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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

賠償額認定

令和2(ネ)10024  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 大合議(特別部)の判断です。1審は技術的範囲に属さないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消して、約4億円の損害賠償を認めました。102条2項と3項の重畳適用の要件を示しています。本件では一部認められています。

原判決は、本件発明C−1の特許請求の範囲(請求項1)の記載 に基づく解釈として、1)構成要件Cの記載によれば、「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」の3要素により形成された部分をもって成るものが「空洞部」であり、「空洞部」に「外側立上り\n壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在しない部分が許容され ると解されず、「空洞部」全体にわたって「内側立上り壁」が存在す ることを要する、2)構成要件Dの記載によれば、「空洞部の先端部」に「内側立上り壁の…前端部」が存在することは明らかであるところ、「内側立上り壁の…前端部」という記載は、更に「空洞部の先端\n部」以外にその後方部分にも「内側立上り壁」が存在することを示 唆するものと理解される、3)構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は、「空洞部」の一部ではなく、「空洞部」とは別の「肘掛部」の構\成部分でありつつ、「空洞部」に連続して設けられた部分であると解され、また、「前腕挿入開口部」と「空洞部」から成る「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の相対的な位置 関係は、「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する と解され、さらに、「前腕部を挿入保持する」ように「空洞部」が構成される、4)構成要件E、E−1、E−2の記載によれば、「前腕挿入開口部」が「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための」部分であるところ、そこに位置する施療部は「底面部」と「外側立上\nり壁」によりL型に形成されていることから、当該施療部には「内 側立上り壁」が存在しないと解されること、「前腕挿入開口部から延 設して…設けられ」ている「空洞部」が、「肘掛部」中の別の構成部分であることに鑑みると、「内側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画するものであるとの示唆を看取することもで\nき、そもそも、「前腕挿入開口部」につき、「内側後方から施療者の 前腕部を挿入するための」ものと特定されていること自体、「前腕挿 入開口部から延設して…設けられ」た「空洞部」の内側側方からは、 「空洞部」に「施療者の前腕部を挿入する」ことができないことを 示唆するものと解される、5)他方、請求項1の記載から、「空洞部」 中に「内側立上り壁」が存在しない部分があるとの示唆を読み取る ことはできないとして、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解される旨判断した。\n
しかしながら、1)及び5)については、構成要件B及びCから読み取れる事項は、「該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部を挿入保持するための空洞部」が「外側立\n上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」という3要素から形成さ れていることであり、他方で、「空洞部」のどの部分に、「外側立上 り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」を設けるべきかについては、 請求項1には何ら記載がない。「空洞部」が上記3要素から成ること と、上記3要素をどのように形成するかは別問題であるから、「空洞 部」に「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「底面部」が存在し ない部分が許容されると解されないとの原判決の判断には、論理の 飛躍がある。
2)については、構成要件Dには、「空洞部の先端部」以外の後方部分における「内側立上り壁」の範囲については記載も示唆もなく、また、構\成要件Dの記載は、「空洞部の先端部」とその後方部分の一部に形成されている構成も、本件発明C−1の「空洞部」に該当すると解釈することと矛盾しないから、構\成要件Dから「内側立上り壁」が「空洞部」全体に及ぶべきことを読み取ることはできない。
3)については、構成要件Bの記載によれば、「前腕挿入開口部」は「肘掛部」の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するため」の部材であり、「空洞部」は「肘掛部の内部に施療者の手部を含む前腕部\nを挿入保持するため」の部材であると定義されるところ、いずれも 「前腕」を「挿入」する機能を実現する部材であることで共通することからすると、「前腕挿入開口部」と「空洞部」は、「前腕部を挿入する部分」において重なることが示唆されているから、両者に厳\n密な線引きをすべき理由はない。また、仮に構成要件Bの記載について原判決の解釈を前提としても、「内側立上り壁」が「空洞部」の一部に形成されている構\成であっても、「肘掛部」に「空洞部」と「前腕挿入開口部」とが別構成として設けられ、「肘掛部」において「空洞部」が前部に、「前腕挿入開口部」が後部に位置する構\成とすることもできるから、本件発明C−1の「空洞部」は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものでなければならないという結論 が論理必然的に導き出されるわけではない。
4)については、構成要件E、E−1、E−2は、「肘掛部」中における「前腕挿入開口部」と「空洞部」の位置関係等を直接規定したものではなく、また、構\成要件E−2から読み取れる事項は、「前腕挿入開口部」に位置する施療部が底面部と外側立上り壁によりL型に形成されているということだけであり、そのことから直ちに、「内 側立上り壁」の有無が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画する ことを看取できるものではない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし5)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することの根拠となるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
(b) 次に、原判決は、本件発明C−1の「空洞部」(構成要件B、C)とは、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものをいうと解されることは、本件明細書Cの記載及び本件特許Cの出願経過か\nらも裏付けられると述べ、具体的には、1)本件明細書C記載の本件 発明C−1の技術的意義に鑑みると、本件発明C−1は、肘掛部の 長さ方向全域に「外側立上り壁」と「内側立上り壁」が形成された 椅子式マッサージ機を前提として、肘掛部の内側後方から施療者の 前腕部を挿入可能となるように「内側立上り壁」を廃した「前腕挿入開口部」を設けたと認められるから、そのような肘掛部の「内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部」と、そ\nこから「延設して肘掛部の内部に…設けられ」ている「空洞部」と は、「内側立上り壁」の有無により画されるものと理解されるし、「手 掛け部」を設けたのは手部及び前腕部の広範を同時にマッサージす るために肘掛部の前端部にまで「内側立上り壁」が形成されている ことを踏まえたものである以上、本件発明C−1における「肘掛部 の幅方向左右に夫々設けた外側立上り壁及び内側立上り壁と底面 部とから形成され」た「空洞部」の「内側立上り壁」は、手部及び 前腕部の広範を同時にマッサージすることができるように、「空洞 部」全体にわたって存在することが想定されているといえる、2)本 件親出願の明細書(乙C8)の【0046】、【0047】及び図1 4は、本件明細書Cの【0046】、【0047】及び図14と同様 に、前腕部施療機構の中部に「内側立上り壁」が形成されていない実施例に関する記載であるところ、これらは、本件出願Cの出願に当たり、本件親出願の請求項からの変更の根拠として挙げられてい\nない、本件補正時に提出された平成23年5月9日付け意見書(以 下「本件意見書」という。乙C12)において、控訴人は、本件各 発明Cが、「肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機」に関する発明であり、「施療者の肘関節付近にまで左右一対の立上り壁が存在すること\nによる施療者の肘関節付近の圧迫による不快感を解消し、更に前腕 部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるようにした施療機を提供するもので」あるとした上で、「空洞部の先端部」に設けた「手掛け部」に関しては、そこに「内側立\n上り壁」が存在することを前提とした説明をしつつ、「前腕挿入開口 部」に関しては、そこには「内側立上り壁」がない形状にしたとす る説明をしている、他方、請求項2、すなわち肘掛部の中部に「前 記底面部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された 施療部」を設けることについても説明しているが、そこで言及され ている本件明細書Cの記載のうち、関係するのは【0046】のみ である、本件拒絶理由通知に示された「引用文献2」(乙C19)と 本件補正後の発明(本件発明C−1及びC−2)との相違について、 「引用文献2」に開示された前腕部施療部は「肘挿入用凹溝」であ り、その断面形状は略横向き「凹」字状であるのに対し、本件補正 後の発明においては、前腕挿入開口部に位置する施療部は「底面部」 及び「外側立上り壁」により形成された断面略「L型」であり、ま た、手掛け部が形成される空洞部に位置する施療部は、「底面部」、 「外側立上り壁」、「内側立上り壁」及び「手掛け部」に囲われた形 状(実施の形態では「ロ型」)であるため、その構成が相違する旨説明している、断面が略「コ」字状の前腕部施療部の問題点として、前腕挿入開口部においては、上面に位置する部分が腕部の載脱をス\nムーズに行う上で障害となり、手掛け部においては「内側立上り壁」 が存在しないため、施療者の体重を掛ける上で不安が残ることを指 摘している、こうした説明内容に加え、本件補正により「前記底面 部と前記外側立上り壁と手掛け部によりコ型に形成された施療部 を備え」る請求項2(本件発明C−2)を請求項1の従属項として 追加したにもかかわらず、当該発明における上記略「コ」字状の前 腕部施療部の問題点の有無等に関する説明が見当たらないことに 鑑みると、本件補正における控訴人の説明は、請求項2の追加にか かわらず、本件発明C−1の「空洞部」につき、その全体にわたっ て「内側立上り壁」が存在する構成を前提としていたと理解される、3)本件明細書Cの【0046】及び図14の記載が本件親出願から の分割出願(本件出願C)や補正(本件補正)にもかかわらず一貫 して存在する点については、本件発明C−1に係る特許請求の範囲 の請求項1の記載自体から「空洞部」につき、その全体にわたって 「内側立上り壁」が存在する構成と理解されることに鑑みると、分割出願や補正による本件特許Cの発明の内容の変化に応じてこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないと見るべきである\n旨判断した。
しかしながら、1)については、本件明細書Cには、本件発明C− 1の一実施形態(本件発明C−2の実施例)として、肘掛部の中部 に外側立上り壁、手掛け部、底面部よりコ型に形成された施療部を 設けたマッサージ機の記載があり(【0046】、図14)、図14で は、コ型に形成された施療部、すなわち、内側立上り壁が存在しな い部分が空洞部(62a)と図示されており、また、別の実施形態 を示す図8においても、内側立上り壁が存在しない部分が空洞部 (62a)と図示されている。これらの記載を参酌すれば、本件発 明C−1の「空洞部」は、肘掛部中の内側立上り壁が存在する部分 に限られるわけではなく、その全体にわたって「内側立上り壁」を 備えることを要しないことは明らかである。 また、本件発明C−1は、肘掛部の長さ方向全域に立上り壁を設 けることによる不都合(ア)上腕部内側の肘関節付近を圧迫し不快感 を与える、 腕部の載脱行為を妨げる、 快適な起立及び着座を妨 げるという不都合)を解決することを課題とし(【0005】ないし 【0008】)、(ア)及び の課題は、前腕挿入開口部の内側立上り壁 を廃したことにより、 の課題は、肘掛部に手掛け部を設けたこと により解決したものであり、それを超えて、「内側立上り壁」の有無 が「空洞部」と「前腕挿入開口部」とを画し、空洞部はその全体に わたって内側立上り壁を備えるものであるという「空洞部」が備え るべき構成を導くことはできない。さらに、本件明細書Cの【0016】には、底面部及び外側立上り壁の二面において膨縮袋を備えることで前腕部に対するマッサ\nージを実施することができる旨が記載されていることに照らすと、 手部及び前腕部の広範を同時にマッサージするためには、「底面部」 及び「外側立上り壁」の二面が存在すれば足り、「内側立上り壁」が 「空洞部」の全体にわたって存在することは想定されていない。 次に、2)及び3)については、本件親出願の分割出願として本件出 願Cを出願するに際し、本件親出願の明細書(乙C8)の【004 6】、【0047】及び図14を分割要件を満たすことの根拠として 挙げられていないからといって、本件特許Cの出願経過において、 本件発明C−1の「空洞部」をその全体にわたって「内側立上り壁」 が存在する構成に限定したという控訴人の意思が客観的に表\され ているとはいえない。むしろ、控訴人は、本件意見書において、請 求項1及び2に係る本件補正の根拠として、本件出願Cの願書に最 初に添付した明細書(以下「本件出願Cの当初明細書」という。乙 C9)の【0046】を明確に挙げていること、当該段落は本件明 細書Cの【0046】と同じであり、「内側立上り壁」が備えられて いない部分を「空洞部(62a)」として指し示した「図14」の構成を説明していることからすると、「空洞部」についてその全体にわたって「内側立上り壁」が存在することを要しないことを前提とし\nていたことは明らかであり、本件明細書Cの【0046】及び図1 4の記載が存在することは本件特許Cの発明の内容の変化に応じ てこれらの記載が補正等されなかった結果にすぎないとの原判決 の3)の判断は誤りである。
また、被控訴人が2)で指摘する本件意見書における説明は、「空洞 部」と「内側立上り壁」の関係については何ら言及されておらず、 控訴人が、空洞部をその全体にわたって「内側立上り壁」が存在す る構成に限定する意思を客観的に表\明しているということはでき ない。 したがって、原判決の挙げる1)ないし3)は、本件発明C−1の「空 洞部」(構成要件B、C)は、その全体にわたって「内側立上り壁」を備えるものと解釈することを裏付けとなるものではないから、原判決の上記判断は誤りである。\n
・・・
これを本件についてみるに、前記ウ認定の本件推定の覆滅事由は、特 許発明が被告製品1の部分のみに実施されていること及び市場の非同 一性であり、いずれも特許権者の実施の能力を超えることを理由とするものではない。\nしかるところ、市場の非同一性を理由とする覆滅事由に係る推定覆滅 部分については、被控訴人による被告製品1の各仕向国への輸出があっ た時期において、控訴人製品1は当該仕向国への輸出があったものと認 められないことから、当該仕向国のそれぞれの市場において、控訴人製 品1は、被告製品1の輸出がなければ輸出することができたという競合 関係があるとは認められないことによるものであり(前記ウ c)、控訴 人は、当該推定覆滅部分に係る輸出台数について、自ら輸出をすること ができない事情があるといえるものの、実施許諾をすることができたも のと認められる。 一方で、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施されていることを理 由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、その推定覆滅部分に 係る輸出台数全体にわたって個々の被告製品1に対し本件各発明Cが寄 与していないことを理由に本件推定が覆滅されるものであり、このよう な本件各発明Cが寄与していない部分について、控訴人が実施許諾をす ることができたものと認められない。 そうすると、本件においては、市場の非同一性を理由とする覆滅事由 に係る推定覆滅部分についてのみ、特許法102条3項の適用を認める のが相当である。
(ウ)a これに対し、控訴人は、特許発明が侵害品の一部のみに実施されて いることを理由とする覆滅事由は、需要を形成する一要因にすぎず、 侵害品に向かっていた事情が全て特許権者の製品に向かうかどうかを 判断する一要素であるから、市場の非同一性等を理由とする覆滅事由 と区別する理由はないこと、覆滅事由ごとに特許法102条3項の適 用の有無を区別することは、実施料率の算定が煩雑になり妥当でなく、 そもそも製品の需要形成には様々な要因が複合的に絡み合っており、 覆滅事由ごとに覆滅割合を認定して当該覆滅部分にライセンス機会の 喪失による逸失利益が認められるか否かを認定判断することは実際上 困難であることからすると、本件各発明Cが侵害品の部分のみに実施 されていることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分についても、 特許法102条3項の適用を認めるべきである旨主張する。
しかしながら、前記 で説示したとおり、上記推定覆滅部分は、個々 の被告製品1に対し本件各発明Cが寄与していないことを理由に本件 推定が覆滅されるものであり、このような本件各発明Cが寄与してい ない部分について、控訴人が実施許諾をすることができたものとは認 められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 b また、被控訴人は、1)特許法102条1項において、特許権者が自 己実施できたと推定される部分(1号)とは別にライセンスをし得た 部分(2号)とを区別し観念できるのは、同項が、侵害者の販売する 「数量」に基づいて、権利者の逸失利益に係る損害額を算定する方法 を採用しているからであり、他方で、同条2項は、侵害者の「利益」 を権利者の逸失利益と推定する損害額算定方法をとっており、同項の 推定が覆滅されるのは、最終計算の結果としての損害額であり、計算 過程の途中数値である侵害品の数量の一部が計算の基礎から除かれる わけではなく、同項の推定を覆滅する過程において、権利者のライセ ンスの機会の喪失による逸失利益をも含む全ての逸失利益が評価し尽 されているというべきであるから、推定覆滅部分に対して同条3項を 適用することは、権利者の損害の二重評価となり、許されない、2)同 条1項2号が新設された令和元年改正特許法において、同条2項につ いて実施料相当額の損害が明文において規定されなかったのは、この ような趣旨によるものと解される、3)仮に推定覆滅部分について同条 3項の重畳適用が認められる場合が理論的にあり得るとしても、被告 製品1について、「市場の非同一性」を理由とする覆滅事由に係る推定 覆滅部分につき、輸出に際して海外市場の事業者から受け取る対価は、 あくまで海外市場に基づく利益であり、このような海外市場における 利益まで特許法102条2項の推定が及ぶものと解し、日本国内の特 許権に基づいて独占することは、特許権の保護範囲を逸脱しており、 法が予定していないものであり、また、日本国の特許権に基づいて仕向国への輸出行為のみを切り取り、ライセンスする場合は現実に考え\n難く、ライセンスによる実施料相当額の得べかりし利益を得られなか ったとは言い難いとして、本件推定の推定覆滅部分については、同条 3項を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、前記 で説示したとおり、特 許権者は、自ら特許発明を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、特許発明の実施を許諾して利益を得ることができるこ とに鑑みると、侵害者の侵害行為により特許権者が受けた損害は、特 許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた 実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の 喪失による得べかりし利益とを観念し得るものと解されるところ、特 許法102条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、 特許権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができ た実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するもので あるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、特許権者が 実施許諾をすることができたと認められるときは、特許権者は、売上 げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施 料相当額の損害を受けたものと評価できるから、特許権者の損害を二 重に評価することにはならない。また、同条1項2号が新設された令 和元年改正特許法において、同条2項について、同条1項2号と同様 の法改正がされなかったからといって直ちに同条2項による推定の推 定覆滅部分について同条3項の適用を否定すべき理由にはならないと いうべきである。

◆判決本文
1審はこちらです。

◆平成30(ワ)3226

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平成31(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年8月8日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審は4700万円の損害賠償を認めましたが、控訴審はこれを約5560万円としました。また、1審は102条2項の推定覆滅の割合は完全非公開としましたが、知財高裁は、貢献度99%+αと一部非公開としました。また、1審では2項と3項との重畳適用は主張されていません。

(3) 特許法102条1項に基づく損害について
ア 適用関係
令和元年法律第3号による改正について 存続期間の満了により、本件特許権1の侵害行為は令和2年3月31 日までに終了しているところ、令和元年法律第3号による改正後の特許 法102条1項は令和2年4月1日から施行されたものであるが、改正 法附則には経過措置がないことから、本件特許権1の侵害行為には、上 記改正後の特許法102条1項が適用される。 一審被告は、改正法を遡及適用せずに旧1項を適用すべきであると主 張するが(前記第2の4(16)参照)、改正後の特許法102条1項2号は、 実施相応数量を超える数量又は特定数量(通常実施権を許諾し得た場合 に限る)に応じた実施料相当額を損害の額とするものであるところ、そ の実施相当額の損害が実体法上生じ得ないものとはいえないから、改正 法が実体法上の請求権を新たに創設したものとはいえない。したがって、 同号は、客観的には改正前から損害を構成するといえた実体法上の損害\nを推定する規定にとどまるものといえるから、一審被告の上記主張を採 用することはできない。
・・・
ウ 「単位数量当たりの利益の額」
原告の製品の1台当たりの限界利益の額が別紙1−1(1)のとおりである ことは、当事者間に争いがない。
エ 「その侵害の行為を組成した物」の譲渡数量等について
販売数
本件では、一審被告による被告表示器A及び被告製品3の生産、譲渡\n等の行為について間接侵害の成立が認められるが、被告製品3は、被告 表示器AにOSを提供することによって被告表\示器Aと原告の製品と同 等なものを生産するという限度において侵害行為を組成しているもので あるから、特許法102条1項の損害を算定するに当たり、被告表示器\nAと独立にその譲渡数量を論じる必要はない。 したがって、特許法102条1項の損害算定に当たっては、被告表示\n器Aの譲渡数量のみを算定基礎とすれば足りる。 そして、平成25年4月1日から令和2年3月31日までの被告表示\n器Aの販売数が別紙5に記載のとおりであることは、当事者間に争いが ない(なお、被告表示器Aについては、各月ごとの販売数は明らかでは\nないので、別紙5のとおり半期ごとの販売数量に基づき、以下、損害額 の算定を行うものとする。また、前記2(2)オのとおり、本件特許権1の 間接侵害が成立するのは平成25年4月2日以降であるところ、同月1 日の被告表示器Aの販売数の有無又はその数量が不明であるが、同日の\n譲渡等が7年にわたる期間の損害額全体に影響するのはごくわずかであ り、この1日分を含めるか否かの相違は以下の算定の中で吸収され、何 らかの影響を及ぼすことは想定し難いから、同日の販売数を改めて算定 することはせず、別紙5に記載の販売数をそのまま用いることとする。)。
譲渡数量
一審被告は、「その侵害の行為を組成した物」は直接侵害品であると ころ、被告表示器A及び被告製品3を購入した者の全てが本件発明1の\n実施品(直接侵害品)を生産しているのではないと主張する(前記第2 の4(16)参照)。しかしながら、間接侵害行為は特許権を「侵害するものとみなす」 (特許法101条)とされており、そして、特許権侵害の損害の額につ いて、「その侵害の行為を組成した物」(同法102条1項)とされてい るところ、前記ア のとおり、間接侵害にも同法102条の適用がある と解する以上、「侵害の行為を組成した物」とは間接侵害品を指すもの と解するべきである。
もっとも、特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は、特許 権を侵害しない用途ないし態様で使用することができるものである。そ して、そのような部品等の譲渡は、当該部品等の譲渡等により特許権侵 害が惹起される蓋然性が高いと認められる場合には、譲渡先での使用用 途ないし態様のいかんを問わず、間接侵害行為を構成するが、実際に譲\n渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には、 結果的には、間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与していない。そう すると、そのような譲渡先については、間接侵害行為がなければ特許権 者の製品が販売できたとはいえないことになり、特許権者等に特許発明 の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲 渡によって得た利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すること はできないというべきである。そして、このような場合は同法102条 1項1号の「販売することができないとする事情」に該当するものと解 するのが相当である。一審被告の主張は、仮に、直接侵害品の生産に用 いられた数量のみを損害算定の基礎とすべき主張が採用されない場合に は、同一の事情を「販売することができないとする事情」として主張す るとの趣旨も含むものと解され、その限度で採用することができる。 したがって、特許権者等の損害額の算定に当たっては、そのような販 売数量は、特許法102条1項の「譲渡数量」から控除されると解する のが相当である。
オ 「販売することができないとする事情」について
販売することができないとする事情(その1)
一審被告は、1)原告の製品が一審原告製のプログラマブル・コントロ ーラにしか接続できないこと、2)一審原告がプログラマブル・コントロ ーラ用表示器の市場において意味のあるシェアを有しておらず、本件発\n明1の技術的特徴による販売への貢献も極めてわずかであるから、被告 表示器A及び被告製品3の購入者のほとんどは、一審原告以外のメーカ\nーの製品を購入する、3)原告の製品は本件発明1の実施品ではないから 本件特許権1の侵害によって一審原告に損害が発生する余地はない旨を 主張する(以下、この主張に係る事情を「販売することができないとす る事情(その1)」という。)。
特許法102条1項1号の「販売することができないとする事情」と は、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する 事情をいうものである。
本件発明1の特徴的技術手段は、異常発生時におけるタッチによる接 点検索にすぎず、回路モニタ機能全体ではないことや、従来製品として、\nモニタ上に表示される異常種類のうち特定のものをタッチして指定する\nと、その指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラ ダー回路が表示され、異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定\nをタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番号を入力して 行う製品が存在していたことは、前記2(2)イ において認定したとおり である。そうすると、本件発明1に係る機能を全て使用することができ\nる製品が原告の製品以外に存在していなかったとしても、コイルの指定 や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデバイス名又はデバイス番 号を入力して行う製品は存在しており、そのような製品でも、異常現象 の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定した り、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりするこ と自体は可能であり、それほど複雑な操作を要するものではないといえ\nる。さらに、本件発明1の技術的範囲に含まれないものであっても、異 常発生時においてコイル検索のみを実施できるようにし、回路を戻る場 合には検索機能を用いずに戻る機能\を有する表示装置であれば、異常現\n象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の異常原因を特定し たり、原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していったりする という目的を達することに支障があるとは考えにくい。加えて、本件発 明1の特徴的技術手段である接点検索は、原告の製品にですら実施され ていないものであり、この特徴的技術手段が原告の製品の販売に貢献し ていないことは明らかである。しかも、この特徴的手段である接点検索 は、被告表示器A及び被告製品3の多数の機能\のうち、わずか一点に関 するものであって、その機能の極めて僅少な部分しか占めない。\n 以上からすると、本件発明1の技術的特徴部分が被告表示器A及び被\n告製品3の販売数に大きく寄与したものとはおよそ想定し難い。また、 一審原告のプログラマブル表示器(表示装置)における市場シェアは、\n別紙7−2の「その他」に含まれるにすぎない僅少なものである(甲3 1)上に、原告の製品は、一審原告製のプログラマブル・コントローラ にしか接続できない(争いがない。)のであるから、被告表示器A及び\n被告製品3が本件発明1の特徴的技術部分を備えないことによってわず かに販売数が減少したとしても、その減少数分を埋め合わせる需要が、 全て一審原告の方に向かうとも想定し難い。 したがって、本件では、被告表示器A及び被告製品3が本件特許1を\n侵害したことによって原告の製品が販売減少したとの相当因果関係は、 著しい程度で阻害されると認めるべきであり、被告表示器Aの販売数の\n99%について販売することができないとする事情があると認めるのが 相当である。
販売することができないとする事情(その2)
前記エ のとおり、一審被告が直接侵害品の生産に用いられた被告表\n示器Aの数量として主張するところは、「販売することができないとす る事情」の一要素として考慮することができるところ、一審被告は、前 記第2の4(16)(原判決第3の18(被告の主張)(1)ア c)のとおり、 1)輸出の除外、2)プログラマブル・コントローラに接続しない利用態様 の除外、3)一審被告製シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出 される事情、4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出さ れる事情、5)被告製品1−2についてオプション機能ボートを購入した\n割合から算出される事情、6)ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロ\nジェクトデータを有する被告表示器Aの割合から算出される事情を主張\nする(前記第2の4(16)参照。以下、この主張に係る事情を「販売するこ とができないとする事情(その2)」という。)。
そこで、検討するに、まず、一審被告が把握している被告表示器Aの\n輸出台数は、別紙7の1に記載したとおりであること、平成25年の一 審被告製のプログラマブル表示器の販売数量、販売金額、国内市場シェ\nアは、同7の2に記載したとおりであること、平成25年から令和2年 までの一審被告のプログラマブル・コントローラの国内総販売数、国内 市場シェアは、同7の3に記載したとおりであること、一審被告製シー ケンサ(プログラマブル・コントローラ)の販売実績、回路モニタ機能\nの実行が可能なシーケンサ等の割合は、同7の4に記載のとおりである\nこと、GT15(被告製品1−2)に装着可能なオプション機能\ボード の販売台数は、別紙7の5に記載のとおりであることが認められ(甲3 1、乙58ないし64、弁論の全趣旨)、これに反する証拠はない。 上記認定事実を前提に更に検討すると、1)国外に輸出された被告表示\n器Aについては、本件発明1が実施されるのが日本国外となり、属地主 義の原則から本件特許権1の侵害は生じ得ないから、一審被告から開示 された輸出台数は控除するのが相当であるが、その輸出台数を一審被告 は別紙7の1のとおり把握しているとし、これに疑念を差し挟む理由も ないところ、その台数が全体の販売数に占める割合は僅少である。2)プ ログラマブル・コントローラに接続しない被告表示器Aについても本件\n特許権1の侵害が生じないところ、その数量は、一審被告すらおおよそ の割合でしか示し得ていないものの(別紙2−1)、前記2(2)エ のと おり、ユーザは高額な機器である被告表示器Aの機能\を十全に利用する\nため回路モニタ機能等を利用しようと合理的に行動するものといえるか\nら、被告表示器Aをプログラマブル・コントローラに接続する割合は非\n常に高くなるものと推認される。3)一審被告製シーケンサ等に接続する 利用態様の割合については、前記2(2)エのとおり、プログラマブル・コ ントローラとプログラマブル表示器とを同一メーカのもので統一する傾\n向があると推認されることから、一審被告製シーケンサの国内市場シェ ア割合(別紙7−3)に従った割合で被告表示器Aが一審被告製シーケ\nンサに接続されるものとするのは不自然であり、当該シェア割合よりは 一定程度高い割合で一審被告製シーケンサと接続されるものと推認する のが相当であるが、他社の製品との組み合わせが僅少であるとまでは認 め難い。4)対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合については、被 告表示器Aがその仕様・機能\等からみて特定のシーケンサに用いられる とする特別な傾向があることまでもを認めるに足りる証拠はないから、 回路モニタ機能を利用できないシーケンサの販売割合(別紙7−4)は\nその割合のまま考慮することが相当である。5)被告製品1−2について オプション機能ボートを購入したユーザの割合(最大で約4分の1)に\nついては、一定の考慮をするものとするが、そもそも被告表示器Aに占\nめる被告製品1−2の割合は約●パーセントにすぎないから、いずれに しても、被告表示器A全体の中ではほとんど影響を及ぼさない。最後に、\n6)ユーザがワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを\n作成する割合については、引用に係る原判決第4の2(2)(本判決前記1 (2)にて補正されたもの)において認定したとおり、一審被告がワンタッ チ回路ジャンプ機能を宣伝のポイントとしていたことや、被告表\示器A 及び被告製品3を購入等したユーザは回路モニタ機能等を用いることを\n強く動機付けられ、その機能がインストールされる可能\性もかなり高い といえること等に照らせば、ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いようと\nする者は相応の数に上るものと考えられるものの、具体的な割合を確定 するに足りる資料はない。
以上の観点から検討するところ、上記1)、2)、5)については、直接侵 害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はわずか、あ\nるいは少ないが、上記4)及び6)については直接侵害品の生産に用いられ る被告表示器Aの数量に与える影響はかなり大きく、3)についても少な からぬ影響があるというべきである。なお、ここまでにおいて、これら の事情を独立の要素として考慮したが、例えば、ワンタッチ回路ジャン プ機能を用いるプロジェクトデータを作成するユーザは回路モニタ機能\ 等を使用できる機器を有しているなど、これらの要素は相互に関連性を 有する場合もあり得る。そこで、このような点も加味して、上記事情を 総合考慮すると、被告表示器Aの販売数の●●%が直接侵害品の生産に\nは用いられなかったものと推認することが相当である。したがって、こ の限度において、「販売することができないとする事情」があると認め る。
一審被告の主張について
一審被告は、ユーザからの不具合調査や技術支援の依頼への対応に応 じてユーザから取得しているプロジェクトデータから、本件発明1の実 施品の生産に用いられる被告表示器Aの数が推定できると主張する(前\n記第2の4(16)参照)が、これらのプロジェクトデータは、一審被告に対 して技術支援を求めるユーザ、不具合品として製品を返却してきたユー ザ、他社製表示器から一審被告製品に乗り換えたユーザから取得してき\nたプロジェクトデータというのであって(乙72)、全くランダム化さ れていないものであり、それらユーザが一審被告の製品を用いるユーザ の平均的な技術水準にあるとは認め難く、その主張を採用することはで きないそのほか一審被告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
一審原告の主張について
一審原告は、前記 3)の事情につき、引用に係る原判決第3の18(1) ア c(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの)のとおり、プログラ マブル表示器を他社製のプログラマブル・コントローラに接続する利用\n態様は僅少である旨主張する。しかしながら、プログラマブル・コント ローラの市場シェアでは下位を占めるが、プログラマブル表示器のシェ\nアでは上位を占める社があり(乙58ないし64)、そのような社のプ ログラマブル表示器は他社製のプログラマブル・コントローラに接続さ\nれることを前提にされていると考えられる。このような点に鑑みると、 異なる社が製造するプログラマブル表示器とプログラマブル・コントロ\nーラとを組み合わせることも、当業界としてあり得る対応と推認される。 そうすると、プログラマブル表示器とプログラマブル・コントローラの\n親和性が好まれるといっても、他社製のものとの組み合わせることが僅 少であるとまでは認められないから、一審原告の上記主張を採用するこ とができない。
また、一審原告は、同c(b)(本判決前記第2の4(12)で補正されたもの) のとおり、1)被告表示器Aと接続できない場合がある「MELSEC Qn Aシリーズ」、「MELSEC Aシリーズ」、「MELDAS C6/C64」、「MELSE C iQ-Lシリーズ」及び「CNC C80シリーズ」などのシーケンサを購入 したユーザが被告表示器Aを購入するはずがない、2)単純な使用態様で あるスタンドアローン向けのシーケンサに回路モニタ機能等を有する高\n額な被告表示器Aを接続するユーザはいない旨主張するが、上記1)につ いていえば、仮に、一審原告の指摘するシーケンサが被告表示器Aと接\n続できないとしても、別紙7の4のとおり、一審被告製シーケンサ全体 に占めるその販売割合は●ないし●●●%と極めて僅少であって全体的 な傾向を全く左右させないものであるし、上記2)についていえば、一審 被告が主張するように言い切ることができることを認めるに足りる証拠 はない。そのほか一審原告がるる主張するところも、前記 及び の認定を左 右しない。
以上のとおり「販売することができないとする事情(その1)」とし て、主に本件発明1の売上げへの貢献に関する観点からの99%の控除 と「販売することができないとする事情(その2)」として、直接侵害 品の生産に用いられていないとの観点からの●●%の控除が認められ、 両者は独立して考慮できる控除要素であるから、結局、別紙8に記載の とおり、被告表示器Aの譲渡数量から、99%の譲渡数量を控除し、更\nにその数量から●●%の譲渡数量を控除した数量(控除数量は、●●● ●%となる。)について「販売することがのできないとする事情」を認 めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60≒0.98 3を下回るものではない。)。
カ 特許法102条1項1号の損害
前記イないしオの判断を踏まえると、特許法102条1項1号に基づく 一審原告の損害額は、別紙8のとおり、5062万9205円と認めるの が相当である。
キ 特許法102条1項2号の損害
特許法102条1項2号は、特定数量がある場合、その数量に応じた実 施料に相当する額を損害の額とすることができると定める一方で、同号括 弧書きは、特許権者等が当該特許権者等の特許権について実施権の許諾を し得たと認められない部分を除く部分を除外しているから、侵害者の侵害 行為により特許権者がライセンスの機会を喪失したとはいえない場合には 実施料に相当する額の逸失利益が生じるものではないことが規定されてい る。
前記オのとおり、本件において認められた特定数量は本件発明1の特徴 的技術部分が被告表示器A及び被告製品3の販売量に貢献しているとは認\nめられない数量、機能上の制約あるいは一審原告のシェア割合からみてユ\nーザの需要が原告の製品に向かず、一審原告以外の他社への購入に振り向 けられる数量、直接侵害品の生産に向けられず本件発明1の技術的範囲に 属しない表示器となる数量を合わせたものであるから、そのように本件発\n明1が販売数量に貢献し得ていない製品や一審被告以外の他社が販売する 製品について、一審原告が一審被告に本件発明1をライセンスし得るとは 認められない。そうすると、特許法102条1項2号の損害を認めることはできない。
(4) 特許法102条2項に基づく損害について
ア 本件の間接侵害への特許法102条2項の適用の可否
特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許 権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ、この規定の趣旨は先 に同条1項について述べたのと同様であると解される。したがって、先に 同条1項について述べたのと同様の考え方の下に、本件において同条2項 の適用を肯定するのが相当である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
平成25年4月から令和2年3月までの被告表示器A及び被告製品3の\n販売額が別紙3ないし6に記載されたとおりであること、被告表示器Aの\n限界利益率が20パーセントを下らないこと、被告製品3の限界利益率が 原判決別紙「被告の変動費の内訳、加重平均値及び限界利益率」に記載さ れたとおりであることは、当事者間に争いがない。
ウ 推定覆滅事由について
特許法102条2項は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が 得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果 関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅 されるものと解される。ここで、特許法101条2号の間接侵害品が実際には直接侵害品の生産に用いられることがなかった場合には、結果的にみれば、当該間接侵 害品の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという 関係にはなく、特許権者に特許発明の物の譲渡により得べかりし利益の 損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者 が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから、こ のような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解 するのが相当である。そうすると、先に特許法102条1項1号につい て述べた事情(前記(3)オ 。以下「推定覆滅事由(その1)」という。) は、特許法102条2項の推定覆事由として捉えることができるから、 被告表示器A及び被告製品3の利益の99%について覆滅事由があると\n認めるのが相当である。さらに、被告表示器A及び被告製品3のうち、\n直接侵害品の生産に用いられなかった分については一審原告の受けた損 害額であるとの推定を覆す事情(以下「推定覆滅事由(その2)」とい う。)があるというべきであるところ、直接侵害品の生産に用いられな かった被告表示器Aの数は、前記(3)オ と同旨の理由により、全体の● ●%に及ぶと認められるから、●●%の利益について推定が覆滅される ものと認めるのが相当である。また、被告製品3についても、直接侵害 品の生産に用いられたものと、そうではないものとが生じるが、特にど ちらかに偏るべき事情はうかがわれないから、そのインストール先の表\n示器Aと同様の割合で、その●●%の利益について推定が覆滅されるも のと認めるのが相当である。
以上のとおりであり、推定覆滅事由(その1)として、主に本件発明 1の売上げへ貢献に関する観点から導いた99%の減額と推定覆滅事由 (その2)として、直接侵害品の生産に用いられているかの観点から導 いた●●%の減額が認められ、両者は独立して考慮できる減額要素であ るから、結局、受けた利益のうち、●●●●%の額について推定覆滅事 由を認めるのが相当である(この数値は、一審原告が自認する59/60 ≒0.983を下回るものではない。)。
エ 特許法102条2項の損害
前記イ及びウの判断を踏まえると、特許法102条2項に基づく一審原 告の損害額は、別紙9のとおり、合計2424万7080円と認めるのが 相当である。
オ 特許法102条3項の重畳適用について
仮に、特許法の解釈上、特許法102条2項と3項の重畳適用が排除さ れていないとしても、その適用は同条1項2号の趣旨にかなったものとな るのが相当と思料されるべきところ、本件においては、同条2項の覆滅事 由は前記ウ 及び のとおり、そもそも同条1項2号の適用のない場合で あるから、同条3項を重畳適用できる事案ではない。 したがって、いずれにせよ、一審原告の上記主張を採用することはでき ないものである。
(5) 小括
前記(3)及び(4)の判断を踏まえると、前記(3)にて認定の特許法102条1項 に基づく原告の損害額(5062万9205円)の方が高いことから、その 額を一審原告の損害と認める。
(6) 弁護士費用
一審原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判 所に顕著な事実)、一審被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用は、500万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成27(ワ)8974

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令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所

特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。

一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。 これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

◆判決本文

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平成30(ネ)10077  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。

我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2 に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。 もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。 そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。 また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。

◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n 今回侵害となった特許4734471 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja 1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja

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令和2(ネ)10032  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明の特許権侵害に対して、原審は約3600万円の損害賠償を認めました。1審原告は、請求を2億円に拡張する控訴をし、知財高裁(2部)は約1億2000万円の損害賠償を認めました。
原審(平成28年(ワ)7678号)はアップされていません。

(ア) 原判決別紙「本件ソフト・ハード機器の売上額(裁判所の認定)」のとお\nり、本件において一審被告が受けた利益として認められる本件ソフト及びハードウ\nェアの売上額が合計2億5714万4027円であるのに対し、後記のとおり、本 件において一審被告が受けた利益として認められる月次利用料(被告システムない し本件ソフトの導入後5年以内に支払われるもの。以下同じ。)に係る売上額は、\n合計3億9531万1537円であり、月次利用料に係る売上額は、本件ソフト及\nびハードウェアの売上額の約1.5倍にも及ぶ高額のものであって、これを単なる データベースの更新費用等であるとみることは困難であること、一般に被告システ ムないし本件ソフトのように内容の更新が絶対に必要なデータベースを用いるシス\nテムないしソフトウェアにおいては、適時のデータベースの更新がなければシステ\nムないしソフトウェアとしての意味をなさないから、当該システムないしソ\フトウ ェアを導入する際に、更新があることを当然の前提にしてこれを含んだ価格設定を することには十分な合理性があること、弁論の全趣旨によると、一審被告は、被告\nシステムないし本件ソフトを導入した医療機関が月次利用料を3か月間支払わない\nときは、被告システムないし本件ソフトが起動しないような措置を執っているもの\nと認められること(一審被告第3準備書面5〜7頁)などの事情に照らすと、甲2 0及び48に月次利用料について「データベース更新料等」の記載があるとしても、 月次利用料に係る売上げは、被告システムないし本件ソフトの譲渡の対価(譲渡代\n金の延べ払い)の性質を持つものとして、これを一審被告が得た利益に含めるのが 相当である。

◆判決本文

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令和2(ワ)4331  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年5月13日  東京地方裁判所

 電子たばこの特許について102条3項により、約2200万円の損害賠償が認められました。102条2項の推定覆滅として、別件特許権があることで5割が認定され、3項との重畳適用は否定され、3項により利率10%を認めました。2項侵害よりも3項侵害の方が80万円ほど高額となりました。

同一製品の製造等による別件特許権の侵害について
証拠(乙A80)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、本件各発明の実施品であるとともに、別件発明の実施品であること、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、 顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
推定覆滅の割合
以上によれば、本件においては、上記 に掲げる事情の限度で推定を覆滅させるのが相当であり、上記 において認定した事情を踏まえると、推定覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
ウ まとめ
本件特許権の侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、1853万0467円(3706万0935円×0.5(1円未満切り捨てとする。以下同じ。))となる。
エ 覆滅部分についての特許法102条3項の損害金について
原告は、本件特許権の侵害における特許法102条2項の推定の覆滅部分について同条3項が適用されると主張して、覆滅部分について同項にいう実施料相当損害金を請求する。 しかしながら、本件特許権の侵害における推定の覆滅は、上記において説示したとおり、本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することがで
・・・
イ 前提事実及び前記認定事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 本件報告書の表II)−3には、アンケートの調査結果として、技術分類を「食料品、たばこ」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は3.8%(最大値5.5%、最小値1.5%)(4件)、「健康;人命救助;娯楽」とする特許権のロイヤリティ率の平均値は5.3%(最大値14.5%、最小値0.5%)(54件)と記載されている(乙A73)。原告は、被告ジョウズが被告製品の販売等により別件特許権を侵害したと主張して、別件訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、令和4年1月27日、別件発明の実施に対し受けるべき料率を被告製品の売上高の10%と判断した(乙A80)。そして、前記 イ のとおり、別件発明は、エアロゾル発生のための加熱アセンブリに関するものであり、エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供するためのものである。
前記 イ のとおり、本件各発明は、エアロゾル形成基材の加熱中にエアロゾルを均等に送達することを可能にする発明であり、加熱式タバコの香りや味等に直結するものであるから、加熱式タバコにおいて相応の重要性を有し、被告製品の売上げ及び利益にも一定の貢献をしたものである。また、エアロゾルを均等に送達することを可能\にする代替技術 が存在することは、本件全証拠によっても認めるに足りない。 原告と被告らは、いずれも原告製品専用のタバコスティックを使用することができる加熱式タバコ用デバイスを販売していたことからすると、その市場において競業関係にあったといえる。
ウ 前記イ ないし の各事情その他の本件訴訟に現れた諸事情を総合すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、10%を下らないものと認めるのが相当である。したがって、被告らによる本件特許権の侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1975万2707円(1億9752万7078円×10%)となる。

◆判決本文

関連事件(1)です。
特許権、当事者同じ
特許権者勝訴
差止のみ請求

◆令和2(ワ)4332

関連事件(2)です。
当事者同じ、対象特許違い
特許権者勝訴
損害額約5200万円

◆令和1(ワ)20074

関連事件(2)の控訴審です
控訴棄却

◆令和3(ネ)10072

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令和3(ネ)10088等  特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 特許侵害事件です。知財高裁第4部は、102条2項の覆滅は5%から15%とし、損害賠償額を減額しました。なお、102条2項と3項の重畳適用は1審と同様に否定しました。

被控訴人は、前記第2の3(2)ウ(イ) のとおり、競合品の存在を理由とする特 許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3 項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき である旨主張する。しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性 があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴 人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施 料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被 控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審も以下のように、重畳適用を否定しました。
特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは 競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関 わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎 を欠く。

◆令和1(ワ)9113

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令和2(ネ)10042  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審被告が NEXCO東日本です。高速道路におけるETCに関する発明について、1審は本件発明における用語を限定解釈しましたが、知財高裁は、かかる限定解釈をすべきでないとして、約2700万円の損害賠償を認めました。特102条3項のライセンス料は2%と判断されました。

争点1−イ(「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と、「通信手段」との位置関係に関する、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D2への充足性)について\n
ア(ア) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は、原判決別紙の特許公報(特許第6 159845号及び特許第5769141号)の該当部分記載のとおりであり、「第 1の検知手段」については、有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリ アに出入りをする車両を検知することや、「第1の遮断機」が「第1の検知手段」に 対応して設置されたこと、「第1の検知手段」により車両の進入が検知された場合、 前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろす旨の記載があるのみであって、そ れ以上に、「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置 関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件\n該当性が左右されるものではないというべきである。
(イ) これを前提に被控訴人各システムについてみると、車両検知器2)は、被控訴 人各システムにおいて車両の通過を検知するものであり(ステップS105、S2 04)、被控訴人各システムが設置されている「サービスエリア」である佐野SAス マートICに出入りする車両を検知するものであるから、「第1の検知手段」に当た り、車両検知器2)が車両の通過を検知すると発進制御機[開閉バー]1)が閉じるこ とから(ステップS105、S204)、発進制御機[開閉バー]1)は「第1の検知 手段」である車両検知器2)に対応して設置された「第1の遮断機」に当たる。そし て、車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信を行う(ステップS103、 S202)路側無線装置3)が「通信手段」に当たり、路側無線装置3)がETC車載 器から受信したデータにより、無線通信が可能な場合と不能\又は不可の場合のいず れに当たるかの判定(ステップS104、S106、S203、S205)、すなわ ちETCによる料金徴収が可能か判定されているといえる。\nそうすると、被控訴人各システムは、構成要件B1、C1、D1、B2、C2、\nD2を充足する。
イ(ア) 被控訴人は、本件各発明においては、「通信手段」は、「第1の遮断機」及 び「第1の検知手段」より先に配置されるべきであるところ、被控訴人各システム においては、路側無線装置3)が発進制御機[開閉バー]1)の手前に配置されていて、 発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無線通信を行うから、 被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2をいずれも充足しないと主張する。
(イ) しかし、前記ア(イ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲には、「通信手段」 と「第1の遮断機」の位置関係については何ら特定されていない。 また、前記1(2)のとおり、本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用 出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場 合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏する ものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETC による料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより\n車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手 段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機 を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。\nまた、本件作用効果2(ETCシステムを利用した車両誘導システムにおいて、 逆走車の走行を許さず、或いは先行車と後続車の衝突を回避し得る、安全な車両誘 導システムを提供すること)についてみると、本件各発明にいう「逆走車」には、 料金不払などを目的として、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡っ てETC車用レーンに逆進入する車両も含まれ、そのような「逆走車」の走行を防 止することと、「通信手段」と「第1の遮断機」の位置関係とは関係がないことは明 らかであるし、通信手段の位置にかかわらず、車両が第1の遮断機を通過した後に 第1の遮断機を下ろすことで、後退による逆走を防止することができる。 たしかに、本件明細書には、第1の遮断機(遮断機1)及び第 1 の検知手段(車 両検知装置2a)の先に通信手段(ゲート前アンテナ3)が位置する構成を有する\n例が記載されているが(【図4】)、これは実施例にすぎないというべきであって、上 記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない。\nしたがって、本件各発明の課題及び作用効果との関係で、「通信手段」と「第1の 遮断機」の位置関係が、被控訴人が主張するように特定されるとはいえない。
(ウ) また、被控訴人は、本件各発明においては、第1の遮断機を通過した走行中 の車両に対して走行状態のまま無線通信を行うものであるところ、被控訴人各シス テムにおいては、発進制御機[開閉バー]1)の手前に停止している車両に対して無 線通信を行うから、本件各発明と構成や作用が異なると主張する。\nしかし、本件特許の特許請求の範囲においては、無線通信を行う際に車両が走行 中であるか停止しているかについては特定されていないし、本件明細書の段落【0 042】に「1台の車両が、遮断機1から車両検知装置2c、2dの区間に進入し ているときはこの区間は一種の閉鎖領域となり、1台の車両のみの存在が許される ようになっている。このため、この閉鎖領域では先行車と後続車の衝突は起こらな い。なお、ETCシステムが正常に働いている限り、遮断機1が閉じている時間は、 車両が遮断機1からETCゲート5を通過するまでの時間であり、ほんの数秒であ り、ETCシステム本来のノンストップ走行は実質的に確保されている。」とあるこ とからすると、本件各発明においては、先行車両が存在する場合、後続車両が第1 の遮断機の手前で停止することも予定されているといえる。そうすると、本件各発\n明について、第1の遮断機を通過した走行中の車両に対して走行状態のまま無線通 信を行うものであると限定的に解釈することはできない。 したがって、被控訴人各システムにおいて、無線通信を行う際に車両が停止して いるという点をもって、本件各発明の構成要件B1、C1、D1、B2、C2、D\n2の充足性が否定されるものではない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の上記各主張は採用することができない。
(3) 争点1−ウ(構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言への充足性)について
ア(ア) 被控訴人各システムにおいては、ETC車載器との「無線通信が不能又は\n不可の場合」、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、「運転者に対し、\nインターホンによる音声でその旨の報知がなされ、レーンd手前の発進制御機[開 閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれ、車両は退出ルートdに退出する」も のとされている(ステップS106、S205)。被控訴人各システムにおける退出 ルートdは、構成要件F1、F2の「ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に当\nたる。また、被控訴人各システムは、ETCによる料金徴収が不可能な車両に対し\nて、レーンd手前の発進制御機[開閉バー]1)及び5)を人的操作によって開くこと によって、レーンdへと誘導しているから、構成要件F1、F2の「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いるといえる。そうすると、被控訴人各システムは、構成要件F1、F2の「第2\nのレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足する。
(イ) そして、被控訴人各システムでは、路側無線装置3)が受信したデータの判定 結果によって、無線通信が可能な場合は、発進制御機[開閉バー]1)及び4)が開い てサービスエリア内に入るレーン又はサービスエリアから一般道に出るルートへ通 じるレーンに誘導するか(ステップS104)、データ取得区間(レーンe)へと誘 導する(ステップS203)が、データ取得区間(レーンe)はサービスエリアに 通じるルート上に存在するから、データ取得区間(レーンe)への誘導は、サービ スエリアに入るルートへ通じる第1のレーンへの誘導に当たる。また、被控訴人各 システムは、前記(ア)のとおり、無線通信が不能又は不可の場合は、「ETC車専用\n出入口手前へ戻るルート」に通じる「第2のレーンへ誘導する誘導手段」を備えて いる。したがって、被控訴人各システムは、本件各発明の構成要件F1、F2を充足す\nる。
イ 被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導され るわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できな い状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」と\nの文言を充足しないと主張する。 しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導 する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」 に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおい ては、発進制御機[開閉バー]1)及び5)が人的操作によって開かれているものの、 インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー] 1)及び5)が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、 バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係 員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出 ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各 発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提 供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」 という作用効果を奏することができる。なお、本件各発明においても、車両が第1 の遮断機の手前で停止することが想定されているといえることは、前記(2)イ(ウ)で 説示したとおりである。そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。
・・・
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5 685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、1)被控訴人各システムはス マートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入によ り、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生 活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、2)設置コストは、通常 のICが30〜60億円であるのに対し、スマートICが3〜8億円、管理コスト は、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年 と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、3) 既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすこ とができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があるこ\nと、4)もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕 著に増加したとはいえないこと、5)被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートI Cも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触 しないスマートICが半数弱存在する。)、6)控訴人は、自ら本件特許を実施してお らず、今後も実施する可能性がないこと、7)佐野SAスマートICの施設に占める 被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、8)被控訴人 は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞ れ認められる。上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。

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◆H31年(ワ)7178

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令和2(ワ)29604  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月27日  東京地方裁判所

 携帯電話機の画像表示技術について、102条3項の実施料率として0.01%が認められました。

ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、1)当該 特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない 場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明 自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可 能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等 訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。 イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記1)ないし4)に係る事情と して、次のとおりのものが認められる。 「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査 研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係 特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分 野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジー3.1% 7.5% 0.5%
電気 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、 アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、 平均●(省略)●%であると計算された。(乙14) また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が 初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除 き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16) 平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電 話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面 テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が\n携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁) 他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と する端末であれば、比較的大きな4〜5型程度のディスプレイを搭載す る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精\n細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁) 原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾 し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本 件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、1)本件発明の技術分野においては、ライセンス 料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限 らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも 通常であること、2)本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機 能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品\nのようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、\nその顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、3)原告は、その 保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結 した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。 これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施 料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。\nエ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分 が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど 種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、 当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので はなく、上記認定を左右するに至らない。 また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを 認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24 00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当 該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その\n2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論 を左右するものとはいえない。

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令和1(ワ)9842  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年6月9日  大阪地方裁判所

 102条2項の覆滅部分(2割)について、3項のライセンス相当額が加算されて、トータルで2億円弱の損害賠償が認められました。

(ウ) 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなさ れるものの、一方で、競合品に該当する商品数が多いとはいえないこと、被告製品 の売上に対する本件各訂正後発明の貢献の程度は大きいと認められること、被告独 自の販売ルートの点は限定的な影響に留まり、その他に推定を覆滅すべき具体的な 事情は見当たらないことから、本件においては2割の限度で損害額の推定が覆滅さ れるものと解するのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採 用できない。
ウ 以上から、特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は、1億4759万2498円(≒184,490,622 円×0.8)となる。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
ア 被告製品の売上
原告製品の販売開始前である平成25年から平成27年11月24日までの被告 製品の売上は合計1億3814万3836円である(当事者間に争いがない)。
イ 実施料率
本件において、本件各訂正後発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず、証拠 (乙26)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年8月31日に発行された「ロイ ヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウ ハウ〜」において、光学機器及び家具、ゲームの技術分野における正味販売高に対 する実施料率は、光学機器については、平均が3.5%、最大値が9.5%、最小 値が0.5%、標準偏差が1.9%であり、家具及びゲームについては、平均が2. 5%、最大値が4.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.5%であることが認 められる。これらに、原告と被告は競業関係にあること、前記(1)イのとおり、本件 各訂正後発明の貢献の程度その他本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件 における実施に対して受けるべき料率としては6%が相当であると認める。
原告は、他社との和解内容等を考慮して、被告製品1台あたり1万円(実施料率 23.6%)が妥当である旨を主張する。しかし、種々の事情を総合的に考慮して 和解に至ることが通常であり、和解内容を実施許諾契約と同様に考えるのは相当で ないことに加え、証拠(甲42、43)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、和解 契約等において、相手方が、原告に対し、原告が実施料相当額であると主張してい る金員を支払う他に金員を支払う条項は存在しないことが認められ、特許法102 条3項及び同条2項の適用により損害の額を算定する本件とは条件を異にするとい うべきである。
ウ 以上から、特許法102条3項に基づき推定される損害額は、828万86 30円(≒138,143,836×0.06)となる。
(3) 特許法102条2項の推定覆滅と同条3項の適用について
特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受 けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者 は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算 定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争ってい ない。)。 平成27年11月25日から令和元年7月までの被告製品の売上は3億3613 万9283円であるところ(当事者間に争いがない)、前記(1)及び(2)のとおり、 特許法102条2項の推定は2割覆滅され、同条3項の実施料率は6%である。 したがって、特許法102条2項の推定が覆滅された部分について同条3項が適 用されることによる損害額は、403万3671円(≒336,139,283×0.2×0.06) となる。

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平成30(ワ)24818 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月23日  東京地方裁判所

 東京地裁(40部)は、約5700万円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」を算定する基礎となる相 当実施料率については、1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実 施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考 慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や 重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該製品に用いた 場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵害者との競 業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理 的な料率を定めるべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号 令和元年6月7日特別部判決参照)。
イ これを本件についてみると、本件訂正発明1の実際の許諾例は存在しな いものの、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、実施料の相場について、 「精密機器」の特許の実施料率が、平均3.5%(最大値9.5%、最低 値0.5%)であり、「その他」の分野の司法決定の実施料率が、平均7. 3%(最大値12.0%、最小値3.0%)であると報告された例がある こと(甲22)、原告が、第三者との間で、その発明の名称を「導電性ボ ール配列用マスク及びその製造方法」とする特許について、実施料率を1 0%とする旨の合意をしたことがあり(甲23)、その発明の名称を「ク リーム半田用メタルマスクおよびスクリーン印刷用スキージ技術」とする 特許について、実施料率を20%とする合意をしたことがあること(甲2 4)、以上の事実を認めることができる。 これに対し、被告は、これらの許諾例は、認識マークの電解処理とは無 関係なものを抽象的に一括するものであると主張するが、特許発明の属す る一定の範囲の分野を相当実施料率の考慮要素とすることは正当であり、 被告が指摘するような個別具体的な特許発明の内容については、特許発明 自体の価値や技術内容の観点から考慮するのが相当である。
ウ そして、本件訂正発明1は、前記1(1)のとおり、認識マークを形成する 従来の技術が、認識マークとして充填したトナーが凹部から脱落し、また、 箔物メタルマスクに適用することが困難であるという欠点があったため、 これを解消するものであって、本件訂正発明1と同一の作用効果を代替す る技術があることを認めるに足りる証拠はない。ただし、現在においても、 本件訂正発明1の電解マーキングよる認識マーク以外の認識マークの形成 方法も相当な割合で使用されており(乙93、99)、顧客によっては、 電解マーキング以外の方法を特に指示する場合があることも認められるこ とからすると、メタルマスクの認識マークに係る市場において、本件訂正 発明1の方法が、唯一の実用的な技術であるとまでいうことはできない。
エ 上記のような本件訂正発明1の技術内容や重要性に照らせば、これを実 施することは、原告及び被告にとって、相応に売上げや利益に貢献するも のであるといえる。そして、原告が、本件訂正発明1に係る技術を広く宣 伝等しているとは認められないとしても(乙97)、原告と被告が、本件 訂正発明1に係るメタルマスクの分野で競合する会社同士であることを考 慮すれば、仮に、原告が、被告に対し、本件訂正発明1の実施を許諾する とすれば、その実施料は相当に高額になったものといえる。
このような事情に加え、特許法102条3項の「受けるべき金銭の額」 を算定する基礎となる相当実施料率は、特許権侵害をした者に対し事後的 に定められるものであって、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるこ とをも踏まえると、被告製品1による本件訂正発明1の侵害に係る実施料 率としては、売上高の●(省略)●%を認めるのが相当である。
オ なお、被告は、侵害論に係る裁判所の心証開示後、損害論の相当実施料 率の考慮要素として、本件訂正発明1が、既知の技術であり、被告が、先 使用していたものであるなどとして、乙2メタルマスクとは別個の製品に 係る分析結果などを証拠提出した。しかし、当該主張は、実質的には先使 用の抗弁(争点2)の根拠となる事由を追加するものであり、訴訟の完結 を遅延させると認められたことから、当裁判所は、被告に対し、上記証拠 提出に係る主張を補充しないように訴訟指揮をした。そして、被告は、こ れを侵害論の段階で主張立証し得なかった理由を特に説明しないのである から、当該主張立証は、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条 1項)として、原告の申立てに基づき却下するのが相当である。\n

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令和3(ネ)10091  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、特許法102条2項の適用について、個々の法人格に基づく形式的な判断をして、これを否定し、同3項により損害額を約90万円と認定しました。知財高裁は、102条2項の推定を認め、控訴人の請求額満額の損害賠償を認めました。

 ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合におい て、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特 許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるために は、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関 係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、 妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵 害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定 するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害 者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存 在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
イ これを本件についてみると、一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一 審被告製品1〜3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはジ ンマー・バイオメット合同会社であって特許権者である一審原告ではないものの、 前記(1)のとおり、一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するZimme r Inc.の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グ ループ会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用 して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、Zimmer I nc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしてい るのであるから、ジンマー・バイオメットグループは、本件特許権の侵害が問題と されている平成28年7月から平成31年3月までの期間、Zimmer Inc. の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行してい ると評価することができる。そうすると、ジンマー・バイオメットグループにおい ては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被 告製品1〜3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。 そして、一審原告は、ジンマー・バイオメットグループにおいて、同グループの ために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することがで きる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益 を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記 のとおり、ジンマー・バイオメットグループにおいて一審原告の外に本件特許権に 係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許 法102条2項を適用することができるというべきである。
(3) 推定の覆滅について
特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と 同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が 受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解されるところ、一 審被告は、1)本件特許権を保有・管理するだけの一審原告の利益は何ら害されてい ないこと、2)競合する第三者の製品があること、3)固定プレートの選択をする医師 は、一審被告製品がなかったとするならば、他の一審被告の製品であるP−Pla teを選択していたことが確実であることから、推定が覆滅されるべきであると主 張する。
そこで検討するに、前記(1)で認定したジンマー・バイオメットグループの一審原 告製品に係る事業遂行の状況を踏まえると、本件特許権を第三者が侵害することに よって一審原告製品の売上げが減少して、ジンマー・バイオメットグループの利益 が減少し、その結果、本件特許権の保有による利益が帰属する一審原告の利益が害 されたということができる。また、一審被告は、第三者の競合品の存在を指摘する ものの、本件全証拠によっても、それらが本件特許権の特徴を具備する競合品であ るのか、また、一審被告の指摘する競合品の存在が、一審被告製品が存在しなかっ たとした場合に一審原告製品の販売に影響するといえるかは必ずしも明らかではな い。さらに、一審被告製品が存在しないとした場合に、医師がそもそも一審被告製 品を販売していない一審被告の製品を選択すると認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件において特許法102条2項における推定を覆滅する事由があ ると認めることはできない。
(4) 損害額
ア 平成28年7月から平成31年3月までの被告製品1及び2の販売額が●● ●●●●●●●であること並びにその限界利益率が●●●であることについて当事 者間に争いがない。そうすると、特許法102条2項により、一審原告の損害額は、 ●●●●●●●●●と推定される。
イ 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の 不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、●●●●と認められる。
ウ 上記ア及びイの合計額は、454万4478円である。

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◆令和1(ワ)14314

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平成30(ネ)10034  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は技術的範囲に属しないと判断しました。控訴人は均等侵害を追加主張しましたが、知財高裁は均等侵害を検討するまでもなく、技術的範囲に属するとして、約8900万円の損害を認定しました。計算は1項と3項の合算が、2項の侵害よりも多いとしてそちらが採用されています。

上記の各種実験結果によると、被告製品は、長時間の塩水噴霧試験(乙 14実験)、試験紙を用いた湿気の流入実験(乙19実験、乙20実験) の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物) の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴 下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲4 9実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第 3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を 滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲 33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば 抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被 告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものと いえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリ ングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結 果からすると、上記認定を左右するものではなく、また、乙16実験は、 圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、 上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験 及び乙20実験の試験結果によれば、端部部材とシール部材(Oリング) を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全 に抑制されていることが認められる。 そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ の上部側の開口部 に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材 の構\n成を備えることにより、ボディ と取付孔の間を密封して外部雰囲気の 流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要\n件B6の「『密封』嵌合」の文言も充足する。 したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。\n
・・・
引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 のと おり、被告製品の構成につき、控訴人は、原判決別紙被告製品目録(原告)\n(以下「原告作成目録」という。)記載のとおりであると、被控訴人は、 同被告製品目録(被告)(以下「被告作成目録」という。)記載のとおり であるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真 1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録 の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これら\nを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがな\nく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付ける\nかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決 第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各 及び のとおりである。 そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれ においても構成要件B8の「プランジャ」は「プランジャ 」、「バルブ」 は「弁本体(V)」、「ロッド」は「作動ロッド 」にそれぞれ当たり、「作 動ロッド 」は電磁コイル を含むボディ やシール部材 より下部まで 上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとお\nり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構\成するものといえ るから、本件発明における「ソレノイド」部は、控訴人が主張するとおり、\n原告作成目録の図1の「ソレノイド 」の矢印で示される範囲までを指す ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品 におけるシール部材 は、本件発明との対比におけるソレノイド の部分 (ソレノイド の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。
・・・
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構\成要 件の充足性については引用に係る原判決の第2の2 のとおりであるから、 争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属 するものである。
・・・
被告製品の実施料率について判断する。 甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体 のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝 国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル(約143万社収録) の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975 件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平 成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間とし て、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効 回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である「精密 機械」のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値 3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告 書によると、実施料の決定要因の重要度としては、1)当事者におけるラ イセンスの必要性、2)ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高い ことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4 ウ【控訴人の主張】 のとおり、平 成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データ や平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もする が、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件で は参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件 発明は、「ソレノイド」を備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部\n分は、1)アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を 塞ぐ端部部材と、2)取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の 2つの構成を採用したことにあり、これらの構\成によって、外部雰囲気 (湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上\nさせるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決め ができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向 上するという効果を奏するものである。 これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量 制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のよ うに、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止 のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替 技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノ\nイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要 性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。 そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を 含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目 として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が 挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明\nの上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品にお ける本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得 ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記 のとおり、控訴人と被 控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業 関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実 施料率は2%程度であると認めるのが相当である。 ウ ところで、前記 アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共 有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認める に足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され る。 そうすると、特許法102条3項による損害は、以下の計算式のとおり、 ●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式] ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
特許法102条1項による損害について
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c 原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3 イ のとおり、本件発明は、「ソレノイド」を備えた制御\n弁の発明であるが、その特徴的部分は、1)アッパープレートの外側で 取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、 2)取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用\nしたことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の\n流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるととも\nに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上すると いう効果を奏するものである。
前記 ウ のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明 の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付 孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備え ている(上記1)を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシー ル部材(Oリング)を備えておらず(上記2)を備えておらず)、腐食 防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、 自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で\nある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制という よりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する\nものといえる。 このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされてい る、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであるこ\nとや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御 弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、\n原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利 益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧\n客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利 益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
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エ 控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する 事情であり、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存 在すること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵害者 の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、4)侵害品及び特許権者の製品の機 能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事 情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。 以下これを前提として検討する。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 aのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社の前身である●●●社及 び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、 被控訴人は、こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、\n●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、 控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかっ たのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとし\nても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個 程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張す る。
確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●● ●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受\nけるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認 められるものの、前記 カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2 について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか 販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は 理由がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 bのとおり、被控訴人は、「販 売することができない事情」として、●●●社は、防水手段についてメ ッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては 全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控 訴人において認識すれば、「メッキ処理」に変更した代替品に転換する ことは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品\n2を納入することができるというものではない旨主張する。 しかし、「販売することができない事情」で考慮されるべき事情は、 本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記の ような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由 がない。
前記第2の4 ア【被控訴人の主張】 cないしeのとおり、被控訴 人は、「販売することができない事情」として、●●●社の購入動機や 信頼関係の存否等につき主張する。 そこで、検討するに、前記 キによれば、●●●●●●●●●●●● ●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げている ことが認められる。実際、控訴人の担当部長が作成した報告書(甲67) の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比 較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告 製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。 また、前記 のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社 及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等 の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係\nを築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品 に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げてい る。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景 には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と ●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の\n販売個数に影響する事情であるといえる。 さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製 品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●● 社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御 弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、\nこうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当 する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。 以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡 数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数 量全体の2割であると認めるのが相当である。
・・・
なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めを した場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をす ることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●● ●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠 はない。)ところ、特許法102条1項により算定される損害については、 侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなけ れば販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出さ れる額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲 渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又 は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事 情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と 異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。
・・・
キ 特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ のとおり、特許法102条1項1号の「その全部又は一部に相 当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができない とする事情」としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被 控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信 頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能\面の差異といった事情がある と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で「特許権者・・・が、当該 特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許 諾・・・をし得たと認められない場合を除く。」と規定するところ、この括弧 書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認めら れないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないこと を規定するものであると解される。 これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定 する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被 告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被\n控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められな いが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前 提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセン スをし得たのに、その機会を失ったものといえる。 これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会 を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが 相当である。
また、前記 アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販 売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●● ●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割っ た額(乙23参照)。)であり、前記 イのとおり、被告製品の実施料率 は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の 共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。 以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人 の損害額は268万円と認められる。
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特許法102条2項による損害について
ア 覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者 間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。 ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1 項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵 害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事 情がこれに当たると解され、例えば、1)特許権者と侵害者の業務態様等に 相違があること(市場の非同一性)、2)市場における競合品の存在、3)侵 害者の営業努力、4)侵害品の性能(機能\、デザイン等特許発明以外の特徴) 等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施さ れている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができ るが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上 記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の 侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的 に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判 決・判例時報2430号34頁以下参照)。 控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由は ないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、す なわち、1)●●●社における事情、2)代替品の納入が可能であること、3) 原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、4)被告製 品が原告製品2と比較して低価格であること、5)被控訴人の市場開発努力、 営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点に つき、まず検討を加える。
前記 エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切 って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で 有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●● ●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成し ており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背 景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起 動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良し たことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。
こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に 加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本 件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であ り、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさ\nることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向\nけに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発 明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したと おりである。)、また、前記 イ のとおり、相手側ハウジング部材に取 付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の 出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食\n性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術) が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは 重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。 被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情 を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。
イ 本件特許が共有であることについて
本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前 記 オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中 において本件特許権を実施していない。 ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定 めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施 をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●● ●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証 拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応 じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害 賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がな い。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず 請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施してい ない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102 条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があ るところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を 実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利 益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る 特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害 として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許 権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、 侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項に より推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその 立証責任を負うというべきである。
次に、前記第2の4 イ【控訴人の主張】 のとおり、控訴人は、● ●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴 人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●● ●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張すること ができない旨主張する。 しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●● の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分 であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消 滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰 属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないか ら、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を 援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主 張は明らかに失当である。 もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求 権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用するこ とにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重 払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害 により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当 とはいえないというべきである。
ウ 損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害 により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前 記第2の4 イ のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張 するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●● ●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除 すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ のとおり、●●●● ●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する 余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項に より算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。
小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、 同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による 損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額 は●●●●●円をもって相当と認める。 また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行し ているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士 費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易 度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。 そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29年(ワ)3569号
「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもた\nらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちり と封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリン グ(シール部材(13))を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果 があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」 しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付\n孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を\n有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件\n発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

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令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。  

前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分 にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において, 他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定 の覆滅事由に該当するものと認められる。 そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される 開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の 延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で 調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発 明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従 来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及 び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告 各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1 0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については 被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因 果関係がないものと認められる。 したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品 の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565 万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審 被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁 (同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。 一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明 (請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件 の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の 抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3 回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に 基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性 欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加 して主張した。 一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備 手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。 その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日 から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項 3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒 認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3), 乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の 争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号 事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明 に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由 が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一 審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備 手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において 口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原 判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同 年6月3日,本件附帯控訴を提起した。 一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年 7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無 効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別 件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無 効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理 由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一 審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の 抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却 下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8 日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年 3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許 に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進 歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無 効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手 続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年 7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に 入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回 弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無 効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の 主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において, 控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理 由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可 能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論 終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和 元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証 は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」 に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて, やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重 大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗 弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の 機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。 そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1 項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下 したものである。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)21900

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平成30(ワ)4329等  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月18日  東京地方裁判所

 二重まぶた形成用テープの特許権侵害で約2億4000万円の損害賠償が認められました。 ◆原告のウェブサイトには本件を含めて経緯が開示されています。
争点は、技術的範囲の属否、無効(104条の3)、損害額の認定、覆滅の程度などです。

 被告らは、原告製品の売上げが伸びずに損害が発生したのは、原告製 品及び被告各製品の競合品であるマイクロファイバー及びオリシキの販 売が開始されたからであり、特にマイクロファイバーは販売開始から現 在に至るまでに270万個が販売されるほどの人気商品であると主張す る。しかし、マイクロファイバー及びオリシキが販売されたのは、平成3 0年3月又は同年11月以降であり、前記(1)イ(ア)のとおり、被告各製 品の販売による本件特許権の侵害が認められた期間の一部にすぎない。 また、証拠(甲82)によれば、ドン・キホーテにおける原告製品の 販売はその販路全体の一部にすぎないと認められるところ、二重瞼形成 用アイテムの市場又はそのうち収縮食い込み型の商品の市場における原 告製品及び被告各製品の各シェアがどの程度のものであったかを認める に足りる的確な証拠はない。
さらに、証拠(乙75)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年1月頃、 マイクロファイバーの広告には「累計販売数270万個突破」と記載さ れていることが認められるが、二重瞼形成用アイテムの市場又は収縮食 い込み型の商品の市場において販売された商品全体の個数が明らかでは ないから、上記の記載のみによってシェアを認定することはできないし、 前記(1)イ(ア)のとおり、マクロファイバーの販売が開始されたのは、被 告各製品の販売により本件特許権が侵害されたと認められる期間の半ば 頃である上、マイクロファイバーの販売個数の推移も明らかではない。 以上によれば、マイクロファイバー及びオリシキが販売されていたこ とのみをもって、推定の覆滅を認めるのは相当でない。
もっとも、前記(ア)a及びdのとおり、二重瞼形成用アイテムには接着 型、シャッター型及び収縮食い込み型が存在し、ドン・キホーテにおけ る販売数を見ても、原告製品、マイクロファイバー及びオリシキのほか にも、接着型の二重瞼形成用アイテムが相当数販売されており(ただし、 商品ごとに、これを1個購入することにより、どの程度の期間、二重瞼 を形成することができるかなどの条件が異なると考えられるため、販売 数を単純に比較することはできない。)、需要者は、収縮食い込み型の 被告各製品を購入することができない場合、同じく二重瞼形成用アイテ ムである接着型の商品やシャッター型の商品を購入することも十分に考えられる。そうすると、原告製品及び被告各製品の競合品が存在することに基づき、法102条2項により推定される損害額の10%について\n推定の覆滅を認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成29(ワ)24942  特許権侵害に基づく不当利得返還等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月20日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。CS関連発明について、広告収入に基づく損害賠償が認められました。

 本件特許の請求項1は下記です。 通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、 ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、 前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、 前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、 を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。

 被告方法等は,本件各発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が被 告方法等を用いて行う地域ターゲティング広告等のサービスを提供する行為 は,本件特許権を侵害するものである。そして,被告はその侵害行為について 過失があったものと推定されるから(特許法103条),原告は,被告に対し, その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が 受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(同法102条3項) ところ,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 また,不当利得返還請求については,同項の「受けるべき金銭の額に相当す る額」は,本来,侵害者がその特許発明の実施に当たり特許権者に対して支払 うべきであった実施料相当額であるから,侵害者がこれを支払うことなく特許 発明を実施した場合は,その実施により,侵害者は同額の利得を得,特許権者 は同額の損失を受けたものと評価することができるから,同項の「受けるべき 金銭の額に相当する額」が不当利得(民法703条)における受益者の利得の 額に相当し,かつ,権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である(知 財高裁平成27年(ネ)第10488号,同第10088号同年11月12日 判決・判時2287号91頁参照)。 そこで,被告が被告方法等を使用して上げた売上高及び実施に対し受けるべ き料率(相当実施料率)につき,以下検討する。
(2) YDN及びプレミアム広告について
ア YDN及びプレミアム広告の売上高
YDN及びプレミアム広告の売上高は,以下のとおりであると認められる。
(ア) YDNの売上高
証拠(乙25)によれば,原告主張の損害算定期間(平成19年7月2 5日〜平成30年6月26日)の売上高(消費税抜き。以下,売上高につ き,特記なき限り同じ。)は,別紙売上高・損害額一覧表のとおりであり,\nYDNのエリアターゲティングを行っている部分の売上高総額は,●省略 ●であると認められる(●省略●なお,端数処理の関係で1円の誤差が生 じている。)。
(イ) プレミアム広告の売上高
同様に,同期間のプレミアム広告のエリアターゲティングを行っている 部分の売上高総額は,●省略●であると認められる(●省略●)。
イ 相当実施料算定の基礎となる売上高の範囲
被告は,YDN及びプレミアム広告の売上高のうち,下記(ア)ないし(エ)に 係る各部分については,相当実施料算定の基礎となる売上高から除外すべき であると主張するので,この点について検討する。
(ア) ●省略●について
被告は,本件各発明の技術的範囲には●省略●から,被告方法等におい て,本件各発明の技術的範囲に含まれる部分があるとしてもそれは●省略 ●であると主張する。 しかし,本件各発明にいう「アクセスポイントに対応する地域」等は, 特に●省略●ものではないので,相当実施料算定の基礎となる売上高を● 省略●理由はないというべきである。
(イ) スマートフォンを利用した売上部分について
被告は,スマートフォンの利用による売上げは相当実施料算定の基礎と なる売上高から控除すべきであると主張する。 しかし,証拠(甲73・3頁)及び弁論の全趣旨によれば,スマートフ ォンからインターネットのウェブサイトを閲覧する場合には,モバイル接 続(4G接続ないし3G接続)又はWi−Fi接続の2通りの方法があり, 自宅等のWi−Fi環境がある場所では,通信容量制限のあるモバイル接 続ではなく,Wi−Fi経由の接続を行うのが一般的であるところ,スマ ートフォンによりWi−Fi接続を行う場合には,接続に用いられるIP アドレスは自宅のWi−Fiに用いられるIPアドレスであり,この場合 には,本件各発明に基づくIPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別しているものと認められる。 他方で,モバイル端末からのインターネット接続(いわゆる4G接続な いし3G接続)の場合に,IPアドレスからアクセスポイントに対応する 地域を判別することができないことは,原告が自認するところであるから, 相当実施料算定の基礎となる売上高は,かかる接続を利用しない場合(W i−Fi経由での接続の場合)に限定することが必要であるというべきで ある。
(ウ) ●省略●について
被告は,●省略●を控除したものとされるべきであると主張する。
a そこで検討するに,証拠(乙27)及び弁論の全趣旨を総合すると, 以下の事実を認めることができる。
●省略●
b 上記aで認定した事実によれば,被告方法等において,●省略●を控 除することが相当であるというべきである。
c これに対して,原告は,●省略●と考えられると主張するが,これを 認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 他のターゲティング機能に対応する部分について\n
被告は,「年齢」,「性別」,「行動履歴」など「地域」以外のターゲ ティング機能に対する部分の売上げは,本件における相当実施料額の算定\nの基礎とならないと主張する。 この点,証拠(甲22,26)によれば,被告のYDNやプレミアム広 告においては,地域ターゲティングに加え,「時間帯」,「性別」,「年 代」,「行動履歴」等に基づくターゲティングも行われていることがうか がわれるが,他方で,プレミアム広告の商品紹介(甲26)においては, 「エリアターゲティング」が最初に紹介され,また,被告の広告本部本部 長が,平成19年11月5日付けの日経マーケティングのウェブ上の記事 (甲27)において,1)被告は地域ターゲティングに力を入れており,I Pアドレスなどの情報で地域ターゲティング広告ができるようになり,地 域限定のプロモーションや地域限定で企業活動をしている広告主もター ゲットに入ってきたこと,2)地域ターゲティング広告に性別や年齢別など によるデモグラフィックターゲティングも組み合わせればより効果的で あること,3)地域ターゲティング広告は,中小企業,インフラを手がける 大手企業などの需要もあることなどを述べていることが認められる。 そうすると,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲテ\nィング機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの\n機能は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定す\nることが困難であることにも照らすと,地域ターゲティング機能と関連の\nある売上高については,その全額を対象とするのが相当である。
ウ 相当実施料算定の基礎とすべき売上高
上記アのYDN及びプレミアム広告の売上高から,上記イに従って控除す べき分を控除した額は,以下のとおりである。
(ア) YDNについて
証拠(乙25)によれば,YDNについて,●省略●となる。
(イ) プレミアム広告について
同様に,プレミアム広告については,●省略●となる。
(ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による損害額の算定に用いるべき売上高 は,YDNにつき●省略●,プレミアム広告につき●省略●となる(それ ぞれの各年度の内訳は別紙売上高・損害額一覧表の該当欄記載のとおり。)。\n
(3) スポンサードサーチについて
原告は,被告が提供するターゲティング広告に係るサービスのうち,スポン サードサーチに係る売上高も相当実施料の算定の対象とすべきであると主張 するのに対し,被告は,スポンサードサーチにおいては本件各発明を実施して いないから,その売上高は相当実施料の算定の対象外であると主張する。
ア そこで検討するに,●省略●ことが認められる。
しかし,他方で,●省略●本件各発明を実施して行われているとは認めら れないので,スポンサードサーチに係る売上高も損害額算定の対象とすべき であるとの原告主張を採用することはできない。
イ なお,原告は,スポンサードサーチが本件各発明の実施に当たらないとの 主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが,被告は,当初から, 原告主張のターゲティング広告の提供サービスが本件各発明の技術的範囲 に属することを否認していたこと,侵害論の審理においては●省略●が中心 的な争点であったこと,損害論の審理に入り,スポンサードサーチが実施料 算定の基礎となるかが争点となり,これを契機としてスポンサードサーチが 本件各発明の実施に当たるかどうかが問題となったことなどの本訴の経緯 に照らすと,被告の上記主張が時機に後れたものということはできない。
(4) 相当実施料率について
ア 相当実施料率の算定基準
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」の算定に当たり,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特 許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合 には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の 価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の 態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れ た諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成 30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号 34頁参照)。
イ 実施料率等について
(ア) 証拠(甲30,79,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実 を認めることができる。
a 原告は,あどえりあ社を通じて,本件特許に係るライセンス(通常実 施権の許諾。以下「本件ライセンス」という。)を行っている。
b 本件ライセンスの料金体系は,1)多数のウェブサイトやアプリ等に一 括で広告を配信するアドネットワーク事業を行う企業を対象とするア ドネットワーク事業社用(甲30・2枚目),2)クライアントに対しシ ステム等を使ってサービスを提供する企業を対象とするサービス提供 事業社用(同3枚目),3)自社でウェブサイトを運営する企業を対象と するウェブサイト運営社用(同4枚目)の3種類がある。
c 上記1)(アドネットワーク事業社用)の料金は,登録料1万円(初年 度のみ)と,アドネットワーク事業社のクライアントに対する広告請求 金額に対する1.5%(親会社の業務を子会社が行う場合は3%)の割 合によるライセンス利用料である。
上記2)(サービス提供事業社用)の料金は,クライアントの特許利用 も含めたライセンスを受ける場合は,登録料1万円(毎年)と,サービ ス提供事業社と各クライアントの間の月額契約料金の3%の割合によ るライセンス利用料である。
上記3)(ウェブサイト運営社用)の料金は,当該ウェブサイトが50 00万PV以上で,かつ,自社サイト内の広告の地域ターゲティングを 行う場合は,登録料1万円(初年度のみ)及び基本利用料10万円(年 額)に加え,広告売上げの3%の割合によるライセンス利用料となる。 なお,ウェブサイト運営社が,当該ウェブサイト内で物品などの販売を 補助するサービスを行う場合は,更にビジネス利用料5000円〜(年 額)を要するとされている。
d 本件ライセンスの実績としては,アドネットワーク事業社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例,サービス提供事業社用のライ センス利用料につき3%で契約した例,ウェブサイト運営社用のライセ ンス利用料につき1.5%で契約した例や,0.75%で契約した例が ある。
(イ) 甲30のライセンス料金表の各類型の適用に関し,原告は,広告を掲載\nするサイトを基準とするもの,すなわち,自らのウェブサイトにおいて広 告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載する 場合は1.5%とするものであると主張するのに対し,被告は,広告の主 体を基準とするもの,すなわち,第三者の広告を請け負って掲載する場合 はアドネットワーク事業社用の条件に従って1.5%の料率が適用され, 自社の広告を掲載する場合は3%の料率が適用されると主張する。
甲30のライセンス料金表の各類型が適用される広告掲載サービスに\nついては,本件ライセンスに係る特許権者である原告が当然知悉している と考えられるところ,アドネットワーク事業社用について他の場合より安 い料率が設定されることについての原告の説明,すなわち,他社のウェブ サイトに広告を掲載する場合には別途広告枠を媒体社などから購入する 必要がありその費用が掛かるためにアドネットワーク事業社用では料率 を下げているとの説明や,それにもかかわらず親会社の業務を子会社が行 う場合は3%としたのは,アドネットワーク事業社である親会社が広告掲 載を自らの子会社の広告枠で行う場合には広告枠の購入費用は子会社に 支払われるために親子会社全体としてみれば費用支出がないからである との説明は合理的であるといえる。 被告は,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表に「EC(電子商取\n引)を含む,ウェブサイト内で物品などの販売を補助するサービス」が対 象となることが記載されていることをもって,ウェブサイト運営者用の実 施料率が3%であるのは,自社商品の広告表示を切り替えるといったサー\nビスを提供することを念頭に置いたものであると主張する。しかし,同サ ービスを行う場合に発生するのはビジネス利用料であって,広告利用料で はないので,上記の記載から,ウェブサイト運営者用のライセンス料金表\nが適用されるのは自社の広告を掲載する場合であると認めることはでき ない。
むしろ,甲30・4枚目においては,ウェブサイト運営者用の「広告利 用料」は「広告売上の3%」と規定されているところ,ここに「広告売上」 と記載されているのは,他社の広告を自らのサイトで行うことにより広告 売上げを得る場合を想定としているからであると推認するのが自然かつ 合理的である。 そうすると,原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセン ス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%である が,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社など から購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるの が相当である。
(ウ) 上記(イ)の説示を踏まえ,被告の地域ターゲティング広告が本件ライセ ンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサ イトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用 に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェ ブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるか ら,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。 この点につき,被告は,過去にウェブサイト運営社用に当たるにもかか わらず0.75%や1.5%のライセンス料率が適用されたことがあるこ とを指摘し,本件においてもこれらの料率を参考とすべきであると主張す るが,証拠(甲100)及び弁論の全趣旨によれば,これらは原告とライ センシーとの関係に基づき特別に減額されたものであることがうかがわ れ,他にサービス提供事業社用の類型ではあるものの,原則どおりライセ ンス料率を3%として契約した実績もあることからすれば,上記のとおり 認定するのが相当である。
ウ 実施料率を下げるべき他の事情について
●省略●
(イ) 被告は,被告自身の多数の特許を実施することによりウェブ広告の分野 において大きなシェアを獲得することができているのであるから,本件各 発明の相当実施料率の算定に当たってもこの点を考慮すべきであると主 張するが,被告がウェブ広告の分野において多数の特許を実施しているこ とやそれが売上げに寄与していることは,本件特許の相当実施料率を算定 すべき上で考慮すべき事情ということはできない。 また,被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,被告が自身の 努力により●省略●を作成したことを考慮すべきであると主張するが,上 記と同様,この点も本件特許の相当実施料率を算定すべき上で考慮すべき 事情ということはできない。
(ウ) 被告は,甲20公報を引用し,本件各発明の「IPアドレス対地域デー タベース」は「アクセスポイント側」の情報を用いるものであり,●省略 ●含まないとした上で,原告の主張を前提とするのであれば,本件各発明 の価値・技術的意義は低いなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,データベースの構成と●省略●を誤解・混\n同するものであり,その前提において失当であり,また,本件各発明が公 知技術との関係で新たな技術的意義が存在しないということはできない。 むしろ,本件各発明は,IPアドレスを所有するアクセスポイントが属 する地域を判別し,判別した地域に対応したウェブ情報を選択して前記ユ ーザ端末に送信する方法によって,同一URLにおいてもユーザの発信地 域ごとに異なるウェブ情報を送信することができるという効果を得る発 明であって,他にGPS等のシステムを用いることなく,ユーザ端末に割 り当てられたIPアドレスとIPアドレス対地域データベースを照合す るという比較的簡易な方法によりユーザの発信地域の判別をすることが できるものであるから,従来技術にはない新たな技術的意義を有するとい うことができる。
(エ) 被告は,本件特許の相当実施料率の算定に当たり,地域ターゲティング 以外のターゲティング機能の効用を考慮すべきであると主張する。\nしかし,地域ターゲティングは中心的な機能であり,他のターゲティン\nグ機能に比べてその重要性は高いというべきであり,また,これらの機能\ は重複して利用されることも多く,その寄与の度合いを個別に算定するこ とが困難であることは,前記(2)イ(エ)のとおりである。このため,YDN 及びプレミアム広告が地域ターゲティング以外のターゲティング機能を\n備えていることを考慮しても,適用すべき実施料率を下げることが相当と いうことはできない。
(オ) 被告は,YDNのクリック数や売上げは,被告が長年にわたり多大な労 力を積み上げてきたサービスの圧倒的な利用者数及びアクセス数を前提 とするものであり,これらは本件各発明と無関係であるから,本件特許の 相当実施料率の算定に当たってはこの点を考慮すべきであると主張する。 しかし,YDNの売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数 や被告のウェブサイトへのアクセス数が影響を与えたとしても,本件各発 明の売上げ及び利益への貢献の程度という観点からみると,本件各発明は, IPアドレス対地域データベースを使用して,アクセスポイントの属する 地域を判別することを通じて,地域によって異なるウェブ情報をユーザ端 末に送信することを可能にするものであるから,エリアターゲティング広\n告に必要不可欠なものであり,本件各発明と同程度に簡易かつ効果的に地 域判別をし得る代替技術の存在を示す証拠のないことに照らすと,本件各 発明を利用することができない場合には,被告のYDNやプレミアム広告 の利用者に対する訴求力は大幅に減殺されたものというべきである。 このような本件各発明のYDN及びプレミアム広告の提供サービスに おける必要不可欠性や売上げや利益に対する貢献度に照らすと,YDNの 売上げにおいて,被告の提供するサービスの利用者数や被告のウェブサイ トへのアクセス数が影響を与えたとしても,これをもって,適用すべき実 施料率を下げることが相当であるということはできない。 また,被告は,プレミアム広告においては,被告ウェブサイトへのアク セス数のみが売上げに貢献するので,本件各発明は売上げに寄与,貢献し ていないと主張するが,上記と同様の理由から,そのような事情をもって 適用すべき実施料率を下げることが相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNの うち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき 3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5% と認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成30(ワ)1130  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月31日  東京地方裁判所

 102条2項について、2割の推定覆滅が認められました。同3項による認定についても触れています。損害額は15億円です。対応EP特許でドイツでも侵害訴訟があります。

ア 前記前提事実によれば,本件発明の構成要件1Eは,「該印刷層は,白色の有機\n顔料,白色または黄色の無機顔料,蛍光染料,および蛍光増白剤のうちの一以上 の着色剤を含有する」である。これに対応する被告製品(1)の構成1eは,「印刷層\nは,●(省略)●と●(省略)●を含有する●(省略)●印刷インキにより形成 されるが,」である。そして,被告製品の印刷層の●(省略)●印刷インキに含有 される●(省略)●は,「白色」の「無機顔料」に当たる。 ここでは,本件発明については,印刷層が「白色の有機顔料・・・着色剤」を含有 すれば,それだけで構成要件1Eを充足するのではなく,これにより「色相を明\nるくすること」を要するかが問題となる。
イ 本件発明の構成要件1Eには,印刷層が「白色の有機顔料,および蛍光増白剤」\nのいずれかを含有するとの記載がされているだけであり,「色相を明るくすること」 が発明特定事項として記載されているわけではない。 また,前記1のとおり,本件発明は,再帰反射シートに関する発明であるとこ ろ,本件明細書の段落【0004】には,三角錐型キューブコーナー再帰反射シ ートのうち,反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型 キューブコーナー再帰反射シートについては,その再帰反射素子の性質から金属 の色の影響を受けて外観が暗くなってしまうという欠点を有していると記載され ているものの,それ以外の再帰反射シートについては,外観の暗さが課題になっ ている旨の記載がない。また,本件明細書の【0014】,【0015】には,本 件発明の技術的意義は「色相の改善」であると記載され,段落【0021】,【0 030】,【0032】には,印刷層の目的は「色相を調節」,「色相の調整」と記 載され,段落【0036】には,「本発明に用いられる着色剤は,特に限定される ものではないが,・・・色相を明るくすることができ,且つ,隠蔽性が得られるもの が良く,シートの色相に合わせた明色系の色が好ましく,・・・白色の有機顔料や白 色や黄色の無機顔料,並びに蛍光染料や蛍光増白剤を挙げることができ,中でも, 白色や黄色の無機顔料が好ましい。」と記載されており,「色相を明るくすること」 は,「隠蔽性」を得ることや「シートの色相に合わせた」色であることと並んで, あくまで好ましい態様であるとされているにすぎない。そのため,本件発明の着 色剤の技術的意義である「色相の改善」は,色相の調節ないし調整を意味するも のであり,「色相を明るくすること」に限定されるものではないと解される。他方, 本件明細書の実施例では,白色顔料が用いられているものの,その他の着色剤と 比較して明るさが向上するとの趣旨で記載されているものではなく,比較例でも, 実施例とは印刷の模様のみを変えて,「Y値」すなわち「色相(明るさ)」には変 化がないが耐候性が改善することを確認しているにすぎない。このような本件明 細書全体の記載を考慮すれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を\n明るくすること」を要件としたものとは解されない。 以上によれば,本件発明の構成要件1Eの「着色剤」が「色相を明るくするこ\nと」を要しているとはいえないというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件特許の出願経過において,原告が,補正により本 件発明に構成要件1Eを追加し(乙21),本件発明の効果は,「色相,特に昼光\n下での色相(Y値=明るさ)が改善されて」いることであり,同構成要件の着色\n剤を用いることにより色相(Y値=明るさ)を改善したと主張しており(乙3), 同構成要件の「白色」,「黄色」,「蛍光」を用いて「色相(Y値=明るさ)」を改善\nする技術的意義を強調しているから,上記着色剤の意義は,色相を明るくするこ とにあると主張している。 しかし,原告が提出した乙21の内容を見ても,本件発明の構成要件1Eの技\n術的意義が,「色相を明るくすること」であるとは記載されていない。 むしろ,乙3には,本件発明の効果は,「十分な再帰反射性能\を有し,かつ色相, 特に昼光下での色相(Y値=明るさ)が改善されており,耐候性及び耐水性にも 優れている」ことであると記載され,Y値と同義である「色相(Y値=明るさ)」 と,それに限定されない意味での「色相」とが区別されているため,明るさに限 定されない色相の改善についても主張していると解される。さらに,乙3には, 一般に用いられている着色剤は,再帰反射性の確保のために光透過性を有するが, 光透過性を有する着色剤は光劣化しやすいという欠点があったのに対して,本件 発明の構成要件1Eの着色剤は,光透過性を有するものではないこと,本件発明\nは,構成要件1Eの着色剤を用いることにより,再帰反射シートの昼光下での色\n相(Y値=明るさ)を更に改善したこと,本件発明では,印刷領域が構成要件1\nB〜1Dを具備する独立印刷領域であるため,印刷層が光透過性を有しない構成\n要件1Eの着色剤を含有しても,それ以外の領域を通じて十分な再帰反射性能\を 有することが記載されている。以上によれば,原告は,本件特許の出願経過にお いて,本件発明の構成要件1Eの着色剤について,明るさの改善だけでなく,そ\nれ以外の効果も主張していると解されるから,そのような主張をもって,本件発 明の着色剤の技術的意義が色相を明るくすることに限定されるとまではいえない というべきである。 その他,被告らの主張を検討しても,採用すべきものはない。
エ したがって,被告製品(1)の構成1eは,それぞれ本件発明の構\成要件1E及び これを引用する構成要件2Bを充足する(なお,仮に同構\成要件の着色剤が「色 相を明るくすること」を意味するものとしても,これは相対的に色相を明るくで きるような所定の着色剤を含有させれば足り,必ずしも絶対的に「色相を明るく すること」を要するものではないというべきであるところ,証拠(甲17)及び 弁論の全趣旨によれば,被告製品では,「白色」の「無機顔料」に当たる●(省略) ●を含有しない領域よりも,これを含有する領域の方が色相も改善●(省略)● による色相改善の効果を享受)していることがうかがわれ,被告製品の●(省略) ●印刷インキの色相が暗くなっているのは,●(省略)●で色相が明るくなった 一方で,●(省略)●で色相が暗くなったにすぎないというべきであり,これに よって本件発明の構成要件1Eの充足性が否定されることにはならないというべ\nきである。)。
・・・
推定覆滅の事情
a 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の 事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益 と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると 解される。例えば,1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること (市場の非同一性),2)市場における競合品の存在,3)侵害者の営業努力(ブ ランド力,宣伝広告),4)侵害品の性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特 徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条 2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができ るものと解される。
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張 する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当 である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の 印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品 と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし, 原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明 は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。 しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技 術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独 立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料・・・着色 剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措 定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製 品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実 験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって 直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の 全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の 技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当 ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度 等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き く変化していないと主張する。 しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な 証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替 えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧 製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従 前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた 可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品 の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略) ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売 できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+● (省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。 しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競 合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨 によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性 能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認 めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売 上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。 したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの は相当ではない。
(d) さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益 率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品 のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10 2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の ●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製 品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と 同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一 定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e) 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち, 原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
・・・
ア 次に,原告は,予備的主張として,特許法102条3項の適用を前提とする損\n害額の支払を求めているため,以下検討する。
・・・
a 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の 額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「そ の特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められ ていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうと して,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無 効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額 を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還 を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常であ る状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該 特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされ た場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記 のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づか なければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べ て自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実 施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発 明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵 害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し て,合理的な料率を定めるべきである。
b そこで検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,本 件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセン ス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三 者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施 料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三 者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲 72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえ た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 〜知的財産(資産)価値 及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(平成22年3月)において,再 帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大 値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67), 被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率 を10%と主張していること等が認められる。 また,2)本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる\n発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来\n技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれな い。
そして,3)本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これ によって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるも のであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及 び利益に貢献するものと認められる。
さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり, 競業関係にある。
c 上記bの諸事情を含む本件訴訟に表れた事業を総合考慮すると,本件特許\n権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受ける べき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。 したがって,本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定さ れる損害額は,前記(1)で認定した被告旧製品の売上高の10%になる。

◆判決本文

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令和2(ネ)10029  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審はサポート要件違反として無効と判断しましたが、控訴審は約360万円の損害賠償を認めました。

イ 原告は,1)本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は,「該セル ロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず, 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれ も「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該 セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTIST A論文の記載に照らすと,「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベル オフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の 発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の 1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,2)仮に本件審 決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は,「原料パ ルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ない し6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限 値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重 合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との 差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差 分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細 書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレ ベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体に わたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして, 本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判 断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法) により測定される重合度をいう。」との記載がある。 上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものとい えるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2. 5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチ レンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。 なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セ ルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶 以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベル オフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(I NDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMIST RY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950)),その 後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはなら ない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分 の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合 度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合 度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセ ルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時, 重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき, 重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」と の記載部分は,本件出願当時,「レベルオフ重合度」とは,セルロースを 酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200−3 00に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味 することは技術常識であったこと(前記(1)イ(ア))に照らすと,レベルオ フ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではない ものと理解できる。
(イ) 1)について
a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】)。 前記(1)イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構\造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。 この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,「3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議\n論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。 しかしながら,他方で,上記意見書中には,「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(・・・)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や,「BATTI STA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば,「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。」,「「一定」といっても過酷な条件であれば 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。」,「こうした変化も含めて200 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な\nいし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長\n径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容 積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N] 及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】),錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 70N以上が好ましく(【0019】),崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ\nができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, 1)は採用することができない。
(ウ) 2)について
本件明細書には,「平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】),「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】),「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。・・・セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。 これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。 そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ\nとを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。 したがって,2)は採用することができない。
(エ) まとめ
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。 また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。

◆判決本文

1審はこちら

◆東京地裁平成29年(ワ)24598号
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。\n

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令和2(ワ)4023 特許権  民事訴訟 令和3年10月7日  大阪地方裁判所

 特102条2項による損害賠償として8割の推定覆滅が認められました。

(3) 推定覆滅について
ア 本件発明の効果
本件発明の効果は,各種タイプのチャイルドシートの背面側に装着することがで きること(【0022】),カバーの天部の高さ位置を適宜設定・変更することがで き,カバーの内部空間で,幼児の頭頂部がカバー天部に接触しないか,接触しても カバーの重みがもろに幼児の頭部に掛ることが少なくなり,居住環境が向上するこ と(【0023】)である。 要するに,本件発明の作用効果は,1)各種のチャイルドシートに装着できるこ と,2)幼児の頭部に合わせてカバーの天部高さ位置を適宜調整できることにあると いえる。 もっとも,様々な形状のチャイルドシートに対応してその略全体を被覆するチャ イルドシートカバーは従来技術として各種存在し(【0002】〜【0010】),これら は本件発明以外の適宜の方法で装着されていたのであるから,上記効果のうち1) は,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。 また,前記1ないし3のとおり,ハ号物件等,ホ号物件等及びト号物件等のよう に本件発明の技術的範囲に属しない部品によっても,装着方法によってはチャイル ドシートカバーを適宜高さ位置に装着できると考えられるから,本件発明の効果2) も,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とはいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,チャイルドシートのほぼ全体を被覆するチャイルドシートカ バーを自転車のチャイルドシートに装着する際に使用される部品である装着補助プ レートの発明である。チャイルドシートカバーを選択するのは,主に幼児の保護者 等である自転車所有者と考えられるが,装着補助プレートは,チャイルドシートカ バーそのものではなく装着に用いる補助的な部品であって,使用時にはチャイルド シートカバーの内部に隠れ,雨避け等のチャイルドシートカバーの機能そのものを\n発揮する部分ではないから,装着補助プレート自体が需要者の関心を惹き,製品選 択の直接の動機となるとはいえない。 また,本件発明の効果は,前記アのとおり,いずれも本件発明によるのでなけれ ば実現し得ない効果ではなく,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たって は,必ずしも重視できるものではないが,本件発明に係る装着補助プレートを使用 したチャイルドシートカバーの広告において前記の効果1)及び2)を謳っている場合 は,需要者に当該チャイルドシートカバーの利点,優位性を認識させるものである から,製品選択の動機となり得る事情といえる。
(イ) 証拠(甲4,5)によれば,被告は,イ号物件の特徴として,「背もたれ の高いタイプのチャイルドシートなら装着 OK」などと効果1)については謳ってい るものの,効果2)については特に宣伝していない。 また,証拠(甲6)によれば,被告は,ロ号物件の特徴としても,「各種後付け シートに対応しています」などと効果1)については謳っているものの,効果2)に関 しては,取付方法の説明において「6)最後にファスナーを閉じたら,装着完了。突 っ張る部分がある場合は,カバーの高さを調節してください。背面部分を高くセッ トしすぎるとカバーにシワが寄ったり,突っ張ったりするので適宜調節ください」 との記載があるにすぎず,カバーの高さ位置を調整できる旨を記載しているが,特 段の利点としては記載していない。 さらに,証拠(甲4,18)によれば,イ号物件及びロ号物件の購入者のレビュ ーにおいても,効果2)について記載したものはなく,単にカバーがワイヤーにより 自立して天井が高いことに係る記載があるにとどまり,証拠(甲3,16)によれ ば,原告においても,効果1)及び2)を宣伝していないことが認められる。
(ウ) 原告は,チャイルドシートカバーが自転車に常時装着されているものでは なく,使用,不使用時に取り外しを行うものであるので,需要者にとってカバーが 簡単に取り付けられるかどうかが重要であるところ,原告製品の補助プレートを用 いることでカバーの取付が従来より容易となり,需要者から支持を得ていると主張 する。
しかしながら,本件明細書によれば,「カバーを装着したままで使用するという ことが常態」(【0009】)であるというのであり,「本発明においても,上記従来 のチャイルドシートカバーと同様に,これを装着したままの状態で,自転車の不使 用時は勿論のこと,…どのような天候の際にも,幼児を乗せて使用することができ るカバーに適用可能なものである」(【0012】)とされているから,本件発明は, チャイルドシートカバーを常時装着した状態で使用することを前提としたものであ る。また,本件発明にチャイルドシートカバーの取付を容易にする効果があること は本件明細書に記載がなく,【発明が解決しようとする課題】や【課題を解決する ための手段】にも取付を容易にすることに関する記載はないから,チャイルドシー トカバーの取付が容易になることは本件発明の効果とは関係がない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,効果1)及び2)を有し,これを実施する製品の 販売等に一応貢献し得るものであるが,効果1)については需要者に重視されず,効 果2)については,イ号物件及びロ号物件において需要者にほとんどその効果が認識 されないものであって,顧客誘引力は極めて低く,イ号物件及びロ号物件の他の利 点を考慮して,これを購入した需要者が多かったものと考えられる。
ウ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,8割の損害額の推定が覆滅 されるとすべきである。

◆判決本文

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令和1(ワ)9113  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 特102条2項による損害額算定において、5%の覆滅されました。

ウ 推定覆滅について
(ア) 本件各発明の効果
本件発明1の効果は,発明に係るケーシングのコンセント部に対する設置形態を 採用することにより,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり,設置箇所\nの美観が向上されると共に,歩行の妨げになることが抑制されること,上記設置形 態を採用することで大きさ等に制限が生じるケーシング内に複数のアンテナ素子を 配置するにあたり,複数のアンテナ素子がケーシングの内壁面に沿う板状に形成さ れ,内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分\n配配置されることで,アンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって,送受信波\nの相互干渉を良好に抑制することができること(【0009】)である。 本件発明2の効果は,本件発明1の効果に加えて,ケーシングの内挿部における 四方の内壁面において,表示面部の両側縁部から後方に延出し互いに対向する一対\nの平面状側壁部が存在し,これらの平面状側壁部のそれぞれに複数のアンテナ素子 を分配配置するという合理的な構成により,これら複数のアンテナ素子を表\示面部 の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置できると共に,一対の平面状側 壁部は互いに平行な平面となるので,その平面状側壁部に沿った姿勢で配置される 複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて,指向性を決定する延出方向が設定しやす くなること(【0019】),複数のアンテナ素子が表示面部の後方側内部空間を挟ん\nで対角位置に配置されているので,それぞれのアンテナ素子間の離間距離を一層大 きくとって,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉を一層良好に抑 制することができること(【0021】)である。 本件発明3の効果は,本件発明1及び2の効果に加えて,無線 LAN に加えて有 線 LAN や電話回線が利用可能になること,表\示面部の後方側にモジュラーアダプ タが配置されているので,複数のアンテナ素子をモジュラーアダプタを間に挟んだ 状態で配置することができ,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉 が一層良好に抑制されること(【0017】)である。 要するに,本件各発明の作用効果は,1)ケーシングをコンセント部に埋設状態で 設置でき,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなることによる美観の向上\n及び歩行の妨げとなることの防止,2)複数のアンテナ素子間の送受信波の相互干渉 の抑制,3)アンテナ素子の指向性を決定する延出方向設定の容易化(本件発明1を 除く)にあるといえる。
(イ) 本件各発明の貢献の程度等について
本件各発明は,コンセント部に埋設状態で設置される情報コンセントに係る発明 であり,主として集合住宅やホテル,オフィス等に一括して設置することが想定さ れる(甲4,54,55,弁論の全趣旨)。そうすると,それらの設置を扱うイン ターネットサービスプロバイダーが原告製品及び各被告製品の主要な取引者と解さ れると共に,最終的な需要者である情報コンセントが設置される建築物の施主の意 向も,製品選択に影響することが考えられる。これらの者にとって,本件各発明の 前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。 また,証拠(甲52)によれば,被告は,各被告製品について,「標準の情報コ ンセント内に埋込み,省スペースで快適な無線 LAN 環境」,「美観重視のお客様 に適した,見た目がスマートな埋込み型」,「JIS 規格のコンセントであればメー カを問わず設置可能」などと宣伝しており,効果1)を謳っている上,「もっと電波 を強くしてほしい」という要望に応じて導入された事例や,「確実に無線が使用で きる環境でありながら,部屋に設置しても存在を意識しないデザイン」が評価され たという事例等を紹介して宣伝してもおり,効果2)を取り上げた宣伝も行っている と認められる。 そうすると,本件各発明は,少なくとも効果1)及び2)により,これを実施する製 品の販売に貢献するものというべきであって,顧客誘引力がない又は乏しいものと はいえない。
これに対し,被告は,本件各発明の特徴は従来から存在したケーシングに対して 技術常識に基づく配置を併せた点に限定されること,原告が商品の訴求ポイントと して挙げる事情は本件各発明と無関係であること,乙26文献及び乙27文献記載 の公知技術の存在を指摘して,本件各発明は売上や利益に対して寄与せず,又はそ の寄与は無視できる程度に小さいなどと主張する。 しかし,被告がその主張の前提とする本件各発明の特徴に関する理解は,本件各 発明に係る技術的思想や効果を正しく理解したものとはいえず,被告の上記主張は その前提を欠く。また,乙26文献及び乙27文献には,いずれも複数のアンテナ を配置することの記載も示唆もないから,これらの文献記載の公知技術の存在は, 本件各発明の貢献の程度を失わせるものとはいえない。 このほか,被告において,他に顧客誘引力を有すべき製品の特徴等についての主 張立証はない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 競合品の存在について
証拠(甲1,49〜52,55,56)によれば,原告製品及び各被告製品は, JIS 規格のコンセントプレートに対応した情報コンセント型無線 LAN アクセスポイ ントの製品であるところ,エレコム株式会社の製品(WAB-S733IW-PD。以下「甲 56製品」という。)も,1つの電子チップ型アンテナ及び1つの基板アンテナの 2つのアンテナ素子を有し,JIS 規格のコンセントプレートに対応した製品である から,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品であることが認められ る。もっとも,その販売開始時期,販売価格,販売実績,市場占有率その他具体的 な事情について,被告による主張立証はなく,証拠上明らかでない。また,甲56 製品のほかに,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものと認められる 製品の存在等に関する具体的な主張立証はない。 そうすると,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品として甲56 製品が存在する以上,その存在をもって特許法102条2項に基づく損害額の推定 の覆滅事由として考慮すべきではあるものの,その覆滅の程度は極めて限定的であ り,本件においては,5%の限度で推定が覆滅されるにとどまると考えるのが相当 である。
これに対し,被告は,原告製品及び各被告製品と同種の製品を販売している競合 企業が多数存在するなどと主張する。しかし,一般論として技術的に同一の製品で はなくとも市場において競合することがあり得るとしても,他社製品との競合の状 況に関する具体的な主張立証がない以上,特許法102条2項に基づく損害額の推 定を覆滅すべき事情としてこれを考慮することはできない。また,原告製品の失注 といった個別の取引事例に基づく主張については,その具体的な事情が明らかでは ないから,失注の点をもって直ちに原告製品の競争力の乏しさを示すものとは必ず しもいえない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
(3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)並びに特許法102条2項及 び3項の重畳適用について
原告は,損害額につき,選択的に特許法102条3項に基づく推定をも主張す る。しかし,その主張する額は特許法102条2項に基づき推定される損害額(前 記(2)エ)より少ない。したがって,同条3項に基づく損害額について論ずる必要 はない。 特許法102条2項及び3項の重畳適用については,前記(2)ウのとおり,本件 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは 競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関 わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎 を欠く。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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