2024.11.19
令和4(ワ)3344 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 大阪地方裁判所
薬の製法特許の侵害として、102条1項1号の特定数量について、同項2号が適用され、計約31億円の損害賠償が認められました。
被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないもので
あることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これま\nで毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関
における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。
前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬
剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができ
るというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるよう
になったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手
段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していない\nし、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものでは\nなく、採用できない。
一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことに
より、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法 用量や効能の\n点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限
界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅
が認められるというべきである。
・・・
原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定
数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該
数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できる
ようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回
らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患
者にとって負担が軽い用法 用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされる
ことなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。
本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供
給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者に
とって負担が軽い用法 用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペ
プチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、
現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本
件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨
をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。
◆判決本文
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2024.09.16
令和5(ネ)10053 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)
マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。
(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権
者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、
同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和
元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)
はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している
ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に
発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と
して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極
大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、
特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式
の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ
とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で
ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ
ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として
持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ
り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ
は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに
よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ
とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し
ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平
成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び
指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価
することができる。
したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ
ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原
告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利
行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ
うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利
行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本
件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ
いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで
あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ
とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、
グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明
瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純
粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が
多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で
あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し
た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業
からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成
績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい
る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及
び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価
することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許
権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す
ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ
ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ
る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな
るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵
害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ
て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法
102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本
件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録
を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と
代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一
定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた
めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい
て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献
は乏しいとの主張について
証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし
てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被
告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ
のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値
か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売
買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、
手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし
て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ
スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ
ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長
期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」
などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス
ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ
るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に
は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。
以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと
認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上
げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審
被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により
1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各
発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか
ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ
ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ
ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄
与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用
動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与
割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と
の間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法
102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する
合計●●●●●●●●●円と認められる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)17104
関連の侵害事件です(当事者が同じ)
◆平成29(ネ)10073
原審
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
◆判決本文
1審はこちらです
◆平成30(ワ)28930
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2024.06. 9
令和5(ネ)10037 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。
(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を
請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、
侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法
102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し
その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵
害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害
の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結
果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者
が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と
推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1
02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年
2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元
年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別
部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、
原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用
いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも
のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという
ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、
侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原
告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな
い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお
いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益
全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する
合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限
界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン
は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数
の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど
の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情
はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので
あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような
要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって
本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理
的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は
採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適
用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ
とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること
はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお
いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと
いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の
ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年
8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決
の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して
いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の
特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに
足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定
の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別
件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製
品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟
の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、
965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特
許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、
損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正
法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない
から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定
ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益
の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲
渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ
とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の
立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規
定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31
年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が
なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数
量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特
許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、
特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権
者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ
とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製
造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも
のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である
原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ
る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す
るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを
販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。
そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B)
のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●●
●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当
たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界
利益は4億1280万円となる。
なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物
であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を
用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件
各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい
てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低
追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込
んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも
のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売
していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認
めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万
円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害
額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た
りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施
料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数
量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損
害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する
ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾
をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施
料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで
きない。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成30(ワ)28931
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