2021.11. 5
令和2(ワ)3474 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月19日 大阪地方裁判所
一部については消滅時効により消滅し、102条2項における覆滅は2割と認定され、約70万円の損害賠償が認められました。
ア 本件発明1〜3の効果
本件発明の効果は,センサ保持具の回動を保持するための機械的な連結構造がコンパクトになること(【0014】),接続器を引掛型配線器具に掛着する作業に際して引掛型配線器具の掛着面を視認しやすく,作業が容易になると共に,作業の安全性も向上すること(【0016】),本体カバーを天井面に密着させることが可能になり,美観に優れた取付状態が得られること(【0017】)である。
要するに,本件発明の作用効果は,1)センサの回動構造のコンパクト化,2)引掛型配線器具の掛着面の視認性の向上,3)本体カバーの天井面への密着にあるといえる。
イ 本件発明の貢献の程度等について
本件発明は,センサを用いてランプを自動的に点灯・消灯する天井取付タイプの照明器具に係る発明であるから,主として屋内のトイレ灯などとして使用されることが想定される。そして,本件発明の実施品である照明器具の需要者は,新築建物に照明器具を設置する総合住宅メーカー等の業者と既存の照明器具を交換しようとする個人が想定されるところ,前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。
もっとも,本件発明の効果1)については,センサを回動させることが前提となっているところ,屋内のトイレ灯等を想定すると,一度センサの検知範囲を確認して照明器具を設置してしまえば,後にセンサを回動させて検知範囲を変更する必要が生じることはそれほどないものと考えられるから,センサが取付後も回動可能であることの顧客誘引力は低いものと解される。また,本件発明の効果2)及び3)は,接続器等を引掛型配線器具に掛着した後,別体に形成された本体カバー及びセードを後付けすることによる効果であるため,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果ではなく,例えば,周知技術1によっても実現することができる。そうすると,効果2)及び3)については,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視できるものではない。
さらに,被告は,そのカタログ(乙14)において,被告製品1の特徴として,人感センサ付,クイック点灯,引掛シーリング取付式,本体可動式,点灯照度調節機能付,点灯保持時間調節機能\付などを挙げているものの,掛着面の視認性や本体カバーが後付けであることについては触れていない。
以上によれば,本件発明は,センサの回動構造がコンパクトであるという効果(効果1))によりこれを実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえるものの,その程度は限られているというべきである。また,効果2)及び3)に関しては,本件発明は,本体カバーが後付けであり,外観上の体裁が同程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 効果1)について
本件発明の効果1)は,センサが回動可能であることを前提として,構\造をコンパクトにするものであるが,センサを回動可能としたのは照明器具本体(本体カバー,セード等)により検知範囲が制約されることに対処したものであるから,本体がコンパクトであることによってセンサの検知範囲に制約がなく,センサを回動させる必要がない製品も,本件発明の効果1)と同様の効果を奏しているものといえ,被告製品の競合品に該当するといえる。
証拠(乙11の1〜6,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付シーリングライト製品のうち,乙11の1の型番 LBC56975,乙11の4の型番 OL 013 180,OL 013 120,乙11の5の型番 IG20026C,乙11の6の型番 LE-3837 については,センサ保持具が大きく,本体がコンパクトではないが,その余のセンサ付シーリングライト製品は,いずれも被告製品と同等以下のコンパクトな形状を有しているものと認められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏するものといえる。
(イ) 効果2)について
本件発明の効果2)は,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることを前提とするが,照明器具が一般的な引掛型配線器具に掛着する形式であるか,電気設備工事を要するものであるかは,照明器具を交換しようとする個人の需要者にとっては大きな違いである。また,総合住宅メーカー等の事業者においても,引掛型配線器具を設置するか否かや施工の際の視認性は相応に商品選択に影響があると考えられる。そうすると,各被告製品の競合品といえる前提として,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることが必要である。
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28の被告指摘に係る製品は,いずれも引掛型配線器具に掛着する照明器具であり,被告製品と同等程度には掛着面が視認しやすく,効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
(ウ) 効果3)について
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付引掛シーリングライト製品のうち,乙21の1〜5の型番 IG20042C(以下「乙21製品」という。),乙23の1の型番 TGS-6119(以下「乙23の1製品」という。),乙23の2の型番 TZGS-6099(以下「乙23の2製品」という。),乙24の1の型番 SCL9NMS-HL(以下「乙24製品」という。),乙28の型番 TN-CLLS-L(以下「乙28製品」という。また,以上を併せて,「乙21製品等」という。)は,いずれも,本体カバーが天井面に密着した外観を有しており,効果3)を奏するものといえる。
(エ) その他
原告は,ランプ交換ができない LED 内蔵型照明器具は,ランプ交換を望む顧客の需要を満たすことができないので,競合品に当たらないと主張する。しかしながら,そのような需要者が存在するのか明らかではなく,そもそも,ランプ交換が可能であるか否かは本件発明の作用効果とは無関係である。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
(オ) 以上より,乙21製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有する製品として,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものとみるのが相当である。
また,証拠(乙21の1,乙22の1,乙23の1,2,乙24の1,乙28)によれば,乙21製品等の販売開始時期は,乙21製品が平成16年4月,乙23の1製品が平成20年6月,乙23の2製品が平成22年2月,乙24製品が平成29年10月,乙28製品が平成28年7月であることが認められる。原告は,乙21製品について,平成16年〜平成20年のカタログに掲載された製品であり,平成21年9月1日に生産を終了したと主張するが,一般的にカタログに掲載された製品は特段回収等がされない限り数年程度は流通していると考えられ,被告製品の競合品に当たらないとはいえない。
もっとも,原告製品,各被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトの市場におけるシェアは明らかではなく,原告において,平成27年当時の住宅用照明のうち直付け型の居室外用の照明器具市場における原告のシェアが●(省略)●%であったことを自認するにとどまる。被告は,照明器具市場全体の売上のシェアや住宅用照明市場におけるシェア,LED シーリングライト市場におけるシェアを主張するが,原告製品,被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトは,そのごく一部であって,他の多数の照明器具が含まれるシェアから被告製品の競合品のシェアを推認することは困難である。
これらの事情を総合的に考慮すると,センサ付引掛シーリングライトの市場において原告製品及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2項に基づく損害額の推定に係る覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,その程度は限定的と考えるのが相当である。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるにとどまるとすべきである。
・・・
ア 証拠(乙10の1〜3)によれば,平成22年10月21日から同年11月5日にかけて,大手家電量販店チェーンの3店舗において,原告製品と被告製品3及び4が隣り合った状態で陳列され販売されたことが認められる。
一般に店舗において商品の陳列場所等は商品の売上に影響を及ぼす重要な要素であって,原告においても,営業担当者等を通じて,当然に自社製品や競合他社製品が家電量販店においてどのように陳列・販売されているかを逐次把握していたものと考えられるから,遅くとも平成22年11月5日には,原告において,被告製品3及び4の存在を知ったものと認められる。
そして,原告製品と各被告製品は同種の用途の競合品であって,大手家電量販店チェーンにおいては概ね統一的な商品陳列を行っているものと考えられることからすれば,各被告製品は,家電量販店において基本的に原告製品と隣接して陳列されていたと考えられ,被告製品3及び4以外の各被告製品についても,その販売開始から間もなく,原告は,各被告製品の存在を知ったものと認められる。
イ 本件発明は,前記のとおり,効果1)〜3)を奏するものであり,これらの効果は外観上明らかであって,各被告製品の外観から,各被告製品が本件特許権の侵害品であることの疑いを持つことは十分に可能\である。
原告は,本件発明の構成要件 A〜D は,内部構造に係るものであるから,被告製品の外観からは判明しないと主張するが,被告製品の外観からして本体カバーに被覆された接続器やセンサ保持具が存在することは明らかであり,センサ保持具が天井面と略平行な面内で回動可能\に構成されていることは推測することができる。そして,証拠(乙10の1〜3)によれば,家電量販店の陳列棚において,天井を模した造作があり,引掛型配線器具が設けられ,各被告製品を現実に組み立て,取り付けることができるようになっていたものと認められ,原告において,各被告製品の取付状態を確認することもできたものと考えられる。また,証拠(甲5の1〜3,甲7,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,各被告製品を毎年発行する被告のカタログに掲載すると共に,各被告製品の仕様や構\造を記載した「施工・取扱説明書」をインターネット上等で公開していたことが認められ,カタログには引掛シーリングに取り付けるタイプであること,人感センサがあり,本体可動式であること等が記載され,施工・取扱説明書には,購入者又は工事店が各被告製品を取り付けることができるよう,各部を分解した構造図とセンサの可動範囲等が記載されているのであるから,被告はこれらの情報を秘匿せず,一般に公開していたのであって,原告は,各被告製品の存在を知り,その外観から本件特許権侵害の疑いを持った時点で,各被告製品の構\造等を容易に検討することができたといえる。
ウ 原告は,遅くとも平成22年11月5日までに被告製品3及び4の発売を知り,その余の各被告製品についても,発売後まもなくその事実を知ったものと認められ,各被告製品の構造等を知ることもできたのであるから,製品が競合する関係にある原告としては,その時点で,損害賠償請求をすることが可能\な程度に,損害及び加害者を知ったと認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.10.26
令和3(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許侵害事件で、1審は4億4000万円の損害賠償を認めましたが、原告が控訴しました。知財高裁は約7億円の損害賠償を認めました。
ア 特許法102条3項による損害額として,侵害品の売上高を基準とし,
そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合,実施に対し受
けるべき金銭の料率の算定に当たっては,1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界におけ
る実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわ
ち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特
許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,
4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた
諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。以下,順に
検討する。
1) 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明
らかでない場合には業界における実施料の相場等
本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示
す証拠はない。
・・・
本件訴訟において,本件特許権の技術分野については実際の実施許
諾契約の実施料率を示す証拠はない。
本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」)
の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3〜
4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5〜6%未満の例
や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1〜
2%未満は3件(18.8%)とされており,また,他の調査結果や
データベースには,実施料率3%又は6%の例や実施料率5〜8%又
は3%の例もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野でも,
実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実
施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。
なお,一審被告は,前記第2の3 本件訴訟の
事案と本件ライセンス契約はいずれも圧縮機を販売するための特許権
の実施許諾を対象とするものであって,実施許諾の対象は同じと評価
すべきであるから,本件ライセンス契約を重視すべきであると主張す
るが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●このようなライセンス契約の事例を他の事例より
特に重視すべき理由があるとはいえず,圧縮機分野の実施料率の一例
としてみるのが相当である。
また,一審被告は,甲19ないし21に掲げられた事例は,いず
れも,一審被告や一審原告とは何ら関係がない一般的なものであって,
具体的な点において,本件と共通性や類似性はないとか,本件特許権
は,圧縮機の分野に係る日本の特許権1件であるから,特許法102
条3項の実施に対し受けるべき料率を検討するに当たっては,日本の
特許権1件の非独占的な実施許諾による料率と対比すべきであるとこ
ろ,甲20は日本の特許権に関するものではなく,また,独占的実施
許諾の事例であるなどと主張するが,実施料率を定める事例として,
具体的な点において完全に合致する事例がなければ,同分野の他の事
例(他の国の特許権に関するものを含む。)を参酌することは当然で
あるし,甲20で独占的とされるのは製造のみであり,販売について
ライセンシーが独占権を得ていることはうかがわれない。したがって,
一審被告の主張は採用できない。
2) 本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性\n
本件優先日前である平成9年3月25日に発行された書籍「カーエ
アコン」(甲11)には,ピストン式圧縮機の斜板形のものでロータ
リバルブを使用したものは記載されておらず,113頁の図6.5で
吸入弁(リードバルブ)が図示されている。
従来技術であるリードバルブ方式は,シリンダ室と吸入室の圧力
差が必要であること,流路断面積が小さいこと,弁による吸入抵抗が
発生するという難点があることから,シャフトの回転によって冷媒を
提供するロータリバルブ方式が提案されてはいたものの(乙18,2
2,23,28,30等),回転軸の外周面と軸孔の内周面のクリア
ランスによって,吐出行程時の圧縮室から冷媒が漏れるという問題が
あったこと,クリアランス管理が非常に難しいこと(本件明細書【0
004】)から実用化には至っていなかったのであり,本件訂正発明
において,ロータリバルブを備えた回転軸に伝達される圧縮反力を利
用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向
けてロータリバルブを付勢させて,体積効率を向上させていること
(本件明細書【0015】),クリアランスに関する厳密な管理が不
要となること(本件明細書【0043】)は,コスト面も含め,ロー
タリバルブ方式を実用化するのに寄与したものと認められ,一審原告
が,本件優先日後に,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を販売
していることは争いがない。
もっとも,実用化当初の一審原告の製品(10SR15C)は,
本件訂正前の構成であるから,ロータリバルブが円筒状でなく凹部や\n溝が設けられており,本件訂正発明そのものの実施品ではないと考え
られる。しかし,同製品も,圧縮反力で冷媒漏れを防止するという本
件訂正発明の技術思想を利用するものであり,この点については本件
訂正の前後で変更はない。
そうすると,本件訂正発明はロータリバルブ方式のピストン式圧
縮機の実用化に寄与したものというべきで,相応の顧客吸引力がある
ということができる。
一審被告は,被告各製品の販売先であるマツダに対し,設計変更
品を継続して販売しているが,●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●少なくとも,侵害時(平成24年12月から平成
29年6月)の大部分において,本件訂正発明の効果を奏する代替
技術はなかったということになる。
3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害
の態様
本件訂正発明がロータリバルブ方式を実用化するのに貢献したこ
とは前記2)のとおりである。
一方,どの程度の体積効率の向上がもたらされるかは具体的数値
をもっては明らかではなく,本件訂正発明の作用効果についての顧客
吸引力等は一定程度限定される。
被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されている。
乙62によれば,被告各製品に該当する部品番号に相当するコン
プレッサー(クラッチ部分及び圧縮機部分)の販売価格は468.1
5ドル,クラッチ部分のみの販売価格は231.82ドルとする事例
があることが認められるが,これはアフターマーケット(商品販売後
の需要に対する正規ディーラーではない業者の市場)における販売価
格であり,直ちに一審被告とJCSないしマツダとの間の被告各製品
の取引にあてはめることはできない。また,一審被告は,被告各製品
と別にクラッチを販売しているものではない。
しかし,クラッチ部分と圧縮機部分は観念的には区別することが
でき,特許法102条3項の適用に当たっては,被告各製品の売上高
は,クラッチ部分を含むものであるという事情も考慮する必要がある。
一審被告は,前記第2の3 被告各製品は,本
件訂正発明とは無関係に,厳密なクリアランス管理により,冷媒漏
れ防止の効果を達成していると主張する。
一審被告のいう被告各製品における「厳密なクリアランス管理」
は,シャフトとシャフト用孔を極めて高精度に仕上げ,クリアラン
スを30μmに設定する構造を採用し,ラジアル軸受は,斜板取付\nけ部とスラスト軸受を除く全領域でシャフトを支持する軸受とし,
さらに,軸受がシリンダブロックの外側に突き出る長い構造を採用\nすることによって,シャフトの動きを伴うことなく,冷媒が吸入通
路の入口から漏出するのを防止するというものである(引用に係る
原判決12頁5行目ないし13行目)。
しかし,一審被告の主張のとおり厳密なクリアランス管理により冷
媒漏れを防止しているというのであれば,乙3報告書(被告製品1
〔クリアランスが30μm〕と,クリアランスを50μm,70μm,
90μm,110μmに変更した圧縮機の体積効率を比較したもの)
において,クリアランスが30μmである被告製品1よりも50μm
のものの方が体積効率は落ちることになるはずであるが,30μmと
50μmとで体積効率はほとんど変わらなかったとされているのであ
るから,一審被告の主張は十分な裏付けを欠くものというべきである。\nまた,仮に,被告各製品が,一審被告主張の厳密なクリアランスを
採用し,その構成が冷媒漏れの防止に対する効果を奏することがある\nとしても,一方で,被告各製品は,原判決別紙イ号物件説明書及びロ
号物件説明書記載のとおりの構造を有しており,ピストン60に作用\nした圧縮反力Fが斜板やスラスト荷重吸収機能が付与されたフロント\n側スラスト軸受70に伝達され,このスラスト荷重吸収により斜板5
1の動きを許容することで斜板51の径中心部を中心としてシャフト
50を傾かせようと作用し,これによって,シャフト50(回転弁)
は,吐出行程中のシリンダボア22に連通するフロント側通路23の
入口に向けて付勢され,この際シャフト50が変位しているのであっ
て,この本件訂正発明の構成要件C,Fを充足する構\成によっても,
冷媒漏れが防止されるものといえることは,原判決が第4の3で説示
するとおりであるから,本件訂正発明とは無関係に冷媒漏れを防止し
ているという一審被告の主張は採用できない。
4) 特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
一審原告は,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を製造・販
売しており,一審被告は,平成24年12月以降,ロータリバルブ
方式のピストン式圧縮機である被告各製品を輸入・販売しているの
であるから,両者は競合関係にある。一審被告は,前記第2の3⑵
のとおり,被告各製品が組み込まれていたマツダ製の自動車
においては,圧縮機について,「被告親会社→一審被告→JCS→
マツダの商流」という系列関係が確立しているとして競業関係を否
定するが,ここでは,特許権者と侵害者の間の料率を定める上で競
業関係が問題とされているのであるから,一審原告がマツダに直接
販売することができるかどうかの問題ではなく,一審被告の主張は
採用できない。
ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり,
相互に実施許諾を行っていない閉ざされた市場傾向にある(弁論の
全趣旨)。
イ 以上の検討を踏まえると,圧縮機の分野では,実施料率を3%から
4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当
程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を
有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり,
相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作
用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の
売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮すれ
ば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実
施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。
なお,一審被告は,第2の3 本件訂正発明の作用
効果や侵害の成否等について,前件侵害訴訟における知財高裁判決や本件
無効審決,ソウル高等法院等,判断主体によって判断が分かれていること\nを理由に,本件訂正発明の価値が低いと主張するが,事前の実施許諾契約
の料率については特許権が無効となる可能性等も考慮して算定されるのと\n異なり,特許法102条3項の損害は,特許権が有効であり,特許権侵害
があることを前提に算定されるものであるから,別個の手続の状況を考慮
に入れるのは相当でない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)28541
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2021.10.21
令和3(ネ)10029 特許侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年10月13日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。
足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと
おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと
おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠
償請求権を有する。
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2021.10. 8
令和1(ワ)5444 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月28日 大阪地方裁判所
知財高裁特別部で判断された「二酸化炭素含有粘性組成物事件」の原告は、侵害事件で勝訴しましたが、被告会社が破産したため、実質経営者である取締役に対して訴訟をしました。裁判所は、被告らに監視・監督義務があるとして1億円を超える損害賠償を認めました。
法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場\n合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に
対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑
罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。
したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の
特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行
を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うと
いうことができる。
他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効につい
て厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許
庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判
断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。
このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといっ
て,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施
行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵
害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続する
ことが当然に許容されることにもならない。
自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役と\nしては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎
重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公
権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に
有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではない
が,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきで
あり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべ
きこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべき
こととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。
具体的には,1)非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を
停止し,あるいは製品の構造,構\成等を変更する,2)相手方との間で,非侵害又は
無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継
続する,3)暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ
ば,その間の補償が得られるようにする,4)実施行為を継続しつつ,損害賠償相当
額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補
償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつか
の方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経
営判断が適切であったかを検討すべきことになる。
・・・
(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに
対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日に
これに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法に
より計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債
務の弁済はなされていない。
被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目
的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の
申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。\n破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破
産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債
権の総額は1億6969万3683円とされた。
・・・
ウ 判断
前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを
総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならな
い,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったと\nいうことはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケ
ミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品
の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。
前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判
断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場
合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求め
られ,前記(1)の1)ないし4)で述べたような方法をとることで,特許権侵害に及
び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるに\nも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販
売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品
の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償
相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケ
ミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,\n被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産
手続開始の申立てを行ったものである。\n
以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特
段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取
締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事
情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ
の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。
(3) 被告P2の悪意重過失について
ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等\nの有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表\n取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。
被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず,
本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機
会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見
し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役として
の善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。
イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな
紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易
であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公
権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,\n被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能\であったと解され
る。
被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止で
きなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務
に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったと
いうことを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての
義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。
以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適
切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。
(4) 被告P3の悪意重過失について
ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1,
2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数
社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的で
あったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受
け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売で
きると聞いた。
被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額
であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することに
した。
(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭
酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。
被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年1
1月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネ\nオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。
(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許
の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,ま
た,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。
被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなか
ったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各
特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山
特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから
心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告
と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告P3
は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。
被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領
した。
(エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告P1に説明を求めたと
ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の
特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判
費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担する
と言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本
件発明2−1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の
写しの交付を受けた。
被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告
製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先する\nことはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。
その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける
機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。
(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証
開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問
を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販
売を止めた。
(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223
万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告にお
いて供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に
対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガス
パックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立し
た。
イ 判断
前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件
各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭
酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理
士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に
当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有して
いて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権\nが優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をした
というのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説
明に依拠してその判断を行ったことになる。
しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠\nがなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記
(2)で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵\n害を否定する理由とはなり得ない。
被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製
造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記
(1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権\n侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定
する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害\nし損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断
をすべき注意義務があったということができる。
この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品
14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の1)ないし4)で検
討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告
製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせた
のであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なく
とも重過失によると認めるのが相当である。
(5) 被告P4の悪意過失について
会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有\n無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締\n役の業務執行の監督を行うべきものである。
前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについ
て被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であ
った被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定
したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠は\nなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワール
が被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告
P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべき
であり,その過失の程度は重大というべきである。
4 原告の損害額(争点4)について
(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額
ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額
(ア) 証拠(甲45〜49,51〜57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製
品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推
移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認め
られる。
そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を
差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億08
29万1485円である。
証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し
て訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護
士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミア
の行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害
額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。
また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているか
ら,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01
29万1485円であると認められる。
(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条
2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7
895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した
700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基
づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。
しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受け
た損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告が
ネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるか
ら,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる
損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は異なるとし
て,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。
イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額
(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドス
キンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自\nら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワー
ルの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。
そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を
差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223
万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11
月30日までの期間の利益額は896万8027円である。
証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し
て訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある
弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,ク
リアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推
定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。
また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから,
現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万626
5円であると認められる。
(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項
を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記
アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害
を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。
被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としてお
り,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする
推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の
責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損
害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害
の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。
(2) 損害の発生について
被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売
しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワール
の行為によって原告は損害を被っていないと主張する。
しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品
とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難である
とか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があっ
たとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったと
しても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる
等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはな
らない。
(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について
ア 被告P1について
前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお,
ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当
該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネ
オケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告
P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
イ 被告P2について
前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して
監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たると
ころ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記(1)アの損害が被告P1
の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害
に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因
果関係があると認められる。
ウ 被告P3について
前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権
の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売
するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定
をしたものであり,この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるとこ
ろ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損
害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
エ 被告P4について
前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任
して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前
記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重
過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損
害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリ
アノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関
係があると認められる。
そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間
にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得
た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を
控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,こ
の全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認め
られる。
◆判決本文
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2021.08.21
平成30(ワ)21900 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月20日 東京地方裁判所
東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。
(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29
年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略
●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略
●円の経費を要した。
したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消
費税込み)と認めるのが相当である。
イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得
られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな
いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10
8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において,
平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。)
は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は
約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約
33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2
0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20%
の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大
きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整
紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい
るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ
る。
上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に
おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ
を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい
たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる
空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自
の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で
あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原
告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め
られる。
したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主
張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商
品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円
(●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。
法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において
侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必
要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及
び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略●
に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その
他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料
(平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した
ことが認められる。
そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売
することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と
は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの
は相当でない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気
を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発
させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け,
一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち
いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成
される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。
しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整
する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は,
一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを
求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解
決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記
開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に
位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技
術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも
のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ
ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが
できる周知慣用の技術が存在したものである。
以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義
は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。
なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独
自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき
の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風
力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ
ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる
ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異
なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排
出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。
また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま
り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000
8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい
えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。
さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ
れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある
といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ
につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ
ていたのかは明らかではない。
そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出
口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大
きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選
択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ
ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。
また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ
タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,
被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし
42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと
認められる。
さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば,
平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ
イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機
能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の
大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え
る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が
掲載されていることが認められる。
そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に
高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう
ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権
を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ
ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され
る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ
エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被
告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首
後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように,
2段階調整型空調服を製造販売している。
また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい
て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部
分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。
一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告
及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた
めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し
ていることが認められる。
そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と
なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその
他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ
ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者
の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法
102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認
めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購
入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の
代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と
の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし
ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。
しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に
いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の
上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販
売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品
の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き
ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは
拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると,
原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸
引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り
る証拠はない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品
を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン
ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。
しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き
ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原
告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が
被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す
ることはできない。
また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア
の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで
あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4
6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる
ことはなかったということはできない。
したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(3) 小括
ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に
より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す
ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから,
被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額
は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1
−0.5))と認められる。
イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6
0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。
◆判決本文
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2021.07.16
平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月19日 東京地方裁判所
LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。
原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると
ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,
自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい
るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,
実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許
諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の
相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内
容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場
合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や
特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め
るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合
議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが
友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等
のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から,
「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施
に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。
そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事
業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件
特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終
了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定
期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800
万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額
を算定すべきであると主張する。
一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上
げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に,
コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても,
対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,
以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス
テム等図面【図38】,甲61)
LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ
らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で
「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内
の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登
録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ
いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ
り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等
の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき
であると主張する。
(ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ
ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を
していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図
4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち
登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象
とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友
だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで
ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被
告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え
られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告
システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム
等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について
そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償
の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると
ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち
登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ
め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操
作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同
士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ
ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技
術的範囲に属するという的確な主張立証はない。
また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件
機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。
そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら
ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する
分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ
ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある
売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友
だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の
とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果
関係にある売上高は,●(省略)●となる。
●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省
略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施
を許諾したことをうかがわせる証拠はない。
そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ
ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%,
最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ
ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ
ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満,
2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が
25.0%であるとされている。
しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ
ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ
た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから
すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った
後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明
かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム
及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する
ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその
相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な
連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会
ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う
に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該
位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索
されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし
て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の
内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と
の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで,
互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個
人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした
ことを特徴とする発明である。
このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件
各発明には相応の価値があるものと認められる。
もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい
て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると
ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の
技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特
長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の
チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて
いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に
よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に
もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか
がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友
だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい
る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ
ろである。
そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の
貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。
エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる
ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス
テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な
ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は●
(省略)●と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2021.06.14
令和1(ワ)23033 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年5月21日 東京地方裁判所
商標権侵害の損害論の審理に入ってから約半年が経過後の被告側の限界利益算出のための調査の申し出は、時期に後れた攻撃防御として却下されました。\n
(a) 以上に対し,被告は,1)前記(1)イの売上高には,被告が楽天に
支払うべき楽天市場の出店手数料及び広告料が含まれているから,
限界利益を算定する上では,上記の売上高から上記出店手数料や広
告料を差し引くべきである旨を主張し,2)上記1)の主張に関連して,
平成18年8月11日から令和元年8月27日までの間の売上高に
関して被告が楽天に支払った月ごと又は年ごとの金額を調査の趣旨
とする令和2年2月28日付けの調査嘱託を申し立て(以下「本件\n調査嘱託の申立て」という。),さらに,3)楽天市場に出店する際の
月額固定費,売上げに応じた変動費等が支払われており,これらを
差し引くべきであるとの主張を記載した令和3年3月11日付け準
備書面(以下「本件被告準備書面」という。)及び同日作成の書証
(「楽天市場への出店方法の流れと費用,体験談から見るメリッ
ト・デメリットを解説」と題するウェブページをプリントアウトし
たもの。以下「本件被告書証」という。)を提出した。
これに対し,原告は,前記第2の4(5)(原告の主張)ウのとお
り,上記2)及び3)は時機に後れた防御方法に当たるから,民事訴訟
法157条1項により却下されるべきであるとの意見を述べた。
(b) そこで検討すると,本件の審理が以下の経過をたどったことは,
当裁判所に顕著である。
i 本件の訴状は令和元年9月19日に被告に送達された。
ii 本件は,令和元年10月30日の第1回口頭弁論期日の後,
弁論準備手続に付され,令和2年8月28日の第7回弁論準備
手続期日まで,主として,被告による原告各商標権侵害の成否
(いわゆる侵害論)についての争点整理が行われた。
iii 原告は,令和2年8月28日,平成18年8月11日から令
和元年8月27日までの間における本件被告販売商品1−1及
び1−2の売上高等に関する楽天に対する調査嘱託を申し立て\nたところ,同年10月29日,楽天は,上記調査嘱託の回答書
(甲35)を提出した。
なお,上記提出に先立つ同月5日の第8回弁論準備手続期日
において,被告は,調査嘱託の回答があったときには,次回期
日までに,調査嘱託の回答を踏まえて,主張立証の方針につい
て検討する旨を陳述した。
iV 被告は,令和2年12月14日の第9回弁論準備手続期日に
おいて,前記iiiの回答書(甲35)に関し,月ごとの売上高等
を調査事項とする調査嘱託を申し立てる意向を示すとともに,\n損害論に関する事実調査を尽くす旨を陳述した。
そして,被告は,同月21日,楽天に対する上記調査嘱託を
申し立て,楽天は,令和3年1月21日,同調査嘱託に対する\n回答書(甲36)を提出した。
V 被告は,令和3年1月28日の第10回弁論準備手続期日に
おいて,同年3月1日までに,損害論についての認否反論を尽
くす旨を陳述した。
Vi 被告は,前記(a)2)のとおり,令和3年2月28日付けで本件
調査嘱託の申立てをした。これに対し,原告は,本件調査嘱託\nの申立ては,必要性がなく,かつ不適法であるとの意見を記載\nした同年3月5日付け意見書を提出した。
Vii 被告は,前記(a)1)の主張を記載した本件被告準備書面を提出
し,令和3年3月11日の第11回弁論準備手続期日において
同準備書面を陳述した。
また,被告は,前記(a)3)の主張を記載した準備書面(同月1
1日付け)を提出するとともに,本件被告書証を乙第1号証と
して提出した。
(c) 本件では,訴状において,商標法38条2項により推定される逸
失利益の額に関する主張が記載されていたから,被告においても,
限界利益の算定に当たって控除すべき経費の項目及び額が争点とな
り得ることについては,同訴状送達日である令和元年9月19日の
時点で認識することができたといえる。
そして,前記(b)iiのとおり,本件の審理において,侵害論の争
点整理は令和2年8月28日までにおおむね終了し,同日からは損
害の発生及び額(いわゆる損害論)に関する争点整理に進み,その
後の4回の弁論準備手続期日の中で,被告には,前記iV及びVのと
おり,損害論に関する事実調査及び主張立証を尽くす機会が与えら
れたというべきである。
以上のような審理経過に加え,被告が楽天に支払った手数料の額
に関する情報は,通常,被告において管理されていてしかるべきも
のであって,仮にその情報が被告の元に存在しなかったとしても,
そのような事情はさほど期間を要せずとも把握することが可能な性\n質のものであることを考慮すれば,被告は,遅くとも令和2年12
月21日付けの調査嘱託を申し立てた時点において,それと同時に\n本件調査嘱託の申立てをすることが十\分に可能であったというべき\nであるし,そのころ,本件被告準備書面及び本件被告書証を提出す
ることも十分に可能\であったというべきである。しかるに,訴状が
送達された日から約1年3か月が経過し,損害論の審理に入ってか
らも約半年が経過して,損害論について主張立証を尽くす旨を陳述
した第10回弁論準備手続期日の後,その期限である同年3月1日
の直前になって,本件調査嘱託の申立てがされ,同期限後に作成さ\nれた本件被告準備書面及び本件被告書証が提出されたものであるか
ら,これらはいずれも時機に後れた防御方法の提出であり,かつ,
このことについて被告に重大な過失があると認めざるを得ない。
そして,本件調査嘱託の申立てを採用すれば,楽天から回答を受\nけるのに相当期間を要した後,その回答を踏まえた主張立証がされ
ることとなるから,訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らか
である。
また,本件被告準備書面を陳述させ,本件被告書証を取り調べる
と,これらに対する原告の反論の機会を設ける必要があるほか,損
害論に関する被告の主張の整理に相応の期間を要することとなり,
訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らかである。
(d) 以上のとおり,本件調査嘱託の申立て,本件被告準備書面及び本\n件被告書証は,いずれも,被告が重大な過失により時機に後れて提
出した防御の方法に該当し,かつ,訴訟の完結を遅延させることと
なるものと認められる。よって,本件調査嘱託の申立て,本件被告\n準備書面及び本件被告書証の提出は,いずれも時機に後れた防御方
法として,却下する(民事訴訟法157条1項)。
◆判決本文
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2021.05.31
平成31(ワ)2675 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年5月18日 東京地方裁判所
吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。
以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要
者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹
矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購
入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は
令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理
由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に
向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹
矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告
製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな
い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として
令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する
ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合
で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。
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2021.04.22
平成30(ワ)3461 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原
告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。
◆判決本文
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2021.04.21
平成30(ワ)36690 特許権侵害損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年1月15日 東京地方裁判所
実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。
(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7
月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23
年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日
頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし
て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し,
平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。
そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月
2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。
したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に
ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認
められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し,
平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した
ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料
率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで
きる。
本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,
業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率
〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ
のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場
等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許
諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する
標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位
での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その
うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン
ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2
2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規
格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当
たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5
「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。
なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ
センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ
スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,
クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ
るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク
ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に
とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに
よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原
告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での
実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針
としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約
の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発
明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.
01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売
状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実
施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。
◆判決本文
別件訴訟はこちらです(請求棄却)。
◆平成24年(ワ)237
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2021.03.19
令和2(ネ)10035 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年3月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。
本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二
股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部
を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ
して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押
し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ
って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要
者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい
るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする
根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす
る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推
定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな
いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが
被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に
当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記
第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る
発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の
存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は
ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成29(ワ)32839
当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。
◆平成31(ネ)10001等
◆平成30(行ケ)10049
◆平成30(行ケ)10048
◆平成29(ネ)10086
◆平成28(ワ)4356
◆平成30(行ケ)10013
◆平成29(行ケ)10201
◆平成29(行ケ)10095
◆平成28(ワ)6400
◆平成31(行ケ)10032
当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。
◆令和1(行ケ)10090
◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
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2021.03.14
令和2(ネ)1492 意匠権 民事訴訟 令和3年2月18日 大阪高等裁判所
意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。
ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁
14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2
項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。
控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由
に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1
9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい
ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で
あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか
でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても,
前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上
でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁
5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項
を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が
覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人
が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな
いというべきである。
控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ
る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査
結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組
み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が
約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中
央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数
字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は
必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ
料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の
ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意
匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合
わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の
場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く,
むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ
り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン
ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ
くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え,
本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度,
原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的
に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ
り,控訴人の主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)6029
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2021.03.14
平成29(ワ)10716 特許権侵害差止等請求事件 特許権 令和3年2月18日 大阪地方裁判所
特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。
消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ
ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が
資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する
ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財
産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ
とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金
を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察
される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために
は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ
るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。
適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%)
によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費
税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら
れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵
害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを
他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡
等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる
と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害
が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行
為時であると解される。
そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特
許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要
するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止
並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等
が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の
うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である
本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終
的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施
主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施
することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。
しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の
選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の
効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得
ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである
ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手
摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら
れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側
部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ
いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得
るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取
り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客
誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって
はこれを考慮に入れるべきである。
もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場
は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る
(乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する
コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等
による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。
他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり,
それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減
という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4
2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま
す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ
ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ
もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の
新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要
する例は,規模的にかなり少ないと推察される。
さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし
て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計
できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法
をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要
がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。
加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス
板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減
に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを
実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ
るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し
ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同
程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ
ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数
のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認
められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する
ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ
も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付
枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる
(乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4
辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ
れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的
にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付
強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係
合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し
て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲
14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ
るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等
の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて
も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得
る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ
製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに
より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。
これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製
目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指
摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程
度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ
ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって,
アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺
笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関
係である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可
能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら
の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に
おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す
る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当
である。
もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると
認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全
趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27
製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3
9製品が平成29年10月であることが認められる。
また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ
ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品
及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2
項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に
よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程
度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的
であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい
ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに
反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
◆判決本文
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