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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

意匠認定

平成14年(ワ)8765号 意匠権  民事訴訟 平成16年3月22日  東京地方裁判所

 古い事件ですが、研修で取り上げられていたのでアップします。東京地裁は、類似と判断しました。なお、高裁では先使用権が認められて非侵害となりました。
(1)ア(ア)本件登録意匠の意匠に係る物品は輸液バッグであり、側面視にお いて、全体が薄型の形状をしているから、通常、看者の目に多く触れるのは、正面 及び背面であると認められる。そして、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の 境界部は、正面及び背面のほぼ中央にあり、また、輸液バッグの使用時には、同境 界部の弱シール部を連通させて使用することから、同境界部付近は、看者の注意を 引く位置にあるものと認められる。
  (イ)同境界部付近の構成をみると、その基本的構\成は、同境界部の中 央に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部よ り幅の広い強シール部が形成されている(基本的構成態様(5))というものである。 そして、その具体的構成は、製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部\nは、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成 しており(具体的構成態様(11))、溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシー ル部は、弱シール部より幅が広く、弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を 形成している(具体的構成態様(18))というものである。 このような同境界部付近の構成において、同境界部の中央に帯状の弱\nシール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強 シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、同境界部付近の構成の骨格\nを特徴づけており、看者の注意を引くものと認められる。
  (ウ)基本的構成態様(5)は、その全体の構成が、本件登録意匠の意匠公\n報の必要図中、背面図にのみ表れている。しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグ\nは、前記のとおり、側面視において全体が薄型の形状をしているから、正面と背面 が、通常、看者の目に触れるものと認められ、また、イ号意匠において、溶解液収 納側の袋体の目盛り及び数字が背面側のみに記載されていることも合わせ考える と、本件登録意匠及びイ号意匠に係る輸液バッグにおいては、アルミカバーシート が付された正面のみならず、背面も、看者の目に多く触れることが認められる。し たがって、基本的構成態様(5)の全体の構成が必要図中の背面図にしか表\れていない としても、それによって、基本的構成態様(5)を要部と認定することが妨げられるこ とはないというべきである。なお、本件登録意匠の意匠公報の【アルミラミネート シートをはがした状態の参考正面図】においては、アルミラミネートシートをはが した状態で、正面にも基本的構成態様(5)の構成が表\れることが示されている。もと より、登録意匠の権利範囲を確定する上で、参考図はあくまでも参考にとどまる が、同参考図によれば、基本的構成態様(5)が、本件登録意匠の構成中において、少\nなくとも無視されるべき構成でないことは認められるといえる。\n イ 本件登録意匠の出願前の公知意匠と比較すると、基本的構成態様(5)は、 出願前の公知意匠である甲第12ないし第16号証(オーツカCEZ注−MCのパ ンフレット)、第24号証(特許第3060132号公報)、第25号証(特許第 3060133号公報)、甲第33号証(「カルバペネム系抗生物質メロペネム (メロペン)キット製剤の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47 No.6)、第46号証(「ホスホマイシンナトリウムダブルバッグ製剤(溶解液付き 固形注射剤)の有用性に関する実験的研究」新薬と臨床Vol.47No.2)、乙第1号 証(意匠登録第1016887号公報)、第3号証(甲第12号証と同一)、第4 号証(「溶解液付き注射用固形抗生物質キット製剤のキット有用性に関する実験的 研究」日本包装学会誌Vol.4No.1)、第37、第38号証(味の素ファルマ株式会 社ピーエヌツインのパンフレット)、第39号証(本件登録意匠の出願前に発行さ れた公開特許公報に記載されたダブルバッグタイプの輸液バッグの図面)、第44 号証(特開2000−72925号公開特許公報)、第45号証(特開平7−15 5361号公開特許公報)、第46号証(特開平5−68702号公開特許公報) 各記載の輸液バッグには見られず、本件登録意匠の創作的な部分であると認められ る。
ウ 本件登録意匠の関連意匠である意匠登録第1107512号(甲第42 号証の1、2)、意匠登録第1108821号(甲第43号証の1、2)、意匠登 録第1108822号(甲第44号証の1、2)、意匠登録第1108823号 (甲第35号証の1、2)、意匠登録第1108824号(甲第45号証の1、 2)の各登録意匠には、いずれも基本的構成態様(5)が見られる。
エ 以上によれば、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央 に帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より 幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様(5)は、本件登録意匠の 中で需要者の注意を最も引きやすい意匠の要部に該当するというべきである。
(2)ア(ア) 原告は、ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいて、アルミカ バーシートの視認性が重要であり、上方の製剤収納袋の吊下部を残して全面を覆 う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺部のいず れかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を設けた点 が本件意匠の要部であると主張する。
   (イ) しかし、本件登録意匠のアルミカバーシートに貼着部のシール\n線が表れていない点は、それ自体、外観上、目立つところではない。また、製剤収\n納側の袋体の吊下部を残して全面を覆うアルミカバーシートは、原告公知意匠に見 られ、そのアルミカバーシートには、貼着部のシール線が表\れているが、そのシー ル線は、製剤収納側の袋体の縁に沿って幅狭に存在するにすぎず、それほど目立つ ものではないから、それとの対比からしても、本件登録意匠においてアルミカバー シートに貼着部のシール線が表\れていない点は、看者の注意を引くとは認められな い。 また、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた一つ の小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片は、その大きさ、形状に 鑑み、目立つものではなく、本件登録意匠の関連意匠5件の各正面図においても、 引き剥がし用突片は、位置は様々であるが、いずれもそれ程目立つものではないこ とを併せ考えると、本件登録意匠のアルミカバーシートの周辺部に設けられた引き 剥がし用突片は、看者の注意を引くとは認められない。 したがって、原告の主張に係る、上方の製剤収納袋の吊下部を残して 全面を覆う、貼着部のシール線が表\れていない方形状のアルミカバーシートの周辺 部のいずれかに、一つの小さな半円形ないしそれに近い形状の引き剥がし用突片を 設けた点は、看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠の要部であるとは認め られない。  

◆判決本文

◆添付書類です

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平成23(ワ)247  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成24年6月29日  東京地方裁判所

 少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。ACアダプターについて意匠権侵害が認められました。類似すると認定されたものの、損害額としては、販売不可事情として90%の減額が認定されました。
前記ア認定のエーシーアダプタの性質,用途及び使用態様によれ ば,エーシーアダプタは,携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であ ると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯するなど,日常 生活において目に触れる機会の多い製品であるといえる。 そして,前記イの認定事実によれば,エーシーアダプタの意匠におい ては,本件登録意匠の構成態様に係る「箱状の本体の背面に折り畳み自\n在の差込みプラグを設け,底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタ を設ける」構成(前記(1)ア(1)),「本体は,縦横の寸法が同一の正四 角形で扁平な箱状であり」(前記(1)ア(2)),「本体の全周囲は面取り がされている」構成及び「縦(横)の寸法の約0.15倍の長さを半径\nとする面取りをする」構成,「差込みプラグが本体の平面部(上面部)\nから背面部に設けられ,プラグのピンは背面の凹部に折り畳まれた状態 から,後方又は上方に起立させて使用され,プラグピンの支持部の外周 は弧状をなしている」構成(前記(1)ア(4)),本体の「正面下部にラン プを設ける」構成(前記(1)ア(5)),「USBコネクタは,底部に設け られている」構成(前記(1)ア(6))は,本件出願時にいずれも公知であ ったものといえる。
他方で,本件登録意匠の構成態様のうち,「本体の全周囲は,厚さ方\n向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四 角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする 四半球状となっている」点(前記(1)ア(3))は,公知意匠には認められ ない構成態様であり,この構\成態様により,需要者に対し,本体全体が 丸みを帯びた柔らかな印象を与えると同時に,本体正面視の四角隅部が 四半球状となっていることにより整った印象も与えるものとなってお り,上記構成態様は,他の公知意匠にはみられない新規な創作部分であ\nるといえる。 すなわち,前記イ(イ)のとおり,乙3には,充電器に係る意匠におい て,縦横の寸法が同一の正四角形の箱状の本体において,「縦(横)の 寸法の約0.15倍の長さを半径とする面取りをしている」構成が示さ\nれているが,厚さが縦(横)寸法の約0.6倍であって,これは本件登 録意匠の2倍に当たり,縦(横)の長さと厚さとの比が異なり,さらに は厚さに対する面取り径の比が本件登録意匠よりも小さく,本件登録意 匠のような全周囲が厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取り をしておらず,また,本体の四角隅部が,正面視において,いずれも, 厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっているものともいえず, 本件登録意匠のような本体全体が丸みを帯びた柔らかな印象を与える ものとはいえない。他に本件登録意匠の上記構成態様が本件出願前に公\n然知られた形状であったことを認めるに足りる証拠はない。 以上を総合考慮すると,本件登録意匠において,需要者の注意を引き やすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1 を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視にお いて,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」 点を含む,本体部全体の形態であると認められる。
(イ) これに対し被告は,通常の販売・流通形態(店頭,ウェブサイト) では,需要者は,エーシーアダプタを正面又は正面やや斜めから見るの が普通であり,需要者としては正面の形態に最も注目するから,本件登 録意匠においては,携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面の 形状及びランプの位置の正面形態全体がひとまとまりとして要部とな り,特に接続部分が最重要の要部である旨主張する。 しかしながら,意匠の特徴的部分の把握に際しては,意匠に係る物品 の販売・流通時において視認し得る形状のみを前提にするのではなく, 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等も考慮すべきであるところ, 前記(ア)認定のとおり,エーシーアダプタは,需要者が実際に手にとっ て携帯用の周辺機器の充電に用いる実用品であると同時に,身の回りに 置き,あるいは,外出時に携帯するなどされるものであることからする と,需要者が本件登録意匠の正面の形態にのみ注目するとはいえない。 また,被告が主張する携帯電話等の周辺機器との接続部分,本体の正面 の形状及びランプの位置は,前記イのとおり,いずれも本件出願前に公 知の形状であることからすると,本件登録意匠においては,携帯電話等 の周辺機器との接続部分,本体の正面の形状及びランプの位置の正面形 態全体がひとまとまりとして需要者の注意を引きやすい特徴的部分(要 部)を形成しているとはいえないし,ましてや接続部分が最重要の要部 であるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 被告意匠の類似性
前記(2)ウ(ア)認定のとおり,本件登録意匠において,需要者の注意を引 きやすい特徴的部分は,「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を 半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において, いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」点を含む, 本体部の形態全体である。
そこで,この特徴的部分を中心に本件登録意匠と被告意匠を対比した上 で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かについて判断するに,前記(1) ウ(ア)(1)ないし(6)認定のとおり,両意匠は,この特徴的部分において共通す るのみならず,それ以外の基本的構成態様及び具体的構\成態様の多くの部分 においても共通しており,需要者に対し,全体として共通の美感を生じさせ るものと認められる。 他方で,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,両意匠には,(1)本件登録意匠では, 本体底面に周辺機器に接続されるUSBコネクタが設けられているが,被告 意匠では,周辺機器に接続されるコードが断線防止部材を介在して,本体内 部の回路に接続されている点,(2)本件登録意匠では,本体の正面の形状が平 坦であるが,被告意匠では,中央部で周縁部よりも厚さの約0.03倍(約 0.5mm)程度膨出している点,(3)本件登録意匠では,ランプの中心が本 体右側面と底面からそれぞれ約17mmの均等な位置にあるのに対し,被告 意匠では,ランプの中心が本体底面から約12mmで,かつ,本体右側面か ら約16mmの位置にあり,本件登録意匠に比べて底面に寄った位置に設け られている点において差異があるが,これらの差異点は,需要者の注意をひ きやすい部分とはいえない上,差異点から受ける印象は,両意匠の共通点か ら受ける印象を凌駕するものではない。 したがって,本件登録意匠と被告意匠は,上記差異点を考慮しても,需要 者の視覚を通じて起こさせる全体的な美感を共通にしているものと認めら れるから,被告意匠は,本件登録意匠に類似している。これに反する被告の主張は,採用することができない。
以上を前提に検討するに,被告製品は,Docomo,SoftBank等の携帯 電話用のエーシーアダプタであり,一方,原告製品は,USBコネク タ(USBポート)を有するエーシーアダプタであり,上記携帯電話 の充電に使用する際には,上記携帯電話の接続口に対応したUSBケ ーブルが別途必要とされるものである。 ところで,エーシーアダプタが,携帯用の周辺機器の充電に用いる 実用品であると同時に,身の回りに置き,あるいは,外出時に携帯す るなど,日常生活において目に触れる機会の多い製品であること(前 記1(2)ウ(ア))に照らすならば,需要者は,エーシーアダプタの選 択に当たっては,充電可能な製品の種類,その他の性能\,価格,大き さ,重さのほか,デザイン,色などの諸要素を考慮するものと考えら れる。 しかるところ,原告製品と被告製品は,いずれもDocomo,SoftBank 等の携帯電話の充電に利用することができ,寸法,出力も概ね同じで あり,また,重さは原告製品の方が軽いが,ケーブルの有無が異なる から,ほぼ同程度と評価することができる。 さらに,原告製品とDocomo,SoftBank等の携帯電話用の接続ケーブ ルを合わせた価格(1360円から1753円)と被告製品の価格(1 279円から1453円)は,同じ価格帯に属するといえる。 そして,原告製品の本体の独特の丸みを帯びた印象を与えるデザイ ンは,このようなデザインを好む需要者が原告製品を選択する動機付 けになるものといえる。 他方で,(1)Docomo,SoftBank等の携帯電話のみを充電することがで きればよいと考える需要者にあっては,価格面でより安価であり,ケ ーブルが一体であって使い勝手のよい,被告製品の代替品を選択する 可能性が高いこと,(2)被告製品は,本体と一体となった接続ケーブル が本体と同色であるのに対し(甲50,乙7の1,弁論の全趣旨), 原告製品の本体の色によっては,市販されている接続用のUSBケー ブルと同色とはならないことから,この点を美観上好まず原告製品を 選択しない可能性があることが認められる。
b 次に,被告製品には,ピンク,レッド,ホワイト,ブルー,ブラッ ク等の色のバリエーションがあり(甲41ないし45,乙7の1), 原告製品にも,ホワイト,ブラック,シアンブルー,ピンク,バイオ レットの色のバリエーションがある(甲34)。 しかるところ,被告製品を購入した者が記載したインターネットの ショッピングサイト上のレビュー(利用者の感想)においては,「と にかくピンクがかわいいです。」(甲41),「見た目は真っ赤でお しゃれです。」,「赤なら自分の充電器かどうかわかりやすいのでは ないかという点にひかれて購入し」(以上,甲42)との記載がある ように,色が購入動機になっていることがうかがわれる。
c 前記a及びbの認定事実を総合すると,仮に被告による被告製品の 販売がされなかった場合には,被告製品の購入者の多くは,Docomo, SoftBank等の携帯電話用の被告製品と同種の接続ケーブルが一体と なった代替品を選択した可能性が高いものと認められる。\n また,本件登録意匠と類似する被告意匠は,被告製品の購入動機の 形成に寄与していることが認められるものの,その購入動機の形成に は,被告意匠のほか,被告製品がDocomo,SoftBank等の携帯電話用の 専用品であることが大きく寄与し,被告製品の色彩等(本体と接続ケ ーブルが同一色である点を含む。)も相当程度寄与しているものとう かがわれるから,被告意匠の購入動機の形成に対する寄与は,一定の 割合にとどまるものと認められる。 以上によれば,原告製品と被告製品の形態の違い,被告製品と同種 の代替品の存在,被告製品の購入動機の形成に対する被告意匠の寄与 が一定の割合にとどまることは,被告製品の譲渡数量の一部に相当す る原告製品を原告において「販売することができないとする事 情」(意匠法39条1項ただし書)に該当するものと認められる。 そして,上記認定の諸点を総合考慮すると,意匠法39条1項ただ し書の規定により控除すべき上記「販売することができないとする事 情」に相当する数量は,被告製品の販売数量(前記ア)の9割と認め るのが相当である。
(オ) 被告の主張について
a 被告は,Docomo,SoftBankの携帯電話用のエーシーアダプタが必要 な需要者は,当該機器が充電できればよいから,被告製品のようなエ ーシーアダプタと接続ケーブルとが一体となっている製品を選択し, 仮に被告製品が販売されなかったとした場合には,被告製品と同種の 廉価の代替品を購入するはずであり,あえて,別途上記携帯電話用の USBケーブルを必要とする原告製品を選択することはないのに対 し,他方で,多種の周辺機器の充電に用いるエーシーアダプタが必要 な需要者は,原告製品を選択することになるから,原告製品と被告製 品とでは,そもそも購入対象者が異なり,明確に棲み分けがされてい る旨主張する。 しかしながら,前記(エ)aに説示したとおり,両製品に共通する需 要者は,原告製品の丸みを帯びたデザインを重視するなどして,原告 製品を購入する可能性があるものと認められるから,被告の上記主張\nは,採用することができない。
b 次に,被告は,被告製品は,主にインターネットのショッピングサ イトで販売され,一体に接続されているケーブルを含めた全体につい て,正面から撮影された写真が掲載されているのみであり,また,被 告製品は,ほとんどその正面形状しか見えない状態でパッケージに梱 包されており,その意匠が需要者の購入動機に寄与することはなく, むしろ,インターネットのショッピングサイトにおける被告製品のレ ビューに照らしても,被告製品の購入動機となっているのは,被告意 匠ではなく,色である旨主張する。 しかしながら,被告製品が主にインターネットのショッピングサイ トで販売されていることを認めるに足りる証拠はないのみならず,被 告製品の梱包の態様(甲5,検甲1)やインターネットのショッピン グサイトの表示の態様(甲43ないし45)に照らすならば,需要者\nは,被告製品を購入するに当たり,被告製品の丸みを帯びたデザイン を看取することができるものと認められ,その意匠が需要者の購入動 機に寄与することがないとはいえない。 また,原告製品のレビューにおいて,「デザインが個人的に好きで すね。丸みがあり,艶々しています。」,「丸みを帯びたデザイン, 他機種と比較してかなり質感が高いです。」(以上,甲46),「そ のデザインと小ささ,軽さに大変満足しています。」,「iPodにマッ チしたデザインも気に入っている。」(以上,甲47)との記載があ り,これらの記載は,原告製品において,デザイン(意匠)が購入動 機となっていることを示すものといえる。加えて,被告意匠と本件登 録意匠と類似していることに照らすならば,被告意匠においても,色 のみならず,デザイン(意匠)も購入動機に寄与しているものと認め られる。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
オ 小括
以上によれば,意匠法39条1項により算出される原告の損害額は,被 告製品の販売数量(前記ア)に単位数量当たりの原告製品の利益額(前記 ウ(ウ))を乗じて得られた額である722万9506円から,「販売する ことができないとする事情」に相当する数量(上記販売数量の9割)に応 じた額を控除した後の72万2950円となる。
(2) 弁護士費用
本件事案の性質,審理の経過等諸般の事情を総合考慮すると,被告による 本件意匠権の侵害行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損 害は,20万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

◆本件意匠および被告製品です

◆公知意匠です

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平成28(ワ)7185  意匠権侵害差止請求事件  意匠権  民事訴訟 平成29年5月18日  大阪地方裁判所

 部分意匠の侵害事件において、非類似と判断されました。部分意匠については、少し違うだけでも非類似となりやすいですね。
 ア 以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的 構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,\n円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有 する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。 しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点 で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部があ る点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も円 形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において, 内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山 状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また, 本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に 形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の 上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されてい\nることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なる ものとしている。
イ 以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいず れも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存 在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体部を構\成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見え る外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けるこ とがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側 枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外 側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がよ り看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっ ていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,そ れぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を 生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。

◆判決本文

本件意匠・被告意匠などはこちらです。

◆別紙1

◆別紙2

◆別紙3

◆別紙4

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平成28(ワ)5739    意匠権  民事訴訟 平成29年2月7日  大阪地方裁判所

 フェイスマスクに関する意匠権侵害について、公知意匠との関係で、非類似と判断されました。
 ウ 本件意匠の要部の認定
美容用顔面カバーの用途,使用態様のほか,上記認定に係る公知意匠からすれば, 本件意匠の基本的構成態様は,本件意匠に係る物品である美容用顔面カバーにおい\nて,通常考えられる形態であって新規な形態とは認められず,本件意匠において新 規で創作性の認められる部分は,その具体的構成態様における以下の点,すなわち\n輪郭の形状において,こめかみから顎上部にかけて外形に沿った凸状の筋が設けら れている点,鼻部において,鼻の形状に合わせて両目付近から鼻尖部まで連続的に 隆起しており,隆起部分の脇に谷折りとなる略直線を構成する点,耳部において,\n耳を開口部の外形に沿って凸状の筋が構成されている点という具体的構\成にあると いえる。 そして,上記(1)の美容用顔面カバーの需要者が選択時に物品が顔にフィットす る形状であるかとともに,使用状態に影響する目,鼻及び口の部分の形状,さらに は装着のための耳掛け部の形状に注目することを考慮すれば,顔面にフィットする よう立体的に形成された美容用顔面カバーにおける鼻部の具体的な形状,耳掛け部 周辺の具体的形状が需要者の注意を最も惹く部分であり,これらが本件意匠の要部 であるといえる。
・・・
イ 差異点
具体的構成態様において,1)被告意匠は,額部において頂部がわずかに凹となっ ており,顎部において,中心部に逆V字の切れ込みを設けた曲線が構成されており,\n中央部の輪郭はこめかみから顎部に至るまで,輪郭に沿って凸状の筋が形成されて いるのに対し,本件意匠は,全体が凸の曲線であり,輪郭に凸状の筋がない点,2) 両目部において,その孔が,被告意匠は横長楕円形で両端が尖っているのに対し, 本件意匠は横長楕円形である点,3)鼻部において,被告意匠は,両目部の孔の内側 付近から鼻尖部付近まで連続的に隆起し,正中線に沿ったその頂点の折り込み線が 鼻梁を構成しているのに対し,本件意匠は,なだらかに隆起しており,鼻尖部は丸\n型であって,明確な鼻梁が認識できない点,4)耳部において,その孔が,被告意匠 は,縦長のハート型であるのに対し,本件意匠は,縦長の変形略楕円である点,5) 口部において,その孔が,被告意匠は,顔の中心線に線対称の横長のハート型で設 けられているのに対し,本件意匠は,横長の略楕円形である点において相違してい る。
ウ 以上により検討するに,被告意匠と本件意匠の上記イ認定の差異点は,上記 (3)で認定した本件意匠の要部にもかかわるものであると認められる。そして,その 中でもとりわけ,被告意匠は,鼻部において,両目部の孔の内側付近から鼻尖部ま で連続的に隆起し,正中線に沿ったその頂点の折り込み線が,明確な鼻梁を構成し\nている上,両目部の両端,あるいはハート形である口部に尖った形状の部分が現れ ることも合わさって,全体に鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象となっている といえるのに対し,本件意匠は,鼻尖部が丸型であり,また鼻梁を明確に認識でき ないだけでなく,両目部及び口部がいずれも単純な楕円形であることから,全体に のっぺりとした印象を与えるものであるといえ,これらから,両意匠を全体的に観 察した場合,看者である需要者に与える印象は異なっているということができる。 したがって,両意匠は類似するということはできないというべきである。

◆判決本文
 

◆本件意匠はこちら

◆被告意匠はこちら

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平成28(ワ)13870  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成29年1月31日  東京地方裁判所

 意匠権侵害において、類似しない、かつ、間接侵害も成立しないと、判断されました。
 上記事実関係によれば,運搬台車を購入しようとする建設会社等の需要 者及びこれを使用する作業員らは,斜め上方から台車本体の載置面を見る だけでなく,車輪の取付態様その他底面の構成を観察するものと解される。\nまた,本件意匠に係る運搬台車又は被告製品の台車本体を斜め上方から見 る際には,載置面の表面だけでなく,凹部から車輪取付板の形状を認識す\nるということができる。なお,この点に関し,原告は,斜め上方からでは 凹部の底にある車輪取付板は視認できない旨主張するが,その主張の裏付 けとする写真(甲28)は,台車から約2m離れた地点において,約1m の高さから撮影したものであり,作業員らが通常の使用態様においてその ような位置のみから台車を観察するとは解し難いから,原告の主張は失当 というべきである。 そうすると,本件意匠及び被告意匠においては,原告が要部であると主 張する載置面の天板の形状等だけでなく,凹部上方から視認される車輪取 付板の形状及び底面視における車輪の取付態様や台車の骨格等も,これに 接した者の注意を引くと認められる。そして,前記ウのとおり,本件意匠 と被告意匠はこれらの点が相違するのであり,これにより両意匠から需要 者が受ける印象が異なるということができるから,前記ウの共通部分を踏 まえても,全体として異なる美感を生じさせると解される。
・・・・
原告は,被告製品は四隅に手押し棒(単管パイプ)を立設する態様でのみ使 用されるから,被告意匠が手押し棒の有無により本件意匠に類似しないとして も間接侵害(意匠法38条1号)が成立する旨主張する。 そこで判断するに,手押し棒を除いても本件意匠と被告意匠が類似するとい えないことは前項で判示したとおりであるが,これに加え,証拠(乙12〜1 5,18〜20,34)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のような載置面 が平板な台車は,四隅に手押し棒を立設する態様のほか,手押し棒を2本立設 する態様,手押し棒を立設しない態様等でも建設現場における資材の運搬等の 用に供されると認められる。

◆判決本文

◆本件登録意匠です

◆被告意匠です。

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平成28(行ケ)10167  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成29年1月24日  知的財産高等裁判所

 箸の持ち方矯正具について、非類似であるとした審決が維持されました。引用意匠は箸全体のもので、取り外しできないと判断されました。(第2部)
 原告は,B上リング状部とB下リング状部とが,上下に分離し,箸本体から取り 外し可能であると主張する。\nB上リング状部とB下リング状部(いずれも,リング部と円筒状取付部分から成 るものとして認定されている。)から成るBリング状部は,引用意匠3そのものであ り,甲2においては,保持ユニット120(人差し指挿入穴121と中指挿入穴1 22を有する。)とされている。そして,保持ユニット120は,甲2に記載された 発明としては,箸本体とは別体の部品として構成されている。しかしながら,甲2\nの記載内容を見ても,保持ユニット120が位置調節に用いられるものであること は認められるとしても,B上リング状部とB下リング状部とが2つに分離し,また, 第2箸部材から取り外せることができるか否かを,甲2の図面から読み取ることが できず,更に進んで明細書の記載を参酌しても,この点は不明である。したがって, B上リング状部とB下リング状部とが,上下に分離し,箸本体から取り外し可能で\nあるか否か不明であるとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,甲2(特許公報)に係る公表特許公報である甲8(特表\2004−53 8074号公報)の記載内容を斟酌すれば,B上リング状部とB下リング状部とが 上下に分離し,箸本体から取り外し可能であることが分かると主張する。\nしかしながら,本件において意匠が記載された「頒布された刊行物」とされたの は甲2のみであり,これとは異なる刊行物である甲8に記載された意匠が,甲2に 記載された意匠になるものでないことは明らかであり,原告の上記主張は,失当で ある(なお,甲8は,明細書と図面とが対応していないなど多数の齟齬を含み,そ の記載内容は不明確である。)。仮に,甲8の【図5】と題する図面が,B上リング 状部とB下リング状部とが上下に分離し,取り外し可能であることを示すものと理\n解するとしても,甲8に記載された発明の特徴的部分とは認められない構成を,甲\n2に記載された特許発明が有する必然性もなく,結局,上記の点が甲2に記載され ているとは認められない。

◆判決本文

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平成28(行ケ)10133  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成29年1月17日  知的財産高等裁判所

 吸入器の意匠について、類似するとした審決が取り消されました。理由は、マウスピースカバー部が透明で着色されているので、マウスピース部に注意が向けられるというものです。
 前記アのとおり,本願意匠のマウスピース部の端部には,端壁が設けられ, その中央に円形孔が形成されている。しかも,本願意匠のマウスピースカバー部は, 着色されているから,マウスピース部に注意が向けられるものであって,さらに透 明であることから,マウスピースカバーを開けたときも閉めたときも,その円形孔 を観察することができる。そして,その円形孔は,本体部に貯蔵された薬剤を患者 に噴出させる速度,方向等に影響を与えるのであるから,この点は,特に機能を重\n視する医療関係者に対し,強い印象を与えるものということができ,患者について も同様である。
(イ) これに対し,引用意匠のマウスピース部の端部は,端壁がなく,単に筒状 のまま大きく開口したものであり,マウスピースカバー部は,不透明であるところ, マウスピース部の端部に端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した態様の吸入器 は,従来から見られたものであり(甲4),ありふれたものである。
(ウ) なお,証拠(乙1〜3)によれば,使用者が本体部を持って,マウスピー ス部から薬剤を吸引するための吸入器において,マウスピース部に端壁を設け,薬 剤出口孔を形成した態様のものが,特許公報に記載されていることは認められる。 もっとも,当該吸入器の全体の形態は,本願意匠のように「へ」の字形状になって いる吸入器の全体の形態とは大きく相違するから,それぞれのマウスピース部の端 部の形状が有する印象は,本願意匠に係るそれとは相違するものである。したがっ て,上記特許公報の記載をもって,本願意匠に係る形態を有する吸入器において, マウスピース部に端壁を設け,薬剤出口孔を形成したものがありふれていたという ことはできず,マウスピース部の端部が需要者の注意を惹く部分でないということ はできない。
(エ) 以上によれば,本願意匠のマウスピース部の端部に端壁が設けられ,その 中央に円形孔が形成されている点は,マウスピースカバー部が透明で着色されてい ることと相まって,最も強く需要者の注意を惹く部分であり,本願意匠におけるこ の点は,需要者である患者及び医療関係者の視覚を通じて起こさせる美感に大きな 影響を与えるというのが相当である。
ウ その余の具体的構成態様について
一方,本願意匠の具体的構成態様のうち,マウスピース部の形状が断面略紡錘形\nであって,その奥行きが本体部の奥行きの約2分の1の長さであり,マウスピース カバー部の形状が全体的に少し先細りしたカップ型であり,これらに本体部を含め た形状が,左右両側面については平坦面,それ以外の面については,本体部の上端 面を除き,凸弧状面又は凹弧状面であって丸みを帯びるという形態は,吸入器にお いて従来から見られたものである(甲4)。また,本願意匠において,マウスピー ス部の上方に突出片を備え,マウスピースカバー部の正面の底部寄りに左右方向に わたる帯状凹部を形成する形態は,吸入器に配設されたマウスピース部の機能上要\n請されるものであるから,その形態は限定されるものであるし,意匠全体に占める 割合も小さなものである。さらに,本願意匠において,本体部の上端面を凸弧状面 とし,本体部の中間部の全周にわたり一条の線を表し,その下方背面に窓部等を備\nえるという形態は,吸入器の本体部の上端面,中間部,下方背面にそれぞれ離れて 位置しており,一体的に観察されるものではなく,その形態をみても,意匠的まと まりを形成するものではない。 したがって,本願意匠の具体的構成態様のうち,以上に掲げた各形態は,需要者\nである患者及び医療関係者の注意を惹く部分であるということはできず,引用意匠 と類似するその余の具体的構成態様についても,同様である。
(4) 両意匠の類否
以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との 関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及 び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与 えるものである。 したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい て,本願意匠は,その中央に円形孔が形成された端壁を設けたものであるのに対し て,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した点は,マウスピース カバー部が透明で着色されていることと相まって,需要者である患者や医療関係者 の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるものであり,それ以外 の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきである。 よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。

◆判決本文

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◆平成28(行ケ)10134

◆平成28(行ケ)10135

◆平成28(行ケ)10136

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平成28(行ケ)10153  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成29年1月11日  知的財産高等裁判所

 公知意匠に類似するとして、3条1項3号で無効とされた審決が維持されました。
 原告は,差異点(イ)に相当する凹凸形状の違い(本件登 録意匠のそれは山型であるのに対し,引用意匠1のそれは波型である点) を強調して,1)両意匠の本体部及び蓋部の外観を具体的に把握すれば,そ れぞれに統一感は生じているものの,それぞれが看者に与える印象は全く 別異のものであって,その差異を凌駕するような両意匠の共通感を看取す ることができない,2)引用意匠1と同様の形状であるバケツについては, 「腰掛け」や「簡易スツール」としての用途・機能も積極的に紹介されて\nおり,また,水を入れる際に直接手で触れたり,水位を確認する際に至近 距離から目にしたりすることも多いのであるから,凹凸形状の違いは「微 弱」な差異などではない,3)本件登録意匠の出願前から,本体部及び蓋部 の外観全体に凹凸形状が形成されたバケツが既に複数公知となっているこ とから,単に「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は, 本件登録意匠と引用意匠1のみに存在する共通点ではないなどと主張する。 しかし,1)については,前記のとおり,両意匠の凹凸形状がいずれも細 い筋状のものであり,これが本体と蓋を含む外観全体に一様に施されてい る点にこそ,両意匠の特徴が認められるのであって,これと比較すれば, 原告が指摘する凹凸形状の違いは,細部における差異にすぎず,「それぞ れが看者に与える印象は全く別異のものであ」ると感じさせるほどに特徴 的であるとは認められない。2)についても,たとえ引用意匠1に係るバケ ツが腰掛け等として使われることがあったとしても,バケツである以上, 第一次的な用途が水を入れること,あるいは,物の運搬,収納,保管等に あることは明らかであるし,その性質や用途からして,看者(需要者)が まず全体的な形状に着目し,これを俯瞰的にみることが多いことも明らか である。3)の主張は,要するに,「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状 が形成された」点は,本件登録意匠の出願前に既に複数公知であるから, 類否判断を行う上で重視すべきではないとの主張と解されるが,複数公知 になるだけで直ちに意匠上の要部でなくなるとはいえず(ヒット商品こそ, 往々にして模倣品が現れることを考えれば当然である。),飽くまで上記 の点が本体部と蓋部の外観全体を通じて統一感を感じさせる独特の形態で あって,意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し(こ のような評価を否定するに足りるほど,上記の点が陳腐化していたことを 認めるに足りる証拠はない。),看者の注意を強くひく構成態様であると\n評価される以上,これを両意匠に共通してみられる特徴的部分であるとし て類否判断を行うことは当然である。 したがって,差異点(イ)に相当する凹凸形状の違いは,共通点(A) ないし(C)が物品の外観全体にもたらす効果を凌駕し,差異性を際立た せるほどの特徴であるとは認められず,類否の判断要素としては,副次的 な要素にすぎないといわざるを得ない。 また,原告は,機能的な面からすれば,取っ手の両端部の態様や,引用\n意匠1の取っ手部に設けられた円形状孔部の存在(差異点(ア)),蓋部 の突起部及び補強用のリブの有無といった蓋部の裏面における違い(差異 点(ウ))も軽視できず,また,様々なカラーバリエーションがあること からすれば,取っ手の明暗調子の違い(差異点(エ))も軽視できないな どと主張するが,これらの差異も,両意匠を全体としてみれば,部分的な 差異や目立たない部分における細かな差異にすぎないことは明らかであっ て,共通点(A)ないし(C)が物品の外観全体にもたらす効果を凌駕し, 差異性を際立たせるほどの特徴であるとは認められず,類否の判断要素と しては,飽くまで副次的な要素にすぎないというべきである。

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◆本件意匠はこちらです

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平成28(行ケ)10126  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成28年12月21日  知的財産高等裁判所

 類似意匠とした拒絶審決が取り消されました。審決では、透けて見えるにすぎないマウスピース部の端部の態様と認定されましたが、裁判所は、注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与える部分と認定しました。判決文の最後に両意匠があげられています。
 以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との 関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及 び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与 えるものである。 したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい て,本願意匠は,その中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端 壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大き く開口した点は,マウスピースカバー部が透明で着色されていることと相まって, 需要者である患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起 こさせるものであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないと いうべきである。 よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。
3 被告の主張について
被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入\n時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウ スピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウス ピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにそ の先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものである,マウス ピースカバー部の着色はごく普通に行われるものである,などとして,マウスピー スの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると主張する。 しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観 察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察す\nるものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても, マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということ はできない。また,マウスピースカバー部の着色が従来から見られたものであって, それ自体がありふれたものであったとしても,本願意匠においては,透明で着色さ れたマウスピースカバー部の存在によって,マウスピース部の端部の形態により注 意が向けられ,引用意匠に類似しないとの評価につながるものである。被告の前記 主張は採用できない。

◆判決本文

関連事件はこちらです。

◆平成28(行ケ)10125

◆平成28(行ケ)10127

◆平成28(行ケ)10128

◆平成28(行ケ)10129

◆平成28(行ケ)10130

◆平成28(行ケ)10131

◆平成28(行ケ)10132

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