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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

類似

平成30(行ケ)10169  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成31年4月22日  知的財産高等裁判所

 SIXPADの類似商品についての意匠登録無効審判請求について、無効理由(2条1項3号)なしとした審決が維持されました。先行意匠はSIXPADで、本件意匠はSIXPADの類似商品です。

 証拠(甲1,2)によれば,両意匠の物品は,いずれも「トレーニング機 器」と同一であって,背面電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,当 該部位の筋肉等を引き締めるためのものである点において共通する(各証拠 の【意匠に係る物品の説明】参照)。また,その需要者についても,いずれ もそのようなニーズを有する一般消費者であると認められる。 そして,両意匠に係る物品は,これを使用者の腹部に載せ,当該物品の背 面に設けられている電極を腹部に接触させて使用する物であるから(甲1及 び2の【意匠に係る物品の説明】の記載,並びに甲2の【使用状態を示す参 考図】参照),着脱時には,直接肌に触れることになる背面も,ある程度の 注意をもって見る機会があるものの,需要者は主に当該物品の表面を正面な\nいし斜め上方向から見る機会が多いというべきである。両意匠を実施してい ると解される物品及び同種の物品を紹介するカタログ,ポスター等において も,これらの物品を単独で,又は腹部に装着した状態の物品の表面を,それ\nぞれ正面から撮影した画像が多く使用されており(甲3の2〜3の4,4, 15,16の2),上記の観察方法の正当性を裏付けるものといえる。
(2) 以上を前提として,両意匠が需要者の視覚を通じて起こさせる美観が類似 するか否かを検討する。
ア 両意匠の形態上の共通点について
(ア) 両意匠は,全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右 対称であり,左右の上パッド,中央パッド及び下パッドが合計6つ配置 された本体と,本体の正面中央に設けられた略円形の強弱調整ボタンで 構成されている点(共通点(A)),中央パッドと上パッド,中央パッド と下パッドの各隙間は,いずれも略倒扁平「V」字状である点(共通点 (A−2)),本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されている 点(共通点(B)),強弱調整ボタンは,正面側が閉塞しており,本体に 一体に設けられている点(共通点(C)),本体背面中央に,強弱調整ボ タンよりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッドに,周囲に余白を 残して電極が配置され,各電極が中央の円形模様と接続されて,円形模 様の内側中央にコイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点(共 通点(D)),並びに強弱調整ボタンの正面上下に,「+」及び「−」の 表示が設けられている点(共通点(E))において,共通する形態を有し ている。
(イ) まず,共通点(A)のうち,全体が,正面から見て,薄いシート状で あって,略左右対称であり,パッドが複数配置された本体と,本体中央 に設けられた略円形の強弱調整ボタンで構成されている点は,本件登録\n意匠の出願前に販売されていた同種の商品にも広く見られる態様と認め るのが相当である(甲3の2,3の3,5)。 しかし,上パッド,中央パッド及び下パッドが左右対称に合計6つ設 けられているという形態についてみると,当該形態は本件登録意匠の出 願前に販売されていた同種の商品にも相当数見られるものの,採用され ているパッド数には様々なものがあること(甲5)に鑑みると,これを 両意匠に係る物品において普遍的に見られるありふれた形態とまでいう ことはできない。かえって,当該形態は両意匠の全体の輪郭の大要を形 成するものであること,パッド部が意匠全体に占める面積が大きいこ と,各パッド間の区切りも明瞭であることに加え,需要者は主に両意匠 に係る物品の表面を正面ないし斜め上方向から見る機会が多いとの観察\n方法を併せ考慮すると,当該形態は需要者の注意を強く引く構成態様と\n評価するのが相当である。
(ウ) 次に,1)共通点(A−2),2)共通点(B)に関し,本体の上辺又は下 辺中央に切り欠き部が形成されている点,3)共通点(C),4)共通点(E) については,本件登録意匠の出願前に販売されていた同種の商品にも広 く見られる態様であるか(甲3の2,3の3,5),あるいは,これら の形態が意匠全体に占める割合も大きくないものであるから,両意匠に 係る物品の観察方法も併せ考慮すると,これらの共通点が類否判断に及 ぼす影響は小さいというべきである。
(エ) また,両意匠は,背面の形態に関し,共通点(D)において共通する が,上記(1)のとおり,需要者が当該物品の背面に着目する程度は高く ないと認められるから,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は 小さいというべきである。
イ 両意匠の形態上の相違点について
(ア) 相違点(a),相違点(a−2)及び相違点(b)についてみると,本 件登録意匠は,略倒隅丸台形状の中央パッドの上下に,先端が円弧状の 隙間を介して,上端又は下端が略弓状に膨出した上パッド及び下パッド が配置され,本体の上辺及び下辺中央に略「U」字状の切り欠きがあ り,切り欠き部に連なる本体上辺及び下辺の角部付近が上方又は下方に 僅かに膨出していることから,全体として上下対称となっていることと 相まって,総じてうねりを伴う流線的かつ柔らかでゆったりとした印象 を与えるものである。 これに対し,甲2意匠は,中央パッドが略横長隅丸4角形状で,左右 端が若干上に傾くように配置され,先端が先細りの隙間を介して,上パ ッドが略横長隅丸5角形状で,左右端が中央パッドよりも上に傾くよう に配置され,同様に先端が先細りの隙間を介して,下パッドが略横長隅 丸5角形状で,左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されてお り,本体の上辺及び下辺中央に略「V」字状の切り欠きが設けられてい ることから,各パッドの各辺が概ね直線状となっていることと相まっ て,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといった,当該意匠に 係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿う印象を需 要者に与えるものである。 そうすると,これらの相違点により需要者に与える印象の違いは極め て大きいというべきである。
(イ) 次に,相違点(c)についてみると,本件登録意匠は,上パッド及び 下パッドにおいて,上端又は下端に沿って明調子の筋状模様が,内側の 稜線寄りに明調子の略倒扁平三角形状模様がそれぞれ配されていること から,当該各パッドが浮き上がったような印象を与えるとともに,上パ ッド及び下パッドには,左右のパッドにまたがってごく僅かに突出した 略「M」字状又は略「W」字状の帯状部が形成され,中央パッドには左 右のパッドにまたがってごく僅かに突出した略倒紡錘形状部が強弱調整 ボタンを囲むように形成されていることから,当該意匠の物品が「トレ ーニング機器」であることを考え合わせると,これらの形態は腹部の筋 肉の盛り上がりをイメージさせるものといえる。 そして,甲2意匠は,外周を縁取る線模様がパッドごとに分断して合 計6つ設けられ,その内側に,各パッドの外形に相似するような隅丸略 5角形状の線溝が,相似形に3本施されていることから,同様に当該意 匠の物品が「トレーニング機器」であることを考え合わせると,これら の形態は腹部の筋肉の盛り上がりを強くイメージさせるものといえる。 そうすると,この点が需要者に与える印象の違いはそれほど大きくな いというべきである。
(ウ) 相違点(d)についてみると,強弱調整ボタンの形状が略円錐台形 状であるか略円筒状であるか,基部が設けられているか否かは,目につ きにくい部分における細かな差異にすぎないから,需要者に与える印象 の違いは小さいというべきである。
(エ) 相違点(g)については,甲2意匠に設けられている通気孔は,本体 中央に設けられている強弱調整ボタンの斜め上下左右という比較的需要 者の注意を引く位置にあり,形状が略隅丸3角形であることから,シャ ープな印象を与えるものといえるが,その孔自体それ程目立つものでは なく,通気孔の部分が全体に占める割合もごく小さいことから,この点 が需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
(オ) 相違点(h)のうち,電源ボタンの有無については,本件登録意匠 では,当該電源ボタンが本体の中央という非常に目につきやすい箇所に 設けられていることから,一定程度異なる印象を需要者に与えるといえ る。 しかし,「+」及び「−」の表示が明調子に表\されているか否かにつ いては,需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
(カ) その余の相違点については,両意匠を全体としてみたときに,ごく 限定された部分又は目につきにくい部分における細かな差異にすぎず, 他の共通点・相違点から生ずる美感を左右するほどのものとはいえな い。
ウ 総合評価
(ア) 基本的構成態様における共通点(A)のうち,上パッド,中央パッド 及び下パッドが左右対称に合計6つ設けられているという形態について は,需要者の注意を強く引く構成態様と評価することができる。\n これに対し,その余の共通点については,これらが両意匠の類否判断 に及ぼす影響は小さい。
(イ) 他方,基本的構成態様における相違点(a),(a−2),(b)及び (c)によってもたらされる印象は,両意匠ともに,盛り上がった腹部の 筋肉という,当該意匠に係る物品を使用することによって達成しようと する目標に沿う印象を与えるとの点において共通するものの,本件登録 意匠は,流線的かつ柔らかでゆったりとした印象を与えるのに対し,甲 2意匠は,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといったよう な,当該意匠に係る物品の使用による達成目標により沿うものとなって おり,これらの相違点が与える印象の違いは,上記共通点がもたらす印 象をはるかに凌駕するものである。
(ウ) そうすると,その余の共通点,相違点がもたらす印象を考慮して も,両意匠は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にするという べきである。

◆判決本文

本件意匠は下記です。

◆意匠登録1593189
先行意匠は下記です。

◆意匠登録第1536247

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平成30(行ケ)10152  審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成31年4月11日  知的財産高等裁判所

 3条1項3号(公知意匠との類似)を理由とした拒絶審決が維持されました。裁判所は、「これらの相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも のではない」と判断しました。

 本願意匠(別紙1)及び引用意匠(別紙2)の各形態,本願意匠と引用意 匠の共通点及び相違点に関する本件審決の認定(前記第2の2(2))に誤りが ないことは,当事者間に争いがない。
 両意匠の意匠に係る物品は,電動歯ブラシの本体(把持部)であり,主な需 要者は,電動歯ブラシを使用する一般消費者である。そして,かかる需要者が, 電動歯ブラシを使用するときは,通常,シャフト部にブラシヘッドを装着した 電動歯ブラシの本体を手に取り,歯磨き粉を付けたブラシヘッドを口腔内に 入れてから本体の動作制御釦を押して始動した後,本体を把持しながら,ブラ シヘッドを歯に当てて歯磨きを行うことからすると,本体把持部の握りやす さや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと 認められる。 しかるところ,両意匠は,「全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面 側に偏心しながら,円状の上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電 動歯ブラシ本体把持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を 直径とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(シャフ ト部)で構成をされている点」(共通点1)及び「シャフトについて,本体把\n持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し,正面視中央部に横断する段差が設 けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が設けられている点」(共通点2)で共 通する。 そして,共通点1は,底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全 体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼ す影響が大きいこと,共通点2は,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに 傾倒したシャフト部の形状に係るものであって,本体把持部の偏心した形状と 相まって歯に当たるブラシヘッドの角度に影響を及ぼすことに照らすと,共通 点1及び共通点2は,これを見る需要者に対し,全体として,共通の美感を起 こさせるものと認められる。
他方で,両意匠は,相違点1(本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全 長約3分の1の箇所と,約2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯 ブラシ動作制御用釦が縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端よ り全長約3分の1の箇所に1つ配されるものとなっている点),相違点2(本 願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるのに対して, 引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となっている点),相違点 3(環状細線の位置),相違点4(本体把持部の下部の形状及び切り替えの有 無)及び相違点5(シャフト部の基台部の形状)において相違するが,これら の相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも のではない。 したがって,本願意匠と引用意匠は,これらの相違点を考慮しても,需要 者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら れるから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。
(2)ア これに対し原告は,1)共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部よ り円状の上部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略 円柱状の基台部と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の 構成態様は特徴的な形状であるとはいえない,2)共通点1のうち,「本体 把持部が僅かに偏心していること」は,需要者に与える印象という観点か らは,従来から存在する上部にかけて側面視背面側をただ窄めただけの形 状と明確な区別のつくものではないため,特徴的な形状とはいえない,3) 共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設けられてい る点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと相ま って,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,特徴的な形状という ことはできないとして,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用\n者の注意を強くひくものとはいえず,共通点1及び2に係る態様は,需要 者に共通の美感を起こさせるものとはいえない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点は,共通点1のうち,一般的な電動歯ブラシ の本体が有する形状と共通する一部の形状のみを取り上げたものであり, 共通点1の有する全ての形状について言及したものとはいえない。 また,上記2)の点は,本体把持部の全体形状に特に着目する需要者(前 記(1))においては,本体把持部が僅かに偏心している本願意匠の形状と 本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面 側を窄めただけの形状とを容易に区別するものと認められる。 さらに,上記3)の点は,共通点2のうち,一部の形状のみを取り上げた ものであり,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し ている点及びシャフトの正面視中央部に横断する段差が設けられている 点を看過している。
以上のとおり,原告の上記主張は,共通点1及び共通点2の形状の一部 のみに着目したものであって,これらの共通点の全体が与える視覚的効果 を踏まえたものといえないから,採用することができない。
イ 次に,原告は,1)歯を磨くという電動歯ブラシの機能の観点からは,需要\n者が電動歯ブラシを操作する動作制御釦の位置,大きさ及び形態が最も強 く需要者の注意をひく部分であり,要部である,2)需要者は電動歯ブラシ を使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部が,全体 と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者に対し,強い印象を 与えること,釦が2つの場合は,それぞれの釦の機能を考慮しながら釦を\n操作するため,2つの釦を注視することとなり,釦が1つの場合と比べて, 釦の形態により注意が向けられることに照らすと,本願意匠の釦が縦に2 つ配されている態様(相違点1に係る本願意匠の態様)は,上の釦の径よ り,下の釦の径がやや小さく形成されているという点と相まって,需要者 の注意を強くひくものであり,釦が1つ配されている態様の引用意匠とは 異なる美感を起こさせるものであるとして,本願意匠の要部である動作制 御釦が需要者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,両意匠は, 全体として類似しない旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定の電動歯ブラシの通常の使用態様に照らすと, 需要者は,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持部の 全体形状に特に注目をするものと認められ,動作制御釦の位置,大きさ及び 形態は,電動歯ブラシの操作時に需要者の一定の注意をひく部分であると しても,最も強く需要者の注意をひく部分であるとはいえない。 また,甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報)記載の「電動歯ブ ラシ本体」の意匠(別紙3)及び甲3(意匠登録第1219080号の意匠 公報)記載の「電動歯ブラシ」の意匠(別紙4)によれば,電動歯ブラシに 動作制御釦を2つ配することは,本願の優先日前に,普通に行われていたも のと認められる。そして,本願意匠の2つの動作制御釦は,1つは,本体把 持部上端より全長約3分の1の箇所に配され,引用意匠の動作制御釦とそ の位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦の垂下にあたる本体把持部上 端より全長約2分の1の箇所に配され,特異な位置にあるとの印象を与え るものではない。
加えて,本体把持部の上部側に配された動作制御釦の直径より,その下部 に配された動作制御釦の直径が僅かに小さく形成されている2つの動作制 御釦を有する電動歯ブラシの本体把持部の形態は,本願の優先日前に公知 であったこと(乙1)に照らすと,本願意匠の動作制御釦が,2つ縦に配さ れ,僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成して いる点は,特徴的なものとはいえず,需要者の注意を特にひくものとはいえ ないから,本願意匠の動作制御釦と引用意匠の動作制御釦の構成態様の違\nいが需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の全体的な美感に影響するも のと認めることはできない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10181  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和元年7月3日  知的財産高等裁判所(1部)

 部分意匠について、新規性無しの無効審判が請求されましたが、審決・裁判所とも非類似と判断しました。

 本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワ ー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けら れており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。 そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と の共通点及び相違点は,次のとおりである。 前記の認定(1(1)(2))によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機 器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中 心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よ りも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが, 中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面 が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。 他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられ た後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンク であるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィ ンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフ ィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1の フィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点, i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意 匠1では約3分の1である点においても相違する。
ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は視覚を通じて起こさせる美観が 縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ)また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,1)本件 意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であ るのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという 点,2)本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍で あるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点, 3)本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中 央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体 の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,こ れらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1 とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。 したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
エ よって,取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り) ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内 又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準と して,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容 易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件 の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場か らみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第 45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和4 8年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号28 7頁参照)。
イ 検討
これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられてい る,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認 めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容 易であるとはいえない。 また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相 違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証\n拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易 であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事 由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づ き本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。
イ 検討
しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられている のに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に 並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べ ることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3 に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。 また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,1)本件意匠が, 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対 し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,2)本 件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるの に対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,3)本件 意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の 厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体の直径 が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの 相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記(1)のとおりである。そして,タワー型 ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み 合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点4)に係る本 件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことか\nらすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至 らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易 であったとは認められない。

◆判決本文

本件の侵害事件です。

◆平成28(ワ)12791

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平成24(ワ)33752  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成27年2月26日  東京地方裁判所

 4年以上前の事件ですが、漏れていたのでアップします。体組成計の意匠について、一部の被告製品は本件登録意匠と類似するとして、1.3億円の損害賠償が認められました。なお、被告製品のうち50%について販売不可事情が認定されました。
 本件意匠2と被告意匠は,上記第3,2,(1),アのとおり,1)正面視にお いて,板状体の正面ガラス板は隅丸横長四角形形状であり,板状体の正面に は,4つの隅丸縦長四角形形状の電極部分が上下左右に配置されており,上 側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央には隅丸横長 四角形の液晶表示窓があり,該液晶表\示窓の下側であって,かつ,上側に配 置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部 分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線, 右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線 の交点を中心として隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成さ\nれており,2)側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とし た構造であるという構\成を有する点で共通している。
相違点について検討すると,正面視において,上記第3,2,(1),イのと おり,本件意匠2と被告意匠とでは透明ガラス板の縦横比が異なっている(本 件意匠2が約1:1.4であり,被告意匠が約1:1.43である。)ものの, その差異は極めて小さく,いずれも看者に対し横長長方形であるという印象 を与えるものというべきである。また,被告意匠には,液晶表示窓の周囲に\nある縁取模様があることが認められるが,これは液晶表示窓の大きさと比較\nしてさほど大きいものではなく,正面視において目立つ色彩でもない。さら に,透明ガラス板の隅丸半径,電極部分の幅と長さの比,液晶表示窓の底辺\nと上側の左右に配置された電極の底辺との関係やスイッチ模様の個数に差異 があるが,これらは,透明ガラス板の形状がほぼ同じであることから看者に 対して与える共通の美感を凌駕するものとはいえない。 本件意匠2と被告意匠とでは,背面視において,上記第3,2,(1),イの とおり,本体部の背面の形状に差異があるが,これは要部における差異では ない。 さらに,上記第3,2,(1),イのとおり,被告意匠には側面視において不 透明プロテクタ体があるが,不透明プロテクタ体は本体背面部と同系統の色 彩であり厚みも薄いことから,この点も要部における具体的構成の共通性か\nら看者に与える美感の同一性を凌駕するものとはいえない。 したがって,本件意匠2と被告意匠とは上記のような差異点があることを 考慮しても,看者に対して共通の美感を与えるものと認められるから,本件 意匠2と被告意匠は類似しているというべきである。
・・・
 被告は,被告製品の売上への被告意匠以外の要因が寄与していると 主張する。
証拠(甲30の1,乙23,24,26,28,86)及び弁論の全 趣旨によれば,a 被告は,原告に先んじて体組成計の販売を開始し, 平成15年までは体組成計の年間シェア(数量)の62.9%以上を占 めていたこと,b 平成23年の体組成計の年間シェア(数量)は被告 が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位の企業は14. 5%であること,c 被告が販売する体組成計を購入した者の25.7 7%が被告ブランドを理由に購入していること,d 日経BPコンサル ティングが実施している「ブランドジャパン2011」において消費者 からみた総合力の上昇ランキングで9位とされていること,e 「ブラ ンドジャパン2013」においてコンシューマー市場編総合力と因子指 数において60位とされたこと(原告は同ランキングで183位であっ た。),f 被告が,平成23年7月19日,平成24年6月11日及び 平成25年5月28日にMDBネットサーベイを利用して行ったアンケ ートによれば,体組成計や体脂肪計のメーカーのイメージが強い最も強 い企業を選ぶ問いに対し被告と答えた者が順に68.2%,71.6%, 71.8%であったことが認められる。 以上の事実によれば,被告は体組成計のシェアを長期間にわたり安定 的に有しており,被告が製造する体組成計を購入した者の中には被告の ブランド力を理由とする者も多数おり,被告がブランド力の調査におい て上位にされることがあったのであるから,被告製品の売上に被告のブ ランド力の有する顧客吸引力の貢献もあるというべきである。 しかしながら,一方で,証拠(甲8の2ないし4,27の1・2,3 8)によれば,a 原告製品1又は2を購入した者に対するアンケート 結果では,商品を選択した理由として「デザイン(見た目)が良い」と いう回答をしている者が順に●(省略)●%,●(省略)●%に上って いること,b 一方,同アンケート結果では,「メーカー名」を挙げる 者は各●(省略)●%に過ぎなかったこと,c 体組成計を取り上げた テレビ番組でも,原告製品1について「従来無かったデザイン性の高さ が人気といいます。」,原告製品2について「コンパクトなタイプ。デザ インとカラーで人気を集めています。」などと報道されたこと(平成2 4年12月18日放送・ワールドビジネスサテライト)が認められるか ら,デザインが体組成計の購入動機とならないとはいえない。 なお,前示のとおり,本件意匠2はその出願時点における公知意匠と は異なる構成を有するものであるから,被告が本件意匠2について無効\n審判を請求していることを考慮しても,その創作性の程度が低いという ことはできない(なお,上記無効審判請求については,平成26年12 月24日に請求不成立の審判がされた〔乙99の2〕)。また,本件意匠 2は,部分意匠ではないし,被告意匠は全体として本件意匠2と類似す るのであるから,被告意匠が本件意匠2の一部と類似するに過ぎないと いうこともできない。 したがって,被告製品の売上には被告意匠以外の要因として被告ブラ ンドの顧客吸引力も寄与しているといえるから,このような事情につい ては原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができ ないとする事情として考慮することができるというべきである。
(イ) 被告は,原告が原告製品1及び2を追加的に販売する際に注文に対 応できない台数の割合があることを考慮すべきと主張する。しかしなが ら,原告は1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売す ることができると認められるところ(甲42),原告が原告製品1及び2 が売れすぎたために品切れを起こし販売を中止した期間があると認める に足りる証拠はない。したがって,原告が原告製品1及び2を追加的に 販売する際に注文に対応できない台数の割合があることを原告が被告製 品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情とし て考慮することはできないというべきである。
(ウ) 被告は,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があると主張 する。確かに,体組成計について,原告製品1及び2の他に原告や被告 の他多数の企業から多数の製品が販売されていることは当事者間に争い がないが,証拠(甲30の1)によれば,平成23年の体組成計の年間 シェアは被告が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位 の企業は14.5%であることが認められ,被告と原告とで体組成計の 年間シェアの71%を占めていることからすると,被告製品がなかった 場合,被告製品の購入者の大部分は被告が販売する製品か原告が販売す る製品を購入するものというのが相当である。そして,前示のとおり被 告製品を購入した者はメーカー名よりもデザインに着目して購入してい るところ,証拠によっても,平成24年10月から平成25年9月30 日までの間に被告が販売する被告製品以外の体組成計にその意匠が本件 意匠2と同一又は類似するものがあるとは認められないのである。そう すると,原告製品1及び2には被告製品の他にも競合品があるという事 情は,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告 製品しか選択肢がないという状況ではなかったから,被告製品がなかっ たとしても被告製品の譲渡数量の全てについて原告製品1又は2が購入 されたということはできない(しかし,大部分は原告製品1又は2が購 入されたといえる。)という程度において,原告が被告製品の譲渡数量の 全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮すること ができるにとどまるというべきである。
(エ) 以上によれば,被告製品の売上には被告ブランドの顧客吸引力の寄 与もあるという事情,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があ り,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告製 品しか選択肢がないという状況ではなかったという事情は,上記説示の 範囲で,原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することがで きないとする事情として考慮することができる。また,前示のとおり, 被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害しないという事情があり,これ も原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができない とする事情として考慮することができる。これらの諸事情を考慮すれば, 被告製品の譲渡数量のうち50%に当たる●(省略)●台(小数点以下 切り捨て。)について原告が譲渡することができない事情があるというべ きである。
オ 前記前提事実のとおり,原告は,1か月に●(省略)●台の原告製品1 及び2を輸入,販売することができたから,平成24年10月から平成2 5年9月までの間,原告製品1及び2を併せて●(省略)●台を輸入,販 売することができた。 カ 以上によれば,意匠法39条1項により損害の額とされる額は1億17 41万3662円である。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10152    意匠権  行政訴訟 平成31年4月11日  知的財産高等裁判所

 先行意匠と類似するかが争われました。裁判所は、「底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼす影響が大きい」として、類似と判断した審決を維持しました。判決文の最後に両意匠が掲載されています。

 両意匠の意匠に係る物品は,電動歯ブラシの本体(把持部)であり,主な需 要者は,電動歯ブラシを使用する一般消費者である。そして,かかる需要者が, 電動歯ブラシを使用するときは,通常,シャフト部にブラシヘッドを装着した 電動歯ブラシの本体を手に取り,歯磨き粉を付けたブラシヘッドを口腔内に 入れてから本体の動作制御釦を押して始動した後,本体を把持しながら,ブラ シヘッドを歯に当てて歯磨きを行うことからすると,本体把持部の握りやす さや操作の容易さを重視し,本体把持部の全体形状に特に注目をするものと 認められる。 しかるところ,両意匠は,「全体は,隅丸長方形状の底部より,僅かに正面 側に偏心しながら,円状の上面部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の電 動歯ブラシ本体把持部と,該本体把持部上面に設けられた,該上面の略半径を 直径とする略円柱状の基台部とその上に配された縦長板状のシャフト(シャフ ト部)で構成をされている点」(共通点1)及び「シャフトについて,本体把\n持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し,正面視中央部に横断する段差が設 けられ,背面側には略縦長矩形の凹部が設けられている点」(共通点2)で共 通する。 そして,共通点1は,底面に対して僅かに正面側に偏心した本体把持部の全 体形状に係るものであって,本体把持部の握りやすさ及び操作の容易性に及ぼ す影響が大きいこと,共通点2は,本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに 傾倒したシャフト部の形状に係るものであって,本体把持部の偏心した形状と 相まって歯に当たるブラシヘッドの角度に影響を及ぼすことに照らすと,共通 点1及び共通点2は,これを見る需要者に対し,全体として,共通の美感を起 こさせるものと認められる。 他方で,両意匠は,相違点1(本願意匠は,本体把持部の正面に上端より全 長約3分の1の箇所と,約2分の1の箇所に僅かに凹部をなす略円状の電動歯 ブラシ動作制御用釦が縦に2つ配されているのに対して,引用意匠は,上端よ り全長約3分の1の箇所に1つ配されるものとなっている点),相違点2(本 願意匠は,電動歯ブラシ動作制御用釦の外形線が一重の円状であるのに対して, 引用意匠は,該動作制御用釦の外形線が二重の円状となっている点),相違点 3(環状細線の位置),相違点4(本体把持部の下部の形状及び切り替えの有 無)及び相違点5(シャフト部の基台部の形状)において相違するが,これら の相違点から受ける印象は,両意匠の上記共通点から受ける印象を凌駕するも のではない。 したがって,本願意匠と引用意匠は,これらの相違点を考慮しても,需要 者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら れるから,本願意匠は,引用意匠に類似するものと認められる。
(2)ア これに対し原告は,1)共通点1に係る「全体は,隅丸長方形状の底部よ り円状の上部にかけて側面視背面側を窄めた略円柱状の本体把持部と,略 円柱状の基台部と略縦長板状のシャフトとを有する電動歯ブラシ本体」の 構成態様は特徴的な形状であるとはいえない,2)共通点1のうち,「本体 把持部が僅かに偏心していること」は,需要者に与える印象という観点か らは,従来から存在する上部にかけて側面視背面側をただ窄めただけの形 状と明確な区別のつくものではないため,特徴的な形状とはいえない,3) 共通点2に係る「シャフト部の背面側に略縦長形状の凹部が設けられてい る点」は,その部位があまりに小さく,背面に備えられていることと相ま って,需要者の注意をひく部分とはなり得ないため,特徴的な形状という ことはできないとして,本願意匠の基本的構成態様は,需要者である使用\n者の注意を強くひくものとはいえず,共通点1及び2に係る態様は,需要 者に共通の美感を起こさせるものとはいえない旨主張する。 しかしながら,上記1)の点は,共通点1のうち,一般的な電動歯ブラシ の本体が有する形状と共通する一部の形状のみを取り上げたものであり, 共通点1の有する全ての形状について言及したものとはいえない。 また,上記2)の点は,本体把持部の全体形状に特に着目する需要者(前 記(1))においては,本体把持部が僅かに偏心している本願意匠の形状と 本体把持部の底面に対して軸を垂直にしたまま上部にかけて側面視背面 側を窄めただけの形状とを容易に区別するものと認められる。 さらに,上記3)の点は,共通点2のうち,一部の形状のみを取り上げた ものであり,シャフトが本体把持部の偏心にそって正面側に僅かに傾倒し ている点及びシャフトの正面視中央部に横断する段差が設けられている 点を看過している。
以上のとおり,原告の上記主張は,共通点1及び共通点2の形状の一部 のみに着目したものであって,これらの共通点の全体が与える視覚的効果 を踏まえたものといえないから,採用することができない。
イ 次に,原告は,1)歯を磨くという電動歯ブラシの機能の観点からは,需要\n者が電動歯ブラシを操作する動作制御釦の位置,大きさ及び形態が最も強 く需要者の注意をひく部分であり,要部である,2)需要者は電動歯ブラシ を使用する際に必ず動作制御釦部を観察するから,動作制御釦部が,全体 と比較して僅かな範囲のものであるとしても,需要者に対し,強い印象を 与えること,釦が2つの場合は,それぞれの釦の機能を考慮しながら釦を\n操作するため,2つの釦を注視することとなり,釦が1つの場合と比べて, 釦の形態により注意が向けられることに照らすと,本願意匠の釦が縦に2 つ配されている態様(相違点1に係る本願意匠の態様)は,上の釦の径よ り,下の釦の径がやや小さく形成されているという点と相まって,需要者 の注意を強くひくものであり,釦が1つ配されている態様の引用意匠とは 異なる美感を起こさせるものであるとして,本願意匠の要部である動作制 御釦が需要者に与える印象は引用意匠とは大きく異なるから,両意匠は, 全体として類似しない旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定の電動歯ブラシの通常の使用態様に照らすと, 需要者は,本体把持部の握りやすさや操作の容易さを重視し,本体把持部の 全体形状に特に注目をするものと認められ,動作制御釦の位置,大きさ及び 形態は,電動歯ブラシの操作時に需要者の一定の注意をひく部分であると しても,最も強く需要者の注意をひく部分であるとはいえない。 また,甲2(意匠登録第1478109号の意匠公報)記載の「電動歯ブ ラシ本体」の意匠(別紙3)及び甲3(意匠登録第1219080号の意匠 公報)記載の「電動歯ブラシ」の意匠(別紙4)によれば,電動歯ブラシに 動作制御釦を2つ配することは,本願の優先日前に,普通に行われていたも のと認められる。そして,本願意匠の2つの動作制御釦は,1つは,本体把 持部上端より全長約3分の1の箇所に配され,引用意匠の動作制御釦とそ の位置が共通し,他の1つは,上記動作制御釦の垂下にあたる本体把持部上 端より全長約2分の1の箇所に配され,特異な位置にあるとの印象を与え るものではない。
加えて,本体把持部の上部側に配された動作制御釦の直径より,その下部 に配された動作制御釦の直径が僅かに小さく形成されている2つの動作制 御釦を有する電動歯ブラシの本体把持部の形態は,本願の優先日前に公知 であったこと(乙1)に照らすと,本願意匠の動作制御釦が,2つ縦に配さ れ,僅かに凹部をなし,上の釦の径より,下の釦の径がやや小さく形成して いる点は,特徴的なものとはいえず,需要者の注意を特にひくものとはいえ ないから,本願意匠の動作制御釦と引用意匠の動作制御釦の構成態様の違\nいが需要者の視覚を通じて起こさせる両意匠の全体的な美感に影響するも のと認めることはできない。

◆判決本文

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