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賠償額認定 > 102条3項

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

102条3項

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和3(ワ)1720 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月22日  大阪地方裁判所

電池の特許について、約5億3千万の損害賠償が認められました。

(2) 相当な実施料率について
ア 該当技術分野における実施料率の状況
本件において、本件発明1の実施許諾契約の実例を認めるに足りる証拠は ないところ、証拠(甲43)によれば、アンケート結果による技術分類別ロ イヤルティ料率の平均値のうち、電気の技術分類では、平均2.9%、最大 値9.5%、最小値0.5%であること、日本の司法決定によるロイヤルテ ィ料率のうち、電気分野の平成9年から平成20年の累計は、平均値3.5%、 中央値3.0%、最高値8.0%であり、平成16年から平成20年は、平 均値3.0%、最大値7.0%、最小値1.0%であることが認められる。
イ 本件発明1の技術的意義等
本件明細書1によれば、従来の非水電解質二次電池は、作製が困難である という課題があったことに対し、本件発明1は、正極側及び負極側において、 電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接 続部材、及び、活物質未塗工部と端子接続部材とを接続する集電接続板とを 備え、集電接続板は、発電要素の端部から中央方向に水平に延びるとともに 端子接続部材と接続される本体部と、同本体部から突設されて、活物質未塗 工部の外側面のうちの端部と活物質塗工部との間に、表面が接合される接続\n板部とを有する構成をとることにより、作製を容易にすることができる電池\nを提供することを目的とし、かかる効果を奏する発明である(【0006】、 【0008】ないし【0010】)。
また、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明1が端子接続 部材と集電接続板の本体部の構成を備えている技術的意義は、電池外装体の\n内外において、外部接続端子と集電接続板の接続板部との間の距離を長くす ることができるようになり、外部接続端子に加えられるトルクや衝撃を接続 板部と発電要素の活物質未塗工部との接合部分に伝わりにくくすることが 可能となり、当該接合部分を損傷させたり、当該接合部分での接合が外れた\nりすることを防止できることにあることが認められる。これらの事実関係に 照らすと、本件発明1は、電池製作を容易にし、電池の耐久性を高めること に資する電池に関する発明であることが認められる。
そして、被告が代替技術として指摘をする公開特許公報(乙66ないし69)は、いずれも発電要素からの集電を容易にする集電体を形成する構成を開示しているものの、本\n件発明1に係る構成要件B2及びC2(活物質未塗工部の端部と活物質塗工\n部との間に、表面が接合される接続板部とを有する構\成)や構成要件A4(電\n池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続 部材)に相当する構成を開示するものではないことから、本件発明1の代替\n手段であるとは認められず、その他これを認めるに足りる証拠はない(なお、 被告は、被告製品1及び3は、周知技術を用いているだけで本件発明1を用 いているわけではない旨を主張し、その証拠(乙75ないし82)を提出す るが、被告製品1及び3が本件発明1の技術的範囲に属し、本件発明1に無 効理由は存在しないことは、前判示のとおりであって、該主張は実質的に侵 害論を蒸し返すものにほかならず、かつ、約一年間をかけてされた損害論の 審理の終盤にされたものであるから、民訴法157条に基づき、時機に後れ た攻撃防御方法として却下することとする。)。
一方、本件発明1は、電池の機能に直接的に資するものではなく、また、\n被告製品1は蓄電システムであるところ、蓄電システムにおいて電池の占め る価格割合は、家庭用蓄電システムでは約65.6%であること(甲47)、 被告製品3は電池パックであり、電池はその一部を構成するものであること\nから、本件発明1が被告製品1及び3の売上げに占める貢献の程度は、その 限りにおいて限定的である。
ウ その他の事情
原告と被告は競合関係にあること、原告と被告は紛争関係にあることに加 え、本件においては、被告は、確定した文書提出命令によって提出を命じら れた文書の提出を拒み、原告は被告製品1及び3の正確な売上高の開示を受 けることができなかったことが当裁判所に顕著であるところ、この事情は、 実施許諾に当たり特許権者が実施権者の正確な販売数量、利益等を把握でき ないリスクに相当するものであって、実施料の算定にあたり考慮されるべき (上振れさせる)要因に当たるものというべきである。
エ 小括
上記アからウに述べた事情その他本件に表れた事情を総合考慮すると、本\n件発明1の実施に対して受けるべき料率としては「●(省略)●」を相当と 認める。これに沿わない原告及び被告の主張は、上記説示に照らし、いずれ も採用することができない。
(3) 実施料相当額の損害
本件特許権1の侵害による実施料相当額の損害は、(1)の金額に(2)の料率を 乗じた4億4250万円となる。 該当特許は以下です https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5713127/15/ja https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6493463/15/ja

◆判決本文

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令和5(ネ)10053  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年7月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)

マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。

(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、 その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権 者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。 同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、 同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和 元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア) はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に 発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極 大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、 特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式 の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として 持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平 成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び 指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価 することができる。 したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原 告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利 行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利 行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本 件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、 グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明 瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純 粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が 多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業 からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成 績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及 び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価 することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許 権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。 しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。 そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵 害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法 102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本 件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録 を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と 代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一 定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献 は乏しいとの主張について 証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被 告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値 か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売 買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、 手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長 期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」 などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。 以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと 認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上 げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審 被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により 1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各 発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄 与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用 動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与 割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と の間に相当因果関係がないものと認められる。 したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法 102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する 合計●●●●●●●●●円と認められる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和2(ワ)17104

関連の侵害事件です(当事者が同じ)

◆平成29(ネ)10073

原審

◆平成28(ワ)21346

こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。

◆平成29(ワ)24174

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令和5(ネ)10052等  特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。 その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。

当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の 適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30% は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取 引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6 753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以 下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。 EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が 被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至 っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で 大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。 このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、 被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品 の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵 害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで あろうという事情が認められるというべきである。 これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品 相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、 当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成 品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件) は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合 に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す るものではない。 被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。 その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において 同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・ 特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度 の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品 の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯 に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、 特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者 との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術 の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造 を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益 により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人 は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販 売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分 一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに 対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行 っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが (乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当 でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被 控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占 めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被 控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴 人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や 本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品 (低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙 6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件 において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。

◆判決本文

1審はこちらです

◆平成30(ワ)28930

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令和4(ワ)2058  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年5月30日  大阪地方裁判所

特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。

(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額 被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品 を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円 (税込)である。(争いなし) 被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実 施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する 限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅 事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得 た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱 包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし) 原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、 同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ 優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強 い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分 実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。 確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密 性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹 脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の 容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴 と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。 そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相 当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂 正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱 性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、 被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。 また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品 は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型 がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。 これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点 検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製 品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同 じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検 口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、 操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や 訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各 製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙 第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは 否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、 これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、 通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証 拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。 以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合 品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度 で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告 の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が 「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。 この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者 が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の 売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推 定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、 特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による 実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令 和4年10月20日特別部判決参照)。 本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一 つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに 足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推 定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による 原告の損害であると認められる。 また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用 171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。 したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。

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令和5(ネ)10037  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。

(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を 請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、 侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法 102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵 害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害 の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結 果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者 が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と 推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者 による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在 する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1 02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年 2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元 年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別 部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、 原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用 いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、 侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原 告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益 全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する 合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限 界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数 の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情 はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような 要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって 本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理 的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は 採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適 用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年 8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決 の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の 特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに 足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定 の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別 件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製 品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟 の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、 965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特 許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、 損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正 法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定 ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益 の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲 渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応 じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の 立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規 定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31 年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数 量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特 許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、 特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権 者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製 造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である 原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを 販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。 そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B) のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●● ●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当 たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界 利益は4億1280万円となる。 なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物 であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を 用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件 各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低 追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込 んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売 していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認 めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万 円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害 額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施 料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数 量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損 害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾 をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施 料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで きない。

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◆平成30(ワ)28931

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令和5(ネ)10084  特許権侵害損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。

当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12 69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円 に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2 4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日 から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を 後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に 対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対 する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目 から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。

◆判決本文

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◆令和2(ワ)13317
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◆平成19(ワ)2525

◆平成25(ネ)10086

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令和2(ワ)29523  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月15日  東京地方裁判所

施工方法の特許について、差し止めと損害賠償約300万円が認められました。算定は102条2項ですが、判決文中に控除される経費として具体的に記載されています。一つが下請業者への支給した栄養ドリンク剤です。

(1) 特許法102条2項所定の「その利益の額」について 前記9において説示したとおり、被告とAAによる本件工事の施工に係る 本件特許権侵害について共同不法行為が成立するから、原告が受けた損害の 額と推定される特許法102条2項所定の「その利益の額」は、本件工事に よって、被告が受けた利益の額とAAが受けた利益の額との合計額となる。
(2) 被告の受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)イのとおり、被告が受領した本件工事の施工についての請負 代金の額は、377万2224円(税抜代金349万2800円、消費税 相当額27万9424円)と認められる。 そして、消費税法基本通達5−2−5柱書及び(2)によると、「無体財 産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する 損害賠償金」は、資産の譲渡等の対価に該当するものとされていることか らすれば、特許法102条2項の「侵害の行為により利益を受けていると き」にいう「利益」には消費税相当分も含まれると解すべきである。 したがって、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎となる売上高 は、377万2224円(消費税込み)というべきである。
イ 控除すべき経費
(ア) 材料費 100万3320円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(イ) 外注費 58万2740円(消費税込み)
証拠(乙64ないし69)によれば、被告は、本件工事の一部の施工 を下請業者に発注し、日当、残業代、ガソリン代及び高速料金代並びに\n飲料水代として、合計58万2740円(消費税込み)を支払ったこと が認められる。 そして、証拠(乙80)により認められる本件工事の施工期間、施工 内容等に照らせば、上記支払のうち、日当、残業代、ガソリン代及び高\n速料金代は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たる ものと認められる。 また、証拠(乙80)によれば、上記の下請業者に対する支払のうち、 飲料水代については、暑い現場で作業している下請業者が水分補給でき るようにとの趣旨で購入されたものと認められるところ、その内容及び 金額の水準に照らせば、当該支払についても、本件工事の施工に直接関 連して必要となった経費に当たると認めるのが相当である。
(ウ) 交際費 7201円(消費税込み)
証拠(乙70、80)によれば、被告は、本件工事の施工期間中、前 記(イ)の下請業者の昼食代として合計7201円(消費税込み)を負担し たことが認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、当該 負担は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるもの と認められる。
(エ) 消耗品費 1527円(消費税込み)
証拠(乙71)によれば、被告は、ポリ袋及びコピー用紙を合計69 7円(消費税込み)で、ナチ六角軸鉄工ドリル及び「リポビタンD」と いう商品名の栄養ドリンク剤を合計830円(消費税込み)で、それぞ れ購入したことが認められる。 そして、証拠(乙80)によれば、上記ポリ袋は、現場において発生 した廃材を処理するため、上記コピー用紙は、現場においてメモをとる ため、上記ナチ六角軸鉄工ドリルは、母屋材にビス孔を空けるドリルの 交換用として、それぞれ購入したものと認められるから、これらの支払 は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるものと認 められる。 また、証拠(乙80)によれば、上記「リポビタンD」は、暑い現場 で作業している下請業者が栄養補給できるようにとの趣旨で購入された ものと認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、本件工 事の施工に直接関連して必要となった経費に当たると認めるのが相当で ある。
(オ) 旅費交通費 310円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(カ) 車両費 6000円(消費税込み)
証拠(乙78、80)によれば、被告代表者は、本件工事の施工期間\nである令和元年7月5日から同月9日まで、数名の作業員や様々な工具 類・装備品を同乗・積載させた車両を運転して、当時の被告所在地(省 略)と施工現場との間を往復したこと、当時の被告所在地と施工現場と の間の道のりは40キロメートル以上であることがそれぞれ認められる。 そして、弁論の全趣旨によれば、1キロメートル当たりのガソリン代\nは15円(消費税込み)を下回らないと認められるから、これらを基礎 として算定したガソリン代相当額6000円(=15円×40キロメー\nトル×2×5日)は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費 に当たるものと認められる。
(キ) 合計 160万1098円(消費税込み)
ウ 小括
前記ア及びイによれば、被告が本件工事の施工により受けた利益の額は、 217万1126円(消費税込み)と認められる。
(3) AAの受けた利益の額
ア 売上高 前提事実(5)アによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と なる売上高は、472万3920円(消費税込み)と認められる。
イ 控除すべき経費
前提事実(5)イによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と なる控除すべき経費は、377万2224円(消費税込み)と認められる。
ウ 小括
前記ア及びイによれば、AAが本件工事の施工により受けた利益の額は、 95万1696円(消費税込み)と認められる。
(4) 損害額
前記(2)及び(3)によれば、特許法102条2項により算定される原告の損 害額は、312万2822円と認められる。

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令和3(ワ)18262  損害賠償請求事件(特許権侵害)  特許権  民事訴訟 令和5年12月6日  東京地方裁判所

 特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。

ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月 22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17 57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製 品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数 量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億 1460万円を下らないと主張する。 そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公 式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全 趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品 の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係 る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売 上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が 27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載 以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22 日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本 件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被 告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者 である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業 方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率 は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。 また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、 個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の 補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると 認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提 事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。 これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対 し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨 五入)と認められる。

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令和2(ワ)13317  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。

特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以 下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定 であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許 法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許 権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提 としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得 ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。 したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特 許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者 との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を 考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被 告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製 品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢 献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4) に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響 機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度 の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1 6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平 均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発 明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4. 0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業 における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の 電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品 を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。 このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型 かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接 触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採 用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー ン等の代替手段が存在する旨主張する。 しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押 すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音 量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高 くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは できない。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害 の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲 を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練 されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、 全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。 あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。 その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載 されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、 iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』 を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久 性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大 1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく 考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに 追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合 の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並 びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向 上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。 他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告 各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高 いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度 貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、 被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。 そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、 主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、 別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる 旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告 製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、 被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重 要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や 侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、 特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害 した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその 対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、 0.5%を下らないというべきである。

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◆平成19(ワ)2525

◆平成25(ネ)10086

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令和2(ワ)17104  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月16日  東京地方裁判所

 漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。

ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引 回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入 及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。 そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の 全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取 引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る 被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利 益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注 文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX 取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定 時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金 融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以 上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に 係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額 算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び トレーディング損益であると認めるのが相当である。 これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵 害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、 当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損 益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。 そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被 告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。) 2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引 (以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取 引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を 生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額 算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る 実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基 礎から除外するのが相当である。 なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被 告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、 取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた 取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、 被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、 相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買 い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ ることを意図するのといえる。 これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取 引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相 場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し たものであったことが認められる。 これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項 に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果 としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取 引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、 消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日 までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引 数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で あることが認められる。 そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる 「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において は、●(省略)●ことが認められる。 しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。 そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日 より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完 全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。 これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上 記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。 他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在 り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率 に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料 率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続 で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売 り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を 受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格 だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文 価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\ 成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取 引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより 多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を 有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注 し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動 に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続 注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注 文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。 弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間 (平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧 客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買 い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する 取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報 の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引 のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの 貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3 1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5 月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6 月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告 による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子 会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること が認められる。 そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完 全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、 その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に 現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な 料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、 ●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。

◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。

◆平成29(ネ)10073

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。

◆平成29(ワ)24174

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令和2(ワ)4913  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月20日  大阪地方裁判所

約4500万円の損害賠償が認められました。なお、本件では、102条2項の覆滅部分について、3項の重畳適用は否定されました。

(c) 原告は、前記の各製品について、アウタロータ型電動モータを採用しておら ず、被告製品及び原告製品と構造が根本的に異なること、被告製品及び原告製品は、\n主として車輌工場において重要保安部位向けに使用されるのに対し、瓜生製作のU BX−AFシリーズ以外は主にそれよりも重要度の低い部位に用いられること、デ ソータやエスティックの製品は電動式衝撃締め付け工具ではなくナットランナーと\n思われること等を理由に、いずれも競合品に該当しないと主張する。 しかし、被告カタログ及び前記競合品の各カタログ(乙52の4、54の3、5 6の1・2、58、73、74)には、工具に採用されているモータの型がアウタ ロータかインナロータかといった点に関する記載がないことや、モータの構造は製\n品の外部から確認できるものではないこと等を踏まえると、モータの構造それ自体\nが需要者の購入動機の形成に寄与する場合が多いとは認められず、アウタロータ型 電動モータを採用していないことをもって直ちに競合品から排除されるとするのは 相当でない。また、被告製品及び原告製品の各カタログを見ても、締め付け工具で あること以上に各製品の用途を限定する旨の記載はなく(甲35、36、乙58)、 これらの製品が主に車輌工場において重要保安部位向けに使用される一方、他の製 品が異なることについて的確に裏付ける証拠はない。また、証拠(乙1、4、34) によれば、一般に、ナットランナーは、インパクトレンチやパルスツールとはモー タの回転を締付力に変換する方式が異なることから、高精度である一方でトルクが 低く抑えられ、反力受けが必要であるという特徴を有し、パルスツールとは性能・\n用途が異なる場合があるといえるが、デソータ及びエスティックの前記各製品は、\n低反力で反力受けを要さず、作業者が直接手に持って締め付け操作を行うことが可 能な製品であり、かつトルク範囲も被告製品のものと重複するものであることから、\n被告製品及び原告製品と性能・用途等において共通する競合品であると認められる。\nしたがってこの点の原告の主張は採用できない。
(d) 以上によれば、被告製品及び原告製品と共通する電動式締め付け工具の市 場において競合品が一定数存在することが認められる。もっとも、当該市場におけ る被告製品や原告製品の市場占有率等が明らかではないことや、競合品と認められ る製品の中には、被告製品との価格差が比較的大きいものもあると考えられること 等を踏まえると、競合品の存在を理由とする大幅な覆滅を認めることはできないと いうべきである。
c 侵害品の性能\n
(a) 被告カタログ(乙58)によれば、被告製品は、その「主な特徴」として、 「バッテリーツール、高い生産性、高トルク、高精度、低反力、メンテナンス軽減、 多様な使用環境に対応」と記載されている。また、より具体的な特徴として、被告 製品は、バッテリー残量等を作業者から容易に確認できるLEDインジケータが表\n示されること、作業者の手になじむバランスのとれたツールであること、オイル漏 れの影響を軽減してメンテナンス周期を延ばす新型のパルスユニットを採用してい ること、効率的な冷却システムを搭載していること、予備バッテリーを内蔵し通信\nを維持したままバッテリー交換が可能であること、回転速度が6000rpmまで\n設定可能であること、独自のコントローラ「Power Focus 6000」及びソフトウェア\nにより容易に作業内容等を設定可能であること、内蔵されたブザーからの音でも締\nめ付けが可能であること、デュアルアンテナにより無線環境に対応しツールの接続\n性を向上していること、高速バックアップユニット機能を搭載していること等が記\n載されている。一方で、モータの構造や、被告製品がアウタロータ型電動モータを\n採用していることについての記載はない。 また、被告カタログでは、前記のメンテナンス軽減・周期の改善に関して、新し い特許技術と設計により、従来品よりもメンテナンス周期が長くなっていること、 オイル漏れ対策やエアセパレータの採用及び優れた冷却性能がパフォーマンスと稼\n働時間の向上に寄与していることの記載があるほか、「高いトルク性能」として、\n「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、「高度なモーター制御」により締付け 時間が早くなり生産性が向上する旨が記載されている。 そして、証拠(乙58、59)及び弁論の全趣旨によれば、ABは、次のとおり の技術(発明)について、特許を出願し、その多くが日本国内を含めて登録されて おり、これらの技術が被告製品に採用されていると認められる。
1) オイルパルスユニット内のオイルと空気を分離する機構を備え、オイルチャ\nンバから分離された空気が再びオイルチャンバに戻ることを防止する技術(乙 59の1)
2) 遠心作用によりオイルから空気を取り出すための分離手段を備え、パルスユ ニット内の空気の割合を低くすることにより、高いパルス発生効率を実現する 技術(乙59の10)
3) 作動流体を利用したヒートパイプにより、電動モータの熱を効率的に放散し て冷却する技術(乙59の2)
4) ステータ要素とロータ要素との間の相対変位を感知するセンサーに係る技術 でありモータ制御の精度に資する技術(乙59の3)
5) モータとパルスユニットとの接続を改良し、高い生産性、低反力、高トルク 及びメンテナンス周期を改善させる技術(乙59の4)
6) 電圧供給源の遮断時に、動作制御ユニット及び無線通信装置への電圧供給を 連続して維持することによりバッテリーユニットの交換立ち上げにおける遅 れを実質的に減少する技術(乙59の5)
7) 油圧パルスユニット内のオイルレベルが低すぎる場合に、警告信号を出す方 法及びシステムに関する技術(乙59の6)
8) トルク限度及び角度回転限度を超えて締結具が更に締め付けられることを防 止するため、締付具が事前に締め付けられていたか否かを検出する方法に係る 技術(乙59の7)
9) オイルパルスユニットについて機構及び各種部材の形状を工夫し、トルク衝\n撃が与えられた直後に高圧室の圧力を迅速に除去し、次のトルク発生のための 迅速な加速を可能とし、トルクの増大及びトルクの間隔の短縮を実現し、衝撃\n率の増加を実現する技術(乙59の8)
10) パルスユニットの部品の摩耗により生じた粒子を除去するための磁石を備え、 さらなる摩耗等を防ぎ、メンテナンス軽減を実現する技術(乙59の9) そのほか、コントローラである Power Focus 6000 及びソフトウェアにより多種\n類のツールを接続し、作業内容に合わせたコントロールが容易であるという特徴は、 被告カタログ等において、前記記載以外にもページを費やして強く訴求されている (乙58、85)。
(b) 衝撃発生部が油圧パルス発生部である電動式衝撃締め付け工具において、 アウタロータ型電動モータを採用するという本件訂正発明は、電動式衝撃締め付け 工具の基幹部分であるモータに関する発明であり、インナロータ型電動モータが採 用される場合と比較して、小型、軽量、低反力、耐久性実現の作用効果を有する点 で、相当の技術的価値があるといえる。実際に、被告製品のモータを本件訂正発明 の技術に属しない構造に変更するにはモータの構\造等を変更する必要があり、その 場合には製品全体の構造や技術を見直す必要があり、この点からの代替技術が採用\nされる可能性が高いとはいえない。\nもっとも、本件訂正発明の作用効果である「小型、軽量、低反力、耐久性」を実 現する技術及び被告製品で訴求される各特徴を実現する技術は、アウタロータ型電 動モータ以外にも存在する。被告製品においてアウタロータ型電動モータを採用し たことによる作用効果は、被告カタログにおいて訴求されている「高トルク」、「低 反力」及び「メンテナンス軽減」に関連し得るが、前記(a)のとおり、被告カタログ では、「高トルク」を実現する技術として「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、 「高度なモーター制御」が記載されており、実際に、被告が保有し被告製品で採用 されている技術においても実現されていると認められる。 そのほか、前記(a)のとおり、被告製品には、本件訂正発明以外にも多数の技術が 使用され、当該技術による作用効果が被告カタログにおいて被告製品の特徴として 記載されており、需要者に強く訴求されていることが認められる。
(c) したがって、被告製品は、本件訂正発明及びその作用効果以外にも、種々の 技術とこれに基づく特徴・性能を備えており、これらの要素が、需要者の購入動機\nの形成に相当程度寄与していると認められる。被告製品が多彩な機能を有し、これ\nが顧客誘引力に寄与していることは、被告製品が、対応する原告製品よりも総じて ●(省略)●であるという価格差にも裏付けられているといえる。 (d) 以上より、被告製品の性能に係るこれらの事情は、特許法102条2項に基\nづく推定を、相当程度覆滅する事由であると認められる。
d 本件訂正発明は被告製品の一部のみに使用されていること
前記1(2)のとおり、本件訂正発明は、インナロータ型電動モータを搭載した従来 の電動式衝撃締め付け工具の有する課題を解決するため、出力トルクが大きいアウ タロータ型電動モータを採用し、小型及び軽量で、低反力かつ耐久性を有する電動 式衝撃締め付け工具を提供するというものであり、被告製品の特徴とされる「高ト ルク、低反力、メンテナンス軽減」(前記c(a))の作用効果の実現に使用されてい るといえるが、前記cで検討した諸事情からすれば、それらの作用効果は、本件訂 正発明のみによって実現されているとはいえない上、被告製品が備える種々の性能\nの一部にすぎないことが認められる。したがって、本件訂正発明が被告製品の一部 のみに使用されていることは覆滅事由に該当する。ただし、覆滅の基礎となる事情 は前記cの事情と重複することから、推定覆滅の程度の検討に当たっては被告製品 の性能を理由とする推定覆滅と実質的に重なるものとして評価するのが相当と解さ\nれる。
e 本件訂正について
本件訂正は、衝撃発生部について、油圧パルス発生部に限定するものであり、被 告製品における発明の作用効果やその実施に影響を与えるものではないこと等を踏 まえると、本件訂正の事実を覆滅事由として認めることは相当でない。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上のとおり、本件においては、一定数の競合品の存在、被告製品の性能及び本\n件訂正発明が被告製品の一部のみに使用されていることを理由とする推定覆滅が認 められ、前記(イ)のとおりの事情を総合的に考慮すると、6割の限度で損害額の推定 が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はい ずれも採用できない。
(エ) 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、被告製 品ごとに、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「2項損害額」欄記\n載のとおりとなる。
イ 特許法102条3項の重畳適用について
(ア) 特許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、第 三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑みると、 侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特許権者が侵害者の侵害行為が なければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸 失利益と実施許諾の機会の喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解され る。 そうすると、特許法102条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該 推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるとき は、同条3項の適用が認められると解すべきである。そして、同項による推定の覆 滅事由が、侵害品の販売等の数量について特許権者の販売等の実施の能力を超える\nこと以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情がある ことを理由とする場合の推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下におい て、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべきものと 解される(知的財産高等裁判所令和4年10月20日特別部判決参照)。
(イ) これを本件について見ると、本件において覆滅事由として認められるのは 競合品の存在、被告製品の本件訂正発明以外の性能及び本件訂正発明が被告製品の\n一部のみに使用されていることに係る事情であり、いずれも特許権者の実施の能力\nを超えること以外の理由により特許権者が販売等をすることができないとする事情 があることを理由とするものである。
市場における競合品の存在を理由とする覆滅事由に係る覆滅部分については、侵 害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された 蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、特許権者である原告が被告に対して実 施許諾をするという関係に立たないことから、原告が被告に実施許諾をすることが できたとは認められないし、本件における競合品をみると、いずれも本件訂正発明 の効果と同様の性能等を有するものの、アウタロータ型電動モータを採用している\nと認められるものはなく、本件訂正発明の構成とは異なる機構\を有していると認め られるから、この点からも、原告が、当該覆滅部分について、実施許諾の機会を喪 失したとはいえない。
また、被告製品が本件訂正発明以外の性能を有すること及び本件訂正発明は被告\n製品の一部のみに使用されていることを理由とする覆滅部分については、被告製品 の売上に対し本件訂正発明が寄与していないことを理由に推定が覆滅されるもので あり、このような特許発明が寄与していない部分について、原告が実施許諾をする ことができたとは認められない。 したがって、本件においては、特許法102条2項による推定の覆滅部分につい て、同条3項の適用は認められない。
ウ 特許法102条3項に基づく損害額
(ア) 実施料率
本件訂正発明について実施許諾契約がされた事実はない(弁論の全趣旨)。 また、証拠(甲32、33)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年9月20日 に社団法人発明協会が発行した「実施料率〔第5版〕」において、「金属加工機械」 の技術分野における平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値についてイニシ ャル有りが4.4%、イニシャル無しが3.3%であること、同様の最頻値が5%、 3%、中央値が4%、3%であること、平成22年8月31日に発行された経済産 業調査会が発行した「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プ ログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、「成形」の技術分野における実施料 率の平均値が3.4%であることが認められる。これらに、原告と被告とが競業関 係にあること、本件訂正発明の内容、重要性、代替可能性、被告製品の売上に対す\nる貢献の程度のほか、本件訂正により特許請求の範囲が減縮されていること等本件 に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率 としては、4%が相当であると認める。これに反する原告及び被告の主張はいずれ も採用できない。
(イ) 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、被告製品ごと に、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「3項損害額」欄記載のと\nおりである。
エ 原告の損害額
(ア) 原告は、被告製品の型番ごとに、平成29年7月から令和3年10月の期間 につき、特許法102条2項に基づく損害額と、同条3項に基づく損害額のうち高 い方を選択的に請求していることから、被告製品の型番ごとに認められる損害額は、 別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1の「損害額」欄記載のとおりであり、合計す ると4078万9003円(平成29年7月から令和2年3月31日分までが28 12万1254円、同年4月1日から令和3年10月31日分までが1266万7 749円)となる。

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令和4(ネ)10073等  特許権侵害損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では、3項侵害の損害額の方が高いとして、2200万円弱の損害賠償を認めましたが、知財高裁は2項侵害の損害額の方が高いとして、約2250万円の支払いを命じました。

本件は、発明の名称を「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエ アロゾルを発生させる方法」とする発明に係る本件特許権を有する控訴人が、被控 訴人らに対し、被控訴人らが共同で加熱式タバコ用デバイスである原判決別紙物件 目録記載の被告製品(被告製品1〜3)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をする\nことが本件特許権の侵害に当たると主張して、不法行為(民法709条)に基づき、 選択的に、1)特許法102条2項の損害額●●●●●●●●●円(同項の推定の覆 滅が認められた場合に当該覆滅部分について予備的に同条3項に基づく売上額の2\n0%相当の損害額)又は2)同条3項の損害額●●●●●●●●●円を請求するとと もに、3)弁護士・弁理士費用相当額●●●●●●●●円(上記1)の同条2項の損害 額の1割に相当する額)を請求するものとして、●●●●●●●●●円及びこれに 対する不法行為の後であり被控訴人らへの各訴状送達の日の翌日である令和2年3 月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を原審で求めた事案である。
(2) 原審は、1)特許法102条2項による被控訴人らが受けている利益の額は3 706万0935円と推定されるが、被告製品の売上げにはそれらが別件発明の実 施品であることも貢献しているため5割の推定覆滅を認めるのが相当であり、同項 の損害額は1853万0467円となる(また、上記の覆滅の理由からして上記覆 滅部分についての同条3項の適用は認められない。)とする一方で、2)実施料率は 10%を下らないものと認めるのが相当であり、同条3項の損害額は1975万2 707円となるところ、より高額である上記2)の損害額をもって控訴人の損害額と 認め、これに弁護士・弁理士費用としてその1割である197万5270円を加え た2172万7977円及びこれに対する前記遅延損害金の連帯支払を被控訴人ら に求める限度で控訴人の請求を一部認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却 した。
・・・・
(c) 同じくAmazon seller centralに係る手数料等について、控訴人は、令和元 年7月のFBA運搬費は異常に高額であり、少なくとも本件FBA配送代行手数料 ●●●●●●●●円は控除されるべきものではないなどと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲10、甲A38、44、甲46、47、51、52、 53の1〜4、54の1〜5、甲55、62、乙25、26)及び弁論の全趣旨に よると、1)令和元年7月分のAmazonのFBA手数料(Amazon FBA/handling charge) は●●●●●●●円、FBA運搬手数料(Amazon FBA/haulage express)は●●● ●●●●●円であったこと、2)平成30年7月から令和元年12月までの期間中、 FBA運搬手数料又はこれに相当し得るとみられる費用は、平成30年11月から 令和元年9月までの間において計上されているところ(ただし、平成30年11月 及び12月においては「Amazon /FBA haulage handling charge」である。)、同年 11月分及び12月分は●●●●円程度、平成31年1月分は●●●●円余りであ ったものの、同年2月分から同年(令和元年)6月分まではいずれも●●●●円に 満たない額となっていたにもかかわらず、同年7月分として上記のとおり急激にそ の額が増大し、その後、同年8月分として●●●円余り、同年9月分として●●● 円余りが計上された後、同年10月分以降は、FBA手数料とともにゼロ円となっ たこと、3)同年4月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少し、同年5月において、「商品評価損」●●●●●●●円の計上と 「期末商品棚卸高」●●●●●●●●円の計上により、「商品」が●●●●●●● ●円増加し、同年6月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少したこと、4)同年7月30日及び同月31日の2日間に、「Fjp20190724PATENT-14」などの符号(末尾の数字のみ、3〜17の範囲で異なっている。) のある一律●●●円のFBA配送代行手数料(FBA Per Unit Fulfillment Fee)が ●●●●件計上され、その合計額は●●●●●●●●円に上ったこと(本件FBA 配送代行手数料)、5)同月におけるFBA配送代行手数料の支出において、そのよ うに同一の符号をもって一律の金額で同時期に多数のものが計上されている例は、 他に認め難いこと、6)控訴人は、別件仮処分決定に係る特許権侵害差止仮処分申立\n事件(東京地裁民事第29部にて審理)において、令和元年7月11日付けで、被 控訴人アンカーに対する申立てを取り下げ、その後、同月25日、別件仮処分決定\nがされたこと、7)控訴人は、別途、被控訴人らを債務者として、特許権侵害差止仮 処分命令の申立て(東京地裁平成30年(ヨ)第22123号(東京地裁民事第4\n0部にて審理))をしていたところ、当該事件で、被控訴人らは、令和元年9月3 0日付けの準備書面をもって、被控訴人ジョウズにおいては同月末までに被告製品 全ての在庫がなくなる予定であることから、保全の必要性がない旨を主張し、その\n後、それを疎明する資料として、被控訴人ジョウズが同月にAmazonに対し被告製品 の所有権放棄の依頼をしたことを示す書面を提出した上、同年11月5日付けの準 備書面をもって、保全の必要性がない旨を改めて主張したことが認められる。
前記1)〜7)の事情(なお、前記4)について、「20190724PATENT」の符号は、令和 元年7月24日付けのもので、特許に関連するものであることを強くうかがわせる ものである。)のほか、AmazonのFBAサービスに係る証拠(甲53の1〜4。余 剰在庫の管理等のために、Amazonフルフィルメントセンターに保管されている在庫 について、出品者、出品者の倉庫、仕入れ先又は販売業者に返送したり、その所有 権を放棄したりする旨を依頼するサービスがあることなどが記載されている。)や、 配送手数料等についてはその対象となる行為が行われた後に請求がされるのも合理 的であると解され、本件FBA配送代行手数料が平成31年(令和元年)4月ない し6月の在庫に係る会計上の処理と関連している可能性があることなども考慮する\nと、本件FBA配送代行手数料●●●●●●●●円については、別件仮処分決定の 発令に関連して、また、前記7)の仮処分命令申立事件に対する対応やその準備等の\nために、大量の被告製品について一律に、通常の販売とは異なる特別の取扱いがさ れたことから発生したものであることが強く推認され、この推認を覆すに足りる事 情は見当たらない。
したがって、Amazon seller centralに係る手数料等のうち、本件FBA配送代行 手数料●●●●●●●●円については、被告製品の販売に直接必要となった経費と して控除すべきものではなく、控除が認められる支払手数料額は●●●●●●●● ●円となる。
上記に反する被控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。なお、被 控訴人らは、当審で追加された特許法102条3項の損害に係る控訴人の主張に対 し、前記3)の商品評価損については、令和元年の期末の商品評価損調整でゼロとす る仕訳を行ったなどと主張するところ、そのような事実を認めるに足りる証拠はな いものの、仮に、そのような事後的な調整の事実があったとすれば、そのことは、 本件FBA配送代行手数料の支出が被告製品の販売とは直接関係なくされたもので あるとの前記推認を裏付けるものであるとみることができる。

◆判決本文

原審はこちら

◆令和2(ワ)4332

関連事件(1)です。 特許権、当事者同じ 特許権者勝訴 差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。 当事者同じ、対象特許違い 特許権者勝訴 損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です 控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和4(ネ)10087  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。

(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書 の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均 値を採用しなかったのは不当である旨主張する。 しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を 採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。 イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実 施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体 的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと 理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要 があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を 利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス 料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否 定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘 案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、 本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す る。 しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事 情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00 32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語 の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反 する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び 「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007 9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし 【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者 は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説 明に記載したものといえる。 その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害 賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13 日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及 び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)32239

関連審決取消訴訟事件です。

◆令和3(行ケ)10139

◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です

◆令和4(ネ)10031

◆令和2(ワ)5616


◆令和3(ネ)10023

◆平成30(ワ)36690

◆令和4(ネ)10056

◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁 は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、 実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。 しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製 品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決 第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許 以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率 は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限 定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の 認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主 として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張 する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ 自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、 具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を 吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や 分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、 1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等 に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい るのであるから、一審原告の主張は採用できない。

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平成29(ワ)7384  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月15日  大阪地方裁判所

 ファミリーイナダVS富士医療器のマッサージ器の特許権侵害事件です。東京地裁は、富士医療器がファミリーイナダの特許を侵害してるとして、約28億円の損害を認めました。102条2項と3項の重畳適用を認めています。 原告・被告が逆の侵害訴訟(令和2年(ネ)第10024号)では、知財高裁は、逆転判決で、ファミリーイナダが富士医療器の特許を侵害しているとして、約4億円の損害を認めてます。

ウ 覆滅割合
(ア) 市場の同一性
原告と被告は、マッサージチェアの分野でシェアを競い合う企業でマッサージチ ェアという需要者を共通にする同種製品を取り扱う同一の市場で競業している。 被告の主張は、具体的な被告の製品と原告の製品とを比較し、個別の販売相手先 や販売ルートを細かく分断して、これらが異なるから「市場の非同一性」があるな どと主張している。しかし、このような立論が成り立つのであれば、個別の販売相 手先や販売ルートが共通の場合でない限り、市場は無意味に細分化されてしまう。 同種製品で共通する需要者層を対象にして潜在的に影響を受ける競争の場が想定で きるのであれば、市場が同一性を有しているといえる。 また、本件特許II)及びIII)の実施品である原告の製品(以下「原告製品」という。) には対象被告製品と同じような価格帯の製品も複数存在するから、この点からも市 場の同一性は否定されない。
(イ) 市場における競合品の不存在
侵害訴訟の損害論においては、特許権を侵害する製品が販売されることによって、 特許権者の特許実施製品の販売が減少するという関係があるか否かを問題とすべき であるから、侵害関係のない製品についての適法な同種製品のシェア自体は、推定 覆滅事由としては関係がない。 また、競合品の範囲は、本件特許II)及びIII)の特許権の技術的構成を踏えて、その\n目的・作用効果を把握した上で、当該目的・作用効果が同じで原告製品の販売数量 に影響を与える製品という前提に立脚して考察されるべきであって、「背メカで被 施療者の首元から背中、腰にかけてマッサージを行うマッサージチェア」であるか 否かによって範囲を画し、これを前提とすると、殊更に本件特許II)及びIII)の具体的 な構成や解決手段をその考慮対象から一切捨象することになる。\n
(ウ) 侵害者の努力(ブランド力、宣伝広告)
原告は、古くから一貫してマッサージチェアを製造販売している老舗であり、被 告ともシェアを常に争う信用力のある会社である。また、原告は、世界で各種の受 賞実績のある国際的にも認知された会社であり、被告に劣らずグッドデザイン賞を 受賞するデザイン性を備える複数の原告製品を販売している。 したがって、原告企業より被告企業の方が格別に信用力を有し、原告のブランド 力に比して侵害品が利用者にとって購買動機となるなどということはない。 また、開発段階において開発に携わる従業員を配することは、ごく通常のことで あり、原告においても日々機械によるマッサージを人間の揉み心地に近づけるべく 開発努力を重ねている。営業段階において、マッサージチェアの魅力を伝える為の 営業活動は、原告においても常時行っており、被告だけに特別の活動ではない。
(エ) 侵害品の性能\n
対象被告製品のカタログ等には、対象被告製品の仕様(発明の構成)が明記され\nており、本件発明II)及びIII)の作用の発現が示唆されていることから、需要者に一切 訴求されていない本件特許II)及びIII)の作用効果に関連する仕様、機能は、対象被告\n製品の購入動機になり得ない旨の被告の主張は失当である。 被疑侵害品である対象被告製品の具体的な実施態様に関するパンフレット等には、 利用者へ訴求する記載が多数ある。本件特許II)及びIII)の技術的構成を採用するから\nこそ、各種コースのマッサージや腕を含む人体全体のマッサージ効果を高めるマッ サージチェアを提供できるのであり、これらの技術的構成を回避してマッサージチ\nェアを提供することは製品の性能に大きな影響を及ぼし、仮に回避し得たと考えて\nも、その代替的構成を採用するには無視できない費用がかかる。\n
(オ) 特許発明が侵害品の部分のみに実施されているものではないこと
本件特許II)及びIII)は、椅子式のマッサージチェアにあって身体のマッサージに関 する構成、構\造に係る基本的な技術である。被疑侵害品である対象被告製品の一部 に本件特許II)又は本件特許III)の発明が実施されていたとしても、対象被告製品は、 この実施部分を除いてしまえば、全体としての製品構成が成り立たない。すなわち、\n本件特許II)は、椅子式マッサージ機にあって肩を側方からマッサージする「肩また は上腕の側部」の技術的構成に関する重要な特許であり、本件特許III)は、「腕部」 をマッサージする技術的構成に関する重要な特許であって、この実施部分があるか\nらこそ利用者の需要が喚起されているといえる。 本件特許II)に関し、被疑侵害品である被告製品II)を利用する利用者は、様々な自 動コースを自由に判断して設定するのであり、その際に、「肩または上腕の側部」 に効果的なマッサージを行うことができる構成を有している製品か否かが製品選択\nには重要である。本件特許II)の構成の内容は、取扱説明書の中でもこれを織り込ん\nでしばしば説明されており、それが被疑侵害品である被告製品II)の全般に亘ること も明らかで、本件特許II)の構成を抜きにしては、被告製品II)の多くの自動コースも 成り立たないことも一見して明らかである。 本件特許III)に関して、開口の向きを考慮しつつ、腕のエアマッサージを行う本件 特許III)の技術的構成の具体的な実施態様は、これを採用する製品の外観にもマッサ\nージ効果にも大きな影響を及ぼす。
(カ) まとめ
以上を総合的に考慮すると、推定覆滅される割合は、少なくとも55%以上には ならない。
エ 損害額
(ア) 特許法102条2項に基づく損害額の算出ができる対象被告製品について 不当利得期間及び損害賠償期間を通じた限界利益の額(前記イ(ウ))について、前 記ウのとおり、推定覆滅される割合は、55%以上にはならないから、被告が開示 した限界利益率を前提とした場合は、●(省略)●を下らず、原告が主張する限界 利益額を前提とした場合は、●(省略)●を下らない。
(イ) 特許法102条2項に基づく算出ができない対象被告製品について 被告の開示によれば、被告製品12、30及び32の限界利益はマイナスであっ て、赤字が計上される製品であるので、これには特許法102条2項に基づく算出 ができない。前記3製品について、●(省略)●そして、前記3製品について、こ の限度で特許法102条3項の主張を行う。
・・・
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)を総合すると、被告の開示した限界利益額による場合、特許法102条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、原告が主張する修正限界利益額による場合、同条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、少なく見積もっても50億円を下らない。
(3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張
ア 特許法102条1項と同条3項の関係と同条2項 特許法102条1項と3項の併用に関する令和元年法律第3号による改正(以下 「令和元年改正」という。)後の特許法に関する考え方として、産業構造審議会知\n的財産分科会特許制度小委員会の報告書(「実効的な権利保護に向けた知財紛争処 理システムの在り方」)において、わざわざ2項との関係でも「同様の扱いが認め られることと解釈されることが考えられる」と記載されており、その解釈可能性が\nあることへの言及があるから、2項と3項の併用については、条文に明示されなか ったとはいえ、全面的に併用適用が否定されたわけではなく、解釈に任されること を明らかにしている。 したがって、特許法102条2項に基づき主張された損害のうち推定が覆滅され た部分について、同条3項の重畳適用が認められるべきである。

◆判決本文(損害論)

◆判決本文(侵害論)

関連事件1です。 同じく富士医療器による特許権侵害を認定ししてるとして、約4800万円の損害を認めました。

◆平成30(ワ)1391

原告・被告が逆の侵害訴訟はこちら。

◆令和2年(ネ)10024

この1審はこちら。

◆平成30(ワ)3226

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令和2(ネ)10024  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。

原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載 に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示 唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置 関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内 側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延 設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の 前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿 入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、 「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを 示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」 中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上 り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、 請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞 部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の 飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも 「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論 が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内 側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する ことを看取できるものではない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件 発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の 長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された 椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の 前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手 掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部 の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面 部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び 前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞 部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本 件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1 4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様 に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以 下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各 発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕 部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口 部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前 記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された 施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と 本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、 「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正 後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」 及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、 「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形 状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」 が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指 摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面 部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部 を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として 追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前 腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに 鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫 して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲 の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって 「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C− 1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部 に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を 設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態 を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部 (62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発 明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分 に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を 備えることを要しないことは明らかである。 また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設 けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感 を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨 げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし 【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁 を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無 が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、 手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」 及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が 「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。 次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出 願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004 6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として 挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、 本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」 が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請 求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最 初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙 C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明 細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1 4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決 の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞 部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、 控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき ない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特 許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同 一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅 部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認 められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製 品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合 関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴 人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも のと認められる。 一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理 由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に 係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄 与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす ることができたものと認められない。 そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由 に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、 侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを 判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由 と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適 用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、 そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、 覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の 喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上 困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施 されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、 特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々 の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件 推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認 められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自 己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た 部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する 「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法 を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」 を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の 推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算 過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽 されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を 適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同 条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条 3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告 製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定 覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、 あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における 利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特 許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、 法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条 3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特 許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特 許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた 実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の 喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特 許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、 特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が 実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上 げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施 料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二 重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令 和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様 の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推 定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと いうべきである。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆平成30(ワ)3226

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平成31(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は4700万円の損害賠償を認めましたが、控訴審はこれを約5560万円としました。また、1審は102条2項の推定覆滅の割合は完全非公開としましたが、知財高裁は、貢献度99%+αと一部非公開としました。また、1審では2項と3項との重畳適用は主張されていません。

(3) 特許法102条1項に基づく損害について
ア 適用関係
令和元年法律第3号による改正について 存続期間の満了により、本件特許権1の侵害行為は令和2年3月31 日までに終了しているところ、令和元年法律第3号による改正後の特許 法102条1項は令和2年4月1日から施行されたものであるが、改正 法附則には経過措置がないことから、本件特許権1の侵害行為には、上 記改正後の特許法102条1項が適用される。 一審被告は、改正法を遡及適用せずに旧1項を適用すべきであると主 張するが(前記第2の4(16)参照)、改正後の特許法102条1項2号は、 実施相応数量を超える数量又は特定数量(通常実施権を許諾し得た場合 に限る)に応じた実施料相当額を損害の額とするものであるところ、そ の実施相当額の損害が実体法上生じ得ないものとはいえないから、改正 法が実体法上の請求権を新たに創設したものとはいえない。したがって、 同号は、客観的には改正前から損害を構成するといえた実体法上の損害\nを推定する規定にとどまるものといえるから、一審被告の上記主張を採 用することはできない。
・・・
ウ 「単位数量当たりの利益の額」
原告の製品の1台当たりの限界利益の額が別紙1−1(1)のとおりである ことは、当事者間に争いがない。
エ 「その侵害の行為を組成した物」の譲渡数量等について
販売数
本件では、一審被告による被告表示器A及び被告製品3の生産、譲渡\n等の行為について間接侵害の成立が認められるが、被告製品3は、被告 表示器AにOSを提供することによって被告表\示器Aと原告の製品と同 等なものを生産するという限度において侵害行為を組成しているもので あるから、特許法102条1項の損害を算定するに当たり、被告表示器\nAと独立にその譲渡数量を論じる必要はない。 したがって、特許法102条1項の損害算定に当たっては、被告表示\n器Aの譲渡数量のみを算定基礎とすれば足りる。 そして、平成25年4月1日から令和2年3月31日までの被告表示\n器Aの販売数が別紙5に記載のとおりであることは、当事者間に争いが ない(なお、被告表示器Aについては、各月ごとの販売数は明らかでは\nないので、別紙5のとおり半期ごとの販売数量に基づき、以下、損害額 の算定を行うものとする。また、前記2(2)オのとおり、本件特許権1の 間接侵害が成立するのは平成25年4月2日以降であるところ、同月1 日の被告表示器Aの販売数の有無又はその数量が不明であるが、同日の\n譲渡等が7年にわたる期間の損害額全体に影響するのはごくわずかであ り、この1日分を含めるか否かの相違は以下の算定の中で吸収され、何 らかの影響を及ぼすことは想定し難いから、同日の販売数を改めて算定 することはせず、別紙5に記載の販売数をそのまま用いることとする。)。
譲渡数量
一審被告は、「その侵害の行為を組成した物」は直接侵害品であると ころ、被告表示器A及び被告製品3を購入した者の全てが本件発明1の\n実施品(直接侵害品)を生産しているのではないと主張する(前記第2 の4(16)参照)。しかしながら、間接侵害行為は特許権を「侵害するものとみなす」 (特許法101条)とされており、そして、特許権侵害の損害の額につ いて、「その侵害の行為を組成した物」(同法102条1項)とされてい るところ、前記ア のとおり、間接侵害にも同法102条の適用がある と解する以上、「侵害の行為を組成した物」とは間接侵害品を指すもの と解するべきである。
もっとも、特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は、特許 権を侵害しない用途ないし態様で使用することができるものである。そ して、そのような部品等の譲渡は、当該部品等の譲渡等により特許権侵 害が惹起される蓋然性が高いと認められる場合には、譲渡先での使用用 途ないし態様のいかんを問わず、間接侵害行為を構成するが、実際に譲\n渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には、 結果的には、間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与していない。そう すると、そのような譲渡先については、間接侵害行為がなければ特許権 者の製品が販売できたとはいえないことになり、特許権者等に特許発明 の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲 渡によって得た利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すること はできないというべきである。そして、このような場合は同法102条 1項1号の「販売することができないとする事情」に該当するものと解 するのが相当である。一審被告の主張は、仮に、直接侵害品の生産に用 いられた数量のみを損害算定の基礎とすべき主張が採用されない場合に は、同一の事情を「販売することができないとする事情」として主張す るとの趣旨も含むものと解され、その限度で採用することができる。 したがって、特許権者等の損害額の算定に当たっては、そのような販 売数量は、特許法102条1項の「譲渡数量」から控除されると解する のが相当である。
オ 「販売することができないとする事情」について
販売することができないとする事情(その1)
一審被告は、1)原告の製品が一審原告製のプログラマブル・コントロ ーラにしか接続できないこと、2)一審原告がプログラマブル・コントロ ーラ用表示器の市場において意味のあるシェアを有しておらず、本件発\n明1の技術的特徴による販売への貢献も極めてわずかであるから、被告 表示器A及び被告製品3の購入者のほとんどは、一審原告以外のメーカ\nーの製品を購入する、3)原告の製品は本件発明1の実施品ではないから 本件特許権1の侵害によって一審原告に損害が発生する余地はない旨を 主張する(以下、この主張に係る事情を「販売することができないとす る事情(その1)」という。)。
特許法102条1項1号の「販売することができないとする事情」と は、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する 事情をいうものである。
本件発明1の特徴的技術手段は、異常発生時におけるタッチによる接 点検索にすぎず、回路モニタ機能全体ではないことや、従来製品として、\nモニタ上に表示される異常種類のうち特定のものをタッチして指定する\nと、その指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラ ダー回路が表示され、異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定\nをタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番号を入力して 行う製品が存在していたことは、前記2(2)イ において認定したとおり である。そうすると、本件発明1に係る機能を全て使用することができ\nる製品が原告の製品以外に存在していなかったとしても、コイルの指定 や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番 号を入力して行う製品は存在しており、そのような製品でも、異常現象 の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定した り、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりするこ と自体は可能であり、それほど複雑な操作を要するものではないといえ\nる。さらに、本件発明1の技術的範囲に含まれないものであっても、異 常発生時においてコイル検索のみを実施できるようにし、回路を戻る場 合には検索機能を用いずに戻る機能\を有する表示装置であれば、異常現\n象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定し たり、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりする という目的を達することに支障があるとは考えにくい。加えて、本件発 明1の特徴的技術手段である接点検索は、原告の製品にですら実施され ていないものであり、この特徴的技術手段が原告の製品の販売に貢献し ていないことは明らかである。しかも、この特徴的手段である接点検索 は、被告表示器A及び被告製品3の多数の機能\のうち、わずか一点に関 するものであって、その機能の極めて僅少な部分しか占めない。\n 以上からすると、本件発明1の技術的特徴部分が被告表示器A及び被\n告製品3の販売数に大きく寄与したものとはおよそ想定し難い。また、 一審原告のプログラマブル表示器(表示装置)における市場シェアは、\n別紙7−2の「その他」に含まれるにすぎない僅少なものである(甲3 1)上に、原告の製品は、一審原告製のプログラマブル・コントローラ にしか接続できない(争いがない。)のであるから、被告表示器A及び\n被告製品3が本件発明1の特徴的技術部分を備えないことによってわず かに販売数が減少したとしても、その減少数分を埋め合わせる需要が、 全て一審原告の方に向かうとも想定し難い。 したがって、本件では、被告表示器A及び被告製品3が本件特許1を\n侵害したことによって原告の製品が販売減少したとの相当因果関係は、 著しい程度で阻害されると認めるべきであり、被告表示器Aの販売数の\n99%について販売することができないとする事情があると認めるのが 相当である。
販売することができないとする事情(その2)
前記エ のとおり、一審被告が直接侵害品の生産に用いられた被告表\n示器Aの数量として主張するところは、「販売することができないとす る事情」の一要素として考慮することができるところ、一審被告は、前 記第2の4(16)(原判決第3の18(被告の主張)(1)ア c)のとおり、 1)輸出の除外、2)プログラマブル・コントローラに接続しない利用態様 の除外、3)一審被告製シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出 される事情、4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出さ れる事情、5)被告製品1−2についてオプション機能ボートを購入した\n割合から算出される事情、6)ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロ\nジェクトデータを有する被告表示器Aの割合から算出される事情を主張\nする(前記第2の4(16)参照。以下、この主張に係る事情を「販売するこ とができないとする事情(その2)」という。)。
そこで、検討するに、まず、一審被告が把握している被告表示器Aの\n輸出台数は、別紙7の1に記載したとおりであること、平成25年の一 審被告製のプログラマブル表示器の販売数量、販売金額、国内市場シェ\nアは、同7の2に記載したとおりであること、平成25年から令和2年 までの一審被告のプログラマブル・コントローラの国内総販売数、国内 市場シェアは、同7の3に記載したとおりであること、一審被告製シー ケンサ(プログラマブル・コントローラ)の販売実績、回路モニタ機能\nの実行が可能なシーケンサ等の割合は、同7の4に記載のとおりである\nこと、GT15(被告製品1−2)に装着可能なオプション機能\ボード の販売台数は、別紙7の5に記載のとおりであることが認められ(甲3 1、乙58ないし64、弁論の全趣旨)、これに反する証拠はない。 上記認定事実を前提に更に検討すると、1)国外に輸出された被告表示\n器Aについては、本件発明1が実施されるのが日本国外となり、属地主 義の原則から本件特許権1の侵害は生じ得ないから、一審被告から開示 された輸出台数は控除するのが相当であるが、その輸出台数を一審被告 は別紙7の1のとおり把握しているとし、これに疑念を差し挟む理由も ないところ、その台数が全体の販売数に占める割合は僅少である。2)プ ログラマブル・コントローラに接続しない被告表示器Aについても本件\n特許権1の侵害が生じないところ、その数量は、一審被告すらおおよそ の割合でしか示し得ていないものの(別紙2−1)、前記2(2)エ のと おり、ユーザは高額な機器である被告表示器Aの機能\を十全に利用する\nため回路モニタ機能等を利用しようと合理的に行動するものといえるか\nら、被告表示器Aをプログラマブル・コントローラに接続する割合は非\n常に高くなるものと推認される。3)一審被告製シーケンサ等に接続する 利用態様の割合については、前記2(2)エのとおり、プログラマブル・コ ントローラとプログラマブル表示器とを同一メーカのもので統一する傾\n向があると推認されることから、一審被告製シーケンサの国内市場シェ ア割合(別紙7−3)に従った割合で被告表示器Aが一審被告製シーケ\nンサに接続されるものとするのは不自然であり、当該シェア割合よりは 一定程度高い割合で一審被告製シーケンサと接続されるものと推認する のが相当であるが、他社の製品との組み合わせが僅少であるとまでは認 め難い。4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合については、被 告表示器Aがその仕様・機能\等からみて特定のシーケンサに用いられる とする特別な傾向があることまでもを認めるに足りる証拠はないから、 回路モニタ機能を利用できないシーケンサの販売割合(別紙7−4)は\nその割合のまま考慮することが相当である。5)被告製品1−2について オプション機能ボートを購入したユーザの割合(最大で約4分の1)に\nついては、一定の考慮をするものとするが、そもそも被告表示器Aに占\nめる被告製品1−2の割合は約●パーセントにすぎないから、いずれに しても、被告表示器A全体の中ではほとんど影響を及ぼさない。最後に、\n6)ユーザがワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを\n作成する割合については、引用に係る原判決第4の2(2)(本判決前記1 (2)にて補正されたもの)において認定したとおり、一審被告がワンタッ チ回路ジャンプ機能を宣伝のポイントとしていたことや、被告表\示器A 及び被告製品3を購入等したユーザは回路モニタ機能等を用いることを\n強く動機付けられ、その機能がインストールされる可能\性もかなり高い といえること等に照らせば、ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いようと\nする者は相応の数に上るものと考えられるものの、具体的な割合を確定 するに足りる資料はない。
以上の観点から検討するところ、上記1)、2)、5)については、直接侵 害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はわずか、あ\nるいは少ないが、上記4)及び6)については直接侵害品の生産に用いられ る被告表示器Aの数量に与える影響はかなり大きく、3)についても少な からぬ影響があるというべきである。なお、ここまでにおいて、これら の事情を独立の要素として考慮したが、例えば、ワンタッチ回路ジャン プ機能を用いるプロジェクトデータを作成するユーザは回路モニタ機能\ 等を使用できる機器を有しているなど、これらの要素は相互に関連性を 有する場合もあり得る。そこで、このような点も加味して、上記事情を 総合考慮すると、被告表示器Aの販売数の●●%が直接侵害品の生産に\nは用いられなかったものと推認することが相当である。したがって、こ の限度において、「販売することができないとする事情」があると認め る。
一審被告の主張について
一審被告は、ユーザからの不具合調査や技術支援の依頼への対応に応 じてユーザから取得しているプロジェクトデータから、本件発明1の実 施品の生産に用いられる被告表示器Aの数が推定できると主張する(前\n記第2の4(16)参照)が、これらのプロジェクトデータは、一審被告に対 して技術支援を求めるユーザ、不具合品として製品を返却してきたユー ザ、他社製表示器から一審被告製品に乗り換えたユーザから取得してき\nたプロジェクトデータというのであって(乙72)、全くランダム化さ れていないものであり、それらユーザが一審被告の製品を用いるユーザ の平均的な技術水準にあるとは認め難く、その主張を採用することはで きないそのほか一審被告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
一審原告の主張について
一審原告は、前記 3)の事情につき、引用に係る原判決第3の18(1) ア c(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの)のとおり、プログラ マブル表示器を他社製のプログラマブル・コントローラに接続する利用\n態様は僅少である旨主張する。しかしながら、プログラマブル・コント ローラの市場シェアでは下位を占めるが、プログラマブル表示器のシェ\nアでは上位を占める社があり(乙58ないし64)、そのような社のプ ログラマブル表示器は他社製のプログラマブル・コントローラに接続さ\nれることを前提にされていると考えられる。このような点に鑑みると、 異なる社が製造するプログラマブル表示器とプログラマブル・コントロ\nーラとを組み合わせることも、当業界としてあり得る対応と推認される。 そうすると、プログラマブル表示器とプログラマブル・コントローラの\n親和性が好まれるといっても、他社製のものとの組み合わせることが僅 少であるとまでは認められないから、一審原告の上記主張を採用するこ とができない。
また、一審原告は、同c(b)(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの) のとおり、1)被告表示器Aと接続できない場合がある「MELSEC Qn Aシリーズ」、「MELSEC Aシリーズ」、「MELDAS C6/C64」、「MELSE C iQ-Lシリーズ」及び「CNC C80シリーズ」などのシーケンサを購入 したユーザが被告表示器Aを購入するはずがない、2)単純な使用態様で あるスタンドアローン向けのシーケンサに回路モニタ機能等を有する高\n額な被告表示器Aを接続するユーザはいない旨主張するが、上記1)につ いていえば、仮に、一審原告の指摘するシーケンサが被告表示器Aと接\n続できないとしても、別紙7の4のとおり、一審被告製シーケンサ全体 に占めるその販売割合は●ないし●●●%と極めて僅少であって全体的 な傾向を全く左右させないものであるし、上記2)についていえば、一審 被告が主張するように言い切ることができることを認めるに足りる証拠 はない。そのほか一審原告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
以上のとおり「販売することができないとする事情(その1)」とし て、主に本件発明1の売上げへの貢献に関する観点からの99%の控除 と「販売することができないとする事情(その2)」として、直接侵害 品の生産に用いられていないとの観点からの●●%の控除が認められ、 両者は独立して考慮できる控除要素であるから、結局、別紙8に記載の とおり、被告表示器Aの譲渡数量から、99%の譲渡数量を控除し、更\nにその数量から●●%の譲渡数量を控除した数量(控除数量は、●●● ●%となる。)について「販売することがのできないとする事情」を認 めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60≒0.98 3を下回るものではない。)。
カ 特許法102条1項1号の損害
前記イないしオの判断を踏まえると、特許法102条1項1号に基づく 一審原告の損害額は、別紙8のとおり、5062万9205円と認めるの が相当である。
キ 特許法102条1項2号の損害
特許法102条1項2号は、特定数量がある場合、その数量に応じた実 施料に相当する額を損害の額とすることができると定める一方で、同号括 弧書きは、特許権者等が当該特許権者等の特許権について実施権の許諾を し得たと認められない部分を除く部分を除外しているから、侵害者の侵害 行為により特許権者がライセンスの機会を喪失したとはいえない場合には 実施料に相当する額の逸失利益が生じるものではないことが規定されてい る。
前記オのとおり、本件において認められた特定数量は本件発明1の特徴 的技術部分が被告表示器A及び被告製品3の販売量に貢献しているとは認\nめられない数量、機能上の制約あるいは一審原告のシェア割合からみてユ\nーザの需要が原告の製品に向かず、一審原告以外の他社への購入に振り向 けられる数量、直接侵害品の生産に向けられず本件発明1の技術的範囲に 属しない表示器となる数量を合わせたものであるから、そのように本件発\n明1が販売数量に貢献し得ていない製品や一審被告以外の他社が販売する 製品について、一審原告が一審被告に本件発明1をライセンスし得るとは 認められない。そうすると、特許法102条1項2号の損害を認めることはできない。
(4) 特許法102条2項に基づく損害について
ア 本件の間接侵害への特許法102条2項の適用の可否
特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許 権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ、この規定の趣旨は先 に同条1項について述べたのと同様であると解される。したがって、先に 同条1項について述べたのと同様の考え方の下に、本件において同条2項 の適用を肯定するのが相当である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
平成25年4月から令和2年3月までの被告表示器A及び被告製品3の\n販売額が別紙3ないし6に記載されたとおりであること、被告表示器Aの\n限界利益率が20パーセントを下らないこと、被告製品3の限界利益率が 原判決別紙「被告の変動費の内訳、加重平均値及び限界利益率」に記載さ れたとおりであることは、当事者間に争いがない。
ウ 推定覆滅事由について
特許法102条2項は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が 得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果 関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅 されるものと解される。ここで、特許法101条2号の間接侵害品が実際には直接侵害品の生産に用いられることがなかった場合には、結果的にみれば、当該間接侵 害品の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという 関係にはなく、特許権者に特許発明の物の譲渡により得べかりし利益の 損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者 が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから、こ のような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解 するのが相当である。そうすると、先に特許法102条1項1号につい て述べた事情(前記(3)オ 。以下「推定覆滅事由(その1)」という。) は、特許法102条2項の推定覆事由として捉えることができるから、 被告表示器A及び被告製品3の利益の99%について覆滅事由があると\n認めるのが相当である。さらに、被告表示器A及び被告製品3のうち、\n直接侵害品の生産に用いられなかった分については一審原告の受けた損 害額であるとの推定を覆す事情(以下「推定覆滅事由(その2)」とい う。)があるというべきであるところ、直接侵害品の生産に用いられな かった被告表示器Aの数は、前記(3)オ と同旨の理由により、全体の● ●%に及ぶと認められるから、●●%の利益について推定が覆滅される ものと認めるのが相当である。また、被告製品3についても、直接侵害 品の生産に用いられたものと、そうではないものとが生じるが、特にど ちらかに偏るべき事情はうかがわれないから、そのインストール先の表\n示器Aと同様の割合で、その●●%の利益について推定が覆滅されるも のと認めるのが相当である。
以上のとおりであり、推定覆滅事由(その1)として、主に本件発明 1の売上げへ貢献に関する観点から導いた99%の減額と推定覆滅事由 (その2)として、直接侵害品の生産に用いられているかの観点から導 いた●●%の減額が認められ、両者は独立して考慮できる減額要素であ るから、結局、受けた利益のうち、●●●●%の額について推定覆滅事 由を認めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60 ≒0.983を下回るものではない。)。
エ 特許法102条2項の損害
前記イ及びウの判断を踏まえると、特許法102条2項に基づく一審原 告の損害額は、別紙9のとおり、合計2424万7080円と認めるのが 相当である。
オ 特許法102条3項の重畳適用について
仮に、特許法の解釈上、特許法102条2項と3項の重畳適用が排除さ れていないとしても、その適用は同条1項2号の趣旨にかなったものとな るのが相当と思料されるべきところ、本件においては、同条2項の覆滅事 由は前記ウ 及び のとおり、そもそも同条1項2号の適用のない場合で あるから、同条3項を重畳適用できる事案ではない。 したがって、いずれにせよ、一審原告の上記主張を採用することはでき ないものである。
(5) 小括
前記(3)及び(4)の判断を踏まえると、前記(3)にて認定の特許法102条1項 に基づく原告の損害額(5062万9205円)の方が高いことから、その 額を一審原告の損害と認める。
(6) 弁護士費用
一審原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判 所に顕著な事実)、一審被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用は、500万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成27(ワ)8974

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令和2(ネ)10032  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明の特許権侵害に対して、原審は約3600万円の損害賠償を認めました。1審原告は、請求を2億円に拡張する控訴をし、知財高裁(2部)は約1億2000万円の損害賠償を認めました。
原審(平成28年(ワ)7678号)はアップされていません。

(ア) 原判決別紙「本件ソフト・ハード機器の売上額(裁判所の認定)」のとお\nり、本件において一審被告が受けた利益として認められる本件ソフト及びハードウ\nェアの売上額が合計2億5714万4027円であるのに対し、後記のとおり、本 件において一審被告が受けた利益として認められる月次利用料(被告システムない し本件ソフトの導入後5年以内に支払われるもの。以下同じ。)に係る売上額は、\n合計3億9531万1537円であり、月次利用料に係る売上額は、本件ソフト及\nびハードウェアの売上額の約1.5倍にも及ぶ高額のものであって、これを単なる データベースの更新費用等であるとみることは困難であること、一般に被告システ ムないし本件ソフトのように内容の更新が絶対に必要なデータベースを用いるシス\nテムないしソフトウェアにおいては、適時のデータベースの更新がなければシステ\nムないしソフトウェアとしての意味をなさないから、当該システムないしソ\フトウ ェアを導入する際に、更新があることを当然の前提にしてこれを含んだ価格設定を することには十分な合理性があること、弁論の全趣旨によると、一審被告は、被告\nシステムないし本件ソフトを導入した医療機関が月次利用料を3か月間支払わない\nときは、被告システムないし本件ソフトが起動しないような措置を執っているもの\nと認められること(一審被告第3準備書面5〜7頁)などの事情に照らすと、甲2 0及び48に月次利用料について「データベース更新料等」の記載があるとしても、 月次利用料に係る売上げは、被告システムないし本件ソフトの譲渡の対価(譲渡代\n金の延べ払い)の性質を持つものとして、これを一審被告が得た利益に含めるのが 相当である。

◆判決本文

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令和2(ワ)4331  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月13日  東京地方裁判所

 電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。

同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。 しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。 原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。

◆判決本文

関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332

関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074

関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和3(ネ)10088等  特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 特許侵害事件です。知財高裁第4部は、102条2項の覆滅は5%から15%とし、損害賠償額を減額しました。なお、102条2項と3項の重畳適用は1審と同様に否定しました。

被控訴人は、前記第2の3(2)ウ(イ) のとおり、競合品の存在を理由とする特 許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3 項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき である旨主張する。しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性 があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴 人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施 料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被 控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審も以下のように、重畳適用を否定しました。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは 競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関 わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎 を欠く。

◆令和1(ワ)9113

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令和2(ネ)10042  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。

争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6 159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第 1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に 対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、 前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置 関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴 人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2 04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知 手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、 S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載 器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及 び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、 発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、 被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」 と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。 また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用 出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場 合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手 段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機 を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、 逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘 導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、 料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防 止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明 らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に 第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。 たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車 両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上 記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の 遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中 の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無 線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行 中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0 042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、 車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1 の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通 信を行うものであると限定的に解釈することはできない。 したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開 閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出 ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定 結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通 じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘 導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに 通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各 システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。 しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導 する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」 に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、 インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー] 1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、 バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係 員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出 ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各 発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提 供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」 という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1 の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で 説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5 685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生 活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常 のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年 と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3) 既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕 著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触 しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める 被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人 は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆H31年(ワ)7178

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令和2(ワ)29604  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月27日  東京地方裁判所

 携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。

ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該 特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない 場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明 自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可 能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等 訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。 イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と して、次のとおりのものが認められる。 「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査 研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係 特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分 野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、 アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、 平均●(省略)●%であると計算された。(乙14) また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が 初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除 き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16) 平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電 話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面 テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁) 他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁) 原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾 し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本 件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス 料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限 らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも 通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機 能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その 保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結 した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。 これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施 料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分 が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど 種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、 当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので はなく、上記認定を左右するに至らない。 また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを 認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24 00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当 該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論 を左右するものとはいえない。

◆判決本文

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令和1(ワ)9842  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月9日  大阪地方裁判所

 102条2項の覆滅部分(2割)について、3項のライセンス相当額が加算されて、トータルで2億円弱の損害賠償が認められました。

(ウ) 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなさ れるものの、一方で、競合品に該当する商品数が多いとはいえないこと、被告製品 の売上に対する本件各訂正後発明の貢献の程度は大きいと認められること、被告独 自の販売ルートの点は限定的な影響に留まり、その他に推定を覆滅すべき具体的な 事情は見当たらないことから、本件においては2割の限度で損害額の推定が覆滅さ れるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採 用できない。
ウ 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、1億4759万2498円(≒184,490,622 円×0.8)となる。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
ア 被告製品の売上
原告製品の販売開始前である平成25年から平成27年11月24日までの被告 製品の売上は合計1億3814万3836円である(当事者間に争いがない)。
イ 実施料率
本件において、本件各訂正後発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず、証拠 (乙26)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年8月31日に発行された「ロイ ヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウ ハウ〜」において、光学機器及び家具、ゲームの技術分野における正味販売高に対 する実施料率は、光学機器については、平均が3.5%、最大値が9.5%、最小 値が0.5%、標準偏差が1.9%であり、家具及びゲームについては、平均が2. 5%、最大値が4.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.5%であることが認 められる。これらに、原告と被告は競業関係にあること、前記(1)イのとおり、本件 各訂正後発明の貢献の程度その他本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件 における実施に対して受けるべき料率としては6%が相当であると認める。
原告は、他社との和解内容等を考慮して、被告製品1台あたり1万円(実施料率 23.6%)が妥当である旨を主張する。しかし、種々の事情を総合的に考慮して 和解に至ることが通常であり、和解内容を実施許諾契約と同様に考えるのは相当で ないことに加え、証拠(甲42、43)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、和解 契約等において、相手方が、原告に対し、原告が実施料相当額であると主張してい る金員を支払う他に金員を支払う条項は存在しないことが認められ、特許法102 条3項及び同条2項の適用により損害の額を算定する本件とは条件を異にするとい うべきである。
ウ 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、828万86 30円(≒138,143,836×0.06)となる。
(3) 特許法102条2項の推定覆滅と同条3項の適用について
特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受 けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者 は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算 定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争ってい ない。)。 平成27年11月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億3613 万9283円であるところ(当事者間に争いがない)、前記(1)及び(2)のとおり、 特許法102条2項の推定は2割覆滅され、同条3項の実施料率は6%である。 したがって、特許法102条2項の推定が覆滅された部分について同条3項が適 用されることによる損害額は、403万3671円(≒336,139,283×0.2×0.06) となる。

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平成30(ワ)24818 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月23日  東京地方裁判所

 東京地裁(40部)は、約5700万円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」を算定する基礎となる相 当実施料率については、1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実 施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考 慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や 重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた 場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競 業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理 的な料率を定めるべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号 令和元年6月7日特別部判決参照)。
イ これを本件についてみると、本件訂正発明1の実際の許諾例は存在しな いものの、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、実施料の相場について、 「精密機器」の特許の実施料率が、平均3.5%(最大値9.5%、最低 値0.5%)であり、「その他」の分野の司法決定の実施料率が、平均7. 3%(最大値12.0%、最小値3.0%)であると報告された例がある こと(甲22)、原告が、第三者との間で、その発明の名称を「導電性ボ ール配列用マスク及びその製造方法」とする特許について、実施料率を1 0%とする旨の合意をしたことがあり(甲23)、その発明の名称を「ク リーム半田用メタルマスクおよびスクリーン印刷用スキージ技術」とする 特許について、実施料率を20%とする合意をしたことがあること(甲2 4)、以上の事実を認めることができる。 これに対し、被告は、これらの許諾例は、認識マークの電解処理とは無 関係なものを抽象的に一括するものであると主張するが、特許発明の属す る一定の範囲の分野を相当実施料率の考慮要素とすることは正当であり、 被告が指摘するような個別具体的な特許発明の内容については、特許発明 自体の価値や技術内容の観点から考慮するのが相当である。
ウ そして、本件訂正発明1は、前記1(1)のとおり、認識マークを形成する 従来の技術が、認識マークとして充填したトナーが凹部から脱落し、また、 箔物メタルマスクに適用することが困難であるという欠点があったため、 これを解消するものであって、本件訂正発明1と同一の作用効果を代替す る技術があることを認めるに足りる証拠はない。ただし、現在においても、 本件訂正発明1の電解マーキングよる認識マーク以外の認識マークの形成 方法も相当な割合で使用されており(乙93、99)、顧客によっては、 電解マーキング以外の方法を特に指示する場合があることも認められるこ とからすると、メタルマスクの認識マークに係る市場において、本件訂正 発明1の方法が、唯一の実用的な技術であるとまでいうことはできない。
エ 上記のような本件訂正発明1の技術内容や重要性に照らせば、これを実 施することは、原告及び被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するも のであるといえる。そして、原告が、本件訂正発明1に係る技術を広く宣 伝等しているとは認められないとしても(乙97)、原告と被告が、本件 訂正発明1に係るメタルマスクの分野で競合する会社同士であることを考 慮すれば、仮に、原告が、被告に対し、本件訂正発明1の実施を許諾する とすれば、その実施料は相当に高額になったものといえる。
このような事情に加え、特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」 を算定する基礎となる相当実施料率は、特許権侵害をした者に対し事後的 に定められるものであって、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるこ とをも踏まえると、被告製品1による本件訂正発明1の侵害に係る実施料 率としては、売上高の●(省略)●%を認めるのが相当である。
オ なお、被告は、侵害論に係る裁判所の心証開示後、損害論の相当実施料 率の考慮要素として、本件訂正発明1が、既知の技術であり、被告が、先 使用していたものであるなどとして、乙2メタルマスクとは別個の製品に 係る分析結果などを証拠提出した。しかし、当該主張は、実質的には先使 用の抗弁(争点2)の根拠となる事由を追加するものであり、訴訟の完結 を遅延させると認められたことから、当裁判所は、被告に対し、上記証拠 提出に係る主張を補充しないように訴訟指揮をした。そして、被告は、こ れを侵害論の段階で主張立証し得なかった理由を特に説明しないのである から、当該主張立証は、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条 1項)として、原告の申立てに基づき却下するのが相当である。\n

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令和3(ネ)10091  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、特許法102条2項の適用について、個々の法人格に基づく形式的な判断をして、これを否定し、同3項により損害額を約90万円と認定しました。知財高裁は、102条2項の推定を認め、控訴人の請求額満額の損害賠償を認めました。

 ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合におい て、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特 許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるために は、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関 係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、 妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵 害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定 するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害 者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存 在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
イ これを本件についてみると、一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一 審被告製品1〜3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはジ ンマー・バイオメット合同会社であって特許権者である一審原告ではないものの、 前記(1)のとおり、一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するZimme r Inc.の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グ ループ会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用 して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、Zimmer I nc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしてい るのであるから、ジンマー・バイオメットグループは、本件特許権の侵害が問題と されている平成28年7月から平成31年3月までの期間、Zimmer Inc. の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行してい ると評価することができる。そうすると、ジンマー・バイオメットグループにおい ては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被 告製品1〜3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。 そして、一審原告は、ジンマー・バイオメットグループにおいて、同グループの ために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することがで きる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益 を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記 のとおり、ジンマー・バイオメットグループにおいて一審原告の外に本件特許権に 係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許 法102条2項を適用することができるというべきである。
(3) 推定の覆滅について
特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と 同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が 受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解されるところ、一 審被告は、1)本件特許権を保有・管理するだけの一審原告の利益は何ら害されてい ないこと、2)競合する第三者の製品があること、3)固定プレートの選択をする医師 は、一審被告製品がなかったとするならば、他の一審被告の製品であるP−Pla teを選択していたことが確実であることから、推定が覆滅されるべきであると主 張する。
そこで検討するに、前記(1)で認定したジンマー・バイオメットグループの一審原 告製品に係る事業遂行の状況を踏まえると、本件特許権を第三者が侵害することに よって一審原告製品の売上げが減少して、ジンマー・バイオメットグループの利益 が減少し、その結果、本件特許権の保有による利益が帰属する一審原告の利益が害 されたということができる。また、一審被告は、第三者の競合品の存在を指摘する ものの、本件全証拠によっても、それらが本件特許権の特徴を具備する競合品であ るのか、また、一審被告の指摘する競合品の存在が、一審被告製品が存在しなかっ たとした場合に一審原告製品の販売に影響するといえるかは必ずしも明らかではな い。さらに、一審被告製品が存在しないとした場合に、医師がそもそも一審被告製 品を販売していない一審被告の製品を選択すると認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件において特許法102条2項における推定を覆滅する事由があ ると認めることはできない。
(4) 損害額
ア 平成28年7月から平成31年3月までの被告製品1及び2の販売額が●● ●●●●●●●であること並びにその限界利益率が●●●であることについて当事 者間に争いがない。そうすると、特許法102条2項により、一審原告の損害額は、 ●●●●●●●●●と推定される。
イ 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の 不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、●●●●と認められる。
ウ 上記ア及びイの合計額は、454万4478円である。

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原審はこちら。

◆令和1(ワ)14314

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平成30(ネ)10034  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。

上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙 14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験) の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物) の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴 下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4 9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第 3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を 滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲 33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば 抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被 告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結 果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、 圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、 上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験 及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング) を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全 に抑制されていることが認められる。 そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部 に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の 流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。 したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、 同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真 1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録 の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決 第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。 そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」 は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作 動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで 上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品 におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分 (ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要 件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、 争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属 するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。 甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体 のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝 国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録) の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975 件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平 成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効 回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密 機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値 3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告 書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平 成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件 発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を 塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の 2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気 (湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向 上するという効果を奏するものである。 これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量 制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止 のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替 技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要 性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。 そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を 含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目 として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が 挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得 ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被 控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業 関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実 施料率は2%程度であると認めるのが相当である。 ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共 有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され る。 そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、 ●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
・・・
c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で 取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、 2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明 の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付 孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食 防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、 自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。 このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御 弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利 益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利 益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
・・・
エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する 事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存 在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者 の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機 能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事 情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。 以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及 び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、 被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、 控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個 程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●● ●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認 められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2 について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか 販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は 理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては 全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控 訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。 しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、 本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由 がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴 人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や 信頼関係の存否等につき主張する。 そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67) の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比 較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告 製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。 また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社 及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等 の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品 に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景 には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と ●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。 さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製 品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●● 社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御 弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当 する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。 以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡 数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数 量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●● ●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠 はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、 侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲 渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と 異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相 当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被 控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信 頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該 特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許 諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧 書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと を規定するものであると解される。 これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定 する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被 告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前 提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。 これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会 を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが 相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販 売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●● ●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率 は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の 共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。 以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人 の損害額は268万円と認められる。
・・・
特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者 間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。 ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1 項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵 害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事 情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に 相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵 害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴) 等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上 記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の 侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的 に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判 決・判例時報2430号34頁以下参照)。 控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3) 原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製 品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、 営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切 って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で 有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●● ●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背 景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起 動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に 加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本 件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発 明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取 付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の 出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術) が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは 重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。 被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情 を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前 記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中 において本件特許権を実施していない。 ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定 めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施 をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●● ●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証 拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応 じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害 賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず 請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102 条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を 実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利 益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る 特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害 として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許 権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、 侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその 立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、● ●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴 人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●● ●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること ができない旨主張する。 しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●● の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分 であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消 滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰 属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を 援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主 張は明らかに失当である。 もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求 権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重 払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害 により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当 とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害 により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前 記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張 するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●● ●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除 すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●● ●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する 余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、 同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による 損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額 は●●●●●円をもって相当と認める。 また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易 度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。 そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果 があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」 しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

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平成29(ワ)24942  特許権侵害に基づく不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月20日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。CS関連発明について、広告収入に基づく損害賠償が認められました。

 本件特許の請求項1は下記です。 通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、 ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、 前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、 前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、 を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。

 被告方法等は,本件各発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が被 告方法等を用いて行う地域ターゲティング広告等のサービスを提供する行為 は,本件特許権を侵害するものである。そして,被告はその侵害行為について 過失があったものと推定されるから(特許法103条),原告は,被告に対し, その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が 受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(同法102条3項) ところ,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 また,不当利得返還請求については,同項の「受けるべき金銭の額に相当す る額」は,本来,侵害者がその特許発明の実施に当たり特許権者に対して支払 うべきであった実施料相当額であるから,侵害者がこれを支払うことなく特許 発明を実施した場合は,その実施により,侵害者は同額の利得を得,特許権者 は同額の損失を受けたものと評価することができるから,同項の「受けるべき 金銭の額に相当する額」が不当利得(民法703条)における受益者の利得の 額に相当し,かつ,権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である(知 財高裁平成27年(ネ)第10488号,同第10088号同年11月12日 判決・判時2287号91頁参照)。 そこで,被告が被告方法等を使用して上げた売上高及び実施に対し受けるべ き料率(相当実施料率)につき,以下検討する。
(2) YDN及びプレミアム広告について
ア YDN及びプレミアム広告の売上高
YDN及びプレミアム広告の売上高は,以下のとおりであると認められる。
(ア) YDNの売上高
証拠(乙25)によれば,原告主張の損害算定期間(平成19年7月2 5日〜平成30年6月26日)の売上高(消費税抜き。以下,売上高につ き,特記なき限り同じ。)は,別紙売上高・損害額一覧表のとおりであり,\nYDNのエリアターゲティングを行っている部分の売上高総額は,●省略 ●であると認められる(●省略●なお,端数処理の関係で1円の誤差が生 じている。)。
(イ) プレミアム広告の売上高
同様に,同期間のプレミアム広告のエリアターゲティングを行っている 部分の売上高総額は,●省略●であると認められる(●省略●)。
イ 相当実施料算定の基礎となる売上高の範囲
被告は,YDN及びプレミアム広告の売上高のうち,下記(ア)ないし(エ)に 係る各部分については,相当実施料算定の基礎となる売上高から除外すべき であると主張するので,この点について検討する。
(ア) ●省略●について
被告は,本件各発明の技術的範囲には●省略●から,被告方法等におい て,本件各発明の技術的範囲に含まれる部分があるとしてもそれは●省略 ●であると主張する。 しかし,本件各発明にいう「アクセスポイントに対応する地域」等は, 特に●省略●ものではないので,相当実施料算定の基礎となる売上高を● 省略●理由はないというべきである。
(イ) スマートフォンを利用した売上部分について
被告は,スマートフォンの利用による売上げは相当実施料算定の基礎と なる売上高から控除すべきであると主張する。 しかし,証拠(甲73・3頁)及び弁論の全趣旨によれば,スマートフ ォンからインターネットのウェブサイトを閲覧する場合には,モバイル接 続(4G接続ないし3G接続)又はWi−Fi接続の2通りの方法があり, 自宅等のWi−Fi環境がある場所では,通信容量制限のあるモバイル接 続ではなく,Wi−Fi経由の接続を行うのが一般的であるところ,スマ ートフォンによりWi−Fi接続を行う場合には,接続に用いられるIP アドレスは自宅のWi−Fiに用いられるIPアドレスであり,この場合 には,本件各発明に基づくIPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別しているものと認められる。 他方で,モバイル端末からのインターネット接続(いわゆる4G接続な いし3G接続)の場合に,IPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別することができないことは,原告が自認するところであるから, 相当実施料算定の基礎となる売上高は,かかる接続を利用しない場合(W i−Fi経由での接続の場合)に限定することが必要であるというべきで ある。
(ウ) ●省略●について
被告は,●省略●を控除したものとされるべきであると主張する。
a そこで検討するに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨を総合すると, 以下の事実を認めることができる。
●省略●
b 上記aで認定した事実によれば,被告方法等において,●省略●を控 除することが相当であるというべきである。
c これに対して,原告は,●省略●と考えられると主張するが,これを 認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 他のターゲティング機能に対応する部分について\n
被告は,「年齢」,「性別」,「行動履歴」など「地域」以外のターゲ ティング機能に対する部分の売上げは,本件における相当実施料額の算定\nの基礎とならないと主張する。 この点,証拠(甲22,26)によれば,被告のYDNやプレミアム広 告においては,地域ターゲティングに加え,「時間帯」,「性別」,「年 代」,「行動履歴」等に基づくターゲティングも行われていることがうか がわれるが,他方で,プレミアム広告の商品紹介(甲26)においては, 「エリアターゲティング」が最初に紹介され,また,被告の広告本部本部 長が,平成19年11月5日付けの日経マーケティングのウェブ上の記事 (甲27)において,1)被告は地域ターゲティングに力を入れており,I Pアドレスなどの情報で地域ターゲティング広告ができるようになり,地 域限定のプロモーションや地域限定で企業活動をしている広告主もター ゲットに入ってきたこと,2)地域ターゲティング広告に性別や年齢別など によるデモグラフィックターゲティングも組み合わせればより効果的で あること,3)地域ターゲティング広告は,中小企業,インフラを手がける 大手企業などの需要もあることなどを述べていることが認められる。 そうすると,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲテ\nィング機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの\n機能は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定す\nることが困難であることにも照らすと,地域ターゲティング機能と関連の\nある売上高については,その全額を対象とするのが相当である。
ウ 相当実施料算定の基礎とすべき売上高
上記アのYDN及びプレミアム広告の売上高から,上記イに従って控除す べき分を控除した額は,以下のとおりである。
(ア) YDNについて
証拠(乙25)によれば,YDNについて,●省略●となる。
(イ) プレミアム広告について
同様に,プレミアム広告については,●省略●となる。
(ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による損害額の算定に用いるべき売上高 は,YDNにつき●省略●,プレミアム広告につき●省略●となる(それ ぞれの各年度の内訳は別紙売上高・損害額一覧表の該当欄記載のとおり。)。\n
(3) スポンサードサーチについて
原告は,被告が提供するターゲティング広告に係るサービスのうち,スポン サードサーチに係る売上高も相当実施料の算定の対象とすべきであると主張 するのに対し,被告は,スポンサードサーチにおいては本件各発明を実施して いないから,その売上高は相当実施料の算定の対象外であると主張する。
ア そこで検討するに,●省略●ことが認められる。
しかし,他方で,●省略●本件各発明を実施して行われているとは認めら れないので,スポンサードサーチに係る売上高も損害額算定の対象とすべき であるとの原告主張を採用することはできない。
イ なお,原告は,スポンサードサーチが本件各発明の実施に当たらないとの 主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが,被告は,当初から, 原告主張のターゲティング広告の提供サービスが本件各発明の技術的範囲 に属することを否認していたこと,侵害論の審理においては●省略●が中心 的な争点であったこと,損害論の審理に入り,スポンサードサーチが実施料 算定の基礎となるかが争点となり,これを契機としてスポンサードサーチが 本件各発明の実施に当たるかどうかが問題となったことなどの本訴の経緯 に照らすと,被告の上記主張が時機に後れたものということはできない。
(4) 相当実施料率について
ア 相当実施料率の算定基準
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」の算定に当たり,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特 許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合 には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の 価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れ た諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成 30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号 34頁参照)。
イ 実施料率等について
(ア) 証拠(甲30,79,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実 を認めることができる。
a 原告は,あどえりあ社を通じて,本件特許に係るライセンス(通常実 施権の許諾。以下「本件ライセンス」という。)を行っている。
b 本件ライセンスの料金体系は,1)多数のウェブサイトやアプリ等に一 括で広告を配信するアドネットワーク事業を行う企業を対象とするア ドネットワーク事業社用(甲30・2枚目),2)クライアントに対しシ ステム等を使ってサービスを提供する企業を対象とするサービス提供 事業社用(同3枚目),3)自社でウェブサイトを運営する企業を対象と するウェブサイト運営社用(同4枚目)の3種類がある。
c 上記1)(アドネットワーク事業社用)の料金は,登録料1万円(初年 度のみ)と,アドネットワーク事業社のクライアントに対する広告請求 金額に対する1.5%(親会社の業務を子会社が行う場合は3%)の割 合によるライセンス利用料である。
上記2)(サービス提供事業社用)の料金は,クライアントの特許利用 も含めたライセンスを受ける場合は,登録料1万円(毎年)と,サービ ス提供事業社と各クライアントの間の月額契約料金の3%の割合によ るライセンス利用料である。
上記3)(ウェブサイト運営社用)の料金は,当該ウェブサイトが50 00万PV以上で,かつ,自社サイト内の広告の地域ターゲティングを 行う場合は,登録料1万円(初年度のみ)及び基本利用料10万円(年 額)に加え,広告売上げの3%の割合によるライセンス利用料となる。 なお,ウェブサイト運営社が,当該ウェブサイト内で物品などの販売を 補助するサービスを行う場合は,更にビジネス利用料5000円〜(年 額)を要するとされている。
d 本件ライセンスの実績としては,アドネットワーク事業社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例,サービス提供事業社用のライ センス利用料につき3%で契約した例,ウェブサイト運営社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例や,0.75%で契約した例が ある。
(イ) 甲30のライセンス料金表の各類型の適用に関し,原告は,広告を掲載\nするサイトを基準とするもの,すなわち,自らのウェブサイトにおいて広 告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載する 場合は1.5%とするものであると主張するのに対し,被告は,広告の主 体を基準とするもの,すなわち,第三者の広告を請け負って掲載する場合 はアドネットワーク事業社用の条件に従って1.5%の料率が適用され, 自社の広告を掲載する場合は3%の料率が適用されると主張する。
甲30のライセンス料金表の各類型が適用される広告掲載サービスに\nついては,本件ライセンスに係る特許権者である原告が当然知悉している と考えられるところ,アドネットワーク事業社用について他の場合より安 い料率が設定されることについての原告の説明,すなわち,他社のウェブ サイトに広告を掲載する場合には別途広告枠を媒体社などから購入する 必要がありその費用が掛かるためにアドネットワーク事業社用では料率 を下げているとの説明や,それにもかかわらず親会社の業務を子会社が行 う場合は3%としたのは,アドネットワーク事業社である親会社が広告掲 載を自らの子会社の広告枠で行う場合には広告枠の購入費用は子会社に 支払われるために親子会社全体としてみれば費用支出がないからである との説明は合理的であるといえる。 被告は,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表に「EC(電子商取\n引)を含む,ウェブサイト内で物品などの販売を補助するサービス」が対 象となることが記載されていることをもって,ウェブサイト運営者用の実 施料率が3%であるのは,自社商品の広告表示を切り替えるといったサー\nビスを提供することを念頭に置いたものであると主張する。しかし,同サ ービスを行う場合に発生するのはビジネス利用料であって,広告利用料で はないので,上記の記載から,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表\nが適用されるのは自社の広告を掲載する場合であると認めることはでき ない。
むしろ,甲30・4枚目においては,ウェブサイト運営者用の「広告利 用料」は「広告売上の3%」と規定されているところ,ここに「広告売上」 と記載されているのは,他社の広告を自らのサイトで行うことにより広告 売上げを得る場合を想定としているからであると推認するのが自然かつ 合理的である。 そうすると,原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセン ス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%である が,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社など から購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるの が相当である。
(ウ) 上記(イ)の説示を踏まえ,被告の地域ターゲティング広告が本件ライセ ンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサ イトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用 に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェ ブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるか ら,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。 この点につき,被告は,過去にウェブサイト運営社用に当たるにもかか わらず0.75%や1.5%のライセンス料率が適用されたことがあるこ とを指摘し,本件においてもこれらの料率を参考とすべきであると主張す るが,証拠(甲100)及び弁論の全趣旨によれば,これらは原告とライ センシーとの関係に基づき特別に減額されたものであることがうかがわ れ,他にサービス提供事業社用の類型ではあるものの,原則どおりライセ ンス料率を3%として契約した実績もあることからすれば,上記のとおり 認定するのが相当である。
ウ 実施料率を下げるべき他の事情について
●省略●
(イ) 被告は,被告自身の多数の特許を実施することによりウェブ広告の分野 において大きなシェアを獲得することができているのであるから,本件各 発明の相当実施料率の算定に当たってもこの点を考慮すべきであると主 張するが,被告がウェブ広告の分野において多数の特許を実施しているこ とやそれが売上げに寄与していることは,本件特許の相当実施料率を算定 すべき上で考慮すべき事情ということはできない。 また,被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,被告が自身の 努力により●省略●を作成したことを考慮すべきであると主張するが,上 記と同様,この点も本件特許の相当実施料率を算定すべき上で考慮すべき 事情ということはできない。
(ウ) 被告は,甲20公報を引用し,本件各発明の「IPアドレス対地域デー タベース」は「アクセスポイント側」の情報を用いるものであり,●省略 ●含まないとした上で,原告の主張を前提とするのであれば,本件各発明 の価値・技術的意義は低いなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,データベースの構成と●省略●を誤解・混\n同するものであり,その前提において失当であり,また,本件各発明が公 知技術との関係で新たな技術的意義が存在しないということはできない。 むしろ,本件各発明は,IPアドレスを所有するアクセスポイントが属 する地域を判別し,判別した地域に対応したウェブ情報を選択して前記ユ ーザ端末に送信する方法によって,同一URLにおいてもユーザの発信地 域ごとに異なるウェブ情報を送信することができるという効果を得る発 明であって,他にGPS等のシステムを用いることなく,ユーザ端末に割 り当てられたIPアドレスとIPアドレス対地域データベースを照合す るという比較的簡易な方法によりユーザの発信地域の判別をすることが できるものであるから,従来技術にはない新たな技術的意義を有するとい うことができる。
(エ) 被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,地域ターゲティング 以外のターゲティング機能の効用を考慮すべきであると主張する。\nしかし,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲティン\nグ機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの機能\ は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定するこ とが困難であることは,前記(2)イ(エ)のとおりである。このため,YDN 及びプレミアム広告が地域ターゲティング以外のターゲティング機能を\n備えていることを考慮しても,適用すべき実施料率を下げることが相当と いうことはできない。
(オ) 被告は,YDNのクリック数や売上げは,被告が長年にわたり多大な労 力を積み上げてきたサービスの圧倒的な利用者数及びアクセス数を前提 とするものであり,これらは本件各発明と無関係であるから,本件特許の 相当実施料率の算定に当たってはこの点を考慮すべきであると主張する。 しかし,YDNの売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数 や被告のウェブサイトへのアクセス数が影響を与えたとしても,本件各発 明の売上げ及び利益への貢献の程度という観点からみると,本件各発明は, IPアドレス対地域データベースを使用して,アクセスポイントの属する 地域を判別することを通じて,地域によって異なるウェブ情報をユーザ端 末に送信することを可能にするものであるから,エリアターゲティング広\n告に必要不可欠なものであり,本件各発明と同程度に簡易かつ効果的に地 域判別をし得る代替技術の存在を示す証拠のないことに照らすと,本件各 発明を利用することができない場合には,被告のYDNやプレミアム広告 の利用者に対する訴求力は大幅に減殺されたものというべきである。 このような本件各発明のYDN及びプレミアム広告の提供サービスに おける必要不可欠性や売上げや利益に対する貢献度に照らすと,YDNの 売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数や被告のウェブサイ トへのアクセス数が影響を与えたとしても,これをもって,適用すべき実 施料率を下げることが相当であるということはできない。 また,被告は,プレミアム広告においては,被告ウェブサイトへのアク セス数のみが売上げに貢献するので,本件各発明は売上げに寄与,貢献し ていないと主張するが,上記と同様の理由から,そのような事情をもって 適用すべき実施料率を下げることが相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNの うち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき 3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5% と認めるのが相当である。

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平成30(ワ)1130  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。

ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上 の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成 されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有 される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。 ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有 すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」 が発明特定事項として記載されているわけではない。 また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型 キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属 の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本 件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0 030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記 載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白 色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも, 白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」 は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで, あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着 色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方, 本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と 比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも, 実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変 化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明 細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。 以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本 件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3), 同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ とにあると主張している。 しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。 むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相, 特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも 優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」 と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限 定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には, 一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが, 光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件 発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を 有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発 明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない というべきである。 その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色 相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び 弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略) ●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)● による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略) ●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった 一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の 事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益 と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると 解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること (市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特 徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条 2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。 しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無 効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額 を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還 を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該 特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記 のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本 件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三 者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施 料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三 者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲 72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値 及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再 帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大 値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67), 被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率 を10%と主張していること等が認められる。 また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及 び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり, 競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。 したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。

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令和2(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。

イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず, 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該 セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の 発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の 1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審 決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限 値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重 合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との 差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差 分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細 書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして, 本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判 断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法) により測定される重合度をいう。」との記載がある。 上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2. 5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。 なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶 以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その 後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分 の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合 度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合 度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時, 重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき, 重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを 酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3 00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味 することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】)。 前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。 この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。 しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容 積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N] 及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, 1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。 これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。 そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。 したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。 また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。

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◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n

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令和3(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審は4億4000万円の損害賠償を認めましたが、原告が控訴しました。知財高裁は約7億円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項による損害額として,侵害品の売上高を基準とし, そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合,実施に対し受 けるべき金銭の料率の算定に当たっては,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界におけ る実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわ ち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特 許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,
4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。以下,順に 検討する。
1) 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明 らかでない場合には業界における実施料の相場等 本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示 す証拠はない。
・・・
本件訴訟において,本件特許権の技術分野については実際の実施許 諾契約の実施料率を示す証拠はない。 本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」) の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3〜 4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5〜6%未満の例 や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1〜 2%未満は3件(18.8%)とされており,また,他の調査結果や データベースには,実施料率3%又は6%の例や実施料率5〜8%又 は3%の例もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野でも, 実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実 施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。 なお,一審被告は,前記第2の3 本件訴訟の 事案と本件ライセンス契約はいずれも圧縮機を販売するための特許権 の実施許諾を対象とするものであって,実施許諾の対象は同じと評価 すべきであるから,本件ライセンス契約を重視すべきであると主張す るが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●このようなライセンス契約の事例を他の事例より 特に重視すべき理由があるとはいえず,圧縮機分野の実施料率の一例 としてみるのが相当である。
また,一審被告は,甲19ないし21に掲げられた事例は,いず れも,一審被告や一審原告とは何ら関係がない一般的なものであって, 具体的な点において,本件と共通性や類似性はないとか,本件特許権 は,圧縮機の分野に係る日本の特許権1件であるから,特許法102 条3項の実施に対し受けるべき料率を検討するに当たっては,日本の 特許権1件の非独占的な実施許諾による料率と対比すべきであるとこ ろ,甲20は日本の特許権に関するものではなく,また,独占的実施 許諾の事例であるなどと主張するが,実施料率を定める事例として, 具体的な点において完全に合致する事例がなければ,同分野の他の事 例(他の国の特許権に関するものを含む。)を参酌することは当然で あるし,甲20で独占的とされるのは製造のみであり,販売について ライセンシーが独占権を得ていることはうかがわれない。したがって, 一審被告の主張は採用できない。
2) 本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性\n
本件優先日前である平成9年3月25日に発行された書籍「カーエ アコン」(甲11)には,ピストン式圧縮機の斜板形のものでロータ リバルブを使用したものは記載されておらず,113頁の図6.5で 吸入弁(リードバルブ)が図示されている。 従来技術であるリードバルブ方式は,シリンダ室と吸入室の圧力 差が必要であること,流路断面積が小さいこと,弁による吸入抵抗が 発生するという難点があることから,シャフトの回転によって冷媒を 提供するロータリバルブ方式が提案されてはいたものの(乙18,2 2,23,28,30等),回転軸の外周面と軸孔の内周面のクリア ランスによって,吐出行程時の圧縮室から冷媒が漏れるという問題が あったこと,クリアランス管理が非常に難しいこと(本件明細書【0 004】)から実用化には至っていなかったのであり,本件訂正発明 において,ロータリバルブを備えた回転軸に伝達される圧縮反力を利 用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向 けてロータリバルブを付勢させて,体積効率を向上させていること (本件明細書【0015】),クリアランスに関する厳密な管理が不 要となること(本件明細書【0043】)は,コスト面も含め,ロー タリバルブ方式を実用化するのに寄与したものと認められ,一審原告 が,本件優先日後に,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を販売 していることは争いがない。
もっとも,実用化当初の一審原告の製品(10SR15C)は, 本件訂正前の構成であるから,ロータリバルブが円筒状でなく凹部や\n溝が設けられており,本件訂正発明そのものの実施品ではないと考え られる。しかし,同製品も,圧縮反力で冷媒漏れを防止するという本 件訂正発明の技術思想を利用するものであり,この点については本件 訂正の前後で変更はない。 そうすると,本件訂正発明はロータリバルブ方式のピストン式圧 縮機の実用化に寄与したものというべきで,相応の顧客吸引力がある ということができる。
一審被告は,被告各製品の販売先であるマツダに対し,設計変更 品を継続して販売しているが,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●少なくとも,侵害時(平成24年12月から平成 29年6月)の大部分において,本件訂正発明の効果を奏する代替 技術はなかったということになる。
3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害 の態様
本件訂正発明がロータリバルブ方式を実用化するのに貢献したこ とは前記2)のとおりである。 一方,どの程度の体積効率の向上がもたらされるかは具体的数値 をもっては明らかではなく,本件訂正発明の作用効果についての顧客 吸引力等は一定程度限定される。 被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されている。 乙62によれば,被告各製品に該当する部品番号に相当するコン プレッサー(クラッチ部分及び圧縮機部分)の販売価格は468.1 5ドル,クラッチ部分のみの販売価格は231.82ドルとする事例 があることが認められるが,これはアフターマーケット(商品販売後 の需要に対する正規ディーラーではない業者の市場)における販売価 格であり,直ちに一審被告とJCSないしマツダとの間の被告各製品 の取引にあてはめることはできない。また,一審被告は,被告各製品 と別にクラッチを販売しているものではない。 しかし,クラッチ部分と圧縮機部分は観念的には区別することが でき,特許法102条3項の適用に当たっては,被告各製品の売上高 は,クラッチ部分を含むものであるという事情も考慮する必要がある。 一審被告は,前記第2の3 被告各製品は,本 件訂正発明とは無関係に,厳密なクリアランス管理により,冷媒漏 れ防止の効果を達成していると主張する。 一審被告のいう被告各製品における「厳密なクリアランス管理」 は,シャフトとシャフト用孔を極めて高精度に仕上げ,クリアラン スを30μmに設定する構造を採用し,ラジアル軸受は,斜板取付\nけ部とスラスト軸受を除く全領域でシャフトを支持する軸受とし, さらに,軸受がシリンダブロックの外側に突き出る長い構造を採用\nすることによって,シャフトの動きを伴うことなく,冷媒が吸入通 路の入口から漏出するのを防止するというものである(引用に係る 原判決12頁5行目ないし13行目)。
しかし,一審被告の主張のとおり厳密なクリアランス管理により冷 媒漏れを防止しているというのであれば,乙3報告書(被告製品1 〔クリアランスが30μm〕と,クリアランスを50μm,70μm, 90μm,110μmに変更した圧縮機の体積効率を比較したもの) において,クリアランスが30μmである被告製品1よりも50μm のものの方が体積効率は落ちることになるはずであるが,30μmと 50μmとで体積効率はほとんど変わらなかったとされているのであ るから,一審被告の主張は十分な裏付けを欠くものというべきである。\nまた,仮に,被告各製品が,一審被告主張の厳密なクリアランスを 採用し,その構成が冷媒漏れの防止に対する効果を奏することがある\nとしても,一方で,被告各製品は,原判決別紙イ号物件説明書及びロ 号物件説明書記載のとおりの構造を有しており,ピストン60に作用\nした圧縮反力Fが斜板やスラスト荷重吸収機能が付与されたフロント\n側スラスト軸受70に伝達され,このスラスト荷重吸収により斜板5 1の動きを許容することで斜板51の径中心部を中心としてシャフト 50を傾かせようと作用し,これによって,シャフト50(回転弁) は,吐出行程中のシリンダボア22に連通するフロント側通路23の 入口に向けて付勢され,この際シャフト50が変位しているのであっ て,この本件訂正発明の構成要件C,Fを充足する構\成によっても, 冷媒漏れが防止されるものといえることは,原判決が第4の3で説示 するとおりであるから,本件訂正発明とは無関係に冷媒漏れを防止し ているという一審被告の主張は採用できない。
4) 特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
一審原告は,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を製造・販 売しており,一審被告は,平成24年12月以降,ロータリバルブ 方式のピストン式圧縮機である被告各製品を輸入・販売しているの であるから,両者は競合関係にある。一審被告は,前記第2の3⑵ のとおり,被告各製品が組み込まれていたマツダ製の自動車 においては,圧縮機について,「被告親会社→一審被告→JCS→ マツダの商流」という系列関係が確立しているとして競業関係を否 定するが,ここでは,特許権者と侵害者の間の料率を定める上で競 業関係が問題とされているのであるから,一審原告がマツダに直接 販売することができるかどうかの問題ではなく,一審被告の主張は 採用できない。 ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり, 相互に実施許諾を行っていない閉ざされた市場傾向にある(弁論の 全趣旨)。
イ 以上の検討を踏まえると,圧縮機の分野では,実施料率を3%から 4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当 程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を 有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり, 相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作 用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の 売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮すれ ば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実 施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。 なお,一審被告は,第2の3 本件訂正発明の作用 効果や侵害の成否等について,前件侵害訴訟における知財高裁判決や本件 無効審決,ソウル高等法院等,判断主体によって判断が分かれていること\nを理由に,本件訂正発明の価値が低いと主張するが,事前の実施許諾契約 の料率については特許権が無効となる可能性等も考慮して算定されるのと\n異なり,特許法102条3項の損害は,特許権が有効であり,特許権侵害 があることを前提に算定されるものであるから,別個の手続の状況を考慮 に入れるのは相当でない。

◆判決本文

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◆平成29(ワ)28541

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平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成30(ワ)3461  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟

 分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。

 ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は, 被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の 技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10 1条1号の間接侵害に当たるというべきである。 この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受 けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原 告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主 張する(消尽の法理)。 これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体 化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の 成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利 用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製 品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製 品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判 決・民集61巻8号2989頁参照)。 本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙 から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨 によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告 製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局 や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ り方であると解される。 また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使 用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。 そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化 製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保 されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は, 上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製 品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる 被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7 0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販 売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進 に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で 仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。 しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進 から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実 は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の 金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被 告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。 以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被 告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ る。 本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被 告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に 開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及 び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損 害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有 していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等 に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴 えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日 進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。 他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認 することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担 した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと について,被告らを責めるべき事情は存しない。 以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで, 被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し, 被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し, 弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円, 被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤 分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装 置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み 紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を 作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原 告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と して被告製品を購入していたものと考えられる。 原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場 にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製 品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。

◆判決本文

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平成30(ワ)36690  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月15日  東京地方裁判所

 実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。

(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7 月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23 年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日 頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し, 平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月 2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認 められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し, 平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料 率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで きる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また, 業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場 等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許 諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する 標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位 での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2 2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規 格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当 たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5 「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出 した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば, クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原 告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での 実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針 としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約 の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発 明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0. 01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売 状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実 施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。

◆判決本文

別件訴訟はこちらです(請求棄却)。

◆平成24年(ワ)237

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令和2(ネ)1492    意匠権  民事訴訟 令和3年2月18日  大阪高等裁判所

 意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。

 ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁 14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2 項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。 控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由 に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1 9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても, 前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上 でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁 5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項 を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が 覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人 が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな いというべきである。 控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査 結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組 み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が 約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中 央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数 字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は 必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ 料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意 匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合 わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の 場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く, むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え, 本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度, 原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的 に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ り,控訴人の主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)6029

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令和2(ネ)10025 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、約1800万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁(2部)は原告の請求額を100%認めました。損害認定額は約1億3700万円で、請求額は1億3200万円でした。

 4 損害発生の有無及びその額(争点8)について(当審における当事者の補充主張に対する判断を含む。)
(1)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について
特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして,同項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明の実施許諾契約の場合と異なり,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや,平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。
(2) 実施料率の算定に当たり考慮すべき事情括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。ア実施料率に関する数値等(ア)社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(平成15年9月30日発行。甲79)には,「電子・通信用部品」分野の実施料率について,次の旨の記載がある。aイニシャル・ペイメント条件がない場合の実施料率の平均値は,昭和63年度〜平成3年度は4.9%,平成4年度〜10年度は3.3%である。平均値が下降した結果,全技術分野中実施料が最も低い技術分野の一つとなった。
bこの技術分野は,契約件数が全技術分野の中でも多い方であるが,他の契約件数上位の技術分野と比較して,実施料率が低く抑えられている。その理由としては,1)この技術分野では,高額のライセンス収入を得ることとともに,技術を普及させ,対象技術の標準化を目指すことが重要視されるケースが他の技術分野と比較して多いことや,2)半導体産業は設備投資が大きく,ライセンシーの危険負担が大きいことが考えられる。c平成4年度〜10年度の実施料率8%以上の契約(イニシャル・ペイメント条件の有無を問わない。)合計21件を技術内容的に細分すると,電子管が1件,半導体が18件,その他の電子・通信用部品が2件であり,半導体が大半を占めている。
(イ)平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」によると,本件発明1〜3に関連する「電気」の分野の実施料率について,平均値は2.9%,最大値は9.5%,最小値は0.5%であった(乙89)。
(ウ)一審原告が訴訟等で相手方と和解をする際には,相手方において侵害品から一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合には,当該LEDを相手方が購入することを条件として,侵害品の売上高に5%前後の実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがあるが,そのような置換えが難しい場合には,製品の製造販売の中止を条件に,侵害品の売上高に上記より高い実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがある(甲84の1)。一審原告は,平成28年5月,本件特許1を含む二つの特許を侵害するLED電球の販売に係る事案に関し,相手方と,総売上高に10%の実施料率を乗じた額に8%の消費税相当額を加算した金額で裁判上の和解を成立させた(甲84の1・3)。\n
(エ)一審原告の競合メーカーであるフィリップス社は,平成28年6月21日,LED照明及びLEDレトロフィット電球のライセンスプログラムを公表したが,そこでは,LED照明の総収入に基づく実施料率は,単色照明(白色又は有色の固定色)については3%であることが示されている(乙102)。\n
イ本件発明1〜3の価値・重要性等に関する事情
(ア)一審原告による青色LEDの開発後,赤,緑,青の三種類のLEDを用いるのではなく,青色LEDと蛍光体を用いて一審原告が白色LEDの開発を実現したことは,非常に重要な産業上の意味を持つもので,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与し(甲24,26),一審原告による白色LEDの開発については,文部科学省発行の「令和元年版科学技術白書」(甲86)においても取り上げられている。
(イ)白色LEDを構成するために青色LEDチップと組み合わせる蛍光体の材料としては,YAG系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソ\シリケート)系などがある(乙105)。この点,ドイツのOSRAM Opto社は,平成15年〜平成16年頃に,複数の会社に対し,TAG蛍光体による白色LEDのライセンスを供与しており(乙108),平成20年には,アメリカのVishayIntertechnology社は,カメラのフラッシュ・ライト,自動車のブレーキ・ランプや方向指示器やインスツルメント・パネルのバックライトや非常灯などに向けたものとして,TAG蛍光体を用いた白色LEDを発売した(乙109の1・2)。平成18年には,TAG系蛍光体材料などを用いた白色LEDが続々登場しているとの報道があり(乙106),平成24年には,YAG,TAG及びシリケートが,世界三大の蛍光体であると評価されていた(乙107)。
(ウ)平成27年に発表された「LED製品開発の現状と最新動向」と題する論文(豊田合成技報57号。乙91)には,次の旨の記載がある。\n
a青色LEDを光源とし蛍光体を励起させる方式の白色LEDの開発により,小型・省電力の白色光源が実用化され,更なる用途拡大が進んだ。代表例としては,液晶ディスプレイが挙げられる。白色LEDの高効率化により,急速にバックライト用光源の置き換えが進んだ。LED化によるメリットは,主に,発光効率が高いことと,薄型化ができることである。LEDは光源自体のエネルギー効率が高いことに加え,配光指向性によりバックライトへの入射効率が高くなるため,機器としての省エネが図りやすいことも大きなメリットとなっている。LEDが当たり前になった現在においても,パネル画質向上(高精細化・広色域化)に伴うパネル透過率低下(画面が暗くなること)を補うため,LEDへの効率向上への期待・ニーズは依然として高い。\n
b最近,従来の青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせから,光の三原色である青色LEDと緑色蛍光体・赤色蛍光体の組み合わせによる色品質の向上が図られている。従来の青色LEDに黄色蛍光体を加えた疑似白色光は,液晶に用いられる場合,色の純度が低く,液晶パネル上の色域が狭いのが一般的である。色域を拡げるためには,液晶パネルのカラーフィルタの濃度を上げる方法があるが,光の損失が大きくなるため望ましくない。そこで,色域を向上させるため,青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた,新規白色光が開発されている。
ウ一審被告製品の売上げ及び本件LEDの位置付け等
(ア)一審被告製品の売上げ(乙87)
a一審被告製品1一審被告製品1の販売期間は平成26年1月から平成28年3月までであり,総販売台数は43万3971台で,1台当たりの平均販売価格は3万3902円,総売上高は147億1230万5518円であった。売上高の内訳は,平成26年1月から平成27年9月までが147億0404万7272円,同年10月が293万6815円,同年11月から平成28年3月までが532万1431円であった。
b一審被告製品2一審被告製品2の販売期間は平成27年5月から平成28年12月までであり,総販売台数は29万6608台,1台当たりの平均販売価格は3万4461円,総売上高は102億2138万1519円であった。売上高の内訳は,平成27年5月から平成27年9月までが24億1436万1080円,同年10月が9億3268万0350円,同年11月から平成28年11月までが68億4922万2715円,同年12月が2511万7374円であった。
(イ)一審被告製品における本件LEDの位置付け等
a一審被告製品は,いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり,一審被告製品1及び2のバックライトには,いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。液晶テレビの方式は,バックライトの種類によって,直下型とエッジ型とに区分されるところ,一審被告製品は,直下型である(甲85)。
bテレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,耐久性が極めて重要な特性として求められる。
c東芝のテレビ事業部の担当者は,平成21年4月に,液晶テレビのバックライトは白色LEDがトレンドになると主張し,RGB三色のLED光源よりも白色LEDの方がより高画質を実現できるという認識を明らかにしていた(甲32)。そして,一審被告は,一審被告製品を含む液晶テレビのシリーズ商品を販売するに当たり,映像美を一つのセールスポイントとしており,また,一審被告製品は,「おまかせオートピクチャー」という,周囲の明るさに適した画質に自動で調整するとの機能を有していたところ,それは,リニアに発光するというLEDの特性を利用したものであった(甲77,78,92)。一審被告製品1を購入したユーザーのレビューには,画質の良さやコストパフォーマンスの良さを指摘するものがある(甲93)。\n
d一審被告製品は,平成27年7月から11月までの売れ筋ランキングの上位(第3位)を占めていた(甲94)。
e直下型バックライトが採用される液晶テレビ用の一般的なサイズのLEDにおいては,本件発明2及び3に関連した技術を用いたLEDが多用されている(甲87〜89)。
f一審被告製品はOEM製品であり,一審被告は,本件LEDの単価も知らず,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかも知らなかった。
エLEDに関する市場等
(ア)テレビのバックライト用の白色LEDの世界的な平均価格は,平成26年は0.1ドル,平成27年は0.08ドル,平成28年は0.068ドルであった(乙85の1〜3,乙104)。なお,年間平均為替レート(TTS)は,平成26年は106.85円/1ドル,平成27年は122.05円/1ドル,平成28年は109.84円/1ドルであった(乙90)。(イ)株式会社富士キメラ総研発行の「2017LED関連市場総調査」(平成29年1月25日発行。甲84の2)には,次の旨の記載がある。
aテレビ用バックライトユニットについてテレビ用バックライトユニットでは,直下型の白色LEDパッケージが採用されている。テレビ向けのLEDは,高出力かつ広色域,長寿命が要求されるケースが多く,他のバックライトユニット向けLEDと比較してハイエンドな商品となる。平成28年第4四半期時点において,32型テレビ用の直下型バックライトユニットの主要な価格帯は,1台当たり1400円〜1700円である。ただし,光学シート構成やLEDパッケージの仕様,搭載個数によって大きく価格が変動する。また,テレビメーカー各社が独自設計を行うハイエンドテレビ用バックライトユニットは,より高価格になる。\nなお,光学シートの機能複合による搭載枚数削減,LEDパッケージの性能\向上による搭載数量削減により,今後も低価格化が続く見通しである。b白色LEDパッケージについて白色LEDパッケージとは,疑似白色に発光するLEDパッケージである。主に可視光(GaN系)LEDチップに蛍光体を使用することで,疑似的に白色光を実現している。白色LEDパッケージについて,日本では発光効率を高める開発が続けられている。一方で,演色性(色再現性)も必要であるが,演色性と発光効率はトレードオフの関係にある。なお,中国では,コストの圧縮を目的として,LEDパッケージメーカーによるリードフレームを始めとする各種部材の内製化が進んでいる。世界的にみると,白色LEDパッケージ市場は,数量ベースで引き続き好調な伸びとなっている。ただし,従来大きなウェイトを占めてきたバックライト向けは,出荷数量が大きく減少している。セット機器の減少に加え,中小型バックライト向けでは搭載工数の減少やOLEDへの移行,テレビ用バックライト向けではパッケージ当たりの光束量の増加に伴う搭載個数の減少が主な市場縮小の要因となっている。白色LEDパッケージについて平成28年第4四半期時点で,バックライト向けの直下型の白色LEDパッケージの価格は,1個当たり,18円〜24円である。
c白色LEDパッケージに採用される蛍光体について高発光効率・低価格が要求される製品には,黄色の蛍光体が単体で採用されるケースが多い。演色性や広い色域が要求される場合には,黄色と赤色や,赤色と緑色の組み合わせが採用されている。LED用蛍光体については,中国において,地域別生産数量に占めるウェイトが高まっている。平成27年の出荷数量実績では,黄色の蛍光体について,YAG蛍光体が83.5%を占めており,シリケート系が10.2%,その他が6.3%を占めている。この点,シリケート系は,近年減少傾向にある。YAGなどに比べ高温高湿条件下での信頼性に劣るためである。平成29年に一審原告のYAG主要保有特許が失効するのを受けて,特に電球など色温度3000K程度の照明向けLEDパッケージでは,効率の良さを背景にYAGへの移行が進む可能性がある。\n
(ウ)総合技研株式会社発行の「2017年度白色LED・応用市場の現状と将来性」(乙86)には,次の旨の記載がある。a白色LEDメーカーシェア動向について,メーカーは一審原告のほかに合計10社以上あるところ,平成24年〜平成28年において,一審原告は継続してシェア第1位を占めている。この点,シェアは,平成24年は23.7%,平成25年は24.2%,平成26年度は25.4%,平成27年度は19.6%,平成28年度は19.1%である。b分野別・用途別白色LED応用市場分析に関し,分野別市場規模について,平成24年〜平成29年で,液晶バックライトを用途とするものは,61.2%から44.4%に減少し,一般照明を用途とするものが34.5%から50.8%に増加してきた。他方,液晶バックライトの数量ベースでみると,平成24〜平成28年で,液晶テレビを用途とするものは,40%前後で推移しており,他の用途(ノートパソコン,液晶モニター,タブレット端末,スマートフォン等)を大きく引き離している。\n
(エ)直下型バックライトについては,商流として,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給している。オ一審原告のライセンス方針等(ア)一審原告は,平成28年においても,バックライト用LED(テレビ,モニター,ノートパソコン及びタブレットを含む。)収入で,世界第2位,14.1%のシュアを占めている(乙84)。(イ)一審原告は,後発メーカーとの間で,平成8年頃から,各国で特許訴訟の提起や交渉を繰り返してきたところ,平成14年には,後発メーカーのLEDの技術水準も向上したため,互いに補完し合える技術を保有しているメーカーとはクロスライセンス契約を結んで和解をするようになったが,その際,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてなかった。それは,ライセンス収入には頼らず,特許はあくまでも自社の技術を保護する手段と考え,自社製品の販売によって利益を得るという経営方針によるものである(甲84の1)。
(3) 実施料率の算定
訂正して引用した原判決第3で判示した本件発明1〜3の意義等に加え,上記(2)で認定した諸事情を踏まえ,以下,実施料相当額について検討する。
ア実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について
(ア)前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え,1)本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ,直下型バックライトは,液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり,一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと,2)LEDの性能は,液晶テレビの画質に大きく影響するとともに,どのようなLEDを用い,どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること,3)一審被告は,後記イのとおり,本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので,一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと,一審被告製品の売上げを基礎として,特許法102条3項の実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ)これに対し,一審被告は,本件特許1〜3の貢献が,LEDチップに限定される旨を主張するが,採用することができない。また,一審被告は,LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが,そうであるとしても,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお,直下型バックライトについても,独立の市場価値を有するものと認められるが,上記(ア)1)〜3)の事情からすると,直下型バックライトの価格をロイヤリティのベースとすることも相当ではない。
さらに,一審被告は,最終製品を実施料算定の基礎とすると,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが,本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば,その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
イ実施料率について
(ア)a一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく(前記(2)オ(イ)),特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした(前記(2)ア(ウ))。 b平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する(前記2ア(ア)c)。
c本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した(前記(2)イ(ア),(ウ)a,同ウ(イ)b,c,e,同エ(イ)a)。この点,YAG系の蛍光体以外の蛍光体を用いた白色LEDも存在していたことが認められる(同イ(イ),(ウ))が,一審原告は,白色LEDメーカーとして,平成24年〜平成28年において継続してシェア第1位を占めており,平成28年にバックライト用LED収入でも世界第2位のシェアを占めていること(同エ(ウ)a,同オ(ア))や,平成27年の出荷数量実績において黄色の蛍光体につきYAG系の蛍光体が大部分を占めていること(同エ(イ)c)に照らすと,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年12月までの期間において,液晶テレビのバックライト用の白色LEDについて,一審原告の製品は他の製品に比べてかなり優位な地位にあったものと認められる。
d以上のa〜cで述べたところに,前記(1)で特許法102条3項の実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1〜3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。なお,1)フィリップス社は平成28年に単色のLED照明の実施料率について3%と公表しており(前記(2)ア(エ)),2)LEDの属する技術分野における実施料率の平均値は,3.3%,2.9%といった数値である(同ア(ア)a,(イ))。しかし,上記1)の数値は,フィリップス社の特許についてこれからライセンスする場合の数値であり,また,上記2)は,広汎な分野における実施料率の平均値であり,いずれも上記認定を左右するものではない。
(イ)液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,前記(ア)cのとおり,本件発明1〜3の技術は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったということができる上,一審被告製品は,映像美を一つのセールスポイントとするなどして,売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c,d)のであるから,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の技術の貢献は相当に大きいものであり,前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても,平成26年1月から平成28年1月までの間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)において,一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。
ウ一審被告の主張について一審被告は,一審被告製品2には一審原告が主張立証するLEDチップとは異なるチップが使用されているため,一審原告が主張立証するロ号LEDが使用されている一審被告製品2の販売数量は不明であるから一審被告製品2に係る損害賠償請求は認められないと主張するが,訂正して引用した原判決第3の1(5)(原判決93頁)で判示したことからすると,一審被告製品2には,その販売期間を通じて,本件特許1〜3を侵害するロ号LEDが使用されていたと推認されるというべきであり,一審被告の上記主張やその裏付けとしての証拠(乙66,70)は,この推認を覆すに足りるものではない。その他,一審被告の主張は,前記イの認定を左右するに足りるものではない。
(4) 一審原告が一審被告に請求し得る額の算定以上を踏まえると,一審原告が一審被告に請求し得る額は,次のとおりとなる。ア実施料相当額について,一審被告製品の総売上高は,一審被告製品1が147億1230万5518円,一審被告製品2が102億2138万1519円で,合計249億3368万7037円であり,同額に,上記(3)の実施料率0.5%を乗じると,1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ弁護士費用相当額については,原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウしたがって,一審原告は,一審被告に対し,少なくとも損害賠償として,合計1億3666万8435円を請求することができるところ,この金額は,一審原告の請求額を超えているので,消費税相当額の加算について判断するまでもなく,一審原告の損害賠償請求は,全部について理由がある。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27238

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令和2(ネ)10004  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 原審の特102条2項による推定について「売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし貢献の程度が相当低い」として覆滅が認められました。

 ウ 推定覆滅事由について
一審被告は,1)本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販 売した被告各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実 績が乏しいこと等,被告各製品の競合品の存在,2)本件期間1及び2に係 る販売分につき,本件特許権が一審原告と三菱化学との共有であったこと は,いずれも本件推定を覆す事情に該当し,かかる事情を考慮すると,本 件推定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。 (ア) 本件期間1ないし4に係る販売分につき,一審被告が販売した被告 各製品中,順方向電圧の異なるLEDを搭載した製品の販売実績が乏し いこと等,被告各製品の競合品の存在 a 一審被告は,1)LED基板のサイズを同一にして,部品点数及び製 造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さ くして,汎用性を向上させることができるという本件再訂正発明の作 用効果は,順方向電圧の異なるLED搭載製品を作製することを前提 とするものであり,被告各製品において,白色LEDと青色LEDと は,いずれも順方向電圧は同じであり,順方向電圧が異なるのは赤色 LEDであるから,本件再訂正発明の作用効果を奏するのは赤色LE Dを搭載する製品であるところ,本件期間1ないし4の期間中に一審 被告が販売した被告各製品中,赤色LED搭載製品(被告製品2及び 5)の販売実績が乏しいこと,2)需要者の立場からは,LED基板の 設計において,本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小 公倍数」の単位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数で はない「公倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲 に有意な差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において 複数のLED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が 起こる可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情で\nあることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことなどを示すものといえるから,本件推定を覆す事情に該当す る旨主張する。
(a) 1)について
本件再訂正により,本件再訂正前の第1次訂正発明(請求項1) の「LED基板」の枚数及び配置が「複数の前記LED基板を前記 ライン方向に沿って直列させてある」構成に特定されたこと,第1\n次訂正発明の技術的意義は,前記2(1)ア,イ(イ)及びウで説示した とおりである。また,本件明細書の【0009】及び【0041】 の記載から,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLEDの個数を LED単位数の「最小公倍数」にすることにより可及的に小さくし たLED基板の直列させる数を変えることで,このLED基板を 様々な長さの光照射装置に用いることができるようになることを理 解できる。
これらを総合考慮すると,本件再訂正発明の技術的意義は,順方 向電圧の異なる種類のLEDを用いたライン状の光を照射する光照 射装置において,LED基板の大きさを同一にして,部品の共通化 により部品点数の削減,製造コストの削減を実現することを主たる 課題とし,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の 合計との差が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数と し,LED基板に搭載するLEDの個数を順方向電圧の異なるLE D毎に定まるLED単位数の「最小公倍数」とする構成を採用した\nことにより,順方向電圧の異なるLED同士でLED基板に搭載さ れるLEDの個数を同一にし,順方向電圧の異なるLEDが搭載さ れるLED基板同士の大きさを同じにすることができ,また,LE D基板を収容する筐体として同一のものを用いることができること から,LED基板及び筐体などの部品を共通化し,部品点数を削減 することができるとともに,製造コストを削減するという効果を奏 し,さらに,LED基板の大きさを可及的に小さくして,汎用性を 向上させるという効果を奏し,加えて,「複数の前記LED基板を 前記ライン方向に沿って直列させてある」構成を採用したことによ\nり,可及的に小さくしたLED基板の直列させる数を変えることで, このLED基板を様々な長さの光照射装置に用いることができると いう効果を奏することにあるものと認められる。
そして,被告各製品のうち,白色LED搭載製品と青色LED搭 載製品は,順方向電圧が同じであり(白色LED搭載製品である被 告製品1と青色LED搭載製品である被告製品3,白色LED搭載 製品である被告製品4と青色LED搭載製品である被告製品6は, 順方向電圧が同じであることは,争いがない。),LED基板は共 通のサイズのものを利用することができるので,被告各製品におい ては,本件再訂正発明は,白色LED搭載製品及び青色LED搭載 製品と順方向電圧が異なる赤色LED搭載製品(被告製品2及び5) 及び赤外LED搭載製品(被告製品7)について,専用のLED基 板及びこれを収容する筐体を用意する必要はなく,白色LED搭載 製品及び青色LED搭載製品と共通のサイズのLED基板及び同一 の筐体を用いることができる点において主たる効果を発揮するもの と認められる。
しかるところ,本件期間1ないし4における被告各製品の販売個 数は,合計●●●個であり,このうち,被告製品2及び5は●個, 被告製品7は●個であるから(前記イ(ア)),被告製品2,5及び 9の販売個数(合計●●個)が占める割合は,全体の約●●●●で ある。
一方で,被告各製品のうち,白色LED搭載製品又は青色LED 搭載製品を購入した者においても,その購入時に赤色LED搭載製 品一緒に購入している場合や,既に赤色LED搭載製品を有し,又 は将来赤色LED搭載製品を購入する予定である場合もあり得るか\nら,白色LED搭載製品及び青色LED搭載製品においては本件再 訂正発明の主たる効果が発揮されていないとまではいえないが,こ のような点を考慮してもなお,被告製品2,5及び7の販売個数(合 計●●個)が全体の約●●●●であることは,本件期間1ないし4 における被告各製品の売上げに対する本件再訂正発明の寄与ないし 貢献の程度が相当低いことを示すものといえる。
したがって,被告製品2,5及び7の販売個数(合計●●個)が 全体の約●●●●であることは,本件推定を覆す事情に該当するも のと認められる。これに反する一審原告の主張は採用することができない。
(b) 2)について
一審被告は,需要者の立場からは,LED基板の設計において, 本件再訂正発明の実施品であるLED単位数の「最小公倍数」の単 位基板が長さ方向に連設されている製品と最小公倍数ではない「公 倍数」の単位基板が連設されている製品とでは,購入意欲に有意な 差異を生じるものではなく,また,本件再訂正発明において複数の LED基板が直列させてある点は,基板の接続箇所で不具合が起こ る可能性が高いとして,製品としての評価を低下させ得る事情であ\nることは,被告各製品に実施された本件再訂正発明に顧客吸引力が ないことを示すものといえるから,これらの事情は,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告の上記主張の根拠とする事情を裏付ける に足りる証拠はないから,一審被告の上記主張は採用することがで きない。
b 次に,一審被告は,本件再訂正発明の実施品であるライン光照射装 置と実施品ではないライン光照射装置とは,照明器具としての性能に\n変わりがなく,ライン光照射装置であれば全て被告各製品及び原告が 販売する原告各製品の競合品となることに鑑みると,仮に被告各製品 が販売されなかったとしても,被告各製品の販売数量に対応する需要 が,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射\n装置にも向かったであろうといえるから,このような被告各製品の競 合品の存在は,本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 そこで検討するに,原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の原\n判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の他社のライン光照射装置は,\n被告各製品の競合品に該当し,このような被告各製品の競合品の存在 は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。その理由は, 次のとおり訂正するほか,原判決60頁2行目から61頁8行目まで に記載のとおりであるから,これを引用する。
・・・・
(c) 原判決61頁8行目末尾に次のとおり加える。
「また,被告各製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4, 13)には,被告各製品において本件再訂正発明を実施している ことやその実施により光照射装置としての性能が向上し,部品点\n数及び製造コストの削減を図ることができることなどをうかがわ せる記載は見当たらず,他方で,「業界最高クラスの光量を実現」, 「驚異の明るさを実現」など被告各製品の光量の大きさに関する 機能を宣伝文言としていることに照らすと,被告各製品において\n本件再訂正発明が実施されていることが大きな顧客吸引力となっ ていたということはできない。」
c 以上を前提に検討するに,前記a(a)及びbの本件推定を覆す事情の 内容,本件再訂正発明の技術的意義等を総合的に考慮すると,被告各 製品の限界利益の形成に対する本件再訂正発明の寄与は●●と認め るのが相当であり,前記寄与割合を超える部分については被告各製品 の限界利益の額と控訴人の受けた損害額との間に相当因果関係がな いものと認められる。したがって,本件推定は上記a(a)及びbの本件推定を覆す事情により上記限度で覆滅されるものと認められる。 そうすると,上記推定覆滅後の被告各製品の限界利益の額は,別紙 認容額算定表の3)欄記載の562万2270円となる。
d これに対し一審原告は,1)被告各製品のうち,白色LED搭載製品 及び青色LED搭載製品においても,本件再訂正発明は大きな顧客吸 引力を有すること,2)画像処理LED照明の国内シェア(数量ベース) については,平成26年から平成30年まで一貫して,一審原告が1 位,一審被告が2位であり,一審原告のシェアは2割を超えており(甲 18ないし22),このように画像処理LED照明のシェアを2割以 上一審原告が有している以上,被告各製品の販売がなかった場合には, そのうちの少なくとも2割は原告各製品に向かうことは明らかである し,シェア上位の会社の信頼性という面からは,2位のシェアを占め る被告各製品を購入した需要者は,被告各製品の販売がなかった場合 には1位のシェアを占める原告各製品を購入する蓋然性が高いこと, 3)原判決別紙競合品(被告主張)一覧表記載の各製品のうち,原告各\n製品の種類の多さを考えても,被告各製品の販売がなかった場合には これに対応する需要は原告各製品に向かう割合は極めて高いことを勘 案すると,本件推定は5割を超えては覆滅しない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記bで説示したとおり(原判決引 用部分),本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいとはいえない。 また,2)については,原告各製品及び被告各製品は,ライン状の光 を照射する光照射装置(ライン光照射装置)であるところ,仮に画像 処理LED照明一般という,ライン光照射装置よりも広いカテゴリの シェアで一審原告が1位であり,そのシェアが2割を超えていたとし ても,被告各製品の販売がなかった場合に,これに対応する2割の需 要が原告各製品に向かい,原告各製品を購入する蓋然性が高いという ことはできない。 さらに,3)については,原告各製品の種類が多いからといって,被 告各製品の販売がなかった場合にはこれに対応する需要は原告各製品 に向かう割合は極めて高いということはできない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
・・・
b 原判決61頁16行目から62頁12行目までを次のとおり改める。 「b(a) 特許法73条2項は,特許権が共有に係るときは,各共有者 は,契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を 得ないでその特許発明の実施をすることができる旨規定してい るから,各共有者は,上記の場合を除き,自己の持分割合にか かわらず,無制限に特許発明を実施することができる。 そうすると,特許権の共有者は,自己の共有持分権の侵害に よる損害を被った場合には,侵害者に対し,特許発明の実施の 程度に応じて特許法102条2項に基づく損害額の損害賠償を 請求できるものと解される。また,同条3項は特許権侵害の際 に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であ ると解されることに鑑みると,特許権の共有者に侵害者による 侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情 が存在しないため,同条2項の適用が認められない場合であっ ても,自己の共有持分割合に応じて,同条3項に基づく実施料 相当額の損害額の損害賠償を請求できるものと解される。 しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2 項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行 為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみ ならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものである といえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分 権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有 者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ, この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが 相当である。
以上を総合すると,特許権が他の共有者との共有であること 及び他の共有者が特許発明の実施により利益を受けていること は,同項による推定の覆滅事由となり得るものであり,侵害者 が,特許権が他の共有者との共有であることを主張立証したと きは,同項による推定は他の共有者の共有持分割合による同条 3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅され,また, 侵害者が,他の共有者が特許発明を実施していることを主張立 証したときは,同条2項による推定は他の共有者の実施の程度 (共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額 の限度で覆滅されるものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,一審原告と三菱化学は,本件期 間1及び2において,本件特許権を持分2分の1の割合で共有 していたことは,前記aのとおりであるが,一方で,その期間 中に,三菱化学が本件再訂正発明を実施したことについての立 証はない。 そうすると,本件期間1及び2に係る販売分についての本件 推定は,三菱化学の共有持分割合による同条3項に基づく実施 料相当額の損害額の限度で覆滅されるというべきある。

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◆平成29(ワ)7532

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平成29(ワ)27238  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年2月28日  東京地方裁判所

 特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。

 本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題 となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許 権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内 容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16 日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については 8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2 16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28 円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販 売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被 告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額 は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期 間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期 間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被 告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは, それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08 7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3 万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。

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平成29(ワ)7532  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年12月16日  大阪地方裁判所

 本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう部分はごく限られるとして、特102条2項による推定の覆滅が、認められました。

 本件再訂正発明の技術的意義は,LED基板のサイズを同一にして,部品点数 及び製造コストを削減できるとともに,LED基板の大きさを可及的に小さくして, 汎用性を向上させることができる点にある。このような技術的意義は,光照射装置 としての性能の向上に必ずしも直結するものではないといえるものの,ライン状の\n光を照射する光照射装置の製造者にとっては,これにより製品の販売価格をより廉 価とし得ることで競合品との価格競争力を高め得ることその他のメリットを期待し 得る。他方,そのような製品の使用者(需要者)にとっては,販売価格のより廉価 な製品を購入し得るというメリットはあるものの,それ以外には,メリットがある としても乏しいものと思われる。このため,本件再訂正発明の実施により他の競合 品の価格より競争力がある程度に廉価な製品を製造,販売しているのでなければ, 本件再訂正発明の実施による顧客吸引力は乏しいと評価すべきことになる。 しかるに,証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば,原告各製品及び被告各製 品を含むライン状の光を照射する光照射装置(別紙競合品(被告主張)一覧表記載\nの各製品)の市場における実勢価格は,おおむね同程度であり,また,当該市場に おいて原告及び被告の各シェアは,いずれもトップにはないと認められる。被告各 製品のカタログ(甲3)及びウェブページ(甲4,13)においても,本件再訂正 発明の実施により,光照射装置としての性能が向上していること,部品点数及び製\n造コストの削減を図ることができていること又はこれを前提として他社製品より廉 価で販売可能であることなどをうかがわせる宣伝文句は見られず,他方で,「業界最\n高クラスの光量を実現」,「驚異の明るさを実現」と,被告各製品の機能を宣伝文句\nとしており,被告各製品に対する需要は,販売価格というよりもむしろ光量の大き さといった機能によって喚起されたことがうかがわれる。\nしかも,上記のような市場の状況にあるにもかかわらず,前記認定のとおり,原 告は,本件再訂正発明を実施しているとは認められない。 そうすると,本件再訂正発明は,その実施により光照射装置の性能を必ずしも向\n上するというものではなく,また,販売価格の面でも,実施によるコスト削減に伴 い他社製品との価格競争上同程度の地位に立つことを可能にすることはあり得ると\nしても,価格競争上他社より優位に立ち得る程度のメリットをもたらすものとまで はいえないと見られる。これを需要者の側から見ると,本件再訂正発明の実施品で あることは,そのこと自体により直ちに需要者の購買意欲を高めるものとはいえな いことになる。すなわち,本件再訂正発明は,その性質上,顧客吸引力は必ずしも 高くないものと評価すべきである。
(イ) もっとも,被告が約5年間にわたって本件再訂正発明を実施していたことに 鑑みると,本件再訂正発明を実施することに経済的な意義がないとは考え難く,少 なくとも,被告各製品の販売価格が,ライン状の光を照射する光照射装置の市場に おいて,他社製品に後れを取ることがない程度となることに本件再訂正発明の作用 効果が影響していると考えることには合理性がある。
(ウ) 証拠(甲3,4,13,乙37)によれば,原告各製品及び被告各製品を含 むライン状の光を照射する光照射装置の製品としての特徴は,別紙競合品(被告主 張)一覧表記載のとおりと認められる。本件においては,原告各製品と被告各製品\nとが市場において競合関係に立つ製品であることが前提となるところ,これを踏ま えて上記製品のうち被告各製品及び原告各製品以外のものを見ると,いずれも原告 各製品及び被告各製品と用途例が共通しており(同一覧表の「用途欄」において,\n具体的な用途が「不明」とされているものも,少なくとも原告各製品及び被告各製 品と同様の用途に用い得るとうかがわれる。),長さ寸法及び発光色も対応してい る。前記認定のとおり,これらの製品の価格帯もおおむね同程度である。他方,こ れらの製品の冷却方式は様々であるものの,被告各製品はいずれも自然空冷である 一方,原告各製品には自然空冷だけでなくファン空冷のものもあることに照らせば, その違いは競合関係を否定する事情とまではいえない。また,前記のとおり,本件 再訂正発明の実施によって光照射装置としての性能が向上するとはいえない。色及\nびサイズ展開の点も,機能面で大きな差異を生じるのでなければ,需要者にとって\nは必要とする特定の色及びサイズに対応した製品であれば足り,製品ラインナップ として多色展開していることや,希望サイズに対応するためにLED基板を複数とす るか1枚の基板で対応するかといったことは,需要者にとっては必ずしも重要でな いと思われる。 これらの事情に鑑みると,これらの製品は,原告製品及び被告各製品と市場にお いて競合関係に立つ製品であると認められる。 そうすると,原告各製品及び被告各製品の競合品としては,ライン状の光を照射 する光照射装置を想定するのが相当であり,多色展開していて,複数のLED基板を ライン方向に直列させることで多数のサイズ展開をしているライン状の光を照射す る光照射装置に限られないというべきである。
(エ) 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告各製品の販売がな かった場合に,これに対応する需要が全て原告各製品に向かったであろうと見るこ とに合理性はなく,むしろ,本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう 部分はごく限られると考える。そうすると,本件では,●(省略)●の限度で特許 法102条2項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。 これに対し,原告は,本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいと主張するとともに, 競合品は,多色展開していて,複数のLED基板をライン方向に直列させることで多 数のサイズ展開をしているライン光照射装置に限られるなどと主張する。しかし, 上記のとおり,この点に関する原告の主張は採用できない。
(オ) そうすると,被告が本件特許権侵害行為によって得た利益の額は,別紙「損 害額算定表」の(3)欄のとおりであり,937万0447円であると認められる。 これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない
・・・
(カ) 共有者の存在について
a 前記のとおり,本件特許権は,被告による特許権侵害行為の継続した期間の うち,その始期である平成24年7月から平成26年11月21日までの間,原告 と三菱化学との共有に係るものであった。 特許権の共有者は,それぞれ,原則として他の共有者の同意を得ないでその特許 発明の実施をすることができるが(特許法73条2項),その価値の全てを独占す るものではないことに鑑みると,同法102条2項に基づく損害額の推定を受ける に当たり,共有者は,原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定さ れると解するのが相当であり,共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の 割合を基準とすることは合理的でない。 もっとも,特許発明の実施品又は侵害品と競合する特許権者の製品に係る販売利 益の減少等による特許権者の逸失利益と,侵害者から得べかりし実施料の喪失によ る逸失利益とは,類型的にその性質を異にするものである。また,共有者の一部が 当該特許発明を実施したり,侵害品と競合する製品の製造等を行ったりしていなか ったとしても,共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は,特許権の共有者の 一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものである以上,実施 料相当額の逸失利益を観念することは可能であり,同法102条3項もこのことを\n前提とするものと理解される。そうである以上,同条2項による損害額の推定に基 づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使するに当たっては, 同条2項に基づく損害額の推定は,不実施に係る他の共有者の持分割合による同条 3項に基づく特許発明の実施に対し受けるべき金銭相当額の限度で一部覆滅される とするのが合理的である。 これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
b なお,原告は,三菱化学から,その共有に係る特許権に基づく被告に対する 損害賠償請求権を譲渡されたと主張する。しかし,証拠(甲16)及び弁論の全趣 旨を総合しても,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。この点に関する原 告の主張は採用できない。 そこで,三菱化学の賠償請求し得る損害額を特許法102条3項に基づき算 定する必要があるところ,同項による損害額は,原則として,侵害品の売上高を基 準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。実施に対 し受けるべき料率を定めるに当たっては,当該特許発明の実際の実施許諾契約にお ける実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮 に入れつつ,当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他の ものによる代替可能性,当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益へ\nの貢献や侵害の態様,特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟 に現れた諸事情を総合的に考慮して,合理的な料率を定めるべきである。 まず,料率について,「実施料率〔第5版〕」(甲17)によれば,「民生用電 気機械・電球・照明器具」(イニシャル無)の技術分野における平成4年度〜平成 10年度の実施料率の平均値は4.6%であり,昭和63年度〜平成3年度に比較 してほぼ横ばいとなっている。また,平成4年度〜平成10年度の実施料率の最頻 値及び中央値はいずれも4%である。なお,上記技術分野は,民生用電気機械器具 製造技術及び電球・電気照明器具製造技術であり,具体的には,電球,蛍光灯,ネ オンランプ等の電球ないし電気照明器具のほか,電気アイロン,暖房用電熱器,扇 風機,電気洗濯機,電気冷蔵庫等を含む。 次に,本件再訂正発明の価値及び他のものによる代替可能性については,推定覆\n滅に関する前記事情に鑑みると,価値的には必ずしも高いとはいえず,また,競合 品による代替の余地は大きく,売上げに対する貢献の程度も同様である。 さらに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告は,長年にわた って競業関係にあることが認められる。 これらの各事情を斟酌すると,本件において,本件特許権の実施に対し受けるべ き料率は,●(省略)●とするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張 は,いずれも採用できない。 他方,本件特許権が共有されていた期間(本件期間1及び本件期間2)における 被告製品1〜6の売上高が●(省略)●円(本件期間1:●(省略)●円,本件期 間2:●(省略)●円)であることは,当事者間に争いがない
d なお,被告は,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき 料率を算定することが不合理であると主張する。しかし,前記のとおり,被告製品 1〜6が本件再訂正発明の作用効果を全く奏していないとはいえないし,その程度 が乏しいとしても,その点は実施に対し受けるべき料率の算定に当たって斟酌すれ ば足りるのであって,被告製品1〜6の売上高を基礎として実施に対し受けるべき 料率を算定することが不合理であるとまではいえない。したがって,この点に関す る被告の主張は採用できない。
e 以上より,三菱化学に生じた損害の額は,別紙「損害額算定表」の(4)欄のと おり,合計26万6379円であると認められる。

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平成29(ワ)7576  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月19日  大阪地方裁判所

 特許権侵害の損害について、7割の限度で特許法102条2項による推定が覆滅され、3項で相当実施料率は4%と判断されました(双方争いなし)。

 以上を踏まえ,顧客吸引力の観点から被告第2製品における本件第2 及び第3特許の技術的意義の有無及び程度を検討すると,まず,本件被告カタログ 記載の「6つの特徴」の1つとして,被告第2製品は「素手で持っても痛くありま せん。」との記載がある。「テーパ部」の解釈に関する被告の主張をも考慮すると, これは「テーパ部」の存在をうかがわせるものとも理解し得るものの,いかなる構\n成によって「素手で持っても痛く」ないことを実現しているのかは具体的に示され ていない。当該記載に付された写真では,製品のアンカーボルト挿通用の開口部に 手指を通して握る形で,当該開口部を囲む部材のうち長辺部分をなす部材のうちの 1つを掌全体で把持していること(甲4,乙32)に鑑みると,「テーパ部」の存在 故に「素手で持っても痛く」ないという効果を奏しているとも断じ得ない。また, 本件第2発明の効果2に言及する記載もない。 さらに,本件被告カタログには,「6つの特徴」の1つとして,「スピード施工」 が挙げられているところ,その部分には,被告第2製品の片方の端部の接続部につ いて「連結構造」との説明が付されている。もっとも,「連結構\造」とされる接続部 の構造や接続の仕方ないし効果に関する説明はない。\nむしろ,前記認定のとおり,本件被告カタログでは,被告第2製品の強度や換気 性能,供給・品質・価格の安定性,カットしやすい独自の形状を有する省施工商品\nであること等が強調されている。 この点は,原告や同業他社のカタログ等にも共通する。このうち,原告のカタロ グ等には「テーパ部」や「接続部」に関する記載も見られるものの,その構造は具\n体的に示されておらず,作用効果も,他の記載と比較すると,強調の度合いは低い。 むしろ,全周敷き込みの簡単施工や特殊構造の換気スリット・防鼠材といった点が\n前面に出されて強調されている。 以上の事情に加え,被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しない形で使用され ることがあり得ることは否定できないこと(ただし,実務上そのような使用態様が 採られる割合は不明である以上,この事情を推定覆滅に当たって過大視することは できない。),前述のとおり,台輪の幅方向への移動を防止する別の方法もあること を踏まえると,本件第2及び第3発明は,施工容易性の実現という観点から一定の 顧客吸引力を有するといえるものの,本件第2発明の「テーパ部」の構成や本件第\n3発明の構成要件3C〜3Gの構\成を有することによる顧客吸引力は,相対的には 小さいというべきである。 なお,被告は,被告第2製品の形状変更後に売上げが増加したことを指摘してい るが,その裏付けとなる資料(乙60)は形状変更後の4か月の売上額を集計した ものにすぎないし,売上げの変動要因としては様々なものが考えられることから, 上記事情が直ちに本件第2及び第3特許が被告第2製品の需要に与える影響が小さ いことを裏付けると見ることはできない。 これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限度で特許法102条2 項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の 各主張はいずれも採用できない。
エ ミサワホームに生じた損害
本件第2及び第3特許がいずれも持分2分の1の割合による原告とミサワホ ームの共有であることは当事者間に争いはなく,また,弁論の全趣旨によれば,ミ サワホームが自社施工工事分を除きこれらの特許を実施していないことが認められ る。そして,原告及び被告いずれも,特許法102条3項に基づき損害額を算定す る場合の本件第2及び第3特許の相当実施料率を4%程度とし,これを不合理ない し不相当と見るべき事情もないことから,相当実施料率は4%と認められるところ, 相当実施料率を乗じる対象となる売上額を消費税込の金額とすべき証拠はない。 そうすると,次のとおり,1463万7125円をもってミサワホーム(なお, 同社が本件第2特許の持分を取得する以前の損害賠償請求権を持分譲渡人が有して いるのであれば,その譲渡人を含む。)の損害額と認めるのが相当である。 そして,侵害された特許権が共有であったことにより侵害者の賠償すべき損害額 が単独保有の場合に比較して増額されるいわれはないことなどから,原告との関係 においては,更にこの限度で,特許法102条2項による推定が覆滅されるとする のが相当である。
(計算式) 売上額7億3185万6254円(税抜)×4%×1/2=146 3万7125円
オ 原告の損害額
以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,別紙「被告第2製 品に係る損害額(裁判所の認定)」の「原告の損害額」欄記載のとおり,4867万 8376円と認められる。
(計算式) 被告の利益の額2億1105万1670円×0.3−1463万7125円=4867万8376円
(4) 原告の予備的主張について\n
原告は,被告工場製品の製造販売について,特許法102条2項に基づき推定 される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合には,予備的に,同項に基づく\n損害額を主張する。 しかし,前記認定から明らかなとおり,特許法102条3項に基づき推定される 原告の損害額は,同条2項に基づくそれを上回るものではないから,この点に関す る原告の主張は採用できない。 仮に,原告の主張が,被告工場製品を除く被告第2製品の販売による損害につい ては特許法102条2項に基づき賠償請求しつつ,被告工場製品の販売による損害 については,同項に基づき算定される損害額が同条3項に基づくそれを下回る場合 に,予備的に同項に基づく損害額を主張する趣旨であったとしても,前記3(2)ウ (オ)で判示したとおり,被告工場製品とそれ以外の製品とで訴訟物が異なると見るべ き根拠はないから,原告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用(本件第1特許権の侵害分も含む。)について
原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,被告の本 件第1〜第3特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,510万 円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護 士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っ ていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,被告 の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠 償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
(6) 原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について
原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による 損害に対する遅延損害金の金額は,別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認 定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合 計1231万6870円である。

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平成30(ネ)10006等  特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。

 これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび /またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容 を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点 1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主 張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記 載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は, 「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包 含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装 填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所 定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの 双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。 一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび /またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双 方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記 載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準 ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは, 「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/ またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と なる記載はない。 前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦 紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以 上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最 初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。 がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。 そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・ 11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内 容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙 A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば, 神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが 表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも 明らかである。 以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも のといえる。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは, (1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論 の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋 章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」 というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場 合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる ことが認められる。 しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発 明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する, 本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準 ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知 発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作 動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公 知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。 以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には, 上記(1)のデータは含まれないといえる。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比 本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし, セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本 件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞 戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣 旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士 の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを 有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇 士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇 士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦 紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以 上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として 復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク にセーブされたものと解されることが認められる。 上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作 のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想 を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに 転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして, なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので ある。 そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情 報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体 を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」 の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが 16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」 という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ る。 したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及 び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件 特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。 以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に 係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2 に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的 に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点 に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的 な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意 義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術 的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって, 本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。 しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において, 相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。 また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶 媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効 果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当 業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に 係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易 に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき 金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改 正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では 侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除 された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許 が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最 低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの 実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術 的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許 権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約 を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項 に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施 許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特 許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ うことを考慮すべきである。 したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の 実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当 該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に 現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟 に現れていない。 そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨 によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特 許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価 値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」 (乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許 権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値 4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と 記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に 当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独 占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる 形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計 算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を 捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選 択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ 料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平 成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には, (1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率 方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格), 小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価 格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正 味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料, 倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する 可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定 のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第 1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加 えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の 記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填 されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合 には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な 内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。 このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は, ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等 は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及 び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明 A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ る。 また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作 動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された 拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠 な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響 が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの といえる。 そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品 解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機 能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作 のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク タと迎えることができたりする旨を説明している。 これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用 いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾 契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%) であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」 という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し, 3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載 のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴 人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる 証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を, 実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。 もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記 憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象 となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には, 本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が 製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製 品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品 であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。 また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件 発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが, 上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格 全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ る。 他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品 の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高 とするのが相当である。 さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同 製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき 売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項 により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額 は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実 施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特 許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから, 実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売 価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品 全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の 特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足 りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が 属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する 料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上 高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする のが相当である。 上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち, 本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格 から控除するのが相当である。 控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税 相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の 技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施 されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本 件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A 1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張 ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用 効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業 者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の 有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83 の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号 製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った 遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを 行う場面は限定されている旨主張する。 しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販 売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定 に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。 上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果 を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1 4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特 許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって, 本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率 の平均値より低くなると認めることはできない。 上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱 されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除 き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上 高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを 記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり, セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作 用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可 能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\ なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準 ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること, iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法 では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に 定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。 上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製 品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等 に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと 認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと いう点は,上記判断を左右するものではない。 被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので はない。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。

◆A事件

◆B事件

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平成29(ワ)9201  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月20日  大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、102条3項の実施料率として7%が認定されました。大阪地裁はその理由を詳細に認定しています。H31.3の特許法改正規定の施行を先取りする形で、「通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべき」と一般論を述べています。

 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権 …を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨 規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準と し,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 ここで,特許法102条3項については,「その特許発明の実施に対し通常受け るべき金銭の額に相当する額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年 法律第51号による改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。また,特 許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らか ではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合で あっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制 約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し, 特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約 上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっ て用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契 約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施 料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。 したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受 けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それ が明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特 許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能\n性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態 様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情 を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 実施料の相場(1))
「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。 甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野に おける平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63 年度〜平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全 体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており, この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他 の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾 向は,医薬品が支 れている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値 32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ) 本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(2)〜3))
a 原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性 手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその 価値は高いなどと主張する。 泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製 品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾 性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したとき の使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決 する製品である旨がうたわれていることが認められる。 また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。 甲39,41の1〜41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設 したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとと もに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入 っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤 や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。 さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関 する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る「医薬品として日本で初めて 承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤」の出荷開始予定について\n報じる中で,「同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる 手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼ れるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認でき る−といった使用感も特徴。」,「現在,医療分野における手指消毒剤市場は約1 60億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。\nただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていく\nことが見込まれている。」とされている。 加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医 療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェ ルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年には それぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。 以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者 の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を 利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発 明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡 状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件 各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関 しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みる と,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては, 当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察される ことに鑑みると,このことは軽視し得ない。 これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明 ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事 業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと はいえないなどと主張する。 しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効 果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本 件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が 営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤 に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格 別のものであると見るべき事情もない。 これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
b 被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3 00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600m Lのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500 mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200m Lの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペン サー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面, これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから, 被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点 から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ) 小括
上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当 である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。 ウ 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」 以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額 に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。

◆判決本文

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平成30(ネ)10017  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成31年4月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害事件が控訴されましたが、1審と同様に、差止・損害賠償が認められました。損害賠償額は増えています。102条3項の実施料率について判断されています。具体的数値は伏せ字となっているため不明です。控訴審でも平均値である5.9%平均よりも、低く認定されたようですが、1審よりも高くなったと思われます。

  (1) 実施料率
ア 1)平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち,合計出 願件数の上位となっている企業・団体(対象2031件)に加えて,株式会社帝国 データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施し ていると判断された企業(対象975件)に対するアンケート調査(有効回答56 3件)において,化学分野(IPC分類のC01〜C14;103件)に係る特許 権のロイヤルティ料率の平均値は4.3%であるとされていること(甲67,乙5 8),2)財団法人経済産業調査会発行の「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特 許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲68)において,上記アン ケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として,「有機化 学,農薬」分野(IPC分類のA61,C07,C40;54件)のロイヤルティ 率の平均値は5.9%とされていることが認められる。 本件各発明のIPC分類は,C07D,A01N,A01Pである(甲2の2) から,上記1)よりは2)の方が本件各発明からより遠い技術分野のサンプルが除外さ れており,2)の54件というサンプル数も少なくないということができるから,本 件各発明の相当実施料率の検討に当たっては,1)よりは2)を念頭に検討することが 相当である。
イ 証拠(甲2の2,乙1〜4)及び弁論の全趣旨によると,本件各発明は, 除草剤の有効成分又はその候補となる新規化合物を提供することを課題として,化 合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるが,発明の詳細な説明におい て,上記化合物の除草特性に関する個別の実験結果は示されておらず,本件出願日 当時の技術常識に照らして上記化合物が除草作用を有しており,除草剤の有効成分 の候補となり得るものであることが認識できるにとどまるものである。そうすると, 本件各発明の化合物を水稲など特定の作物に用いる農薬として利用するためには, 本件各発明の多数の化合物の中からテフリルトリオンのような特定の化合物を選び 出した上,その化合物が上記作物の栽培に当たり想定される具体的な雑草に対する 除草効果を発揮する一方,上記作物に対する有害性がないことを確認する必要があ り,相応の試行錯誤を要することは明らかである。 したがって,本件各発明の実施料率は,類似する技術分野の実施料率の分布にお いて,平均よりも一定程度低く位置付けることが相当である。
ウ 証拠(甲4,5,甲6の1〜4,甲7の1〜3,甲55〜61,72) 及び弁論の全趣旨によると,1)被告製品2は,いずれもテフリルトリオンに加えて もう1種類の有効成分(被告製品2(1)〜(3)のフェントラザミド,同(4)〜(6)のメフェ ナセット,同(7)〜(12)のトリアファモン。以下,「フェントラザミド等」という。)を 含有する農薬混合物であること,2)テフリルトリオンは,ノビエを除く幅広い雑草 に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類,アゼナ類, コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対し,フェントラザミド等は,いずれ もテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有し\nており,テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあること,3)一審被 告が作成した被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告宣伝でも,2種類の有 効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及び ノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(例 えば,被告製品(4)〜(6)の技術資料〔甲5〕においては,表紙である1頁に「2成分\nで白く枯らす。効きめが見える。」と記載され,4頁の「ポッシブルの特長」におい ても6項目中の1番目に「2成分で高い除草効果 ノビエをはじめとした一年生雑 草から,ホタルイ,ウリカワ,ミズガヤツリ,ヘラオモダカ,ヒルムシロ,セリ, オモダカ,クログワイなと〔判決注・「など」の誤記と認める。〕の多年生雑草に対 し高い効果を示します。また,新規成分テフリルトリオンとメフェナセットの2種 混合なので,減農薬栽培にも適しています。」などと記載されている。)が認められ る。
上記認定の事実によると,被告製品2においては,テフリルトリオンが,ノビエ を除く幅広い雑草に対する除草効果に優れ,スルホニルウレア抵抗性雑草にも高い 除草作用を有していることから,有効成分として主たる役割を果たすものと認めら れるが,フェントラザミド等は,テフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエ\nに対して優れた除草効果を有しているところ,ノビエに対する除草効果も重要であ るものと認められる。 そうすると,被告製品2の顧客吸引力は,その過半がテフリルトリオンによるも のではあるが,その一部はフェントラザミド等によるものであると認められる。
エ 前記ア〜ウに併せて,一審被告が一審原告から本件特許の実施許諾を得 ずに被告製品2の製造販売等を継続していた一方,結果的に本件訂正により解消し たとはいえ,本件特許は無効理由を有していたことなど,本件に顕れた全ての事情 を総合すると,被告製品2に係る本件特許権侵害の不法行為の損害の額を特許法1 02条3項により算定する際に適用すべき実施料率は●●●●が相当である。 なお,証拠(乙65〜67)によると,OATアグリオ株式会社は,平成28年 8月頃,「サスケ−ラジカルジャンボ」,「半蔵1キロ粒剤」という水稲用一発処理除 草剤を販売していたこと,いずれも,ホタルイ,コナギ,アゼナ類などSU抵抗性 雑草に強いことを宣伝文句としており,有効成分にシクロスルファムロン及びベン ゾビシクロンを含む(その余の有効成分として,前者はカフェンストロール及びダ イムロンを,後者はペントキサゾンを含む。)こと,「サスケ」及び「半蔵」はBA SF社(一審原告又はその関連会社と推認される。)の登録商標であったことが認め られる。しかし,上記登録商標の使用許諾以外には,これらの除草剤の販売に一審 原告がどのように関わっているかや,これらの除草剤が被告製品2とどの程度競合 関係にあるかは,本件全証拠によっても明らかではないから,これらの事実につい ては,考慮しないこととする。また,前記認定のとおり,バイエル特許が存することが認められるが,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に属するから,本件特許を実施してはじめてバイエル特許を実施することができるものであり,前記のとおり,本件各発明の化合物を除草剤とするには相応の試行錯誤が必要であることは既に考慮しているから,バイエル特許が存することを,既に判示したところを超えて考慮する必要はない。

◆判決本文

原審では、実施料率について、以下のように認定されています。

◆平成27(ワ)2862

上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果 として,「有機化学,農薬」分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされてい ることが認められる。 上記事実関係に照らすと,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に含まれるテ フリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの,本件各発明の 効果が特に顕著であるとみることはできない。また,被告製品2においては,テフ リルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果 を有しており,技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であ ることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮\nされる必要がある。 加えて,本件各発明についての特許に上記3(1)及び(2)のとおりの無効理由がある ことからすると,被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品 2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって,実施料率をそれ程高 額なものと認定するのは相当とはいえない。 以上を総合すると,本件における特許法102条3項所定の損害の額は,被告製 品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である。

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平成30(ネ)10063  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年6月7日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁特別部、いわゆる大合議判決です。争点は充足論、無効論など、多々ありますが、102条2項の推定覆滅事由、同3項の損害額の判断基準について一般論を述べています。

(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情 と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者 が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば, 1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),2)市 場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),4)侵害 品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法1 02条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅 の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部 分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することがで きるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の 覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における 位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するの が相当である。
イ 控訴人らは,炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを 前提に,他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係 に立つ製品であることを要するものと解される。 被告各製品は,炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし,炭 酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化 炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック 化粧料である。そして,化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさのみならず, 手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必 要や好みに応じて選択されるものであるから,剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用 したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人ら が競合品であると主張する製品は,その販売時期や市場占有率等が不明であり,市 場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない。
ウ 控訴人らは,被告各製品が利便性に優れているとか,被告各製品の販売は 控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。 しかし,事業者は,製品の製造,販売に当たり,製品の利便性について工夫し, 営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても, 推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件において,控訴人らが通常の範囲 を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 控訴人らは,被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると\n主張する。 侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有するとしても,そのことから\n直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,当該優れた効能が侵害者の売上げに貢\n献しているといった事情がなければならないというべきである。
・・・
(ウ) 被告各製品及び原告製品は,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1 の実施品であり,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生さ せ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚に 適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に 効果を有するものであると認められるのであり,上記(ア)及び(イ)に認定した事実に よっても,被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し,これが控訴人\nらの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず,ほかにこれを認める に足りる的確な証拠はない。
オ 控訴人らは,被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品で あるなどとして,これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべき であると主張する。 侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても,そのことから直ちに推定の覆 滅が認められるのではなく,他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献 しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが, 二酸化炭素外用剤に関連する特許である,1)特許第4130181号(乙A18), 2)特許第4248878号(乙A19),3)特許第4589432号(乙A20), 4)特許第4756265号(乙B全7)を保有していることは認められるが,被告 各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠は ないから,そもそも,被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができ ない。よって,これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。 なお,被告各製品の中には,上記特許権の存在や,特許取得済みであることを 外装箱に表示したり,宣伝広告に表\示したりしているものがあったことが認められ る(甲7,8,17,20)が,特許発明の実施の事実が認められない場合に,そ の特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないか\nら,この点による推定の覆滅を認めることもできない。
カ 控訴人らは,従来技術との比較の観点から,本件発明1−1及び本件発明 2−1の技術的価値が低いことを主張するが,控訴人らが指摘するジェルと粉末を 組み合わせる化粧料の技術(資生堂614及び日清324)は,炭酸ガスを利用し た化粧料に係るものではないし(乙A103,乙E全9,35,36),2剤混合 型の気泡状の二酸化炭素を発生する化粧料(石垣発明1及び2)は,炭酸ガスの気 泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の技術であって,二酸 化炭素を気泡状で保持する二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのものではない (乙E全4,5,37,38)から,いずれも本件発明1−1及び本件発明2−1 を代替するものではない。そうすると,これらの従来技術の存在は,被控訴人の受 ける損害とは無関係であるから,推定覆滅事由に当たるということはできない。 キ 控訴人らは,乙A3の実験結果によれば,ブチレングリコールが配合され た被告各製品においては,本件発明1−1及び本件発明2−1の寄与は限定的であ ると主張する。しかし,本件発明1−1及び本件発明2−1は二酸化炭素含有粘性 組成物を得るための2剤型の化粧料のキットの発明であるところ,被告各製品は, 炭酸塩を含むジェル剤と酸を含む顆粒剤を混合して使用するパック化粧料のキット であるから,本件発明1−1及び本件発明2−1は被告各製品の全体について実施 されているというべきである。また,被告各製品にブチレングリコールが配合され たことによる効果が控訴人らの売上げに貢献しているといった事情も認められない 本件において,ブチレングリコールが配合されていることは,被控訴人の受ける損 害とは無関係であるから,控訴人らが指摘する乙A3の実験の結果は,控訴人らの 上記主張を基礎付けるものではない。
・・・
6 損害(特許法102条3項)(争点6−2)
(1) 特許法102条3項について
ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3\n項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も 主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最 低限度の損害額を法定した規定である。
イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許 権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す る額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」 旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準 とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許 発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ, 「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により 「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効に されるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い, 当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることがで きないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施 料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものと はいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契 約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項 に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約に おける実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施 料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許諾 契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場 等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重 要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上 げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の 営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
・・・・
ウ 実施に対し受けるべき金銭の額
上記のとおり,1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料 率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平 均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6. 1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決 金を売上高の10%とした事例があること,2)本件発明1−1及び本件発明2−1 は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,3)本件発明1−1及び 本件発明2−1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること, 4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮す ると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し 受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許 権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でそ の料率は異ならないものと解すべきである。 したがって,本件各特許権侵害について,特許法102条3項により算定され る損害額は,別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記\n載のとおりとなる。
(3) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被告各製品における本件各特許の寄与が限定されることを根拠に 実施に対し受けるべき料率を低くすべきであると主張するが,前記5(3)に説示し たところに照らし,本件発明1−1及び本件発明2−1を被告各製品に用いたこと による売上げ及び利益への貢献が限定されるとは認められないから,控訴人らの主 張は前提を欠く。 また,控訴人らは,被控訴人のビジネスモデルが不当に競争を制限するもので あると主張するが,前記5(1)イにおいて認定したとおり,被控訴人は本件各特許 の実施品を製造販売しているのであるから,被控訴人のビジネスモデルが不当に競 争を制限するものであると解する根拠がない。控訴人らの,MLMによる販売手法 に関する主張は具体的な主張を欠き,失当である。 控訴人らの主張するその余の点も,上記判断を左右するものではない。
7 総括
(1) 被控訴人キアラマキアート(被告製品5)については,上記6で認定した 特許法102条3項に係る損害額が,前記5で認定した同条2項に係る損害額より も高いから,同条3項に係る損害額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに なる。 他方,その余の控訴人らについては,いずれも前記5で認定した同条2項に係 る損害額の方が高いから,この金額をもって被控訴人の損害額と認めるべきことに なる。
なお,控訴人コスメプロらは,被告各製品を製造,販売するに至った経緯等に 照らし控訴人コスメプロらには故意又は重大な過失はなかったとして,同条4項に 基づき,このことを控訴人コスメプロらの損害賠償額を定めるについて参酌すべき であると主張する。しかし,控訴人コスメプロ,控訴人アイリカ,控訴人ウインセ ンス,控訴人コスメボーゼ及び控訴人クリアノワールは,化粧品の製造会社であり, 仮に同控訴人らの主張する諸事情があったとしても,同控訴人らにつき,特許権侵 害についての故意又は重大な過失がなかったということはできないから,控訴人ら の上記主張は採用できない。

◆判決本文

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◆平成27(ワ)4292

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平成28(ワ)38103  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月17日  東京地方裁判所

 太陽光発電システムの工事について特許権侵害が認められました。東京地裁29部は、特102条3項による損害額として約1000万円を認めました。
 (1)原告は,まず,原告が太陽光発電装置の請負契約を締結する場合の請負代金 額を基に,太陽光発電パネルの出力1kw当たりの請負代金額は32万円であると して,これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた1億1581万440 0円を民法709条所定の損害であると主張する。 しかしながら,太陽光発電装置の施工について,被告が本件各土地で施工してい なければ,原告がこれらを受注して施工することができたと認めるに足る証拠はな いから,原告の主張する上記の損害は被告の行為と相当因果関係のある損害である と認めることはできない。
(2) 原告は,次いで,本件特許に係る「単位数量当たりの利益の額」(特許法1 02条1項)は太陽光発電パネルの出力1kwを1単位として算定すべきであると して,太陽光発電パネルの出力1kw当たりの利益の額は9万8000円であり, これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じた3546万8160円を特許 法102条1項による損害額であると主張する。
しかしながら,原告の上記の主張は,アルバテック又は原告による太陽光発電装 置の施工に係る見積書(甲22の1,甲23の1)等の書面に基づくものであり, これらが実際の取引金額を反映したものであると認めるに足る証拠はないから,本 件各土地における太陽光発電装置の施工に対応する原告の単位数量当たりの利益の 額を算定する根拠として不十分である。\nその他本件特許に係る単位数量当たりの利益の額を認めるに足る証拠はなく,し たがって,特許法102条1項による損害額として,原告の主張する上記の損害を 認定することはできない。
(3)ア 原告は,さらに,原告が本件特許の実施許諾をする場合の実施料は出力1 kw当たり3万円であるとして,これに本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗 じた1085万7600円を特許法102条3項による損害額であると主張する。 イ そこで検討すると,証拠(甲24)によれば,原告は,平成25年12月1 5日,他社との間で,本件特許に係る通常実施権を許諾する旨の特許権実施許諾契 約を締結しており,同契約3条(1)において,実施料については,本件特許に係る施 工方法を用いて施工された太陽光発電パネルの出力1kwに対して3万円を乗じた 額とされたことが認められる。そして,本件全証拠によっても,この実施料額が高 額にすぎて不相当であると認めることはできない。 したがって,本件発明の実施に係る実施料率としては,太陽光発電パネルの出力 1kw当たり3万円と認めるのが相当であり,本件における特許法102条3項に よる損害額は,3万円に本件各土地の太陽光発電パネルの出力を乗じて算定するの が相当である。 そうすると,本件各土地の太陽光発電パネルの出力は,前記第2の2前提事実(4)のとおりであって,合計361.92kwであるから,本件における特許法102 条3項による損害額は合計1085万7600円(本件土地1につき3万円に84. 24kwを乗じた252万7200円,本件土地2につき3万円に277.68k wを乗じた833万0400円の合計)である。
ウ これに対し,被告は,特許権の実施料率が請負代金の10%強となることは およそ考えられず,請負代金を基準とした場合にはその1%程度の金額にとどまる 旨主張するが,その理由を具体的に主張しておらず,裏付けとなる証拠を提出して いないから,実施料率を基礎付ける事情として採用することができない。

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平成29(ネ)10087  専用実施権設定登録抹消登録等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年4月18日  知的財産高等裁判所(4部)  大阪地方裁判所

 1審は原告の主張を認めませんでしたが、知財高裁(4部)は、250万円の支払いを命じました。
他方,甲4契約の締結された当時,本件特許発明は実用化されたとはいえない段 階にあって事業の将来見込みが不確実であったところ,被控訴人は,控訴人に合計 2500万円の契約金を支払った。さらに,被控訴人は,少なくとも約1300万 円を支出して,本件特許発明に係る方法の実施に適するよう,汎用電子レンジを改 造して本件機械を開発した。本件機械の導入によって,歯科医院において本件特許 発明に係る方法を容易に実施できるようになり,被控訴人が歯科医院から義歯を預 かって本件特許発明を実施していたときよりも,顧客層が大きく拡大することに なった。このことは,本件特許発明を実施する上で必要な本件液の販売数が,平成 27年初めは月約700本であったところ,平成27年後半には月少なくとも約1 300本に増加していること(乙44)からも裏付けられる。 また,控訴人は,本件訴訟提起前の平成27年4月24日,被控訴人に対し,本 件機械と本件液の売上高の各3%の実施料の支払を求め,被控訴人は,暫定的支払 としつつも現在まで上記額の支払を継続し,控訴人はこれを受領している。 これらの事情のほか,本件訴訟に現れた事情を総合考慮すれば,本件機械の販売 に係る実施料は,売上高の6%をもって相当と認める。
(ウ) 控訴人の主張について
控訴人は,社会通念上相当な実施料は,本件機械の売上高から製造原価を控除し た額(粗利)の25%,そうでないとしても,本件機械の売上高の10%であると 主張する。 しかし,まず,粗利の額は,被控訴人の営業秘密である製造原価を明らかにしな ければ算定不能であること,売上高は双方にとって簡便かつ明確な算定基準となる\nこと,甲4契約においても販売価格と通常価格の差額(2条7項。具体的には加工 単価を基に算定している。)や第三者からの実施許諾料(同条8項)を算定基準と していることに照らせば,粗利ではなく売上高を算定基準とするのが当事者の意思 に合致するものと解される。そして,控訴人主張の利益三分法ないし四分法は,ラ イセンス料を定めるに際しての一つの指針にすぎず,売上高ないし粗利の25%を 原則的なライセンス料と考えることは相当でない。本件においても,前記(イ)のと おり,被控訴人自身が実施していた当時の実施料,被控訴人が契約締結時に支払っ た実施料や本件機械の開発費用等の先行投資額,本件機械の導入による顧客層の拡 大,従前の交渉経緯等を総合考慮すれば,売上高の6%をもって相当と認める。

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平成28(ワ)29320  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年3月29日  東京地方裁判所(46部)

 技術的範囲に属すると判断されました。損害額として102条3項を主張しましたが、売上げに寄与する程度が小さいとして、減額されました。
 上記(1)の記載によれば,本件発明1及び2は,熱可塑性樹脂発泡シートに 非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを成形してなる容 器について,熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差 により,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等を裂傷するおそれがあるが, 突出部の上下面に凹凸を形成すると,蓋体を外嵌させる際に突起部が係合さ れる突出部の下面側にも凹凸形状が形成されることとなって強固な係合状態 を形成させることが困難となり,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強 固に止着させることが困難であるという課題を,本件発明1の構成,特に上記端縁部の上面に凹凸形状を形成する一方で下面は平坦とする形状とすることによって解決することとしたものということができる。\nまた,上記(2)の記載を参酌すると,本件発明1及び2は,上記端縁部を, 厚みが圧縮されて薄肉化されたもので,かつ,上面に凹凸形状が存在するも のとすることにより,その強度を強め,これによって蓋体を強固に止着させ るという課題を解決するものということができる。 以上によれば,本件発明1及び2は,容器の突出部の端縁部の形状につい て,上面に他の部分との厚みの差を付けて凹凸形状を形成するという形状と することで端縁部での怪我を防止するとの課題を解決し,端縁部につき上記 の端縁部の形状とすることに加えて下面を平坦にすることで,蓋の強固な止 着を実現するという課題を解決し,これによって上記各課題の双方を解決す ることを技術的意義とする発明である。

・・・・
 以上によれば,本件明細書においても,発明の構成につき特許請求の範囲の記載と同様の記載がされ,その実施例においても,側周壁部の上端縁であり,被収容物が収容される収容凹部のへりといえる開口縁から外側に\n張り出して形成されているものが突出部とされている。実施例を示す図面 には突出部が水平で平坦な容器が示されているが,発明の詳細な説明欄に は,突出部が平坦であることについての説明はなく,本件発明1及び2の 突出部を突出部が平坦なものに限る趣旨の記載は見当たらない。これらに よれば,「開口縁」及び「突出部」については,上記アのように解するの が相当であり,「突出部」は水平で平坦なものには限られない。
ウ これに対して,被告は,出願経過に照らし,本件発明1及び2は突出部 が水平で平坦である容器に関する発明であると主張する。 原告は,前記1(2)のとおり,「前記突出部の端縁部の…且つ該端縁部の」 と補正をしたものであるところ,証拠(乙12〔2〕)によれば,審判請 求書において,上記補正の根拠として,突出部の端縁部において熱可塑性 樹脂発泡シートが圧縮されて薄肉とされたものであることを明確にしたも のであり,この点が本件明細書の例えば段落【0019】や【図3】b) に記載されているもので,願書に添付した明細書及び図面に記載された事 項の範囲内のものである旨記載したことが認められる。 上記認定事実によれば,補正の前後に係る特許請求の範囲をみても,補 正された部分は「端縁部の上面」と「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上 面」の位置関係と端縁部における形状についてであって,突出部の形状が 水平で平坦である旨の明示的な記載も示唆も見当たらないし,原告が主張 したのは本件明細書において発明の実施の形態として記載(段落【001 9】や【図3】b))があることから補正の要件を満たすということであ るから,突出部の形状が水平で平坦なものに限定する趣旨を読み取ること ができない。したがって,本件発明1及び2の容器の突出部が水平で平坦 であると解することはできず,被告の主張は採用できない。
・・・・
上記記載によれば,本件発明1及び2は前記1(3)のとおりの技術的意義 を持つもので,端縁部の下面が平坦であることとその厚みが薄いことの双 方が備わることで,それぞれの効果が生じ,蓋の強固な止着が実現するの であって,端縁部が圧縮されて薄くなっていることと上面の位置との関係 に何らかの技術的意義があるものでないし,実施例においても何らの効果 も示されていない。そうすると,物の態様として「ように」の語が特段の 意味を有すると解することはできず,前記ア1)及び2)の各構成が両立していれば足りると解するのが相当である。
ウ これに対し,被告は,「突出部の端縁部において…薄くなっており」と いう構成によってのみ「前記突出部の…下位となる」構\成が実現しなけれ ばならないと解釈すべき旨を主張し,その根拠として本件明細書の記載 (段落【0019】),審判請求書(乙12)において上記部分に係る補正 の根拠を本件明細書の「例えば段落0019や図3(b)」と主張したと いう出願経過を挙げる。 しかし,上記の本件明細書の記載(段落【0019】)は実施例の記載 であり,こうした実施例があることから上記のとおり解釈することは相当 でないし,当該記載が引用する【図3】b)によれば端縁部の下面も端縁 部以外の突出部の下面に比して下位となっており,端縁部を圧縮して薄く しなくても端縁部の上面が端縁部以外の突出部の上面に比して下位となっ ているとみる余地がある。補正の根拠に関する主張は,補正に係る部分が 本件明細書の記載の範囲内であることを指摘したものであって,説明した 部分に補正に係る部分の解釈を限定する趣旨を読み取ることはできない。 被告の主張は採用できない。
・・・
上記 1)によれば,プラスチック製品や容器についての一般的な実施 料率は2〜4%程度ということができる。また,・・・によれば, 本件発明1及び2の技術的意義が現れているのは容器の一部である端縁 部の形状に限定されるところ,一般的には端縁部における手指の切創を 防止することは顧客吸引力を持ち得るといえるものの,原告の製品にお いて行われている上記「セーフティエッジ」加工は,蓋の端縁部の加工 であって本件発明1及び2の包装用容器に係る加工であるとは認め難く, 原告においても平成27年以降はこの加工の存在をカタログ等において 顧客に告知していない。被告においても,端縁部において手指の怪我が 生じ得るという課題を認識して顧客に告知する一方で,その部分の怪我 防止の措置について顧客に告知をしていない。そうすると,本件発明1 及び2の技術的意義が容器の売上げに寄与する程度は相当程度小さいも のとならざるを得ないから,上記の一般的な実施料率よりも相当程度低 くすべきである。 以上によれば,本件発明1及び2の実施によって受けるべき相当な実 施料率は●(省略)●と認めるのが相当である。
ウ 損害の額
上記ア及びイによれば,本件発明1及び2の実施に対し受けるべき金銭 の額に相当するのは,1694万4217円であると認められる。

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平成26(ワ)28449  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年5月26日  東京地方裁判所

 102条3項に基づく損害額の算定で、売り上げの5%が認められました。
 原告は平成25年4月5日〜平成27年10月末日の被告製品の売上高4 億4967万3858円に実施料率5%を乗じた2248万3692円が 本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張する ところ,売上高は被告の自認する2億8279万4711円の限度で認め られ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。 次に,実施料率についてみるに,前記前提事実に加え,証拠(甲2,23, 24,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,1)本件発明は被告製品の構成\nの中核部分に用いられており,本件発明の技術的範囲に属する部分を取り 除くと被告製品はアンテナとして体をなさないこと,2) 本件発明は高さ約 70mm以下という限られた空間しか有しないアンテナケースに組み込ん でも良好な電気的特性を得ることのできるアンテナ装置の提供を目的とす るところ,被告製品はこれと同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優\nれたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調してい ること,3) 本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のラ イセンス契約における実施料率については平均3.3〜3.5%ないし2. 9%とする調査結果が公表されていること,以上の事実が認められる。こ\nれらの事実を総合すると,本件において特許法102条3項に基づく損害 額算定に当たっては被告製品の売上額の5%をもって原告の損害とするの が相当である。 したがって,原告の損害額は1413万9735円となる。

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平成26(ワ)5210  損害賠償請求事件  民事訴訟 平成28年1月21日  大阪地方裁判所

 均等侵害が認定されました。また、損害額について譲渡対象とならなかった分について、有償譲渡とは異なる料率が認定されました。
 本件特許発明が,シートによって鼻全体を覆うことを想定していることは先に述 べたとおりである。しかし,本件明細書の記載によれば,従来のシートでも鼻の上 部に切り込みは設けられておらず(【0005】,図2),鼻の上部に当たる目頭付近 部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特 許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない 大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点 があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うこと にあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配すると したことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シ ートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じる ことなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。 これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配 することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に 固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さ からやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本 件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではないとい うべきである。
イ 置換可能性について
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,目頭の高さからやや下の 部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含 めた鼻全体に密着するものであると認められる。 そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用 効果を奏するものであると認められる。 ウ 置換容易性について 前記のとおり,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで 覆うことが実現されていたことからすると,切り込み線が配される台形状の領域の 上底の高さを,眼の付け根である目頭の高さよりも,目頭の1段分か2段分,下に 設けても本件特許発明と同一の作用効果を奏することは,当業者が,対象製品等の 製造等の時点において容易に想到することができたというべきである。
・・・・
(2) 被告製品の製造に関する実施料相当額
被告に納入されたパック用シート●●●●●●●●のうち,被告製品として譲渡 されたのは●●●●●●●●であり,その差である●●●●●●●●については, 納入されたが譲渡されなかったものである。しかし,被告製品のパック用シートが 特殊な形状をしていることからすると,被告は,シートの製造業者に発注して被告 製品用のパック用シートを製造させたと推認され,そうすると,被告は,パック用 シートの製造行為を行ったと評価すべきである。そして,パック用シートの製造も 本件特許発明の実施であり,侵害行為に当たるから,納入されたが譲渡されなかっ た分も損害賠償の対象とするのが相当である。 もっとも,被告は,これらについては,その価値を市場に提供して利用したわけ ではないことからすると,これを有償譲渡と同視し,前記の想定市場販売価格を基 礎として実施料相当額を算定するのは相当でない。そこで,これらシートについて は,その製造自体の価値を示すものとして,その納入価格を基礎として実施料相当 額を算定するのが相当であり,証拠(乙12)によれば,シート1枚当たりの納入 価格は●●円であると認められる。この点について,原告は,これらについても想 定市場販売価格を基礎にして実施料相当額を算定すべきであると主張するが,前記 に照らして採用できない。 また,前記(1)エにおいて考慮した事情に照らせば,これらシートの納入価格には, 美容液の価値が考慮されていないから,被告製品用のシートを製造したが譲渡しな かった場合の実施料率は,●●と認めるのが相当である。

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平成25(ワ)32555  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年3月18日  東京地方裁判所

 時効にかかった分は不当利得として認められました。
 よって,本件特許権の設定登録日(平成19年6月8日)から平成26年10月28日までの間の被告による本件特許権の実施に基づいて,原告が被告から受けるべき金銭の額は,上記アないしウの合計額である6372万8115円となる。
(5) 消滅時効につき
前記第2,2(9)及び(10)のとおり,原告は,平成25年9月11日に,被告に対し,被告装置が本件特許権を侵害するとしてその損害賠償を求める通知をし,その後,当該通知から6か月以内である同年12月11日に本件訴訟を提起したところ,本件訴訟において,被告は,本件特許権の侵害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権について3年の消滅時効を援用しており,原告もそれを争っていない。 そうすると,特許権侵害の不法行為に基づく原告の被告に対する損害賠償請求権は,上記通知から3年を遡る平成22年9月10日までの侵害行為に係る分については,時効により消滅したものと認められる(民法147条1号,153条,724条)。 前記(4)のとおり,平成19年6月8日から平成26年10月28日までの間の損害賠償額は6372万8115円であるところ,これを期間により按分すると,消滅時効にかかる平成22年9月10日までの額が2811万1180円,消滅時効にかからない同月11日以降の額が3561万6935円となる。前者については,不法行為に基づく損害賠償請求権としては時効により消滅しているため,不当利得返還請求権として認容すべきこととなる。

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 平成25(ワ)6414  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年2月26日  大阪地方裁判所

 特許権侵害として7%の実施料相当額が認められました。
 イ 上記認定事実を前提にすると,被告が受注した同種システムの中で,被告装置を備えるものは多くなく,常に一体として販売されているとは いえないこと,被告装置自体の売上額も,被告装置を備えるシステム総売上額27億4337万5000円の中の2億4834万9000円と,約9%であることからすれば,被告が受注したパワートレイン開発,計測等のシステム全体をもって,本件特許発明の実施に該当すると解するのは相当ではない。 また,被告システムにおける排ガス分析計であるAMAi60は,被告装置と組み合わせて使うことが予定されているものであるが,独立した装置であり,被告装置とは別に,システムの一部要素として構\成されていることが認められるから(別紙受注一覧取引番号3ないし6,甲6,乙6の2),本件特許発明の技術的範囲に属する被告装置の一部と評価できるものではない。 よって,本件特許発明の実施料の対象として捉えるべきものは(特許法102条3項),被告装置自体の受注額であると解される。
ウ 前記認定事実を前提に,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき額について検討するに,被告装置の受注額を基礎に,本件特許発明の実施料を算定すべきであることは前述のとおりであるが,被告装置と排ガス分析計AMAi60とが組み合わせて販売されており,一定限度,被告装置の販売は,AMAi60の販売に寄与していると評価することができるから,この点を使用料率の算定にあたって考慮することはできるものと解する。 また,被告装置を含むものとして受注したパワートレイン開発,計測等のシステムは,1件あたりの受注額の平均が4億円以上となる大規模なものであること,システム全体のうち,排ガス測定機器の関係について,原告と被告は競合していること,被告において,原告のCVS装置をシステムに組み込むこともある中で,温調機能を有する被告装置を含む発注を受けているのであるから,被告装置の存在は,システム全体の\n受注に一定限度寄与しているというべきであり,前述のとおり,被告装置の受注額を基礎に本件特許発明の実施料を算定するとしても,その料率の関係では,この点を考慮するのが相当である。 さらに,本件特許発明は,サンプリング流路全体とともにサンプルバッグを加熱するという比較的単純な構成からなるものであるから,競合関係にある被告にとって,被告装置が本件特許の侵害となるか否かの検討は容易であると考えられ,前述のとおり,原告のCVS装置も選択可能\な中で,あえて温調機能を有する被告装置を含むシステムを受注したのであるから,この点は,実施料率を算定するに当たって考慮すべき事情と解される。\n以上を総合すると,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき実施料としては,被告装置の受注額の7%とするのが相当である。
エ そうすると,原告が特許法102条3項により受けるべき金銭の額は,被告装置の受注額の7%,別紙損害算定表の実施料相当額欄記載のとおりとなり,合計1738万4430円と認めるのが相当である。\n

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平成24(ワ)14652  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟  平成26年7月23日  東京地方裁判所

 洗濯機のカビプロテクト機能について「商品選択に寄与する割合が低いものであったとはいい難い」として売上高の1%の損害が認められました(特102条3項)。
 そして,本件688明細書の上記(イ)e,fの記載に照らせば,本件688発明において,洗濯兼脱水槽から洗濯物が取り出され,槽内に洗濯物がない状態で上記槽乾燥工程を行うことで,脱水孔から空気が外槽内にスムーズに流れ,槽内の乾燥効率向上という作用効果が得られるものとされていることをうかがうことができるところ,本件688明細書に,上記(イ)gのとおり,温風供給手段を動作させるタイミングを,洗濯兼脱水槽から洗濯物を取り出した後とするためには,蓋の開閉動作があったことを条件とすればよい旨の記載があることも考慮すれば,蓋開閉検知は,洗濯兼脱水槽内から洗濯物が取り出された状態で槽乾燥工程が行われることを担保し,槽内の乾燥効率の向上という上記作用効果を確保するための構成であると解されるところである。そうすると,「検知を条件に」を,槽乾燥工程への自動移行を意味するものと解すべき理由はなく,同文言は,単に蓋開閉検知がされなければ槽乾燥工程に移行しないことを意味するにとどまるものと解するのが相当である。\n
・・・・
以上によれば,本件521特許及び本件893特許の侵害を理由とする原告らの請求は,争点(4)イ・ウについて検討するまでもなく理由がないことに帰着する。 そこで,以下においては,争点(4)ア(本件688特許の侵害による損害額)についてのみ検討する。
・・・・
そうすると,ロ号製品について,そのカタログやウェブサイト上の製品説明において,本件688特許登録前の製造販売に係る製品のように,「カビプロテクト」機能につき大きく取り上げる扱いがされていなかったとしても,従前の宣伝広告等により,需要者が当該機能\\を重視することは十分にあり得るものというべきである。なお,被告は,本件688特許登録前の製造販売に係る製品は,いわゆる縦型洗濯機であり,ドラム式洗濯乾燥機であるロ号製品とは無関係なものである旨主張するが,縦型洗濯機とドラム式洗濯乾燥機の需要者は共通するものと解されるのであって,前者に係る宣伝広告の効果が後者に波及することは十\\分にあり得るものと解されるところである。加えて,ロ号製品についても,機種名TW−G520L/Rの製品については,そのカタログにおいて,「カビプロテクト」機能により手軽に槽の手入れをすることができる旨が大きく取り上げられていること(甲36,乙64),機種名TW−Z370L,TW−G520Lの製品については,株式会社東芝のウェブサイトにおける上記製品の「商品情報」において,カビプロテクト機能\\を有する旨が記載されていること(乙66)に照らせば,ロ号製品においても,「カビプロテクト」機能はその宣伝広告において取り上げられることがあったものということができるのであって,本件688発明に係る機能\\が需要者の商品選択に寄与する割合が低いものであったとはいい難いものというべきである。
エ 他方,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を具体的な構成をもって社会に開示した点にあるというべきところ,本件688発明がその課題解決のために具体的に開示した新たな技術的手段としての構\\成は,「前記検知工程による検知を条件に」槽乾燥工程へ移行するようにしたところであって,同発明は,蓋の開閉検知のほかには,「洗濯物が取り出された状態」とするための技術的手段を開示していないことは,前記1で見たとおりである。
オ 以上の事情を総合考慮すると,ロ号製品の売上高に1%を乗じた金額が,本件688特許の特許権者が本件688発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する金額(特許法102条3項)として相当であると認められる。

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平成24(ワ)30098 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年07月10日 東京地方裁判所

 特許権侵害で1億円を超える損害賠償が認められました。
 上記技術分野における実施料率に関しては,平成4年度〜10年度の無機化学製品の契約件数(イニシャルペイメントなし)は3件であり,実施料率別では5%が2件,2%が1件であった旨, 平成21年頃の国内企業へのアンケートによると化学分野の実施料率は平均5.3%であった旨, 平成9年〜20年に損害賠償訴訟で判断された化学分野の実施料率は平均3.1%であった旨の調査結果が報告されている。(甲9,38,39,46)(3) 上記事実関係によれば,本件発明は二次電池の正極材料の基本性能に関するものであり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する被告方法により製造されたものとして,高温保存特性が優れるという効果を奏するものということができるが,他方,被告製品の売上げに関しては,それ以外にも二次電池に求められる上記各性能\を被告製品が有していることによる部分が大きいと推認される。以上に説示した本件の諸事情を総合すると,原告が被告による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,前記(1)の55億8300万円に2%を乗じた1億1166万円と認めるのが相当である。

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平成24(ワ)14227 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年05月22日 東京地方裁判所

 窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法について技術的範囲に属すると認定され、102条3項により約2.5億円の損害が認定されました。
 これらの記載に前記(ア)認定の事実を併せ考えると,本件発明は,アニーリングという技術手段を採用して,これにより,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すという作用が生じ,p型窒化ガリウム系化合物半導体が製造されるという効果が得られるというものである。そして,この場合のアニーリング雰囲気は,真空中,N2,He,Ne,Ar等の不活性ガス又はこれらの不活性ガスの混合ガス雰囲気中で行うのが好ましく,さらに,アニーリング温度における窒化ガリウム系化合物半導体の分解圧以上で加圧した窒素雰囲気中で行うのが最も好ましいとされる。これに対し,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用したりキャップ層に水素原子を含む材料を使用することは,p型不純物に結合した水素原子を熱的に解離するというp型のための反応が進行せず,上記作用効果を奏しないことがあるので好ましくないとされるが,逆に,p型不純物に結合した水素原子を熱的に解離するというp型化のための反応が進行して,上記作用効果を奏することもあると考えられることから,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用したり,キャップ層に水素原子を含む材料を使用することが排除まではされていないということができる。そうであれば,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」とは,このような作用効果を奏するような雰囲気,言い換えれば,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味するものと解するのが相当である。\n
・・・
被告製品の売上額が51億7487万2414円を下らないこと,本件発明の実施に対し原告が受けるべき金銭の額が被告製品の売上額の5%に相当する額であることは,当事者間に争いがなく,これらの事実によれば,本件発明の実施に対し原告が受けるべき金銭の額は,2億5874万3620円を下らない・・・

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平成24(ワ)24822 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年03月20日 東京地方裁判所

 特許権侵害について、売上額の3%の損害が認定されました。
 原告らは,特許権侵害に係る不当利得の額は不当利得対象期間の被告各製品の売上額4億1602万5629円に実施料率3.5%を乗じた額であり,損害の額は損害賠償対象期間の被告の利益額633万0671円に等しいと主張する。上記売上額及び利益額に争いはなく,被告は,不当利得についての実施料率は0.5%であり,損害賠償についての寄与率は10%にとどまる旨主張するので,以下,検討する。
・・・
被告は,不当利得対象期間中,本件発明の実施許諾を得ないまま,その技術的範囲に属する被告各製品の製造販売をしたのであるから,少なくとも実施料相当額につき法律上の原因なくして利益を得,原告ペパーレットはこれと同額の損失を被ったということができる。イ そこで,本件発明の実施料率についてみるに,上記事実関係によれば,カラーチェンジ機能は猫砂に求められる複数の機能\のうちの一つにとどまり,顧客がこれを他の機能より重視しているとはいえないものの,紙製の猫砂全体に占めるカラーチェンジ機能\を有する製品の割合が,固まり性や消臭性を備えた猫砂の商品化後も徐々に拡大し,5割程度に達していることからすれば,カラーチェンジ機能は,同種製品の販売上,不可欠ではないとしても有益な機能\とみるべきものである。そして,被告各製品の包装をみても,製品ごとに強調の程度は異なるものの,カラーチェンジ機能をセールスポイントとして扱っている。また,実施料率について調査した文献によれば,本件発明の実施品が属するパルプ,紙加工品等の分野における実施料率は3%程度の契約例が多いとされている(甲14)。これらの事情を総合すれば,本件における実施料率は,売上額の3%と認めるのが相当である。したがって,原告らが返還を請求し得る不当利得の額は,合計1248万0768円(4億1602万5629円×3%)となる。\n
・・・
イ そこで判断するに,上記事実関係によれば,本件発明の効果であるカラーチェンジ機能が被告各製品の販売に貢献していることは明らかといえるが,他方,被告各製品は,消臭性,固まり性といった機能\も併せ有するのであり,これらに着目して,本件発明の実施品である原告らの動物用排尿処理材や,商品名等により専らカラーチェンジ機能が強調されていた前訴対象製品ではなく,被告各製品を選択する消費者も少なからず存在したものと推認することができる。これらの事情を総合すると,被告の利益のうち5割は本件発明以外の要因が寄与して生じたものであり,この限度で上記推定が覆ると考えられる。したがって,寄与率を10%とする被告の主張を採用することはできず,原告らが請求し得る損害賠償の額は合計316万5335円(633万0671円×50%)であると解するのが相当である。\n

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平成23(ワ)15499 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年10月24日 大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定され、102条3項での損害額よりも、102条2項による損害額の方が高額ということで、3000万円強の損害額が認定がされました。
 原告製品及び被告各製品のほかにも,食品を収納するとともに,当該食材を加熱可能な容器が多数存在することは当事者間で争いがない。もっとも,このうちフラップ部と蓋を一体成型したものについては,原告製品,被告各製品及び乙30発明に係る実施品の存在を認めることができるにとどまる。本件各特許発明は,「加熱調理後,容器内の水分を,開口部を通じて,排出可能\である。この結果,本発明の容器は,パスタ等の調理に好適に使用可能となる。」(段落【0023】)という作用効果を奏する点に技術的意義があるものである。このような代替品の有無などに関する状況及び本件各特許発明の技術的意義に加え,本件で表\れた一切の事情を総合すると,本件各特許発明の被告各製品の売上げに対する寄与度は15%とするのが相当である。エ 損害以上によれば,売上高5億9510万5017円から経費合計3億9795万7004円を控除した額に寄与度15%を乗じた2957万2201円を,特許法102条2項に基づき算定される損害額と認める。
(3)特許法102条3項に基づく損害の計算
証拠(乙27の1〜3)によれば,プラスチック製品に係る実施料率は,平成4年度から平成10年度までの期間において,イニシャルペイメントがある場合において平均350%,イニシャルペイメントがない場合において39%であったことが認められる。このことに加え,前記で検討した代替品の有無などに関する状況及び本件各特許発明の技術的意義等も考慮すると,本件において相当な実施料率は35%であると認める。そうすると,売上高5億9510万5017円に実施料率35%を乗じた2082万8675円が相当な実施料額であると認める。
以上によれば,より高額である前記の計算に基づき,原告の損害(逸失利益)は2957万2201円であると認めるのが相当である。この約1割に相当する300万円の限度で,弁護士費用及び弁理士費用についても本件と相当因果関係のある損害と認める。

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平成19(ワ)2525 債務不存在確認請求本訴事件,損害賠償請求反訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月26日 東京地方裁判所

 アップルと個人発明家との訴訟で、裁判所は約3億円の損害賠償を認めました。本件は、不存在確認訴訟なので、原告がアップルです。
 (1) 証拠(甲95,98,127,128,計算鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年10月1日から平成25年3月30日までの間の原告各製品の日本国内における売上高(消費税抜き)は,●(省略)●円であり,消費税込みの売上高は,●(省略)●円であると認められる。被告は,原告の平成23年5月26日付け準備書面(24)別紙1の記載を根拠に,原告各製品の売上高が5976億円であると主張するが,原告は,上記の記載が誤記であると述べている上,そもそも上記記載が売上高の記載であるかどうかも不明であり,他に原告の上記主張を裏付ける的確な証拠がないことに照らすと,これを採用することはできない。また,被告は,計算鑑定の結果等は,製品別売上台帳等の取引別の詳細データを用いていないから信用することができないと主張するが,原告は製品別売上台帳等の取引別の詳細データを常備していないというのであり,「<以下略>の追加陳述書」(甲98)及び「<以下略>の補充的陳述書」(甲128)の基となるデータは米国のアップル・インクに対する監査報告手続において会計監査人が依拠している会計データベース(SAPデータベース)から析出して得られたものであって,無作為に選択された25件の取引レベルのサンプルデータにより,上記データベースから抽出した販売数量及び売上データが請求システムのデータと一致することが確認されている上(甲127),鑑定対象期間である平成18年10月1日から平成23年9月24日までの売上高については上記データベースから抽出された製品別月次売上データと原告の計算書類上の売上高との整合性に特段の問題はないとされているから(計算鑑定の結果),原告の上記主張は,採用することができない。
 (2) 本件各発明の実施に対し被告が受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を算出するに当たっては,前記消費税込みの売上高に相当な実施料率を乗じる方法によるのが相当である。原告は,クリックホイールの価格をベースとすべきであると主張するが,原告各製品の原価が証拠上不明であることに照らしても,採用することができない。
 (3) そこで,相当な実施料率につき,以下検討する。
ア 実施料率〔第5版〕(乙54)によれば,「19.ラジオ・テレビ・その他の通信音響機器」に含まれる「電気音響機械器具」には,録音装置,再生装置,拡声装置及びそれらの付属品が含まれるところ,この分野の平成4年度ないし平成10年度の実施料率(イニシャルなし)の平均値は,5.7%である。なお,「20.電子計算機・その他の電子応用装置」の同様の平均値は,33.2%であるが,これは主にソフトウエアの実施料率が高率であることによるものとされているから,これを参考にすることは相当でない。なお,弁論の全趣旨によれば,被告が本件特許につき他に許諾した例はないことが認められる。イ 本件各発明は,1) リング状に予め特定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出すること,及び,2) 前記軌跡に沿ってタッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点が設けられており,前記検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことができることに特徴があると考えられるところ,1)については,同様の機能を有するタッチホイールを搭載したiPodが原告各製品の販売開始より前の平成14年7月に既に販売されていたものであり(乙3,26,36,37,39,41),2)については,甲5公報及び甲39公報に開示されていたほか,タッチ位置検出センサーの下部にプッシュスイッチ手段を設置し,タッチ位置検出センサーによる検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行う構成については甲6公報,甲7公報及び甲31公報等に開示があり,このような構\成は,原出願当時,広く知られた技術であったと認められる。そうであるから,本件各発明の技術内容,程度は高度なものであるとは認め難いというべきである。ウ 代替手段については,平成19年9月から発売が開始されたiPodtouchではクリックホイールが採用されず,タッチパネルが採用されているが(乙26),これによる入力方法等の詳細は証拠上判然としないから,これをもって代替手段となるとは認め難い。原告各製品の販売開始前に販売されていたiPodは,前記のタッチホイール及びタッチホイールの上部(軌跡から外れた位置)等に配置しているものがあり(乙3,26),そのような構成で代替することは可能\であったということができるものの,それを採用したのでは操作性に劣り先進性を欠くことになると考えられるし(乙30ないし38),実際に原告各製品の販売開始後にそのような構成を採用したモデルがあることは窺えないから,この点を重視することはできない。エ 本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度について見る。(ア) 証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の効果として,次の記載があることが認められる。「本発明は,以上のように構成されており,特に指先からの軌跡上のアナログ的な変移情報または接点の移動情報が電子機器へ確実に入力することができ,1次元上または2次元上もしくは3次元上の所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触点の位置,変移値,及び押圧力を検知することができる。そして,操作性良く薄型でしかも少ない部品点数で電子機器を構\成することができるように1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供することができる。」(段落【0014】)「また,この操作部品により非常に多くの機能の選択を行ったり,例えばボリュームスイッチ等のスイッチ入力を繊細に行うことができる。さらにはセンサータッチのイベント数により入力を行うための接触検知スイッチとして使用された場合には,イベント入力数を人間の指の感覚でもって自在に調節させ,指を当てる場所に応じてイベント数を変更させることにより操作性と多機能\性を向上することができる。しかも,このような操作性を発揮する電子機器の構成部品として該機器の操作部の構\造を単純化でき且つメンテナンス性を向上することもできる。そして,単一の操作部品でもって接触操作型電子部品およびプッシュスイッチ夫々の機能を同時に操作することができる。さらに,従来のプッシュスイッチ付き回転操作型部品とは異なり,装置自体をスイッチ押下方向に薄くして形成でき,装置の中央に配することが可能\となり,片手で持って操作するような装置に組み込んだ場合でも,両手いずれでも操作を簡単に行なうことができる。また,以上の接触検出センサー付プッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント入力が行なえる。」(同【0015】)(イ) 移動する接触点の位置等を検知し,機能の選択等を行う点は,既にタッチホイールにより行われていた。1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供する点は,原告各製品は本件図面中の【図21】のようにプッシュスイッチの上部にタッチ位置検出センサーが配置されて1つの部品で複数の操作ができるようになっているものではなく,これらは別の部品で構\成されているのであり(別紙原告製品説明書,乙16),装置の薄型化は,バッテリや液晶ディスプレイとハードディスクとの配置の工夫やフラッシュメモリの採用等により果たされていることが窺える(乙16,26)。操作性の向上の点は,タッチホイールを採用していた従前のモデルの後に,クリックホイールを採用した原告各製品等が販売されたことや原告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していること(乙30ないし38)からすると,一定の寄与があるとは考えられるが,クリックホイールの機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの存在の果たす役割も大きいと考えられるから,この点に関する本件各発明の寄与の程度が大きいとは認め難い。そうすると,本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度は大きくないというべきである。オ 本件各発明が原告各製品の売上げに寄与する程度について見るに,証拠(乙4,21,30,31,34,37,38,40,41,43)によれば,原告自身,クリックホイールを原告各製品の操作性の要と位置付け,新機能,セールスポイントとしてこれを積極的に宣伝し,好評を博してきたことが認められる。また,証拠(甲97,乙4,16,23,27,28,29,31,34,38,39,40,53,62)によれば,「アップル」のブランドの価値は非常に高く,原告各製品のデザイン,カラーバリエーション,iTunes,ビデオ再生,ゲーム,大型液晶,記憶容量,バッテリ容量,小型軽量といった点の訴求力がかなり強いものであり,平成18年11月16日時点におけるデジタルミュージックプレーヤー市場におけるiPodの国内シェアは約60%に達しているが,それには原告の販売努力が相当程度貢献していることが認められる。カ このような諸般の事情を総合考慮すると,相当な実施料率は,●(省略)●%と認めるのが相当である。(4) そうすると,被告が受けた損害の額は,次の算式のとおり,3億3664万1920円(円未満切捨て)となる。

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平成22(ワ)17810 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年09月25日 東京地方裁判所

 特許権侵害について102条1項および3項による損害賠償が認められました。
 以上によれば,原告プレックスの損害は,以下のとおりである。被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品1及び2を合計61台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品1ないし4を同一数量販売して,1台当たり321万7327円,合計1億9625万6947円の利益を得ることができた。また,被告は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,被告製品3を合計10台販売していたところ,侵害行為がなければ,原告プレックスは原告製品5及び6を同一数量販売して,1台当たり436万8056円,合計4368万0560円の利益を得ることができた。この合計である2億3993万7507円が原告プレックスの損害と推定され,この推定を覆すに足りる事情はない。
(8) 原告イエンセンの損害について
ア 原告らは,原告イエンセンにつき,特許法102条3項により,1台当たり130万円,合計9230万円の実施料相当損害金を請求している。しかし,原告イエンセンは,被告による侵害期間中,原告プレックスに専用実施権を設定しており(甲1),被告との間でライセンス契約を締結して実施料を得られる可能性は全く存在しなかったのであるから(特許法68条ただし書き,77条2項),原告イエンセンは,特許法102条3項により実施料相当額を損害額と推定する基礎を欠いているものというべきである。イ 原告イエンセンが特許法102条3項に基づく請求ができないとしても,原告イエンセンに損害が生じていれば,民法709条の原則に従った損害賠償は可能である。被告が平成20年12月から平成24年2月までの間に被告製品71台(うち13台は海外向け)を販売したことは争いがないところ,原告製品1ないし4は被告製品1及び2の,原告製品5及び6は被告製品3の,それぞれ競合品であり,少なくとも国内においては他に競合品を製造販売する業者があったとは認められないことからすると,少なくとも国内において販売された被告製品58台分については,侵害の行為がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売していたであろうと認められ,原告プレックスが原告製品58台を追加販売していれば,原告イエンセンは1台当たり65万円,合計3770万円の実施料を取得することができたと認められる(甲16,計算鑑定の結果,弁論の全趣旨)。他方,海外向けに販売された被告製品13台分については,被告に立証責任のある特許法102条1項ただし書の適用に関する限り,原告プレックスに「販売することができないとする事情」の立証があったとはいえないことは前記のとおりであるが,原告らに立証責任のある民法709条の相当因果関係の問題として考えると,被告製品の販売先に対応する海外向け販売にはどのような条件が必要で,原告プレックスはこれを備えているのか否か,当該各販売先においても原告製品や被告製品の競合品は他に存在しないのか否か等は必ずしも明らかでなく,被告製品の販売がなかったならば,原告プレックスが原告製品を同一数量販売することができ,原告イエンセンが対応する特許料を取得することができたという相当因果関係の立証があったとまでは認め難い。そうすると,原告イエンセンは,被告の侵害行為により,原告プレックスから3770万円の実施料を取得する機会を失ったのであるから,同額を民法709条に基づく被告の侵害行為と相当因果関係ある損害として請求することができるというべきである。これは,原告イエンセンが原告プレックスの追加販売から得られたであろう実施料相当額であるから,原告ら間の契約で定められた1台当たり65万円(甲16)という額よりも高く,あるいは低く修正する余地はない。\nウ 被告は,原告プレックスが特許法102条1項の請求を行い,原告イエンセンが同条3項の請求を行えば二重請求となり,また本件発明を原告プレックスが有していたときに比べ損害賠償の総額が大きくなって不当である,などと主張するので,民法709条に基づく損害賠償請求との関係でも上記の点を検討する。原告プレックスの特許法102条1項の損害算定において,原告プレックスが原告イエンセンに支払っているロイヤリティーとして1台当たり65万円を変動経費として控除しているのであるから(計算鑑定書4,10頁),原告イエンセンに1台当たり65万円を民法709条に基づく損害として認めたとしても,二重請求となるものではないし,原告プレックスが自ら特許を有していたときよりも損害総額が大きくなることもない。

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平成21(ワ)13559 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 平成24年12月13日 大阪地方裁判所

 商標権侵害における損害額の認定について、38条2項の推定が認められませんでした。
 商標法38条2項は,侵害者が侵害行為により受けた利益の額を,商標権者の受けた損害の額と推定している。ところで,商標権は,商標それ自体に当然に商品価値が存在するのではなく,商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付くことによってはじめて一定の価値が生ずる性質を有する点で,特許権,実用新案権及び意匠権などの他の工業所有権とは異なる。商標権侵害があった場合,侵害品と商標権者の商品との間には,必ずしも性能や効用において同一性が存在するとは限らないから,侵害品と商標権者の商品との間には,市場において,当然には相互補完関係(需要者が侵害品を購入しなかった場合に商標権者の商品を購入するであろうという関係)が存在するということはできない。したがって,上記相互補完関係を認めるのが困難な事情がある場合には,商標法38条2項によって損害額を推定するのは相当でないというべきであって,このような事情の有無については,商標権者が侵害品と同一の商品を販売(第三者に実施させる場合も含む。)をしているか否か,販売している場合、その販売の態様はどのようなものであったか,当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ) 本件において,被告は,徳島県内でユニキューブ事業を行っており,上記商標権侵害に係る本件対象物件の請負契約もいずれも徳島県で締結されているところ,これに対し,原告がユニキューブ事業を行っているのは福岡県及び山口県が中心であって,商圏が競合しているとはいえない。また,原告は,全国規模でユニキューブ・パッケージの販売事業を行っており,平成19年7月当時,徳島県内にも2社が確認できるが(乙41),これらの2社は,被告とは商圏を異にしており,被告に代わってこれらの2社が受注したということもできない。原告において他の加盟店を獲得できたような事情も見当たらない。さらに,被告がユニキューブ物件ではなく,デコスドライ工法を採用しない本件対象物件の工事請負を行うようになった当初,施主から,デコスドライ工法を希望する度合いは強くなく,一方で,他の設備を付けて欲しいとの要望があったことも踏まえると(甲57),施主が,被告による本件対象物件の工事請負がなければ,被告以外にユニキューブ物件を発注したであろうという関係も,直ちには認められない。原告は,被告が本件販売契約に違反していたことからすれば,被告が同契約に基づき徳島県でユニキューブ事業を行っていた事情を考慮すべきではないと主張するが,原告は,上記のとおり被告の施工実績を積極的に広告宣伝するなどしており,被告が原告の事業に貢献していたといえることからすれば,本件において被告のユニキューブ事業をなかったものと仮定するのは相当ではない。
(ウ) 以上によれば,本件においては,商標法38条2項により,被告の利益を原告の損害と推定するのはことを困難とする事情が存するというべきである。

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平成22(ワ)9684 不正競争行為差止等 平成23年10月03日 大阪地方裁判所

 シリコン製のざるについて、不競法の商品形態に該当するとして、3年間の販売数に対して、損害賠償が認められました。原告の単位数利益*被告の販売数に基づき、販売不可事情を考慮して損害額が決定されました。
 法2条4項によれば,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう被告は,原告商品の使用時形態は需要者が通常の用法に従った使用に際して認識することができる形状には当たらないとして,その他のざるとしての形態的特徴は,いずれも乙2ないし8に記載された原告商品に先行するざる又は水切りざるが備えている構成であるか又は周知の形態若しくはざる一般にみられるありふれた形態であると主張する。しかしながら,原告商品の使用時形態それ自体が,法2条4項により保護される商品の形態(形状)であるかはおいても,使用時形態のように変形自在であるという原告商品の特性は,少なくとも需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる質感等に反映されることは明らかであり,法2条1項3号により保護されるべき商品の形態として十\分に考慮されるべきものである。被告らが主張する上記各書証に記載されたざる等のうち,乙2に記載されたシラスティック製水切りボールはシリコンゴム材料を素材とするものであるが,取っ手部分があり,ざるの部分にもリムがないなど,原告商品の形態と大きく異なるものである。乙3に記載された合成樹脂製ざるについても,二個のざる体をセットにしたものであり,原告商品のように変形自在にしたものでもなく,質感についても大きく異なる。また,乙4,5,7及び8に記載されたざるについても,原告商品のように変形自在のものはない。被告らは,原告商品の形態は,パヴォーニ商品(乙45ないし48,53)と実質的に同一の形態であるとも主張する。確かに,パヴォーニ商品は,多少の柔軟性があることが認められるものの,原告商品と比べるとかなり肉厚で柔軟性に乏しく,原告商品と異なり,折りたたんだり,絞り込んだりすることはおよそできないものであって,形態の大きく異なるものであるというほかない。他に,原告商品と同様に変形自在であって,しかも原告商品と同一の形態の先行商品が存在することを認めるに足りる証拠はない。なお,乙6には,網袋に野菜などを入れ,容器自体を絞り込む使用形態が開示されているが(乙6の図3),この網袋状の容器は,ざるに似た形状をしているものの,布製の袋であり,原告商品の材質とは全く異なる。また,乙6の容器は,単体のままではその形状を維持することはできず,上記袋に野菜を入れる場合は,袋の上周縁に固定具を備え,硬質ボールの縁に固定具を掛け,ボールの内側に上記袋を入れて使用することが予定されており,原告商品の形態とは異なる。(2) 技術的構成に由来する必然的な形態被告らは,原告商品の形態は,シリコン素材を使用したという技術的構\成から必然的に由来するものであり,商品の機能を発揮するために不可欠な形態であるとも主張する。しかしながら,ざるの素材を変形自在なものにしたとしても,ざるとしての基本的形態だけを取っても,材質の選択,肉厚幅,底面突起の数,底面突起の有無及び数,表\面上の穴の大きさ及び数など,その形態選択には無数の選択肢があることからすれば,原告商品の形態を全体として評価したときに,それが商品の機能を発揮するために不可欠な形態のものであるということはできない。
・・・・
 平成20年8月から平成21年8月までの13か月間における原告商品の譲渡数量は合計5万2477個であるのに対し,これと時期を接した期間における被告ら商品の譲渡数量が合計39万7348個と約8倍であることは当事者間で争いがない。また,原告商品の小売単価が2835円である(税込み,甲15の5・7〜10)のに対し,被告ら商品の小売単価は853円(税込み,甲50)ないし980円(税込み,甲49)であることが認められる。このように近接した期間における譲渡数量において約8倍もの差があることや,小売単価をみても約3倍の価格差があることなどからすると,譲渡数量のうち少なくとも2分の1に相当する数量を被侵害者である原告が販売することができないとする事情があったと認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成19(ワ)5015 特許権侵害差止等請求事件 平成23年06月09日 大阪地方裁判所

 特許権侵害が認定。損害賠償について寄与率も認定。期間を分割して102条1〜3項による損害額が認められました。
ウ そこで,被告各物件における本件各特許発明が売上に与えた寄与率を検討する。
 (ア) 裏異物検出機能の意義証拠(甲26,57)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。近時,コンビニエンスストアなどでおにぎりが多く売れるようになり,海苔の需要が高まるとともに,厳しい品質管理が求められるようになった。海苔の場合は,異物の混入の有無が品質にも大きく影響し,その検出が重要な課題となっており,また,そのための装置が開発されてきた。そして,原告製品1,2及び被告各物件は,いずれも,乾海苔を一度くぐらせるだけで,その表\面,中,裏面の異物を検出することができる機能を有しており,これが同時にできないと,同じ作業を繰り返す必要があり,検出作業に要する手間や時間が増える(仮に,1台の機械をもって検出作業をするのであれば,2倍近い時間がかかる。2台〔2種類〕の機械を同時に使用する場合は,同様の時間を要することはないが,検出機の購入代金が割高になることが予\想されることのほか,2台分の設置場所や,検出機から排出された乾海苔を,改めて別の検出機にセットする手間を要する。)。したがって,表面や中だけでなく,裏面の異物検出機能\を有し,1回の搬送で検出を終えることのできる機能は,海苔異物検出機の販売に際し,大きな貢献を果たしているというべきである。
 (イ) 本件各特許発明と代替技術本件明細書によると,本件各特許発明の出願以前の海苔の異物検出に関する従来技術として,目視に頼るか,上下のローラーで挟んでその厚みにより異物を検出する方法が記載されている。しかし,その一方で,次に述べるとおり,海苔の異物を検出する機能を有した装置自体は,開発がすすみ,普及していったことが窺われる。被告各物件においても,裏面検出機能\のほか,表面検出機能\と中検出機能を具備しているところ,中検出は検出対象物が違うものの,少なくとも表\面検出機能については,その機能\において違いがあるわけではない(前述したとおり,裏返しした上での検出が議論されているが,そもそも,そのような検出方法が不可能であることを前提とした議論はされていない。)。
・・・
 オ 以上を総合すると,被告物件1の後期型の販売における寄与率は20%,被告物件2の販売における寄与率は25%と認めるのが相当である。

◆判決本文

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◆平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年04月19日 大阪地方裁判所

 1年以上前の判決ですが、特許法102条3項に基づく判決なのであげておきます。
 原告は、特許法102条1項ただし書が適用された結果,販売できないと認定された分について,同条3項の実施料相当額が認められるべきだと主張しました。しかし、裁判所は、マッサージ器事件◆(平成17(ネ)10047)と同様に、これを否定しました。
  「特許法102条1項は,特許権者が被った販売減少等による逸失利益相当の損害の額に関する特則であり,逸失利益相当の損害額を算定するという民法709条の原則を超えた保護を特許権者に付与するための特則ではないと解すべきである。そして,特許法102条1項は,侵害品が販売されなかったとすれば特許権者が得ることができた販売機会に応じて逸失利益を算定することを認めた規定であり,そのただし書において,侵害行為と損害との因果関係を否定すべき事情を考慮することとしているものである。これに対し,同条3項は,当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるところ,同条1項ただし書に基づいて損害と相当因果関係がないと認められた侵害品の販売数量に基づいて実施料相当額を損害として算定したのでは,権利者が被った逸失利益相当の損害を超える額の損害の賠償を認めることとなるから相当ではない。よって,原告の特許法102条3項に基づく請求は理由がない。」

◆平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権民事訴訟 平成19年04月19日 大阪地方裁判所

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◆平成17(ワ)6346 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月15日 東京地方裁判所

  裁判所は、実施料率については、0.7%と認定しました。
  「本件特許発明は,使い捨て紙おむつの基本構造に関する特許発明ではなく,構\成要件A及びBの構造を有する紙おむつにおいて前後漏れ防止を確実に達成できるとともに,着用感に優れた使い捨て紙おむつを提供することを目的とするものである。そして,その作用効果は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断される被告製品についてなされた前記の各実験からみても,前後漏れ防止について極めて顕著な効果を奏するものとは言い難いものである。そして,本件特許発明は進歩性を有するものの,既に述べたとおり,これと類似した構\造を有する特許発明が出願時に複数存在していたこと,及び,本件特許発明の対象である紙おむつは廉価で(乙93,95),大量に消費される商品であり,本件特許発明が紙おむつに使用される複数の技術の一つにすぎないことからしても,本件特許発明の実施料率は比較的低いものと認定されてもやむを得ないものである。・・・・以上の諸事情を考慮すれば,本件特許発明の実施料率は0.7%をもって相当と認める。」

◆平成17(ワ)6346 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成19年02月15日 東京地方裁判所

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◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所

   均等論に基づく侵害が認定されました。また、損害額については、販売不可事情が考慮され、102条1項の対象となったのは、販売数量の1%と判断されました。ちなみに、残り99%についての102条3項の実施料相当額の請求は認められませんでした。
   「前記判示のとおり,本件発明5は,「従来のものにおいては,マッサージ中は身体は自由状態となっているため,圧搾空気の給排気に伴う座部の袋体の膨縮にしたがって身体も上下動することになり,腿部を含む脚部,尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをすることができず,より効果的なマッサージをするという面では満足のいくものではないという問題があった。」(段落【0003】)ことを踏まえ,この技術課題を解決するために,座部用袋体と脚用袋体への圧搾空気の供給を同期させ,膨脹した脚用袋体によって両側から脚部を挟持しつつ,座部用袋体を膨脹させて使用者の身体を押し上げることにより,腿部及び尻部をストレッチ及びマッサージするものであると認められる。本件発明5の上述した課題,構成,作用効果に照らすと,本件発明5の本質的部分は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することにより,脚用袋体によって脚部を両側から挟持した状態で,座部用袋体を膨脹させ,脚部及び尻部のストレッチ及びマッサージを可能\にした点にあるというべきであり,そのために必要な構成要素として,空気袋を膨脹させて使用者の各脚を両側から挟持するという構\成には特徴が認められるとしても,使用者の各脚を挟持するための手段として,脚載置部の側壁の両側に空気袋を配設するのか,片側のみに空気袋を配設し,他方にはチップウレタン等の緩衝材を配設するのかという点は,発明を特徴付ける本質的部分ではないというべきである。」
  「以上のとおり,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することによるストレッチ又はマッサージ効果にあるところ,本件では,?@本件発明5の機能は,控訴人各製品の一部の動作モードを選択した場合に初めて発現するものであること,?A本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであること,?B控訴人製品のパンフレットや被控訴人製品のパンフレットにおいても,本件発明5に係る作用は,ほとんど紹介されていないこと,?C本件特許5の設定登録当時,被控訴人の市場占有率は数%にすぎず,椅子式マッサージ機の市場には有力な競業者が存在したこと,?D控訴人製品は,もみ玉によるマッサージとエアバッグによるマッサージを併用する機能や,光センサーによりツボを自動検索する機能\など,本件発明5とは異なる特徴的な機能を備えており,これらの機能\を重視して消費者は控訴人製品を選択したと考えられること,?E被控訴人製品はエアーバッグによるマッサージ方式であり,その市場競争力は必ずしも強いものではなく,被控訴人の製品販売力も限定的であったなどの事情が認められる。これらの事情を総合考慮すれば,控訴人各製品の譲渡数量のうち,被控訴人が販売することができなかったと認められる数量を控除した数量は,いずれの控訴人製品についても,上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である。・・・・ 被控訴人は,仮に,競合品の存在を考慮して特許法102条1項ただし書を適用したとしても,被控訴人によって販売できないとされた分(99%)については,特許法102条3項の実施料相当額として販売額の5%が損害として認められるべきであると主張する。しかしながら,特許法102条1項は,特許侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに対し,特許法102条3項は当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれが前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権者によって販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請求しうる逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認することになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。」

◆平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 平成18年09月25日 知的財産高等裁判所

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◆H17. 9. 5 大阪地裁 平成16(ワ)2398等 商標権 民事訴訟事件

  特許の事件ではありません、ブランド商標を付与した商品を安売りしていた場合の損害額が争われました。裁判所は、38条3項の額の基準は侵害者の上代を基準とするべきであるとの判断をしました。なお、本件は債務不存在確認訴訟を本訴とする反訴事件ですので、本文中、被告とは商標権者、原告とは侵害者のことです。
 「一方で商標についての一般的な使用料率を考慮し,他方で上記のような本件での特殊事情を考慮し,加えて前記のような被告の商品と本件商品との上代価格の差を考慮した場合,本件における「本件商標の使用に対し被告が受けるべき金銭の額」(商標法38条3項)としては,原告による本件商品の売上額の7%をもってするのが相当である。」

◆H17. 9. 5 大阪地裁 平成16(ワ)2398等 商標権 民事訴訟事件

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