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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

104条の3

令和6(ラ)10001  保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件  特許権 令和6年10月22日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。

当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、 後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原 決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記 載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記 2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2 −3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る 本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味 は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは 非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体 状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処 理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中 味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文 は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性 の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学 物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、 第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排 除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は 認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての 非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド 含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の 含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題 も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、 「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5. 0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用 することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先 日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする 凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」 (乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然 検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更 に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製 造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題 を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量 と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1. 0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に 対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると も認められない。 その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

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令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。

前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消 灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整 するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間 が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ ることはできないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品 は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。 これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る 前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件 の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な 自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題 とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線 を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\ 成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001 9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、 乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板 50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光 板10を収容するものである。 そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収 容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収 容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明 に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8 −1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設 け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆 うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設 されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要 になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。 これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に 想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機 器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池 の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1 0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝 カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80 には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を 欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、 乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート 80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底 板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で あったものと認めるに足りない。 しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当 する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8− 1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。

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令和5(ネ)10042    特許権  民事訴訟 令和6年12月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n

ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道 発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機 能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の 故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には 明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障 発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明 を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明 を適用する動機付けに欠ける旨主張する。 しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部 の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を 出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装 置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装 置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明 において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記 の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する 動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して 運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る といえる。 そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置 を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制 動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない 故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液 圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」 構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1 に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)28206

対応する審決取消訴訟はこちらです。

◆令和6(行ケ)10018

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令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年12月12日  東京地方裁判所

 CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。

前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利 用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使 用することができないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金 の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という 記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」 の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件 明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提 供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に 属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。 しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を 参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示 したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と 「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001 4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも のではないと解するのが相当である。 したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、 充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について 前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断 するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案 に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以 下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発 明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画 面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。 そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相 違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n

◆判決本文

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