2024.11.19
令和4(ワ)3344 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年9月26日 大阪地方裁判所
薬の製法特許の侵害として、102条1項1号の特定数量について、同項2号が適用され、計約31億円の損害賠償が認められました。
被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないもので
あることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これま\nで毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関
における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。
前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬
剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができ
るというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるよう
になったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手
段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していない\nし、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものでは\nなく、採用できない。
一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことに
より、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法 用量や効能の\n点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限
界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅
が認められるというべきである。
・・・
原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定
数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該
数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できる
ようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回
らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患
者にとって負担が軽い用法 用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされる
ことなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。
本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供
給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者に
とって負担が軽い用法 用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペ
プチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、
現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本
件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨
をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。
◆判決本文
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2024.09.16
令和3(ワ)1720 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月22日 大阪地方裁判所
電池の特許について、約5億3千万の損害賠償が認められました。
(2) 相当な実施料率について
ア 該当技術分野における実施料率の状況
本件において、本件発明1の実施許諾契約の実例を認めるに足りる証拠は
ないところ、証拠(甲43)によれば、アンケート結果による技術分類別ロ
イヤルティ料率の平均値のうち、電気の技術分類では、平均2.9%、最大
値9.5%、最小値0.5%であること、日本の司法決定によるロイヤルテ
ィ料率のうち、電気分野の平成9年から平成20年の累計は、平均値3.5%、
中央値3.0%、最高値8.0%であり、平成16年から平成20年は、平
均値3.0%、最大値7.0%、最小値1.0%であることが認められる。
イ 本件発明1の技術的意義等
本件明細書1によれば、従来の非水電解質二次電池は、作製が困難である
という課題があったことに対し、本件発明1は、正極側及び負極側において、
電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接
続部材、及び、活物質未塗工部と端子接続部材とを接続する集電接続板とを
備え、集電接続板は、発電要素の端部から中央方向に水平に延びるとともに
端子接続部材と接続される本体部と、同本体部から突設されて、活物質未塗
工部の外側面のうちの端部と活物質塗工部との間に、表面が接合される接続\n板部とを有する構成をとることにより、作製を容易にすることができる電池\nを提供することを目的とし、かかる効果を奏する発明である(【0006】、
【0008】ないし【0010】)。
また、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明1が端子接続
部材と集電接続板の本体部の構成を備えている技術的意義は、電池外装体の\n内外において、外部接続端子と集電接続板の接続板部との間の距離を長くす
ることができるようになり、外部接続端子に加えられるトルクや衝撃を接続
板部と発電要素の活物質未塗工部との接合部分に伝わりにくくすることが
可能となり、当該接合部分を損傷させたり、当該接合部分での接合が外れた\nりすることを防止できることにあることが認められる。これらの事実関係に
照らすと、本件発明1は、電池製作を容易にし、電池の耐久性を高めること
に資する電池に関する発明であることが認められる。
そして、被告が代替技術として指摘をする公開特許公報(乙66ないし69)は、いずれも発電要素からの集電を容易にする集電体を形成する構成を開示しているものの、本\n件発明1に係る構成要件B2及びC2(活物質未塗工部の端部と活物質塗工\n部との間に、表面が接合される接続板部とを有する構\成)や構成要件A4(電\n池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続
部材)に相当する構成を開示するものではないことから、本件発明1の代替\n手段であるとは認められず、その他これを認めるに足りる証拠はない(なお、
被告は、被告製品1及び3は、周知技術を用いているだけで本件発明1を用
いているわけではない旨を主張し、その証拠(乙75ないし82)を提出す
るが、被告製品1及び3が本件発明1の技術的範囲に属し、本件発明1に無
効理由は存在しないことは、前判示のとおりであって、該主張は実質的に侵
害論を蒸し返すものにほかならず、かつ、約一年間をかけてされた損害論の
審理の終盤にされたものであるから、民訴法157条に基づき、時機に後れ
た攻撃防御方法として却下することとする。)。
一方、本件発明1は、電池の機能に直接的に資するものではなく、また、\n被告製品1は蓄電システムであるところ、蓄電システムにおいて電池の占め
る価格割合は、家庭用蓄電システムでは約65.6%であること(甲47)、
被告製品3は電池パックであり、電池はその一部を構成するものであること\nから、本件発明1が被告製品1及び3の売上げに占める貢献の程度は、その
限りにおいて限定的である。
ウ その他の事情
原告と被告は競合関係にあること、原告と被告は紛争関係にあることに加
え、本件においては、被告は、確定した文書提出命令によって提出を命じら
れた文書の提出を拒み、原告は被告製品1及び3の正確な売上高の開示を受
けることができなかったことが当裁判所に顕著であるところ、この事情は、
実施許諾に当たり特許権者が実施権者の正確な販売数量、利益等を把握でき
ないリスクに相当するものであって、実施料の算定にあたり考慮されるべき
(上振れさせる)要因に当たるものというべきである。
エ 小括
上記アからウに述べた事情その他本件に表れた事情を総合考慮すると、本\n件発明1の実施に対して受けるべき料率としては「●(省略)●」を相当と
認める。これに沿わない原告及び被告の主張は、上記説示に照らし、いずれ
も採用することができない。
(3) 実施料相当額の損害
本件特許権1の侵害による実施料相当額の損害は、(1)の金額に(2)の料率を
乗じた4億4250万円となる。
該当特許は以下です
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5713127/15/ja
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6493463/15/ja
◆判決本文
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2024.09.16
令和5(ネ)10053 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年7月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所(原審・東京地方裁判所令和2(ワ)17104号)
マネースクエアHDvs外為オンラインの特許権侵害事件です。1審の東京地裁(40部)は、1審は、102条1項、2項の適用を認めず、損害額は約2015万円と認定しましたが、知財高裁は、同2項の適用を認め、約4400万円と認定しました。なお、推定覆滅の割合については伏せ字となっています。
(1) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権
者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、
同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和
元年6月7日特別部判決)。
イ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)
はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供している
ところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に
発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて\n発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能\と
して「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極
大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるとい\nえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、
特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式
の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をするこ
とにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社で
ある(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グ
ループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として
持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであ
り(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これ
は国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことに
よるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないこ
とを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施し
ているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平
成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び
指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価
することができる。
したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サ
ービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原
告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利
行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのよ
うな立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利
行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本
件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件につ
いて、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたで
あろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用するこ
とができるというべきである。
ウ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、
グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明
瞭であると主張する。
しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純
粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が
多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別で
あるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即し
た課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業
からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成
績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グ\nループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されてい
る実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及
び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価
することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
(イ) 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許
権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求す
ることによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能\nであるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグ
ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができ
る以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはな
るといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別\nの事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵
害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であっ
て、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法
102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
・・・
(3) 推定の覆滅について
ア 1審被告は、1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本
件発明の貢献は乏しいこと、2)1審原告はそもそも金融商品取引業者としての登録
を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかったこと、3)本件発明と
代替性が認められる競合サービスが多数存在したこと、4)被告サービスにおいて一
定の売上げ及び利益を獲得できたのは、1審被告による格別の営業努力があったた
めであることなどを、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張するので、以下におい
て判断する。
イ 1)本件発明の技術的価値は乏しく、1審被告の利益に対する本件発明の貢献
は乏しいとの主張について
証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によると、人気がある五大リピート系注文とし
てトラリピ(原告子会社によるサービス)、ループ・イフダン、iサイクル注文(被
告サービス)、トライオートFX、オートレールが挙げられているところ、それぞれ
のサービスの比較の項目として、取扱い通貨ペアの多さ、注文方法(指値・逆指値
か、成行注文か)、値幅・利益幅の設定の自由度、売買方向(同一通貨ペア・同一売
買方向・同一値幅の複数の注文ができるかなど)、ポジション数、自動損切の仕様、
手数料・スプレッドの金額、スワップ金利の多寡、トレール機能の有無、相場追尾\n機能の有無、スマホ対応の有無、独自コンテンツの有無などが挙げられており、こ\nれらがFX取引のサービスを利用する際の比較項目になるものと認められる。そし
て、本件発明の内容は上記比較項目のうち「相場追尾機能」に相当するものと認め\nられるところ、「リピート系注文で最も大事なのが自動損切りの仕様です」、「サービ
スの特徴が最も出るのがこの値幅と利益幅の設定方法」、「長期運用が基本となるリ
ピート系注文で成績に直結するのがこの手数料とスプレッド」、「スワップ金利は長
期間ポジションを保持し続けるリピート系注文においては大きな収入源となります」
などと「自動損切りの仕様」「値幅と利益幅の設定方法」「手数料とスプレッド」「ス
ワップ金利」を評価する記載がある一方、「相場追尾機能」についてはそれに類する\n記載はない。
そうすると、相場追尾機能をもってFX取引の利用者が重視する項目とまでは認\nめられず、被告サービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であ
るというべきであるから、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額に
は、本件発明が寄与していない部分を含むものと認められる。
以上によると、同部分が含まれることは、本件推定の覆滅事由に該当するものと
認められる。
この点に関し、1審被告は、これに加えて、仮に本件発明が被告サービスの売上
げに寄与していると解するのであれば、被告サービスにおいて実施されていた1審
被告の各発明も被告サービスの売上げに貢献しており、当該各発明の寄与率により
1審被告の利益の額を按分すべきと主張するが、1審被告が主張する1審被告の各
発明が被告サービスの利益に具体的に寄与していたと認めるに足りる証拠はないか
ら、1審被告の上記主張は採用できない。
・・・
カ 以上のとおり、市場において競合するサービスが存在していたこと、被告サ
ービスの使用の動機の形成に対する本件発明の寄与は限定的であるというべきであ
ること、1審被告が被告サービスの使用により得た限界利益額には、本件発明が寄
与していない部分を含むものといえることなどを総合考慮すると、1審被告の使用
動機の形成に対する本件発明の寄与割合は●割と認めるのが相当であり、上記寄与
割合を超える部分については、1審被告の限界利益額と1審原告の受けた損害額と
の間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるから、特許法
102条2項に基づく控訴人の損害額は、1審被告の限界利益額の●割に相当する
合計●●●●●●●●●円と認められる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2(ワ)17104
関連の侵害事件です(当事者が同じ)
◆平成29(ネ)10073
原審
◆平成28(ワ)21346
こちらは、原告被告が逆の侵害事件です。
◆平成29(ワ)24174
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2024.08.26
令和5(ネ)10052等 特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴、民訴法260条2項の申立て事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審では約15億円の損害賠償でしたが、知財高裁は約8億としました。
その理由は、原審と異なり、102条1項、および2項の適用は認められたが、その一方102条3項の損害賠償率が一審の30%から、15%と低く認定されました。その結果、102条2項による損害額が一番高いので、結果として約8億と認定されました。
当裁判所は、原審と異なり、本件においても特許法102条1項及び2項の
適用は否定されない一方、同条3項につき原審が適用した相当実施料率30%
は過大であると思料し、これを前提に、当審における請求原因(侵害の対象取
引)の追加も踏まえて、同条2項に基づいて認められる損害8億3191万6
753円の限度で損害賠償請求を認容すべきものと判断する。その理由は、以
下のとおりである。
・・・
(3) 以上の事情を踏まえて検討する。
SDダイサーのメーカーは、国内では、控訴人と、被控訴人からSDエ
ンジンの供給を受けるディスコ社に限られている。
EO社等の国外メーカーの販売実績は明らかではないが、サムスン社が
被控訴人による特許権侵害との指摘を受けてEO社との取引を中止するに至
っていることに鑑みれば、競合メーカーの参入は、不可能とまではいえないまでも、相当限定されたものと推認される。\nそうすると、ステルスダイサーの販売者は、控訴人と上記ディスコ社で
大部分を占める状況にあると認められる。
また、本件において、被控訴人製SDエンジンは、本件訂正発明1並び
に本件発明2−2及び本件発明2−3の技術の中核をなすものであり、そ
の侵害品である被告製品にとっても、その技術の中核的部分に相当すると
いえる。そうすると、被告製品の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する\n部分であり、商品としての競争力の源泉になっているものと解される。
このように、ステルスダイサーの国内市場における販売者は、控訴人と、
被控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社にほぼ限定されてい
ること、被控訴人製SDエンジン自体は、ステルスダイサー製品の部品に
とどまるものではあるが、その技術の中核をなすものであって、被告製品
の構成中、被控訴人製SDエンジンに相当する部分がステルスダイサー製品としての不可欠の技術的特徴を体現する部分であり、商品としての競争\n力の源泉になっているものと解されることからすると、本件において、侵
害者による特許権侵害行為がなかったならば特許権者に利益が得られたで
あろうという事情が認められるというべきである。
これを他の表現でいえば、被控訴人が主張するとおり、特許権者が販売する部品を用いて生産された完成品と、侵害者が販売する完成品とは、同\n一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、完成品市場における部品
相当部分の市場利益に関する限りでは、特許権者による部品の販売行為は、
当該部品を用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、侵害品(完成
品)の譲渡行為と間接的に競合する関係にあるということもできる。
(4) 控訴人は、知財高裁令和4年10月20日判決(椅子式マッサージ機事件)
は、特許権者が、侵害品と「需要者を共通」にする「同種の」「競合品」で
あって「市場において・・・競合関係にある製品」を輸出・販売していた場合
に初めて、特許法102条2項による推定が正当化されることを踏まえたも
のである旨主張するが、同判決の事案が、控訴人の指摘する場合であったと
いうにすぎず、そのような場合以外に同項が適用されないことまでは判示す
るものではない。
被控訴人製SDエンジンの1個当たりの利益の額は、(1)の被控訴人製S
Dエンジンの1個当たりの価額から(2)の原価を控除した●●●●円である。
その●●台分は●●●●●●●円であり、前記の特許法102条2項に基づ
き算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件において
同条1項に基づく損害は、採用の限りでない。
・・・
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度
の損害額を法定した規定であって、同項による損害は、原則として、侵害品
の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべ
きである。そして、平成10年法律第51号による改正により、「通常受け
るべき金銭の額」という同項の規定のうち「通常」の部分が削除された経緯
に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも特許権につい
ての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、
特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべ
き料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮し
て、合理的な料率を定めるべきである。
(2) 本件における当てはめ
ア 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等(1))、特許権者と侵害者
との競業関係や特許権者の営業方針等(4))
(ア) 前記のとおり、被控訴人は、その開発に係るステルスダイシング技術
の中核的ユニットであるSDエンジン一式の製造については、自社製造
を必須とし、一切製造ライセンスを許諾せず、SDエンジンの販売利益
により先端技術の研究開発を継続するものであり、そのため、被控訴人
は、アライアンスパートナーに対し包括ライセンスを付与するに当たっ
ては、被控訴人製造に係るSDエンジンの販売を大前提として、当該販
売とSD技術関連特許に関する特許発明のロイヤリティの支払を不可分
一体の条件とするものであり、被控訴人は、アライアンスパートナーに
対しては、本件特許発明を含めたSD技術関連特許につき、SDダイサ
ーの最終販売価格の●%という実施料率に基づき、包括ライセンスを行
っており、他方、被控訴人からSDエンジンを購入しないSDメーカー
に対しては、SD技術関連特許を包括ライセンスすることは一切ないも
のである。したがって、被控訴人と控訴人の間では、当初本件業務提携契約に
よりライセンス料が●%とされ、その後、●●●%に値下げされたが
(乙15)、この実施料率を相当実施料率算定の基準とするのは相当
でない。
(イ) 前述のとおり、ステルスダイサーの販売者としては、控訴人と、被
控訴人からSDエンジンの供給を受けるディスコ社が大きな割合を占
めており、両者の競合関係は明らかである。
・・・
以上のとおり、被控訴人と控訴人の間では、当初ライセンス料が●%と
され、その後、●●●%に値下げされたが、これは、控訴人において被
控訴人製SDエンジンのみを使用してSDダイサーを製造販売すること
が前提となっているから、この前提を欠く場合に、上記ライセンス料の
みをもって受けるべき料率とするのは相当でなく、他方、被控訴人製の
SDエンジンの利益そのものを特許法102条3項の料率の基準とする
ことも相当でないこと、一般的なライセンス料の傾向、控訴人と被控訴
人は競合状態にあること、本件訂正発明1については本件発明2−2や
本件発明2−3により補わなければならない点があるところ、被告製品
(低追従)は本件発明2−2及び本件発明2−3の技術的範囲に属さな
いこと等の事情を総合すれば、本件において被控訴人が実施に対し受け
るべき料率としては、15%と認めるのが相当である。
・・・
本件において特許権の侵害が認められるNo.●●●●の販売額合計は、別紙
6認容額計算表のとおり●●●●●●●●●●●●円であり、これに15%を乗じると、●●●●●●●●●●●円となる。これは、特許法102条2\n項に基づき算定される損害額7億5628万7981円を下回るから、本件
において、同条3項に基づく損害は、採用の限りでない。
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2024.07.21
令和3(ワ)2873 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
大阪地裁は、102条2項の計算のために文書提出命令をしましたが、被告は提出しませんでした。原告の主張の通りだと利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限界利益率を、約31%としました。
原告は、被告が、本件書類提出命令にもかかわらず、正当な理由なく、本件提出
対象書類を提出しなかったなどとして、民訴法224条3項により、本件証明事実
を真実であると認めるべきであって、前記被告製品10台に係る限界利益を157
3万8528円と認定すべきである旨主張する。
この点、確かに、被告が本件書類提出命令に応じて本件提出対象書類を提出した
とは認められないものの、本件証明事実に係る原告の主張によると、被告製品10
台の利益率は6割を超えるものとなって、合理的とは言い難いことから、被告の限
界利益の額を前記のとおり認定するのが相当である。
(3) 損害の不存在ないし推定覆滅について
ア 被告は、佐賀県畜産公社においては、被告製品の購入に当たって競争入札が
行われたところ、原告と被告が入札して被告が落札したのであって、落札により販
売業者は1社に決定されるから、原告と被告が競合するような市場は存在せず、侵
害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないとした上
で、ミヤチク、いわちく及びフードパッカー津軽についても同様であって、原告に
損害はなく、特許法102条2項は適用されない旨主張する。
しかしながら、そもそも、被告が主張する競争入札の存在や具体的内容が明らか
ではないところ、佐賀県畜産公社においては、競争入札自体は行われたとしても、
原告も同じ競争入札に参加していたというのであるし、その他の入札についても原
告に参加資格があり、落札したとされる被告が参加していなければ(本件特許権の
侵害品である被告製品がなければ被告は参加できなかったと考えられる。)、原告
が落札した可能性もあることを考慮すると、原告において被告の侵害行為がなかっ\nたならば利益が得られたであろうという事情は存在しない旨の被告の主張は採用で
きない。
イ 被告は、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」が本件発明の
唯一の特徴的部分であるといえるところ、仮に被告製品がこの構成要件を充足する\nとしても、利益に対して貢献しているのはその余の侵害品の性能(機能\、デザイン
等特許発明以外の特徴)であって、損害の推定覆滅事情に当たる旨主張する。しか
しながら、筒状容器の「内壁が平面視で多角形状に形成される」部分以外で顧客誘
引力のある被告製品の具体的性能や、その性能\の顧客に対する訴求の程度は明らか
でないから、被告の主張は採用できない。
ウ さらに、被告は、本件発明では旋回流を利用するのに対して(甲5)、被告
製品(乙15)では、突部9(別紙「被告製品写真・図面」の図2参照)が邪魔
板(バッフル)となって旋回流を阻害することで、上下循環流発生を発生させ、豚
足をランダムな動きとするものであり、また軸流においては豚足が下方へ潜り込ん
でいくこと、邪魔板(バッフル)に衝突することによる脱毛、豚足同士の水平方向
及び上下方向の衝突による脱毛の効果が甚だ大きく、性能において本件発明と比較\nして顕著な相違があるから、特許法102条2項の推定は覆滅される旨主張する。
この点、原告製品の動画(甲5)と被告製品の動画(乙15)とを比較すると、
豚足の動きに一定の差があり、被告製品では豚足が下に潜り込むような動きをして
いるように見え、被告が主張する上下方向の動きがあることがうかがわれる。かか
る動きによる豚足の脱毛効果への影響の程度や、その性能の被告製品の売上げへの\n貢献の程度は必ずしも明らかでなく、前記の性能を理由とする推定覆滅が認められ\nるとしても、その割合は、5%を超えるものではないというべきである。
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2024.06.16
令和4(ワ)2058 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月30日 大阪地方裁判所
特許権侵害が認定され、差止と約1890万円の損害賠償が認められました。尚、102条2項の覆滅分についての同3項の適用は否定されました。
(1) 特許法102条2項に基づく主張について
ア 限界利益額
被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品
を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円
(税込)である。(争いなし)
被告は、被告各製品における本件訂正発明2−1、同2−3及び本件発明3の実
施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する
限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅
事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得
た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける
ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱
包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2−1、同2−3及び本\n件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし)
原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2−1、
同2−3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の\n使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ
優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強
い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分
実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。
確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密
性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え
ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹
脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること
が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお\nいて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で
あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の
容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴
と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ
イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に
おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。
そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相
当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂
正発明2−1、同2−3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱
性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、
被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ
は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ
り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。
また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品
は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型
がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。
これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点
検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各\n製品と同程度の形状、性能、機能\及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製
品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同
じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ
ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検
口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能\、
操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途\n等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や
訴求されている性能や機能\、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と
までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各
製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙
第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは
否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、
これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、
通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ
いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証
拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
(エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する\nなどと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。
以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合
品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度
で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告
の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が
「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り
は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。
この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者
が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の
売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推
定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、
特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による
実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される
ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令
和4年10月20日特別部判決参照)。
本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一
つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに
足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する
ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推
定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による
原告の損害であると認められる。
また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用
171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。
したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。
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2024.06. 9
令和5(ネ)10037 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、明細書の記載を参酌して、102条1〜3項による計算を行い、102条3項による計算の方が高いとして、約1億3000万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、102条1項の規定の計算の方が高いとして、1億3700万円の損害賠償を命じました。
(2) 特許法102条2項の適用について
ア 特許権者が特許権侵害を理由に民法709条の不法行為に基づく損害賠償を
請求する場合には、特許権者において、侵害者の故意又は過失、自己の損害の発生、
侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額を立証する必要があるところ、特許法
102条2項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対し
その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵
害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害
の額と推定すると規定している。
イ この規定の趣旨は、特許権者による損害額の立証等には困難が伴い、その結
果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者
が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と
推定し、これにより立証の困難性の軽減を図ったものであり、特許権者に、侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、特許権者がその侵害行為により損害を受けたものとして、特許法1
02条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成25年
2月1日特別部判決(同裁判所平成24年(ネ)第10015号)、同裁判所令和元
年6月7日特別部判決(同裁判所平成30年(ネ)第10063号)、令和4年特別
部判決参照)。
ウ これを本件について、前記(1)の認定事実を前提として検討すると、本件では、
原告のSDエンジンは、SD装置が本件各発明を含むステルスダイシング技術を用
いたレーザ加工機能を実現するために必須となる部品であって枢要な機能\を担うも
のであり、被告による被告旧製品(侵害品)の製造及び輸出・販売行為がなかった
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
ならば、原告は自らのSDエンジンを被告又は他のSD装置の製造者に販売するこ
とにより、輸出・販売された被告旧製品に対応する利益が得られたであろうという
ことはできる。しかしながら、原告はSDエンジンを販売していたものであって、
侵害品と同種の製品であるSD装置を製造・販売していたものではない。また、原
告において自らSD装置を製造する能力があり、具体的にSD装置を製造・販売す\nる予定があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の逸失利益はあくまでもS\nDエンジンの売上喪失によるものであって、SD装置の売上喪失によるものではな
い。そして、SD装置とSDエンジンとは需要者及び市場を異にし、同一市場にお
いて競合しているわけではない。したがって、SD装置の売上げに係る被告の利益
全体をもって、原告の喪失したSDエンジンの売上利益(原告の損害)と推定する
合理的事情はない。
エ この点、原告は、被告旧製品の限界利益のうち、SDエンジン相当部分の限
界利益が原告の損害と推定されるべきであるとも主張する。しかし、SDエンジン
は、SD装置の一部を構成する部品であって、その対価は製造原価を構\成する多数
の項目の一つにすぎない。そして、本件において、SD装置の限界利益のうちのど
の程度の部分が、それぞれの部品に由来するものであるかを特定するに足りる事情
はなく、「SDエンジン」に由来する部分を特定することは困難というほかないので
あって、「SDエンジン相当部分」の限界利益を一義的に特定することはできない。
仮にこれを算出する場合にも、確立した算出方法があるわけではなく、どのような
要素を考慮し、どのような論理操作を行うかによって様々な結論を導くことが可能\nであるから、このように算出された限界利益の「SDエンジン相当部分」をもって
本件における原告の損害を推定し、覆滅事由の主張立証責任を転換するための合理
的な基礎とすることはできないというべきである。したがって、原告の前記主張は
採用することができない。
オ 以上によれば、本件において、侵害者による特許権侵害行為がなかったなら
ば利益が得られたであろうという事情があるとして特許法102条2項の規定の適
用が認められるとはいえるものの、SDエンジン相当部分の限界利益を特定するこ
とができないから、同項の推定規定により本件における原告の損害を認定すること
はできない。前記各知的財産高等裁判所特別部の判決は、いずれも特許権者等にお
いて特許実施品又は侵害品と市場及び需要者を共通にする製品を販売等していたと
いう事情が存在する事案について判断したものであるから、本件について、上記の
ように解することと矛盾するものではない。原告は、知的財産高等裁判所令和4年
8月8日判決(同裁判所平成31年(ネ)第10007号)も引用するが、同判決
の事案は、特許権者が完成品を販売し、侵害者が間接侵害品である部品を販売して
いた事案であって、本件のような完成品の限界利益中の当該部品に相当する部分の
特定が問題になった事案ではないから、同項の適用に関する前記結論を左右するに
足りるものではない。
そうすると、本件における原告の損害の認定は、特許法102条2項の推定規定
の適用以外の方法で行うのが相当である。
(3) 別件訴訟2(965特許)の考慮について
被告は、別件訴訟2の対象特許である965特許による侵害を考慮し、本件と別
件訴訟2において損害額を2分の1とするのが相当であると主張するが、各対象製
品の製造・販売等が965特許を侵害するものであるか否かという点は、本件訴訟
の審理対象となっているものではなく、仮に本件において原告に生じた損害のうち、
965特許の侵害による損害と重なる部分があるとしても、本件において965特
許の侵害が成立することを前提として損害額を算定することは相当ではないから、
損害の算定方法にかかわらず、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 特許法102条1項(令和元年法律第3号による改正後のもの。本件は改正
法の施行日(令和2年4月1日)前の事案であるが、経過規定は設けられていない
から、以下においては、改正後の条文を適用する。)による損害額の算定
ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益
の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、侵害者の譲
渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者がその侵害行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者の実施の能力の限度で\n損害額とするが、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売するこ
とができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の
立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規
定である(知的財産高等裁判所令和2年2月28日特別部判決(同裁判所平成31
年(ネ)第10003号)参照)。
特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者が「侵害の行為が
なければ販売することができた物」(同項1号)とは、侵害行為によってその販売数
量に影響を受ける特許権者の製品であれば足り、特許権者が特許実施品又は専ら特
許実施品の生産のために用いる物(部品)を販売しており、侵害行為がなければ、
特許権者は自らの製品を販売することができたという関係にある場合には、特許権
者は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品を販売していたというこ
とができるから、同項の適用が是認される。
そして、本件では、前記(2)のとおり、被告の侵害行為がなければ、原告はその製
造する原告エンジンを販売することができ、これにより利益を得ることができたも
のと推認され、原告は、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品である
原告エンジンを販売していたということができるから、同項を適用することができ
る。
イ 限界利益
原告は、原告エンジンの限界利益について●●●●●●●●●円であると主張す
るが、前記認定事実のとおり、原告は被告に対し、●●●●●円で原告エンジンを
販売していたのであるから、上記の限界利益額をそのまま採用することはできない。
そして、原告従業員の陳述書(甲73)によると、被告旧製品(対象製品1(2)B)
のSDエンジンの競合品である原告エンジン(800DS一式)の原価は●●●●
●円(1万円未満切り捨て)であり、これを前提とすると、原告エンジンの一台当
たりの限界利益は●●●●●円(=●●●●●円−●●●●●円)、●●台分の限界
利益は4億1280万円となる。
なお、LDモジュールは侵害行為がなければ特許権者である原告が販売できた物
であると認めるに足りないから、LDモジュールに係る部分は考慮しない。
ウ 推定の覆滅
本件各発明は、ステルスダイシング機能そのものに係るものではなく、同機能\を
用いて加工対象物をレーザ加工する際の端部の処理に関するものであること、本件
各発明に係る技術については、AF低追従を用いるという代替技術や、端部におい
てはレーザ加工をしないという手法(エッジオフ)が存在し、現に、被告がAF低
追従を用い、エッジオフ機能を有する被告新製品を販売していることからすると、\n本件各発明自体の顧客吸引力が高いとは認められないこと、原告エンジンを組み込
んだ被告又はディスコ社のSD装置が被告旧製品と全く同じ性能や機能\を有するも
のではないこと、被告が個々のユーザの製造プロセスや加工対象物の形状に応じて
SD装置の仕様を変更し、モジュールを開発して提供するなどして被告製品を販売
していたこと等、本件に表われた事情を総合すると、特許法102条1項1号の「特\n許権者が販売することができないとする事情」に相当する数量は、7割であると認
めるのが相当である。
エ 損害額
以上によると、特許法102条1項により算定される損害額は、1億2384万
円(=4億1280万円×(1−0.7))であり、同条3項により算定される損害
額(後記(5)イ)を上回る。
なお、原告は、同条1項による損害額の算定においては、原告エンジン一台当た
りの限界利益額に侵害品の販売台数を乗じた金額に、1台当たり300万円の実施
料相当額を加算すべきであると主張し、同項2号の規定は、同項1号の実施相応数
量を超える数量又は特定数量がある場合において、一定の条件で実施料相当額の損
害を加算することを認めている。しかし、前記ウで認定した「特許権者が販売する
ことができないとする事情」に相当する数量は、その性質上、特許権者が実施許諾
をし得たものとは認められないから、本件では、同項2号の規定を適用して、実施
料相当額を加算することはできない。したがって、原告の主張は採用することがで
きない。
◆判決本文
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◆平成30(ワ)28931
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2024.05.26
令和5(ネ)10084 特許権侵害損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件の控訴審判決です。1審は約4400万円の支払いを命じましたが、知財高裁(3部)は、約1800万円に減額しました。これは実施料率が1審0.5%控訴審0.2%となったためです。
当裁判所は、第1審原告の請求のうち、1755万3642円及びうち12
69万1831円に対する平成21年9月27日から、うち25万3585円
に対する平成22年9月26日から、うち170万7608円に対する平成2
4年9月30日から、うち290万0618円に対する平成25年9月29日
から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理
由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきで
あると判断する。その理由は、当審における当事者の主張も踏まえて原判決を
後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における第1審原告の補充主張に
対する判断を付加し、後記3のとおり当審における第1審被告の補充主張に対
する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4(原判決45頁2行目
から94頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・・
原判決92頁1行目の・・・、同頁5行目の「0.5%」を「0.2%」に、それぞれ改める。
◆判決本文
原審はこちら。
◆令和2(ワ)13317
関連事件です。
◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2024.02. 8
令和2(ワ)29523 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月15日 東京地方裁判所
施工方法の特許について、差し止めと損害賠償約300万円が認められました。算定は102条2項ですが、判決文中に控除される経費として具体的に記載されています。一つが下請業者への支給した栄養ドリンク剤です。
(1) 特許法102条2項所定の「その利益の額」について
前記9において説示したとおり、被告とAAによる本件工事の施工に係る
本件特許権侵害について共同不法行為が成立するから、原告が受けた損害の
額と推定される特許法102条2項所定の「その利益の額」は、本件工事に
よって、被告が受けた利益の額とAAが受けた利益の額との合計額となる。
(2) 被告の受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)イのとおり、被告が受領した本件工事の施工についての請負
代金の額は、377万2224円(税抜代金349万2800円、消費税
相当額27万9424円)と認められる。
そして、消費税法基本通達5−2−5柱書及び(2)によると、「無体財
産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する
損害賠償金」は、資産の譲渡等の対価に該当するものとされていることか
らすれば、特許法102条2項の「侵害の行為により利益を受けていると
き」にいう「利益」には消費税相当分も含まれると解すべきである。
したがって、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎となる売上高
は、377万2224円(消費税込み)というべきである。
イ 控除すべき経費
(ア) 材料費 100万3320円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(イ) 外注費 58万2740円(消費税込み)
証拠(乙64ないし69)によれば、被告は、本件工事の一部の施工
を下請業者に発注し、日当、残業代、ガソリン代及び高速料金代並びに\n飲料水代として、合計58万2740円(消費税込み)を支払ったこと
が認められる。
そして、証拠(乙80)により認められる本件工事の施工期間、施工
内容等に照らせば、上記支払のうち、日当、残業代、ガソリン代及び高\n速料金代は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たる
ものと認められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記の下請業者に対する支払のうち、
飲料水代については、暑い現場で作業している下請業者が水分補給でき
るようにとの趣旨で購入されたものと認められるところ、その内容及び
金額の水準に照らせば、当該支払についても、本件工事の施工に直接関
連して必要となった経費に当たると認めるのが相当である。
(ウ) 交際費 7201円(消費税込み)
証拠(乙70、80)によれば、被告は、本件工事の施工期間中、前
記(イ)の下請業者の昼食代として合計7201円(消費税込み)を負担し
たことが認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、当該
負担は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるもの
と認められる。
(エ) 消耗品費 1527円(消費税込み)
証拠(乙71)によれば、被告は、ポリ袋及びコピー用紙を合計69
7円(消費税込み)で、ナチ六角軸鉄工ドリル及び「リポビタンD」と
いう商品名の栄養ドリンク剤を合計830円(消費税込み)で、それぞ
れ購入したことが認められる。
そして、証拠(乙80)によれば、上記ポリ袋は、現場において発生
した廃材を処理するため、上記コピー用紙は、現場においてメモをとる
ため、上記ナチ六角軸鉄工ドリルは、母屋材にビス孔を空けるドリルの
交換用として、それぞれ購入したものと認められるから、これらの支払
は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費に当たるものと認
められる。
また、証拠(乙80)によれば、上記「リポビタンD」は、暑い現場
で作業している下請業者が栄養補給できるようにとの趣旨で購入された
ものと認められるところ、その内容及び金額の水準に照らせば、本件工
事の施工に直接関連して必要となった経費に当たると認めるのが相当で
ある。
(オ) 旅費交通費 310円(消費税込み)
当事者間に争いがない。
(カ) 車両費 6000円(消費税込み)
証拠(乙78、80)によれば、被告代表者は、本件工事の施工期間\nである令和元年7月5日から同月9日まで、数名の作業員や様々な工具
類・装備品を同乗・積載させた車両を運転して、当時の被告所在地(省
略)と施工現場との間を往復したこと、当時の被告所在地と施工現場と
の間の道のりは40キロメートル以上であることがそれぞれ認められる。
そして、弁論の全趣旨によれば、1キロメートル当たりのガソリン代\nは15円(消費税込み)を下回らないと認められるから、これらを基礎
として算定したガソリン代相当額6000円(=15円×40キロメー\nトル×2×5日)は、本件工事の施工に直接関連して必要となった経費
に当たるものと認められる。
(キ) 合計 160万1098円(消費税込み)
ウ 小括
前記ア及びイによれば、被告が本件工事の施工により受けた利益の額は、
217万1126円(消費税込み)と認められる。
(3) AAの受けた利益の額
ア 売上高
前提事実(5)アによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる売上高は、472万3920円(消費税込み)と認められる。
イ 控除すべき経費
前提事実(5)イによれば、特許法102条2項所定の損害額算定の基礎と
なる控除すべき経費は、377万2224円(消費税込み)と認められる。
ウ 小括
前記ア及びイによれば、AAが本件工事の施工により受けた利益の額は、
95万1696円(消費税込み)と認められる。
(4) 損害額
前記(2)及び(3)によれば、特許法102条2項により算定される原告の損
害額は、312万2822円と認められる。
◆判決本文
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2024.02. 7
令和3(ワ)18262 損害賠償請求事件(特許権侵害) 特許権 民事訴訟 令和5年12月6日 東京地方裁判所
特102条3項のライセンス料として、通常の5%を根拠に6%の損害が認められました。被告の公式ホームページにおいて、販売数量について「30万着突破!」と記載されていたことは、虚偽であると認定されています。
ア 証拠(乙18、29、30)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年1月
22日から令和4年2月22日までの間の被告製品の売上高は、1億17
57万6451円であったと認められる。
イ(ア) 原告は、被告が、令和2年1月1日から同月21日までの間も被告製
品を販売したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また、原告は、被告の公式ホームページにおいて、被告製品の販売数
量について「27万着突破!」、「30万着突破!」と記載されていたこ
とを指摘して、被告製品の販売数量は少なくとも27万着であり、これ
に1着当たりの単価5980円を乗じると、被告製品の売上高は16億
1460万円を下らないと主張する。
そこで検討すると、確かに、証拠(甲4、14)によれば、被告の公
式ホームページにおいて上記の記載がされていたことが認められるもの
の、同ホームページに記載されていた販売価格(5980円。弁論の全
趣旨によれば、この価格はブラジャーの一般的な販売価格として相当な
ものと認められる。)を前提とすると、前記アにおいて認定した被告製品
の売上高は、請求書記載の被告製品の輸入数量(乙17)、被告製品に係
る販売管理データ記載の販売数量(乙18)、被告の損益計算書記載の売
上高(乙20、21)、被告における被告製品以外の売上高(乙22ない
し24)と整合的であるといえる。これに対し、被告製品の販売数量が
27万着以上であることを示す資料は、被告の公式ホームページの記載
以外に存在しない。
これらの事情に照らせば、令和2年1月22日から令和4年2月22
日までの間の被告製品の売上高は前記アにおいて認定したとおりであっ
て、被告の公式ホームページにおける販売数量の記載は虚偽のものであ
ったと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
(2) 相当な実施料率について
ア 本件発明の実施に対し受けるべき料率については、1)本件発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界にお
ける実施料の相場等も考慮に入れつつ、2)本件発明自体の価値すなわち本
件発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)本件発明を被
告製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者
である原告と侵害者である被告との競業関係や特許権者である原告の営業
方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきで
ある。
イ 本件についてみると、本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率
は、5パーセントであることが認められる(甲15ないし18)。
また、本件発明は、多種多様の女性用衣料を個々に用意することなく、
個人差を有する女性のバスト等のサイズや形、あるいはバストアップ等の
補正機能等に対応することが可能\な女性用衣料を低コストで提供すること
を可能とするものであるところ(前記1(2)イ)、被告製品も、女性のバス
トの補正を主たる機能としたものであるから(甲3、4、14)、本件発明\nを被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると
認めるのが相当であって、他のものによる代替可能性はうかがわれない。\nさらに、原告と被告は、いずれも女性用衣料を販売しているから(前提
事実(1)、(5)及び(6))、その市場において競業関係にある。
これらの事情に照らすと、特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
る本件発明の実施に対し受けるべき料率については、6パーセントと認め
るのが相当である。
(3) 特許法102条3項により算定される額について
以上によれば、特許法102条3項により算定される本件発明の実施に対
し受けるべき金銭の額に相当する額は、705万4587円(1円未満四捨
五入)と認められる。
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2024.02. 5
令和3(ネ)10084 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害について、1審の約15億円の損害賠償判決がなされました。双方控訴しましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
【当審における双方の補充的主張に対する判断】
(1) 第1審原告の補充的主張について
ア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、1)対象期間における原反ロー
ルの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、2)原
反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが
多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。
しかし、1)については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあること
を考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何
ら不自然ではない。2)についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品
番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであ
り(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特
段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告
製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告
は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や
製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算
鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第
1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから
信用性が失われるものでもない。
また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果で
ある甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をす
るが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が
高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●●
●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、
推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の
製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、か
えって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定\n覆滅を肯定する事情であるにすぎない。
(2) 第1審被告らの補充的主張について
ア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」\nの番号6〜8、11〜14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連し
て追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す
る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造
販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべ
きであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。
イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77%
の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠と
する理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で
きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブラ
ンド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められな
いか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法1
02条2項の推定を覆すに足りるものではない。
◆判決本文
1審における推定覆滅の事情は以下です
◆平成30(ワ)1130
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
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2024.01.30
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
特許権侵害の損害賠償として、約11億円が認められました。102条2項の推定覆滅なしと認定されました。
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
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2024.01.24
令和1(ワ)17622 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月14日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。
本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に
おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物
を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小
さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工
程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に
係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、
当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は
物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限
定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当
該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占
権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に
おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、
又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に
害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請
求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許
法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは
いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷
判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において
は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ
の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的
でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠
もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい
て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004
1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に
よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面
には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい
う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件
特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精
度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り
工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの
かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは
いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
◆令和3(行ケ)10140
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