2023.09. 5
漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。
ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF
X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引
回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入
及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。
そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の
全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す
る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に
より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた
め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取
引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る
被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利
益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす
るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注
文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX
取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定
時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金
融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以
上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に
係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額
算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び
トレーディング損益であると認めるのが相当である。
これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い
た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵
害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、
当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ
ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と
の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損
益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。
そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被
告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ
る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず
れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。)
2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引
(以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取
引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を
生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず
れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額
算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ
れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と
する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る
実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基
礎から除外するのが相当である。
なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被
告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、
取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め
られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた
取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、
被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、
相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること
が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買
い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ
ることを意図するのといえる。
これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取
引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な
るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相
場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し
たものであったことが認められる。
これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項
に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると
するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果
としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取
引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、
消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日
までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で
あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引
数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で
あることが認められる。
そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる
「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で
ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において
は、●(省略)●ことが認められる。
しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。
そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日
より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完
全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。
これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上
記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。
他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ
る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在
り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率
に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料
率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように
した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続
で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売
り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を
受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格
だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ
て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文
価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\
成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取
引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより
多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を
有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ
ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注
し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動
に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続
注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が
あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注
文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること
を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。
弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間
(平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧
客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買
い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する
取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報
の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ
ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引
のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも
のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの
貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3
1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5
月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6
月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること
になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告
による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは
できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として
の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子
会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること
が認められる。
そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完
全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ
るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、
その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に
現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な
料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め
るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、
●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。
◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。
◆平成29(ネ)10073
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。
◆本件特許
(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス
ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の
1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売
するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ
たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、
価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である
と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より
も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品
に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含
まれるといえる。
したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品
と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原
告が販売することができない事情に該当するといえる。
もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場
内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2
5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲
得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて
おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由
とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え
て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維
長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット
ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、
4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各
特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。
また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1)
少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて
おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。
原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味
でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その
ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す
るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告
が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に
ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及
び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告
製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、
本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ
る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告
製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト
タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること
は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略)
●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。
被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する
と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在
するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す
るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販
売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売
価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及
び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で
あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1
−1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2
−2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3
−2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ
ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製
品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。
同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定
需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を
見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の
407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)●
枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製
品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定
の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ
イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品
の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ
ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで
はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売
することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由
として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営
業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買
動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘
案しても、このような事情には該当しない。
カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度
被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す
る本件発明の寄与度が零であると主張する。
しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作
用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主
張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に
身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属
しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす
る事情に該当と主張する。
しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発
明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、
被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合
があることをもって販売することができない事情が存すると解することは
相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を
有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格
であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め
られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全
体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し
受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。
なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく
訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する
「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく
は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号
に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。
しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の
喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で
あるとは認められない。
◆判決本文