2024.12. 5
専用実施権者である原告が、通常実施権者である被告に対して実施料の支払いを求めました。原告は特許2の専用実施権者ですが、被告に対して特許1〜3の通常実施権を設定していました。被告は、特許1、3の通常実施権の設定義務があり、契約解除の申し出をしました。裁判所は被告の主張を認め、義務を果たしていないので請求棄却としました。
1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、
契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許\n諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契
約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。
しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と
いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許
諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常
実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、
本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、
証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技
術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社\nと日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする
と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被
告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と
いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ
の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの\nの、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か
ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。
したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、1)本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要
な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、
2)本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保
全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告
には債務不履行がないと主張する。
しかしながら、上記1)については、本件全証拠によっても、本件各特許権は
いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の
主張はその前提を欠くものである。
また、上記2)についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権
について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実
(2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在
を否定することはできないというべきである。
そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、
前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面
到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履
行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付
して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し
ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期
間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意
思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている\nから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという
べきである。
◆判決本文