2016.07. 7
平成28(ワ)12480 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月30日 東京地方裁判所
生海苔異物除去機の一部の部品を交換する行為が生産が該当する(特許権侵害)と判断されました。
原告は,被告ワンマン及び被告西部機販に対し,本件メンテナンス行為1
の差止めを求めるところ,製品について加工や部材の交換をする行為であっ
ても,当該製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,
取引の実情等も総合考慮して,その行為によって特許製品を新たに作り出す
ものと認められるときは,特許製品の「生産」(法2条3項1号)として,
侵害行為に当たると解するのが相当である。
本件各発明は,前記1(2)のとおり,生海苔混合液槽の選別ケーシングの
円周面と回転板の円周面との間に設けられた僅かなクリアランスを利用して,
生海苔・海水混合液から異物を分離除去する回転板方式の生海苔異物分離除
去装置において,クリアランスの目詰まりが発生する状況が生じ,回転板の
停止又は作業の停止を招いて,結果的に異物分離作業の能率低下等を招いて\nしまうとの課題を解決するために,突起・板体の突起物を選別ケーシングの
円周端面に設け(本件発明1),回転板及び/又は選別ケーシングの円周面
に設け(本件発明3),あるいは,クリアランスに設けること(本件発明4)
によって,共回りの発生をなくし,クリアランスの目詰まりの発生を防ぐと
いうものである。そして,本件板状部材は,本件固定リングに形成された凹
部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより,本件各発明の
「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)に該当する「表\面側の突出
部」,「側面側の突出部」を形成するものであること(当事者間に争いがな
い)からすると,本件固定リング及び本件板状部材は,被告装置の使用(回
転円板の回転)に伴って摩耗するものと認められるのであって,このような
摩耗によって上記突出部を失い,共回り,目詰まり防止の効果を喪失した被
告装置は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を欠き,もはや「共
回り防止装置」には該当しないと解される。
そうすると,「表面側の突出部」,「側面側の突出部」を失った被告装置\nについて,新しい本件固定リング及び本件板状部材の両方,あるいは,いず
れか一方を交換することにより,新たに「表面側の突出部」,「側面側の突\n出部」を設ける行為は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を備え
た「共回り防止装置」を新たに作り出す行為というべきであり,法2条3項
1号の「生産」に該当すると評価することができるから,原告は,被告らに
対し,法100条1項に基づき,上記(1)の差止めに加えて,本件メンテナ
ンス行為1の差止めを求めることができる。
・・・・
これに対し,被告ワンマン及び被告西部機販は,要旨,1本件装置1及
び2の仕入代金以外に必要経費が生じているから,これらについても被告ワ
ンマン及び被告西部機販の利益から控除すべきである,2)本件特許は本件装
置1及び2の販売にほとんど寄与しておらず,本件装置1及び2の売上への
寄与率が10%を超えることはない,3)被告ワンマン及び被告西部機販が本
件装置1及び2の販売によって得た利益を原告の損害と推定することについ
ての推定覆滅事由があるなどと主張する。
しかしながら,上記1)について,必要経費として控除できるのは,本件装
置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になった経費に限られるもの
と解すべきところ,被告ワンマン及び被告西部機販の主張する経費が本件装
置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になったものと認められない
のはもちろん,そもそも同経費が現実に生じたこと自体を認めるに足る証拠
が一切なく,その算定根拠も判然としない。また,上記2)について,本件各
発明は,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものである一方,\n本件各発明が本件装置1及び2に寄与する割合を減ずべきであるとする被告
ワンマン及び被告西部機販の主張の根拠は判然としないことに照らせば,本
件各発明が本件装置1及び本件各部品の販売に寄与する割合を減ずることは
相当でない。さらに,上記3)について,被告が主張するのは,単に,原告が
販売店ではなく製造業者であるという事実にとどまるところ,同事実のみか
ら,本件各発明の実施品が有する顧客吸引力にもかかわらず,原告がその取
引先への販売の機会を持ち得なかったということはできないし,ほかに原告
が取引の機会を奪われたとはいえない特段の事情もないから,法102条2
項による推定を覆滅するには足りないというほかない。
◆判決本文
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2016.07. 7
平成27(ワ)6812 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月23日 東京地方裁判所
搾汁ジューサについて、均等侵害が認められました。興味深いのが損害額200万円がすべて代理人費用という点です。
上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が
解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の
効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が
網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁
が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と
するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において
防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余
地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円
筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかに\nより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明
の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について
前記イのとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム
の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水
円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また,
これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁
を効率的に排出することができる。
他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,\n被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案
内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を
汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のス\nクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され
て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置
されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ
ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路
の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒
を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し
たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作
用効果を奏するということができる。
以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果
を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。\nこれに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに
より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能と\nはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして
も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で
あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について
本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された
圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され
た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一
体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く
空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及
びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落
【0045】,【0052】,【0056】,【図3A】,【図3B】)。この
とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔
(底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出
路に流入する(段落【0072】),すなわち,底部リング(網ドラ
ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路
に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の
外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技
術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング
に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流
路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告
製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると,
本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ
ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え
るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって,
圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの
は容易であるというべきである。
これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件
発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採
用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で
あるということができる。
・・・
3 争点 (原告の損害額)について
前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す
るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得
たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ
に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ
ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論
せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告
が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから,
独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記
請求は理由がないことになる。
本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ
き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対
する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。
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2016.07. 5
平成26(ワ)8905 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月15日 東京地方裁判所
損害賠償が認められましたが、特許権侵害による損害額のうち、ほとんどは弁護士費用です。
ア(ア) 原告は,特許法102条2項の適用を主張するところ,前記前提事実及び
弁論の全趣旨によれば,原告は,被告LEDと競合するLEDを販売等していると
認められるから,原告には,被告らによる本件特許権1の侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろう事情が認められるといえ,同条項の適用が認められるべ
きである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判
決・判時2179号36頁)。この点について,被告らは,被告LEDが譲渡等さ
れなければ,原告の製品が販売されていたであろうとの条件関係が存在しないから,
原告には逸失利益の損害は生じていないと主張するが,上記のとおり原告が被告L
EDの競合品を販売等していることからして,なお原告に逸失利益の損害が生じた
と認定するに差し支えないというべきである。
(イ) 本件特許権1の侵害により被告らがそれぞれ得た利益の額について,被告E
&Eが10万5000円の利益を得たことについては,原告と同被告との間で争い
がない。また,被告立花が被告LEDの販売により得る利益が,売上高の10パー
セントであることは,原告と同被告との間で争いがないところ,被告立花は,イガ
ラシに対して被告LEDを2万円で販売し,それ以上に被告LEDの販売等により
売上をあげた事実は認められないから,被告立花が得た利益の額は,2000円と
認めるのが相当である(なお,被告立花は,上記売上代金を全てイガラシに返金し
ているとの事情を主張するが,同事実によっても,一度発生した損害が発生しなか
ったことになるわけではないし,これにより原告に生じた損害が填補されたと認め
ることもできない。)。したがって,これらの額は,特許法102条2項により,
原告が受けた損害の額と推定される。
(ウ) 被告らは,1)原告が被告LEDについて原告が保有する9件の特許権を侵害
すると主張していること,2)被告LEDは,本件発明1の作用効果を奏しないか,
奏したとしても極めてわずかな効果しか奏しないこと,3)被告LEDは,被告製品
(窒化物半導体素子)にさらなる部材を付加していること,4)有色LED市場にお
ける原告のシェアなどからすれば,本件発明1が被告らの得た利益に寄与した割合
は5パーセントを上回ることはなく,推定された損害額のうち95パーセント相当
額について,同推定が覆滅されるべきである旨主張する。
しかしながら,1)について,被告LEDが,原告の他の特許権に係る発明の技術
的範囲に含まれるか,含まれるとして,他の特許権に係る発明が被告LEDの売上
にいかに寄与したかについては,本件証拠によっても,判然としないというほかな
い。2)について,被告LEDが本件発明1の作用効果を奏しないか,極めてわずか
しか奏しないなどといった事実は認められない。3)については,被告LEDが被告
製品に部材を付加しているとしても,その価値の源泉の大半は被告製品にあるもの
と合理的に推認できる。4)については,有色LED市場における原告のシェアを一
般的に示すのみでは,本件において,なお原告の受けた損害の額についての推認を
覆すには十分とはいえない。以上のとおり,損害の額の推定が一部覆滅されるべきであるとする被告らの主張は,採用することができない。
(エ) 以上の検討によれば,被告E&Eによる本件特許権1の侵害行為により原告
が受けた損害(逸失利益)の額は10万5000円と認められ,被告立花による本
件特許権1の侵害行為により原告が受けた損害(逸失利益)の額は2000円と認
められる。
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2016.06.15
平成26(ワ)28449 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年5月26日 東京地方裁判所
102条3項に基づく損害額の算定で、売り上げの5%が認められました。
原告は平成25年4月5日〜平成27年10月末日の被告製品の売上高4
億4967万3858円に実施料率5%を乗じた2248万3692円が
本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張する
ところ,売上高は被告の自認する2億8279万4711円の限度で認め
られ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。
次に,実施料率についてみるに,前記前提事実に加え,証拠(甲2,23,
24,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,1)本件発明は被告製品の構成\nの中核部分に用いられており,本件発明の技術的範囲に属する部分を取り
除くと被告製品はアンテナとして体をなさないこと,2) 本件発明は高さ約
70mm以下という限られた空間しか有しないアンテナケースに組み込ん
でも良好な電気的特性を得ることのできるアンテナ装置の提供を目的とす
るところ,被告製品はこれと同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優\nれたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調してい
ること,3) 本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のラ
イセンス契約における実施料率については平均3.3〜3.5%ないし2.
9%とする調査結果が公表されていること,以上の事実が認められる。こ\nれらの事実を総合すると,本件において特許法102条3項に基づく損害
額算定に当たっては被告製品の売上額の5%をもって原告の損害とするの
が相当である。
したがって,原告の損害額は1413万9735円となる。
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2016.06.15
平成25(ワ)33070 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年5月26日 東京地方裁判所
102条2項に基づく損害額について、滅失する割合が75%、95%と認定されました。
本件の各発明が被告の上記利益に寄与した割合について,本件発明1に
つき被告は2.5%,原告は50%であると,同2−1及び2−2につき
被告はロ号物件につき0.3%,ニ号物件につき0.9%,へ号物件につ
き0.2%,原告は30%であるとし,その余の部分につき特許法102
条2項の推定が覆滅する旨主張する。
そこで判断するに,本件明細書1(甲2)によれば本件発明1は農産物
の選別装置に関するものであって主としてリターンコンベアを設けること
及びその終端を工夫したことに,同2(甲4)によれば本件発明2−1及
び2−2は内部品質検査装置に係るものであって主として複数の光源を設
け,遮光手段を工夫したことに,それぞれ技術的意義があるものと認めら
れる。その一方で,前記1(1)のとおりロ号〜ホ号物件はプールコンベアに
設定される仕分区分が集積状態によって適宜変動する構成を採用しており,\nその結果,そうでない構成と比べてオーバーフローする青果物入り受皿の\n数が減少するものと認められ,その限度において本件発明1が被告の上記
利益に寄与した割合が減少すると考えられる。
また,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)ロ号〜へ号物件は,選
別設備及び内部品質検査装置のほかに荷受設備(ニ号物件を除く。),箱詰
設備,封函・製品搬送設備,製函・空箱搬送設備その他の設備から構成さ\nれるものであり,上記イの利益にこれらの製造及び施工に係る利益が含ま
れていること(乙38〜41),2)ロ号〜へ号物件の各設置場所に関する
入札条件(甲14〜18)上,少なくともリターンコンベアの戻し位置を
本件発明1所定の位置にすること及び内部品質検査装置において本件発明
2−1及び2−2所定の複数の発光光源を設けることは必須の要件とされ
ていなかったこと,以上の事実が認められる。
上記の技術的意義及び事実関係によれば,上記利益額の一部については
特許権侵害による原告の損害額であるとの推定を覆滅する事情があると認
められ,その割合は本件発明1につき75%,同2−1及び2−2につき
95%と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成24(ワ)6435
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2016.06. 8
平成27(ネ)10091 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月1日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,
正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ
と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状
態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用
効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1
種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4)
被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全
く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における
侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明
1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり,
単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,
1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と
左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品
が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被
告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力
があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す
ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ
ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明
1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製
品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30
00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである
から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること
はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで
きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を
欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相
当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発
明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。
ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で
あると認められる
。
(2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被
告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,
譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に
基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して
主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的
に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ
り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ
れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ
り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに
足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認
められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として,
そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである
から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の
ものではない。
以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成24(ワ)6435
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2016.04.21
平成26(ワ)1690 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成28年3月28日 東京地方裁判所
特許無効理由なし、また、損害額について文書提出命令に応じて書類を提出しない被告に対して、原告の主張どおりの損害(102条2項)が認められました。
被告は,本件発明2についての特許について,本件明細書2の特許の特許請
求の範囲は,単に「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」と記載するのみで,
「係入片が受片と協働してスタータにて壁パネルの下端部を強固に支持する」との
効果を奏しない「係入片」をもその範囲に含んでおり,権利の外縁を明確に記載し
ていないから,明確性要件に違反すると主張する。
しかしながら,本件発明2が「壁パネルの下端部の支持構造」に関するものであ\nることから明らかなとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,上記「係入
片」の意義について,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部
の形状と照らして,同凹部に嵌合されるに適した形状を有する必要があることは容
易に認識できるというべきであるから,「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」
という記載が,明確性を欠くものとは認められない。
イ また,被告は,本件明細書2の特許請求の範囲の記載が明確であるというな
らば,同明細書の発明の詳細な説明には記載されていない発明を特許請求の範囲に
含むものであってサポート要件に違反するとか,発明の詳細な説明が当業者に実施
可能な程度に明確かつ十\分に記載されておらず実施可能要件にも違反すると主張す\nるが,本件明細書2には,本件発明2(請求項1記載の発明)の実施例として,
「スタータ15を取付け片11においてチャンネル材の壁下地10にボルト18に
て取付け,スタータ15の係入片8を壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入
するとともに受片9にて嵌合凸部2の下面を受けることで,スタータ15にて壁パ
ネルAを強固に支持するのである。」と記載され(段落【0012】),【図1】
には,係入片4が壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入されている態様が具
体的に開示されているのであるから,サポート要件に違反するということはできな
いし,前記のとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,「係入片」の意義に
ついて,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部の形状と照ら
して,同凹部に嵌合されるに適した形状を有するべきことを容易に認識できるので
あるから,実施可能要件に違反するということもできない。\n
・・・
原告は,平成27年11月20日,被告における平成23年1月1日から平
成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張する額で
あることを証明するため,特許法105条1項に基づき,被告に対し,被告各製品
の販売量,販売単価,販売原価及び販売のために直接要した販売経費の額が記載さ
れている書面である売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製造
経費及び販売経費)(以下,併せて「対象文書」という。)の提出を求める文書
提出命令申立てを行った(当庁平成27年(モ)第3723号事件)。\n当裁判所は,平成27年12月2日,被告に対し,決定の確定の日から14日以
内に,対象文書を当裁判所に提出すべきことを命ずる決定(以下「本件文書提出
命令」という。)をして,同日,決定書の正本が被告に送達された。本件文書提
出命令は,平成27年12月9日の経過により確定したところ,被告は,上記提出
期限内に,対象文書を当裁判所に提出しなかった。
エ 以上のとおり,被告は,当裁判所がした本件文書提出命令にもかかわらず,
正当な理由なく,対象文書を提出しなかったものである。
そこで,民訴法224条1項又は3項の規定により,対象文書の記載に関する原
告の主張を真実と認め,又は対象文書により証明すべき事実に関する原告の主張を
真実を認めることができるかについて検討する。
対象文書は,被告の売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製
造経費及び販売経費)であって,被告の業務に際して作成される会計帳簿書類であ
るから,その記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難である。
また,原告が,対象文書により立証すべき事実(被告における平成23年1月1日
から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張す
る額であること)を他の証拠により立証することも著しく困難である。
そうすると,民訴法224条3項の規定により,被告における平成23年1月1
日から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額は,原告の主
張,すなわち,被告は,平成23年1月1日から平成27年4月20日までの間に,
被告各製品を販売して合計8億1715万2306円を売り上げ(うち平成26年
1月23日までの売上高は7億8021万6380円,同年12月21日までの売
上高は8億1685万6414円),かつ,被告各製品の利益率はいずれも15パ
ーセントを下回ることはないとの事実を真実であると認めるのが相当である。なお,
被告の平成22年4月1日から平成26年3月31日までの総売上の合計が53億
6258万6000円であり,うち,完成工事高が36億2028万2000円,
兼業事業売上高が17億4230万4000円であること,同期間中の兼業事業売
上高に占める原価率は66.27パーセントであること(以上につき,甲70ない
し77),被告は,被告製品1−1及び同1−2につき平成21年12月17日に,
被告製品4−1及び同4−2につき平成23年11月7日に耐火認定(建築基準法
及び同法施行令に規定する基準に適合することの認定)を受けたこと(当事者間に
争いがない。)などの事実関係からすれば,上記真実擬制に係る事実は,客観的真
実とも十分に符合しうるというべきである。
オ そうすると,被告は,本件特許権1の侵害により,8億1685万6414
円に15パーセントを乗じて算出される1億2252万8462円(うち平成26
年1月23日までの売上に係る利益は1億1703万2457円)の利益を受けた
ものと認められる。
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2016.02.21
平成26(ワ)5210 損害賠償請求事件 民事訴訟 平成28年1月21日 大阪地方裁判所
均等侵害が認定されました。また、損害額について譲渡対象とならなかった分について、有償譲渡とは異なる料率が認定されました。
本件特許発明が,シートによって鼻全体を覆うことを想定していることは先に述
べたとおりである。しかし,本件明細書の記載によれば,従来のシートでも鼻の上
部に切り込みは設けられておらず(【0005】,図2),鼻の上部に当たる目頭付近
部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特
許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない
大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点
があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うこと
にあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配すると
したことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シ
ートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じる
ことなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。
これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配
することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に
固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さ
からやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本
件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではないとい
うべきである。
イ 置換可能性について
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,目頭の高さからやや下の
部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含
めた鼻全体に密着するものであると認められる。
そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用
効果を奏するものであると認められる。
ウ 置換容易性について
前記のとおり,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで
覆うことが実現されていたことからすると,切り込み線が配される台形状の領域の
上底の高さを,眼の付け根である目頭の高さよりも,目頭の1段分か2段分,下に
設けても本件特許発明と同一の作用効果を奏することは,当業者が,対象製品等の
製造等の時点において容易に想到することができたというべきである。
・・・・
(2) 被告製品の製造に関する実施料相当額
被告に納入されたパック用シート●●●●●●●●のうち,被告製品として譲渡
されたのは●●●●●●●●であり,その差である●●●●●●●●については,
納入されたが譲渡されなかったものである。しかし,被告製品のパック用シートが
特殊な形状をしていることからすると,被告は,シートの製造業者に発注して被告
製品用のパック用シートを製造させたと推認され,そうすると,被告は,パック用
シートの製造行為を行ったと評価すべきである。そして,パック用シートの製造も
本件特許発明の実施であり,侵害行為に当たるから,納入されたが譲渡されなかっ
た分も損害賠償の対象とするのが相当である。
もっとも,被告は,これらについては,その価値を市場に提供して利用したわけ
ではないことからすると,これを有償譲渡と同視し,前記の想定市場販売価格を基
礎として実施料相当額を算定するのは相当でない。そこで,これらシートについて
は,その製造自体の価値を示すものとして,その納入価格を基礎として実施料相当
額を算定するのが相当であり,証拠(乙12)によれば,シート1枚当たりの納入
価格は●●円であると認められる。この点について,原告は,これらについても想
定市場販売価格を基礎にして実施料相当額を算定すべきであると主張するが,前記
に照らして採用できない。
また,前記(1)エにおいて考慮した事情に照らせば,これらシートの納入価格には,
美容液の価値が考慮されていないから,被告製品用のシートを製造したが譲渡しな
かった場合の実施料率は,●●と認めるのが相当である。
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