2020.09. 9
1審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下しました。知財高裁は訴えの利益ありと判断しました。最高裁は知財高裁の判決を取り消ししました。
論点は、不利益の可能性が潜在的にとどまっていても、訴えの利益があるかです。\n
本件確認請求に係る訴えは,被上告人が,第三者である参加人の上告人に対する
債務の不存在の確認を求める訴えであって,被上告人自身の権利義務又は法的地位
を確認の対象とするものではなく,たとえ本件確認請求を認容する判決が確定した
としても,その判決の効力は参加人と上告人との間には及ばず,上告人が参加人に
対して本件損害賠償請求権を行使することは妨げられない。
そして,上告人の参加人に対する本件損害賠償請求権の行使により参加人が損害
を被った場合に,被上告人が参加人に対し本件補償合意に基づきその損害を補償
し,その補償額について上告人に対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害
賠償請求をすることがあるとしても,実際に参加人の損害に対する補償を通じて被
上告人に損害が発生するか否かは不確実であるし,被上告人は,現実に同損害が発
生したときに,上告人に対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請
求訴訟を提起することができるのであるから,本件損害賠償請求権が存在しない旨
の確認判決を得ることが,被上告人の権利又は法的地位への危険又は不安を除去す
るために必要かつ適切であるということはできない。
なお,上記債務不履行に基づく損害賠償請求と本件確認請求の主要事実に係る認定判断が一部重なるからといって,同損害賠償請求訴訟に先立ち,その認定判断を本件訴訟においてあらかじめしておくことが必要かつ適切であるということもできない。
以上によれば,本件確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠くものというべきで
ある。
◆判決本文
原審(知財高裁)は下記です。
◆平成30(ネ)10059
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)28060
本件についての参考サイト(20200909時点では控訴審まで)
https://innoventier.com/archives/2019/03/8058
ノウハウの使用料ではないと判断されました。被告らは、特許権が消滅した後はロイヤルティ支払を拒否しました。原告は、それなしではWBトランスを製造することのできない有用な情報であり,ノウハウの使用料だと主張しましたが、大阪地裁はこれを否定しました。
本件技術資料に記載された数値等は,WBトランスを開発した川鉄電設ない
しP2が,開発の過程で得られた実験値や実測値,あるいはトランスの容量等に応
じて推測した理論値や計算値を表形式に整理したものが多いと思われる。\nそうすると,WBトランスを製造,販売しようとする者が本件技術情報を入手し
た場合,独自に実験を行って必要な値を計測・算出したり,部品の製造元等へ問い
合わせたりすることなく当該トランスの特性を予測したりすることができるという\n点において有用であるといえ,要件を充たせば,営業秘密として保護されるべきも
のと解されるから,例えば,被告らが,当初契約を締結して平成7年技術資料を入
手し,未だWBトランスの製品が市場に出ていない段階で,原告の許諾を得ずにこ
れを第三者に開示したとすれば,秘密保持義務違反の責めを負うべきものと解され
る。
他方,上記検討したとおり,本件技術情報の開示を受けなければWBトラン
スを製造することができないといった事情までは認められず,本件技術情報がWB
トランスの製造に必須であることを前提に,本件各基本契約の性質を考えることは
できない。
また,本件技術情報に記載された数値は,物理的に測定したり,計算によっ
て求めることができるものと考えられるから,WBトランスが市場に出回り,リバ
ースエンジニアリングを行って計測等ができるようになった段階で,公知になると
いわざるを得ない。
本件各特許権の明細書等を参照し,流通に置かれたWBトランスに対するリバー
スエンジニアリングを行ってもなお解明することができず,原告よりその開示を受
けない限り,WBトランスの製造はできないというようなノウハウが,本件技術情
報に含まれていると認めるべき証拠は提出されていない。
・・・
(1) 本件各基本契約の内容
本件各基本契約の内容は,前提事実(3)のとおりであり,文言上は,WBトランス
製造及び販売の実施許諾,指定された装置及び資材の使用,技術情報の提供,対価
としてのイニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支払,その前提としての
実施報告,特許権等の実施許諾,改良技術の通知,秘密保持といった内容が双方の
権利または義務として定められており,原告が主張する技術情報の提供および秘密
保持も,被告らが主張する特許権の実施許諾も,いずれも本件各基本契約の内容と
して定められているのであって,その関係をどのように解するかが問題となる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本件各基本契約は,ノウハウライセンス契約であって特許の実施許
諾を内容とするものではなく,イニシャルフィー及びランニングロイヤルティの支
払義務は,ノウハウの使用に対する対価であって,特許の使用許諾に対する対価で
はないから,本件各特許権の消滅により影響されない旨を主張する。
しかしながら,ノウハウライセンス契約であるとの主張は,本件技術情報がなけ
ればWBトランスを製造することができないとの原告の主張を前提とするものであ
るところ,その主張が失当であることは既に述べたとおりである。
イ 既に認定したとおり,WBトランスとして定義されたものは,本件各特許権
の特許請求の範囲の文言と一致する部分が多く,当初契約の際の川鉄電設側の説明
によっても,特許権者の許諾を得ない限り,これを製造,販売することはできない
と考えられる。
WBトランスの製造に使用する資材や装置にも,川鉄電設や川崎製鉄の権利が及
ぶものは多いと考えられ,権利者の許諾を得るか,権利者又はその許諾を得た者が
製造した資材や装置を購入等するのでなければWBトランスを製造,販売すること
はできず,単に製造に関する技術情報やノウハウの提供を受けるのでは足りないと
いうべきである。
ウ 本件各基本契約,特に当初契約の締結に至る経緯を考えても,前記認定のと
おり,川鉄電設は工業会の会員に対し,特許の実施許諾であることを前提に,それ
に付随するものとして情報提供,技術指導を行う旨を案内しているのであり,その
本質が特許の実施許諾ではなく,ノウハウライセンス契約であるとの説明が行われ
た事実は認められない。
エ 前記認定したとおり,被告らの照会やトランスの設計依頼に応じて,川鉄電
設又は原告から情報提供が多数回にわたって行われているが,時期的なところに着
目すると,被告らが当初契約を締結し,WBトランスの設計,製造をしてその販売
を行い始めた平成9年から平成13年までの間になされたものが大部分であり,最
長20年にわたるランニングロイヤルティの支払と技術情報の提供ないし技術情報
とが対価関係に立つと解することは不合理である。
むしろ,従前にはなかった形式のものとして新たに開発したWBトランスについ
ての実施許諾を行うに際し,被告らにおけるWBトランスの製造が軌道に乗るまで
の間,WBトランスの開発者である川鉄電設又は原告が,技術情報を提供したり,
技術指導を行うというのは,通常予定されるところと考えられること,川鉄電設か\nら原告に契約関係を承継した際に,前記認定のとおり,当初契約に係るイニシャル
フィーは承継せず,追加契約に係るイニシャルフィーは,実施分を控除して原告に
承継される扱いであったことからすると,本件各基本契約において,技術情報の提
供や技術指導の対価と認められるのは,契約当初に支払われるイニシャルフィーと
解するのが合理的である。
オ 以上を総合すると,本件各基本契約には,前記(1)で要約した複数の要素が含
まれるものの,その中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり,本件技術情報
の提供は,これに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの
支払も,本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり,これ
を本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。
原告は,本件各基本契約の体裁として,第2条にWBトランスの製造,販売の実
施権の許諾を,第3条に技術情報の提供を,第7条に特許権の実施許諾を定めた上
で,第4条の対価は第2条,第3条の対価である旨定めていることをその主張の根
拠とする。しかし,既に検討したとおり,そもそも本件各特許権の実施許諾なしに
WBトランスを製造,販売することはあり得ないし,契約の第2条において,鉄心
巻込装置,コイルボビン,フレームについては川鉄電設が特許出願中のものを使用
すべきことが定められていることからしても,同条の実施許諾は,本件各特許権の
実施許諾を含むものであり,第7条の規定は,特許の登録後と出願中の場合とを分
けて規定したものと解されるから,第4条の対価に特許の実施許諾に対するものが
含まれないと解することはできない。
◆判決本文