することができ\nる製品が原告の製品以外に存在していなかったとしても、コイルの指定
や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番
号を入力して行う製品は存在しており、そのような製品でも、異常現象
の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定した
り、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりするこ
と自体は可能であり、それほど複雑な操作を要するものではないといえ\nる。さらに、本件発明1の技術的範囲に含まれないものであっても、異
常発生時においてコイル検索のみを実施できるようにし、回路を戻る場
合には検索機能を用いずに戻る機能\を有する表示装置であれば、異常現\n象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定し
たり、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりする
という目的を達することに支障があるとは考えにくい。加えて、本件発
明1の特徴的技術手段である接点検索は、原告の製品にですら実施され
ていないものであり、この特徴的技術手段が原告の製品の販売に貢献し
ていないことは明らかである。しかも、この特徴的手段である接点検索
は、被告表示器A及び被告製品3の多数の機能\のうち、わずか一点に関
するものであって、その機能の極めて僅少な部分しか占めない。\n 以上からすると、本件発明1の技術的特徴部分が被告表示器A及び被\n告製品3の販売数に大きく寄与したものとはおよそ想定し難い。また、
一審原告のプログラマブル表示器(表示装置)における市場シェアは、\n別紙7−2の「その他」に含まれるにすぎない僅少なものである(甲3
1)上に、原告の製品は、一審原告製のプログラマブル・コントローラ
にしか接続できない(争いがない。)のであるから、被告表示器A及び\n被告製品3が本件発明1の特徴的技術部分を備えないことによってわず
かに販売数が減少したとしても、その減少数分を埋め合わせる需要が、
全て一審原告の方に向かうとも想定し難い。
したがって、本件では、被告表示器A及び被告製品3が本件特許1を\n侵害したことによって原告の製品が販売減少したとの相当因果関係は、
著しい程度で阻害されると認めるべきであり、被告表示器Aの販売数の\n99%について販売することができないとする事情があると認めるのが
相当である。
販売することができないとする事情(その2)
前記エ のとおり、一審被告が直接侵害品の生産に用いられた被告表\n示器Aの数量として主張するところは、「販売することができないとす
る事情」の一要素として考慮することができるところ、一審被告は、前
記第2の4(16)(原判決第3の18(被告の主張)(1)ア c)のとおり、
1)輸出の除外、2)プログラマブル・コントローラに接続しない利用態様
の除外、3)一審被告製シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出
される事情、4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出さ
れる事情、5)被告製品1−2についてオプション機能ボートを購入した\n割合から算出される事情、6)ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロ\nジェクトデータを有する被告表示器Aの割合から算出される事情を主張\nする(前記第2の4(16)参照。以下、この主張に係る事情を「販売するこ
とができないとする事情(その2)」という。)。
そこで、検討するに、まず、一審被告が把握している被告表示器Aの\n輸出台数は、別紙7の1に記載したとおりであること、平成25年の一
審被告製のプログラマブル表示器の販売数量、販売金額、国内市場シェ\nアは、同7の2に記載したとおりであること、平成25年から令和2年
までの一審被告のプログラマブル・コントローラの国内総販売数、国内
市場シェアは、同7の3に記載したとおりであること、一審被告製シー
ケンサ(プログラマブル・コントローラ)の販売実績、回路モニタ機能\nの実行が可能なシーケンサ等の割合は、同7の4に記載のとおりである\nこと、GT15(被告製品1−2)に装着可能なオプション機能\ボード
の販売台数は、別紙7の5に記載のとおりであることが認められ(甲3
1、乙58ないし64、弁論の全趣旨)、これに反する証拠はない。
上記認定事実を前提に更に検討すると、1)国外に輸出された被告表示\n器Aについては、本件発明1が実施されるのが日本国外となり、属地主
義の原則から本件特許権1の侵害は生じ得ないから、一審被告から開示
された輸出台数は控除するのが相当であるが、その輸出台数を一審被告
は別紙7の1のとおり把握しているとし、これに疑念を差し挟む理由も
ないところ、その台数が全体の販売数に占める割合は僅少である。2)プ
ログラマブル・コントローラに接続しない被告表示器Aについても本件\n特許権1の侵害が生じないところ、その数量は、一審被告すらおおよそ
の割合でしか示し得ていないものの(別紙2−1)、前記2(2)エ のと
おり、ユーザは高額な機器である被告表示器Aの機能\を十全に利用する\nため回路モニタ機能等を利用しようと合理的に行動するものといえるか\nら、被告表示器Aをプログラマブル・コントローラに接続する割合は非\n常に高くなるものと推認される。3)一審被告製シーケンサ等に接続する
利用態様の割合については、前記2(2)エのとおり、プログラマブル・コ
ントローラとプログラマブル表示器とを同一メーカのもので統一する傾\n向があると推認されることから、一審被告製シーケンサの国内市場シェ
ア割合(別紙7−3)に従った割合で被告表示器Aが一審被告製シーケ\nンサに接続されるものとするのは不自然であり、当該シェア割合よりは
一定程度高い割合で一審被告製シーケンサと接続されるものと推認する
のが相当であるが、他社の製品との組み合わせが僅少であるとまでは認
め難い。4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合については、被
告表示器Aがその仕様・機能\等からみて特定のシーケンサに用いられる
とする特別な傾向があることまでもを認めるに足りる証拠はないから、
回路モニタ機能を利用できないシーケンサの販売割合(別紙7−4)は\nその割合のまま考慮することが相当である。5)被告製品1−2について
オプション機能ボートを購入したユーザの割合(最大で約4分の1)に\nついては、一定の考慮をするものとするが、そもそも被告表示器Aに占\nめる被告製品1−2の割合は約●パーセントにすぎないから、いずれに
しても、被告表示器A全体の中ではほとんど影響を及ぼさない。最後に、\n6)ユーザがワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを\n作成する割合については、引用に係る原判決第4の2(2)(本判決前記1
(2)にて補正されたもの)において認定したとおり、一審被告がワンタッ
チ回路ジャンプ機能を宣伝のポイントとしていたことや、被告表\示器A
及び被告製品3を購入等したユーザは回路モニタ機能等を用いることを\n強く動機付けられ、その機能がインストールされる可能\性もかなり高い
といえること等に照らせば、ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いようと\nする者は相応の数に上るものと考えられるものの、具体的な割合を確定
するに足りる資料はない。
以上の観点から検討するところ、上記1)、2)、5)については、直接侵
害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はわずか、あ\nるいは少ないが、上記4)及び6)については直接侵害品の生産に用いられ
る被告表示器Aの数量に与える影響はかなり大きく、3)についても少な
からぬ影響があるというべきである。なお、ここまでにおいて、これら
の事情を独立の要素として考慮したが、例えば、ワンタッチ回路ジャン
プ機能を用いるプロジェクトデータを作成するユーザは回路モニタ機能\
等を使用できる機器を有しているなど、これらの要素は相互に関連性を
有する場合もあり得る。そこで、このような点も加味して、上記事情を
総合考慮すると、被告表示器Aの販売数の●●%が直接侵害品の生産に\nは用いられなかったものと推認することが相当である。したがって、こ
の限度において、「販売することができないとする事情」があると認め
る。
一審被告の主張について
一審被告は、ユーザからの不具合調査や技術支援の依頼への対応に応
じてユーザから取得しているプロジェクトデータから、本件発明1の実
施品の生産に用いられる被告表示器Aの数が推定できると主張する(前\n記第2の4(16)参照)が、これらのプロジェクトデータは、一審被告に対
して技術支援を求めるユーザ、不具合品として製品を返却してきたユー
ザ、他社製表示器から一審被告製品に乗り換えたユーザから取得してき\nたプロジェクトデータというのであって(乙72)、全くランダム化さ
れていないものであり、それらユーザが一審被告の製品を用いるユーザ
の平均的な技術水準にあるとは認め難く、その主張を採用することはで
きないそのほか一審被告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左
右しない。
一審原告の主張について
一審原告は、前記 3)の事情につき、引用に係る原判決第3の18(1)
ア c(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの)のとおり、プログラ
マブル表示器を他社製のプログラマブル・コントローラに接続する利用\n態様は僅少である旨主張する。しかしながら、プログラマブル・コント
ローラの市場シェアでは下位を占めるが、プログラマブル表示器のシェ\nアでは上位を占める社があり(乙58ないし64)、そのような社のプ
ログラマブル表示器は他社製のプログラマブル・コントローラに接続さ\nれることを前提にされていると考えられる。このような点に鑑みると、
異なる社が製造するプログラマブル表示器とプログラマブル・コントロ\nーラとを組み合わせることも、当業界としてあり得る対応と推認される。
そうすると、プログラマブル表示器とプログラマブル・コントローラの\n親和性が好まれるといっても、他社製のものとの組み合わせることが僅
少であるとまでは認められないから、一審原告の上記主張を採用するこ
とができない。
また、一審原告は、同c(b)(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの)
のとおり、1)被告表示器Aと接続できない場合がある「MELSEC Qn
Aシリーズ」、「MELSEC Aシリーズ」、「MELDAS C6/C64」、「MELSE
C iQ-Lシリーズ」及び「CNC C80シリーズ」などのシーケンサを購入
したユーザが被告表示器Aを購入するはずがない、2)単純な使用態様で
あるスタンドアローン向けのシーケンサに回路モニタ機能等を有する高\n額な被告表示器Aを接続するユーザはいない旨主張するが、上記1)につ
いていえば、仮に、一審原告の指摘するシーケンサが被告表示器Aと接\n続できないとしても、別紙7の4のとおり、一審被告製シーケンサ全体
に占めるその販売割合は●ないし●●●%と極めて僅少であって全体的
な傾向を全く左右させないものであるし、上記2)についていえば、一審
被告が主張するように言い切ることができることを認めるに足りる証拠
はない。そのほか一審原告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左
右しない。
以上のとおり「販売することができないとする事情(その1)」とし
て、主に本件発明1の売上げへの貢献に関する観点からの99%の控除
と「販売することができないとする事情(その2)」として、直接侵害
品の生産に用いられていないとの観点からの●●%の控除が認められ、
両者は独立して考慮できる控除要素であるから、結局、別紙8に記載の
とおり、被告表示器Aの譲渡数量から、99%の譲渡数量を控除し、更\nにその数量から●●%の譲渡数量を控除した数量(控除数量は、●●●
●%となる。)について「販売することがのできないとする事情」を認
めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60≒0.98
3を下回るものではない。)。
カ 特許法102条1項1号の損害
前記イないしオの判断を踏まえると、特許法102条1項1号に基づく
一審原告の損害額は、別紙8のとおり、5062万9205円と認めるの
が相当である。
キ 特許法102条1項2号の損害
特許法102条1項2号は、特定数量がある場合、その数量に応じた実
施料に相当する額を損害の額とすることができると定める一方で、同号括
弧書きは、特許権者等が当該特許権者等の特許権について実施権の許諾を
し得たと認められない部分を除く部分を除外しているから、侵害者の侵害
行為により特許権者がライセンスの機会を喪失したとはいえない場合には
実施料に相当する額の逸失利益が生じるものではないことが規定されてい
る。
前記オのとおり、本件において認められた特定数量は本件発明1の特徴
的技術部分が被告表示器A及び被告製品3の販売量に貢献しているとは認\nめられない数量、機能上の制約あるいは一審原告のシェア割合からみてユ\nーザの需要が原告の製品に向かず、一審原告以外の他社への購入に振り向
けられる数量、直接侵害品の生産に向けられず本件発明1の技術的範囲に
属しない表示器となる数量を合わせたものであるから、そのように本件発\n明1が販売数量に貢献し得ていない製品や一審被告以外の他社が販売する
製品について、一審原告が一審被告に本件発明1をライセンスし得るとは
認められない。そうすると、特許法102条1項2号の損害を認めることはできない。
(4) 特許法102条2項に基づく損害について
ア 本件の間接侵害への特許法102条2項の適用の可否
特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許
権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ、この規定の趣旨は先
に同条1項について述べたのと同様であると解される。したがって、先に
同条1項について述べたのと同様の考え方の下に、本件において同条2項
の適用を肯定するのが相当である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
平成25年4月から令和2年3月までの被告表示器A及び被告製品3の\n販売額が別紙3ないし6に記載されたとおりであること、被告表示器Aの\n限界利益率が20パーセントを下らないこと、被告製品3の限界利益率が
原判決別紙「被告の変動費の内訳、加重平均値及び限界利益率」に記載さ
れたとおりであることは、当事者間に争いがない。
ウ 推定覆滅事由について
特許法102条2項は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が
得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果
関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅
されるものと解される。ここで、特許法101条2号の間接侵害品が実際には直接侵害品の生産に用いられることがなかった場合には、結果的にみれば、当該間接侵
害品の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという
関係にはなく、特許権者に特許発明の物の譲渡により得べかりし利益の
損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者
が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから、こ
のような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解
するのが相当である。そうすると、先に特許法102条1項1号につい
て述べた事情(前記(3)オ 。以下「推定覆滅事由(その1)」という。)
は、特許法102条2項の推定覆事由として捉えることができるから、
被告表示器A及び被告製品3の利益の99%について覆滅事由があると\n認めるのが相当である。さらに、被告表示器A及び被告製品3のうち、\n直接侵害品の生産に用いられなかった分については一審原告の受けた損
害額であるとの推定を覆す事情(以下「推定覆滅事由(その2)」とい
う。)があるというべきであるところ、直接侵害品の生産に用いられな
かった被告表示器Aの数は、前記(3)オ と同旨の理由により、全体の●
●%に及ぶと認められるから、●●%の利益について推定が覆滅される
ものと認めるのが相当である。また、被告製品3についても、直接侵害
品の生産に用いられたものと、そうではないものとが生じるが、特にど
ちらかに偏るべき事情はうかがわれないから、そのインストール先の表\n示器Aと同様の割合で、その●●%の利益について推定が覆滅されるも
のと認めるのが相当である。
以上のとおりであり、推定覆滅事由(その1)として、主に本件発明
1の売上げへ貢献に関する観点から導いた99%の減額と推定覆滅事由
(その2)として、直接侵害品の生産に用いられているかの観点から導
いた●●%の減額が認められ、両者は独立して考慮できる減額要素であ
るから、結局、受けた利益のうち、●●●●%の額について推定覆滅事
由を認めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60
≒0.983を下回るものではない。)。
エ 特許法102条2項の損害
前記イ及びウの判断を踏まえると、特許法102条2項に基づく一審原
告の損害額は、別紙9のとおり、合計2424万7080円と認めるのが
相当である。
オ 特許法102条3項の重畳適用について
仮に、特許法の解釈上、特許法102条2項と3項の重畳適用が排除さ
れていないとしても、その適用は同条1項2号の趣旨にかなったものとな
るのが相当と思料されるべきところ、本件においては、同条2項の覆滅事
由は前記ウ 及び のとおり、そもそも同条1項2号の適用のない場合で
あるから、同条3項を重畳適用できる事案ではない。
したがって、いずれにせよ、一審原告の上記主張を採用することはでき
ないものである。
(5) 小括
前記(3)及び(4)の判断を踏まえると、前記(3)にて認定の特許法102条1項
に基づく原告の損害額(5062万9205円)の方が高いことから、その
額を一審原告の損害と認める。
(6) 弁護士費用
一審原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判
所に顕著な事実)、一審被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用は、500万円と認めるのが相当である。
◆判決本文
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◆平成27(ワ)8974
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2022.10.20
令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。
これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
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2022.09.28
平成30(ネ)10077 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。
我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2
に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。
もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。
そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。
また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。
◆判決本文
1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。
◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n
今回侵害となった特許4734471
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja
1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja
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2022.09.15
令和2(ネ)10032 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明の特許権侵害に対して、原審は約3600万円の損害賠償を認めました。1審原告は、請求を2億円に拡張する控訴をし、知財高裁(2部)は約1億2000万円の損害賠償を認めました。
原審(平成28年(ワ)7678号)はアップされていません。
(ア) 原判決別紙「本件ソフト・ハード機器の売上額(裁判所の認定)」のとお\nり、本件において一審被告が受けた利益として認められる本件ソフト及びハードウ\nェアの売上額が合計2億5714万4027円であるのに対し、後記のとおり、本
件において一審被告が受けた利益として認められる月次利用料(被告システムない
し本件ソフトの導入後5年以内に支払われるもの。以下同じ。)に係る売上額は、\n合計3億9531万1537円であり、月次利用料に係る売上額は、本件ソフト及\nびハードウェアの売上額の約1.5倍にも及ぶ高額のものであって、これを単なる
データベースの更新費用等であるとみることは困難であること、一般に被告システ
ムないし本件ソフトのように内容の更新が絶対に必要なデータベースを用いるシス\nテムないしソフトウェアにおいては、適時のデータベースの更新がなければシステ\nムないしソフトウェアとしての意味をなさないから、当該システムないしソ\フトウ
ェアを導入する際に、更新があることを当然の前提にしてこれを含んだ価格設定を
することには十分な合理性があること、弁論の全趣旨によると、一審被告は、被告\nシステムないし本件ソフトを導入した医療機関が月次利用料を3か月間支払わない\nときは、被告システムないし本件ソフトが起動しないような措置を執っているもの\nと認められること(一審被告第3準備書面5〜7頁)などの事情に照らすと、甲2
0及び48に月次利用料について「データベース更新料等」の記載があるとしても、
月次利用料に係る売上げは、被告システムないし本件ソフトの譲渡の対価(譲渡代\n金の延べ払い)の性質を持つものとして、これを一審被告が得た利益に含めるのが
相当である。
◆判決本文
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2022.08.12
令和2(ワ)4331 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年5月13日 東京地方裁判所
電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。
同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。
しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。
原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。
◆判決本文
関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求
◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円
◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却
◆令和3(ネ)10072
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2022.08. 9
令和3(ネ)10088等 特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許侵害事件です。知財高裁第4部は、102条2項の覆滅は5%から15%とし、損害賠償額を減額しました。なお、102条2項と3項の重畳適用は1審と同様に否定しました。
被控訴人は、前記第2の3(2)ウ(イ) のとおり、競合品の存在を理由とする特
許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3
項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき
である旨主張する。しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性
があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ
とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴
人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施
料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被
控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちらです。1審も以下のように、重畳適用を否定しました。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件
において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは
競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関
わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎
を欠く。
◆令和1(ワ)9113
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2022.07.23
令和2(ネ)10042 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。
争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6
159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第
1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ
アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に
対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、
前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ
れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置
関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴
人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2
04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス
マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た
り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ
とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知
手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし
て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、
S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載
器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず
れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ
ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及
び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム
においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、
発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、
被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」
と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。
また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用
出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場
合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する
ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC
による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手
段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機
を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、
逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘
導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、
料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ
てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防
止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明
らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に
第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。
たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車
両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上
記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の
遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中
の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス
テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無
線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行
中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0
042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し
ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される
ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな
い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、
車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ
り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ
とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1
の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通
信を行うものであると限定的に解釈することはできない。
したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して
いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開
閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も
のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出
ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと
によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定
結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い
てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通
じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘
導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに
通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ
スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各
システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて
いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され
るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな
い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導
する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」
に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい
ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、
インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー]
1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、
バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係
員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出
ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各
発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提
供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」
という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1
の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で
説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5
685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス
マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ
り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生
活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常
のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト
は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年
と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3)
既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ
とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕
著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI
Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触
しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお
らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める
被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人
は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ
れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。
◆判決本文
原審はこちら。
◆H31年(ワ)7178
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2022.07. 4
令和2(ワ)29604 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月27日 東京地方裁判所
携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。
ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該
特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない
場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明
自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可
能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等
訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。
イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と
して、次のとおりのものが認められる。
「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査
研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係
特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分
野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ
センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、
アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、
平均●(省略)●%であると計算された。(乙14)
また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が
初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除
き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ
ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16)
平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電
話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面
テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁)
他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と
する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す
る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁)
原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で
あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾
し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本
件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス
料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの
ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限
らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも
通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機
能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その
保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと
っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結
した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。
これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施
料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる
ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分
が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど
種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う
ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、
当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので
はなく、上記認定を左右するに至らない。
また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを
認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24
00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当
該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論
を左右するものとはいえない。
◆判決本文
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2022.06.21
令和1(ワ)9842 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年6月9日 大阪地方裁判所
102条2項の覆滅部分(2割)について、3項のライセンス相当額が加算されて、トータルで2億円弱の損害賠償が認められました。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなさ
れるものの、一方で、競合品に該当する商品数が多いとはいえないこと、被告製品
の売上に対する本件各訂正後発明の貢献の程度は大きいと認められること、被告独
自の販売ルートの点は限定的な影響に留まり、その他に推定を覆滅すべき具体的な
事情は見当たらないことから、本件においては2割の限度で損害額の推定が覆滅さ
れるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採
用できない。
ウ 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、1億4759万2498円(≒184,490,622 円×0.8)となる。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
ア 被告製品の売上
原告製品の販売開始前である平成25年から平成27年11月24日までの被告
製品の売上は合計1億3814万3836円である(当事者間に争いがない)。
イ 実施料率
本件において、本件各訂正後発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず、証拠
(乙26)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年8月31日に発行された「ロイ
ヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウ
ハウ〜」において、光学機器及び家具、ゲームの技術分野における正味販売高に対
する実施料率は、光学機器については、平均が3.5%、最大値が9.5%、最小
値が0.5%、標準偏差が1.9%であり、家具及びゲームについては、平均が2.
5%、最大値が4.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.5%であることが認
められる。これらに、原告と被告は競業関係にあること、前記(1)イのとおり、本件
各訂正後発明の貢献の程度その他本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件
における実施に対して受けるべき料率としては6%が相当であると認める。
原告は、他社との和解内容等を考慮して、被告製品1台あたり1万円(実施料率
23.6%)が妥当である旨を主張する。しかし、種々の事情を総合的に考慮して
和解に至ることが通常であり、和解内容を実施許諾契約と同様に考えるのは相当で
ないことに加え、証拠(甲42、43)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、和解
契約等において、相手方が、原告に対し、原告が実施料相当額であると主張してい
る金員を支払う他に金員を支払う条項は存在しないことが認められ、特許法102
条3項及び同条2項の適用により損害の額を算定する本件とは条件を異にするとい
うべきである。
ウ 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、828万86
30円(≒138,143,836×0.06)となる。
(3) 特許法102条2項の推定覆滅と同条3項の適用について
特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受
けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者
は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算
定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争ってい
ない。)。
平成27年11月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億3613
万9283円であるところ(当事者間に争いがない)、前記(1)及び(2)のとおり、
特許法102条2項の推定は2割覆滅され、同条3項の実施料率は6%である。
したがって、特許法102条2項の推定が覆滅された部分について同条3項が適
用されることによる損害額は、403万3671円(≒336,139,283×0.2×0.06)
となる。
◆判決本文
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2022.06.21
平成30(ワ)24818 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月23日 東京地方裁判所
東京地裁(40部)は、約5700万円の損害賠償を認めました。
ア 特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」を算定する基礎となる相
当実施料率については、1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実
施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考
慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や
重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた
場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競
業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理
的な料率を定めるべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号
令和元年6月7日特別部判決参照)。
イ これを本件についてみると、本件訂正発明1の実際の許諾例は存在しな
いものの、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、実施料の相場について、
「精密機器」の特許の実施料率が、平均3.5%(最大値9.5%、最低
値0.5%)であり、「その他」の分野の司法決定の実施料率が、平均7.
3%(最大値12.0%、最小値3.0%)であると報告された例がある
こと(甲22)、原告が、第三者との間で、その発明の名称を「導電性ボ
ール配列用マスク及びその製造方法」とする特許について、実施料率を1
0%とする旨の合意をしたことがあり(甲23)、その発明の名称を「ク
リーム半田用メタルマスクおよびスクリーン印刷用スキージ技術」とする
特許について、実施料率を20%とする合意をしたことがあること(甲2
4)、以上の事実を認めることができる。
これに対し、被告は、これらの許諾例は、認識マークの電解処理とは無
関係なものを抽象的に一括するものであると主張するが、特許発明の属す
る一定の範囲の分野を相当実施料率の考慮要素とすることは正当であり、
被告が指摘するような個別具体的な特許発明の内容については、特許発明
自体の価値や技術内容の観点から考慮するのが相当である。
ウ そして、本件訂正発明1は、前記1(1)のとおり、認識マークを形成する
従来の技術が、認識マークとして充填したトナーが凹部から脱落し、また、
箔物メタルマスクに適用することが困難であるという欠点があったため、
これを解消するものであって、本件訂正発明1と同一の作用効果を代替す
る技術があることを認めるに足りる証拠はない。ただし、現在においても、
本件訂正発明1の電解マーキングよる認識マーク以外の認識マークの形成
方法も相当な割合で使用されており(乙93、99)、顧客によっては、
電解マーキング以外の方法を特に指示する場合があることも認められるこ
とからすると、メタルマスクの認識マークに係る市場において、本件訂正
発明1の方法が、唯一の実用的な技術であるとまでいうことはできない。
エ 上記のような本件訂正発明1の技術内容や重要性に照らせば、これを実
施することは、原告及び被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するも
のであるといえる。そして、原告が、本件訂正発明1に係る技術を広く宣
伝等しているとは認められないとしても(乙97)、原告と被告が、本件
訂正発明1に係るメタルマスクの分野で競合する会社同士であることを考
慮すれば、仮に、原告が、被告に対し、本件訂正発明1の実施を許諾する
とすれば、その実施料は相当に高額になったものといえる。
このような事情に加え、特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」
を算定する基礎となる相当実施料率は、特許権侵害をした者に対し事後的
に定められるものであって、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるこ
とをも踏まえると、被告製品1による本件訂正発明1の侵害に係る実施料
率としては、売上高の●(省略)●%を認めるのが相当である。
オ なお、被告は、侵害論に係る裁判所の心証開示後、損害論の相当実施料
率の考慮要素として、本件訂正発明1が、既知の技術であり、被告が、先
使用していたものであるなどとして、乙2メタルマスクとは別個の製品に
係る分析結果などを証拠提出した。しかし、当該主張は、実質的には先使
用の抗弁(争点2)の根拠となる事由を追加するものであり、訴訟の完結
を遅延させると認められたことから、当裁判所は、被告に対し、上記証拠
提出に係る主張を補充しないように訴訟指揮をした。そして、被告は、こ
れを侵害論の段階で主張立証し得なかった理由を特に説明しないのである
から、当該主張立証は、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条
1項)として、原告の申立てに基づき却下するのが相当である。\n
◆判決本文
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2022.05.31
令和3(ネ)10091 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年4月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、特許法102条2項の適用について、個々の法人格に基づく形式的な判断をして、これを否定し、同3項により損害額を約90万円と認定しました。知財高裁は、102条2項の推定を認め、控訴人の請求額満額の損害賠償を認めました。
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合におい
て、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特
許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるために
は、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関
係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、
妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵
害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定
するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害
者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存
在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
イ これを本件についてみると、一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一
審被告製品1〜3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはジ
ンマー・バイオメット合同会社であって特許権者である一審原告ではないものの、
前記(1)のとおり、一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するZimme
r Inc.の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グ
ループ会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用
して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、Zimmer I
nc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしてい
るのであるから、ジンマー・バイオメットグループは、本件特許権の侵害が問題と
されている平成28年7月から平成31年3月までの期間、Zimmer Inc.
の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行してい
ると評価することができる。そうすると、ジンマー・バイオメットグループにおい
ては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被
告製品1〜3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、一審原告は、ジンマー・バイオメットグループにおいて、同グループの
ために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することがで
きる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益
を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記
のとおり、ジンマー・バイオメットグループにおいて一審原告の外に本件特許権に
係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許
法102条2項を適用することができるというべきである。
(3) 推定の覆滅について
特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と
同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が
受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解されるところ、一
審被告は、1)本件特許権を保有・管理するだけの一審原告の利益は何ら害されてい
ないこと、2)競合する第三者の製品があること、3)固定プレートの選択をする医師
は、一審被告製品がなかったとするならば、他の一審被告の製品であるP−Pla
teを選択していたことが確実であることから、推定が覆滅されるべきであると主
張する。
そこで検討するに、前記(1)で認定したジンマー・バイオメットグループの一審原
告製品に係る事業遂行の状況を踏まえると、本件特許権を第三者が侵害することに
よって一審原告製品の売上げが減少して、ジンマー・バイオメットグループの利益
が減少し、その結果、本件特許権の保有による利益が帰属する一審原告の利益が害
されたということができる。また、一審被告は、第三者の競合品の存在を指摘する
ものの、本件全証拠によっても、それらが本件特許権の特徴を具備する競合品であ
るのか、また、一審被告の指摘する競合品の存在が、一審被告製品が存在しなかっ
たとした場合に一審原告製品の販売に影響するといえるかは必ずしも明らかではな
い。さらに、一審被告製品が存在しないとした場合に、医師がそもそも一審被告製
品を販売していない一審被告の製品を選択すると認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件において特許法102条2項における推定を覆滅する事由があ
ると認めることはできない。
(4) 損害額
ア 平成28年7月から平成31年3月までの被告製品1及び2の販売額が●●
●●●●●●●であること並びにその限界利益率が●●●であることについて当事
者間に争いがない。そうすると、特許法102条2項により、一審原告の損害額は、
●●●●●●●●●と推定される。
イ 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の
不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、●●●●と認められる。
ウ 上記ア及びイの合計額は、454万4478円である。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和1(ワ)14314
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2022.05. 5
平成30(ネ)10034 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。
上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙
14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験)
の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物)
の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴
下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4
9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第
3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を
滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲
33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば
抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被
告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと
いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ
ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結
果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、
圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、
上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験
及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング)
を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全
に抑制されていることが認められる。
そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部
に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の
流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。
したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと
おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、
同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり
であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真
1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録
の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決
第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。
そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ
においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」
は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作
動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで
上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ
るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す
ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品
におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分
(ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので
あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要
件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、
争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属
するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。
甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体
のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝
国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録)
の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975
件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平
成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし
て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効
回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密
機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値
3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告
書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ
イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い
ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平
成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ
や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする
が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で
は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件
発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を
塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の
2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気
(湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め
ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向
上するという効果を奏するものである。
これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量
制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ
る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ
うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止
のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替
技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要
性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。
そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を
含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目
として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が
挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお
ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得
ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被
控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業
関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実
施料率は2%程度であると認めるのが相当である。
ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共
有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める
に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され
る。
そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、
●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で
取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、
2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ
ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると
いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に
よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明
の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付
孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え
ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー
ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食
防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、
自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という
よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。
このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい
る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御
弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利
益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利
益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する
事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存
在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者
の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機
能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事
情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。
以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及
び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、
被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、
控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ
たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個
程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す
る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●●
●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認
められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2
について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか
販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は
理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ
ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては
全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控
訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する
ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。
しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、
本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが
できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の
ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由
がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴
人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や
信頼関係の存否等につき主張する。
そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている
ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67)
の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比
較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告
製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。
また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社
及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等
の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品
に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい
る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景
には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と
●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。
さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製
品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●●
社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御
弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当
する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。
以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡
数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数
量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを
した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす
ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●●
●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠
はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、
侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ
れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ
れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲
渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と
異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相
当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない
とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被
控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信
頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある
と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該
特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許
諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧
書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら
れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと
を規定するものであると解される。
これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定
する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被
告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな
いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前
提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン
スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。
これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会
を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが
相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販
売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●●
●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ
た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率
は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の
共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。
以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人
の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者
間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。
ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1
項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵
害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事
情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に
相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵
害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)
等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ
れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ
るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上
記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の
侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的
に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判
決・判例時報2430号34頁以下参照)。
控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は
ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す
なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3)
原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製
品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、
営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に
つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切
って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で
有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●●
●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し
ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背
景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起
動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し
たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に
加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本
件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ
り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発
明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと
おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取
付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の
出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術)
が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは
重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。
被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情
を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前
記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中
において本件特許権を実施していない。
ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定
めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施
をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●●
●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証
拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応
じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害
賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな
い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず
請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい
ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102
条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ
るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を
実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利
益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る
特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害
として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許
権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、
侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に
より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその
立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、●
●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴
人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●●
●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること
ができない旨主張する。
しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●●
の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分
であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消
滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰
属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか
ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を
援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主
張は明らかに失当である。
もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求
権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ
とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重
払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ
スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害
により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当
とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害
により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前
記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張
するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●●
●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除
すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●●
●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し
ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する
余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に
より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、
同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による
損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額
は●●●●●円をもって相当と認める。
また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し
ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易
度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。
そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり
と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン
グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果
があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」
しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
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2022.04.13
令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。
前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分
にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において,
他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定
の覆滅事由に該当するものと認められる。
そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した
とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される
開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ
る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首
後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の
延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ
タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で
調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発
明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従
来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお
いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない
こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及
び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告
各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する
と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1
0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については
被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因
果関係がないものと認められる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる
から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品
の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565
万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審
被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁
(同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。
一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい
て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明
(請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件
の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の
抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3
回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に
基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性
欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加
して主張した。
一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備
手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。
その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日
から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項
3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒
認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ
イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3),
乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の
争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な
る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号
事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に
おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明
に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由
が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一
審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備
手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において
口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原
判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同
年6月3日,本件附帯控訴を提起した。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)21900
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2022.04.10
平成30(ワ)4329等 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月18日 東京地方裁判所
二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。
◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。
被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製
品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販
売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現
在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す
る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3
0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製
品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。
また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の
販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成
用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原
告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める
に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、
マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ
れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食
い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは
ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、
前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被
告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば
頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。
以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ
とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着
型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ
る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか
にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、
商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼
を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売
数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の
被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ
ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。
◆判決本文
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2022.03. 8
平成29(ワ)24942 特許権侵害に基づく不当利得返還等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月20日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。CS関連発明について、広告収入に基づく損害賠償が認められました。
本件特許の請求項1は下記です。
通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、
ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、
前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、
前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、
を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。
被告方法等は,本件各発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が被
告方法等を用いて行う地域ターゲティング広告等のサービスを提供する行為
は,本件特許権を侵害するものである。そして,被告はその侵害行為について
過失があったものと推定されるから(特許法103条),原告は,被告に対し,
その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が
受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(同法102条3項)
ところ,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
また,不当利得返還請求については,同項の「受けるべき金銭の額に相当す
る額」は,本来,侵害者がその特許発明の実施に当たり特許権者に対して支払
うべきであった実施料相当額であるから,侵害者がこれを支払うことなく特許
発明を実施した場合は,その実施により,侵害者は同額の利得を得,特許権者
は同額の損失を受けたものと評価することができるから,同項の「受けるべき
金銭の額に相当する額」が不当利得(民法703条)における受益者の利得の
額に相当し,かつ,権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である(知
財高裁平成27年(ネ)第10488号,同第10088号同年11月12日
判決・判時2287号91頁参照)。
そこで,被告が被告方法等を使用して上げた売上高及び実施に対し受けるべ
き料率(相当実施料率)につき,以下検討する。
(2) YDN及びプレミアム広告について
ア YDN及びプレミアム広告の売上高
YDN及びプレミアム広告の売上高は,以下のとおりであると認められる。
(ア) YDNの売上高
証拠(乙25)によれば,原告主張の損害算定期間(平成19年7月2
5日〜平成30年6月26日)の売上高(消費税抜き。以下,売上高につ
き,特記なき限り同じ。)は,別紙売上高・損害額一覧表のとおりであり,\nYDNのエリアターゲティングを行っている部分の売上高総額は,●省略
●であると認められる(●省略●なお,端数処理の関係で1円の誤差が生
じている。)。
(イ) プレミアム広告の売上高
同様に,同期間のプレミアム広告のエリアターゲティングを行っている
部分の売上高総額は,●省略●であると認められる(●省略●)。
イ 相当実施料算定の基礎となる売上高の範囲
被告は,YDN及びプレミアム広告の売上高のうち,下記(ア)ないし(エ)に
係る各部分については,相当実施料算定の基礎となる売上高から除外すべき
であると主張するので,この点について検討する。
(ア) ●省略●について
被告は,本件各発明の技術的範囲には●省略●から,被告方法等におい
て,本件各発明の技術的範囲に含まれる部分があるとしてもそれは●省略
●であると主張する。
しかし,本件各発明にいう「アクセスポイントに対応する地域」等は,
特に●省略●ものではないので,相当実施料算定の基礎となる売上高を●
省略●理由はないというべきである。
(イ) スマートフォンを利用した売上部分について
被告は,スマートフォンの利用による売上げは相当実施料算定の基礎と
なる売上高から控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(甲73・3頁)及び弁論の全趣旨によれば,スマートフ
ォンからインターネットのウェブサイトを閲覧する場合には,モバイル接
続(4G接続ないし3G接続)又はWi−Fi接続の2通りの方法があり,
自宅等のWi−Fi環境がある場所では,通信容量制限のあるモバイル接
続ではなく,Wi−Fi経由の接続を行うのが一般的であるところ,スマ
ートフォンによりWi−Fi接続を行う場合には,接続に用いられるIP
アドレスは自宅のWi−Fiに用いられるIPアドレスであり,この場合
には,本件各発明に基づくIPアドレスからアクセスポイントに対応する
地域を判別しているものと認められる。
他方で,モバイル端末からのインターネット接続(いわゆる4G接続な
いし3G接続)の場合に,IPアドレスからアクセスポイントに対応する
地域を判別することができないことは,原告が自認するところであるから,
相当実施料算定の基礎となる売上高は,かかる接続を利用しない場合(W
i−Fi経由での接続の場合)に限定することが必要であるというべきで
ある。
(ウ) ●省略●について
被告は,●省略●を控除したものとされるべきであると主張する。
a そこで検討するに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨を総合すると,
以下の事実を認めることができる。
●省略●
b 上記aで認定した事実によれば,被告方法等において,●省略●を控
除することが相当であるというべきである。
c これに対して,原告は,●省略●と考えられると主張するが,これを
認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 他のターゲティング機能に対応する部分について\n
被告は,「年齢」,「性別」,「行動履歴」など「地域」以外のターゲ
ティング機能に対する部分の売上げは,本件における相当実施料額の算定\nの基礎とならないと主張する。
この点,証拠(甲22,26)によれば,被告のYDNやプレミアム広
告においては,地域ターゲティングに加え,「時間帯」,「性別」,「年
代」,「行動履歴」等に基づくターゲティングも行われていることがうか
がわれるが,他方で,プレミアム広告の商品紹介(甲26)においては,
「エリアターゲティング」が最初に紹介され,また,被告の広告本部本部
長が,平成19年11月5日付けの日経マーケティングのウェブ上の記事
(甲27)において,1)被告は地域ターゲティングに力を入れており,I
Pアドレスなどの情報で地域ターゲティング広告ができるようになり,地
域限定のプロモーションや地域限定で企業活動をしている広告主もター
ゲットに入ってきたこと,2)地域ターゲティング広告に性別や年齢別など
によるデモグラフィックターゲティングも組み合わせればより効果的で
あること,3)地域ターゲティング広告は,中小企業,インフラを手がける
大手企業などの需要もあることなどを述べていることが認められる。
そうすると,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲテ\nィング機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの\n機能は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定す\nることが困難であることにも照らすと,地域ターゲティング機能と関連の\nある売上高については,その全額を対象とするのが相当である。
ウ 相当実施料算定の基礎とすべき売上高
上記アのYDN及びプレミアム広告の売上高から,上記イに従って控除す
べき分を控除した額は,以下のとおりである。
(ア) YDNについて
証拠(乙25)によれば,YDNについて,●省略●となる。
(イ) プレミアム広告について
同様に,プレミアム広告については,●省略●となる。
(ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による損害額の算定に用いるべき売上高
は,YDNにつき●省略●,プレミアム広告につき●省略●となる(それ
ぞれの各年度の内訳は別紙売上高・損害額一覧表の該当欄記載のとおり。)。\n
(3) スポンサードサーチについて
原告は,被告が提供するターゲティング広告に係るサービスのうち,スポン
サードサーチに係る売上高も相当実施料の算定の対象とすべきであると主張
するのに対し,被告は,スポンサードサーチにおいては本件各発明を実施して
いないから,その売上高は相当実施料の算定の対象外であると主張する。
ア そこで検討するに,●省略●ことが認められる。
しかし,他方で,●省略●本件各発明を実施して行われているとは認めら
れないので,スポンサードサーチに係る売上高も損害額算定の対象とすべき
であるとの原告主張を採用することはできない。
イ なお,原告は,スポンサードサーチが本件各発明の実施に当たらないとの
主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが,被告は,当初から,
原告主張のターゲティング広告の提供サービスが本件各発明の技術的範囲
に属することを否認していたこと,侵害論の審理においては●省略●が中心
的な争点であったこと,損害論の審理に入り,スポンサードサーチが実施料
算定の基礎となるかが争点となり,これを契機としてスポンサードサーチが
本件各発明の実施に当たるかどうかが問題となったことなどの本訴の経緯
に照らすと,被告の上記主張が時機に後れたものということはできない。
(4) 相当実施料率について
ア 相当実施料率の算定基準
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」の算定に当たり,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特
許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合
には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の
価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)
当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れ
た諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成
30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号
34頁参照)。
イ 実施料率等について
(ア) 証拠(甲30,79,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
a 原告は,あどえりあ社を通じて,本件特許に係るライセンス(通常実
施権の許諾。以下「本件ライセンス」という。)を行っている。
b 本件ライセンスの料金体系は,1)多数のウェブサイトやアプリ等に一
括で広告を配信するアドネットワーク事業を行う企業を対象とするア
ドネットワーク事業社用(甲30・2枚目),2)クライアントに対しシ
ステム等を使ってサービスを提供する企業を対象とするサービス提供
事業社用(同3枚目),3)自社でウェブサイトを運営する企業を対象と
するウェブサイト運営社用(同4枚目)の3種類がある。
c 上記1)(アドネットワーク事業社用)の料金は,登録料1万円(初年
度のみ)と,アドネットワーク事業社のクライアントに対する広告請求
金額に対する1.5%(親会社の業務を子会社が行う場合は3%)の割
合によるライセンス利用料である。
上記2)(サービス提供事業社用)の料金は,クライアントの特許利用
も含めたライセンスを受ける場合は,登録料1万円(毎年)と,サービ
ス提供事業社と各クライアントの間の月額契約料金の3%の割合によ
るライセンス利用料である。
上記3)(ウェブサイト運営社用)の料金は,当該ウェブサイトが50
00万PV以上で,かつ,自社サイト内の広告の地域ターゲティングを
行う場合は,登録料1万円(初年度のみ)及び基本利用料10万円(年
額)に加え,広告売上げの3%の割合によるライセンス利用料となる。
なお,ウェブサイト運営社が,当該ウェブサイト内で物品などの販売を
補助するサービスを行う場合は,更にビジネス利用料5000円〜(年
額)を要するとされている。
d 本件ライセンスの実績としては,アドネットワーク事業社用のライセ
ンス利用料につき1.5%で契約した例,サービス提供事業社用のライ
センス利用料につき3%で契約した例,ウェブサイト運営社用のライセ
ンス利用料につき1.5%で契約した例や,0.75%で契約した例が
ある。
(イ) 甲30のライセンス料金表の各類型の適用に関し,原告は,広告を掲載\nするサイトを基準とするもの,すなわち,自らのウェブサイトにおいて広
告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載する
場合は1.5%とするものであると主張するのに対し,被告は,広告の主
体を基準とするもの,すなわち,第三者の広告を請け負って掲載する場合
はアドネットワーク事業社用の条件に従って1.5%の料率が適用され,
自社の広告を掲載する場合は3%の料率が適用されると主張する。
甲30のライセンス料金表の各類型が適用される広告掲載サービスに\nついては,本件ライセンスに係る特許権者である原告が当然知悉している
と考えられるところ,アドネットワーク事業社用について他の場合より安
い料率が設定されることについての原告の説明,すなわち,他社のウェブ
サイトに広告を掲載する場合には別途広告枠を媒体社などから購入する
必要がありその費用が掛かるためにアドネットワーク事業社用では料率
を下げているとの説明や,それにもかかわらず親会社の業務を子会社が行
う場合は3%としたのは,アドネットワーク事業社である親会社が広告掲
載を自らの子会社の広告枠で行う場合には広告枠の購入費用は子会社に
支払われるために親子会社全体としてみれば費用支出がないからである
との説明は合理的であるといえる。
被告は,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表に「EC(電子商取\n引)を含む,ウェブサイト内で物品などの販売を補助するサービス」が対
象となることが記載されていることをもって,ウェブサイト運営者用の実
施料率が3%であるのは,自社商品の広告表示を切り替えるといったサー\nビスを提供することを念頭に置いたものであると主張する。しかし,同サ
ービスを行う場合に発生するのはビジネス利用料であって,広告利用料で
はないので,上記の記載から,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表\nが適用されるのは自社の広告を掲載する場合であると認めることはでき
ない。
むしろ,甲30・4枚目においては,ウェブサイト運営者用の「広告利
用料」は「広告売上の3%」と規定されているところ,ここに「広告売上」
と記載されているのは,他社の広告を自らのサイトで行うことにより広告
売上げを得る場合を想定としているからであると推認するのが自然かつ
合理的である。
そうすると,原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセン
ス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%である
が,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社など
から購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるの
が相当である。
(ウ) 上記(イ)の説示を踏まえ,被告の地域ターゲティング広告が本件ライセ
ンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサ
イトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用
に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェ
ブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるか
ら,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。
この点につき,被告は,過去にウェブサイト運営社用に当たるにもかか
わらず0.75%や1.5%のライセンス料率が適用されたことがあるこ
とを指摘し,本件においてもこれらの料率を参考とすべきであると主張す
るが,証拠(甲100)及び弁論の全趣旨によれば,これらは原告とライ
センシーとの関係に基づき特別に減額されたものであることがうかがわ
れ,他にサービス提供事業社用の類型ではあるものの,原則どおりライセ
ンス料率を3%として契約した実績もあることからすれば,上記のとおり
認定するのが相当である。
ウ 実施料率を下げるべき他の事情について
●省略●
(イ) 被告は,被告自身の多数の特許を実施することによりウェブ広告の分野
において大きなシェアを獲得することができているのであるから,本件各
発明の相当実施料率の算定に当たってもこの点を考慮すべきであると主
張するが,被告がウェブ広告の分野において多数の特許を実施しているこ
とやそれが売上げに寄与していることは,本件特許の相当実施料率を算定
すべき上で考慮すべき事情ということはできない。
また,被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,被告が自身の
努力により●省略●を作成したことを考慮すべきであると主張するが,上
記と同様,この点も本件特許の相当実施料率を算定すべき上で考慮すべき
事情ということはできない。
(ウ) 被告は,甲20公報を引用し,本件各発明の「IPアドレス対地域デー
タベース」は「アクセスポイント側」の情報を用いるものであり,●省略
●含まないとした上で,原告の主張を前提とするのであれば,本件各発明
の価値・技術的意義は低いなどと主張する。
しかし,被告の上記主張は,データベースの構成と●省略●を誤解・混\n同するものであり,その前提において失当であり,また,本件各発明が公
知技術との関係で新たな技術的意義が存在しないということはできない。
むしろ,本件各発明は,IPアドレスを所有するアクセスポイントが属
する地域を判別し,判別した地域に対応したウェブ情報を選択して前記ユ
ーザ端末に送信する方法によって,同一URLにおいてもユーザの発信地
域ごとに異なるウェブ情報を送信することができるという効果を得る発
明であって,他にGPS等のシステムを用いることなく,ユーザ端末に割
り当てられたIPアドレスとIPアドレス対地域データベースを照合す
るという比較的簡易な方法によりユーザの発信地域の判別をすることが
できるものであるから,従来技術にはない新たな技術的意義を有するとい
うことができる。
(エ) 被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,地域ターゲティング
以外のターゲティング機能の効用を考慮すべきであると主張する。\nしかし,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲティン\nグ機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの機能\
は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定するこ
とが困難であることは,前記(2)イ(エ)のとおりである。このため,YDN
及びプレミアム広告が地域ターゲティング以外のターゲティング機能を\n備えていることを考慮しても,適用すべき実施料率を下げることが相当と
いうことはできない。
(オ) 被告は,YDNのクリック数や売上げは,被告が長年にわたり多大な労
力を積み上げてきたサービスの圧倒的な利用者数及びアクセス数を前提
とするものであり,これらは本件各発明と無関係であるから,本件特許の
相当実施料率の算定に当たってはこの点を考慮すべきであると主張する。
しかし,YDNの売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数
や被告のウェブサイトへのアクセス数が影響を与えたとしても,本件各発
明の売上げ及び利益への貢献の程度という観点からみると,本件各発明は,
IPアドレス対地域データベースを使用して,アクセスポイントの属する
地域を判別することを通じて,地域によって異なるウェブ情報をユーザ端
末に送信することを可能にするものであるから,エリアターゲティング広\n告に必要不可欠なものであり,本件各発明と同程度に簡易かつ効果的に地
域判別をし得る代替技術の存在を示す証拠のないことに照らすと,本件各
発明を利用することができない場合には,被告のYDNやプレミアム広告
の利用者に対する訴求力は大幅に減殺されたものというべきである。
このような本件各発明のYDN及びプレミアム広告の提供サービスに
おける必要不可欠性や売上げや利益に対する貢献度に照らすと,YDNの
売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数や被告のウェブサイ
トへのアクセス数が影響を与えたとしても,これをもって,適用すべき実
施料率を下げることが相当であるということはできない。
また,被告は,プレミアム広告においては,被告ウェブサイトへのアク
セス数のみが売上げに貢献するので,本件各発明は売上げに寄与,貢献し
ていないと主張するが,上記と同様の理由から,そのような事情をもって
適用すべき実施料率を下げることが相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNの
うち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき
3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5%
と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2022.01. 7
平成30(ワ)1130 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年8月31日 東京地方裁判所
102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。
ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上
の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成
されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有
される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。
ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有
すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」
が発明特定事項として記載されているわけではない。
また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ
ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ
ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型
キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属
の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され
ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ
ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本
件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0
030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記
載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される
ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの
が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白
色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも,
白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」
は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで,
あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着
色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも
のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方,
本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と
比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも,
実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変
化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明
細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。
以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本
件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3),
同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ
とにあると主張している。
しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。
むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相,
特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも
優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」
と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限
定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には,
一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが,
光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件
発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を
有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお
いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発
明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない
というべきである。
その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び
これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色
相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで
きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく
すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び
弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略)
●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)●
による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略)
●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった
一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに
よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の
事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益
と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると
解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること
(市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ
ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特
徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条
2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ
るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ
の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ
ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと
して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無
効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額
を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還
を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ
る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該
特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ
た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記
のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって
は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか
なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め
られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ
て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本
件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン
ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三
者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施
料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三
者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲
72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ
た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値
及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再
帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大
値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67),
被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率
を10%と主張していること等が認められる。
また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな
い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ
によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも
のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及
び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり,
競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける
べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。
したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ
れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。
◆判決本文
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2022.01. 4
令和2(ネ)10029 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。
イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.
5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ
ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル
ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず,
本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ
も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該
セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST
A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル
オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の
発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の
1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審
決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ
ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない
し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限
値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重
合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との
差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差
分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細
書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ
ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に
わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして,
本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判
断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ
ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0
015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温
度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)
により測定される重合度をいう。」との記載がある。
上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい
えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2.
5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ
レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。
なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ
ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶
以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル
オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I
NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST
RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その
後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら
ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分
の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合
度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合
度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ
ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,
重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,
重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と
の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを
酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3
00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味
することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ
フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない
ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル
ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販
KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な
いし【0047】)。
前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部
分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分
の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され
ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する
ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例
及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ
のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。
この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72)
中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが
一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ
ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL
ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その
ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ
の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP
については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である
木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな
る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。
しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ
ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過
しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI
STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以
上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し
ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば
少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や
かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200
〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ
る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ
ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ
ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問
題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉
末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推
測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記
載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉
末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等
しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると,
本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た
すかどうかを把握できるものと解される。
また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容
積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分
要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7
のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値
範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体
について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N]
及び崩壊時間[秒]が示されている。
そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角
が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で
あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな
り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1
70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的
な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか
ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊
性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び
本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は,
本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,
1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま
しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における
攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな
い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて
おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが
好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子
L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし
くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって
好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合
度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D
が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散
液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子
の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ
ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。
これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解
されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ
の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末
のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること
を理解できる。
そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低
下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ
ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全
体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら
れる。
したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時
の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に
わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか
ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め
られる。
また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に
記載したものであることが認められる。
◆判決本文
1審はこちら
◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n
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2022.01. 3
令和2(ワ)4023 特許権 民事訴訟 令和3年10月7日 大阪地方裁判所
特102条2項による損害賠償として8割の推定覆滅が認められました。
(3) 推定覆滅について
ア 本件発明の効果
本件発明の効果は,各種タイプのチャイルドシートの背面側に装着することがで
きること(【0022】),カバーの天部の高さ位置を適宜設定・変更することがで
き,カバーの内部空間で,幼児の頭頂部がカバー天部に接触しないか,接触しても
カバーの重みがもろに幼児の頭部に掛ることが少なくなり,居住環境が向上するこ
と(【0023】)である。
要するに,本件発明の作用効果は,1)各種のチャイルドシートに装着できるこ
と,2)幼児の頭部に合わせてカバーの天部高さ位置を適宜調整できることにあると
いえる。
もっとも,様々な形状のチャイルドシートに対応してその略全体を被覆するチャ
イルドシートカバーは従来技術として各種存在し(【0002】〜【0010】),これら
は本件発明以外の適宜の方法で装着されていたのであるから,上記効果のうち1)
は,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。
また,前記1ないし3のとおり,ハ号物件等,ホ号物件等及びト号物件等のよう
に本件発明の技術的範囲に属しない部品によっても,装着方法によってはチャイル
ドシートカバーを適宜高さ位置に装着できると考えられるから,本件発明の効果2)
も,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,チャイルドシートのほぼ全体を被覆するチャイルドシートカ
バーを自転車のチャイルドシートに装着する際に使用される部品である装着補助プ
レートの発明である。チャイルドシートカバーを選択するのは,主に幼児の保護者
等である自転車所有者と考えられるが,装着補助プレートは,チャイルドシートカ
バーそのものではなく装着に用いる補助的な部品であって,使用時にはチャイルド
シートカバーの内部に隠れ,雨避け等のチャイルドシートカバーの機能そのものを\n発揮する部分ではないから,装着補助プレート自体が需要者の関心を惹き,製品選
択の直接の動機となるとはいえない。
また,本件発明の効果は,前記アのとおり,いずれも本件発明によるのでなけれ
ば実現し得ない効果ではなく,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たって
は,必ずしも重視できるものではないが,本件発明に係る装着補助プレートを使用
したチャイルドシートカバーの広告において前記の効果1)及び2)を謳っている場合
は,需要者に当該チャイルドシートカバーの利点,優位性を認識させるものである
から,製品選択の動機となり得る事情といえる。
(イ) 証拠(甲4,5)によれば,被告は,イ号物件の特徴として,「背もたれ
の高いタイプのチャイルドシートなら装着 OK」などと効果1)については謳ってい
るものの,効果2)については特に宣伝していない。
また,証拠(甲6)によれば,被告は,ロ号物件の特徴としても,「各種後付け
シートに対応しています」などと効果1)については謳っているものの,効果2)に関
しては,取付方法の説明において「6)最後にファスナーを閉じたら,装着完了。突
っ張る部分がある場合は,カバーの高さを調節してください。背面部分を高くセッ
トしすぎるとカバーにシワが寄ったり,突っ張ったりするので適宜調節ください」
との記載があるにすぎず,カバーの高さ位置を調整できる旨を記載しているが,特
段の利点としては記載していない。
さらに,証拠(甲4,18)によれば,イ号物件及びロ号物件の購入者のレビュ
ーにおいても,効果2)について記載したものはなく,単にカバーがワイヤーにより
自立して天井が高いことに係る記載があるにとどまり,証拠(甲3,16)によれ
ば,原告においても,効果1)及び2)を宣伝していないことが認められる。
(ウ) 原告は,チャイルドシートカバーが自転車に常時装着されているものでは
なく,使用,不使用時に取り外しを行うものであるので,需要者にとってカバーが
簡単に取り付けられるかどうかが重要であるところ,原告製品の補助プレートを用
いることでカバーの取付が従来より容易となり,需要者から支持を得ていると主張
する。
しかしながら,本件明細書によれば,「カバーを装着したままで使用するという
ことが常態」(【0009】)であるというのであり,「本発明においても,上記従来
のチャイルドシートカバーと同様に,これを装着したままの状態で,自転車の不使
用時は勿論のこと,…どのような天候の際にも,幼児を乗せて使用することができ
るカバーに適用可能なものである」(【0012】)とされているから,本件発明は,
チャイルドシートカバーを常時装着した状態で使用することを前提としたものであ
る。また,本件発明にチャイルドシートカバーの取付を容易にする効果があること
は本件明細書に記載がなく,【発明が解決しようとする課題】や【課題を解決する
ための手段】にも取付を容易にすることに関する記載はないから,チャイルドシー
トカバーの取付が容易になることは本件発明の効果とは関係がない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,効果1)及び2)を有し,これを実施する製品の
販売等に一応貢献し得るものであるが,効果1)については需要者に重視されず,効
果2)については,イ号物件及びロ号物件において需要者にほとんどその効果が認識
されないものであって,顧客誘引力は極めて低く,イ号物件及びロ号物件の他の利
点を考慮して,これを購入した需要者が多かったものと考えられる。
ウ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,8割の損害額の推定が覆滅
されるとすべきである。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和1(ワ)9113 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 大阪地方裁判所
特102条2項による損害額算定において、5%の覆滅されました。
ウ 推定覆滅について
(ア) 本件各発明の効果
本件発明1の効果は,発明に係るケーシングのコンセント部に対する設置形態を
採用することにより,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり,設置箇所\nの美観が向上されると共に,歩行の妨げになることが抑制されること,上記設置形
態を採用することで大きさ等に制限が生じるケーシング内に複数のアンテナ素子を
配置するにあたり,複数のアンテナ素子がケーシングの内壁面に沿う板状に形成さ
れ,内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分\n配配置されることで,アンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって,送受信波\nの相互干渉を良好に抑制することができること(【0009】)である。
本件発明2の効果は,本件発明1の効果に加えて,ケーシングの内挿部における
四方の内壁面において,表示面部の両側縁部から後方に延出し互いに対向する一対\nの平面状側壁部が存在し,これらの平面状側壁部のそれぞれに複数のアンテナ素子
を分配配置するという合理的な構成により,これら複数のアンテナ素子を表\示面部
の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置できると共に,一対の平面状側
壁部は互いに平行な平面となるので,その平面状側壁部に沿った姿勢で配置される
複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて,指向性を決定する延出方向が設定しやす
くなること(【0019】),複数のアンテナ素子が表示面部の後方側内部空間を挟ん\nで対角位置に配置されているので,それぞれのアンテナ素子間の離間距離を一層大
きくとって,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉を一層良好に抑
制することができること(【0021】)である。
本件発明3の効果は,本件発明1及び2の効果に加えて,無線 LAN に加えて有
線 LAN や電話回線が利用可能になること,表\示面部の後方側にモジュラーアダプ
タが配置されているので,複数のアンテナ素子をモジュラーアダプタを間に挟んだ
状態で配置することができ,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉
が一層良好に抑制されること(【0017】)である。
要するに,本件各発明の作用効果は,1)ケーシングをコンセント部に埋設状態で
設置でき,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなることによる美観の向上\n及び歩行の妨げとなることの防止,2)複数のアンテナ素子間の送受信波の相互干渉
の抑制,3)アンテナ素子の指向性を決定する延出方向設定の容易化(本件発明1を
除く)にあるといえる。
(イ) 本件各発明の貢献の程度等について
本件各発明は,コンセント部に埋設状態で設置される情報コンセントに係る発明
であり,主として集合住宅やホテル,オフィス等に一括して設置することが想定さ
れる(甲4,54,55,弁論の全趣旨)。そうすると,それらの設置を扱うイン
ターネットサービスプロバイダーが原告製品及び各被告製品の主要な取引者と解さ
れると共に,最終的な需要者である情報コンセントが設置される建築物の施主の意
向も,製品選択に影響することが考えられる。これらの者にとって,本件各発明の
前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。
また,証拠(甲52)によれば,被告は,各被告製品について,「標準の情報コ
ンセント内に埋込み,省スペースで快適な無線 LAN 環境」,「美観重視のお客様
に適した,見た目がスマートな埋込み型」,「JIS 規格のコンセントであればメー
カを問わず設置可能」などと宣伝しており,効果1)を謳っている上,「もっと電波
を強くしてほしい」という要望に応じて導入された事例や,「確実に無線が使用で
きる環境でありながら,部屋に設置しても存在を意識しないデザイン」が評価され
たという事例等を紹介して宣伝してもおり,効果2)を取り上げた宣伝も行っている
と認められる。
そうすると,本件各発明は,少なくとも効果1)及び2)により,これを実施する製
品の販売に貢献するものというべきであって,顧客誘引力がない又は乏しいものと
はいえない。
これに対し,被告は,本件各発明の特徴は従来から存在したケーシングに対して
技術常識に基づく配置を併せた点に限定されること,原告が商品の訴求ポイントと
して挙げる事情は本件各発明と無関係であること,乙26文献及び乙27文献記載
の公知技術の存在を指摘して,本件各発明は売上や利益に対して寄与せず,又はそ
の寄与は無視できる程度に小さいなどと主張する。
しかし,被告がその主張の前提とする本件各発明の特徴に関する理解は,本件各
発明に係る技術的思想や効果を正しく理解したものとはいえず,被告の上記主張は
その前提を欠く。また,乙26文献及び乙27文献には,いずれも複数のアンテナ
を配置することの記載も示唆もないから,これらの文献記載の公知技術の存在は,
本件各発明の貢献の程度を失わせるものとはいえない。
このほか,被告において,他に顧客誘引力を有すべき製品の特徴等についての主
張立証はない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 競合品の存在について
証拠(甲1,49〜52,55,56)によれば,原告製品及び各被告製品は,
JIS 規格のコンセントプレートに対応した情報コンセント型無線 LAN アクセスポイ
ントの製品であるところ,エレコム株式会社の製品(WAB-S733IW-PD。以下「甲
56製品」という。)も,1つの電子チップ型アンテナ及び1つの基板アンテナの
2つのアンテナ素子を有し,JIS 規格のコンセントプレートに対応した製品である
から,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品であることが認められ
る。もっとも,その販売開始時期,販売価格,販売実績,市場占有率その他具体的
な事情について,被告による主張立証はなく,証拠上明らかでない。また,甲56
製品のほかに,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものと認められる
製品の存在等に関する具体的な主張立証はない。
そうすると,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品として甲56
製品が存在する以上,その存在をもって特許法102条2項に基づく損害額の推定
の覆滅事由として考慮すべきではあるものの,その覆滅の程度は極めて限定的であ
り,本件においては,5%の限度で推定が覆滅されるにとどまると考えるのが相当
である。
これに対し,被告は,原告製品及び各被告製品と同種の製品を販売している競合
企業が多数存在するなどと主張する。しかし,一般論として技術的に同一の製品で
はなくとも市場において競合することがあり得るとしても,他社製品との競合の状
況に関する具体的な主張立証がない以上,特許法102条2項に基づく損害額の推
定を覆滅すべき事情としてこれを考慮することはできない。また,原告製品の失注
といった個別の取引事例に基づく主張については,その具体的な事情が明らかでは
ないから,失注の点をもって直ちに原告製品の競争力の乏しさを示すものとは必ず
しもいえない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
(3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)並びに特許法102条2項及
び3項の重畳適用について
原告は,損害額につき,選択的に特許法102条3項に基づく推定をも主張す
る。しかし,その主張する額は特許法102条2項に基づき推定される損害額(前
記(2)エ)より少ない。したがって,同条3項に基づく損害額について論ずる必要
はない。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件
において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは
競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関
わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎
を欠く。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
◆判決本文
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2021.11. 5
令和2(ワ)3474 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月19日 大阪地方裁判所
一部については消滅時効により消滅し、102条2項における覆滅は2割と認定され、約70万円の損害賠償が認められました。
ア 本件発明1〜3の効果
本件発明の効果は,センサ保持具の回動を保持するための機械的な連結構造がコンパクトになること(【0014】),接続器を引掛型配線器具に掛着する作業に際して引掛型配線器具の掛着面を視認しやすく,作業が容易になると共に,作業の安全性も向上すること(【0016】),本体カバーを天井面に密着させることが可能になり,美観に優れた取付状態が得られること(【0017】)である。
要するに,本件発明の作用効果は,1)センサの回動構造のコンパクト化,2)引掛型配線器具の掛着面の視認性の向上,3)本体カバーの天井面への密着にあるといえる。
イ 本件発明の貢献の程度等について
本件発明は,センサを用いてランプを自動的に点灯・消灯する天井取付タイプの照明器具に係る発明であるから,主として屋内のトイレ灯などとして使用されることが想定される。そして,本件発明の実施品である照明器具の需要者は,新築建物に照明器具を設置する総合住宅メーカー等の業者と既存の照明器具を交換しようとする個人が想定されるところ,前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。
もっとも,本件発明の効果1)については,センサを回動させることが前提となっているところ,屋内のトイレ灯等を想定すると,一度センサの検知範囲を確認して照明器具を設置してしまえば,後にセンサを回動させて検知範囲を変更する必要が生じることはそれほどないものと考えられるから,センサが取付後も回動可能であることの顧客誘引力は低いものと解される。また,本件発明の効果2)及び3)は,接続器等を引掛型配線器具に掛着した後,別体に形成された本体カバー及びセードを後付けすることによる効果であるため,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果ではなく,例えば,周知技術1によっても実現することができる。そうすると,効果2)及び3)については,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視できるものではない。
さらに,被告は,そのカタログ(乙14)において,被告製品1の特徴として,人感センサ付,クイック点灯,引掛シーリング取付式,本体可動式,点灯照度調節機能付,点灯保持時間調節機能\付などを挙げているものの,掛着面の視認性や本体カバーが後付けであることについては触れていない。
以上によれば,本件発明は,センサの回動構造がコンパクトであるという効果(効果1))によりこれを実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえるものの,その程度は限られているというべきである。また,効果2)及び3)に関しては,本件発明は,本体カバーが後付けであり,外観上の体裁が同程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 効果1)について
本件発明の効果1)は,センサが回動可能であることを前提として,構\造をコンパクトにするものであるが,センサを回動可能としたのは照明器具本体(本体カバー,セード等)により検知範囲が制約されることに対処したものであるから,本体がコンパクトであることによってセンサの検知範囲に制約がなく,センサを回動させる必要がない製品も,本件発明の効果1)と同様の効果を奏しているものといえ,被告製品の競合品に該当するといえる。
証拠(乙11の1〜6,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付シーリングライト製品のうち,乙11の1の型番 LBC56975,乙11の4の型番 OL 013 180,OL 013 120,乙11の5の型番 IG20026C,乙11の6の型番 LE-3837 については,センサ保持具が大きく,本体がコンパクトではないが,その余のセンサ付シーリングライト製品は,いずれも被告製品と同等以下のコンパクトな形状を有しているものと認められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏するものといえる。
(イ) 効果2)について
本件発明の効果2)は,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることを前提とするが,照明器具が一般的な引掛型配線器具に掛着する形式であるか,電気設備工事を要するものであるかは,照明器具を交換しようとする個人の需要者にとっては大きな違いである。また,総合住宅メーカー等の事業者においても,引掛型配線器具を設置するか否かや施工の際の視認性は相応に商品選択に影響があると考えられる。そうすると,各被告製品の競合品といえる前提として,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることが必要である。
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28の被告指摘に係る製品は,いずれも引掛型配線器具に掛着する照明器具であり,被告製品と同等程度には掛着面が視認しやすく,効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
(ウ) 効果3)について
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付引掛シーリングライト製品のうち,乙21の1〜5の型番 IG20042C(以下「乙21製品」という。),乙23の1の型番 TGS-6119(以下「乙23の1製品」という。),乙23の2の型番 TZGS-6099(以下「乙23の2製品」という。),乙24の1の型番 SCL9NMS-HL(以下「乙24製品」という。),乙28の型番 TN-CLLS-L(以下「乙28製品」という。また,以上を併せて,「乙21製品等」という。)は,いずれも,本体カバーが天井面に密着した外観を有しており,効果3)を奏するものといえる。
(エ) その他
原告は,ランプ交換ができない LED 内蔵型照明器具は,ランプ交換を望む顧客の需要を満たすことができないので,競合品に当たらないと主張する。しかしながら,そのような需要者が存在するのか明らかではなく,そもそも,ランプ交換が可能であるか否かは本件発明の作用効果とは無関係である。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
(オ) 以上より,乙21製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有する製品として,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものとみるのが相当である。
また,証拠(乙21の1,乙22の1,乙23の1,2,乙24の1,乙28)によれば,乙21製品等の販売開始時期は,乙21製品が平成16年4月,乙23の1製品が平成20年6月,乙23の2製品が平成22年2月,乙24製品が平成29年10月,乙28製品が平成28年7月であることが認められる。原告は,乙21製品について,平成16年〜平成20年のカタログに掲載された製品であり,平成21年9月1日に生産を終了したと主張するが,一般的にカタログに掲載された製品は特段回収等がされない限り数年程度は流通していると考えられ,被告製品の競合品に当たらないとはいえない。
もっとも,原告製品,各被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトの市場におけるシェアは明らかではなく,原告において,平成27年当時の住宅用照明のうち直付け型の居室外用の照明器具市場における原告のシェアが●(省略)●%であったことを自認するにとどまる。被告は,照明器具市場全体の売上のシェアや住宅用照明市場におけるシェア,LED シーリングライト市場におけるシェアを主張するが,原告製品,被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトは,そのごく一部であって,他の多数の照明器具が含まれるシェアから被告製品の競合品のシェアを推認することは困難である。
これらの事情を総合的に考慮すると,センサ付引掛シーリングライトの市場において原告製品及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2項に基づく損害額の推定に係る覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,その程度は限定的と考えるのが相当である。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるにとどまるとすべきである。
・・・
ア 証拠(乙10の1〜3)によれば,平成22年10月21日から同年11月5日にかけて,大手家電量販店チェーンの3店舗において,原告製品と被告製品3及び4が隣り合った状態で陳列され販売されたことが認められる。
一般に店舗において商品の陳列場所等は商品の売上に影響を及ぼす重要な要素であって,原告においても,営業担当者等を通じて,当然に自社製品や競合他社製品が家電量販店においてどのように陳列・販売されているかを逐次把握していたものと考えられるから,遅くとも平成22年11月5日には,原告において,被告製品3及び4の存在を知ったものと認められる。
そして,原告製品と各被告製品は同種の用途の競合品であって,大手家電量販店チェーンにおいては概ね統一的な商品陳列を行っているものと考えられることからすれば,各被告製品は,家電量販店において基本的に原告製品と隣接して陳列されていたと考えられ,被告製品3及び4以外の各被告製品についても,その販売開始から間もなく,原告は,各被告製品の存在を知ったものと認められる。
イ 本件発明は,前記のとおり,効果1)〜3)を奏するものであり,これらの効果は外観上明らかであって,各被告製品の外観から,各被告製品が本件特許権の侵害品であることの疑いを持つことは十分に可能\である。
原告は,本件発明の構成要件 A〜D は,内部構造に係るものであるから,被告製品の外観からは判明しないと主張するが,被告製品の外観からして本体カバーに被覆された接続器やセンサ保持具が存在することは明らかであり,センサ保持具が天井面と略平行な面内で回動可能\に構成されていることは推測することができる。そして,証拠(乙10の1〜3)によれば,家電量販店の陳列棚において,天井を模した造作があり,引掛型配線器具が設けられ,各被告製品を現実に組み立て,取り付けることができるようになっていたものと認められ,原告において,各被告製品の取付状態を確認することもできたものと考えられる。また,証拠(甲5の1〜3,甲7,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,各被告製品を毎年発行する被告のカタログに掲載すると共に,各被告製品の仕様や構\造を記載した「施工・取扱説明書」をインターネット上等で公開していたことが認められ,カタログには引掛シーリングに取り付けるタイプであること,人感センサがあり,本体可動式であること等が記載され,施工・取扱説明書には,購入者又は工事店が各被告製品を取り付けることができるよう,各部を分解した構造図とセンサの可動範囲等が記載されているのであるから,被告はこれらの情報を秘匿せず,一般に公開していたのであって,原告は,各被告製品の存在を知り,その外観から本件特許権侵害の疑いを持った時点で,各被告製品の構\造等を容易に検討することができたといえる。
ウ 原告は,遅くとも平成22年11月5日までに被告製品3及び4の発売を知り,その余の各被告製品についても,発売後まもなくその事実を知ったものと認められ,各被告製品の構造等を知ることもできたのであるから,製品が競合する関係にある原告としては,その時点で,損害賠償請求をすることが可能\な程度に,損害及び加害者を知ったと認めるのが相当である。
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2021.10.26
令和3(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許侵害事件で、1審は4億4000万円の損害賠償を認めましたが、原告が控訴しました。知財高裁は約7億円の損害賠償を認めました。
ア 特許法102条3項による損害額として,侵害品の売上高を基準とし,
そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合,実施に対し受
けるべき金銭の料率の算定に当たっては,1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界におけ
る実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわ
ち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特
許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,
4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた
諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。以下,順に
検討する。
1) 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明
らかでない場合には業界における実施料の相場等
本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示
す証拠はない。
・・・
本件訴訟において,本件特許権の技術分野については実際の実施許
諾契約の実施料率を示す証拠はない。
本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」)
の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3〜
4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5〜6%未満の例
や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1〜
2%未満は3件(18.8%)とされており,また,他の調査結果や
データベースには,実施料率3%又は6%の例や実施料率5〜8%又
は3%の例もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野でも,
実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実
施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。
なお,一審被告は,前記第2の3 本件訴訟の
事案と本件ライセンス契約はいずれも圧縮機を販売するための特許権
の実施許諾を対象とするものであって,実施許諾の対象は同じと評価
すべきであるから,本件ライセンス契約を重視すべきであると主張す
るが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●このようなライセンス契約の事例を他の事例より
特に重視すべき理由があるとはいえず,圧縮機分野の実施料率の一例
としてみるのが相当である。
また,一審被告は,甲19ないし21に掲げられた事例は,いず
れも,一審被告や一審原告とは何ら関係がない一般的なものであって,
具体的な点において,本件と共通性や類似性はないとか,本件特許権
は,圧縮機の分野に係る日本の特許権1件であるから,特許法102
条3項の実施に対し受けるべき料率を検討するに当たっては,日本の
特許権1件の非独占的な実施許諾による料率と対比すべきであるとこ
ろ,甲20は日本の特許権に関するものではなく,また,独占的実施
許諾の事例であるなどと主張するが,実施料率を定める事例として,
具体的な点において完全に合致する事例がなければ,同分野の他の事
例(他の国の特許権に関するものを含む。)を参酌することは当然で
あるし,甲20で独占的とされるのは製造のみであり,販売について
ライセンシーが独占権を得ていることはうかがわれない。したがって,
一審被告の主張は採用できない。
2) 本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性\n
本件優先日前である平成9年3月25日に発行された書籍「カーエ
アコン」(甲11)には,ピストン式圧縮機の斜板形のものでロータ
リバルブを使用したものは記載されておらず,113頁の図6.5で
吸入弁(リードバルブ)が図示されている。
従来技術であるリードバルブ方式は,シリンダ室と吸入室の圧力
差が必要であること,流路断面積が小さいこと,弁による吸入抵抗が
発生するという難点があることから,シャフトの回転によって冷媒を
提供するロータリバルブ方式が提案されてはいたものの(乙18,2
2,23,28,30等),回転軸の外周面と軸孔の内周面のクリア
ランスによって,吐出行程時の圧縮室から冷媒が漏れるという問題が
あったこと,クリアランス管理が非常に難しいこと(本件明細書【0
004】)から実用化には至っていなかったのであり,本件訂正発明
において,ロータリバルブを備えた回転軸に伝達される圧縮反力を利
用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向
けてロータリバルブを付勢させて,体積効率を向上させていること
(本件明細書【0015】),クリアランスに関する厳密な管理が不
要となること(本件明細書【0043】)は,コスト面も含め,ロー
タリバルブ方式を実用化するのに寄与したものと認められ,一審原告
が,本件優先日後に,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を販売
していることは争いがない。
もっとも,実用化当初の一審原告の製品(10SR15C)は,
本件訂正前の構成であるから,ロータリバルブが円筒状でなく凹部や\n溝が設けられており,本件訂正発明そのものの実施品ではないと考え
られる。しかし,同製品も,圧縮反力で冷媒漏れを防止するという本
件訂正発明の技術思想を利用するものであり,この点については本件
訂正の前後で変更はない。
そうすると,本件訂正発明はロータリバルブ方式のピストン式圧
縮機の実用化に寄与したものというべきで,相応の顧客吸引力がある
ということができる。
一審被告は,被告各製品の販売先であるマツダに対し,設計変更
品を継続して販売しているが,●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●少なくとも,侵害時(平成24年12月から平成
29年6月)の大部分において,本件訂正発明の効果を奏する代替
技術はなかったということになる。
3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害
の態様
本件訂正発明がロータリバルブ方式を実用化するのに貢献したこ
とは前記2)のとおりである。
一方,どの程度の体積効率の向上がもたらされるかは具体的数値
をもっては明らかではなく,本件訂正発明の作用効果についての顧客
吸引力等は一定程度限定される。
被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されている。
乙62によれば,被告各製品に該当する部品番号に相当するコン
プレッサー(クラッチ部分及び圧縮機部分)の販売価格は468.1
5ドル,クラッチ部分のみの販売価格は231.82ドルとする事例
があることが認められるが,これはアフターマーケット(商品販売後
の需要に対する正規ディーラーではない業者の市場)における販売価
格であり,直ちに一審被告とJCSないしマツダとの間の被告各製品
の取引にあてはめることはできない。また,一審被告は,被告各製品
と別にクラッチを販売しているものではない。
しかし,クラッチ部分と圧縮機部分は観念的には区別することが
でき,特許法102条3項の適用に当たっては,被告各製品の売上高
は,クラッチ部分を含むものであるという事情も考慮する必要がある。
一審被告は,前記第2の3 被告各製品は,本
件訂正発明とは無関係に,厳密なクリアランス管理により,冷媒漏
れ防止の効果を達成していると主張する。
一審被告のいう被告各製品における「厳密なクリアランス管理」
は,シャフトとシャフト用孔を極めて高精度に仕上げ,クリアラン
スを30μmに設定する構造を採用し,ラジアル軸受は,斜板取付\nけ部とスラスト軸受を除く全領域でシャフトを支持する軸受とし,
さらに,軸受がシリンダブロックの外側に突き出る長い構造を採用\nすることによって,シャフトの動きを伴うことなく,冷媒が吸入通
路の入口から漏出するのを防止するというものである(引用に係る
原判決12頁5行目ないし13行目)。
しかし,一審被告の主張のとおり厳密なクリアランス管理により冷
媒漏れを防止しているというのであれば,乙3報告書(被告製品1
〔クリアランスが30μm〕と,クリアランスを50μm,70μm,
90μm,110μmに変更した圧縮機の体積効率を比較したもの)
において,クリアランスが30μmである被告製品1よりも50μm
のものの方が体積効率は落ちることになるはずであるが,30μmと
50μmとで体積効率はほとんど変わらなかったとされているのであ
るから,一審被告の主張は十分な裏付けを欠くものというべきである。\nまた,仮に,被告各製品が,一審被告主張の厳密なクリアランスを
採用し,その構成が冷媒漏れの防止に対する効果を奏することがある\nとしても,一方で,被告各製品は,原判決別紙イ号物件説明書及びロ
号物件説明書記載のとおりの構造を有しており,ピストン60に作用\nした圧縮反力Fが斜板やスラスト荷重吸収機能が付与されたフロント\n側スラスト軸受70に伝達され,このスラスト荷重吸収により斜板5
1の動きを許容することで斜板51の径中心部を中心としてシャフト
50を傾かせようと作用し,これによって,シャフト50(回転弁)
は,吐出行程中のシリンダボア22に連通するフロント側通路23の
入口に向けて付勢され,この際シャフト50が変位しているのであっ
て,この本件訂正発明の構成要件C,Fを充足する構\成によっても,
冷媒漏れが防止されるものといえることは,原判決が第4の3で説示
するとおりであるから,本件訂正発明とは無関係に冷媒漏れを防止し
ているという一審被告の主張は採用できない。
4) 特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
一審原告は,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を製造・販
売しており,一審被告は,平成24年12月以降,ロータリバルブ
方式のピストン式圧縮機である被告各製品を輸入・販売しているの
であるから,両者は競合関係にある。一審被告は,前記第2の3⑵
のとおり,被告各製品が組み込まれていたマツダ製の自動車
においては,圧縮機について,「被告親会社→一審被告→JCS→
マツダの商流」という系列関係が確立しているとして競業関係を否
定するが,ここでは,特許権者と侵害者の間の料率を定める上で競
業関係が問題とされているのであるから,一審原告がマツダに直接
販売することができるかどうかの問題ではなく,一審被告の主張は
採用できない。
ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり,
相互に実施許諾を行っていない閉ざされた市場傾向にある(弁論の
全趣旨)。
イ 以上の検討を踏まえると,圧縮機の分野では,実施料率を3%から
4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当
程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を
有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり,
相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作
用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の
売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮すれ
ば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実
施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。
なお,一審被告は,第2の3 本件訂正発明の作用
効果や侵害の成否等について,前件侵害訴訟における知財高裁判決や本件
無効審決,ソウル高等法院等,判断主体によって判断が分かれていること\nを理由に,本件訂正発明の価値が低いと主張するが,事前の実施許諾契約
の料率については特許権が無効となる可能性等も考慮して算定されるのと\n異なり,特許法102条3項の損害は,特許権が有効であり,特許権侵害
があることを前提に算定されるものであるから,別個の手続の状況を考慮
に入れるのは相当でない。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)28541
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2021.10.21
令和3(ネ)10029 特許侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月13日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。
足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと
おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと
おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠
償請求権を有する。
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2021.10. 8
令和1(ワ)5444 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月28日 大阪地方裁判所
知財高裁特別部で判断された「二酸化炭素含有粘性組成物事件」の原告は、侵害事件で勝訴しましたが、被告会社が破産したため、実質経営者である取締役に対して訴訟をしました。裁判所は、被告らに監視・監督義務があるとして1億円を超える損害賠償を認めました。
法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場\n合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に
対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑
罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。
したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の
特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行
を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うと
いうことができる。
他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効につい
て厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許
庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判
断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。
このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといっ
て,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施
行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵
害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続する
ことが当然に許容されることにもならない。
自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役と\nしては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎
重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公
権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に
有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではない
が,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきで
あり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべ
きこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべき
こととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。
具体的には,1)非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を
停止し,あるいは製品の構造,構\成等を変更する,2)相手方との間で,非侵害又は
無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継
続する,3)暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ
ば,その間の補償が得られるようにする,4)実施行為を継続しつつ,損害賠償相当
額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補
償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつか
の方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経
営判断が適切であったかを検討すべきことになる。
・・・
(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに
対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日に
これに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法に
より計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債
務の弁済はなされていない。
被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目
的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の
申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。\n破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破
産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債
権の総額は1億6969万3683円とされた。
・・・
ウ 判断
前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを
総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならな
い,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったと\nいうことはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケ
ミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品
の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。
前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判
断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場
合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求め
られ,前記(1)の1)ないし4)で述べたような方法をとることで,特許権侵害に及
び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるに\nも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販
売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品
の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償
相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケ
ミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,\n被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産
手続開始の申立てを行ったものである。\n
以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特
段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取
締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事
情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ
の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。
(3) 被告P2の悪意重過失について
ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等\nの有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表\n取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。
被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず,
本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機
会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見
し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役として
の善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。
イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな
紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易
であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公
権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,\n被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能\であったと解され
る。
被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止で
きなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務
に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったと
いうことを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての
義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。
以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適
切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。
(4) 被告P3の悪意重過失について
ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1,
2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数
社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的で
あったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受
け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売で
きると聞いた。
被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額
であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することに
した。
(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭
酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。
被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年1
1月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネ\nオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。
(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許
の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,ま
た,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。
被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなか
ったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各
特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山
特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから
心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告
と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告P3
は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。
被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領
した。
(エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告P1に説明を求めたと
ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の
特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判
費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担する
と言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本
件発明2−1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の
写しの交付を受けた。
被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告
製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先する\nことはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。
その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける
機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。
(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証
開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問
を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販
売を止めた。
(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223
万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告にお
いて供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に
対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガス
パックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立し
た。
イ 判断
前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件
各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭
酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理
士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に
当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有して
いて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権\nが優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をした
というのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説
明に依拠してその判断を行ったことになる。
しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠\nがなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記
(2)で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵\n害を否定する理由とはなり得ない。
被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製
造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記
(1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権\n侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定
する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害\nし損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断
をすべき注意義務があったということができる。
この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品
14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の1)ないし4)で検
討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告
製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせた
のであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なく
とも重過失によると認めるのが相当である。
(5) 被告P4の悪意過失について
会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有\n無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締\n役の業務執行の監督を行うべきものである。
前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについ
て被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であ
った被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定
したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠は\nなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワール
が被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告
P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべき
であり,その過失の程度は重大というべきである。
4 原告の損害額(争点4)について
(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額
ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額
(ア) 証拠(甲45〜49,51〜57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製
品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推
移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認め
られる。
そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を
差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億08
29万1485円である。
証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し
て訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護
士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミア
の行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害
額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。
また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているか
ら,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01
29万1485円であると認められる。
(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条
2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7
895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した
700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基
づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。
しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受け
た損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告が
ネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるか
ら,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる
損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は異なるとし
て,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。
イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額
(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドス
キンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自\nら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワー
ルの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。
そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を
差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223
万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11
月30日までの期間の利益額は896万8027円である。
証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し
て訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある
弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,ク
リアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推
定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。
また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから,
現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万626
5円であると認められる。
(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項
を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記
アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害
を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。
被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としてお
り,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする
推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の
責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損
害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害
の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。
(2) 損害の発生について
被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売
しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワール
の行為によって原告は損害を被っていないと主張する。
しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品
とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難である
とか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があっ
たとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったと
しても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる
等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはな
らない。
(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について
ア 被告P1について
前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお,
ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当
該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネ
オケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告
P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
イ 被告P2について
前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して
監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たると
ころ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記(1)アの損害が被告P1
の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害
に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因
果関係があると認められる。
ウ 被告P3について
前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権
の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売
するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定
をしたものであり,この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるとこ
ろ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損
害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
エ 被告P4について
前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任
して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前
記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重
過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損
害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリ
アノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関
係があると認められる。
そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間
にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得
た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を
控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,こ
の全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認め
られる。
◆判決本文
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2021.08.21
平成30(ワ)21900 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月20日 東京地方裁判所
東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。
(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29
年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略
●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略
●円の経費を要した。
したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消
費税込み)と認めるのが相当である。
イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得
られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな
いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10
8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において,
平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。)
は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は
約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約
33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2
0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20%
の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大
きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整
紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい
るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ
る。
上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に
おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ
を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい
たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる
空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自
の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で
あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原
告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め
られる。
したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主
張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商
品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円
(●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。
法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において
侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必
要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及
び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略●
に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その
他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料
(平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した
ことが認められる。
そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売
することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と
は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの
は相当でない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気
を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発
させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け,
一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち
いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成
される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。
しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整
する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は,
一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを
求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解
決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記
開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に
位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技
術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも
のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ
ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが
できる周知慣用の技術が存在したものである。
以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義
は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。
なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独
自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき
の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風
力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ
ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる
ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異
なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排
出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。
また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま
り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000
8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい
えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。
さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ
れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある
といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ
につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ
ていたのかは明らかではない。
そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出
口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大
きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選
択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ
ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。
また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ
タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,
被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし
42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと
認められる。
さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば,
平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ
イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機
能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の
大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え
る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が
掲載されていることが認められる。
そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に
高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう
ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権
を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ
ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され
る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ
エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被
告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首
後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように,
2段階調整型空調服を製造販売している。
また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい
て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部
分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。
一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告
及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた
めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し
ていることが認められる。
そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と
なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその
他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ
ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者
の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法
102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認
めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購
入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の
代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と
の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし
ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。
しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に
いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の
上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販
売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品
の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き
ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは
拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると,
原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸
引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り
る証拠はない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品
を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン
ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。
しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き
ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原
告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が
被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す
ることはできない。
また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア
の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで
あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4
6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる
ことはなかったということはできない。
したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(3) 小括
ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に
より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す
ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから,
被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額
は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1
−0.5))と認められる。
イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6
0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。
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2021.07.16
平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月19日 東京地方裁判所
LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。
原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると
ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,
自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい
るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許
諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の
相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内
容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場
合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や
特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め
るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合
議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが
友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等
のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から,
「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施
に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。
そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事
業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件
特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終
了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定
期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800
万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額
を算定すべきであると主張する。
一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上
げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に,
コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても,
対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,
以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス
テム等図面【図38】,甲61)
LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ
らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で
「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内
の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登
録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ
いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ
り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等
の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき
であると主張する。
(ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ
ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を
していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図
4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち
登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象
とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友
だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで
ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被
告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え
られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告
システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム
等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について
そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償
の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると
ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち
登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ
め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操
作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同
士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ
ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技
術的範囲に属するという的確な主張立証はない。
また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件
機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。
そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら
ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する
分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ
ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある
売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友
だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の
とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果
関係にある売上高は,●(省略)●となる。
●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省
略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施
を許諾したことをうかがわせる証拠はない。
そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ
ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%,
最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ
ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ
ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満,
2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が
25.0%であるとされている。
しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ
ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ
た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから
すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った
後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明
かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム
及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する
ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその
相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な
連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会
ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う
に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該
位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索
されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし
て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の
内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と
の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで,
互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個
人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした
ことを特徴とする発明である。
このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件
各発明には相応の価値があるものと認められる。
もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい
て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると
ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の
技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特
長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の
チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて
いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に
よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に
もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか
がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友
だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい
る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ
ろである。
そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の
貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。
エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる
ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス
テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な
ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は●
(省略)●と認めるのが相当である。
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2021.06.14
令和1(ワ)23033 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年5月21日 東京地方裁判所
商標権侵害の損害論の審理に入ってから約半年が経過後の被告側の限界利益算出のための調査の申し出は、時期に後れた攻撃防御として却下されました。\n
(a) 以上に対し,被告は,1)前記(1)イの売上高には,被告が楽天に
支払うべき楽天市場の出店手数料及び広告料が含まれているから,
限界利益を算定する上では,上記の売上高から上記出店手数料や広
告料を差し引くべきである旨を主張し,2)上記1)の主張に関連して,
平成18年8月11日から令和元年8月27日までの間の売上高に
関して被告が楽天に支払った月ごと又は年ごとの金額を調査の趣旨
とする令和2年2月28日付けの調査嘱託を申し立て(以下「本件\n調査嘱託の申立て」という。),さらに,3)楽天市場に出店する際の
月額固定費,売上げに応じた変動費等が支払われており,これらを
差し引くべきであるとの主張を記載した令和3年3月11日付け準
備書面(以下「本件被告準備書面」という。)及び同日作成の書証
(「楽天市場への出店方法の流れと費用,体験談から見るメリッ
ト・デメリットを解説」と題するウェブページをプリントアウトし
たもの。以下「本件被告書証」という。)を提出した。
これに対し,原告は,前記第2の4(5)(原告の主張)ウのとお
り,上記2)及び3)は時機に後れた防御方法に当たるから,民事訴訟
法157条1項により却下されるべきであるとの意見を述べた。
(b) そこで検討すると,本件の審理が以下の経過をたどったことは,
当裁判所に顕著である。
i 本件の訴状は令和元年9月19日に被告に送達された。
ii 本件は,令和元年10月30日の第1回口頭弁論期日の後,
弁論準備手続に付され,令和2年8月28日の第7回弁論準備
手続期日まで,主として,被告による原告各商標権侵害の成否
(いわゆる侵害論)についての争点整理が行われた。
iii 原告は,令和2年8月28日,平成18年8月11日から令
和元年8月27日までの間における本件被告販売商品1−1及
び1−2の売上高等に関する楽天に対する調査嘱託を申し立て\nたところ,同年10月29日,楽天は,上記調査嘱託の回答書
(甲35)を提出した。
なお,上記提出に先立つ同月5日の第8回弁論準備手続期日
において,被告は,調査嘱託の回答があったときには,次回期
日までに,調査嘱託の回答を踏まえて,主張立証の方針につい
て検討する旨を陳述した。
iV 被告は,令和2年12月14日の第9回弁論準備手続期日に
おいて,前記iiiの回答書(甲35)に関し,月ごとの売上高等
を調査事項とする調査嘱託を申し立てる意向を示すとともに,\n損害論に関する事実調査を尽くす旨を陳述した。
そして,被告は,同月21日,楽天に対する上記調査嘱託を
申し立て,楽天は,令和3年1月21日,同調査嘱託に対する\n回答書(甲36)を提出した。
V 被告は,令和3年1月28日の第10回弁論準備手続期日に
おいて,同年3月1日までに,損害論についての認否反論を尽
くす旨を陳述した。
Vi 被告は,前記(a)2)のとおり,令和3年2月28日付けで本件
調査嘱託の申立てをした。これに対し,原告は,本件調査嘱託\nの申立ては,必要性がなく,かつ不適法であるとの意見を記載\nした同年3月5日付け意見書を提出した。
Vii 被告は,前記(a)1)の主張を記載した本件被告準備書面を提出
し,令和3年3月11日の第11回弁論準備手続期日において
同準備書面を陳述した。
また,被告は,前記(a)3)の主張を記載した準備書面(同月1
1日付け)を提出するとともに,本件被告書証を乙第1号証と
して提出した。
(c) 本件では,訴状において,商標法38条2項により推定される逸
失利益の額に関する主張が記載されていたから,被告においても,
限界利益の算定に当たって控除すべき経費の項目及び額が争点とな
り得ることについては,同訴状送達日である令和元年9月19日の
時点で認識することができたといえる。
そして,前記(b)iiのとおり,本件の審理において,侵害論の争
点整理は令和2年8月28日までにおおむね終了し,同日からは損
害の発生及び額(いわゆる損害論)に関する争点整理に進み,その
後の4回の弁論準備手続期日の中で,被告には,前記iV及びVのと
おり,損害論に関する事実調査及び主張立証を尽くす機会が与えら
れたというべきである。
以上のような審理経過に加え,被告が楽天に支払った手数料の額
に関する情報は,通常,被告において管理されていてしかるべきも
のであって,仮にその情報が被告の元に存在しなかったとしても,
そのような事情はさほど期間を要せずとも把握することが可能な性\n質のものであることを考慮すれば,被告は,遅くとも令和2年12
月21日付けの調査嘱託を申し立てた時点において,それと同時に\n本件調査嘱託の申立てをすることが十\分に可能であったというべき\nであるし,そのころ,本件被告準備書面及び本件被告書証を提出す
ることも十分に可能\であったというべきである。しかるに,訴状が
送達された日から約1年3か月が経過し,損害論の審理に入ってか
らも約半年が経過して,損害論について主張立証を尽くす旨を陳述
した第10回弁論準備手続期日の後,その期限である同年3月1日
の直前になって,本件調査嘱託の申立てがされ,同期限後に作成さ\nれた本件被告準備書面及び本件被告書証が提出されたものであるか
ら,これらはいずれも時機に後れた防御方法の提出であり,かつ,
このことについて被告に重大な過失があると認めざるを得ない。
そして,本件調査嘱託の申立てを採用すれば,楽天から回答を受\nけるのに相当期間を要した後,その回答を踏まえた主張立証がされ
ることとなるから,訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らか
である。
また,本件被告準備書面を陳述させ,本件被告書証を取り調べる
と,これらに対する原告の反論の機会を設ける必要があるほか,損
害論に関する被告の主張の整理に相応の期間を要することとなり,
訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らかである。
(d) 以上のとおり,本件調査嘱託の申立て,本件被告準備書面及び本\n件被告書証は,いずれも,被告が重大な過失により時機に後れて提
出した防御の方法に該当し,かつ,訴訟の完結を遅延させることと
なるものと認められる。よって,本件調査嘱託の申立て,本件被告\n準備書面及び本件被告書証の提出は,いずれも時機に後れた防御方
法として,却下する(民事訴訟法157条1項)。
◆判決本文
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2021.05.31
平成31(ワ)2675 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月18日 東京地方裁判所
吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。
以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要
者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹
矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購
入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は
令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理
由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に
向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹
矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告
製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな
い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として
令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する
ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合
で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.04.22
平成30(ワ)3461 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原
告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。
◆判決本文
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2021.04.21
平成30(ワ)36690 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月15日 東京地方裁判所
実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。
(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7
月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23
年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日
頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし
て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し,
平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。
そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月
2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。
したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に
ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認
められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し,
平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した
ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料
率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで
きる。
本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,
業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率
〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ
のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場
等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許
諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する
標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位
での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その
うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン
ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2
2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規
格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当
たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5
「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。
なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ
センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ
スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,
クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ
るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク
ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に
とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに
よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原
告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での
実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針
としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約
の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発
明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.
01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売
状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実
施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。
◆判決本文
別件訴訟はこちらです(請求棄却)。
◆平成24年(ワ)237
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2021.03.19
令和2(ネ)10035 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年3月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。
本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二
股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部
を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ
して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押
し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ
って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要
者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい
るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする
根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす
る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推
定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな
いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが
被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に
当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記
第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る
発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の
存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は
ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成29(ワ)32839
当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(行ケ)10032
当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
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2021.03.14
令和2(ネ)1492 意匠権 民事訴訟 令和3年2月18日 大阪高等裁判所
意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。
ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁
14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2
項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。
控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由
に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1
9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい
ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で
あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか
でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても,
前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上
でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁
5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項
を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が
覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人
が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな
いというべきである。
控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ
る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査
結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組
み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が
約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中
央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数
字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は
必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ
料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の
ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意
匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合
わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の
場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く,
むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ
り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン
ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ
くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え,
本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度,
原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的
に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ
り,控訴人の主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)6029
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2021.03.14
平成29(ワ)10716 特許権侵害差止等請求事件 特許権 令和3年2月18日 大阪地方裁判所
特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。
消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ
ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が
資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する
ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財
産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ
とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金
を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察
される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために
は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ
るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。
適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%)
によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費
税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら
れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵
害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを
他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡
等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる
と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害
が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行
為時であると解される。
そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特
許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要
するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止
並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等
が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の
うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である
本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終
的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施
主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施
することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。
しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の
選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の
効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得
ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである
ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手
摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら
れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側
部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ
いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得
るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取
り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客
誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって
はこれを考慮に入れるべきである。
もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場
は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る
(乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する
コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等
による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。
他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり,
それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減
という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4
2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま
す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ
ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ
もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の
新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要
する例は,規模的にかなり少ないと推察される。
さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし
て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計
できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法
をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要
がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。
加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス
板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減
に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
◆判決本文
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2020.12.15
令和1(ワ)21183 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和2年12月3日 東京地方裁判所
仮差押申立事件において仮差し押さえられた部分について,商標権者に過失があるとして、その分の返還を認めました。前件訴訟では、種々の事情を考慮した上で商標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額を認定していました。\n
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人には過失が推定される。
これに対し,被告米国法人は,前件仮差押申立事件において,商標法38\n条1項において被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被
告米国法人と同視できる者が販売することができた商品も含むという理解を
前提として被保全債権額の主張をしたところ,事実関係や裁判例等から,そ
のような主張をしたことには相当な理由があるから被告米国法人には過失が
ない旨主張し,上記の事由から過失の推定が覆滅する旨主張する。
前件仮差押申立事件の申\立書において,被告米国法人は,被告米国法人が
被告商品を直販しているから,日本における推定小売価格の全額が被告米国
法人の利益となる旨主張していた(前記1(3))。
被告商品は,実際には,被告米国法人から,順に,MSオペレーション,
MSリージョナルセイルズ,被告日本法人に販売され,日本国内において,
被告日本法人により販売されていたのであるが,前件仮差押申立事件の申\立
書において,被告米国法人は,前記のとおりの主張をしており,被告商品を
日本において販売しているのが被告日本法人であることや,被告日本法人が
被告米国法人と同視することができることなどの主張はしていなかった。そ
して,取引の流れについて上記の主張をしていないだけでなく,被告米国法
人の販売後日本における販売までの間に独立の法人格を有する複数の法人が
介在している以上,前件仮差押申立事件の申\立人である被告米国法人の利益
はMSオペレーションに販売することによる利益であるのが原則であるのに,
特段の説明も一切なく,「直販」していることを挙げて日本における推定小
売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた。この主張は,
被告米国法人が自ら日本国内で販売していることを前提として主張していた
と解するほかはない。
これらからすると,前件仮差押申立事件の仮差押申\立書における被告米国
法人の主張は,実際の取引の流れを踏まえつつ,商標法38条1項において
被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被告米国法人と同
視できる者が販売することができた商品も含むという理解を前提にしてされ
たものとは認められない(なお,仮に,実際の取引の流れを踏まえて,上記
のような理解から仮差押申立書を記載したとすると,被告日本法人と被告米\n国法人の関係や被告日本法人が被告米国法人と同視できるなどの主張を明示
的にせずに仮差押申立書において上記のように主張することが適切であるか\nは疑問の余地があるほか,特に,被告米国法人の利益について,特段の説明
もなく,直販を理由として日本国内の推定小売価格の全額が被告米国法人の
利益となるとの主張をすることは不適切といえる。債務者の審尋等を経ない
仮差押えの申立てにおける主張については,特にこのことがいえる。)。\n被告米国法人は,本件において,過失の推定を覆す事情として上記理解を
していたことを前提とする主張をするのであるが,その主張は前提を欠くと
いえる。被告らの主張中には,前件訴訟等における被告米国法人の原告に対する損
害賠償額が前記の額となったことに関係して,原告が前件訴訟等において侵
害行為の詳細を明らかにしなかったことを指摘する部分がある。
しかし,上記が本件における過失の推定を覆す事情になるかは措くとして
も,原告が販売した原告商品に対応する被告商品の種類等が明らかにならな
かったことによって前件訴訟等における損害賠償額が本来の損害賠償額より
も少額となったことを認めるに足りる証拠はない。前件訴訟等の裁判所は,
上記詳細が明らかにならなかったことから証拠がないことを理由に損害が認
められないとしたりはせず,同状況も含み得る種々の事情を考慮した上で商
標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額
を認定したものである。なお,被告米国法人は,前件仮差押申立事件の申\立
書において,商標法38条2項に基づき損害が算定され,直販を理由として
日本の推定小売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた
が,被告米国法人から独立した法人格を有する複数の企業を介して日本国内
において被告商品が販売される以上,仮に介在する企業が完全子会社であっ
たとしても,被告米国法人の利益は,被告米国法人がMSオペレーションに
販売したことによって得られた利益であり,その額は,通常は,日本におけ
る推定小売価格の全額とはならないといえる。また,被告米国法人は,前件
仮差押申立事件の申\立書において,上記のとおり,日本の推定小売価格の全
額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていたが,その後の前件訴訟等
においては,利益率は42%であると主張し,前件訴訟等の裁判所は,原告
主張の利益率を逸失利益の算定の根拠とすることは相当でないとしてその利
益率を採用しなかった。
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人に過失が推定され,被告米国法人
は,その推定が覆ると主張するが,本件において,被告米国法人が過失の推
定が覆るとしている事由はその前提を欠くといえる 。
◆判決本文
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2020.11.27
令和2(ネ)10025 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年11月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、約1800万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁(2部)は原告の請求額を100%認めました。損害認定額は約1億3700万円で、請求額は1億3200万円でした。
4 損害発生の有無及びその額(争点8)について(当審における当事者の補充主張に対する判断を含む。)
(1)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について
特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして,同項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明の実施許諾契約の場合と異なり,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや,平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。
(2) 実施料率の算定に当たり考慮すべき事情括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。ア実施料率に関する数値等(ア)社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(平成15年9月30日発行。甲79)には,「電子・通信用部品」分野の実施料率について,次の旨の記載がある。aイニシャル・ペイメント条件がない場合の実施料率の平均値は,昭和63年度〜平成3年度は4.9%,平成4年度〜10年度は3.3%である。平均値が下降した結果,全技術分野中実施料が最も低い技術分野の一つとなった。
bこの技術分野は,契約件数が全技術分野の中でも多い方であるが,他の契約件数上位の技術分野と比較して,実施料率が低く抑えられている。その理由としては,1)この技術分野では,高額のライセンス収入を得ることとともに,技術を普及させ,対象技術の標準化を目指すことが重要視されるケースが他の技術分野と比較して多いことや,2)半導体産業は設備投資が大きく,ライセンシーの危険負担が大きいことが考えられる。c平成4年度〜10年度の実施料率8%以上の契約(イニシャル・ペイメント条件の有無を問わない。)合計21件を技術内容的に細分すると,電子管が1件,半導体が18件,その他の電子・通信用部品が2件であり,半導体が大半を占めている。
(イ)平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」によると,本件発明1〜3に関連する「電気」の分野の実施料率について,平均値は2.9%,最大値は9.5%,最小値は0.5%であった(乙89)。
(ウ)一審原告が訴訟等で相手方と和解をする際には,相手方において侵害品から一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合には,当該LEDを相手方が購入することを条件として,侵害品の売上高に5%前後の実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがあるが,そのような置換えが難しい場合には,製品の製造販売の中止を条件に,侵害品の売上高に上記より高い実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがある(甲84の1)。一審原告は,平成28年5月,本件特許1を含む二つの特許を侵害するLED電球の販売に係る事案に関し,相手方と,総売上高に10%の実施料率を乗じた額に8%の消費税相当額を加算した金額で裁判上の和解を成立させた(甲84の1・3)。\n
(エ)一審原告の競合メーカーであるフィリップス社は,平成28年6月21日,LED照明及びLEDレトロフィット電球のライセンスプログラムを公表したが,そこでは,LED照明の総収入に基づく実施料率は,単色照明(白色又は有色の固定色)については3%であることが示されている(乙102)。\n
イ本件発明1〜3の価値・重要性等に関する事情
(ア)一審原告による青色LEDの開発後,赤,緑,青の三種類のLEDを用いるのではなく,青色LEDと蛍光体を用いて一審原告が白色LEDの開発を実現したことは,非常に重要な産業上の意味を持つもので,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与し(甲24,26),一審原告による白色LEDの開発については,文部科学省発行の「令和元年版科学技術白書」(甲86)においても取り上げられている。
(イ)白色LEDを構成するために青色LEDチップと組み合わせる蛍光体の材料としては,YAG系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソ\シリケート)系などがある(乙105)。この点,ドイツのOSRAM Opto社は,平成15年〜平成16年頃に,複数の会社に対し,TAG蛍光体による白色LEDのライセンスを供与しており(乙108),平成20年には,アメリカのVishayIntertechnology社は,カメラのフラッシュ・ライト,自動車のブレーキ・ランプや方向指示器やインスツルメント・パネルのバックライトや非常灯などに向けたものとして,TAG蛍光体を用いた白色LEDを発売した(乙109の1・2)。平成18年には,TAG系蛍光体材料などを用いた白色LEDが続々登場しているとの報道があり(乙106),平成24年には,YAG,TAG及びシリケートが,世界三大の蛍光体であると評価されていた(乙107)。
(ウ)平成27年に発表された「LED製品開発の現状と最新動向」と題する論文(豊田合成技報57号。乙91)には,次の旨の記載がある。\n
a青色LEDを光源とし蛍光体を励起させる方式の白色LEDの開発により,小型・省電力の白色光源が実用化され,更なる用途拡大が進んだ。代表例としては,液晶ディスプレイが挙げられる。白色LEDの高効率化により,急速にバックライト用光源の置き換えが進んだ。LED化によるメリットは,主に,発光効率が高いことと,薄型化ができることである。LEDは光源自体のエネルギー効率が高いことに加え,配光指向性によりバックライトへの入射効率が高くなるため,機器としての省エネが図りやすいことも大きなメリットとなっている。LEDが当たり前になった現在においても,パネル画質向上(高精細化・広色域化)に伴うパネル透過率低下(画面が暗くなること)を補うため,LEDへの効率向上への期待・ニーズは依然として高い。\n
b最近,従来の青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせから,光の三原色である青色LEDと緑色蛍光体・赤色蛍光体の組み合わせによる色品質の向上が図られている。従来の青色LEDに黄色蛍光体を加えた疑似白色光は,液晶に用いられる場合,色の純度が低く,液晶パネル上の色域が狭いのが一般的である。色域を拡げるためには,液晶パネルのカラーフィルタの濃度を上げる方法があるが,光の損失が大きくなるため望ましくない。そこで,色域を向上させるため,青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた,新規白色光が開発されている。
ウ一審被告製品の売上げ及び本件LEDの位置付け等
(ア)一審被告製品の売上げ(乙87)
a一審被告製品1一審被告製品1の販売期間は平成26年1月から平成28年3月までであり,総販売台数は43万3971台で,1台当たりの平均販売価格は3万3902円,総売上高は147億1230万5518円であった。売上高の内訳は,平成26年1月から平成27年9月までが147億0404万7272円,同年10月が293万6815円,同年11月から平成28年3月までが532万1431円であった。
b一審被告製品2一審被告製品2の販売期間は平成27年5月から平成28年12月までであり,総販売台数は29万6608台,1台当たりの平均販売価格は3万4461円,総売上高は102億2138万1519円であった。売上高の内訳は,平成27年5月から平成27年9月までが24億1436万1080円,同年10月が9億3268万0350円,同年11月から平成28年11月までが68億4922万2715円,同年12月が2511万7374円であった。
(イ)一審被告製品における本件LEDの位置付け等
a一審被告製品は,いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり,一審被告製品1及び2のバックライトには,いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。液晶テレビの方式は,バックライトの種類によって,直下型とエッジ型とに区分されるところ,一審被告製品は,直下型である(甲85)。
bテレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,耐久性が極めて重要な特性として求められる。
c東芝のテレビ事業部の担当者は,平成21年4月に,液晶テレビのバックライトは白色LEDがトレンドになると主張し,RGB三色のLED光源よりも白色LEDの方がより高画質を実現できるという認識を明らかにしていた(甲32)。そして,一審被告は,一審被告製品を含む液晶テレビのシリーズ商品を販売するに当たり,映像美を一つのセールスポイントとしており,また,一審被告製品は,「おまかせオートピクチャー」という,周囲の明るさに適した画質に自動で調整するとの機能を有していたところ,それは,リニアに発光するというLEDの特性を利用したものであった(甲77,78,92)。一審被告製品1を購入したユーザーのレビューには,画質の良さやコストパフォーマンスの良さを指摘するものがある(甲93)。\n
d一審被告製品は,平成27年7月から11月までの売れ筋ランキングの上位(第3位)を占めていた(甲94)。
e直下型バックライトが採用される液晶テレビ用の一般的なサイズのLEDにおいては,本件発明2及び3に関連した技術を用いたLEDが多用されている(甲87〜89)。
f一審被告製品はOEM製品であり,一審被告は,本件LEDの単価も知らず,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかも知らなかった。
エLEDに関する市場等
(ア)テレビのバックライト用の白色LEDの世界的な平均価格は,平成26年は0.1ドル,平成27年は0.08ドル,平成28年は0.068ドルであった(乙85の1〜3,乙104)。なお,年間平均為替レート(TTS)は,平成26年は106.85円/1ドル,平成27年は122.05円/1ドル,平成28年は109.84円/1ドルであった(乙90)。(イ)株式会社富士キメラ総研発行の「2017LED関連市場総調査」(平成29年1月25日発行。甲84の2)には,次の旨の記載がある。
aテレビ用バックライトユニットについてテレビ用バックライトユニットでは,直下型の白色LEDパッケージが採用されている。テレビ向けのLEDは,高出力かつ広色域,長寿命が要求されるケースが多く,他のバックライトユニット向けLEDと比較してハイエンドな商品となる。平成28年第4四半期時点において,32型テレビ用の直下型バックライトユニットの主要な価格帯は,1台当たり1400円〜1700円である。ただし,光学シート構成やLEDパッケージの仕様,搭載個数によって大きく価格が変動する。また,テレビメーカー各社が独自設計を行うハイエンドテレビ用バックライトユニットは,より高価格になる。\nなお,光学シートの機能複合による搭載枚数削減,LEDパッケージの性能\向上による搭載数量削減により,今後も低価格化が続く見通しである。b白色LEDパッケージについて白色LEDパッケージとは,疑似白色に発光するLEDパッケージである。主に可視光(GaN系)LEDチップに蛍光体を使用することで,疑似的に白色光を実現している。白色LEDパッケージについて,日本では発光効率を高める開発が続けられている。一方で,演色性(色再現性)も必要であるが,演色性と発光効率はトレードオフの関係にある。なお,中国では,コストの圧縮を目的として,LEDパッケージメーカーによるリードフレームを始めとする各種部材の内製化が進んでいる。世界的にみると,白色LEDパッケージ市場は,数量ベースで引き続き好調な伸びとなっている。ただし,従来大きなウェイトを占めてきたバックライト向けは,出荷数量が大きく減少している。セット機器の減少に加え,中小型バックライト向けでは搭載工数の減少やOLEDへの移行,テレビ用バックライト向けではパッケージ当たりの光束量の増加に伴う搭載個数の減少が主な市場縮小の要因となっている。白色LEDパッケージについて平成28年第4四半期時点で,バックライト向けの直下型の白色LEDパッケージの価格は,1個当たり,18円〜24円である。
c白色LEDパッケージに採用される蛍光体について高発光効率・低価格が要求される製品には,黄色の蛍光体が単体で採用されるケースが多い。演色性や広い色域が要求される場合には,黄色と赤色や,赤色と緑色の組み合わせが採用されている。LED用蛍光体については,中国において,地域別生産数量に占めるウェイトが高まっている。平成27年の出荷数量実績では,黄色の蛍光体について,YAG蛍光体が83.5%を占めており,シリケート系が10.2%,その他が6.3%を占めている。この点,シリケート系は,近年減少傾向にある。YAGなどに比べ高温高湿条件下での信頼性に劣るためである。平成29年に一審原告のYAG主要保有特許が失効するのを受けて,特に電球など色温度3000K程度の照明向けLEDパッケージでは,効率の良さを背景にYAGへの移行が進む可能性がある。\n
(ウ)総合技研株式会社発行の「2017年度白色LED・応用市場の現状と将来性」(乙86)には,次の旨の記載がある。a白色LEDメーカーシェア動向について,メーカーは一審原告のほかに合計10社以上あるところ,平成24年〜平成28年において,一審原告は継続してシェア第1位を占めている。この点,シェアは,平成24年は23.7%,平成25年は24.2%,平成26年度は25.4%,平成27年度は19.6%,平成28年度は19.1%である。b分野別・用途別白色LED応用市場分析に関し,分野別市場規模について,平成24年〜平成29年で,液晶バックライトを用途とするものは,61.2%から44.4%に減少し,一般照明を用途とするものが34.5%から50.8%に増加してきた。他方,液晶バックライトの数量ベースでみると,平成24〜平成28年で,液晶テレビを用途とするものは,40%前後で推移しており,他の用途(ノートパソコン,液晶モニター,タブレット端末,スマートフォン等)を大きく引き離している。\n
(エ)直下型バックライトについては,商流として,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給している。オ一審原告のライセンス方針等(ア)一審原告は,平成28年においても,バックライト用LED(テレビ,モニター,ノートパソコン及びタブレットを含む。)収入で,世界第2位,14.1%のシュアを占めている(乙84)。(イ)一審原告は,後発メーカーとの間で,平成8年頃から,各国で特許訴訟の提起や交渉を繰り返してきたところ,平成14年には,後発メーカーのLEDの技術水準も向上したため,互いに補完し合える技術を保有しているメーカーとはクロスライセンス契約を結んで和解をするようになったが,その際,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてなかった。それは,ライセンス収入には頼らず,特許はあくまでも自社の技術を保護する手段と考え,自社製品の販売によって利益を得るという経営方針によるものである(甲84の1)。
(3) 実施料率の算定
訂正して引用した原判決第3で判示した本件発明1〜3の意義等に加え,上記(2)で認定した諸事情を踏まえ,以下,実施料相当額について検討する。
ア実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について
(ア)前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え,1)本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ,直下型バックライトは,液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり,一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと,2)LEDの性能は,液晶テレビの画質に大きく影響するとともに,どのようなLEDを用い,どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること,3)一審被告は,後記イのとおり,本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので,一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと,一審被告製品の売上げを基礎として,特許法102条3項の実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ)これに対し,一審被告は,本件特許1〜3の貢献が,LEDチップに限定される旨を主張するが,採用することができない。また,一審被告は,LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが,そうであるとしても,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお,直下型バックライトについても,独立の市場価値を有するものと認められるが,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,直下型バックライトの価格をロイヤリティのベースとすることも相当ではない。
さらに,一審被告は,最終製品を実施料算定の基礎とすると,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが,本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば,その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
イ実施料率について
(ア)a一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく(前記(2)オ(イ)),特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした(前記(2)ア(ウ))。
b平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する(前記2ア(ア)c)。
c本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した(前記(2)イ(ア),(ウ)a,同ウ(イ)b,c,e,同エ(イ)a)。この点,YAG系の蛍光体以外の蛍光体を用いた白色LEDも存在していたことが認められる(同イ(イ),(ウ))が,一審原告は,白色LEDメーカーとして,平成24年〜平成28年において継続してシェア第1位を占めており,平成28年にバックライト用LED収入でも世界第2位のシェアを占めていること(同エ(ウ)a,同オ(ア))や,平成27年の出荷数量実績において黄色の蛍光体につきYAG系の蛍光体が大部分を占めていること(同エ(イ)c)に照らすと,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年12月までの期間において,液晶テレビのバックライト用の白色LEDについて,一審原告の製品は他の製品に比べてかなり優位な地位にあったものと認められる。
d以上のa〜cで述べたところに,前記(1)で特許法102条3項の実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1〜3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。なお,1)フィリップス社は平成28年に単色のLED照明の実施料率について3%と公表しており(前記(2)ア(エ)),2)LEDの属する技術分野における実施料率の平均値は,3.3%,2.9%といった数値である(同ア(ア)a,(イ))。しかし,上記1)の数値は,フィリップス社の特許についてこれからライセンスする場合の数値であり,また,上記2)は,広汎な分野における実施料率の平均値であり,いずれも上記認定を左右するものではない。
(イ)液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,前記(ア)cのとおり,本件発明1〜3の技術は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったということができる上,一審被告製品は,映像美を一つのセールスポイントとするなどして,売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c,d)のであるから,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の技術の貢献は相当に大きいものであり,前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても,平成26年1月から平成28年1月までの間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)において,一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。
ウ一審被告の主張について一審被告は,一審被告製品2には一審原告が主張立証するLEDチップとは異なるチップが使用されているため,一審原告が主張立証するロ号LEDが使用されている一審被告製品2の販売数量は不明であるから一審被告製品2に係る損害賠償請求は認められないと主張するが,訂正して引用した原判決第3の1(5)(原判決93頁)で判示したことからすると,一審被告製品2には,その販売期間を通じて,本件特許1〜3を侵害するロ号LEDが使用されていたと推認されるというべきであり,一審被告の上記主張やその裏付けとしての証拠(乙66,70)は,この推認を覆すに足りるものではない。その他,一審被告の主張は,前記イの認定を左右するに足りるものではない。
(4) 一審原告が一審被告に請求し得る額の算定以上を踏まえると,一審原告が一審被告に請求し得る額は,次のとおりとなる。ア実施料相当額について,一審被告製品の総売上高は,一審被告製品1が147億1230万5518円,一審被告製品2が102億2138万1519円で,合計249億3368万7037円であり,同額に,上記(3)の実施料率0.5%を乗じると,1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ弁護士費用相当額については,原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウしたがって,一審原告は,一審被告に対し,少なくとも損害賠償として,合計1億3666万8435円を請求することができるところ,この金額は,一審原告の請求額を超えているので,消費税相当額の加算について判断するまでもなく,一審原告の損害賠償請求は,全部について理由がある。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成29(ワ)27238
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2020.11.21
令和2(ネ)10004 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年9月30日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
原審の特102条2項による推定について「売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし貢献の程度が相当低い」として覆滅が認められました。
ウ 推定覆滅事由について
一審被告は,1)本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販
売した被告各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実
績が乏しいこと等,被告各製品の競合品の存在,2)本件期間1及び2に係
る販売分につき,本件特許権が一審原告と三菱化学との共有であったこと
は,いずれも本件推定を覆す事情に該当し,かかる事情を考慮すると,本
件推定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販売した被告
各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実績が乏し
いこと等,被告各製品の競合品の存在
a 一審被告は,1)LED基板のサイズを同一にして,部品点数及び製
造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さ
くして,汎用性を向上させることができるという本件再訂正発明の作
用効果は,順方向電圧の異なるLED搭載製品を作製することを前提
とするものであり,被告各製品において,白色LEDと青色LEDと
は,いずれも順方向電圧は同じであり,順方向電圧が異なるのは赤色
LEDであるから,本件再訂正発明の作用効果を奏するのは赤色LE
Dを搭載する製品であるところ,本件期間1ないし4の期間中に一審
被告が販売した被告各製品中,赤色LED搭載製品(被告製品2及び
5)の販売実績が乏しいこと,2)需要者の立場からは,LED基板の
設計において,本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小
公倍数」の単位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数で
はない「公倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲
に有意な差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において
複数のLED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が
起こる可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情で\nあることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が
ないことなどを示すものといえるから,本件推定を覆す事情に該当す
る旨主張する。
(a) 1)について
本件再訂正により,本件再訂正前の第1次訂正発明(請求項1)
の「LED基板」の枚数及び配置が「複数の前記LED基板を前記
ライン方向に沿って直列させてある」構成に特定されたこと,第1\n次訂正発明の技術的意義は,前記2(1)ア,イ(イ)及びウで説示した
とおりである。また,本件明細書の【0009】及び【0041】
の記載から,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLEDの個数を
LED単位数の「最小公倍数」にすることにより可及的に小さくし
たLED基板の直列させる数を変えることで,このLED基板を
様々な長さの光照射装置に用いることができるようになることを理
解できる。
これらを総合考慮すると,本件再訂正発明の技術的意義は,順方
向電圧の異なる種類のLEDを用いたライン状の光を照射する光照
射装置において,LED基板の大きさを同一にして,部品の共通化
により部品点数の削減,製造コストの削減を実現することを主たる
課題とし,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の
合計との差が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数と
し,LED基板に搭載するLEDの個数を順方向電圧の異なるLE
D毎に定まるLED単位数の「最小公倍数」とする構成を採用した\nことにより,順方向電圧の異なるLED同士でLED基板に搭載さ
れるLEDの個数を同一にし,順方向電圧の異なるLEDが搭載さ
れるLED基板同士の大きさを同じにすることができ,また,LE
D基板を収容する筐体として同一のものを用いることができること
から,LED基板及び筐体などの部品を共通化し,部品点数を削減
することができるとともに,製造コストを削減するという効果を奏
し,さらに,LED基板の大きさを可及的に小さくして,汎用性を
向上させるという効果を奏し,加えて,「複数の前記LED基板を
前記ライン方向に沿って直列させてある」構成を採用したことによ\nり,可及的に小さくしたLED基板の直列させる数を変えることで,
このLED基板を様々な長さの光照射装置に用いることができると
いう効果を奏することにあるものと認められる。
そして,被告各製品のうち,白色LED搭載製品と青色LED搭
載製品は,順方向電圧が同じであり(白色LED搭載製品である被
告製品1と青色LED搭載製品である被告製品3,白色LED搭載
製品である被告製品4と青色LED搭載製品である被告製品6は,
順方向電圧が同じであることは,争いがない。),LED基板は共
通のサイズのものを利用することができるので,被告各製品におい
ては,本件再訂正発明は,白色LED搭載製品及び青色LED搭載
製品と順方向電圧が異なる赤色LED搭載製品(被告製品2及び5)
及び赤外LED搭載製品(被告製品7)について,専用のLED基
板及びこれを収容する筐体を用意する必要はなく,白色LED搭載
製品及び青色LED搭載製品と共通のサイズのLED基板及び同一
の筐体を用いることができる点において主たる効果を発揮するもの
と認められる。
しかるところ,本件期間1ないし4における被告各製品の販売個
数は,合計●●●個であり,このうち,被告製品2及び5は●個,
被告製品7は●個であるから(前記イ(ア)),被告製品2,5及び
9の販売個数(合計●●個)が占める割合は,全体の約●●●●で
ある。
一方で,被告各製品のうち,白色LED搭載製品又は青色LED
搭載製品を購入した者においても,その購入時に赤色LED搭載製
品一緒に購入している場合や,既に赤色LED搭載製品を有し,又
は将来赤色LED搭載製品を購入する予定である場合もあり得るか\nら,白色LED搭載製品及び青色LED搭載製品においては本件再
訂正発明の主たる効果が発揮されていないとまではいえないが,こ
のような点を考慮してもなお,被告製品2,5及び7の販売個数(合
計●●個)が全体の約●●●●であることは,本件期間1ないし4
における被告各製品の売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし
貢献の程度が相当低いことを示すものといえる。
したがって,被告製品2,5及び7の販売個数(合計●●個)が
全体の約●●●●であることは,本件推定を覆す事情に該当するも
のと認められる。これに反する一審原告の主張は採用することができない。
(b) 2)について
一審被告は,需要者の立場からは,LED基板の設計において,
本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小公倍数」の単
位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数ではない「公
倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲に有意な
差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において複数の
LED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が起こ
る可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情であ\nることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が
ないことを示すものといえるから,これらの事情は,本件推定を覆
す事情に該当する旨主張する。
しかしながら,一審被告の上記主張の根拠とする事情を裏付ける
に足りる証拠はないから,一審被告の上記主張は採用することがで
きない。
b 次に,一審被告は,本件再訂正発明の実施品であるライン光照射装
置と実施品ではないライン光照射装置とは,照明器具としての性能に\n変わりがなく,ライン光照射装置であれば全て被告各製品及び原告が
販売する原告各製品の競合品となることに鑑みると,仮に被告各製品
が販売されなかったとしても,被告各製品の販売数量に対応する需要
が,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射\n装置にも向かったであろうといえるから,このような被告各製品の競
合品の存在は,本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。
そこで検討するに,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の原\n判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射装置は,\n被告各製品の競合品に該当し,このような被告各製品の競合品の存在
は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。その理由は,
次のとおり訂正するほか,原判決60頁2行目から61頁8行目まで
に記載のとおりであるから,これを引用する。
・・・・
(c) 原判決61頁8行目末尾に次のとおり加える。
「また,被告各製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4,
13)には,被告各製品において本件再訂正発明を実施している
ことやその実施により光照射装置としての性能が向上し,部品点\n数及び製造コストの削減を図ることができることなどをうかがわ
せる記載は見当たらず,他方で,「業界最高クラスの光量を実現」,
「驚異の明るさを実現」など被告各製品の光量の大きさに関する
機能を宣伝文言としていることに照らすと,被告各製品において\n本件再訂正発明が実施されていることが大きな顧客吸引力となっ
ていたということはできない。」
c 以上を前提に検討するに,前記a(a)及びbの本件推定を覆す事情の
内容,本件再訂正発明の技術的意義等を総合的に考慮すると,被告各
製品の限界利益の形成に対する本件再訂正発明の寄与は●●と認め
るのが相当であり,前記寄与割合を超える部分については被告各製品
の限界利益の額と控訴人の受けた損害額との間に相当因果関係がな
いものと認められる。したがって,本件推定は上記a(a)及びbの本件推定を覆す事情により上記限度で覆滅されるものと認められる。
そうすると,上記推定覆滅後の被告各製品の限界利益の額は,別紙
認容額算定表の3)欄記載の562万2270円となる。
d これに対し一審原告は,1)被告各製品のうち,白色LED搭載製品
及び青色LED搭載製品においても,本件再訂正発明は大きな顧客吸
引力を有すること,2)画像処理LED照明の国内シェア(数量ベース)
については,平成26年から平成30年まで一貫して,一審原告が1
位,一審被告が2位であり,一審原告のシェアは2割を超えており(甲
18ないし22),このように画像処理LED照明のシェアを2割以
上一審原告が有している以上,被告各製品の販売がなかった場合には,
そのうちの少なくとも2割は原告各製品に向かうことは明らかである
し,シェア上位の会社の信頼性という面からは,2位のシェアを占め
る被告各製品を購入した需要者は,被告各製品の販売がなかった場合
には1位のシェアを占める原告各製品を購入する蓋然性が高いこと,
3)原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の各製品のうち,原告各\n製品の種類の多さを考えても,被告各製品の販売がなかった場合には
これに対応する需要は原告各製品に向かう割合は極めて高いことを勘
案すると,本件推定は5割を超えては覆滅しない旨主張する。
しかしながら,1)については,前記bで説示したとおり(原判決引
用部分),本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいとはいえない。
また,2)については,原告各製品及び被告各製品は,ライン状の光
を照射する光照射装置(ライン光照射装置)であるところ,仮に画像
処理LED照明一般という,ライン光照射装置よりも広いカテゴリの
シェアで一審原告が1位であり,そのシェアが2割を超えていたとし
ても,被告各製品の販売がなかった場合に,これに対応する2割の需
要が原告各製品に向かい,原告各製品を購入する蓋然性が高いという
ことはできない。
さらに,3)については,原告各製品の種類が多いからといって,被
告各製品の販売がなかった場合にはこれに対応する需要は原告各製品
に向かう割合は極めて高いということはできない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
・・・
b 原判決61頁16行目から62頁12行目までを次のとおり改める。
「b(a) 特許法73条2項は,特許権が共有に係るときは,各共有者
は,契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を
得ないでその特許発明の実施をすることができる旨規定してい
るから,各共有者は,上記の場合を除き,自己の持分割合にか
かわらず,無制限に特許発明を実施することができる。
そうすると,特許権の共有者は,自己の共有持分権の侵害に
よる損害を被った場合には,侵害者に対し,特許発明の実施の
程度に応じて特許法102条2項に基づく損害額の損害賠償を
請求できるものと解される。また,同条3項は特許権侵害の際
に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であ
ると解されることに鑑みると,特許権の共有者に侵害者による
侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情
が存在しないため,同条2項の適用が認められない場合であっ
ても,自己の共有持分割合に応じて,同条3項に基づく実施料
相当額の損害額の損害賠償を請求できるものと解される。
しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2
項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行
為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみ
ならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものである
といえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分
権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有
者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ,
この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが
相当である。
以上を総合すると,特許権が他の共有者との共有であること
及び他の共有者が特許発明の実施により利益を受けていること
は,同項による推定の覆滅事由となり得るものであり,侵害者
が,特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したと
きは,同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条
3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され,また,
侵害者が,他の共有者が特許発明を実施していることを主張立
証したときは,同条2項による推定は他の共有者の実施の程度
(共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額
の限度で覆滅されるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,一審原告と三菱化学は,本件期
間1及び2において,本件特許権を持分2分の1の割合で共有
していたことは,前記aのとおりであるが,一方で,その期間
中に,三菱化学が本件再訂正発明を実施したことについての立
証はない。
そうすると,本件期間1及び2に係る販売分についての本件
推定は,三菱化学の共有持分割合による同条3項に基づく実施
料相当額の損害額の限度で覆滅されるというべきある。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)7532
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2020.11.11
平成28(ワ)35157 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年3月24日 東京地方裁判所
少し前の事件です。
損害額の算定について、2件の特許侵害があり、102条2項による額はいずれかの特許の侵害による損害額であると判断されました。
しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特
許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく
請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され
る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10
2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅
延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる
場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許
権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。
そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原
告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等
の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を
下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や
損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を,
原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。
そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について
検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア 前記前提条件(4)(5)のとおり ,被告LEDは被告製品に搭載されて販
売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ
シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか
るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能\をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト
の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとしてもLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事\n実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告
製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような
被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい
うことは困難というべきである。
そして,前記前提条件(4)のとおり被告製品の販売による利益額は、被
告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円
であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である
こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製
品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー
のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ
と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L
EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が
それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円
(≒●(省略)●円×〔1−0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ
れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算
すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米
ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格
の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお,
証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし
900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの
単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ
るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。\n以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ
いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ
いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相
当である。
イ これに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利
益額は100円を下回らない旨主張する。
しかしながら,前記前提条件(4)によれば 被告製品の販売による利益額
は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)●
円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円
(≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる
利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約
●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって,
上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に
照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用
できない。
ウ 以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の
額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損
害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
・・・
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売
し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が,
対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183)
を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。
他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の
店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売\n価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価
格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。
被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0
211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した●
(省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証
拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当
たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され
た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか
ったものと推認される。
このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告
の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考
慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも
商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。
(ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて
被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章
が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係
にないと主張する。
原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお
り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう
という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー
カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情
は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。
◆判決本文
◆イ号および本件商標
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2020.07.13
令和1(ネ)10067 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月18日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
102条2項の推定覆滅として7割を認めた1審判断が維持されました。
(2) 推定の覆滅について
ア 当裁判所も,特許法102条2項による損害額の推定(上記(1))は,7
割の限度で覆滅され,さらに,第2及び第3特許を一審原告及びミサワホ
ームが共有していることから,同社が有する損害賠償請求権の相当額14
63万7125円についても推定が覆滅され,この結果,一審原告の損害
額は,原判決と同様に4867万8376円であると認定する。その理由
は,次のとおりである。
イ 第2及び第3特許の技術的意義とその位置付け
第2及び第3特許の技術的意義についての検討は,原判決39頁18行
目から42頁11行目までの記載のとおりなので(ただし,原判決42頁
同10行目の「幅方向へ」から11行目末尾までを「幅方向へ移動しない
ようにする点,及び,台輪の接続部の嵌合部と被嵌合部が,台輪本体の長
手方向の向きを逆にしても接続するように構成されている点(効果4)であると認められる。」と改める。),これを引用する。これによると,第2特許の技術的意義は,台輪本体の延在方向に沿って\nテーパ部を設けることによって,布基礎の凸部に干渉されることなく台輪
本体を略水平な状態で布基礎の天端面に設置することができること(効果
2)であり,第3特許の技術的意義は,台輪の両端部に設けられた接続部
を嵌合可能な構\成とすることにより,台輪が幅方向に移動しないようにす
ることができること(効果3)と,当該接続部の嵌合部と被嵌合部が,台
輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続するように構成されていること(効果4)であると認められる。そうすると,第2特許,第3特許は,いずれも台輪全体に関する特許という形になってはいるものの,第2特許は\n台輪本体の側面縁部(延在方向),第3特許は台輪両端部に設けられた接
続部という,台輪のごく一部に技術的特徴が存するのにすぎないのである
から,実質的には,特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合に
当たるものと解される。したがって,推定覆滅が認められるかどうかは,
特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発
明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮して判断すべきものである。
ウ 推定覆滅に関する判断(その1:第2及び第3特許の顧客誘引力等)
推定覆滅に関する判断の前提となる基礎的事情は,原判決42頁12行
目から45頁13行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
以上に基づいて,まず,第2特許の顧客誘引力等について判断するに,
第2特許の技術的特徴であるテーパ部は,本件被告カタログで挙げられた
6点の特徴の中には挙げられておらず(テーパ部に関しては,「素手で持
っても痛くありません」という,第2特許の技術的特徴とは異なる特徴と
の関係で挙げられているのにすぎない。),また,一審原告のカタログ等
においても,甲20の1,2のカタログには「両端に天端モルタルのバリ
逃げ」との説明が付された一審原告の製品の図が小さく掲載されているの
みであるし,最も詳しい説明のある甲21のパンフレットには,「バリ逃
げ」が項目として取り上げられている(第2発明の技術的特徴に関する具
体的言及も存在する。)ものの,11点の特徴のうちの1点として位置付
けられているのにすぎず,大きな特徴という取扱いはされていない。しか
も,被告第2製品におけるテーパ部は,高さ1mm,幅2mmという極めて小
さなものであるため,布基礎の凸部による干渉を避ける効果も極めて限定
されたものであり,第2特許の技術的特徴が十分に発揮されているとは到底いえないものといわざるを得ないから,仮に第2特許そのものには相応の顧客誘引力があるとしても,被告第2製品のテーパ部は,その顧客誘引\n力を十分に発揮しているとはいい難い。このように考えると,被告第2製品における第2特許の顧客誘引力は,極めて限定されたものであるというべきである。\n
次に,第3特許の顧客誘引力等について判断すると,この点についても,
本件被告カタログが挙げる6点の特徴には,明示的な言及はされていない
(「スピード施工」との記載はあるが,「スピード施工」が可能となる理由は様々あり得るのであるから,これによって,第3特許の技術的特徴について言及されたとはいえない。また,説明写真の中には,「連結構\造」についての言及はあるものの,連結構造そのものが第3特許の技術的特徴とはいえないことは既に指摘したとおりであるし,第3特許の技術的特徴\nである嵌合部に関しては全く言及がない。)。また,一審原告のカタログ
等においても,甲20の1,2のカタログには何ら言及はなく,最も詳し
い説明のある甲21のパンフレットにも,「7 継手嵌合 キソパッキンロングを連結するための,凹凸の形状です。」という記載があるのみで,嵌合部については説明があるものの,第3特許の技術的特徴に関連する記\n載は全くない。このように考えると,第3特許の技術的特徴は,被告第2
製品においてはもとより,一審原告の製品においても,大きな意味がある
ものとしては取り扱われていないと判断せざるを得ない。したがって,被
告第2製品における第3特許の顧客誘引力も非常に限定されたものにとど
まるというべきである。
以上の点に,前述のとおり,第2特許の技術的特徴である側面縁部のテ
ーパ部,及び第3特許の技術的特徴である接続部は,いずれも,台輪本体
のごく一部を占めるにすぎないこと等を総合的に考慮すると,本件におい
ては,特許法102条2項による推定が,7割の限度で覆滅されるという
べきである。
一審被告は,推定覆滅が少なくとも8割の限度で認められるべきである
として種々主張するが,第2,第3特許の顧客誘引力に関していう点につ
いては既に判示したとおりであって,採用することができない。また,被
告第2製品に競合品が存するとはいえないことは原判決37頁16行目か
ら39頁1行目までに記載されたとおりであり,被告第2製品に易切断領
域が設けられていることが推定覆滅に影響を及ぼすものではないことは原
判決39頁2行目から17行目までに説示されたとおりであって,これら
に関する主張も採用することはできない。
他方,一審原告は,7割の推定覆滅には根拠がないとして種々主張する
が,この点に関しては,既に説示したとおりであって,やはりその主張は
採用することができない。
エ 推定覆滅に関する判断(その2:ミサワホームに生じた損害)
この点に関する判断は,原判決47頁1行目から17行目までに記載の
とおりであって,ミサワホームに生じた損害1463万7125円の限度
で,推定が覆滅されるべきであると認められる。
オ 一審原告の損害額
この点に関する判断は,原判決47頁18行目から23行目までに記載
のとおりであって,一審原告の損害額は,一審被告の利益額2億1105
万1670円に,推定が覆滅されない割合3割を乗じ,その結果からミサ
ワホームに生じた損害額1463万7125円を控除した残額である48
67万8376円であると認められる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)7576
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2020.03.25
平成28(ワ)4815 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月20日 大阪地方裁判所
大阪地裁26部で、102条2項により13億を越える損害賠償(代理人費用含む)が認められました。9割覆滅されています。
特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者
が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,こ
れと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,そ
の立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が
生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,そ
の利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規
定である。このような趣旨に鑑みると,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為
がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存在する場合には,同項の
適用が認められると解すべきであるとともに,同項所定の侵害行為により侵害者が
受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当
であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解される。
(イ) 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告による本件特許権
侵害行為の期間(平成20年〜平成28年)において,スクリュ圧縮機に相当する
圧縮機ユニット又はスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに相当するコンデンシン
グユニットである原告各製品を製造し,プラント業者等に販売していたことが認め
られる。
他方,証拠(乙39,78,81,82,85,93,99,110)及び弁論
の全趣旨によれば,被告は,平成20年〜平成28年にかけて,油冷式スクリュ圧
縮機である被告製品2−2及び2−3が組み込まれたスクリュ式ガス圧縮システム
であるNewTonシステムを使用した冷凍・冷蔵プラントである被告製プラントを販
売した一方,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3を,国内においては別
個独立に販売することはなかったこと(なお,国外向けには,被告のグループ会社
に単体又は単独で販売し,当該グループ会社がシステムを完成させて顧客に販売す
ることはあった。)が認められる。
このように,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2−2
及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売する
という形で本件特許権侵害行為を行っているから,本件特許権侵害行為における侵
害品は,上記NewTonシステムとするのが相当である。
そして,NewTonシステムと原告各製品が組み込まれたシステムとは,上記のと
おり,冷凍・冷蔵プラントの需要者を需要者とする点で共通する以上,NewTonシ
ステムと原告各製品の需要者も,その面では共通する部分があるといえる。
したがって,本件においては,原告に,被告による本件特許権侵害行為がなかっ
たならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえることから,特許法
102条2項の適用が認められる。
(ウ) これに対し,被告は,原告各製品がスクリュ圧縮機等であるのに対し,被告
が販売するのは被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用し
た被告製プラントであることを指摘して,特許法102条2項の適用は認められな
いと主張する。
しかし,被告指摘に係る事情は,要するに特許権者である原告と侵害者である被
告との間の業務態様の相違(ひいては市場の非同一性)を指摘するものであるとこ
ろ,このような事情を考慮しても,原告各製品と被告製品2−2及び2−3とは,
上記(ア)のような形で市場においてなお競合関係にあると見るのが相当であるから,
特許法102条2項の適用を否定すべき事情とはいえない。被告指摘に係る当該事
情は,同項に基づく損害額の推定を覆滅する事情として考慮すれば足りる。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額
(ア) 侵害者がその侵害の行為により受けた「利益の額」(特許法102条2項)は,
侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりそ
の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であ
り,その主張立証責任は特許権者側にあると解される。
前記アのとおり,本件における侵害品は被告製品2−2及び2−3が組み込まれ
たNewTonシステムであるから,本件特許権侵害行為により被告が受けた「利益の
額」は,その売上高から,被告においてNewTonシステムの製造販売に直接関連して
追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額を算定するのが相当である。
これに対し,被告は,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であること,
原告自身が侵害品を圧縮機として特定していること,NewTonシステムから圧縮機だ
けを分離可能であることなどを指摘して,本件の侵害品は,NewTonシステムではな
く,圧縮機本体を中核とする被告製品2−2及び2−3であると主張する。
しかし,前記アのとおり,本件の侵害品はNewTonシステムとすることが相当であ
り,このことは,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であることなどに
より左右されない。NewTonシステムから圧縮機を物理的に分離可能であるとしても,\n前記アのとおり,被告においては基本的にこれを別個独立に販売しておらず,この
部分の譲渡による利益を直接的に観念し得ない以上,同様であり,被告製品2−2
及び2−3がNewTonシステムの一部分であることは,損害額の推定を覆滅する事情
として考慮すれば足りる。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(イ) NewTonシステムの販売台数
証拠(乙85,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,被告が販売した
NewTonシステムの販売台数は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜
「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「NewTon台数」欄に各記載のとおりであ
ることが認められる。
b これに対し,被告は,被告が販売したNewTonシステムのうち,本件特許権の
存続期間中に受注し,存続期間満了後に製造を終えて納入したものについては,本
件特許権の存続期間中に,存続期間満了後に行われた適法な譲渡についての申出が\n行われたにすぎないから,本件特許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にすべ
きではないと主張する。
しかし,被告は,本件特許権の存続期間中に「譲渡の申出」を行った上で受注し\nており,この時点で顧客との間の請負契約が成立している以上,製造及び納入の完
了が本件特許権の存続期間満了後であったとしても,これによる原告の損害は,な
お本件特許権の存続期間中の侵害行為である「譲渡の申出」と相当因果関係にある\n損害というべきである。そうすると,これに係る「譲渡」による販売分も,本件特
許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にするのが相当である。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) NewTonシステム1台ごとの売上額
a NewTonシステムは,前記ア(イ)のとおり,基本的に冷凍・冷蔵プラントとは
別個独立のものとして販売されていないものの,証拠(乙39,92,110)及
び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた
NewTonシステムの「定価」を設定し,そのNewTonシステムを使用した被告製プラ
ントを販売するに当たって,当該「定価」を見積書に記載するなどして顧客に対し
見積りを示した上で,被告製プラントを販売していることが認められる。
そうすると,NewTonシステム1台ごとの売上額を算定するに当たり,当該「定
価」に依拠することには合理性がある。
他方,証拠(甲23,乙100,119)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,
NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売に当たり,「出精値引」などと
して,冷凍・冷蔵プラントを構成する部品価格の合計額から値引きして販売する例\nがあったことが認められる。もっとも,全ての取引において値引きが行われたこと
を認めるに足りる事情はなく,また,プラントを構成するいずれの部品が値引き対\n象とされたかも不明であるから,上記売上額の算定に当たり値引き分を考慮するこ
とは合理的でない。
以上を踏まえると,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステ
ム1台ごとの売上額は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTon
システムの利益額算定表(4)」の「定価(単価)」欄に各記載のとおりであると認め
られる。
これに対し,被告は,NewTonシステム1台ごとの売上額は,その実質的な販売
価格に相当する●(省略)●により算定すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙39,92,93)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシス
テムの●(省略)●は,被告の製造部門が販売部門に販売処理手続を行う際の設定
される価格にすぎず,被告は,この●(省略)●を上回る価格を「定価」として設
定した上で,NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売していることが認
められる。すなわち,●(省略)●「定価」においてこれが反映されているものと
理解される。そうすると,顧客に対する関係では,●(省略)●は実質的な販売価
格とはいえない。
したがって,NewTonシステム1台ごとの売上額の算定に当たりその●(省略)
●を基礎とすることは合理性を欠き,相当でない。この点に関する被告の主張は採
用できない。
b 593番代替機及び6048番転用機について
証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利益額算
定表(5)」の対象となっている593番代替機は,106番機の代替機として,顧客
に無償で譲渡されたことが認められる。そうすると,106番機と593番代替機
の販売は一連の取引によるものといえる。このような経緯を踏まえると,106番
機と593番代替機の販売については,106番機1台分の売上額●(省略)●円
をもって2台合計の売上額として算定するのが相当である。
また,証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利
益額算定表(6)」の対象となっている6048番転用機は,同一の顧客に対して61
8番機2台と共に合計3台として納品されたこと,この取引におけるNewTonシステ
ムの代金は2台分の代金とされたことが認められる。このような経緯を踏まえると,
2台分の売上額である●(省略)●円(●(省略)●円×2)をもってこれら3台合
計の売上額として算定するのが相当である。
以上に反する原告の主張は採用できない。
(エ) NewTonシステム1台ごとの経費
a 前記(ア)のとおり,控除すべき経費は,侵害品の製造販売に直接関連して追加
的に必要となったものをいい,例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運
送費等がこれに当たる。これに対し,例えば,管理部門の人件費や交通・通信費等
は,通常,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たら
ない。
b 控除すべき経費
(a) 製造原価
証拠(乙39,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステム1
台ごとの製造原価は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTonシ
ステムの利益額算定表(4)」の「製造原価(単価)」欄に各記載のとおりであること
が認められる。
(b) その余の経費
被告は,上記製造原価のほかに,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた
NewTonシステムの製造工場に係る間接人件費並びに販売費及び一般管理費を控除
すべき旨を指摘する。
まず,間接人件費についてみると,間接人件費は,正に管理部門の人件費である
ところ,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造
販売に直接関連して,間接人件費に相当する費用が追加的に発生したと見るべき事
情は見当たらない。そうすると,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた
NewTonシステムの製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず,
控除すべき経費に当たらない。
次に,販売費及び一般管理費についてみると,証拠(乙75,84,109)及
び弁論の全趣旨によれば,上記(a)の製造原価には,社内加工費及び艤装作業費が含
まれていることが認められるところ,これを除くと,証拠(乙78,101)及び
弁論の全趣旨によっても,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシス
テムの製品の製造販売に直接関連して,販売費又は一般管理費に相当する費用が追
加的に発生したと見るべき事情は見当たらない。そうすると,被告指摘に係る販売
費及び一般管理費は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステム
の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず,控除すべ
き経費に当たらない。
したがって,被告の上記指摘は当たらない。
(c) 被告の主張について
そもそも被告は,最小二乗法を用いて限界利益率を算定するのが管理会計学上確
立した方法であるとして,本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額を算定
するに当たっても,最小二乗法を用いるのが合理的であると主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受
けた利益の額として算定すべき額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者におい
て侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要とな
った経費を控除した限界利益の額であり,被告主張に係る管理会計学上の限界利益
の額とは必ずしも一致しない。また,算定の目的を異にする以上,侵害者が受けた
「利益の額」(特許法102条2項)の算定に当たり,管理会計学上の限界利益の
額の算定方法である最小二乗法を用いないとしても,不合理であることにはならな
い。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
ウ 推定の覆滅について
(ア) 基礎となる事情
a NewTonシステム及び被告製品2−2及び2−3等について
(a) NewTonシステムの特徴及び販売促進活動
NewTonシステムは,平成19年にNewTon3000が商品化され,平成20年以降,
被告製プラントに使用される形で販売されており(甲8の3,乙45),基本的に,
冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとしては販売されていない。被告製品2−
2及び2−3のみならず,被告製品2は,いずれもNewTonシステム専用の圧縮機で
あり(甲3),NewTonシステムを使用した被告製プラントを購入する際には,必然
的に購入することになるところ,これらも,NewTonシステムと同様に,基本的に別
個独立のものとして販売されていない。また,NewTon3000は,IPMモーターを
搭載することなどにより,従来式に比べて20%の省エネを実現するとされ,発売
開始当初は年間200台,10年後には年間800台の販売を目標にしていた(乙
45,116)。
被告は,その後もNewTonシステムの開発を継続し,平成24年にはチルド専用の
NewTonC,フリーザー専用のNewTonF等のシリーズ展開が行われ,平成28年ま
でに累計●(省略)●台以上を販売した。さらに,被告は,平成28年7月,省エ
ネ性を保ちつつ,冷媒充填量の削減,メンテナンス性の向上及び小型・軽量化を達
成したフリーザー専用の機種として,F-300,F-600等の販売を開始した(甲8の3,
乙45)。
NewTonシステムは,被告自ら開発したIPMモーターを搭載することなどによっ
て,より高度な経済性と省エネルギー性を実現する点,令和2年に全廃されるフロ
ン冷媒対策として,自然冷媒であるアンモニアで二酸化炭素を冷却するという間接
冷却方式を採用するとともに,アンモニアを機械室に閉じ込める構造によりその安\n全な利用を可能とし,さらに,漏洩センサー等を装備するなどしてアンモニアが漏\n洩しても素早い対応が取れるようにしている点,コンパクトなユニット設計を採用
することで導入を容易としている点,遠方監視システム及び保全診断システムなど
24時間365日のサポート体制を設けている点等に特徴があるとされ,これらの
点が強調された形で販売促進活動が行われていた(甲8の3,乙38,45)。
なお,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3の宣伝広告物には,本件明細
書記載の本件発明の作用効果に直接言及し,又はこれを具体的にうかがわせる記載
は見られない(甲3,8の3,乙38,66の1)。
(b) NewTonシステムを導入した業者によるNewTonシステムについての評価
被告は,その作成に係る「Customer’s Point of View」と題する記事において,
NewTonシステムを導入した顧客の導入の動機,導入後の成果等を紹介していると
ころ,これには,以下のような記載がある。
・・・
(b) 原告各製品の取扱業者による販売促進活動
・・・・
(イ) 検討
a 前記認定のとおり,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告
製品2−2及び2−3を独立して販売しておらず,また,これらを組み込んだ
NewTonシステムについても同様であり,被告製品2−2及び2−3を組み込んだ
NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売している。他方,原告は,スク
リュ圧縮機又はこれに凝縮器を付加した原告各製品を販売しているにとどまり,プ
ラントという単位でみると,「セットメーカ」などといわれる別の業者が需要者に
対して提案するパッケージに組み込まれて販売されるという関係にある。このよう
に両者の業務形態が大幅に異なることは,本件の侵害品であるNewTonシステムへ
の需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。この
ため,仮に被告製品2−2ないし2−3を組み込んだNewTonシステムが販売され
なかったとしても,原告各製品のいずれかが被告製品2−2又は2−3に直接代替
されることは考え難い。他方,そのような場合に,被告製品2−2及び2−3の譲
渡数量に対応する需要の全部又は一部が原告各製品の組み込まれたシステムを使用
したプラントに向かうことはあり得ることから,その場合は,結果的に,上記需要
が原告各製品に向かったことになる。もっとも,原告は,プラントを構成する圧縮\n機を販売するにとどまり,プラント全体の構成及び価格の決定や需要者に対する販\n売促進活動において及ぼし得る影響力には限りがあると思われる。
以下では,このような観点も踏まえて,推定覆滅の有無及び程度を検討する。
b 被告製品2−2及び2−3は,本件発明の技術的範囲に属するものである以
上,基本的には本件発明の作用効果を奏すると考えられるところ,被告製品2−2
及び2−3において,本件発明の作用効果を奏していないという事情はうかがわれ
ない。この点,被告は,被告製品2−2及び2−3が本件発明の作用効果を奏する
ものではない旨主張するが,採用できない。
もっとも,本件発明の作用効果は,スラスト軸受の負荷容量を大きくすること,
バランスピストンの受圧面積を大きくすること,逆スラスト荷重状態の発生をなく
すことなど,単純かつコンパクトな構造で,振動,騒音を低減させることができる\nというものであり,技術的にはさておき,本件発明の実施品ないしこれを組み込ん
だシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしも
いえない。このことは,被告製品2−2及び2−3につき,被告がその販売促進活
動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと,NewTonシステム
に対する外部的な評価においても,本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見
当たらず,これを示唆するものもないこと,特許権者である原告自身も,スクリュ
圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付
けられる。そうすると,本件発明の作用効果それ自体には,それほど強い顧客吸引
力はないと見るのが相当である。
また,弁論の全趣旨によれば,NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力
の中核を成す部分であり,被告製品2−2及び2−3は,NewTonシステムを稼働
させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで,NewTonシステムの
顧客吸引力を検討すると,被告は,NewTonシステムの販売促進活動において,省
エネ,安全性,サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。し
かも,被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は,表彰の受賞理由とされ,\nまた,その導入の動機となり,現にその実績も上がっているとされるなど,第三者
からも積極的に評価されていることがうかがわれる(なお,原告は,省エネや安全
性が本件発明の作用効果であるとも主張するけれども,NewTonシステムにおける
省エネや安全性はIPMモーターや間接冷却方式を採用するなどしたことによるも
のであり,本件発明の作用効果とは無関係と見られることから,この点に関する原
告の主張は採用できない。)。
c 被告製品2−2及び2−3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占め
る割合は,被告製品2−2及び2−3の技術的・商業的価値を直接的に反映したも
のではないが,これを推し測る一事情とはなるところ,被告製品2−2及び2−3
がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても,NewTonシ
ステムの製造原価における被告製品2−2又は2−3の製造原価の割合は,●(省
略)●にとどまる。
d NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの
販売実績は,アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリ
ュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると,原告及び
被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることか
ら,NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりであ
る●(省略)●。また,被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込ま
れる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと,原告の製造に係る
製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると,被
告が非侵害品を販売していたり,販売することが容易であったりすれば,仮に被告
製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとして
も,需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使
用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。
そして,被告は,被告製品2−2及び2−3以外にも,本件発明を侵害しない
NewTonシステム専用品として,被告製品2−1を製造しており,これによって被
告製品2−2及び2−3に代替することが考えられる。なお,原告は,被告製品2
−1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれ
ども,現に納入実績がある以上,需要者の需要を満たすものである限り,被告製品
2−1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。\nまた,被告は,本件特許権侵害行為当時,被告製品2以外にはNewTonシステム
専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの,弁論の全趣旨によれば,
NewTonシステムにおいて,本件特許権の侵害を回避するために,例えば油ポンプ
を加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく,また,コス
ト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると,被告製プラントを
欲する需要者の要望に対し,既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し,
本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には,
本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2−
1しかなく,また,上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ,推
定を覆滅すべき事情としては,この点も考慮するのが合理的である。この点につき,
原告は,競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張
するが,上記のとおり,これを採用することはできない。
e 被告は,被告のNewTon事業の限界利益率が,原告の圧縮機事業の限界利益
率を上回ることを前提に,特許法102条2項により算定された利益の額が,特許
権者である原告がその実施能力に基づき得られたであろう利益の額を上回る場合は,\nその限度で覆滅されると主張する。
しかし,仮に被告のNewTon事業の限界利益率が原告の圧縮機事業の限界利益率
を上回るとしても,それをもって原告の圧縮機事業の実施能力が被告のNewTon事
業の実施能力に劣ることを意味するものではないから,被告の上記主張は,その前\n提を欠く。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
f 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告製品2−2及び2
−3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった
場合に,これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮
機,更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく,
むしろ,そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると,本件では,9
割の限度で,特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である。
この点に関する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
エ 以上によれば,原告の逸失利益の額は,別紙「損害額算定表(裁判所認定)」\nの(3)欄のとおり,合計12億5428万1900円であると認められる。
◆判決本文
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2020.03. 4
平成31(ネ)10003 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月28日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特別部、いわゆる大合議の判断です。102条1項但し書きについて、販売に寄与した割合(寄与度)ではなく、利益に貢献した割合を考慮するとしました。
「本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原
告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原
告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特
許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。」
知財高裁は、最近、寄与度という用語を使用しないという傾向を打ち出しています。特別部として明確化したということでしょうか。
特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損
害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,特許法102条
1項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下
「特許権者等」という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位
数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する\n数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減
少数量の立証責任の転換を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的
とする規定である。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が「侵害行為が
なければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を
受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権
者等の製品であれば足りると解すべきである。
また,「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から特許権者
等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的
に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は,
特許権者等の実施の能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。さらに,特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については,侵害\n者が主張立証責任を負い,このような事情の存在が主張立証されたときに,当該事
情に相当する数量に応じた額を控除するものである。
(2) 侵害の行為を組成した物の譲渡数量
ア 前記3ないし5のとおり,被告製品の譲渡行為は,本件特許権2を侵害
するものであり,被告製品は「侵害の行為を組成した物」に該当する。
イ 一審原告が本件訴訟において損害賠償請求をしている不法行為の期間で
ある平成27年12月4日から平成29年5月8日までの期間(以下「本件侵害期
間」という。)の被告製品の譲渡数量は下記のとおりであり,被告は総計35万17
24個,月平均2万0690個程度の被告製品を譲渡したことになる(争いがない。)。
被告製品1(DR−250A) 7万1077個
被告製品2(DR−250C) 14万1135個
被告製品3(FS−800) 1万5114個
被告製品4(DR−250P) 8万2584個
被告製品5(DR−250G) 1万8526個
被告製品6(DR―250SW) 8263個
被告製品7(JDR−300) 416個
被告製品8(DR−260BK) 6088個
被告製品9(DR−260C) 8521個
ウ 被告製品は,ディスカウントストアや雑貨店に卸売販売されることが中
心であり,一審被告作成の文書では1万5000円(税抜)の価格表示がされているものが多いが(甲7〜13),実際には,3000円ないし5000円程度の価格で販売されている(乙85〜93)。\n被告製品は,ゲルマニウムの粒を使用したゲルマミラーボールと説明されている
が,後記の原告製品のように微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構は有していない(甲7〜13)。
(3) 侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
ア 侵害行為がなければ販売することができた物
前記(1)のとおり,「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行
為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市
場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は,本件発
明2の実施品として,「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の
美容器(以下「原告製品」という。)を,平成21年2月以降販売しており(甲23,
24,弁論の全趣旨),原告製品は,「侵害行為がなければ販売することができた物」
に当たることは明らかである。
原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,支持軸に回転可能\に支
持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上
げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器(弁論の全趣旨)であり,搭
載されたソーラーパネルにより,微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構\を
有している(甲23)。
原告製品は,原告の店舗,大手通販業者,百貨店,家電量販店で販売され,希望
小売価格である2万3800円(税抜)又はこれに近い価格で販売されている(甲
23,乙94〜108)。
一審原告は,平成27年10月から平成29年8月までの間に,125万641
0個の原告製品を販売しており(月平均5万4626個〔1個未満切り捨て〕),最
も少ない月(平成28年1月)でも1万8770個,最も多い月(平成28年12
月)には8万5492個を販売した(甲38)。
イ 単位数量当たりの利益の額の意義
前記(1)のとおり,特許法102条1項所定の「単位数量当たりの利益の額」は,
特許権者等の製品の売上高から,特許権者等において上記製品を製造販売すること
によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益
の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
ウ 原告製品の限界利益の額
(ア) 売上高及び製造原価
平成27年10月から平成29年8月までの間の原告製品の販売数量は125万
6410個,売上高は合計132億4606万1089円であり,製造原価は●●
●●●●●●●●●●●である(甲38,39)。
(イ) 製造原価以外の控除すべき費用
a 前記(ア)の期間における一審原告の全製品の売上高は合計671億0
968万1552円であり(甲40),一審原告の全製品に対する原告製品の売上比
率は19.74%となる(132億4606万1089円÷671億0968万1
552円≒0.1974)。
b また,前記(ア)の期間における原告製品が含まれる「ReFa」ブラ
ンドの製品全体の売上高が342億0958万6196円であり(甲28),同売上
に占める原告製品の売上比率は38.72%となる(132億4606万1089
円÷342億0958万6196円≒0.3872)。
c 前記(ア)の期間における原告製品の製造販売に直接関連して追加的に
必要となった費用は,前記(ア)の製造原価のほか,後記(1)〜(9)のとおりであり,その
額は,(1),(3),(4),(6)〜(9)については,一審原告の全製品について生じた各費用(甲
40)に前記aの比率を乗じた額であり,(2)及び(5)については,「ReFa」ブラン
ドの製品について生じた各費用(甲32,33)に前記bの比率を乗じた額である
(1円未満切り捨て)。
(1) 販売手数料 ●●●●●●●●●●●●
(2) 販売促進費 2億5798万4777円
(3) ポイント引当金 741万7870円
(4) 見本品費 5343万9379円
(5) 宣伝広告費 5億2075万3024円
(6) 荷造運賃 4億5578万0084円
(7) クレーム処理費 6548万5934円
(8) 製品保証引当金繰入 590万2260円
(9) 市場調査費 1038万5182円
(1)から(9)までの合計額 ●●●●●●●●●●●●●
d 一審被告は,原告製品の売上高から,一審原告の全ての費用を,原
告製品の売上比率に従って控除すべきであると主張する。
しかし,前記(1)のとおり,特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数
量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規
定であり,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売
することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を上記の損害額としたも
のである。このように,同項の損害額は,侵害行為がなければ特許権者等が販売で
きた特許権者等の製品についての逸失利益であるから,同項の「単位数量当たりの
利益の額」を算定するに当たっては,特許権者等の製品の製造販売のために直接関
連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく,管理部門の人件費や交通・
通信費などが,通常,これに当たる。また,一審原告は,既に,原告製品を製造販
売しており,そのために必要な既に支出した費用(例えば,当該製品を製造するた
めに必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も,売上高から控除する
のは相当ではないというべきである。
一審被告が,売上高から控除すべきであると主張する上記費用のうち,前記cの
(1)〜(9)の費用以外の費用は,全て上記の売上高から控除するのが相当ではない費用
に当たるというべきであるから,一審被告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告製品の限界利益の額は,原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア)
の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円で
あり,これを,前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除
すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546.
03円。1円未満切り捨て)となる。
(エ) 前記第2の2で認定した本件発明2の特許請求の範囲の記載及び前記
1で認定した本件明細書2の記載からすると,本件発明2は,回転体,支持軸,軸
受け部材,ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが,軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下,この部分を「本件特徴部分」という。)。\n原告製品は,前記アのとおり,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから,本件特徴部分は,原告製品の一部分である\nにすぎない。
ところで,本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発
明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によ
って得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定される
というべきである。
そして,原告製品にとっては,ローリング部の良好な回転を実現することも重要
であり,そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の
内周面の形状も,原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。
しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回
転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器である
から,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソ\ーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められ
る。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに
貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額
を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上
記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。
そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が
本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合
考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。
この点に関し,一審被告は,原告製品全体の製造費用に占める軸受けの製造費用
の割合を貢献の程度とすべき旨主張するが,上記の推定覆滅は,原告製品の販売に
よる利益に対する本件特徴部分の貢献の程度に着目してされるものであり,当該部
分の製造費用の割合のみによってされるべきものではない。また,一審被告は,原
告製品においては,ローラの抜落の防止機能が不十\分であるから,軸受けの貢献度
は低い旨主張するが,一審被告が根拠とする乙138(原告製品に関するブログの
記載)から,原告製品においてローラの抜落の防止機能が不十\分であると認めるこ
とはできず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。よって,上記主張はいずれ
も採用できない。
以上より,原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては,原告
製品全体の限界利益の額である5546円から,その約6割を控除するのが相当で
あり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,2218円(5546円×0.4
≒2218円)となる。
(4) 実施の能力に応じた額
特許法102条1項は,前記(1)のとおり,侵害者の譲渡数量に特許権者等の製品
の単位数量当たりの利益の額を乗じた額の全額を特許権者等の受けた損害の額とす
るのではなく,特許権者等の実施の能力に応じた額を超えない限度という制約を設けているところ,この「実施の能\力」は,潜在的な能力で足り,生産委託等の方法により,侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能\な場合も実施の能力があるものと解すべきであり,その主張立証責任は特許権者側にある。そして,前記(3)アのとおり,一審原告は,毎月の平均販売個数に対し,約3万個
の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから,この余剰能\力の範囲
内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当である。したがって,一審原告は,一審被告が本件侵害期間中に販売した被告製品の数量\nの原告製品を販売する能力を有していたと認められる。
(5) 一審原告が販売することができないとする事情
ア 前記(1)のとおり,特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の
全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以
下「販売できない事情」という。)があるときは,販売できない事情に相当する数量
に応じた額を控除するものとすると規定しており,侵害者が,販売できない事情と
して認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場
合には,同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。
そして,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品
の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,(1)特許権者と侵害者
の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合
品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品及び特許権者の
製品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの
事情がこれに該当するというべきである。
イ 以下,一審被告が販売できない事情として主張する事情について検討す
る。
(ア) 一審被告は,原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を,
販売できない事情として主張する。
a 本件においては,前記(2)ウ,(3)アのとおり,原告製品は,大手通
販業者や百貨店において,2万3800円又はこれに近い価格で販売されているの
に対し,被告製品はディスカウントストアや雑貨店において,3000円ないし5
000円程度の価格で販売されているが,このように,原告製品は,比較的高額な
美容器であるのに対し,被告製品は,原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程
度の廉価で販売されていることからすると,被告製品を購入した者は,被告製品が
存在しなかった場合には,原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきで
ある。したがって,上記の販売価格の差異は,販売できない事情と認めることがで
きる。
そして,原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからす
ると,同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと
認められる。
一方で,上記両製品は美容器であるところ,美容器という商品の性質からすると,
その需要者の中には,価格を重視せず,安価な商品がある場合は同商品を購入する
が,安価な商品がない場合は,高価な商品を購入するという者も少なからず存在す
るものと推認できるというべきである。また,前記(3)アのとおり,原告製品は,ロ
ーラの表面にプラチナムコートが施され,ソ\ーラーパネルが搭載されて,微弱電流
を発生させるものであるから,これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高
いということができ,したがって,原告製品は,その販売価格が約2万4000円
であるとしても,3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者
の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると,原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。\n
b このように,原告製品と被告製品との価格の差異は,需要者の購入
動機に影響を与えているといえるが,大手通販業者や百貨店において商品を購入す
る者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験
則があるとは認め難いから,価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態
様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差
異は,販売できない事情として認めることはできないというべきである。
(イ) 一審被告は,競合品が多数存在することを,販売できない事情として
主張する。
平成31年4月の時点で,原告製品と被告製品の同種の製品として,少なくとも
29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176,弁論の全趣旨)が,
本件証拠上,本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に,
市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りな
いから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。
(ウ) 一審被告は,本件発明2は軸受けについての発明であるところ,被告
製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず,
軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。
しかし,本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に
原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから,
重ねて,これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。
(エ) 一審被告は,軸受けの部分は外見上認識することができず,代替技術
が存することなどを販売できない事情として主張する。
しかし,一審被告の主張する上記の事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも
当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に,
被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがっ
て,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
(オ) 一審被告は,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しているが,被告製品はそのような機構\を有していないことを販売できない事情として主張する。確かに,前記(3)アのとおり,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しており,一方で,被告製品はそのような機構\を有していないが,このことは,被告製品は,原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった
場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって,
上記の点は,販売できない事情と認めることはできない。
(カ) 一審被告は,一審被告の営業努力を,販売できない事情として主張す
るが,本件証拠上,一審被告に,販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努
力があったとは認められない。
ウ 以上によれば,本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情を考慮する
と,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相
当である。
(6) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっ
ては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原
告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原
告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特
許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告
の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を
考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定は
なく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を
認めることはできない。
(7) 損害額の算定
以上からすると,特許法102条1項による一審原告の損害額は,被告製品の譲
渡数量35万1724個のうち,約5割については販売することができないとする
事情があるからその分を控除し,控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの
利益額2218円に乗じることで,3億9006万円(2218円×35万172
4個×0.5≒3億9006万円)となる。
また,一審被告による本件特許権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用
は,認容額,本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考
慮して,5000万円と認めるのが相当である。
したがって,一審原告の損害額は,合計で4億4006万円となる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)5345
本件発明2の技術の利用が被告製品の販売に寄与した度合いは高くなく,上記事情を総合すると,その寄与率は10%と認めるのが相当である。
・・・
上記アないしオで検討したところによれば,特許法102条1項による原告の損
害額は,被告製品の譲渡数量35万1724個のうち,5割については販売するこ
とができないとする事情があるから控除し,これに原告製品の単位数量当たりの利
益額●(省略)●円及び本件特許2の寄与率10%を乗じることで,・・・
関連する審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(行ケ)10032
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2020.02.27
令和1(ネ)10046 特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年11月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁3部は、侵害を認めた1審判断を維持しました。なお、判決文がテキストデータになっていないため、OCR処理しましたが、誤字についてはご了承ください。
当審における補充主張に対する判断
控訴人は,本件明細書等の記載によれば,本件各発明の効果は, ドラ
イパビットの翼部の屈曲部l乙ネジの翼係合部の屈曲部が接触することに
よるものであるとし,これを前提に,被告製品は本件各発明の効果を奏
しないと主張する。
本件明細書等の段落【0003), 【0004】, 【0008】,
【図1】の記載からは,従来技術においては,食い付き部分を有する
ネジを含む従来のネジにおいて,翼係合部とドライパピットの翼部と
の引っ掛かりが悪いことやドライパピットがネジに対して傾いた状態
であることにより更ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象
が生じ易いという課題が存するところ,本件各発明の「側壁面」の構\n成を採用すると,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネ
ジに対してドライパピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した
側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,
前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛か
りがよくなるため, ドライバピットがカムアウトしにくくなり,上記
課題が解決されることが理解できる。
そして「食い込む」とは「他の領域へ入りこんで侵す。侵入す
る。」 (乙10 1) ことであるから,本件明細書等の段落【0008】
の「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面
が食い込むJとは,回転力を加えることにより, ドライパピットの翼部
とネジの翼係合部が接触する箇所において, ドライパピットの翼部の側
面がネジの翼係合部の側壁面を確実に把握し,引っ掛かりがよくなるこ
とを意味するものと解され,本件各発明の効果を奏するために, ドライ
パピットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することが必須で
あるということはできない。また,控訴人の指摘する本件明細書等の段
落【0014], 【0017]及び【0022]にも, ドライバピット
の翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することの記載はない。
控訴人は,本件意見書2の図A,B等は, ドライパピットの翼部の屈
曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することを裏付けると主張するが,
本件明細書等の上記記載に照らせば,本件意見書2の各図は上記判断を
左右するものではない。
(イ) 控訴人の主張によっても,専用ピットの翼部の先端が被告製品の
「先端部内側面Jに点状に接触するというのであるから,被告製品に
おいても, ドライパピットに回転力を加えた際に当該接触した箇所で
食い込みが生じ,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなり, ドライ
パビットがカムアウトしにくくなるという効果を奏すると解され,被
告製品において本件各発明の効果を奏しないということはできない。
本件特許に係る無効理由の有無(争点2) について
(1) 本件特許に係る無効理由の有無(争点2) についての判断は,次のとお
り補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほか
は,原判決第4の・・・記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決56頁24行目「動機」を「動機付け」と改める。
イ原判決57頁19行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライパピットの食い付き部分は
周知技術であり,出願当初の明細書等の実施例に当該周知技術について記
載がされていないとしても,それは本件各発明が当該周知技術を備えるこ
とを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明の技術
的範囲に当該周知技術の構成を備えたネジが含まれるとしても,構\成要件
1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かつて延びる平面状の基端側
部分」との発明特定事項を追加する本件手続補正が新規事項の追加となる
ものではない。
また,本件明細書等の段落【0003], 【0004】, 【0008],
【図1】の記載からは,本件各発明の「側壁面」の構成を備えることによ\nり,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネジに対してドライ
パピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状
に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確
実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため, ドライパピ
ットがカムアウトしにくくなるという本件各発明の効果が得られることが
理解でき(本判決第3の2(3)ウ(7)参照。), 「食い付き部分」の有無は
本件各発明の課題の解決に影響する構成とはいえない。したがって,控訴\n人主張の点は,サポート要件適合性を否定するものではないというべきで
ある」
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 乙13考案及び乙5-8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如
(争点2- 1) について
控訴人は,食い付き部分に関し,屈曲した二平面とR面を相互に代替す
ることは当業者の技術常識であると主張するo しかし,食い付き部分と本
件各発明の「側壁面」は,目的も機能も異なり,食い付き部分の構\成に関
する技術常識を側壁面に適用することはできなし、から,控訴人の主張は採
用できない。
イ 乙13考案並びに乙12考案及び乙5〜8公報に開示された周知技術に
よる進歩性の欠知(争点2-2) について
控訴人は,乙12考案の効果は本件各発明の「食い込む」ことにより
「カムアウトがしにくくなる」効果と実質的に同質の効果であるから,
乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能にお\nいて共通し,両者を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし,
乙12考案の「切込溝3Jは錆びついたピスを容易に抜くために設けた
ものであるのに対し,乙13考案の「円弧E-Fからなる溝」は, ドラ
イパーのねじ込み力を完全に受け止めるために設けられたものであって,
これらの考案の課題は全く異なることは,上記引用に係る補正された原
判決第4の5に説示したとおりであり,乙13考案に乙12考案を組み
合わせる動機付けがあるということはできない。
ウ補正要件違反又はサポート要件違反の有無について(争点2-3) につ
いて
控訴人は,本件各発明の「屈曲」について,翼部の屈曲した側面に,対
応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲J,
すなわち, ドライパピットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネ
ジの翼係合部の屈曲部が深く内部に入り込むほど接触することを要すると
限定解釈しないとすると,本件各発明の課題である「ドライパピットがカ
ムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライパピットを
提供するJ (【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを
特許請求の範囲に含むことになると主張する。しかし, ドライパビットが
カムアウトしにくい(回動部から外れにくし、)ネジとの課題を解決するに
つき, ドライパピットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触す
る(食い込む)ことが必須であるといえないのは前記2(1)イ及び(2)に説
示したとおりでありこれを前提とする控訴人の主張は採用できない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28(ワ)14753
被告は,本件意見書1における,「引用文献2〜4」のネジと本件各発
明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載は,本件各発明の特許請求の範囲か\nら,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意\n識的に除外する趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の\n技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されな
いと主張する。
イ しかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある。
(ア) 本件手続補正は,請求項1について「引用文献2〜4記載の発明との
相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定
した」ものであり,請求項2について「引用文献2〜4記載の発明との
相違が明確になるようにネジの翼係合部(2)の緩め側側壁面(9)の
形状をより細かく限定したもの」である。(乙10の2頁)
(イ) 「引用文献2」(乙6)記載の発明は,「本来の意味においては,各
翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献2記載の発明
の場合,各翼係合部の両側壁面は,それぞれ全体が1つの平面状をなし
ており,全く屈曲されていない」点で本件各発明と異なる。
引用文献2記載の発明において「強いて回動部の中心部の円弧面状の
部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本願発
明のような優れた作用効果を全く果たさない。(乙10の4頁)
(ウ) 「引用文献3」(乙7),「同4」(乙8)記載の発明においても,
「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的
には,引用文献3,4記載の発明の場合,本来の意味での各翼係合部の
両側壁面は,軸方向から見ると扇形の両辺(直線状部)をなす平面状の
部分のみである」点で本件各発明と異なる。
引用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合
部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネ
ジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い
付き部を構成する部分」であって,「前記R部分(食い付き部分)は,\nネジの締め付けおよび緩め動作自体には直接関係のない部分」にすぎな
い。
「引用文献3,4」記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係
合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても,これらの部分は,平
面状ではなく,円弧面状の部分であり,かつネジの中心側から外方に向
かって延びていない」ので,本件各発明とは構成が異なる。\n 引用文献3,4記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部
の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本件各発明の作用効果
は生じない。(乙10の5頁)
ウ 本件意見書1の上記記載によれば,原告は同意見書において,「引用文
献2〜4」記載の発明に係る構成と本件各発明に係る構\成が異なることを
説明するとともに,仮に同各文献の構成が対応する本件各発明の構\成に相
当するとしても,同各文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないとい
うことを説明しているにすぎないのであって,上記記載をもって,本件各
発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の
部分)を有する構成を意識的に除外しているということはできない。\n
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2020.02.20
平成30(ネ)10031 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月20日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
実施していない共有者が存在する場合、102条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されると判断されました。
1審原告は,特許法102条2項に基づく推定額から共有に係る特許権者である
訴外会社に生じた損害額を控除することはできない旨を,1審被告らは,侵害者の
得た利益の額を共有者の持分権の割合によって按分した額を当該共有者の受けた損
害額と推定すべき旨を,それぞれ主張する。
民法の原則の下では,特許権侵害による特許権者の損害の賠償を求めるためには,
特許権者において損害の発生及び額等につき主張立証しなければならないところ,
前記のとおり,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設
けられたものであり,加害行為がなかった場合に想定される利益状態と加害行為に
よって現実に発生した不利益状態とを金銭的に評価した場合の差額を「損害」とし
て把握し,その填補賠償を目的とするという点で,民法上の不法行為による損害賠
償制度の枠内にあるものであることに違いはない。特許権の共有者は,それぞれ,
原則として他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるも
のの(特許法73条2項),その価値の全てを独占するものではないことに鑑みる
と,特許法102条2項に基づく損害額の推定を受けるに当たり,共有者は,原則
としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定されると解するのが相当であ
り,共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の割合を基準とすることは合
理的でない。なお,本件では,引用に係る原判決指摘のとおり,原告製品は本件発
明の実施品と認めるに足りる証拠はないものの,原告製品と被告製品とは市場にお
いて競合関係にあるものといえる。このため,前記のとおり特許法102条2項の
適用が認められることから,本件においても上記と同様に解するのが相当である。
もっとも,特許発明の実施品(又は侵害品と競合する特許権者の製品)の販売利
益の減少等による特許権者の逸失利益と,侵害者から得べかりし実施料の喪失によ
る逸失利益とは,類型的にその性質を異にするものである。また,共有者の一部が
当該特許発明を実施しなかったとしても(又は侵害品と競合する製品の製造等を行
っていなかったとしても),共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は,特許
権の共有者の一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものであ
る以上,実施料相当額の逸失利益を観念することは可能であり,特許法102条3\n項もこのことを前提とするものと理解される。そうである以上,同条2項による損
害額の推定に基づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使す
るに当たっては,同条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持
分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されるとするのが合
理的である。
また,1審原告は,本件における特別の事情として,訴外会社の1審被告らに対
する損害賠償請求権が1審原告に債権譲渡されていることを指摘する。
しかし,当該請求権は本件における1審原告固有の損害賠償請求権とその発生原
因を異にし,訴外会社の1審被告らに対する債権譲渡の結果,1審原告の下に両立
していると考えられること,1審原告が,債権譲渡を受けた損害賠償請求権を行使
しないで,固有の損害賠償請求権のみの行使を主張する旨明言していることなどに
鑑みると,本件においては,結果として同一人に帰属しているからといって,結論
を異にすべき事情ということはできない。
その他1審原告ないし1審被告らがるる指摘する事情を考慮しても,この点につ
いてのそれぞれの主張はいずれも採用できない。
ウ 推定覆滅事由の存否(争点9)について
(ア) インターネット上のサイトに見られる原告製品及び被告製品に関する宣伝
文句に鑑みると,引用に係る原判決の認定のとおり,原告製品及び被告製品は,い
ずれも脚口部分が前方に突出するように構成され,脚口部分及びお尻の部分がずり\n上がらないという特徴を有する点で共通すると認められるところ,これらは,本件
発明の作用効果に係るものということができる。また,原告製品及び被告製品は,
いずれも,これらの機能に関係する形状を除き,そのデザイン面で特徴的というべ\nき形状ないし装飾は存在しない。ただし,原告製品にはハイウエストタイプの製品
及びテンセル素材の製品が存在しないのに対し,被告製品には存在するところ,丈
のタイプ及び素材は,いずれも下肢用衣料にとって重要な要素である着心地に直接
関わる要素であり,ハイウエストタイプやテンセル素材を好む需要者も一定程度存
在することは容易に推察されること,他方で,被告製品の販売実績に占める割合等
から,この点が需要者の購買に及ぼす影響は,限定的ながらも存在すると考えるの
が相当である。
(イ) 価格については,一般に,同種かつ同程度の機能等の製品相互間では,製\n造者・販売者のブランド力等様々な要素が需要者の購買行動に影響するものの,価
格の顧客誘引力も大きな影響力を持つといえること,その影響力の程度は,製造者
等のブランド力等の影響をも受けつつ,製品相互間の機能面等での差異の程度に応\nじて相対的に変化することは,経験則上明らかである。その意味で,市場において
競合関係にあり,その機能面でも同種かつ同等ないし類似する関係にあると見られ\nる製品における価格帯の相違は,推定覆滅事由として考慮されることがあり得ると
いうべきである。もっとも,本件においては,原告製品と被告製品との価格差をも
って,顧客誘引力の点で大きな影響を及ぼすものとまでは認められない。
(ウ) 販売形態の相違について,1審被告らは,何らかの理由で店頭での商品購
入のみを行い,インターネット販売を利用しない需要者の存在を主張する。
しかし,これを具体的に裏付けるに足りる的確な証拠はないし,現在のインター
ネット利用可能な端末それ自体やインターネット上での日用品取引の普及状況等に\n鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事由とはいえな
い。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成26(ワ)7604
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2020.02.17
平成29(ワ)7532 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月16日 大阪地方裁判所
本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう部分はごく限られるとして、特102条2項による推定の覆滅が、認められました。
本件再訂正発明の技術的意義は,LED基板のサイズを同一にして,部品点数
及び製造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さくして,
汎用性を向上させることができる点にある。このような技術的意義は,光照射装置
としての性能の向上に必ずしも直結するものではないといえるものの,ライン状の\n光を照射する光照射装置の製造者にとっては,これにより製品の販売価格をより廉
価とし得ることで競合品との価格競争力を高め得ることその他のメリットを期待し
得る。他方,そのような製品の使用者(需要者)にとっては,販売価格のより廉価
な製品を購入し得るというメリットはあるものの,それ以外には,メリットがある
としても乏しいものと思われる。このため,本件再訂正発明の実施により他の競合
品の価格より競争力がある程度に廉価な製品を製造,販売しているのでなければ,
本件再訂正発明の実施による顧客吸引力は乏しいと評価すべきことになる。
しかるに,証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば,原告各製品及び被告各製
品を含むライン状の光を照射する光照射装置(別紙競合品(被告主張)一覧表記載\nの各製品)の市場における実勢価格は,おおむね同程度であり,また,当該市場に
おいて原告及び被告の各シェアは,いずれもトップにはないと認められる。被告各
製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4,13)においても,本件再訂正
発明の実施により,光照射装置としての性能が向上していること,部品点数及び製\n造コストの削減を図ることができていること又はこれを前提として他社製品より廉
価で販売可能であることなどをうかがわせる宣伝文句は見られず,他方で,「業界最\n高クラスの光量を実現」,「驚異の明るさを実現」と,被告各製品の機能を宣伝文句\nとしており,被告各製品に対する需要は,販売価格というよりもむしろ光量の大き
さといった機能によって喚起されたことがうかがわれる。\nしかも,上記のような市場の状況にあるにもかかわらず,前記認定のとおり,原
告は,本件再訂正発明を実施しているとは認められない。
そうすると,本件再訂正発明は,その実施により光照射装置の性能を必ずしも向\n上するというものではなく,また,販売価格の面でも,実施によるコスト削減に伴
い他社製品との価格競争上同程度の地位に立つことを可能にすることはあり得ると\nしても,価格競争上他社より優位に立ち得る程度のメリットをもたらすものとまで
はいえないと見られる。これを需要者の側から見ると,本件再訂正発明の実施品で
あることは,そのこと自体により直ちに需要者の購買意欲を高めるものとはいえな
いことになる。すなわち,本件再訂正発明は,その性質上,顧客吸引力は必ずしも
高くないものと評価すべきである。
(イ) もっとも,被告が約5年間にわたって本件再訂正発明を実施していたことに
鑑みると,本件再訂正発明を実施することに経済的な意義がないとは考え難く,少
なくとも,被告各製品の販売価格が,ライン状の光を照射する光照射装置の市場に
おいて,他社製品に後れを取ることがない程度となることに本件再訂正発明の作用
効果が影響していると考えることには合理性がある。
(ウ) 証拠(甲3,4,13,乙37)によれば,原告各製品及び被告各製品を含
むライン状の光を照射する光照射装置の製品としての特徴は,別紙競合品(被告主
張)一覧表記載のとおりと認められる。本件においては,原告各製品と被告各製品\nとが市場において競合関係に立つ製品であることが前提となるところ,これを踏ま
えて上記製品のうち被告各製品及び原告各製品以外のものを見ると,いずれも原告
各製品及び被告各製品と用途例が共通しており(同一覧表の「用途欄」において,\n具体的な用途が「不明」とされているものも,少なくとも原告各製品及び被告各製
品と同様の用途に用い得るとうかがわれる。),長さ寸法及び発光色も対応してい
る。前記認定のとおり,これらの製品の価格帯もおおむね同程度である。他方,こ
れらの製品の冷却方式は様々であるものの,被告各製品はいずれも自然空冷である
一方,原告各製品には自然空冷だけでなくファン空冷のものもあることに照らせば,
その違いは競合関係を否定する事情とまではいえない。また,前記のとおり,本件
再訂正発明の実施によって光照射装置としての性能が向上するとはいえない。色及\nびサイズ展開の点も,機能面で大きな差異を生じるのでなければ,需要者にとって\nは必要とする特定の色及びサイズに対応した製品であれば足り,製品ラインナップ
として多色展開していることや,希望サイズに対応するためにLED基板を複数とす
るか1枚の基板で対応するかといったことは,需要者にとっては必ずしも重要でな
いと思われる。
これらの事情に鑑みると,これらの製品は,原告製品及び被告各製品と市場にお
いて競合関係に立つ製品であると認められる。
そうすると,原告各製品及び被告各製品の競合品としては,ライン状の光を照射
する光照射装置を想定するのが相当であり,多色展開していて,複数のLED基板を
ライン方向に直列させることで多数のサイズ展開をしているライン状の光を照射す
る光照射装置に限られないというべきである。
(エ) 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告各製品の販売がな
かった場合に,これに対応する需要が全て原告各製品に向かったであろうと見るこ
とに合理性はなく,むしろ,本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう
部分はごく限られると考える。そうすると,本件では,●(省略)●の限度で特許
法102条2項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。
これに対し,原告は,本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいと主張するとともに,
競合品は,多色展開していて,複数のLED基板をライン方向に直列させることで多
数のサイズ展開をしているライン光照射装置に限られるなどと主張する。しかし,
上記のとおり,この点に関する原告の主張は採用できない。
(オ) そうすると,被告が本件特許権侵害行為によって得た利益の額は,別紙「損
害額算定表」の(3)欄のとおりであり,937万0447円であると認められる。
これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない
・・・
(カ) 共有者の存在について
a 前記のとおり,本件特許権は,被告による特許権侵害行為の継続した期間の
うち,その始期である平成24年7月から平成26年11月21日までの間,原告
と三菱化学との共有に係るものであった。
特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないでその特許
発明の実施をすることができるが(特許法73条2項),その価値の全てを独占す
るものではないことに鑑みると,同法102条2項に基づく損害額の推定を受ける
に当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定さ
れると解するのが相当であり,共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の
割合を基準とすることは合理的でない。
もっとも,特許発明の実施品又は侵害品と競合する特許権者の製品に係る販売利
益の減少等による特許権者の逸失利益と,侵害者から得べかりし実施料の喪失によ
る逸失利益とは,類型的にその性質を異にするものである。また,共有者の一部が
当該特許発明を実施したり,侵害品と競合する製品の製造等を行ったりしていなか
ったとしても,共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は,特許権の共有者の
一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものである以上,実施
料相当額の逸失利益を観念することは可能であり,同法102条3項もこのことを\n前提とするものと理解される。そうである以上,同条2項による損害額の推定に基
づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使するに当たっては,
同条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持分割合による同条
3項に基づく特許発明の実施に対し受けるべき金銭相当額の限度で一部覆滅される
とするのが合理的である。
これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
b なお,原告は,三菱化学から,その共有に係る特許権に基づく被告に対する
損害賠償請求権を譲渡されたと主張する。しかし,証拠(甲16)及び弁論の全趣
旨を総合しても,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。この点に関する原
告の主張は採用できない。
そこで,三菱化学の賠償請求し得る損害額を特許法102条3項に基づき算
定する必要があるところ,同項による損害額は,原則として,侵害品の売上高を基
準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。実施に対
し受けるべき料率を定めるに当たっては,当該特許発明の実際の実施許諾契約にお
ける実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮
に入れつつ,当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他の
ものによる代替可能性,当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益へ\nの貢献や侵害の態様,特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟
に現れた諸事情を総合的に考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
まず,料率について,「実施料率〔第5版〕」(甲17)によれば,「民生用電
気機械・電球・照明器具」(イニシャル無)の技術分野における平成4年度〜平成
10年度の実施料率の平均値は4.6%であり,昭和63年度〜平成3年度に比較
してほぼ横ばいとなっている。また,平成4年度〜平成10年度の実施料率の最頻
値及び中央値はいずれも4%である。なお,上記技術分野は,民生用電気機械器具
製造技術及び電球・電気照明器具製造技術であり,具体的には,電球,蛍光灯,ネ
オンランプ等の電球ないし電気照明器具のほか,電気アイロン,暖房用電熱器,扇
風機,電気洗濯機,電気冷蔵庫等を含む。
次に,本件再訂正発明の価値及び他のものによる代替可能性については,推定覆\n滅に関する前記事情に鑑みると,価値的には必ずしも高いとはいえず,また,競合
品による代替の余地は大きく,売上げに対する貢献の程度も同様である。
さらに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告は,長年にわた
って競業関係にあることが認められる。
これらの各事情を斟酌すると,本件において,本件特許権の実施に対し受けるべ
き料率は,●(省略)●とするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張
は,いずれも採用できない。
他方,本件特許権が共有されていた期間(本件期間1及び本件期間2)における
被告製品1〜6の売上高が●(省略)●円(本件期間1:●(省略)●円,本件期
間2:●(省略)●円)であることは,当事者間に争いがない
d なお,被告は,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき
料率を算定することが不合理であると主張する。しかし,前記のとおり,被告製品
1〜6が本件再訂正発明の作用効果を全く奏していないとはいえないし,その程度
が乏しいとしても,その点は実施に対し受けるべき料率の算定に当たって斟酌すれ
ば足りるのであって,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき
料率を算定することが不合理であるとまではいえない。したがって,この点に関す
る被告の主張は採用できない。
e 以上より,三菱化学に生じた損害の額は,別紙「損害額算定表」の(4)欄のと
おり,合計26万6379円であると認められる。
◆判決本文
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2020.02.14
平成28(ワ)42833等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月7日 東京地方裁判所
漏れていたので、アップします。国際裁判管轄、差止請求等に係る訴えの利益、技術的範囲の属否、間接侵害、無効理由など、争点は満載なので、判決文が200頁以上あります。認められた損害額も40億円を超えています。
(1) 特許法102条2項の適用の有無(争点11−1)
原告は,被告らが特許権侵害行為により利益を受けているとして,特許法
102条2項の適用があると主張するのに対し,被告らは,原告が本件発明
1を実施していないこと,また,本件発明1は被告製品の販売に何ら寄与し
ていないことから,被告製品の販売と原告の損害との間には因果関係がなく,
特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が存在しないから,特許法102条2項の適用がないと
主張する。
そこで検討するに,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかった
ならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法10
2条2項の適用が認められると解すべきであり,特許法102条2項の適用
に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とす
るものではないというべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015
号同平成25年2月1日判決参照)。
そうすると,原告が本件発明1を実施していないことは,特許法102条
2項の適用を妨げる事情とはいえない。また,原告は,被告製品と同様にL
TO−7規格に準拠する原告製品を販売しており(弁論の全趣旨),原告製
品と被告製品の市場が共通していることからすれば,特許権者である原告に,
侵害者である被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法
102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。被告らが主
張する,被告製品の販売における本件特許1の寄与の程度については,推定
覆滅の一事情として考慮すべきである(後記(4)参照)。
以上のとおり,被告らの主張は採用することができず,原告の損害額の算
定については,特許法102条2項の適用による推定が及ぶ。
(2) 輸出を伴う取引形態における利益の範囲(争点11−2)
被告OEM製品の取引形態のうち,取引形態2(被告OEM製品の製造業
者である被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出し,海外において被告
SSMM自身の在庫として保有しているものを,被告ソニー又は被告SSM\nSを介して海外の顧客に販売する取引形態)によって被告らが得た利益につ
いて,特許法102条2項の推定が及ぶか否かについて検討する。この点,
被告らは,取引形態2によって得られた利益は,全て海外での販売行為によ
り発生したものであるから,属地主義の原則から,これには上記推定が及ば
ないと主張する。
弁論の全趣旨(被告準備書面(7))によれば,被告OEM製品の取引形態
2は,具体的には,(1)平成27年12月から平成29年3月までは,被告S
SMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告
ソニーに対して販売し,さらに,被告ソ\ニーが,これを顧客に対して販売し
ており,(2)平成29年4月から同年9月までは,被告SSMMが,被告OE
M製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告SSMSに対して販
売し,さらに,被告SSMSが,これを被告ソニーに対して販売し,その後,\n被告ソニーが,これを顧客に対して販売しており,(3)平成29年10月以降
は,被告SSMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した
後に,被告SSMSに対して販売し,さらに,被告SSMSが,これを顧客
に対して販売したことが認められる。
上記事実に照らせば,被告OEM製品の取引形態2における販売行為は,
形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われ
ているものである。しかしながら,被告OEM製品は,その性質上,被告ら
(本件期間(1)においては被告ソニー及び被告SSMM)が,本件OEM供給\n先(HPE及びQuantum)の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対し
てのみ販売することが予定されていたものであるから,被告SSMMが被告\nOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し,被告ソニーや被告SSMS\nに販売し,さらに被告ソニーや被告SSMSがこれを顧客(本件OEM供給\n先)に販売するという一連の行為が行われた際には,その前提として,当然,
当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意
思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造
と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認するこ
とができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM
製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には
被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価する
ことができる。被告らは,被告SSMMが本件OEM供給先から提供を受け
たフォーキャストと,実際の被告OEM製品の受注は必ずしも一致しないこ
とから,被告SSMMの製造・輸出と,その後の販売行為は独立した別々の
行為である旨主張するが,被告SSMMは本件OEM供給先から提供される
フォーキャストで示された予想される発注量に基づいて被告OEM製品を製\n造し,被告らはこれを販売していたものであるから,月々のフォーキャスト
と受注が必ずしも一致しないことをもって,被告らの行為ないしその意思決
定の一連性が否定されるものではない。また,被告らは,本件OEM供給先
からの被告OEM製品の受注,被告OEM製品の海外倉庫からの出庫(海外
倉庫の管理を含む)及びOEM顧客への発送,並びにOEM顧客に対する請
求を,各国に本拠地を有する各現地協力会社に委託しており,これらの業務
は全て,日本国内ではなく海外において行われたものであるとも主張するが,
単に事実行為の一部を海外の協力会社に委託していたと主張するにすぎない
ものであって,上記一連の行為の意思決定が実質的に日本国内で行われてい
たと評価することができるという上記結論を何ら左右するものではない。
加えて,少なくとも,本件特許権1の侵害行為である被告OEM製品の国
内での製造及び輸出が被告らによる共同不法行為であると認められる(前記
7参照)以上,被告らによる販売行為が,全て被告SSMMが被告OEM製
品を海外に輸出した後に行われたものであるとしても,被告らの販売行為に
よる利益は,被告らによる国内における上記共同不法行為(被告OEM製品
の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害)
ということができ,侵害行為により受けた利益といえる。
したがって,取引形態2によって被告らが得た利益についても,特許法1
02条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の
特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義
の原則とは整合するというべきである。これに反する被告らの主張は採用で
きない。
・・・
(4) 推定覆滅事由の存否及びその割合(争点11−4)
ア 被告製品が本件発明1の作用効果を奏していないとの主張について
被告らは,被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成している\nことにより,裏写りを十分に抑制することができていること,また,本件\n発明1の構成要件1Cを充足する製品としない製品の保存試験(乙204,\n206)の結果などから,被告製品が本件発明1の作用効果を奏していな
いと主張する。
しかしながら,前記5(4),(5)説示のとおり,本件明細書1・表1の記\n載からは,磁性層表面及びバックコート層表\面の10μmピッチにおける
スペクトル密度,磁性層の中心面平均表面粗さ,六方晶フェライト粉末の\n平均板径のそれぞれが本件発明1−1に規定された範囲内である実施例は,
比較例よりも保存前後のSNRの変化が小さいことを読み取ることができ,
そこから,本件発明1により発明の課題を解決することができるものと理
解できるから,そうである以上,本件発明1の技術的範囲に属する被告製
品は本件発明1の作用効果を奏していると認められ,これを覆すに足りる
証拠はない。
これに対し,被告らは,被告製品が本件明細書1の実施例に記載されて
いる磁気テープとは材質・組成等が異なるものであり,構成要件を充足す\nるからといって当然に明細書に記載されている発明の効果を奏すると認め
られるものではないと主張するが,本件明細書1の実施例に記載されてい
る磁気テープと被告製品とは材質・組成等が異なるとしても,そのことに
よって被告製品が本件発明1の発明の効果を奏していないものと認めるに
足りる証拠はない。被告らはその他るる主張するが,いずれも上記結論を
左右しない(なお,原告の製品が本件発明1の実施品でないとする主張に
ついては,その主張の根拠である測定結果(乙116,117)が前記4
(2)イ(ア)の説示に照らして信用できないから,採用できない。)。
なお,被告らが主張する,被告製品が硬度の高い磁性層表面を形成して\nいる点について検討するに,確かに,証拠(乙197ないし199)によ
れば,磁性層表面が硬いほど裏写りが生じにくいことが認められ,また,\n本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した被告製品において,\n高温保存の前後でエラーレートに有意な変化は生じなかったこと(乙20
4)からすれば,本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した\n被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成していること(原告は\n特に争っていない)によって,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑えら
れているものと認められる。
(なお,原告は,甲96の実験を根拠に,磁性層の硬度を高めたとして
も裏写りは防止できないと主張するが,同実験においては,磁気テープの
硬度の指標として引張り強度が用いられているところ,裏写りによる磁気
テープの電磁変換特性の悪化を防止するための磁性層の硬度の指標として
は,押込み強度が用いられるべきである(乙197・段落【0024】,
【0026】,乙205)から,同実験によっても,磁性層の硬度(押込
み強度)を高めた場合に裏写りが防止できないものと認めることはできな
い。また,原告は,エラーレートの検証がなぜ本件発明1の作用効果の検
証につながるのか説明がないなどと主張するが,磁気テープにおいて電磁
変換特性が悪化した場合,エラーレートが上昇すること(乙204)から
すれば,エラーレートの変化を検証することで電磁変換特性の変化も検証
できるものと考えられる。)。
しかしながら,一方,証拠(乙206)によれば,本件発明1の構成要\n件1Cを充足する被告製品においても,高温保存の前後でエラーレートに
有意な変化は生じず,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑制されている
ものと認められるが,上記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被
告製品は本件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製
品において,硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明\n1の作用効果を超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足り
る証拠はない。
イ 本件発明1の作用効果が被告製品の購入動機となっていないとの主張に
ついて
被告らは,被告製品の顧客は,本件発明1の作用効果に着目して被告製
品を選択しているわけではなく,本件発明1の作用効果が被告製品の購入
動機となっていないと主張する。
そこで検討するに,特許法102条2項の趣旨からすれば,同条項の推
定を覆滅させる事由として認められるためには,特許権侵害がなかったと
しても,被告製品の販売等による利益(の一部)は原告に向かわなかった
であろう事由の存在が必要である。したがって,被告製品の顧客の購入動
機が単に本件発明1の作用効果に着目していなかったというのでは足りず
(ゆえに,被告製品のパンフレットに本件発明1の作用効果がセールスポ
イントとして記載されていないのみでは推定覆滅事由足りえない。),被
告製品の顧客の購入動機が,被告製品の独自の技術や性能に着目したもの\nであったことを具体的に主張立証する必要がある。
そして,被告らは,被告製品の顧客の主要な購入動機として,被告製品
が大記録容量及び高速データ転送速度を実現した製品である点,記録媒体
としての磁気テープの利点(保存時に通電が不要である点等),単一ドラ
イブを用いて時期テープカートリッジへのデータ記録を行った場合におけ
る,記録容量,転送レート及び記録速度の安定性(原告製品と比較してよ
り優れた性能を有すること)を挙げるが,これらの点が被告製品独自のも\nのであることや,仮に独自のものであったとしても,それが原告製品と比
較して異なる程度,及び,これらの点が被告製品の顧客の主要な購入動機
となっていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に本件特許権1の
侵害がなかったとしても,これらの点のために,被告製品の販売等による
利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めるには足りない。
なお,前記アのとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品は本
件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製品において,
硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明1の作用効果\nを超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足りる証拠はない
し,仮に,被告製品において,磁性層の素材の硬度を高めることにより本
件発明1と同様な独自の作用効果を一部奏しているとしても,そのような
被告製品独自の作用効果がどの程度生じているのかは不明である上,その
点が被告製品独自の購入動機となっていたとも認められない(被告自身が
本件発明1の作用効果は購入動機となっていない旨主張している。また,
被告製品の広告(甲97)では,データの長期保存について記載されてい
るところ,本件発明1の作用効果である長期保存後の裏写りの防止は,デ
ータの長期保存に資するものであるから,被告製品が本件発明1の作用効
果を有していることは,間接的には購入の動機の一因になっているものと
考えられるが,上記のとおり,そのような作用効果ひいては購入の動機が
被告製品独自の構成によって生じたり,高められたりしたものと認めるこ\nとはできない。)。したがって,仮に,被告製品が磁性層の素材の硬度を
高めることで本件発明1の作用効果を一部奏しているとしても,そのこと
によって,仮に本件特許権1の侵害がなかった場合に,被告製品の販売等
による利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めることはで
きない。
ウ 以上のほか,被告らは,本件発明1の技術的範囲に属さない代替製品を
製造・販売することできたことも主張するが,現にそのような代替製品を
製造・販売していたものではなく,その可能性にとどまるものであるから,\n推定覆滅事由として認めることはできない。
したがって,特許法102条2項の推定を覆滅させる事由を認めること
はできない。
◆判決本文
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2020.01.30
平成29(ワ)6334 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月16日 大阪地方裁判所(21部)
102条2項に基づく損害として約1000万円が認められました。経費として、「単に被告らの従業員が被告製品の製造に関与しているというだけでは,侵害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を要したと認めることはできず・・」と判断されています。
まず,原告の主位的主張について検討すると,被告らは被告製品を製造販
売等し,被告製品の包装箱には「発売元」として被告ナプラが,「製造販売元」と
して被告ビー・エス・ピーが記載されていたこと,その株主及び代表取締役が同一\nであることを踏まえると,被告らは原告に対して共同不法行為に基づく損害賠償責
任を負うというべきである。
そして,原告と被告ナプラは理美容室向け毛髪化粧品の分野の競業企業であり,
原告は被告製品と競合する「エルジューダ サントリートメント セラム」という
UVケアオイル(アウトバストリートメント)を販売しているから(弁論の全趣旨),
特許権者である原告に,被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得ら
れたであろうという事情が存在すると認めることができる。したがって,本件には
特許法102条2項が適用される。
(2) 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵
害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその
製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり,
その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである(知財高裁令和元年6
月7日判決・最高裁ウェブサイト)。
このような観点から,被告らの利益額を検討するが,被告らに共同不法行為が成
立することから,被告らを一個の製造,販売の主体と見て,被告らにいくらの利益
が生じたかという観点から検討する。
ア 被告製品の売上金額
被告らが一旦,被告製品1を1万0056個販売し,その売上金額が737
万5231円(税込)であったこと,被告製品2を4716個販売し,その売上金
額が557万6552円(税込)であったことは,当事者間に争いがない。
もっとも,被告らは,原告が損害賠償を請求している平成29年2月2日から平
成31年4月2日までの被告製品の出荷分についても返品があったとして,その売
上金額を差し引くべきと主張する。
そこで,この点について検討すると,上記期間の出荷分に返品があり,その返品
に係る売上金額が計上されない場合には,被告らにそれに相当する利益があったと
いえないことは明らかである。したがって,特許法102条2項の利益の額の算定
に当たっては,上記期間の出荷分に返品があった場合には,売上金額の算定に当た
って,返品に係る売上金額を控除すべきである。
そして,上記期間における被告製品の返品数は,乙39及び弁論の全趣旨によれ
ば,被告製品1が124個(その売上金額は,合計9万1065円(税込)),被
告製品2が21個(その売上金額は,合計2万4948円(税込))と認められる。
原告は,返品されたのは平成29年2月1日以前の出荷分である旨主張するが,
乙39記載の返品時期に照らし,同月2日以降の出荷分である可能性は否定できず,\n前記認定に反する証拠があるわけでもないから,被告らに上記金額に相当する売上
げないし利益が生じたことを認めるには足りないというべきである。
したがって,被告製品の販売個数及び売上金額は,次のとおりと認められる。
販売個数 売上金額(税込)
被告製品1 9932個 728万4166円
被告製品2 4695個 555万1604円
合計 1万4627個 1283万5770円
イ 被告らの経費の額
(ア) 商品原価
被告らは,乙27記載の各経費を控除すべきと主張するのに対し,原告は
これを否認して争い,予備的に,被告製品1について204円/個,被告製品2に\nついて330円/個の限度で控除するにとどめるべきと主張する。そこで,乙27
記載の各経費について,控除の可否を検討する。
a バルク原価(原料原価,調合光熱費及び調合手間)
乙40及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売するに
当たり,バルク原価として,原料原価及び調合光熱費を要したと認められ,その性
質上,これらは侵害者である被告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売する
ことによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たると認め
られる。そして,上記書証等によれば,原料原価は(中略)円/kg,調合光熱費は
(中略)円/kgを下らないと認められるところ,これによれば,被告製品1個当た
りのこれらの費用は,被告製品1について(中略),被告製品2について(中略)
を下らないと認められる。
これに対し,乙40では「調合手間」もバルク原価に含み,これは調合作業の人
件費に相当するものと説明されている。しかし,単に被告らの従業員が被告製品の
製造に関与しているというだけでは,侵害品である被告製品の製造販売に直接関連
して追加的に必要となった経費を要したと認めることはできず,これに当たること
を認めるべき事情は主張立証されていない。したがって,「調合手間」については,
経費として控除すべきとはいえない。
b 容器,ポンプ,キャップ,一本箱,添付文書,内箱,外箱に係る費用
乙27及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売するに
当たり,これらの費用を要したと認められ,その性質上,これらは侵害者である被
告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売することによりその製造販売に直接
関連して追加的に必要となった経費に当たると認められる。そして,上記書証等に
よれば,被告製品1個当たりのこれらの費用は,被告製品1について合計(中略)
円,被告製品2について合計(中略)円を下らないと認められる。
c 運賃,関税輸送費
乙27,39及び弁論の全趣旨によれば,被告らが被告製品を製造販売
するに当たり,これらの費用を要したと認められ,その性質上,これらは侵害者で
ある被告らにおいて侵害品である被告製品を製造販売することによりその製造販売
に直接関連して追加的に必要となった経費に当たると認められる。そして,上記書
証等によれば,被告製品1個当たりのこれらの費用は,被告製品1について運賃(中
略)円,関税輸送費(中略)円,被告製品2について運賃(中略)円,関税輸送費
(中略)円を下らないと認められる。
d 手間
乙27,39では「手間」も商品原価に含み,これは女性7名による作
業や添付文書の差込みに関する経費である旨説明されている。しかし,前記aの「調
合手間」と同様の理由により,これを経費として控除すべきとはいえない。
e 原告の主張について
原告は乙27記載の各経費を要したことを否認し,仮定による試算結果
にすぎないなどと主張するが,被告製品の製造販売に当たって前記aないしcで控
除を認めた諸経費を要することは明らかであり,また前記認定に反する証拠がある
わけでもないから,前記認定は左右されない(被告らの利益額の立証責任が原告に
あることは前述したとおりである。)。
f 控除すべき経費の額
商品原価として控除すべき経費の額は,被告製品1について合計217.
02円/個,被告製品2について合計364.21円/個と認められ(弁論の全趣
旨によれば,これらの金額は税込みの金額と認められる。),これによると,商品
原価は合計386万5409円となる。
計算式:217.02×9932個+364.21円×4695個=386万5
409円(小数点以下切上げ)
(イ) UV防止効果の試験費用
被告らは,平成28年3月31日と同年5月20日付けで依頼したSPF・
UVAPF測定試験に係る費用(乙34の1ないし35の2)を経費として控除す
べきと主張する。
しかし,同年3月31日付け依頼分については,被告の主張によっても,被告製
品を研究開発する過程で支出された費用にとどまるものといわざるを得ず,被告製
品そのものについて試験をしたものとは認められないから,この費用をもって,侵
害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たる
ということはできない。
これに対し,同年5月20日付け依頼分について,原告はこれが被告製品に関す
る試験であることを前提としつつ,平成29年2月2日以降に販売された製品その
ものについて行われた試験ではないという理由で,経費として控除することを争っ
ている。しかし,被告製品は,化粧料としての性質上,これを製造販売するために
は,平成28年5月20日付け依頼分のような試験を行うことが必要不可欠であり,
この試験は,平成29年2月2日以降に被告製品を販売するのにも必要であったと
いうことができる。そうすると,上記試験の費用(86万4000円(税込))は,
その全てが侵害品である被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった
経費に当たるということはできないが,原告が本件で損害賠償を請求している期間
の被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったと認められる部分につ
いては,経費として控除するのが相当である。
控除する金額については,原告が本件で損害賠償を請求している期間における被
告製品の調合量(弁論の全趣旨によれば,310kg)の,それ以外の期間も含めた
被告製品の調合量(弁論の全趣旨によれば,6070kg)に対する割合によって按
分して算定すべきであり,原告が本件で損害賠償を請求している期間の終期の後に
も被告製品が販売されていることをも考慮して,原告が主張し,被告らも予備的に\n主張する4万円の限度で,原告が本件で損害賠償を請求している期間の被告製品の
製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認めるのが相当である。
(ウ) 被告らの経費の額
以上によれば,被告らの経費の額は,合計390万5409円となる。
計算式:386万5409円+4万円=390万5409円
ウ 被告らの利益額
前記ア及びイによれば,被告らの特許権侵害行為による利益額は,893万
0361円となり,この額が原告の損害額と推定される。
なお,原告は予備的に特許法102条3項に基づく損害を請求しているが,原告\nが主張する同項に基づく損害額は上記金額を上回らないから,同条2項に基づく損
害額をもって原告の損害額とすべきである。
エ 弁護士費用
原告は,原告訴訟代理人弁護士に委任して,本件の各請求をしているところ,
差止請求分も考慮し,被告らの特許権侵害行為と因果関係のある弁護士費用は,1
10万円と認めるのが相当である。
オ 以上より,原告の損害額は,1003万0361円となる。
◆判決本文
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2020.01.27
令和1(ネ)10036 特許権侵害差止等請求控訴事件 民事訴訟 令和2年1月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
フランジに特徴がある梁補強金具の発明について、特許法102条2項における推定覆滅を主張しましたが、裁判所は「覆滅すべき事情があるとは認められない」と判断しました。
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と
同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が
受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
(1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場
における競合品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の
性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102
条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事
情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分の
みに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができる
が,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅
が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置
付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相
当である。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件各発明等は,その全体が被告各製品の全体を対象とするもの
の,特徴部分は,梁補強金具の外周部の軸方向の「片面側の端部に形成」した「フ
ランジ部」であり,被告各製品においては,ダイヤリングの外周部の軸方向の「片
面側の端部に形成」した「つば状の出っ張り部の外周部」がこれに該当するところ,
侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合,すなわち特許発明の寄与
度を考慮すべきであり,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきで
あると主張する。
前記認定の本件明細書等の記載(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1))
によれば,本件各発明等は,各種建築構造物を構\成する梁に形成された貫通孔に固
定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関し\n(【0001】),梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高める
とともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補
強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする\n梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供するために(【0\n010】),梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁
補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍〜10.0倍と
し,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成
し(訂正前の請求項1),さらに,フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部
に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周か
ら前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である
という構成を採用したものであって(訂正後の請求項1),梁に外力が加わったとき\n貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従
って徐々に小さくなることから,梁補強金具の軸方向長さを必要以上に長くしない
ように規制することにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつ
つ必要な強度まで補強することができ(【0012】),また,フランジ部により軸方
向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるという効果を奏するものである
(【0048】)。
このように,本件各発明等の特徴部分が,フランジ部のみにあるということはで
きない。
(イ) また,控訴人は,本件各発明等の特徴部分であるフランジ部に特有の効果
は,「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」というものにとどまり,
同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていな
いなどと主張する。
しかし,控訴人のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)におい
て,被告各製品のフランジ状の部分も図示され,被告各製品の特徴として,鉄骨梁
ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを
全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアッ
プするという点が挙げられている。このような施工が可能となるのも,梁補強金具\nにフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられ,被告
各製品の特徴は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。\nこの点,控訴人は,控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては,
「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定するため,「[梁の反転が不要]とな
り施工性が大幅にアップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これら
は,控訴人により工夫された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって,
本件各発明等の作用効果ではない旨主張する。
しかし,本件各発明等は,梁に形成された貫通孔にリング状の梁補強金具をはめ
込んで,フランジ部を含む外周部が溶接固定される梁補強金具であるところ,被告
各製品の,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部
の外周部)のみを全周溶接するという取付方法は,本件各発明等に係る梁補強金具
の取付方法として通常想定される態様の1つにすぎず,控訴人により工夫された独
自の工法とはいえないから,控訴人の主張は採用できない。
ウ 推定覆滅の事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであるところ,以上に
よれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)26468
本件特許権の審取事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。
◆平成30(行ケ)10163
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2020.01.27
平成28(ワ)10759 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 東京地方裁判所(40部)
石けんの特許権侵害について、1社あたり2億円を越える損害賠償が認められました。102条1項の販売不可事情は否定されました。
(3) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
前記(1)の譲渡数量に前記(2)の単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下
のとおりとなる。
ア 被告日本生化学について
原告長寿乃里
21万3457個×1225円=2億6148万4825円
原告イング
23万9658個×993円=2億3798万0394円
イ 被告ブレーンコスモスについて
原告長寿乃里
17万0132個×1225円=2億0841万1700円
原告イング
19万1015個×993円=1億8967万7895円
ウ 被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里
135個×1225円=16万5375円
原告イング
152個×993円=15万0936円
(4) 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」の
有無
ア 競合品の存在
証拠(甲8,乙24)によれば,シラスが配合された洗顔料が原告製品
及び被告製品のほかに8銘柄が存在したことが認められるが,販売数が多
いものでも,株式会社メディカルドーズの「お茶!入ったよ〜わっぜ!!
火山灰石けん」が平成22年9月から平成27年12月までに2万754
8個を販売したにとどまり,他の銘柄は,販売数が約1000個から38
00個程度にとどまるか,販売数が明らかではないから,これらの洗顔料
の存在が,「販売することができないとする事情」に当たるということは
できない。
イ 原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告製品を販売していない月でも原告製品の販売が
落ちている月があることから,原告製品の販売は被告製品の販売に影響を
受けていなかったと主張するが,原告製品についてそのような販売経過と
なった原因としては様々なものが考えられるのであり,上記の販売経過が
直ちに「販売することができないとする事情」に当たるとはいえない。
ウ 薬機法上の区分及び本件発明1の作用効果
被告日本生化学は,原告製品及び被告製品について,薬機法上の区分が
異なること及び宣伝広告の内容から,本件発明1の作用効果は原告製品及
び被告製品の販売に寄与していないと主張する。
しかし,消費者が薬機法上の区分を意識して商品を選択するとは考え難
く,前記判示のとおり,原告製品と被告製品はいずれもシラスが配合され
た石けんという同種の商品であり,かつ,被告製品は本件発明1の作用効
果を奏するのであるから,両者は市場で競合する製品であるということが
できる。
また,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,原告製品は
発売以来700万個以上が売れた大ヒット商品であると紹介するととも
に,被告製品には,人工皮膚成分「リピジュア」が配合され,原告製品と
同じ価格だが,内容量が多いという2点が異なることを挙げて,被告製品
の宣伝をしていたことが認められ(甲14),このような宣伝内容によっ
て,原告製品ではなく被告製品を購入した消費者も相当数いるものと考え
られる。
そうすると,被告日本生化学が主張する上記事情は,「販売することが
できないとする事情」に当たるとはいえない。
エ 販売ルートの違いについて
被告ブレーンコスモスらは,原告らは消費者に直接販売する小売である
のに対し,被告ブレーンコスモスは販売数のうち95%は企業に対する卸
売りであり,販売ルートが異なるから,競合しないと主張する。
しかし,原告製品及び被告製品はいずれも最終的には一般消費者によっ
て購入され,使用される石けんであり,被告製品が一般消費者に販売され
る段階では原告製品と競合すると認められるところ,被告製品が存在しな
ければ,被告ブレーンコスモスが他の企業に被告製品を卸売りすることも
なく,ひいては被告製品が一般消費者に販売されることもないのであるか
ら,被告ブレーンコスモスが卸売りを主たる取引形態とするからといって,
原告製品と被告製品が市場において競合することは左右されず,「販売す
ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
オ 東日本大震災の義援金に充てる旨のアテンションシールについて
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充
てる旨記載されたアテンションシールを被告製品に貼っていた期間(平成\n23年4月1日から同年9月30日まで)の販売数がそうでない期間の販
売数を上回っており,同シールが被告製品の売上げに寄与した旨主張する。
しかし,平成23年4月1日から同年9月30日まで被告製品に上記シ
ールが貼られていたことを認めるに足りる証拠はない上,仮に同シールが\n貼付されていたとしても,平成23年1月から同年9月までの被告製品\n(100gのもの)の販売数は毎月概ね1万個程度で推移しており(丙1,
21),販売数の増加が同シールによるものとは認め難く,被告ブレーン
コスモスらの主張はその前提を欠き,採用できない。
カ 海外市場における競合
被告ブレーンコスモスらは,被告ビーシーリンクは専ら海外に被告製品
を販売しているところ,原告製品と被告製品は海外市場において競合しな
いと主張する。
しかし,証拠(甲76,77,84〜87,108〜112,丙25〜
28)によれば,被告ビーシーリンクは,平成25年2月から11月にか
けて,米国,中国,シンガポール,ラトビアに被告製品を販売していたこ
と,原告長寿乃里は,自ら又は株式会社フェローシップ等を介して,以下
のとおり海外に原告商品を出荷したことが認められる。
・・・
以上の事実関係に照らせば,原告製品と被告製品は,少なくとも米国及
び中国の海外市場において競合していたことが認められるから,被告ビー
シーリンクが専ら海外において被告製品を販売していることは,「販売す
ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
キ 以上のとおり,被告らが主張する事情は,いずれも「販売することがで
きないとする事情」に当たらないから,特許法102条1項に基づく損害
額の推定は覆滅されない。
◆判決本文
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2020.01.24
平成29(ワ)31544 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年8月30日 東京地方裁判所
東京地裁40部は、技術的範囲に属すると判断し、102条2項に基づく損害賠償を認めました。
上記グラフにおけるZn(青線)とPk(赤線)の線形性にほぼ差異はない
上,ZnとXcの差(Zn−Xc)のZnの値に対する比率((Zn−Xc)/Z
n)は,Brix値が0%のとき約4.98%,10%のとき約3.82%,
20%のとき約2.75%,30%のとき約1.62%,40%のとき約1.
46%,50%のとき約0.99%であって,ZnとXcの値の差は全体的に
かなり小さく,Zn≒Xcと評価しるものであって,そうすると,式(B)は,
重心であるZnの平均値を出しているにすぎないというべきである。
また,式(B)の分子の式(Zn+(Zn−Xc))については,(1)Xc値>
Zn値の場合,(2)Xc値=Zn値の場合,(3)Zn値>Xc値の場合があり得るが,
(2)の場合にはPkの値は重心位置と一致する上,上記計測結果のような(1)の
場合又は(3)の場合に,式(B)により算出されるPkの値(被告の主張によれ
ば臨界角点)が理論上の臨界角点により近似することの合理的な説明はなさ
れておらず,そのことを示す的確な証拠もない。そうすると,式(B)が臨
界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認めることはできず,む
しろ,前記のとおり,ZnとXcの値の差は全体的にかなり小さく,Zn≒X
cと評価し得るものであることを踏まえると,式(B)は重心であるZnの平
均値を出しているものというべきであり,さらに,被告製品において式(B)
に基づき複数の試行を行っていることも,同製品が構成要件Eを充足すると\nの結論を左右しない。
ウ 式(C)について
本件発明における式(2)は,「Pc=Pc’+C」というものであると
ころ,本件明細書等の段落【0035】〜【0038】,段落【0040】,
【0041】によれば,定数Cは,重心位置Pc’に加算して臨界角点Pc
(=Pc’+C)を求めるための定数であり,屈折率が既知である試料を用
いた実験により予め決定された値であると認められる。そして,本件発明は,\nこのように式(1)と式(2)を組み合わせることにより,臨界角点を直接
求めるよりも,同点をより正確に求めることができるとの効果を奏するもの
であると認められる。
他方,被告製品の用いている式(C)は,「ΔPc=PCT20−PC0」とい
うものであるところ,被告製品説明書,証拠(甲7,8,乙1,9)及び弁
論の全趣旨によれば,PCT20は,式(A)により得られたZn値を式(B)
により調整したPk値(前記判示のとおり,重心であるZnの平均値)を,2
0°Cの環境下での値に換算した値であるから,この値は,上記手順により調
整された光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置
のアドレス値(甲7・10頁における「ゼロセット後 10%測定」欄の「Bary
T20」の値(30.146))であり,PC0は,20°Cの環境下で濃度0%の
水を用いて計測した重心位置のアドレス値(同頁における「水基準書き込み
後 水」欄の「CAL OffSet」の値(18.54758))であること,また,
水の屈折率は既知であるところ,被告製品の理論上の臨界角点のアドレス値
は18.50000であることが認められる。
そして,甲7によれば,被告製品は,(1)上記PCT20の値(上記「Bary T20」
の値)を入力し,(2)「Bary T20」の値から「CAL OffSet」(水書き込みアド
レス値)を差し引いた値を計算する,(3)上記(2)の値をBrix値に換算し,
「Saccharin T20」(Brix値)を算出する,(4)ゼロセットオフセット値を
読み込む,(5)「Saccharin T20」(Brix値)から「ゼロセットオフ値」を
差し引き,その結果を「Brix Value」(Brix値)として算出する,(6)「Brix
Value」(Brix値)を「Final Rfact」(屈折率)に換算するという順序
でプログラムが実行されているものと認められる。
上記のプログラム実行過程のうち(2)の計算式は,試料の重心位置のアドレ
ス値である「Bary T20」(PCT20)の値から水の重心位置のアドレス値であ
る「CAL OffSet」(PC0)の値を差し引くものであり,試料の重心位置のア
ドレス値の原点を水の重心位置のアドレス値に改めるとの意味を有するも
のであるところ,このPC0値(18.54758)は理論値(水の理論上の
臨界角点のアドレス値である18.50000)との差(0.04758)
を含む値であるということができる。そうすると,上記(2)の計算式は,試料
の重心位置のアドレス値から水の重心位置のアドレス値を直接差し引くも
のであるが,実質的には,PCT20及びPC0の双方から水の臨界角点の理論
値(18.50000)を控除していったん同理論値を原点とする試料の重
心位置と水の重心位置の各アドレス値を算出し,さらに前者から上記差の値
(0.04758)を調整しているに等しく,試料の重心位置のアドレス値
に,屈折率が既知である水を用いた実験により予め決定された定数(−0.\n04758)を加算する計算をしているのと同義であるということができる。
したがって,式(C)は,式(2)を充足する。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,式(1)と式(A)が形式的に異なっているから,被告製品は構\n
成要件Eを文言充足しないと主張する。
しかし,式(1)は,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲
線)の重心位置Pc’を求めるものであって,式(A)と技術的思想を同じ
くするものであり,かつ,式(A)は式(1)に変形し得るものであって,
当業者であれば,式(A)と式(1)が実質的に同一の式であると認識し得
るというべきである。
そうすると,式(1)の技術的範囲は式(A)を包含するものと認めるの
が相当である。
イ 被告は,被告製品におけるZnは13回算出され,更にPkを5回算出して
臨界角点Pcを算出しているのに対し,本件発明は,重心位置Pc’を1回
算出し,これに定数Cを加えてPcを算出しているのであるから,技術的思
想が異なると主張する。
しかし,Znが重心位置を求める式であると認められるのは前記のとおり
であり,これを13回にわたり求めて,平均値を算出するといった手法は当
業者が容易に採用し得る技術常識に属するものと解される。また,前記のと
おり,式(B)が臨界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認め
ることはできず,むしろ,重心であるZnの平均値を出しているものという
べきであることは前記判示のとおりであるから,本件発明と被告製品の技術
的思想が異なるということもできないというべきである。
ウ 被告は,PC0はΔPcを算出するための基準数値にすぎないから定数Cに
対応する概念ではなく,ΔPcも本件発明の式(2)のPcに対応する概念
ではなく,フェーズが異なるなどと主張する。
しかし,ΔPcを算出する式(PCT20−PC0)が有する意義は前記のとお
りであって,被告製品においても試料の重心位置につき差分を調整すること
で臨界角点を求めている点で本件発明と変わりがないから,式(C)が式(2)
と実質的に異なるということはできない。
エ 被告は,本件発明における式(2)に関し,Pc’は特定の装置における
測定値ベースの臨界角点であり,定数Cは当該装置毎の個体差を較正する値
にすぎないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,式(1)により得られるPc’は光量分布曲線の
一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置であるから,臨界角点と
は異なるものであって,本件発明がこれに定数Cを加えることで臨界角点を
求めるものであることは,前記判示のとおりである。
(4) 以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,また,被告製品が構\成要件
A〜D及びFを充足することは前記前提事実(3)ウのとおりであるから,被告
製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
・・・
(1)特許法102条2項に基づく損害額について
ア 被告は,(1)平成28年9月9日から平成30年2月9日までの間に被告製
品を137個販売し,(2)その売上総額は204万4164円であり,(3)被告
製品1個当たりの製造原価は1万0249円であるが,(4)特許法102条2
項所定の被告の利益額を算出するに当たっては,(3)に加えて配送費合計16
00円を控除すべきと主張するところ,(1),(3)及び(4)については,当事者間
に争いがなく,証拠(乙10〜12)によれば,(2)の事実を認めることがで
きる。
そうすると,原告の損害額は,特許法102条2項に基づき,63万84
51円(=204万4164円−(137個×1万0249円+1600円))
と推定される。被告がこれを超える利益を得たことを認めるに足りる証拠は
ない。
イ 被告は,寄与率を考慮すべきと主張する。しかし,本件発明は,屈折率を
測定するための臨界角点の算定という,屈折計の本質的ないし根幹的技術に
関するものであって,その可分的な一部に関するものではないから,本件で
寄与率を考慮すべきとは認められない。被告主張の諸事情は,この結論を左
右しない。
(2) 弁護士・弁理士費用について
本件事案の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵
害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として6万円を認めるの
が相当である。
◆判決本文
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2019.12.27
平成28(ワ)16912 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月4日 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、差止、102条2項による損害賠償を認めました。損害賠償額は計算鑑定人が計算しています。総額は不明です。
なお、クレームは「〜情報管理プログラム。」です。
2 争点1−1(被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別す
る識別情報」に当たるか)について
(1) 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件不動産サイトにお
ける物件の連絡先への架電等の仕組みは,以下のとおりであると認められる。
ア 本件不動産サイトにおいて,ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選
択すると,例えば,以下の画面のような,当該物件についてのウェブペー
ジが表示され,同ページの下段・右側に「電話」ボタンが表\示される。
イ 上記「電話」ボタンをユーザが選択すると,例えば,次の画面に遷移す
る。同画面には,架電番号が表示されるとともに「このページを開いて\nから10分以内にお電話をお願いいたします。」「上記無料通話番号は,
今回のお問合せ用に発行したワンタイムの電話番号です。」と表示される。\n
ウ ユーザが上記画面に表示された架電番号に架電すると,当該物件を管\n理する不動産業者に宜接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該
架電番号に架電しでも電話は繋がらず,接続先がない旨の自動音声案内
が流れる。
エ 上記イの画像の表示から,架建言することなく10分以上経過してから,
間一携帯端末で,同一の不動産物件について架電番号を表示すると,例え\nば,以下のとおり,別の架電番号が表示される。\n
オ 上記ウにより繋がらなくなった架電番号は, 53Jのユーザ、端末や商品に
対応した電話番号として再利用し得る。なお,ユーザが,同架電番号に
いったん架電をすると,その後も,同番号は端末上にリダイヤノレのため
再表示され,同時に,別の端末において異なる物件の連絡先として同ー\nの架電番号が表示され得る。\n
(2) 被告は,被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する
識別情報J (構成要件(1))に該当しないので,被告プログラムは,構成要件\n(1)を充足しないと主張する。
しかしr識別情報」の意義については,本件明細書等の段落(0019)
には「識別情報とは,架電先に関連付けられることによりその架電先を識別
する情報であj ると記載されているところ,証拠(甲6,7,乙2) によれ
ば,被告プログラムを使用してサービスを提供している本件不動産サイトに
おいては,ユーザが希望する物件を選択すると,当該物件の詳細情報が表示\nされた画面に問合せのための専用電話番号が表示され,当該番号が表\示され
るとその時点で架電番号がロックされた状態となり,その表示から一定期間,\n当該架電番号に架電するとその不動産業者に架電されるとの事実が認められ
る。そうすると,被告プログラムにおける架電番号は,「架電先に関連付け
られることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう
「識別情報」に該当するということができる。
(3) また,原告が行った実験結果(甲8・実施結果1。なお,以下の実験結果
はいずれも被告プログラムを使用している本件不動産サイトを利用したもの
である。)によれば,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末を用い,特定
の物件の連絡先画面を表示させると,特定の架電番号が表\示された,(ii)そ
のまま架電せずに前記連絡画面を閉じ,再び物件の連絡先画面を表示させる\nと同じ架電番号が表示された,(iii)ユーザが,異なる端末の電話機能を用い,\n同一の架電番号に架電しても,同一の連絡先である広告主に接続されたとの
事実が認められる。
上記結果は,被告プログラムにおいて,ある端末に特定の物件の連絡先に
繋がる架電番号を表示させると,それにより当該番号と架電先が関連付けら\nれ,それ以降は当該架電番号に対応する連絡先の不動産業者が識別されると
の上記(1)の認定を裏付けるものであり,同結果に照らしても,被告プログ
ラムにおける架電番号は,構成要件(1)にいう「識別情報」に該当するという
ことができる。
(4) これに対し,被告は,架電番号と発信者番号とで架電先を識別するので,
架電番号は,本件発明にいう「識別情報」に当たらないと主張し,端末に表\n示させた架電番号に発信者番号非通知の設定で架電した場合,架電先にも接
続されないという実験結果(乙3)は被告主張を裏付けるものであると主張
する。
しかし,架電前においては,被告プログラムは当該ユーザの発信者番号を
知らないはずであるから,架電前において,同プログラムが架電番号と発信
者番号とで架電先を識別するとは考え難い。上記実験において端末に表示さ\nれた架電番号に架電した場合に架電先に接続されなかったのは,後記のとお
り,被告プログラムが当該架電番号に架電した時点以降,架電番号と発信者
番号とで架電先が識別されていること(この点については当事者間に争いが
ない。)に起因するものと考えるのが相当であって,上記実験結果は,架電
前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定するに\n足りるものではない。
むしろ,原告の行った実験結果(甲9)によれば,発信者番号を送信し得
ないパーソナルコンピュータに本件不動産サイトを表\示した場合であっても,
物件の連絡先に繋がる架電番号が表示され,携帯端末から当該番号に架電し\nたところ,当該連絡先に接続したとの事実が認められ,これによれば,被告
プログラムは,架電前の時点において,架電番号により架電先を識別してい
ると推認することが相当である。
(5) 被告は,乙8の実験2の結果は,被告プログラムにおいて,1つの架電番
号が,同時に複数のユーザが複数の架電先に接続するために利用されている
ことを示しているので,当該架電番号のみでは架電先を識別し得ないと主張
する。
しかし,上記実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,
物件1の連絡先画面を表示させると架電番号が表\示された,(ii)端末(1)の電
話機能で当該番号に架電した後,1990台分の仮想端末を用い,それぞれ\n物件2の連絡先画面を表示させた,(iii)その後,上記(i)の時点から10分
以内に,端末(2)で物件2の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示
された,(iV)上記(iii)の後,前記(i)から10分以内に,端末(1)で再び物件
1の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示されたというものであ
ると認められる。
同実験の(iii)において,端末(2)において物件2の連絡先画面が表示された\nのは,上記(i)のとおり,端末(1)により架電をした後であるから,物件2の
連絡先画面が表示された時点においては,物件1の連絡先は,架電番号のみ\nではなく,架電番号と発信者番号とで識別されるようになっており,それゆ
えに,物件2の連絡先画面において同一の架電番号を表示することが可能\に
なったものと考えられる。
そうすると,上記実験も,架電前において表示された架電番号と架電先が\n関連付けられることを否定するに足りるものではないというべきである。
(6) 被告は,乙10の実験結果も,同一の架電番号が同時に複数のユーザによ
って未架電の異なる架電先に架電するための番号として用いられることを示
していると主張する。
ア 乙10の実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,物
件1の連絡先画面を表示させると架電番号Xが表\示され,同番号に架電し
た(午前2時10分),(ii)その後,端末(1)で物件2の連絡先画面を表示\nさせると,架電番号Yが表示された(午前2時10分),(iii)その後,1
994台分の仮想端末を用い,物件3の連絡先画面を表示させ,それぞれ\n架電番号を表示させた,(iV)端末(2)を用い,前記(ii)の表示から10分以\n内に,物件3の連絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示され(午前
2時14分),続いて端末(2)から架電番号Yに架電した(午前2時15
分),(v)端末(3)を用い,前記(ii)の表示から10分以内に,物件4の連\n絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示された(午前2時15分),
(vi)前記(ii)の表示から10分以内に,端末(1)〜(3)において,再度各物件
について架電番号を表示させると,いずれの端末においても架電番号Yが\n表示されたというものであると認められる。\n
イ 上記実験結果のうち,(iv)〜(vi)において端末(1)〜(3)において架電番
号Yが表示されたこと,取り分け,端末(1)において架電番号Yに架電をし
ていないにもかかわらず,端末(1)及び(3)に架電番号Yが表示されたことに\nついては,ある端末(この場合は端末(1))から架電すると,当該端末の発
信者番号が被告プログラムに登録され(この点は争いがない。被告準備書
面9の14頁参照),架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号に
ついても,架電番号と発信者番号とで識別されることによるものであると
考えられる。
このことは,原告が行った実験結果(甲15)からも裏付けられる。す
なわち,同実験(甲15・実験A−1,2)は,(i) 本件不動産サイト
のユーザが,端末Aを用い,物件Aの連絡先画面を表示させると,架電番\n号Aが表示された,(i) 端末Aの電話機能で架電番号Aに架電した後,\n端末Aで物件Bの連絡先画面を表示させると,架電番号Bが表\示された,
(iii) 前記(ii)から10分以内に,端末Bの電話機能を用い架電番号Bに\n架電しても,物件Bの連絡先である広告主には接続されなかった,(iv)他
方,前記(iii)の代わり,端末Aの電話機能を用いて架電すれば,物件Bの\n連絡先である広告主に接続されたというものであると認められる。同実験
結果によれば,架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号について
も,架電番号と発信者番号とで識別されるものと認めるのが相当である。
そうすると,上記アの(iv)〜(vi)において架電番号Yが表示されたの\nは,その時点において,端末(1)及び(2)については,架電番号Yと各端末の
発信者番号により関連付けが行われていたからであり,同実験結果も,架
電前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定す\nるに足りるものではないというべきである。
(7) 以上によれば,被告プログラムにおいて,未架電の端末にのみ架電番号が
表示されている場合には,当該架電番号は,「架電先に関連付けられること\nによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう「識別情報」
に該当するということができる。そして,前記判示のとおり,被告プログラ
ムが架電後においては架電番号と発信者番号とで架電先を識別しているとし
ても,このことは被告プログラムが構成要件(1)を充足するとの結論を左右す
るものではないというべきである。
したがって,被告プログラムは,構成要件(1)を充足する。
・・・
(1) 特許法102条2項所定の利益の額について
ア 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,
侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売すること
によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した
限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべ
きである(知的財産高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7
日判決参照)。
本件における計算鑑定の結果によれば,被告プログラムについては,平
成25年6月分から平成30年9月分までの間,別紙2−3(1)欄記載の売
上高があり,製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費の額は同
(2)欄記載のとおりであるので,その限界利益の額は同(3)欄記載のとおりで
あると認めることができる。
イ これに対し,原告は,●(省略)●であることを指摘し,別紙2−3(2)
欄記載の変動費に含まれる●(省略)●からの仕入費の額については,そ
の利益相当額50%を控除した額とするべきであると主張する(なお,当
裁判所は,この点に関する原告の主張のうち,●(省略)●が,被告サー
ビスを実質的に運営する共同事業者であって,共同不法行為者に当たるな
どとする主張については,時機に後れた攻撃防御方法を理由とする却下を
した。)。しかし,●(省略)●されるべきものでないことは当然であり,
また,その仕入価格が不当に高額に設定されていたといったような事情を
認めるに足りる証拠もないのであるから,この点に関する原告の主張を採
用することはできない。
ウ 他方,被告は,別紙2−3(2)欄記載の金額のほか,(1)通信回線及び通信
機器設備の利用料,(2)派遣労働者の費用,(3)専用プログラムの開発費も,
変動費又は個別固定費として控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙30〜32)によれば,上記(1)〜(3)の費用は,被告プ
ログラムにのみ費消されたものではなく,被告の提供する他のサービスに
ついても費消されているものであると認められ,被告プログラムの作成や
販売に直接関連して追加的に必要となった経費であるということはできな
い。
したがって,これを売上高から控除すべきであるとの被告主張は採用し
得ない。
エ もっとも,本件において,原告の請求の対象となる限界利益は,平成2
5年5月26日から平成31年4月30日までの利用に対するものである
のに対し,前記計算鑑定は,平成25年6月分から平成30年9月分まで
の売上を対象とするところ,乙27及び弁論の全趣旨によれば,これら各
月分の売上は,それぞれ前月分の利用に対応することが認められる。そこ
で,平成25年5月の利用については,同年6月分の限界利益の額を日割
り計算し,平成30年9月から平成31年4月までの利用については,平
成30年4月分から同年9月分までの限界利益の額の平均額を採用するの
が相当である。そうすると,特許法102条2項所定の利益の額は,この
計算によって得た別紙2−1(2)欄記載の額に,それぞれの時期における同
2−3(3)欄記載の消費税率を加算した額と計算されることになる。
(2) 推定覆滅事由について
被告は,被告サービスに対する本件発明の寄与率は0%と解すべきである
として,特許法102条2項における推定覆滅事由があり,その割合は10
0%であると主張する。
ア 同条項における覆滅については,侵害者が主張立証責任を負うものであ
り,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害
する事情がこれに当たると解され,同条1項ただし書の事情と同様,同
条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮すること
ができるものと解される。(前掲知的財産高等裁判所判決参照)
イ 被告は,被告プログラムの訴求ポイントは,PhoneCookieと
いう独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情報を
効果的に利用する点であるのに対し,本件発明の特徴点は,補正手続にお
いて付加された構成要件(6)であるから,被告プログラムと本件発明は訴求
ポイントが異なると主張する。
しかし,本件発明は,その構成要件が一体となって所期の効果,すなわ\nち,「架電先を識別するための識別情報を広告情報ごとに動的に割り当て
て,識別情報の再利用を可能とすることにより,識別情報の資源の有効活\n用及び枯渇防止を図る」(段落【0049】)とともに,「ウェブページ
への提供期間や提供回数に応じて動的に識別情報を変化させることにより,
広告効果を時期や時間帯に基づき把握すること」(段落【0050】)を
可能にするものであり,構\成要件(6)が出願審査の過程において補正により
付加されたとしても,同構成要件のみが本件発明の特徴点であると解する\nことはできない。
他方,被告プログラムを使用している本件不動産サイト(甲6)におい
ては,ユーザーによる架電の負担の軽減が課題として掲げられるとともに,
「その時・その人にだけ有効な『即時電話番号』を発行」し,「静的に電
話番号を割り振るのではなく,ユーザーのアクションに応じて動的に電話
番号を割り振」るとの内容を有することが記載されていることが認められ
る。
上記本件不動産サイトに記載された「その時・その人にだけ有効な『即
時電話番号』を発行」し,「動的に電話番号を割り振」ることは,「識別
情報の資源の有効活用及び枯渇防止を図る」などの本件発明の効果を発揮
する上で不可欠な要素であり,被告プログラムにおいてもこうした構成を\n備えた結果,その顧客は本件発明と同様の効果を享受しているものという
ことができる。
被告は,被告サービスの訴求ポイントについて,PhoneCooki
eという独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情
報を効果的に利用することができる点にあると主張するが,同技術が被告
サービスの売上に貢献したことを具体的に示す証拠はない。
そうすると,被告プログラムがPhoneCookieという独自技術
を用いているとしても,この点を覆滅事由として考慮することはできない
というべきであり,被告がそのために被告を特許権者とする特許技術(特
許第5411290号,特許第5719409号)を使用していることも,
上記結論を左右しない。
ウ 被告は,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能は,従来技\n術にすぎないと主張する。
しかし,原告が従来技術として挙げるLRU方式は,前記判示のとおり,
使用されてから最も長い時間が経った架電番号から順に利用する方式であ
り,本件特許とはその採用している方式が異なるものであり,本件発明が
従来技術として利用しているものではない上,市場において本件発明と同
様の効果を奏する代替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関\n係にあるということはできない。
また,被告は,被告を特許権者とする前記特許明細書に記載された方式
によっても,本件発明を代替することが可能であると主張するが,同方式\nは,架電番号の在庫が尽きた場合に,これを初期化し,その初期化したこ
とを通知するものであり(乙18・段落【0095】),本件特許とはそ
の採用している方式が異なるものであり,本件発明が従来技術として利用
しているものではない上,市場において本件発明と同様の効果を奏する代
替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関係にあるということ\nはできない。
以上のとおり,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能が従\n来技術にすぎないとの被告主張は理由がなく,この点を推定覆滅事由とし
て考慮することもできない。
エ したがって,本件においては,被告が得た利益の全部又は一部について
推定を覆滅する事由があるということはできない。
(3) 小括
前記のとおり,特許法102条2項の「利益」の額は,別紙2−1(2)欄記
載の額に同(3)欄の消費税率を乗じた額であり,同項における推定覆滅事由が
あるとは認められないので,被告が賠償すべき額は,その10%に相当する
弁護士費用相当額を加算し,一円単位に切り捨てた別紙2−1(5)欄のとおり
と計算される。また,弁論の全趣旨によれば,これらの損害の発生日は,遅
くとも,それぞれ同(6)記載の日であると認められるので,各同日から支払済
みまでの遅延損害金の請求をすることができる。
◆判決本文
◆別紙1
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2019.11.18
平成29(ワ)7576 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月19日 大阪地方裁判所
特許権侵害の損害について、7割の限度で特許法102条2項による推定が覆滅され、3項で相当実施料率は4%と判断されました(双方争いなし)。
以上を踏まえ,顧客吸引力の観点から被告第2製品における本件第2
及び第3特許の技術的意義の有無及び程度を検討すると,まず,本件被告カタログ
記載の「6つの特徴」の1つとして,被告第2製品は「素手で持っても痛くありま
せん。」との記載がある。「テーパ部」の解釈に関する被告の主張をも考慮すると,
これは「テーパ部」の存在をうかがわせるものとも理解し得るものの,いかなる構\n成によって「素手で持っても痛く」ないことを実現しているのかは具体的に示され
ていない。当該記載に付された写真では,製品のアンカーボルト挿通用の開口部に
手指を通して握る形で,当該開口部を囲む部材のうち長辺部分をなす部材のうちの
1つを掌全体で把持していること(甲4,乙32)に鑑みると,「テーパ部」の存在
故に「素手で持っても痛く」ないという効果を奏しているとも断じ得ない。また,
本件第2発明の効果2に言及する記載もない。
さらに,本件被告カタログには,「6つの特徴」の1つとして,「スピード施工」
が挙げられているところ,その部分には,被告第2製品の片方の端部の接続部につ
いて「連結構造」との説明が付されている。もっとも,「連結構\造」とされる接続部
の構造や接続の仕方ないし効果に関する説明はない。\nむしろ,前記認定のとおり,本件被告カタログでは,被告第2製品の強度や換気
性能,供給・品質・価格の安定性,カットしやすい独自の形状を有する省施工商品\nであること等が強調されている。
この点は,原告や同業他社のカタログ等にも共通する。このうち,原告のカタロ
グ等には「テーパ部」や「接続部」に関する記載も見られるものの,その構造は具\n体的に示されておらず,作用効果も,他の記載と比較すると,強調の度合いは低い。
むしろ,全周敷き込みの簡単施工や特殊構造の換気スリット・防鼠材といった点が\n前面に出されて強調されている。
以上の事情に加え,被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しない形で使用され
ることがあり得ることは否定できないこと(ただし,実務上そのような使用態様が
採られる割合は不明である以上,この事情を推定覆滅に当たって過大視することは
できない。),前述のとおり,台輪の幅方向への移動を防止する別の方法もあること
を踏まえると,本件第2及び第3発明は,施工容易性の実現という観点から一定の
顧客吸引力を有するといえるものの,本件第2発明の「テーパ部」の構成や本件第\n3発明の構成要件3C〜3Gの構\成を有することによる顧客吸引力は,相対的には
小さいというべきである。
なお,被告は,被告第2製品の形状変更後に売上げが増加したことを指摘してい
るが,その裏付けとなる資料(乙60)は形状変更後の4か月の売上額を集計した
ものにすぎないし,売上げの変動要因としては様々なものが考えられることから,
上記事情が直ちに本件第2及び第3特許が被告第2製品の需要に与える影響が小さ
いことを裏付けると見ることはできない。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限度で特許法102条2
項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の
各主張はいずれも採用できない。
エ ミサワホームに生じた損害
本件第2及び第3特許がいずれも持分2分の1の割合による原告とミサワホ
ームの共有であることは当事者間に争いはなく,また,弁論の全趣旨によれば,ミ
サワホームが自社施工工事分を除きこれらの特許を実施していないことが認められ
る。そして,原告及び被告いずれも,特許法102条3項に基づき損害額を算定す
る場合の本件第2及び第3特許の相当実施料率を4%程度とし,これを不合理ない
し不相当と見るべき事情もないことから,相当実施料率は4%と認められるところ,
相当実施料率を乗じる対象となる売上額を消費税込の金額とすべき証拠はない。
そうすると,次のとおり,1463万7125円をもってミサワホーム(なお,
同社が本件第2特許の持分を取得する以前の損害賠償請求権を持分譲渡人が有して
いるのであれば,その譲渡人を含む。)の損害額と認めるのが相当である。
そして,侵害された特許権が共有であったことにより侵害者の賠償すべき損害額
が単独保有の場合に比較して増額されるいわれはないことなどから,原告との関係
においては,更にこの限度で,特許法102条2項による推定が覆滅されるとする
のが相当である。
(計算式) 売上額7億3185万6254円(税抜)×4%×1/2=146
3万7125円
オ 原告の損害額
以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,別紙「被告第2製
品に係る損害額(裁判所の認定)」の「原告の損害額」欄記載のとおり,4867万
8376円と認められる。
(計算式) 被告の利益の額2億1105万1670円×0.3−1463万7125円=4867万8376円
(4) 原告の予備的主張について\n
原告は,被告工場製品の製造販売について,特許法102条2項に基づき推定
される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合には,予備的に,同項に基づく\n損害額を主張する。
しかし,前記認定から明らかなとおり,特許法102条3項に基づき推定される
原告の損害額は,同条2項に基づくそれを上回るものではないから,この点に関す
る原告の主張は採用できない。
仮に,原告の主張が,被告工場製品を除く被告第2製品の販売による損害につい
ては特許法102条2項に基づき賠償請求しつつ,被告工場製品の販売による損害
については,同項に基づき算定される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合
に,予備的に同項に基づく損害額を主張する趣旨であったとしても,前記3(2)ウ
(オ)で判示したとおり,被告工場製品とそれ以外の製品とで訴訟物が異なると見るべ
き根拠はないから,原告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用(本件第1特許権の侵害分も含む。)について
原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,被告の本
件第1〜第3特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,510万
円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護
士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っ
ていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,被告
の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠
償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
(6) 原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について
原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による
損害に対する遅延損害金の金額は,別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認
定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合
計1231万6870円である。
◆判決本文
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2019.10.21
平成30(ネ)10006等 特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。
これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび
/またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容
を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー
タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点
1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主
張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記
載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ
クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー
ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包
含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装
填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所
定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの
双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。
一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび
/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双
方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお
よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記
載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは,
「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し
ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/
またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と
なる記載はない。
前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦
紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以
上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最
初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。
がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。
そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ
ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・
11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす
るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内
容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙
A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で
きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず
れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば,
神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ
ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが
表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも
明らかである。
以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ
ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも
のといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは,
(1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ
ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論
の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋
章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」
というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ
クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場
合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる
ことが認められる。
しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する,
本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準
ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ
ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知
発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ
ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作
動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ
ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる
データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション
に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公
知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって
ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。
以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない
から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には,
上記(1)のデータは含まれないといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比
本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す
ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし,
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本
件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞
戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ
されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣
旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士
の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお
いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお
いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを
有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇
士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇
士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦
紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から
ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる
こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以
上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として
復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に
おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ
の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク
にセーブされたものと解されることが認められる。
上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト
ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム
のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作
のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ
レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい
う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想
を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム
において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに
転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして,
なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム
において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので
ある。
そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム
をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな
わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま
でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす
るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情
報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ
て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体
を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」
の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ
クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが
16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」
という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ
る。
したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及
び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件
特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム
をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい
る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー
ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ
ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に
係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2
に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの
であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ
り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた
ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的
に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点
に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的
な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意
義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ
ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され
ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ
ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術
的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって,
本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな
いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な
くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において,
相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。
また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶
媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効
果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする
と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当
業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に
係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易
に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき
金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改
正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では
侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除
された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許
が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最
低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの
実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける
のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術
的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許
権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約
を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施
許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特
許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける
べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ
うことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に
おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す
なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当
該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に
現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟
に現れていない。
そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特
許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価
値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」
(乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許
権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー
ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値
4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と
記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に
当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス
を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ
センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独
占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる
形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す
る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット
バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし
ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計
算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を
捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選
択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ
料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド
ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平
成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には,
(1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率
方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ
ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ
ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格),
小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価
格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正
味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と
して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料,
倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する
可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は
データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス
テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定
のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第
1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加
えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の
記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填
されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合
には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム
プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる
ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも
のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な
内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。
このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ
り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は,
ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた
めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等
は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと
により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ
ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及
び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明
A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ
る。
また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作
動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す
ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された
拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠
な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し
むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響
が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの
といえる。
そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品
解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機
能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作
のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ
ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク
タと迎えることができたりする旨を説明している。
これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用
いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら
れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾
契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す
る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で
は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)
であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである
ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ
ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい
え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい
ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない
こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ
た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」
という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,
3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載
のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる
証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を,
実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。
もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記
憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー
ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象
となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には,
本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい
て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が
製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製
品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ
ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ
れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する
のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品
であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも
のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。
また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが,
上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格
全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ
る。
他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ
アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された
イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品
の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ
ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか
ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高
とするのが相当である。
さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX
コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する
ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同
製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき
売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項
により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額
は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実
施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特
許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから,
実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売
価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される
アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品
全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の
特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足
りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が
属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する
料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上
高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする
のが相当である。
上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格
から控除するのが相当である。
控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは
ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税
相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の
技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施
されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー
レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本
件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな
る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお
り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A
1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ
ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張
ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用
効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業
者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の
有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83
の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号
製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った
遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで
はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ
て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを
行う場面は限定されている旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販
売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定
に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。
上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果
を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1
4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特
許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって,
本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率
の平均値より低くなると認めることはできない。
上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱
されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ
ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除
き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上
高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお
いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ
てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり,
セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作
用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可
能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\
なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ
とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され
た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準
ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ
せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす
る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ
ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること,
iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法
では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ
ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ
らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ
ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に
定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。
上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により
ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製
品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること
ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする
ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等
に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと
認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと
いう点は,上記判断を左右するものではない。
被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので
はない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。
◆A事件
◆B事件
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2019.10. 2
平成28(ワ)12296 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月10日 大阪地方裁判所
特許権侵害認定されましたが、損害額については102条2項について、「他の店舗用品とを組み合わせて販売されたバンドル取引商品である」ことを覆滅事由として、6割の推定が覆滅されました。
まず,被告が経費として主張する製造委託費,検査費等は,いずれ
も侵害者である被告において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接
関連して追加的に必要となった経費に当たると認められるから,被告の利益額を算
定するに当たり,上記販売金額からこれらの経費の金額を控除すべきである。
b そして,乙53,56ないし61及び弁論の全趣旨によれば,製造
委託費(樹脂やプレートの材料代,プレートの組付費用を含み,金型の作成費用は
含まない。),検査費等として,別紙「被告の損害論における主張」の「被告の経
費額」欄記載の経費を支出したと認められる。
c 原告らは,被告主張の仕入価格には高すぎるなどの疑問があると主
張して,被告主張の経費のうち「製造委託費」の金額を争っている。
しかし,この主張は特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利
益の額の算定の問題に関連する主張であるが,そもそもその利益の額(限界利益の
額)の主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであるから(知財高裁令和
元年6月7日判決・最高裁ウェブサイト),そのような観点から検討すると,原告
らは原告製品の製造販売に係る経費と対比をするのみで,被告製品の製造販売に係
る経費について具体的な立証をしているわけではない。
他方,被告製品の製造委託先は,被告と資本関係にあるわけではなく(乙62,
弁論の全趣旨),被告の主張する製品1個当たりの製造委託費は,別紙「被告主張
の被告製品1個当たりの経費額」の「製造委託費(材料費込)」欄記載のとおりで
あるところ,その金額には一定の裏付け(乙56ないし61)がある。したがって,
原告らの上記指摘によって前記認定は左右されず,下記(ウ)で認定する金額を超え
る利益が被告に生じていたことを認めることはできない。
(ウ) 被告の利益額
以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は,別
紙「被告の損害論における主張」の「被告の限界利益」欄記載のとおり,合計(中
略)円と認められる。
イ 推定覆滅事由の有無
(ア) 特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立
証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果
関係を阻害する事情がこれに当たると解され,例えば,(1)特許権者と侵害者の業務
態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,
(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能\,デザイン
等特許発明以外の特徴)などの事情について,考慮することができるものと解され
る(前掲知財高裁令和元年6月7日判決)。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告扶桑産業について(甲1,33)
原告扶桑産業は,資本金の額を2500万円とする会社であり,その従
業員数は30名程度である。そして,原告扶桑産業は,店装用備品等の企画,製造
販売,陳列器具及び店舗什器関連備品等の製造販売等を事業品目とし,全国スーパ
ー量販店備品卸売業者,全国インテリア装飾・店装業者等を取引先としている。そ
して,原告製品については,被告や他の企業に対して卸売販売され,そこを通じて
小売量販店に販売された(量販店の各店舗に設置された)ほか,原告扶桑産業から
直接,株式会社サンリオの直営店等の量販店に販売されることもあった。
b 被告について(乙1,53ないし55,65ないし66の5)
(a) 被告は,資本金の額を1億円とする会社であり,その従業員数は
3000人程度で,平成28年度の売上高は1220億円(グループ全体で346
0億円)であり,平成20年から東北楽天ゴールデンイーグルスのメインスポンサ
ーとなっている。そして,被告は,生活用品の企画,製造,販売を事業内容として
おり,販売している商品は,LED照明,家電,調理用品,日用品,収納用品,ハ
ードオフィス・資材等多岐に渡っており,被告のこれらの商品は全国のホームセン
ターで販売されている。
(b) 被告は,量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するの
ではなく,内装工事を含め,店舗のあらゆるスペースをデザイン・プロデュースし,
店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行っている。
そして,被告は,販売する什器について,500頁を超えるカタログ(乙1,5
4)を作成しており,そこに掲載されている什器は,カードケースを含むシステム
什器だけでなく,内装・棚下照明,陳列用什器,インフォメーション器具,販促用
品,オフィス家具,運営サポート用品及び照明・演出用品といったように,多岐に
渡っている。
(c) 被告が顧客との間で上記(b)の取引をする場合の流れは,次のと
おりである。すなわち,まず顧客から要望についてヒアリングをした上で,それを
もとに現地調査をする。その後,顧客から建築平面図等を取得し,什器の配置を検
討し,顧客と打合せをした上で,什器配置図等を作成するとともに,コストをシミ
ュレーションする。そして,顧客の要望に応じた什器・オプションアイテムを提案
し,納品内容を確定した上で,現場への納品や施工の手配を行う。
(d) 被告が平成25年12月5日,ある株式会社に対して発行した見
積書(乙55)では,取引金額が合計(中略)万円(税抜)とされたが,そのうち
カードケースの代金額は(中略)円(個数は合計(中略)個)であった。
(e) 平成26年の被告製品の販売金額は,合計(中略)円であったが,
その大半((中略)円)はカードケースと他の店舗用品とを組み合わせて販売され
るいわゆるバンドル取引によるものであった。
c 原告扶桑産業と被告との間の取引
(a) 被告は,遅くとも平成24年1月以降,原告扶桑産業から原告製
品を購入しており,同月から平成25年11月までの原告製品の販売数量は,次の
とおりであった。
・・・・
(b) 上記(a)のうち平成25年の原告製品4(ただし,QPCII−65
を除く。)の販売数量・販売金額は次のとおりであったほか,平成26年ないし平
成28年の原告製品(ただし,QPCII−65を除く。)の販売数量・販売金額は,
次のとおりであった(乙78の2)。
・・・・
(ウ) 被告の主張について
a まず,被告は被告製品1,4,6及び10については,原告製品に
相当するものがないことを指摘している。
しかし,上記各被告製品は,原告製品と色やサイズが異なるだけであり,原告扶
桑産業が販売している他の色やサイズの製品が購入されなかったとまで認めること
はできないし,原告扶桑産業が販売していた製品をみる限り,原告扶桑産業が被告
製品と同じ色やサイズの製品を製造し,販売することができなかったと認めること
もできない。
したがって,被告の上記主張は推定覆滅事由とならない。
b 次に,被告は取引の実情として,被告製品の販売方法や,被告によ
る販売力・営業努力・企業規模・ブランドイメージを理由とする推定覆滅を主張す
る。
(a)(1) 前記認定のとおり,被告が販売している什器は多岐に渡ってお
り,また量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するのではなく,内装工
事を含め,店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行って
いた。そして,前記認定事実によれば,被告製品は,その大半が他の店舗用品と組
み合わせて販売されるいわゆるバンドル取引によって販売されていた。
しかも,前記認定事実によれば,そのようなバンドル取引の取引額に占めるカー
ドケースである被告製品の販売額はわずかであったと認められる。
このような被告製品に係る取引の実情によれば,被告製品の需要者の大半は,カ
ードケースである被告製品に殊更に注目して被告製品を購入したというよりも,他
の店舗用品と組み合わせて購入できる利便性や,内装工事を含めて店舗全体又は売
り場全体の什器・備品を総合的に購入することができるという被告の販売体制に魅
力を感じて,被告と取引をするに至り,その取引の一環として被告製品を購入した
と認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張について
原告らは,被告がドン・キホーテの店舗内装を受注するに当たり,
ドン・キホーテから原告製品を使用するよう指示されたため,原告扶桑産業と原告
製品の取引をするようになったとか,バンドル取引においても原告製品を組み込む
需要があり,被告がその需要に応え,顧客との取引を維持するために原告製品を侵
害品である被告製品に置き換えたなどと主張する。
確かに,被告は現在でも,原告扶桑産業から原告製品を購入しているから,本件
発明の技術的範囲に属する製品を購入し,エンドユーザーにこれを販売する一定の
需要があったというべきである。
しかし,原告らが主張する原告扶桑産業との取引開始の経緯や,被告が本件特許
のライセンスを求めたことについては,これを認めるに足りる証拠はないし,被告
が,被告製品のモデルチェンジをして,本件特許権の侵害とならないカードケース
を販売するようになった後,被告のバンドル取引による売上げが減ったとの事情も
認められない。
以上の事情に加え,前記認定の被告製品の取引の実情を踏まえると,被告が顧客
との取引を維持するために原告製品を侵害品である被告製品に置き換えたとまで認
めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
(3) そうすると,被告主張の事情は,侵害者である被告が得た利益
と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を相当程度,阻害す
る事情といえる。
(b) また,被告の企業規模や販売する製品の多様性は前記認定のとお
りであり,被告が被告製品を販売するに当たり,被告自身の販売力や企業規模,ブ
ランドイメージか需要者に与えた影響も小さくないものというべきである。
したがって,この事情も,上記(a)の事情と相まって,侵害者である被告が得た利
益と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を一定程度,阻害
する事情といえる。
(c) なお,被告はその他に自身の営業努力も推定覆滅事由として主張
するが,被告製品に関する事実関係が明らかではなく,事業者は,製品の製造,販
売に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であることを
踏まえると,推定覆滅事由として考慮すべきとまでいうことはできない。
c 被告は代替品・競合品(乙67ないし72)の存在を指摘している。
しかし,推定覆滅事由として考慮する競合品といえるためには,市場において侵
害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決)。このような観点から被告主張の製品を検討すると,被告が指
摘する製品には,その具体的構成や使用方法が判然としないものも含まれているほ\nか,カードケースが上保持部と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本\n的部分を備えたものと認めることもできないから,被告指摘の製品を代替品ないし
競合品ということはできない。また,被告指摘の製品の販売時期等も不明である。
したがって,被告の上記指摘によって推定が覆滅されるとはいえない。
d 被告は,乙73ないし77の先行技術等の存在を指摘して,被告製
品の販売に対して本件発明の技術的意義が寄与する程度は低いということを主張す
る。
しかし,被告が指摘する乙73ないし77はいずれも,カードケースが上保持部
と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本的部分を備えたものと認める\nことはできない。また,被告が指摘する乙77は,表示板支持棒の先端に表\示板が
取り付けられているものの,その取り付け方法は,指示棒の先端に平板部分を設け,
その下面に突設されたピンに表示板を保持するというものであり(乙77の【考案\nの詳細な説明】の【0021】),本件発明の構成とは大きく異なっている。それ\nだけでなく,被告製品が販売されていた時期に,本件発明の作用効果の一部を奏す
るとされる技術があったとしても,それだけで直ちに,原告扶桑産業において,本
件特許の全構成を備えた被告製品の販売による利益に相当する損害を被ったことが\n否定されるとはいえない。
したがって,被告の主張の技術的観点からの主張は採用できない。
e 以上より,本件では前記b(a)及び(b)記載の事情を推定覆滅事由と
して考慮すべきところ,前記認定・判示の事情を踏まえると,6割の限度で推定が
覆滅されると認めるのが相当である。
この点に関し,被告は顧客が原告らに注文して原告製品を購入するという行動に
出たという可能性は皆無であったなどとして,推定覆滅率を99.09%とすべき\n旨主張する。
確かに,被告が原告扶桑産業から原告製品を購入すべき義務を負っていたという
事情はうかがえないから,被告が原告製品以外のカードケースを販売すること自体
は自由にできたことと認められる。
しかし,他方で,被告は遅くとも平成24年1月以降,原告製品を購入し,量販
店等のエンドユーザーに対して販売しており,以前原告製品を購入したことのある
エンドユーザーがバンドル取引において原告製品を組み込むことを希望する可能性\nも否定できない。また,前記認定のとおり,被告製品の販売を開始した平成25年
2月以降も,原告製品の購入を完全にやめたわけではなく,量販店等のエンドユー
ザーへの販売もされていたことが推認されるから,被告において原告製品を購入し,
これをエンドユーザーに販売する必要性が全くなかったとまで認めることはできな
い。むしろ,従前の経緯を踏まえると,被告が本件特許の侵害品を販売しなければ,
原告扶桑産業から原告製品を購入し続け,原告扶桑産業が利益を得ていた可能性も\n一定程度認められるものというべきである。
したがって,被告が主張するように99.09%もの推定覆滅を認めることは相
当でない。
f 他に共有者がいることによる控除(推定覆滅)
(a) 被告は,特許法102条2項に基づく原告扶桑産業の損害は,同
項に基づき算定される逸失利益の2分の1にとどまると主張する。
しかし,特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないで
その特許発明の実施をすることができるものの(特許法73条2項),その価値の
全てを独占するものではないことに鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額
の推定を受けるに当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失
利益額を推定されると解するのが相当であり,共有持分の割合を基準に共有者各自
の逸失利益額を推定すべきものではない。本件においては,前記(1)オで検討したと
おり,原告製品を製造して被告に販売するという実施による利益は原告扶桑産業に
帰属し,原告ソーグは,これに伴って金員を得ていたにすぎないから,原告扶桑産\n業の損害額を算定するに当たり,特許法102条2項に基づく利益額の算定から,
共有持分の割合に応じて2分の1を控除(推定覆滅)すべき理由はない。
しかしながら,原告ソーグについては,被告製品の販売により,特許法102条\n3項の実施料相当額の損害を観念し得ることは既に述べたとおりであり,この場合
に,特許権の共有者の一部(原告扶桑産業)が同条2項により侵害者に対し損害賠
償請求権を行使するに当たっては,同項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他
の共有者(原告ソーグ)の同条3項に基づく実施料相当額(共有持分の割合により\n取得する。)の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である(知財高裁平成30
年11月20日判決・最高裁ウェブページ)。
(b) そこで,原告ソーグが被告に対して請求することができる特許法\n102条3項に基づく実施料相当損害金の額について検討する。
この点について,被告は原告らの間で支払われていた差益をもとに実施料率を算
定すべきと主張するが,原告らが指摘する差益は特許権の共有者間で支払われてい
るものであり,その具体的内容や法的位置付けは判然としない(なお,原告らは訴
状において原告製品の原材料の売買による差益と主張していた。)から,この金額
を実施料相当損害金の額を算定するのに用いることは相当でない。
そこで,本件では業界における実施料の相場を考慮に入れつつ,相当な実施料率
を認定するのが相当である。
被告はそれを前提としつつも,本件発明の寄与度や被告による販売力等を考慮す
ると,原告ソーグの共有持分(2分の1)に係る相当な実施料率は0.025%で\nあると主張するが,推定覆滅事由に関する前記判示によれば,本件発明の寄与度を
考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条
件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最
頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の
構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,\n前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメー
ジ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらに
は特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料
率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべ
きであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:\n被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。
(c) そして,原告ソーグについて特許法102条3項により算定した\n(中略)円を,原告扶桑産業との関係では,前記eの推定覆滅に加え,さらに控
除(覆滅)すべきことになる。
ウ したがって,原告扶桑産業の特許法102条2項に基づく損害額は(中
略)円(計算式:(中略)円×4割(推定覆滅後)−(中略)円)と認められる。
なお,原告扶桑産業は特許法102条1項に基づく損害の主張もしているが,原
告ら主張の原告らの利益額は(中略)円であるところ,特許法102条1項ただし
書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の
推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27
年11月29日判決参照),本件では前記判示に照らすと,原告らの利益について
6割の限度で「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当で
ある。そうすると,原告ら主張の利益額について立証されているかを検討するまで
もなく,同条1項に基づく損害額が前記認定の同条2項に基づく損害額を下回るも
のであることは明らかである。
エ 原告扶桑産業は,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起
等を委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告扶桑産業の損害額は合計(中略)円となる。
(3) 原告ソーグの損害額\n
原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害額は,上記認定のとおり,(中\n略)円と認められる。
そして,原告ソーグは,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起等\nを委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告ソーグの損害額は合計(中略)円となる。\n
4 以上より,原告らの請求は,それぞれ主文第1項及び第2項に掲げる限度で
理由があるから,その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄
却することとして,主文のとおり判決する。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
◆別紙3
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2019.08.15
平成29(ワ)4311 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月18日 大阪地方裁判所
特許権侵害で102条2項に基づく損害として1000万を越える損害額が認定されました。利益を計算するに当たって、消費税を控除すべきかについても判断されています。
後記検討する【図2】及び【図3】の問題を除けば,上記検討した本件明細
書の記載には,肘置き部が,施術部よりも上方部で施術部に連結していなければな
らないことを積極的に示すような内容は存しないと思われるのに対し,本件発明の
効果の観点では,肘置き部は,施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位
置で,施術部に連結されると解するのが合理的である。
そして,本件発明1の文言において,「上方位置」と「施術者の上方部」とは近
接する位置で使用されており,本件補正により追加された際にも,当然両者を認識
の上,別異の意味を有するものとして使用されたと解されるところ,前述のとおり,
「上方位置」が施術部よりも上方部の意味である以上,「施術部の上方部」はこれ
とは異なる意味であると解され,このことに,上記検討した本件明細書の記載内容
を総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」は,施術部における上方部,すな\nわち,施術部の上下方向における略中心を想定し,それよりも上方の部分を指すと
解するのが相当である。
被告らは,構成要件Cが本件補正により追加された要件であるところ,特許\n請求の範囲の補正に当たって新たな技術的事項の導入は許されないとして,本件明
細書の【図2】及び【図3】においては,肘置き部の上方位置の背面に連結部であ
る水平軸が設けられていることから,本件発明における「上方部」は,構成要件B\nの「上方位置」と同様,「施術部の,それより上の部分」(施術部を含まず,施術
部に対して上)と解釈せざるを得ないと主張する。
確かに,本件明細書の【図3】では,肘受け部の回転軸が,施術部の上縁より少
し上方に存するように見えるが,これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明
示されているし(【0015】),回転軸が,施術部の上縁に接する状態であれば,
これも,施術部における上方部に,肘置き部が連結されているといえなくもない。
その他の【図】で開示されている実施例では,肘置き部がどの位置で施術部に連
結され,回転軸がどの位置に存在するかは全く不明といわざるを得ないが,少なく
とも,施術部における上方部に肘置き部を連結する構成と,明らかに矛盾するよう\nな内容は存しない。
イ 出願経過及び本件意見書の記載について
本件意見書には,「4.特許法第29条第2項の拒絶の理由がないことの説
明」という表題の下,「(a)本願第1発明の説明」として,本件発明1につき,\nアイメイクの施術部位は被施術者の目尻,目頭,瞼,まつ毛,眉毛等であるため,
この施術部位の周辺に施術者の手を配置すれば,必然的に肘の位置は手の位置を基
点とした範囲内(被施術者の頭部周辺)になるところ,その範囲で肘を支える部材
として肘置き部を備えたのが本件発明1であること,肘置き部が施術部の上方部を
基点として,これを軸に施術部に対して回動することで施術部に対する角度が変化
するが,肘置き部がどのような角度に調整された場合であっても,回動する範囲は
施術部の周囲(頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置)において一定で
あるため,肘置き部が回動する範囲は,施術部位周辺に施術者が手を配置した際に
その施術者の肘が配置される範囲と常に一致すること,これにより,施術者は肘置
き部により肘を固定させて施術することができるため,施術が安定するとともに施
術効率を向上させることができる旨が記載されている。
また,原告は,上記に続く「(b)本件拒絶理由通知書における認定」にお
いて,本件拒絶理由通知の概略を,1)「被施術者の頭部を載置する施術部が形成さ
れている施術台において,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の
頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置\nき部を設けることで施術者の施術における負担の軽減を図るものは,例えば,引用
文献2の第1図における肘掛け34a,34b(中略)にみられるように周知技術
(以下「周知技術1」という。)であり,引用発明1において上記周知技術1を適
用し,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の頭部の左右位置,も
しくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものと\nする(中略)ことは当業者が容易になし得たものである。」,及び2)「さらに,施
術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能\なものとすることも,例
えば,引用文献3(中略),引用文献4(中略)にみられるように周知技術(以下
「周知技術2」という。)であり,引用発明1において上記周知技術2を適用し,
前記肘置き部は水平を軸にして回動可能であるものとすることも当業者が容易にな\nし得たものである。」とまとめた上で,それに続く「(c)本願第1発明と引用発
明との対比」において,引用発明2について,「ヘッドレスト33が傾倒するもの
であり,肘掛け34a,34bは個別に回動するものではありません。また,肘掛
け34a,34bの取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」「した
がって,引用発明1に,上記した各引用発明のいずれを適用したとしても,本件発
明1のように,『肘置き部が前記施術部の上方部に連結され,水平を軸にして前記
施術部に対して回動可能』な構\成とはならない」と記載した。
被告らは,上記原告の引用発明2に関する文章(「肘掛け34a,34bの
取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」)を理由に,本件意見書に
おいて,原告は,肘置き部の取付け位置が施術部の左右である構成を排除した旨を\n主張する。
しかしながら,本件意見書の上記文章は,引用発明2について,肘掛けの取付け
位置がヘッドレストの左右であるものの,肘掛けが回動しない点で本件発明とは異
なる旨を指摘したものと解することができ,被告の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上検討したところを総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」とは,施術\n部における上方部の意味に解すべきであるが,肘置き部の回転軸が施術部の上縁に
接するよう連結する構成も含み得るとすると,その範囲については,別紙原告図面\nのうち,赤で示された部分を指すと解すべきこととなる。
(2)構成要件Cの「連結」の意義について\n
ア 「連結」の字義的意味は,「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」で
あるところ,本件明細書には,特に「連結」についての定義や,具体的な連結方法
についての記載はない。
本件明細書の【図2】及び【図3】には,肘置き部と施術部が,それぞれ支持部
材と背面部材を介して,水平軸の位置でつながっている形態が示されており,段落
【0018】も上記形態について説明する。
また,本件意見書には,肘置き部が,施術部の上方部を基点として,これを軸に
施術部に対して回動すること,引用発明3及び引用発明4においては,枕F(また
は head rest 2)と肘受24(または head rest 4)とが連動せず別々に動作するこ
とが望ましいと考えられるため,引用発明1にこれらの発明を適用したとしても本
件発明1の構成要件Cのような構\成にはならないことが記載されている。
そうすると,構成要件Cにおける「連結」とは,施術部と肘置き部が別々に動作\nすることができない形態でつながっていることを意味し,それ以上具体的な連結方
法について定めるものではないと解するのが相当である。
イ 被告らは,本件明細書の【図1】及び【図6】に示される実施形態から,構\n成要件Cの「連結」とは,「肘置き部が,その上方位置の背面において,前記施術
部の上方部に連結され」と解釈すべきであると主張するが,同図は,1つの実施形
態にすぎないから,そこから具体的な連結部位についてまで定められていると解す
べきではない。
(3) 被告製品の構成\n
ア 別紙被告製品写真1ないし4及び別紙「被告製品の説明書」によれば,構成\n要件Cに対応する被告製品の構成cは,施術部の左右側面のうち,上下方向におけ\nる中央線よりも上の部分において,回動部材を介して施術部とリクライニングアー
ムとがつながる構成をとり,施術部を左右方向に横切るような仮想の回転軸を中心\nにリクライニングアームが回動するものであると認められる。
イ 被告らは,被告製品の肘置き部が施術部の「左右位置」において回転自在に
支持されていることから,本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが,構\成
要件Cの「施術部の上方部」が施術部の左右側面を排除しない概念であることは前
述のとおりであり,また,構成要件Cの「連結」が具体的な連結方法や連結部位を\n定めるものではないことも前述のとおりであるから,上記被告らの主張を採用する
ことはできない。
ウ また,被告らは,被告製品について,仮想の回転軸が施術部を貫通している
ことから,回転軸が施術部の背面にあり,また施術部よりも上方にある本件発明と
比較して,肘置き部を回転させた時に肘置き部の左右位置と施術部との間の距離が
比較的短く施術しやすい,という本件明細書から記載された発明からは導き出せな
い技術的事項を有すると主張するが,本件発明の回転軸が施術部よりも上方にある
との主張は採用できず,被告らの主張は理由がない。
(4) まとめ
以上より,被告製品のリクライニングアームは,施術部の上方部に連結され,水
平を軸として施術部に対して回動可能であると認められるから,本件発明の構\成要
件Cを充足する。
・・・
上記(1)及び(2)によると,被告製品の売上高(税込)から原価(税込)を控除した
額は,951万7032円(別紙被告計算表の「粗利(総計売上税込−総計原価税\n込)」欄参照。)であり,同額を被告らの利益の額と認め,原告の損害額を算定す
る基礎とするのが相当である。
なお,消費税基本通達5−2−5に鑑みれば,知的財産権の侵害に基づく損害賠
償金は,消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当し,消費税の課税対象となると解
するのが相当であり(消費税法2条1項8号,同法4条1項),本件における損害
賠償金も,特許権の侵害に基づく損害賠償金として消費税の課税対象となると解さ
れるところ,上記被告らの利益の額は,税込売上高から税込原価を控除したもので
あり,消費税相当額を含む額であるから,原告の損害額を算定する際に,さらに消
費税相当額8%を加算する必要はない。
イ 被告らの主張について
被告らは,消費税に関し,特許法102条2項の「利益」の算定方法について主
張するほか,そもそも,同項により推定される損害賠償金は逸失利益であるから,
一般的に消費税の課税の対象とならないか,本件の個別事情に照らし,損害賠償金
は対価性がないため消費税の課税の対象とならないこと,仮に本件における損害賠
償金が消費税の課税の対象になるとしても,原告と被告との間において内税方式,
外税方式のいずれを採用するかについての合意がない以上,内税方式によるべきで
あることを主張する。
しかしながら,特許権侵害に対する損害賠償請求訴訟では,典型的には,特許権
者のみが発明の実施品を製造,販売している状態を想定し,侵害品の販売により特
許権者側の売上等が減少したことを損害と捉え,認定又は推定の方法により算定し
た損害賠償額金を得させることで,権利侵害のなかった原状に可及的に復させよう
とするものであるところ,その回復の対象となる原状において,特許権者が発明の
実施品を製造,販売すれば,売上,経費いずれの面でも消費税は考慮されるはずで
ある。
そうすると,本件のように,回復の対象である原状において,消費税が考慮され
る事案においては,その回復の手段として逸失利益の損害賠償を算定する際におい
ても消費税の負担は考慮すべきことになり,これに反する被告らの主張は採用でき
ない。
そして,その計算としては,前述のとおり,消費税相当額を考慮した売上額から,
消費税相当額を考慮した経費額を控除すれば足りると解され,これによって算定し
た損害額に,さらに消費税相当額を加算する必要はないし,当事者間に特段の合意
がなければ内税方式により計算すべきであるとの被告らの主張も理由がない。
また,被告らは,消費税相当額分の遅延損害金の起算日は,その額が確定した日,
すなわち判決確定日であって不法行為時ではないと主張するが,上記アのとおり,
原告に支払われるべき損害賠償金は,消費税相当額を含むものの,全体としては特
許法102条2項により原告の損害と推定される額であるから,全部につき不法行
為の日から遅滞に陥ると解するのが相当である。
(4) 推定覆滅又は寄与率について
ア 被告らは,本件発明の被告製品に対する技術的寄与及び顧客吸引力は小さく,
寄与率は50%程度であると主張する。
しかし,本件発明3の構成要件Fは,リクライニング機構\が付与されていること
とされており,本件明細書の段落【0020】及び【0021】にも,電動式を含
むリクライニング機構が付与されていることにより,異なるアイメイク施術を1台\nで済ませることができたり,被施術者が仰向けになったときの下半身の負担を軽減
したりすることができる旨の記載がある。また,本件発明はアイメイク用施術台全
体に関するものであって,リクライニングアームのみに関する発明ではない。
よって,本件発明の,被告製品に対する技術的寄与が少ないという上記被告らの
主張を採用することはできない。
イ また,被告製品の価格(11万8000円(税抜))と本件発明の実施品の
価格(18万2000円(税抜))との差は6万4000円であるところ(乙29),
これが直ちに顧客吸引力に大きな差が生じるまでの金額ということはできない。ま
た,被告らは,高田ベッド製作所がアイメイク用施術台の分野において特別なブラ
ンド力を有することや,被告製品の広告宣伝において,高田ベッド製作所のブラン
ド力を使用していること等の主張立証をせず,リクライニング機構が本件発明3の\n構成要件となっていることは,上記アのとおりである。\nよって,本件発明が,顧客の購買に寄与する要素が極めて小さいという上記被告
らの主張を採用することはできない。
ウ したがって,本件において特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情は認
められない。
(5) 特許法102条4項後段に関する主張
原告は,平成28年10月31日付け及び同年12月5日付けで,被告アイラッ
シュに対し,本件特許権の侵害について2回にわたり警告し,被告アイラッシュも
これに回答していることから(甲5ないし8),被告らにおいて被告製品が本件特
許の権利範囲外であると考えたことについて,故意または重過失がなかったとして
損害賠償の額を定めるにつきこれを参酌すべき場合であるとは認められない。
◆判決本文
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2019.06.21
平成29(ワ)9201 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月20日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、102条3項の実施料率として7%が認定されました。大阪地裁はその理由を詳細に認定しています。H31.3の特許法改正規定の施行を先取りする形で、「通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべき」と一般論を述べています。
特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権
…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨
規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準と
し,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
ここで,特許法102条3項については,「その特許発明の実施に対し通常受け
るべき金銭の額に相当する額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年
法律第51号による改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。また,特
許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らか
ではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合で
あっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制
約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し,
特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約
上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっ
て用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契
約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施
料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受
けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それ
が明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特
許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能\n性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態
様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 実施料の相場(1))
「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。
甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野に
おける平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63
年度〜平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全
体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており,
この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他
の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾
向は,医薬品が支
れている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値
32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ) 本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(2)〜3))
a 原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性
手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその
価値は高いなどと主張する。
泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製
品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾
性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で
は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したとき
の使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決
する製品である旨がうたわれていることが認められる。
また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。
甲39,41の1〜41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設
したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとと
もに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入
っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤
や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。
さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関
する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る「医薬品として日本で初めて
承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤」の出荷開始予定について\n報じる中で,「同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる
手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼ
れるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認でき
る−といった使用感も特徴。」,「現在,医療分野における手指消毒剤市場は約1
60億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。\nただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていく\nことが見込まれている。」とされている。
加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医
療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェ
ルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年には
それぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。
以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者
の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を
利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発
明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡
状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件
各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関
しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みる
と,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては,
当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察される
ことに鑑みると,このことは軽視し得ない。
これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明
ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事
業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと
はいえないなどと主張する。
しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効
果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本
件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が
営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤
に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格
別のものであると見るべき事情もない。
これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
b 被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3
00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600m
Lのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500
mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200m
Lの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペン
サー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面,
これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから,
被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ
れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点
から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ) 小括
上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定め
られるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当
である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。
ウ 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」
以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額
に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。
◆判決本文
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2019.06.21
平成30(ネ)10017 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年4月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害事件が控訴されましたが、1審と同様に、差止・損害賠償が認められました。損害賠償額は増えています。102条3項の実施料率について判断されています。具体的数値は伏せ字となっているため不明です。控訴審でも平均値である5.9%平均よりも、低く認定されたようですが、1審よりも高くなったと思われます。
(1) 実施料率
ア 1)平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち,合計出
願件数の上位となっている企業・団体(対象2031件)に加えて,株式会社帝国
データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施し
ていると判断された企業(対象975件)に対するアンケート調査(有効回答56
3件)において,化学分野(IPC分類のC01〜C14;103件)に係る特許
権のロイヤルティ料率の平均値は4.3%であるとされていること(甲67,乙5
8),2)財団法人経済産業調査会発行の「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特
許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲68)において,上記アン
ケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として,「有機化
学,農薬」分野(IPC分類のA61,C07,C40;54件)のロイヤルティ
率の平均値は5.9%とされていることが認められる。
本件各発明のIPC分類は,C07D,A01N,A01Pである(甲2の2)
から,上記1)よりは2)の方が本件各発明からより遠い技術分野のサンプルが除外さ
れており,2)の54件というサンプル数も少なくないということができるから,本
件各発明の相当実施料率の検討に当たっては,1)よりは2)を念頭に検討することが
相当である。
イ 証拠(甲2の2,乙1〜4)及び弁論の全趣旨によると,本件各発明は,
除草剤の有効成分又はその候補となる新規化合物を提供することを課題として,化
合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるが,発明の詳細な説明におい
て,上記化合物の除草特性に関する個別の実験結果は示されておらず,本件出願日
当時の技術常識に照らして上記化合物が除草作用を有しており,除草剤の有効成分
の候補となり得るものであることが認識できるにとどまるものである。そうすると,
本件各発明の化合物を水稲など特定の作物に用いる農薬として利用するためには,
本件各発明の多数の化合物の中からテフリルトリオンのような特定の化合物を選び
出した上,その化合物が上記作物の栽培に当たり想定される具体的な雑草に対する
除草効果を発揮する一方,上記作物に対する有害性がないことを確認する必要があ
り,相応の試行錯誤を要することは明らかである。
したがって,本件各発明の実施料率は,類似する技術分野の実施料率の分布にお
いて,平均よりも一定程度低く位置付けることが相当である。
ウ 証拠(甲4,5,甲6の1〜4,甲7の1〜3,甲55〜61,72)
及び弁論の全趣旨によると,1)被告製品2は,いずれもテフリルトリオンに加えて
もう1種類の有効成分(被告製品2(1)〜(3)のフェントラザミド,同(4)〜(6)のメフェ
ナセット,同(7)〜(12)のトリアファモン。以下,「フェントラザミド等」という。)を
含有する農薬混合物であること,2)テフリルトリオンは,ノビエを除く幅広い雑草
に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類,アゼナ類,
コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対し,フェントラザミド等は,いずれ
もテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有し\nており,テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあること,3)一審被
告が作成した被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告宣伝でも,2種類の有
効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及び
ノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(例
えば,被告製品(4)〜(6)の技術資料〔甲5〕においては,表紙である1頁に「2成分\nで白く枯らす。効きめが見える。」と記載され,4頁の「ポッシブルの特長」におい
ても6項目中の1番目に「2成分で高い除草効果 ノビエをはじめとした一年生雑
草から,ホタルイ,ウリカワ,ミズガヤツリ,ヘラオモダカ,ヒルムシロ,セリ,
オモダカ,クログワイなと〔判決注・「など」の誤記と認める。〕の多年生雑草に対
し高い効果を示します。また,新規成分テフリルトリオンとメフェナセットの2種
混合なので,減農薬栽培にも適しています。」などと記載されている。)が認められ
る。
上記認定の事実によると,被告製品2においては,テフリルトリオンが,ノビエ
を除く幅広い雑草に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草にも高い
除草作用を有していることから,有効成分として主たる役割を果たすものと認めら
れるが,フェントラザミド等は,テフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエ\nに対して優れた除草効果を有しているところ,ノビエに対する除草効果も重要であ
るものと認められる。
そうすると,被告製品2の顧客吸引力は,その過半がテフリルトリオンによるも
のではあるが,その一部はフェントラザミド等によるものであると認められる。
エ 前記ア〜ウに併せて,一審被告が一審原告から本件特許の実施許諾を得
ずに被告製品2の製造販売等を継続していた一方,結果的に本件訂正により解消し
たとはいえ,本件特許は無効理由を有していたことなど,本件に顕れた全ての事情
を総合すると,被告製品2に係る本件特許権侵害の不法行為の損害の額を特許法1
02条3項により算定する際に適用すべき実施料率は●●●●が相当である。
なお,証拠(乙65〜67)によると,OATアグリオ株式会社は,平成28年
8月頃,「サスケ−ラジカルジャンボ」,「半蔵1キロ粒剤」という水稲用一発処理除
草剤を販売していたこと,いずれも,ホタルイ,コナギ,アゼナ類などSU抵抗性
雑草に強いことを宣伝文句としており,有効成分にシクロスルファムロン及びベン
ゾビシクロンを含む(その余の有効成分として,前者はカフェンストロール及びダ
イムロンを,後者はペントキサゾンを含む。)こと,「サスケ」及び「半蔵」はBA
SF社(一審原告又はその関連会社と推認される。)の登録商標であったことが認め
られる。しかし,上記登録商標の使用許諾以外には,これらの除草剤の販売に一審
原告がどのように関わっているかや,これらの除草剤が被告製品2とどの程度競合
関係にあるかは,本件全証拠によっても明らかではないから,これらの事実につい
ては,考慮しないこととする。また,前記認定のとおり,バイエル特許が存することが認められるが,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に属するから,本件特許を実施してはじめてバイエル特許を実施することができるものであり,前記のとおり,本件各発明の化合物を除草剤とするには相応の試行錯誤が必要であることは既に考慮しているから,バイエル特許が存することを,既に判示したところを超えて考慮する必要はない。
◆判決本文
原審では、実施料率について、以下のように認定されています。
◆平成27(ワ)2862
上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果
として,「有機化学,農薬」分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされてい
ることが認められる。
上記事実関係に照らすと,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に含まれるテ
フリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの,本件各発明の
効果が特に顕著であるとみることはできない。また,被告製品2においては,テフ
リルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果
を有しており,技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であ
ることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮\nされる必要がある。
加えて,本件各発明についての特許に上記3(1)及び(2)のとおりの無効理由がある
ことからすると,被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品
2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって,実施料率をそれ程高
額なものと認定するのは相当とはいえない。
以上を総合すると,本件における特許法102条3項所定の損害の額は,被告製
品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である。
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2019.06. 7
平成30(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月7日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁特別部、いわゆる大合議判決です。争点は充足論、無効論など、多々ありますが、102条2項の推定覆滅事由、同3項の損害額の判断基準について一般論を述べています。
(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情
と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者
が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),2)市
場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),4)侵害
品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法1
02条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅
の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部
分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで
きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の
覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における
位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するの
が相当である。
イ 控訴人らは,炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを
前提に,他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係
に立つ製品であることを要するものと解される。
被告各製品は,炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし,炭
酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化
炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック
化粧料である。そして,化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさのみならず,
手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必
要や好みに応じて選択されるものであるから,剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用
したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人ら
が競合品であると主張する製品は,その販売時期や市場占有率等が不明であり,市
場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない。
ウ 控訴人らは,被告各製品が利便性に優れているとか,被告各製品の販売は
控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。
しかし,事業者は,製品の製造,販売に当たり,製品の利便性について工夫し,
営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても,
推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件において,控訴人らが通常の範囲
を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 控訴人らは,被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると\n主張する。
侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても,そのことから\n直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,当該優れた効能が侵害者の売上げに貢\n献しているといった事情がなければならないというべきである。
・・・
(ウ) 被告各製品及び原告製品は,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
の実施品であり,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生さ
せ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚に
適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に
効果を有するものであると認められるのであり,上記(ア)及び(イ)に認定した事実に
よっても,被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し,これが控訴人\nらの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず,ほかにこれを認める
に足りる的確な証拠はない。
オ 控訴人らは,被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品で
あるなどとして,これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべき
であると主張する。
侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても,そのことから直ちに推定の覆
滅が認められるのではなく,他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献
しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが,
二酸化炭素外用剤に関連する特許である,1)特許第4130181号(乙A18),
2)特許第4248878号(乙A19),3)特許第4589432号(乙A20),
4)特許第4756265号(乙B全7)を保有していることは認められるが,被告
各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠は
ないから,そもそも,被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができ
ない。よって,これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。
なお,被告各製品の中には,上記特許権の存在や,特許取得済みであることを
外装箱に表示したり,宣伝広告に表\示したりしているものがあったことが認められ
る(甲7,8,17,20)が,特許発明の実施の事実が認められない場合に,そ
の特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないか\nら,この点による推定の覆滅を認めることもできない。
カ 控訴人らは,従来技術との比較の観点から,本件発明1−1及び本件発明
2−1の技術的価値が低いことを主張するが,控訴人らが指摘するジェルと粉末を
組み合わせる化粧料の技術(資生堂614及び日清324)は,炭酸ガスを利用し
た化粧料に係るものではないし(乙A103,乙E全9,35,36),2剤混合
型の気泡状の二酸化炭素を発生する化粧料(石垣発明1及び2)は,炭酸ガスの気
泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の技術であって,二酸
化炭素を気泡状で保持する二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのものではない
(乙E全4,5,37,38)から,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
を代替するものではない。そうすると,これらの従来技術の存在は,被控訴人の受
ける損害とは無関係であるから,推定覆滅事由に当たるということはできない。
キ 控訴人らは,乙A3の実験結果によれば,ブチレングリコールが配合され
た被告各製品においては,本件発明1−1及び本件発明2−1の寄与は限定的であ
ると主張する。しかし,本件発明1−1及び本件発明2−1は二酸化炭素含有粘性
組成物を得るための2剤型の化粧料のキットの発明であるところ,被告各製品は,
炭酸塩を含むジェル剤と酸を含む顆粒剤を混合して使用するパック化粧料のキット
であるから,本件発明1−1及び本件発明2−1は被告各製品の全体について実施
されているというべきである。また,被告各製品にブチレングリコールが配合され
たことによる効果が控訴人らの売上げに貢献しているといった事情も認められない
本件において,ブチレングリコールが配合されていることは,被控訴人の受ける損
害とは無関係であるから,控訴人らが指摘する乙A3の実験の結果は,控訴人らの
上記主張を基礎付けるものではない。
・・・
6 損害(特許法102条3項)(争点6−2)
(1) 特許法102条3項について
ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3\n項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も
主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最
低限度の損害額を法定した規定である。
イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許
権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す
る額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」
旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準
とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許
発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,
「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により
「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効に
されるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,
当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることがで
きないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施
料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものと
はいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契
約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約に
おける実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対
して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施
料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾
契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場
等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重
要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上
げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の
営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
・・・・
ウ 実施に対し受けるべき金銭の額
上記のとおり,1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料
率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平
均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.
1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決
金を売上高の10%とした事例があること,2)本件発明1−1及び本件発明2−1
は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,3)本件発明1−1及び
本件発明2−1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,
4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮す
ると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し
受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許
権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でそ
の料率は異ならないものと解すべきである。
したがって,本件各特許権侵害について,特許法102条3項により算定され
る損害額は,別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記\n載のとおりとなる。
(3) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被告各製品における本件各特許の寄与が限定されることを根拠に
実施に対し受けるべき料率を低くすべきであると主張するが,前記5(3)に説示し
たところに照らし,本件発明1−1及び本件発明2−1を被告各製品に用いたこと
による売上げ及び利益への貢献が限定されるとは認められないから,控訴人らの主
張は前提を欠く。
また,控訴人らは,被控訴人のビジネスモデルが不当に競争を制限するもので
あると主張するが,前記5(1)イにおいて認定したとおり,被控訴人は本件各特許
の実施品を製造販売しているのであるから,被控訴人のビジネスモデルが不当に競
争を制限するものであると解する根拠がない。控訴人らの,MLMによる販売手法
に関する主張は具体的な主張を欠き,失当である。
控訴人らの主張するその余の点も,上記判断を左右するものではない。
7 総括
(1) 被控訴人キアラマキアート(被告製品5)については,上記6で認定した
特許法102条3項に係る損害額が,前記5で認定した同条2項に係る損害額より
も高いから,同条3項に係る損害額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
他方,その余の控訴人らについては,いずれも前記5で認定した同条2項に係
る損害額の方が高いから,この金額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
なお,控訴人コスメプロらは,被告各製品を製造,販売するに至った経緯等に
照らし控訴人コスメプロらには故意又は重大な過失はなかったとして,同条4項に
基づき,このことを控訴人コスメプロらの損害賠償額を定めるについて参酌すべき
であると主張する。しかし,控訴人コスメプロ,控訴人アイリカ,控訴人ウインセ
ンス,控訴人コスメボーゼ及び控訴人クリアノワールは,化粧品の製造会社であり,
仮に同控訴人らの主張する諸事情があったとしても,同控訴人らにつき,特許権侵
害についての故意又は重大な過失がなかったということはできないから,控訴人ら
の上記主張は採用できない。
◆判決本文
◆要旨
原審はこちら
◆平成27(ワ)4292
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2019.03.28
平成27(ワ)4292 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月28日 大阪地方裁判所
漏れていたのでアップします。大阪地裁は、特許侵害として、差止請求および総計3.3億円の損害賠償請求を認めました。争点は、間接侵害、サポート要件、進歩性違反などたくさんあります。この事件は控訴されており、知財高裁の特別部での審議が発表されています。大合議事件にされた理由は、下記でしょうか?\n
「共同不法行為が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連
共同性が認められる場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認めら
れる場合など,各侵害者に,他の侵害者による行為によって生じた損害についても
負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきで
ある。そして,例えば,製造業者が小売業者に製品を販売し,これを小売業者が消
費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,製造業者と小売業
者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても,
これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると\nはいえない。
・・・
被告アンプリーは,被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ,これを被告リズ
ムに転売していたところ,被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売
する商品の相談をしており,その中で被告製品8を仕入れることになり,被告リズ
ムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の
1)。これに対し,被告アンプリーは,OEMメーカーではあったが,被告リズム
の創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し,販路として育成していこ
うと考え,被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付け
の企業にし,被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのであ
る(乙B13の1,弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟では,被告アンプリーは被
告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで
主張しているのであり,被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあっ
たと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして,被告リズムによる売上額は
3億円を超えており,被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており,他の被
告の他の製品の売上額と比較しても,桁違いに売上額が大きい。このような売上げ
を上げることができたのは,以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関
係性があったからであると推認され,両社は相互に利用補充しながら,被告製品8
の製造,販売をしてきたということができる。したがって,両社の行為には,客観
的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為が成立するというべきである。
これに対し,被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると,被
告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの,被告ネオケミアは他にも
自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1,3,4及び15)を
製造するなどし,被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。この
ような実態に照らせば,被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあ
ったとはいえないし,同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるな
どともいえない。
以上より,被告製品8に関し,被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同
不法行為が成立する。」
◆判決本文
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2018.11.13
平成28(ワ)38103 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年10月17日 東京地方裁判所
太陽光発電システムの工事について特許権侵害が認められました。東京地裁29部は、特102条3項による損害額として約1000万円を認めました。
(1)原告は,まず,原告が太陽光発電装置の請負契約を締結する場合の請負代金
額を基に,太陽光発電パネルの出力1kw当たりの請負代金額は32万円であると
して,これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた1億1581万440
0円を民法709条所定の損害であると主張する。
しかしながら,太陽光発電装置の施工について,被告が本件各土地で施工してい
なければ,原告がこれらを受注して施工することができたと認めるに足る証拠はな
いから,原告の主張する上記の損害は被告の行為と相当因果関係のある損害である
と認めることはできない。
(2) 原告は,次いで,本件特許に係る「単位数量当たりの利益の額」(特許法1
02条1項)は太陽光発電パネルの出力1kwを1単位として算定すべきであると
して,太陽光発電パネルの出力1kw当たりの利益の額は9万8000円であり,
これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた3546万8160円を特許
法102条1項による損害額であると主張する。
しかしながら,原告の上記の主張は,アルバテック又は原告による太陽光発電装
置の施工に係る見積書(甲22の1,甲23の1)等の書面に基づくものであり,
これらが実際の取引金額を反映したものであると認めるに足る証拠はないから,本
件各土地における太陽光発電装置の施工に対応する原告の単位数量当たりの利益の
額を算定する根拠として不十分である。\nその他本件特許に係る単位数量当たりの利益の額を認めるに足る証拠はなく,し
たがって,特許法102条1項による損害額として,原告の主張する上記の損害を
認定することはできない。
(3)ア 原告は,さらに,原告が本件特許の実施許諾をする場合の実施料は出力1
kw当たり3万円であるとして,これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗
じた1085万7600円を特許法102条3項による損害額であると主張する。
イ そこで検討すると,証拠(甲24)によれば,原告は,平成25年12月1
5日,他社との間で,本件特許に係る通常実施権を許諾する旨の特許権実施許諾契
約を締結しており,同契約3条(1)において,実施料については,本件特許に係る施
工方法を用いて施工された太陽光発電パネルの出力1kwに対して3万円を乗じた
額とされたことが認められる。そして,本件全証拠によっても,この実施料額が高
額にすぎて不相当であると認めることはできない。
したがって,本件発明の実施に係る実施料率としては,太陽光発電パネルの出力
1kw当たり3万円と認めるのが相当であり,本件における特許法102条3項に
よる損害額は,3万円に本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じて算定するの
が相当である。
そうすると,本件各土地の太陽光発電パネルの出力は,前記第2の2前提事実(4)のとおりであって,合計361.92kwであるから,本件における特許法102
条3項による損害額は合計1085万7600円(本件土地1につき3万円に84.
24kwを乗じた252万7200円,本件土地2につき3万円に277.68k
wを乗じた833万0400円の合計)である。
ウ これに対し,被告は,特許権の実施料率が請負代金の10%強となることは
およそ考えられず,請負代金を基準とした場合にはその1%程度の金額にとどまる
旨主張するが,その理由を具体的に主張しておらず,裏付けとなる証拠を提出して
いないから,実施料率を基礎付ける事情として採用することができない。
◆判決本文
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2018.09.27
平成29(ネ)10064 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審です。知財高裁第1部は、被告装置1−2は本件訂正発明1の1の技術的範囲に属する、被告装置3は本件訂正発明4の技術的範囲に属し,かつ,無効理由無し、その他の被告装置は技術的範囲に属しない、とした1審判断を維持しました。均等侵害も第1、第2要件を満たさないとしました(1審と同じ)。損害額については変わりありませんが、「寄与率」という用語が「損害額の推定の覆滅」と変更されてます。
前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1)イ(原判決
65頁6行目〜21行目)),本件訂正発明1の1及び1の2の従来技術には,基
礎杭等の造成にあたって地盤を掘削する掘削装置として一般に使用されるアースオ
ーガ装置では,オーガマシンの駆動時の回転反力を受支するために必ずリーダが必
要となるが,リーダの長さが長くなると,傾斜地での地盤掘削にあっては,クロー
ラクレーンの接地面とリーダの接地面との段差が大きい場合にリーダの長さを長く
とれず,掘削深さが制限されるという課題等があった。そこで,本件訂正発明1の
1及び1の2は,これらの課題を解決するために,掘削装置について,掘削すべき
地盤上の所定箇所に水平に設置し,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させる
が,当該固定ケーシングの回転を阻止するケーシング挿通孔を形成してなるケーシ
ング回り止め部材を備えるものとして,リーダではなく,ケーシング回り止め部材
によって回転駆動装置の回転反力を受支するものとした発明と認められる。
ここで,回転駆動装置の回転反力を受支するには,1)回転駆動装置の回転反力が
固定ケーシングによって受支されるとともに,2)固定ケーシングの回転反力がケー
シング回り止め部材によって受支されなくてはならない。そうすると,1)を具体的
に実現する「固定ケーシングが,掘削軸部材に套嵌されると共に,回転駆動装置の
機枠に一体的に垂下連結される」構成及び2)を具体的に実現する「ケーシング回り
止め部材が,掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の
横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され,固定ケーシングを上下方
向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシン
グ挿通孔を有する」構成により,ケーシング回り止め部材によってケーシング,ひ\nいては回転駆動装置の回転反力を受支するようにしたことが,従来技術には見られ
ない特有の技術的思想を有する本件訂正発明1の1の特徴的部分であり,その本質
的部分というべきである。
(ウ) したがって,固定ケーシングが回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結さ
れる構成を有しない被告装置1−3〜1−8は,本件訂正発明1の1と本質的部分\nを異にするものであり,第1要件を満たさない。
・・・
このことから,本件訂正発明1の1の「固定ケーシング5」は,「固定ケーシン
グ5が円筒状ケーシングからなるため,地盤への固定ケーシング5の打ち込み及び
引き抜きが容易となり」【0028】とも記載されているように,回転駆動装置1
の下部から垂下され,ケーシング回り止め部材7のケーシング挿通口8に挿入され,
掘削軸部材2及びダウンザホールハンマー4と共に地盤の掘削により地盤に打ち込
まれ,地盤を所定深度まで掘削したら,ダウンザホールハンマー4の作動を停止さ
せた後,昇降操作用ワイヤーWを巻取り操作して,掘削軸部材2及びダウンザホー
ルハンマー4と共に引き上げられることを前提としたものである。
そうすると,本件訂正発明1の1の掘削装置においては,掘削後に引き抜くこと
を前提にケーシングと回転駆動装置の機枠とを一体的に連結することによって,回
転駆動装置とケーシングを掘削後に引き抜く際に,地盤内でケーシングにかかる土
圧による抵抗に抗してこれを引き抜くことが可能になるものということができる。\nこれに対し,ケーシングと回転駆動装置との機枠とを一体的に連結するのでなく
着脱自在の構成にした場合,そもそも着脱自在の構\成はケーシングを掘削後に残置
させることができるという作用,効果を奏するものであるし,仮にこの構成でケー\nシングを引き上げるとすると,ケーシングと回転駆動装置の機枠との連結部の強度
が十分でないために,引き抜くことが不可能\ないし極めて困難となり,本件訂正発
明1の1の目的を達成することができない。
したがって,掘削後にケーシングを引き抜くことを前提とした本件訂正発明1の
1の掘削装置において,回転駆動装置にケーシングを着脱自在に連結する構成を採\n用すると,本件訂正発明1の1の目的を達成することが困難となり,同一の作用効
果を奏しなくなる。
そして,被告装置1−3〜1−8の構成につき,いずれも回転駆動装置の下部に\n連結された中空スリーブに設けられたスリット状の切り欠きとケーシング外周軸方
向に固設された角鉄とを係合させることにより,中空スリーブとケーシングとを着
脱自在に係合するものであるとする限りでは,当事者間に争いがない。
(イ) 以上によれば,被告装置1−3〜1−8は,第2要件を満たさない。
◆判決本文
1審判決はこちら。
◆平成25(ワ)10958
関連の無効審決の取消訴訟はこちら。
◆平成29(行ケ)10193
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2018.06.28
平成30(ネ)10001 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
会社役員Aに対して、悪意又は少なくとも重大な過失があった(会社法429条1項)として、約350万円の損害賠償が認められました。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a) 1審被告Aは,1審被告白石の代表取締役であり,1審被告白\n石の事業全般を統括していたが,平成22年6月4日,1審被告白
石宛ての1審原告の通知書(親和製作所の装置の販売が本件特許権
侵害である旨を指摘するもの)を受領し,本件特許権の存在を知る
に至った。さらに,1審被告Aは,平成24年1月12日,1審被
告白石宛ての1審原告の通知書(親和製作所と1審原告の和解に関
するもの)を受領した。(甲15の資料5,資料9,乙73)
(b) 東京地方裁判所は,本件仮処分申立事件についての平成26年\n10月8日の審尋期日において,被告装置(WK型)が本件特許権
に係る発明の技術的範囲に属する旨の心証開示をした。(甲18)
(c) 1審被告白石は,平成26年10月24日から同月28日まで
の間に,渡邊機開から,被告装置(WK型)を合計14台,本件板
状部材153個及び本件固定リング123個を購入した。1審被告
白石の平成23年から平成25年にかけての本件固定リングの購入
数は合計20個未満であり,平成26年10月24日から同月28
日までの本件固定リングの購入量はこれまでの取引状況に比して突
出して多い。(甲17の1,2)
(d) 東京地方裁判所は,平成26年10月31日,渡邊機開による
被告製品(WK型),本件固定リング及び本件板状部材の販売等を
差し止める旨の本件仮処分決定をし,1審原告は,同年11月4日
付け通知により1審被告白石に対しその旨を通知した。(甲15の
資料10)
(e) 1審被告白石は,本件仮処分決定後は,平成26年11月14
日頃から平成27年4月1日にかけて被告装置を販売した。
(f) 1審被告白石は,平成27年2月26日,鶴商に型式名を「L
S−S」とする被告装置(実質は「WK−550」)を販売し,ま
た,同年5月までには,渡邊機開からWK型として仕入れた被告装
置(「WK−600」)に,構成の変更がないのに「LS−G」型\nの表示を付したものを取り扱っていた。(上記2(1),甲22)
c 1審被告Aは,1審被告白石の事業全般を統括していたのであるか
ら,1審被告白石の取引実施に当たっては,第三者の特許権を侵害し
ないよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。この観点か
ら1審被告Aの責任について検討してみると,まず,平成22年6月
4日及び平成24年1月12日の時点で,1審被告Aにおいて,被告
装置が本件特許権に係る発明の技術的範囲に属することを知っていた
ことを認めるに足りる証拠はない。なお,平成24年1月12日頃に
1審被告白石が1審原告から通知書を受領したことは上記b(a)のと
おりであるが,その通知書の内容は親和製作所の装置に関するもので
あり,渡邊機開製の被告装置とは直接関わるものではなかったのであ
るから,1審被告Aが上記時点において被告装置につき専門家に問い
合わせるなどの調査等をせず,被告装置の販売を中止しなかったから
といって,1審被告Aに重過失があったとすることはできない。
これに対し,上記b(d)によれば,1審被告Aは平成26年11月
初旬には本件仮処分決定について知ったものと認められるから,これ
によって被告装置が本件特許権を侵害するおそれが高いことを十分に\n認識することができたと認められる。ところが,1審被告Aは,本件
仮処分決定を踏まえて,中立的な専門家の意見を聴取するなどの検討
をした形跡もないまま,取引を継続し,さらに被告装置の型式名につ
いて工作をするなどしているのであり,これら上記bに認定した本件
仮処分決定前後の経過に照らせば,同月以降の1審被告白石による被
告装置の販売を中止するなどの措置をとらなかった1審被告Aには,
1審被告白石による本件特許権侵害について悪意又は少なくとも重大
な過失があったというべきである。
よって1審被告Aは,1審被告白石による被告装置の販売に係る
同月以降の本件特許権侵害について,会社法429条1項の責任を負
う。
◆判決本文
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2018.04.24
平成29(ネ)10087 専用実施権設定登録抹消登録等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年4月18日 知的財産高等裁判所(4部) 大阪地方裁判所
1審は原告の主張を認めませんでしたが、知財高裁(4部)は、250万円の支払いを命じました。
他方,甲4契約の締結された当時,本件特許発明は実用化されたとはいえない段
階にあって事業の将来見込みが不確実であったところ,被控訴人は,控訴人に合計
2500万円の契約金を支払った。さらに,被控訴人は,少なくとも約1300万
円を支出して,本件特許発明に係る方法の実施に適するよう,汎用電子レンジを改
造して本件機械を開発した。本件機械の導入によって,歯科医院において本件特許
発明に係る方法を容易に実施できるようになり,被控訴人が歯科医院から義歯を預
かって本件特許発明を実施していたときよりも,顧客層が大きく拡大することに
なった。このことは,本件特許発明を実施する上で必要な本件液の販売数が,平成
27年初めは月約700本であったところ,平成27年後半には月少なくとも約1
300本に増加していること(乙44)からも裏付けられる。
また,控訴人は,本件訴訟提起前の平成27年4月24日,被控訴人に対し,本
件機械と本件液の売上高の各3%の実施料の支払を求め,被控訴人は,暫定的支払
としつつも現在まで上記額の支払を継続し,控訴人はこれを受領している。
これらの事情のほか,本件訴訟に現れた事情を総合考慮すれば,本件機械の販売
に係る実施料は,売上高の6%をもって相当と認める。
(ウ) 控訴人の主張について
控訴人は,社会通念上相当な実施料は,本件機械の売上高から製造原価を控除し
た額(粗利)の25%,そうでないとしても,本件機械の売上高の10%であると
主張する。
しかし,まず,粗利の額は,被控訴人の営業秘密である製造原価を明らかにしな
ければ算定不能であること,売上高は双方にとって簡便かつ明確な算定基準となる\nこと,甲4契約においても販売価格と通常価格の差額(2条7項。具体的には加工
単価を基に算定している。)や第三者からの実施許諾料(同条8項)を算定基準と
していることに照らせば,粗利ではなく売上高を算定基準とするのが当事者の意思
に合致するものと解される。そして,控訴人主張の利益三分法ないし四分法は,ラ
イセンス料を定めるに際しての一つの指針にすぎず,売上高ないし粗利の25%を
原則的なライセンス料と考えることは相当でない。本件においても,前記(イ)のと
おり,被控訴人自身が実施していた当時の実施料,被控訴人が契約締結時に支払っ
た実施料や本件機械の開発費用等の先行投資額,本件機械の導入による顧客層の拡
大,従前の交渉経緯等を総合考慮すれば,売上高の6%をもって相当と認める。
◆判決本文
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2018.04.17
平成28(ワ)29320 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年3月29日 東京地方裁判所(46部)
技術的範囲に属すると判断されました。損害額として102条3項を主張しましたが、売上げに寄与する程度が小さいとして、減額されました。
上記(1)の記載によれば,本件発明1及び2は,熱可塑性樹脂発泡シートに
非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを成形してなる容
器について,熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差
により,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等を裂傷するおそれがあるが,
突出部の上下面に凹凸を形成すると,蓋体を外嵌させる際に突起部が係合さ
れる突出部の下面側にも凹凸形状が形成されることとなって強固な係合状態
を形成させることが困難となり,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強
固に止着させることが困難であるという課題を,本件発明1の構成,特に上記端縁部の上面に凹凸形状を形成する一方で下面は平坦とする形状とすることによって解決することとしたものということができる。\nまた,上記(2)の記載を参酌すると,本件発明1及び2は,上記端縁部を,
厚みが圧縮されて薄肉化されたもので,かつ,上面に凹凸形状が存在するも
のとすることにより,その強度を強め,これによって蓋体を強固に止着させ
るという課題を解決するものということができる。
以上によれば,本件発明1及び2は,容器の突出部の端縁部の形状につい
て,上面に他の部分との厚みの差を付けて凹凸形状を形成するという形状と
することで端縁部での怪我を防止するとの課題を解決し,端縁部につき上記
の端縁部の形状とすることに加えて下面を平坦にすることで,蓋の強固な止
着を実現するという課題を解決し,これによって上記各課題の双方を解決す
ることを技術的意義とする発明である。
・・・・
以上によれば,本件明細書においても,発明の構成につき特許請求の範囲の記載と同様の記載がされ,その実施例においても,側周壁部の上端縁であり,被収容物が収容される収容凹部のへりといえる開口縁から外側に\n張り出して形成されているものが突出部とされている。実施例を示す図面
には突出部が水平で平坦な容器が示されているが,発明の詳細な説明欄に
は,突出部が平坦であることについての説明はなく,本件発明1及び2の
突出部を突出部が平坦なものに限る趣旨の記載は見当たらない。これらに
よれば,「開口縁」及び「突出部」については,上記アのように解するの
が相当であり,「突出部」は水平で平坦なものには限られない。
ウ これに対して,被告は,出願経過に照らし,本件発明1及び2は突出部
が水平で平坦である容器に関する発明であると主張する。
原告は,前記1(2)のとおり,「前記突出部の端縁部の…且つ該端縁部の」
と補正をしたものであるところ,証拠(乙12〔2〕)によれば,審判請
求書において,上記補正の根拠として,突出部の端縁部において熱可塑性
樹脂発泡シートが圧縮されて薄肉とされたものであることを明確にしたも
のであり,この点が本件明細書の例えば段落【0019】や【図3】b)
に記載されているもので,願書に添付した明細書及び図面に記載された事
項の範囲内のものである旨記載したことが認められる。
上記認定事実によれば,補正の前後に係る特許請求の範囲をみても,補
正された部分は「端縁部の上面」と「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上
面」の位置関係と端縁部における形状についてであって,突出部の形状が
水平で平坦である旨の明示的な記載も示唆も見当たらないし,原告が主張
したのは本件明細書において発明の実施の形態として記載(段落【001
9】や【図3】b))があることから補正の要件を満たすということであ
るから,突出部の形状が水平で平坦なものに限定する趣旨を読み取ること
ができない。したがって,本件発明1及び2の容器の突出部が水平で平坦
であると解することはできず,被告の主張は採用できない。
・・・・
上記記載によれば,本件発明1及び2は前記1(3)のとおりの技術的意義
を持つもので,端縁部の下面が平坦であることとその厚みが薄いことの双
方が備わることで,それぞれの効果が生じ,蓋の強固な止着が実現するの
であって,端縁部が圧縮されて薄くなっていることと上面の位置との関係
に何らかの技術的意義があるものでないし,実施例においても何らの効果
も示されていない。そうすると,物の態様として「ように」の語が特段の
意味を有すると解することはできず,前記ア1)及び2)の各構成が両立していれば足りると解するのが相当である。
ウ これに対し,被告は,「突出部の端縁部において…薄くなっており」と
いう構成によってのみ「前記突出部の…下位となる」構\成が実現しなけれ
ばならないと解釈すべき旨を主張し,その根拠として本件明細書の記載
(段落【0019】),審判請求書(乙12)において上記部分に係る補正
の根拠を本件明細書の「例えば段落0019や図3(b)」と主張したと
いう出願経過を挙げる。
しかし,上記の本件明細書の記載(段落【0019】)は実施例の記載
であり,こうした実施例があることから上記のとおり解釈することは相当
でないし,当該記載が引用する【図3】b)によれば端縁部の下面も端縁
部以外の突出部の下面に比して下位となっており,端縁部を圧縮して薄く
しなくても端縁部の上面が端縁部以外の突出部の上面に比して下位となっ
ているとみる余地がある。補正の根拠に関する主張は,補正に係る部分が
本件明細書の記載の範囲内であることを指摘したものであって,説明した
部分に補正に係る部分の解釈を限定する趣旨を読み取ることはできない。
被告の主張は採用できない。
・・・
上記 1)によれば,プラスチック製品や容器についての一般的な実施
料率は2〜4%程度ということができる。また,・・・によれば,
本件発明1及び2の技術的意義が現れているのは容器の一部である端縁
部の形状に限定されるところ,一般的には端縁部における手指の切創を
防止することは顧客吸引力を持ち得るといえるものの,原告の製品にお
いて行われている上記「セーフティエッジ」加工は,蓋の端縁部の加工
であって本件発明1及び2の包装用容器に係る加工であるとは認め難く,
原告においても平成27年以降はこの加工の存在をカタログ等において
顧客に告知していない。被告においても,端縁部において手指の怪我が
生じ得るという課題を認識して顧客に告知する一方で,その部分の怪我
防止の措置について顧客に告知をしていない。そうすると,本件発明1
及び2の技術的意義が容器の売上げに寄与する程度は相当程度小さいも
のとならざるを得ないから,上記の一般的な実施料率よりも相当程度低
くすべきである。
以上によれば,本件発明1及び2の実施によって受けるべき相当な実
施料率は●(省略)●と認めるのが相当である。
ウ 損害の額
上記ア及びイによれば,本件発明1及び2の実施に対し受けるべき金銭
の額に相当するのは,1694万4217円であると認められる。
◆判決本文
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2018.03.15
平成27(ワ)8736 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年2月15日 大阪地方裁判所
5%の推定覆滅事由が認められましたが、特102条2項により約4100万円の損害賠償が認められました。
以上より,乙43発明は,同公報において,本件発明の課題として,開閉操作
部がチャック部を跨ぐように配置されていることから,保持の仕方によっては容器を
保持する手は充填部の一部に重なって充填物の量を確認しにくいという課題がある
ことを前提に,開閉操作部とチャック部の位置関係につき,チャック部を開閉操作部
の下側になるよう特定したものと理解できる。
そして確かに,本件発明の実施例は,すべて開閉操作部がチャック部を跨ぐように
なっているものの,本件発明の特許請求の範囲において,チャックの位置関係は何ら
特定されているわけではない。そうすると,乙43発明に,本件発明において特定さ
れていないチャック部と開閉操作部の位置関係を特定することで進歩性があるとし
ても,結局,片手操作で栄養剤注入するという本件発明の改良形にすぎないことは明
らかであって,本件発明1を実施している以上に技術的に積極的な意味はなく,被告
製品の販売拡大に貢献している程度はさほど大きいものとは認められない。
e 乙44ないし乙46意匠
乙44意匠ないし乙46意匠は,被告製品そのものを対象として出願し登録された
意匠といえるが,乙45意匠,乙46意匠は乙44意匠の部分についての部分意匠と
して登録されているにすぎないから,結局,本件で問題とすべきは,被告製品が乙4
4意匠を実施していることということになる。
しかし,その意匠は,乙41発明,乙42発明の実施例と同じものにすぎないし,
栄養供給バッグという商品の性質上,登録意匠のもたらす美観が需要を喚起すること
は考えにくいから,登録意匠を実施していることをもって,本件特許権侵害を理由と
する法102条2項の推定を覆滅する事由となるものとは認め難い。
f まとめ
以上を総合すると,被告製品は,確かに乙40発明ないし乙43発明及び乙44意
匠ないし乙46意匠を実施しているが,本件発明に技術的に付与するものは乙43発
明のみであり,その付与の程度がさほど大きくないことは上記のとおりである。
したがって,その事情が,法102条2項の推定覆滅事由となるにしても,5%を
減じるにとどまるというべきである。
ウ 被告製品の売上げについての被告の営業力,ブランド力の貢献
被告は,被告製品の売上げは被告の営業力,ブランド力よるものであり,技術面の
寄与度はせいぜい30%であると主張する。
確かに証拠(甲18,乙57)及び弁論の全趣旨によれば,連結売上高で原告は5
76億3600万円であるのに対し,被告は3596億9900万円であり,従業員
数でも原告はグループ総数で6777名にとどまるのに対し,被告のそれは2万74
15名であって,企業規模としては被告の方が圧倒的に大きく,したがって原告が全
国に支社,営業所を有していることを考慮しても,営業力,ブランド力とも被告の方
が強いことは否定できない。
しかし,証拠(乙47)によれば,本件で問題とすべき経腸栄養バッグ(空バッグ)
の分野に限れば,当該市場は,●(省略)●のシェアを占め,その余を他社が占める
というのであり,とりわけ「片手の指を挿入するためのシート状の1対の開閉操作部」
を有する経腸栄養バッグに限れば,市場には原告と被告の製品以外は存しないから,
市場を●(省略)●を占めるという関係にあり,当該分野に限れば,限られた需要者
の間において原告がブランド力を確立していることは容易に推認され,原告との間で,
営業力,ブランド力の差が生じているものとは認められない。
したがって,原告と被告の営業力,ブランド力の差をもって,法102条2項によ
る推定が覆滅されるとする被告の主張は採用できない。
(5) 総括
以上を総合すると,法102条2項の規定により原告の損害として認定されるべき
額は,上記(3)で認定した被告製品の販売により受けた利益の額●(省略)●に,上
記(4)で認定した減額事由を考慮し,以下の計算式のとおり3718万0364円と
認定するのが相当である。
(計算式)
●(省略)●=37,180,364 円
また,上記損害額に本件に現れた一切の事情を斟酌すると,本件と因果関係のある
弁護士及び弁理士費用相当の損害額は380万円と認定するのが相当である。
◆判決本文
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2017.08.11
平成28(ワ)1777 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年7月14日 東京地方裁判所
海苔の異物除去に関する事件です。同原告の事件もたくさんあります。争点はいろいろありますが、裁判所は寄与率による減額も否定しました。
イ 寄与率について
被告九研は,本件各発明が本件製品1及び2の販売に寄与した割合は
10%を超えるものではないなどと主張する。
しかし,本件各発明は,共回り現象の発生を回避してクリアランスの
目詰まりをなくし,効率的・連続的な異物分離を実現するものであって,
生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものというべきである。\nすなわち,生海苔異物除去装置として,選別ケーシング(固定リング)
と回転円板との間に設けられたクリアランスに生海苔混合液を通過させ
ることによりクリアランスを通過できない異物を分離除去する装置が従
来用いられていたとしても,本件各発明の解決課題を従来の装置が抱え
ていることは明らかであり,この点は需要者の購買行動に強い影響を及
ぼすものと推察される。このことと,従来の装置の現在における販売実
績等の主張立証もないことを考えると,本件各発明の実施は生海苔異物
除去装置の需要者にとって必須のものであることがうかがわれる。
他方,本件各発明が本件製品1及び2に寄与する割合を減ずべきであ
るとする被告九研の主張の根拠は,いずれも具体性を欠くものにとどま
る。
したがって,本件各発明が本件製品1及び2の販売に寄与する割合を
減ずることは相当でない。
◆判決本文
◆関連事件です。平成28(ワ)4529
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2017.06. 2
平成25(ワ)10958 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年5月17日 東京地方裁判所(40部)
特許権侵害について、一部の被告装置について、差止と損害賠償(約1400万円)が認められました。102条2項について寄与率による減額を主張しましたが否定されました。
本件訂正発明1の1及び1の2の意義
上記各記載によれば,本件訂正発明1の1及び1の2は,基礎杭等の造
成にあたって地盤を掘削する掘削装置に関するものであって,この種の掘
削装置として一般に使用されるアースオーガ装置では,オーガマシンの駆
動時の回転反力を受支するために必ずリーダが必要となるが,リーダの長
さが長くなると,施工現場内でのリーダの移動作業や,現場へのリーダの
搬入及び現場からの搬出作業に非常な手間と時間を要するという課題及び
傾斜地での地盤掘削にあっては,クローラクレーンの接地面とリーダの接
地面との段差が大きい場合にリーダの長さを長くとれず,掘削深さが制限
されるという課題があることから,本件訂正発明1の1及び1の2は,こ
れらの課題を解決するために,掘削装置について,掘削すべき地盤上の所
定箇所に水平に設置し,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが,
当該固定ケーシングの回転を阻止するケーシング挿通孔を形成してなるケ
ーシング回り止め部材を備えるものとして,リーダではなく,ケーシング
回り止め部材によって回転駆動装置の回転反力を受支するものとした発明
である,と認められる。
・・・・
原告は,本件訂正発明1の1の実施による被告の利益を算定するに当
たっては,本件発訂正明1の1を実施した工程の代金のみならず,請負
代金額の全額を基礎とすべきと主張する。
しかし,本件訂正発明1の1は,掘削装置に関する発明であり,掘削
工事以外の工程には使用されない。そして,前記「内訳明細書」(乙1
05)によれば,被告は,現場(1)について,本件訂正発明1の1を実施
した掘削工事である「先行削孔砂置換工」のみを受注したものではなく,
「道路改良工事」を受注し,上記掘削工事の他,本件訂正発明1の1を
実施していない工事である「場所打杭工」,「鋼矢板工」及び「桟橋盛
替工」の各工事を行っており,これらの工事の代金(直接工事費)につ
いては,本件訂正発明1の1を実施していないのであるから,本件訂正
発明1の1の実施があったためにその余の工事の受注ができたなどの特
段の事情がない限り,本件訂正発明1の1を実施したことにより被告が
受けた利益に当たるということはできない。そして,本件において,上
記事情を認めるに足りる証拠はない。
また,被告は,現場(1)の工事について,上記直接工事費のほかに,間
接工事費として「重機組解回送費」,「重機回送費」及び「経費」の支
払を受けているが,これらについても本件訂正発明1の1の実施により
受けた利益に当たると認めるべき証拠がない。
したがって,被告が,本件訂正発明1の1を実施したことにより受領
した額は,本件訂正発明1の1の実施による先行削孔砂置換工(DH削
孔費)の14本分の代金140万円である。
イ 利益率
被告の利益率が18%であることについて当事者間に争いがない。
したがって,本件訂正発明1の1を実施したことにより被告が得た利益
額は,25万2000円(=140万円×0.18)である。
ウ 寄与率
被告は,本件訂正発明1の1の売上に対する寄与率は低いなどと主張す
るので検討するに,特許法102条2項は,損害が発生している場合でも,
その損害額を立証することが極めて困難であることに鑑みて定められた推
定規定であるから,当該特許権の対象製品に占める技術的価値,市場にお
ける競合品・代替品の存在,被疑侵害者の営業努力,被疑侵害品の付加的
性能の存在,特許権者の特許実施品と被疑侵害品との市場の非同一性など\nに関し,その推定を覆滅させる事由が立証された場合には,それらの事情
に応じた一定の割合(寄与率)を乗じて損害額を算定することができると
いうべきである。
本件では,たしかに,前記アのとおり,現場(1)において,15本のうち
1本のケーシングについては,本件訂正発明1の1を実施しない形態(下
部/1本のH形鋼)が用いられていることが認められるものの,これは,
被告の主張によれば,山(崖)側に位置するケーシングでは,下部で井桁
状を組むことが困難であることから「下部/2本のH形鋼」ではなく「下
部/1本のH形鋼」の構成が用いられているというのであって,「下部2本のH形鋼」の構\成により,「下部/1本のH形鋼」の構\成と同等ない\nしより優れた効果が得られるためではない。また,上記イで算出した利益
の額は,本件訂正発明1の1の技術的範囲に属する被告装置1を用いて行
った工事である先行削孔砂置換工(DH削孔費)により被告が得た利益額
そのものであり,それ以外の工事による利益の額は含まれていない。
さらに,被告は,各杭の「掘削長×掘削基本時間」の単価計算から求め
られたものに(「掘削時間」/〔「掘削時間」+「準備時間」+「排土埋
戻し時間」〕)を乗じたものが,掘削に対しての時間の割り出し単価とな
るなどと主張しており,工事費用について時間当たりの単価を算出して,
現実に掘削に要した時間に相当する分についてのみ本件訂正発明1の1が
寄与しているかのような主張をしているが,被告が「先行削孔砂置換工」
のうちの掘削作業のみを受注しているものではなく,また,一般に掘削作
業のみを受注する形態が考えにくいこと,掘削作業が「先行削孔砂置換工」
の重要部分を占めると考えられること,発注者は準備時間や排土埋戻しの
ために被告に工事を発注しているものでなく,準備や排土埋戻しの作業が
利益をあげているとはいえないことなどからすると,被告の上記主張は採
用することができない。
そうすると,代替技術の存在を考慮に入れたとしても,上記額が原告の
損害であるという推定を覆滅させるに足りる証拠がないというほかないか
ら,被告の寄与率に係る主張は理由がない。
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2016.07. 7
平成28(ワ)12480 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月30日 東京地方裁判所
生海苔異物除去機の一部の部品を交換する行為が生産が該当する(特許権侵害)と判断されました。
原告は,被告ワンマン及び被告西部機販に対し,本件メンテナンス行為1
の差止めを求めるところ,製品について加工や部材の交換をする行為であっ
ても,当該製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,
取引の実情等も総合考慮して,その行為によって特許製品を新たに作り出す
ものと認められるときは,特許製品の「生産」(法2条3項1号)として,
侵害行為に当たると解するのが相当である。
本件各発明は,前記1(2)のとおり,生海苔混合液槽の選別ケーシングの
円周面と回転板の円周面との間に設けられた僅かなクリアランスを利用して,
生海苔・海水混合液から異物を分離除去する回転板方式の生海苔異物分離除
去装置において,クリアランスの目詰まりが発生する状況が生じ,回転板の
停止又は作業の停止を招いて,結果的に異物分離作業の能率低下等を招いて\nしまうとの課題を解決するために,突起・板体の突起物を選別ケーシングの
円周端面に設け(本件発明1),回転板及び/又は選別ケーシングの円周面
に設け(本件発明3),あるいは,クリアランスに設けること(本件発明4)
によって,共回りの発生をなくし,クリアランスの目詰まりの発生を防ぐと
いうものである。そして,本件板状部材は,本件固定リングに形成された凹
部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより,本件各発明の
「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)に該当する「表\面側の突出
部」,「側面側の突出部」を形成するものであること(当事者間に争いがな
い)からすると,本件固定リング及び本件板状部材は,被告装置の使用(回
転円板の回転)に伴って摩耗するものと認められるのであって,このような
摩耗によって上記突出部を失い,共回り,目詰まり防止の効果を喪失した被
告装置は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を欠き,もはや「共
回り防止装置」には該当しないと解される。
そうすると,「表面側の突出部」,「側面側の突出部」を失った被告装置\nについて,新しい本件固定リング及び本件板状部材の両方,あるいは,いず
れか一方を交換することにより,新たに「表面側の突出部」,「側面側の突\n出部」を設ける行為は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を備え
た「共回り防止装置」を新たに作り出す行為というべきであり,法2条3項
1号の「生産」に該当すると評価することができるから,原告は,被告らに
対し,法100条1項に基づき,上記(1)の差止めに加えて,本件メンテナ
ンス行為1の差止めを求めることができる。
・・・・
これに対し,被告ワンマン及び被告西部機販は,要旨,1本件装置1及
び2の仕入代金以外に必要経費が生じているから,これらについても被告ワ
ンマン及び被告西部機販の利益から控除すべきである,2)本件特許は本件装
置1及び2の販売にほとんど寄与しておらず,本件装置1及び2の売上への
寄与率が10%を超えることはない,3)被告ワンマン及び被告西部機販が本
件装置1及び2の販売によって得た利益を原告の損害と推定することについ
ての推定覆滅事由があるなどと主張する。
しかしながら,上記1)について,必要経費として控除できるのは,本件装
置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になった経費に限られるもの
と解すべきところ,被告ワンマン及び被告西部機販の主張する経費が本件装
置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になったものと認められない
のはもちろん,そもそも同経費が現実に生じたこと自体を認めるに足る証拠
が一切なく,その算定根拠も判然としない。また,上記2)について,本件各
発明は,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものである一方,\n本件各発明が本件装置1及び2に寄与する割合を減ずべきであるとする被告
ワンマン及び被告西部機販の主張の根拠は判然としないことに照らせば,本
件各発明が本件装置1及び本件各部品の販売に寄与する割合を減ずることは
相当でない。さらに,上記3)について,被告が主張するのは,単に,原告が
販売店ではなく製造業者であるという事実にとどまるところ,同事実のみか
ら,本件各発明の実施品が有する顧客吸引力にもかかわらず,原告がその取
引先への販売の機会を持ち得なかったということはできないし,ほかに原告
が取引の機会を奪われたとはいえない特段の事情もないから,法102条2
項による推定を覆滅するには足りないというほかない。
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2016.07. 7
平成27(ワ)6812 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月23日 東京地方裁判所
搾汁ジューサについて、均等侵害が認められました。興味深いのが損害額200万円がすべて代理人費用という点です。
上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が
解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の
効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が
網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁
が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と
するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において
防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余
地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円
筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかに\nより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明
の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について
前記イのとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム
の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水
円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また,
これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁
を効率的に排出することができる。
他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,\n被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案
内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を
汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のス\nクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され
て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置
されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ
ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路
の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒
を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し
たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作
用効果を奏するということができる。
以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果
を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。\nこれに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに
より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能と\nはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして
も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で
あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について
本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された
圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され
た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一
体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く
空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及
びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落
【0045】,【0052】,【0056】,【図3A】,【図3B】)。この
とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔
(底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出
路に流入する(段落【0072】),すなわち,底部リング(網ドラ
ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路
に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の
外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技
術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング
に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流
路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告
製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると,
本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ
ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え
るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって,
圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの
は容易であるというべきである。
これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件
発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採
用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で
あるということができる。
・・・
3 争点 (原告の損害額)について
前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す
るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得
たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ
に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ
ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論
せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告
が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから,
独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記
請求は理由がないことになる。
本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ
き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対
する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。
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2016.07. 5
平成26(ワ)8905 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月15日 東京地方裁判所
損害賠償が認められましたが、特許権侵害による損害額のうち、ほとんどは弁護士費用です。
ア(ア) 原告は,特許法102条2項の適用を主張するところ,前記前提事実及び
弁論の全趣旨によれば,原告は,被告LEDと競合するLEDを販売等していると
認められるから,原告には,被告らによる本件特許権1の侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろう事情が認められるといえ,同条項の適用が認められるべ
きである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判
決・判時2179号36頁)。この点について,被告らは,被告LEDが譲渡等さ
れなければ,原告の製品が販売されていたであろうとの条件関係が存在しないから,
原告には逸失利益の損害は生じていないと主張するが,上記のとおり原告が被告L
EDの競合品を販売等していることからして,なお原告に逸失利益の損害が生じた
と認定するに差し支えないというべきである。
(イ) 本件特許権1の侵害により被告らがそれぞれ得た利益の額について,被告E
&Eが10万5000円の利益を得たことについては,原告と同被告との間で争い
がない。また,被告立花が被告LEDの販売により得る利益が,売上高の10パー
セントであることは,原告と同被告との間で争いがないところ,被告立花は,イガ
ラシに対して被告LEDを2万円で販売し,それ以上に被告LEDの販売等により
売上をあげた事実は認められないから,被告立花が得た利益の額は,2000円と
認めるのが相当である(なお,被告立花は,上記売上代金を全てイガラシに返金し
ているとの事情を主張するが,同事実によっても,一度発生した損害が発生しなか
ったことになるわけではないし,これにより原告に生じた損害が填補されたと認め
ることもできない。)。したがって,これらの額は,特許法102条2項により,
原告が受けた損害の額と推定される。
(ウ) 被告らは,1)原告が被告LEDについて原告が保有する9件の特許権を侵害
すると主張していること,2)被告LEDは,本件発明1の作用効果を奏しないか,
奏したとしても極めてわずかな効果しか奏しないこと,3)被告LEDは,被告製品
(窒化物半導体素子)にさらなる部材を付加していること,4)有色LED市場にお
ける原告のシェアなどからすれば,本件発明1が被告らの得た利益に寄与した割合
は5パーセントを上回ることはなく,推定された損害額のうち95パーセント相当
額について,同推定が覆滅されるべきである旨主張する。
しかしながら,1)について,被告LEDが,原告の他の特許権に係る発明の技術
的範囲に含まれるか,含まれるとして,他の特許権に係る発明が被告LEDの売上
にいかに寄与したかについては,本件証拠によっても,判然としないというほかな
い。2)について,被告LEDが本件発明1の作用効果を奏しないか,極めてわずか
しか奏しないなどといった事実は認められない。3)については,被告LEDが被告
製品に部材を付加しているとしても,その価値の源泉の大半は被告製品にあるもの
と合理的に推認できる。4)については,有色LED市場における原告のシェアを一
般的に示すのみでは,本件において,なお原告の受けた損害の額についての推認を
覆すには十分とはいえない。以上のとおり,損害の額の推定が一部覆滅されるべきであるとする被告らの主張は,採用することができない。
(エ) 以上の検討によれば,被告E&Eによる本件特許権1の侵害行為により原告
が受けた損害(逸失利益)の額は10万5000円と認められ,被告立花による本
件特許権1の侵害行為により原告が受けた損害(逸失利益)の額は2000円と認
められる。
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2016.06.15
平成26(ワ)28449 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年5月26日 東京地方裁判所
102条3項に基づく損害額の算定で、売り上げの5%が認められました。
原告は平成25年4月5日〜平成27年10月末日の被告製品の売上高4
億4967万3858円に実施料率5%を乗じた2248万3692円が
本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張する
ところ,売上高は被告の自認する2億8279万4711円の限度で認め
られ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。
次に,実施料率についてみるに,前記前提事実に加え,証拠(甲2,23,
24,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,1)本件発明は被告製品の構成\nの中核部分に用いられており,本件発明の技術的範囲に属する部分を取り
除くと被告製品はアンテナとして体をなさないこと,2) 本件発明は高さ約
70mm以下という限られた空間しか有しないアンテナケースに組み込ん
でも良好な電気的特性を得ることのできるアンテナ装置の提供を目的とす
るところ,被告製品はこれと同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優\nれたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調してい
ること,3) 本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のラ
イセンス契約における実施料率については平均3.3〜3.5%ないし2.
9%とする調査結果が公表されていること,以上の事実が認められる。こ\nれらの事実を総合すると,本件において特許法102条3項に基づく損害
額算定に当たっては被告製品の売上額の5%をもって原告の損害とするの
が相当である。
したがって,原告の損害額は1413万9735円となる。
◆判決本文
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2016.06.15
平成25(ワ)33070 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年5月26日 東京地方裁判所
102条2項に基づく損害額について、滅失する割合が75%、95%と認定されました。
本件の各発明が被告の上記利益に寄与した割合について,本件発明1に
つき被告は2.5%,原告は50%であると,同2−1及び2−2につき
被告はロ号物件につき0.3%,ニ号物件につき0.9%,へ号物件につ
き0.2%,原告は30%であるとし,その余の部分につき特許法102
条2項の推定が覆滅する旨主張する。
そこで判断するに,本件明細書1(甲2)によれば本件発明1は農産物
の選別装置に関するものであって主としてリターンコンベアを設けること
及びその終端を工夫したことに,同2(甲4)によれば本件発明2−1及
び2−2は内部品質検査装置に係るものであって主として複数の光源を設
け,遮光手段を工夫したことに,それぞれ技術的意義があるものと認めら
れる。その一方で,前記1(1)のとおりロ号〜ホ号物件はプールコンベアに
設定される仕分区分が集積状態によって適宜変動する構成を採用しており,\nその結果,そうでない構成と比べてオーバーフローする青果物入り受皿の\n数が減少するものと認められ,その限度において本件発明1が被告の上記
利益に寄与した割合が減少すると考えられる。
また,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)ロ号〜へ号物件は,選
別設備及び内部品質検査装置のほかに荷受設備(ニ号物件を除く。),箱詰
設備,封函・製品搬送設備,製函・空箱搬送設備その他の設備から構成さ\nれるものであり,上記イの利益にこれらの製造及び施工に係る利益が含ま
れていること(乙38〜41),2)ロ号〜へ号物件の各設置場所に関する
入札条件(甲14〜18)上,少なくともリターンコンベアの戻し位置を
本件発明1所定の位置にすること及び内部品質検査装置において本件発明
2−1及び2−2所定の複数の発光光源を設けることは必須の要件とされ
ていなかったこと,以上の事実が認められる。
上記の技術的意義及び事実関係によれば,上記利益額の一部については
特許権侵害による原告の損害額であるとの推定を覆滅する事情があると認
められ,その割合は本件発明1につき75%,同2−1及び2−2につき
95%と認めるのが相当である。
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2016.04.21
平成26(ワ)1690 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月28日 東京地方裁判所
特許無効理由なし、また、損害額について文書提出命令に応じて書類を提出しない被告に対して、原告の主張どおりの損害(102条2項)が認められました。
被告は,本件発明2についての特許について,本件明細書2の特許の特許請
求の範囲は,単に「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」と記載するのみで,
「係入片が受片と協働してスタータにて壁パネルの下端部を強固に支持する」との
効果を奏しない「係入片」をもその範囲に含んでおり,権利の外縁を明確に記載し
ていないから,明確性要件に違反すると主張する。
しかしながら,本件発明2が「壁パネルの下端部の支持構造」に関するものであ\nることから明らかなとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,上記「係入
片」の意義について,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部
の形状と照らして,同凹部に嵌合されるに適した形状を有する必要があることは容
易に認識できるというべきであるから,「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」
という記載が,明確性を欠くものとは認められない。
イ また,被告は,本件明細書2の特許請求の範囲の記載が明確であるというな
らば,同明細書の発明の詳細な説明には記載されていない発明を特許請求の範囲に
含むものであってサポート要件に違反するとか,発明の詳細な説明が当業者に実施
可能な程度に明確かつ十\分に記載されておらず実施可能要件にも違反すると主張す\nるが,本件明細書2には,本件発明2(請求項1記載の発明)の実施例として,
「スタータ15を取付け片11においてチャンネル材の壁下地10にボルト18に
て取付け,スタータ15の係入片8を壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入
するとともに受片9にて嵌合凸部2の下面を受けることで,スタータ15にて壁パ
ネルAを強固に支持するのである。」と記載され(段落【0012】),【図1】
には,係入片4が壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入されている態様が具
体的に開示されているのであるから,サポート要件に違反するということはできな
いし,前記のとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,「係入片」の意義に
ついて,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部の形状と照ら
して,同凹部に嵌合されるに適した形状を有するべきことを容易に認識できるので
あるから,実施可能要件に違反するということもできない。\n
・・・
原告は,平成27年11月20日,被告における平成23年1月1日から平
成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張する額で
あることを証明するため,特許法105条1項に基づき,被告に対し,被告各製品
の販売量,販売単価,販売原価及び販売のために直接要した販売経費の額が記載さ
れている書面である売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製造
経費及び販売経費)(以下,併せて「対象文書」という。)の提出を求める文書
提出命令申立てを行った(当庁平成27年(モ)第3723号事件)。\n当裁判所は,平成27年12月2日,被告に対し,決定の確定の日から14日以
内に,対象文書を当裁判所に提出すべきことを命ずる決定(以下「本件文書提出
命令」という。)をして,同日,決定書の正本が被告に送達された。本件文書提
出命令は,平成27年12月9日の経過により確定したところ,被告は,上記提出
期限内に,対象文書を当裁判所に提出しなかった。
エ 以上のとおり,被告は,当裁判所がした本件文書提出命令にもかかわらず,
正当な理由なく,対象文書を提出しなかったものである。
そこで,民訴法224条1項又は3項の規定により,対象文書の記載に関する原
告の主張を真実と認め,又は対象文書により証明すべき事実に関する原告の主張を
真実を認めることができるかについて検討する。
対象文書は,被告の売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製
造経費及び販売経費)であって,被告の業務に際して作成される会計帳簿書類であ
るから,その記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難である。
また,原告が,対象文書により立証すべき事実(被告における平成23年1月1日
から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張す
る額であること)を他の証拠により立証することも著しく困難である。
そうすると,民訴法224条3項の規定により,被告における平成23年1月1
日から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額は,原告の主
張,すなわち,被告は,平成23年1月1日から平成27年4月20日までの間に,
被告各製品を販売して合計8億1715万2306円を売り上げ(うち平成26年
1月23日までの売上高は7億8021万6380円,同年12月21日までの売
上高は8億1685万6414円),かつ,被告各製品の利益率はいずれも15パ
ーセントを下回ることはないとの事実を真実であると認めるのが相当である。なお,
被告の平成22年4月1日から平成26年3月31日までの総売上の合計が53億
6258万6000円であり,うち,完成工事高が36億2028万2000円,
兼業事業売上高が17億4230万4000円であること,同期間中の兼業事業売
上高に占める原価率は66.27パーセントであること(以上につき,甲70ない
し77),被告は,被告製品1−1及び同1−2につき平成21年12月17日に,
被告製品4−1及び同4−2につき平成23年11月7日に耐火認定(建築基準法
及び同法施行令に規定する基準に適合することの認定)を受けたこと(当事者間に
争いがない。)などの事実関係からすれば,上記真実擬制に係る事実は,客観的真
実とも十分に符合しうるというべきである。
オ そうすると,被告は,本件特許権1の侵害により,8億1685万6414
円に15パーセントを乗じて算出される1億2252万8462円(うち平成26
年1月23日までの売上に係る利益は1億1703万2457円)の利益を受けた
ものと認められる。
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2016.02.21
平成26(ワ)5210 損害賠償請求事件 民事訴訟 平成28年1月21日 大阪地方裁判所
均等侵害が認定されました。また、損害額について譲渡対象とならなかった分について、有償譲渡とは異なる料率が認定されました。
本件特許発明が,シートによって鼻全体を覆うことを想定していることは先に述
べたとおりである。しかし,本件明細書の記載によれば,従来のシートでも鼻の上
部に切り込みは設けられておらず(【0005】,図2),鼻の上部に当たる目頭付近
部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特
許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない
大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点
があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うこと
にあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配すると
したことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シ
ートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じる
ことなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。
これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配
することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に
固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さ
からやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本
件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではないとい
うべきである。
イ 置換可能性について
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,目頭の高さからやや下の
部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含
めた鼻全体に密着するものであると認められる。
そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用
効果を奏するものであると認められる。
ウ 置換容易性について
前記のとおり,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで
覆うことが実現されていたことからすると,切り込み線が配される台形状の領域の
上底の高さを,眼の付け根である目頭の高さよりも,目頭の1段分か2段分,下に
設けても本件特許発明と同一の作用効果を奏することは,当業者が,対象製品等の
製造等の時点において容易に想到することができたというべきである。
・・・・
(2) 被告製品の製造に関する実施料相当額
被告に納入されたパック用シート●●●●●●●●のうち,被告製品として譲渡
されたのは●●●●●●●●であり,その差である●●●●●●●●については,
納入されたが譲渡されなかったものである。しかし,被告製品のパック用シートが
特殊な形状をしていることからすると,被告は,シートの製造業者に発注して被告
製品用のパック用シートを製造させたと推認され,そうすると,被告は,パック用
シートの製造行為を行ったと評価すべきである。そして,パック用シートの製造も
本件特許発明の実施であり,侵害行為に当たるから,納入されたが譲渡されなかっ
た分も損害賠償の対象とするのが相当である。
もっとも,被告は,これらについては,その価値を市場に提供して利用したわけ
ではないことからすると,これを有償譲渡と同視し,前記の想定市場販売価格を基
礎として実施料相当額を算定するのは相当でない。そこで,これらシートについて
は,その製造自体の価値を示すものとして,その納入価格を基礎として実施料相当
額を算定するのが相当であり,証拠(乙12)によれば,シート1枚当たりの納入
価格は●●円であると認められる。この点について,原告は,これらについても想
定市場販売価格を基礎にして実施料相当額を算定すべきであると主張するが,前記
に照らして採用できない。
また,前記(1)エにおいて考慮した事情に照らせば,これらシートの納入価格には,
美容液の価値が考慮されていないから,被告製品用のシートを製造したが譲渡しな
かった場合の実施料率は,●●と認めるのが相当である。
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2015.06. 9
平成24(ワ)6435 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年5月28日 大阪地方裁判所
特102条1項による損害として、特許権者の利益額350万/台(限界利益)*被告の販売台数5台=1750万円が認められました。
被告は,本件特許が登録された後,5台の被告製品(被告製品1を4台,被
告製品2を1台。)を販売したことを自認している(前記第2の6【被告の主
張】(1))。
イ 原告は,契約後,未納となっている被告製品の譲渡が少なくとも3台あるこ
とを主張する。
一般論として,侵害品の譲渡契約がされた場合には,それが未納であったと
しても,特許法102条1項にいう「譲渡数量」に加算できる場合はあるもの
というべきであるが,本件においては,上記譲渡契約に基づいて,被告製品と
して特定された本件特許発明の技術的範囲に属する製品が納入されることに
ついて,的確に認定し得る証拠は提出されていないから,上記3台が特許法1
02条1項にいう「譲渡数量」に含まれるものと認めることはできない。
したがって,被告製品の譲渡数量は,5台と認めるのが相当である。
(2) 被告の侵害行為がなければ原告が販売することができた物について
証拠(甲12,13)によると,原告が販売する型番HTP−3,6,10,
15,20ないしHT−3,6,10,15,20の製品は,本件特許発明の実
施品と認められるし,仮にそうでなかったとしても,自治体の廃棄物処理場等に
納入される破袋機であって,被告製品と競合する関係にあることは明らかである。
したがって,原告は,販売可能な製品を有していたものといえる。\n
(3) 単位数量当たりの利益の額
証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によると,原告は,次のとおり,上記(2)の原
告実施品を製造,販売したこと,原告製品の実際の製造は外注によって行われ,
下記の粗利において直接労務費は既に控除されているものと認められる。
そうすると,原告製品の販売台数は14台,売上合計は9039万円,粗利合
計は4917万8369円,1台当たりの粗利は,351万2740円(1円未
満切り捨て)となる。
・・・
なお,前記のとおり,原告が現実の製造を外注して行っているのであれば,い
わゆる限界利益を考慮するとしても,製造人件費,変動経費は外注費として控除
されていると考えられるから,本件において,上記からさらに控除すべき経費は
想定されない。
被告は,そのような利益率は常識はずれであって合理性がないと主張するが,
何ら具体的根拠,証拠を提示しないし,控除すべき費目を具体的に特定するもの
でもないから,上記判断を左右しない。
したがって,単位数量当たりの利益の額は,351万2740円と認められる。
(4) 原告の実施能力
上記認定にかかる原告の販売実績及び被告の譲渡数量を比較すると,原告の実
施の能力から,被告の販売台数5台全てを原告が販売できたものと認められる。\n(5) 販売することができないとする事情(特許法102条1項ただし書)
ア 競合品の存在,破袋機の流通形態について
被告は,破袋機を製造する第三者が多数存在することを指摘し,その旨の証
拠(乙55から71まで)を提出するが,単に破袋機を製造販売するメーカー
が存在することを挙げるにすぎず,本件特許発明を回避しつつ,同様の作用効
果を発揮する競合品の存在や具体的なシェアが明らかとなっているものでは
ないから,上記証拠によって本項ただし書の事情を認めることはできない。
また,破袋機が,常時市場に存在するものでないことは,そもそも本項ただ
し書に該当する事情に当たらない。
イ 原告製品と被告製品の価格差について
上記のとおり,原告製品の販売価格は,418万円から950万円であるの
に対し,被告製品の販売価格(定価)は,証拠(乙41ないし45)及び弁論
の全趣旨によると,350万円であることが認められる。もっとも,原告製品
のうち高価格のものは,容量ないし処理量の大きいものと認められるから,こ
の点も考慮に入れると,原告製品の価格帯と,被告製品の価格帯の差はさほど
大きなものとは評価できず,本項ただし書にいう事情に当たるとはいえない。
ウ 寄与度について
本件特許発明は,破袋機の構造の中心的部分に関するものである上,原告は,\n一定のブランド力も有するものであるから,上記のとおり,多様な破袋機を製
造販売するメーカーが,原告,被告のほか多数あること等の被告の主張を考慮
に入れたとしても,本件特許発明が被告製品や原告製品に寄与する割合を減ず
ることはできない。
また,被告が日本唯一の雪上車メーカーであることは,本件と何ら関係のな
い事情である。
(6) まとめ(特許法102条1項による金額)
以上によると,特許法102条1項により,原告の損害は,単位数量当たりの
利益額351万2740円に,被告の譲渡数量5台を乗じた,1756万370
0円と推定され,この推定を覆す事情は認められない。
なお,特許法102条2項により推定される金額は,被告の売上額の合計が上
記金額に満たないものと認められる(乙41ないし44)から,本件においては
これを採用しない。
(7) 保守費用について
ア 特許権者は,物の発明にあっては,特許発明を使用した製品(以下「特許製
品」という。)の「使用」についてもその権利を専有するものであるから(特
許法68条,2条3項1号),侵害品の譲受人が侵害品を使用することもまた,
特許権侵害となり,不法行為を構成することになる。\nそうすると,侵害品を保守,修理することで,譲受人の侵害品の使用を継続
させたり,容易させたりなどした場合は,上記使用による不法行為を幇助する
ものとして,共同不法行為(民法709条,719条2項)を構成する余地が\nあるが,侵害品の保守,修理それ自体は,間接侵害(特許法101条)の規定
に抵触しない限り,独立の不法行為となるものではない。
イ 原告は,被告の使用者に対する保守行為を不法行為の幇助と構成し,前記検\n討した被告製品の譲渡による損害とは別に,保守行為によって被告が得た利益
相当額を原告の単価等により計算した上,これを原告の逸失利益として,被告
に対する損害賠償として請求するものであるが,本件においては,被告の保守
行為それ自体が独立の不法行為に当たることを認めるに足りる証拠はないし,
原告もそのような主張はしていない。
ウ また,本件においては,既に検討したとおり,侵害品の製造,譲渡を理由と
する損害賠償請求が認容され,これによって,原告の販売機会喪失等による損
害は全て填補されるところ,これとは別に,譲受人が侵害品を使用することに
よって,原告にどのような損害が生じるかは明らかにされておらず,これに対
する幇助として,被告がさらに損害賠償義務を負担すると認めるべき理由はな
い。
エ そうすると,原告の,保守費用相当額の損害賠償請求は,理由がないものと
いうべきである。
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2015.03.16
平成25(ワ)6414 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年2月26日 大阪地方裁判所
特許権侵害として7%の実施料相当額が認められました。
イ 上記認定事実を前提にすると,被告が受注した同種システムの中で,被告装置を備えるものは多くなく,常に一体として販売されているとは
いえないこと,被告装置自体の売上額も,被告装置を備えるシステム総売上額27億4337万5000円の中の2億4834万9000円と,約9%であることからすれば,被告が受注したパワートレイン開発,計測等のシステム全体をもって,本件特許発明の実施に該当すると解するのは相当ではない。
また,被告システムにおける排ガス分析計であるAMAi60は,被告装置と組み合わせて使うことが予定されているものであるが,独立した装置であり,被告装置とは別に,システムの一部要素として構\成されていることが認められるから(別紙受注一覧取引番号3ないし6,甲6,乙6の2),本件特許発明の技術的範囲に属する被告装置の一部と評価できるものではない。
よって,本件特許発明の実施料の対象として捉えるべきものは(特許法102条3項),被告装置自体の受注額であると解される。
ウ 前記認定事実を前提に,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき額について検討するに,被告装置の受注額を基礎に,本件特許発明の実施料を算定すべきであることは前述のとおりであるが,被告装置と排ガス分析計AMAi60とが組み合わせて販売されており,一定限度,被告装置の販売は,AMAi60の販売に寄与していると評価することができるから,この点を使用料率の算定にあたって考慮することはできるものと解する。
また,被告装置を含むものとして受注したパワートレイン開発,計測等のシステムは,1件あたりの受注額の平均が4億円以上となる大規模なものであること,システム全体のうち,排ガス測定機器の関係について,原告と被告は競合していること,被告において,原告のCVS装置をシステムに組み込むこともある中で,温調機能を有する被告装置を含む発注を受けているのであるから,被告装置の存在は,システム全体の\n受注に一定限度寄与しているというべきであり,前述のとおり,被告装置の受注額を基礎に本件特許発明の実施料を算定するとしても,その料率の関係では,この点を考慮するのが相当である。
さらに,本件特許発明は,サンプリング流路全体とともにサンプルバッグを加熱するという比較的単純な構成からなるものであるから,競合関係にある被告にとって,被告装置が本件特許の侵害となるか否かの検討は容易であると考えられ,前述のとおり,原告のCVS装置も選択可能\な中で,あえて温調機能を有する被告装置を含むシステムを受注したのであるから,この点は,実施料率を算定するに当たって考慮すべき事情と解される。\n以上を総合すると,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき実施料としては,被告装置の受注額の7%とするのが相当である。
エ そうすると,原告が特許法102条3項により受けるべき金銭の額は,被告装置の受注額の7%,別紙損害算定表の実施料相当額欄記載のとおりとなり,合計1738万4430円と認めるのが相当である。\n
◆判決本文
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2015.02.22
平成24(ワ)35757 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年2月10日 東京地方裁判所
登録日から特許公報発行前の期間について、特103条の過失の推定規定の適用があるかが争われました。裁判所は、登録時からの過失を認定しました。
前記1及び2のとおり,被告は,原告らの本件特許権を侵害しており,特許権侵害につき過失があるものと推定される(特許法103条)から,原告らに対し,平成21年12月18日(本件特許の登録日)から平成23年10月23日までの被告製品の製造販売により原告らに生じた損害につき,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
イ これに対し,被告は,本件特許の特許公報の公開までの間は,同条に基づく過失の推定は覆滅されると主張する。
そこで判断するに,特許法は,特許権は設定の登録により発生する(66条1項),登録があったときは特許権者の氏名等を特許公報に掲載する(同条3項),特許公報は特許庁が発行する(193条1項)と規定するところ,登録から特許公報の発行までは,事柄の性質上,ある程度の期間を要すると考えられるから,特許権発生後,特許公報が発行されていない期間が生じることは,同法の規定上,予定されていると解される。一方,同法103条は,単に「特許権」を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定される旨規定し,特許権の発生時(登録時)から過失による不法行為責任を負うことを原則としてお\n
り,特許公報の発行を過失の推定の要件と定めてはいない。また,同条が過失の推定を定めたのは,発明を奨励しもって産業の発達に寄与するという法目的(同法1条)に鑑み,特許権者の権利行使を容易にしてその保護を図るためであることは明らかである。以上の特許法の諸規定に照らせば,特許公報の発行前であることのみから過失の推定が覆されると解することは相当ではない。
◆判決本文
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2014.11.20
平成25(ワ)14214 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年11月18日 東京地方裁判所
同族会社の取締役に、特許権侵害につき悪意又は重過失であったとして、600万円を超える損害賠償が認められました。
前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば,上記不法行為期間のうち平成23年4月1日から同年6月30日までの間,被告Bは代表取締役として本件新会社の本件治療器に係る業務を執行し,被告Aも取締役として同業務についての意思決定に関わっており,特許権侵害につき悪意又は重過失であったと認められる。\nしたがって,被告らは,この間の本件新会社による特許権侵害の不法行為につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。
イ 平成23年7月1日から平成24年3月31日まで
原告は,本件新会社は同族会社であり,被告らは役員でない期間もD一族のトップとして実権を行使していたことなどから,本件新会社の不法行為につき責任を負う旨主張する。しかし,事実上の取締役について会社法429条1項の類推適用を認める余地があるとしても,本件において,被告らが取締役でなかった期間における本件新会社の経営の実態等については何ら具体的な主張がない。したがって,被告らが同項による責任を負うとは認められない。
・・・
1) 前記2(2)アのとおり,被告らは,本件新会社による平成23年4月1日から同年6月30日までの特許権侵害の不法行為により生じた原告の損害につき会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うから,同期間の原告の損害額を検討する。
ア 証拠(甲6〜11)及び弁論の全趣旨によれば,本件旧会社が本件事業により得た利益は年間平均2549万6461円であったことが認められる。そして,本件新会社は本件旧会社と同様に本件治療器に係る業務を行
っていると解されるところ,被告らは本件新会社の利益につき原告の主張に対して具体的な反論をせず,積極的な反証もしていない。そうすると,本件新会社が本件治療器を販売し,これを使用したセラピーを提供したことによる年間の利益は上記と同額であると推認されるから,平成23年4月1日から同年6月30日までの利益は635万6652円(2549万6461円×91÷365)であると認めることができる。
イ 原告は,本件治療器の販売をし,本件治療器を使用した施術を提供していると認められるから(甲32),本件新会社が本件発明の実施により得た利益の額は原告が受けた損害の額であると推定される(特許法102条2項)。
なお,被告らは,セラピーに係る利益は同項の「利益」に当たらないと主張するが,実施品の使用(同法2条3項1号)という特許権侵害行為により得た利益であることは明らかであり,被告らの主張は採用できない。
ウ 被告らは,本件治療器の販売及びセラピーにおける使用により利益を得るためには,使用方法のノウハウの提供及びセラピストの技術等が寄与する程度が大きく,上記利益に対する本件特許の寄与度は,販売について5%,セラピーについて2.5%であると主張する。
そこで検討するに,本件発明は音叉型治療器の発明であり,実施品の販売やセラピーでの使用に際して,使用方法の説明やセラピストの知識及び技術が必要なのは当然であり,本件新会社に特有の事情ではない。そして,被告らの主張によっても,本件新会社における使用方法の説明,セラピストの知識及び技術,セラピストの団体等の具体的内容は明らかでなく,本件において,上記イの推定を覆滅するに足りる事情があるとは認められない。
(2) したがって,本件新会社の上記期間の特許権侵害の不法行為による原告の損害額は635万6652円であると認められ,被告らは,会社法429条1項に基づき,各自同額の損害賠償義務を負う。
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2014.10. 1
平成26(ネ)10022 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成26年9月11日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審で損害額が変更されました。双方とも特102条2項に基づく判断ですが、同項による推定を一部覆滅する事情について、1審は75%減額、控訴審は65%減額と判断しました。
特許法102条2項の規定により損害の額を算定するに当たっては,第1審被告が得た利益のうちに当該特許発明の実施以外の要因により生じたものと認められる部分があるときは,同項による推定を一部覆滅する事情があるものとして,その分の額を損害の額から減ずるのが相当である。
これを本件についてみると,第1審被告aで認定したとおりであるが,第1審被告は本件特許の登録前から同種サービスを提供しており,第1審被告装置1は本件特許を侵害第1審被告は保有する3件の特許権に係る特許発明を実施しており,その提供するサービスについて,能率と費用の面でより効果的なものとしている本件発明と同様の調査データを取得し得る方法として,本件特許の侵害とならない方法によることが困難なものとは認められないこと(例えば,被告装置5の実施態様(b)。c,)などからすると,本件発明の技術的意義はさほど高いものではなく,第1審被告事業による利益に対する本件特許の寄与は,相当限定的な範囲にとどまるものと認めるのが相当である。
加えて,特許権侵害期間における第1審被告の顧客55社のうち35社(約63%)が本件特許権の特許登録前からの顧客であり,また,固定電話分の売上げの約8割がこれらの顧客によるものであるところ(前記アc),第1審被告による本件発明の実施の影響が新規顧客のみに限定されるものではないとしても,本件発明の実施に対応して需要者が何らかの具体的な選択をしたことをうかがわせるような証拠もないことに照らすと,上記の顧客の状況については,第1審被告事業の利益に対する本件発明の寄与を更に限定する要素と認めざるを得ない。
第1審原告は,寄与割合を判断するに当たっては,需要者の選択購入の動機が基軸的な要素として重視されるべきであると主張するが,上記のとおり,その主張を認めるに足りる証拠はなく,本件においては,第1審原告の上記主張は採用することができない。
また,本件においては,市場に同種のサービスを提供する業者の存在が調査データと特定の電話番号を照合することにより利用状況を調査するサービスに関しては,第1審原告と第1審被告のほかにサービスを提供する上記の点は,推定を覆滅する要素として重視することはできない。
以上の各事情に加え,第1審原告及び第1審被告の主張に照らし,本件の証拠上認められる一切の事情について検討すると,上記第1審被告の利益が特許権侵害による第1審原告の損害額であるとの推定を一部覆滅する事情があると認められ,その割合は65%と認めるのが相当である。
そうすると,特許法102条2項の規定に基づいて算定される損害額は,前記において認定した利益額9994万2225円に35%を乗じた3497万9779円となり,第1審原告がこれを上回る損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
◆原審はこちら 平成21(ワ)32515
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2014.08.20
平成24(ワ)14652 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年7月23日 東京地方裁判所
洗濯機のカビプロテクト機能について「商品選択に寄与する割合が低いものであったとはいい難い」として売上高の1%の損害が認められました(特102条3項)。
そして,本件688明細書の上記(イ)e,fの記載に照らせば,本件688発明において,洗濯兼脱水槽から洗濯物が取り出され,槽内に洗濯物がない状態で上記槽乾燥工程を行うことで,脱水孔から空気が外槽内にスムーズに流れ,槽内の乾燥効率向上という作用効果が得られるものとされていることをうかがうことができるところ,本件688明細書に,上記(イ)gのとおり,温風供給手段を動作させるタイミングを,洗濯兼脱水槽から洗濯物を取り出した後とするためには,蓋の開閉動作があったことを条件とすればよい旨の記載があることも考慮すれば,蓋開閉検知は,洗濯兼脱水槽内から洗濯物が取り出された状態で槽乾燥工程が行われることを担保し,槽内の乾燥効率の向上という上記作用効果を確保するための構成であると解されるところである。そうすると,「検知を条件に」を,槽乾燥工程への自動移行を意味するものと解すべき理由はなく,同文言は,単に蓋開閉検知がされなければ槽乾燥工程に移行しないことを意味するにとどまるものと解するのが相当である。\n
・・・・
以上によれば,本件521特許及び本件893特許の侵害を理由とする原告らの請求は,争点(4)イ・ウについて検討するまでもなく理由がないことに帰着する。
そこで,以下においては,争点(4)ア(本件688特許の侵害による損害額)についてのみ検討する。
・・・・
そうすると,ロ号製品について,そのカタログやウェブサイト上の製品説明において,本件688特許登録前の製造販売に係る製品のように,「カビプロテクト」機能につき大きく取り上げる扱いがされていなかったとしても,従前の宣伝広告等により,需要者が当該機能\\を重視することは十分にあり得るものというべきである。なお,被告は,本件688特許登録前の製造販売に係る製品は,いわゆる縦型洗濯機であり,ドラム式洗濯乾燥機であるロ号製品とは無関係なものである旨主張するが,縦型洗濯機とドラム式洗濯乾燥機の需要者は共通するものと解されるのであって,前者に係る宣伝広告の効果が後者に波及することは十\\分にあり得るものと解されるところである。加えて,ロ号製品についても,機種名TW−G520L/Rの製品については,そのカタログにおいて,「カビプロテクト」機能により手軽に槽の手入れをすることができる旨が大きく取り上げられていること(甲36,乙64),機種名TW−Z370L,TW−G520Lの製品については,株式会社東芝のウェブサイトにおける上記製品の「商品情報」において,カビプロテクト機能\\を有する旨が記載されていること(乙66)に照らせば,ロ号製品においても,「カビプロテクト」機能はその宣伝広告において取り上げられることがあったものということができるのであって,本件688発明に係る機能\\が需要者の商品選択に寄与する割合が低いものであったとはいい難いものというべきである。
エ 他方,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を具体的な構成をもって社会に開示した点にあるというべきところ,本件688発明がその課題解決のために具体的に開示した新たな技術的手段としての構\\成は,「前記検知工程による検知を条件に」槽乾燥工程へ移行するようにしたところであって,同発明は,蓋の開閉検知のほかには,「洗濯物が取り出された状態」とするための技術的手段を開示していないことは,前記1で見たとおりである。
オ 以上の事情を総合考慮すると,ロ号製品の売上高に1%を乗じた金額が,本件688特許の特許権者が本件688発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する金額(特許法102条3項)として相当であると認められる。
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2014.07.19
平成24(ワ)30098 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年07月10日 東京地方裁判所
特許権侵害で1億円を超える損害賠償が認められました。
上記技術分野における実施料率に関しては,平成4年度〜10年度の無機化学製品の契約件数(イニシャルペイメントなし)は3件であり,実施料率別では5%が2件,2%が1件であった旨, 平成21年頃の国内企業へのアンケートによると化学分野の実施料率は平均5.3%であった旨, 平成9年〜20年に損害賠償訴訟で判断された化学分野の実施料率は平均3.1%であった旨の調査結果が報告されている。(甲9,38,39,46)(3) 上記事実関係によれば,本件発明は二次電池の正極材料の基本性能に関するものであり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する被告方法により製造されたものとして,高温保存特性が優れるという効果を奏するものということができるが,他方,被告製品の売上げに関しては,それ以外にも二次電池に求められる上記各性能\を被告製品が有していることによる部分が大きいと推認される。以上に説示した本件の諸事情を総合すると,原告が被告による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,前記(1)の55億8300万円に2%を乗じた1億1166万円と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2014.05.24
平成25(ネ)10043 債務不存在確認請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成26年05月16日 知的財産高等裁判所
知財高裁がFRAND宣言した特許権の行使についてアミカスブリーフを求めた事件です。争点は多数ですが、2次使用について消尽が適用されるのかについて展開した後、FRAND宣言における必須特許1/529の約1000万円の損害賠償を認めました。最後に意見募集についても言及されました。
インテル社は,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約によって,本件ベースバンドチップの製造,販売等を許諾されていると仮定されるから,前記(イ)にいう特許権者からその許諾を受けた通常実施権者に該当する。また,「データを送信する装置」(構成要件A)及び「データ送信装置」(構\成要件H)に該当するのは本件ベースバンドチップを組み込んだ本件製品2及び4であると解される一方,本件ベースバンドチップには,本件発明1の技術的範囲に属する物を生産する以外には,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないと認められるから,本件ベースバンドチップは,特許法101条1号に該当する製品(1号製品)である。アップル社は,インテル社が製造した本件ベースバンドチップにその他の必要とされる各種の部品を組み合わせることで,新たに本件発明1の技術的範囲に属する本件製品2及び4を生産し,被控訴人がこれを輸入・販売しているのであるから,前記(ア),(イ)のとおり,控訴人による本件特許権の行使は当然には制限されるものではない。b そこで,まず,控訴人においてこのような特許製品の生産を黙示的に承諾していると認められるかを検討する。この点,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が存続しており,かつ,本件ベースバンドチップがその対象となると仮定した場合における,仮定される控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約は,控訴人が有する現在及び将来の多数の特許権を含む包括的なクロスライセンス契約であり,本件特許を含めて,個別の特許権の属性や価値に逐一注目して締結された契約であるとは考えられない。また,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約の対象は,「インテル・ライセンス対象商品」すなわち「(a)半導体材料,(b)半導体素子,又は(c)集積回路を構成する全ての製品」であって,「インテル・ライセンス対象商品」に該当する物には,控訴人の有する特許権との対比における技術的価値や経済的価値の異なる様々なものが含まれ得る。そうすると,かかる包括的なクロスライセンスの対象となった「インテル・ライセンス対象商品」を用いて生産される可能\性のある多種多様な製品の全てについて,控訴人において黙示的に承諾していたと解することは困難である。そして,インテル社が譲渡した本件ベースバンドチップを用いて「データを送信する装置」や「データ送信装置」を製造するには,さらに,RFチップ,パワーマネジメントチップ,アンテナ,バッテリー等の部品が必要で,これらは技術的にも経済的にも重要な価値を有すると認められること,本件ベースバンドチップの価格と本件製品2及び4との間には数十倍の価格差が存在すること(乙31,32),いわゆるスマートフォンやタブレットデバイスである本件製品2及び4は「インテル・ライセンス対象商品」には含まれていないことを総合考慮するならば,控訴人が,本件製品2及び4の生産を黙示的に承諾していたと認めることはできない。なお,このように解したとしても,本件ベースバンドチップをそのままの状態で流通させる限りにおいては,本件特許権の行使は許されないのであるから,本件ベースバンドチップを用いて本件製品2及び4を生産するに当たり,関連する特許権者からの許諾を受けることが必要であると解したとしても,本件ベースバンドチップ自体の流通が阻害されるとは直ちには考えられないし,控訴人とインテル社間の変更ライセンス契約が,契約の対象となった個別の特許権の価値に注目して対価を定めたものでないことからすると,控訴人に二重の利得を得ることを許すものともいえない。\n
・・・
すなわち,ある者が,標準規格に準拠した製品の製造,販売等を試みる場合,当該規格を定めた標準化団体の知的財産権の取扱基準を参酌して,必須特許についてFRAND宣言する義務を構成員に課している等,将来,必須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認した上で,投資をし,標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に,後に必須宣言特許に基づいてFRAND条件によるライセンス料相当額を超える損害賠償請求を許容することがあれば,FRAND条件によるライセンスが受けられると信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し,投資等をした者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は,当該標準規格の利用者に当該必須宣言特許が利用されることを前提として,自らの意思で,FRAND条件でのライセンスを行う旨宣言していること,標準規格の一部となることで幅広い潜在的なライセンシーを獲得できることからすると,必須宣言特許の保有者にFRAND条件でのライセンス料相当額を超えた損害賠償請求を許容することは,必須宣言特許の保有者に過度の保護を与えることになり,特許発明に係る技術の幅広い利用を抑制させ,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害することになる。(イ) 一方,必須宣言特許に基づく損害賠償請求であっても,FRAND条件によるライセンス料相当額の範囲内にある限りにおいては,その行使を制限することは,発明への意欲を削ぎ,技術の標準化の促進を阻害する弊害を招き,同様に特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあるから,合理性を欠くというべきである。標準規格に準拠した製品を製造,販売しようとする者は,FRAND条件でのライセンス料相当額の支払は当然に予定していたと考えられるから,特許権者が,FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内で損害賠償金の支払を請求する限りにおいては,当該損害賠償金の支払は,標準規格に準拠した製品を製造,販売する者の予\測に反するものではない。また,FRAND宣言の目的,趣旨に照らし,同宣言をした特許権者は,FRAND条件によるライセンス契約を締結する意思のある者に対しては,差止請求権を行使することができないという制約を受けると解すべきである(当裁判所においても,控訴人が被控訴人に対して本件特許権に基づく差止請求権を被保全債権として,本件製品2及び4に加えて「iPhone 4S」の販売等の差止等を請求した仮処分事件(本件仮処分の申立て及び別件仮処分の申\立ての抗告審。当庁平成25年(ラ)第10007号,同10008号事件)において,控訴人の申立てを却下した原審決定を維持する旨の決定をした。)。FRAND宣言をした特許権者における差止請求権を行使することができないという上記制約を考慮するならば,FRAND条件でのライセンス料相当額の損害賠償請求を認めることこそが,発明の公開に対する対価として極めて重要な意味を有するものであるから,これを制限することは慎重であるべきといえる。(ウ) 以上を「FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求」と「FRAND条件でのライセンス料相当額による損害賠償請求」に分けて,より本件の事実に即して敷衍する。
・・・
意見の中には,諸外国での状況を整理したもの,詳細な経済学的分析により望ましい解決を論証するもの,結論を導くに当たり重視すべき法的論点を整理するもの,従前ほとんど議論されていなかった新たな視点を提供するものがあった。これらの意見は,裁判所が広い視野に立って適正な判断を示すための貴重かつ有益な資料であり,意見を提出するために多大な労を執った各位に対し,深甚なる敬意を表する次第である。\n
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2014.05.22
平成25(ネ)10086 債務不存在確認請求本訴,損害賠償請求反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成26年04月24日 知的財産高等裁判所
アップルのクリックホイールに関するの訴訟で、1審は約3億円の損害賠償を認めました。本件は、その控訴審です。知財高裁は、1審の判断をほぼそのまま認めました。
平成19年9月から発売が開始されたiPod touchではクリックホイールが採用されず,タッチパネルが採用されている(乙26)。タッチパネルはプッシュスイッチを有するものではなく,また,タッチパネルによる操作方法は,タッチパネル向けに最適化されており,コンテンツをCover Flowで表示するには,iPod touchを横に回転させ,アルバムカバーをブラウズするには,左右にドラッグするか,フリックし,任意のトラックを再生するには,再生したいトラックをタップする等というものであって,クリックホイールによる操作とは大幅に異なる(甲138)。そうすると,タッチパネルとクリックホイールとでは,小型携帯装置の入力手段であるという程度の共通性しか見出せず,両者が代替手段の範疇にあるとは認められない。
◆判決本文
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2014.04.17
平成23(ワ)3292 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月26日 東京地方裁判所
販売不可事情として7割に関しては除外されましたが、特102条1項により、1億6000万円を超える損害賠償が認められました。
以上によれば,本件発明1は,電池電圧低下を検出した場合に,従来技術において採用されていた,意味不明かつ耳障りなブザー音に代えて,意味が明確かつ耳障りでない音声メッセージによって電池交換を促すとともに,利用者が音声メッセージを聴取するための誘因として,視覚的効果を有する表示灯手段を採用し,さらに,表\示灯手段を視認して誘引された利用者が確認要求受付手段を利用することにより,確実に音声メッセージを認識できるようにしたものである。そうすると,本件発明1の技術的意義は,第1に,従来技術における意味不明かつ耳障りなブザー音に代えて音声メッセージを利用するようにしたことであり,第2に音声メッセージへ到達するための誘因として視覚的な表示灯手段を利用するとともに,利用者の確認要求によって音声メッセージを確実に認識できるようにしたことにある。このような技術的意義を有する構\成を採用したことにより,早期に確実に電池交換をすることが促進され,電池の無駄な消費も抑えることができるようになる。本件発明1の上記技術的意義に照らせば,本件発明1において,電池電圧低下の検出と同時に発することが排除されているのは,利用者がうるさがって電池を抜き出してしまう程度に耳障りな音声又はブザー音であって,表示灯手段による報知と併せて発音を行うこと自体が全く排除されているものではないと解するのが相当である。そして,ハ号及びニ号製品における「ピッ」音は,50秒単位で発せられるものであり,利用者に異常表\示灯手段への注意を促す程度のものとみることができるから,上記発音が,利用者においてうるさがって電池を抜き出してしまう程度に耳障りなものとは解されず,上記発音が本件発明1において排除されている音声に当たるものとは解されない。
・・・
また,被告は,原告は,平成20年8月までは,原告製品1及び2のみしか販売していなかったものであるから,同月末日までの間は,原告製品1及び2のみが「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たると主張する。しかし,特許法102条1項は,一定期間にわたる特許権侵害が認められる場合に,権利者の上記期間における競合品としてあり得べき権利者製品の販売機会の喪失による逸失利益を全体として評価して,これを権利者の受けた損害とするものであり,権利者製品と侵害品を厳密に1対1対応させ,販売機会の喪失を検討することが予定されているものではないというべきである。したがって,本件においても,特許法102条1項に基づく原告の損害を算定するに当たり,平成19年8月24日から平成24年3月末日までの期間を全体として捉え,原告製品を,いずれも,上記期間において「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるとみて,その平均利益をもって原告の損害を評価することは,特許法102条1項の上記趣旨に反するものではなく,許容されるものというべきである。(オ) よって,被告の主張はいずれも採用することができず,原告製品は,被告製品全部との関係において,「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるものと認められる。
ウ 「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益の額」
(ア) 特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは,原則として,権利者製品の売上高から変動費を控除した利益(限界利益)をいうが,費用のうち権利者製品の製造又は販売に直接必要な個別固定費も例外的に含むものと解するのが相当である。他方,本件発明は,その構成により,利用者が早期かつ確実に電池電圧低下を認識し,これを放置することなく早期の電池交換が促されることで,無監視状態で警報器が放置される事態を回避することが可能\になるという作用効果を有するものであるところ(前記第4の1(1)イ(ウ)),被告製品のカタログ等に本件発明に係る構成が記載されていること(上記(イ)e)に照らせば,本件発明の作用効果が購入者らによる製品購入(又は事業者による製品採用)の動機付けの一つとなっていることがうかがわれるものというべきである。ただし,火災警報器における基本的性能は,監視領域における火災等の異常を確実に検知し報知する点にあると考えられるのであって,電池電圧低下の検知及び報知は,異常を確実に検知し報知するための警報器の作動を確保するための機能\に関するものではあるものの,複数あり得る火災警報器の故障又は異常状態の一類型に対応するものにすぎないことや電池電圧の低下の検知及び報知については音声のみによる方法等の本件発明を実施しない他の方法もあり得ることを考慮すれば,本件発明に係る構成に基づく作用効果が,購入の決定的な動機付けとなり,又は製品を選択するに当たり大きな影響力をもつものとまでは考え難い。以上の諸事情については,被告製品の販売数量のうち,本件発明の作用効果を考慮してもなお他社の競合品によって代替されたと考えられる割合及び被告自身の営業力や本件発明の実施部分以外の被告製品の特性等により販売することができたと考えられる割合について,これらを総合して,原告が原告製品を「販売することができないとする事情」があると解するのが相当である。そして,上記諸事情に照らし,上記数量は7割とみるのが相当である。
(オ) 以上の認定に関し,原告は,パナソニック等の製品は本件特許権を侵害するものであるから,これらの製品の存在を考慮して,「販売することができないとする事情」を認定するのは相当ではないと主張するが,上記製品が本件特許権を侵害するものと認めるに足りず,採用することができない。(カ) したがって,前記アの被告製品の販売数量のうち,7割に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。
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2014.03.28
平成23(ワ)36583 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月20日 東京地方裁判所
独占的通常実施権者に対して、特許法102条1項による損害賠償が認められました。
原告製品1個当たりの利益の額は423.3円であること,被告は,平成21年2月23日から平成22年12月3日までに被告製品を10万0034個販売したことは当事者間に争いがない。また,証拠(甲30,乙7の1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成16年から19年までは年間20万個を超える原告製品を,平成20年から22年までも年間10万個を超える原告製品を販売しており,原告の保有する生産設備やこれまでの販売実績からすれば,原告が被告の譲渡数量について実施する能力を有していたことが認められる。よって,原告の損害額は4234万4392円となる(なお,被告は本件に特許法102条1項の類推適用があることを争っていない。)\n
・・・・
被告は,原告製品と被告製品の価格差が大きいこと,装身具用連結金具の市場における原告のシェアが30%程度であり,複数の競合品が販売されていることから,被告製品の譲渡数量の一部につき「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)があると主張する。そこで検討すると,前記争いのない事実等,証拠(甲31,32,乙8〜13。枝番号のある証拠はすべての枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すると,1)原告製品の販売価格は1個859.5円であるのに対し,被告製品は約467.5円であること,2) 装身具用連結金具製品を販売する業者は原告と被告のほかにも複数存在することが認められる。しかしながら,1)価格差のあることが上記ただし書の事情に当たり得るものであるとしても,本件においては,弁論の全趣旨によれば,装身具用連結金具がネックレス等の環状装身具の部品の一つとして使用されるものであり,最終製品である環状装身具の価格が連結金具の価格を大きく上回るものであることに照らすと,原告製品と被告製品に上記の程度の価格差があることから原告製品につき「販売することができないとする事情」があると認めることはできない。また,2) 他社の装身具用連結金具製品が,本件発明と構成を異にするものであり,かつ,操作性が容易であり,構\造が簡単でコスト的にも優れているという本件発明と同様の効果を奏するものとして,原告製品の競合品となり得る特徴を有するものであるかは明らかではない。
イ 次に,被告は,被告製品は別件発明に係る特許の実施品でもあるので,被告製品の販売における本件発明の寄与度は多くとも5割であると主張する。そこで検討すると,前記争いのない事実等(5)のとおり,原告と被告は,別件特許権の独占的通常実施権の侵害に係る別件訴訟において,被告が原告に解決金600万円を支払う,本件特許の独占的通常実施権侵害に基づく損害賠償債務の存在及び額が判決等により確定した場合には,この解決金を上記損害賠償債務に充当する旨の別件和解が成立し,別件特許権については原告と被告の間に他に債権債務はないことが確認されている。このような別件和解の経緯及びその内容に照らせば,被告製品の販売数量についての別件発明の寄与については,原告と被告の間では別件和解により解決済みであると解すべきであって,本件発明に係る独占的通常実施権侵害の損害額から別件発明の寄与度に相当する部分を減額するのは相当でない。
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2014.03.26
平成24(ワ)24822 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月20日 東京地方裁判所
特許権侵害について、売上額の3%の損害が認定されました。
原告らは,特許権侵害に係る不当利得の額は不当利得対象期間の被告各製品の売上額4億1602万5629円に実施料率3.5%を乗じた額であり,損害の額は損害賠償対象期間の被告の利益額633万0671円に等しいと主張する。上記売上額及び利益額に争いはなく,被告は,不当利得についての実施料率は0.5%であり,損害賠償についての寄与率は10%にとどまる旨主張するので,以下,検討する。
・・・
被告は,不当利得対象期間中,本件発明の実施許諾を得ないまま,その技術的範囲に属する被告各製品の製造販売をしたのであるから,少なくとも実施料相当額につき法律上の原因なくして利益を得,原告ペパーレットはこれと同額の損失を被ったということができる。イ そこで,本件発明の実施料率についてみるに,上記事実関係によれば,カラーチェンジ機能は猫砂に求められる複数の機能\のうちの一つにとどまり,顧客がこれを他の機能より重視しているとはいえないものの,紙製の猫砂全体に占めるカラーチェンジ機能\を有する製品の割合が,固まり性や消臭性を備えた猫砂の商品化後も徐々に拡大し,5割程度に達していることからすれば,カラーチェンジ機能は,同種製品の販売上,不可欠ではないとしても有益な機能\とみるべきものである。そして,被告各製品の包装をみても,製品ごとに強調の程度は異なるものの,カラーチェンジ機能をセールスポイントとして扱っている。また,実施料率について調査した文献によれば,本件発明の実施品が属するパルプ,紙加工品等の分野における実施料率は3%程度の契約例が多いとされている(甲14)。これらの事情を総合すれば,本件における実施料率は,売上額の3%と認めるのが相当である。したがって,原告らが返還を請求し得る不当利得の額は,合計1248万0768円(4億1602万5629円×3%)となる。\n
・・・
イ そこで判断するに,上記事実関係によれば,本件発明の効果であるカラーチェンジ機能が被告各製品の販売に貢献していることは明らかといえるが,他方,被告各製品は,消臭性,固まり性といった機能\も併せ有するのであり,これらに着目して,本件発明の実施品である原告らの動物用排尿処理材や,商品名等により専らカラーチェンジ機能が強調されていた前訴対象製品ではなく,被告各製品を選択する消費者も少なからず存在したものと推認することができる。これらの事情を総合すると,被告の利益のうち5割は本件発明以外の要因が寄与して生じたものであり,この限度で上記推定が覆ると考えられる。したがって,寄与率を10%とする被告の主張を採用することはできず,原告らが請求し得る損害賠償の額は合計316万5335円(633万0671円×50%)であると解するのが相当である。\n
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2014.01.21
平成24(ワ)8071 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年01月16日 大阪地方裁判所
使用済みの原告製品の芯管に分包紙を巻き直して製品化する行為について、特許はすでに消尽しているかが争われました。裁判所は、新たな生産行為として侵害と認定しました。また、商標権についても侵害認定をしました。損害額は102条2項(侵害者の利益を損害と推定する)で認定されました。
特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許される。特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合において,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとして特許権者がその特許製品につき特許権を行使することが許されるといえるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断すべきである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁)。
(2)検討
まず,特許製品の属性についてみると,原告製品及び被告製品の分包紙が消耗部材であるのと比較すれば,芯管の耐用期間が相当長いことは明らかである。他方で,分包紙を費消した後は,新たに分包紙を巻き直すことがない限り,製品として使用することができないものであるから,分包紙を費消した時点で製品としての効用をいったんは喪失するものであるといえる。また,証拠(甲10)によれば,原告製品は,病院や薬局等で医薬品の分包に用いられることから高度の品質が要求されるものであり,厳密に衛生管理された自社工場内で製造されていることが認められる。同様に,証拠(甲12〜14,乙5)によれば,被告製品も,被告が製造委託した工場において高い品質管理の下で製造されていることが認められる。これらのことからすれば,顧客にとって,原告製品(被告製品)は上記製品に占める分包紙の部分の価値が高いものであること,需要者である病院や薬局等が使用済みの芯管に分包紙を自ら巻き直すなどして再利用することはできないため,顧客にとって,分包紙を費消した後の芯管自体には価値がないことも認められる。そうすると,特許製品の属性としては,分包紙の部分の価値が高く,分包紙を費消した後の芯管自体は無価値なものであり,分包紙が費消された時点で製品としての本来の効用を終えるものということができる。芯管の部分が同一であったとしても,分包紙の部分が異なる製品については,社会的,経済的見地からみて,同一性を有する製品であるとはいいがたいものというべきである。被告製品の製造において行われる加工及び部材の交換の態様及び取引の実情の観点からみても,使用済みの原告製品の芯管に分包紙を巻き直して製品化する行為は,製品の主要な部材を交換し,いったん製品としての本来の効用を終えた製品について新たに製品化する行為であって,かつ,顧客(製品の使用者)には実施することのできない行為であるといえる。以上によれば,使用済みの原告製品の芯管に分包紙を巻き直して製品化する行為は,製品としての本来の効用を終えた原告製品について,製品の主要な部材を交換し,新たに製品化する行為であって,そのような行為を顧客(製品の使用者)が実施することもできない上,そのようにして製品化された被告製品は,社会的,経済的見地からみて,原告製品と同一性を有するともいいがたい。これらのことからすると,被告製品は,加工前の原告製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。被告製品を製品化する行為が本件特許発明の実施(生産)に当たる旨の原告の主張には理由がある。
4 争点3(原告が被告製品につき本件各商標権を行使することの可否)に対する判断
前記3のとおり,原告製品及び被告製品は,いずれも病院や薬局等で医薬品の分包に用いられることから高度の品質が要求されるものであり,厳重な品質管理の下で,芯管に分包紙を巻き付けて製造されるものである。顧客にとって,上記製品に占める分包紙の部分の品質は最大の関心事であることが窺える(なお,前記のとおり,需要者である病院や薬局等が使用済みの芯管に分包紙を自ら巻き直すなどして再利用することもできない。)。そうすると,分包紙及びその加工の主体が異なる場合には,品質において同一性のある商品であるとはいいがたいから,このような原告製品との同一性を欠く被告製品について本件各登録商標を付して販売する被告の行為は,原告の本件各商標権(専用使用権)を侵害するものというべきである。実質的にみても,購入者の認識にかかわらず,被告製品の出所が原告ではない以上,これに本件各登録商標を付したまま販売する行為は,その出所表示機能\を害するものである。また,被告製品については原告が責任を負うことができないにもかかわらず,これに本件登録商標が付されていると,その品質表示機能\をも害することになる。これらのことからすると,原告は被告製品につき本件各商標権を行使することができるものと解するのが相当である。
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2013.10.22
平成19(ワ)2525 債務不存在確認請求本訴事件,損害賠償請求反訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月26日 東京地方裁判所
アップルと個人発明家との訴訟で、裁判所は約3億円の損害賠償を認めました。本件は、不存在確認訴訟なので、原告がアップルです。
(1) 証拠(甲95,98,127,128,計算鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年10月1日から平成25年3月30日までの間の原告各製品の日本国内における売上高(消費税抜き)は,●(省略)●円であり,消費税込みの売上高は,●(省略)●円であると認められる。被告は,原告の平成23年5月26日付け準備書面(24)別紙1の記載を根拠に,原告各製品の売上高が5976億円であると主張するが,原告は,上記の記載が誤記であると述べている上,そもそも上記記載が売上高の記載であるかどうかも不明であり,他に原告の上記主張を裏付ける的確な証拠がないことに照らすと,これを採用することはできない。また,被告は,計算鑑定の結果等は,製品別売上台帳等の取引別の詳細データを用いていないから信用することができないと主張するが,原告は製品別売上台帳等の取引別の詳細データを常備していないというのであり,「<以下略>の追加陳述書」(甲98)及び「<以下略>の補充的陳述書」(甲128)の基となるデータは米国のアップル・インクに対する監査報告手続において会計監査人が依拠している会計データベース(SAPデータベース)から析出して得られたものであって,無作為に選択された25件の取引レベルのサンプルデータにより,上記データベースから抽出した販売数量及び売上データが請求システムのデータと一致することが確認されている上(甲127),鑑定対象期間である平成18年10月1日から平成23年9月24日までの売上高については上記データベースから抽出された製品別月次売上データと原告の計算書類上の売上高との整合性に特段の問題はないとされているから(計算鑑定の結果),原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 本件各発明の実施に対し被告が受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を算出するに当たっては,前記消費税込みの売上高に相当な実施料率を乗じる方法によるのが相当である。原告は,クリックホイールの価格をベースとすべきであると主張するが,原告各製品の原価が証拠上不明であることに照らしても,採用することができない。
(3) そこで,相当な実施料率につき,以下検討する。
ア 実施料率〔第5版〕(乙54)によれば,「19.ラジオ・テレビ・その他の通信音響機器」に含まれる「電気音響機械器具」には,録音装置,再生装置,拡声装置及びそれらの付属品が含まれるところ,この分野の平成4年度ないし平成10年度の実施料率(イニシャルなし)の平均値は,5.7%である。なお,「20.電子計算機・その他の電子応用装置」の同様の平均値は,33.2%であるが,これは主にソフトウエアの実施料率が高率であることによるものとされているから,これを参考にすることは相当でない。なお,弁論の全趣旨によれば,被告が本件特許につき他に許諾した例はないことが認められる。イ 本件各発明は,1) リング状に予め特定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出すること,及び,2) 前記軌跡に沿ってタッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点が設けられており,前記検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことができることに特徴があると考えられるところ,1)については,同様の機能を有するタッチホイールを搭載したiPodが原告各製品の販売開始より前の平成14年7月に既に販売されていたものであり(乙3,26,36,37,39,41),2)については,甲5公報及び甲39公報に開示されていたほか,タッチ位置検出センサーの下部にプッシュスイッチ手段を設置し,タッチ位置検出センサーによる検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行う構成については甲6公報,甲7公報及び甲31公報等に開示があり,このような構\成は,原出願当時,広く知られた技術であったと認められる。そうであるから,本件各発明の技術内容,程度は高度なものであるとは認め難いというべきである。ウ 代替手段については,平成19年9月から発売が開始されたiPodtouchではクリックホイールが採用されず,タッチパネルが採用されているが(乙26),これによる入力方法等の詳細は証拠上判然としないから,これをもって代替手段となるとは認め難い。原告各製品の販売開始前に販売されていたiPodは,前記のタッチホイール及びタッチホイールの上部(軌跡から外れた位置)等に配置しているものがあり(乙3,26),そのような構成で代替することは可能\であったということができるものの,それを採用したのでは操作性に劣り先進性を欠くことになると考えられるし(乙30ないし38),実際に原告各製品の販売開始後にそのような構成を採用したモデルがあることは窺えないから,この点を重視することはできない。エ 本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度について見る。(ア) 証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の効果として,次の記載があることが認められる。「本発明は,以上のように構成されており,特に指先からの軌跡上のアナログ的な変移情報または接点の移動情報が電子機器へ確実に入力することができ,1次元上または2次元上もしくは3次元上の所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触点の位置,変移値,及び押圧力を検知することができる。そして,操作性良く薄型でしかも少ない部品点数で電子機器を構\成することができるように1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供することができる。」(段落【0014】)「また,この操作部品により非常に多くの機能の選択を行ったり,例えばボリュームスイッチ等のスイッチ入力を繊細に行うことができる。さらにはセンサータッチのイベント数により入力を行うための接触検知スイッチとして使用された場合には,イベント入力数を人間の指の感覚でもって自在に調節させ,指を当てる場所に応じてイベント数を変更させることにより操作性と多機能\性を向上することができる。しかも,このような操作性を発揮する電子機器の構成部品として該機器の操作部の構\造を単純化でき且つメンテナンス性を向上することもできる。そして,単一の操作部品でもって接触操作型電子部品およびプッシュスイッチ夫々の機能を同時に操作することができる。さらに,従来のプッシュスイッチ付き回転操作型部品とは異なり,装置自体をスイッチ押下方向に薄くして形成でき,装置の中央に配することが可能\となり,片手で持って操作するような装置に組み込んだ場合でも,両手いずれでも操作を簡単に行なうことができる。また,以上の接触検出センサー付プッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント入力が行なえる。」(同【0015】)(イ) 移動する接触点の位置等を検知し,機能の選択等を行う点は,既にタッチホイールにより行われていた。1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供する点は,原告各製品は本件図面中の【図21】のようにプッシュスイッチの上部にタッチ位置検出センサーが配置されて1つの部品で複数の操作ができるようになっているものではなく,これらは別の部品で構\成されているのであり(別紙原告製品説明書,乙16),装置の薄型化は,バッテリや液晶ディスプレイとハードディスクとの配置の工夫やフラッシュメモリの採用等により果たされていることが窺える(乙16,26)。操作性の向上の点は,タッチホイールを採用していた従前のモデルの後に,クリックホイールを採用した原告各製品等が販売されたことや原告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していること(乙30ないし38)からすると,一定の寄与があるとは考えられるが,クリックホイールの機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの存在の果たす役割も大きいと考えられるから,この点に関する本件各発明の寄与の程度が大きいとは認め難い。そうすると,本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度は大きくないというべきである。オ 本件各発明が原告各製品の売上げに寄与する程度について見るに,証拠(乙4,21,30,31,34,37,38,40,41,43)によれば,原告自身,クリックホイールを原告各製品の操作性の要と位置付け,新機能,セールスポイントとしてこれを積極的に宣伝し,好評を博してきたことが認められる。また,証拠(甲97,乙4,16,23,27,28,29,31,34,38,39,40,53,62)によれば,「アップル」のブランドの価値は非常に高く,原告各製品のデザイン,カラーバリエーション,iTunes,ビデオ再生,ゲーム,大型液晶,記憶容量,バッテリ容量,小型軽量といった点の訴求力がかなり強いものであり,平成18年11月16日時点におけるデジタルミュージックプレーヤー市場におけるiPodの国内シェアは約60%に達しているが,それには原告の販売努力が相当程度貢献していることが認められる。カ このような諸般の事情を総合考慮すると,相当な実施料率は,●(省略)●%と認めるのが相当である。(4) そうすると,被告が受けた損害の額は,次の算式のとおり,3億3664万1920円(円未満切捨て)となる。
◆判決本文
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2013.10. 7
平成23(ワ)14336 意匠権侵害行為差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成25年09月26日 大阪地方裁判所
販売不可事情があるとして、意匠法39条1項(特102条1項に対応)の損害額が85%控除されました。
意匠法39条1項を適用して損害額を算定するに当たっては,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を意匠権者が販売することができないとする事情があるときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとされる(意匠法39条1項但し書)上,意匠権者の実施品の利益に対する登録意匠の寄与した度合によっては,損害額の全部又は一部を減額すべきものと解される。ア そこで検討するに,前記3において,本件意匠部分2の要部に関して論じたとおり,原告製品は,「正面視が略横長長方形状で,平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)し,その「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°」(構\成態様C2)であることにより,正面からだけでなく,左側面からもその表示を視認しやすい点に特徴があり,その広告宣伝においても,「横から見てもこんなに見やすい!!」「横顔に自信アリ。」などと強調されている(甲141,乙24)。しかし,前記2及び3で論じたとおり,構\成態様A2及びC2は,乙7意匠によって公然知られた形態をありふれた手法で若干変更したにとどまるもので,この部分が原告製品の売上げや利益に寄与していたとしても,これをもって本件意匠部分2の寄与と見ることはできない。本件意匠部分2の創作性が肯定されるのは,あくまで上記態様に,「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」(構成態様E2)(構\成態様E2)との形状を組み合わせているからであり,本件意匠部分2の寄与度としても,このような組み合わせの形態であることによる寄与度を考えるべきである。この点,構成態様A2及びC2に,略8の字状のセグメントが突出する形状を組み合わせることで,数値等の情報表\示部の視認性がより高められており(甲141,乙24),一定の需要喚起効があるものといえるが(甲111),上記のとおり,構成態様A2及びC2は公然知られた形態をありふれた手法で若干変更したにとどまること,本件意匠部分2は正面視で左側部分のみの部分意匠であること,原告製品の広告宣伝(甲141,乙24)において,本件意匠部分2に係る部分とは異なるスイッチ部や液晶のデータ表\示部の機能なども強調されており,意匠のみを差別化要因とする製品ではないことからすれば,本件意匠部分2の寄与度は,相当限定的に見ざるを得ない。イ また,被告製品は,遊技機に関する数値情報等を表示し,遊技者などに伝達するとの用途及び機能\を備える点において,原告製品と共通するとはいえ,被告の販売する呼出ランプ「エレクスランプ」が遊技機に接続されていることを前提として設置される付属品である(乙3,25〜27,37)。この点において,他の機器を前提とすることなく遊技機と接続可能な呼出ランプである原告製品(甲141,乙24)との違いがあり,被告製品3996台の販売がなかったとしても,その前提となる「エレクスランプ」の販売台数も同台数だけ連動して減少し,同じく呼出ランプである原告製品の販売が同台数増加することまではなかったといえる。ウ 以上の事情に照らし,意匠法39条1項による原告の損害額算定としては,同項本文に従って求められた1924万0740円から,その85%に当たる1635万4629円を控除するのが相当であり,288万6111円と算定される。
◆判決本文
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2013.10. 7
平成22(ワ)17810 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月25日 東京地方裁判所
特許権侵害について102条1項および3項による損害賠償が認められました。
以上によれば,原告プレックスの損害は,以下のとおりである。被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品1及び2を合計61台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品1ないし4を同一数量販売して,1台当たり321万7327円,合計1億9625万6947円の利益を得ることができた。また,被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品3を合計10台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品5及び6を同一数量販売して,1台当たり436万8056円,合計4368万0560円の利益を得ることができた。この合計である2億3993万7507円が原告プレックスの損害と推定され,この推定を覆すに足りる事情はない。
(8) 原告イエンセンの損害について
ア 原告らは,原告イエンセンにつき,特許法102条3項により,1台当たり130万円,合計9230万円の実施料相当損害金を請求している。しかし,原告イエンセンは,被告による侵害期間中,原告プレックスに専用実施権を設定しており(甲1),被告との間でライセンス契約を締結して実施料を得られる可能性は全く存在しなかったのであるから(特許法68条ただし書き,77条2項),原告イエンセンは,特許法102条3項により実施料相当額を損害額と推定する基礎を欠いているものというべきである。イ 原告イエンセンが特許法102条3項に基づく請求ができないとしても,原告イエンセンに損害が生じていれば,民法709条の原則に従った損害賠償は可能である。被告が平成20年12月から平成24年2月までの間に被告製品71台(うち13台は海外向け)を販売したことは争いがないところ,原告製品1ないし4は被告製品1及び2の,原告製品5及び6は被告製品3の,それぞれ競合品であり,少なくとも国内においては他に競合品を製造販売する業者があったとは認められないことからすると,少なくとも国内において販売された被告製品58台分については,侵害の行為がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売していたであろうと認められ,原告プレックスが原告製品58台を追加販売していれば,原告イエンセンは1台当たり65万円,合計3770万円の実施料を取得することができたと認められる(甲16,計算鑑定の結果,弁論の全趣旨)。他方,海外向けに販売された被告製品13台分については,被告に立証責任のある特許法102条1項ただし書の適用に関する限り,原告プレックスに「販売することができないとする事情」の立証があったとはいえないことは前記のとおりであるが,原告らに立証責任のある民法709条の相当因果関係の問題として考えると,被告製品の販売先に対応する海外向け販売にはどのような条件が必要で,原告プレックスはこれを備えているのか否か,当該各販売先においても原告製品や被告製品の競合品は他に存在しないのか否か等は必ずしも明らかでなく,被告製品の販売がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売することができ,原告イエンセンが対応する特許料を取得することができたという相当因果関係の立証があったとまでは認め難い。そうすると,原告イエンセンは,被告の侵害行為により,原告プレックスから3770万円の実施料を取得する機会を失ったのであるから,同額を民法709条に基づく被告の侵害行為と相当因果関係ある損害として請求することができるというべきである。これは,原告イエンセンが原告プレックスの追加販売から得られたであろう実施料相当額であるから,原告ら間の契約で定められた1台当たり65万円(甲16)という額よりも高く,あるいは低く修正する余地はない。\nウ 被告は,原告プレックスが特許法102条1項の請求を行い,原告イエンセンが同条3項の請求を行えば二重請求となり,また本件発明を原告プレックスが有していたときに比べ損害賠償の総額が大きくなって不当である,などと主張するので,民法709条に基づく損害賠償請求との関係でも上記の点を検討する。原告プレックスの特許法102条1項の損害算定において,原告プレックスが原告イエンセンに支払っているロイヤリティーとして1台当たり65万円を変動経費として控除しているのであるから(計算鑑定書4,10頁),原告イエンセンに1台当たり65万円を民法709条に基づく損害として認めたとしても,二重請求となるものではないし,原告プレックスが自ら特許を有していたときよりも損害総額が大きくなることもない。
◆判決本文
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2013.09.25
平成23(ワ)8085等 各損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月12日 東京地方裁判所
特許権侵害について損害賠償が認められました。幇助者に対して、先行技術を調査
するべきだったとして幇助についての過失が認定されました。
被告三菱電機が被告製品4及び5を譲渡し,又は譲渡等の申出をしたことを認めるに足りる証拠はない。ところで,被告三菱電機を除く被告らは,被告日本建鐵が製造して,被告ライフネットワーク及び同住環境システムズに販売し,同被告両名が転売するという関係にあったから,被告ライフネットワークが販売した被告製品4及び5に係る被告日本建鐵と同ライフネットワークの各譲渡,被告住環境システムズが販売した被告製品4及び5に係る被告日本建鐵と同住環境システムズの各譲渡は,それぞれ客観的に関連したものということができる。そして,証拠(甲33ないし35,40ないし56,58ないし60,73,74,81)及び弁論の全趣旨によれば,被告ライフネットワーク,同住環境システムズ及び同日本建鐵は,被告三菱電機の完全子会社であるところ,被告三菱電機は,被告ライフネットワーク,同住環境システムズ及び同日本建鐵と共に洗濯機の製造販売に係る事業を行い,被告日本建鐵と共に被告製品4及び5を開発したり,被告製品4及び5を発売する旨のプレスリリースや新聞広告を出したり,被告製品4及び5のカタログや取扱説明書の最終頁に自らの名称を表\示したり,製造物責任を負担する趣旨で被告製品4及び5に自らの商号を表示したりしたことが認められる。これらの事実によれば,被告三菱電機は,被告製品4及び5に係る被告日本建鐵,同ライフネットワーク及び同住環境システムズのそれぞれの譲渡を幇助したものということができる。そして,被告三菱電機は,被告日本建鐵と共に,被告製品4及び5を開発したのであるから,先行技術を調査するなどして上記各譲渡を幇助すべきでなかったのに,漫然と幇助した過失も認められる。したがって,被告らは,民法719条の共同不法行為として,連帯して損害賠償責任を負う。\n
◆判決本文
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2013.09.13
平成23(ワ)6878 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年08月27日 大阪地方裁判所
単純方法の発明の侵害について、侵害者利益の40%が損害への寄与度と認定されました。
特許法102条2項により,特許権(あるいは独占的通常実施権)を侵害した者がその侵害行為により利益を受けているときは,その利益の額が損害額と推定されるが,特許発明の実施が当該利益に寄与した度合によっては,上記損害額の推定の一部が覆滅されるものと解される。この点,前記イでも論じたとおり,本件特許発明1は,着色漆喰組成物の着色を均一かつ安定的にし,当該漆喰組成物の使用時に形成される着色漆喰塗膜の色むらを防止するという作用効果を有する。これは,塗壁材としての用途を有する着色漆喰組成物にとって,その有用性を高め,商品価値に直結するものであり,被告製品1の販売による利益に寄与していることは確かである。しかし,本件特許発明1は,物の発明でも,物を生産する発明の方法でもなく,単純方法の発明であるから,物の販売による利益への寄与度については,低く評価せざるを得ない。また,被告製品1を紹介するウェブサイト(甲25)及びカタログ(甲26)は,本件特許発明1で特定されている含有成分やそれに伴う着色の均一性や安定性,製品使用時に形成される着色漆喰塗膜の色むら防止といった作用効果を,被告製品1の特徴として挙げていなかった。むしろ,それらウェブサイトやカタログは,被告製品1につき,漆喰が有する調湿機能などを基本としつつ,酸化チタンを配合することによる防臭機能\\や,銀イオンを含有することによる抗菌機能などを特徴として強調しており,この点が現に一定の需要を喚起したこともうかがわれる(乙50〜52)。以上の事情に加え,競業他者の存在(甲33,乙12,13)も考慮し,60%の範囲で,特許法102条2項の推定が覆滅されると認めるのが相当である。なお,被告は,被告製品1の販売による利益には,被告の信用や顧客との信頼関係の寄与が大きい旨主張するが,前記ウ記載のカタログ等の製作や広告掲載のほか,被告において,その信用を高めるためにいかなる活動を行ったのか具体的かつ客観的に裏付ける証拠はない。被告の営業活動については,既に広告宣伝に要する費用として粗利の1割を超す額を利益から控除しているのであり,寄与度としてさらに考慮すべき事情を認めることはできない。また,被告は,平成24年8月に被告製品1の製造を中止し,石灰を含有しない製品へと設計変更した後,着色安定化作用はむしろ高まり,設計変更前と比べて売上げの減少も見られない(乙53,54,79〜87)とも主張するが,着色安定化作用の有無及び違いの程度を裏付けるに足りる証拠はない上,設計変更後の売上げがどのようにして維持されたかの具体的経過も明らかでなく,本件特許発明1の寄与度が低いことを示す事情とはいえない。したがって,特許法102条2項により,本件特許権1等の侵害によって原告が被った損害額(逸失利益)は,2278万8170円(=5697万0427円×(1−0.6),1円未満切捨て)と算定される。\n
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2013.05.24
平成23(ワ)13054 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年05月23日 大阪地方裁判所
特102条2項に損害推定についての覆滅事由は否定されました。
被告は,本件特許発明の切断刃は,交換装置と共に利用されて初めて技術的な貢献をするものであり,切断刃自体は,公知の切断刃の一部分に極めてありふれた単純な構造の付加を行っただけの物品であるから,本件特許発明は,被告製品全体のうち,せいぜい公知の切断刃の物品に付加された構\成による利用価値を高めるだけであり,被告製品の購買動機に影響を与えるものではないと主張する。確かに,被告製品は,剪断式破砕機用切断刃であり,対象物を切断することを目的とするが,本件特許発明は,切断刃の取外し作業の効率性を高めるものであり,切断の機能自体に関わるものではない。しかし,被告製品のような分割式の切断刃自体は公知のものであり(乙B1,本件明細書段落【0004】),本件特許発明の実施品たる構\成を備え,切断刃の取外し作業の効率性を高めている点を除き,格別の特徴を有するわけではないのであるから,本件特許発明の実施品であることこそが被告製品にとって最も重要な差別化要因であったといえる。現に証拠(甲5〜11,乙A29)及び弁論の全趣旨によれば,被告から被告製品を購入した顧客らは,被告製品の「輪形凹部3で形成した係合部」と係合する切断刃交換装置を保有しており,被告製品が本件特許発明の実施品であるからこそ発注,購入したものと認められる。したがって,本件特許発明の実施が被告製品の売上げに寄与した度合は,むしろ大きいというべきであって,損害額の推定の全部又は一部が覆滅されるべき事情があったとは認められない。なお,被告製品を購入した大栄環境株式会社の担当者は,切断刃交換装置を保有しておらず,ハンマーでたたいて切断刃の取り外しを行っていると述べる(乙A30)。しかし,前記1(2)のとおり,被告製品の構成を有する以上,本件特許発明の技術的範囲に属すると認められるところ,被告は,いずれも顧客から指示された仕様に従って被告製品を製造,販売したことが認められる。また,このような事情及び証拠(甲10,11)によれば,大栄環境株式会社は,原告の関連会社から切断刃交換装置を購入していたことも認められ,他にこの認定を妨げるに足りる証拠はない。そのため,ハンマーでたたいて切断刃の取り外しを行っているという上記担当者の陳述内容が真実であったとしても,損害額の推定の全部又は一部が覆滅されるべき事情とすることはできない。\n
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2013.04. 3
平成24(ネ)10015 特許権侵害差止等本訴,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成25年02月01日 知的財産高等裁判所
原告は外国企業で、日本国内では独占的実施権者が実施している場合に、102条2項が適用されるかについて争われました。1審は、同3項で損害額を認定しましたが、知財高裁は同2項の適用を認めました。
上記認定事実によれば,原告は,コンビ社との間で本件販売店契約を締結し,これに基づき,コンビ社を日本国内における原告製品の販売店とし,コンビ社に対し,英国で製造した本件発明1に係る原告製カセットを販売(輸出)していること,コンビ社は,上記原告製カセットを,日本国内において,一般消費者に対し,販売していること,もって,原告は,コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること,被告は,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,被告の侵害行為(イ号物件の販売)により,原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。以上の事実経緯に照らすならば,原告には,被告の侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。これに対し,被告は,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,原告は,日本国内では,本件発明1に係る原告製カセットの販売等を行っておらず,原告の損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。しかし,被告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。したがって,本件においては,原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。以上のとおり,被告の上記主張は採用することができず,原告の損害額の算定については,特許法102条2項を適用することができ,同項による推定が及ぶ。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成21年(ワ)第44391号
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2012.10.26
平成22(ワ)10064 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年10月04日 大阪地方裁判所
102条1項による損害が認められました。
証拠(甲54〜56)及び弁論の全趣旨によると,原告は,祝園貯蔵庫工事に際し,4回にわたり,原告実施品(内型枠)を販売しているが,その際,いずれも外型枠と合わせて仕入れ,これを合わせて販売したことが認められる。上記販売における,外型枠と内型枠との価格内訳は明らかではなく,仕入れに際しては,資材の重量によって価格が決まることからすれば,上記価格の内訳は,外型枠と内型枠の重量比(内型枠は全体の4分の3)によって推計することが相当であり(甲56,57),内型枠の仕入価格は,仕入価格全体の4分の3であるから,販売価格も同様,販売価格全体の4分の3であると推計することとする。また,上記販売は,バイバック方式といい,後に原告が買い戻すことが予定されているものであり,その買戻価格は,常に当初の販売価格の●●●であり,納入先からは,上記買戻価格を予\め控除した残額の支払を受けていたことが認められる(甲54。以下,便宜上,上記控除後の金額を「販売価格)という。)。以上を踏まえ,証拠(甲54〜56,甲58の1・2,甲59の1〜5)及び弁論の全趣旨によると,内型枠1台当たりの売上額は,●●●●●●●●●円であると認められる。ところで,被告は,わずかな費用の加工費用で再度販売(バイバック方式)される場合であるにもかかわらず,原告の主張する●●●●●円という価格で,再販売品を購入する顧客はいないと主張する。しかし,上述したとおり,原告は,4回に渡り原告実施品を販売しており,その販売価格に多少のばらつきはあるものの,ほぼ一定していることが窺える。また,上記販売価格(平均●●●●●●●●●円)は,被告が被告製品1を賃貸した際の売上額(真柄建設に対する賃料:●●●●●円,奥村組に対する賃料:●●●●●円)とそれほど大きな違いはない。たしかに,仕入価格については,別紙計算表のとおり,祝園貯蔵庫工事における4回の販売の間でも,相当大きな変動が認められるものの,販売価格としてはある程度一定していると考える方が自然である。加工費如何によっては,利益率が大きく変動するものの,そのような販売形態があっても不思議ではなく,上記算定を左右するに足りる事情は見いだせない。
(イ)経費額
既に前記(ア)で述べたとおり,経費についても,売上額と同様の推計をすべきところ,証拠(甲54〜56,甲58の3・4,甲59の6〜9)及び弁論の全趣旨によると,原告実施品を製造するのに要した費用(仕入価格)は,別紙計算表のとおり,原告実施品(内型枠)1台当たり,●●●●●●●●円であると認めることができる。また,証拠(甲54〜56)及び弁論の全趣旨によると,営業経費についても,別紙計算表\のとおり,1台当たり●●●円であると認めることができる。
(ウ)原告実施品1台当たりの利益額
原告実施品の1台当たりの利益額は●●●●●●●●●円であったと認めることができる。
イ 実施能力及び寄与率
(ア)実施能力
被告は,原告が原告実施品と同じ型枠を2台しか保有しておらず,4件の工事に携わっていた当時,被告の顧客に販売する能力はなかった旨主張する。しかし,2台の保有により,4件の工事に提供していることからも,被告が被告製品1を賃貸した当時,上記保有の原告実施品を提供できなかったことを認めるに足りる証拠はなく,また,上記の事情のみにより,原告実施品と同等の製品を製造,販売する能\力がなかったともいえない。
(イ)顧客吸引力
被告はトンネル建設機械の分野において高いシェアを有していることが認められる(弁論の全趣旨)。建設機械の受注に際し,シェアなど,それまでの実績は,重要な要素となり得るが,それのみによって,契約の成否が決まるものではない。
(ウ) 発注の経緯
被告は,真柄建設にしても奥村組にしても,被告の納入する内型枠に原告特許発明1の技術を採用するか否かは,受注時には決まっておらず,真柄建設からは,受注後,上記技術の採用を依頼されたと主張する。しかし,被告自身,真柄建設から原告特許発明1(上記受注時には,原告特許1は登録されている。)の使用を依頼されたと述べており,しかも,それまでは,被告の納入する内型枠に原告特許発明1の技術が用いられることはなかったにもかかわらず,奥村組に対して販売した被告製品1にも同様の構成がとられていたことを併せ考えると,原告特許発明1が,受注に影響していないということは困難である。以上によると,被告の主張する発注の経緯にもかかわらず,原告特許発明1の採用と発注との関係を否定することはできず,むしろ,真柄建設からわざわざ原告特許発明1の実施を依頼されたということは,上記発明の寄与率が小さくないことを表\しているというべきである。
(エ) 従来工法との違い
証拠(甲53)及び弁論の全趣旨によると,従来,内型枠の外側で鉄筋の組立作業を行うにあたり,施工長さの短い工事では,足場を組み,施工長さの長い工事では,門型を利用して鉄筋組立作業を行っていた。これに対し,原告特許発明1を実施した内型枠では,足場を下から組み立てる必要や別途門型を製造する必要は原則としてなく,工期も短縮でき,その結果,コストを削減できることが窺える。もっとも,原告特許発明1を実施したからといって,内型枠の全てをカバーできるわけではなく,足場を下から組む必要が生じる可能性を否定できない。
(オ) まとめ
以上を総合すると,前記ア(ウ)の利益のうち,原告特許発明1の使用と相当因果関係のある利益は●●●であると認めるのが相当である。
ウ 小括
以上によると,被告が被告製品1を少なくとも2台賃貸したことにより,原告に与えた損害は636万9375円と算定するのが相当である。
◆判決本文
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2012.04. 3
平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月22日 知的財産高等裁判所
切り餅事件について、特102条2項により求めた利益のうち、寄与度を15%として損害8億と認定されました。被告は、2012/4/3に、「上告した」との発表をしています。和解段階で、代理人が変わったりしたようです。
被告は,被告製品について,i)平成15年9月ころから「サトウの切り餅パリッとスリット」との名称で販売し,切餅の上下面及び側面に切り込みが入り,ふっくら焼けることを積極的に宣伝・広告において強調していること,ii)平成17年ころから,切り込みを入れた包装餅が消費者にも広く知られるようになり,売上増加の一因となるようになったこと,iii)平成22年度からは包装餅のほぼ全部を切り込み入りとしたことが認められ,これらを総合すると,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,切り込みによりうまく焼けることが,消費者が被告製品(別紙物件目録1ないし5)を選択することに結びつき,売上げの増加に相当程度寄与していると解される(甲4,21〜26,43,51,56の1〜22,甲60〜63,乙152,153,164〜167)。上記のとおり被告製品(別紙物件目録1ないし5)における侵害部分の価値ないし重要度,顧客吸引力,消費者の選択購入の動機等を考慮すると,被告が被告製品(別紙物件目録1ないし5)の販売によって得た利益において,本件特許が寄与した割合は15%と認めるのが相当である。
・・・・
当裁判所は,被告代理人らが,控訴審の口頭弁論終結段階になって選任され,限られた時間的制約の中で,精力的に,記録及び事実関係を精査し,新たな観点からの審理,判断を要請した点を理解しないわけではなく,その努力に敬意を表するものである。しかし,特許権侵害訴訟は,ビジネスに関連した経済訴訟であり,迅速な紛争解決が,とりわけ重視されている訴訟類型であること,当裁判所は,原告と被告(解任前の被告訴訟代理人)から,進行についての意見聴取をし,審理方針を伝えた上で進行したことなど,一切の事情を考慮するならば,最終の口頭弁論期日において,新たな審理を開始することは,妥当でないと判断した。\n
◆判決本文
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2012.03.31
平成21(ワ)15096 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属するとして、102条2項に基づき1億を超える損害が認められました。
原告は,被告物件の構成を上記第3の1【原告の主張】(1)のとおり主張し,他方,被告は,これを同【被告の主張】(1)のとおり主張しているが,被告物件の縦断面図が,別紙被告物件説明書図2のとおりであることは当事者間に争いがない。したがって,被告物件の構成についての当事者の主張の違いは,被告物件の客観的構\成に争いがあることによるものではなく,同じ構成を異なる表\現を用いて記述するものと認められる。そして,後記(2)のとおり,被告物件が本件特許発明の構成要件A,C,Dを充足することは当事者間に争いがないから,結局,構\成要件Bに対応する構成bの特定のみを検討すれば足りるところ,構\成bについての当事者の主張の違いは,炉内に挿入されている炉内ヒータ(発熱体)の上側部分(発熱しない部分)の構成(このような構\成があることは争いがない。)について,被告主張のように「端部(天井の差し込み部及び天井への差し込み部から連続する発熱しない部分)」として記述すべきか否かという点にのみあると認められる(なお,当裁判所は,構成bについての被告の主張を前提としても,被告物件は構\成要件Bを充足すると判断することから,後記(2)イにおいて,被告物件の構成に係る被告の主張を前提に検討する。)。
・・・・
被告は,構成要件Bの「鉛直方向に沿って異なる複数の部位を設定し,前記異なる複数の部位のいずれかを発熱部とした」については,本件明細書に記載された従来技術である【図6】の炉内ヒータを除外して解釈すべきであるから,「端部(天井への差し込み部及び天井への差し込み部から連続する発熱しない部分)を除いた部分に対し,鉛直方向に沿って異なる複数の部位を設定し,前記異なる複数の部位のいずれかを発熱部とした」と解釈すべきと主張する。しかしながら,上記(ウ)のとおり,「鉛直方向に沿って異なる複数の部位を設定し,前記異なる複数の部位のいずれかを発熱部とした」とは,熱処理空間内におけるヒータの配設態様のことと解釈されることからすれば,そもそも,天井への差し込み部の構成は,本件特許発明の技術的範囲を検討する上で考慮する必要がない。
・・・
したがって,ヒータの構成について,天井への差し込み部から連続する発熱しない部分(端部)を除いた部分という限定を付する被告の主張は採用できない。\n
◆判決本文
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2011.09.22
平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件 平成23年09月15日 大阪地方裁判所
意匠権侵害が認定されました。いわゆる100均で販売された場合の損害額の認定で販売不可事情も認定されました。
(ア) 被告商品の価格について
被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。
(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソ\ーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソ\ーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソ\ーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(ウ) 競合品について
資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(エ) 本件意匠の寄与度について
原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能\よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。
(オ) 結論
これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。
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2011.08.30
平成20(ワ)831 特許権侵害差止等請求事件 平成23年08月26日 東京地方裁判所
計算鑑定人により102条2項による損害額が認定されました。また、寄与率については100%とされました。
特許法102条2項所定の「その者がその侵害の行為により利益を受けているときは」にいう「利益」とは,侵害品の売上高から侵害品の製造又は販売と相当因果関係のある費用を控除した利益(限界利益)をいい,ここで控除の対象とすべき費用は,侵害品の製造又は販売に直接必要な変動費及び個別固定費をいうものと解するのが相当である。本件計算鑑定は,被告各製品の製造及び販売に直接必要な変動費及び個別固定費につき次のaないしeのとおり,変動費の減少項目につき次のfのとおりそれぞれ認定・判断した上で,平成19年9月1日から平成21年9月30日までの期間における被告各製品の売上高(前記ア(ア))から控除すべき費用の合計額を3億7470万6005円,限界利益の合計額を2869万7562円と算定した(本件計算鑑定書添付の別紙1参照)。上記aないしeの費用について,本件計算鑑定は,被告が製造及び販売する猫砂全製品において被告各製品の占める割合(aにつき販売リッター数に占める割合,bないしeにつき製造リッター数に占める割合)で按分して算出している(本件計算鑑定書の「VII対象品の計算根拠と変動費の範囲について」(8頁),本件計算鑑定書添付の別紙7及び8参照)。
・・・・
これに対し原告は,i)本件計算鑑定書添付の別紙9によれば,経費の内容には,変動費3億3364万2241円のみならず,個別固定費5457万8946円も含まれているが,本件計算鑑定は,被告の製造する猫砂は,パッケージが違ったとしても,すべて同じ構造の製品で「生産工程,機械,人員」もすべて同じであること,25期(平成21年5月〜平成21年9月)における被告の全製品に対する被告各製品の販売割合が15.5%(本件計算鑑定書添付の別紙8)であることを前提に鑑定をしていることからすれば,被告各製品のためだけに被告ないしその特定の工場の製造ラインが使用されているわけではないのであるから,個別固定費はそもそも控除されるべきではない,ii)個別固定費のうち減価償却費として控除されている2647万2548円(本件計算鑑定書添付の別紙9)は,四国工場の費用を「全額」費用計上したのであるとすれば,被告各製品の販売割合が15.5%(四国工場内でも16.9%)しかない以上,明確な誤りである,iii)本件計算鑑定では,売上げはバルクで計算するのに対し,包装機械は減価償却費,人件費は加工費として経費に含めているが,これも過剰な経費計上である旨主張する。しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。・・・
・・・被告各製品は,他の猫砂(甲8)と比較して,吸尿によって変色し,それによって使用部分と未使用部分を視覚的に容易に判別することができる構成となっている点を重要なセールスポイントとしていることが認められる。そして,そのようなセールスポイントは,本件発明の構\\成によるものであるから,被告各製品の商品としての主たる価値は,本件発明からもたらされるものと評価できる。これに対し被告は,被告各製品と同等の原告製品は,被告各製品の1.5倍程度の価格で販売されており,被告各製品の主たる販売要因は,その価格競争力にある旨主張するが,本件においては,被告各製品の仕入値が原告製品に比して低いことを裏付けるに足りる客観的な証拠は提出されていないのみならず,仮に被告各製品の価格が同等の原告製品より低かったとしても,そのような価格は本件特許を無許諾で実施した結果形成されたものというべきであるから,本件発明の寄与率に影響するものとは認められない。以上のとおり,乙35ないし乙39の各特許の請求項1に係る各発明は,いずれもその構成において,原材料である廃材粉や粉砕物の「粒度」を規定しているところ,本件においては,被告各製品の原材料の粒度を具体的に特定するに足りる証拠は提出されていないことからすると,被告各製品が上記各発明を実施しているかどうかは定かでないといわざるを得ない。また,仮にこれらの発明が被告各製品に実施されているとしても,そのことが被告各製品の重要なセールスポイントとなるなど,被告各製品の販売に具体的に寄与していることを認めるに足りる証拠はない。(ウ) 小括以上のとおり,被告各製品のセールスポイントは,本件発明の構成によるものであり,被告各製品の商品としての主たる価値は,本件発明からもたらされるものといえるから,本件発明の寄与率は,100%と認めるのが相当である。\n
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2011.06.14
平成19(ワ)5015 特許権侵害差止等請求事件 平成23年06月09日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定。損害賠償について寄与率も認定。期間を分割して102条1〜3項による損害額が認められました。
ウ そこで,被告各物件における本件各特許発明が売上に与えた寄与率を検討する。
(ア) 裏異物検出機能の意義証拠(甲26,57)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。近時,コンビニエンスストアなどでおにぎりが多く売れるようになり,海苔の需要が高まるとともに,厳しい品質管理が求められるようになった。海苔の場合は,異物の混入の有無が品質にも大きく影響し,その検出が重要な課題となっており,また,そのための装置が開発されてきた。そして,原告製品1,2及び被告各物件は,いずれも,乾海苔を一度くぐらせるだけで,その表\面,中,裏面の異物を検出することができる機能を有しており,これが同時にできないと,同じ作業を繰り返す必要があり,検出作業に要する手間や時間が増える(仮に,1台の機械をもって検出作業をするのであれば,2倍近い時間がかかる。2台〔2種類〕の機械を同時に使用する場合は,同様の時間を要することはないが,検出機の購入代金が割高になることが予\想されることのほか,2台分の設置場所や,検出機から排出された乾海苔を,改めて別の検出機にセットする手間を要する。)。したがって,表面や中だけでなく,裏面の異物検出機能\を有し,1回の搬送で検出を終えることのできる機能は,海苔異物検出機の販売に際し,大きな貢献を果たしているというべきである。
(イ) 本件各特許発明と代替技術本件明細書によると,本件各特許発明の出願以前の海苔の異物検出に関する従来技術として,目視に頼るか,上下のローラーで挟んでその厚みにより異物を検出する方法が記載されている。しかし,その一方で,次に述べるとおり,海苔の異物を検出する機能を有した装置自体は,開発がすすみ,普及していったことが窺われる。被告各物件においても,裏面検出機能\のほか,表面検出機能\と中検出機能を具備しているところ,中検出は検出対象物が違うものの,少なくとも表\面検出機能については,その機能\において違いがあるわけではない(前述したとおり,裏返しした上での検出が議論されているが,そもそも,そのような検出方法が不可能であることを前提とした議論はされていない。)。
・・・
オ 以上を総合すると,被告物件1の後期型の販売における寄与率は20%,被告物件2の販売における寄与率は25%と認めるのが相当である。
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2011.02. 7
平成20(ワ)36814 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成23年01月20日 東京地方裁判所
特102条1項による損害賠償が認められました。
(イ) 証拠(甲28〜38,40〜43。枝番号のある書証は,枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年度から平成21年度までの間に販売された原告製品の1台当たり限界利益(原告製品の売上高から,材料費(原告製品の材料に関する経費),消耗材料費(出荷前検査に要する試薬等の消耗される材料に関する経費)及び外注加工費(原告製品の組立てを外注委託する場合の加工賃等)を控除した金額。)は,別紙算定表記載のとおり,原告製品3000につき●(省略)●円であり,原告製品3000Sにつき●(省略)●円であると認められる。上記認定の利益額について,その合理性を疑わせるに足りる証拠はない。したがって,以下の計算式のとおり,原告製品17台の販売利益合計1億3578万2389円から原告製品1台当たりの物流関係変動経費(旅費交通費,運送費,配達費,燃料費及び宿泊費)である11万7000円の17台分である198万9000円を控除した1億3379万3389円が,原告製品の限界利益となる。\n
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2010.04. 5
平成17(ワ)26473 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月26日 東京地方裁判所
ゴルフボールの特許について、10億を超える損害賠償が認められました。
(ア) 特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする旨規定している。被告は,本件においては,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないこと,原告各製品の市場におけるマーケットシェアを超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきであること,被告の営業努力,ブランド力及び販売力などの事情が存在し,これらの事情は,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」に該当するので,上記事情に相当する数量に応じた額を原告主張の損害額から控除すべきである旨主張する。・・・・以上・・事情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」があったものと認めるのが相当である。したがって,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。(イ)a これに対し被告は,原告各製品(5種類)が特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」であることを前提に,その「単位数量当たりの利益の額」を基に損害額を算定する以上,同項ただし書の「販売することができないとする事情」としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮する際には,上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきであり,当該市場占有率を超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきである旨主張する。しかし,i)ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は,市場占有率に反映されているといえるが,それを適切に評価するためには,ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると考えられること,ii)本件においては,原告各製品と競合する他社メーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされていないなど,被告各製品の譲渡数量のうち,原告各製品の市場占有率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できることを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば,被告の上記主張は採用することができない。b また,被告は,原告各製品及び被告各製品の販売において,本件訂正発明の対象である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされておらず,本件訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製品の購買の動機付けとなることはあり得ないから,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないことを,原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべきである旨主張する。しかし,前記(ア)b認定のとおり,ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能\,スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが,一般のユーザーはゴルフボールの性能\を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれることに照らすならば,原告各製品及び被告各製品の販売において本件訂正発明の対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないことを,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量を原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべき余地はないというべきである。
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2010.02.12
平成19(ワ)2076 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年01月28日 大阪地方裁判所
特許権侵害事件について、102条2項における推定の覆滅が否定され、約15億の損害賠償が認められました。
被告は,原被告以外の製造業者としてアンリツがあり,アンリツは被告と同程度を販売していたのであるから,被告物件の販売数のすべてを原告が販売することができたという関係にないと主張する。確かに,証拠(乙196,197)によれば,アンリツが,本件特許権の存続期間中,複数のホッパを有する自動電子計量機を製造販売していたこと,平成17年5月に作成されたアンリツの自動電子計量機「クリーンマルチスケール」のカタログには「高速度ダイレクトシャッタで,シャッタ開閉時間を1/2に短縮。しかも速度制御が可能。信頼性のあるステッピングモータを使用のため高寿命を実現いたしました。」などの記載があることが認められる。しかし,アンリツ製の自動電子計量機が,ステッピングモータを採用しており,シャッタ(ゲート)の開閉速度を制御することが可能\\であるとしても,被告物件のようにきめ細かにゲートの開閉制御を行うことができる機能を具備しているかは不明であり,被告物件の代替品といえるものかは明らかでない上,被告は,アンリツが自動電子計量機をどの程度販売していたのかについて何ら立証していないのであるから(なお,被告は,原告と被告が計量装置のシェアを2分する企業であるとの主張もしており,このことからすれば,原被告に比べればアンリツの自動電子計量機の販売数が相当多かったとはいえない,被告物件が販売さ。) れていなかったと仮定した場合に,被告物件を購入していた顧客が,被告物件の代替品としてアンリツ製の自動電子計量機をどの程度購入していたのかは全く不明というほかない。したがって,本件においては,特許法102条2項本文による原告の損害額の推定を覆滅するに足りる事実が具体的に立証されているとはいえないから,上記(3)で算出した原告の損害額を減額するのは相当でない。
◆判決本文
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2009.01.22
◆平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年04月19日 大阪地方裁判所
1年以上前の判決ですが、特許法102条3項に基づく判決なのであげておきます。
原告は、特許法102条1項ただし書が適用された結果,販売できないと認定された分について,同条3項の実施料相当額が認められるべきだと主張しました。しかし、裁判所は、マッサージ器事件
◆(平成17(ネ)10047)と同様に、これを否定しました。
「特許法102条1項は,特許権者が被った販売減少等による逸失利益相当の損害の額に関する特則であり,逸失利益相当の損害額を算定するという民法709条の原則を超えた保護を特許権者に付与するための特則ではないと解すべきである。そして,特許法102条1項は,侵害品が販売されなかったとすれば特許権者が得ることができた販売機会に応じて逸失利益を算定することを認めた規定であり,そのただし書において,侵害行為と損害との因果関係を否定すべき事情を考慮することとしているものである。これに対し,同条3項は,当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるところ,同条1項ただし書に基づいて損害と相当因果関係がないと認められた侵害品の販売数量に基づいて実施料相当額を損害として算定したのでは,権利者が被った逸失利益相当の損害を超える額の損害の賠償を認めることとなるから相当ではない。よって,原告の特許法102条3項に基づく請求は理由がない。」
◆平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年04月19日 大阪地方裁判所
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2007.02.20
◆平成17(ワ)6346 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月15日 東京地方裁判所
裁判所は、実施料率については、0.7%と認定しました。
「本件特許発明は,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではなく,構\成要件A及びBの構造を有する紙おむつにおいて前後漏れ防止を確実に達成できるとともに,着用感に優れた使い捨て紙おむつを提供することを目的とするものである。そして,その作用効果は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断される被告製品についてなされた前記の各実験からみても,前後漏れ防止について極めて顕著な効果を奏するものとは言い難いものである。そして,本件特許発明は進歩性を有するものの,既に述べたとおり,これと類似した構\造を有する特許発明が出願時に複数存在していたこと,及び,本件特許発明の対象である紙おむつは廉価で(乙93,95),大量に消費される商品であり,本件特許発明が紙おむつに使用される複数の技術の一つにすぎないことからしても,本件特許発明の実施料率は比較的低いものと認定されてもやむを得ないものである。・・・・以上の諸事情を考慮すれば,本件特許発明の実施料率は0.7%をもって相当と認める。」
◆平成17(ワ)6346 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月15日 東京地方裁判所
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2006.09.27
◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所
均等論に基づく侵害が認定されました。また、損害額については、販売不可事情が考慮され、102条1項の対象となったのは、販売数量の1%と判断されました。ちなみに、残り99%についての102条3項の実施料相当額の請求は認められませんでした。
「前記判示のとおり,本件発明5は,「従来のものにおいては,マッサージ中は身体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では満足のいくものではないという問題があった。」(段落【0003】)ことを踏まえ,この技術課題を解決するために,座部用袋体と脚用袋体への圧搾空気の供給を同期させ,膨脹した脚用袋体によって両側から脚部を挟持しつつ,座部用袋体を膨脹させて使用者の身体を押し上げることにより,腿部及び尻部をストレッチ及びマッサージするものであると認められる。本件発明5の上述した課題,構成,作用効果に照らすと,本件発明5の本質的部分は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することにより,脚用袋体によって脚部を両側から挟持した状態で,座部用袋体を膨脹させ,脚部及び尻部のストレッチ及びマッサージを可能\にした点にあるというべきであり,そのために必要な構成要素として,空気袋を膨脹させて使用者の各脚を両側から挟持するという構\成には特徴が認められるとしても,使用者の各脚を挟持するための手段として,脚載置部の側壁の両側に空気袋を配設するのか,片側のみに空気袋を配設し,他方にはチップウレタン等の緩衝材を配設するのかという点は,発明を特徴付ける本質的部分ではないというべきである。」
「以上のとおり,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することによるストレッチ又はマッサージ効果にあるところ,本件では,?@本件発明5の機能は,控訴人各製品の一部の動作モードを選択した場合に初めて発現するものであること,?A本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであること,?B控訴人製品のパンフレットや被控訴人製品のパンフレットにおいても,本件発明5に係る作用は,ほとんど紹介されていないこと,?C本件特許5の設定登録当時,被控訴人の市場占有率は数%にすぎず,椅子式マッサージ機の市場には有力な競業者が存在したこと,?D控訴人製品は,もみ玉によるマッサージとエアバッグによるマッサージを併用する機能や,光センサーによりツボを自動検索する機能\など,本件発明5とは異なる特徴的な機能を備えており,これらの機能\を重視して消費者は控訴人製品を選択したと考えられること,?E被控訴人製品はエアーバッグによるマッサージ方式であり,その市場競争力は必ずしも強いものではなく,被控訴人の製品販売力も限定的であったなどの事情が認められる。これらの事情を総合考慮すれば,控訴人各製品の譲渡数量のうち,被控訴人が販売することができなかったと認められる数量を控除した数量は,いずれの控訴人製品についても,上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である。・・・・ 被控訴人は,仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人によって販売できないとされた分(99%)については,特許法102条3項の実施料相当額として販売額の5%が損害として認められるべきであると主張する。しかしながら,特許法102条1項は,特許侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに対し,特許法102条3項は当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれが前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権者によって販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請求しうる逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認することになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。」
◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所
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2005.09. 8
◆H17. 9. 5 大阪地裁 平成16(ワ)2398等 商標権 民事訴訟事件
特許の事件ではありません、ブランド商標を付与した商品を安売りしていた場合の損害額が争われました。裁判所は、38条3項の額の基準は侵害者の上代を基準とするべきであるとの判断をしました。なお、本件は債務不存在確認訴訟を本訴とする反訴事件ですので、本文中、被告とは商標権者、原告とは侵害者のことです。
「一方で商標についての一般的な使用料率を考慮し,他方で上記のような本件での特殊事情を考慮し,加えて前記のような被告の商品と本件商品との上代価格の差を考慮した場合,本件における「本件商標の使用に対し被告が受けるべき金銭の額」(商標法38条3項)としては,原告による本件商品の売上額の7%をもってするのが相当である。」
◆H17. 9. 5 大阪地裁 平成16(ワ)2398等 商標権 民事訴訟事件
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2005.04.12
◆H17. 4. 8 東京地裁 平成15(ワ)3552 特許権 民事訴訟事件
侵害訴訟にて、要旨変更か否か、実施料率、無効理由などいくつかの争点が争われました。
要旨変更について、裁判所は「前記イのとおりの当初明細書の記載及び当初明細書の第4図からすると,突片7A3,7A4ないし連結片75が,保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片に相当する。したがって,「アース用外部端子」との文言こそ記載されていないものの,前記イの記載の意味するところは,本件発明の構成要件Eの「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」と同一であるということができる。したがって,・・・とする補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内であると認められるから,明細書の要旨を変更しないものとみなされる(平成6年法律第116号による改正前の特許法41条)。」と認定しました。
◆H17. 4. 8 東京地裁 平成15(ワ)3552 特許権 民事訴訟事件
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2005.04. 6
◆H17. 3.29 大阪高裁 平成16(ネ)648 特許権 民事訴訟事件
控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が控訴人を相手取り特許権に基づく差止請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをし、仮処分命令を得てその執行をした後に、上記特許権に係る特許を無効とする審決が確定したため、違法な仮処分命令の執行により損害を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めました。
原審は、「被控訴人には仮処分命令を得てその執行をしたことについて過失がなく、不当利得も成立しない」として、控訴人の請求を棄却しましたが、大阪高裁は、原判決を変更しました。
興味深いのは、693万円のうち、143万円が損害で、残りは弁護士費用等だということです。
◆H17. 3.29 大阪高裁 平成16(ネ)648 特許権 民事訴訟事件
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2005.02.14
◆H17. 2.10 大阪地裁 平成15(ワ)4726 実用新案権 民事訴訟事件
無償譲渡した分の数量についても実29条1項(特102条1項:原告の利益)による損害が認定できるかが争われました。
裁判所は、「被告が被告物件を譲渡したことによる損害を、実用新案法29条1項により算定するにあたっては、無償での譲渡数のうち4352個分に相当する額を控除すべきであるが、この分についても、被告は被告物件を譲渡したことによって本件実用新案権を侵害したものであるから、これにより原告に損害が生じているというべきである。そして、この分の損害については、同条3項により算定すべきものである(後記イ)。」と、判断しました。
◆H17. 2.10 大阪地裁 平成15(ワ)4726 実用新案権 民事訴訟事件
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2004.03.25
◆H16. 3.23 東京高裁 平成14(行ケ)459 特許権 行政訴訟事件
特許第3014572号について無効でないとした審決を取り消しました。判断について特質すべき点はないように思えますが、昨年の4月9日になされた計15億の損害賠償事件の対象となった特許の1つです。損害賠償の総額に影響があるかもしれません。
以下が損害賠償事件です。
">◆H15. 3.26 東京地裁 平成13(ワ)3485 特許権 民事訴訟事件
◆H16. 3.23 東京高裁 平成14(行ケ)459 特許権 行政訴訟事件
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2003.04.25
◆H15. 4.22 大阪地裁 平成14(ワ)3309 商標権 民事訴訟事件
損害賠償が7200万くらい認められましたが、そのうちの1割弱が弁護士費用です。これは多いんでしょうか?、少ないんでしょうか?
「弁護士費用は、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、660万円をもって相当と認める。したがって、原告の総損害額は、7273万1868円となる。」と判断しました。
◆H15. 4.22 大阪地裁 平成14(ワ)3309 商標権 民事訴訟事件
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2003.04. 9
◆H15. 3.26 東京地裁 平成13(ワ)3485 特許権 民事訴訟事件
約15億の損害賠償が認められた案件です。最後の付言を見る限り、裁判官の心証はよくなかったんでしょうね。
裁判所は、「・・・原告は,被告に対して,平成11年9月30日,本件発明1ないし4を含む合計11個の公開公報を同封した書面で警告を発した。次いで,原告は,同年12月10日に本件発明1,3及び4について,設定登録を受けた。
しかるに,被告は,被告製品1の製造,販売を継続し,被告製品2の製造,販売を開始した。ところで,被告各製品の構成を仔細に検討すると,被告各製品は,本件各発明への依拠,模倣の程度が極めて高く,被告において,本件各特許権の侵害を回避するための技術的な工夫をした形跡が全く窺えない。・・・変更後の各製品を検討しても,本件各特許権の侵害を回避するための十\分な工夫がされた様子がみられない。・・・およそ,1つの対象製品が同時に4個の特許権を侵害していることは,あまり例がなく,また,4種の対象製品が延べ合計11個の特許権を侵害していることも,やはり異例といえる。・・・製品を製造,販売する者が,製造,販売に先立って,法的ないし技術的な観点から問題点を解消させるための適宜の措置を採るべきであるが,被告は,そのようなことを行うこともなく,漫然と被告製品の製造,販売を継続していたのであって,このような態度は,他者の権利を尊重し,法を遵守し,法的な手続に沿って紛争を解決する立場から大きく離れているといえる。被告は,本件口頭弁論を終結した後においても,本件特許5が発明として成り立たないことを示す証拠を新たに発見したとして,口頭弁論の再開を申し立てているが,このような訴訟活動も,迅速な紛争解決を阻害する行為であるといえよう。」と述べました。
◆H15. 3.26 東京地裁 平成13(ワ)3485 特許権 民事訴訟事件
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