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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実施権

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和6(ワ)70106  特許使用料請求事件 令和6年11月15日  東京地方裁判所

 専用実施権者である原告が、通常実施権者である被告に対して実施料の支払いを求めました。原告は特許2の専用実施権者ですが、被告に対して特許1〜3の通常実施権を設定していました。被告は、特許1、3の通常実施権の設定義務があり、契約解除の申し出をしました。裁判所は被告の主張を認め、義務を果たしていないので請求棄却としました。

1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、 契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許\n諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契 約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。 しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許 諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常 実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、 本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、 証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技 術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社\nと日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被 告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの\nの、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。 したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、1)本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要 な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、 2)本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保 全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告 には債務不履行がないと主張する。 しかしながら、上記1)については、本件全証拠によっても、本件各特許権は いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の 主張はその前提を欠くものである。
また、上記2)についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権 について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実 (2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在 を否定することはできないというべきである。 そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、 前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面 到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履 行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付 して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期 間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意 思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている\nから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという べきである。

◆判決本文

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平成30(ワ)60 不当利得返還請求事件  その他  民事訴訟 令和3年3月11日  大阪地方裁判所

 特許を譲り受けたのに特許料を不能とした特許権者に対して、無効となった期間に対応する実施権料の不当利得返還請求が認められました。\n

(1) 以上より,被告が特許料不納付により本件特許権5〜8を消滅させたこと は,本件許諾契約上の特許維持義務(本件許諾契約書8条2項)の不履行に当た る。したがって,本件許諾契約は,原告の解除の意思表示(前記第2の1(10))に より解除されたこととなるから,被告は,原告に対し,原状回復義務(民法545 条)として,本件許諾契約に基づき原告が支払った実施料の返還義務及び利息支払 義務を負う。
(2) 本件許諾契約書において,実施料の額は本件プラントの処理能力に基づき算\n定されており(5条1項。前記第2の1(4)),本件各特許権の実施料を個別に算 定し,これを合算した額をもって実施料とするといった定め方はされていない。本 件各特許権の存続期間終了に応じて実施料を減額するといった規定も存在しない。 また,本件仕様書において,本件プラントにおいて本件各発明が実施される設備な いし方法及びそこで実施される発明を特定しているわけでもない。 これらの事情に鑑みると,本件許諾契約は,本件プラントの建設,操業及びリサ イクル品の製造,販売等において,本件各発明に係る技術のどれがどのように使用 されるかを具体的に特定して実施料を算定したものではなく,本件各特許権を一体 的なものとして取り扱い,本件許諾契約書記載のとおり,本件プラントの処理能力\nに基づき実施料を算定したものと理解される。 そうすると,本件許諾契約は,出願日の最も遅い本件特許権8(出願日平成10 年4月11日)の存続期間が終了する平成30年4月11日までは,契約として意 義を有していた可能性が高く,同契約に基づく本件実施料は,平成18年4月1日\n〜平成30年4月11日の期間中,本件各特許権のいずれかの通常実施権を許諾さ れることの対価として一体的に定められたものと見られる。 もっとも,本件各特許権のうち最もその消滅が遅かったのは本件特許権6(平成 23年7月6日)であり,それまでは,原告は,本件許諾契約に基づく通常実施権 者としての地位を享受していた。このため,本件許諾契約の解除により,原告も, その間に享受した利益を返還すべき地位にある。 そこで,本件実施料として支払われた1億5750万円から,原告が実際に通常 実施権者としての地位を享受していた期間に相当する部分を控除すると,8857 万1347円となる。
\157,500,000-(\157,500,000*1923 日/4394 日)=\88,571,347
(日数は実日数,小数点以下切捨て)
(3) 被告の主張について
被告は,本件実施料はそもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料では ない,本件許諾契約の目的は本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点 で既に達成されている,本件プラントにおいて本件各特許権が実施されていないこ とから,被告が本件特許5〜8を消滅させたことによって原告に損害が発生してお らず,債務不履行となるべき事実自体がないなどと主張する。 しかし,本件許諾契約に至る経緯等(前記1(1))に鑑みれば,本件実施料が実 質的に本件各特許権の実施に係る許諾料でないと見るべき事情はない。また,本件 許諾契約は,本件プラントの操業を埼玉ヤマゼンが担うことを前提としたものであ ることから(前記第2の1(2),第3の1(1)ケ,(2)),その目的が本件プラントの 本稼働開始により既に達成されたと見ることもできない。 さらに,そもそも,本件では本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状 回復請求がされているのであって,損害賠償請求はされていないことから,損害の 発生の有無は問題とならない。その点は措くとしても,本件プラントにおける本件 各発明の実施の有無は必ずしも判然とせず(前記1(5)),また,本件許諾契約に より原告が認められるのは通常実施権にとどまるものの,本件許諾契約には,JRT が原告以外の者にも本件各発明の実施を許諾する場合は,事前に原告との協議を要 することが定められていること(本件許諾契約書3条。前記第2の1(4)ア)など に鑑みると,なお本件特許権5〜8が権利として維持されることには意味があった ものといえる。しかも,前記(2)のとおり,本件許諾契約においては,本件実施料 を定めるに当たり本件各特許権は個別にではなく一体的に取り扱われていることか ら,本件特許権1〜4が本件譲渡契約の時点で既に消滅していたことは,原状回復 が認められる範囲を定めるに当たり考慮すべき事情とはいえない。その他被告が 縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10047  特許実費等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 独占的権利(特許または専用実施権)については,特許の取得費用についても支払うとの契約があり,その一部について非独占的権利への変更通知をした場合に,その取得費用について支払う必要があるのかが争われました。知財高裁は1審と同じく,支払い義務ありと判断しました。

「(1)ア 特許実費の支払義務を負う対象となる権利の範囲について,本件契約 書5条1項は,「専用実施権又は独占的通常実施権を有している本件特許権等」と 規定していることから,控訴人は,専用実施権の設定登録がされた特許権について のみ,それらの特許実費を負担することになるのかが問題となる。
(ア) 出願中の特許について
本件契約書1条1号は,「本件特許権等」について,出願中の特許も含まれるも のと定義していること,本件契約書5条1項は,「当該特許権又は出願中の特許に 係る出願,登録及び維持に要する実費(以下「特許実費」という。)を負担する」 と規定していること,本件契約書5条2項は「2条3項に基づく非独占的通常実施 権への変更通知をしたときは,当該変更通知がなされた対象特許権及び/又は出願 中の特許については,前項の費用負担義務を免れるものとし」と規定していること からすると,本件契約書5条1項により控訴人が負担することになる特許実費には, 出願中の特許についての特許実費も含まれることは明らかである。 そして,出願中の特許については,専用実施権の設定や独占的通常実施権の許諾 はできないから,それが特許権の設定登録がされた後に本件契約上専用実施権や独 占的通常実施権の対象となるのであれば,特許実費の支払義務を負う対象となると いうべきである。なお,出願中の特許については,仮専用実施権の設定や仮通常実 施権の許諾をすることができる(特許法34条の2,34条の3)が,本件契約書 には,仮専用実施権の設定や独占的仮通常実施権の許諾がされたものに限り,控訴 人がその特許実費を負担する旨の規定はないから,控訴人がその特許実費を支払う 義務がある出願中の特許がこれらのものに限られると解することはできない。 したがって,出願中の特許についても,本件契約書2条3項に基づく非独占的通 常実施権への変更がされていないものであれば,控訴人がその特許実費を支払う義 務があるというべきである。
(イ) 特許権の設定登録がされた特許権について
本件契約書2条1項,2項は,本件特許権等につき,当初は,専用実施権の設定 合意をするが,本件契約締結日から3年経過したときに,その専用実施権が独占的 通常実施権に変更される旨規定しており,本件契約においては,専用実施権の設定 合意がされ,その設定登録がされていなくても,その専用実施権は,3年経過後に 独占的通常実施権に変更されるものとされているのであるから,本件特許権等のう ち特許権の設定登録がされた特許権については,「専用実施権又は独占的通常実施 権を有している本件特許権等」とは,本件契約書2条1項により専用実施権の設定 の合意がされた特許権及び本件契約書2条2項により同専用実施権が独占的通常実 施権に変更された特許権を意味し,控訴人は,そのような特許権であり,本件契約 書2条3項に基づく非独占的通常実施権への変更をしていないものであれば,専用 実施権の設定登録がされているかどうかにかかわらず,それらの特許実費を支払う 義務があるというべきである。
イ 次に,本件契約書1条1号において,「本件特許権等」が「本件製品を 技術的範囲に含む」ものと定義されていることから,その意味が問題となる。 本件契約書1条3号は,「本件製品」について,「(1)圧電型加速度センサ(L字 タイプ),(2)触覚センサ(薄型力覚センサ),(3)トルクセンサ,(4)マイクロ発電 機,及び(5)MEMSミラーを意味する。」と定めており,そこに控訴人が製造,販 売するあるいは製造,販売する予定の製品といった限定はないから,本件契約上,\n「本件製品」とは,これらの技術分野の製品一般を意味するものである。 したがって,「本件製品を技術的範囲に含む」とは,これらの技術分野を技術的 範囲に含むことを意味し,「本件特許権等」は,これらの技術分野に関する特許権 又は出願中の特許を意味すると解するのが相当である。
ウ そして,本件契約についての以上の解釈は,前記1(2)で認定した本件 契約締結に至る経緯,前記1(3)で認定した本件契約締結後の当事者のやり取りの 状況等及び前記1(5)アで認定した控訴人による本件契約に基づく特許実費の支払 状況とも矛盾なく整合するものであって,これ以外の解釈をすることはできない。
(2) 以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,本件製品(圧電型加速度セ ンサ(L字タイプ),触覚センサ(薄型力覚センサ),トルクセンサ,マイクロ発電 機,及びMEMSミラーの技術分野)に関する出願中の特許,専用実施権の設定の 合意がされた特許権及び同特許権から独占的通常実施権の許諾のある特許権に変更 された特許権のうち,上記の専用実施権又は独占的通常実施権が非独占的通常実施 権に変更されていないものについての特許実費を支払う義務を負うが,前記1(7) アのとおり,平成29年度第2半期における上記範囲の特許実費は,4512万6 043円である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)3197
被告は,本件変更通知以降は,被告が本件特許権等につき何らの専用実施権を 有しないことが明確となった以上,それ以降に発生した本件変更通知後特許実費につ いては,本件契約上,被告が負担すべきものと解釈されるべきではないし,仮にその ように解釈されたとしても,本件変更通知後特許実費の発生原因となった原告による 特許出願等が被告にとって必要性がなく,また,早期に行われる必要もないものであ ったことも踏まえると,原告の本件変更通知後特許実費の請求は権利の濫用に該当す る旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件契約上,原,被告間に本件特許権等について の専用実施権の設定合意が存在する間は,被告が本件特許権等の特許実費を負担すべ きであると解されるところ,前記1(6)のとおり,本件変更通知によって上記の合意 が解消されるのは平成30年3月31日である上に,本件変更通知の対象には本件特 許権等に含まれる出願中の特許は含まれておらず,前記(1)アの本件特許権等の文言の解釈を前提とすると,本件変更通知の対象とされたのは本件契約の対象となる本件特 許権等のうちの一部にとどまることとなるから,本件変更通知により被告が本件特許 権等につき何らの専用実施権を有しないことが明確になったともいえない。 また,証拠(甲2,43)及び弁論の全趣旨によれば,原告の請求に係る平成29 年度第2半期における特許実費のうち,原告において平成29年11月10日以前に 特許事務所に対して出願等の依頼をしたにもかかわらず,特許事務所からの実際の請 求が平成30年2月23日以降にされたにすぎないものも相当額含まれていること が認められるし,また,これに当たらないものに関し,原告において,同日以降に殊 更同年3月31日までに特許出願等の特許実費を発生させる行為をしたと認めるに 足りる証拠もないこと,本件契約上,被告における実施の必要性がないこと等を理由 として被告において特許実費の負担を免れることができる旨の定めも存在しないこ とに照らすと,原告の本件変更通知後特許実費の請求が権利の濫用に該当するともい えない。
エ 被告は,過去に原告の有する本件製品に関する特許権及び出願中の特許を対象 としてその特許実費全額を支払っていた点について,後に精算することを前提に仮払 したにすぎない旨主張する。 しかしながら,本件契約書上,支払対象とならない特許実費に関する仮払やその精 算に関する定めは存在しない上に,証拠(甲6〜15,24〜28)及び弁論の全趣 旨によれば,被告が,原告の特許実費の請求に応じてその支払をするに当たり,仮払 であることや後に精算する必要があることを示すことなく支払をしたことが認めら れるほか,前記1(7)カのとおり,Bは,過去の特許実費の支払につき,仮払という説 明ではなく,支払当時将来的に独占的な実施権を得られるであろうとの期待から自発 的に支払ったなどと説明していたのであって,他に被告が原告に対して仮払であるこ とや精算の必要性があることを支払の際に示していたことをうかがわせる証拠もな いことに照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

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平成31(受)619  特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求事件 令和2年9月7日  最高裁判所第二小法廷  判決  その他  知的財産高等裁判所

 1審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下しました。知財高裁は訴えの利益ありと判断しました。最高裁は知財高裁の判決を取り消ししました。 論点は、不利益の可能性が潜在的にとどまっていても、訴えの利益があるかです。\n

 本件確認請求に係る訴えは,被上告人が,第三者である参加人の上告人に対する 債務の不存在の確認を求める訴えであって,被上告人自身の権利義務又は法的地位 を確認の対象とするものではなく,たとえ本件確認請求を認容する判決が確定した としても,その判決の効力は参加人と上告人との間には及ばず,上告人が参加人に 対して本件損害賠償請求権を行使することは妨げられない。
そして,上告人の参加人に対する本件損害賠償請求権の行使により参加人が損害 を被った場合に,被上告人が参加人に対し本件補償合意に基づきその損害を補償 し,その補償額について上告人に対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害 賠償請求をすることがあるとしても,実際に参加人の損害に対する補償を通じて被 上告人に損害が発生するか否かは不確実であるし,被上告人は,現実に同損害が発 生したときに,上告人に対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請 求訴訟を提起することができるのであるから,本件損害賠償請求権が存在しない旨 の確認判決を得ることが,被上告人の権利又は法的地位への危険又は不安を除去す るために必要かつ適切であるということはできない。
なお,上記債務不履行に基づく損害賠償請求と本件確認請求の主要事実に係る認定判断が一部重なるからといって,同損害賠償請求訴訟に先立ち,その認定判断を本件訴訟においてあらかじめしておくことが必要かつ適切であるということもできない。 以上によれば,本件確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠くものというべきで ある。

◆判決本文

原審(知財高裁)は下記です。

◆平成30(ネ)10059

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)28060

本件についての参考サイト(20200909時点では控訴審まで) https://innoventier.com/archives/2019/03/8058

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平成28(ワ)3928  製造販売差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月3日  大阪地方裁判所

 ノウハウの使用料ではないと判断されました。被告らは、特許権が消滅した後はロイヤルティ支払を拒否しました。原告は、それなしではWBトランスを製造することのできない有用な情報であり,ノウハウの使用料だと主張しましたが、大阪地裁はこれを否定しました。

 本件技術資料に記載された数値等は,WBトランスを開発した川鉄電設ない しP2が,開発の過程で得られた実験値や実測値,あるいはトランスの容量等に応 じて推測した理論値や計算値を表形式に整理したものが多いと思われる。\nそうすると,WBトランスを製造,販売しようとする者が本件技術情報を入手し た場合,独自に実験を行って必要な値を計測・算出したり,部品の製造元等へ問い 合わせたりすることなく当該トランスの特性を予測したりすることができるという\n点において有用であるといえ,要件を充たせば,営業秘密として保護されるべきも のと解されるから,例えば,被告らが,当初契約を締結して平成7年技術資料を入 手し,未だWBトランスの製品が市場に出ていない段階で,原告の許諾を得ずにこ れを第三者に開示したとすれば,秘密保持義務違反の責めを負うべきものと解され る。 他方,上記検討したとおり,本件技術情報の開示を受けなければWBトラン スを製造することができないといった事情までは認められず,本件技術情報がWB トランスの製造に必須であることを前提に,本件各基本契約の性質を考えることは できない。 また,本件技術情報に記載された数値は,物理的に測定したり,計算によっ て求めることができるものと考えられるから,WBトランスが市場に出回り,リバ ースエンジニアリングを行って計測等ができるようになった段階で,公知になると いわざるを得ない。 本件各特許権の明細書等を参照し,流通に置かれたWBトランスに対するリバー スエンジニアリングを行ってもなお解明することができず,原告よりその開示を受 けない限り,WBトランスの製造はできないというようなノウハウが,本件技術情 報に含まれていると認めるべき証拠は提出されていない。
・・・
(1) 本件各基本契約の内容 本件各基本契約の内容は,前提事実(3)のとおりであり,文言上は,WBトランス 製造及び販売の実施許諾,指定された装置及び資材の使用,技術情報の提供,対価 としてのイニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支払,その前提としての 実施報告,特許権等の実施許諾,改良技術の通知,秘密保持といった内容が双方の 権利または義務として定められており,原告が主張する技術情報の提供および秘密 保持も,被告らが主張する特許権の実施許諾も,いずれも本件各基本契約の内容と して定められているのであって,その関係をどのように解するかが問題となる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件各基本契約は,ノウハウライセンス契約であって特許の実施許 諾を内容とするものではなく,イニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支 払義務は,ノウハウの使用に対する対価であって,特許の使用許諾に対する対価で はないから,本件各特許権の消滅により影響されない旨を主張する。 しかしながら,ノウハウライセンス契約であるとの主張は,本件技術情報がなけ ればWBトランスを製造することができないとの原告の主張を前提とするものであ るところ,その主張が失当であることは既に述べたとおりである。
イ 既に認定したとおり,WBトランスとして定義されたものは,本件各特許権 の特許請求の範囲の文言と一致する部分が多く,当初契約の際の川鉄電設側の説明 によっても,特許権者の許諾を得ない限り,これを製造,販売することはできない と考えられる。 WBトランスの製造に使用する資材や装置にも,川鉄電設や川崎製鉄の権利が及 ぶものは多いと考えられ,権利者の許諾を得るか,権利者又はその許諾を得た者が 製造した資材や装置を購入等するのでなければWBトランスを製造,販売すること はできず,単に製造に関する技術情報やノウハウの提供を受けるのでは足りないと いうべきである。
ウ 本件各基本契約,特に当初契約の締結に至る経緯を考えても,前記認定のと おり,川鉄電設は工業会の会員に対し,特許の実施許諾であることを前提に,それ に付随するものとして情報提供,技術指導を行う旨を案内しているのであり,その 本質が特許の実施許諾ではなく,ノウハウライセンス契約であるとの説明が行われ た事実は認められない。
エ 前記認定したとおり,被告らの照会やトランスの設計依頼に応じて,川鉄電 設又は原告から情報提供が多数回にわたって行われているが,時期的なところに着 目すると,被告らが当初契約を締結し,WBトランスの設計,製造をしてその販売 を行い始めた平成9年から平成13年までの間になされたものが大部分であり,最 長20年にわたるランニングロイヤルティの支払と技術情報の提供ないし技術情報 とが対価関係に立つと解することは不合理である。 むしろ,従前にはなかった形式のものとして新たに開発したWBトランスについ ての実施許諾を行うに際し,被告らにおけるWBトランスの製造が軌道に乗るまで の間,WBトランスの開発者である川鉄電設又は原告が,技術情報を提供したり, 技術指導を行うというのは,通常予定されるところと考えられること,川鉄電設か\nら原告に契約関係を承継した際に,前記認定のとおり,当初契約に係るイニシャル フィーは承継せず,追加契約に係るイニシャルフィーは,実施分を控除して原告に 承継される扱いであったことからすると,本件各基本契約において,技術情報の提 供や技術指導の対価と認められるのは,契約当初に支払われるイニシャルフィーと 解するのが合理的である。
オ 以上を総合すると,本件各基本契約には,前記(1)で要約した複数の要素が含 まれるものの,その中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり,本件技術情報 の提供は,これに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの 支払も,本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり,これ を本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。 原告は,本件各基本契約の体裁として,第2条にWBトランスの製造,販売の実 施権の許諾を,第3条に技術情報の提供を,第7条に特許権の実施許諾を定めた上 で,第4条の対価は第2条,第3条の対価である旨定めていることをその主張の根 拠とする。しかし,既に検討したとおり,そもそも本件各特許権の実施許諾なしに WBトランスを製造,販売することはあり得ないし,契約の第2条において,鉄心 巻込装置,コイルボビン,フレームについては川鉄電設が特許出願中のものを使用 すべきことが定められていることからしても,同条の実施許諾は,本件各特許権の 実施許諾を含むものであり,第7条の規定は,特許の登録後と出願中の場合とを分 けて規定したものと解されるから,第4条の対価に特許の実施許諾に対するものが 含まれないと解することはできない。

◆判決本文

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平成30(ワ)5189  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月19日  大阪地方裁判所

 許諾による実施権は有していないと判断されたものの、技術的範囲外として判断されました。

 確かに,本件業務委託契約の第4条第1項では,中国の会社がカキ殻加工固形物 (「ケアシェル」)の製造技術指導等を受け,そのノウハウを利用して製造,販売 する一切の成果物を製造,販売することができることが明記されており,中国の会 社は共有特許の構成を有する養殖魚介類への栄養補給体を製造,販売することも可\n能と考えられる。\nもっとも,同項では,「日本国以外で」製造,販売できる旨明記されている上に, 共有特許権が存続する間は,原則として,上記成果物を日本国において製造,販売 することはできないものとされ,さらに違約金の定めもされている(同条第2項)。 それだけでなく,第8条第1項では,中国の会社は,共有特許権が存続する間は, 「ケアシェル」を日本で製造,販売,日本へ輸出しないことを誓約することが明記 されている。 この点に関し,第4条第1項ただし書及び第8条第1項ただし書では,被告会社 が文書により要請したときは,中国の会社は上記成果物を被告会社に販売できるこ とや,「ケアシェル」を日本に輸出できることが明記されているが,あくまでも中 国の会社がこれらをすることができるのは,被告会社が文書により要請する場合に 限られているから,上記各条項によって,中国の会社に対し,共有特許の日本国内 での実施が許諾されたものと認めることはできない。 そして,本件業務委託契約の他の条項を検討しても,中国の会社に対し,日本国 内での共有特許の実施を許諾することを内容とする条項が設けられているとは認め られないから,本件業務委託契約が中国の会社に対し,共有特許権についての通常 実施権を許諾することを内容とするものと認めることはできない。 以上より,これを前提とする原告の主張には理由がない。
(4) 次に,原告は,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発 明の技術的範囲に属していることを前提として,その製造が共有特許権の侵害に当 たると主張する。 しかし,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発明の技術的範 囲に属するもの(共有特許の実施品)であることを認めるに足りる証拠はないし, 中国の会社がこれを日本国内で製造したことを認めるに足りる証拠もない。 したがって,中国の会社が共有特許権の侵害行為をしたと認めることはできない。
(5) 以上より,本件業務委託契約の内容とするところは,共有特許権の排他的 効力とは無関係であるから,被告会社が中国の会社と本件業務委託契約を締結した こと等が,共有特許権者である原告の権利を侵害したことを理由とする原告の請求 は理由がない。

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平成31(ネ)10032  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所



 専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。1審は、実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。控訴されましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
 2 実施義務違反の有無について
(1) 被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)
ア 控訴人は,被告製品の製造工程には,稚魚をボイルした後に,粗熱をとって 冷ます工程が入っていることから,本件発明の製造工程に反し,そのことにより, 本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施がされていない旨主張す る。 しかしながら,本件において被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反して いると認めることはできない。 その理由は,後記イのとおり補正し,後記ウのとおり,当審における補充主張に 対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(原判決12頁 19行目から22頁20行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す る。
イ 原判決の補正 原判決22頁15行目及び20行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改め る。
ウ 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否に ついては,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイル した後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れる ことを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れること が許容されることにはならないと主張する。 そして,本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にする\nことを目的とするものであるのに,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は, その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく, 被告製品においてはイノシン酸による旨味成分の維持がされていないことからすれ ば,本件発明の製造工程に従って製造されていないと認めるべきであり,このこと は被控訴人の実施義務の違反を構成すると主張する。\nその上で,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量を示す証拠として,平成3 0年2月1日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第252―\1 号。甲18)及び平成30年3月8日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(2\n9産研分第286号。甲24)並びに被告製品の写真(甲21)を提出する。 しかしながら,甲21の被告製品の写真は,上記各成績表に係る試料となる検体\nを撮影したものであると説明されているものの,上記被告製品は,賞味期限を平成 28年11月19日とするものであり(甲21,24),試験の依頼日である平成3 0年3月5日までに1年3か月以上経過していた。上記被告製品が上記試験までの 間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えら れるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記 試験の結果によれば,イノシン酸の含有量の値が41と低く(甲18),被控訴人に おいて,粗熱を取ったしらすに対し冷凍と解凍を繰り返したときの試験結果(乙6 9)とイノシン酸の含有量の傾向が一致していることからすると,上記被告製品の 保存の状態も,同様に解凍と冷凍をしたものであったことがうかがわれる。 そうすると,上記の試験結果が被告製品の状態を的確に示すものといえるか否か については疑義があり,この疑義を払拭するに足りる的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)\n
ア 控訴人は,被控訴人が本件契約の締結後すぐには被告製品を製造しなかった ことや,その後に支払われた実施料が少額であったことをとらえて,被告製品の製 造販売が実施義務の履行として十分なものでなく,そのことにより,本件契約上専\n用実施権者に義務付けられた本件発明の実施がされていない旨主張する。 しかしながら,本件事実関係の下において,被告製品の製造販売が実施義務の履 行として十分なものでなかったと評価することはできない。\nその理由は,後記イのとおり補正するほかは,判断の基礎となる事実関係につい ては,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)(原判決22頁25行目から28頁1 8行目まで)に記載されたとおりであり,判断については,同第4の2(3)(原判決2 9頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す る。

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原審はこちらです。

◆平成29(ワ)1752

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平成29(ネ)10090  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年4月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。

 実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた 製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性 が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク 試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30 秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試 験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による 判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経 過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に, 湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。 なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や, 203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。 乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品 や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと 推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様 に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量 が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発 明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分 含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった 可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件 発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分 含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル 薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含 量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制 し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的 思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及 びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定 められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の 添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加 剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの 管理湿度などは不明である。 そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,● ●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量 が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水 分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており (乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の 管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は, サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5 〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分 含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲 内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水 分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存 在しない。 そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発 明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治 験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。 しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠 剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して いたといえるものではない。 したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量 を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し ていた旨主張する。 しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程 度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり, 控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量% の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2. 9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1. 5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評 価できるものでもない。 したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明 2と同じ内容の発明であるということはできない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)

 本件出願日(平成24年8月8日)までに,被 告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg 製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事 業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に 認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題 となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ, 水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分 含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の 提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少 なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水 分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの 条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及 び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。 しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号: PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30 3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が 経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状 態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値: 75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して, 乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが, 上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること を直接裏付ける証拠はない。 かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被 告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年 以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分 含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が 高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を 収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材 料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加 しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の 実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告 錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提 とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び 本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg 錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠 はないものというべきである。

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平成29(ワ)1752  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成31年2月28日  大阪地方裁判所(26部)

 専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。

 原告は被告が実施義務を負っていることを前提として,それに違反した債務不 履行があると主張している。 確かに,本件契約には,被告の実施義務を定めた条項は設けられておらず,被告 が本件特許の実施に努めることさえも規定されていない。 もっとも,本件契約は専用実施権設定契約であり,被告は本件契約に基づき本件 特許の専用実施権を取得し,本件特許を独占的に実施し得る地位を獲得するのに対 し,原告は本件契約を締結することによって,本件特許を実施することや他の者に 実施許諾することができないにもかかわらず,特許維持費用の支払義務は負うとい う立場に立つことになる。また,本件契約では,イニシャルペイメントが「0円」 と明記され,またランニング実施料の金額も,実施の有無にかかわらず一定額が支 払われる条項とはされず,被告が販売した本件特許権に基づく製品の販売価格に所 定の割合(2ないし5%)を乗じた額とするにとどめられていたから,原告は,被 告が本件特許を実施しないことには,実施料の支払を全く受けられないことになる。 本件契約の当事者である原告と被告が置かれる以上のような状況を踏まえると, 専用実施権者である被告は,本件特許の実施が可能であるのに,それを殊更に実施\nしないとか,その実施に向けた努力を怠るなどということは許されず,信義則に基 づき,本件特許を実施する義務を一定の限度で負うと解すべきである。 もっとも,上述したように,本件契約では被告の実施義務に関係する条項は何ら 設けられず,またランニング実施料の金額も販売価格に一定割合を乗じた額とする にとどめられており,被告としては製品が販売できた場合にのみ実施料の支払負担 が発生するにとどまるというリスク負担を前提に本件契約を締結したものであるか ら,本件特許を実施した製品を製造販売するための努力の程度について被告に過大 な義務を負わせることは相当でない。また,被告は本件特許の製造法によって製造 したしらすを製造販売することによって本件特許を実施することになるが,本件特 許は解凍後真空包装し,加圧加熱処理することをも構成として含むものであり,被\n告はそれを行うための機械を有していなかったから,そのための準備期間が不可避 的に生ずるし,結果的に,商品が消費者に十分受け入れられず,思うように商品が\n販売できないなどという事態も生じ得る。 以上のような本件の事情を考慮すると,被告が本件特許の実施義務を負うといっ ても,本件特許を実施するために必要な事項等を踏まえつつ,その時々の状況を踏 まえ,特許の実施に向けた合理的な努力を尽くすことで足りると解するのが相当で ある。
(3) 被告の実施義務違反の有無
ア 上記(2)のような観点から,被告が本件特許の実施のための努力を怠ったといえるかを検討すると,前記(1)で認定した事実によれば,被告は,平成26年3 月28日に本件契約を締結した後,速やかに,自社ではできないパック詰め作業を 委託する業者を探して,同年5月22日までにはその目途をつけた後,パッケージ 等の製造や,そのデザインを別の業者に依頼し,同年10月末までにその目途をつ けて,製造の準備をほぼ整えたと認められる。また,被告は,以上のような製造に 向けた準備と同時並行で,元々取引のあった愛媛県内のスーパーやデパートに本件 特許の製造法によって製造したしらすの販売を持ちかけたり,P4に対してその販 売の取次を依頼したりし,幅広く本件特許の製造法により製造したしらすを販売す るための交渉等を進めたが,成果は芳しくなく,その後,同年12月までには「婦人画報」への掲載が決まり,平成27年3月には商品の製造を開始し,同年4月頃 に販売された「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,実際に その販売が開始されるに至ったのである。以上のように,被告は,本件契約の締結 後,本件特許の実施に向けた準備を進め,実際に,実施にこぎつけたと認めること ができる(なお,被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反すると認められな いことは前記1で判示したとおりである。)。 イ もっとも,本件契約の締結から商品の製造や販売開始まで1年程度要し ていることから,被告が前記(2)で判示した本件特許の実施のための努力を尽くした といえるかを検討する。
(ア) 確かに,被告代表者自身も陳述書(乙40)において,「準備に思った\nより時間…が掛かりました」と述べているように,製造販売の準備行為に相当の時 間を要しており,さらに早期に商品の製造や販売の準備を整えることができた可能\n性も否定はできない。 しかし,被告は,パック詰め作業をする設備機械を保有していなかったのである し,パッケージ等の製造も他の業者に委託しなければならなかったのであるから, 製造準備を整えるまでに前記のような期間を要したことが,本件特許の実施を不当 に遅延したとはいえない。また,前記認定の経過によれば,被告が実際に被告製品 の製造を開始したのが平成27年3月となったのは,当初の地元のスーパーやデパ ートへの営業が販売価格の面で折り合わず,芳しくなかったが,同年4月頃に販売 される「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,それを見た消 費者に対する販売が相当程度見込まれたからと推認される。そして,被告も営利企 業として事業を営んでいる以上,ある程度まとまった販売が見込まれない段階で商品の製造を開始することは現実的ではないし,信義則上も被告にそれを強いること は相当とはいえないから,被告が結果として,ある程度まとまった販売が見込まれ るに至った同年3月から商品の製造を開始したこと(それまでは本件特許の製造法 によるしらすを製造しなかったこと)が,製造販売への努力を不当に怠ったという ことはできない。
以上によれば,製造販売の準備行為に時間を要したことによって製造開始が遅れ たとまで認めることはできないし,平成27年3月からの製造開始となったことが 被告の努力が足りなかったことによるものと認めることもできない。 また,製造販売を開始した後の販売状況も,決して順調とはいえないものではあ るが,被告は,Smile Circle株式会社以外の取引先にも営業を行って少量ながら取 引をしていることからすると,販路拡大のための努力を不当に怠っていたと認める ことはできない。

◆判決本文

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平成28(ネ)10098  不当利得返還等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成29年4月12日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 実施契約は取締役会の決議無しとして無効と判断されました。なお、原審はアップされていません。
 当裁判所も,原審と同様に,本件各契約は,これを締結するに当たって被 控訴人において必要とされる取締役会の決議を経ておらず,控訴人はそのこと について知り得べきであったものといえるから,本件各契約はいずれも無効で あり,控訴人の被控訴人に対する反訴請求はいずれも理由がないものと判断す る。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第 4の1ないし3(原判決20頁7行目冒頭から36頁22行目末尾まで)に記 載のとおりであるから,これを引用する。

◆判決本文

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平成25(ネ)1136 意匠権侵害差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 平成25年10月10日 大阪高等裁判所

 意匠権侵害を認めなかった1審判決が維持されました。イ号および登録意匠などは1審判決中に示されています。
 したがって,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。そして,意匠の要部の把握に当たっては,周知意匠のありふれた態様については,需要者の注意を惹かないことが一般であるし,意匠登録は出願前の公知意匠に類似する意匠には認められない(意匠法3条1項3号)のであるから,周知意匠や公知意匠を参酌すべきである。ただし,意匠の構\成中の一部に公知意匠の構成と同じものが含まれていても,その部分が登録意匠において需要者の注意を惹くこともあり得るところであるから,その部分が直ちに意匠の要部となり得ないと解すべきではない。\n

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◆原審はこちらです。平成24年(ワ)第4224号大阪地裁平成25年3月7日

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平成25(ネ)10018 特許権侵害差止等請求権不存在確認等請求控訴 特許権 民事訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所

 1審では、特許権侵害として取引先に告知した行為について、先使用権が認められました。その結果、虚偽の事実の流布として、不正競争行為として差止および損害賠償が認められました。2審では損害額が減額されました。
 控訴人らの前記信用毀損行為により被控訴人らが被った無形損害は,控訴人らの 信用毀損行為の態様,回数,内容に加えて,本件口紅は本件特許訂正発明の技術的 範囲に属するものの,被控訴人らに先使用権が発生する結果,本件特許権の侵害と ならないことなど本件における諸般の事情を総合考慮し,被控訴人ら各自につき1 00万円と認めるのが相当である。

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◆原審はこちらです。平成23(ワ)7407

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平成23(ワ)7407 特許権侵害差止等請求権不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟 平成25年01月31日 大阪地方裁判所

 特許権侵害として取引先に告知した行為について、先使用権が認められました。その結果、虚偽の事実の流布として、不正競争行為として差止および損害賠償が認められました。
 以上のとおり,原告らは,本件特許発明につき,「特許出願に係る発明を知らないでその発明をした者から知得して,特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者」に当たるから,少なくとも本件容器の実施形式の範囲で先使用権を有するものである。したがって,原告らが本件口紅を販売等することは,被告P1の有する本件特許権の侵害にはあたらないというべきである。
・・・・
前記判断の基礎となる事実(第1の1(5))記載のとおり,被告P1は,原告らの取引先に書面を送付して,原告らによる本件口紅の販売等が被告P1の本件特許権を侵害する旨の事実を,それぞれ告げたものであり,被告atooは,これに沿う記事及び原告らと被告らの紛争の経過をそのウェブサイトに掲載したものである。しかし,前記のとおり,原告らによる本件口紅の販売等は,被告P1の本件特許権を侵害するものとは認められないのであるから,被告らの上記行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布」するものとして,不正競争防止法2条1項14号の定める不正競争行為(信用毀損行為)に該当するといえる。そして,上記書面の送付は被告P1の名によるもの,ウェブサイトへの掲載は被告atooによるものであるが,内容的に一体のものとして行われていること,前記第1の1(3)のとおり,原告らは「ロレアル」のブランドの下に一体で事業を行っていることを考慮すると,上記信用毀損行為は,被告らが共同して,原告ら各々に対し行ったものと認めるのが相当である。

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平成21(ワ)23445 特許権侵害差止請求事件 特許権 平成25年01月31日 東京地方裁判所

 独占的通常実施権設定後、第三者に通常実施権を設定したことは、独占的通常実施権者としての地位を脅かすものではないと判断しました。
 これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえないし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということもできない旨主張する。確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価の額」を「無償」とする通常実施権の設定登録が経由されたことが認められる。一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長であったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権の設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表\\取締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承していたことが認められる。そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものではないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきである。
 また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が本件特許権1の特許発明の実施品を現実に販売していることを認めるに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれたものということはできない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 以上のとおり,原告日環エンジニアリングは,本件特許権1について本件独占的通常実施権1を有するものである。ところで,独占的通常実施権者が当該独占的通常実施権に基づいて許諾を受けた特許権を独占的に実施し得る地位は法的保護に値する利益であるといえるから,故意又は過失により上記利益を侵害する行為は不法構成を構\\成し,独占的通常実施権者は,その侵害者に対し,自己が被った損害について不法行為に基づく損害賠償を求めることができるというべきである。そして,独占的通常実施権者は,登録によって公示がされていない点などで専用実施権者とは異なるが,その実施権に基づいて特許権を独占的に実施して利益を上げることができる点においては専用実施権者と実質的に異なるものではなく,損害については基本的に専用実施権者と同様の地位にあるということができるから,独占的通常実施権者については,特許法102条1項又は2項を類推適用することができると解するのが相当である。

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平成24(ネ)10016 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成24年07月18日 知的財産高等裁判所

 先使用による通常実施権を有するとして、差止、損害賠償請求を棄却した一審判断が維持されました。
 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照)。
(2) そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
・・・
 以上のとおり,大阪ガスが開発したトルエン加水分解法は,BPEFの粗結晶を水とトルエンに溶かした後,不純物が溶けた水を取り除くと,BPEFのみが溶けたトルエンが得られ,これを精製して純度の高いBPEFを得るという方法であり,本件特許発明1とは異なるBPEFの製造方法であるところ,大阪ガス及び同社から平成11年4月頃にトルエン加水分解法を含んだBPEFの製造方法について開示を受けた被控訴人は,本件特許の優先権主張日である平成19年2月15日前に,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを少なくとも約30トン委託製造しているのであるから,被控訴人製品に係る発明は,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的,客観的なものとして構成されていたということができる。したがって,被控訴人製品に係る発明は完成していたものと認められる。

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◆一審判決はこちら。平成22年(ワ)第9102号

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平成22(ネ)10022 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年07月20日 知的財産高等裁判所

 原審では、通常実施権のサブライセンスが認められる理由は述べられませんでしたが、知財高裁は、特94条を根拠にこれを認めました。
 確かに,専用実施権については,特許権者の承諾があれば,通常実施権を設定することができる旨の明文の規定(特許法77条4項)があるが,通常実施権については,同様の明文は存しない。しかしながら,通常実施権者は,特許権者の承諾があれば,その通常実施権を第三者に譲渡したり,質権を設定したりすることができるのであるから(同法94条1項,2項),同様に,特許権者の承諾があれば,再実施契約を設定することも可能と解すべきである。そして,前記認定のとおり,本件においては,本件専用実施権設定契約(乙1)において,再実施が許諾されているのであるから,専用実施権設定契約に代えて独占的通常実施権設定契約が締結されていると認められる以上,同契約においても,同様に,再実施契約について特許権者の許諾があると認めるのが相当である。また,控訴人は,特許庁の取扱いとして通常実施権に基づく再実施契約の登録ができないことを問題とするが,通常実施権の登録は対抗要件にすぎないから,登録の有無は再実施契約の有効性には影響しないというべきである。\n

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◆原審です。平成21(ワ)7735

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平成18(ワ)7758等 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成21年01月20日 大阪地方裁判所 

 販売地域制限違反が争われました。
 前記争いのない事実等のとおり,本件製造委託契約書の9項(本件エリア条項)には「快通ハーブ粒の販売に当たり,原告は近畿2府4県,及び石川,三重,徳島の各県においては店舗販売ルートにおけるハーブ粒商品の独占販売を行い,それ以外の地域については,被告ウェーブの製造販売するスリムダイエット粒と,協調販売を行う。被告ウェーブの発売するスリムダイエット粒は原告の上記独占発売地域外において販売活動を行うものとする。なお,原告の取引先に関し,広域販売網を持つ会社との取引については,その出店先が上記条項に抵触しないこと」の条項記載がある。この条項にいう「広域販売網を持つ会社」の「出店先」には「広域販売網を持つ会社」の直営店のほか卸売会社の転売先も含むものかなど,後記のように,被告ウェーブが販売すべき店舗の範囲について疑義が生ずる余地がある曖昧なところもある。しかし,少なくとも,被告ウェーブが本件エリア内の店舗に自ら快通ハーブ粒を販売することを一律に禁止され,本件エリア外においてのみ自社の販売するスリムダイエット粒を販売することが許容されているにすぎないことは,本件エリア条項の文言上は一義的に明確といわざるを得ず,上記文言で示された合意の存在を否定し,これと異なる口頭の合意の存在を認定することは,慎重である必要がある。

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平成21(ネ)10036 業務委託料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月17日 知的財産高等裁判所

 争点の1つが、特許権者の開発の遅れによって実施がきわめて制限された場合にも、、ミニマムロイヤルティの支払い義務があるかでした。
年間ミニマムロイヤルティは,控訴人が「許諾製品」を製造販売したことに対するロイヤルティ(実施許諾料)につき,被控訴人に対する最低限の支払を保証する趣旨のものであるから,契約上明文の規定はないものの,控訴人が「許諾製品」を製造販売することができず,しかも,その原因が被控訴人の研究開発の遅延にあるときは,その支払義務を負わないとする趣旨であったと解することができる。控訴人の上記主張は,そのような趣旨のものと理解することができる。ウ そして原判決(38頁下1行〜40頁17行)認定のとおり,被控訴人が開発した「W−1」は,平成15年2月22日,23日に行われた初期排出ガス試験に不合格となったため,控訴人及び被控訴人の当初の見込みに反し,指定を受けるまでのスケジュールが大幅に遅延することになり,その後,被控訴人が改良した「W−1」は,平成15年10月23日に八都県市の指定を受けたことから,平成15年12月には控訴人がモニター販売を行ったものの,平成16年1月中旬ころには,控訴人は,「W−1」の品質に問題がある,すなわち,冷温時に排気ガスのすすがフィルターにすぐに目詰まりするという欠陥があると考えたため,「W−1」のモニター販売を中止したものと認められる。以上のように,控訴人は,平成15年には,被控訴人が開発した「W−1」について2台モニター販売をしたのみであって,しかも,その主たる原因は,被控訴人の開発が遅れたことにあるものと認められるから,控訴人は,平成15年の年間ミニマムロイヤルティの支払義務を負わないというべきである。

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平成20(ネ)10086 特許権実施料等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年08月18日 知的財産高等裁判所

 ライセンス対象が技術的範囲に属しないとしても、要素の錯誤には該当しないと判断されました。
 上記の本件実施契約の締結前後の事実経緯に照らすならば,本件実施契約を締結するに当たり,Z装置が本件発明の技術的範囲に含まれると原告が誤信した点は,要素の錯誤に当たると解すべきではなく,また,原告の認識した事実に何らかの点で誤りがあったとしても,それは重大な過失に基づくものというべきであるから,原告は本件実施契約の無効を主張することができない。その理由は,以下のとおりである。すなわち,本件実施契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであり,その対象は,本件特許権(専用実施権)であるから,契約の当事者としては,取引の通念として,契約を締結する際に,契約の内容である特許権がどのようなものであるかを検討することは,必要不可欠であるといえる。すなわち,合理的な事業者としては,「発明の技術的範囲がどの程度広いものであるか」,「当該特許が将来無効とされる可能性がどの程度であるか」,「当該特許権(専用実施権)が,自己の計画する事業において,どの程度有用で貢献するか」等を総合的に検討,考慮することは当然であるといえる。そして,「技術的範囲の広狭」及び「無効の可能\性」については,特許公報,出願手続及び先行技術の状況を調査,検討することが必要になるが,仮に,自ら分析,評価することが困難であったとしても,専門家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは可能であるというべきである。本件では,原告は,被告Kから,専用実施権の設定を受け,その権利に基づいて,第三者に再許諾(通常実施権)をし,また,自ら施設を運営するすることによって,利益を図ることを計画していたのであるから,原告としては,そのような事業目的との関連性において,本件特許権(専用実施権)の価値(発明の技術的範囲等)を分析,評価及び検討をすべきであったというべきである。ところで,本件特許権は,当事者双方が予\測しなかった事情によって,無効とされるに至ったが,本件実施契約では不返還の特約が付されていたため,原告は,無効となったことを理由として,支払った金額の返還を求めることはできなかった。しかし,仮に,本件特許が無効とされる事情が発生しなかったとすれば,本件特許権は,その特許請求の範囲の記載のとおりの技術的範囲及びその均等物に対する専有権を有していたのであり,その専有権は,原告の計画していた事業において,有益であったというべきである。実際にも,原告は,本件実施契約に基づく再許諾権限に基づいて,湯本館に対して,通常実施権を付与したことにより,525万円の契約金の支払を受けていた(乙38,39)。そうすると,技術的範囲についての原告の認識の誤りは,原告の計画していた事業の妨げになったとは到底解することはできず,Z装置が本件発明の技術的範囲又はそれと均等の範囲に含まれていない限り原告において本件実施契約を締結する意思表示をすることがなかったであろうとまで認めることはできない。以上のとおりであって,原告に,本件実施契約の対象たる特許権に係る発明の技術的範囲についての認識の誤りがあったからといって,その点が,本件実施契約についての「要素の錯誤」に該当するということはできない。また,仮に,何らかの誤認があったとしても,それは,このような事業を遂行する過程で契約を締結する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるものであって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。\n

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平成21(ワ)29534 損害賠償請求 特許権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所 

 ライセンサーが年金不能により権利が消滅し、ライセンシーが虚偽表\\示を回避するためにした廃棄処分など損害賠償が認められました。
 原告は,本件債務不履行により,本件特許権の登録が抹消され,本件特許権が消滅したことから,「PATENT No.3128771」との表示をした本件商品や段ボールケースを譲渡等することが,特許法の禁止する虚偽表\\示(同法188条)に該当するおそれがあると懸念して,別紙1の1記載のとおり,本件商品の在庫分49万3470枚(顧客の返品要求に応じて引き取った2万5500枚を含む。以下同じ。)及び前記特許表示をした段ボールケース140箱について,これらを廃棄することとしたと認められる。したがって,廃棄することとした在庫分等に要した生産費用は,本件債務不履行による原告の損害と認めることができる。そして,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件商品の在庫分49万3470枚の紙代,印刷費,加工費等の製造原価は,約386万6959円,段ボールケース140箱の製造原価は,約1万2460円と認められるから,原告は,本件債務不履行により,少なくとも同額の損害を被ったと認めるのが相当である。また,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,顧客の返品要求に応じて本件商品2万5500枚を引き取った引取運賃1万6000円,廃棄処理を行うため本件商品の在庫分を原告の芳賀工場から宇都宮第二工場まで搬送するために要した運賃6万円は,本件債務不履行により生じた損害と認めることができる。・・・・・・証拠(甲4,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行により,取引先から,本件特許権が消滅したことを理由として,本件特許権の実施品である販売商品(封筒)の販売価格の減額を求められ,販売単価を減額せざるを得なくなったこと,商品1個(封筒1枚)当たりの販売単価の減額幅は,少なくとも平均1円であること,本件特許権の実施許諾料は,本件商品1個(封筒1枚)当たり25銭(本件特許権及び本件商標権についての封筒1枚当たりの許諾料50銭の2分の1)であると認めることができる。また,証拠(甲3)によれば,本件契約の契約期間は,その有効期間が契約成立の日から3年間とされ,別段の意思表\\示がないときは3年間自動的に更新されるもの(本件契約9条)と認められ,本件各証拠を見ても,本件特許の無効や原告の債務不履行等(本件契約10条)により,本件契約が本件特許権の存続期限である平成29年3月7日より前に終了する可能性があることをうかがわせるような事情も見当たらない。これらによれば,原告は,本件債務不履行がなければ,本件特許権の残存期間のうち少なくとも原告が請求の基礎とする7年9か月の間は,本件契約を継続して本件商品の販売を継続することができたと推認することができ,原告は,本件債務不履行により,その間に本件商品の販売を継続することにより得られたであろう利益(本件商品1個(封筒1枚)当たり75銭)を失ったと推認することができる。\n

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平成21(ワ)7735 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月05日 東京地方裁判所

 未登録の専用実施権であっても、当事者間では独占的通常実施権が認められました。
 本件特許権の共有者である被告グリーンクロス及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラルとの間で,本件専用実施権設定契約を締結したものの,特許原簿に本件専用実施権の設定登録はされていない。そして,特許法98条1項2号は,専用実施権の設定は,「登録しなければ,その効力を生じない」と規定しており,専用実施権の設定は登録が効力発生要件とされているため,設定登録がされなければ専用実施権が有効に成立することはない。しかし,このような場合,契約を締結した当事者間では独占的な実施権を付与するという合意は成立しているのであるから,約定の趣旨に沿って,独占的通常実施権(特許権者が他の者に重ねて実施権の許諾をしない旨の特約を付した通常実施権)としての効力は認められると解すべきである。そして,本件専用実施権設定契約において,被告グリーンクロス及び被告Aが被告セントラルに対して本件特許について独占的な実施権を許諾する意思を有していたこと,被告セントラルもこれに合意していたことは明らかである(乙1の第1条)から,独占的通常実施権の許諾として有効なものと解され,被告セントラルは,これにより本件特許権について独占的通常実施権を取得したものということができる。原告は,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の作成が必要であるが,書面が作成されていないため本件専用実施権設定契約は無効であると主張するが,書面の作成を要件とする原告の主張は独自の見解であって採用することができない上,本件専用実施権設定契約については契約書(乙1)が作成されているのであるから,原告の主張はその前提が誤りである。また,通常実施権者は,特許権者の承諾がある場合には,通常実施権の再実施権を許諾することができると解すべきである。そして,前記第2の2(3)のとおり,被告セントラルは,平成16年6月16日,原告に対し,日本国内におけるスポットクーラーの製造・販売に関し,本件特許権について通常実施権を許諾することを内容とする本件通常実施権許諾契約を締結したことが認められるところ,上記契約書(乙1)によれば,本件専用実施権設定契約において,本件特許権の共有者である被告A及び被告グリーンクロスは,被告セントラルに対し,本件特許権についてその範囲全部にわたり第三者に対する再実施権を許諾したことが認められるから,本件通常実施権許諾契約は,本件特許権についての通常実施権の許諾としての要件に欠けるところはなく,これにより原告は本件特許権について通常実施権を取得したものということができる。

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◆平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年04月07日 大阪地方裁判所

 原実施権者に対する損害賠償請求事件です。1)特許請求の範囲の用語の解釈、2)均等判断、3)補正された場合の通知義務なとが争われまれした。
  争点1)
 「原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとは記載されていないから,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」全量がカップリング処理されることまで要求されていないとも主張する。確かに,本件明細書では,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとまでは明示的に記載されていない。しかし,他方で,本件明細書には,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えてもよいことについて何らの開示も示唆もなく,実施例にも熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されたものだけが開示されており,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えた場合にも,そうでない場合と同様の効果が得られることについて何ら記載されていない。むしろ,前記ウのとおり,未処理の熱伝導性無機フィラーは,その表\面が疎水性の長鎖アルキル基に全く覆われていないのであるから,これを加えた場合に本件各特許発明と同様の効果が得られるとは容易に想到できないと考えられる。この点,原告は,自ら実験した結果(甲6)を基に,熱伝導性無機フィラーの半量を処理した場合であっても,本件各特許発明の効果を奏するに十分であると主張する(原告第3準備書面15頁6行〜16頁9行)。しかし,特許請求の範囲の解釈(均等侵害の成否は別論)において,明細書の記載のほか,出願経過及び公知技術を参しゃくすることを超えて,当業者にとって自明でない実験結果を考慮することはできないというべきであるから,同実験結果の信用性にかかわらず,これを根拠とすることはできない。・・・以上からすると,本件補(ウ) 正における原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解するのが相当であり,自らかかる補正をしておきながら,後になってこれと異なる主張をすることは,本件補正の外形を信用した第三者の法的安定性を害するものであり,禁反言の法理に抵触し許されないというべきである。
 争点2)
 「そうすると,特許権者において特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したといった主観的な意図が認定されなくても,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には,第三者の予測可能\性を保護する観点から,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで,かかる解釈を前提に,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。・・・前記1 において認定したとおりであり,本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。したがって,原告は,熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったものであり,上記特段の事情に当たるというべきである。なお,本件拒絶理由通知は,単に組成物に係る発明だからという理由で,その組成比の記載がない本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足しないと判断しているところ,この判断の妥当性には疑問の余地がないではない。しかし,第三者に拒絶理由の妥当性についての判断のリスクを負わせることは相当でなく,原告としても,単に熱伝導性無機フィラーの総量を定める意図だったというのであれば,その意図が明確になるような補正をすることはできたはずであり,それにもかかわらず,自らの意図とは異なる解釈をされ得るような(むしろそのように解する方が自然な)特許請求の範囲に補正したのであるから,これによる不利益は原告において負担すべきである。(3) 以上により,GR−b等について,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属すると認めることはできない。」
 争点3)
 「原告は,信義則上,本件補正を通知する義務を負っていたと主張するところ,上記 イ・ウのとおり,出願段階では補正が認められて特許されるものかどうかが未だ確定しておらず,原告が本件補正書を提出したというだけでは直ちに本件実施契約上の権利義務に影響を及ぼすものではないと解すべきであるから,そもそも補正の事実を通知する実益に乏しく,信義則上,かかる義務を認めることはできない。他方で,補正によって特許請求の範囲が減縮された上で特許査定され,特許権が発生した場合には,本件実施契約上の権利義務にも影響を及ぼすことになるから,減縮の事実を被許諾者に通知する実益があることは否定できない。また,本件実施契約では,まず,被告において自己の販売する製品が「許諾製品」に該当するかどうかを判断すべきであるから,その判断に当たって特許請求の範囲が減縮されたことは重要な情報といえる。したがって,少なくとも,被告から本件出願の経過等について問合せがされた場合には,原告はこれに誠実に応答すべき信義則上の義務があったというべきである。しかし,さらに進んで,特許請求の範囲が減縮されたことについて,被告からの問合せの有無にかかわらず原告から積極的にこれを通知すべき義務があったか否かについては,これを容易に肯定することはできない。なぜなら,本件実施契約書においてかかる通知義務の存在を窺わせる条項は全く見当たらず,同契約書外においても通知義務を認める旨の合意の存在を推認させる具体的事情は何ら認められないのであるから,本件において通知義務を認めるということは,実施許諾契約一般において,これについての明示又は黙示の合意の有無にかかわらず,許諾者たる特許権者に信義則上の通知義務を負わせることになりかねないからである。もともと,出願段階で許諾を受けようとする者にとって,契約締結後の補正により特許成立段階で特許請求の範囲が減縮されることは,当然に想定できる事柄であり,減縮があった場合に許諾者から通知して欲しいというのであれば,契約交渉段階でその旨の同意を取り付けて契約書に明記しておくべきといえる(かかる交渉を経ずに許諾者一般にかかる義務を負わせることは,むしろ許諾者に予期しない不利益を被らせるおそれがある。)。また,被許諾者は,許諾者に特許請求の範囲を問い合わせたり(少なくとも許諾者には問合せに応答すべき義務がある。),特許公報等を参照するなどして,特許請求の範囲がどのようになったか調査することができるのである。上記のような事情を併せ考慮すれば,許諾者たる特許権者一般に,信義則上,特許請求の範囲が減縮された場合の通知義務を認めることはできないというべきであり,本件においても,原告に,信義則上かかる通知義務があったと認めるに足りる事情はない(なお,上記は特許請求の範囲が減縮された場合を前提としており,拒絶査定不服審判における不成立審決が確定した場合や,特許無効審判における無効審決が確定したような場合における通知義務については別途考慮を要するところである。)。」

◆平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成21年04月07日 大阪地方裁判所
  

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◆平成19(ワ)17344 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成20年08月28日 東京地方裁判所

 ライセンス対象物が本件特許の範囲外である実施権契約について争われました。
 「上記1,2で認定説示したところによれば,原告は,その設立をした関係者が被告Y及びZからZ装置が本件発明の実施品である旨の説明を受け,Z装置と同一の装置を独占的に実施するのに必要であるとの認識の下に本件実施契約を締結したものである。ところが,実際には,Z装置は本件発明の技術的範囲に属さず,原告は,本件実施契約を締結してもZ装置と同一の装置を独占的に実施することのできる地位を獲得することができなかったものである。原告がこのことを知っていれば本件実施契約を締結することはなかったということができるから,原告には本件実施契約の締結につき要素の錯誤があったというべきである。本件実施契約書(甲1)の6条1項は,「本契約に基づいてなされたあらゆる支払いは,事由の如何に拘わらず乙(判決注・原告)に返還されないものとする。」と規定している。しかしながら,前記1で認定した事実によれば,同条項の定めは,特許無効審判制度が存在することを前提として,本件特許権につき,契約締結後,無効審判が請求され無効審決が確定した場合であっても,本件契約金等の返還をしない趣旨を合意したものであることが認められる。同条項につき,上記の趣旨を超えて,本件実施契約につき錯誤や詐欺等が存在する場合において,契約の無効や取消しを理由として本件契約金等の返還請求をすることが一切できないとの趣旨まで含むことについての合意があったことをうかがわせる証拠はない。以上によれば,本件実施契約は錯誤により無効であり,被告Yは,原告に対し,不当利得として,本件契約金3000万円の返還義務を負う。」

◆平成19(ワ)17344 損害賠償請求事件 特許権民事訴訟 平成20年08月28日 東京地方裁判所

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