知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

102条3項

令和2(ワ)13317  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月13日  東京地方裁判所

個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。

特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以 下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定 であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許 法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許 権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提 としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得 ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。 したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特 許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者 との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を 考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被 告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製 品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢 献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4) に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響 機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度 の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1 6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平 均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発 明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4. 0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業 における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の 電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品 を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。 このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型 かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接 触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採 用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー ン等の代替手段が存在する旨主張する。 しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押 すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音 量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高 くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは できない。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害 の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲 を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練 されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、 全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。 あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。 その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載 されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、 iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』 を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久 性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大 1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく 考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに 追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合 の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並 びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向 上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。 他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告 各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高 いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度 貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、 被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。 そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、 主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、 別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる 旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告 製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、 被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重 要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や 侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、 特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害 した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその 対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、 0.5%を下らないというべきである。

◆判決本文

関連事件はこちらです。

◆平成19(ワ)2525

◆平成25(ネ)10086

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条3項
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)17104  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月16日  東京地方裁判所

 漏れていたので、アップします。マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。東京地裁(40部)は、102条1項、2項の適用を排除し、同3項に基づき、約2015万円の損害賠償を認めました。

ア 上記にいう「侵害品の売上高」につき、原告は、被告サーバを使用したF X取引の取引高(3項損害主張1))、被告サーバを使用したFX取引の取引 回数(3項損害主張2))、被告サーバを使用したFX取引による手数料収入 及びトレーディング損益(3項損害主張3))であると主張する。 そこで検討すると、前提事実、証拠(甲27、乙66、67)及び弁論の 全趣旨によれば、1)FX取引は、証拠金を預託し、差金決済(元本に相当す る金銭の受渡しを行わず、買い付けの対価と売り付けの対価の差額の授受に より決済することをいう。)により外国通貨の売買を行う金融取引であるた め、総取引額の金銭の受渡しは必要とされず、売買の損益の受渡しのみで取 引が完結すること、2)被告は、被告サーバを介してFX取引管理方法に係る 被告サービスを提供し、これによって顧客から手数料収入を得ていたこと、
3)顧客とFX業者が直接取引を行うFX取引では、FX取引による顧客の利 益は、FX取引におけるFX業者の損失となるため、そのリスクをヘッジす るために、FX業者は、顧客の注文に応じて、他の金融機関に対し同様の注 文を行う取引(以下「カバー取引」という。)を行っており、被告は、FX 取引を行う際に、被告サービスを含めた多数の顧客の注文を一定数量や一定 時間で合算し、売り注文と買い注文を相殺した後、差分数量について他の金 融機関とカバー取引を行うことによりトレーディング損益を得ていたこと、
4)原告ライセンス契約においては、●(省略)●と定められていたこと、以 上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、差金決済その他のFX取引の内容及び実施料率に 係る取引の実情等を踏まえると、特許法102条3項に基づく実施料相当額 算定の前提となる「侵害品の売上高」は、FX取引に関する手数料収入及び トレーディング損益であると認めるのが相当である。 これに対し、被告は、トレーディング損益については、被告サーバを用い た顧客との取引とは別個独立の取引によって得られるものであるから、「侵 害品の売上高」には含まれない旨主張する。しかしながら、カバー取引は、 当該FX取引のリスクヘッジのために行われるものであるから、被告がカバ ー取引により得ているトレーディング損益は、被告サーバを使用した顧客と の当該FX取引と密接不可分の関係にあり、●(省略)●トレーディング損 益も、上記にいう「侵害品の売上高」に含めるものとするのが相当である。 そして、この場合に、トレーディング損益は、被告の全取引数量に占める被 告サービスを用いた取引数量を按分することにより、算定するのが相当であ る。したがって、原告及び被告の各主張は、上記認定に抵触する限度で、いず れも採用することができない。
イ 本件発明の構成要件を充足しない取引を除外すべきとの被告の主張につ\nいて
被告は、1)買い注文を決済注文とする取引(以下「取引1)」という。) 2)取引開始時点において2個以下の新規買い注文しか生成されない取引 (以下「取引2)」という。)、3)売り注文が相場価格の上昇に追従する取 引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報を 生成した取引をいう。)以外の取引(以下「取引3)」という。)は、いず れも本件発明の技術的範囲に含まれないから、これらの各取引は、損害額 算定の基礎から除外する必要があると主張する。
取引1)について
a 本件特許において、特許請求の範囲の請求項3は、次のとおり記載さ れていることが認められる。
・・・
b 取引1)の除外の可否
上記認定事実によれば、本件特許においては、売り注文を決済注文と する本件発明と、買い注文を決済注文とする取引1)とは、表裏の関係と\nして明確に区分して規定されていることを踏まえると、本件発明に係る 実施料を算定するに当たっては、取引1)に係る収入は、損害額算定の基 礎から除外するのが相当である。 なお、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告は、被 告サーバが本件特許の請求項3を侵害すると主張し、本件訴訟係属中、 取引1)に係る損害賠償の支払を求めて別訴を提起していることが認め られる。
取引2)及び取引3)について
証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告サーバを用いた 取引は、顧客が「想定変動幅、ポジション方向、対象資産」を設定した上、 被告サーバは、複数の買い注文情報を前提とした買い注文情報を生成し、 相場価格が上昇した場合には、売り注文の価格を変更するものであること が認められる。そうすると、上記取引は、被告サーバにおいて、複数の買 い注文情報を生成させ、相場価格が上昇すれば売り注文の価格を変更させ ることを意図するのといえる。 これを被告サーバを用いた取引2)及び取引3)についてみると、当該各取 引は、結果としては、その内容が本件発明による取引に係るものとは異な るものの、いずれの取引においても、複数の買い注文情報が生成されて相 場価格が上昇したときは、本来売り注文の価格を変動させることを意図し たものであったことが認められる。 これらの事情を踏まえると、取引2)及び取引3)は、特許法102条3項 に基づく実施料相当額算定の前提となる「侵害品の売上高」に含まれると するのが相当である。もっとも、被告サーバを使用した取引のうち、結果 としてその内容が本件発明による取引に至らなかったもの(取引2)及び取 引3))については、実施料率の算定において考慮するのが相当である。 したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件における侵害品の売上高について
証拠(乙63の2、73の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件期間から、 消滅時効に係る期間を除いた平成29年7月9日から平成31年3月2日 までの期間における被告サービスの手数料収入の合計額は、●(省略)●で あり、また、同期間におけるトレーディング損益の合計額は、被告の全取引 数量に占める被告サーバを使用した取引数量で按分すると、●(省略)●で あることが認められる。 そうすると、特許法102条3項に基づく実施料相当額算定の前提となる 「侵害品の売上高」は、上記手数料収入及びトレーディング損益の合計額で ある●(省略)●と認められる。
(3) 実施料率について
ア 実施許諾契約における実施料率等
証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、原告ライセンス契約において は、●(省略)●ことが認められる。 しかしながら、●(省略)●ことは、上記において説示したとおりである。 そして、原告ライセンス契約は、本件特許が登録された平成29年6月9日 より前の平成26年10月1日に締結されており、しかも、原告と原告の完 全子会社である原告子会社との間で締結されたものである。 これらの事情を踏まえると、本件特許の実施料率の算定に当たっては、上 記●(省略)●の実施料率を直ちに斟酌するのは相当とはいえない。 他方、証拠(甲26、乙74)によれば、株式会社帝国データバンクによ る平成22年3月付けの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在 り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率 に関する実態把握〜本編」においては、コンピュータテクノロジーの実施料 率の平均値は、正味販売高の3.1%とされていることが認められる。
イ 本件発明の技術内容や重要性
本件発明は、複数の売り注文価格がそれぞれ等しい値幅で異なるように した上で、複数の売り注文価格の情報を含む売り注文情報を一の注文手続 で生成し、その後相場価格が変動して、複数の売り注文のうち最も高い売 り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、当該検知の情報を 受けて、複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも更に所定価格 だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することによっ て、元の売り注文価格よりも相場価格が変動した高値側に新たな売り注文 価格の売り注文情報を生成する構成を採用するものである。このような構\ 成により、本件発明は、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取 引において、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させることにより 多くの利益を得る機会を提供するという点において、相応の技術的価値を 有するものと認められる。
証拠(甲7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告サ ービスの広告宣伝において、被告サービスについて、予め指定した変動幅\nの中で、一定間隔の値幅で複数のイフダン+OCO注文を一度に同時発注 し、決済注文成立後、相場の変動に合わせて変動幅を追従させ、相場変動 に追従した新たな条件の注文をシステムが自動的に繰返し発注する連続 注文機能であって、トラップリピートイフダン注文に係る被告の別のサー\nビスでは、想定した変動幅から相場が外れた場合、利益を逸失する場合が あるのに対して、相場の上昇又は下落の変動に合わせて、自動追従して注 文を繰り返すため、利益を追求することが期待できる注文方法であること を説明していることが認められる。そうすると、被告は、相場価格の変動に合わせて注文価格を追従させるという本件発明の技術内容を被告サービスの特徴の一つとして広告宣伝していたことが認められる。 弁論の全趣旨によれば、本件期間から消滅時効に係る期間を除いた期間 (平成29年7月9日から平成31年3月2日まで)において、被告と顧 客との間で行われた被告サービスに係るFX取引のうちの、新規注文を買 い注文、決済注文を売り注文とし、売り注文が相場価格の上昇に追従する 取引(最も高い売り注文価格よりも更に高い売り注文価格の売り注文情報 の生成)に対応する新規買い注文に係る手数料収入は、●(省略)●であ ることが認められる。そうすると、上記手数料収入は、上記期間における被告サービスにおける手数料収入の合計額●(省略)●にとどまり、被告サービスによる取引 のうち売り注文が相場価格の上昇に追従する取引(本件発明の構成要件を\n充足する態様での取引)の割合は、実際には●(省略)●にも満たないも のと認められる。したがって、本件発明による被告サービスの売上げへの 貢献は、上記割合をも斟酌するのが相当である。上記のとおりの本件発明の技術内容や重要性に照らせば、これを実施することは、被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するものであるといえる。
ウ 侵害の態様
前提事実によれば、被告は、業として、平成26年10月1日から平成3 1年3月2日まで、被告サーバを使用していたこと、原告が、平成26年5 月1日を原出願とする出願につき分割出願をして本件特許が平成29年6 月9日に登録されたため、被告サーバが本件発明の技術的範囲に属すること になったこと、以上の事実が認められる。当該認定事実を踏まえると、被告 による本件発明に係る侵害の態様が、極めて悪質であるとまで認めることは できない。
エ その他の事情
前提事実によれば、原告は、本件期間を通じて、金融商品取引業者として の登録を受けておらず、FX取引業を営んでいなかったこと、原告の完全子 会社である原告子会社は、FX取引等を事業内容とする株式会社であること が認められる。 そうすると、原告自身は被告との間で競合関係がないとしても、原告の完 全子会社である原告子会社と被告との間では潜在的な競合関係が認められ るから、仮に、原告が、被告に対し、本件発明の実施を許諾するとすれば、 その実施料は相応に高額になったものといえる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る本件発明の技術内容や重要性、侵害の態様その他の本件に 現れた諸事情を総合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な 料率を定めると、実施に対し受けるべき料率は、●(省略)●であると認め るのが相当である。
(4) 損害額
ア 特許法102条3項に基づく損害額
したがって、特許法102条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、 ●(省略)●となる(小数点第一位で四捨五入)。
(計算式)
●(省略)●
イ 弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当因果関係があると認められる弁理士費用及び弁理士費用相当損害額は、●(省略)●の限度で認めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、2014万9093円●(省略)●となる。

◆判決本文
当事者が同じ侵害事件です。

◆平成29(ネ)10073

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。

◆平成29(ワ)24174

関連カテゴリー
 >> 賠償額認定
 >> 102条1項
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ワ)4913  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年4月20日  大阪地方裁判所

約4500万円の損害賠償が認められました。なお、本件では、102条2項の覆滅部分について、3項の重畳適用は否定されました。

(c) 原告は、前記の各製品について、アウタロータ型電動モータを採用しておら ず、被告製品及び原告製品と構造が根本的に異なること、被告製品及び原告製品は、\n主として車輌工場において重要保安部位向けに使用されるのに対し、瓜生製作のU BX−AFシリーズ以外は主にそれよりも重要度の低い部位に用いられること、デ ソータやエスティックの製品は電動式衝撃締め付け工具ではなくナットランナーと\n思われること等を理由に、いずれも競合品に該当しないと主張する。 しかし、被告カタログ及び前記競合品の各カタログ(乙52の4、54の3、5 6の1・2、58、73、74)には、工具に採用されているモータの型がアウタ ロータかインナロータかといった点に関する記載がないことや、モータの構造は製\n品の外部から確認できるものではないこと等を踏まえると、モータの構造それ自体\nが需要者の購入動機の形成に寄与する場合が多いとは認められず、アウタロータ型 電動モータを採用していないことをもって直ちに競合品から排除されるとするのは 相当でない。また、被告製品及び原告製品の各カタログを見ても、締め付け工具で あること以上に各製品の用途を限定する旨の記載はなく(甲35、36、乙58)、 これらの製品が主に車輌工場において重要保安部位向けに使用される一方、他の製 品が異なることについて的確に裏付ける証拠はない。また、証拠(乙1、4、34) によれば、一般に、ナットランナーは、インパクトレンチやパルスツールとはモー タの回転を締付力に変換する方式が異なることから、高精度である一方でトルクが 低く抑えられ、反力受けが必要であるという特徴を有し、パルスツールとは性能・\n用途が異なる場合があるといえるが、デソータ及びエスティックの前記各製品は、\n低反力で反力受けを要さず、作業者が直接手に持って締め付け操作を行うことが可 能な製品であり、かつトルク範囲も被告製品のものと重複するものであることから、\n被告製品及び原告製品と性能・用途等において共通する競合品であると認められる。\nしたがってこの点の原告の主張は採用できない。
(d) 以上によれば、被告製品及び原告製品と共通する電動式締め付け工具の市 場において競合品が一定数存在することが認められる。もっとも、当該市場におけ る被告製品や原告製品の市場占有率等が明らかではないことや、競合品と認められ る製品の中には、被告製品との価格差が比較的大きいものもあると考えられること 等を踏まえると、競合品の存在を理由とする大幅な覆滅を認めることはできないと いうべきである。
c 侵害品の性能\n
(a) 被告カタログ(乙58)によれば、被告製品は、その「主な特徴」として、 「バッテリーツール、高い生産性、高トルク、高精度、低反力、メンテナンス軽減、 多様な使用環境に対応」と記載されている。また、より具体的な特徴として、被告 製品は、バッテリー残量等を作業者から容易に確認できるLEDインジケータが表\n示されること、作業者の手になじむバランスのとれたツールであること、オイル漏 れの影響を軽減してメンテナンス周期を延ばす新型のパルスユニットを採用してい ること、効率的な冷却システムを搭載していること、予備バッテリーを内蔵し通信\nを維持したままバッテリー交換が可能であること、回転速度が6000rpmまで\n設定可能であること、独自のコントローラ「Power Focus 6000」及びソフトウェア\nにより容易に作業内容等を設定可能であること、内蔵されたブザーからの音でも締\nめ付けが可能であること、デュアルアンテナにより無線環境に対応しツールの接続\n性を向上していること、高速バックアップユニット機能を搭載していること等が記\n載されている。一方で、モータの構造や、被告製品がアウタロータ型電動モータを\n採用していることについての記載はない。 また、被告カタログでは、前記のメンテナンス軽減・周期の改善に関して、新し い特許技術と設計により、従来品よりもメンテナンス周期が長くなっていること、 オイル漏れ対策やエアセパレータの採用及び優れた冷却性能がパフォーマンスと稼\n働時間の向上に寄与していることの記載があるほか、「高いトルク性能」として、\n「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、「高度なモーター制御」により締付け 時間が早くなり生産性が向上する旨が記載されている。 そして、証拠(乙58、59)及び弁論の全趣旨によれば、ABは、次のとおり の技術(発明)について、特許を出願し、その多くが日本国内を含めて登録されて おり、これらの技術が被告製品に採用されていると認められる。
1) オイルパルスユニット内のオイルと空気を分離する機構を備え、オイルチャ\nンバから分離された空気が再びオイルチャンバに戻ることを防止する技術(乙 59の1)
2) 遠心作用によりオイルから空気を取り出すための分離手段を備え、パルスユ ニット内の空気の割合を低くすることにより、高いパルス発生効率を実現する 技術(乙59の10)
3) 作動流体を利用したヒートパイプにより、電動モータの熱を効率的に放散し て冷却する技術(乙59の2)
4) ステータ要素とロータ要素との間の相対変位を感知するセンサーに係る技術 でありモータ制御の精度に資する技術(乙59の3)
5) モータとパルスユニットとの接続を改良し、高い生産性、低反力、高トルク 及びメンテナンス周期を改善させる技術(乙59の4)
6) 電圧供給源の遮断時に、動作制御ユニット及び無線通信装置への電圧供給を 連続して維持することによりバッテリーユニットの交換立ち上げにおける遅 れを実質的に減少する技術(乙59の5)
7) 油圧パルスユニット内のオイルレベルが低すぎる場合に、警告信号を出す方 法及びシステムに関する技術(乙59の6)
8) トルク限度及び角度回転限度を超えて締結具が更に締め付けられることを防 止するため、締付具が事前に締め付けられていたか否かを検出する方法に係る 技術(乙59の7)
9) オイルパルスユニットについて機構及び各種部材の形状を工夫し、トルク衝\n撃が与えられた直後に高圧室の圧力を迅速に除去し、次のトルク発生のための 迅速な加速を可能とし、トルクの増大及びトルクの間隔の短縮を実現し、衝撃\n率の増加を実現する技術(乙59の8)
10) パルスユニットの部品の摩耗により生じた粒子を除去するための磁石を備え、 さらなる摩耗等を防ぎ、メンテナンス軽減を実現する技術(乙59の9) そのほか、コントローラである Power Focus 6000 及びソフトウェアにより多種\n類のツールを接続し、作業内容に合わせたコントロールが容易であるという特徴は、 被告カタログ等において、前記記載以外にもページを費やして強く訴求されている (乙58、85)。
(b) 衝撃発生部が油圧パルス発生部である電動式衝撃締め付け工具において、 アウタロータ型電動モータを採用するという本件訂正発明は、電動式衝撃締め付け 工具の基幹部分であるモータに関する発明であり、インナロータ型電動モータが採 用される場合と比較して、小型、軽量、低反力、耐久性実現の作用効果を有する点 で、相当の技術的価値があるといえる。実際に、被告製品のモータを本件訂正発明 の技術に属しない構造に変更するにはモータの構\造等を変更する必要があり、その 場合には製品全体の構造や技術を見直す必要があり、この点からの代替技術が採用\nされる可能性が高いとはいえない。\nもっとも、本件訂正発明の作用効果である「小型、軽量、低反力、耐久性」を実 現する技術及び被告製品で訴求される各特徴を実現する技術は、アウタロータ型電 動モータ以外にも存在する。被告製品においてアウタロータ型電動モータを採用し たことによる作用効果は、被告カタログにおいて訴求されている「高トルク」、「低 反力」及び「メンテナンス軽減」に関連し得るが、前記(a)のとおり、被告カタログ では、「高トルク」を実現する技術として「TorqueBoost」、「優れた冷却システム」、 「高度なモーター制御」が記載されており、実際に、被告が保有し被告製品で採用 されている技術においても実現されていると認められる。 そのほか、前記(a)のとおり、被告製品には、本件訂正発明以外にも多数の技術が 使用され、当該技術による作用効果が被告カタログにおいて被告製品の特徴として 記載されており、需要者に強く訴求されていることが認められる。
(c) したがって、被告製品は、本件訂正発明及びその作用効果以外にも、種々の 技術とこれに基づく特徴・性能を備えており、これらの要素が、需要者の購入動機\nの形成に相当程度寄与していると認められる。被告製品が多彩な機能を有し、これ\nが顧客誘引力に寄与していることは、被告製品が、対応する原告製品よりも総じて ●(省略)●であるという価格差にも裏付けられているといえる。 (d) 以上より、被告製品の性能に係るこれらの事情は、特許法102条2項に基\nづく推定を、相当程度覆滅する事由であると認められる。
d 本件訂正発明は被告製品の一部のみに使用されていること
前記1(2)のとおり、本件訂正発明は、インナロータ型電動モータを搭載した従来 の電動式衝撃締め付け工具の有する課題を解決するため、出力トルクが大きいアウ タロータ型電動モータを採用し、小型及び軽量で、低反力かつ耐久性を有する電動 式衝撃締め付け工具を提供するというものであり、被告製品の特徴とされる「高ト ルク、低反力、メンテナンス軽減」(前記c(a))の作用効果の実現に使用されてい るといえるが、前記cで検討した諸事情からすれば、それらの作用効果は、本件訂 正発明のみによって実現されているとはいえない上、被告製品が備える種々の性能\nの一部にすぎないことが認められる。したがって、本件訂正発明が被告製品の一部 のみに使用されていることは覆滅事由に該当する。ただし、覆滅の基礎となる事情 は前記cの事情と重複することから、推定覆滅の程度の検討に当たっては被告製品 の性能を理由とする推定覆滅と実質的に重なるものとして評価するのが相当と解さ\nれる。
e 本件訂正について
本件訂正は、衝撃発生部について、油圧パルス発生部に限定するものであり、被 告製品における発明の作用効果やその実施に影響を与えるものではないこと等を踏 まえると、本件訂正の事実を覆滅事由として認めることは相当でない。
(ウ) 推定覆滅の程度
以上のとおり、本件においては、一定数の競合品の存在、被告製品の性能及び本\n件訂正発明が被告製品の一部のみに使用されていることを理由とする推定覆滅が認 められ、前記(イ)のとおりの事情を総合的に考慮すると、6割の限度で損害額の推定 が覆滅されるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はい ずれも採用できない。
(エ) 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、被告製 品ごとに、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「2項損害額」欄記\n載のとおりとなる。
イ 特許法102条3項の重畳適用について
(ア) 特許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、第 三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑みると、 侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特許権者が侵害者の侵害行為が なければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸 失利益と実施許諾の機会の喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解され る。 そうすると、特許法102条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該 推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるとき は、同条3項の適用が認められると解すべきである。そして、同項による推定の覆 滅事由が、侵害品の販売等の数量について特許権者の販売等の実施の能力を超える\nこと以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情がある ことを理由とする場合の推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下におい て、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべきものと 解される(知的財産高等裁判所令和4年10月20日特別部判決参照)。
(イ) これを本件について見ると、本件において覆滅事由として認められるのは 競合品の存在、被告製品の本件訂正発明以外の性能及び本件訂正発明が被告製品の\n一部のみに使用されていることに係る事情であり、いずれも特許権者の実施の能力\nを超えること以外の理由により特許権者が販売等をすることができないとする事情 があることを理由とするものである。
市場における競合品の存在を理由とする覆滅事由に係る覆滅部分については、侵 害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された 蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、特許権者である原告が被告に対して実 施許諾をするという関係に立たないことから、原告が被告に実施許諾をすることが できたとは認められないし、本件における競合品をみると、いずれも本件訂正発明 の効果と同様の性能等を有するものの、アウタロータ型電動モータを採用している\nと認められるものはなく、本件訂正発明の構成とは異なる機構\を有していると認め られるから、この点からも、原告が、当該覆滅部分について、実施許諾の機会を喪 失したとはいえない。
また、被告製品が本件訂正発明以外の性能を有すること及び本件訂正発明は被告\n製品の一部のみに使用されていることを理由とする覆滅部分については、被告製品 の売上に対し本件訂正発明が寄与していないことを理由に推定が覆滅されるもので あり、このような特許発明が寄与していない部分について、原告が実施許諾をする ことができたとは認められない。 したがって、本件においては、特許法102条2項による推定の覆滅部分につい て、同条3項の適用は認められない。
ウ 特許法102条3項に基づく損害額
(ア) 実施料率
本件訂正発明について実施許諾契約がされた事実はない(弁論の全趣旨)。 また、証拠(甲32、33)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年9月20日 に社団法人発明協会が発行した「実施料率〔第5版〕」において、「金属加工機械」 の技術分野における平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値についてイニシ ャル有りが4.4%、イニシャル無しが3.3%であること、同様の最頻値が5%、 3%、中央値が4%、3%であること、平成22年8月31日に発行された経済産 業調査会が発行した「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プ ログラム著作権・技術ノウハウ〜」において、「成形」の技術分野における実施料 率の平均値が3.4%であることが認められる。これらに、原告と被告とが競業関 係にあること、本件訂正発明の内容、重要性、代替可能性、被告製品の売上に対す\nる貢献の程度のほか、本件訂正により特許請求の範囲が減縮されていること等本件 に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件における実施に対して受けるべき料率 としては、4%が相当であると認める。これに反する原告及び被告の主張はいずれ も採用できない。
(イ) 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、被告製品ごと に、別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1及び表2の各「3項損害額」欄記載のと\nおりである。
エ 原告の損害額
(ア) 原告は、被告製品の型番ごとに、平成29年7月から令和3年10月の期間 につき、特許法102条2項に基づく損害額と、同条3項に基づく損害額のうち高 い方を選択的に請求していることから、被告製品の型番ごとに認められる損害額は、 別紙損害一覧表(裁判所認定)の表\1の「損害額」欄記載のとおりであり、合計す ると4078万9003円(平成29年7月から令和2年3月31日分までが28 12万1254円、同年4月1日から令和3年10月31日分までが1266万7 749円)となる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(ネ)10073等  特許権侵害損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では、3項侵害の損害額の方が高いとして、2200万円弱の損害賠償を認めましたが、知財高裁は2項侵害の損害額の方が高いとして、約2250万円の支払いを命じました。

本件は、発明の名称を「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエ アロゾルを発生させる方法」とする発明に係る本件特許権を有する控訴人が、被控 訴人らに対し、被控訴人らが共同で加熱式タバコ用デバイスである原判決別紙物件 目録記載の被告製品(被告製品1〜3)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をする\nことが本件特許権の侵害に当たると主張して、不法行為(民法709条)に基づき、 選択的に、1)特許法102条2項の損害額●●●●●●●●●円(同項の推定の覆 滅が認められた場合に当該覆滅部分について予備的に同条3項に基づく売上額の2\n0%相当の損害額)又は2)同条3項の損害額●●●●●●●●●円を請求するとと もに、3)弁護士・弁理士費用相当額●●●●●●●●円(上記1)の同条2項の損害 額の1割に相当する額)を請求するものとして、●●●●●●●●●円及びこれに 対する不法行為の後であり被控訴人らへの各訴状送達の日の翌日である令和2年3 月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を原審で求めた事案である。
(2) 原審は、1)特許法102条2項による被控訴人らが受けている利益の額は3 706万0935円と推定されるが、被告製品の売上げにはそれらが別件発明の実 施品であることも貢献しているため5割の推定覆滅を認めるのが相当であり、同項 の損害額は1853万0467円となる(また、上記の覆滅の理由からして上記覆 滅部分についての同条3項の適用は認められない。)とする一方で、2)実施料率は 10%を下らないものと認めるのが相当であり、同条3項の損害額は1975万2 707円となるところ、より高額である上記2)の損害額をもって控訴人の損害額と 認め、これに弁護士・弁理士費用としてその1割である197万5270円を加え た2172万7977円及びこれに対する前記遅延損害金の連帯支払を被控訴人ら に求める限度で控訴人の請求を一部認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却 した。
・・・・
(c) 同じくAmazon seller centralに係る手数料等について、控訴人は、令和元 年7月のFBA運搬費は異常に高額であり、少なくとも本件FBA配送代行手数料 ●●●●●●●●円は控除されるべきものではないなどと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲10、甲A38、44、甲46、47、51、52、 53の1〜4、54の1〜5、甲55、62、乙25、26)及び弁論の全趣旨に よると、1)令和元年7月分のAmazonのFBA手数料(Amazon FBA/handling charge) は●●●●●●●円、FBA運搬手数料(Amazon FBA/haulage express)は●●● ●●●●●円であったこと、2)平成30年7月から令和元年12月までの期間中、 FBA運搬手数料又はこれに相当し得るとみられる費用は、平成30年11月から 令和元年9月までの間において計上されているところ(ただし、平成30年11月 及び12月においては「Amazon /FBA haulage handling charge」である。)、同年 11月分及び12月分は●●●●円程度、平成31年1月分は●●●●円余りであ ったものの、同年2月分から同年(令和元年)6月分まではいずれも●●●●円に 満たない額となっていたにもかかわらず、同年7月分として上記のとおり急激にそ の額が増大し、その後、同年8月分として●●●円余り、同年9月分として●●● 円余りが計上された後、同年10月分以降は、FBA手数料とともにゼロ円となっ たこと、3)同年4月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少し、同年5月において、「商品評価損」●●●●●●●円の計上と 「期末商品棚卸高」●●●●●●●●円の計上により、「商品」が●●●●●●● ●円増加し、同年6月において、「商品評価損」●●●●●●●●●円の計上と「期 末商品棚卸高」の●●●●●●●●円の減少の計上により、「商品」が●●●●● ●●●●円減少したこと、4)同年7月30日及び同月31日の2日間に、「Fjp20190724PATENT-14」などの符号(末尾の数字のみ、3〜17の範囲で異なっている。) のある一律●●●円のFBA配送代行手数料(FBA Per Unit Fulfillment Fee)が ●●●●件計上され、その合計額は●●●●●●●●円に上ったこと(本件FBA 配送代行手数料)、5)同月におけるFBA配送代行手数料の支出において、そのよ うに同一の符号をもって一律の金額で同時期に多数のものが計上されている例は、 他に認め難いこと、6)控訴人は、別件仮処分決定に係る特許権侵害差止仮処分申立\n事件(東京地裁民事第29部にて審理)において、令和元年7月11日付けで、被 控訴人アンカーに対する申立てを取り下げ、その後、同月25日、別件仮処分決定\nがされたこと、7)控訴人は、別途、被控訴人らを債務者として、特許権侵害差止仮 処分命令の申立て(東京地裁平成30年(ヨ)第22123号(東京地裁民事第4\n0部にて審理))をしていたところ、当該事件で、被控訴人らは、令和元年9月3 0日付けの準備書面をもって、被控訴人ジョウズにおいては同月末までに被告製品 全ての在庫がなくなる予定であることから、保全の必要性がない旨を主張し、その\n後、それを疎明する資料として、被控訴人ジョウズが同月にAmazonに対し被告製品 の所有権放棄の依頼をしたことを示す書面を提出した上、同年11月5日付けの準 備書面をもって、保全の必要性がない旨を改めて主張したことが認められる。
前記1)〜7)の事情(なお、前記4)について、「20190724PATENT」の符号は、令和 元年7月24日付けのもので、特許に関連するものであることを強くうかがわせる ものである。)のほか、AmazonのFBAサービスに係る証拠(甲53の1〜4。余 剰在庫の管理等のために、Amazonフルフィルメントセンターに保管されている在庫 について、出品者、出品者の倉庫、仕入れ先又は販売業者に返送したり、その所有 権を放棄したりする旨を依頼するサービスがあることなどが記載されている。)や、 配送手数料等についてはその対象となる行為が行われた後に請求がされるのも合理 的であると解され、本件FBA配送代行手数料が平成31年(令和元年)4月ない し6月の在庫に係る会計上の処理と関連している可能性があることなども考慮する\nと、本件FBA配送代行手数料●●●●●●●●円については、別件仮処分決定の 発令に関連して、また、前記7)の仮処分命令申立事件に対する対応やその準備等の\nために、大量の被告製品について一律に、通常の販売とは異なる特別の取扱いがさ れたことから発生したものであることが強く推認され、この推認を覆すに足りる事 情は見当たらない。
したがって、Amazon seller centralに係る手数料等のうち、本件FBA配送代行 手数料●●●●●●●●円については、被告製品の販売に直接必要となった経費と して控除すべきものではなく、控除が認められる支払手数料額は●●●●●●●● ●円となる。
上記に反する被控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。なお、被 控訴人らは、当審で追加された特許法102条3項の損害に係る控訴人の主張に対 し、前記3)の商品評価損については、令和元年の期末の商品評価損調整でゼロとす る仕訳を行ったなどと主張するところ、そのような事実を認めるに足りる証拠はな いものの、仮に、そのような事後的な調整の事実があったとすれば、そのことは、 本件FBA配送代行手数料の支出が被告製品の販売とは直接関係なくされたもので あるとの前記推認を裏付けるものであるとみることができる。

◆判決本文

原審はこちら

◆令和2(ワ)4332

関連事件(1)です。 特許権、当事者同じ 特許権者勝訴 差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332
関連事件(2)です。 当事者同じ、対象特許違い 特許権者勝訴 損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074
関連事件(2)の控訴審です 控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和4(ネ)10087  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。

(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書 の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均 値を採用しなかったのは不当である旨主張する。 しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を 採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。 イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実 施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体 的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと 理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要 があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を 利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス 料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否 定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘 案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、 本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す る。 しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事 情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00 32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語 の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反 する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び 「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007 9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし 【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者 は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説 明に記載したものといえる。 その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害 賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13 日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及 び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)32239

関連審決取消訴訟事件です。

◆令和3(行ケ)10139

◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です

◆令和4(ネ)10031

◆令和2(ワ)5616


◆令和3(ネ)10023

◆平成30(ワ)36690

◆令和4(ネ)10056

◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁 は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、 実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。 しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製 品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決 第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許 以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率 は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限 定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の 認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主 として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張 する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ 自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。 しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、 具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を 吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や 分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、 1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等 に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい るのであるから、一審原告の主張は採用できない。

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 補正・訂正
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条3項
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)7384  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月15日  大阪地方裁判所

 ファミリーイナダVS富士医療器のマッサージ器の特許権侵害事件です。東京地裁は、富士医療器がファミリーイナダの特許を侵害してるとして、約28億円の損害を認めました。102条2項と3項の重畳適用を認めています。 原告・被告が逆の侵害訴訟(令和2年(ネ)第10024号)では、知財高裁は、逆転判決で、ファミリーイナダが富士医療器の特許を侵害しているとして、約4億円の損害を認めてます。

ウ 覆滅割合
(ア) 市場の同一性
原告と被告は、マッサージチェアの分野でシェアを競い合う企業でマッサージチ ェアという需要者を共通にする同種製品を取り扱う同一の市場で競業している。 被告の主張は、具体的な被告の製品と原告の製品とを比較し、個別の販売相手先 や販売ルートを細かく分断して、これらが異なるから「市場の非同一性」があるな どと主張している。しかし、このような立論が成り立つのであれば、個別の販売相 手先や販売ルートが共通の場合でない限り、市場は無意味に細分化されてしまう。 同種製品で共通する需要者層を対象にして潜在的に影響を受ける競争の場が想定で きるのであれば、市場が同一性を有しているといえる。 また、本件特許II)及びIII)の実施品である原告の製品(以下「原告製品」という。) には対象被告製品と同じような価格帯の製品も複数存在するから、この点からも市 場の同一性は否定されない。
(イ) 市場における競合品の不存在
侵害訴訟の損害論においては、特許権を侵害する製品が販売されることによって、 特許権者の特許実施製品の販売が減少するという関係があるか否かを問題とすべき であるから、侵害関係のない製品についての適法な同種製品のシェア自体は、推定 覆滅事由としては関係がない。 また、競合品の範囲は、本件特許II)及びIII)の特許権の技術的構成を踏えて、その\n目的・作用効果を把握した上で、当該目的・作用効果が同じで原告製品の販売数量 に影響を与える製品という前提に立脚して考察されるべきであって、「背メカで被 施療者の首元から背中、腰にかけてマッサージを行うマッサージチェア」であるか 否かによって範囲を画し、これを前提とすると、殊更に本件特許II)及びIII)の具体的 な構成や解決手段をその考慮対象から一切捨象することになる。\n
(ウ) 侵害者の努力(ブランド力、宣伝広告)
原告は、古くから一貫してマッサージチェアを製造販売している老舗であり、被 告ともシェアを常に争う信用力のある会社である。また、原告は、世界で各種の受 賞実績のある国際的にも認知された会社であり、被告に劣らずグッドデザイン賞を 受賞するデザイン性を備える複数の原告製品を販売している。 したがって、原告企業より被告企業の方が格別に信用力を有し、原告のブランド 力に比して侵害品が利用者にとって購買動機となるなどということはない。 また、開発段階において開発に携わる従業員を配することは、ごく通常のことで あり、原告においても日々機械によるマッサージを人間の揉み心地に近づけるべく 開発努力を重ねている。営業段階において、マッサージチェアの魅力を伝える為の 営業活動は、原告においても常時行っており、被告だけに特別の活動ではない。
(エ) 侵害品の性能\n
対象被告製品のカタログ等には、対象被告製品の仕様(発明の構成)が明記され\nており、本件発明II)及びIII)の作用の発現が示唆されていることから、需要者に一切 訴求されていない本件特許II)及びIII)の作用効果に関連する仕様、機能は、対象被告\n製品の購入動機になり得ない旨の被告の主張は失当である。 被疑侵害品である対象被告製品の具体的な実施態様に関するパンフレット等には、 利用者へ訴求する記載が多数ある。本件特許II)及びIII)の技術的構成を採用するから\nこそ、各種コースのマッサージや腕を含む人体全体のマッサージ効果を高めるマッ サージチェアを提供できるのであり、これらの技術的構成を回避してマッサージチ\nェアを提供することは製品の性能に大きな影響を及ぼし、仮に回避し得たと考えて\nも、その代替的構成を採用するには無視できない費用がかかる。\n
(オ) 特許発明が侵害品の部分のみに実施されているものではないこと
本件特許II)及びIII)は、椅子式のマッサージチェアにあって身体のマッサージに関 する構成、構\造に係る基本的な技術である。被疑侵害品である対象被告製品の一部 に本件特許II)又は本件特許III)の発明が実施されていたとしても、対象被告製品は、 この実施部分を除いてしまえば、全体としての製品構成が成り立たない。すなわち、\n本件特許II)は、椅子式マッサージ機にあって肩を側方からマッサージする「肩また は上腕の側部」の技術的構成に関する重要な特許であり、本件特許III)は、「腕部」 をマッサージする技術的構成に関する重要な特許であって、この実施部分があるか\nらこそ利用者の需要が喚起されているといえる。 本件特許II)に関し、被疑侵害品である被告製品II)を利用する利用者は、様々な自 動コースを自由に判断して設定するのであり、その際に、「肩または上腕の側部」 に効果的なマッサージを行うことができる構成を有している製品か否かが製品選択\nには重要である。本件特許II)の構成の内容は、取扱説明書の中でもこれを織り込ん\nでしばしば説明されており、それが被疑侵害品である被告製品II)の全般に亘ること も明らかで、本件特許II)の構成を抜きにしては、被告製品II)の多くの自動コースも 成り立たないことも一見して明らかである。 本件特許III)に関して、開口の向きを考慮しつつ、腕のエアマッサージを行う本件 特許III)の技術的構成の具体的な実施態様は、これを採用する製品の外観にもマッサ\nージ効果にも大きな影響を及ぼす。
(カ) まとめ
以上を総合的に考慮すると、推定覆滅される割合は、少なくとも55%以上には ならない。
エ 損害額
(ア) 特許法102条2項に基づく損害額の算出ができる対象被告製品について 不当利得期間及び損害賠償期間を通じた限界利益の額(前記イ(ウ))について、前 記ウのとおり、推定覆滅される割合は、55%以上にはならないから、被告が開示 した限界利益率を前提とした場合は、●(省略)●を下らず、原告が主張する限界 利益額を前提とした場合は、●(省略)●を下らない。
(イ) 特許法102条2項に基づく算出ができない対象被告製品について 被告の開示によれば、被告製品12、30及び32の限界利益はマイナスであっ て、赤字が計上される製品であるので、これには特許法102条2項に基づく算出 ができない。前記3製品について、●(省略)●そして、前記3製品について、こ の限度で特許法102条3項の主張を行う。
・・・
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)を総合すると、被告の開示した限界利益額による場合、特許法102条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、原告が主張する修正限界利益額による場合、同条3項の併用適用の算出額の加算を除いても合計●(省略)●となり、少なく見積もっても50億円を下らない。
(3) 特許法102条2項及び3項に基づく主張
ア 特許法102条1項と同条3項の関係と同条2項 特許法102条1項と3項の併用に関する令和元年法律第3号による改正(以下 「令和元年改正」という。)後の特許法に関する考え方として、産業構造審議会知\n的財産分科会特許制度小委員会の報告書(「実効的な権利保護に向けた知財紛争処 理システムの在り方」)において、わざわざ2項との関係でも「同様の扱いが認め られることと解釈されることが考えられる」と記載されており、その解釈可能性が\nあることへの言及があるから、2項と3項の併用については、条文に明示されなか ったとはいえ、全面的に併用適用が否定されたわけではなく、解釈に任されること を明らかにしている。 したがって、特許法102条2項に基づき主張された損害のうち推定が覆滅され た部分について、同条3項の重畳適用が認められるべきである。

◆判決本文(損害論)

◆判決本文(侵害論)

関連事件1です。 同じく富士医療器による特許権侵害を認定ししてるとして、約4800万円の損害を認めました。

◆平成30(ワ)1391

原告・被告が逆の侵害訴訟はこちら。

◆令和2年(ネ)10024

この1審はこちら。

◆平成30(ワ)3226

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> 102条3項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP