タッチパネル式の自販機について、被告意匠は本件意匠に類似しないと判断されました。
上記イによれば,本件登録出願前に,自動精算機又はそれに類似する物品
において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ部について,上
方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを
収容するケース部分が縦長略直方形状である意匠,ディスプレイ部の縦と横
の比が概ね1.5対1である意匠,ディスプレイ部のケース部分がディスプ
レイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部
で構成されている意匠は知られていたといえる。これらによれば,自動精算機を購入する需要者にとり,本件意匠の基本的\n構成態様や具体的構\成態様A,Bが,特に注意を惹きやすい部分であるとは
いえない。そして,このことを考慮すれば,具体的構成態様C,Dは,本件意匠においては,本件図面において実線で示されている部分の中では一定の\n大きさを占めているといえるものでもあり,注意を惹きやすい部分であると
いうべきである。
本件意匠と被告意匠の差異点(前記(2)ウ(イ)のうち3)本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁
から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意
匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような
傾斜面を全く有していない点,4)本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分
の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも略4
倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅
がすべて等しくなっている点は,本件意匠の具体的構成態様C,Dに係る部分の違いであり,2)本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレ
イと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部
から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構\成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点は,具体的構\成態様Dの前提と
なる構成自体が異なるというものである。それらの違いは,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない基本的構\成態様が共通することから受ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠は,全体として,異なった
美感を有するものであり,類似しないと認められる。
エ 原告は,本件意匠の基本的構成態様と具体的構\成態様について,前記第2,
のとおり主張し,本件意匠の要部は,自動精算機全体との関係で位置,
大きさ,範囲を考慮したタッチパネル部であって,原告が主張する上記構成態様を前提として,本件意匠と被告意匠の構\成態様の共通点は,本件意匠の要部についての共通点であるのに対し,具体的構成態様の差異点については,いずれも両意匠の共通性を凌駕するものではなく,本件意匠と被告意匠が類\n似する旨主張する。
しかし,原告が本件意匠の基本的構成態様,具体的構\成態様であると主張
する構成態様は,本件図面において破線で示された筐体の形状を部分意匠である本件意匠の形状そのものとして主張しているものである。部分意匠の趣\n旨からも,本件において,タッチパネル部の幅と筐体の幅との具体的な比率
やタッチパネル部の筐体からの突出の具体的な比率そのものなどの原告主
張の上記構成態様が,本件意匠の具体的な形状であるとは解されない。なお,登録意匠と対象となる意匠の位置等の違いが類否判断に影響を及ぼす場合\nがあるとしても,本件においては,本件意匠と被告意匠に類否判断に影響を
及ぼすような位置等の差異はない(前記(3))。
また,原告は,類否判断において本件意匠と被告意匠について,上記の位
置等が共通することを重視すべき旨を主張する。
しかし,本件においては,少なくとも,筐体の上端部から突出するディス
プレイ部について,前記イで掲載した意匠が知られており,このことを考慮
すると,前記のとおり,本件意匠と被告意匠は類似しないというべきである。
◆判決本文
SIX PADに関する意匠権侵害事件です。大阪地裁21部は、類似しないと判断しました。意匠は特許事件のように、侵害論と損害論を分けてないのですね。損害額についての主張立証がなされています。
ア 要部認定の意義
被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基
づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物
品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感
が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。
本件意匠と被告意匠については,前記(1)で述べたとおり,多数の共通点,差異点
が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異
点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分
を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検\n討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。
イ 物品の需要者及び使用態様
本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面
電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのも
のである点において共通する(各公報における「意匠に係る物品の説明」参照。)。
原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1(3))からは,原告商品は
腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定\nされており,「理想のボディライン」を作ることに主眼が置かれているという違い
が見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明
のとおり,「腹部の筋肉等を引き締める」目的でトレーニング機器を使用しようと
する一般消費者である。
また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該\n物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需
要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については
着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両
製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態
の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。
ウ 本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2(2)アで基本的構成態\n様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考え
られるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに,
同イの具体的構成態様のうちVないしVIIIとして指摘した内容,すなわち,各パッド
片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さにつ
いても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ
ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。
他方,それ以外の点,すなわち前記2(2)イの具体的構成態様のうち,IXない
しXII記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に
引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。
エ 双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを
理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心\nに6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張す
るのに対し,被告は,前記部分はありふれており,要部には当たらないと主張する。
まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成\nがあるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似
した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合\nいは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参
照する意義はある。
しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのでは
なく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行
うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を\n引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通する
いわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引\nき,要部とすべき場合もある。
すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるもの
ではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与
える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対\n称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片
をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ
うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の(1)及び(2)
で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片
の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないというこ
とはできない。
そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,\n各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要
者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとお
り,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。
仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件\n意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても
本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的
に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は
採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1(1)及び(2)で認定した本件意匠に
先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2(2)アの基本的構成がありふれたも\nのであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。
上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者\nに一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成\nが本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(3)類否の判断
ア 要部についての共通点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠
が共通するのは,前記(1)ア(基本的構成態様)の(1)(本体シート状,6枚のパッド
片),(2)(2列3段,左右対称),(3)(略円形上の操作部)及び(4)(パッド背面の
電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。
イ 要部についての相違点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部における本件意匠と被告
意匠との差異点は,前記(1)ア(基本的構成態様)の(5)(パッド片の結合)及び(6)(左
右対称か上下対称か),並びに前記(1)イ(具体的構成態様)の(3)(上段,下段パッ
ド片の形状,傾斜),(4)(中段パッド片の形状,傾斜),(5)(上下の切込みの形状,
深さ)及び(6)(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように
配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド
片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが
設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられているこ
とから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合
する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりと
した印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成
しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。
各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るもの\nであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそ
のような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠
被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長
隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲してい
る上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間
に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及
び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ
って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に
見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き
締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽
快な印象を与える。
特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が
結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の
羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよ
う配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本
件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意
匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽
快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前
記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として
評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度\nには異なるということができる。
(4)争点(2)の結論
前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1(3)アの
宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者
は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可\n能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところ\nではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要
者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似し\nないというべきである。
◆判決本文