2019.10. 1
許諾による実施権は有していないと判断されたものの、技術的範囲外として判断されました。
確かに,本件業務委託契約の第4条第1項では,中国の会社がカキ殻加工固形物
(「ケアシェル」)の製造技術指導等を受け,そのノウハウを利用して製造,販売
する一切の成果物を製造,販売することができることが明記されており,中国の会
社は共有特許の構成を有する養殖魚介類への栄養補給体を製造,販売することも可\n能と考えられる。\nもっとも,同項では,「日本国以外で」製造,販売できる旨明記されている上に,
共有特許権が存続する間は,原則として,上記成果物を日本国において製造,販売
することはできないものとされ,さらに違約金の定めもされている(同条第2項)。
それだけでなく,第8条第1項では,中国の会社は,共有特許権が存続する間は,
「ケアシェル」を日本で製造,販売,日本へ輸出しないことを誓約することが明記
されている。
この点に関し,第4条第1項ただし書及び第8条第1項ただし書では,被告会社
が文書により要請したときは,中国の会社は上記成果物を被告会社に販売できるこ
とや,「ケアシェル」を日本に輸出できることが明記されているが,あくまでも中
国の会社がこれらをすることができるのは,被告会社が文書により要請する場合に
限られているから,上記各条項によって,中国の会社に対し,共有特許の日本国内
での実施が許諾されたものと認めることはできない。
そして,本件業務委託契約の他の条項を検討しても,中国の会社に対し,日本国
内での共有特許の実施を許諾することを内容とする条項が設けられているとは認め
られないから,本件業務委託契約が中国の会社に対し,共有特許権についての通常
実施権を許諾することを内容とするものと認めることはできない。
以上より,これを前提とする原告の主張には理由がない。
(4) 次に,原告は,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発
明の技術的範囲に属していることを前提として,その製造が共有特許権の侵害に当
たると主張する。
しかし,中国の会社が「ケアシェル」を製造し,これが共有特許発明の技術的範
囲に属するもの(共有特許の実施品)であることを認めるに足りる証拠はないし,
中国の会社がこれを日本国内で製造したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,中国の会社が共有特許権の侵害行為をしたと認めることはできない。
(5) 以上より,本件業務委託契約の内容とするところは,共有特許権の排他的
効力とは無関係であるから,被告会社が中国の会社と本件業務委託契約を締結した
こと等が,共有特許権者である原告の権利を侵害したことを理由とする原告の請求
は理由がない。
◆判決本文
専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。1審は、実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。控訴されましたが、知財高裁は控訴を棄却しました。
2 実施義務違反の有無について
(1) 被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)
ア 控訴人は,被告製品の製造工程には,稚魚をボイルした後に,粗熱をとって
冷ます工程が入っていることから,本件発明の製造工程に反し,そのことにより,
本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施がされていない旨主張す
る。
しかしながら,本件において被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反して
いると認めることはできない。
その理由は,後記イのとおり補正し,後記ウのとおり,当審における補充主張に
対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(原判決12頁
19行目から22頁20行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す
る。
イ 原判決の補正
原判決22頁15行目及び20行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改め
る。
ウ 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否に
ついては,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイル
した後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れる
ことを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れること
が許容されることにはならないと主張する。
そして,本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にする\nことを目的とするものであるのに,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は,
その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく,
被告製品においてはイノシン酸による旨味成分の維持がされていないことからすれ
ば,本件発明の製造工程に従って製造されていないと認めるべきであり,このこと
は被控訴人の実施義務の違反を構成すると主張する。\nその上で,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量を示す証拠として,平成3
0年2月1日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第252―\1
号。甲18)及び平成30年3月8日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(2\n9産研分第286号。甲24)並びに被告製品の写真(甲21)を提出する。
しかしながら,甲21の被告製品の写真は,上記各成績表に係る試料となる検体\nを撮影したものであると説明されているものの,上記被告製品は,賞味期限を平成
28年11月19日とするものであり(甲21,24),試験の依頼日である平成3
0年3月5日までに1年3か月以上経過していた。上記被告製品が上記試験までの
間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えら
れるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記
試験の結果によれば,イノシン酸の含有量の値が41と低く(甲18),被控訴人に
おいて,粗熱を取ったしらすに対し冷凍と解凍を繰り返したときの試験結果(乙6
9)とイノシン酸の含有量の傾向が一致していることからすると,上記被告製品の
保存の状態も,同様に解凍と冷凍をしたものであったことがうかがわれる。
そうすると,上記の試験結果が被告製品の状態を的確に示すものといえるか否か
については疑義があり,この疑義を払拭するに足りる的確な証拠はない。
よって,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)\n
ア 控訴人は,被控訴人が本件契約の締結後すぐには被告製品を製造しなかった
ことや,その後に支払われた実施料が少額であったことをとらえて,被告製品の製
造販売が実施義務の履行として十分なものでなく,そのことにより,本件契約上専\n用実施権者に義務付けられた本件発明の実施がされていない旨主張する。
しかしながら,本件事実関係の下において,被告製品の製造販売が実施義務の履
行として十分なものでなかったと評価することはできない。\nその理由は,後記イのとおり補正するほかは,判断の基礎となる事実関係につい
ては,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)(原判決22頁25行目から28頁1
8行目まで)に記載されたとおりであり,判断については,同第4の2(3)(原判決2
9頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用す
る。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)1752
2019.04. 1
漏れていたのでアップします。知財高裁も、1審と同様に、数値範囲がその範囲であったとはいえないとして、先使用権を有しないと判断しました。なお、知財高裁は、傍論ですが、仮にその範囲であったとしても、同じ技術思想とはいえないとして、先使用ではないと判断しています。
実際に用いられていたアルミピロー包材と同じ品番のアルミピロー包材の中に
は,底部の折り曲げ部分のアルミが剥がれているものもある(甲18,26)。ま
た,防湿性を確保したアルミピローの製造は,医薬品メーカーの管理方法を含めた
製造方法に大きく依存する旨指摘されている(乙48)。実際に用いられていたア
ルミピロー包材に対して,専門家による立会いの下,リーク試験が行われ,気密性
が担保されていることが確認された旨報告されているものの(乙49),同リーク
試験は,検体を水没させ,一定の減圧条件(槽内圧力−40kPa,保持時間30
秒間)において,気泡が発生しないことを目視検査するというものである。水没試
験による気泡確認によって医薬包装の完全性を試験する方法は,個人の技量による
判別量の差や水槽内の細菌・水の表面張力による検出限界などの問題を有する旨指\n摘されているほか,−40kPaの圧力下において,直径5μmの孔からは5分経
過後も気泡が確認できず,直径10μmの孔においても,気泡の発生にばらつきが
みられるとされている(甲27)。上記リーク試験の結果をもって,実際に用いら
れたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうする
と,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に,
湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十\分にあり得るものである。
なお,サンプル薬の測定時の水分含量と,実生産品の水分含量(後記ウ(ア))や,
203サンプル薬を再製造したとされる錠剤の水分含量(2.18〜2.26質量%。
乙54〜56)は,ほぼ同じである。しかし,そもそも,サンプル薬と,実生産品
や203サンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められない
から,この事実をもって,サンプル薬の測定時の水分含量が,製造時の水分含量と
ほぼ同じであったということはできない。
(ウ) したがって,サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内である
からといって,4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと
推認できるものではない。
・・・
以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様
に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量
が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発
明2の範囲内であったということはできない。かえって,サンプル薬の顆粒の水分
含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはなかった
可能性を否定できない。その他,サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内にあ\nったことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2m
g錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件
発明2の範囲内(1.5〜2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3) サンプル薬に具現された技術的思想
ア 仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分
含量が1.5〜2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル
薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはでき
ない。
イ 本件発明2の技術的思想
前記1のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含
量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制
し,これを1.5質量%以上にすることによって5−ケト体の生成を抑制し,さら
に,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的
思想を有するものである。
ウ サンプル薬に具現された技術的思想
(ア) 控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したと
の事実は認められない。
(イ) また,203サンプル薬及び303サンプル薬の製造工程では,A顆粒及
びB顆粒の水分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●●にする旨定
められているものの(乙23の1・2,25の1・2),A顆粒及びB顆粒以外の
添加剤の水分含量は不明である。また,サンプル薬には吸湿性の高い崩壊剤や添加
剤が含まれているにもかかわらず,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの
管理湿度などは不明である。
そうすると,サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,●
●●●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量
が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ) さらに,012実生産品及び062実生産品の製造工程では,B顆粒の水
分含量を乾燥減量法による測定において●●●●●●●にすると定められており
(乙24,26の1・2),サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の
管理範囲が●●●●●●●●から●●●●●●●●へと変更されている。控訴人は,
サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
(エ) したがって,控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5
〜2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたと
も,1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していた
とも認めることはできない。
エ 以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分
含量を1.5〜2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものである
のに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5〜2.9質量%の範囲
内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水
分含量を1.5〜2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存
在しない。
そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発
明であるということはできない。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,水分含量によってピタバスタチン製剤のラクトン体が生成する
ことは技術常識であったから,控訴人は,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤の治
験薬製造前から,錠剤中の水分含量を管理する必要性を認識していたと主張する。
しかし,一般的に,医薬組成物において製剤中の水分が類縁物質生成の原因にな
るという技術常識(乙8〜10)や,ピタバスタチンについては水分含量を調整し
なければならないという技術常識(乙12〜14,20,57)が認められるとし
ても,水分含量の調整方法は様々であるから,このような技術常識のみから,ピタ
バスタチン又はその塩と特定の崩壊剤から成る錠剤であるサンプル薬について,錠
剤としての水分含量を一定の範囲内となるように管理することを控訴人が認識して
いたといえるものではない。
したがって,本件出願日前の技術常識をもって,控訴人がサンプル薬の水分含量
を管理する必要性を認識していたということはできない。
(イ) 控訴人は,サンプル薬について,水分含量を調整することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点は,確定し
ていた旨主張する。
しかし,控訴人が,サンプル薬について,ラクトン体及び5−ケト体の生成の程
度について測定し,安定な製剤であることを確認していたとしても,前記のとおり,
控訴人が,サンプル薬を製造するに当たり,その水分含量を1.5〜2.9質量%
の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5〜2.
9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることは
できない。サンプル薬において,5−ケト体の生成を抑制できていたとしても,こ
れをもって,控訴人が,サンプル薬の水分含量を1.5質量%以上に管理していた
と推認できるものではなく,また,これが,控訴人がサンプル薬の水分含量を1.
5質量%以上に管理するという技術的思想を有していた結果として生じたものと評
価できるものでもない。
したがって,サンプル薬について,何らかの方法を採用することにより,水分に
よる影響を受ける類縁物質が生成しない,長期安定な薬剤を製造する点が確定され
ていたとしても,これをもって,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明
2と同じ内容の発明であるということはできない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成27(ワ)30872 (東京地裁29部)
本件出願日(平成24年8月8日)までに,被
告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされて
いた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難で
あるし,この点を措くとしても,後記(3)のとおり,本件出願日までに,本件2mg
製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備える\nものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事
業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に
認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権\nが成立したということはできない。
・・・
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程によ
り製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題
となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が\n「1.5〜2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ,
水分は,有効成分でないばかりか,積極的な添加物でもなく,不純物として扱われ
るものでもないため,錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分
含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の
提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない(少
なくとも,打錠工程の湿度環境や打錠後の保管条件は,PTP包装された錠剤の水
分含量に影響するといわざるを得ないが,被告の提出にかかる書証では,これらの
条件は明らかにされていない。)。
イ 被告は,本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:PTVD−203)及
び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−303)の水分含量につい
て,いずれも本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったと主張し,乙32号証\n(以下「乙32実験報告書」という。)を提出する。
しかし,乙32実験報告書に示される本件2mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:
PTVD−203)及び本件4mg錠剤のサンプル薬(ロット番号:TVD−30
3)の水分含量の測定値は,これらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が
経過した時点のものである。そして,被告ないし同報告書の説明するところによれ
ば,これらの錠剤は,その製造後,PTP包装とアルミピロー包装がされ,その状
態により,被告の中央研究所の検体保管庫に温度20℃,成り行き湿度(実測値:
75%RH)で保存されていたものであり,検体1錠をPTP包装から取り出して,
乳鉢で粉砕してカールフィッシャー法により水分測定を行ったというのであるが,
上記の条件下で4年以上が経過しても,錠剤の水分含量がそのまま保持されること
を直接裏付ける証拠はない。
かえって,1)本件2mg製品の使用期限が2年6か月とされ,本件4mg製品(被
告製品)の使用期限が3年とされていること(甲4〔52頁〕)からすれば,4年
以上という期間は,予定されている保存期間を大きく超えるものであって,水分含\n量を含む錠剤の状態に影響を及ぼす可能性を否定できないこと,2)ピタバスタチン
からラクトンが生成する反応は,脱水縮合であって,水が脱離することから,水分
含量増加の原因となり得ること,3)アルミピロー包装に使用される材料の防湿性が
高いことがうかがわれる(乙33)としても,PTP包装された上記サンプル薬を
収納したアルミピロー包装には,チャックがついていて(乙32,39),当該材
料のみでは構成されてはおらず,また,湿気等の影響を受けやすい商品の包装には\n充分に注意する必要があるとされていること(甲18),4)PTP包装やアルミピ
ロー包装が施された他の医薬品について,所定の保存期間経過後に水分含量が増加
しているとみられる例があること(甲15,19)などからすれば,PTP包装と
アルミピロー包装により,直ちに上記サンプル薬の水分含量の増加が完全に抑えら
れていたと断ずることは,困難である。
被告は,上記サンプル薬の水分含量がそれぞれ本件2mg錠剤の実生産品(ロッ
ト番号:B062)及び本件4mg錠剤の実生産品(ロット番号:B012)とほ
ぼ同じ値であることから,保存期間中の吸湿の可能性が否定される旨主張するよう\nであるが,かかる被告の立論は,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の
実生産品と同一の工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告
錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一の工程により製造されていたことを前提
とするものであるところ,既に説示したとおり,本件2mg錠剤のサンプル薬及び
本件4mg錠剤のサンプル薬が,それぞれ本件2mg錠剤の実生産品や本件4mg
錠剤の実生産品(被告錠剤)と同一の工程により製造されたと認めるに足りる証拠
はないものというべきである。
専用実施権について、明文がなくても、実施義務を負っているかが争われました。実施義務については認めましたが、報告義務違反はないとして請求を棄却しました。
原告は被告が実施義務を負っていることを前提として,それに違反した債務不
履行があると主張している。
確かに,本件契約には,被告の実施義務を定めた条項は設けられておらず,被告
が本件特許の実施に努めることさえも規定されていない。
もっとも,本件契約は専用実施権設定契約であり,被告は本件契約に基づき本件
特許の専用実施権を取得し,本件特許を独占的に実施し得る地位を獲得するのに対
し,原告は本件契約を締結することによって,本件特許を実施することや他の者に
実施許諾することができないにもかかわらず,特許維持費用の支払義務は負うとい
う立場に立つことになる。また,本件契約では,イニシャルペイメントが「0円」
と明記され,またランニング実施料の金額も,実施の有無にかかわらず一定額が支
払われる条項とはされず,被告が販売した本件特許権に基づく製品の販売価格に所
定の割合(2ないし5%)を乗じた額とするにとどめられていたから,原告は,被
告が本件特許を実施しないことには,実施料の支払を全く受けられないことになる。
本件契約の当事者である原告と被告が置かれる以上のような状況を踏まえると,
専用実施権者である被告は,本件特許の実施が可能であるのに,それを殊更に実施\nしないとか,その実施に向けた努力を怠るなどということは許されず,信義則に基
づき,本件特許を実施する義務を一定の限度で負うと解すべきである。
もっとも,上述したように,本件契約では被告の実施義務に関係する条項は何ら
設けられず,またランニング実施料の金額も販売価格に一定割合を乗じた額とする
にとどめられており,被告としては製品が販売できた場合にのみ実施料の支払負担
が発生するにとどまるというリスク負担を前提に本件契約を締結したものであるか
ら,本件特許を実施した製品を製造販売するための努力の程度について被告に過大
な義務を負わせることは相当でない。また,被告は本件特許の製造法によって製造
したしらすを製造販売することによって本件特許を実施することになるが,本件特
許は解凍後真空包装し,加圧加熱処理することをも構成として含むものであり,被\n告はそれを行うための機械を有していなかったから,そのための準備期間が不可避
的に生ずるし,結果的に,商品が消費者に十分受け入れられず,思うように商品が\n販売できないなどという事態も生じ得る。
以上のような本件の事情を考慮すると,被告が本件特許の実施義務を負うといっ
ても,本件特許を実施するために必要な事項等を踏まえつつ,その時々の状況を踏
まえ,特許の実施に向けた合理的な努力を尽くすことで足りると解するのが相当で
ある。
(3) 被告の実施義務違反の有無
ア 上記(2)のような観点から,被告が本件特許の実施のための努力を怠ったといえるかを検討すると,前記(1)で認定した事実によれば,被告は,平成26年3
月28日に本件契約を締結した後,速やかに,自社ではできないパック詰め作業を
委託する業者を探して,同年5月22日までにはその目途をつけた後,パッケージ
等の製造や,そのデザインを別の業者に依頼し,同年10月末までにその目途をつ
けて,製造の準備をほぼ整えたと認められる。また,被告は,以上のような製造に
向けた準備と同時並行で,元々取引のあった愛媛県内のスーパーやデパートに本件
特許の製造法によって製造したしらすの販売を持ちかけたり,P4に対してその販
売の取次を依頼したりし,幅広く本件特許の製造法により製造したしらすを販売す
るための交渉等を進めたが,成果は芳しくなく,その後,同年12月までには「婦人画報」への掲載が決まり,平成27年3月には商品の製造を開始し,同年4月頃
に販売された「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,実際に
その販売が開始されるに至ったのである。以上のように,被告は,本件契約の締結
後,本件特許の実施に向けた準備を進め,実際に,実施にこぎつけたと認めること
ができる(なお,被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反すると認められな
いことは前記1で判示したとおりである。)。
イ もっとも,本件契約の締結から商品の製造や販売開始まで1年程度要し
ていることから,被告が前記(2)で判示した本件特許の実施のための努力を尽くした
といえるかを検討する。
(ア) 確かに,被告代表者自身も陳述書(乙40)において,「準備に思った\nより時間…が掛かりました」と述べているように,製造販売の準備行為に相当の時
間を要しており,さらに早期に商品の製造や販売の準備を整えることができた可能\n性も否定はできない。
しかし,被告は,パック詰め作業をする設備機械を保有していなかったのである
し,パッケージ等の製造も他の業者に委託しなければならなかったのであるから,
製造準備を整えるまでに前記のような期間を要したことが,本件特許の実施を不当
に遅延したとはいえない。また,前記認定の経過によれば,被告が実際に被告製品
の製造を開始したのが平成27年3月となったのは,当初の地元のスーパーやデパ
ートへの営業が販売価格の面で折り合わず,芳しくなかったが,同年4月頃に販売
される「婦人画報」に「オレの惚れたしらす丼セット」が掲載され,それを見た消
費者に対する販売が相当程度見込まれたからと推認される。そして,被告も営利企
業として事業を営んでいる以上,ある程度まとまった販売が見込まれない段階で商品の製造を開始することは現実的ではないし,信義則上も被告にそれを強いること
は相当とはいえないから,被告が結果として,ある程度まとまった販売が見込まれ
るに至った同年3月から商品の製造を開始したこと(それまでは本件特許の製造法
によるしらすを製造しなかったこと)が,製造販売への努力を不当に怠ったという
ことはできない。
以上によれば,製造販売の準備行為に時間を要したことによって製造開始が遅れ
たとまで認めることはできないし,平成27年3月からの製造開始となったことが
被告の努力が足りなかったことによるものと認めることもできない。
また,製造販売を開始した後の販売状況も,決して順調とはいえないものではあ
るが,被告は,Smile Circle株式会社以外の取引先にも営業を行って少量ながら取
引をしていることからすると,販路拡大のための努力を不当に怠っていたと認める
ことはできない。
◆判決本文