2010.04. 5
ゴルフボールの特許について、10億を超える損害賠償が認められました。
(ア) 特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする旨規定している。被告は,本件においては,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないこと,原告各製品の市場におけるマーケットシェアを超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきであること,被告の営業努力,ブランド力及び販売力などの事情が存在し,これらの事情は,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」に該当するので,上記事情に相当する数量に応じた額を原告主張の損害額から控除すべきである旨主張する。・・・・以上・・事情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」があったものと認めるのが相当である。したがって,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきである。(イ)a これに対し被告は,原告各製品(5種類)が特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」であることを前提に,その「単位数量当たりの利益の額」を基に損害額を算定する以上,同項ただし書の「販売することができないとする事情」としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮する際には,上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきであり,当該市場占有率を超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評価すべきである旨主張する。しかし,i)ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は,市場占有率に反映されているといえるが,それを適切に評価するためには,ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると考えられること,ii)本件においては,原告各製品と競合する他社メーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされていないなど,被告各製品の譲渡数量のうち,原告各製品の市場占有率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できることを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば,被告の上記主張は採用することができない。b また,被告は,原告各製品及び被告各製品の販売において,本件訂正発明の対象である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされておらず,本件訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製品の購買の動機付けとなることはあり得ないから,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないことを,原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべきである旨主張する。しかし,前記(ア)b認定のとおり,ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能\,スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが,一般のユーザーはゴルフボールの性能\を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれることに照らすならば,原告各製品及び被告各製品の販売において本件訂正発明の対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないことを,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量を原告が「販売することができないとする事情」として考慮すべき余地はないというべきである。
◆判決本文
特許権侵害事件について、102条2項における推定の覆滅が否定され、約15億の損害賠償が認められました。
被告は,原被告以外の製造業者としてアンリツがあり,アンリツは被告と同程度を販売していたのであるから,被告物件の販売数のすべてを原告が販売することができたという関係にないと主張する。確かに,証拠(乙196,197)によれば,アンリツが,本件特許権の存続期間中,複数のホッパを有する自動電子計量機を製造販売していたこと,平成17年5月に作成されたアンリツの自動電子計量機「クリーンマルチスケール」のカタログには「高速度ダイレクトシャッタで,シャッタ開閉時間を1/2に短縮。しかも速度制御が可能。信頼性のあるステッピングモータを使用のため高寿命を実現いたしました。」などの記載があることが認められる。しかし,アンリツ製の自動電子計量機が,ステッピングモータを採用しており,シャッタ(ゲート)の開閉速度を制御することが可能\\であるとしても,被告物件のようにきめ細かにゲートの開閉制御を行うことができる機能を具備しているかは不明であり,被告物件の代替品といえるものかは明らかでない上,被告は,アンリツが自動電子計量機をどの程度販売していたのかについて何ら立証していないのであるから(なお,被告は,原告と被告が計量装置のシェアを2分する企業であるとの主張もしており,このことからすれば,原被告に比べればアンリツの自動電子計量機の販売数が相当多かったとはいえない,被告物件が販売さ。) れていなかったと仮定した場合に,被告物件を購入していた顧客が,被告物件の代替品としてアンリツ製の自動電子計量機をどの程度購入していたのかは全く不明というほかない。したがって,本件においては,特許法102条2項本文による原告の損害額の推定を覆滅するに足りる事実が具体的に立証されているとはいえないから,上記(3)で算出した原告の損害額を減額するのは相当でない。
◆判決本文