2024.11.19
令和4(ワ)3344 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 大阪地方裁判所
薬の製法特許の侵害として、102条1項1号の特定数量について、同項2号が適用され、計約31億円の損害賠償が認められました。
被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないもので
あることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これま\nで毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関
における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。
前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬
剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができ
るというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるよう
になったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手
段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していない\nし、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものでは\nなく、採用できない。
一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことに
より、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法 用量や効能の\n点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限
界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅
が認められるというべきである。
・・・
原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定
数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該
数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できる
ようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回
らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患
者にとって負担が軽い用法 用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされる
ことなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。
本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供
給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者に
とって負担が軽い用法 用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペ
プチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、
現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本
件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨
をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。
◆判決本文
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2024.09.16
令和5(ネ)10053 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)
マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。
(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権
者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、
同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和
元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)
はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している
ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に
発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と
して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極
大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、
特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式
の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ
とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で
ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ
ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として
持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ
り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ
は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに
よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ
とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し
ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平
成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び
指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価
することができる。
したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ
ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原
告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利
行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ
うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利
行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本
件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ
いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで
あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ
とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、
グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明
瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純
粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が
多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で
あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し
た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業
からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成
績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい
る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及
び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価
することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許
権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す
ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ
ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ
る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな
るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵
害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ
て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法
102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本
件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録
を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と
代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一
定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた
めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい
て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献
は乏しいとの主張について
証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし
てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被
告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ
のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値
か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売
買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、
手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし
て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ
スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ
ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長
期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」
などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス
ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ
るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に
は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。
以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと
認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上
げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審
被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により
1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各
発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか
ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ
ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ
ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄
与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用
動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与
割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と
の間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法
102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する
合計●●●●●●●●●円と認められる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)17104
関連の侵害事件です(当事者が同じ)
◆平成29(ネ)10073
原審
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
◆判決本文
1審はこちらです
◆平成30(ワ)28930
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2024.06. 9
令和5(ネ)10037 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。
(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を
請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、
侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法
102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し
その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵
害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害
の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結
果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者
が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と
推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1
02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年
2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元
年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別
部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、
原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用
いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも
のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという
ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、
侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原
告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな
い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお
いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益
全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する
合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限
界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン
は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数
の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど
の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情
はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので
あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような
要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって
本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理
的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は
採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適
用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ
とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること
はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお
いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと
いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の
ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年
8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決
の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して
いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の
特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに
足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定
の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別
件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製
品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟
の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、
965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特
許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、
損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正
法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない
から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定
ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益
の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲
渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ
とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の
立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規
定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31
年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が
なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数
量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特
許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、
特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権
者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ
とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製
造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも
のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である
原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ
る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す
るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを
販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。
そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B)
のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●●
●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当
たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界
利益は4億1280万円となる。
なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物
であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を
用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件
各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい
てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低
追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込
んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも
のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売
していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認
めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万
円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害
額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た
りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施
料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数
量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損
害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する
ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾
をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施
料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで
きない。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成30(ワ)28931
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2023.09. 5
令和2(ワ)17104 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月16日 東京地方裁判所
漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。
ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF
X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引
回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入
及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。
そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の
全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す
る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に
より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた
め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取
引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る
被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利
益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす
るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注
文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX
取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定
時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金
融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以
上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に
係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額
算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び
トレーディング損益であると認めるのが相当である。
これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い
た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵
害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、
当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ
ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と
の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損
益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。
そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被
告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ
る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず
れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。)
2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引
(以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取
引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を
生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず
れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額
算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ
れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と
する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る
実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基
礎から除外するのが相当である。
なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被
告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、
取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め
られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた
取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、
被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、
相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること
が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買
い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ
ることを意図するのといえる。
これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取
引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な
るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相
場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し
たものであったことが認められる。
これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項
に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると
するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果
としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取
引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、
消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日
までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で
あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引
数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で
あることが認められる。
そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる
「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で
ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において
は、●(省略)●ことが認められる。
しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。
そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日
より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完
全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。
これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上
記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。
他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ
る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在
り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率
に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料
率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように
した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続
で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売
り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を
受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格
だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ
て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文
価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\
成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取
引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより
多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を
有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ
ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注
し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動
に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続
注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が
あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注
文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること
を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。
弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間
(平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧
客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買
い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する
取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報
の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ
ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引
のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも
のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの
貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3
1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5
月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6
月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること
になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告
による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは
できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として
の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子
会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること
が認められる。
そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完
全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ
るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、
その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に
現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な
料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め
るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、
●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。
◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。
◆平成29(ネ)10073
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2023.04.11
平成30(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月20日 大阪地方裁判所
102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。
◆本件特許
(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス
ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の
1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売
するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ
たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、
価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である
と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より
も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品
に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含
まれるといえる。
したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品
と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原
告が販売することができない事情に該当するといえる。
もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場
内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2
5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲
得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて
おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由
とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え
て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維
長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット
ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、
4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各
特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。
また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1)
少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて
おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。
原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味
でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その
ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す
るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告
が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に
ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及
び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告
製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、
本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ
る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告
製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト
タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること
は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略)
●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。
被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する
と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在
するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す
るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販
売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売
価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及
び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で
あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1
−1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2
−2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3
−2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ
ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製
品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。
同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定
需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を
見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の
407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)●
枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製
品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定
の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ
イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品
の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ
ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで
はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売
することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由
として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営
業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買
動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘
案しても、このような事情には該当しない。
カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度
被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す
る本件発明の寄与度が零であると主張する。
しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作
用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主
張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に
身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属
しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす
る事情に該当と主張する。
しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発
明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、
被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合
があることをもって販売することができない事情が存すると解することは
相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を
有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格
であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め
られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全
体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し
受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。
なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく
訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する
「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく
は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号
に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。
しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の
喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で
あるとは認められない。
◆判決本文
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2022.05. 5
平成30(ネ)10034 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。
上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙
14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験)
の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物)
の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴
下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4
9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第
3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を
滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲
33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば
抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被
告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと
いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ
ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結
果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、
圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、
上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験
及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング)
を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全
に抑制されていることが認められる。
そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部
に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の
流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。
したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと
おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、
同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり
であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真
1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録
の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決
第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。
そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ
においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」
は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作
動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで
上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ
るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す
ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品
におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分
(ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので
あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要
件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、
争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属
するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。
甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体
のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝
国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録)
の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975
件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平
成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし
て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効
回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密
機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値
3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告
書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ
イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い
ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平
成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ
や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする
が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で
は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件
発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を
塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の
2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気
(湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め
ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向
上するという効果を奏するものである。
これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量
制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ
る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ
うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止
のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替
技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要
性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。
そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を
含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目
として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が
挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお
ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得
ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被
控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業
関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実
施料率は2%程度であると認めるのが相当である。
ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共
有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める
に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され
る。
そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、
●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で
取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、
2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ
ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると
いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に
よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明
の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付
孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え
ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー
ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食
防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、
自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という
よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。
このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい
る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御
弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利
益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利
益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する
事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存
在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者
の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機
能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事
情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。
以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及
び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、
被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、
控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ
たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個
程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す
る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●●
●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認
められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2
について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか
販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は
理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販
売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ
ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては
全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控
訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する
ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。
しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、
本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが
できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の
ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由
がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴
人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や
信頼関係の存否等につき主張する。
そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●●
●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている
ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67)
の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比
較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告
製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。
また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社
及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等
の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品
に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい
る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景
には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と
●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。
さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製
品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●●
社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御
弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当
する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。
以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡
数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数
量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを
した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす
ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●●
●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠
はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、
侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ
れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ
れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲
渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又
は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と
異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相
当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない
とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被
控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信
頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある
と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該
特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許
諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧
書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら
れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと
を規定するものであると解される。
これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定
する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被
告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな
いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前
提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン
スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。
これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会
を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが
相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販
売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●●
●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ
た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率
は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の
共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。
以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人
の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者
間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。
ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1
項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵
害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事
情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に
相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵
害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)
等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ
れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ
るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上
記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の
侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的
に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判
決・判例時報2430号34頁以下参照)。
控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は
ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す
なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3)
原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製
品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、
営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に
つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切
って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で
有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●●
●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し
ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背
景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起
動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し
たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に
加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本
件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ
り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発
明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと
おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取
付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の
出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術)
が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは
重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。
被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情
を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前
記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中
において本件特許権を実施していない。
ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定
めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施
をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●●
●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証
拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応
じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害
賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな
い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず
請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい
ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102
条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ
るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を
実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利
益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る
特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害
として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許
権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、
侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に
より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその
立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、●
●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴
人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●●
●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること
ができない旨主張する。
しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●●
の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分
であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消
滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰
属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか
ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を
援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主
張は明らかに失当である。
もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求
権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ
とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重
払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ
スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害
により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当
とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害
により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前
記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張
するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●●
●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除
すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●●
●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し
ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する
余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に
より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、
同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による
損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額
は●●●●●円をもって相当と認める。
また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し
ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易
度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。
そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり
と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン
グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果
があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」
しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
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2022.04.10
平成30(ワ)4329等 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年3月18日 東京地方裁判所
二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。
◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。
被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製
品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販
売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現
在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す
る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3
0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製
品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。
また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の
販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成
用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原
告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める
に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、
マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ
れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食
い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは
ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、
前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被
告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば
頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。
以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ
とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着
型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ
る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか
にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、
商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼
を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売
数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の
被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ
ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.05.31
平成31(ワ)2675 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月18日 東京地方裁判所
吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。
以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要
者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹
矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購
入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は
令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理
由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に
向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹
矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告
製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな
い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として
令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する
ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合
で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。
◆判決本文
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2020.12.15
令和1(ワ)21183 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和2年12月3日 東京地方裁判所
仮差押申立事件において仮差し押さえられた部分について,商標権者に過失があるとして、その分の返還を認めました。前件訴訟では、種々の事情を考慮した上で商標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額を認定していました。\n
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人には過失が推定される。
これに対し,被告米国法人は,前件仮差押申立事件において,商標法38\n条1項において被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被
告米国法人と同視できる者が販売することができた商品も含むという理解を
前提として被保全債権額の主張をしたところ,事実関係や裁判例等から,そ
のような主張をしたことには相当な理由があるから被告米国法人には過失が
ない旨主張し,上記の事由から過失の推定が覆滅する旨主張する。
前件仮差押申立事件の申\立書において,被告米国法人は,被告米国法人が
被告商品を直販しているから,日本における推定小売価格の全額が被告米国
法人の利益となる旨主張していた(前記1(3))。
被告商品は,実際には,被告米国法人から,順に,MSオペレーション,
MSリージョナルセイルズ,被告日本法人に販売され,日本国内において,
被告日本法人により販売されていたのであるが,前件仮差押申立事件の申\立
書において,被告米国法人は,前記のとおりの主張をしており,被告商品を
日本において販売しているのが被告日本法人であることや,被告日本法人が
被告米国法人と同視することができることなどの主張はしていなかった。そ
して,取引の流れについて上記の主張をしていないだけでなく,被告米国法
人の販売後日本における販売までの間に独立の法人格を有する複数の法人が
介在している以上,前件仮差押申立事件の申\立人である被告米国法人の利益
はMSオペレーションに販売することによる利益であるのが原則であるのに,
特段の説明も一切なく,「直販」していることを挙げて日本における推定小
売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた。この主張は,
被告米国法人が自ら日本国内で販売していることを前提として主張していた
と解するほかはない。
これらからすると,前件仮差押申立事件の仮差押申\立書における被告米国
法人の主張は,実際の取引の流れを踏まえつつ,商標法38条1項において
被告米国法人が販売することができた商品には,規範的に被告米国法人と同
視できる者が販売することができた商品も含むという理解を前提にしてされ
たものとは認められない(なお,仮に,実際の取引の流れを踏まえて,上記
のような理解から仮差押申立書を記載したとすると,被告日本法人と被告米\n国法人の関係や被告日本法人が被告米国法人と同視できるなどの主張を明示
的にせずに仮差押申立書において上記のように主張することが適切であるか\nは疑問の余地があるほか,特に,被告米国法人の利益について,特段の説明
もなく,直販を理由として日本国内の推定小売価格の全額が被告米国法人の
利益となるとの主張をすることは不適切といえる。債務者の審尋等を経ない
仮差押えの申立てにおける主張については,特にこのことがいえる。)。\n被告米国法人は,本件において,過失の推定を覆す事情として上記理解を
していたことを前提とする主張をするのであるが,その主張は前提を欠くと
いえる。被告らの主張中には,前件訴訟等における被告米国法人の原告に対する損
害賠償額が前記の額となったことに関係して,原告が前件訴訟等において侵
害行為の詳細を明らかにしなかったことを指摘する部分がある。
しかし,上記が本件における過失の推定を覆す事情になるかは措くとして
も,原告が販売した原告商品に対応する被告商品の種類等が明らかにならな
かったことによって前件訴訟等における損害賠償額が本来の損害賠償額より
も少額となったことを認めるに足りる証拠はない。前件訴訟等の裁判所は,
上記詳細が明らかにならなかったことから証拠がないことを理由に損害が認
められないとしたりはせず,同状況も含み得る種々の事情を考慮した上で商
標法39条において準用する特許法105条の3を適用して,相当な損害額
を認定したものである。なお,被告米国法人は,前件仮差押申立事件の申\立
書において,商標法38条2項に基づき損害が算定され,直販を理由として
日本の推定小売価格の全額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていた
が,被告米国法人から独立した法人格を有する複数の企業を介して日本国内
において被告商品が販売される以上,仮に介在する企業が完全子会社であっ
たとしても,被告米国法人の利益は,被告米国法人がMSオペレーションに
販売したことによって得られた利益であり,その額は,通常は,日本におけ
る推定小売価格の全額とはならないといえる。また,被告米国法人は,前件
仮差押申立事件の申\立書において,上記のとおり,日本の推定小売価格の全
額が被告米国法人の利益であるとの主張をしていたが,その後の前件訴訟等
においては,利益率は42%であると主張し,前件訴訟等の裁判所は,原告
主張の利益率を逸失利益の算定の根拠とすることは相当でないとしてその利
益率を採用しなかった。
以上によれば,前件仮差押申立事件において500万円を超えて仮に差し\n押さえられた部分について,被告米国法人に過失が推定され,被告米国法人
は,その推定が覆ると主張するが,本件において,被告米国法人が過失の推
定が覆るとしている事由はその前提を欠くといえる 。
◆判決本文
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2020.03. 4
平成31(ネ)10003 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月28日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特別部、いわゆる大合議の判断です。102条1項但し書きについて、販売に寄与した割合(寄与度)ではなく、利益に貢献した割合を考慮するとしました。
「本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原
告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原
告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特
許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。」
知財高裁は、最近、寄与度という用語を使用しないという傾向を打ち出しています。特別部として明確化したということでしょうか。
特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損
害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,特許法102条
1項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下
「特許権者等」という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位
数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する\n数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減
少数量の立証責任の転換を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的
とする規定である。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が「侵害行為が
なければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を
受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権
者等の製品であれば足りると解すべきである。
また,「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から特許権者
等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的
に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は,
特許権者等の実施の能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。さらに,特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については,侵害\n者が主張立証責任を負い,このような事情の存在が主張立証されたときに,当該事
情に相当する数量に応じた額を控除するものである。
(2) 侵害の行為を組成した物の譲渡数量
ア 前記3ないし5のとおり,被告製品の譲渡行為は,本件特許権2を侵害
するものであり,被告製品は「侵害の行為を組成した物」に該当する。
イ 一審原告が本件訴訟において損害賠償請求をしている不法行為の期間で
ある平成27年12月4日から平成29年5月8日までの期間(以下「本件侵害期
間」という。)の被告製品の譲渡数量は下記のとおりであり,被告は総計35万17
24個,月平均2万0690個程度の被告製品を譲渡したことになる(争いがない。)。
被告製品1(DR−250A) 7万1077個
被告製品2(DR−250C) 14万1135個
被告製品3(FS−800) 1万5114個
被告製品4(DR−250P) 8万2584個
被告製品5(DR−250G) 1万8526個
被告製品6(DR―250SW) 8263個
被告製品7(JDR−300) 416個
被告製品8(DR−260BK) 6088個
被告製品9(DR−260C) 8521個
ウ 被告製品は,ディスカウントストアや雑貨店に卸売販売されることが中
心であり,一審被告作成の文書では1万5000円(税抜)の価格表示がされているものが多いが(甲7〜13),実際には,3000円ないし5000円程度の価格で販売されている(乙85〜93)。\n被告製品は,ゲルマニウムの粒を使用したゲルマミラーボールと説明されている
が,後記の原告製品のように微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構は有していない(甲7〜13)。
(3) 侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
ア 侵害行為がなければ販売することができた物
前記(1)のとおり,「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行
為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市
場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は,本件発
明2の実施品として,「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の
美容器(以下「原告製品」という。)を,平成21年2月以降販売しており(甲23,
24,弁論の全趣旨),原告製品は,「侵害行為がなければ販売することができた物」
に当たることは明らかである。
原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,支持軸に回転可能\に支
持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上
げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器(弁論の全趣旨)であり,搭
載されたソーラーパネルにより,微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構\を
有している(甲23)。
原告製品は,原告の店舗,大手通販業者,百貨店,家電量販店で販売され,希望
小売価格である2万3800円(税抜)又はこれに近い価格で販売されている(甲
23,乙94〜108)。
一審原告は,平成27年10月から平成29年8月までの間に,125万641
0個の原告製品を販売しており(月平均5万4626個〔1個未満切り捨て〕),最
も少ない月(平成28年1月)でも1万8770個,最も多い月(平成28年12
月)には8万5492個を販売した(甲38)。
イ 単位数量当たりの利益の額の意義
前記(1)のとおり,特許法102条1項所定の「単位数量当たりの利益の額」は,
特許権者等の製品の売上高から,特許権者等において上記製品を製造販売すること
によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益
の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
ウ 原告製品の限界利益の額
(ア) 売上高及び製造原価
平成27年10月から平成29年8月までの間の原告製品の販売数量は125万
6410個,売上高は合計132億4606万1089円であり,製造原価は●●
●●●●●●●●●●●である(甲38,39)。
(イ) 製造原価以外の控除すべき費用
a 前記(ア)の期間における一審原告の全製品の売上高は合計671億0
968万1552円であり(甲40),一審原告の全製品に対する原告製品の売上比
率は19.74%となる(132億4606万1089円÷671億0968万1
552円≒0.1974)。
b また,前記(ア)の期間における原告製品が含まれる「ReFa」ブラ
ンドの製品全体の売上高が342億0958万6196円であり(甲28),同売上
に占める原告製品の売上比率は38.72%となる(132億4606万1089
円÷342億0958万6196円≒0.3872)。
c 前記(ア)の期間における原告製品の製造販売に直接関連して追加的に
必要となった費用は,前記(ア)の製造原価のほか,後記(1)〜(9)のとおりであり,その
額は,(1),(3),(4),(6)〜(9)については,一審原告の全製品について生じた各費用(甲
40)に前記aの比率を乗じた額であり,(2)及び(5)については,「ReFa」ブラン
ドの製品について生じた各費用(甲32,33)に前記bの比率を乗じた額である
(1円未満切り捨て)。
(1) 販売手数料 ●●●●●●●●●●●●
(2) 販売促進費 2億5798万4777円
(3) ポイント引当金 741万7870円
(4) 見本品費 5343万9379円
(5) 宣伝広告費 5億2075万3024円
(6) 荷造運賃 4億5578万0084円
(7) クレーム処理費 6548万5934円
(8) 製品保証引当金繰入 590万2260円
(9) 市場調査費 1038万5182円
(1)から(9)までの合計額 ●●●●●●●●●●●●●
d 一審被告は,原告製品の売上高から,一審原告の全ての費用を,原
告製品の売上比率に従って控除すべきであると主張する。
しかし,前記(1)のとおり,特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数
量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規
定であり,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売
することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を上記の損害額としたも
のである。このように,同項の損害額は,侵害行為がなければ特許権者等が販売で
きた特許権者等の製品についての逸失利益であるから,同項の「単位数量当たりの
利益の額」を算定するに当たっては,特許権者等の製品の製造販売のために直接関
連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく,管理部門の人件費や交通・
通信費などが,通常,これに当たる。また,一審原告は,既に,原告製品を製造販
売しており,そのために必要な既に支出した費用(例えば,当該製品を製造するた
めに必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も,売上高から控除する
のは相当ではないというべきである。
一審被告が,売上高から控除すべきであると主張する上記費用のうち,前記cの
(1)〜(9)の費用以外の費用は,全て上記の売上高から控除するのが相当ではない費用
に当たるというべきであるから,一審被告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告製品の限界利益の額は,原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア)
の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円で
あり,これを,前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除
すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546.
03円。1円未満切り捨て)となる。
(エ) 前記第2の2で認定した本件発明2の特許請求の範囲の記載及び前記
1で認定した本件明細書2の記載からすると,本件発明2は,回転体,支持軸,軸
受け部材,ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが,軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下,この部分を「本件特徴部分」という。)。\n原告製品は,前記アのとおり,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから,本件特徴部分は,原告製品の一部分である\nにすぎない。
ところで,本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発
明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によ
って得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定される
というべきである。
そして,原告製品にとっては,ローリング部の良好な回転を実現することも重要
であり,そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の
内周面の形状も,原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。
しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回
転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器である
から,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソ\ーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められ
る。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに
貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額
を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上
記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。
そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が
本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合
考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。
この点に関し,一審被告は,原告製品全体の製造費用に占める軸受けの製造費用
の割合を貢献の程度とすべき旨主張するが,上記の推定覆滅は,原告製品の販売に
よる利益に対する本件特徴部分の貢献の程度に着目してされるものであり,当該部
分の製造費用の割合のみによってされるべきものではない。また,一審被告は,原
告製品においては,ローラの抜落の防止機能が不十\分であるから,軸受けの貢献度
は低い旨主張するが,一審被告が根拠とする乙138(原告製品に関するブログの
記載)から,原告製品においてローラの抜落の防止機能が不十\分であると認めるこ
とはできず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。よって,上記主張はいずれ
も採用できない。
以上より,原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては,原告
製品全体の限界利益の額である5546円から,その約6割を控除するのが相当で
あり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,2218円(5546円×0.4
≒2218円)となる。
(4) 実施の能力に応じた額
特許法102条1項は,前記(1)のとおり,侵害者の譲渡数量に特許権者等の製品
の単位数量当たりの利益の額を乗じた額の全額を特許権者等の受けた損害の額とす
るのではなく,特許権者等の実施の能力に応じた額を超えない限度という制約を設けているところ,この「実施の能\力」は,潜在的な能力で足り,生産委託等の方法により,侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能\な場合も実施の能力があるものと解すべきであり,その主張立証責任は特許権者側にある。そして,前記(3)アのとおり,一審原告は,毎月の平均販売個数に対し,約3万個
の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから,この余剰能\力の範囲
内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当である。したがって,一審原告は,一審被告が本件侵害期間中に販売した被告製品の数量\nの原告製品を販売する能力を有していたと認められる。
(5) 一審原告が販売することができないとする事情
ア 前記(1)のとおり,特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の
全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以
下「販売できない事情」という。)があるときは,販売できない事情に相当する数量
に応じた額を控除するものとすると規定しており,侵害者が,販売できない事情と
して認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場
合には,同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。
そして,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品
の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,(1)特許権者と侵害者
の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合
品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品及び特許権者の
製品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの
事情がこれに該当するというべきである。
イ 以下,一審被告が販売できない事情として主張する事情について検討す
る。
(ア) 一審被告は,原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を,
販売できない事情として主張する。
a 本件においては,前記(2)ウ,(3)アのとおり,原告製品は,大手通
販業者や百貨店において,2万3800円又はこれに近い価格で販売されているの
に対し,被告製品はディスカウントストアや雑貨店において,3000円ないし5
000円程度の価格で販売されているが,このように,原告製品は,比較的高額な
美容器であるのに対し,被告製品は,原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程
度の廉価で販売されていることからすると,被告製品を購入した者は,被告製品が
存在しなかった場合には,原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきで
ある。したがって,上記の販売価格の差異は,販売できない事情と認めることがで
きる。
そして,原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからす
ると,同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと
認められる。
一方で,上記両製品は美容器であるところ,美容器という商品の性質からすると,
その需要者の中には,価格を重視せず,安価な商品がある場合は同商品を購入する
が,安価な商品がない場合は,高価な商品を購入するという者も少なからず存在す
るものと推認できるというべきである。また,前記(3)アのとおり,原告製品は,ロ
ーラの表面にプラチナムコートが施され,ソ\ーラーパネルが搭載されて,微弱電流
を発生させるものであるから,これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高
いということができ,したがって,原告製品は,その販売価格が約2万4000円
であるとしても,3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者
の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると,原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。\n
b このように,原告製品と被告製品との価格の差異は,需要者の購入
動機に影響を与えているといえるが,大手通販業者や百貨店において商品を購入す
る者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験
則があるとは認め難いから,価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態
様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差
異は,販売できない事情として認めることはできないというべきである。
(イ) 一審被告は,競合品が多数存在することを,販売できない事情として
主張する。
平成31年4月の時点で,原告製品と被告製品の同種の製品として,少なくとも
29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176,弁論の全趣旨)が,
本件証拠上,本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に,
市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りな
いから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。
(ウ) 一審被告は,本件発明2は軸受けについての発明であるところ,被告
製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず,
軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。
しかし,本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に
原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから,
重ねて,これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。
(エ) 一審被告は,軸受けの部分は外見上認識することができず,代替技術
が存することなどを販売できない事情として主張する。
しかし,一審被告の主張する上記の事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも
当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に,
被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがっ
て,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
(オ) 一審被告は,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しているが,被告製品はそのような機構\を有していないことを販売できない事情として主張する。確かに,前記(3)アのとおり,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しており,一方で,被告製品はそのような機構\を有していないが,このことは,被告製品は,原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった
場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって,
上記の点は,販売できない事情と認めることはできない。
(カ) 一審被告は,一審被告の営業努力を,販売できない事情として主張す
るが,本件証拠上,一審被告に,販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努
力があったとは認められない。
ウ 以上によれば,本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情を考慮する
と,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相
当である。
(6) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっ
ては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原
告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原
告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特
許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告
の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を
考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定は
なく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を
認めることはできない。
(7) 損害額の算定
以上からすると,特許法102条1項による一審原告の損害額は,被告製品の譲
渡数量35万1724個のうち,約5割については販売することができないとする
事情があるからその分を控除し,控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの
利益額2218円に乗じることで,3億9006万円(2218円×35万172
4個×0.5≒3億9006万円)となる。
また,一審被告による本件特許権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用
は,認容額,本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考
慮して,5000万円と認めるのが相当である。
したがって,一審原告の損害額は,合計で4億4006万円となる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)5345
本件発明2の技術の利用が被告製品の販売に寄与した度合いは高くなく,上記事情を総合すると,その寄与率は10%と認めるのが相当である。
・・・
上記アないしオで検討したところによれば,特許法102条1項による原告の損
害額は,被告製品の譲渡数量35万1724個のうち,5割については販売するこ
とができないとする事情があるから控除し,これに原告製品の単位数量当たりの利
益額●(省略)●円及び本件特許2の寄与率10%を乗じることで,・・・
関連する審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(行ケ)10032
関連カテゴリー
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2020.01.27
平成28(ワ)10759 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 東京地方裁判所(40部)
石けんの特許権侵害について、1社あたり2億円を越える損害賠償が認められました。102条1項の販売不可事情は否定されました。
(3) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
前記(1)の譲渡数量に前記(2)の単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下
のとおりとなる。
ア 被告日本生化学について
原告長寿乃里
21万3457個×1225円=2億6148万4825円
原告イング
23万9658個×993円=2億3798万0394円
イ 被告ブレーンコスモスについて
原告長寿乃里
17万0132個×1225円=2億0841万1700円
原告イング
19万1015個×993円=1億8967万7895円
ウ 被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里
135個×1225円=16万5375円
原告イング
152個×993円=15万0936円
(4) 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」の
有無
ア 競合品の存在
証拠(甲8,乙24)によれば,シラスが配合された洗顔料が原告製品
及び被告製品のほかに8銘柄が存在したことが認められるが,販売数が多
いものでも,株式会社メディカルドーズの「お茶!入ったよ〜わっぜ!!
火山灰石けん」が平成22年9月から平成27年12月までに2万754
8個を販売したにとどまり,他の銘柄は,販売数が約1000個から38
00個程度にとどまるか,販売数が明らかではないから,これらの洗顔料
の存在が,「販売することができないとする事情」に当たるということは
できない。
イ 原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告製品を販売していない月でも原告製品の販売が
落ちている月があることから,原告製品の販売は被告製品の販売に影響を
受けていなかったと主張するが,原告製品についてそのような販売経過と
なった原因としては様々なものが考えられるのであり,上記の販売経過が
直ちに「販売することができないとする事情」に当たるとはいえない。
ウ 薬機法上の区分及び本件発明1の作用効果
被告日本生化学は,原告製品及び被告製品について,薬機法上の区分が
異なること及び宣伝広告の内容から,本件発明1の作用効果は原告製品及
び被告製品の販売に寄与していないと主張する。
しかし,消費者が薬機法上の区分を意識して商品を選択するとは考え難
く,前記判示のとおり,原告製品と被告製品はいずれもシラスが配合され
た石けんという同種の商品であり,かつ,被告製品は本件発明1の作用効
果を奏するのであるから,両者は市場で競合する製品であるということが
できる。
また,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,原告製品は
発売以来700万個以上が売れた大ヒット商品であると紹介するととも
に,被告製品には,人工皮膚成分「リピジュア」が配合され,原告製品と
同じ価格だが,内容量が多いという2点が異なることを挙げて,被告製品
の宣伝をしていたことが認められ(甲14),このような宣伝内容によっ
て,原告製品ではなく被告製品を購入した消費者も相当数いるものと考え
られる。
そうすると,被告日本生化学が主張する上記事情は,「販売することが
できないとする事情」に当たるとはいえない。
エ 販売ルートの違いについて
被告ブレーンコスモスらは,原告らは消費者に直接販売する小売である
のに対し,被告ブレーンコスモスは販売数のうち95%は企業に対する卸
売りであり,販売ルートが異なるから,競合しないと主張する。
しかし,原告製品及び被告製品はいずれも最終的には一般消費者によっ
て購入され,使用される石けんであり,被告製品が一般消費者に販売され
る段階では原告製品と競合すると認められるところ,被告製品が存在しな
ければ,被告ブレーンコスモスが他の企業に被告製品を卸売りすることも
なく,ひいては被告製品が一般消費者に販売されることもないのであるか
ら,被告ブレーンコスモスが卸売りを主たる取引形態とするからといって,
原告製品と被告製品が市場において競合することは左右されず,「販売す
ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
オ 東日本大震災の義援金に充てる旨のアテンションシールについて
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充
てる旨記載されたアテンションシールを被告製品に貼っていた期間(平成\n23年4月1日から同年9月30日まで)の販売数がそうでない期間の販
売数を上回っており,同シールが被告製品の売上げに寄与した旨主張する。
しかし,平成23年4月1日から同年9月30日まで被告製品に上記シ
ールが貼られていたことを認めるに足りる証拠はない上,仮に同シールが\n貼付されていたとしても,平成23年1月から同年9月までの被告製品\n(100gのもの)の販売数は毎月概ね1万個程度で推移しており(丙1,
21),販売数の増加が同シールによるものとは認め難く,被告ブレーン
コスモスらの主張はその前提を欠き,採用できない。
カ 海外市場における競合
被告ブレーンコスモスらは,被告ビーシーリンクは専ら海外に被告製品
を販売しているところ,原告製品と被告製品は海外市場において競合しな
いと主張する。
しかし,証拠(甲76,77,84〜87,108〜112,丙25〜
28)によれば,被告ビーシーリンクは,平成25年2月から11月にか
けて,米国,中国,シンガポール,ラトビアに被告製品を販売していたこ
と,原告長寿乃里は,自ら又は株式会社フェローシップ等を介して,以下
のとおり海外に原告商品を出荷したことが認められる。
・・・
以上の事実関係に照らせば,原告製品と被告製品は,少なくとも米国及
び中国の海外市場において競合していたことが認められるから,被告ビー
シーリンクが専ら海外において被告製品を販売していることは,「販売す
ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
キ 以上のとおり,被告らが主張する事情は,いずれも「販売することがで
きないとする事情」に当たらないから,特許法102条1項に基づく損害
額の推定は覆滅されない。
◆判決本文
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2019.10. 2
平成28(ワ)12296 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月10日 大阪地方裁判所
特許権侵害認定されましたが、損害額については102条2項について、「他の店舗用品とを組み合わせて販売されたバンドル取引商品である」ことを覆滅事由として、6割の推定が覆滅されました。
まず,被告が経費として主張する製造委託費,検査費等は,いずれ
も侵害者である被告において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接
関連して追加的に必要となった経費に当たると認められるから,被告の利益額を算
定するに当たり,上記販売金額からこれらの経費の金額を控除すべきである。
b そして,乙53,56ないし61及び弁論の全趣旨によれば,製造
委託費(樹脂やプレートの材料代,プレートの組付費用を含み,金型の作成費用は
含まない。),検査費等として,別紙「被告の損害論における主張」の「被告の経
費額」欄記載の経費を支出したと認められる。
c 原告らは,被告主張の仕入価格には高すぎるなどの疑問があると主
張して,被告主張の経費のうち「製造委託費」の金額を争っている。
しかし,この主張は特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利
益の額の算定の問題に関連する主張であるが,そもそもその利益の額(限界利益の
額)の主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであるから(知財高裁令和
元年6月7日判決・最高裁ウェブサイト),そのような観点から検討すると,原告
らは原告製品の製造販売に係る経費と対比をするのみで,被告製品の製造販売に係
る経費について具体的な立証をしているわけではない。
他方,被告製品の製造委託先は,被告と資本関係にあるわけではなく(乙62,
弁論の全趣旨),被告の主張する製品1個当たりの製造委託費は,別紙「被告主張
の被告製品1個当たりの経費額」の「製造委託費(材料費込)」欄記載のとおりで
あるところ,その金額には一定の裏付け(乙56ないし61)がある。したがって,
原告らの上記指摘によって前記認定は左右されず,下記(ウ)で認定する金額を超え
る利益が被告に生じていたことを認めることはできない。
(ウ) 被告の利益額
以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は,別
紙「被告の損害論における主張」の「被告の限界利益」欄記載のとおり,合計(中
略)円と認められる。
イ 推定覆滅事由の有無
(ア) 特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立
証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果
関係を阻害する事情がこれに当たると解され,例えば,(1)特許権者と侵害者の業務
態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,
(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能\,デザイン
等特許発明以外の特徴)などの事情について,考慮することができるものと解され
る(前掲知財高裁令和元年6月7日判決)。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告扶桑産業について(甲1,33)
原告扶桑産業は,資本金の額を2500万円とする会社であり,その従
業員数は30名程度である。そして,原告扶桑産業は,店装用備品等の企画,製造
販売,陳列器具及び店舗什器関連備品等の製造販売等を事業品目とし,全国スーパ
ー量販店備品卸売業者,全国インテリア装飾・店装業者等を取引先としている。そ
して,原告製品については,被告や他の企業に対して卸売販売され,そこを通じて
小売量販店に販売された(量販店の各店舗に設置された)ほか,原告扶桑産業から
直接,株式会社サンリオの直営店等の量販店に販売されることもあった。
b 被告について(乙1,53ないし55,65ないし66の5)
(a) 被告は,資本金の額を1億円とする会社であり,その従業員数は
3000人程度で,平成28年度の売上高は1220億円(グループ全体で346
0億円)であり,平成20年から東北楽天ゴールデンイーグルスのメインスポンサ
ーとなっている。そして,被告は,生活用品の企画,製造,販売を事業内容として
おり,販売している商品は,LED照明,家電,調理用品,日用品,収納用品,ハ
ードオフィス・資材等多岐に渡っており,被告のこれらの商品は全国のホームセン
ターで販売されている。
(b) 被告は,量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するの
ではなく,内装工事を含め,店舗のあらゆるスペースをデザイン・プロデュースし,
店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行っている。
そして,被告は,販売する什器について,500頁を超えるカタログ(乙1,5
4)を作成しており,そこに掲載されている什器は,カードケースを含むシステム
什器だけでなく,内装・棚下照明,陳列用什器,インフォメーション器具,販促用
品,オフィス家具,運営サポート用品及び照明・演出用品といったように,多岐に
渡っている。
(c) 被告が顧客との間で上記(b)の取引をする場合の流れは,次のと
おりである。すなわち,まず顧客から要望についてヒアリングをした上で,それを
もとに現地調査をする。その後,顧客から建築平面図等を取得し,什器の配置を検
討し,顧客と打合せをした上で,什器配置図等を作成するとともに,コストをシミ
ュレーションする。そして,顧客の要望に応じた什器・オプションアイテムを提案
し,納品内容を確定した上で,現場への納品や施工の手配を行う。
(d) 被告が平成25年12月5日,ある株式会社に対して発行した見
積書(乙55)では,取引金額が合計(中略)万円(税抜)とされたが,そのうち
カードケースの代金額は(中略)円(個数は合計(中略)個)であった。
(e) 平成26年の被告製品の販売金額は,合計(中略)円であったが,
その大半((中略)円)はカードケースと他の店舗用品とを組み合わせて販売され
るいわゆるバンドル取引によるものであった。
c 原告扶桑産業と被告との間の取引
(a) 被告は,遅くとも平成24年1月以降,原告扶桑産業から原告製
品を購入しており,同月から平成25年11月までの原告製品の販売数量は,次の
とおりであった。
・・・・
(b) 上記(a)のうち平成25年の原告製品4(ただし,QPCII−65
を除く。)の販売数量・販売金額は次のとおりであったほか,平成26年ないし平
成28年の原告製品(ただし,QPCII−65を除く。)の販売数量・販売金額は,
次のとおりであった(乙78の2)。
・・・・
(ウ) 被告の主張について
a まず,被告は被告製品1,4,6及び10については,原告製品に
相当するものがないことを指摘している。
しかし,上記各被告製品は,原告製品と色やサイズが異なるだけであり,原告扶
桑産業が販売している他の色やサイズの製品が購入されなかったとまで認めること
はできないし,原告扶桑産業が販売していた製品をみる限り,原告扶桑産業が被告
製品と同じ色やサイズの製品を製造し,販売することができなかったと認めること
もできない。
したがって,被告の上記主張は推定覆滅事由とならない。
b 次に,被告は取引の実情として,被告製品の販売方法や,被告によ
る販売力・営業努力・企業規模・ブランドイメージを理由とする推定覆滅を主張す
る。
(a)(1) 前記認定のとおり,被告が販売している什器は多岐に渡ってお
り,また量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するのではなく,内装工
事を含め,店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行って
いた。そして,前記認定事実によれば,被告製品は,その大半が他の店舗用品と組
み合わせて販売されるいわゆるバンドル取引によって販売されていた。
しかも,前記認定事実によれば,そのようなバンドル取引の取引額に占めるカー
ドケースである被告製品の販売額はわずかであったと認められる。
このような被告製品に係る取引の実情によれば,被告製品の需要者の大半は,カ
ードケースである被告製品に殊更に注目して被告製品を購入したというよりも,他
の店舗用品と組み合わせて購入できる利便性や,内装工事を含めて店舗全体又は売
り場全体の什器・備品を総合的に購入することができるという被告の販売体制に魅
力を感じて,被告と取引をするに至り,その取引の一環として被告製品を購入した
と認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張について
原告らは,被告がドン・キホーテの店舗内装を受注するに当たり,
ドン・キホーテから原告製品を使用するよう指示されたため,原告扶桑産業と原告
製品の取引をするようになったとか,バンドル取引においても原告製品を組み込む
需要があり,被告がその需要に応え,顧客との取引を維持するために原告製品を侵
害品である被告製品に置き換えたなどと主張する。
確かに,被告は現在でも,原告扶桑産業から原告製品を購入しているから,本件
発明の技術的範囲に属する製品を購入し,エンドユーザーにこれを販売する一定の
需要があったというべきである。
しかし,原告らが主張する原告扶桑産業との取引開始の経緯や,被告が本件特許
のライセンスを求めたことについては,これを認めるに足りる証拠はないし,被告
が,被告製品のモデルチェンジをして,本件特許権の侵害とならないカードケース
を販売するようになった後,被告のバンドル取引による売上げが減ったとの事情も
認められない。
以上の事情に加え,前記認定の被告製品の取引の実情を踏まえると,被告が顧客
との取引を維持するために原告製品を侵害品である被告製品に置き換えたとまで認
めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
(3) そうすると,被告主張の事情は,侵害者である被告が得た利益
と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を相当程度,阻害す
る事情といえる。
(b) また,被告の企業規模や販売する製品の多様性は前記認定のとお
りであり,被告が被告製品を販売するに当たり,被告自身の販売力や企業規模,ブ
ランドイメージか需要者に与えた影響も小さくないものというべきである。
したがって,この事情も,上記(a)の事情と相まって,侵害者である被告が得た利
益と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を一定程度,阻害
する事情といえる。
(c) なお,被告はその他に自身の営業努力も推定覆滅事由として主張
するが,被告製品に関する事実関係が明らかではなく,事業者は,製品の製造,販
売に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であることを
踏まえると,推定覆滅事由として考慮すべきとまでいうことはできない。
c 被告は代替品・競合品(乙67ないし72)の存在を指摘している。
しかし,推定覆滅事由として考慮する競合品といえるためには,市場において侵
害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決)。このような観点から被告主張の製品を検討すると,被告が指
摘する製品には,その具体的構成や使用方法が判然としないものも含まれているほ\nか,カードケースが上保持部と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本\n的部分を備えたものと認めることもできないから,被告指摘の製品を代替品ないし
競合品ということはできない。また,被告指摘の製品の販売時期等も不明である。
したがって,被告の上記指摘によって推定が覆滅されるとはいえない。
d 被告は,乙73ないし77の先行技術等の存在を指摘して,被告製
品の販売に対して本件発明の技術的意義が寄与する程度は低いということを主張す
る。
しかし,被告が指摘する乙73ないし77はいずれも,カードケースが上保持部
と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本的部分を備えたものと認める\nことはできない。また,被告が指摘する乙77は,表示板支持棒の先端に表\示板が
取り付けられているものの,その取り付け方法は,指示棒の先端に平板部分を設け,
その下面に突設されたピンに表示板を保持するというものであり(乙77の【考案\nの詳細な説明】の【0021】),本件発明の構成とは大きく異なっている。それ\nだけでなく,被告製品が販売されていた時期に,本件発明の作用効果の一部を奏す
るとされる技術があったとしても,それだけで直ちに,原告扶桑産業において,本
件特許の全構成を備えた被告製品の販売による利益に相当する損害を被ったことが\n否定されるとはいえない。
したがって,被告の主張の技術的観点からの主張は採用できない。
e 以上より,本件では前記b(a)及び(b)記載の事情を推定覆滅事由と
して考慮すべきところ,前記認定・判示の事情を踏まえると,6割の限度で推定が
覆滅されると認めるのが相当である。
この点に関し,被告は顧客が原告らに注文して原告製品を購入するという行動に
出たという可能性は皆無であったなどとして,推定覆滅率を99.09%とすべき\n旨主張する。
確かに,被告が原告扶桑産業から原告製品を購入すべき義務を負っていたという
事情はうかがえないから,被告が原告製品以外のカードケースを販売すること自体
は自由にできたことと認められる。
しかし,他方で,被告は遅くとも平成24年1月以降,原告製品を購入し,量販
店等のエンドユーザーに対して販売しており,以前原告製品を購入したことのある
エンドユーザーがバンドル取引において原告製品を組み込むことを希望する可能性\nも否定できない。また,前記認定のとおり,被告製品の販売を開始した平成25年
2月以降も,原告製品の購入を完全にやめたわけではなく,量販店等のエンドユー
ザーへの販売もされていたことが推認されるから,被告において原告製品を購入し,
これをエンドユーザーに販売する必要性が全くなかったとまで認めることはできな
い。むしろ,従前の経緯を踏まえると,被告が本件特許の侵害品を販売しなければ,
原告扶桑産業から原告製品を購入し続け,原告扶桑産業が利益を得ていた可能性も\n一定程度認められるものというべきである。
したがって,被告が主張するように99.09%もの推定覆滅を認めることは相
当でない。
f 他に共有者がいることによる控除(推定覆滅)
(a) 被告は,特許法102条2項に基づく原告扶桑産業の損害は,同
項に基づき算定される逸失利益の2分の1にとどまると主張する。
しかし,特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないで
その特許発明の実施をすることができるものの(特許法73条2項),その価値の
全てを独占するものではないことに鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額
の推定を受けるに当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失
利益額を推定されると解するのが相当であり,共有持分の割合を基準に共有者各自
の逸失利益額を推定すべきものではない。本件においては,前記(1)オで検討したと
おり,原告製品を製造して被告に販売するという実施による利益は原告扶桑産業に
帰属し,原告ソーグは,これに伴って金員を得ていたにすぎないから,原告扶桑産\n業の損害額を算定するに当たり,特許法102条2項に基づく利益額の算定から,
共有持分の割合に応じて2分の1を控除(推定覆滅)すべき理由はない。
しかしながら,原告ソーグについては,被告製品の販売により,特許法102条\n3項の実施料相当額の損害を観念し得ることは既に述べたとおりであり,この場合
に,特許権の共有者の一部(原告扶桑産業)が同条2項により侵害者に対し損害賠
償請求権を行使するに当たっては,同項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他
の共有者(原告ソーグ)の同条3項に基づく実施料相当額(共有持分の割合により\n取得する。)の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である(知財高裁平成30
年11月20日判決・最高裁ウェブページ)。
(b) そこで,原告ソーグが被告に対して請求することができる特許法\n102条3項に基づく実施料相当損害金の額について検討する。
この点について,被告は原告らの間で支払われていた差益をもとに実施料率を算
定すべきと主張するが,原告らが指摘する差益は特許権の共有者間で支払われてい
るものであり,その具体的内容や法的位置付けは判然としない(なお,原告らは訴
状において原告製品の原材料の売買による差益と主張していた。)から,この金額
を実施料相当損害金の額を算定するのに用いることは相当でない。
そこで,本件では業界における実施料の相場を考慮に入れつつ,相当な実施料率
を認定するのが相当である。
被告はそれを前提としつつも,本件発明の寄与度や被告による販売力等を考慮す
ると,原告ソーグの共有持分(2分の1)に係る相当な実施料率は0.025%で\nあると主張するが,推定覆滅事由に関する前記判示によれば,本件発明の寄与度を
考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条
件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最
頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の
構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,\n前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメー
ジ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらに
は特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料
率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべ
きであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:\n被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。
(c) そして,原告ソーグについて特許法102条3項により算定した\n(中略)円を,原告扶桑産業との関係では,前記eの推定覆滅に加え,さらに控
除(覆滅)すべきことになる。
ウ したがって,原告扶桑産業の特許法102条2項に基づく損害額は(中
略)円(計算式:(中略)円×4割(推定覆滅後)−(中略)円)と認められる。
なお,原告扶桑産業は特許法102条1項に基づく損害の主張もしているが,原
告ら主張の原告らの利益額は(中略)円であるところ,特許法102条1項ただし
書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の
推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27
年11月29日判決参照),本件では前記判示に照らすと,原告らの利益について
6割の限度で「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当で
ある。そうすると,原告ら主張の利益額について立証されているかを検討するまで
もなく,同条1項に基づく損害額が前記認定の同条2項に基づく損害額を下回るも
のであることは明らかである。
エ 原告扶桑産業は,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起
等を委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告扶桑産業の損害額は合計(中略)円となる。
(3) 原告ソーグの損害額\n
原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害額は,上記認定のとおり,(中\n略)円と認められる。
そして,原告ソーグは,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起等\nを委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告ソーグの損害額は合計(中略)円となる。\n
4 以上より,原告らの請求は,それぞれ主文第1項及び第2項に掲げる限度で
理由があるから,その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄
却することとして,主文のとおり判決する。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
◆別紙3
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成24(ワ)6435
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>> 賠償額認定
>> 102条1項
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
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2015.06. 9
平成24(ワ)6435 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年5月28日 大阪地方裁判所
特102条1項による損害として、特許権者の利益額350万/台(限界利益)*被告の販売台数5台=1750万円が認められました。
被告は,本件特許が登録された後,5台の被告製品(被告製品1を4台,被
告製品2を1台。)を販売したことを自認している(前記第2の6【被告の主
張】(1))。
イ 原告は,契約後,未納となっている被告製品の譲渡が少なくとも3台あるこ
とを主張する。
一般論として,侵害品の譲渡契約がされた場合には,それが未納であったと
しても,特許法102条1項にいう「譲渡数量」に加算できる場合はあるもの
というべきであるが,本件においては,上記譲渡契約に基づいて,被告製品と
して特定された本件特許発明の技術的範囲に属する製品が納入されることに
ついて,的確に認定し得る証拠は提出されていないから,上記3台が特許法1
02条1項にいう「譲渡数量」に含まれるものと認めることはできない。
したがって,被告製品の譲渡数量は,5台と認めるのが相当である。
(2) 被告の侵害行為がなければ原告が販売することができた物について
証拠(甲12,13)によると,原告が販売する型番HTP−3,6,10,
15,20ないしHT−3,6,10,15,20の製品は,本件特許発明の実
施品と認められるし,仮にそうでなかったとしても,自治体の廃棄物処理場等に
納入される破袋機であって,被告製品と競合する関係にあることは明らかである。
したがって,原告は,販売可能な製品を有していたものといえる。\n
(3) 単位数量当たりの利益の額
証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によると,原告は,次のとおり,上記(2)の原
告実施品を製造,販売したこと,原告製品の実際の製造は外注によって行われ,
下記の粗利において直接労務費は既に控除されているものと認められる。
そうすると,原告製品の販売台数は14台,売上合計は9039万円,粗利合
計は4917万8369円,1台当たりの粗利は,351万2740円(1円未
満切り捨て)となる。
・・・
なお,前記のとおり,原告が現実の製造を外注して行っているのであれば,い
わゆる限界利益を考慮するとしても,製造人件費,変動経費は外注費として控除
されていると考えられるから,本件において,上記からさらに控除すべき経費は
想定されない。
被告は,そのような利益率は常識はずれであって合理性がないと主張するが,
何ら具体的根拠,証拠を提示しないし,控除すべき費目を具体的に特定するもの
でもないから,上記判断を左右しない。
したがって,単位数量当たりの利益の額は,351万2740円と認められる。
(4) 原告の実施能力
上記認定にかかる原告の販売実績及び被告の譲渡数量を比較すると,原告の実
施の能力から,被告の販売台数5台全てを原告が販売できたものと認められる。\n(5) 販売することができないとする事情(特許法102条1項ただし書)
ア 競合品の存在,破袋機の流通形態について
被告は,破袋機を製造する第三者が多数存在することを指摘し,その旨の証
拠(乙55から71まで)を提出するが,単に破袋機を製造販売するメーカー
が存在することを挙げるにすぎず,本件特許発明を回避しつつ,同様の作用効
果を発揮する競合品の存在や具体的なシェアが明らかとなっているものでは
ないから,上記証拠によって本項ただし書の事情を認めることはできない。
また,破袋機が,常時市場に存在するものでないことは,そもそも本項ただ
し書に該当する事情に当たらない。
イ 原告製品と被告製品の価格差について
上記のとおり,原告製品の販売価格は,418万円から950万円であるの
に対し,被告製品の販売価格(定価)は,証拠(乙41ないし45)及び弁論
の全趣旨によると,350万円であることが認められる。もっとも,原告製品
のうち高価格のものは,容量ないし処理量の大きいものと認められるから,こ
の点も考慮に入れると,原告製品の価格帯と,被告製品の価格帯の差はさほど
大きなものとは評価できず,本項ただし書にいう事情に当たるとはいえない。
ウ 寄与度について
本件特許発明は,破袋機の構造の中心的部分に関するものである上,原告は,\n一定のブランド力も有するものであるから,上記のとおり,多様な破袋機を製
造販売するメーカーが,原告,被告のほか多数あること等の被告の主張を考慮
に入れたとしても,本件特許発明が被告製品や原告製品に寄与する割合を減ず
ることはできない。
また,被告が日本唯一の雪上車メーカーであることは,本件と何ら関係のな
い事情である。
(6) まとめ(特許法102条1項による金額)
以上によると,特許法102条1項により,原告の損害は,単位数量当たりの
利益額351万2740円に,被告の譲渡数量5台を乗じた,1756万370
0円と推定され,この推定を覆す事情は認められない。
なお,特許法102条2項により推定される金額は,被告の売上額の合計が上
記金額に満たないものと認められる(乙41ないし44)から,本件においては
これを採用しない。
(7) 保守費用について
ア 特許権者は,物の発明にあっては,特許発明を使用した製品(以下「特許製
品」という。)の「使用」についてもその権利を専有するものであるから(特
許法68条,2条3項1号),侵害品の譲受人が侵害品を使用することもまた,
特許権侵害となり,不法行為を構成することになる。\nそうすると,侵害品を保守,修理することで,譲受人の侵害品の使用を継続
させたり,容易させたりなどした場合は,上記使用による不法行為を幇助する
ものとして,共同不法行為(民法709条,719条2項)を構成する余地が\nあるが,侵害品の保守,修理それ自体は,間接侵害(特許法101条)の規定
に抵触しない限り,独立の不法行為となるものではない。
イ 原告は,被告の使用者に対する保守行為を不法行為の幇助と構成し,前記検\n討した被告製品の譲渡による損害とは別に,保守行為によって被告が得た利益
相当額を原告の単価等により計算した上,これを原告の逸失利益として,被告
に対する損害賠償として請求するものであるが,本件においては,被告の保守
行為それ自体が独立の不法行為に当たることを認めるに足りる証拠はないし,
原告もそのような主張はしていない。
ウ また,本件においては,既に検討したとおり,侵害品の製造,譲渡を理由と
する損害賠償請求が認容され,これによって,原告の販売機会喪失等による損
害は全て填補されるところ,これとは別に,譲受人が侵害品を使用することに
よって,原告にどのような損害が生じるかは明らかにされておらず,これに対
する幇助として,被告がさらに損害賠償義務を負担すると認めるべき理由はな
い。
エ そうすると,原告の,保守費用相当額の損害賠償請求は,理由がないものと
いうべきである。
◆判決本文
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2014.04.17
平成23(ワ)3292 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月26日 東京地方裁判所
販売不可事情として7割に関しては除外されましたが、特102条1項により、1億6000万円を超える損害賠償が認められました。
以上によれば,本件発明1は,電池電圧低下を検出した場合に,従来技術において採用されていた,意味不明かつ耳障りなブザー音に代えて,意味が明確かつ耳障りでない音声メッセージによって電池交換を促すとともに,利用者が音声メッセージを聴取するための誘因として,視覚的効果を有する表示灯手段を採用し,さらに,表\示灯手段を視認して誘引された利用者が確認要求受付手段を利用することにより,確実に音声メッセージを認識できるようにしたものである。そうすると,本件発明1の技術的意義は,第1に,従来技術における意味不明かつ耳障りなブザー音に代えて音声メッセージを利用するようにしたことであり,第2に音声メッセージへ到達するための誘因として視覚的な表示灯手段を利用するとともに,利用者の確認要求によって音声メッセージを確実に認識できるようにしたことにある。このような技術的意義を有する構\成を採用したことにより,早期に確実に電池交換をすることが促進され,電池の無駄な消費も抑えることができるようになる。本件発明1の上記技術的意義に照らせば,本件発明1において,電池電圧低下の検出と同時に発することが排除されているのは,利用者がうるさがって電池を抜き出してしまう程度に耳障りな音声又はブザー音であって,表示灯手段による報知と併せて発音を行うこと自体が全く排除されているものではないと解するのが相当である。そして,ハ号及びニ号製品における「ピッ」音は,50秒単位で発せられるものであり,利用者に異常表\示灯手段への注意を促す程度のものとみることができるから,上記発音が,利用者においてうるさがって電池を抜き出してしまう程度に耳障りなものとは解されず,上記発音が本件発明1において排除されている音声に当たるものとは解されない。
・・・
また,被告は,原告は,平成20年8月までは,原告製品1及び2のみしか販売していなかったものであるから,同月末日までの間は,原告製品1及び2のみが「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たると主張する。しかし,特許法102条1項は,一定期間にわたる特許権侵害が認められる場合に,権利者の上記期間における競合品としてあり得べき権利者製品の販売機会の喪失による逸失利益を全体として評価して,これを権利者の受けた損害とするものであり,権利者製品と侵害品を厳密に1対1対応させ,販売機会の喪失を検討することが予定されているものではないというべきである。したがって,本件においても,特許法102条1項に基づく原告の損害を算定するに当たり,平成19年8月24日から平成24年3月末日までの期間を全体として捉え,原告製品を,いずれも,上記期間において「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるとみて,その平均利益をもって原告の損害を評価することは,特許法102条1項の上記趣旨に反するものではなく,許容されるものというべきである。(オ) よって,被告の主張はいずれも採用することができず,原告製品は,被告製品全部との関係において,「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるものと認められる。
ウ 「特許権者…がその侵害の行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益の額」
(ア) 特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは,原則として,権利者製品の売上高から変動費を控除した利益(限界利益)をいうが,費用のうち権利者製品の製造又は販売に直接必要な個別固定費も例外的に含むものと解するのが相当である。他方,本件発明は,その構成により,利用者が早期かつ確実に電池電圧低下を認識し,これを放置することなく早期の電池交換が促されることで,無監視状態で警報器が放置される事態を回避することが可能\になるという作用効果を有するものであるところ(前記第4の1(1)イ(ウ)),被告製品のカタログ等に本件発明に係る構成が記載されていること(上記(イ)e)に照らせば,本件発明の作用効果が購入者らによる製品購入(又は事業者による製品採用)の動機付けの一つとなっていることがうかがわれるものというべきである。ただし,火災警報器における基本的性能は,監視領域における火災等の異常を確実に検知し報知する点にあると考えられるのであって,電池電圧低下の検知及び報知は,異常を確実に検知し報知するための警報器の作動を確保するための機能\に関するものではあるものの,複数あり得る火災警報器の故障又は異常状態の一類型に対応するものにすぎないことや電池電圧の低下の検知及び報知については音声のみによる方法等の本件発明を実施しない他の方法もあり得ることを考慮すれば,本件発明に係る構成に基づく作用効果が,購入の決定的な動機付けとなり,又は製品を選択するに当たり大きな影響力をもつものとまでは考え難い。以上の諸事情については,被告製品の販売数量のうち,本件発明の作用効果を考慮してもなお他社の競合品によって代替されたと考えられる割合及び被告自身の営業力や本件発明の実施部分以外の被告製品の特性等により販売することができたと考えられる割合について,これらを総合して,原告が原告製品を「販売することができないとする事情」があると解するのが相当である。そして,上記諸事情に照らし,上記数量は7割とみるのが相当である。
(オ) 以上の認定に関し,原告は,パナソニック等の製品は本件特許権を侵害するものであるから,これらの製品の存在を考慮して,「販売することができないとする事情」を認定するのは相当ではないと主張するが,上記製品が本件特許権を侵害するものと認めるに足りず,採用することができない。(カ) したがって,前記アの被告製品の販売数量のうち,7割に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。
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2014.03.28
平成23(ワ)36583 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月20日 東京地方裁判所
独占的通常実施権者に対して、特許法102条1項による損害賠償が認められました。
原告製品1個当たりの利益の額は423.3円であること,被告は,平成21年2月23日から平成22年12月3日までに被告製品を10万0034個販売したことは当事者間に争いがない。また,証拠(甲30,乙7の1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成16年から19年までは年間20万個を超える原告製品を,平成20年から22年までも年間10万個を超える原告製品を販売しており,原告の保有する生産設備やこれまでの販売実績からすれば,原告が被告の譲渡数量について実施する能力を有していたことが認められる。よって,原告の損害額は4234万4392円となる(なお,被告は本件に特許法102条1項の類推適用があることを争っていない。)\n
・・・・
被告は,原告製品と被告製品の価格差が大きいこと,装身具用連結金具の市場における原告のシェアが30%程度であり,複数の競合品が販売されていることから,被告製品の譲渡数量の一部につき「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)があると主張する。そこで検討すると,前記争いのない事実等,証拠(甲31,32,乙8〜13。枝番号のある証拠はすべての枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すると,1)原告製品の販売価格は1個859.5円であるのに対し,被告製品は約467.5円であること,2) 装身具用連結金具製品を販売する業者は原告と被告のほかにも複数存在することが認められる。しかしながら,1)価格差のあることが上記ただし書の事情に当たり得るものであるとしても,本件においては,弁論の全趣旨によれば,装身具用連結金具がネックレス等の環状装身具の部品の一つとして使用されるものであり,最終製品である環状装身具の価格が連結金具の価格を大きく上回るものであることに照らすと,原告製品と被告製品に上記の程度の価格差があることから原告製品につき「販売することができないとする事情」があると認めることはできない。また,2) 他社の装身具用連結金具製品が,本件発明と構成を異にするものであり,かつ,操作性が容易であり,構\造が簡単でコスト的にも優れているという本件発明と同様の効果を奏するものとして,原告製品の競合品となり得る特徴を有するものであるかは明らかではない。
イ 次に,被告は,被告製品は別件発明に係る特許の実施品でもあるので,被告製品の販売における本件発明の寄与度は多くとも5割であると主張する。そこで検討すると,前記争いのない事実等(5)のとおり,原告と被告は,別件特許権の独占的通常実施権の侵害に係る別件訴訟において,被告が原告に解決金600万円を支払う,本件特許の独占的通常実施権侵害に基づく損害賠償債務の存在及び額が判決等により確定した場合には,この解決金を上記損害賠償債務に充当する旨の別件和解が成立し,別件特許権については原告と被告の間に他に債権債務はないことが確認されている。このような別件和解の経緯及びその内容に照らせば,被告製品の販売数量についての別件発明の寄与については,原告と被告の間では別件和解により解決済みであると解すべきであって,本件発明に係る独占的通常実施権侵害の損害額から別件発明の寄与度に相当する部分を減額するのは相当でない。
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2013.10. 7
平成22(ワ)17810 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月25日 東京地方裁判所
特許権侵害について102条1項および3項による損害賠償が認められました。
以上によれば,原告プレックスの損害は,以下のとおりである。被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品1及び2を合計61台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品1ないし4を同一数量販売して,1台当たり321万7327円,合計1億9625万6947円の利益を得ることができた。また,被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品3を合計10台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品5及び6を同一数量販売して,1台当たり436万8056円,合計4368万0560円の利益を得ることができた。この合計である2億3993万7507円が原告プレックスの損害と推定され,この推定を覆すに足りる事情はない。
(8) 原告イエンセンの損害について
ア 原告らは,原告イエンセンにつき,特許法102条3項により,1台当たり130万円,合計9230万円の実施料相当損害金を請求している。しかし,原告イエンセンは,被告による侵害期間中,原告プレックスに専用実施権を設定しており(甲1),被告との間でライセンス契約を締結して実施料を得られる可能性は全く存在しなかったのであるから(特許法68条ただし書き,77条2項),原告イエンセンは,特許法102条3項により実施料相当額を損害額と推定する基礎を欠いているものというべきである。イ 原告イエンセンが特許法102条3項に基づく請求ができないとしても,原告イエンセンに損害が生じていれば,民法709条の原則に従った損害賠償は可能である。被告が平成20年12月から平成24年2月までの間に被告製品71台(うち13台は海外向け)を販売したことは争いがないところ,原告製品1ないし4は被告製品1及び2の,原告製品5及び6は被告製品3の,それぞれ競合品であり,少なくとも国内においては他に競合品を製造販売する業者があったとは認められないことからすると,少なくとも国内において販売された被告製品58台分については,侵害の行為がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売していたであろうと認められ,原告プレックスが原告製品58台を追加販売していれば,原告イエンセンは1台当たり65万円,合計3770万円の実施料を取得することができたと認められる(甲16,計算鑑定の結果,弁論の全趣旨)。他方,海外向けに販売された被告製品13台分については,被告に立証責任のある特許法102条1項ただし書の適用に関する限り,原告プレックスに「販売することができないとする事情」の立証があったとはいえないことは前記のとおりであるが,原告らに立証責任のある民法709条の相当因果関係の問題として考えると,被告製品の販売先に対応する海外向け販売にはどのような条件が必要で,原告プレックスはこれを備えているのか否か,当該各販売先においても原告製品や被告製品の競合品は他に存在しないのか否か等は必ずしも明らかでなく,被告製品の販売がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売することができ,原告イエンセンが対応する特許料を取得することができたという相当因果関係の立証があったとまでは認め難い。そうすると,原告イエンセンは,被告の侵害行為により,原告プレックスから3770万円の実施料を取得する機会を失ったのであるから,同額を民法709条に基づく被告の侵害行為と相当因果関係ある損害として請求することができるというべきである。これは,原告イエンセンが原告プレックスの追加販売から得られたであろう実施料相当額であるから,原告ら間の契約で定められた1台当たり65万円(甲16)という額よりも高く,あるいは低く修正する余地はない。\nウ 被告は,原告プレックスが特許法102条1項の請求を行い,原告イエンセンが同条3項の請求を行えば二重請求となり,また本件発明を原告プレックスが有していたときに比べ損害賠償の総額が大きくなって不当である,などと主張するので,民法709条に基づく損害賠償請求との関係でも上記の点を検討する。原告プレックスの特許法102条1項の損害算定において,原告プレックスが原告イエンセンに支払っているロイヤリティーとして1台当たり65万円を変動経費として控除しているのであるから(計算鑑定書4,10頁),原告イエンセンに1台当たり65万円を民法709条に基づく損害として認めたとしても,二重請求となるものではないし,原告プレックスが自ら特許を有していたときよりも損害総額が大きくなることもない。
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2013.04. 3
平成24(ネ)10015 特許権侵害差止等本訴,損害賠償反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成25年02月01日 知的財産高等裁判所
原告は外国企業で、日本国内では独占的実施権者が実施している場合に、102条2項が適用されるかについて争われました。1審は、同3項で損害額を認定しましたが、知財高裁は同2項の適用を認めました。
上記認定事実によれば,原告は,コンビ社との間で本件販売店契約を締結し,これに基づき,コンビ社を日本国内における原告製品の販売店とし,コンビ社に対し,英国で製造した本件発明1に係る原告製カセットを販売(輸出)していること,コンビ社は,上記原告製カセットを,日本国内において,一般消費者に対し,販売していること,もって,原告は,コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること,被告は,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,被告の侵害行為(イ号物件の販売)により,原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。以上の事実経緯に照らすならば,原告には,被告の侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。これに対し,被告は,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,原告は,日本国内では,本件発明1に係る原告製カセットの販売等を行っておらず,原告の損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。しかし,被告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。したがって,本件においては,原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。以上のとおり,被告の上記主張は採用することができず,原告の損害額の算定については,特許法102条2項を適用することができ,同項による推定が及ぶ。
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◆原審はこちらです。平成21年(ワ)第44391号
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2012.10.26
平成22(ワ)10064 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年10月04日 大阪地方裁判所
102条1項による損害が認められました。
証拠(甲54〜56)及び弁論の全趣旨によると,原告は,祝園貯蔵庫工事に際し,4回にわたり,原告実施品(内型枠)を販売しているが,その際,いずれも外型枠と合わせて仕入れ,これを合わせて販売したことが認められる。上記販売における,外型枠と内型枠との価格内訳は明らかではなく,仕入れに際しては,資材の重量によって価格が決まることからすれば,上記価格の内訳は,外型枠と内型枠の重量比(内型枠は全体の4分の3)によって推計することが相当であり(甲56,57),内型枠の仕入価格は,仕入価格全体の4分の3であるから,販売価格も同様,販売価格全体の4分の3であると推計することとする。また,上記販売は,バイバック方式といい,後に原告が買い戻すことが予定されているものであり,その買戻価格は,常に当初の販売価格の●●●であり,納入先からは,上記買戻価格を予\め控除した残額の支払を受けていたことが認められる(甲54。以下,便宜上,上記控除後の金額を「販売価格)という。)。以上を踏まえ,証拠(甲54〜56,甲58の1・2,甲59の1〜5)及び弁論の全趣旨によると,内型枠1台当たりの売上額は,●●●●●●●●●円であると認められる。ところで,被告は,わずかな費用の加工費用で再度販売(バイバック方式)される場合であるにもかかわらず,原告の主張する●●●●●円という価格で,再販売品を購入する顧客はいないと主張する。しかし,上述したとおり,原告は,4回に渡り原告実施品を販売しており,その販売価格に多少のばらつきはあるものの,ほぼ一定していることが窺える。また,上記販売価格(平均●●●●●●●●●円)は,被告が被告製品1を賃貸した際の売上額(真柄建設に対する賃料:●●●●●円,奥村組に対する賃料:●●●●●円)とそれほど大きな違いはない。たしかに,仕入価格については,別紙計算表のとおり,祝園貯蔵庫工事における4回の販売の間でも,相当大きな変動が認められるものの,販売価格としてはある程度一定していると考える方が自然である。加工費如何によっては,利益率が大きく変動するものの,そのような販売形態があっても不思議ではなく,上記算定を左右するに足りる事情は見いだせない。
(イ)経費額
既に前記(ア)で述べたとおり,経費についても,売上額と同様の推計をすべきところ,証拠(甲54〜56,甲58の3・4,甲59の6〜9)及び弁論の全趣旨によると,原告実施品を製造するのに要した費用(仕入価格)は,別紙計算表のとおり,原告実施品(内型枠)1台当たり,●●●●●●●●円であると認めることができる。また,証拠(甲54〜56)及び弁論の全趣旨によると,営業経費についても,別紙計算表\のとおり,1台当たり●●●円であると認めることができる。
(ウ)原告実施品1台当たりの利益額
原告実施品の1台当たりの利益額は●●●●●●●●●円であったと認めることができる。
イ 実施能力及び寄与率
(ア)実施能力
被告は,原告が原告実施品と同じ型枠を2台しか保有しておらず,4件の工事に携わっていた当時,被告の顧客に販売する能力はなかった旨主張する。しかし,2台の保有により,4件の工事に提供していることからも,被告が被告製品1を賃貸した当時,上記保有の原告実施品を提供できなかったことを認めるに足りる証拠はなく,また,上記の事情のみにより,原告実施品と同等の製品を製造,販売する能\力がなかったともいえない。
(イ)顧客吸引力
被告はトンネル建設機械の分野において高いシェアを有していることが認められる(弁論の全趣旨)。建設機械の受注に際し,シェアなど,それまでの実績は,重要な要素となり得るが,それのみによって,契約の成否が決まるものではない。
(ウ) 発注の経緯
被告は,真柄建設にしても奥村組にしても,被告の納入する内型枠に原告特許発明1の技術を採用するか否かは,受注時には決まっておらず,真柄建設からは,受注後,上記技術の採用を依頼されたと主張する。しかし,被告自身,真柄建設から原告特許発明1(上記受注時には,原告特許1は登録されている。)の使用を依頼されたと述べており,しかも,それまでは,被告の納入する内型枠に原告特許発明1の技術が用いられることはなかったにもかかわらず,奥村組に対して販売した被告製品1にも同様の構成がとられていたことを併せ考えると,原告特許発明1が,受注に影響していないということは困難である。以上によると,被告の主張する発注の経緯にもかかわらず,原告特許発明1の採用と発注との関係を否定することはできず,むしろ,真柄建設からわざわざ原告特許発明1の実施を依頼されたということは,上記発明の寄与率が小さくないことを表\しているというべきである。
(エ) 従来工法との違い
証拠(甲53)及び弁論の全趣旨によると,従来,内型枠の外側で鉄筋の組立作業を行うにあたり,施工長さの短い工事では,足場を組み,施工長さの長い工事では,門型を利用して鉄筋組立作業を行っていた。これに対し,原告特許発明1を実施した内型枠では,足場を下から組み立てる必要や別途門型を製造する必要は原則としてなく,工期も短縮でき,その結果,コストを削減できることが窺える。もっとも,原告特許発明1を実施したからといって,内型枠の全てをカバーできるわけではなく,足場を下から組む必要が生じる可能性を否定できない。
(オ) まとめ
以上を総合すると,前記ア(ウ)の利益のうち,原告特許発明1の使用と相当因果関係のある利益は●●●であると認めるのが相当である。
ウ 小括
以上によると,被告が被告製品1を少なくとも2台賃貸したことにより,原告に与えた損害は636万9375円と算定するのが相当である。
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2011.09.22
平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件 平成23年09月15日 大阪地方裁判所
意匠権侵害が認定されました。いわゆる100均で販売された場合の損害額の認定で販売不可事情も認定されました。
(ア) 被告商品の価格について
被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。
(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソ\ーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソ\ーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソ\ーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(ウ) 競合品について
資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(エ) 本件意匠の寄与度について
原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能\よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。
(オ) 結論
これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。
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2011.06.14
平成19(ワ)5015 特許権侵害差止等請求事件 平成23年06月09日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定。損害賠償について寄与率も認定。期間を分割して102条1〜3項による損害額が認められました。
ウ そこで,被告各物件における本件各特許発明が売上に与えた寄与率を検討する。
(ア) 裏異物検出機能の意義証拠(甲26,57)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。近時,コンビニエンスストアなどでおにぎりが多く売れるようになり,海苔の需要が高まるとともに,厳しい品質管理が求められるようになった。海苔の場合は,異物の混入の有無が品質にも大きく影響し,その検出が重要な課題となっており,また,そのための装置が開発されてきた。そして,原告製品1,2及び被告各物件は,いずれも,乾海苔を一度くぐらせるだけで,その表\面,中,裏面の異物を検出することができる機能を有しており,これが同時にできないと,同じ作業を繰り返す必要があり,検出作業に要する手間や時間が増える(仮に,1台の機械をもって検出作業をするのであれば,2倍近い時間がかかる。2台〔2種類〕の機械を同時に使用する場合は,同様の時間を要することはないが,検出機の購入代金が割高になることが予\想されることのほか,2台分の設置場所や,検出機から排出された乾海苔を,改めて別の検出機にセットする手間を要する。)。したがって,表面や中だけでなく,裏面の異物検出機能\を有し,1回の搬送で検出を終えることのできる機能は,海苔異物検出機の販売に際し,大きな貢献を果たしているというべきである。
(イ) 本件各特許発明と代替技術本件明細書によると,本件各特許発明の出願以前の海苔の異物検出に関する従来技術として,目視に頼るか,上下のローラーで挟んでその厚みにより異物を検出する方法が記載されている。しかし,その一方で,次に述べるとおり,海苔の異物を検出する機能を有した装置自体は,開発がすすみ,普及していったことが窺われる。被告各物件においても,裏面検出機能\のほか,表面検出機能\と中検出機能を具備しているところ,中検出は検出対象物が違うものの,少なくとも表\面検出機能については,その機能\において違いがあるわけではない(前述したとおり,裏返しした上での検出が議論されているが,そもそも,そのような検出方法が不可能であることを前提とした議論はされていない。)。
・・・
オ 以上を総合すると,被告物件1の後期型の販売における寄与率は20%,被告物件2の販売における寄与率は25%と認めるのが相当である。
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2011.02. 7
平成20(ワ)36814 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成23年01月20日 東京地方裁判所
特102条1項による損害賠償が認められました。
(イ) 証拠(甲28〜38,40〜43。枝番号のある書証は,枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年度から平成21年度までの間に販売された原告製品の1台当たり限界利益(原告製品の売上高から,材料費(原告製品の材料に関する経費),消耗材料費(出荷前検査に要する試薬等の消耗される材料に関する経費)及び外注加工費(原告製品の組立てを外注委託する場合の加工賃等)を控除した金額。)は,別紙算定表記載のとおり,原告製品3000につき●(省略)●円であり,原告製品3000Sにつき●(省略)●円であると認められる。上記認定の利益額について,その合理性を疑わせるに足りる証拠はない。したがって,以下の計算式のとおり,原告製品17台の販売利益合計1億3578万2389円から原告製品1台当たりの物流関係変動経費(旅費交通費,運送費,配達費,燃料費及び宿泊費)である11万7000円の17台分である198万9000円を控除した1億3379万3389円が,原告製品の限界利益となる。\n
◆判決本文
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2010.04. 5
平成17(ワ)26473 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月26日 東京地方裁判所
ゴルフボールの特許について、10億を超える損害賠償が認められました。
(ア) 特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする旨規定している。被告は,本件においては,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないこと,原告各製品の市場におけるマーケットシェアを超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきであること,被告の営業努力,ブランド力及び販売力などの事情が存在し,これらの事情は,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」に該当するので,上記事情に相当する数量に応じた額を原告主張の損害額から控除すべきである旨主張する。・・・・以上・・事情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」があったものと認めるのが相当である。したがって,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。(イ)a これに対し被告は,原告各製品(5種類)が特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」であることを前提に,その「単位数量当たりの利益の額」を基に損害額を算定する以上,同項ただし書の「販売することができないとする事情」としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮する際には,上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきであり,当該市場占有率を超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきである旨主張する。しかし,i)ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は,市場占有率に反映されているといえるが,それを適切に評価するためには,ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると考えられること,ii)本件においては,原告各製品と競合する他社メーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされていないなど,被告各製品の譲渡数量のうち,原告各製品の市場占有率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できることを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば,被告の上記主張は採用することができない。b また,被告は,原告各製品及び被告各製品の販売において,本件訂正発明の対象である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされておらず,本件訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製品の購買の動機付けとなることはあり得ないから,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないことを,原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべきである旨主張する。しかし,前記(ア)b認定のとおり,ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能\,スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが,一般のユーザーはゴルフボールの性能\を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれることに照らすならば,原告各製品及び被告各製品の販売において本件訂正発明の対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないことを,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量を原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべき余地はないというべきである。
◆判決本文
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2006.09.27
◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所
均等論に基づく侵害が認定されました。また、損害額については、販売不可事情が考慮され、102条1項の対象となったのは、販売数量の1%と判断されました。ちなみに、残り99%についての102条3項の実施料相当額の請求は認められませんでした。
「前記判示のとおり,本件発明5は,「従来のものにおいては,マッサージ中は身体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では満足のいくものではないという問題があった。」(段落【0003】)ことを踏まえ,この技術課題を解決するために,座部用袋体と脚用袋体への圧搾空気の供給を同期させ,膨脹した脚用袋体によって両側から脚部を挟持しつつ,座部用袋体を膨脹させて使用者の身体を押し上げることにより,腿部及び尻部をストレッチ及びマッサージするものであると認められる。本件発明5の上述した課題,構成,作用効果に照らすと,本件発明5の本質的部分は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することにより,脚用袋体によって脚部を両側から挟持した状態で,座部用袋体を膨脹させ,脚部及び尻部のストレッチ及びマッサージを可能\にした点にあるというべきであり,そのために必要な構成要素として,空気袋を膨脹させて使用者の各脚を両側から挟持するという構\成には特徴が認められるとしても,使用者の各脚を挟持するための手段として,脚載置部の側壁の両側に空気袋を配設するのか,片側のみに空気袋を配設し,他方にはチップウレタン等の緩衝材を配設するのかという点は,発明を特徴付ける本質的部分ではないというべきである。」
「以上のとおり,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することによるストレッチ又はマッサージ効果にあるところ,本件では,?@本件発明5の機能は,控訴人各製品の一部の動作モードを選択した場合に初めて発現するものであること,?A本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであること,?B控訴人製品のパンフレットや被控訴人製品のパンフレットにおいても,本件発明5に係る作用は,ほとんど紹介されていないこと,?C本件特許5の設定登録当時,被控訴人の市場占有率は数%にすぎず,椅子式マッサージ機の市場には有力な競業者が存在したこと,?D控訴人製品は,もみ玉によるマッサージとエアバッグによるマッサージを併用する機能や,光センサーによりツボを自動検索する機能\など,本件発明5とは異なる特徴的な機能を備えており,これらの機能\を重視して消費者は控訴人製品を選択したと考えられること,?E被控訴人製品はエアーバッグによるマッサージ方式であり,その市場競争力は必ずしも強いものではなく,被控訴人の製品販売力も限定的であったなどの事情が認められる。これらの事情を総合考慮すれば,控訴人各製品の譲渡数量のうち,被控訴人が販売することができなかったと認められる数量を控除した数量は,いずれの控訴人製品についても,上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である。・・・・ 被控訴人は,仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人によって販売できないとされた分(99%)については,特許法102条3項の実施料相当額として販売額の5%が損害として認められるべきであると主張する。しかしながら,特許法102条1項は,特許侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに対し,特許法102条3項は当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれが前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権者によって販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請求しうる逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認することになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。」
◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所
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2005.02.14
◆H17. 2.10 大阪地裁 平成15(ワ)4726 実用新案権 民事訴訟事件
無償譲渡した分の数量についても実29条1項(特102条1項:原告の利益)による損害が認定できるかが争われました。
裁判所は、「被告が被告物件を譲渡したことによる損害を、実用新案法29条1項により算定するにあたっては、無償での譲渡数のうち4352個分に相当する額を控除すべきであるが、この分についても、被告は被告物件を譲渡したことによって本件実用新案権を侵害したものであるから、これにより原告に損害が生じているというべきである。そして、この分の損害については、同条3項により算定すべきものである(後記イ)。」と、判断しました。
◆H17. 2.10 大阪地裁 平成15(ワ)4726 実用新案権 民事訴訟事件
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