2020.12.21
令和2(ネ)10039 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年12月1日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許侵害事件で、1審ではサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁も同じ判断をしました。発明はアンテナなのでサポート要件違反は珍しいですね。原審(東京地裁平成30年(ワ)5506号)はアップされていません。
前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記
載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子
の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン
テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ
により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を
及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同
等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説
明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている
ところ(【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19),
これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ
の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が,
発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず
るかどうかを確かめるものと認められる。
そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発
明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的
に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる
ことを示すものであると認められる。
(3) 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か
ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3(2)のとおりであり,1)アン
テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ
とは構成要件とされてはおらず,また,2)仮にアンテナ素子に加えて平面
アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ\nれていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加
えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に
も,1)そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて
いないアンテナ装置の発明を含み,また,2)アンテナ素子に加えて平面ア
ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面
アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置
の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと
おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ
ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを
備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の
下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,1)アンテナ素子以外に
平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び2)
アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの
の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.
25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された
発明ではない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発
明であるとは認められない。
(4)請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は
出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるか発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい
ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子
に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影
響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記
(2)ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し
か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて
新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項
1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット
が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記(3)ア),そのような
構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,\n請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課
題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ
ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ
ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含
むが(前記(3)ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平
面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以
上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ
トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記
載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された
発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段
によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が
課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。
その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは
示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき
る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し
くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲のものであるとは認められない。
◆判決本文
関連訴訟(原告被告が同じ)はこちらです。
◆平成27(ワ)22060
◆平成26(ワ)28449
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2020.11.21
平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月11日 東京地方裁判所
東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。
本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は,
「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1
取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情
報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判
定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前
記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる
ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と
第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。
そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない
し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致
するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の
形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時
間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では,
患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード
を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0
045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者
用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療
行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患
者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用
画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ
では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン
ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記
載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医
療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい
る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1
判定と第2判定との関係についての記載はない。
また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請
求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である
が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時
間的接着性についての記載はない。
本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載
によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ
いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】
ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記
のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている
が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は
ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判
定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし,
本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト
バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判
定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する
患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定
の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると
判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必
要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている
といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判
定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定
がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が
されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして
も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ
ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする
医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記
載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。
◆判決本文
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2020.11.21
平成30(ワ)21448 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年7月9日 東京地方裁判所
被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。
イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において
は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が
こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない
という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\
成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的
なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において,
円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付
ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】)
において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン
グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法
を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安
定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも
のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続
くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言
の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状
ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ
ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ
ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状
の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。
しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ
ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ
れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を
隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな
く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部
には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は
「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ
とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効
にされるべきもの(同法123条1項2号)である。
なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10
102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審
判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ
を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩
性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは
ないから,再開の必要性は認められない。
◆判決本文
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2020.09.26
平成29(ワ)22010 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権 民事訴訟 令和2年2月5日 東京地方裁判所
実用新案登録に基づいて、損害賠償請求が認められました。争点は、技術的範囲、間接侵害、無効(冒認)、先使用権と多いです。無審査登録の実案なので、訂正したあと評価書請求をして警告後の権利行使です。
ア 構成要件Dは,取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐により取出し筒から引き出した命綱の周囲を緊縛して,取出し筒の開口部を密閉する」というも\nのであり,それによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損な
わないという作用効果を奏するものであるところ(前記1(1)ア(イ)),上記の「緊
縛」については,「きつくしばること」という一般的な字義(乙1)のとおり,口
紐により命綱の周囲をきつく縛ることを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は,「緊縛」は,口紐を取出し筒の先端部に巻き付け,その両端を絡ま
せてつなぎ合わせることを意味すると解すべきであるとし,その理由として,1)
「縛る」に「ひもや縄などを巻き付けて結び,離れたり,動いたりしないようにす
る」という字義があり,「結ぶ」に「ひも・帯などの両端をからませてつなぎ合わ
せる」という字義があること,2)本件明細書の図4に,口紐を筒部先端部に巻き付
け,その両端を絡ませてきつく縛り,筒部の開口部を密閉する態様の実施例が示さ
れていることなどを主張する。
しかしながら,被告が主張するような態様によらなくとも,筒部の開口部を密閉
することによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損なわない
という作用効果を奏することは可能であると考えられるところ,上記1)については,
「緊縛」の一般的な字義を離れて,その意味を過度に限定するものであり,上記2)
についても,実施例にすぎず,本件明細書の考案の詳細な説明において,口紐を筒
部先端部に巻き付け,その両端を絡ませてきつく縛る態様のものでなければならな
いとする説明もみられないことなどに照らせば,いずれの主張も採用することはで
きず,「緊縛」がそのような態様のものに限定されると認めることはできない。
(2) 被告製品
これを被告製品についてみると,前記第2の2(6)のとおり,被告製品は,ランヤ
ード取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐をランヤード取出し筒から引き
出したランヤードの周囲に巡らせ,コードストッパーを用いて筒部先端部分を収縮
させることにより,ランヤードを固定して,ランヤード取出し筒の開口部を密閉す
る」という構成(構\成d)を有するところ,コードストッパーを用いるものであっ
たとしても,口紐により命綱の周囲をきつく縛ることにより,筒部の開口部を密閉
するものである認められるから,構成要件Dを充足する。したがって,被告製品は,文言上,本件考案の技術的範囲に属する。\n
3 争点3(被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物か)について
前記第2の2(6)イ認定のとおり,被告製品3及び6は,服本体のみで販売されて
いる製品であり,ファン等を取り付け又は収納することによって,本件考案の技術
的範囲に属する被告製品と同様の構成を備えるものとなると認められるから,被告製品と同様に,構\成要件Dを充足する。
そして,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を着用できるようにするために
空調服の背中部分にランヤード取出し筒を設けたものであり,そのような構成を有しない通常の空調服と比べて販売単価が高いものであること,具体的には,前記1\n(1)カ(イ)認定のとおり,被告各製品の販売単価とこれらに対応するものとして被告
が販売している通常の空調服の販売単価を対比すると,被告製品1及び4は約1
5%,被告製品2及び5は約23%,被告製品3及び6は約48%割高であること,
同(ウ)認定のとおり,被告の空調服のカタログに,「ウェアのみ」の製品は「洗い
替え用やファン・バッテリーなどをお持ちの方向けのウェアのみです。」と記載さ
れ,被告製品3及び6は「フルハーネス安全帯着用者専用空調服です。背中部分か
らランヤードを取り出すことができます。もちろん空気は逃がしません。・・・」など
と記載されていることなどからすると,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を
着用するために販売されている製品であると認めるのが相当であり,ハーネス型安
全帯を全く利用しない使用形態は,経済的,商業的,実用的な用途として想定され
ていないというべきであるから,本件登録実用新案に係る物品である被告製品の製
造のみに用いるものと認めるのが相当である。
したがって,被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い
る物(実用新案法28条1号)に当たる。
・・・
5 争点5(被告は先使用による通常実施権を有するか,又はセフト社の先使用
による通常実施権を援用することができるか)について
(1) 被告各製品の製造等に関し,被告らが先使用による通常実施権を有するとい
うためには,被告らにおいて考案の実施である「事業の準備」(実用新案法26条,
特許法79条)をしていたこと,すなわち,その考案につき,いまだ事業の実施の
段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意
図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日\n第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
(2) これを本件についてみると,本件出願日までの被告らにおけるフルハーネス
対応空調服の開発状況等は前記1(1)エ認定のとおりである。すなわち,1)被告ら代
表者は,平成27年3月3日頃,背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構\成を有する空調服に係る着想を得て,その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し,同月4日,そのデータをゼハロスに送信して,試作品の作成を依頼したこと,2)ゼハロスは,同月31日までに,
背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐及びコードストッ
パーを用いて縛る構成を有しており,被告各製品と同様の構\成を有する本件試作品
を作成したこと,3)被告らは,同年4月7日,被告において購入したハーネス型安
全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。
しかしながら,フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され,その試作品を作成して,社内でその試着をしたからといって,被告らにおいて,即時\n実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ,前記第2の2(5)認定のとおり,被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのは平成28年5
月であり,本件試作品が作成され,試着された平成27年3月及び同年4月から1
年以上を要したことにも照らせば,本件出願日の時点では,少なくとも,本件考案
の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識さ
れる態様,程度に表明されていたということはできないというべきである。\n
(3) 被告は,1)被告ら代表者は,平成27年3月4日,本件考案の構\成が記載さ
れた乙11図面のデータをゼハロスに送信し,試作品の作成を依頼しているところ,
フルハーネス対応空調服が顧客のニーズ等を背景として作れば売れる製品であった
こと,その開発又は販売の障害となるような事情は存在しなかったこと,被告らの
社内体制として,被告ら代表者の意思決定が重要な意味を持っていたことなどに照らせば,被告ら代表\者の上記の行為は,フルハーネス対応空調服の事業化を決定する旨の被告らの意思表示であるということができること,2)ゼハロスは,被告ら代
表者の上記の依頼を受け,他社に委託するなどして,平成27年3月31日までに,本件試作品を作成しているところ,被告らが,莫大な時間,労力,資金を投下して,\n既存の空調服を研究,開発し,商品化してきたこと,本件考案は,既存の空調服に
筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと,被告らは,本件試作品の作成によって,フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとん\nどを完了しており,被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること,3)被告ら代表者は,平成27年3月26日の空調服の会において,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供する旨発言しており,被告らが同空調服\nを販売する意思を有していたことが示されていること,4)被告らは,平成27年4
月7日,本件試作品の試着を行い,被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ,同空調服の販売の意思はより強固なものになった\nから,遅くともその時点で,被告らによる販売の意思は確定的なものとなったこと
などを主張する。
しかしながら,上記1)について,乙11図面は,手書きの比較的簡略な図面であ
り,そのデータを他社に送信して試作品の作成を依頼したというだけで,即時実施
が可能な状況にあったといえないことは明らかである。被告ら代表\者の意思決定が
重要であったというのは被告らの内部的な事情にすぎないことにも照らせば,ゼハ
ロスへの乙11図面の送信等をもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施
の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたということはできない。また,上記2),4)について,本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり,被告らは既存の空調服の研究,開発実績を有していると\n認められたとしても,試作品が一度作成され,社内でその試着がされただけでは,
製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく,試着の結果を踏まえて設計の見直し
等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月\nであったことなどにも照らせば,本件試作品が作成されたことや試着されたことを
もって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態
様,程度に表明されたということはできない。さらに,上記3)について,被告が指摘する空調服の会における被告ら代表者の発言は,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供するというもので\nあり,これをもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度に表明されたということはできない。
(4) 以上によれば,本件出願日である平成27年5月11日当時,本件考案の実
施に当たる事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に
表明されていたと認めることはできないから,被告らにおいて,その「事業の準備」をしていたということはできない。\n
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2020.09.10
平成29(ワ)28189 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月17日 東京地方裁判所
少し前の事件です。漏れていたのでアップします。「略1/2」という限定事項について、中間片の幅の平均比率が1/2の90%〜100%の範囲内にあるものが全80枚のうち3枚の割合なので、技術的範囲に属しないと判断されました。無効理由も主張されてましたが、これについては判断されませんでした。
上記記載によれば,本件発明等の課題は,1)包装体の大きさを従来と同様
に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供する\nこと,2)包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提
供することにあり,本件発明等の効果は,3)従来と比較して第2の折片の面
積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積
層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉
厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することが
できるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては,
上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得るために第2の折片を設けてい
るが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするた
めには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくするこ\nとが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規
定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さ
を第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとし
ても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなって
しまい,上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得ることができなくなる一
方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の
中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになって
しまい,上記2)の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発
明等の上記課題1)及び2)を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片
の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけるこ
とが望ましいものと認められる。
エ 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2\nの中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にい\nう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能\nな限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきで
あり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分
の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しな
いと解するのが相当である。
オ これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを
前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2
の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように
調整することに主眼があるのであって,本件発明等における「略1/2」の
語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容す
る意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2よ
り小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積
層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在し
ない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と
同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ
従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成す
ることが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題
解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中\n間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものという
べきである。
・・・
3 相違点1の認定の誤りについて
(1) 前記2(1)の甲6の記載事項(図2ないし4を含む。)を総合すれば,甲
6には,本件審決が認定するとおり,甲6(審判甲1)発明が記載されてい
ることが認められる。そして,本件訂正発明と甲6(審判甲1)発明を対比すると,本件訂正発明の第2の折片の幅と甲6(審判甲1)発明における「腰折ウェットテシュ
ー11f,12f」(第2の折片に相当)の幅について,本件訂正発明は,
「上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整する
とともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の
幅より短い幅となる」のに対し,甲6(審判甲1)発明は,「腰折ウェット
テシュー11,12の展開長の略五分の一の長さ,又は腰折ウェットテシュ
ー11,12の幅方向の中心線Yを越えず且つこれに接近した長さ」である
点で相違すること(本件審決認定の相違点1)が認められる。したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
(2) これに対し原告は,1)特許法施行規則24条の2は,特許発明の技術上の
意義ある部分は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他」
により特定される旨規定していることからすると,発明は,解決課題(目的
あるいは作用・効果)と解決手段(構成)とで特定しなければならない,2)
本件訂正発明と甲6に記載された発明の相違点を捉えるには,第2の折片と
他の片との関係性をシート全体の折構造で把握する必要があるなどとして,\n本件審決における甲6(審判甲1)発明の認定は適切ではなく,本件審決認
定の相違点1は,原告主張の相違点1(前記第3の1(1))のとおり認定すべ
きである旨主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許出願の願書に添
付した特許請求の範囲の記載に基づいてすべきものであるところ,原告主張
の相違点1は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明特定
事項以外の事項(本件明細書記載の「背景技術」,「発明が解決しようとす
る課題」等)をも含めて本件訂正発明の要旨を認定することを前提として,
本件訂正発明と甲6に記載された発明とを対比するものであるから,その前
提において,採用することができない。また,特許法施行規則24条の2は,
特許法36条4項1号の経済産業省令の定めるところによる記載は,発明が
解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必
要な事項によりしなければならない旨規定し,明細書の発明の詳細な説明の
記載要件を定めた規定であるから,原告主張の相違点1が適切であることの
根拠となるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
4 相違点1の判断の誤りについて
(1) 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第
1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに,
上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い
幅となる第2の折片」にいう「調整」の意義について
ア 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記
第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとと
もに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅
より短い幅となる第2の折片とを有するように折り畳まれ」との記載から,
本件訂正発明の「第2の折片」は,「第1の中間片の幅の1/2未満で,
かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」であって,「第1の中間片から積
層方向上側に折り返され」,「第2の折片」によって「第1の中間片の幅
が所望とする積層体の幅寸法となるように調整」することができることを
理解できる。
一方で,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「上記第1
の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように調整する」にいう「調整」について,具体
的な調整方法等について規定した記載はない。
イ 次に,本件明細書には,「調整」に関し,「調整」の語について定義し
た記載はなく,「図1に示すように,シート状物10は,所望とする積層
体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片11と,積層方向下側
に折られ,第1の中間片11の略1/2の幅に第1の中間片11に隣接し
て形成された第2の中間片12と,第2の中間片12から積層方向下側に
折り返され第2の中間片12と略同じ幅に形成された第1の折片13と,
第1の中間片11から積層方向上側に折り返され第1の中間片11の幅が
所望とする積層体の幅寸法となるように調整する第2の折片14とから構\n成されている。」(【0014】)との記載がある。また,本件明細書に
は,「第2の折片」に関し,「第2の折片14は,第1の中間片11と隣
接し,シート状物10の長さ方向に平行な長辺10a,10bと,第3の
折れ線17と短辺10cとによって囲まれる部分である。シート状物10
の長辺10a,10bの第2の折片14の長さにあたる部分,つまり第3
の折れ線17と短辺10cとの距離Dは,D<Cの関係を有する。つまり,
距離Dは,距離Aの半分より小さい値である。」(【0020】),「以
上のように構成されたシート状物積層体1は,従来の積層構\造においては
ない第2の折片14を有することで,従来と変わらない積層体の幅として
も,第2の折片14の面積分だけ従来よりもサイズの大きいシート状物1
0を積層させることができる。具体的には,シート状物10は,従来使用
されるシート状物の大きさと比較して,第2の折片14の面積分,つまり
上述のD<Cの関係を有する範囲内で大きさを変更することができ,約2
5%まで大きいサイズのシート状物を使用することができる。」(【00
26】)との記載がある。
ウ 以上の本件訂正発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び図
1によれば,本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り
返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調
整する」にいう「調整」とは,シート状物の第1の中間片の幅が所望とす
る積層体の幅寸法となるように,「第2の折片」の幅を「第1の中間片の
幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」となるように
設定することを意味するものと解される。
・・・
被告製品2)については,上記アの審理経過に照らし,信用性が高いと認め
られる甲25及び乙A39に基づいて検討することが相当であるところ,原
告が被告製品2)(YRC24/3FM13:59)について測定した結果(甲25:別紙6
−2)によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対
する第2の中間片の幅の比率(以下,単に「第2の中間片の比率」というこ
とがある。)が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3
枚にすぎず,その平均値(「平均値(1,80枚目除く)」欄のもの。以下
同じ。)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが被告製品2)(YRC24/3FM16:40)について測定した結果(乙A39:別紙6−4)によれば,第2の中間片の比率が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目の
シート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるもの
と認められる。
上記の被告製品2)全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率,その比率が90%〜100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品2)の第2の中間片が構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅」との要件を充足するとは認められない。\n
◆判決本文
対応する審決取消訴訟はこちらです。こちらは、無効審決が維持されています。
◆令和1(行ケ)10088
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2020.08.24
令和1(ネ)10066 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所(40部)
コンピュータ関連発明の特許権侵害事件で、1審の被告敗訴部分が取り消されました。理由は乙14から新規性無しです。乙14は1審で時期に後れた攻撃防御として採用されなかった証拠です。個人的には、新規性無しというレベルの証拠があるにもかかわらず、時期に後れたとして、1審判決を出すのは引っかかります。
構成要件6)(「前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状\n態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前\n記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへ
アクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを」)について\n
(ア) 「一定期間」の始期について
a 乙14では,「ウェブページ・・・を顧客のブラウザに表示させる」\n(段落[0032]),「バートの広告は・・・顧客にのみ表示されることになる」(段落[0033],「広告描画エンジン74は,キャンペーン管理インターフェイス・・・を広告主に表\示する」(段落[0042]),「表示ページ中でバートの広告を順位付\nける」(段落[0045]),「クリックして表示する方法」,「広告は,広告主の完全な電話番号を表\示していないが,その代わりに・・・残りの部分を表示するための\nハイパーリンクを含む。」(段落[0059]),「新聞の告知欄は,消費者がかける電話番号を表示するテレビコマーシャルと同様に」(段落[0070]),「歯科医らは\n同業者よりも上に表示されることを望む場合に高い料金を支払うことができる。広\n告会社は,架電単価が最も高いものから最も低いものへと降順に歯科医を表示する。」\n(段落[0089]),「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示するとき,\n広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),「広告主
に対応する広告が少なくとも2つの位置の第1の位置に表示された場合に・・・」\n(請求項11)などにおいては,「表示(display)」は,「情報が画面に映される(it
shows it on its screen)」,「画面に単語や写真等を見せる(to show words,
pictures, etc. on a screen)」,「コンピュータの画面に情報を見せる(to show
information on a computer screen)」などの意味で用いられていることが認めら
れる。
しかし,乙14には,「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示すると\nき,広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),
「広告会社は一日中10人の歯科医を何百もの異なるサイトに絶えず表示してい\nる。」(段落[0092])などのように,「表示」について,ユーザ端末等の画面の\nみに情報を映すという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナー
のウェブサイトに対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することをも含
むと理解することができる記載がある。
また,乙14の「一実施形態において,ある特定の広告主の広告がある時間にあ
る特定のウェブサイトにある特定の固有の電話番号と共に表示されたことをシステ\nムが記録する。ますます多くの広告が異なるウェブサイトに表示されるため,一実\n施形態において,システムは割り当てられた電話番号がそれぞれ最後に表示された\nのはいつかを記録する。」(段落[0095])との記載では,「システムが記録す
る」とされていて,システムが,ユーザ端末等の画面に電話番号が割り当てられた
広告が映されたことを把握し,それを記録に反映することについての記載が全くな
いことからすると,ここにいう「表示」は,ユーザ端末等の画面のみに情報を映す\nという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナーのウェブサイト
に対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することを含む意味であると理
解することができる。
そして,構成要件(c)のとおり,乙14発明の要求パートナーの検索エンジン\nは,「検索要求に対する検索結果内に,システムから送信された『固有の電話番号が
挿入された広告』を表示する」ものであり,構\成要件(b),(c)のとおり,要求
パートナーの検索エンジンのウェブサイト等に情報を提示することは,システムが
「固有の電話番号が挿入された広告」を当該要求パートナーへ送信することにより
行われるのであるから,乙14発明において「表示」というときに,システムが,\n「固有の電話番号が挿入された広告」を,要求パートナーのウェブサイトに提示さ
せるために送出するという意味をも含むと理解することができる。また,構成要件\n(d)の「表示されたことを記録し」についても,システムが,「固有の電話番号が\n挿入された広告」を要求パートナーのウェブサイトに提示させるために送出したこ
とを含むと理解することができる。
したがって,乙14発明において,固有の電話番号が再利用のために「電話番号
のプール」に戻されるまでの期間の始期である「表示されてからある一定期間」に\nいう「表示されてから」は,「固有の電話番号が挿入された広告が要求パートナーの\n検索エンジンに送出」されたときを含むものと解することができる。
b これに対し,1審原告は,当業者は,「ウェブページが何時の時点で
ユーザ端末に表示されたか」を把握するためのウェブビーコン等の周知技術を参酌\nして乙14の記載を理解するため,ユーザ端末等に電話番号が表示された時期を容\n易に把握することができるから,乙14における「表示してから」は,文字どおり,\nユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すべきであると主張する。\nしかし,上記aのとおり,乙14には,システムが,ユーザ端末等の画面に電話
番号が割り当てられた広告が映されたことを把握することについて記載も示唆もな
く,また,乙14のシステムは,「固有の電話番号が挿入された広告」を提供した
ことを記録することにより,要求パートナーのウェブサイトに「電話番号が割り当
てられた広告」が提示されたことを把握できるから,乙14発明の出願時に,We
bページ(又は電子メール)上にグラフィックを設置し,利用者が当該Webペー
ジ(又は電子メール)を開いた際に,自社のサーバに対してGET要求をし,どの
IPアドレスのマシンが,いつ,どのWebページにアクセスしたのかについての
情報をトレースすることができるというウェブビーコンなどの技術が周知技術であ
ったとしても,乙14発明がこの技術を用いることを前提としたものであると理解
されるとは認められない。
また,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告及
びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広告
を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。そうすると,このような乙14発明において,「所定期間」
の始期を,ユーザ端末等に電話番号が表示された時点に限定するような技術的な必\n要性は特に認められない。1審原告は,「一定期間」の始期を「送出されてから」と
する本件発明は,ユーザの動作部分を対象としておらず,サーバの側で完結するも
のであり,「一定期間の始期」がユーザ端末等に「表示されてから」とする乙14発\n明は技術思想が異なると主張するが,乙14発明の上記のような意義を考慮すると,
乙14発明において,システム設計の便宜(一定期間の計測の容易性)よりも,ユ
ーザ側の利益(表示期間の確保)を優先させる必要性は特に認められないから,1\n審原告が主張するような本件発明と乙14発明との技術思想の違いを認めることは
できない。
かえって,乙14発明において,「表示」をユーザ端末等に電話番号が表\示された
時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示され\nなかった場合には,「一定期間」が進行しないことになり,乙14発明の上記の課題
が解決されないことになる。
したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。
c また,1審原告は,乙14の段落[0059]で引用されている米
国公開公報(甲33)によると,乙14発明の構成要件(c)における「表\示」は,
ユーザの「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer
screen)」という意味を有するものとして使用されていると主張する。
しかし,乙14の段落[0059]には,広告が要求パートナーのウェブサイト
を介してユーザに提示されるに当たり,広告が,広告主の電話番号又は電話番号の
残りの部分を表示するためのハイパーリンクを含んでいる方法が記載されており,\nその中で,甲33に記載されている「クリックして表示する方法」が引用されてい\nるにすぎないから,仮に,甲33の「表示」が1審原告主張の「表\示」の意味のみ
を有するものとして用いられているとしても,甲33の記載をもって乙14の「表\n示」を1審原告主張のように認めるべき事情があるということはできない。
1審原告は,乙14発明の[0078]の「表示された」の解釈について,1審\n原告の主張に沿った内容を記載した意見書(甲32)を提出するが,上記説示に照
らし,この意見書の記載内容を採用することはできない。
d 以上によると,乙14発明においての「表示されてから」とは,要\n求パートナーの検索エンジンに向けて電話番号が「送出」されたときを含むと認め
るのが相当であるから,本件発明と乙14発明には「一定期間」の始期について相
違点がないことになる。
(イ) 「『送出可能な状態』である」ことについて\n
a 前記(2)によると,乙14発明では,エンドユーザから要求パートナ
ー(ある検索エンジンのウェブサイト)に対して検索要求がされると,「ジャスト・
イン・タイム方式」で,未割り当ての電話番号のプール内にある電話番号の中から
「固有の電話番号」となる電話番号が検索要求におけるキーワードと関連付けがさ
れた特定の広告主の広告に対して直前に動的に割り当てられて,その広告に自動的
に挿入されるものであり(段落[0006],[0033]〜[0035]),そのよ
うに「固有の電話番号」が挿入された広告は,検索結果のページ内に表示され,「固\n有の電話番号」は,「表示されてからある一定期間」が経過した場合には,「再利用」\nのために「電話番号のプール」に戻され(段落[0006],[0077]〜[00
81]),また,「問合せをもたらすが架電がない場合」には,この「固有の電話番号」が「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,「動的に割\nり当てられた電話番号」は「その広告に関連付けられる」(段落[0082])ので
あるから,乙14発明の「固有の電話番号」は,広告情報と関連づけられて送出さ
れ,「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間は,広告情\n報と関連付けられていることが認められる。
b もっとも,乙14の段落[0078]には,固有の電話番号が表示\nされてから一定時間が経過した場合や固有の番号が架電されてから一定時間が経過
した場合,システムは自動的にその番号を再利用し,番号のプールに戻すことがで
きるなどの記載はあるが,乙14には,ある要求パートナー(検索エンジンのウェ
ブサイト)に固有の電話番号が表示された後,番号のプールに戻るまでの間に,当\n該電話番号が,同じ要求パートナー(検索エンジンのウェブサイト)で新たに検索
された際に同一の広告に表示されるのか否かについての明示の記載はない。\nしかし,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告
及びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広
告を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。
そして,ペイ・パー・コールの実績型広告を実施するための架電トラッキングで
は,支払先を特定するために,架電があった電話番号が,どの検索エンジンのウェ
ブサイトで表示されたものなのかさえ特定できればよいのであるから,同じ検索エ\nンジンのウェブサイトの第2の顧客の検索に対して,第1の顧客の検索によって割
り当てた電話番号とは異なる電話番号を新たに割り当てて表示する必要はなく,同\nじ電話番号を再び割り当てて表示することにより,管理する電話番号の数を減らす\nことは,乙14発明が当然の前提としていると解される。そうでなければ,所定期
間「固有の電話番号」を広告情報と関連付けておく意義が乏しいことになる。1審
原告は,表示されてから一定期間,当該番号が送出不可能\である場合に,当該期間,
同じ要求パートナーや同じコンテキストで同じ番号が表示されないとしても,一定\n期間の長さなどを適宜調整するなどすれば,発明の課題は十分解決することができ\nると主張するが,1審原告が主張する方法をとるよりも,同じ要求パートナーの同
じコンテキストに同じ番号を表示する方が管理する電話番号の数を減らすことに資\nするのであるから,1審原告の主張を採用することはできない。
そうすると,乙14の段落[0078]の記載は,エンドユーザから要求パート
ナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,広告に「ジャスト・イン・タイム
方式」でプール内にある電話番号を割り当てるに当たって,同じ要求パートナー又
は同じコンテキストにおいて,広告が表示されてから所定期間内の電話番号は,再\n度「固有の電話番号」として前記「広告」に割り当てられ,前記「所定期間内の電
話番号」が挿入された広告が要求パートナーの検索エンジンに送信されることを示
していると解される。
これに対し,1審原告は,乙14発明において,表示されてから一定期間,電話\n番号が送出不可能であったとしても,すでに送出された電話番号を「ウェブサーバ」\nに表示させ続けることにより,同じ要求パートナーや同じコンテキストについて同\nじ番号を表示することは可能\であるから,乙14発明において,所定の期間,電話
番号が送出可能である必要はない旨主張するが,乙14発明は,ジャスト・イン・\nタイム方式であり,検索された都度,電話番号が割り当てられるものであるから,
1審原告が主張するような構成を採るものであると解することはできない。\n
c 以上によると,乙14発明は,「固有の電話番号」が「表示されてか\nらある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,識別情報(「固有の電話番号」
は広告情報(「その広告」)と関連づけられており,当該期間内の,エンドユーザか
ら要求パートナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,同じ要求パートナー
又は同じコンテキストにおいて,広告に関連付けられた電話番号が挿入された広告
が要求パートナーの検索エンジンに送信され前記エンドユーザに対して表示される\nことになるから,本件発明における,「一定期間」が終了して「送出不可能な状態」\nとなるまで「送出可能な状態」である点は,乙14発明との一致点となる。1審原\n告は,乙14の段落[0078],[0086]及び[0098]の記載から,広告
に「ジャスト・イン・タイム方式」で割り当てられたプール内にある電話番号は,
表示されてから所定期間の間「送信可能\状態」が継続しているとの1審被告の主張
は,本件発明の「一定期間」(構成要件6))と乙14発明の「所定期間」を混同する
ものであると主張するが,乙14発明の「所定期間」については前記aのとおり認
められるのであり,1審原告の主張するところは前記aの判断を左右するものでは
ない。
(ウ) 前記ウによると,乙14発明は,構成要件3)を備えていることが認め
られる。そして,前記(ア),(イ)によると,乙14発明の「一定期間」の始期である
「『固有の電話番号』が『表示されてから』」とは,本件発明の「一定期間」の始期\nである「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから」に相当し,乙
14発明には,「『一定期間』の間『送出可能な状態』であること」が記載されてい\nることが認められる。
したがって,乙14発明は,本件発明の構成要件6)を備えていると認められる。
◆判決本文
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◆平成28(ワ)16912
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2020.08.14
平成30(ネ)10085 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。
争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー
ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ
とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお
いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ
フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場
価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態
は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される
際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった
んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,
決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,
それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)24174
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2020.08.14
平成30(ワ)10126 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月30日 東京地方裁判所
104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました。
図103〜106のドットパターンに関係して,前記2のとおり,段落
【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)の記載があ
る。これらによれば,そのドットパターンは,格子状に配置されたドット
で構成される。そして,格子ドットLDと呼ばれるドットを四隅に配置し,その4つの格子ドットLDで囲まれた領域の中心からどの程度ずらすかに\nよってテータ内容が定義され,例えば,同領域の中心から等距離の位置で
45度ずつずらした点を8個定義することで,8通りのデータを表現でき,このずらす距離を変更した点を8個定義することで16通りのデータを表\現できる。また,格子ドットLDは,本来,縦横方向の格子線の交点上で
ある格子点上に配置されるが,その位置をずらしたドットをキードットK
Dとして,このキードットKDに囲まれた領域,又は,キードットKDを
中心にした領域が一つのデータを示している。また,キードットKDを格
子点から等距離で45°ずつずらすことにより,その角度ごとに別の情報
を定義することができることなどが記載されている。(以下,図103〜1
06や上記発明の詳細な説明に記載されている技術思想のドットパターン
を「図105ドットパターン」ということがある。)
図105について,垂直方向のラインについて,LV1,LV2などの
符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの符号を付
し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図105その2で
ある。
図105においては,例えば,垂直方向の格子線であるLV1,LV3,
LV5と,水平方向の格子線であるLH1,LH3,LH5の交点に格子
ドットが配置され,格子ドットが四隅に配置されている領域が示されてい
る(例えば,D1,D2,D13,D12(ただし後述)を四隅とするも
の,D2,D3,D14,D13を四隅とするもの)。そして,その4個の
格子ドットで囲まれる領域の中心から等距離の位置でいずれかの位置に
1個のドットが配置されていることが示され(例えば,D7,D8),図
105全体では,上記領域の中心から等距離の位置で,45°ずつずれた
位置のいずれか1つの位置にドットが配置されることが記載されている。
また,図103には,交点から45°ずつずれた位置にドットを配置する
構成が記載されている。そして,D12やD56は,垂直方向の格子線であるLV3又はLV11上にあるが,水平方向の格子線であるLH1上に\nはなく,これらは,格子線の交点からずれたキードットKDであることが
示されている。
ア 本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2は「(前記ドットパターンは,)縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中\n心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした
方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義
し」である。
当初明細書1及び2の記載や図における図105ドットパターンにおい
て,4個の格子ドットで囲まれる領域の中心は,それらの格子ドットが配置
されている格子線の中間にそれらと並行して存在するといえる格子線の交
点ともいえるから(例えば,格子点D1,D2,D13,D12で囲まれる
領域の中心は,垂直方向の格子線であるLV1,LV3の間のLV2と,水
平方向の格子線であるLH1,LH3の間のLH2の交点といえ,また,L
V2,LV4,LV6,LH2,LH4,LH6は,縦横方向に等間隔に設
けられた格子線ともいえる。),上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【01
84】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及び図105に記載
されているといえる。
他方,図5ドットパターンにおいて,図5〜図8では,縦横方向に等間隔
で設けられた格子線(例えばLV4,LV7,LV10,LH4,LH7,
LH10)の交点から等距離に,水平方向及び(又は)垂直方向にずらした
位置に各1〜3個のドットが記載されて情報を示している。これらでは,縦
横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,情報内容
を定義するドットが格子点の中心からずれることで情報が示されていると
いえるが,情報内容を定義するドットは,水平方向及び(又は)垂直方向に
ずらされるのであり,等距離で90°ずつずらしているとはいえるとしても,
等距離で45°ずつずらしているものではない。図5〜図8では,格子線の
間に設けられた垂直方向及び水平方向のライン(例えば,LV3,LV5,
LH3,LH5)が示された上で,それらのラインや格子線の交点に情報を
示すドットが示されていて(例えば,D9,D14),これは情報を示すド
ットを格子点の中心から等距離で90°ずつずらすことを前提としている
ものであり,このように交点に情報を示すドットを配置するこの図では情報
を示すドットを等距離で45°ずつずらすことは想定されていない。そうす
ると,上記構成要件B1・G2に係る構\成は,【0023】〜【0027】
I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載されているもので
はない。
イ 本件補正1及び2による補正後の構成要件C1・H2は「前記情報ドットが配置されて情報を表\現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差
するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方
向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置さ
れた(ドットパターンである)」である。
前記アのとおり,当初明細書I),II)には,図105ドットパターンに関す
る記載において,本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2に係る構\成が記載されていた。しかし,図105ドットパターンにおいては,縦横方向の格子線の交点上である格子点上に格子ドットLDが配置され,その
位置をずらしたドットをキードットKDとして,このキードットKDに囲ま
れた領域,又は,キードットKDを中心にした領域が一つのデータを示すも
のとされている。このようなキードットKDに囲まれた領域又はキードット
KDを中心にした領域が一つのデータを示すものであり,「前記情報ドット
が配置されて情報を表現する部分」(C1・H2)であるといえるところ,図105ドットパターンでは,前記のようにキードットKDによって,それ\nに囲まれた領域,又はそれを中心にした領域が情報を表現する部分とされているのであり,また,図105では,情報を表\現する部分はキードットKDにより囲まれていることが示されているのであって,そうである以上,「第
一方向ライン」及び「第二方向ライン」(C1・H2)として特定される水
平方向及び垂直方向のラインによって,情報を表現する部分を囲んでいると直ちにいえるものではない。したがって,「第一方向ライン」,「第二方向ラ\nイン」がない以上,情報を示すドットが配置されて情報を表現する部分を囲むような「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」上にドットが配置され\nているということもできない。以上によれば,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及
び図105に記載されているとは認められない。
なお,図5ドットパターンについて,補正後の構成要件B1・G2に係る構\成の記載はないのであるが,図5ドットパターンには,情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,縦方向の所定のドットの間隔ごとに水平方向に引いた水平ラインと,水平ラインと交差するように横方向の所\n定のドットの間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ラインが存在し,また,それ
らのライン上において,複数の格子点上に格子ドットが配置されているとい
える。したがって,上記構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜
【0027】I),【0067】〜【0071】II)及び図5〜図8に記載され
ているとはいえる。
ア 前記(3)によれば,当初明細書1及び2において,構成要件B1・G2に係る構\成は,【0184】〜【0195】I),【0228】〜【0246】II)及
び図105には記載されているとはいえるが,そこで記載されているドッ
トパターンである図105ドットパターンは構成要件C1・H2の構\成を
有するものではない。また,当初明細書1及び2において,構成要件C1・H2に係る構\成は,【0023】〜【0027】I),【0067】〜【007
1】II)及び図5〜図8には記載されているとはいえるが,そこで記載されて
いるドットパターンである図5ドットパターンは構成要件B1・G2の構\
成を有するものではない。
そして,図5ドットパターンと図105ドットパターンは,情報ドットの
ずらし方,1つの交点に対する情報ドットの個数,情報ドット以外のドット
の配置,格子線又はラインのうち特定のものを「第一方向ライン」等として
特定するか否か,垂直ライン上のドットが本来の位置からのずれ方によって
データの種類を表すか否か,1つのデータを区画するキードットKDが存在するか否か等,多くの点で相違しており,これらの相違は,各実施例が開示\nする技術的事項,すなわちドットパターンによる情報の定義方法が相当に異
なることに起因する。当初明細書1及び2は,極小領域であってもコード情
報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提供するとし(【0013】I),【0008】II)),複数のドットパターンを記載しているのであるが,そ
こに記載されたドットパターンである図5ドットパターンと図105ドッ
トパターンの情報の定義方法は上記のとおり相当に異なるのであり,また,
当初明細書1及び2に,これらの異なる情報定義方法を採用した各ドットパ
ターンが採用する情報定義方法を相互に入れ替えたり,重ねて採用したりす
ることについては何ら記載されていない。したがって,当初明細書1及び2
に,これらのドットパターンを組み合わせたものについての記載があるとは
いえないし,それが当業者に自明であるともいえない。
以上によれば,当初明細書1及び2には,いずれも,本件補正1及び2に
よって変更された構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成をいずれも備えるドットパターンについての記載があるとはいえない。\nそうすると,当初明細書1又は2において,全ての記載を総合したとして
も,当初明細書1又は2には,本件補正1及び2で補正後のドットパターン
が記載されているとはいえず,本件補正は,当初明細書1又は2に開示され
ていない新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正1及び2は,当初明細書1又は2の記載等から導か
れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものである
から,特許法17条の2第3項の補正要件に違反する。
イ これに対し,原告は,図103〜図106の実施例と図5〜図8の実施例
は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提案するという共通の課題を解決するための異なる実施例であり,こ\nれらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のものであるから,構成要件B1・G2及び構\成要件C1・H2の構成は,いずれも当初明細書1及び\n2に記載されていると主張する。しかしながら,図5〜図8の実施例で示される図5ドットパターンと図103〜図106の実施例で示される図105ドットパターンでは,上記のとおり,情報の定義方法が相当に異なり,それを組み合わせることが当業者に
自明とはいえないし,当初明細書1及び2にそのような組み合わせを前提と
した記載も存在しない。原告の上記主張には理由がない。
4 争点4−3(サポート要件に違反しているか)について
事案に鑑み,続いて,争点4−3のうち,本件発明3〜5についてのサポート
要件違反について判断する。
本件発明3の構成要件D3及び本件発明4の構\成要件E4の特許請求の範
囲の記載は「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位
置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」との記
載を含み,本件発明5の構成要件D5の特許請求の範囲の記載は,「前記垂直 方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方
によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」との記載を含むもので
ある。
これらには,垂直方向に配置されたドットの1つについて,本来の位置に配
置せず別の位置に配置すること,そして,「ずらし方によって」「ずれ方によっ
て」ドットパターンの向きを示すとしていることからも,本来の位置と実際に
配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているといえる。\n
(2)ア 本件明細書3及び4には,前記1の記載があり,また,ドットパターンに
関係して前記2の記載がある。
ここで,本件明細書3及び4には,ドットを本来の位置とは違う位置に配
置し,本来の位置と実際に配置された位置のずれ方によってドットパターン
の向きを表現することに関係し得るものとして,本件明細書3の【0009】III)に特許請求の範囲と同じ記載があり,後記イのキードットKDのずらし方
に関係する記載があることを除いて,何ら記載がない。
イ 【0240】〜【0242】III),【0234】〜【0236】IV)には,キー
ドットKDにつき,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係か
らカメラの角度が分かり,カメラで同じ領域を撮影しても角度という別次元
のパラメータを持たせることができる旨の記載がある。このようにキードッ
トKDの配置のずらし方によってドットパターンを撮像するカメラの角度
が分かることが記載されているところ,その角度が分かるためには配置のず
らし方があらかじめ定められていることを前提としているはずであり,ドッ
トパターンについていうと,キードットKDの配置のずらし方によって,ド
ットパターンの向きを示すことが記載されているともいえる。
しかしながら,上記記載は,図105ドットパターンに関するものである
(ドットパターンに関する明細書の記載及び図面は,当初明細書1及び2,
本件明細書1〜4では,いずれも同じであり,本件明細書3,4にも,図1
05ドッパターンと図5ドットパターンが記載されているといえる。)。前記
のとおり,図105ドットパターンにおいて,情報を示すドットは4
個の格子ドットLDに囲まれた領域の中心から等距離の位置で45°ずつ
ずらしたいずれかの位置に配置されている。しかし,その中心点を交点とす
るような垂直ラインと水平ラインを仮想的に想定したとして,それらは水平
方向あるいは垂直方向に配置されたドットから設定されたものではない。す
なわち,図105ドットパターンにおいては,4個の格子ドットLDに囲ま
れた領域の中心について,そこを交点とする垂直ラインと水平ラインを仮想
的に想定するとしても,それらの垂直ラインと水平ラインを設定するドット
はない。そうすると,図105ドットパターンは,少なくとも,「前記水平
方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方
向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの
交点」である「格子点…からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」
(構成要件C3・D4・C5)に係る構\成を有するものではない。また,図
105,図106においては,キードットKDは,垂直方向の格子線上にあ
るが水平方向の格子線上にはないという態様で格子点からずれていて,これ
らのキードットKDは「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」(A
3・B4・A5)の1つであり,「前記水平方向に配置されたドットの端点
に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」
(A3・C4・A5)ではないから,「前記垂直方向に配置されたドットの
1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン
の向きを意味している」(構成要件D3・E4・D5)ものには当たらないといえる。\n以上によれば,図105ドットパターンは,少なくとも,構成要件C3・D4・C5に対応する構\成を有するものではない。また,図105,図10 6のキードットKDは,構成要件D3・E4・D5の情報ドットではないともいえる。\n
そうすると,図105ドットパターンは,本件発明3〜5に係るドットパ
ターンと異なるドットパターンである。そのような図105ドットパターン
に関してキードットKDについて上記記載があるとしても,その記載をもっ
て,本件発明3〜5について,「ずらし方によって前記ドットパターンの向
きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)についての記載があるといえるものではないし,また,当業者にとって,その記載があると理解する
ことはできない。
ウ 図5ドットパターンについては,水平ライン(図5その2のLH1,LH
13等)上に等間隔に配置されたドット(図5その2のLH1上ではD1,
D8,D20,D30等)は「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ
ト」(構成要件A3・B4)「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを水平方向に配置されたドット」(構\成要件C5)であるといえ,垂直ライン(図5その2のLV1,LV13等)上に等間隔で配置されたドット(例
えば,図5その2のD2,D3等)は「前記水平方向に配置されたドットの
端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたド
ット」(構成要件B3・C4),「前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し」(構\成要件C5)であるといえる。また,水平ライン及び垂直ライン上に設置さ
れた上記各ドットを通過する縦横の格子線の交点から,90°ずつずれたい
ずれかの方向にずれた情報ドットは,「前記水平方向に配置されたドットか
ら仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから
水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点
からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3・D4・ C5)であるといえる。
しかしながら,「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して
いる」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する」(構\成要件D5)については,本件明細書3及び4には,関係する記載はないといえる。図5ドットパターンの図5〜8において垂直ライン
上にドットがないところがあり,そこにはドットが本来の位置と比べて,図
5では左(図5その2のD2),図6では左又は右,図7では左,図8では右
にずれた位置にドットが配置されているが,【0069】〜【0073】III),
【0063】〜【0067】IV)には,これらのドットについて,その本来の
位置と実際に配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きを
意味することを示す記載は全く存在しない。かえって,上記のドットについ
て,図5及び図7では,左にずれたドットについて「x,y座標フラグ」と
記載され,そのドットパターンがx座標,y座標を示すことが記載され,図
6及び図8では,右にずれたドットについて「一般コードフラグ」と記載さ
れ,そのドットパターンが「一般コード」を示すことが記載されている。そ
うすると,これらのドットは,ドットの本来の位置と実際に配置された位置
との関係によってドットパターンのデータの種類を定義していることがう
かがえる。
また,図5ドットパターンについて,【0072】III),【0066】IV)には,
水平ラインから垂直ラインを抽出した後,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にない\nことから上下方向を認識する。」という記載があり,垂直ライン上のドット
の有無によってドットパターンの上下方向を認識することが記載されてい
る。しかし,ここでは,ライン上にドットがあるかないかだけを認識して上
下方向を判断することが記載されているのであって,構成要件D3・E4・D5に係る構\成である,本来のドットの位置と実際に配置されたドットの位 置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載されているとはいえない。\n
これらによれば,図5ドットパターンについても,本件明細書3及び4は,
「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」\n(構成要件D5)の構\成について,何ら記載はないといえることとなる。そ
の他,本件明細書3及び4に,本件発明3〜5における上記構成について説明していると解される記載は存在しない。\n
エ 以上によれば,本件明細書3及び4には,「ずらし方によって前記ドット
パターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構\成要件D5)の構成につい\nて,具体的に何ら記載がないといえるし,具体的な記載がないにもかかわら
ず,当業者が,技術常識に照らして上記構成を理解したことを認めるに足りる証拠もない。\n したがって,本件発明3の構成要件D3,本件発明4の構\成要件E4,本
件発明5の構成要件D5は,本件明細書3及び4の発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。\n
ア 原告は,図5〜図8において,「ドットパターンの向きを意味している」ド
ットは,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」と兼用されている
と主張する。
しかしながら,図5〜図8の記載は上記のようなものであって,そこでは
ドットが「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」として記載されて
いるが,それ以外に,ドットパターンの向きに関する記載はない。そして,
明細書の発明の詳細な説明においても,【0071】〜【0073】III),【0
065】〜【0067】IV)においては,ドットの本来の位置と実際に配置さ
れた位置との関係によってドットパターンの向いている方向を認識するこ
とについては何ら説明されておらず,また本件明細書3及び4のどこにも,
ずれ方によってドットパターンの向きを意味するドットと,データ内容を定
義するドットとを兼用するとの説明は記載されていない。原告の上記主張に
は理由がない。
イ 原告は,【0239】〜【0241】III),【0233】〜【0235】IV)に
は,キードット(KD)につき,データ領域の範囲を定義する第1の機能と,ずらし方を変更することによりドットパターンの向き(角度)を意味すると\nいう第2の機能を有することが示されており,図105及び図106(d)では全てのキードット(KD)を一定の方向にずらすことによってドットパ\nターンの向きを表すことが開示されていると主張する。 しかしながら,これらは,図105ドットパターンに関する記載である。
前記(2)イのとおり,図105ドットパターンの情報の定義方法は本件発明3
〜5の構成要件C3・D4・C5に係る構\成の情報の定義方法と異なる。当
業者において,本件発明3〜5の情報の定義方法と異なる情報の定義方法を
採用する図105ドットパターンに開示された構成をもって,本件発明3〜5の構\成要件D3・E4・D5の各構成が開示されていると理解することは\nできない。原告の上記主張には理由がない。
5 小括
以上によれば,本件発明1及び2に係る本件特許1及び2は特許法17条の2
第3項に違反し,本件発明3〜5に係る本件特許3及び4は同法36条6項1号
に違反し,いずれも特許無効審判により無効にされるべきものである(同法12
3条1項1号,4号)。そうすると,その余を判断するまでもなく,原告は,同法
104条の3第1項により,被告各製品が本件発明1〜5の技術的範囲に属する
ことを主張して本件各特許権を行使することはできない。
◆判決本文
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2020.05.11
平成29(ワ)24598 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年3月26日 東京地方裁判所
技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。
原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ
り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載
に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果
によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ
も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で
あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により,
PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ
ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果
によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン
グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g,
3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。
被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT
−Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ
ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果
によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ
の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/
g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/
g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記
載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比
較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ
る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品
2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。\nて測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき,
いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その
実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお
り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した
結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ\nて被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める
に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温
度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度)
をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分
解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ\nれた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者
が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの
レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉
末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題
となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め
るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加
水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合
度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー
ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ
ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ
ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対
象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水
分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS
TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解
を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度
と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度
という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の
値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ
るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の
実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること
を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起
こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水
分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され
るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ
ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹\n発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記
のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N
塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい
う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で
加水分解したものといえる。
前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問
題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい
るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究
成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について
は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて,
値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,\nそれを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ
ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証
拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解
条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい
ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間
では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。
また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル
プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温
度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ
る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度
の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥
の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ
ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある
場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ
れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ
ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ
のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに
足りる証拠はない。
これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され
た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ
ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである
と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例
は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪
拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日
当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ
フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ
いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが
できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末
について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの
に等しいとは認められない。
カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと
きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ
ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ
り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら
れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す
ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験
結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ
からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない
ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ
れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件
を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本
件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた
ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が
あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文
は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研
究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そこに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証\n拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加
水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを
作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち
に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水
分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解
条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し
たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に
測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の
1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース
粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし
たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。
しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪
拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条
件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が
問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める
ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度
と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ
ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの
本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,
また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい
とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求
の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された
本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ\nない。
以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業
者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特
許法36条6項1号に違反する。
◆判決本文
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2020.03.13
平成29(ワ)27238 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月28日 東京地方裁判所
特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。
本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題
となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許
権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と
なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内
容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16
日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については
8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2
16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28
円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販
売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと
り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると
いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ
ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被
告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額
は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期
間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期
間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被
告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは,
それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08
7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3
万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ
く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。
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2020.03. 9
令和1(ネ)10042 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。
該当特許の公報は以下です。
◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。
3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」
に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第
1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に,
構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと
認められる。
しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について
も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件
明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債
や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計
算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」)
を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう
にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\
成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに
より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一
目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す
ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0
005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技
術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分
は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録
・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資
産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら
れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という
形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)
の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整
備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘
定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ
れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将
来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採
用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民
の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ
とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと
にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及
び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・
記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま
た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確
にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか
を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ
とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは
できない。
したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質
的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計
算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少
(C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその
貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち
税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の
金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3)
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支
計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ
ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負
担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。
しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相
当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る
発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発
明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい
うことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも
のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する
上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置
(C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行
上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され
たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額,
すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発
明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支
尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので
はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて
おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本
質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政
コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて
計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定
(行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される
行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ
ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社
会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益
外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損
益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの
意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移
転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出)
であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に
おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な
ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付
にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ
るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)10130
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2020.02.27
平成30(ワ)39914 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月25日 東京地方裁判所
1億円の損害賠償を求めましたが、無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却されました。
上記(ア)によれば,乙12公報には,情報ユニット及び識別ユニット
のそれぞれが有する2個のデータの比較によって,情報ユニットの認証
処理をするという技術的事項が開示されているということができる。そ
して,乙12発明は,乙11発明と技術分野及び課題が共通しているの
であるから,当業者にとって,乙11発明に前記の技術的事項を適用し,
使用者が入力するパスワードを含む3つのデータの演算による認証処理
に代え,本件発明のように,2個のデータの比較による認証処理を採用
することは,容易に想到し得たというべきである。
ウ これに対し,原告は,乙11発明において,パスワードを含む3つのデ
ータを用いた複雑な構成にすることは,その課題解決にとって不可欠なも\nのであるので,乙11発明に乙12発明を組み合わせる動機付けは存在し
ないと主張する。
しかし,乙11発明は,携帯電話等にパスワードを設定するのみでは不
正使用の防止としては十分ではないという課題を解決するため,IDカー\nド等の携帯電話以外の物体に記憶されたデータを利用し,携帯電話等に予\nめ記憶されたデータとの間で比較・照合することにより,不正使用を防止
しようとするものであって,この点において,本件発明及び乙12発明と
その技術的な思想を共通にしているということができる。
もとより,乙11発明は,携帯電話等に記憶されたデータとICカード
に記憶されたデータという二種類のデータを使用するにとどまらず,使用
者が入力したパスワードも加えて比較・照合を行う点で本件発明と異なる
が,これは,比較・照合に使用するデータを更に一種類増やすことにより
安全性を高めようとしたものであって,上記技術思想と基本的に異なるも
のではなく,また,乙11公報には,IDカード6と携帯電話1との間で
データの授受がある限りパスワードの再入力をする必要がないようにする
など(乙11公報の段落【0014】),パスワードの入力作業により生
じる操作の煩瑣性の軽減という課題も示唆されているということができる。
そして,本件明細書等の段落【0028】に記載されているように,3
つのデータを利用する代わりに2つのデータを利用したとしても,一意な
データを複数組み合わせたものやこれを暗号化したものを照合用データと
して利用するなど,様々な工夫をすることにより不正使用の防止という課
題を解決することは可能であるから,乙11公報に接した当業者は,操作\nの煩瑣性を軽減するため,3つのデータを利用する代わりに,乙12公報
に開示されているような2つのデータによる比較・照合する構成を容易に\n想到し得たというべきであり,かかる構成を採用したとしても,上記のと\nおり,不正使用の防止という効果を奏することが可能であることを十\分に
認識し得たものと考えられる。
したがって,相違点Cに係る構成は,乙11発明に乙12発明を適用す\nることにより,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
(8) 相違点Dについて
相違点Dに関し,乙11公報には,「携帯電話1の電源を投入した時ある
いは通話のためにキー5を押したときに携帯電話1より第1の電波信号送受
信装置3を介して電波信号Aを送信する。IDカード6は電波信号Aを受信
するとIDカード6にあらかじめ記憶されたデータ9を,電波信号Bを介し
て自動的に送信する。・・・IDカード6より受信したデータ9と,パスワード
として入力されたデータ10と,第1のデータ読み取り装置2内にあらかじ
め記憶されたデータ11とを比較し,データ9とデータ11との和がデータ
10になる場合にのみ携帯電話1が使用可能である。」(段落【001\n2】),「携帯電話1の電源が投入されている状態のとき,計時装置4は電
源が投入されてからの時間を計時する。計時装置4の計時時間をもとに,…
一定時間…ごとに第1のデータ読み取り装置2内にてデータ11を書き換え,
同時にIDカード6に電波信号Aを送信し,IDカード6内のデータ9を書
き換える。携帯電話1とIDカード6との間でデータのやりとりが行われ,
データ9とデータ11の和がデータ10になるときは常に携帯電話1を使用
可能にする。・・・携帯電話1とIDカード6の距離が離れていると,IDカー\nド6からデータ9が送信されることはない。ここでデータ9の送信がなけれ
ば自動的に電源が切れ,携帯電話1の使用を不可能にする。」(段落【00\n13】)との記載がある。
上記記載によれば,乙11発明においては,最初に携帯電話の電源を投入
した際の演算結果を満たせば,少なくとも一定時間,携帯電話の使用が可能\nになるものと認められる。そして,携帯電話1の電源の投入は本件発明の
「アクセス要求」に相当するから,乙11発明は,「アクセス要求が許可さ
れてから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」
構成を備えるということができる。\nしたがって,相違点Dは,実質的な相違点には当たらない。
・・・・
3 争点3−3(乙16に基づく拡大先願違反)
また,念のため,争点3−3も検討するに,以下のとおり,本件発明は,い
わゆる拡大された先願と同一の発明にも当たるということができる。
・・・・
原告は,「本件発明は,被保護情報に対するアクセス要求を許可する
という比較結果が得られた場合は,アクセス要求が許可されてから所定
時間が経過するまでは被保護情報へのアクセスを許可するものであるの
に対し,乙16発明は,動作処理要求に伴った一連の操作が前記携帯電
話機に対して行われると個人認証を行い,個人認証が完了すると当該一
連の操作のみが可能になるのであって,当該処理中に他の処理を行うこ\nとも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定時
間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情報
に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではない点」にお
いて相違すると主張する。
(イ) そこで,検討するに,乙16公報の段落【0035】には,「制御部
11は,比較認証の結果が一致していた場合,前記ステップST4にお
けるキー入力は,特定の使用者(使用が許可されている携帯電話機使用
者)によるキー入力であるものと判断し,ロック解除状態とし,前記ス
テップST4にて入力装置14から入力された発信操作及びメモリダイ
ヤル等の操作を有効として(ステップST9),発信処理等を継続する
(一連のキー入力による処理が完了するまでの処理の継続を可能とす\nる)。」との記載がある。これによれば,乙16発明においては,被保
護情報へのアクセスが許可されると,「一連の処理が完了するまでの」
時間,アクセスが許可されるものということができる。
他方,本件発明の構成要件Fは,「前記アクセス制御手段は,当該比\n較手段で前記アクセス要求を許可するという比較結果が得られた場合は,
前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保
護情報へのアクセスを許可する」というものであり,「所定期間」に関
する限定は付されていない。
また,本件明細書等の段落【0120】及び【0121】には,アク
セスが許可されると,タイマに所定の時間t2を設定し,時間t2が経
過するまでに開始した処理が終了した場合には,時間t3をタイマに設
定し,時間t3が経過するまでに次の作業を開始した場合には,レッド
バッジの読み込みをすることなく,引き続き次の作業を行うことができ,
更に一つの作業が終了するたびにt3が起動されることが記載されてい
るものと認められる。これによれば,本件発明においても,アクセスが
許可された後,一連の作業が継続している間は,アクセスが許可されて
いるということができる。
以上によれば,乙16発明における「一連の処理が完了するまでの」
時間も,構成要件Fの「所定時間」に当たるというべきである。\n
(ウ) これに対し,原告は,乙16発明は,一連の処理中に他の処理を行う
ことも,当該処理が終了後に他の処理を行うこともできず,また,所定
時間を計時することもなく,所定時間が経過するまで携帯電話機内の情
報に対するアクセスを含む何らかの操作を許可するものではないので,
本件発明と異なると主張する。
しかし,前記判示のとおり,乙16発明においては,「一連の処理が
完了するまでの」時間は,被保護情報へのアクセスが許可されているの
であるから,仮にその間に他の処理を行うことができないとしても,構\n成要件Fの「前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するま
では前記被保護情報へのアクセスを許可する」との構成を満たすとの結\n論を左右するものではない。
また,構成要件Fの「所定期間」には特段の限定は付されていないの\nで,これを計時された一定の長さの時間に限定されると解することもで
きない。
◆判決本文
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2020.02.25
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
原告は、ヤマハです。技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されました。被告は本件アプリを設計変更して、本件新アプリに変更しましたが、本件アプリについては引き続き差止請求が認められました。
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。\n
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求\nの言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明であり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と\n同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能\な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\nまた,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,採用することができない。\n
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場面や発明の基本的な構\成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記のとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機\n付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加えたとしても,本件発明1の構成に到達しない。\n前記第2の2(2)ア(ウ)認定の特許請求の範囲,前記(1)認定の本件明細書1の発明
の詳細な説明,図面,弁論の全趣旨に照らすと,本件発明1は,概要,以下のとお
りのものであると認められる。
ア 本件発明1は,端末装置の利用者に情報を提供する技術に関する(【0001】)。
イ 従来から,美術館や博物館等の展示施設において利用者を案内する各種の技
術が提案されていたが,各展示物の識別符号が電波や赤外線で発信装置から送信さ
れるものであったため,電波や赤外線を利用した無線通信のための専用の通信機器
を設置する必要があった。本件発明1は,そのような問題を踏まえてされたもので
あり,無線通信のための専用の通信機器を必要とせずに多様な情報を利用者に提供
することを目的とする(【0002】,【0004】)。
ウ 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用するこ\nとにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指
定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0\n006】等)。
2 本件アプリの広告等について
証拠(甲6,7)によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告作成の「Sound Insight(サウンドインサイト)」と題す
る本件アプリを用いたシステムに関する広告(甲6。以下「本件広告」という。)
には,次のとおり記載されていた。
ア (1)「映像・音声にのせて,情報配信」,(2)「動画・音楽などの音に人間には
聞こえない音波信号(音波ID)を埋め込み,テレビ・サイネージ・スピーカー等
から再生し,スマートフォンアプリで音波信号(音波ID)を受信する事により,
紐づいた情報をスマートフォン上に自動表示」,(3)(音波信号に紐づく情報を表示\nする手順の一つとして)「映像・音声に重畳した音波信号を発する」
イ (1)「音で情報を配信」,(2)「『Sound Insight』は,人には聞
こえない音波信号(音波ID)を使い,映像や音に合わせてアプリを連動できます。
利用者が信号音を意識することなくスマートフォン上に情報を表示します。」\n
ウ 「多言語で配信可能 日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロシ
ア語など多言語で情報配信できます。」
エ (使用例の一つとして)「バスの車内案内では 多国語で停留所情報や地域
の情報を案内できます。」
(2) 本件アプリのダウンロード用のウェブサイト(甲7。「本件ダウンロードサ
イト」という。)には,次のとおり記載されていた。
「『サウンドインサイト』は,空港,駅,電車,バスなどの様々な場所に設置さ
れた各種スピーカーから送信された音波を,専用アプリをインストールしたスマー
トフォンで受信することで,関連する情報を自動で表示させることのできるサービ\nスです。・・・『サウンドインサイト』の活用により,・・・外国人観光客へ空港・駅などのアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する『言語支援用途』・・・などで活
用いただくことができます。」
3 争点1(本件アプリは本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1−1(本件アプリは構成要件1Bを充足するか)について\n
ア 構成要件1Bに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ア)のとおり,本件アプリは,スピーカー等の放音装置か
ら,識別情報であるIDコードを表す音響IDを含む音響が放音されると,これを\n収音し,当該音響IDからIDコードを検出するものとしてスマートフォンを機能\nさせるものであるところ,前記2(1)のとおり,本件広告には,「映像・音声にのせ
て」,「動画・音楽などの音」に埋め込んで,「映像・音声に重畳」させて音響I
Dを放音することが記載されているほか,使用例の一つとして,バスの車内案内で
は多言語で停留所情報等を提供することができることが記載されていること,同(2)
のとおり,本件ダウンロードサイトには,本件アプリは,空港,駅,電車,バス等
に設置された放音装置から送信された音波を,スマートフォンで受信することで,
関連する情報を自動で表示させることのできるサービスを提供するものであること\nが記載されていることなどからすると,被告から音響IDの提供を受けた顧客にお
いて,案内音声を識別するものとしてIDコードを使用し,これを案内音声ととも
に放音装置から放音することは,本件アプリにつき想定されていた使用形態の一つ
であるというべきである。そうすると,本件アプリは「案内音声と当該案内音声を
識別するIDコードを含む音響IDとを含有する音響を収音し,当該音響からID
コードを抽出する情報抽出手段」(構成1b)を備えていると認めるのが相当であ\nる。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1bを備えていることを否認し,その理由として,\n(1)被告サービスにおいて,被告は,放音される音響やIDコードの識別対象を決定
しておらず,これらを選択,決定しているのは顧客であって,いずれも「案内音声」
に限られるものではないこと,(2)本件アプリの利用場面の中で,最も多くの需要が
見込まれているのは商品説明の場合であるが,商品説明において,放音装置から音
声が発せられることは必須ではなく,かえって,音声が放音されるとスマートフォ
ンに表示される情報を理解する妨げになることを主張する。\nしかしながら,被告の上記(1)の主張は,構成要件1B所定の音響が放音されない\n場合があることを指摘するにとどまるものであり,前記(ア)のとおり,本件広告に
おいても,案内音声を収音する使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,
そのような使用形態を想定したものとなっていたというべきであるから,前記認定
を覆すに足りないというべきである。
また,被告の上記(2)の主張について,本件アプリにつき最も多くの需要が見込ま
れていたのが商品説明の場面であったとしても,被告において,そのような使用形
態に特化したものとして本件アプリを広告宣伝していたものでもなく,前記認定を
覆すに足りない。
イ 構成要件1Bに係るあてはめ\n
以上の認定を踏まえて検討すると,構成1bの「案内音声」は,本件発明1の\n「案内音声である再生対象音を表す音響信号」に対応し,構\成1bの「案内音声を
識別するIDコードを含む音響ID」は,本件発明1の「案内音声である再生対象
音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号」に対応する。
そして,本件発明1は,コンピュータを所定の手段として機能させるプログラム\nに係る発明であり,構成要件1Bは,放音された所定の音響を収音した収音信号か\nら識別情報を抽出する情報抽出手段を規定するものであるから,構成要件1B所定\nの音響が放音された場合に,これを収音し,識別信号を抽出する手段としてコンピ
ュータを機能させるプログラムであれば,これと異なる用途でコンピュータを機能\
させ得るとしても,又は音響が放音されない場面があるとしても,同構成要件を充\n足すると解すべきところ,本件アプリは,同所定の音響を収音し,当該音響からI
Dコードを抽出するものとしてスマートフォンを機能させるものであるから,放音\nされる音響やIDコードの識別対象を選択しているのが顧客であり,音響が放音さ
れない使用方法が選択され得るとしても,構成要件1Bを充足する。\n
(2)争点1−2(本件アプリは構成要件1Dを充足するか)について\n
ア 構成要件1Dの「関連情報」の言語の解釈\n
(ア) 構成要件1Dは,「関連情報」について,「前記案内音声である再生対象音\nの発音内容を表す関連情報であって,前記情報要求に含まれる識別情報に対応する\nとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報
で指定された言語に対応する関連情報」と規定しているから,「関連情報」の言語
は,相異なる言語に対応するものの中から情報要求の言語情報で指定された言語に
対応するものと解すべきである。
(イ) 被告は,「関連情報」は,第1言語で発音される案内音声の発音内容を第1
言語で表した文字列であると解すべきであるとし,その理由として,原告が本件訂\n正審判請求1の際に訂正事項が明細書の記載事項の範囲内であることを示す根拠と
して本件明細書1の【0041】を挙げていたことを指摘するが,構成要件1Dは\n上記のとおりのものであるから,「関連情報」が案内音声の言語と同一のものであ
ると解するのは文言上無理がある。また,同段落には,第2言語に翻訳することな
く,第1言語の指定文字列のまま関連情報Qとする実施例が開示されているが,こ
れは第1実施形態の変形例の一つ(態様1)にすぎず,原告が本件訂正審判請求1
の際に同段落を指摘したからといって,当該実施例の態様に限定して「関連情報」
の言語について解釈するのは相当でない。
イ 構成要件1Dに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ウ)及び同イのとおり,本件アプリは,管理サーバから,
リクエスト情報に含まれるIDコード及びアプリ使用言語の情報に対応する情報の
所在を示すものとして送信されるアクセス先URLを受信するものとしてスマート
フォンを機能させるものであり,管理サーバには,1個のIDコードに対応させて,\n6個までのアプリ使用言語に対応するURLを記憶することができるところ,前記
2(1)のとおり,本件広告には,日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロ
シア語など多言語で情報配信できることが記載されており,使用例の一つとして,
バスの車内案内では多言語で停留所情報等を提供することができることが記載され
ていること,同(2)のとおり,本件ダウンロードサイトには,外国人観光客に対して,
空港・駅等のアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する用途に用いること
ができることが記載されていることなどからすると,顧客において,リクエスト情
報に含まれるIDコードに対応する案内音声の発音内容を表す情報について,当該\n案内音声とは異なる言語に対応する複数の情報を管理サーバに記憶させ,リクエス
ト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報をスマートフォンに送信するよう
にすることは,本件アプリにつき想定されていた使用態様の一つであるというべき
である。そうすると,本件アプリは,「前記案内音声の発音内容を表す関連情報で\nあって,前記リクエスト情報に含まれるIDコードに対応するとともに,6個まで
のアプリ使用言語に対応する複数の情報のうち,前記リクエスト情報のアプリ使用
言語に対応する情報を受信する受信手段」(構成1d)を備えていると認めるのが\n相当である。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1dを備えていることを否認し,その理由として,\n
(1)被告サービスにおいて,被告は,本件スマートフォンが受信する情報を決定して
おらず,これを選択,決定しているのは顧客であって,構成要件1D所定のものに\n限られないこと,(2)被告は,本件アプリに係る実証実験において,本件アプリを用
いて「案内音声である再生対象音の発音内容」を関連情報として出力したことはな
く,外国語に翻訳した内容を関連情報として出力したこともないこと,(3)被告は,
今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報\nを提供することを禁ずる旨の約束をする意思があることを主張する。
しかしながら,被告の上記(1)の主張は,本件スマートフォンの受信する情報が構\n成要件1D所定の情報ではない場合があることを指摘するにとどまるものであり,
前記(ア)のとおり,本件広告及び本件ダウンロードサイトにおいても,案内音声の
発音内容を表し,リクエスト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報を受信\nする使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,そのような使用形態を想定
したものとなっていたというべきであるから,被告の実証実験では同構成要件所定\nの情報を受信しなかったこと(上記(2)),被告が今後も同構成要件所定の使用態様\nで本件アプリを使用しないことを約束する意思を有していること(上記(3))を併せ
考慮しても,前記認定を覆すに足りないというべきである。
ウ 構成要件1Dに係るあてはめ\n
構成要件1Bにおいて規定するとおりにコンピュータを機能\させるものであれば,
同構成要件を充足するとの前記(1)イにおける検討と同様に,構成要件1D所定の情\n報を受信する手段としてコンピュータを機能させるプログラムであれば,受信する\n情報が同構成要件所定のものではない場面があるとしても,同構\成要件を充足する
と解すべきところ,本件アプリは,構成1dを備えており,スマートフォンを「前\n記案内音声の発音内容を表す関連情報であって,前記リクエスト情報に含まれるI\nDコードに対応するとともに,6個までのアプリ使用言語に対応する複数の情報の
うち,前記リクエスト情報のアプリ使用言語に対応する情報を受信する受信手段」
として機能させるものであるから,本件スマートフォンが受信する情報を選択して\nいるのが顧客であるとしても,構成要件1Dを充足する。\n
4 争点4(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい
て
(1) 争点4−1(本件発明1は乙2公報により進歩性を欠くか)について
・・・
(イ) 乙2発明1
前記(ア)によれば,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり(【000
1】),テレビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サ
ーバを介して当該場面に関連する情報を取得することを容易にした携帯端末装置等
を提供することを目的とするものであって(【0005】等),本件発明1に対応
する構成として,次の各構\成を有すると認められる。
「携帯端末装置を,
放送中のテレビ番組の放送音声と重畳して放音される,当該番組の場面を識別す
る音声信号である音響IDを収音し,前記音響IDからIDコードにデコードする
情報抽出手段,
携帯端末装置に記憶されたIDコードをID解決サーバに送信する送信手段,
前記IDコード及び前記ID解決サーバが当該IDコードを受信した時刻に基づ
いて当該ID解決サーバによりID/URL対応テーブルにおいて検索された対応
するURLを受信し,放送されたテレビ番組の場面に関連する情報を当該URLで
指示されるコンテンツサーバから受信する受信手段,及び,
前記受信手段が受信した情報を携帯端末装置上で表示する出力手段として機能\させるプログラム。」
(ウ) 乙2発明1と本件発明1の対比
乙2発明1と本件発明1を対比すると,これらは,次のaの点で一致し,少なく
とも,次のbの点で相違すると認められる。
a 一致点
「コンピュータを,再生対象音を表す音響信号と識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音された音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,\n前記情報要求に含まれる識別情報に対応する関連情報を受信する受信手段,および,
前記受信手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラム。」\n
b 相違点
(a) 相違点1−1(構成要件1B)\n
本件発明1では,「案内音声・・・を表す音響信号」と「当該案内音声である再生対\n象音の識別情報」が放音されるのに対し,乙2発明1では,「放送中のテレビ番組
の放送音声」と「当該番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号である音
響ID」が放音される点
(b) 相違点1−2(構成要件1C)\n
本件発明1では,端末装置からサーバに送信される「情報要求」に含まれる情報
は,「識別情報」と「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」であるの
に対し,乙2発明1では,携帯端末装置からID解決サーバに送信される情報は
「IDコード」のみであり,「端末装置にて指定された言語を示す言語情報」は含
まれない点
(c) 相違点1−3(構成要件1D(1))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「案内音声である再生対
象音の発音内容を表す」のに対し,乙2発明1では,「放送されたテレビ番組の場\n面」に関連する内容を表す点\n
(d) 相違点1−4(構成要件1D(2))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「相異なる言語に対応す
る複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報で指定された言語に対応する関
連情報」であるのに対し,乙2発明1では,携帯端末装置がこれに対応する情報を
受信しない点
(エ) 相違点に関する被告の主張について
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
被告は,乙2発明1の「IDコード」は,番組と同時に,番組の放送音声という
「再生対象音」も識別しているから,「再生対象音の識別情報」が放音される点で
は本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この音響IDは,放送中の番組に対応するものであ
り,放送音声に重畳されて放音される。」(【0014】)と記載されており,I
D/URL対応テーブルを示す図4においても,受信時間帯に対応する番組の「シ
ーン」が特定されていること(【0025】)などからすると,乙2発明1の「ID
コード」は,放送中の番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号であって,
番組の放送音声を識別するものではないから,本件発明1の「再生対象音の識別情
報」に対応する構成を有するものとは認められない。\n
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
被告は,乙2発明1では,ユーザがボタンスイッチを押した時刻は「端末装置に
て指定された・・・情報」に該当するから,「端末装置にて指定された・・・情報」が「言
語を示す言語情報」であるか「ボタンスイッチの操作タイミングを示す情報」であ
るかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「番組を視聴しているユーザ6は,番組を視聴し興味
ある場面が映し出されると,スマートフォン2を操作する(たとえばボタンを押下
する)。このときの操作により,スマートフォン2は記憶していたIDコードをI
D解決サーバ4に送信する。」(【0014】)と記載されていることなどからする
と,乙2発明1において,携帯端末装置から送信される情報はIDコードのみであ
り,ID解決サーバは当該IDコード及び受信時刻で対応するURLを検索するも
のであるから,本件発明1の「端末装置にて指定された・・・情報」に対応する構成を\n有するとは認められないというべきである。
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
被告は,乙2発明1で,携帯端末装置が受信する情報は,番組の特定の場面に対
応する放送音声に関連するものであるから,端末装置が受信する「関連情報」が
「再生対象音」である点では本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この対応するURLは,ユーザ6がスマートフォン
2を操作したときに放送されていた(テレビ1の画面に映し出されていた,または
音声で再生されていた)場面に関連する情報を提供するインターネットサイトのU
RLである。」(【0014】)と記載されていることなどからすると,乙2発明1
において,携帯端末装置が受信する情報は,放送されたテレビ番組の場面に関連す
るものであり,放送音声に関連する情報であるとは認められない。
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
被告は,乙2発明1では,番組中の相異なる場面に対応する「複数の関連情報」
が存在し,そのうち選ばれた情報を受信しているから,「関連情報」が対応してい
るのが「言語」であるか「場面」であるかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張
する。
しかしながら,乙2発明1において,携帯端末装置が受信する放送中の番組の場
面に関する情報は「相異なる言語に対応する」ものでもないから,ID解決サーバ
に番組内の相異なる場面に対応する情報が複数記憶されていたとしても,これを構\n成要件1Dの「相異なる言語に対応する複数の関連情報」との構成に対応するもの\nと認めることはできない。
イ 乙4発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙4発明の概要
前記(ア)によれば,乙4公報には,概要,次のとおりの内容の乙4発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館
や博物館等の展示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり(【000
1】),(1)電波によって情報を伝達する従来技術によると,対象物以外のガイド音
声を受信して利用者に誤った情報を提供するおそれがあったこと(【0005】)
を踏まえ,展示物に固有のIDを赤外線等の無線通信波によって発信するID発信
機を展示物ごとに一定の間隔で設置し,利用者が携帯する携帯受信器が発信域に入
ると上記IDを受信し,展示物の音声ガイドが自動的に再生される構成を採用する\nことにより,情報提供するIDの受信範囲を限定することが容易になり,隣接する
対象展示物との混信を回避した音声ガイドシステムを可能とするという作用効果を\n奏するものであり(【0008】ないし【0010】,【0014】),また,(2)
そのシステムを複数の言語に対応させようとすると,多数のチャンネルの割当てが
必要となり,その選択操作を利用者が行う必要があったこと(【0007】)を踏
まえ,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信器に蓄積し,その中から
再生する言語を選択するという構成を採用することにより,多くの外国人利用者に\nも携帯受信器を操作することなくガイド音声を提供することができるという作用効
果を奏するものである(【0012】,【0020】)。
ウ 乙5発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙5発明の概要
前記(ア)によれば,乙5公報には,概要,次のとおりの内容の乙5発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙5発明は,公共の場所等に掲載された文書等の掲載物を様々な言語
に翻訳して提供する情報提供装置等に関するものであり(【0001】),文書の
内容を様々な言語で利用者に正しく提供することを主たる課題とし(【000
6】),2次元コードと複数の言語に対応する言語コードをその内容として含むコ
ード画像をユーザ端末装置によって読み取り,ユーザにおいて所望の言語を選択す
るなどして,インターネットを介して,文書等の掲載物の翻訳ファイルにアクセス
というものである(【0015】,【0025】,【0035】,【0038】)。
エ 容易想到性についての判断
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想\n到し得た旨主張する。
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に\n対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明で\nあり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と
同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具\n体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能な関連情報を提供でき\nるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設\n定できる事項であるということはできない。
また,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,\n採用することができない。
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場\n面や発明の基本的な構成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わ\nせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記の\nとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機
付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなど\nして乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,本件発明1の構\成に到達しない。
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
(a) 前記のとおり,乙4発明は,展示物ごとに設置されたID発信機から赤外線
等の無線通信波によって展示物に固有のIDが発信されるものであり,「案内音声
・・・を表す音響信号」を放音するものではなく,「当該案内音声である再生対象音の\n識別情報」を含む音響信号を放音するものでもないから,乙4発明の構成を参照し\nて乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,相違点1−1に係る本件発明1の構\
成に到達しない。
(b) 被告は,乙4発明の音声ガイドは「案内音声」に相当するから,「案内音声」
を識別する構成を採用することは容易であった旨主張するが,上記のとおり,乙4\n発明のIDは展示物を識別するものであり,当該展示物に係る音声ガイドを識別す
るものではないから,乙4発明は「案内音声」を識別する構成を開示するものでは\nない。
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しないものであり,端末装置からサーバに「識別情報」と\n「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」が送信されることはないから,
乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加
えることによって,相違点1−2に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しておらず,IDによって識別される展示物のガイド音声を\n再生するものであって,端末装置が「案内音声である再生対象音の発音内容を表す」\n情報を受信することはないから,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照\nして乙2発明1の構成に変更を加えることによって,相違点1−3に係る本件発明\n1の構成に到達することはない。\n
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
前記のとおり,乙4発明は,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信
器に蓄積し,その中から再生する言語を選択することによって,IDによって識別
される展示物のガイド音声を所定の言語で再生するという構成を有するものの,サ\nーバに接続してインターネットを介して情報を取得するという構成を有していない\nから,端末装置が「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信することはなく,乙4発
明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加えることによって,相違点1−4
に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の\n結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予定であること,\n(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語\nの関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対
象音が表す発音内容を第2言語で表\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月\nから平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本
件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなど\nも考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ
きであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の\n差止を求める必要性は認められるものというべきである。
◆判決本文
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2020.02.14
平成28(ワ)42833等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月7日 東京地方裁判所
漏れていたので、アップします。国際裁判管轄、差止請求等に係る訴えの利益、技術的範囲の属否、間接侵害、無効理由など、争点は満載なので、判決文が200頁以上あります。認められた損害額も40億円を超えています。
(1) 特許法102条2項の適用の有無(争点11−1)
原告は,被告らが特許権侵害行為により利益を受けているとして,特許法
102条2項の適用があると主張するのに対し,被告らは,原告が本件発明
1を実施していないこと,また,本件発明1は被告製品の販売に何ら寄与し
ていないことから,被告製品の販売と原告の損害との間には因果関係がなく,
特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が存在しないから,特許法102条2項の適用がないと
主張する。
そこで検討するに,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかった
ならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法10
2条2項の適用が認められると解すべきであり,特許法102条2項の適用
に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とす
るものではないというべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015
号同平成25年2月1日判決参照)。
そうすると,原告が本件発明1を実施していないことは,特許法102条
2項の適用を妨げる事情とはいえない。また,原告は,被告製品と同様にL
TO−7規格に準拠する原告製品を販売しており(弁論の全趣旨),原告製
品と被告製品の市場が共通していることからすれば,特許権者である原告に,
侵害者である被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法
102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。被告らが主
張する,被告製品の販売における本件特許1の寄与の程度については,推定
覆滅の一事情として考慮すべきである(後記(4)参照)。
以上のとおり,被告らの主張は採用することができず,原告の損害額の算
定については,特許法102条2項の適用による推定が及ぶ。
(2) 輸出を伴う取引形態における利益の範囲(争点11−2)
被告OEM製品の取引形態のうち,取引形態2(被告OEM製品の製造業
者である被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出し,海外において被告
SSMM自身の在庫として保有しているものを,被告ソニー又は被告SSM\nSを介して海外の顧客に販売する取引形態)によって被告らが得た利益につ
いて,特許法102条2項の推定が及ぶか否かについて検討する。この点,
被告らは,取引形態2によって得られた利益は,全て海外での販売行為によ
り発生したものであるから,属地主義の原則から,これには上記推定が及ば
ないと主張する。
弁論の全趣旨(被告準備書面(7))によれば,被告OEM製品の取引形態
2は,具体的には,(1)平成27年12月から平成29年3月までは,被告S
SMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告
ソニーに対して販売し,さらに,被告ソ\ニーが,これを顧客に対して販売し
ており,(2)平成29年4月から同年9月までは,被告SSMMが,被告OE
M製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告SSMSに対して販
売し,さらに,被告SSMSが,これを被告ソニーに対して販売し,その後,\n被告ソニーが,これを顧客に対して販売しており,(3)平成29年10月以降
は,被告SSMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した
後に,被告SSMSに対して販売し,さらに,被告SSMSが,これを顧客
に対して販売したことが認められる。
上記事実に照らせば,被告OEM製品の取引形態2における販売行為は,
形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われ
ているものである。しかしながら,被告OEM製品は,その性質上,被告ら
(本件期間(1)においては被告ソニー及び被告SSMM)が,本件OEM供給\n先(HPE及びQuantum)の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対し
てのみ販売することが予定されていたものであるから,被告SSMMが被告\nOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し,被告ソニーや被告SSMS\nに販売し,さらに被告ソニーや被告SSMSがこれを顧客(本件OEM供給\n先)に販売するという一連の行為が行われた際には,その前提として,当然,
当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意
思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造
と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認するこ
とができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM
製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には
被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価する
ことができる。被告らは,被告SSMMが本件OEM供給先から提供を受け
たフォーキャストと,実際の被告OEM製品の受注は必ずしも一致しないこ
とから,被告SSMMの製造・輸出と,その後の販売行為は独立した別々の
行為である旨主張するが,被告SSMMは本件OEM供給先から提供される
フォーキャストで示された予想される発注量に基づいて被告OEM製品を製\n造し,被告らはこれを販売していたものであるから,月々のフォーキャスト
と受注が必ずしも一致しないことをもって,被告らの行為ないしその意思決
定の一連性が否定されるものではない。また,被告らは,本件OEM供給先
からの被告OEM製品の受注,被告OEM製品の海外倉庫からの出庫(海外
倉庫の管理を含む)及びOEM顧客への発送,並びにOEM顧客に対する請
求を,各国に本拠地を有する各現地協力会社に委託しており,これらの業務
は全て,日本国内ではなく海外において行われたものであるとも主張するが,
単に事実行為の一部を海外の協力会社に委託していたと主張するにすぎない
ものであって,上記一連の行為の意思決定が実質的に日本国内で行われてい
たと評価することができるという上記結論を何ら左右するものではない。
加えて,少なくとも,本件特許権1の侵害行為である被告OEM製品の国
内での製造及び輸出が被告らによる共同不法行為であると認められる(前記
7参照)以上,被告らによる販売行為が,全て被告SSMMが被告OEM製
品を海外に輸出した後に行われたものであるとしても,被告らの販売行為に
よる利益は,被告らによる国内における上記共同不法行為(被告OEM製品
の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害)
ということができ,侵害行為により受けた利益といえる。
したがって,取引形態2によって被告らが得た利益についても,特許法1
02条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の
特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義
の原則とは整合するというべきである。これに反する被告らの主張は採用で
きない。
・・・
(4) 推定覆滅事由の存否及びその割合(争点11−4)
ア 被告製品が本件発明1の作用効果を奏していないとの主張について
被告らは,被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成している\nことにより,裏写りを十分に抑制することができていること,また,本件\n発明1の構成要件1Cを充足する製品としない製品の保存試験(乙204,\n206)の結果などから,被告製品が本件発明1の作用効果を奏していな
いと主張する。
しかしながら,前記5(4),(5)説示のとおり,本件明細書1・表1の記\n載からは,磁性層表面及びバックコート層表\面の10μmピッチにおける
スペクトル密度,磁性層の中心面平均表面粗さ,六方晶フェライト粉末の\n平均板径のそれぞれが本件発明1−1に規定された範囲内である実施例は,
比較例よりも保存前後のSNRの変化が小さいことを読み取ることができ,
そこから,本件発明1により発明の課題を解決することができるものと理
解できるから,そうである以上,本件発明1の技術的範囲に属する被告製
品は本件発明1の作用効果を奏していると認められ,これを覆すに足りる
証拠はない。
これに対し,被告らは,被告製品が本件明細書1の実施例に記載されて
いる磁気テープとは材質・組成等が異なるものであり,構成要件を充足す\nるからといって当然に明細書に記載されている発明の効果を奏すると認め
られるものではないと主張するが,本件明細書1の実施例に記載されてい
る磁気テープと被告製品とは材質・組成等が異なるとしても,そのことに
よって被告製品が本件発明1の発明の効果を奏していないものと認めるに
足りる証拠はない。被告らはその他るる主張するが,いずれも上記結論を
左右しない(なお,原告の製品が本件発明1の実施品でないとする主張に
ついては,その主張の根拠である測定結果(乙116,117)が前記4
(2)イ(ア)の説示に照らして信用できないから,採用できない。)。
なお,被告らが主張する,被告製品が硬度の高い磁性層表面を形成して\nいる点について検討するに,確かに,証拠(乙197ないし199)によ
れば,磁性層表面が硬いほど裏写りが生じにくいことが認められ,また,\n本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した被告製品において,\n高温保存の前後でエラーレートに有意な変化は生じなかったこと(乙20
4)からすれば,本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した\n被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成していること(原告は\n特に争っていない)によって,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑えら
れているものと認められる。
(なお,原告は,甲96の実験を根拠に,磁性層の硬度を高めたとして
も裏写りは防止できないと主張するが,同実験においては,磁気テープの
硬度の指標として引張り強度が用いられているところ,裏写りによる磁気
テープの電磁変換特性の悪化を防止するための磁性層の硬度の指標として
は,押込み強度が用いられるべきである(乙197・段落【0024】,
【0026】,乙205)から,同実験によっても,磁性層の硬度(押込
み強度)を高めた場合に裏写りが防止できないものと認めることはできな
い。また,原告は,エラーレートの検証がなぜ本件発明1の作用効果の検
証につながるのか説明がないなどと主張するが,磁気テープにおいて電磁
変換特性が悪化した場合,エラーレートが上昇すること(乙204)から
すれば,エラーレートの変化を検証することで電磁変換特性の変化も検証
できるものと考えられる。)。
しかしながら,一方,証拠(乙206)によれば,本件発明1の構成要\n件1Cを充足する被告製品においても,高温保存の前後でエラーレートに
有意な変化は生じず,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑制されている
ものと認められるが,上記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被
告製品は本件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製
品において,硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明\n1の作用効果を超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足り
る証拠はない。
イ 本件発明1の作用効果が被告製品の購入動機となっていないとの主張に
ついて
被告らは,被告製品の顧客は,本件発明1の作用効果に着目して被告製
品を選択しているわけではなく,本件発明1の作用効果が被告製品の購入
動機となっていないと主張する。
そこで検討するに,特許法102条2項の趣旨からすれば,同条項の推
定を覆滅させる事由として認められるためには,特許権侵害がなかったと
しても,被告製品の販売等による利益(の一部)は原告に向かわなかった
であろう事由の存在が必要である。したがって,被告製品の顧客の購入動
機が単に本件発明1の作用効果に着目していなかったというのでは足りず
(ゆえに,被告製品のパンフレットに本件発明1の作用効果がセールスポ
イントとして記載されていないのみでは推定覆滅事由足りえない。),被
告製品の顧客の購入動機が,被告製品の独自の技術や性能に着目したもの\nであったことを具体的に主張立証する必要がある。
そして,被告らは,被告製品の顧客の主要な購入動機として,被告製品
が大記録容量及び高速データ転送速度を実現した製品である点,記録媒体
としての磁気テープの利点(保存時に通電が不要である点等),単一ドラ
イブを用いて時期テープカートリッジへのデータ記録を行った場合におけ
る,記録容量,転送レート及び記録速度の安定性(原告製品と比較してよ
り優れた性能を有すること)を挙げるが,これらの点が被告製品独自のも\nのであることや,仮に独自のものであったとしても,それが原告製品と比
較して異なる程度,及び,これらの点が被告製品の顧客の主要な購入動機
となっていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に本件特許権1の
侵害がなかったとしても,これらの点のために,被告製品の販売等による
利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めるには足りない。
なお,前記アのとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品は本
件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製品において,
硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明1の作用効果\nを超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足りる証拠はない
し,仮に,被告製品において,磁性層の素材の硬度を高めることにより本
件発明1と同様な独自の作用効果を一部奏しているとしても,そのような
被告製品独自の作用効果がどの程度生じているのかは不明である上,その
点が被告製品独自の購入動機となっていたとも認められない(被告自身が
本件発明1の作用効果は購入動機となっていない旨主張している。また,
被告製品の広告(甲97)では,データの長期保存について記載されてい
るところ,本件発明1の作用効果である長期保存後の裏写りの防止は,デ
ータの長期保存に資するものであるから,被告製品が本件発明1の作用効
果を有していることは,間接的には購入の動機の一因になっているものと
考えられるが,上記のとおり,そのような作用効果ひいては購入の動機が
被告製品独自の構成によって生じたり,高められたりしたものと認めるこ\nとはできない。)。したがって,仮に,被告製品が磁性層の素材の硬度を
高めることで本件発明1の作用効果を一部奏しているとしても,そのこと
によって,仮に本件特許権1の侵害がなかった場合に,被告製品の販売等
による利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めることはで
きない。
ウ 以上のほか,被告らは,本件発明1の技術的範囲に属さない代替製品を
製造・販売することできたことも主張するが,現にそのような代替製品を
製造・販売していたものではなく,その可能性にとどまるものであるから,\n推定覆滅事由として認めることはできない。
したがって,特許法102条2項の推定を覆滅させる事由を認めること
はできない。
◆判決本文
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2020.02. 5
平成30(ワ)4901 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月23日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属するものの、特29-2の規定により権利行使不能と判断されました。\n
以上より,乙12−1発明は,1つ又は複数の画像をカメラやネットワーク
を通じて入手し,1つ又は複数の電話番号に対応付けてこれらの画像を記憶し,当
該電話番号から着呼があったときに,これらの画像を切り替えて表示させ,これに\nより,発信者を識別しやすくするという効果を有する,無線携帯端末に関する発明
であるということができる。
(3) 本件発明1と乙12−1発明との対比
ア 乙12−1発明に係る無線携帯端末において,1つの電話番号に2つの画像
を対応付けて記憶させた場合,当該電話番号から着呼があった際,2つの画像が,
時刻や着呼の回数等による一定の規則性に従って表示される。このとき,特定の着\n呼時に表示されない方の画像については,当該電話番号との対応関係を維持したま\nま,画像メモリに記憶され続けており,「表示選択がOFF」にされているといえ\nる(前記2(3)参照。)。乙12−1発明における「メモリ」及び「画像メモリ」は,
それぞれ本件発明1における「電話帳データメモリ」及び「画像データメモリ」に
対応する。
イ そうすると,本件発明1と乙12−1発明との間には,(1)本件発明において
は,画像をメモリ番号に対応付けているが,乙12発明においては,画像を電話番
号に対応付けている点(相違点(1)),(2)本件発明1においては,新たに入手・記憶
された第2画像が優先的に表示されるが,乙12発明においては,新たに入手・記\n憶された画像が優先的に表示されるか否か不明である点(相違点(2)),という相違
点が存するとも考えられるため,これらの相違点が設計上の微差にすぎないか,実
質的な相違点であるかについて,以下検討する。
ウ 相違点(1)について
本件特許1の出願当時,携帯電話やハンドフリー電話の分野においては,携帯電
話等の端末において,特定の電話番号をメモリ番号に対応付けて記憶させることは,
複数の名前や電話番号を含む情報を整理するなどの目的に広く使われる,周知の技
術であったことが認められる(乙13ないし15)。
そうすると,画像を,ある電話番号と対応付けられたメモリ番号に対応付けて記
憶させるか,それとも,直接,当該電話番号と対応付けて記憶させるかという違い
は,設計上の微差にすぎないというべきである。
エ 相違点(2)について
乙12−1発明において,ある特定の電話番号に対して既に1つ又は複数の画像
が対応付けられて記憶されている場合において,新たな画像をカメラやネットワー
クを通じて入手し,当該電話番号に対応付けて記憶させたとして,当該電話番号か
ら着呼があった際,当然に,その新たな画像が優先的に着信画面に表示されるよう\nになるということはできない。
しかし,乙12の段落【0032】の記載(「複数の画像を一つの電話番号と対
応させ,着呼毎に変えたり,時間によって変えたり,着呼時に順番に出したりする
こともできる。」)によれば,乙12−1発明は,複数の画像を一つの電話番号に
対応付ける機能部を有しており,これを使用して,当該電話番号の着呼に応じて,\n複数の画像から一つの画像を選択しており,かかる選択を,着呼毎に変更したり,
時間に応じて変更したり,一回の着呼に対して複数の画像を順番に変更したりする
ことにより,様々な表示を行っているものと認められる。\nしたがって,乙12−1発明において,電話番号と対応する複数の画像からどの
画像を選択するかということは任意に設定することが可能であり,複数の画像のう\nち,新たに入手した画像を優先的に選択することや,上記機能部において,これま\nで記憶されていた複数の画像のうち,表示しない画像と当該電話番号との対応付け\nを削除するか否かということは,必要に応じて,当業者が適宜選択し得る設計的事
項である。また,かかる選択をしたことに伴う顕著な効果も認められない。
よって,乙12−1発明において,複数の画像のうち,新たに入手した画像を選択
して表示し,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応付けを削\n除せずに,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応関係を維持
することは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえ,奏せられる効果に
著しい差も認められない。したがって,相違点(2)についても,設計上の微差にすぎ
ないということができる。
(4) まとめ
以上より,本件発明1は,実質的に,乙12−1発明と同一であるから,特許法
29条の2により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2
号の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
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2020.01.27
令和1(ネ)10036 特許権侵害差止等請求控訴事件 民事訴訟 令和2年1月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
フランジに特徴がある梁補強金具の発明について、特許法102条2項における推定覆滅を主張しましたが、裁判所は「覆滅すべき事情があるとは認められない」と判断しました。
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と
同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が
受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
(1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場
における競合品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の
性能(機能\,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102
条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事
情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分の
みに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができる
が,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅
が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置
付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相
当である。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件各発明等は,その全体が被告各製品の全体を対象とするもの
の,特徴部分は,梁補強金具の外周部の軸方向の「片面側の端部に形成」した「フ
ランジ部」であり,被告各製品においては,ダイヤリングの外周部の軸方向の「片
面側の端部に形成」した「つば状の出っ張り部の外周部」がこれに該当するところ,
侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合,すなわち特許発明の寄与
度を考慮すべきであり,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきで
あると主張する。
前記認定の本件明細書等の記載(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1))
によれば,本件各発明等は,各種建築構造物を構\成する梁に形成された貫通孔に固
定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関し\n(【0001】),梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高める
とともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補
強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする\n梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供するために(【0\n010】),梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁
補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍〜10.0倍と
し,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成
し(訂正前の請求項1),さらに,フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部
に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周か
ら前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である
という構成を採用したものであって(訂正後の請求項1),梁に外力が加わったとき\n貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従
って徐々に小さくなることから,梁補強金具の軸方向長さを必要以上に長くしない
ように規制することにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつ
つ必要な強度まで補強することができ(【0012】),また,フランジ部により軸方
向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるという効果を奏するものである
(【0048】)。
このように,本件各発明等の特徴部分が,フランジ部のみにあるということはで
きない。
(イ) また,控訴人は,本件各発明等の特徴部分であるフランジ部に特有の効果
は,「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」というものにとどまり,
同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていな
いなどと主張する。
しかし,控訴人のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)におい
て,被告各製品のフランジ状の部分も図示され,被告各製品の特徴として,鉄骨梁
ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを
全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアッ
プするという点が挙げられている。このような施工が可能となるのも,梁補強金具\nにフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられ,被告
各製品の特徴は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。\nこの点,控訴人は,控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては,
「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定するため,「[梁の反転が不要]とな
り施工性が大幅にアップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これら
は,控訴人により工夫された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって,
本件各発明等の作用効果ではない旨主張する。
しかし,本件各発明等は,梁に形成された貫通孔にリング状の梁補強金具をはめ
込んで,フランジ部を含む外周部が溶接固定される梁補強金具であるところ,被告
各製品の,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部
の外周部)のみを全周溶接するという取付方法は,本件各発明等に係る梁補強金具
の取付方法として通常想定される態様の1つにすぎず,控訴人により工夫された独
自の工法とはいえないから,控訴人の主張は採用できない。
ウ 推定覆滅の事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであるところ,以上に
よれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)26468
本件特許権の審取事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。
◆平成30(行ケ)10163
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2020.01. 8
平成31(ネ)10014 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。
上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク
質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ
れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結
合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使
用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は,
かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって,
PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,
対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症
などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。
本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用
してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体
を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体
について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合
しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること,
また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含
まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ
れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD
LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。
21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21
B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗
体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細
書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個
の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え
て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同
様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体
を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認
識できると認められる。
さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免
疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や
31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す
るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業
者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって,
本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗
体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら
れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル
抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ
クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成
物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す
る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に
適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結
合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定
される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ
により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照
抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし,
参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特
定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,
その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。
前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し,
本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参
照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と
LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること
を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ
れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な
時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。
しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程
度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる
からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗
体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す
ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離
されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度
の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ
ることまで記載されている必要はない。
また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない
抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認
識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細
書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範
囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ
るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得
る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって,控訴人の主張は採用できない
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)16468
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