2023.12.14
令和4(ワ)5553 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月7日 大阪地方裁判所
特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。
前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
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2023.11.19
令和3(ワ)4061 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月31日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟です。無効理由あり(進歩性無し)として権利行使不能と判断されました。
ウ 相違点1−3について
「有効スティッチ速度」及び「規定されたスティッチ速度」は、本件発明3の構\n成要件3F2の「効果的ステッチレート」及び「所望の織物ステッチレート」と、
それぞれ同義と解され(前記2(5)ウ)、構成要件1G2は、タフティングされた物\n品の模様の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際に
打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御することを特定する
のであるから(前記2(5)ア(ア))、前記4(1)イと同様の理由で、乙4公報に接した
当業者は、乙4発明から相違点1−3にかかる本件発明1の構成について容易に想\n到し得ると認められる。
エ 相違点1−4について
前記2(6)アのとおり、構成要件1G3は、規定されたスティッチ速度がゲージに\n従って決定されることを特定するものである。
証拠(乙2、13)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許1の優先日前において、
ゲージは、カーペット構造を制御する必須のパラメータの一つであり、タフティン\nグ機の単位当たりのニードル本数のことでもある。また、本件明細書1(【0049】)
には、一部の従来のタフティングシステムにおいては、タフティング模様に対する
スティッチ速度は概してタフティングマシンのゲージと一致し、タフティングマシ
ンのゲージは縦糸方向の1インチ(2.54cm)当たりの針数に相当し、縦糸方
向の1インチ当たりの針数は概して横糸方向の1インチ当たりのスティッチの数に
等しい旨が記載されている。これらによれば、本件特許1の優先日前において、ゲ
ージと模様として見えるタフトの密度を一致させること、すなわち、タフティング
された物品の模様の外観において、横糸方向と縦糸方向の密度を一致させるように
バッキング給送速度を制御することは、従来技術として存在したものと認められる。
そして、前記4(1)イのとおり、乙4発明は、バッキング材料の給送速度を任意に
変更し得る発明であることに照らすと、乙4公報に接した当業者は、乙4発明から、
規定されたスティッチ速度が、少なくともゲージに従って決定されることを容易に
想到し得るものと認められる。
(4) 顕著な効果の有無
原告は、本件発明1は、所望の位置に所望のヤーンをスティッチすることが可能\nであり、織物の見た目がずれることなく正確なゲージ範囲の模様となるという顕著
な効果を奏する旨を主張する。しかし、前記4(1)イと同様の理由で、タフティング
された物品の外観が所望の模様となるように、模様として見えるタフトよりも実際
に打ち込むタフトが多くなるようにバッキング給送ロールを制御する技術である本
件発明1は、実質的に乙4発明に含まれるものであり、その効果についても顕著な
効果があるとは認められない。
(5) 以上から、本件発明1は、乙4発明から容易に発明することができたといえ
るから、本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告
は被告に対してその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項、
123条1項2項、29条2項)。
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2023.10.25
平成25(ワ)7478 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。
また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,
手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ
等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ
の形成の方法は特に限定されていない。
そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ
た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客
観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明
細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,
その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思
想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層
側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部
分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,
すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置
関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める
のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ
ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,
また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特
徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ
ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た
り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,
サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資
する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,
サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。
そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板
を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結
晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端
に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。
そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない
というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて,
対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直
に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり,
そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない
旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】
に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ
レイク面が略垂直である旨の記載がある。
しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ
【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域
のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も
あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって,
切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生
しないと認めることはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ
る。
◆判決本文
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2023.10.25
平成28(ワ)21762等 特許権侵害差止等請求事件,特許権侵害差止請求事件,特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月28日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(47部)は、文言侵害については「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする」との構成を欠くとしたものの、均等と認めて合計約2億円の損害賠償を認めました。
ウ 以上からすれば,前記アのとおり,構成要件Bの「サーボバンドを特定\nするためのデータをエンコードする」とは,「サーボバンドを特定するた
めのデータ」を「0」又は「1」の形式に変換することと解すべきところ,
被告製造方法において,上記の形式の変更を行っていることを示す証拠は
何ら存在しない
・・・
第1要件について
本件明細書に記載された従来技術は,隣接するサーボバンドのサーボパ
ターンをテープ長手方向にオフセットさせ,それらのサーボバンドの信号
を同時に読み取って比較することで,サーボバンドの特定を行うものであ
り(段落【0002】),片側のサーボ信号の読み取りが一時的又は恒久
的にできなくなった場合,サーボバンドの特定を行うことができなかった
という課題があった(段落【0004】)。
そこで,請求項1発明は,隣接するサーボバンドに書かれたサーボ信号
を比較せずに,サーボバンドを特定するために,各サーボバンド内に書き
込まれた各サーボ信号に,そのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定
するためのデータがそれぞれ埋め込まれ,前記各サーボ信号は,一つのパ
ターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構成する線の位置を,\nサーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中
に埋め込まれているようにした磁気テープであり(段落【0007】),
本件発明は,その製造方法である(段落【0017】)。
そうすると,本件発明の本質的部分は,構成要件A−3「前記各サーボ信号は,一つのパターンが非平行な縞からなり,各データは,前記縞を構\成する線の位置を,サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれていることを特徴とする磁気テープ」にあるといえ,構成要件B「サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする第一工程と,」は本質的部分には当たらないというべきである(被\n告らも特に争っていない。)。よって,被告製造方法は,均等の第1要件を充足する。
◆判決本文
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2023.10.25
平成28(ワ)25436 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年9月24日 東京地方裁判所
随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。
前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2
における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ
ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB
遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子
を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する
ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に
おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺
伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお
ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ
ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当
該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す
る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg
B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T
変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2
は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象
とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い
てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという
新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4
において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6
において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して
も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体
の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の
yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で
ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg
gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸
配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg
gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ
レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに
由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0
033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84
及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で
ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載
も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2
の本質的部分の認定には影響しないというべきである。
そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを
理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告
の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ
るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配
列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア)
及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型
yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体
的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9
8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという
点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変
異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも
のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1
9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法
4は均等の第1要件を充足すると認められる。
◆判決本文
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2023.10.14
令和5(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n
◆本件特許6865989号
については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。
控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考
えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内
在しているとはいえない旨主張する。
しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の
壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す
る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の
理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張
は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、
乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」
技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは
いえない旨主張する。
しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス
ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを
適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された
授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ
ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター
36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ
ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、
本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を
移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する
ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し
て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固
定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護
された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、
キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ
アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、
授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部
の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技
術分野が異なるなどということはできない。
さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、
「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽
体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ
ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、
その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ
異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は
内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず
れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関
するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに
よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安
全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非
常に大きいという阻害要因がある旨主張する。
しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に
すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段
を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空
間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける
ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を
実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー
トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ
る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、
原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合
わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明
は特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)16934
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2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.09.25
令和2(ワ)13317 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月13日 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以
下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定
であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ
こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許
法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許
権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提
としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得
ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特
許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者
との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を
考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被
告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも
のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製
品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢
献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4)
に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響
機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度
の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1
6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平
均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め
られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発
明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ
ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4.
0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業
における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の
電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し
ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品
を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。
このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す
る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って
タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける
ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型
かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接
触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する
ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採
用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー
ン等の代替手段が存在する旨主張する。
しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP
od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押
すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音
量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ
スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高
くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは
できない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害
の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について
は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲
を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練
されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、
全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい
ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく
なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら
れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。
あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー
ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて
みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす
ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。
その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載
されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン
トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、
iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』
を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久
性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ
はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック
ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大
1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく
考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに
追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し
ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な
い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す
るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた
ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合
の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並
びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向
上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。
他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと
いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー
ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT
unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま
ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ
ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告
各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高
いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度
貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、
被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか
ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール
の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。
そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ
クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、
主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、
別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる
旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告
製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた
ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが
ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、
被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重
要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や
侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、
特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害
した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその
対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、
0.5%を下らないというべきである。
◆判決本文
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◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2023.09.22
令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年8月30日 東京地方裁判所
技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、
特許5595570とリンクしておきます。
(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚
の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状
壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応
する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に
折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B
の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分
離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接
合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、
4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互
に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。
そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で
あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を
除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。
前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板
状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体
が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状
体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して
接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応
する側縁」に該当する。
そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体
10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み
可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの
と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件
Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして
も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」
(広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚
の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ
性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手
段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも
って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。
そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱
部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ
(乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁
が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり
することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外
し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本
件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形
状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す
る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。
また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育
館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか
ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚
の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特
徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前
記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド
パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた
ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する
手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2
文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手
段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ
れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ
る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致
するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開
放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント
内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付
着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形
状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開
口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n
また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載
であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で
あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、
乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、
構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、
4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉
塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。
なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を
塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、
三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分
割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様
な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また
は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下
閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ
て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す
ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外
方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」
と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で
あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき
ない。
以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右
するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許
法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。
◆判決本文
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2023.08. 9
令和4(ワ)9716 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月28日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊
行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の
「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発
明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者
が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技
術的思想が開示されていることを要するというべきである。
特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製
造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか
ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、
当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊
行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に
接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出
すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの
とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ
ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は
見当たらない(乙2)。
したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため
には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤
等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ
とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日
当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア
ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな
り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識
であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA
ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。
確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文
献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい
る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹
脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて
いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か
らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に
不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を
得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。
そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発
酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され
ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな
いといえる。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地
成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな
い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を
得る技術は開示されていないといえる。
以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ
レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、
上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・
・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性
水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00
07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら
れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン
酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上
で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に
培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。
しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩
基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識
であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優
先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製
造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸
が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶
液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母
抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら
かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン
が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸
を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5
−アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること
はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー
トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は
存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思
考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方
法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。
◆判決本文
本件特許についての審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10091
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2023.07.10
令和4(ネ)10070 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。
事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと
おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲
覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する
HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー
バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること
(相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr
iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行
わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明
は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに
表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。
Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ
ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送
信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの
処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ
ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対
応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT
MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに
基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生
じる当然の帰結にすぎない。
そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT
MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ
いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲
46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ
ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場
合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述
されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。
そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ
ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1
の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意
を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特
許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、
そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6
ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると
してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ
るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討
する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像
データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分
割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの
限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。
クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので
あって(【0006】)、
サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、
それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ
クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ
るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、
ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い
画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、
クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ
とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、
相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの
であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対
応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい
う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2
2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々
の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複
数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送
信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件
訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に
結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙
10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の
分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21901
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2023.06.28
令和3(ワ)10032 特許権 民事訴訟 令和5年6月15日 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。
そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき
は、均等侵害が成立し得るものと解される。
これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、
構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C
の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発
明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、
構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は
満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で
接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の
「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲
13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場
合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試
験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の
「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証
拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設
けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続
時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ
とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原
告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、
原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件
が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。
被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】
【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び
γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ
ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す
ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され
本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は
第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される
旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で
構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。
以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄
記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。
「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ
(広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ
うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け
られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5
と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線
5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ
うに形成されてもいない。
したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら
れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製
品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告
製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で
あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流
ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか
らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1
の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面
が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断
部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3
として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ
て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して
いた。」(【0004】)
「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装
型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの
内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この
外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ
レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する
ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという
作用効果が得られるものである。」(【0007】)
「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極
とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と
外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると
いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、
このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部
電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し
たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一
部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調
整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す
るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態
1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で
構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】)
「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が
得られるものである。」(【0036】)
【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー
ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて
は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して
いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで
きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー
スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され
た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を
配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって
溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体
の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を
奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13
がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記
載されている(同【0035】【図4】【図5】)。
以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の
金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し
た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内
に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま
る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば
らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある
いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必
要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低
コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1
発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端
に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤
を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間
に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば
らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立
を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部
21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易
になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。
そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも
生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である
ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶
断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して
いるといえる。
したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす
るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発
明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ
ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空
間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ
メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する
ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発
明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい
る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削
は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること
から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため
に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙
3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一
体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと
なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ
レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部
の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙
3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は
ない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害
する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、
当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均
等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発
明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく
各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当
であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ
ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、
同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す
ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範
囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その
後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上
の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで
の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付
けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。
このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技
術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を
終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本
件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい
ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ
とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追
加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。
◆判決本文
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2023.04.12
令和3(ワ)28206 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月16日 東京地方裁判所
原告「ホンダ」VS被告「マツダ」の特許権侵害訴訟です。裁判所は進歩性無しの無効理由があるとして、権利行使不能と判断しました(特104-3)
当裁判所は、本件発明は、進歩性を欠くものとして無効であると判断するものであり(争点2−1−2)、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。以下、進歩性については、争点2−1−2(後記7)を先に判断することとし、構成要件充足性については、当事者双方の主張立証の経緯及び内容を踏まえ、次のとおり、念のため必要な限度で判断の理由を示すこととする。なお、原告は、予\備的に訂正の再抗弁を主張するものの、弁論の全趣旨によれば、現実に訂正請求をするものではなくその予定もないというのであるから、その要件を欠くものであり、後記7において説示するところによれば、上記進歩性に係る判断を左右しないことは明らかである。\n
・・・
上記認定事実によれば、乙9発明と乙10発明は、共に安全性の観点から、
原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持すると
いう技術思想が共通するものといえる。そして、乙9発明は、安全性の観点
から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を
必須の特徴とするものであるところ、乙9(11頁2〜18行)によれば、
「ステツプS24では、ブレーキペダル信号の有無によりブレーキペダルが
踏込まれているか否かが判断される。・・・運転者が車両を停止させる意思
があると判断するためである。」、「更にステツプS25では、エンジンを
自動停止させるための他の停止条件、例えばターンシグナルが出されていな
いこと、ヘツドランプが点灯していないこと、エアコンデイシヨナが作動し
ていないこと、水温が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、
エアコン信号、水温信号等により判断される。」、「これらのステツプS2
1〜S25がすべて肯定判断されれば、エンジン自動停止条件が満足された
こととなる・・・」が記載されていることからすると、乙9発明は、エンジ
ン自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、各種検出信号を用
いていることが認められる。
そうすると、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるために、
各種検出信号の一つとして、乙9発明に対し、制動保持装置の異常を検出す
る乙10を適用する動機付けを認めるのが相当である。
したがって、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不
可分性を必須の特徴とする乙9発明の技術的思想に鑑みると、制動保持装置
の異常を検出した場合には、安全性を欠くことは自明であるから、安全性の
観点から各作動の一体不可分性を確保するために、エンジン自動停止始動装
置を安全な状態で作動させるための判断用各種検出信号の一つとして制動
保持装置異常検出信号を加えた場合において、制動保持装置の異常が検出さ
れたときは、乙9発明にいうステップS21〜S25が肯定判断されず、エ
ンジン自動停止条件が満足されなくなる。
そのため、上記場合には、制動保持装置異常検出信号が、エンジン自動停
止始動装置を作動させないことになり、もってその作動を禁止することにな
る。したがって、乙9発明に乙10発明を適用してエンジン自動停止始動装置
の作動を禁止することが、当業者の適宜なし得る設計事項の範疇であること
は、上記一体不可分性に照らし、明らかである。
以上によれば、制動保持装置の異常を検出した場合には、エンジン自動停
止始動装置の作動を禁止する構成(相違点1に係る構\成)を容易に想到でき
るものと認めるのが相当である。
実質的にみても、本件発明は、原動機停止装置の実行を判断するための各
種検出信号の一つとしてブレーキ液圧保持装置の故障検出信号を備えるも
のであり、乙9発明に乙10発明を適用した構成との間に、技術思想におい\nて異なるところはない。
◆判決本文
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2023.04.11
平成30(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月20日 大阪地方裁判所
102条1項の覆滅として15%と判断されました。覆滅分については6%の実施料と判断されました。興味深いのは、特許権は共有でしたが、原告が100%持ち分で、102条1項の適用がされている点です。なお、本件特許については、無効審判も3件あります。無効審判では証人喚問もされています。
◆本件特許
(7) 原告が販売することができないとする事情
ア 競合品の存在
被告が競合品であると主張する製品のうち、アツギが販売する「大人のス
ポパン」(乙60の2の1)、イーゲートが販売するショーツ(乙60の4の
1)、ワコールが販売する「すそピタショーツ」(乙61の1)、千趣会が販売
するショーツ(乙61の2、61の3)及びグンゼが発売する「超立体ぴっ
たりフィットショーツ」(乙61の5)は、脚口(裾口)ないし臀部部分が立\n体的な構造であり、脚口(裾口)部分のずりあがりが防止されることなど本\n件各特徴に相当する作用効果を有することを特徴とする商品であるといえ、
価格帯も、ワコールが販売する製品を除き、概ね同一であり、競合品である
と認められる。ワコールが販売する製品は、3000円前後と原告製品より
も高額であるものの、同社が女性用下着メーカーとして有名でありその商品
に高いブランド力があると認められること等を踏まえると、なお競合品に含
まれるといえる。
したがって、原告製品と被告製品とが販売される市場において、原告製品
と競合する製品が複数存在することが認められ、かかる競合品の存在は、原
告が販売することができない事情に該当するといえる。
もっとも、原告製品のうち、220番製品及び420番製品は、楽天市場
内の「ボックスショーツ」で区分される製品のランキングにおいて、平成2
5年5月15日から令和元年7月7日までの長期間にわたり連続1位を獲
得している(甲50、73)等、原告のブランドは需要者に相応に知られて
おり、かつ需要があると認められることを踏まえると、競合品の存在を理由
とする覆滅の程度が大きいとまではいえない。
イ 被告製品固有の特徴
証拠(甲3〜8、23、24、)によれば、被告製品は、本件各特徴に加え
て被告各特徴(1)ウエスト・脚口にはゴムを使用せず、2)綿の中でも、繊維
長が長く、吸湿性が高く、やわらかい風合い等の特徴を持つスーピマコット
ンを使用し、3)各パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たらない仕様であり、
4)品質表示を記載するタグをタグから製品本体に転写してプリントする方\n法に変更していること)を備えており、かつ当該被告特徴について、本件各
特徴に次いで、需要者に訴求されていることが認められる。
また、証拠(甲48〜50)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、1)
少なくともウエスト部分にゴムを使用し、2)スーピマコットンは使用されて
おらず、3)パーツの縫い目の縫い糸が肌側に当たる仕様であり、4)品質表示\nを記載するタグが付けられていることが認められる。
原告商品及び被告商品は、余多ある女性用ショーツの中で、装飾的な意味
でのデザイン性よりも、履き心地、肌触り等の機能面、実質面を重視した商\n品を購入しようとする需要者を販売対象とした商品であると認められ、その
ような需要者にとって、被告各特徴は、購入動機の形成にそれなりに寄与す
るものであるといえる(乙67)。よって、被告製品が原告製品とは異なる被告各特徴を備えることは、原告
が販売することができない事情に該当すると言い得る。
ただし、被告各特徴に基づく顧客誘引力は、商品の形状・機能に直接かか\nわる本件各特徴と比較すると限定的であると考えられること、被告特徴2)に
ついて、素材それ自体で見れば、被告製品と原告製品のうち220番製品及
び420番製品は綿95%、ポリウレタン5%と同一であり、その余の原告
製品も綿92%、ポリウレタン8%と大差がないこと、被告特徴4)について、
本件対象期間中に販売された被告製品の一部はタグ付きである可能性があ\nること(甲40)等をふまえると、その覆滅の程度は限定的に解すべきであ
る。
ウ ハイウエストタイプの存在
被告製品には、原告製品にない、ウエスト丈がハイウエストのもの(被告
製品3−1及び3−2。ハイウエストタイプ)が存在し、当該ハイウエスト
タイプの存在が、原告が販売することができないとする事情に該当すること
は争いがない。被告製品のうちハイウエストタイプは、被告製品の販売数量合計●(省略)
●のうち、●(省略)●であり、約26.8%である(計算鑑定の結果)。
被告製品においてハイウエストタイプを好む需要者が一定程度存在する
と認められることを踏まえると、被告製品にのみハイウエストタイプが存在
するという事情は、特許法102条1項1号に基づく推定を一定程度覆滅す
るものと認められる。
エ 販売価格
証拠(甲3〜8、48〜50、75)によれば、原告のウェブサイトで販
売される107番製品(ローライズ丈)及び407番製品(普通丈)の販売
価格は2500円(税込)、楽天市場で販売される220番製品(セミ丈)及
び420番製品(普通丈)の販売価格は1500円〜1520円(税込)で
あるのに対し、被告製品の一般向けの販売価格はレギュラー丈(被告製品1
−1及び1−2)が1080円(税抜)、ショート丈(被告製品2−1及び2
−2)が平均980円(税抜)、ハイウエストタイプ(被告製品3−1及び3
−2)が平均1280円(税抜)であると認められる。なお、原告製品のロ
ーライズ丈及びセミ丈と被告製品のショート丈、原告製品の普通丈と被告製
品のレギュラー丈が、それぞれ対応関係にある。
同種かつ同程度の機能等の製品相互間で価格が顧客誘引力に影響を与え\nること、これが女性用下着一般及びその中でも原告商品及び被告商品の想定
需要者層に妥当することは明らかである(乙67)。原告商品の販売数量を
見ても、価格以外の要素があり得るといえるものの、高額(2500円)の
407番製品及び107番製品の販売数量が●(省略)●枚、●(省略)●
枚であるのに対し、低価格(約1500円)の220番製品及び420番製
品が●(省略)●枚、●(省略)●枚と非常に高い比率を占める(計算鑑定
の結果)。
もっとも、販売量の多い220番製品及び420番製品と、被告製品(ハ
イウエストタイプを除く)の価格差は、420円〜540円であり、両製品
の価格帯自体が1000円〜1500円程度の範囲であること等を踏まえ
ても、その差が大きいとはいえず、顧客誘引力に大きな影響を及ぼすとまで
はいえない。したがって、被告製品が原告製品よりも低価格であることは、原告が販売
することができないとする事情に該当するといえるものの、当該事情を理由
として推定された損害が覆滅される程度は高いとは言えない。
オ 被告の営業努力
特許権者等が販売することができない事情として認められる侵害者の営
業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力を行い、製品の購買
動機の形成に寄与したと認められるものをいうところ、被告指摘の事情を勘
案しても、このような事情には該当しない。
カ 本件発明の技術的意義が被告製品の利益に貢献する程度
被告は、構成要件Dの「腸骨棘点付近」について、上前腸骨棘を中心とし\nつつ下前腸骨棘付近を含むものと解釈した場合、仮に被告製品が構成要件D\nを充足するとしても、本件発明の作用効果を奏さないため、被告製品に対す
る本件発明の寄与度が零であると主張する。
しかし、「腸骨棘点付近」に下前腸骨棘付近を含む場合でも本件発明の作
用効果を奏するものであることは前記2(1)のとおりであるから、被告の主
張は採用できない。
キ 実際の着用状態からみた本件発明の貢献度
被告は、一定以上の割合の被告製品については、需要者が着用した場合に
身体的個体差等の影響により着用状態において本件発明の技術的範囲に属
しない場合があり得、当該事情をもって原告が販売することができないとす
る事情に該当と主張する。
しかし、被告製品は、その設計時に想定された着用状態において、本件発
明の技術的範囲に属するものであり、実際の個別具体的な着用状況において、
被告製品の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置しない場合
があることをもって販売することができない事情が存すると解することは
相当でない。
ク 推定覆滅の割合(まとめ)
以上によれば、本件においては、競合品の存在、被告製品が被告各特徴を
有すること、ハイウエストタイプが存在すること及び原告製品よりも低価格
であることについて原告が販売することができない事情に該当すると認め
られ、前記イで認定した事情を踏まえると、当該事情に相当する数量は、全
体の15パーセントであると認めるのが相当である。
・・・
証拠(甲11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の実施に対し
受けるべき実施料率は6パーセントと認めるのが相当である。
なお、被告は、原告がそのウェブサイトにおいて本件特許権侵害に基づく
訴訟を被告に提起し、徹底的に争う旨の意思表明をしていることから、ライ\nセンスの機会を自ら放棄したとして、特許法102条1項2号が規定する
「特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しく
は通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く」に該当し、同号
に基づく実施料相当額の損害は認められない旨主張する。
しかし、被告が主張する事情は、原告の被告に対するライセンスの機会の
喪失を否定する事情に該当するとはいえず、同号の括弧書に該当する場合で
あるとは認められない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)16934 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月28日 東京地方裁判所
実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。
本件特許はこれです。
◆本件特許
「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが
保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳
エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト
の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」
の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形
成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口
を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け
られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ
ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に
授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適
切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され
た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際
し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、
授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを
移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を
行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内
部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報
及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動
を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明
の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。
しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機
器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な
用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として
のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移
動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間
を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該
技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい
う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、
設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図
るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用
チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る
授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ
つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、
乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の
事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳
室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる
弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、
ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に
よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。
また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法
を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ
とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6
発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め
られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動
させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない
ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に
そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授
乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ
とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内
装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ
スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。
さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ
って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定
できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付
けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを
取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア)
e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお
り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト
ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易
に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が
あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因
になるとは認められない。
◆判決本文
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2023.03.24
令和4(ネ)10087 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。
(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書
の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均
値を採用しなかったのは不当である旨主張する。
しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると
いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を
採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。
イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実
施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体
的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと
理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要
があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を
利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ
ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス
料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否
定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお
ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘
案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で
きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、
本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す
る。
しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事
情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると
はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00
32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され
ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語
の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反
する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び
「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007
9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし
【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者
は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説
明に記載したものといえる。
その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な
い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13
日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及
び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお
り判決する。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)32239
関連審決取消訴訟事件です。
◆令和3(行ケ)10139
◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です
◆令和4(ネ)10031
◆令和2(ワ)5616
◆令和3(ネ)10023
◆平成30(ワ)36690
◆令和4(ネ)10056
◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁
は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、
実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ
ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製
品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ
た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決
第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の
ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許
以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率
は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限
定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と
なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の
認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主
として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり
のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張
する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する
ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ
自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ
ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき
ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ
る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、
具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し
たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を
吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や
分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー
として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、
1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等
に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも
そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの
ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい
るのであるから、一審原告の主張は採用できない。
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2023.03.22
令和4(ネ)10061 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月9日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。
(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違
反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合
を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出
す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような
記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、
スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い
難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ
ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に
固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実
施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引
き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお
ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1
0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部
5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着
体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい
(図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、
1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される
のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が
あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調
整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、
かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である
ことは、当業者にとって明らかであるといえる。
そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ
ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す
なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図
をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体
を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での
外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ
れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面
に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷
付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す
る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円
弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷
付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、
押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。
そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部
を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が
押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ
グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース
から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの
が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ
トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手
段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設
けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで
あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート
を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で
は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか
ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も
ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ
ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1
の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移
動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな
い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含
むものと認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)3297号
本件特許1は以下です。
◆第6422800号
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2023.03.20
令和4(ネ)10078 不当利得返還請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。
ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4
月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張
できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の
再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい
て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害
に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、
特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが
できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟
手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ
るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下
されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい
て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許
が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を
受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次
訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効
審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁
を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日
付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備
手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され
た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ
も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの
と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再
抗弁の主張を追加したものである。
こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提
出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に
は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4
次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る
訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅
延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす
る。
◆判決本文
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2023.02.17
平成29(ワ)4178 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月31日 大阪地方裁判所
出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n
被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に
ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1
1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状
態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。
(1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、
原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ
の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。
(ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新
工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、
品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの
管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す
ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、
乙32、83)
QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2,
4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ
チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、
イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の
シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け
入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし
てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工
程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反
番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0
4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の
ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の
ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する
両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1
2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全
に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、
熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬
化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設
され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され
たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ
レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル
エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め
られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数
の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の
とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月
27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の
者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々
な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される
硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得
る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで
クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、
硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析
機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日
本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有
されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等
をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ
マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、
技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙
37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発
行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ
キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ
キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用
硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA
と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信
している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け
のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発
行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安
全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代
わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて
いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く
とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ
アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300
と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが
認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー
300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら
れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ
たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト
ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、
エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性
があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、
分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送
付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること
ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること
ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが
登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記
のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼
した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当
業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実
施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの
であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許
法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。
◆判決本文
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2023.01.28
令和3(ネ)10099 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁は、均等侵害の第1、第2要件は充足するものの第3要件(置換容易性)は充足していないと判断し均等侵害を否定しました。1審では均等主張はしていませんでした。
被告製品1は第3要件を充足するか(争点1−2−3)
ア 被告製品1の製造開始時において、本件訂正発明6における「前記電解
室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1\nにおける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の
底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換することは、当業者が容易\nに想到し得たかについて検討する。
イ 前記2のとおり、本件訂正発明6においては、構成要件11Aの隔膜に\nよる区画は、隔膜によって電解室の内部と外部とが完全に区画されるもの
であり、電解室の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造\nとなっている。また、本件明細書1においては、電解室の内部と外部を分
ける隔膜は、縦に設置されたもののみが開示され、陽極で発生する水素と
陰極で発生する水素は、別空間に排出されると理解される。
これに対し、被告製品1は、内タンク空間と外タンク空間の間を水が連
通する構成の下で高分子膜10を水平に配置し、高分子膜10の上側に保\n持された陰極電極板11で発生する水素ガスと、高分子膜10の下側に保
持された陽極電極板12で発生する酸素ガスの混合が起こり得る状態を
許容した上で、陽極電極板12で発生した酸素ガスは、枠体5内に集めて
大きな気泡を形成し、流出孔3から内タンク6内に進入するのを防止した
上、内タンク6と外タンク2の隙間内の水内を通って外部に排出するとい
うものである(乙29の1・2)。そうすると、本件訂正発明6と被告製品
1は、その基本的発想を異にするものというべきであって、被告製品1に
おける「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底
部、3)4つの高分子膜10」との構成への置換が本件訂正発明6の単なる\n設計変更とはいえない。
また、本件明細書1においては、「前記電解室の内部と外部とを区画する
一つ以上の隔膜」との構成を、被告製品1のような「1)内タンク6の側壁
の一部、2)流出孔3を有する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」
との構成に置換した場合に生じ得る事項についての示唆もないから、本件\n明細書1において、上記のような置換をする動機付けとなるものも認めら
れない。
ウ 控訴人は、前記第2の3(7)アのとおり、陽イオン交換膜を用いた固体高
分子水電解において、陰極室と陽極室を貫通孔により水を連通する構成は、\n被控訴人が製造販売を開始した平成29年11月以前から周知の技術で
あるとして、甲36文献、甲37文献、甲40文献を提示するので、以下、
検討する。
甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び
廃水・廃液処理方法に関するものであり(【0001】)、電解反応を利用
した化学物質の製造において、多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に
存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採るが、\n一部の電解プロセスにおいては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うこ
とを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されることを前提
として(【0002】)、陽極側と陰極側が固体高分子電解質隔膜により物
理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく
電解が行われる従来のオゾン水電解(【0005】)では、電解反応の進
行に伴い液組成が変化し、入側と出側で反応条件が異なるなどの問題点
があったことを踏まえ(【0006】)、電解セルの流入口より流入した原
料水がその流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである
両電極面に到達し、オゾン水を高効率で製造できる等の作用を有するオ
ゾン水製造装置等を提供することを目的としたものである(【001
6】)。
その技術分野(オゾン水製造装置)及び目的(オゾン水を高効率で製
造すること等)のいずれも本件訂正発明6と異なるし、その具体的構成\nも、貫通孔11が設けられた電解セル8(陽極1、陰極2及び固体高分
子電解質隔膜3)に直交して原料水(オゾン水)の流路が設けられると
いうものであって(【0034】及び【0035】)、電極室の内部に被電
解原水が貯留され、電気分解が行われる本件訂正発明6とは異なる。し
たがって、甲37文献に開示された事項を本件訂正発明6に適用する動
機付けは見い出せない。
甲40文献は、電源のない場所に持ち運び、水素の吸入や水素水の飲
用に使用することのできるポータブル型電解装置に係る技術分野に属す
るものであり(【0001】)、電解ユニット3は、ケーシング31、高分
子膜32、電極板33、34、スプリング35からなること(【0028】)、
ケーシング31は、内部に反応室311となる容積が確保されており、
側部に外部と反応室311とを連通するように穿孔された連通孔314
が設けられていること(【0029】)、電解ユニット3の高分子膜32は、
イオンの通過を規制するイオン交換機能を有する薄膜からなるもの(例\nえば、ナフィオン)で、ケーシング31の窓孔311を閉塞する大きさ
の方形に形成されていること(【0030】)が記載され、使用形態とし
て、内部に原水Wが収容されたタンク1にキャップ2、ガイド筒4、水
素吐出管5を一体的に取付けられること(【0034】)、スイッチ9が入
れられると、原水Wが電気分解され、ケーシング31の反応室311の
内部にあるプラス極の電極板34で水素イオンと電子とが生成されて高
分子膜32を通過し、ケーシング31の窓孔312に露出しているマイ
ナス極の電極板33で水素(ガス)が生成され、水素は、微細な気泡H
を形成してタンク1の内部で水素水からなる電解水を生成すること、プ
ラス極の電極板34で生成されたオゾン(ガス)は、高分子膜32を通
過することなくケーシング31の反応室311の内部に滞留され、ケー
シング31の反応室311の内部の滞留圧力が大きくなると連通孔31
4から吐出されること(【0041】)が記載されている。
しかし、甲40文献には、陰極室及び陽極室についての記載はないか
ら、これを見ても、陰極室と陽極室とを貫通孔により水を連通する構成\nが記載されているとはいえない。別紙2の図2において、マイナス極の
電極板33より上側部分を陰極室と、プラス極の電極板34より下側の
反応室を陽極室であると解釈すると、連通孔314は、陽極室とその外
部を貫通するものであって、陽極室と陰極室を貫通するものではない。
マイナス極の電極板33より上側部分と、ケーシング31側面の外側部
分はつながった空間であることから、ケーシング31側面の外側部分も
陰極室であるとみた場合には、連通孔314は、陽極室(反応室)と陰
極室(ケーシング31側面の外側部分)を貫通するものであるといえる
が、酸素と水素が同じ陰極室内に排出されることになり、被告製品1の
構成に至らない。\n甲36文献に係る発明の公開日は平成30年11月22日であり、甲
36文献自体の発行日は令和2年3月11日であるから、その内容や位
置付けについて検討するまでもなく、甲36文献は、被控訴人が被告製
品1の製造販売を開始した平成29年11月時点における周知文献とは
いえない。
エ 以上によれば、控訴人主張の周知技術は、いずれも、本件訂正発明6に
おける「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構\n成を、被告製品1における「1)内タンク6の側壁の一部、2)流出孔3を有
する内タンク6の底部、3)4つの高分子膜10」との構成に置換する動機\n付けになるものとはいえない。
これらの事実関係によれば、このような置換が容易であったとはいえな
いから、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。
前記(1)ないし(3)によれば、被告製品1は、均等の第1要件及び第2要件を
充足するものの、第3要件を充足しないから、第5要件について判断するま
でもなく、本件訂正発明6の技術的範囲に属しない。
◆判決本文
1審はこちら。
1審では、構成要件を具備せず、また実施可能\要件違反の無効理由有りと判断されていました。
◆令和2(ワ)22768
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2023.01.11
令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。
ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別
件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ
オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、
ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、
被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、
ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認
められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か
らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1
0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、
本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造
方法による旨の合意がなされている。
また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10
倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ
ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW
の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品
質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、
本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している
(原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1
2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの
(以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10
0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉
教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18
分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し
た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ
ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、
同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重
量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機
能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A
TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又
はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜
50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\
水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者
が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、
被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造
及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対
し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分
は異なる旨を主張する。
しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお
り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT
W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社
が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団
を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した
準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や
両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原
告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶
液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ
ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の
スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂
と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ
グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3)
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、
いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販
売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は
無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析
した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18
分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ
アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の
ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、
分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告
の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル)
がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値
が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55:
0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比
を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対
応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、
トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm
のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ
り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ
きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a)
のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで
あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ
の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、
共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位
置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である
トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状
況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信
用性に疑義を生じさせることにはならない。
◆判決本文
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