2024.01.23
令和5(行ケ)10066 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。
本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n
ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮
径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの
凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取
できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。
そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工
を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実
的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的
な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも
のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売
業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最
終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考
えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく
なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも
のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し
た被告の主張をそのまま採用することはできない。
よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、
6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい
うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採
用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので
あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判
断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5
関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認
定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方
向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な
お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言
及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面
における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない
ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。
1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類
否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。
しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ
リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、
3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの
字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな
い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し
つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい
美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象
が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす
ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共
通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観
を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので
はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判
断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。
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2023.08.14
令和5(行ケ)10008 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年6月12日 知的財産高等裁判所
意匠の審取事件です。無効審判で理由無しと判断されましたが、審決取消訴訟にて無効と判断されています。
◆本件意匠はこれです。
無効審決には先行意匠図面は省略されています。
興味深いのは、本件意匠は、特許からの出願変更ということです。意匠にかかる物品は「瓦」ですが、特許出願時は斜視図しかありませんが、意匠出願時は6面図を提出し、遡及効が認められています。
(ア) 基本的構成態様\n
A 正面視において、左端部に壁が設けられ右側に連続する女瓦の凹み部
から他方部に向けて上がり勾配に連続して形成された半円筒形の男瓦を
一体化し、底面図において略S字型を270度回転させた瓦形状として
いる。
B 男瓦の上側隅角部には、他の瓦を直上に重ねて瓦葺きし面一状に重ね
合わせられるよう、径を縮小した段差(縮径段差部)が形成されている。
C 女瓦の中央部近傍に左右に横切る段差が設けられている。
D Cの段差は、瓦上辺から下辺の間におよそ6対4の割合の位置で形成
されている。
(イ)具体的構成態様\n
a 男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口
とした縦長の模様が形成されている。
b 男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ字状のラインの
内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、左右と上側の
ラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である。
c コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分と面一である。\n
d 右上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成さ\nれている。また、円弧部分の右側端はやや左側に傾斜し、男瓦の右側端は
やや右側に傾斜している。
e 女瓦の上端に略小矩形状の凹部が五つ形成されている。
f 女瓦の左下端が直角に形成されている。
g 裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成され
ているか否かは本件パンレット及び本件写真からは不明である。
h 右側面から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段
差が形成されている。
i 女瓦の左端部の壁には、瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わされている。
エ 本件意匠と本件模様瓦の基本的構成態様は一致しており、具体的構\成態様
のうちのc、dのうちの一部、e、g及びiを除く、「男瓦の両側部と上部
に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成さ
れている。」(a)、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、
コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、
左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である。」(b)、「右
上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成されてい\nる。」(d)、「女瓦の左下端が直角に形成されている。」(f)、「右側面
から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段差が形成され
ている。」(h)との部分においても、一致している。
そして、具体的構成態様dのうちの一部である、右上端に位置する一段低\nく形成された円弧部分のうち、「右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成さ
れている。」(本件意匠の具体的構成態様d)か、「右側端はやや左側に傾\n斜し、男瓦の右側端はやや右側に傾斜している。」(本件模様瓦の具体的構\n成態様d)との点、具体的構成態様eの「女瓦の上端に波線状の凸部が一本\n形成されている。」(本件意匠の具体的構成態様e)か、「女瓦の上端に略\n小矩形状の凹部が五つ形成されている。」(本件模様瓦の具体的構成態様e)\nとの点、及び、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向
に形成されている。」(本件意匠の具体的構成態様g)か、「裏面に上側端\nと、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成されているか否かは本件
パンレット及び本件写真からは不明である。」(本件模様瓦の具体的構成態\n様g)との点は、いずれも、瓦の施工後は完全に隠れてしまう部分である(甲
5)ことに加え、瓦全体からすると小さくその差異も直ちには認識し難いこ
と(各具体的構成態様d及びe)、本件意匠公報の【A−A断面図】に示さ\nれた平置き時の状況と本件写真に示された本件模様瓦の平置き時の状況に変
わりがなく、裏面の凸部自体が瓦の美観に影響を与えるものとも認め難いこ
と(具体的構成態様g)から、需要者に異なる印象をもたらすものとは認め\nられない。
また、具体的構成態様iのうち、「左側面から見ると、女瓦の左端部の壁\nは、瓦のほぼ中央に斜めクランク状に現わされている。」(本件意匠の具体
的構成態様i)か、「女瓦の左端部の壁には、瓦のほぼ中央に斜めの段差が\n現わされている。」(本件模様瓦の具体的構成態様i)との点についても、\n左側面から見た女瓦の左端部の壁は、瓦の施工後は隠れてしまう部分である
(甲5)うえに、正面から見た場合に、女瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わ
されていることから、本件意匠と本件模様瓦とで異なる点はなく、需要者に
異なる印象をもたらすものとは認められないというべきである。
その上で、本件意匠と本件模様瓦の意匠とで最も異なるのは、具体的構成\nのcに係る部分であり、本件意匠では、「コ字状のラインの模様の部分が男
瓦表面の他の部分から僅かに段差状に隆起している。」とされているのに対\nし、本件模様瓦の意匠では、「コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他\nの部分と面一である。」とされているところである。
オ 本件意匠の具体的構成態様のうち、「男瓦の両側部と上部に、コ字状のラ\nインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成されている」(具
体的構成態様a)、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ\n字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、
左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である」(同b)との
部分は、いずれも男瓦の全面にわたる模様であり、施工後は特に施主を中心
とした需要者にとり最も目に付くものであり、下方開口構成に係るこうした\n瓦は知られていない。
本件意匠のその余の具体的構成のうち、「右上端に位置する一段低く形成\nされた円弧部分の表面は平坦に形成されている。また、円弧部分の右側端は、\n男瓦の右側端と略平行に形成されている。」(具体的構成d)、「女瓦の上\n端に波線状の凸部が一本形成されている。」(同e)、「女瓦の左下端が直
角に形成されている。」(同f)、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に
三つの凸部が横方向に形成されている。」(同g)との部分は、前記エのと
おり、いずれも、施工後には完全に見えなくなる部分であることに加え、瓦
全体に比して小さいか、美観に影響を与えるものとは認め難い部分であり、
需要者が特に注目する部分とはいえない。
カ そうすると、本件意匠と本件模様瓦の意匠とで最も異なる具体的構成のc\nに係る、コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分から僅かに段差\n状に隆起している(本件意匠)との部分については、瓦全体からみると隆起
による差異はごくわずかであり、特に瓦屋根の施工後においては、その隆起
の程度も屋根全体からみて相対的に小さいことから、コ字状のラインの模様
には需要者の注意がいくものの、その隆起の程度にまでは注意がいくものと
は認め難い。
そうすると、前記需要者の観点からみた場合、本件意匠と本件模様瓦の意
匠は類似するというべきである。
そして、前記1 で認定した事実によれば、本件模様瓦(試作品B)は、平
成28年11月頃に、被告小林瓦が原告事務所に持ち込んで提供した後、同事
務所に保管され、平成29年2月16日に原告事務所に本件パンフレット及び
本件写真が送付されたところ、本件写真及び本件パンフレットには、本件模様
瓦の意匠が開発中のものであることや開発者に対する内部的なものであること
の記載はなく、また、「秘」、「部外秘」、「非公開資料」などの記載がないば
かりか、本件写真や本件パンフレットを添付した電子メールにおいても、その
本文などに、添付された本件写真や本件パンフレットの電子データが営業秘密
であるとか内部的なものであるなどの記載もなく、原告事務所及びその従業員
について、被告らとの間で、本件模様瓦の意匠に関し守秘義務を結んでいるな
どの事実は認められないから、遅くとも、同日には原告事務所の従業員らに対
して知られるところとなり、公然知られたものと認められる。
そうすると、本件意匠は、本件意匠の出願前に公然知られた意匠と類似する
から、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないもので
あり、同法48条1項1号により無効とされるべきものである。
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2023.06.13
令和5(行ケ)10001 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和5年5月31日 知的財産高等裁判所
先行意匠と類似又は、創作容易として無効審判が請求されました。特許庁、裁判所とも、非類似・創作非容易と判断しました。
◆本件意匠はこれです。
ア 本件意匠と甲1意匠とで、意匠に係る物品は、共に生活雑貨などの
家庭用品を収納する容器であって共通するところ、いずれも使用者が
家庭において日常的に使用することを主目的とするものであるから、
その需要者は、個人消費者であると認められる。
そして需要者である個人消費者は、意匠に係る物品の性質、用途及
び使用態様の観点からは、収納容器として物を収納した際の使用のし
やすさや持ち運ぶ際の便利さから、物を収納して置いた際と物を収納
せず、単体であるいは複数個を重ねて置いた際には、その美観等の観
点から、両意匠に係る物品を観察し、選択するものということができ
る。
そうすると、収納容器として物を収納した際の使用のしやすさや持
ち運ぶ際の便利さの観点からは、収納容器全体の形状等(基本的構成態様)が需要者の注意を惹く部分であるとともに、物を収納して置い\nた際や物を収納せず重ね置いた際の美観等の観点からは、収納容器と
しての外形を特徴付ける部分の形態が、最も強く需要者の注意を惹く
部分であるということができる。
そこで、これらを前提に、両意匠が需要者である個人消費者の視覚
を通じて起こさせる美観が類似するか否かについて検討する。
イ 収納容器全体の形状等について、需要者である個人消費者の観点から
みると、両意匠は、いずれも上部が開口して下端が水平面状の略逆円
錐台形状である本体部と、一対の紐状の把手部から成るものであって、
本体部の径が下方にいくにつれてしだいに小さくなっており、本体部
の上部に把手部が設けられているとの点(全体の形状、共通点1)、正
面から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広が
っており、最小横幅と縦幅は、ほぼ同じ長さであるとの点(全体の形
状、共通点2)、及び、右側面から見て、本体部の左右両端は上部にい
くにつれて逆ハ字状に広がっており、底面となす角度は約95°であ
り、最大横幅及び最小横幅の長さは、縦幅よりも小さいとの点(全体
の形状、共通点3)につきいずれも共通するところ、その態様自体は
ありふれたものであり、需要者の注意を強く惹くものとはいえない。
しかし、全体の形状のうち、把手部が本体部の長手方向の両側面に設
けられているか(本件意匠の態様c(前記(1)イ(ア)))、把手部が本体部
の短手方向の正面及び背面に設けられているか(甲1意匠の態様c(前
記(1)エ(ア)))の相違(相違点1)については、需要者である個人消費
者が収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の観点か
ら、強く注意を惹く部分であって、視覚を通じて起こさせる美観に大
きな影響を与えるものである。
また、各部の形状のうち、正面から見て、本件意匠では、本体部の上
端は倒弓状に形成されて、中央部は略平坦状に現わされており、左端
寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなって、本体部の左右両端の
上端付近との間が先尖り状に現わされている(本件意匠の態様d及び
e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲
1意匠の態様d(前記(1)エ(イ)))との相違、及び、右側面から見て、
本体部の上端はなだらかな略山状に形成されている(本件意匠の態様
e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲
1意匠の態様e(前記(1)エ(イ)))との相違(相違点3)は、物を収納
して置いた際や、物を収納せず単体で、あるいは複数個重ね置いた際
の美観等の観点からは、収納容器としての外形を特徴付ける部分の形
態であり、強く需要者の注意を惹く部分であるということができると
ころ、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大きいものがある
ということができる。
さらに、把手部の態様について、本件意匠では、右側面視略U字状に
現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされ
ている(本件意匠の態様f(前記(1)イ(イ)))のに対し、甲1意匠では、
正面視略放物線状に現されており、かつ細い紐状で、軸方向に注連縄
状に現されている(甲1意匠の態様g(前記(1)エ(イ)))との相違(相
違点4)は、収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の
観点から、本体部と把手部との視覚的なバランスにおいて、強く注意
を惹く部分であって、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大
きいものがあるということができる。
ウ 本件意匠と甲1意匠では、需要者の注意を惹く基本的構成態様のその余の相違点や、具体的構\成たる各部の形状においてその他にも異なる点があり、これらが美観に与える影響があるところではあるが、少なくと
も前記イの相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響には大きなものがあ
るということができる。
そうすると、本件意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が共通するもの
の、その形態においては、需要者に与える美感の観点から、本件意匠と
甲1意匠とは別異のものと印象付けるものであるから、本件意匠は、甲
1意匠に類似するものではない。
・・・・
(2) 本件意匠の当業者については、収納容器に係る分野における通常の知識を
有する者であると認められるところ、本件意匠と甲1意匠及び甲各意匠とを
比較すると、以下のとおりである。
なお、被告は、本件訴訟において提出された甲76号証ないし78号証は、
審決で認定された相違点に関する新たな公知意匠を追加するものであって、
それに基づく主張は直ちに排斥されるべきである旨主張する。
しかし、原告は、これらの書証に係る主張を、いずれも本件意匠の出願当
時の当業者の常識等を認定するための周知例を示す証拠に係る主張として行
っているものと解され、これらの記載内容との対比において新たな無効理由
が存することを主張するものではない。よって、これら証拠に基づく主張は、
審決取消訴訟において認められないものには当たらず、被告の主張は採用で
きない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判
決・民集34巻1号80頁参照)。
ア 甲各意匠の物品等の用途及び機能並びに形態について、以下のとおり認められる。\n
(ア) 甲15(特許庁意匠課平成22年受入れの公知資料番号第HJ22
079731号)の意匠に係る物品は「収納かご」であり、写真中にタ
オルを入れている事例が示されていることから、家庭用品を収納する容
器であると認められる。甲15意匠は、全体につき、上部が開口して下
端が水平面状の略逆円錐台形状であって、長手方向の両側面上部に一対
の把手部が設けられており、正面及び左側面から見て左右両端は上部に
いくにつれて逆ハ字状に広がっている。
(イ) 甲20(平成20年9月10日公告(公開)の中国発行の公報(CN
300826894D))の意匠に係る物品は「氷はち」であるから、氷
のほか家庭用品を入れる容器であるものと認められる。甲20意匠は、
全体につき、上部が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状である本
体部と、一対の線材の把手部から成るものであり、正面及び左側面から
見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっており、
底面となす角度は約104°である。
イ 前記1(1)エ(ア)及び(イ)及び前記ア(ア)及び(イ)によれば、家庭用品等を
入れる収納容器の物品分野において、本件意匠の全体の形状のうち、上部
が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状として、径を下方にいくにつ
れて次第に小さくし、長手方向の両側面上部に一対の把手部を設けること
(本件意匠の態様a及びc(前記1(1)イ(ア)))については、本件意匠の出
願前に公然知られていたものと認められる。
ウ 一方、正面から見た本体部の上端の形状につきみると、甲各意匠につき、
以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部の長
手方向を正面とする。)。
・・・
エ 前記ウ(ア)ないし(オ)によれば、これらはいずれも本体部(甲18意匠に
ついては左右側面から見た状態も含む)の上端の形状が、略ないし緩やか
な凹弧状(甲18については若干非対称)に形成されている。これらは、
本件意匠の正面から見た本体部の上端の形状のうち、上端が倒弓状に形成
され、中央部は略平坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次
第に大きくなり本体部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になって
いる形状(本件意匠の態様d(前記1(1)イ(イ)))とは異なるものであり、
こうした形状については原告の提出する甲1意匠、甲各意匠及び甲76号
証ないし78号証に示された意匠には認められないところである。
そして、前記1(4)イのとおり、この上端の形状は、収納容器としての外
観を特徴付ける部分の形態であり、最も需要者の注意を強く惹く部分であ
る。
オ 本体部開口端部及び本体部底面の外周形状につきみると、甲各意匠につ
き、以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部
の長手方向を正面とする。)。
・・・
カ 前記オ(ア)ないし(エ)によれば、これらの本体部開口端部及び本体部底面
の外周形状は、不明である(甲15)か、いずれも略円形状(甲17)ない
し略楕円形状(甲21)であるか、一方が略楕円形状(甲20)であり、本
件意匠の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形
状である(本件意匠の態様a(前記1(1)イ(ア)))のとは異なるものであり、
これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号証ないし78号証に示さ
れた意匠には見られないものである。
キ 把手部の形状につきみると、甲各意匠につき、以下のとおり認められる(い
ずれも把手部が現れている面を正面とする。)。
・・・
ク 前記キ(ア)ないし(エ)によれば、これらの把手部の紐は軸方向に注連縄状
に現されているが、これらはいずれも本体部開口端部及び本体部底面の外
周形状は略長方形状で、全体に箱状である(甲8ないし10)か、略円形
状で、全体に円筒形状(甲11)であり、本件意匠の、全体に水平面状の
略逆円錐台形状であり、一対の紐状の把手部(本件意匠の態様a(前記1
(1)イ(ア)))が本体部の長手方向の両側面上部に設けられ(同c)、右側面
から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がり、底
面となす角度は約95°で(同e(前記1(1)イ(イ)))、把手部は右側面視
略U字状に現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に
現わされ(同f)、把手部は、本体部の最大縦幅を上から約1:2:2に、
最大横幅を左から約4:5:4に内分した中央の位置にある(同g)のと
は異なるものであり、これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号
証ないし78号証に示された意匠には見られないものである。
ケ そして、前記エ、カ及びクの、上端が倒弓状に形成され、中央部は略平
坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなり本体
部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になっているとの点、本件意匠
の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形状で
あるとの点、及び、把手部が、右側面視略U字状に現わされており、かつ、
太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされているとの点は、公知の意
匠にはみられない独自のものであり、本件意匠に独特の美観をもたらすも
のということができる。
コ 以上の検討によれば、本件意匠の本体部の上端の形状、本体部開口端部
及び本体部底面の形状並びに把手部の形状は、甲1意匠、甲各意匠及び甲
76号証ないし78号証に示された意匠とは異なるものであり、これらが
ありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又は単なる寄せ集めではなく、略逆円錐台形状で、正面及び側面から見た本体部の左右\n両端が上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっている全体の形状とまとま
り感のある一体の美観を形成している点に、着想の新しさないし独創性が
認められないものではないから、本件意匠は前記意匠から創作容易である
とはいえず、審決の判断に誤りはない。
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2022.06. 8
令和3(ネ)2663 意匠権侵害差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 令和4年6月1日 大阪高等裁判所
控訴審(大阪高裁)も、1審と同じく非類似と判断しました。なお、不競法については、特別顕著な形態ではないと判断しました。
ア 具体的構成態様D/dにおける差異点について\n
1審原告は、原審が、円筒状中空本体の形状に関する差異点2)の与える印
象について、差異点3)と逆の認定をしたことについて、主観的な印象であり、
その理由が不明であると主張する。しかし、原告意匠の要部である具体的構\n成態様D3、被告意匠の具体的構成態様d3を対比した結果である差異点2)
についてみると、前者は、円筒状中空本体が円周部(周辺部)まで厚みがあ
ることから(十分な体積を感じることができる。)、存在感を感じさせると認\n定することに合理性があり、一方、後者の側面の厚みは、円周部(周辺部)
に行くに従い、薄くなっていることから、すっきりとした印象を与えるとい
える。上記と同様に原審が認定した差異点3)は、円筒状中空本体の中空部の
直径と本体の直径との違いであって、差異点2)とは異なる差異点であるから、
「すっきりした印象」が逆に認定されたからといって不合理ということはで
きない。
また、1審原告は、差異点2)、3)が微差であると主張するが、差異点2)に
つき、原告意匠では円筒状であるのに対し、被告意匠では、上半分が略梯形
状で、その形状の違いは大きく、微差ということはできない。また、差異点
3)についても、需要者の注意を最も引く部分である円筒状中空本体の下面部
に占める、中空部(ファンガード部分に相当する。)と透光部の割合の大小が
相当に異なることになるから、微差ということはできない。
なお、点灯した場合、差異点が明確でなくなることがあったとしても、需
要者は、常に点灯した状態で看取するわけではなく、上述した点が左右され
ることはない。1審原告の主張は採用することができない。
イ 具体的構成態様E/eについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様E3、被告意\n匠の具体的構成態様e3を認定した上で指摘する差異点Aが微差であり、む\nしろ、円形板から放射状に多数のファンガードが面一に形成されているとい
う全体的な印象の方が強いという。確かに、原審の認定した上記具体的構成\n態様(E3/e3)によると、1審原告が主張するとおり、いずれの意匠も、
多数のファンガードが円筒状中空部下面とほぼ面一に形成されているという
印象は受けるものの、このような形態を備えた先行意匠が存在することが認
められ(乙14〜16、乙17の1・2)、多数のファンガードが存在するこ
とや、略面一であることもって特徴的ということはできない。むしろ、ファ
ンガードの形状が直線的であるか、曲線的(渦巻き状)であるかについての
差異点は、より強い印象を与えるというべきであり、上記差異点を微差とい
うことはできない。
なお、1審原告は、点灯した状態では、上記の差異点について、認識され
なくなると主張するが、前記アのとおり、常に点灯した状態で看取されるわ
けではない。1審原告の主張は採用することができない。
ウ 具体的構成態様H/hについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様H3、被告意\n匠の具体的構成態様h3を認定した上で指摘する差異点6)が微差という。
しかし、原審の認定した上記具体的構成態様(H3/h3)によると、側\n面視の本体に対して透光部の占める割合は、原告意匠(約3分の1)と被告
意匠(約4分の3)とで相当に異なっており、この違いは異なる印象を与え
るということができ、微差ということはできない。また、前記アのとおり、
被告意匠では円筒状中空本体側面の上半分が略梯形状であって、その部分の
与える印象が異なるため、原告意匠と被告意匠の側面における透光部の占め
る割合(高さ)を、上記略梯形状を含めた円筒状中空本体側面に対する下面
からの高さとして、単純に比較することもできない。
なお、1審原告は、点灯した状態では、上記の差異点について、認識され
なくなると主張するが、前記アのとおり、常に点灯した状態で看取されるわ
けではなく、1審原告の主張を採用することはできない。
エ 具体的構成態様I/iについて\n
1審原告は、原審が、原告意匠の要部である具体的構成態様I3(ただし、\n口金部を除く。)、被告意匠の具体的構成態様i3(ただし、シーリングプラ\nグを除く。)を認定した上で、その差異点8)、9)から受けるとした印象につい
て、支柱体は天井から吊り下げられる部位に関するものであり、しかも、支
柱体の下部には円筒状中空本体が存在するのであるから、支柱体が独立して、
原審が認定した印象を与えることはない旨主張する。しかし、円筒状中空本
体を天井から吊り下げる部位である支柱体は、同中空本体直径の約5分の1
(原告意匠)ないし約3分の1(被告意匠)という相当の存在感を示すもの
であり、円筒状中空本体が上方突出体をもって角度調整可能であって下方の\nみを向いているものでもないことをも考えると、支柱体が天井と円筒状中空
本体に挟まれたものであったとしても、その支柱体から受ける印象は、原審
が認定するとおりであるというべきであって、1審原告の主張は採用するこ
とができない。
オ まとめ
以上によると、1審原告が当審において主張する差異点は微差ということ
はできない。そして、前記(1)で補正した上で原判決を引用して説示したとお
り、要部を踏まえた原告意匠と被告意匠の共通点及び差異点を総合的に考慮
すると、原告意匠の構成は、平面視(底面視)が円形である点を除き、全体\n的に直線的で、すっきりとして洗練された印象を与えるのに対し、被告意匠
の構成は、全体的に存在感を示しつつも、柔らかく安定感のある印象を与え\nるものであって、これらの印象がそれぞれの意匠全体に与える影響は強く、
原告意匠と被告意匠に接した需要者は、両意匠から異なる印象を強く感じる
ものとみられる。
したがって、原告意匠と被告意匠とは、基本的構成態様においておおむね\n共通するものの、具体的構成態様における差異点がその共通点により生ずる\n美感を凌駕し、全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にする
というべきであって、被告意匠は、原告意匠と類似するとはいえない。
このことは、原告意匠と被告意匠とで意匠の要部としての基本的構成態様\n(2か所)が全て共通していることを十分に参酌しても、判断が左右される\nものではなく、1 審原告の主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)10386
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2022.01. 5
令和2(ワ)10386 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 令和3年11月25日 大阪地方裁判所
意匠権侵害、不競法2条1項3号の商品形態模倣が争点です。大阪地裁は意匠は類似していない・模倣でもないと判断しました。
ウ 原告商品1−1と被告商品との共通点及び差異点
原告商品1−1と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−1の基本的形態
の全て及び具体的形態 T1-1-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が
共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。
すなわち,原告商品1−1と被告商品の各形態とは,差異点2)’,3)’,5)’〜12)’の
ほか,具体的形態 S1-1-3 と s3 につき,原告商品1−1では,中空部中央に位置する
円形板から細い48本の直線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ
面一に形成されている(S1-1-3)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円
形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ
面一に形成されている(s3)点で相違する(差異点 C)。
エ 検討
原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点のうち,差異点2)’,3)’,6)’〜10)'及
び C は,原告意匠と被告意匠の差異点2),3),6)〜10)及び A と同じである。そうで
ある以上,少なくとも差異点3)’,6)’,8)’,9)’及び C については,原告意匠と被告意匠とが差異点3),6),8),9)及び A により異なる美感を生じるのと同様に,原告
商品1−1と被告商品の各形態につき,需要者に異なる美感を生じさせるものとい
える。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお両商品の形態が酷似し,実
質的に同一というべき事情は見当たらない。
したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認められないから,被告商品は,原告商品1−1の形態を模倣したものということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
◆判決本文
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2021.10. 8
令和2(ワ)14629 意匠権侵害差止等請求事 意匠権 民事訴訟 令和3年9月7日 東京地方裁判所
意匠権侵害事件です。東京地裁46部は、両者は類似していないとして請求を棄却しました。
ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様において共通し,また,具体的構\
成態様のうち,共通点1から5において共通する。
このうち,本件意匠の基本的構成態様は,需要者の注意を引くべき形状等\nとはいえず,類否判断に当たって,それが共通することを大きく取り扱うこ
とは相当ではない。
具体的構成態様の共通点のうち,共通点1及び2は,需要者の注意を引く\nべき形状等に係るものであり,これらが共通することは,類否判断に影響を
与える。もっとも,渦流生成部において,捕捉部を中心とする等角度位置に
配置された複数の斜面体を設ける構成を有する公知意匠があり(前記\n),この点を特に大きく取り扱うことは相当とはいえない。
共通点3から4は,フランジ部の形状等であり,需要者が注意を引くべき
部分の形状等ではなく,また,フランジ部においてその形状等が占める割合
も大きくなく,類否判断に与える影響は小さいといえる。
イ 本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,差異点1から6において異なる。\n差異点1から4は,渦流生成部の形状であり,注意を引くべき形状等に関
するものである。そして,本件意匠においては,渦流生成部を形成する4個
の斜面体が,段差構造によって境界を形成するものであり,渦流生成部を形\n成する斜面体が,段差構造によって境界を形成し,斜面体を区切る構\造体が
ないという形状等が,注意を引くべき形状等に含まれるといえるところ,差
異点1は,その形状等に係るものである。本件意匠が上記の形状等であるの
に対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰
部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰\n部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチ
ャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上から
だけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別
紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・
被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部\nは平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構\造であることを認識
するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突
出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰
部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また,
本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部
が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。こ
れに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自
体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより
斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという
印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の
類否判断に大きく影響を与える。
差異点2(斜面体の個数)及び3(斜面体の形状)も,需要者の注意を引
くと考えられる渦流生成部の形状に係る差異であり,類否判断に影響を与え
るといえる。もっとも,本件意匠と被告意匠において,斜面体の形状は,い
ずれも最も長い曲線が内側に湾曲する3つの線で囲まれるものであり,その
形状の差は大きなものとはいえない。そして,本件意匠と被告意匠では,こ
のような形状の斜面体がいずれも捕捉部を中心として等角度位置に配置さ
れていて,斜面体の形状に大きな差がないことからも,その個数が6個であ
っても4個であっても,数個の斜面体で構成されているとの印象を与える側\n面があり,個数の差が美感に与える影響は必ずしも大きなものであるとはい
えない。差異点4(捕捉部の形状)は,需要者の注意を引くと考えられる捕
捉部の形状に係る差異であり,本件意匠の捕捉部には整流体がないのに対し,
被告意匠には,本件意匠にはない整流体があり,それが膨出していることか
らも,類否判断に一定の影響を与えるといえる。
差異点4から6は,いずれも,需要者の注意を引くとはいえない,フラン
ジ部における差異であり,その差異も大きくなく,類否判断に与える影響は
大きくないといえる。
ウ 以上によれば,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で共通し,具体的\n構成態様においても,注意を引くべき形状等に係る共通点1及び2において\n共通する。もっとも,本件意匠の基本的構成態様は,注意を引くべき形状等\nとはいえず,また,具体的構成態様の共通点も類否判断に与える影響を特に\n大きく取り扱うことは相当ではない。
他方,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様の差異のうち,差異点1は,\n本件意匠において特に注意を引くべき形状等に関する差異であり,被告意匠
には本件意匠には見られない堰部があるのであり,前記のとおり,それが類
否判断に与える影響は大きい。また,差異点4も類否判断に一定の影響を及
ぼす。
これらからすると,本件意匠と被告意匠の差異点から受ける印象は,本件
意匠と被告意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものであるといえる。よ
って,被告意匠は,本件意匠に類似していないというべきである。
(7) 原告は,本件意匠も被告意匠も,堰部の有無にかかわらず,内側に向かう渦
の流れという美感が共通するので,堰部の有無は美感判断に影響をしないと主
張する。既に説示したとおり,内側に向かう渦の流れという美感自体は,公知
意匠にも共通するありふれた意匠であり(公知意匠1から4),この点を共通
にすることを類否判断で大きく扱うことは相当ではない。
また,原告は,公知意匠1から4のヘアキャッチャーに係る意匠はいずれも,
正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出していたところ,本件
意匠も被告意匠もこれがなく,全体的に平面的な美感を共通にしていると主張
する。上記公知意匠における渦流壁は,フランジ部よりも上部に張り出し,ま
た,平面視において占める面積は大きく,被告意匠の堰部は,公知意匠の渦流
壁に比べれば,その存在感は大きくない。しかし,渦流生成部を区分けする構\n造体がフランジ部よりも上部に張り出していない意匠自体は公知であったと
いえる上(公知意匠5),本件意匠は渦流壁,堰部に相当する部位を全く有して
いないのに対し,被告意匠は堰部を有しているのであって,堰部の存在の有無
自体が類否判断に大きな影響を与えるというべきである。原告の指摘は前記判
断を覆すに足りるものではない。
◆判決本文
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2021.02.25
令和2(ネ)10053 意匠権侵害行為差止請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 令和3年2月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。
本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ
ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え
る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど
ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による
商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ
れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ
スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部
について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,
ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め
られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下
方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐
体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上
端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた
ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング
が縦長略長方形状であるものと認められる。
さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上
部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出
しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜
させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ
ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め
られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す
る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ
部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ
り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知
られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ
に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや
すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き
やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出
し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か
れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右
側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ
ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2),
4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点
に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に
与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい
て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ
るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて
わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側
部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁
下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。)
に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな
る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように
設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け
た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突
出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり,
正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ
るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ
た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意
匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている
と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ
ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ
スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ
ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受
ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス
プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった
美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ
る。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和元年(ワ)第16017号
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2020.09.17
令和1(ワ)16017 意匠権侵害行為差止請求事件 意匠権 民事訴 令和2年8月27日 東京地方裁判所
タッチパネル式の自販機について、被告意匠は本件意匠に類似しないと判断されました。
上記イによれば,本件登録出願前に,自動精算機又はそれに類似する物品
において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ部について,上
方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを
収容するケース部分が縦長略直方形状である意匠,ディスプレイ部の縦と横
の比が概ね1.5対1である意匠,ディスプレイ部のケース部分がディスプ
レイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部
で構成されている意匠は知られていたといえる。これらによれば,自動精算機を購入する需要者にとり,本件意匠の基本的\n構成態様や具体的構\成態様A,Bが,特に注意を惹きやすい部分であるとは
いえない。そして,このことを考慮すれば,具体的構成態様C,Dは,本件意匠においては,本件図面において実線で示されている部分の中では一定の\n大きさを占めているといえるものでもあり,注意を惹きやすい部分であると
いうべきである。
本件意匠と被告意匠の差異点(前記(2)ウ(イ)のうち3)本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁
から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意
匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような
傾斜面を全く有していない点,4)本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分
の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも略4
倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅
がすべて等しくなっている点は,本件意匠の具体的構成態様C,Dに係る部分の違いであり,2)本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレ
イと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部
から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構\成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点は,具体的構\成態様Dの前提と
なる構成自体が異なるというものである。それらの違いは,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない基本的構\成態様が共通することから受ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠は,全体として,異なった
美感を有するものであり,類似しないと認められる。
エ 原告は,本件意匠の基本的構成態様と具体的構\成態様について,前記第2,
のとおり主張し,本件意匠の要部は,自動精算機全体との関係で位置,
大きさ,範囲を考慮したタッチパネル部であって,原告が主張する上記構成態様を前提として,本件意匠と被告意匠の構\成態様の共通点は,本件意匠の要部についての共通点であるのに対し,具体的構成態様の差異点については,いずれも両意匠の共通性を凌駕するものではなく,本件意匠と被告意匠が類\n似する旨主張する。
しかし,原告が本件意匠の基本的構成態様,具体的構\成態様であると主張
する構成態様は,本件図面において破線で示された筐体の形状を部分意匠である本件意匠の形状そのものとして主張しているものである。部分意匠の趣\n旨からも,本件において,タッチパネル部の幅と筐体の幅との具体的な比率
やタッチパネル部の筐体からの突出の具体的な比率そのものなどの原告主
張の上記構成態様が,本件意匠の具体的な形状であるとは解されない。なお,登録意匠と対象となる意匠の位置等の違いが類否判断に影響を及ぼす場合\nがあるとしても,本件においては,本件意匠と被告意匠に類否判断に影響を
及ぼすような位置等の差異はない(前記(3))。
また,原告は,類否判断において本件意匠と被告意匠について,上記の位
置等が共通することを重視すべき旨を主張する。
しかし,本件においては,少なくとも,筐体の上端部から突出するディス
プレイ部について,前記イで掲載した意匠が知られており,このことを考慮
すると,前記のとおり,本件意匠と被告意匠は類似しないというべきである。
◆判決本文
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2020.01.24
平成29(ワ)5108 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 令和元年12月17日 大阪地方裁判所
SIX PADに関する意匠権侵害事件です。大阪地裁21部は、類似しないと判断しました。意匠は特許事件のように、侵害論と損害論を分けてないのですね。損害額についての主張立証がなされています。
ア 要部認定の意義
被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基
づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物
品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感
が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。
本件意匠と被告意匠については,前記(1)で述べたとおり,多数の共通点,差異点
が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異
点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分
を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検\n討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。
イ 物品の需要者及び使用態様
本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面
電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのも
のである点において共通する(各公報における「意匠に係る物品の説明」参照。)。
原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1(3))からは,原告商品は
腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定\nされており,「理想のボディライン」を作ることに主眼が置かれているという違い
が見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明
のとおり,「腹部の筋肉等を引き締める」目的でトレーニング機器を使用しようと
する一般消費者である。
また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該\n物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需
要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については
着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両
製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態
の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。
ウ 本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2(2)アで基本的構成態\n様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考え
られるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに,
同イの具体的構成態様のうちVないしVIIIとして指摘した内容,すなわち,各パッド
片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さにつ
いても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ
ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。
他方,それ以外の点,すなわち前記2(2)イの具体的構成態様のうち,IXない
しXII記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に
引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。
エ 双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを
理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心\nに6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張す
るのに対し,被告は,前記部分はありふれており,要部には当たらないと主張する。
まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成\nがあるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似
した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合\nいは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参
照する意義はある。
しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのでは
なく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行
うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を\n引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通する
いわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引\nき,要部とすべき場合もある。
すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるもの
ではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与
える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対\n称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片
をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ
うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の(1)及び(2)
で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片
の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないというこ
とはできない。
そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,\n各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要
者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとお
り,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。
仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件\n意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても
本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的
に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は
採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1(1)及び(2)で認定した本件意匠に
先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2(2)アの基本的構成がありふれたも\nのであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。
上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者\nに一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成\nが本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(3)類否の判断
ア 要部についての共通点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠
が共通するのは,前記(1)ア(基本的構成態様)の(1)(本体シート状,6枚のパッド
片),(2)(2列3段,左右対称),(3)(略円形上の操作部)及び(4)(パッド背面の
電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。
イ 要部についての相違点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部における本件意匠と被告
意匠との差異点は,前記(1)ア(基本的構成態様)の(5)(パッド片の結合)及び(6)(左
右対称か上下対称か),並びに前記(1)イ(具体的構成態様)の(3)(上段,下段パッ
ド片の形状,傾斜),(4)(中段パッド片の形状,傾斜),(5)(上下の切込みの形状,
深さ)及び(6)(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように
配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド
片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが
設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられているこ
とから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合
する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりと
した印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成
しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。
各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るもの\nであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそ
のような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠
被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長
隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲してい
る上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間
に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及
び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ
って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に
見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き
締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽
快な印象を与える。
特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が
結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の
羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよ
う配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本
件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意
匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽
快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前
記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として
評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度\nには異なるということができる。
(4)争点(2)の結論
前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1(3)アの
宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者
は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可\n能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところ\nではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要
者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似し\nないというべきである。
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2019.08.13
平成30(行ケ)10169 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成31年4月22日 知的財産高等裁判所
SIXPADの類似商品についての意匠登録無効審判請求について、無効理由(2条1項3号)なしとした審決が維持されました。先行意匠はSIXPADで、本件意匠はSIXPADの類似商品です。
証拠(甲1,2)によれば,両意匠の物品は,いずれも「トレーニング機
器」と同一であって,背面電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,当
該部位の筋肉等を引き締めるためのものである点において共通する(各証拠
の【意匠に係る物品の説明】参照)。また,その需要者についても,いずれ
もそのようなニーズを有する一般消費者であると認められる。
そして,両意匠に係る物品は,これを使用者の腹部に載せ,当該物品の背
面に設けられている電極を腹部に接触させて使用する物であるから(甲1及
び2の【意匠に係る物品の説明】の記載,並びに甲2の【使用状態を示す参
考図】参照),着脱時には,直接肌に触れることになる背面も,ある程度の
注意をもって見る機会があるものの,需要者は主に当該物品の表面を正面な\nいし斜め上方向から見る機会が多いというべきである。両意匠を実施してい
ると解される物品及び同種の物品を紹介するカタログ,ポスター等において
も,これらの物品を単独で,又は腹部に装着した状態の物品の表面を,それ\nぞれ正面から撮影した画像が多く使用されており(甲3の2〜3の4,4,
15,16の2),上記の観察方法の正当性を裏付けるものといえる。
(2) 以上を前提として,両意匠が需要者の視覚を通じて起こさせる美観が類似
するか否かを検討する。
ア 両意匠の形態上の共通点について
(ア) 両意匠は,全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右
対称であり,左右の上パッド,中央パッド及び下パッドが合計6つ配置
された本体と,本体の正面中央に設けられた略円形の強弱調整ボタンで
構成されている点(共通点(A)),中央パッドと上パッド,中央パッド
と下パッドの各隙間は,いずれも略倒扁平「V」字状である点(共通点
(A−2)),本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されている
点(共通点(B)),強弱調整ボタンは,正面側が閉塞しており,本体に
一体に設けられている点(共通点(C)),本体背面中央に,強弱調整ボ
タンよりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッドに,周囲に余白を
残して電極が配置され,各電極が中央の円形模様と接続されて,円形模
様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点(共
通点(D)),並びに強弱調整ボタンの正面上下に,「+」及び「−」の
表示が設けられている点(共通点(E))において,共通する形態を有し
ている。
(イ) まず,共通点(A)のうち,全体が,正面から見て,薄いシート状で
あって,略左右対称であり,パッドが複数配置された本体と,本体中央
に設けられた略円形の強弱調整ボタンで構成されている点は,本件登録\n意匠の出願前に販売されていた同種の商品にも広く見られる態様と認め
るのが相当である(甲3の2,3の3,5)。
しかし,上パッド,中央パッド及び下パッドが左右対称に合計6つ設
けられているという形態についてみると,当該形態は本件登録意匠の出
願前に販売されていた同種の商品にも相当数見られるものの,採用され
ているパッド数には様々なものがあること(甲5)に鑑みると,これを
両意匠に係る物品において普遍的に見られるありふれた形態とまでいう
ことはできない。かえって,当該形態は両意匠の全体の輪郭の大要を形
成するものであること,パッド部が意匠全体に占める面積が大きいこ
と,各パッド間の区切りも明瞭であることに加え,需要者は主に両意匠
に係る物品の表面を正面ないし斜め上方向から見る機会が多いとの観察\n方法を併せ考慮すると,当該形態は需要者の注意を強く引く構成態様と\n評価するのが相当である。
(ウ) 次に,1)共通点(A−2),2)共通点(B)に関し,本体の上辺又は下
辺中央に切り欠き部が形成されている点,3)共通点(C),4)共通点(E)
については,本件登録意匠の出願前に販売されていた同種の商品にも広
く見られる態様であるか(甲3の2,3の3,5),あるいは,これら
の形態が意匠全体に占める割合も大きくないものであるから,両意匠に
係る物品の観察方法も併せ考慮すると,これらの共通点が類否判断に及
ぼす影響は小さいというべきである。
(エ) また,両意匠は,背面の形態に関し,共通点(D)において共通する
が,上記(1)のとおり,需要者が当該物品の背面に着目する程度は高く
ないと認められるから,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は
小さいというべきである。
イ 両意匠の形態上の相違点について
(ア) 相違点(a),相違点(a−2)及び相違点(b)についてみると,本
件登録意匠は,略倒隅丸台形状の中央パッドの上下に,先端が円弧状の
隙間を介して,上端又は下端が略弓状に膨出した上パッド及び下パッド
が配置され,本体の上辺及び下辺中央に略「U」字状の切り欠きがあ
り,切り欠き部に連なる本体上辺及び下辺の角部付近が上方又は下方に
僅かに膨出していることから,全体として上下対称となっていることと
相まって,総じてうねりを伴う流線的かつ柔らかでゆったりとした印象
を与えるものである。
これに対し,甲2意匠は,中央パッドが略横長隅丸4角形状で,左右
端が若干上に傾くように配置され,先端が先細りの隙間を介して,上パ
ッドが略横長隅丸5角形状で,左右端が中央パッドよりも上に傾くよう
に配置され,同様に先端が先細りの隙間を介して,下パッドが略横長隅
丸5角形状で,左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されてお
り,本体の上辺及び下辺中央に略「V」字状の切り欠きが設けられてい
ることから,各パッドの各辺が概ね直線状となっていることと相まっ
て,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといった,当該意匠に
係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿う印象を需
要者に与えるものである。
そうすると,これらの相違点により需要者に与える印象の違いは極め
て大きいというべきである。
(イ) 次に,相違点(c)についてみると,本件登録意匠は,上パッド及び
下パッドにおいて,上端又は下端に沿って明調子の筋状模様が,内側の
稜線寄りに明調子の略倒扁平三角形状模様がそれぞれ配されていること
から,当該各パッドが浮き上がったような印象を与えるとともに,上パ
ッド及び下パッドには,左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した
略「M」字状又は略「W」字状の帯状部が形成され,中央パッドには左
右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略倒紡錘形状部が強弱調整
ボタンを囲むように形成されていることから,当該意匠の物品が「トレ
ーニング機器」であることを考え合わせると,これらの形態は腹部の筋
肉の盛り上がりをイメージさせるものといえる。
そして,甲2意匠は,外周を縁取る線模様がパッドごとに分断して合
計6つ設けられ,その内側に,各パッドの外形に相似するような隅丸略
5角形状の線溝が,相似形に3本施されていることから,同様に当該意
匠の物品が「トレーニング機器」であることを考え合わせると,これら
の形態は腹部の筋肉の盛り上がりを強くイメージさせるものといえる。
そうすると,この点が需要者に与える印象の違いはそれほど大きくな
いというべきである。
(ウ) 相違点(d)についてみると,強弱調整ボタンの形状が略円錐台形
状であるか略円筒状であるか,基部が設けられているか否かは,目につ
きにくい部分における細かな差異にすぎないから,需要者に与える印象
の違いは小さいというべきである。
(エ) 相違点(g)については,甲2意匠に設けられている通気孔は,本体
中央に設けられている強弱調整ボタンの斜め上下左右という比較的需要
者の注意を引く位置にあり,形状が略隅丸3角形であることから,シャ
ープな印象を与えるものといえるが,その孔自体それ程目立つものでは
なく,通気孔の部分が全体に占める割合もごく小さいことから,この点
が需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
(オ) 相違点(h)のうち,電源ボタンの有無については,本件登録意匠
では,当該電源ボタンが本体の中央という非常に目につきやすい箇所に
設けられていることから,一定程度異なる印象を需要者に与えるといえ
る。
しかし,「+」及び「−」の表示が明調子に表\されているか否かにつ
いては,需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
(カ) その余の相違点については,両意匠を全体としてみたときに,ごく
限定された部分又は目につきにくい部分における細かな差異にすぎず,
他の共通点・相違点から生ずる美感を左右するほどのものとはいえな
い。
ウ 総合評価
(ア) 基本的構成態様における共通点(A)のうち,上パッド,中央パッド
及び下パッドが左右対称に合計6つ設けられているという形態について
は,需要者の注意を強く引く構成態様と評価することができる。\n これに対し,その余の共通点については,これらが両意匠の類否判断
に及ぼす影響は小さい。
(イ) 他方,基本的構成態様における相違点(a),(a−2),(b)及び
(c)によってもたらされる印象は,両意匠ともに,盛り上がった腹部の
筋肉という,当該意匠に係る物品を使用することによって達成しようと
する目標に沿う印象を与えるとの点において共通するものの,本件登録
意匠は,流線的かつ柔らかでゆったりとした印象を与えるのに対し,甲
2意匠は,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといったよう
な,当該意匠に係る物品の使用による達成目標により沿うものとなって
おり,これらの相違点が与える印象の違いは,上記共通点がもたらす印
象をはるかに凌駕するものである。
(ウ) そうすると,その余の共通点,相違点がもたらす印象を考慮して
も,両意匠は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にするという
べきである。
◆判決本文
本件意匠は下記です。
◆意匠登録1593189
先行意匠は下記です。
◆意匠登録第1536247
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2019.07.22
平成30(行ケ)10152 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成31年4月11日 知的財産高等裁判所
3条1項3号(公知意匠との類似)を理由とした拒絶審決が維持されました。裁判所は、「これらの相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも
のではない」と判断しました。
本願意匠(別紙1)及び引用意匠(別紙2)の各形態,本願意匠と引用意
匠の共通点及び相違点に関する本件審決の認定(前記第2の2(2))に誤りが
ないことは,当事者間に争いがない。
両意匠の意匠に係る物品は,電動歯ブラシの本体(把持部)であり,主な需
要者は,電動歯ブラシを使用する一般消費者である。そして,かかる需要者が,
電動歯ブラシを使用するときは,通常,シャフト部にブラシヘッドを装着した
電動歯ブラシの本体を手に取り,歯磨き粉を付けたブラシヘッドを口腔内に
入れてから本体の動作制御釦を押して始動した後,本体を把持しながら,ブラ
シヘッドを歯に当てて歯磨きを行うことからすると,本体把持部の握りやす
さや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと
認められる。
しかるところ,両意匠は,「全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面
側に偏心しながら,円状の上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電
動歯ブラシ本体把持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を
直径とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(シャフ
ト部)で構成をされている点」(共通点1)及び「シャフトについて,本体把\n持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し,正面視中央部に横断する段差が設
けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が設けられている点」(共通点2)で共
通する。
そして,共通点1は,底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全
体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼ
す影響が大きいこと,共通点2は,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに
傾倒したシャフト部の形状に係るものであって,本体把持部の偏心した形状と
相まって歯に当たるブラシヘッドの角度に影響を及ぼすことに照らすと,共通
点1及び共通点2は,これを見る需要者に対し,全体として,共通の美感を起
こさせるものと認められる。
他方で,両意匠は,相違点1(本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全
長約3分の1の箇所と,約2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯
ブラシ動作制御用釦が縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端よ
り全長約3分の1の箇所に1つ配されるものとなっている点),相違点2(本
願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるのに対して,
引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となっている点),相違点
3(環状細線の位置),相違点4(本体把持部の下部の形状及び切り替えの有
無)及び相違点5(シャフト部の基台部の形状)において相違するが,これら
の相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも
のではない。
したがって,本願意匠と引用意匠は,これらの相違点を考慮しても,需要
者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら
れるから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。
(2)ア これに対し原告は,1)共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部よ
り円状の上部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略
円柱状の基台部と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の
構成態様は特徴的な形状であるとはいえない,2)共通点1のうち,「本体
把持部が僅かに偏心していること」は,需要者に与える印象という観点か
らは,従来から存在する上部にかけて側面視背面側をただ窄めただけの形
状と明確な区別のつくものではないため,特徴的な形状とはいえない,3)
共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設けられてい
る点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと相ま
って,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,特徴的な形状という
ことはできないとして,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用\n者の注意を強くひくものとはいえず,共通点1及び2に係る態様は,需要
者に共通の美感を起こさせるものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)の点は,共通点1のうち,一般的な電動歯ブラシ
の本体が有する形状と共通する一部の形状のみを取り上げたものであり,
共通点1の有する全ての形状について言及したものとはいえない。
また,上記2)の点は,本体把持部の全体形状に特に着目する需要者(前
記(1))においては,本体把持部が僅かに偏心している本願意匠の形状と
本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面
側を窄めただけの形状とを容易に区別するものと認められる。
さらに,上記3)の点は,共通点2のうち,一部の形状のみを取り上げた
ものであり,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し
ている点及びシャフトの正面視中央部に横断する段差が設けられている
点を看過している。
以上のとおり,原告の上記主張は,共通点1及び共通点2の形状の一部
のみに着目したものであって,これらの共通点の全体が与える視覚的効果
を踏まえたものといえないから,採用することができない。
イ 次に,原告は,1)歯を磨くという電動歯ブラシの機能の観点からは,需要\n者が電動歯ブラシを操作する動作制御釦の位置,大きさ及び形態が最も強
く需要者の注意をひく部分であり,要部である,2)需要者は電動歯ブラシ
を使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部が,全体
と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者に対し,強い印象を
与えること,釦が2つの場合は,それぞれの釦の機能を考慮しながら釦を\n操作するため,2つの釦を注視することとなり,釦が1つの場合と比べて,
釦の形態により注意が向けられることに照らすと,本願意匠の釦が縦に2
つ配されている態様(相違点1に係る本願意匠の態様)は,上の釦の径よ
り,下の釦の径がやや小さく形成されているという点と相まって,需要者
の注意を強くひくものであり,釦が1つ配されている態様の引用意匠とは
異なる美感を起こさせるものであるとして,本願意匠の要部である動作制
御釦が需要者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,両意匠は,
全体として類似しない旨主張する。
しかしながら,前記(1)認定の電動歯ブラシの通常の使用態様に照らすと,
需要者は,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持部の
全体形状に特に注目をするものと認められ,動作制御釦の位置,大きさ及び
形態は,電動歯ブラシの操作時に需要者の一定の注意をひく部分であると
しても,最も強く需要者の注意をひく部分であるとはいえない。
また,甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報)記載の「電動歯ブ
ラシ本体」の意匠(別紙3)及び甲3(意匠登録第1219080号の意匠
公報)記載の「電動歯ブラシ」の意匠(別紙4)によれば,電動歯ブラシに
動作制御釦を2つ配することは,本願の優先日前に,普通に行われていたも
のと認められる。そして,本願意匠の2つの動作制御釦は,1つは,本体把
持部上端より全長約3分の1の箇所に配され,引用意匠の動作制御釦とそ
の位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦の垂下にあたる本体把持部上
端より全長約2分の1の箇所に配され,特異な位置にあるとの印象を与え
るものではない。
加えて,本体把持部の上部側に配された動作制御釦の直径より,その下部
に配された動作制御釦の直径が僅かに小さく形成されている2つの動作制
御釦を有する電動歯ブラシの本体把持部の形態は,本願の優先日前に公知
であったこと(乙1)に照らすと,本願意匠の動作制御釦が,2つ縦に配さ
れ,僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成して
いる点は,特徴的なものとはいえず,需要者の注意を特にひくものとはいえ
ないから,本願意匠の動作制御釦と引用意匠の動作制御釦の構成態様の違\nいが需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の全体的な美感に影響するも
のと認めることはできない。
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2019.07. 5
平成30(行ケ)10181 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和元年7月3日 知的財産高等裁判所(1部)
部分意匠について、新規性無しの無効審判が請求されましたが、審決・裁判所とも非類似と判断しました。
本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワ
ー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けら
れており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。
そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と
の共通点及び相違点は,次のとおりである。
前記の認定(1(1)(2))によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機
器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中
心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よ
りも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,
中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面
が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。
他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられ
た後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンク
であるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィ
ンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフ
ィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1の
フィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,
i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意
匠1では約3分の1である点においても相違する。
ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は視覚を通じて起こさせる美観が
縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ)また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,1)本件
意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であ
るのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという
点,2)本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍で
あるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,
3)本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中
央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体
の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,こ
れらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1
とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
エ よって,取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内
又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準と
して,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容
易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件
の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場か
らみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第
45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和4
8年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号28
7頁参照)。
イ 検討
これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられてい
る,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認
めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容
易であるとはいえない。
また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相
違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証\n拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事
由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づ
き本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。
イ 検討
しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられている
のに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に
並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べ
ることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3
に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。
また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,1)本件意匠が,
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対
し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,2)本
件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるの
に対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,3)本件
意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の
厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体の直径
が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの
相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記(1)のとおりである。そして,タワー型
ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み
合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点4)に係る本
件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことか\nらすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至
らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
◆判決本文
本件の侵害事件です。
◆平成28(ワ)12791
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2019.05.10
平成24(ワ)33752 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成27年2月26日 東京地方裁判所
4年以上前の事件ですが、漏れていたのでアップします。体組成計の意匠について、一部の被告製品は本件登録意匠と類似するとして、1.3億円の損害賠償が認められました。なお、被告製品のうち50%について販売不可事情が認定されました。
本件意匠2と被告意匠は,上記第3,2,(1),アのとおり,1)正面視にお
いて,板状体の正面ガラス板は隅丸横長四角形形状であり,板状体の正面に
は,4つの隅丸縦長四角形形状の電極部分が上下左右に配置されており,上
側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央には隅丸横長
四角形の液晶表示窓があり,該液晶表\示窓の下側であって,かつ,上側に配
置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部
分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,
右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線
の交点を中心として隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成さ\nれており,2)側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とし
た構造であるという構\成を有する点で共通している。
相違点について検討すると,正面視において,上記第3,2,(1),イのと
おり,本件意匠2と被告意匠とでは透明ガラス板の縦横比が異なっている(本
件意匠2が約1:1.4であり,被告意匠が約1:1.43である。)ものの,
その差異は極めて小さく,いずれも看者に対し横長長方形であるという印象
を与えるものというべきである。また,被告意匠には,液晶表示窓の周囲に\nある縁取模様があることが認められるが,これは液晶表示窓の大きさと比較\nしてさほど大きいものではなく,正面視において目立つ色彩でもない。さら
に,透明ガラス板の隅丸半径,電極部分の幅と長さの比,液晶表示窓の底辺\nと上側の左右に配置された電極の底辺との関係やスイッチ模様の個数に差異
があるが,これらは,透明ガラス板の形状がほぼ同じであることから看者に
対して与える共通の美感を凌駕するものとはいえない。
本件意匠2と被告意匠とでは,背面視において,上記第3,2,(1),イの
とおり,本体部の背面の形状に差異があるが,これは要部における差異では
ない。
さらに,上記第3,2,(1),イのとおり,被告意匠には側面視において不
透明プロテクタ体があるが,不透明プロテクタ体は本体背面部と同系統の色
彩であり厚みも薄いことから,この点も要部における具体的構成の共通性か\nら看者に与える美感の同一性を凌駕するものとはいえない。
したがって,本件意匠2と被告意匠とは上記のような差異点があることを
考慮しても,看者に対して共通の美感を与えるものと認められるから,本件
意匠2と被告意匠は類似しているというべきである。
・・・
被告は,被告製品の売上への被告意匠以外の要因が寄与していると
主張する。
証拠(甲30の1,乙23,24,26,28,86)及び弁論の全
趣旨によれば,a 被告は,原告に先んじて体組成計の販売を開始し,
平成15年までは体組成計の年間シェア(数量)の62.9%以上を占
めていたこと,b 平成23年の体組成計の年間シェア(数量)は被告
が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位の企業は14.
5%であること,c 被告が販売する体組成計を購入した者の25.7
7%が被告ブランドを理由に購入していること,d 日経BPコンサル
ティングが実施している「ブランドジャパン2011」において消費者
からみた総合力の上昇ランキングで9位とされていること,e 「ブラ
ンドジャパン2013」においてコンシューマー市場編総合力と因子指
数において60位とされたこと(原告は同ランキングで183位であっ
た。),f 被告が,平成23年7月19日,平成24年6月11日及び
平成25年5月28日にMDBネットサーベイを利用して行ったアンケ
ートによれば,体組成計や体脂肪計のメーカーのイメージが強い最も強
い企業を選ぶ問いに対し被告と答えた者が順に68.2%,71.6%,
71.8%であったことが認められる。
以上の事実によれば,被告は体組成計のシェアを長期間にわたり安定
的に有しており,被告が製造する体組成計を購入した者の中には被告の
ブランド力を理由とする者も多数おり,被告がブランド力の調査におい
て上位にされることがあったのであるから,被告製品の売上に被告のブ
ランド力の有する顧客吸引力の貢献もあるというべきである。
しかしながら,一方で,証拠(甲8の2ないし4,27の1・2,3
8)によれば,a 原告製品1又は2を購入した者に対するアンケート
結果では,商品を選択した理由として「デザイン(見た目)が良い」と
いう回答をしている者が順に●(省略)●%,●(省略)●%に上って
いること,b 一方,同アンケート結果では,「メーカー名」を挙げる
者は各●(省略)●%に過ぎなかったこと,c 体組成計を取り上げた
テレビ番組でも,原告製品1について「従来無かったデザイン性の高さ
が人気といいます。」,原告製品2について「コンパクトなタイプ。デザ
インとカラーで人気を集めています。」などと報道されたこと(平成2
4年12月18日放送・ワールドビジネスサテライト)が認められるか
ら,デザインが体組成計の購入動機とならないとはいえない。
なお,前示のとおり,本件意匠2はその出願時点における公知意匠と
は異なる構成を有するものであるから,被告が本件意匠2について無効\n審判を請求していることを考慮しても,その創作性の程度が低いという
ことはできない(なお,上記無効審判請求については,平成26年12
月24日に請求不成立の審判がされた〔乙99の2〕)。また,本件意匠
2は,部分意匠ではないし,被告意匠は全体として本件意匠2と類似す
るのであるから,被告意匠が本件意匠2の一部と類似するに過ぎないと
いうこともできない。
したがって,被告製品の売上には被告意匠以外の要因として被告ブラ
ンドの顧客吸引力も寄与しているといえるから,このような事情につい
ては原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができ
ないとする事情として考慮することができるというべきである。
(イ) 被告は,原告が原告製品1及び2を追加的に販売する際に注文に対
応できない台数の割合があることを考慮すべきと主張する。しかしなが
ら,原告は1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売す
ることができると認められるところ(甲42),原告が原告製品1及び2
が売れすぎたために品切れを起こし販売を中止した期間があると認める
に足りる証拠はない。したがって,原告が原告製品1及び2を追加的に
販売する際に注文に対応できない台数の割合があることを原告が被告製
品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情とし
て考慮することはできないというべきである。
(ウ) 被告は,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があると主張
する。確かに,体組成計について,原告製品1及び2の他に原告や被告
の他多数の企業から多数の製品が販売されていることは当事者間に争い
がないが,証拠(甲30の1)によれば,平成23年の体組成計の年間
シェアは被告が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位
の企業は14.5%であることが認められ,被告と原告とで体組成計の
年間シェアの71%を占めていることからすると,被告製品がなかった
場合,被告製品の購入者の大部分は被告が販売する製品か原告が販売す
る製品を購入するものというのが相当である。そして,前示のとおり被
告製品を購入した者はメーカー名よりもデザインに着目して購入してい
るところ,証拠によっても,平成24年10月から平成25年9月30
日までの間に被告が販売する被告製品以外の体組成計にその意匠が本件
意匠2と同一又は類似するものがあるとは認められないのである。そう
すると,原告製品1及び2には被告製品の他にも競合品があるという事
情は,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告
製品しか選択肢がないという状況ではなかったから,被告製品がなかっ
たとしても被告製品の譲渡数量の全てについて原告製品1又は2が購入
されたということはできない(しかし,大部分は原告製品1又は2が購
入されたといえる。)という程度において,原告が被告製品の譲渡数量の
全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮すること
ができるにとどまるというべきである。
(エ) 以上によれば,被告製品の売上には被告ブランドの顧客吸引力の寄
与もあるという事情,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があ
り,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告製
品しか選択肢がないという状況ではなかったという事情は,上記説示の
範囲で,原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することがで
きないとする事情として考慮することができる。また,前示のとおり,
被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害しないという事情があり,これ
も原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができない
とする事情として考慮することができる。これらの諸事情を考慮すれば,
被告製品の譲渡数量のうち50%に当たる●(省略)●台(小数点以下
切り捨て。)について原告が譲渡することができない事情があるというべ
きである。
オ 前記前提事実のとおり,原告は,1か月に●(省略)●台の原告製品1
及び2を輸入,販売することができたから,平成24年10月から平成2
5年9月までの間,原告製品1及び2を併せて●(省略)●台を輸入,販
売することができた。
カ 以上によれば,意匠法39条1項により損害の額とされる額は1億17
41万3662円である。
◆判決本文
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2019.04.22
平成30(行ケ)10152 意匠権 行政訴訟 平成31年4月11日 知的財産高等裁判所
先行意匠と類似するかが争われました。裁判所は、「底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼす影響が大きい」として、類似と判断した審決を維持しました。判決文の最後に両意匠が掲載されています。
両意匠の意匠に係る物品は,電動歯ブラシの本体(把持部)であり,主な需
要者は,電動歯ブラシを使用する一般消費者である。そして,かかる需要者が,
電動歯ブラシを使用するときは,通常,シャフト部にブラシヘッドを装着した
電動歯ブラシの本体を手に取り,歯磨き粉を付けたブラシヘッドを口腔内に
入れてから本体の動作制御釦を押して始動した後,本体を把持しながら,ブラ
シヘッドを歯に当てて歯磨きを行うことからすると,本体把持部の握りやす
さや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと
認められる。
しかるところ,両意匠は,「全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面
側に偏心しながら,円状の上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電
動歯ブラシ本体把持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を
直径とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(シャフ
ト部)で構成をされている点」(共通点1)及び「シャフトについて,本体把\n持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し,正面視中央部に横断する段差が設
けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が設けられている点」(共通点2)で共
通する。
そして,共通点1は,底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全
体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼ
す影響が大きいこと,共通点2は,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに
傾倒したシャフト部の形状に係るものであって,本体把持部の偏心した形状と
相まって歯に当たるブラシヘッドの角度に影響を及ぼすことに照らすと,共通
点1及び共通点2は,これを見る需要者に対し,全体として,共通の美感を起
こさせるものと認められる。
他方で,両意匠は,相違点1(本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全
長約3分の1の箇所と,約2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯
ブラシ動作制御用釦が縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端よ
り全長約3分の1の箇所に1つ配されるものとなっている点),相違点2(本
願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるのに対して,
引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となっている点),相違点
3(環状細線の位置),相違点4(本体把持部の下部の形状及び切り替えの有
無)及び相違点5(シャフト部の基台部の形状)において相違するが,これら
の相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも
のではない。
したがって,本願意匠と引用意匠は,これらの相違点を考慮しても,需要
者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら
れるから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。
(2)ア これに対し原告は,1)共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部よ
り円状の上部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略
円柱状の基台部と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の
構成態様は特徴的な形状であるとはいえない,2)共通点1のうち,「本体
把持部が僅かに偏心していること」は,需要者に与える印象という観点か
らは,従来から存在する上部にかけて側面視背面側をただ窄めただけの形
状と明確な区別のつくものではないため,特徴的な形状とはいえない,3)
共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設けられてい
る点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと相ま
って,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,特徴的な形状という
ことはできないとして,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用\n者の注意を強くひくものとはいえず,共通点1及び2に係る態様は,需要
者に共通の美感を起こさせるものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)の点は,共通点1のうち,一般的な電動歯ブラシ
の本体が有する形状と共通する一部の形状のみを取り上げたものであり,
共通点1の有する全ての形状について言及したものとはいえない。
また,上記2)の点は,本体把持部の全体形状に特に着目する需要者(前
記(1))においては,本体把持部が僅かに偏心している本願意匠の形状と
本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面
側を窄めただけの形状とを容易に区別するものと認められる。
さらに,上記3)の点は,共通点2のうち,一部の形状のみを取り上げた
ものであり,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し
ている点及びシャフトの正面視中央部に横断する段差が設けられている
点を看過している。
以上のとおり,原告の上記主張は,共通点1及び共通点2の形状の一部
のみに着目したものであって,これらの共通点の全体が与える視覚的効果
を踏まえたものといえないから,採用することができない。
イ 次に,原告は,1)歯を磨くという電動歯ブラシの機能の観点からは,需要\n者が電動歯ブラシを操作する動作制御釦の位置,大きさ及び形態が最も強
く需要者の注意をひく部分であり,要部である,2)需要者は電動歯ブラシ
を使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部が,全体
と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者に対し,強い印象を
与えること,釦が2つの場合は,それぞれの釦の機能を考慮しながら釦を\n操作するため,2つの釦を注視することとなり,釦が1つの場合と比べて,
釦の形態により注意が向けられることに照らすと,本願意匠の釦が縦に2
つ配されている態様(相違点1に係る本願意匠の態様)は,上の釦の径よ
り,下の釦の径がやや小さく形成されているという点と相まって,需要者
の注意を強くひくものであり,釦が1つ配されている態様の引用意匠とは
異なる美感を起こさせるものであるとして,本願意匠の要部である動作制
御釦が需要者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,両意匠は,
全体として類似しない旨主張する。
しかしながら,前記(1)認定の電動歯ブラシの通常の使用態様に照らすと,
需要者は,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持部の
全体形状に特に注目をするものと認められ,動作制御釦の位置,大きさ及び
形態は,電動歯ブラシの操作時に需要者の一定の注意をひく部分であると
しても,最も強く需要者の注意をひく部分であるとはいえない。
また,甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報)記載の「電動歯ブ
ラシ本体」の意匠(別紙3)及び甲3(意匠登録第1219080号の意匠
公報)記載の「電動歯ブラシ」の意匠(別紙4)によれば,電動歯ブラシに
動作制御釦を2つ配することは,本願の優先日前に,普通に行われていたも
のと認められる。そして,本願意匠の2つの動作制御釦は,1つは,本体把
持部上端より全長約3分の1の箇所に配され,引用意匠の動作制御釦とそ
の位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦の垂下にあたる本体把持部上
端より全長約2分の1の箇所に配され,特異な位置にあるとの印象を与え
るものではない。
加えて,本体把持部の上部側に配された動作制御釦の直径より,その下部
に配された動作制御釦の直径が僅かに小さく形成されている2つの動作制
御釦を有する電動歯ブラシの本体把持部の形態は,本願の優先日前に公知
であったこと(乙1)に照らすと,本願意匠の動作制御釦が,2つ縦に配さ
れ,僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成して
いる点は,特徴的なものとはいえず,需要者の注意を特にひくものとはいえ
ないから,本願意匠の動作制御釦と引用意匠の動作制御釦の構成態様の違\nいが需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の全体的な美感に影響するも
のと認めることはできない。
◆判決本文
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2018.07. 2
平成30(行ケ)10021 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成30年6月27日 知的財産高等裁判所
部分意匠について、先行意匠に類似するので無効と主張しましたが、知財高裁4部は、「無効理由無し」とした審決を維持しました。判決の最後に、図面があります。
本件登録意匠と甲1意匠とは,本件審決が認定するとおり,意匠に係る
物品が「検査用照明器具」である点で共通し,共に検査用照明器具の放熱
に係る用途及び機能を有し,正面視全幅の約1/3以上の横幅を占める大\nきさ及び範囲を占め,正面視右上に位置する点で,物品の部分の用途及び
機能並びに位置,大きさ及び範囲の点で共通する(争いがない。)。\nそこで,本件登録意匠と甲1意匠との類否について検討するに,甲18
の2(各図面は別紙5参照)及び弁論の全趣旨によれば,「横向き円柱状
の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて,最後
部のフィン部の形状について,中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)
を中間フィン部に比べて大きくし,後端面の外周角部を面取りした」構成\n態様(共通点Aに係る構成態様)は,検査用照明機器の物品分野の意匠に\nおいて,本件登録意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であることが
認められる。
そうすると,共通点Aに係る構成態様(全体の構\成態様)は,需要者の
注意を強く惹くものとはいえず,本件登録意匠と甲1意匠との類否判断に
及ぼす影響は小さいものといえる。また,共通点Bに係る構成態様(フィ\nン部の数が6つであること)についても,需要者が特に注目するとは認め
られず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものといえる。
一方で,本件登録意匠と甲1意匠とは,各フィン部の形状について,本
件登録意匠では,各フィン部の右側面形状が「下部を切り欠いた円形状」
であって,その切り欠き部は底面から見た最大縦幅が各フィン部の最大縦
幅の約2分の1を占める大きさであり,かつ,平面から見た各フィン部の
左側面側外周寄りに傾斜面が形成されているのに対し,甲1意匠では,各
フィン部の右側面形状が「円形状」であって,切り欠き部が存在せず,平
面から見た各フィン部に傾斜面が形成されていないという差異(差異点a
及びb)があるところ,各フィン部の形状の上記差異は,需要者が一見し
て気付く差異であって,本件登録意匠は甲1意匠と比べて別異の視覚的印
象を与えるものと認められる。
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,共通点Aに係る構成態様(全\n体の構成態様)及び共通点Bに係る構\成態様(フィン部の数)は,需要者
の注意を強く惹くものとはいえないのに対し,差異点a及びbに係る各フ
ィン部の形状の差異は,需要者が一見して気付く差異であって,本件登録
意匠と甲1意匠を別異のものと印象付けるものであること,本件登録意匠
と甲1意匠には,上記差異のほかに,差異点cないしeに係る差異もある
ことを総合すると,本件登録意匠と甲1意匠は,視覚を通じて起こさせる
美観が異なるものと認められるから,本件登録意匠は甲1意匠に類似する
ということはできない。
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◆平成30(行ケ)10020
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2017.07. 6
平成14年(ワ)8765号 意匠権 民事訴訟 平成16年3月22日 東京地方裁判所
古い事件ですが、研修で取り上げられていたのでアップします。東京地裁は、類似と判断しました。なお、高裁では先使用権が認められて非侵害となりました。
(1)ア(ア)本件登録意匠の意匠に係る物品は輸液バッグであり、側面視にお
いて、全体が薄型の形状をしているから、通常、看者の目に多く触れるのは、正面
及び背面であると認められる。そして、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の
境界部は、正面及び背面のほぼ中央にあり、また、輸液バッグの使用時には、同境
界部の弱シール部を連通させて使用することから、同境界部付近は、看者の注意を
引く位置にあるものと認められる。
(イ)同境界部付近の構成をみると、その基本的構\成は、同境界部の中
央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部よ
り幅の広い強シール部が形成されている(基本的構成態様(5))というものである。
そして、その具体的構成は、製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部\nは、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成
しており(具体的構成態様(11))、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシー
ル部は、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を
形成している(具体的構成態様(18))というものである。
このような同境界部付近の構成において、同境界部の中央に帯状の弱\nシール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強
シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、同境界部付近の構成の骨格\nを特徴づけており、看者の注意を引くものと認められる。
(ウ)基本的構成態様(5)は、その全体の構成が、本件登録意匠の意匠公\n報の必要図中、背面図にのみ表れている。しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグ\nは、前記のとおり、側面視において全体が薄型の形状をしているから、正面と背面
が、通常、看者の目に触れるものと認められ、また、イ号意匠において、溶解液収
納側の袋体の目盛り及び数字が背面側のみに記載されていることも合わせ考える
と、本件登録意匠及びイ号意匠に係る輸液バッグにおいては、アルミカバーシート
が付された正面のみならず、背面も、看者の目に多く触れることが認められる。し
たがって、基本的構成態様(5)の全体の構成が必要図中の背面図にしか表\れていない
としても、それによって、基本的構成態様(5)を要部と認定することが妨げられるこ
とはないというべきである。なお、本件登録意匠の意匠公報の【アルミラミネート
シートをはがした状態の参考正面図】においては、アルミラミネートシートをはが
した状態で、正面にも基本的構成態様(5)の構成が表\れることが示されている。もと
より、登録意匠の権利範囲を確定する上で、参考図はあくまでも参考にとどまる
が、同参考図によれば、基本的構成態様(5)が、本件登録意匠の構成中において、少\nなくとも無視されるべき構成でないことは認められるといえる。\n イ 本件登録意匠の出願前の公知意匠と比較すると、基本的構成態様(5)は、
出願前の公知意匠である甲第12ないし第16号証(オーツカCEZ注−MCのパ
ンフレット)、第24号証(特許第3060132号公報)、第25号証(特許第
3060133号公報)、甲第33号証(「カルバペネム系抗生物質メロペネム
(メロペン)キット製剤の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47
No.6)、第46号証(「ホスホマイシンナトリウムダブルバッグ製剤(溶解液付き
固形注射剤)の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47No.2)、乙第1号
証(意匠登録第1016887号公報)、第3号証(甲第12号証と同一)、第4
号証(「溶解液付き注射用固形抗生物質キット製剤のキット有用性に関する実験的
研究」日本包装学会誌Vol.4No.1)、第37、第38号証(味の素ファルマ株式会
社ピーエヌツインのパンフレット)、第39号証(本件登録意匠の出願前に発行さ
れた公開特許公報に記載されたダブルバッグタイプの輸液バッグの図面)、第44
号証(特開2000−72925号公開特許公報)、第45号証(特開平7−15
5361号公開特許公報)、第46号証(特開平5−68702号公開特許公報)
各記載の輸液バッグには見られず、本件登録意匠の創作的な部分であると認められ
る。
ウ 本件登録意匠の関連意匠である意匠登録第1107512号(甲第42
号証の1、2)、意匠登録第1108821号(甲第43号証の1、2)、意匠登
録第1108822号(甲第44号証の1、2)、意匠登録第1108823号
(甲第35号証の1、2)、意匠登録第1108824号(甲第45号証の1、
2)の各登録意匠には、いずれも基本的構成態様(5)が見られる。
エ 以上によれば、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央
に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より
幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、本件登録意匠の
中で需要者の注意を最も引きやすい意匠の要部に該当するというべきである。
(2)ア(ア) 原告は、ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいて、アルミカ
バーシートの視認性が重要であり、上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆
う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいず
れかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点
が本件意匠の要部であると主張する。
(イ) しかし、本件登録意匠のアルミカバーシートに貼着部のシール\n線が表れていない点は、それ自体、外観上、目立つところではない。また、製剤収\n納側の袋体の吊下部を残して全面を覆うアルミカバーシートは、原告公知意匠に見
られ、そのアルミカバーシートには、貼着部のシール線が表\れているが、そのシー
ル線は、製剤収納側の袋体の縁に沿って幅狭に存在するにすぎず、それほど目立つ
ものではないから、それとの対比からしても、本件登録意匠においてアルミカバー
シートに貼着部のシール線が表\れていない点は、看者の注意を引くとは認められな
い。
また、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた一つ
の小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片は、その大きさ、形状に
鑑み、目立つものではなく、本件登録意匠の関連意匠5件の各正面図においても、
引き剥がし用突片は、位置は様々であるが、いずれもそれ程目立つものではないこ
とを併せ考えると、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた引き
剥がし用突片は、看者の注意を引くとは認められない。
したがって、原告の主張に係る、上方の製剤収納袋の吊下部を残して
全面を覆う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺
部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を
設けた点は、看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠の要部であるとは認め
られない。
◆判決本文
◆添付書類です
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2017.07. 6
平成23(ワ)247 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成24年6月29日 東京地方裁判所
少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。ACアダプターについて意匠権侵害が認められました。類似すると認定されたものの、損害額としては、販売不可事情として90%の減額が認定されました。
前記ア認定のエーシーアダプタの性質,用途及び使用態様によれ
ば,エーシーアダプタは,携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であ
ると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯するなど,日常
生活において目に触れる機会の多い製品であるといえる。
そして,前記イの認定事実によれば,エーシーアダプタの意匠におい
ては,本件登録意匠の構成態様に係る「箱状の本体の背面に折り畳み自\n在の差込みプラグを設け,底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタ
を設ける」構成(前記(1)ア(1)),「本体は,縦横の寸法が同一の正四
角形で扁平な箱状であり」(前記(1)ア(2)),「本体の全周囲は面取り
がされている」構成及び「縦(横)の寸法の約0.15倍の長さを半径\nとする面取りをする」構成,「差込みプラグが本体の平面部(上面部)\nから背面部に設けられ,プラグのピンは背面の凹部に折り畳まれた状態
から,後方又は上方に起立させて使用され,プラグピンの支持部の外周
は弧状をなしている」構成(前記(1)ア(4)),本体の「正面下部にラン
プを設ける」構成(前記(1)ア(5)),「USBコネクタは,底部に設け
られている」構成(前記(1)ア(6))は,本件出願時にいずれも公知であ
ったものといえる。
他方で,本件登録意匠の構成態様のうち,「本体の全周囲は,厚さ方\n向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四
角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする
四半球状となっている」点(前記(1)ア(3))は,公知意匠には認められ
ない構成態様であり,この構\成態様により,需要者に対し,本体全体が
丸みを帯びた柔らかな印象を与えると同時に,本体正面視の四角隅部が
四半球状となっていることにより整った印象も与えるものとなってお
り,上記構成態様は,他の公知意匠にはみられない新規な創作部分であ\nるといえる。
すなわち,前記イ(イ)のとおり,乙3には,充電器に係る意匠におい
て,縦横の寸法が同一の正四角形の箱状の本体において,「縦(横)の
寸法の約0.15倍の長さを半径とする面取りをしている」構成が示さ\nれているが,厚さが縦(横)寸法の約0.6倍であって,これは本件登
録意匠の2倍に当たり,縦(横)の長さと厚さとの比が異なり,さらに
は厚さに対する面取り径の比が本件登録意匠よりも小さく,本件登録意
匠のような全周囲が厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取り
をしておらず,また,本体の四角隅部が,正面視において,いずれも,
厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっているものともいえず,
本件登録意匠のような本体全体が丸みを帯びた柔らかな印象を与える
ものとはいえない。他に本件登録意匠の上記構成態様が本件出願前に公\n然知られた形状であったことを認めるに足りる証拠はない。
以上を総合考慮すると,本件登録意匠において,需要者の注意を引き
やすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1
を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視にお
いて,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」
点を含む,本体部全体の形態であると認められる。
(イ) これに対し被告は,通常の販売・流通形態(店頭,ウェブサイト)
では,需要者は,エーシーアダプタを正面又は正面やや斜めから見るの
が普通であり,需要者としては正面の形態に最も注目するから,本件登
録意匠においては,携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の
形状及びランプの位置の正面形態全体がひとまとまりとして要部とな
り,特に接続部分が最重要の要部である旨主張する。
しかしながら,意匠の特徴的部分の把握に際しては,意匠に係る物品
の販売・流通時において視認し得る形状のみを前提にするのではなく,
意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等も考慮すべきであるところ,
前記(ア)認定のとおり,エーシーアダプタは,需要者が実際に手にとっ
て携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であると同時に,身の回りに
置き,あるいは,外出時に携帯するなどされるものであることからする
と,需要者が本件登録意匠の正面の形態にのみ注目するとはいえない。
また,被告が主張する携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面
の形状及びランプの位置は,前記イのとおり,いずれも本件出願前に公
知の形状であることからすると,本件登録意匠においては,携帯電話等
の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置の正面形
態全体がひとまとまりとして需要者の注意を引きやすい特徴的部分(要
部)を形成しているとはいえないし,ましてや接続部分が最重要の要部
であるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 被告意匠の類似性
前記(2)ウ(ア)認定のとおり,本件登録意匠において,需要者の注意を引
きやすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を
半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において,
いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点を含む,
本体部の形態全体である。
そこで,この特徴的部分を中心に本件登録意匠と被告意匠を対比した上
で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かについて判断するに,前記(1)
ウ(ア)(1)ないし(6)認定のとおり,両意匠は,この特徴的部分において共通す
るのみならず,それ以外の基本的構成態様及び具体的構\成態様の多くの部分
においても共通しており,需要者に対し,全体として共通の美感を生じさせ
るものと認められる。
他方で,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,両意匠には,(1)本件登録意匠では,
本体底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタが設けられているが,被告
意匠では,周辺機器に接続されるコードが断線防止部材を介在して,本体内
部の回路に接続されている点,(2)本件登録意匠では,本体の正面の形状が平
坦であるが,被告意匠では,中央部で周縁部よりも厚さの約0.03倍(約
0.5mm)程度膨出している点,(3)本件登録意匠では,ランプの中心が本
体右側面と底面からそれぞれ約17mmの均等な位置にあるのに対し,被告
意匠では,ランプの中心が本体底面から約12mmで,かつ,本体右側面か
ら約16mmの位置にあり,本件登録意匠に比べて底面に寄った位置に設け
られている点において差異があるが,これらの差異点は,需要者の注意をひ
きやすい部分とはいえない上,差異点から受ける印象は,両意匠の共通点か
ら受ける印象を凌駕するものではない。
したがって,本件登録意匠と被告意匠は,上記差異点を考慮しても,需要
者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら
れるから,被告意匠は,本件登録意匠に類似している。これに反する被告の主張は,採用することができない。
以上を前提に検討するに,被告製品は,Docomo,SoftBank等の携帯
電話用のエーシーアダプタであり,一方,原告製品は,USBコネク
タ(USBポート)を有するエーシーアダプタであり,上記携帯電話
の充電に使用する際には,上記携帯電話の接続口に対応したUSBケ
ーブルが別途必要とされるものである。
ところで,エーシーアダプタが,携帯用の周辺機器の充電に用いる
実用品であると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯す
るなど,日常生活において目に触れる機会の多い製品であること(前
記1(2)ウ(ア))に照らすならば,需要者は,エーシーアダプタの選
択に当たっては,充電可能な製品の種類,その他の性能\,価格,大き
さ,重さのほか,デザイン,色などの諸要素を考慮するものと考えら
れる。
しかるところ,原告製品と被告製品は,いずれもDocomo,SoftBank
等の携帯電話の充電に利用することができ,寸法,出力も概ね同じで
あり,また,重さは原告製品の方が軽いが,ケーブルの有無が異なる
から,ほぼ同程度と評価することができる。
さらに,原告製品とDocomo,SoftBank等の携帯電話用の接続ケーブ
ルを合わせた価格(1360円から1753円)と被告製品の価格(1
279円から1453円)は,同じ価格帯に属するといえる。
そして,原告製品の本体の独特の丸みを帯びた印象を与えるデザイ
ンは,このようなデザインを好む需要者が原告製品を選択する動機付
けになるものといえる。
他方で,(1)Docomo,SoftBank等の携帯電話のみを充電することがで
きればよいと考える需要者にあっては,価格面でより安価であり,ケ
ーブルが一体であって使い勝手のよい,被告製品の代替品を選択する
可能性が高いこと,(2)被告製品は,本体と一体となった接続ケーブル
が本体と同色であるのに対し(甲50,乙7の1,弁論の全趣旨),
原告製品の本体の色によっては,市販されている接続用のUSBケー
ブルと同色とはならないことから,この点を美観上好まず原告製品を
選択しない可能性があることが認められる。
b 次に,被告製品には,ピンク,レッド,ホワイト,ブルー,ブラッ
ク等の色のバリエーションがあり(甲41ないし45,乙7の1),
原告製品にも,ホワイト,ブラック,シアンブルー,ピンク,バイオ
レットの色のバリエーションがある(甲34)。
しかるところ,被告製品を購入した者が記載したインターネットの
ショッピングサイト上のレビュー(利用者の感想)においては,「と
にかくピンクがかわいいです。」(甲41),「見た目は真っ赤でお
しゃれです。」,「赤なら自分の充電器かどうかわかりやすいのでは
ないかという点にひかれて購入し」(以上,甲42)との記載がある
ように,色が購入動機になっていることがうかがわれる。
c 前記a及びbの認定事実を総合すると,仮に被告による被告製品の
販売がされなかった場合には,被告製品の購入者の多くは,Docomo,
SoftBank等の携帯電話用の被告製品と同種の接続ケーブルが一体と
なった代替品を選択した可能性が高いものと認められる。\n また,本件登録意匠と類似する被告意匠は,被告製品の購入動機の
形成に寄与していることが認められるものの,その購入動機の形成に
は,被告意匠のほか,被告製品がDocomo,SoftBank等の携帯電話用の
専用品であることが大きく寄与し,被告製品の色彩等(本体と接続ケ
ーブルが同一色である点を含む。)も相当程度寄与しているものとう
かがわれるから,被告意匠の購入動機の形成に対する寄与は,一定の
割合にとどまるものと認められる。
以上によれば,原告製品と被告製品の形態の違い,被告製品と同種
の代替品の存在,被告製品の購入動機の形成に対する被告意匠の寄与
が一定の割合にとどまることは,被告製品の譲渡数量の一部に相当す
る原告製品を原告において「販売することができないとする事
情」(意匠法39条1項ただし書)に該当するものと認められる。
そして,上記認定の諸点を総合考慮すると,意匠法39条1項ただ
し書の規定により控除すべき上記「販売することができないとする事
情」に相当する数量は,被告製品の販売数量(前記ア)の9割と認め
るのが相当である。
(オ) 被告の主張について
a 被告は,Docomo,SoftBankの携帯電話用のエーシーアダプタが必要
な需要者は,当該機器が充電できればよいから,被告製品のようなエ
ーシーアダプタと接続ケーブルとが一体となっている製品を選択し,
仮に被告製品が販売されなかったとした場合には,被告製品と同種の
廉価の代替品を購入するはずであり,あえて,別途上記携帯電話用の
USBケーブルを必要とする原告製品を選択することはないのに対
し,他方で,多種の周辺機器の充電に用いるエーシーアダプタが必要
な需要者は,原告製品を選択することになるから,原告製品と被告製
品とでは,そもそも購入対象者が異なり,明確に棲み分けがされてい
る旨主張する。
しかしながら,前記(エ)aに説示したとおり,両製品に共通する需
要者は,原告製品の丸みを帯びたデザインを重視するなどして,原告
製品を購入する可能性があるものと認められるから,被告の上記主張\nは,採用することができない。
b 次に,被告は,被告製品は,主にインターネットのショッピングサ
イトで販売され,一体に接続されているケーブルを含めた全体につい
て,正面から撮影された写真が掲載されているのみであり,また,被
告製品は,ほとんどその正面形状しか見えない状態でパッケージに梱
包されており,その意匠が需要者の購入動機に寄与することはなく,
むしろ,インターネットのショッピングサイトにおける被告製品のレ
ビューに照らしても,被告製品の購入動機となっているのは,被告意
匠ではなく,色である旨主張する。
しかしながら,被告製品が主にインターネットのショッピングサイ
トで販売されていることを認めるに足りる証拠はないのみならず,被
告製品の梱包の態様(甲5,検甲1)やインターネットのショッピン
グサイトの表示の態様(甲43ないし45)に照らすならば,需要者\nは,被告製品を購入するに当たり,被告製品の丸みを帯びたデザイン
を看取することができるものと認められ,その意匠が需要者の購入動
機に寄与することがないとはいえない。
また,原告製品のレビューにおいて,「デザインが個人的に好きで
すね。丸みがあり,艶々しています。」,「丸みを帯びたデザイン,
他機種と比較してかなり質感が高いです。」(以上,甲46),「そ
のデザインと小ささ,軽さに大変満足しています。」,「iPodにマッ
チしたデザインも気に入っている。」(以上,甲47)との記載があ
り,これらの記載は,原告製品において,デザイン(意匠)が購入動
機となっていることを示すものといえる。加えて,被告意匠と本件登
録意匠と類似していることに照らすならば,被告意匠においても,色
のみならず,デザイン(意匠)も購入動機に寄与しているものと認め
られる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
オ 小括
以上によれば,意匠法39条1項により算出される原告の損害額は,被
告製品の販売数量(前記ア)に単位数量当たりの原告製品の利益額(前記
ウ(ウ))を乗じて得られた額である722万9506円から,「販売する
ことができないとする事情」に相当する数量(上記販売数量の9割)に応
じた額を控除した後の72万2950円となる。
(2) 弁護士費用
本件事案の性質,審理の経過等諸般の事情を総合考慮すると,被告による
本件意匠権の侵害行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損
害は,20万円と認めるのが相当である。
◆判決本文
◆本件意匠および被告製品です
◆公知意匠です
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2017.06.17
平成28(ワ)7185 意匠権侵害差止請求事件 意匠権 民事訴訟 平成29年5月18日 大阪地方裁判所
部分意匠の侵害事件において、非類似と判断されました。部分意匠については、少し違うだけでも非類似となりやすいですね。
ア 以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的
構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,\n円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有
する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。
しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点
で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部があ
る点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も円
形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において,
内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山
状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また,
本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に
形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の
上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されてい\nることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なる
ものとしている。
イ 以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいず
れも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存
在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体部を構\成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見え
る外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けるこ
とがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側
枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外
側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がよ
り看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっ
ていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,そ
れぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を
生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
◆判決本文
本件意匠・被告意匠などはこちらです。
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2017.02.14
平成28(ワ)5739 意匠権 民事訴訟 平成29年2月7日 大阪地方裁判所
フェイスマスクに関する意匠権侵害について、公知意匠との関係で、非類似と判断されました。
ウ 本件意匠の要部の認定
美容用顔面カバーの用途,使用態様のほか,上記認定に係る公知意匠からすれば,
本件意匠の基本的構成態様は,本件意匠に係る物品である美容用顔面カバーにおい\nて,通常考えられる形態であって新規な形態とは認められず,本件意匠において新
規で創作性の認められる部分は,その具体的構成態様における以下の点,すなわち\n輪郭の形状において,こめかみから顎上部にかけて外形に沿った凸状の筋が設けら
れている点,鼻部において,鼻の形状に合わせて両目付近から鼻尖部まで連続的に
隆起しており,隆起部分の脇に谷折りとなる略直線を構成する点,耳部において,\n耳を開口部の外形に沿って凸状の筋が構成されている点という具体的構\成にあると
いえる。
そして,上記(1)の美容用顔面カバーの需要者が選択時に物品が顔にフィットす
る形状であるかとともに,使用状態に影響する目,鼻及び口の部分の形状,さらに
は装着のための耳掛け部の形状に注目することを考慮すれば,顔面にフィットする
よう立体的に形成された美容用顔面カバーにおける鼻部の具体的な形状,耳掛け部
周辺の具体的形状が需要者の注意を最も惹く部分であり,これらが本件意匠の要部
であるといえる。
・・・
イ 差異点
具体的構成態様において,1)被告意匠は,額部において頂部がわずかに凹となっ
ており,顎部において,中心部に逆V字の切れ込みを設けた曲線が構成されており,\n中央部の輪郭はこめかみから顎部に至るまで,輪郭に沿って凸状の筋が形成されて
いるのに対し,本件意匠は,全体が凸の曲線であり,輪郭に凸状の筋がない点,2)
両目部において,その孔が,被告意匠は横長楕円形で両端が尖っているのに対し,
本件意匠は横長楕円形である点,3)鼻部において,被告意匠は,両目部の孔の内側
付近から鼻尖部付近まで連続的に隆起し,正中線に沿ったその頂点の折り込み線が
鼻梁を構成しているのに対し,本件意匠は,なだらかに隆起しており,鼻尖部は丸\n型であって,明確な鼻梁が認識できない点,4)耳部において,その孔が,被告意匠
は,縦長のハート型であるのに対し,本件意匠は,縦長の変形略楕円である点,5)
口部において,その孔が,被告意匠は,顔の中心線に線対称の横長のハート型で設
けられているのに対し,本件意匠は,横長の略楕円形である点において相違してい
る。
ウ 以上により検討するに,被告意匠と本件意匠の上記イ認定の差異点は,上記
(3)で認定した本件意匠の要部にもかかわるものであると認められる。そして,その
中でもとりわけ,被告意匠は,鼻部において,両目部の孔の内側付近から鼻尖部ま
で連続的に隆起し,正中線に沿ったその頂点の折り込み線が,明確な鼻梁を構成し\nている上,両目部の両端,あるいはハート形である口部に尖った形状の部分が現れ
ることも合わさって,全体に鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象となっている
といえるのに対し,本件意匠は,鼻尖部が丸型であり,また鼻梁を明確に認識でき
ないだけでなく,両目部及び口部がいずれも単純な楕円形であることから,全体に
のっぺりとした印象を与えるものであるといえ,これらから,両意匠を全体的に観
察した場合,看者である需要者に与える印象は異なっているということができる。
したがって,両意匠は類似するということはできないというべきである。
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2017.02. 8
平成28(ワ)13870 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成29年1月31日 東京地方裁判所
意匠権侵害において、類似しない、かつ、間接侵害も成立しないと、判断されました。
上記事実関係によれば,運搬台車を購入しようとする建設会社等の需要
者及びこれを使用する作業員らは,斜め上方から台車本体の載置面を見る
だけでなく,車輪の取付態様その他底面の構成を観察するものと解される。\nまた,本件意匠に係る運搬台車又は被告製品の台車本体を斜め上方から見
る際には,載置面の表面だけでなく,凹部から車輪取付板の形状を認識す\nるということができる。なお,この点に関し,原告は,斜め上方からでは
凹部の底にある車輪取付板は視認できない旨主張するが,その主張の裏付
けとする写真(甲28)は,台車から約2m離れた地点において,約1m
の高さから撮影したものであり,作業員らが通常の使用態様においてその
ような位置のみから台車を観察するとは解し難いから,原告の主張は失当
というべきである。
そうすると,本件意匠及び被告意匠においては,原告が要部であると主
張する載置面の天板の形状等だけでなく,凹部上方から視認される車輪取
付板の形状及び底面視における車輪の取付態様や台車の骨格等も,これに
接した者の注意を引くと認められる。そして,前記ウのとおり,本件意匠
と被告意匠はこれらの点が相違するのであり,これにより両意匠から需要
者が受ける印象が異なるということができるから,前記ウの共通部分を踏
まえても,全体として異なる美感を生じさせると解される。
・・・・
原告は,被告製品は四隅に手押し棒(単管パイプ)を立設する態様でのみ使
用されるから,被告意匠が手押し棒の有無により本件意匠に類似しないとして
も間接侵害(意匠法38条1号)が成立する旨主張する。
そこで判断するに,手押し棒を除いても本件意匠と被告意匠が類似するとい
えないことは前項で判示したとおりであるが,これに加え,証拠(乙12〜1
5,18〜20,34)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のような載置面
が平板な台車は,四隅に手押し棒を立設する態様のほか,手押し棒を2本立設
する態様,手押し棒を立設しない態様等でも建設現場における資材の運搬等の
用に供されると認められる。
◆判決本文
◆本件登録意匠です
◆被告意匠です。
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2017.01.31
平成28(行ケ)10167 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成29年1月24日 知的財産高等裁判所
箸の持ち方矯正具について、非類似であるとした審決が維持されました。引用意匠は箸全体のもので、取り外しできないと判断されました。(第2部)
原告は,B上リング状部とB下リング状部とが,上下に分離し,箸本体から取り
外し可能であると主張する。\nB上リング状部とB下リング状部(いずれも,リング部と円筒状取付部分から成
るものとして認定されている。)から成るBリング状部は,引用意匠3そのものであ
り,甲2においては,保持ユニット120(人差し指挿入穴121と中指挿入穴1
22を有する。)とされている。そして,保持ユニット120は,甲2に記載された
発明としては,箸本体とは別体の部品として構成されている。しかしながら,甲2\nの記載内容を見ても,保持ユニット120が位置調節に用いられるものであること
は認められるとしても,B上リング状部とB下リング状部とが2つに分離し,また,
第2箸部材から取り外せることができるか否かを,甲2の図面から読み取ることが
できず,更に進んで明細書の記載を参酌しても,この点は不明である。したがって,
B上リング状部とB下リング状部とが,上下に分離し,箸本体から取り外し可能で\nあるか否か不明であるとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,甲2(特許公報)に係る公表特許公報である甲8(特表\2004−53
8074号公報)の記載内容を斟酌すれば,B上リング状部とB下リング状部とが
上下に分離し,箸本体から取り外し可能であることが分かると主張する。\nしかしながら,本件において意匠が記載された「頒布された刊行物」とされたの
は甲2のみであり,これとは異なる刊行物である甲8に記載された意匠が,甲2に
記載された意匠になるものでないことは明らかであり,原告の上記主張は,失当で
ある(なお,甲8は,明細書と図面とが対応していないなど多数の齟齬を含み,そ
の記載内容は不明確である。)。仮に,甲8の【図5】と題する図面が,B上リング
状部とB下リング状部とが上下に分離し,取り外し可能であることを示すものと理\n解するとしても,甲8に記載された発明の特徴的部分とは認められない構成を,甲\n2に記載された特許発明が有する必然性もなく,結局,上記の点が甲2に記載され
ているとは認められない。
◆判決本文
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2017.01.25
平成28(行ケ)10133 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成29年1月17日 知的財産高等裁判所
吸入器の意匠について、類似するとした審決が取り消されました。理由は、マウスピースカバー部が透明で着色されているので、マウスピース部に注意が向けられるというものです。
前記アのとおり,本願意匠のマウスピース部の端部には,端壁が設けられ,
その中央に円形孔が形成されている。しかも,本願意匠のマウスピースカバー部は,
着色されているから,マウスピース部に注意が向けられるものであって,さらに透
明であることから,マウスピースカバーを開けたときも閉めたときも,その円形孔
を観察することができる。そして,その円形孔は,本体部に貯蔵された薬剤を患者
に噴出させる速度,方向等に影響を与えるのであるから,この点は,特に機能を重\n視する医療関係者に対し,強い印象を与えるものということができ,患者について
も同様である。
(イ) これに対し,引用意匠のマウスピース部の端部は,端壁がなく,単に筒状
のまま大きく開口したものであり,マウスピースカバー部は,不透明であるところ,
マウスピース部の端部に端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した態様の吸入器
は,従来から見られたものであり(甲4),ありふれたものである。
(ウ) なお,証拠(乙1〜3)によれば,使用者が本体部を持って,マウスピー
ス部から薬剤を吸引するための吸入器において,マウスピース部に端壁を設け,薬
剤出口孔を形成した態様のものが,特許公報に記載されていることは認められる。
もっとも,当該吸入器の全体の形態は,本願意匠のように「へ」の字形状になって
いる吸入器の全体の形態とは大きく相違するから,それぞれのマウスピース部の端
部の形状が有する印象は,本願意匠に係るそれとは相違するものである。したがっ
て,上記特許公報の記載をもって,本願意匠に係る形態を有する吸入器において,
マウスピース部に端壁を設け,薬剤出口孔を形成したものがありふれていたという
ことはできず,マウスピース部の端部が需要者の注意を惹く部分でないということ
はできない。
(エ) 以上によれば,本願意匠のマウスピース部の端部に端壁が設けられ,その
中央に円形孔が形成されている点は,マウスピースカバー部が透明で着色されてい
ることと相まって,最も強く需要者の注意を惹く部分であり,本願意匠におけるこ
の点は,需要者である患者及び医療関係者の視覚を通じて起こさせる美感に大きな
影響を与えるというのが相当である。
ウ その余の具体的構成態様について
一方,本願意匠の具体的構成態様のうち,マウスピース部の形状が断面略紡錘形\nであって,その奥行きが本体部の奥行きの約2分の1の長さであり,マウスピース
カバー部の形状が全体的に少し先細りしたカップ型であり,これらに本体部を含め
た形状が,左右両側面については平坦面,それ以外の面については,本体部の上端
面を除き,凸弧状面又は凹弧状面であって丸みを帯びるという形態は,吸入器にお
いて従来から見られたものである(甲4)。また,本願意匠において,マウスピー
ス部の上方に突出片を備え,マウスピースカバー部の正面の底部寄りに左右方向に
わたる帯状凹部を形成する形態は,吸入器に配設されたマウスピース部の機能上要\n請されるものであるから,その形態は限定されるものであるし,意匠全体に占める
割合も小さなものである。さらに,本願意匠において,本体部の上端面を凸弧状面
とし,本体部の中間部の全周にわたり一条の線を表し,その下方背面に窓部等を備\nえるという形態は,吸入器の本体部の上端面,中間部,下方背面にそれぞれ離れて
位置しており,一体的に観察されるものではなく,その形態をみても,意匠的まと
まりを形成するものではない。
したがって,本願意匠の具体的構成態様のうち,以上に掲げた各形態は,需要者\nである患者及び医療関係者の注意を惹く部分であるということはできず,引用意匠
と類似するその余の具体的構成態様についても,同様である。
(4) 両意匠の類否
以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との
関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな
い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及
び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与
えるものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい
て,本願意匠は,その中央に円形孔が形成された端壁を設けたものであるのに対し
て,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した点は,マウスピース
カバー部が透明で着色されていることと相まって,需要者である患者や医療関係者
の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるものであり,それ以外
の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきである。
よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。
◆判決本文
関連事件は以下です。
◆平成28(行ケ)10134
◆平成28(行ケ)10135
◆平成28(行ケ)10136
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2017.01.16
平成28(行ケ)10153 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成29年1月11日 知的財産高等裁判所
公知意匠に類似するとして、3条1項3号で無効とされた審決が維持されました。
原告は,差異点(イ)に相当する凹凸形状の違い(本件登
録意匠のそれは山型であるのに対し,引用意匠1のそれは波型である点)
を強調して,1)両意匠の本体部及び蓋部の外観を具体的に把握すれば,そ
れぞれに統一感は生じているものの,それぞれが看者に与える印象は全く
別異のものであって,その差異を凌駕するような両意匠の共通感を看取す
ることができない,2)引用意匠1と同様の形状であるバケツについては,
「腰掛け」や「簡易スツール」としての用途・機能も積極的に紹介されて\nおり,また,水を入れる際に直接手で触れたり,水位を確認する際に至近
距離から目にしたりすることも多いのであるから,凹凸形状の違いは「微
弱」な差異などではない,3)本件登録意匠の出願前から,本体部及び蓋部
の外観全体に凹凸形状が形成されたバケツが既に複数公知となっているこ
とから,単に「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は,
本件登録意匠と引用意匠1のみに存在する共通点ではないなどと主張する。
しかし,1)については,前記のとおり,両意匠の凹凸形状がいずれも細
い筋状のものであり,これが本体と蓋を含む外観全体に一様に施されてい
る点にこそ,両意匠の特徴が認められるのであって,これと比較すれば,
原告が指摘する凹凸形状の違いは,細部における差異にすぎず,「それぞ
れが看者に与える印象は全く別異のものであ」ると感じさせるほどに特徴
的であるとは認められない。2)についても,たとえ引用意匠1に係るバケ
ツが腰掛け等として使われることがあったとしても,バケツである以上,
第一次的な用途が水を入れること,あるいは,物の運搬,収納,保管等に
あることは明らかであるし,その性質や用途からして,看者(需要者)が
まず全体的な形状に着目し,これを俯瞰的にみることが多いことも明らか
である。3)の主張は,要するに,「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状
が形成された」点は,本件登録意匠の出願前に既に複数公知であるから,
類否判断を行う上で重視すべきではないとの主張と解されるが,複数公知
になるだけで直ちに意匠上の要部でなくなるとはいえず(ヒット商品こそ,
往々にして模倣品が現れることを考えれば当然である。),飽くまで上記
の点が本体部と蓋部の外観全体を通じて統一感を感じさせる独特の形態で
あって,意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し(こ
のような評価を否定するに足りるほど,上記の点が陳腐化していたことを
認めるに足りる証拠はない。),看者の注意を強くひく構成態様であると\n評価される以上,これを両意匠に共通してみられる特徴的部分であるとし
て類否判断を行うことは当然である。
したがって,差異点(イ)に相当する凹凸形状の違いは,共通点(A)
ないし(C)が物品の外観全体にもたらす効果を凌駕し,差異性を際立た
せるほどの特徴であるとは認められず,類否の判断要素としては,副次的
な要素にすぎないといわざるを得ない。
また,原告は,機能的な面からすれば,取っ手の両端部の態様や,引用\n意匠1の取っ手部に設けられた円形状孔部の存在(差異点(ア)),蓋部
の突起部及び補強用のリブの有無といった蓋部の裏面における違い(差異
点(ウ))も軽視できず,また,様々なカラーバリエーションがあること
からすれば,取っ手の明暗調子の違い(差異点(エ))も軽視できないな
どと主張するが,これらの差異も,両意匠を全体としてみれば,部分的な
差異や目立たない部分における細かな差異にすぎないことは明らかであっ
て,共通点(A)ないし(C)が物品の外観全体にもたらす効果を凌駕し,
差異性を際立たせるほどの特徴であるとは認められず,類否の判断要素と
しては,飽くまで副次的な要素にすぎないというべきである。
◆判決本文
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2017.01. 6
平成28(行ケ)10126 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成28年12月21日 知的財産高等裁判所
類似意匠とした拒絶審決が取り消されました。審決では、透けて見えるにすぎないマウスピース部の端部の態様と認定されましたが、裁判所は、注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与える部分と認定しました。判決文の最後に両意匠があげられています。
以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との
関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな
い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及
び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与
えるものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい
て,本願意匠は,その中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端
壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大き
く開口した点は,マウスピースカバー部が透明で着色されていることと相まって,
需要者である患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起
こさせるものであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないと
いうべきである。
よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。
3 被告の主張について
被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入\n時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウ
スピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウス
ピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにそ
の先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものである,マウス
ピースカバー部の着色はごく普通に行われるものである,などとして,マウスピー
スの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると主張する。
しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観
察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察す\nるものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,
マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということ
はできない。また,マウスピースカバー部の着色が従来から見られたものであって,
それ自体がありふれたものであったとしても,本願意匠においては,透明で着色さ
れたマウスピースカバー部の存在によって,マウスピース部の端部の形態により注
意が向けられ,引用意匠に類似しないとの評価につながるものである。被告の前記
主張は採用できない。
◆判決本文
関連事件はこちらです。
◆平成28(行ケ)10125
◆平成28(行ケ)10127
◆平成28(行ケ)10128
◆平成28(行ケ)10129
◆平成28(行ケ)10130
◆平成28(行ケ)10131
◆平成28(行ケ)10132
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2016.12.13
平成28(行ケ)10122 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成28年11月30日 知的財産高等裁判所
透明部分について需要者に強い印象を与えるとして、類似するとした審決を取り消しました(知財高裁第4部)。判決文の最後に両意匠の図面がアップされています。
以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との
関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな
い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及
び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与
えるものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい
て,本願意匠は,その中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端
壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大き
く開口した点は,マウスピースカバー部が透明であることと相まって,需要者であ
る患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるも
のであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきで
ある。
よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。
3 被告の主張について
被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入\n時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウ
スピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウス
ピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにそ
の先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものであるとして,
マウスピースの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると
主張する。
しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観
察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察す\nるものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,
マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということ
はできない。被告の前記主張は採用できない。
◆判決本文
◆関連事件です。平成28(行ケ)10123
◆平成28(行ケ)10124
◆平成28(行ケ)10121
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2016.05.26
平成27(ワ)37086 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成28年5月18日 東京地方裁判所
膣圧回復治療用具について非類似の意匠と判断されました。
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通
じて起こさせる美観に基づいて行うものであるところ(意匠法24条2項),この
ためには,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規
な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を
通じて注意を惹きやすい部分を把握した上で,登録意匠とそれ以外の意匠とが要部
において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体としての美観を共通に\nするか否かを判断すべきである。
本件意匠に係る物品は,膣圧回復治療用具であって,これを使用する一般消費者
を需要者と観念すべきところ,本件において,同用具の公知意匠に係る証拠は提出
されていないが,膣圧回復治療用具を実際に使用する需要者にとっては,膣内に挿
入する部分は,注意を惹きやすい部分といえる。もっとも,需要者は,現実に同用
具を使用する際にどのように使用することとなるかについても着目すると考えられ
るから,本件意匠のうち持ち手部分も,注意を惹く部分であることは否定できない。
したがって,本件意匠について,需要者が視覚を通じて最も注意を惹きやすい部
分は,本体部及び持ち手部分の各具体的構成態様にあるものと認められる。\n
・・・
以上のとおり,本件意匠と被告意匠1とは,需要者が視覚を通じて最も注意を惹
きやすい部分の各具体的構成態様において差異点が認められるところ,本件意匠の\n本体部には突起がないことから,滑らかな印象を与えるのに対し,被告意匠1のA
部は,多数の突起が形成されていることから,ざらざらとした印象を与える。また,
本件意匠の持ち手部にはリングを備えているのに対し,被告意匠1のB部は,底部
にブラシ状に多数の突起が形成されていることから,明らかに異なった印象を与え
る。
以上の点を総合すると,前記共通点にかかわらず,本件意匠と被告意匠1とは,
全体として美観を共通にするものとはいえないから,被告意匠1が本件意匠に類似
するものとは認められない。
・・・
以上のとおり,本件意匠と被告意匠2とは,需要者が視覚を通じて最も注意を惹
きやすい部分の各具体的構成態様において差異点が認められるところ,本件意匠の\n本体部は,正面視において略「ハート」状であるのに対し,被告意匠2のC部は,
正面視において略「卵」状であり,その印象を異にする。また,本件意匠の持ち手
部には略楕円状のリングを備えているのに対し,被告意匠2のD部は,底部にブラ
シ状に多数の突起が形成されていることから,明らかに異なった印象を与える。
以上の点を総合すると,前記共通点にかかわらず,本件意匠と被告意匠2とは,
全体として美観を共通にするものとはいえないから,被告意匠2が本件意匠に類似
するものとは認められない。
◆判決本文
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2015.06.10
平成26(ワ)12985 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成27年5月15日 東京地方裁判所
部分意匠について類似しないとの判断がなされました。
また,本件意匠に係る物品である包装用箱は,何らかの品物を箱の中に収納することにより,当該品物を持ち運ぶ際に品物の形状を損なうことなどを防いだり,複数の品物をまとめたり,品物を贈答する際の外観上の装飾等の使途及び機能を有するものと解されるところ,本件意匠に相当する部分には,略三角錐形状の単一な印象から動的な美観を生じさせる多面体としての外観上の装飾(アクセント)としての機能\を有するものと認められ,ほかに特別な使途及び機能を有するものではないものと認められる。\nそして,三角形4面で形成される略三角錐形状をした包装用箱の意匠そ
れ自体は,少なくとも本件意匠登録の出願前に日本国内において公然知られたものであること(乙1,弁論の全趣旨)に照らすと,本件意匠の要部は,組立時において天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうち1本の稜線に(構成態様B),当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の二つの二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させて略菱形状の面(アクセントパネル)を形成したこと(構\成態様C),アクセントパネルの中央部分は,三角錐形状の面よりも凹状にへこませて形成されていること(構成態様D),アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記Cの二つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1であること(構\成態様E)であると認めるのが相当である。
・・・
以上の点に関し,原告は,意匠登録第1193959号(甲8)の意匠(以下「甲8意匠」という。)を本意匠とし,意匠登録第1194201号(甲9)の意匠(以下「甲9意匠」という。)及び意匠登録第1194202号(甲10)の意匠(以下「甲10意匠」という。)を関連意匠とする意匠登録がされていること(すなわち,特許庁によって,甲8意匠と,甲9意匠及び甲10意匠とが類似する旨判断されたこと)などの事情に照らし,本件意匠と被告意匠のアクセントパネルの具体的形状の差異は意匠全体の類否判断に影響しない旨主張する。
しかし,甲8意匠及び甲10意匠において,直方体状の包装用容器の長辺のうちの1本の両端を除く部分に形成されている二つの略菱形状の凸状の面(甲8意匠では,二つの略菱形状の間が空いているが,甲10意匠では,二つの略菱形状が接している。)や,甲9意匠において,直方体状の包装用容器の長辺のうちの1本の両端を除く部分に形成されている二つの略紡錘状の凸状の面(二つの略菱形状の間が空いている。)は,本件意匠におけるアクセントパネルのように,三角錐形状の稜線に沿って設けられた凹状の面ではなく,また,当該三角錐の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本に,その天頂に位置する点から底面を形成する点に至るまでの全体にわたって,形成されているものでもない。本件意匠と被告意匠との差異点が看者に与える美観の差異の程度は,甲8意匠ないし甲10意匠における上記凸状の面の差異点が看者に与える美観の差異の程度とは,量的にも,質的にも異なるものというべきであって,原告の上記主張は,採用することができない。
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2014.04. 1
平成25(行ケ)10287 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成26年03月27日 知的財産高等裁判所
意匠法3条1項3号に該当するとした審決が取り消されました。最後に3条2項の適用について付言されています。
被告は,タッチパネルを湾曲させたスマートフォンは本願出願前より既に公知となっており,本願意匠のみの新規な特徴とはいえないし,スマートフォンは使用時に片手に持ったり,画面を指で操作する関係から,筐体全体の形態はもとより,機能キーの形状や配置,カメラレンズの配置等,詳細に確認されるものであって,それら全てが,意匠の特徴部分となり得るのであり,タッチパネルを湾曲させたことのみを過大評価することはできないし,そもそも本願意匠の湾曲の程度はごく僅かなものでしかないので,両意匠の筐体の形態における相違点が類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまる旨主張する。そして,前記1(3)認定のとおり,携帯電話の意匠において,筐体の正面が凹面,背面が凸面の側面視がごく緩やかな円弧状をなす湾曲板形状を呈する筐体の形態,及び,正面視すると,上下辺はごく緩やかに円弧状に膨らむ曲線で,正面周囲枠は,平底面視及び左右側面視すると,正面側にごく僅かに窄まる形態は,それぞれ優先日前に公知である。しかし,乙第1号証によれば,携帯電話の意匠においては,本願意匠のような筐体の正面が凹面,背面が凸面の側面視がごく緩やかな円弧状をなす湾曲板形状を呈する筐体の形態ではなく,むしろ,正面及び背面の大部分が平坦面でかつそれぞれが平行な平坦面をなす平板形状の筐体の形態も多数見受けられることが認められる。そうすると,本願意匠の上記形態は,スマートフォンの形態としてありふれたものであるとまでいうことはできない。しかも,上記認定のとおり,上記の形態は,本願意匠の全体の形状という最も需要者の注意を惹きやすい部分の一つを構成する形態であることも併せ考えると,上記認定のとおり,筐体の正面が凹面,背面が凸面の側面視がごく緩やかな円弧状をなす湾曲板形状を呈する筐体の形態が公知のものであるとしても,直ちに本願意匠の上記形態が,共通点(A)の形態に埋没してしまい,需要者の注意を惹くものでないということはできない。また,上記の点に照らすと,タッチパネルが湾曲した形態を有すること自体が全体の形状の美観に与える影響が大きいものであるというべきであり,その程度が僅かであるとしても,やはり,需要者の注意を惹くものでないということはできない。なお,被告は,画像を表示するための画面を凹面として湾曲させることは,スマートフォンを含む画面(液晶画面等)を使用する物品においては,本願出願前よりごく普通に見受けられるものであった(乙2ないし6)とか,スマートフォンにおいて,画面を湾曲させたものも本願出願前に既に公知となっているものが見受けられる(乙7ないし11)とも主張する。しかし,スマートフォン以外の物品において画像を表\示するための画面を凹面として湾曲させる形態が公知であったとしても,用途や使用方法が大きく異なる以上,そのことをもって直ちにスマートフォンにおいて画像を表示するための画面を凹面として湾曲させる形態が需要者の注意を惹くものでないことの根拠とすることはできない。また,スマートフォンにおけるものについても,本願意匠とはその形態が大きく異なるもの(乙10,11)も存在する以上,上記乙号各証に示されたスマートフォンないしはその意匠に画面を湾曲させた形態のものが存在するからといって,直ちに上記認定が左右されるものとはいえない。また,乙第1号証によれば,正面視における上下辺の形態や,正面周囲枠の形態についても種々のものが見られることが認められる。そうすると,本願意匠の筐体正面の四隅を曲率半径のやや大きな隅丸とし,上下辺はともにごく緩やかに円弧状に膨らむ曲線であり,正面周囲枠は,平底面視及び左右側面視すると,正面側にごく僅かに窄まっている形態がありふれたものであるとまでいうことはできない。その上,上記形態は,本願意匠の最も需要者の注意を惹きやすい部分の一つを構\成するものであることも併せ考えると,正面視すると,上下辺はごく緩やかに円弧状に膨らむ曲線で,正面周囲枠は,平底面視及び左右側面視すると,正面側にごく僅かに窄まる形態が本願出願前に公知であるとしても,本願意匠の上記形態が共通点(A)の形態に埋没してしまい,需要者の注意を惹くものではないということはできない。
・・・・
以上によれば,本願意匠と引用意匠とは類似するとはいえず,意匠法3条1項3号に該当しないから,審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由は理由がある(なお,当裁判所の前記判断は,本願意匠の意匠法3条1項3号該当性についての審決の判断に対するものであり,当然ながら,本願意匠の同法3条2項について何ら判断するものではない。)。
◆判決本文
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10279 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成25年01月24日 知的財産高等裁判所
意匠権について類似するとした審決が維持されました。
原告が取消事由1,2を通じて,両意匠が類似するものではないとする主張の根拠の要点は,次の2点にある。
1) 全体として上下方向に連続する管状体である点と,管本体部表面の上下方向に連続して突設したガイドレール部は,共にありふれた態様であって,これらの態様による共通感は,需要者の美感に大きな影響を与えない。
2) ガイドレール部の形態が,本願意匠においては「略ハ字状」を成しているのに対し,引用意匠においては「略コ字状」を成している相違点は,家屋等の壁面に固定された固定具と連結して取り付けられる構造部分に関するもので,機能\面からみて,異なる形態であるとの印象が大きい。
ウ まず1)の点についてみると,基本的構成態様(A),すなわち,全体は,断面同一形状に連続する管状体で,管本体部及びガイドレール部から成るものであって,管本体部を,薄肉の円筒形状の管体とし,ガイドレール部を,管本体部の表\面の長手方向に突設して形成し,当該ガイドレール部は,端面が略「L」字状,及び,その対称形状である略逆「L」字状とした2本のガイド片を,やや空隙を設けて対向させた,との態様は,斜視図から明らかなとおり,本願意匠及び引用意匠の形態全体にわたる骨格的な態様であり,両意匠の基調を形成して,共通の印象を強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであることは否定することができない。また,具体的構成態様についてみても,共通点(B),すなわち,管本体部のガイドレール部を除く表\面を,凹凸のない平滑面とした点は,両意匠の外観の大部を占める部分であることも明らかである。そして,(B)の共通点の態様は,この種物品においては,管本体部の表面を,凹凸のない平滑面とすることが,原告主張のようにありふれた態様であるといえるとしても(甲3の先行意匠一覧),そのような態様である必然性はない。斜視図においてこの態様は強い印象を与えるものであるし,(C)の共通点,すなわち,管本体部の直径に対して,ガイドレール部の左右方向の最大幅を約1/5とし,ガイドレール部の上下方向の最大高を約1/10とした点,そして(D)の共通点,すなわち,2本のガイド片を詳細に観察すると,それぞれのガイド片は,管本体部に接する立ち上がり部とその先端に内側に向かって屈曲した爪部とから成り,爪部は,それぞれの平面視の幅を,立ち上がり部の高さの略1/2とした点は,両意匠の全体形状が単純な構\成要素から形成されるという,上記ありふれた態様の中にあって,管本体部に対するガイドレール部の各部の構成比率の具体的な共通点であって,共に両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼすものということができる。そして,これらの具体的構\成態様に係る共通点は,前記基本的構成態様に係る共通点(A)と一体となって強い印象を与えるものとなっている。以上にみた両意匠の対比からすると,原告が上記1)に関して主張する点は理由がないといわざるを得ない。
エ 次に2)の点は,美感というよりは,むしろ,機能の相違からくる相違について述べるものであるにすぎないが,機能\面を斟酌するにしても,本願意匠においては「略ハ字状」を成し,引用意匠において「略コ字状」を成している点が,実際の施工場面において異なる場合はあり得るとしても,家屋等の壁面に固定された固定具と連結して取り付けられる構造部分に関するものとして機能\が異なる,すなわち,あらゆる機能の態様において異なるとまで認めることはできない。美感の観点からすれば,具体的構\成態様としての相違点,すなわち,(a)2本のガイド片の立ち上がり部につき,正面視すると,本願意匠は,略「ハ」の字状を呈しているのに対して,引用意匠は,ほぼ垂直対向状である点,(b)2本のガイド片の爪部につき,詳細に観察すると,本願意匠は,立ち上がり部に対し,それぞれやや鋭角に内側に向かって屈曲しているのに対して,引用意匠は,それぞれ略直角に内側に向かって屈曲している点は,共に,前記共通点が看者に与える強い印象に比して微弱なものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は僅かなものにとどまる。したがって,2)に関する原告の主張も,類否判断に際して理由がない。
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2012.12.10
平成24(行ケ)10105等 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成24年11月26日 知的財産高等裁判所
類似するとした審決が取り消されました。
(1) 本願意匠Aの願書に添付した写真(甲A12,甲A1は番号を付したもの)及び引用意匠Aの公報中の写真(甲A18,甲A2は番号を付したもの)のうち各左右側面図により両意匠を対比すれば,本願意匠Aの唇側面は,側面視で,正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までにかけての部分に相当の長さの直線状の部分がある一方,引用意匠Aの唇側面は,側面視で,正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までにかけての部分が緩やかな円弧状を成している点で異なることが認められる。この形状の相違の結果,唇側面の側面視の形状は,引用意匠Aでは歯冠部と歯頸部の境界から切縁部までの全体が略円弧状を成している一方,本願意匠Aでは歯冠部と歯頸部の境界から正面側に最も張り出した部分までが略円弧状を成すが,正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までの部分に相当の長さの直線状の部分がある点で異なっている(原告主張の相違点(1カ))。したがって,上記相違点を看過した審決Aの認定には誤りがある。
(2) 本願意匠Aの願書に添付した写真及び引用意匠Aの公報中の写真のうち各背面図,平面図により両意匠を対比すれば,基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央の凹陥部の輪郭に当たる部分のうち各背面側(舌側面側)に,本願意匠Aでは相当な長さの直線状部分があるが,引用意匠Aではかかる直線状部分がない点で異なることが認められる。この形状の相違の結果,本願意匠Aの基底面は,輪郭の一部が直線状でその余が円弧状の略かまぼこ形状を成すが,引用意匠Aの基底面は,基底面と鉛直の方向から見たときに略円状(上方から見下ろしたときは略楕円状)を成すことになって,両意匠はこの点で異なる(原告主張の相違点(1ク))。したがって,上記相違点を看過した審決Aの認定には誤りがある。この点,被告は,本願意匠Aの基底面輪郭の直線状部分は特定の方向から見たときに現れるものにすぎないとか,引用意匠Aの基底面の輪郭に直線状部分が全くないわけではないなどと主張するが,本願意匠Aの基底面輪郭及び中央凹陥部輪郭の直線状部分は通常の観察において認識できる程度にまで及んでいるのであって,被告の上記主張を採用することはできない。
(3) 本願意匠Aの願書に添付した写真のうち左右の側面図及び端面図によれば,本願意匠Aの切縁部近傍の舌側面の一部には側面視で直線状の部分(背面視で平面状の部分)があることが認められ,したがって舌側面の下端付近に小さな噛み合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる。他方,引用意匠Aの公報中の写真のうち左右の側面図及び断面図をみても,舌側面の切縁部近傍には側面視で直線状の部分がないから,上記ファセット面の有無は本願意匠Aと引用意匠Aの相違点であると認められ,したがって,かかる相違点を看過した審決Aの認定には誤りがある。この点,被告は,舌側面の切縁部近傍の側面視直線状部分は特定の方向から見たときに現れるごく一部分にすぎず,人工歯の実際の大きさに即して観察した場合にはこれを認定する必要がないなどと主張する。確かに,上記ファセット面は人工歯の舌側面全体の表面積に占める割合は必ずしも大きくないが,歯科医等の需要者が人工歯を装着する場合には,切縁部近傍を削ってファセット面を設けるなどして必ず咬合調整を行うものであることからすると(弁論の全趣旨),切縁部近傍の形状の相違は需要者が注目するポイントの1つであって,ファセット面の有無を認定する必要がないとはいえない。また,本願意匠Aの左右の側面図や端面図を見れば,上記ファセット面があることを明確に認識でき,対比の上ではその存在を無視できる微細な立体形状に止まらない特徴を成しているものということができるから,特定の方向から見たときにのみ現れる微細な立体形状であるということはできない。なお,出願された意匠と先行意匠を対比する際に,出願人が提出した特徴記載書の説明を参考にすることはあり得るし,本願意匠Aの特徴記載書(甲A13)の説明図やファセット面を着色した図(甲A19)がなくても,上記ファセット面の存在を認定することができる。\n
(4) 以上のとおり,審決Aは少なくとも前記(1)ないし(3)の各相違点を看過して
本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点を認定しており,この点に認定の誤りが
あるというべきである。
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2012.07.21
平成24(行ケ)10042 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成24年07月18日 知的財産高等裁判所
二輪車のタイヤの意匠について、類似するとした審決が取り消されました。
被告は,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点に加え,各溝が並ぶ順番,長中二つの傾斜溝の形状と屈曲の方向,中傾斜溝の長さと位置を一体の共通点Aとして捉え,これらのすべてを満たす公知意匠が存在しないことから,それらを一体として審決が認定した共通点Aは,引用意匠との対比において類否判断に支配的な影響を及ぼすと主張する。しかしながら,「いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点」は,特定の単位の繰返しという意匠全体の構成に関する基本的な態様であるということができるものの,上記のとおり,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,各溝の並ぶ順番(溝の長さは相対的な評価なので,溝の長さが変化すると,溝の並ぶ順番も変化し得る関係にある。)や,長傾斜溝,中傾斜溝の形状等については,繰返しの単位内における個別的な形状に関するものとして,取引者・需要者の注意を引く特徴的な形態となり得るものである。
(2) 両意匠の類否判断
上記観点から両意匠を対比するに,本願意匠は,全体として,三つの溝が略等距離を保ち,整然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝につき,溝間の距離に大きな変化はなく,また,いずれも端部と折曲部との間の長い辺部分が略直線状で,サイドウォール寄り端部も斜辺状,すなわち直線状であって,赤道寄り端部は小半円弧状であるものの,端部に向けて溝幅が狭くなることから鋭角的な印象を与え,折曲部の角部も明確であり,短溝についても,長さが短いため,中傾斜溝との溝間の距離の変化を感じさせず,また,端部及び端部を結ぶ辺部分がいずれも略直線状である点に特徴がある。これに対し,引用意匠は,本願意匠と対比してみるときには三つの溝が1単位となっているように観察されるものの,引用意匠それ自体を観察する限りにおいては,全体として,三つの溝がまとまりなく,雑然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝との溝間の距離の変化が大きく,また,三つの溝につき,いずれも一方の端部が毛筆書体における横棒の入り様とした形態であって,足のかかと様に出っ張った部分があり,かつ,この部分の溝幅が広がっていることなどから,当該端部がねじれている印象を与え,さらに,長傾斜溝は他方の端部も丸みを帯びた斜辺の突端をわずかに屈曲させた形状であり,中傾斜溝は溝全体が緩やかに湾曲した形状であり,短溝は毛筆書体における横棒の入り様とした形態が溝全体の約3分の1を占め,他方の端部もわずかに丸みを帯びた斜辺状であって,統一感なくねじれた印象を与える点に特徴がある。上記のとおり,本願意匠の三つの溝は,溝縁が直線であり,端部に向けて溝幅が細くなることから,看者に対し,一方の先端がとがった細い直線により構成され,無機的であり,かつ,非常にすっきりとして,サイドウォールから赤道に向けて流れる印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。これに対し,引用意匠の三つの溝は,全体として,基本的に溝幅に変化がないことも相まって,看者に対し,同じ幅の溝が曲線的にねじ曲がった印象,例えていえば,先端の丸まった筒状の細菌あるいは細胞をまとまりなく配した印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。\n
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2011.12. 1
平成23(行ケ)10159 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成23年11月30日 知的財産高等裁判所
コンタクトレンズの意匠が非類似と判断されました。判決文中に、両意匠が示されています。
本願意匠における「内周部」及び「内周縁部」は,全体的に淡い灰色に配色された下地に,濃黒色及び灰色に着色され,内周部から中心に向かって収束する方向に延伸する「棒状形状」(各棒形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみられる。)が描かれていること,及び「棒状形状」が連結するように描かれていることなどの点に照らすならば,本願意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,より自然で調和的,かつ穏やかな印象を与えるような美感を有するものと評価できる。これに対して,引用意匠における「内周部」及び「内周縁部」は,規則正しく配置された小円の集合により構成されていること,山形形状部等の全体の模様は,小円の大きさ,濃淡及び配置の相違のみによって表\現されていること,山形形状部の高さ等が均一的,画一的であることなどの点において,引用意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,自然らしさを捨象し,人工的,メカニカルな印象を与えるような美感を有するものと評価できる。
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2011.11.16
平成23(ワ)131 意匠権侵害差止等請求事件 平成23年11月10日 東京地方裁判所
意匠権侵害事件です。裁判所は非類似と判断しました。
類否の判断は,両意匠を全体的観察により対比し,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい部分を把握し,この部分を中心に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。
・・・・・
しかし,原告主張の両意匠の共通点に係る形態は,前記イのとおり,本件登録意匠の登録出願前に公知であった三菱自社製作品の意匠と同様の構成であり,新たな意匠的な創作がされたものとはいえない。かえって,形鋼,柱などを両側から狭持するための開口部を設ける場合に,開口部の形状をコの字型にすることはごく自然なことであり,また,目違いを調整するために2つの調整用ボルトを用いること自体は,ありふれたものであるというべきである。したがって,原告主張の両意匠の共通点に係る形態は,需要者の注意を強く惹くものとはいえないし,また,上記共通点が与える美感は微弱なものであって,前記bの類否判断を左右するものではないから,原告の上記主張は,採用することができない。\n
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2011.09.22
平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件 平成23年09月15日 大阪地方裁判所
意匠権侵害が認定されました。いわゆる100均で販売された場合の損害額の認定で販売不可事情も認定されました。
(ア) 被告商品の価格について
被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。
(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソ\ーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソ\ーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソ\ーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(ウ) 競合品について
資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。
(エ) 本件意匠の寄与度について
原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能\よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。
(オ) 結論
これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。
◆判決本文
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2010.09. 1
平成20(ワ)8761 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成22年08月26日 大阪地方裁判所
登録意匠と類似するとして意匠権侵害が認定されました。最近は判決文にイ号とともに登録意匠も表示されるのでわかりやすいですね。
前記アのとおり,本件登録意匠2と被告旧座金意匠は,上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれたICタグの収容孔を形成している点,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成している点,収容孔の上面の口径を小さくしている点,外側面に略コ字状に凹む細溝を水平状に周回させている点で共通している。そして,これらの共通点は,いずれも本件登録意匠2を特徴づけるものであり,その視覚的効果は,意匠全体として,両意匠に共通した美感を起こさせるものである。
(イ) 差異点について
一方,前記イのとおり,両意匠は,収容孔の縮径の程度(差異点(ア)),上面側における収容孔と切り込み部分からなる形状(差異点(イ)),外側面の溝の位置(差異点(ウ))を異にする。しかしながら,差異点(ア)は,視覚的に十分識別できる程度の違いであるとはいえ,上面と底面を同時に見ることはできないから,看者はこれを,収容孔の縮径として捉える以上に,上面における収容孔と切り込み部の形状,底面における収容孔と切り込み部の形状として,それぞれ独立して認識すると考えられる。そうすると,前者は差異点(イ)に収斂されるし,後者は,通常の観察方向である斜め上方から観察た場合に得られる印象と比べ,看者に与える印象の度合いが小さいため,全体的な美感に影響を及ぼさないといえる。そして,差異点(イ)は,結局のところ,上下面を貫通する収容孔においてICタグが上に抜け出ないように段差を設けた結果,収容孔上面における口径の大きさを異にし,切り込み部との組み合わせにおける大きさの比率を異にしているものに過ぎず,むしろ,上下面の中央を貫通して略円筒状にくり抜かれた収容孔を形成している点(共通点(ア))や,収容孔の一端から外側面へ通じる垂直状の細幅の切り込み部を形成している点(共通点(イ))が,その新規性と相まって,看者に強い印象を与えているといえ,収容孔と切り込み部の大きさの比率及びその結果としての上面における形状の差異(鍵穴型をイメージするか否か)が,この印象を凌駕するほど大きなものであるとは認めがたい。さらに,差異点(ウ)も,視覚的に識別できる程度の違いとはいえ,外側面に細溝を水平状に周回させるという点(共通点(エ))の方がより特徴的で,需要者の注意を惹く態様であり,この共通点を超えて,上記差異点(ウ)が格別異なる印象を看者に与えるものではない。なお,被告が主張する,ICタグの存在により,原告座金と被告旧座金の混同が生ずるおそれがないとの点は,意匠自体の類否を判断するにあたって考慮されるべき要素ではない。
◆判決本文
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2010.07. 3
平成21(行ケ)10208 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成22年06月30日 知的財産高等裁判所
ディンプルが六角形のゴルフボールについての意匠登録を無効とした審決が維持されました。被告(審判請求人)は、その商品を販売しているキャロウェイゴルフです。意匠権者は警告等したのでしょうか。
◆判決本文
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2009.06.22
◆平成20(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年05月28日 知的財産高等裁判所
類似する意匠であるとした審決が取り消されました。
「以上説示したところによれば,本件審決が判断の対象とした相違点のうち,相違点イないしハについてみても,また,本件審決が看過したが,両意匠の類否判断に際して考慮に入れるべきであった相違点ヘについてみても,本願意匠の各形態がそれぞれ生じる意匠的効果は,上記アないしエのとおりであるところ,そのうち,相違点イ,ロ及びヘに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果は,本願意匠も,引用意匠も,いずれも略四角柱状のシリンダチューブから構成されるものではあるが,本願意匠は,引用意匠と比較して,ボルト取付用孔部を含めた全体が略四角柱状であるとの印象が相当程度打ち消され,シリンダチューブ中,ボルト取付用孔部を除く部分に全体として丸みを持たせた上,その四隅からやや突出させるようにボルト取付用孔部を取り付けたような印象を与えるものと認められ,これに加えて,相違点ハに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果,すなわち,ボルト取付用孔部端部の丸みを併せ考慮すると,相違点イないしハ及びヘに係る本願意匠の各形態は,相互に相まって,別紙第2の引用意匠とは相当程度異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認めるのが相当である。そして,相違点イないしハ及びヘに係る本願意匠の各形態が相まって生じる上記意匠的効果の内容及び程度並びに共通点1ないし4に係る各形態がありふれたものであることに照らすと,以上の相違点に係る本願意匠の各形態が相まって生じる意匠的効果は,両意匠の共通点に係る各形態が生じるありふれた美感を超えるに足りるものというべきものである。そうすると,「上記の相違点が相俟った効果を考慮してもなお,本願の意匠は意匠全体としては引用の意匠にない格別の特徴を発揮するまでには至らないものというほかない」とした本件審決の評価は誤りであるといわざるを得ない。なお,被告は,本願意匠のシリンダチューブの外周面部の形態によっても略角柱状であるとの印象を大きく変更するものではないと主張するが,その主張を採用し得ないことは,以上説示したところから明らかである。」
◆平成20(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年05月28日 知的財産高等裁判所
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2009.06. 1
◆平成20(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年05月28日 知的財産高等裁判所
先行意匠に類似するとした審決を取り消しました。
相違点イは,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部の全体に占める割合の相違であるがいずれも略四角柱状のチューブから構成されるシリンダにおいて,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部を小さく形成することは,その各両側に空間(略四角柱状の外枠から凹んだ形状となっている部分)をより大きく設けることとなり,その結果,本願意匠についてみれば,円形状のピストン部分がより強く印象づけられ,また,ボルト取付用孔部がシリンダから突出した感じを抱かせるものとなっていて,原告の主張するとおり,その全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせているということができる。この点に関し,被告は,本願意匠におけるボルト取付用孔部の内径とシリンダチューブの最大横幅との比率において,両意匠の差が極めてわずかであるなどと主張するが,被告の主張を考慮しても,別紙第1の斜視図と,別紙第2とを対比すれば,引用意匠が略四角柱状のシリンダとしてのありふれた形態を残しているということができるのに対し,本願意匠が,それに比較して,曲線が強調される結果,円柱状のシリンダに近づいた美観を生じていることは否定し得ないところである。以上,両意匠を対比すると,本願意匠では,引用意匠に比較して,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部が小さく形成されているために円柱状のシリンダに近づき,全体としてその本来の略四角柱状であったとの印象を打ち消す効果を有するものと認められるから,相違点イに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果について,その類否判断に及ぼす影響が軽微なものとした本件審決の評価は誤りというべきであって,当該効果を軽視することはできない。
◆平成20(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年05月28日 知的財産高等裁判所
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2009.04.22
◆平成20(行ケ)10402 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
引用意匠の認定誤りを原因として、無効審決が取り消されました。
「本件審決が,引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構\成態様として挙げた部分(上記下線を引いた部分)に係る認定内容は,いずれも,「引用意匠」(甲12,4頁の画像)により確定することはできない。すなわち,引用意匠について,?@基本的構成態様において引用意匠が帯状レース地を配していること,?Aレース地を,基部側を濃密な密度の編み地とし,先端側に円形模様を1個ずつ,周方向に連続して設けたものとしていること,?B円形模様を,円形外輪の中央に,直径を円形外輪の約1/2とした円形部を形成し,円形外輪と中央円形部を多数の放射状細線で繋いだ,車輪様の花図形状としていること,?C先端側輪郭を,円形模様の円形外輪が,略半円状に突出して連なった形状としていること,?D円形模様の配置を,左右の襟が重なり合う略V字状の尖り部に1個が表れるよう配し,そこから正面視略左右対称に,連続して円形模様が表\れるよう配していること,?E基部側編み地部であること,?F円形模様先端部までの幅(襟からの突出方向の長さ)について,引用意匠は同約1/3とし,同略半円状突出部が人形の顔に当たり,先端部が折れ曲がっていること,以上の各事実は,いずれも,引用意匠の襟元部の画像(甲12,4頁の画像)が不鮮明であるため,その形状,素材又は態様を確定することができない。この点は,同じホームページに掲載された画像又はその写真(甲29,乙3,乙6・別紙「引用意匠画像」)によっても,確定することはできない。この点について,被告は,原告ホームページに引用意匠と同じ時期に掲載された雛人形の画像(乙4)を併せて見ることにより,本件意匠が審決の認定したとおりの内容及び態様であることを推認できる旨主張する。しかし,乙4の画像も不鮮明であって,同画像から審決の認定した引用意匠の内容を確定することは到底できない。また,被告は,引用意匠を見る需要者は,過去の登録例(乙5)や市販のレース地(甲8レース地(J))によって,不鮮明な意匠の部分を補って判断をするから,本件審決が審決の認定したとおりの内容及び態様を確認できると主張する。しかし,多数存在する既存のレース地から乙5や甲8のレース模様を選択し,その形状を確定することは到底できない。被告の上記主張はいずれも失当である。以上によれば,本件審決が,引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構\成態様として挙げた部分(上記下線を引いた部分)の認定内容は,いずれも,「引用意匠」(甲12,4頁の画像)から確定することができず,何らの根拠に基づくことなく認定したものであって,誤りというべきである。」
◆平成20(行ケ)10402 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
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2009.03.26
◆平成20(行ケ)10402 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
引用意匠と類似するとした無効審決を、引用意匠は明確でないとして取り消しました。
「引用意匠について,・・・円形模様先端部までの幅(襟からの突出方向の長さ)について,引用意匠は同約1/3とし,同略半円状突出部が人形の顔に当たり,先端部が折れ曲がっていること,以上の各事実は,いずれも,引用意匠の襟元部の画像(甲12,4頁の画像)が不鮮明であるため,その形状,素材又は態様を確定することができない。この点は,同じホームページに掲載された画像又はその写真(甲29,乙3,乙6・別紙「引用意匠画像」)によっても,確定することはできない。この点について,被告は,原告ホームページに引用意匠と同じ時期に掲載された雛人形の画像(乙4)を併せて見ることにより,本件意匠が審決の認定したとおりの内容及び態様であることを推認できる旨主張する。しかし,乙4の画像も不鮮明であって,同画像から審決の認定した引用意匠の内容を確定することは到底できない。」
◆平成20(行ケ)10402 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
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2008.12.26
◆平成20(行ケ)10251 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成20年12月25日 知的財産高等裁判所
類似するとして拒絶された審決が取り消されました。本件・引用意匠は判決本文の最後に添付されています。
「上記の認定に基づいて,本願意匠と引用意匠の類否を判断する。本願意匠は,折り返し部及び注ぎ口ともに基本的に直線で形成され,全体の縦が長く,注ぎ口を大きくかつ深く,正面視において二重略V字形状を有し,これらの特徴を総合すると規則的であるが,シャープな印象を与える形状ということができる。これに対して,引用意匠は,注ぎ口の側方視を除いて折り返し部及び注ぎ口ともに基本的に曲線で形成され,全体の縦の長さが横の長さに比して短く,注ぎ口が小さくかつ浅く,正面視において円弧形状を示し,平面視において,注ぎ口は,手前から先端に進むに従い,曲率半径を変化させ,曲線が多用され,これらの特徴を総合すると,不規則かつ複雑であるが,全体として柔軟で暖かな印象を与えるものといえる。. 上記によれば,本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品がいずれもビールピッチャーであり,いずれもその構造が内容器と外容器の二重構\造を有するうちの内容器に関するものである他,注ぎ口及び折り返し部を有するという基本的な構成態様において共通する点を有するが,具体的な注ぎ口及び折り返し部の形状態様において,看者に異なる美感を与えているものというべきである。したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。」
◆平成20(行ケ)10251 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成20年12月25日 知的財産高等裁判所
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2003.07. 1
◆H15. 6.30 東京高裁 平成14(行ケ)626 意匠権 行政訴訟事件
裁判所は、意匠の類似判断について、需用者が購入時に注意して観察する部分の違いから非類似と判断し、特許庁の審決を取り消しました。
「本件物品は,電気配線等の配線を覆い保護するものであり,その性質上,室内の壁,床面等に取り付けられた後は,それらの構造物と調和を保ちつつ,できる限り目立たないように設置されるものであり,また,本件物品は,第一次的には,最終需要者から電線等の配線工事の依頼を受けた配線業者が本件物品の販売業者からこれを選択,購入して,これを用いて配線工事を行うのが通常であると考えられる。 そして,配線保護カバー等の上記性質からすれば,配線業者が本件物品を購入する際には,その取り付け箇所との調和を念頭に置きその選択を行うものであり,また,・・・この嵌合構\造いかんは,本件物品の全体の形態的印象を形成する上で,1つの重要な要素となるものであり,しかも,配線業者にとって,本件物品の設置工事をする際に嵌合構造がどのようになっているかは重要な関心事であり,必ずこれを視認して選択を行うものと考えられる。したがって,配線業者は,各種の本件物品の中から特定のものを選択する場合には,・・・に注意を払い,さらに本件物品を上記構\造物に取り付けた場合の外観,すなわち,本件物品の上面及び側面の形状,色彩,模様が,取り付け箇所である室内及びその構造物等の形状,色彩等と調和するか否かの観点からこれに注意を払うものと認めるのが相当である。」
◆H15. 6.30 東京高裁 平成14(行ケ)626 意匠権 行政訴訟事件
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