2019.12.27
平成28(ワ)16912 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月4日 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、差止、102条2項による損害賠償を認めました。損害賠償額は計算鑑定人が計算しています。総額は不明です。
なお、クレームは「〜情報管理プログラム。」です。
2 争点1−1(被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別す
る識別情報」に当たるか)について
(1) 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件不動産サイトにお
ける物件の連絡先への架電等の仕組みは,以下のとおりであると認められる。
ア 本件不動産サイトにおいて,ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選
択すると,例えば,以下の画面のような,当該物件についてのウェブペー
ジが表示され,同ページの下段・右側に「電話」ボタンが表\示される。
イ 上記「電話」ボタンをユーザが選択すると,例えば,次の画面に遷移す
る。同画面には,架電番号が表示されるとともに「このページを開いて\nから10分以内にお電話をお願いいたします。」「上記無料通話番号は,
今回のお問合せ用に発行したワンタイムの電話番号です。」と表示される。\n
ウ ユーザが上記画面に表示された架電番号に架電すると,当該物件を管\n理する不動産業者に宜接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該
架電番号に架電しでも電話は繋がらず,接続先がない旨の自動音声案内
が流れる。
エ 上記イの画像の表示から,架建言することなく10分以上経過してから,
間一携帯端末で,同一の不動産物件について架電番号を表示すると,例え\nば,以下のとおり,別の架電番号が表示される。\n
オ 上記ウにより繋がらなくなった架電番号は, 53Jのユーザ、端末や商品に
対応した電話番号として再利用し得る。なお,ユーザが,同架電番号に
いったん架電をすると,その後も,同番号は端末上にリダイヤノレのため
再表示され,同時に,別の端末において異なる物件の連絡先として同ー\nの架電番号が表示され得る。\n
(2) 被告は,被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する
識別情報J (構成要件(1))に該当しないので,被告プログラムは,構成要件\n(1)を充足しないと主張する。
しかしr識別情報」の意義については,本件明細書等の段落(0019)
には「識別情報とは,架電先に関連付けられることによりその架電先を識別
する情報であj ると記載されているところ,証拠(甲6,7,乙2) によれ
ば,被告プログラムを使用してサービスを提供している本件不動産サイトに
おいては,ユーザが希望する物件を選択すると,当該物件の詳細情報が表示\nされた画面に問合せのための専用電話番号が表示され,当該番号が表\示され
るとその時点で架電番号がロックされた状態となり,その表示から一定期間,\n当該架電番号に架電するとその不動産業者に架電されるとの事実が認められ
る。そうすると,被告プログラムにおける架電番号は,「架電先に関連付け
られることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう
「識別情報」に該当するということができる。
(3) また,原告が行った実験結果(甲8・実施結果1。なお,以下の実験結果
はいずれも被告プログラムを使用している本件不動産サイトを利用したもの
である。)によれば,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末を用い,特定
の物件の連絡先画面を表示させると,特定の架電番号が表\示された,(ii)そ
のまま架電せずに前記連絡画面を閉じ,再び物件の連絡先画面を表示させる\nと同じ架電番号が表示された,(iii)ユーザが,異なる端末の電話機能を用い,\n同一の架電番号に架電しても,同一の連絡先である広告主に接続されたとの
事実が認められる。
上記結果は,被告プログラムにおいて,ある端末に特定の物件の連絡先に
繋がる架電番号を表示させると,それにより当該番号と架電先が関連付けら\nれ,それ以降は当該架電番号に対応する連絡先の不動産業者が識別されると
の上記(1)の認定を裏付けるものであり,同結果に照らしても,被告プログ
ラムにおける架電番号は,構成要件(1)にいう「識別情報」に該当するという
ことができる。
(4) これに対し,被告は,架電番号と発信者番号とで架電先を識別するので,
架電番号は,本件発明にいう「識別情報」に当たらないと主張し,端末に表\n示させた架電番号に発信者番号非通知の設定で架電した場合,架電先にも接
続されないという実験結果(乙3)は被告主張を裏付けるものであると主張
する。
しかし,架電前においては,被告プログラムは当該ユーザの発信者番号を
知らないはずであるから,架電前において,同プログラムが架電番号と発信
者番号とで架電先を識別するとは考え難い。上記実験において端末に表示さ\nれた架電番号に架電した場合に架電先に接続されなかったのは,後記のとお
り,被告プログラムが当該架電番号に架電した時点以降,架電番号と発信者
番号とで架電先が識別されていること(この点については当事者間に争いが
ない。)に起因するものと考えるのが相当であって,上記実験結果は,架電
前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定するに\n足りるものではない。
むしろ,原告の行った実験結果(甲9)によれば,発信者番号を送信し得
ないパーソナルコンピュータに本件不動産サイトを表\示した場合であっても,
物件の連絡先に繋がる架電番号が表示され,携帯端末から当該番号に架電し\nたところ,当該連絡先に接続したとの事実が認められ,これによれば,被告
プログラムは,架電前の時点において,架電番号により架電先を識別してい
ると推認することが相当である。
(5) 被告は,乙8の実験2の結果は,被告プログラムにおいて,1つの架電番
号が,同時に複数のユーザが複数の架電先に接続するために利用されている
ことを示しているので,当該架電番号のみでは架電先を識別し得ないと主張
する。
しかし,上記実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,
物件1の連絡先画面を表示させると架電番号が表\示された,(ii)端末(1)の電
話機能で当該番号に架電した後,1990台分の仮想端末を用い,それぞれ\n物件2の連絡先画面を表示させた,(iii)その後,上記(i)の時点から10分
以内に,端末(2)で物件2の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示
された,(iV)上記(iii)の後,前記(i)から10分以内に,端末(1)で再び物件
1の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示されたというものであ
ると認められる。
同実験の(iii)において,端末(2)において物件2の連絡先画面が表示された\nのは,上記(i)のとおり,端末(1)により架電をした後であるから,物件2の
連絡先画面が表示された時点においては,物件1の連絡先は,架電番号のみ\nではなく,架電番号と発信者番号とで識別されるようになっており,それゆ
えに,物件2の連絡先画面において同一の架電番号を表示することが可能\に
なったものと考えられる。
そうすると,上記実験も,架電前において表示された架電番号と架電先が\n関連付けられることを否定するに足りるものではないというべきである。
(6) 被告は,乙10の実験結果も,同一の架電番号が同時に複数のユーザによ
って未架電の異なる架電先に架電するための番号として用いられることを示
していると主張する。
ア 乙10の実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,物
件1の連絡先画面を表示させると架電番号Xが表\示され,同番号に架電し
た(午前2時10分),(ii)その後,端末(1)で物件2の連絡先画面を表示\nさせると,架電番号Yが表示された(午前2時10分),(iii)その後,1
994台分の仮想端末を用い,物件3の連絡先画面を表示させ,それぞれ\n架電番号を表示させた,(iV)端末(2)を用い,前記(ii)の表示から10分以\n内に,物件3の連絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示され(午前
2時14分),続いて端末(2)から架電番号Yに架電した(午前2時15
分),(v)端末(3)を用い,前記(ii)の表示から10分以内に,物件4の連\n絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示された(午前2時15分),
(vi)前記(ii)の表示から10分以内に,端末(1)〜(3)において,再度各物件
について架電番号を表示させると,いずれの端末においても架電番号Yが\n表示されたというものであると認められる。\n
イ 上記実験結果のうち,(iv)〜(vi)において端末(1)〜(3)において架電番
号Yが表示されたこと,取り分け,端末(1)において架電番号Yに架電をし
ていないにもかかわらず,端末(1)及び(3)に架電番号Yが表示されたことに\nついては,ある端末(この場合は端末(1))から架電すると,当該端末の発
信者番号が被告プログラムに登録され(この点は争いがない。被告準備書
面9の14頁参照),架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号に
ついても,架電番号と発信者番号とで識別されることによるものであると
考えられる。
このことは,原告が行った実験結果(甲15)からも裏付けられる。す
なわち,同実験(甲15・実験A−1,2)は,(i) 本件不動産サイト
のユーザが,端末Aを用い,物件Aの連絡先画面を表示させると,架電番\n号Aが表示された,(i) 端末Aの電話機能で架電番号Aに架電した後,\n端末Aで物件Bの連絡先画面を表示させると,架電番号Bが表\示された,
(iii) 前記(ii)から10分以内に,端末Bの電話機能を用い架電番号Bに\n架電しても,物件Bの連絡先である広告主には接続されなかった,(iv)他
方,前記(iii)の代わり,端末Aの電話機能を用いて架電すれば,物件Bの\n連絡先である広告主に接続されたというものであると認められる。同実験
結果によれば,架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号について
も,架電番号と発信者番号とで識別されるものと認めるのが相当である。
そうすると,上記アの(iv)〜(vi)において架電番号Yが表示されたの\nは,その時点において,端末(1)及び(2)については,架電番号Yと各端末の
発信者番号により関連付けが行われていたからであり,同実験結果も,架
電前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定す\nるに足りるものではないというべきである。
(7) 以上によれば,被告プログラムにおいて,未架電の端末にのみ架電番号が
表示されている場合には,当該架電番号は,「架電先に関連付けられること\nによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう「識別情報」
に該当するということができる。そして,前記判示のとおり,被告プログラ
ムが架電後においては架電番号と発信者番号とで架電先を識別しているとし
ても,このことは被告プログラムが構成要件(1)を充足するとの結論を左右す
るものではないというべきである。
したがって,被告プログラムは,構成要件(1)を充足する。
・・・
(1) 特許法102条2項所定の利益の額について
ア 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,
侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売すること
によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した
限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべ
きである(知的財産高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7
日判決参照)。
本件における計算鑑定の結果によれば,被告プログラムについては,平
成25年6月分から平成30年9月分までの間,別紙2−3(1)欄記載の売
上高があり,製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費の額は同
(2)欄記載のとおりであるので,その限界利益の額は同(3)欄記載のとおりで
あると認めることができる。
イ これに対し,原告は,●(省略)●であることを指摘し,別紙2−3(2)
欄記載の変動費に含まれる●(省略)●からの仕入費の額については,そ
の利益相当額50%を控除した額とするべきであると主張する(なお,当
裁判所は,この点に関する原告の主張のうち,●(省略)●が,被告サー
ビスを実質的に運営する共同事業者であって,共同不法行為者に当たるな
どとする主張については,時機に後れた攻撃防御方法を理由とする却下を
した。)。しかし,●(省略)●されるべきものでないことは当然であり,
また,その仕入価格が不当に高額に設定されていたといったような事情を
認めるに足りる証拠もないのであるから,この点に関する原告の主張を採
用することはできない。
ウ 他方,被告は,別紙2−3(2)欄記載の金額のほか,(1)通信回線及び通信
機器設備の利用料,(2)派遣労働者の費用,(3)専用プログラムの開発費も,
変動費又は個別固定費として控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙30〜32)によれば,上記(1)〜(3)の費用は,被告プ
ログラムにのみ費消されたものではなく,被告の提供する他のサービスに
ついても費消されているものであると認められ,被告プログラムの作成や
販売に直接関連して追加的に必要となった経費であるということはできな
い。
したがって,これを売上高から控除すべきであるとの被告主張は採用し
得ない。
エ もっとも,本件において,原告の請求の対象となる限界利益は,平成2
5年5月26日から平成31年4月30日までの利用に対するものである
のに対し,前記計算鑑定は,平成25年6月分から平成30年9月分まで
の売上を対象とするところ,乙27及び弁論の全趣旨によれば,これら各
月分の売上は,それぞれ前月分の利用に対応することが認められる。そこ
で,平成25年5月の利用については,同年6月分の限界利益の額を日割
り計算し,平成30年9月から平成31年4月までの利用については,平
成30年4月分から同年9月分までの限界利益の額の平均額を採用するの
が相当である。そうすると,特許法102条2項所定の利益の額は,この
計算によって得た別紙2−1(2)欄記載の額に,それぞれの時期における同
2−3(3)欄記載の消費税率を加算した額と計算されることになる。
(2) 推定覆滅事由について
被告は,被告サービスに対する本件発明の寄与率は0%と解すべきである
として,特許法102条2項における推定覆滅事由があり,その割合は10
0%であると主張する。
ア 同条項における覆滅については,侵害者が主張立証責任を負うものであ
り,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害
する事情がこれに当たると解され,同条1項ただし書の事情と同様,同
条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮すること
ができるものと解される。(前掲知的財産高等裁判所判決参照)
イ 被告は,被告プログラムの訴求ポイントは,PhoneCookieと
いう独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情報を
効果的に利用する点であるのに対し,本件発明の特徴点は,補正手続にお
いて付加された構成要件(6)であるから,被告プログラムと本件発明は訴求
ポイントが異なると主張する。
しかし,本件発明は,その構成要件が一体となって所期の効果,すなわ\nち,「架電先を識別するための識別情報を広告情報ごとに動的に割り当て
て,識別情報の再利用を可能とすることにより,識別情報の資源の有効活\n用及び枯渇防止を図る」(段落【0049】)とともに,「ウェブページ
への提供期間や提供回数に応じて動的に識別情報を変化させることにより,
広告効果を時期や時間帯に基づき把握すること」(段落【0050】)を
可能にするものであり,構\成要件(6)が出願審査の過程において補正により
付加されたとしても,同構成要件のみが本件発明の特徴点であると解する\nことはできない。
他方,被告プログラムを使用している本件不動産サイト(甲6)におい
ては,ユーザーによる架電の負担の軽減が課題として掲げられるとともに,
「その時・その人にだけ有効な『即時電話番号』を発行」し,「静的に電
話番号を割り振るのではなく,ユーザーのアクションに応じて動的に電話
番号を割り振」るとの内容を有することが記載されていることが認められ
る。
上記本件不動産サイトに記載された「その時・その人にだけ有効な『即
時電話番号』を発行」し,「動的に電話番号を割り振」ることは,「識別
情報の資源の有効活用及び枯渇防止を図る」などの本件発明の効果を発揮
する上で不可欠な要素であり,被告プログラムにおいてもこうした構成を\n備えた結果,その顧客は本件発明と同様の効果を享受しているものという
ことができる。
被告は,被告サービスの訴求ポイントについて,PhoneCooki
eという独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情
報を効果的に利用することができる点にあると主張するが,同技術が被告
サービスの売上に貢献したことを具体的に示す証拠はない。
そうすると,被告プログラムがPhoneCookieという独自技術
を用いているとしても,この点を覆滅事由として考慮することはできない
というべきであり,被告がそのために被告を特許権者とする特許技術(特
許第5411290号,特許第5719409号)を使用していることも,
上記結論を左右しない。
ウ 被告は,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能は,従来技\n術にすぎないと主張する。
しかし,原告が従来技術として挙げるLRU方式は,前記判示のとおり,
使用されてから最も長い時間が経った架電番号から順に利用する方式であ
り,本件特許とはその採用している方式が異なるものであり,本件発明が
従来技術として利用しているものではない上,市場において本件発明と同
様の効果を奏する代替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関\n係にあるということはできない。
また,被告は,被告を特許権者とする前記特許明細書に記載された方式
によっても,本件発明を代替することが可能であると主張するが,同方式\nは,架電番号の在庫が尽きた場合に,これを初期化し,その初期化したこ
とを通知するものであり(乙18・段落【0095】),本件特許とはそ
の採用している方式が異なるものであり,本件発明が従来技術として利用
しているものではない上,市場において本件発明と同様の効果を奏する代
替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関係にあるということ\nはできない。
以上のとおり,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能が従\n来技術にすぎないとの被告主張は理由がなく,この点を推定覆滅事由とし
て考慮することもできない。
エ したがって,本件においては,被告が得た利益の全部又は一部について
推定を覆滅する事由があるということはできない。
(3) 小括
前記のとおり,特許法102条2項の「利益」の額は,別紙2−1(2)欄記
載の額に同(3)欄の消費税率を乗じた額であり,同項における推定覆滅事由が
あるとは認められないので,被告が賠償すべき額は,その10%に相当する
弁護士費用相当額を加算し,一円単位に切り捨てた別紙2−1(5)欄のとおり
と計算される。また,弁論の全趣旨によれば,これらの損害の発生日は,遅
くとも,それぞれ同(6)記載の日であると認められるので,各同日から支払済
みまでの遅延損害金の請求をすることができる。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
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2019.11.18
平成29(ワ)7576 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月19日 大阪地方裁判所
特許権侵害の損害について、7割の限度で特許法102条2項による推定が覆滅され、3項で相当実施料率は4%と判断されました(双方争いなし)。
以上を踏まえ,顧客吸引力の観点から被告第2製品における本件第2
及び第3特許の技術的意義の有無及び程度を検討すると,まず,本件被告カタログ
記載の「6つの特徴」の1つとして,被告第2製品は「素手で持っても痛くありま
せん。」との記載がある。「テーパ部」の解釈に関する被告の主張をも考慮すると,
これは「テーパ部」の存在をうかがわせるものとも理解し得るものの,いかなる構\n成によって「素手で持っても痛く」ないことを実現しているのかは具体的に示され
ていない。当該記載に付された写真では,製品のアンカーボルト挿通用の開口部に
手指を通して握る形で,当該開口部を囲む部材のうち長辺部分をなす部材のうちの
1つを掌全体で把持していること(甲4,乙32)に鑑みると,「テーパ部」の存在
故に「素手で持っても痛く」ないという効果を奏しているとも断じ得ない。また,
本件第2発明の効果2に言及する記載もない。
さらに,本件被告カタログには,「6つの特徴」の1つとして,「スピード施工」
が挙げられているところ,その部分には,被告第2製品の片方の端部の接続部につ
いて「連結構造」との説明が付されている。もっとも,「連結構\造」とされる接続部
の構造や接続の仕方ないし効果に関する説明はない。\nむしろ,前記認定のとおり,本件被告カタログでは,被告第2製品の強度や換気
性能,供給・品質・価格の安定性,カットしやすい独自の形状を有する省施工商品\nであること等が強調されている。
この点は,原告や同業他社のカタログ等にも共通する。このうち,原告のカタロ
グ等には「テーパ部」や「接続部」に関する記載も見られるものの,その構造は具\n体的に示されておらず,作用効果も,他の記載と比較すると,強調の度合いは低い。
むしろ,全周敷き込みの簡単施工や特殊構造の換気スリット・防鼠材といった点が\n前面に出されて強調されている。
以上の事情に加え,被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しない形で使用され
ることがあり得ることは否定できないこと(ただし,実務上そのような使用態様が
採られる割合は不明である以上,この事情を推定覆滅に当たって過大視することは
できない。),前述のとおり,台輪の幅方向への移動を防止する別の方法もあること
を踏まえると,本件第2及び第3発明は,施工容易性の実現という観点から一定の
顧客吸引力を有するといえるものの,本件第2発明の「テーパ部」の構成や本件第\n3発明の構成要件3C〜3Gの構\成を有することによる顧客吸引力は,相対的には
小さいというべきである。
なお,被告は,被告第2製品の形状変更後に売上げが増加したことを指摘してい
るが,その裏付けとなる資料(乙60)は形状変更後の4か月の売上額を集計した
ものにすぎないし,売上げの変動要因としては様々なものが考えられることから,
上記事情が直ちに本件第2及び第3特許が被告第2製品の需要に与える影響が小さ
いことを裏付けると見ることはできない。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限度で特許法102条2
項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の
各主張はいずれも採用できない。
エ ミサワホームに生じた損害
本件第2及び第3特許がいずれも持分2分の1の割合による原告とミサワホ
ームの共有であることは当事者間に争いはなく,また,弁論の全趣旨によれば,ミ
サワホームが自社施工工事分を除きこれらの特許を実施していないことが認められ
る。そして,原告及び被告いずれも,特許法102条3項に基づき損害額を算定す
る場合の本件第2及び第3特許の相当実施料率を4%程度とし,これを不合理ない
し不相当と見るべき事情もないことから,相当実施料率は4%と認められるところ,
相当実施料率を乗じる対象となる売上額を消費税込の金額とすべき証拠はない。
そうすると,次のとおり,1463万7125円をもってミサワホーム(なお,
同社が本件第2特許の持分を取得する以前の損害賠償請求権を持分譲渡人が有して
いるのであれば,その譲渡人を含む。)の損害額と認めるのが相当である。
そして,侵害された特許権が共有であったことにより侵害者の賠償すべき損害額
が単独保有の場合に比較して増額されるいわれはないことなどから,原告との関係
においては,更にこの限度で,特許法102条2項による推定が覆滅されるとする
のが相当である。
(計算式) 売上額7億3185万6254円(税抜)×4%×1/2=146
3万7125円
オ 原告の損害額
以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,別紙「被告第2製
品に係る損害額(裁判所の認定)」の「原告の損害額」欄記載のとおり,4867万
8376円と認められる。
(計算式) 被告の利益の額2億1105万1670円×0.3−1463万7125円=4867万8376円
(4) 原告の予備的主張について\n
原告は,被告工場製品の製造販売について,特許法102条2項に基づき推定
される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合には,予備的に,同項に基づく\n損害額を主張する。
しかし,前記認定から明らかなとおり,特許法102条3項に基づき推定される
原告の損害額は,同条2項に基づくそれを上回るものではないから,この点に関す
る原告の主張は採用できない。
仮に,原告の主張が,被告工場製品を除く被告第2製品の販売による損害につい
ては特許法102条2項に基づき賠償請求しつつ,被告工場製品の販売による損害
については,同項に基づき算定される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合
に,予備的に同項に基づく損害額を主張する趣旨であったとしても,前記3(2)ウ
(オ)で判示したとおり,被告工場製品とそれ以外の製品とで訴訟物が異なると見るべ
き根拠はないから,原告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用(本件第1特許権の侵害分も含む。)について
原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,被告の本
件第1〜第3特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,510万
円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護
士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っ
ていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,被告
の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠
償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
(6) 原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について
原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による
損害に対する遅延損害金の金額は,別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認
定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合
計1231万6870円である。
◆判決本文
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2019.10. 2
平成28(ワ)12296 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月10日 大阪地方裁判所
特許権侵害認定されましたが、損害額については102条2項について、「他の店舗用品とを組み合わせて販売されたバンドル取引商品である」ことを覆滅事由として、6割の推定が覆滅されました。
まず,被告が経費として主張する製造委託費,検査費等は,いずれ
も侵害者である被告において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接
関連して追加的に必要となった経費に当たると認められるから,被告の利益額を算
定するに当たり,上記販売金額からこれらの経費の金額を控除すべきである。
b そして,乙53,56ないし61及び弁論の全趣旨によれば,製造
委託費(樹脂やプレートの材料代,プレートの組付費用を含み,金型の作成費用は
含まない。),検査費等として,別紙「被告の損害論における主張」の「被告の経
費額」欄記載の経費を支出したと認められる。
c 原告らは,被告主張の仕入価格には高すぎるなどの疑問があると主
張して,被告主張の経費のうち「製造委託費」の金額を争っている。
しかし,この主張は特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利
益の額の算定の問題に関連する主張であるが,そもそもその利益の額(限界利益の
額)の主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであるから(知財高裁令和
元年6月7日判決・最高裁ウェブサイト),そのような観点から検討すると,原告
らは原告製品の製造販売に係る経費と対比をするのみで,被告製品の製造販売に係
る経費について具体的な立証をしているわけではない。
他方,被告製品の製造委託先は,被告と資本関係にあるわけではなく(乙62,
弁論の全趣旨),被告の主張する製品1個当たりの製造委託費は,別紙「被告主張
の被告製品1個当たりの経費額」の「製造委託費(材料費込)」欄記載のとおりで
あるところ,その金額には一定の裏付け(乙56ないし61)がある。したがって,
原告らの上記指摘によって前記認定は左右されず,下記(ウ)で認定する金額を超え
る利益が被告に生じていたことを認めることはできない。
(ウ) 被告の利益額
以上によれば,被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は,別
紙「被告の損害論における主張」の「被告の限界利益」欄記載のとおり,合計(中
略)円と認められる。
イ 推定覆滅事由の有無
(ア) 特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立
証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果
関係を阻害する事情がこれに当たると解され,例えば,(1)特許権者と侵害者の業務
態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,
(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能\,デザイン
等特許発明以外の特徴)などの事情について,考慮することができるものと解され
る(前掲知財高裁令和元年6月7日判決)。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告扶桑産業について(甲1,33)
原告扶桑産業は,資本金の額を2500万円とする会社であり,その従
業員数は30名程度である。そして,原告扶桑産業は,店装用備品等の企画,製造
販売,陳列器具及び店舗什器関連備品等の製造販売等を事業品目とし,全国スーパ
ー量販店備品卸売業者,全国インテリア装飾・店装業者等を取引先としている。そ
して,原告製品については,被告や他の企業に対して卸売販売され,そこを通じて
小売量販店に販売された(量販店の各店舗に設置された)ほか,原告扶桑産業から
直接,株式会社サンリオの直営店等の量販店に販売されることもあった。
b 被告について(乙1,53ないし55,65ないし66の5)
(a) 被告は,資本金の額を1億円とする会社であり,その従業員数は
3000人程度で,平成28年度の売上高は1220億円(グループ全体で346
0億円)であり,平成20年から東北楽天ゴールデンイーグルスのメインスポンサ
ーとなっている。そして,被告は,生活用品の企画,製造,販売を事業内容として
おり,販売している商品は,LED照明,家電,調理用品,日用品,収納用品,ハ
ードオフィス・資材等多岐に渡っており,被告のこれらの商品は全国のホームセン
ターで販売されている。
(b) 被告は,量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するの
ではなく,内装工事を含め,店舗のあらゆるスペースをデザイン・プロデュースし,
店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行っている。
そして,被告は,販売する什器について,500頁を超えるカタログ(乙1,5
4)を作成しており,そこに掲載されている什器は,カードケースを含むシステム
什器だけでなく,内装・棚下照明,陳列用什器,インフォメーション器具,販促用
品,オフィス家具,運営サポート用品及び照明・演出用品といったように,多岐に
渡っている。
(c) 被告が顧客との間で上記(b)の取引をする場合の流れは,次のと
おりである。すなわち,まず顧客から要望についてヒアリングをした上で,それを
もとに現地調査をする。その後,顧客から建築平面図等を取得し,什器の配置を検
討し,顧客と打合せをした上で,什器配置図等を作成するとともに,コストをシミ
ュレーションする。そして,顧客の要望に応じた什器・オプションアイテムを提案
し,納品内容を確定した上で,現場への納品や施工の手配を行う。
(d) 被告が平成25年12月5日,ある株式会社に対して発行した見
積書(乙55)では,取引金額が合計(中略)万円(税抜)とされたが,そのうち
カードケースの代金額は(中略)円(個数は合計(中略)個)であった。
(e) 平成26年の被告製品の販売金額は,合計(中略)円であったが,
その大半((中略)円)はカードケースと他の店舗用品とを組み合わせて販売され
るいわゆるバンドル取引によるものであった。
c 原告扶桑産業と被告との間の取引
(a) 被告は,遅くとも平成24年1月以降,原告扶桑産業から原告製
品を購入しており,同月から平成25年11月までの原告製品の販売数量は,次の
とおりであった。
・・・・
(b) 上記(a)のうち平成25年の原告製品4(ただし,QPCII−65
を除く。)の販売数量・販売金額は次のとおりであったほか,平成26年ないし平
成28年の原告製品(ただし,QPCII−65を除く。)の販売数量・販売金額は,
次のとおりであった(乙78の2)。
・・・・
(ウ) 被告の主張について
a まず,被告は被告製品1,4,6及び10については,原告製品に
相当するものがないことを指摘している。
しかし,上記各被告製品は,原告製品と色やサイズが異なるだけであり,原告扶
桑産業が販売している他の色やサイズの製品が購入されなかったとまで認めること
はできないし,原告扶桑産業が販売していた製品をみる限り,原告扶桑産業が被告
製品と同じ色やサイズの製品を製造し,販売することができなかったと認めること
もできない。
したがって,被告の上記主張は推定覆滅事由とならない。
b 次に,被告は取引の実情として,被告製品の販売方法や,被告によ
る販売力・営業努力・企業規模・ブランドイメージを理由とする推定覆滅を主張す
る。
(a)(1) 前記認定のとおり,被告が販売している什器は多岐に渡ってお
り,また量販店等の店舗向けに,什器・備品を単体で販売するのではなく,内装工
事を含め,店舗全体又は売り場全体の什器・備品を総合的に販売することも行って
いた。そして,前記認定事実によれば,被告製品は,その大半が他の店舗用品と組
み合わせて販売されるいわゆるバンドル取引によって販売されていた。
しかも,前記認定事実によれば,そのようなバンドル取引の取引額に占めるカー
ドケースである被告製品の販売額はわずかであったと認められる。
このような被告製品に係る取引の実情によれば,被告製品の需要者の大半は,カ
ードケースである被告製品に殊更に注目して被告製品を購入したというよりも,他
の店舗用品と組み合わせて購入できる利便性や,内装工事を含めて店舗全体又は売
り場全体の什器・備品を総合的に購入することができるという被告の販売体制に魅
力を感じて,被告と取引をするに至り,その取引の一環として被告製品を購入した
と認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張について
原告らは,被告がドン・キホーテの店舗内装を受注するに当たり,
ドン・キホーテから原告製品を使用するよう指示されたため,原告扶桑産業と原告
製品の取引をするようになったとか,バンドル取引においても原告製品を組み込む
需要があり,被告がその需要に応え,顧客との取引を維持するために原告製品を侵
害品である被告製品に置き換えたなどと主張する。
確かに,被告は現在でも,原告扶桑産業から原告製品を購入しているから,本件
発明の技術的範囲に属する製品を購入し,エンドユーザーにこれを販売する一定の
需要があったというべきである。
しかし,原告らが主張する原告扶桑産業との取引開始の経緯や,被告が本件特許
のライセンスを求めたことについては,これを認めるに足りる証拠はないし,被告
が,被告製品のモデルチェンジをして,本件特許権の侵害とならないカードケース
を販売するようになった後,被告のバンドル取引による売上げが減ったとの事情も
認められない。
以上の事情に加え,前記認定の被告製品の取引の実情を踏まえると,被告が顧客
との取引を維持するために原告製品を侵害品である被告製品に置き換えたとまで認
めることはできず,原告らの上記主張は採用できない。
(3) そうすると,被告主張の事情は,侵害者である被告が得た利益
と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を相当程度,阻害す
る事情といえる。
(b) また,被告の企業規模や販売する製品の多様性は前記認定のとお
りであり,被告が被告製品を販売するに当たり,被告自身の販売力や企業規模,ブ
ランドイメージか需要者に与えた影響も小さくないものというべきである。
したがって,この事情も,上記(a)の事情と相まって,侵害者である被告が得た利
益と特許権者である原告扶桑産業が受けた損害との相当因果関係を一定程度,阻害
する事情といえる。
(c) なお,被告はその他に自身の営業努力も推定覆滅事由として主張
するが,被告製品に関する事実関係が明らかではなく,事業者は,製品の製造,販
売に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であることを
踏まえると,推定覆滅事由として考慮すべきとまでいうことはできない。
c 被告は代替品・競合品(乙67ないし72)の存在を指摘している。
しかし,推定覆滅事由として考慮する競合品といえるためには,市場において侵
害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決)。このような観点から被告主張の製品を検討すると,被告が指
摘する製品には,その具体的構成や使用方法が判然としないものも含まれているほ\nか,カードケースが上保持部と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本\n的部分を備えたものと認めることもできないから,被告指摘の製品を代替品ないし
競合品ということはできない。また,被告指摘の製品の販売時期等も不明である。
したがって,被告の上記指摘によって推定が覆滅されるとはいえない。
d 被告は,乙73ないし77の先行技術等の存在を指摘して,被告製
品の販売に対して本件発明の技術的意義が寄与する程度は低いということを主張す
る。
しかし,被告が指摘する乙73ないし77はいずれも,カードケースが上保持部
と下保持部を備えるなどという本件発明の構成の基本的部分を備えたものと認める\nことはできない。また,被告が指摘する乙77は,表示板支持棒の先端に表\示板が
取り付けられているものの,その取り付け方法は,指示棒の先端に平板部分を設け,
その下面に突設されたピンに表示板を保持するというものであり(乙77の【考案\nの詳細な説明】の【0021】),本件発明の構成とは大きく異なっている。それ\nだけでなく,被告製品が販売されていた時期に,本件発明の作用効果の一部を奏す
るとされる技術があったとしても,それだけで直ちに,原告扶桑産業において,本
件特許の全構成を備えた被告製品の販売による利益に相当する損害を被ったことが\n否定されるとはいえない。
したがって,被告の主張の技術的観点からの主張は採用できない。
e 以上より,本件では前記b(a)及び(b)記載の事情を推定覆滅事由と
して考慮すべきところ,前記認定・判示の事情を踏まえると,6割の限度で推定が
覆滅されると認めるのが相当である。
この点に関し,被告は顧客が原告らに注文して原告製品を購入するという行動に
出たという可能性は皆無であったなどとして,推定覆滅率を99.09%とすべき\n旨主張する。
確かに,被告が原告扶桑産業から原告製品を購入すべき義務を負っていたという
事情はうかがえないから,被告が原告製品以外のカードケースを販売すること自体
は自由にできたことと認められる。
しかし,他方で,被告は遅くとも平成24年1月以降,原告製品を購入し,量販
店等のエンドユーザーに対して販売しており,以前原告製品を購入したことのある
エンドユーザーがバンドル取引において原告製品を組み込むことを希望する可能性\nも否定できない。また,前記認定のとおり,被告製品の販売を開始した平成25年
2月以降も,原告製品の購入を完全にやめたわけではなく,量販店等のエンドユー
ザーへの販売もされていたことが推認されるから,被告において原告製品を購入し,
これをエンドユーザーに販売する必要性が全くなかったとまで認めることはできな
い。むしろ,従前の経緯を踏まえると,被告が本件特許の侵害品を販売しなければ,
原告扶桑産業から原告製品を購入し続け,原告扶桑産業が利益を得ていた可能性も\n一定程度認められるものというべきである。
したがって,被告が主張するように99.09%もの推定覆滅を認めることは相
当でない。
f 他に共有者がいることによる控除(推定覆滅)
(a) 被告は,特許法102条2項に基づく原告扶桑産業の損害は,同
項に基づき算定される逸失利益の2分の1にとどまると主張する。
しかし,特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないで
その特許発明の実施をすることができるものの(特許法73条2項),その価値の
全てを独占するものではないことに鑑みると,特許法102条2項に基づく損害額
の推定を受けるに当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失
利益額を推定されると解するのが相当であり,共有持分の割合を基準に共有者各自
の逸失利益額を推定すべきものではない。本件においては,前記(1)オで検討したと
おり,原告製品を製造して被告に販売するという実施による利益は原告扶桑産業に
帰属し,原告ソーグは,これに伴って金員を得ていたにすぎないから,原告扶桑産\n業の損害額を算定するに当たり,特許法102条2項に基づく利益額の算定から,
共有持分の割合に応じて2分の1を控除(推定覆滅)すべき理由はない。
しかしながら,原告ソーグについては,被告製品の販売により,特許法102条\n3項の実施料相当額の損害を観念し得ることは既に述べたとおりであり,この場合
に,特許権の共有者の一部(原告扶桑産業)が同条2項により侵害者に対し損害賠
償請求権を行使するに当たっては,同項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他
の共有者(原告ソーグ)の同条3項に基づく実施料相当額(共有持分の割合により\n取得する。)の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である(知財高裁平成30
年11月20日判決・最高裁ウェブページ)。
(b) そこで,原告ソーグが被告に対して請求することができる特許法\n102条3項に基づく実施料相当損害金の額について検討する。
この点について,被告は原告らの間で支払われていた差益をもとに実施料率を算
定すべきと主張するが,原告らが指摘する差益は特許権の共有者間で支払われてい
るものであり,その具体的内容や法的位置付けは判然としない(なお,原告らは訴
状において原告製品の原材料の売買による差益と主張していた。)から,この金額
を実施料相当損害金の額を算定するのに用いることは相当でない。
そこで,本件では業界における実施料の相場を考慮に入れつつ,相当な実施料率
を認定するのが相当である。
被告はそれを前提としつつも,本件発明の寄与度や被告による販売力等を考慮す
ると,原告ソーグの共有持分(2分の1)に係る相当な実施料率は0.025%で\nあると主張するが,推定覆滅事由に関する前記判示によれば,本件発明の寄与度を
考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条
件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最
頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の
構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,\n前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメー
ジ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらに
は特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料
率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和
元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべ
きであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:\n被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。
(c) そして,原告ソーグについて特許法102条3項により算定した\n(中略)円を,原告扶桑産業との関係では,前記eの推定覆滅に加え,さらに控
除(覆滅)すべきことになる。
ウ したがって,原告扶桑産業の特許法102条2項に基づく損害額は(中
略)円(計算式:(中略)円×4割(推定覆滅後)−(中略)円)と認められる。
なお,原告扶桑産業は特許法102条1項に基づく損害の主張もしているが,原
告ら主張の原告らの利益額は(中略)円であるところ,特許法102条1項ただし
書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の
推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27
年11月29日判決参照),本件では前記判示に照らすと,原告らの利益について
6割の限度で「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当で
ある。そうすると,原告ら主張の利益額について立証されているかを検討するまで
もなく,同条1項に基づく損害額が前記認定の同条2項に基づく損害額を下回るも
のであることは明らかである。
エ 原告扶桑産業は,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起
等を委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告扶桑産業の損害額は合計(中略)円となる。
(3) 原告ソーグの損害額\n
原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害額は,上記認定のとおり,(中\n略)円と認められる。
そして,原告ソーグは,原告ら訴訟代理人及び補佐人弁理士に本件訴訟の提起等\nを委任したところ,被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は(中
略)万円と認めるのが相当であり,原告ソーグの損害額は合計(中略)円となる。\n
4 以上より,原告らの請求は,それぞれ主文第1項及び第2項に掲げる限度で
理由があるから,その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄
却することとして,主文のとおり判決する。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
◆別紙3
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2019.08.15
平成29(ワ)4311 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月18日 大阪地方裁判所
特許権侵害で102条2項に基づく損害として1000万を越える損害額が認定されました。利益を計算するに当たって、消費税を控除すべきかについても判断されています。
後記検討する【図2】及び【図3】の問題を除けば,上記検討した本件明細
書の記載には,肘置き部が,施術部よりも上方部で施術部に連結していなければな
らないことを積極的に示すような内容は存しないと思われるのに対し,本件発明の
効果の観点では,肘置き部は,施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位
置で,施術部に連結されると解するのが合理的である。
そして,本件発明1の文言において,「上方位置」と「施術者の上方部」とは近
接する位置で使用されており,本件補正により追加された際にも,当然両者を認識
の上,別異の意味を有するものとして使用されたと解されるところ,前述のとおり,
「上方位置」が施術部よりも上方部の意味である以上,「施術部の上方部」はこれ
とは異なる意味であると解され,このことに,上記検討した本件明細書の記載内容
を総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」は,施術部における上方部,すな\nわち,施術部の上下方向における略中心を想定し,それよりも上方の部分を指すと
解するのが相当である。
被告らは,構成要件Cが本件補正により追加された要件であるところ,特許\n請求の範囲の補正に当たって新たな技術的事項の導入は許されないとして,本件明
細書の【図2】及び【図3】においては,肘置き部の上方位置の背面に連結部であ
る水平軸が設けられていることから,本件発明における「上方部」は,構成要件B\nの「上方位置」と同様,「施術部の,それより上の部分」(施術部を含まず,施術
部に対して上)と解釈せざるを得ないと主張する。
確かに,本件明細書の【図3】では,肘受け部の回転軸が,施術部の上縁より少
し上方に存するように見えるが,これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明
示されているし(【0015】),回転軸が,施術部の上縁に接する状態であれば,
これも,施術部における上方部に,肘置き部が連結されているといえなくもない。
その他の【図】で開示されている実施例では,肘置き部がどの位置で施術部に連
結され,回転軸がどの位置に存在するかは全く不明といわざるを得ないが,少なく
とも,施術部における上方部に肘置き部を連結する構成と,明らかに矛盾するよう\nな内容は存しない。
イ 出願経過及び本件意見書の記載について
本件意見書には,「4.特許法第29条第2項の拒絶の理由がないことの説
明」という表題の下,「(a)本願第1発明の説明」として,本件発明1につき,\nアイメイクの施術部位は被施術者の目尻,目頭,瞼,まつ毛,眉毛等であるため,
この施術部位の周辺に施術者の手を配置すれば,必然的に肘の位置は手の位置を基
点とした範囲内(被施術者の頭部周辺)になるところ,その範囲で肘を支える部材
として肘置き部を備えたのが本件発明1であること,肘置き部が施術部の上方部を
基点として,これを軸に施術部に対して回動することで施術部に対する角度が変化
するが,肘置き部がどのような角度に調整された場合であっても,回動する範囲は
施術部の周囲(頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置)において一定で
あるため,肘置き部が回動する範囲は,施術部位周辺に施術者が手を配置した際に
その施術者の肘が配置される範囲と常に一致すること,これにより,施術者は肘置
き部により肘を固定させて施術することができるため,施術が安定するとともに施
術効率を向上させることができる旨が記載されている。
また,原告は,上記に続く「(b)本件拒絶理由通知書における認定」にお
いて,本件拒絶理由通知の概略を,1)「被施術者の頭部を載置する施術部が形成さ
れている施術台において,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の
頭部の左右位置,もしくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置\nき部を設けることで施術者の施術における負担の軽減を図るものは,例えば,引用
文献2の第1図における肘掛け34a,34b(中略)にみられるように周知技術
(以下「周知技術1」という。)であり,引用発明1において上記周知技術1を適
用し,前記施術部の周囲であって,載置される前記被施術者の頭部の左右位置,も
しくは左右位置及び上方位置に,施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものと\nする(中略)ことは当業者が容易になし得たものである。」,及び2)「さらに,施
術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能\なものとすることも,例
えば,引用文献3(中略),引用文献4(中略)にみられるように周知技術(以下
「周知技術2」という。)であり,引用発明1において上記周知技術2を適用し,
前記肘置き部は水平を軸にして回動可能であるものとすることも当業者が容易にな\nし得たものである。」とまとめた上で,それに続く「(c)本願第1発明と引用発
明との対比」において,引用発明2について,「ヘッドレスト33が傾倒するもの
であり,肘掛け34a,34bは個別に回動するものではありません。また,肘掛
け34a,34bの取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」「した
がって,引用発明1に,上記した各引用発明のいずれを適用したとしても,本件発
明1のように,『肘置き部が前記施術部の上方部に連結され,水平を軸にして前記
施術部に対して回動可能』な構\成とはならない」と記載した。
被告らは,上記原告の引用発明2に関する文章(「肘掛け34a,34bの
取り付け位置は,ヘッドレスト33の左右方向です。」)を理由に,本件意見書に
おいて,原告は,肘置き部の取付け位置が施術部の左右である構成を排除した旨を\n主張する。
しかしながら,本件意見書の上記文章は,引用発明2について,肘掛けの取付け
位置がヘッドレストの左右であるものの,肘掛けが回動しない点で本件発明とは異
なる旨を指摘したものと解することができ,被告の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上検討したところを総合すると,構成要件Cの「施術部の上方部」とは,施術\n部における上方部の意味に解すべきであるが,肘置き部の回転軸が施術部の上縁に
接するよう連結する構成も含み得るとすると,その範囲については,別紙原告図面\nのうち,赤で示された部分を指すと解すべきこととなる。
(2)構成要件Cの「連結」の意義について\n
ア 「連結」の字義的意味は,「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」で
あるところ,本件明細書には,特に「連結」についての定義や,具体的な連結方法
についての記載はない。
本件明細書の【図2】及び【図3】には,肘置き部と施術部が,それぞれ支持部
材と背面部材を介して,水平軸の位置でつながっている形態が示されており,段落
【0018】も上記形態について説明する。
また,本件意見書には,肘置き部が,施術部の上方部を基点として,これを軸に
施術部に対して回動すること,引用発明3及び引用発明4においては,枕F(また
は head rest 2)と肘受24(または head rest 4)とが連動せず別々に動作するこ
とが望ましいと考えられるため,引用発明1にこれらの発明を適用したとしても本
件発明1の構成要件Cのような構\成にはならないことが記載されている。
そうすると,構成要件Cにおける「連結」とは,施術部と肘置き部が別々に動作\nすることができない形態でつながっていることを意味し,それ以上具体的な連結方
法について定めるものではないと解するのが相当である。
イ 被告らは,本件明細書の【図1】及び【図6】に示される実施形態から,構\n成要件Cの「連結」とは,「肘置き部が,その上方位置の背面において,前記施術
部の上方部に連結され」と解釈すべきであると主張するが,同図は,1つの実施形
態にすぎないから,そこから具体的な連結部位についてまで定められていると解す
べきではない。
(3) 被告製品の構成\n
ア 別紙被告製品写真1ないし4及び別紙「被告製品の説明書」によれば,構成\n要件Cに対応する被告製品の構成cは,施術部の左右側面のうち,上下方向におけ\nる中央線よりも上の部分において,回動部材を介して施術部とリクライニングアー
ムとがつながる構成をとり,施術部を左右方向に横切るような仮想の回転軸を中心\nにリクライニングアームが回動するものであると認められる。
イ 被告らは,被告製品の肘置き部が施術部の「左右位置」において回転自在に
支持されていることから,本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが,構\成
要件Cの「施術部の上方部」が施術部の左右側面を排除しない概念であることは前
述のとおりであり,また,構成要件Cの「連結」が具体的な連結方法や連結部位を\n定めるものではないことも前述のとおりであるから,上記被告らの主張を採用する
ことはできない。
ウ また,被告らは,被告製品について,仮想の回転軸が施術部を貫通している
ことから,回転軸が施術部の背面にあり,また施術部よりも上方にある本件発明と
比較して,肘置き部を回転させた時に肘置き部の左右位置と施術部との間の距離が
比較的短く施術しやすい,という本件明細書から記載された発明からは導き出せな
い技術的事項を有すると主張するが,本件発明の回転軸が施術部よりも上方にある
との主張は採用できず,被告らの主張は理由がない。
(4) まとめ
以上より,被告製品のリクライニングアームは,施術部の上方部に連結され,水
平を軸として施術部に対して回動可能であると認められるから,本件発明の構\成要
件Cを充足する。
・・・
上記(1)及び(2)によると,被告製品の売上高(税込)から原価(税込)を控除した
額は,951万7032円(別紙被告計算表の「粗利(総計売上税込−総計原価税\n込)」欄参照。)であり,同額を被告らの利益の額と認め,原告の損害額を算定す
る基礎とするのが相当である。
なお,消費税基本通達5−2−5に鑑みれば,知的財産権の侵害に基づく損害賠
償金は,消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当し,消費税の課税対象となると解
するのが相当であり(消費税法2条1項8号,同法4条1項),本件における損害
賠償金も,特許権の侵害に基づく損害賠償金として消費税の課税対象となると解さ
れるところ,上記被告らの利益の額は,税込売上高から税込原価を控除したもので
あり,消費税相当額を含む額であるから,原告の損害額を算定する際に,さらに消
費税相当額8%を加算する必要はない。
イ 被告らの主張について
被告らは,消費税に関し,特許法102条2項の「利益」の算定方法について主
張するほか,そもそも,同項により推定される損害賠償金は逸失利益であるから,
一般的に消費税の課税の対象とならないか,本件の個別事情に照らし,損害賠償金
は対価性がないため消費税の課税の対象とならないこと,仮に本件における損害賠
償金が消費税の課税の対象になるとしても,原告と被告との間において内税方式,
外税方式のいずれを採用するかについての合意がない以上,内税方式によるべきで
あることを主張する。
しかしながら,特許権侵害に対する損害賠償請求訴訟では,典型的には,特許権
者のみが発明の実施品を製造,販売している状態を想定し,侵害品の販売により特
許権者側の売上等が減少したことを損害と捉え,認定又は推定の方法により算定し
た損害賠償額金を得させることで,権利侵害のなかった原状に可及的に復させよう
とするものであるところ,その回復の対象となる原状において,特許権者が発明の
実施品を製造,販売すれば,売上,経費いずれの面でも消費税は考慮されるはずで
ある。
そうすると,本件のように,回復の対象である原状において,消費税が考慮され
る事案においては,その回復の手段として逸失利益の損害賠償を算定する際におい
ても消費税の負担は考慮すべきことになり,これに反する被告らの主張は採用でき
ない。
そして,その計算としては,前述のとおり,消費税相当額を考慮した売上額から,
消費税相当額を考慮した経費額を控除すれば足りると解され,これによって算定し
た損害額に,さらに消費税相当額を加算する必要はないし,当事者間に特段の合意
がなければ内税方式により計算すべきであるとの被告らの主張も理由がない。
また,被告らは,消費税相当額分の遅延損害金の起算日は,その額が確定した日,
すなわち判決確定日であって不法行為時ではないと主張するが,上記アのとおり,
原告に支払われるべき損害賠償金は,消費税相当額を含むものの,全体としては特
許法102条2項により原告の損害と推定される額であるから,全部につき不法行
為の日から遅滞に陥ると解するのが相当である。
(4) 推定覆滅又は寄与率について
ア 被告らは,本件発明の被告製品に対する技術的寄与及び顧客吸引力は小さく,
寄与率は50%程度であると主張する。
しかし,本件発明3の構成要件Fは,リクライニング機構\が付与されていること
とされており,本件明細書の段落【0020】及び【0021】にも,電動式を含
むリクライニング機構が付与されていることにより,異なるアイメイク施術を1台\nで済ませることができたり,被施術者が仰向けになったときの下半身の負担を軽減
したりすることができる旨の記載がある。また,本件発明はアイメイク用施術台全
体に関するものであって,リクライニングアームのみに関する発明ではない。
よって,本件発明の,被告製品に対する技術的寄与が少ないという上記被告らの
主張を採用することはできない。
イ また,被告製品の価格(11万8000円(税抜))と本件発明の実施品の
価格(18万2000円(税抜))との差は6万4000円であるところ(乙29),
これが直ちに顧客吸引力に大きな差が生じるまでの金額ということはできない。ま
た,被告らは,高田ベッド製作所がアイメイク用施術台の分野において特別なブラ
ンド力を有することや,被告製品の広告宣伝において,高田ベッド製作所のブラン
ド力を使用していること等の主張立証をせず,リクライニング機構が本件発明3の\n構成要件となっていることは,上記アのとおりである。\nよって,本件発明が,顧客の購買に寄与する要素が極めて小さいという上記被告
らの主張を採用することはできない。
ウ したがって,本件において特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情は認
められない。
(5) 特許法102条4項後段に関する主張
原告は,平成28年10月31日付け及び同年12月5日付けで,被告アイラッ
シュに対し,本件特許権の侵害について2回にわたり警告し,被告アイラッシュも
これに回答していることから(甲5ないし8),被告らにおいて被告製品が本件特
許の権利範囲外であると考えたことについて,故意または重過失がなかったとして
損害賠償の額を定めるにつきこれを参酌すべき場合であるとは認められない。
◆判決本文
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2019.06. 7
平成30(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月7日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁特別部、いわゆる大合議判決です。争点は充足論、無効論など、多々ありますが、102条2項の推定覆滅事由、同3項の損害額の判断基準について一般論を述べています。
(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情
と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者
が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),2)市
場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),4)侵害
品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法1
02条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅
の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部
分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで
きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の
覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における
位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するの
が相当である。
イ 控訴人らは,炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを
前提に,他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係
に立つ製品であることを要するものと解される。
被告各製品は,炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし,炭
酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化
炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック
化粧料である。そして,化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさのみならず,
手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必
要や好みに応じて選択されるものであるから,剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用
したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人ら
が競合品であると主張する製品は,その販売時期や市場占有率等が不明であり,市
場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない。
ウ 控訴人らは,被告各製品が利便性に優れているとか,被告各製品の販売は
控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。
しかし,事業者は,製品の製造,販売に当たり,製品の利便性について工夫し,
営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても,
推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件において,控訴人らが通常の範囲
を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 控訴人らは,被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると\n主張する。
侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても,そのことから\n直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,当該優れた効能が侵害者の売上げに貢\n献しているといった事情がなければならないというべきである。
・・・
(ウ) 被告各製品及び原告製品は,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
の実施品であり,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生さ
せ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚に
適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に
効果を有するものであると認められるのであり,上記(ア)及び(イ)に認定した事実に
よっても,被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し,これが控訴人\nらの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず,ほかにこれを認める
に足りる的確な証拠はない。
オ 控訴人らは,被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品で
あるなどとして,これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべき
であると主張する。
侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても,そのことから直ちに推定の覆
滅が認められるのではなく,他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献
しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが,
二酸化炭素外用剤に関連する特許である,1)特許第4130181号(乙A18),
2)特許第4248878号(乙A19),3)特許第4589432号(乙A20),
4)特許第4756265号(乙B全7)を保有していることは認められるが,被告
各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠は
ないから,そもそも,被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができ
ない。よって,これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。
なお,被告各製品の中には,上記特許権の存在や,特許取得済みであることを
外装箱に表示したり,宣伝広告に表\示したりしているものがあったことが認められ
る(甲7,8,17,20)が,特許発明の実施の事実が認められない場合に,そ
の特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないか\nら,この点による推定の覆滅を認めることもできない。
カ 控訴人らは,従来技術との比較の観点から,本件発明1−1及び本件発明
2−1の技術的価値が低いことを主張するが,控訴人らが指摘するジェルと粉末を
組み合わせる化粧料の技術(資生堂614及び日清324)は,炭酸ガスを利用し
た化粧料に係るものではないし(乙A103,乙E全9,35,36),2剤混合
型の気泡状の二酸化炭素を発生する化粧料(石垣発明1及び2)は,炭酸ガスの気
泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の技術であって,二酸
化炭素を気泡状で保持する二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのものではない
(乙E全4,5,37,38)から,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1
を代替するものではない。そうすると,これらの従来技術の存在は,被控訴人の受
ける損害とは無関係であるから,推定覆滅事由に当たるということはできない。
キ 控訴人らは,乙A3の実験結果によれば,ブチレングリコールが配合され
た被告各製品においては,本件発明1−1及び本件発明2−1の寄与は限定的であ
ると主張する。しかし,本件発明1−1及び本件発明2−1は二酸化炭素含有粘性
組成物を得るための2剤型の化粧料のキットの発明であるところ,被告各製品は,
炭酸塩を含むジェル剤と酸を含む顆粒剤を混合して使用するパック化粧料のキット
であるから,本件発明1−1及び本件発明2−1は被告各製品の全体について実施
されているというべきである。また,被告各製品にブチレングリコールが配合され
たことによる効果が控訴人らの売上げに貢献しているといった事情も認められない
本件において,ブチレングリコールが配合されていることは,被控訴人の受ける損
害とは無関係であるから,控訴人らが指摘する乙A3の実験の結果は,控訴人らの
上記主張を基礎付けるものではない。
・・・
6 損害(特許法102条3項)(争点6−2)
(1) 特許法102条3項について
ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3\n項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も
主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最
低限度の損害額を法定した規定である。
イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許
権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す
る額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」
旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準
とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の
額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許
発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,
「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により
「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効に
されるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,
当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることがで
きないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施
料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものと
はいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契
約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約に
おける実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対
して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施
料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾
契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場
等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重
要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上
げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の
営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
・・・・
ウ 実施に対し受けるべき金銭の額
上記のとおり,1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料
率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平
均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.
1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決
金を売上高の10%とした事例があること,2)本件発明1−1及び本件発明2−1
は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,3)本件発明1−1及び
本件発明2−1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,
4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮す
ると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し
受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許
権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でそ
の料率は異ならないものと解すべきである。
したがって,本件各特許権侵害について,特許法102条3項により算定され
る損害額は,別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記\n載のとおりとなる。
(3) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被告各製品における本件各特許の寄与が限定されることを根拠に
実施に対し受けるべき料率を低くすべきであると主張するが,前記5(3)に説示し
たところに照らし,本件発明1−1及び本件発明2−1を被告各製品に用いたこと
による売上げ及び利益への貢献が限定されるとは認められないから,控訴人らの主
張は前提を欠く。
また,控訴人らは,被控訴人のビジネスモデルが不当に競争を制限するもので
あると主張するが,前記5(1)イにおいて認定したとおり,被控訴人は本件各特許
の実施品を製造販売しているのであるから,被控訴人のビジネスモデルが不当に競
争を制限するものであると解する根拠がない。控訴人らの,MLMによる販売手法
に関する主張は具体的な主張を欠き,失当である。
控訴人らの主張するその余の点も,上記判断を左右するものではない。
7 総括
(1) 被控訴人キアラマキアート(被告製品5)については,上記6で認定した
特許法102条3項に係る損害額が,前記5で認定した同条2項に係る損害額より
も高いから,同条3項に係る損害額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
他方,その余の控訴人らについては,いずれも前記5で認定した同条2項に係
る損害額の方が高いから,この金額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに
なる。
なお,控訴人コスメプロらは,被告各製品を製造,販売するに至った経緯等に
照らし控訴人コスメプロらには故意又は重大な過失はなかったとして,同条4項に
基づき,このことを控訴人コスメプロらの損害賠償額を定めるについて参酌すべき
であると主張する。しかし,控訴人コスメプロ,控訴人アイリカ,控訴人ウインセ
ンス,控訴人コスメボーゼ及び控訴人クリアノワールは,化粧品の製造会社であり,
仮に同控訴人らの主張する諸事情があったとしても,同控訴人らにつき,特許権侵
害についての故意又は重大な過失がなかったということはできないから,控訴人ら
の上記主張は採用できない。
◆判決本文
◆要旨
原審はこちら
◆平成27(ワ)4292
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