二輪車のタイヤの意匠について、類似するとした審決が取り消されました。
被告は,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点に加え,各溝が並ぶ順番,長中二つの傾斜溝の形状と屈曲の方向,中傾斜溝の長さと位置を一体の共通点Aとして捉え,これらのすべてを満たす公知意匠が存在しないことから,それらを一体として審決が認定した共通点Aは,引用意匠との対比において類否判断に支配的な影響を及ぼすと主張する。しかしながら,「いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点」は,特定の単位の繰返しという意匠全体の構成に関する基本的な態様であるということができるものの,上記のとおり,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,各溝の並ぶ順番(溝の長さは相対的な評価なので,溝の長さが変化すると,溝の並ぶ順番も変化し得る関係にある。)や,長傾斜溝,中傾斜溝の形状等については,繰返しの単位内における個別的な形状に関するものとして,取引者・需要者の注意を引く特徴的な形態となり得るものである。
(2) 両意匠の類否判断
上記観点から両意匠を対比するに,本願意匠は,全体として,三つの溝が略等距離を保ち,整然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝につき,溝間の距離に大きな変化はなく,また,いずれも端部と折曲部との間の長い辺部分が略直線状で,サイドウォール寄り端部も斜辺状,すなわち直線状であって,赤道寄り端部は小半円弧状であるものの,端部に向けて溝幅が狭くなることから鋭角的な印象を与え,折曲部の角部も明確であり,短溝についても,長さが短いため,中傾斜溝との溝間の距離の変化を感じさせず,また,端部及び端部を結ぶ辺部分がいずれも略直線状である点に特徴がある。これに対し,引用意匠は,本願意匠と対比してみるときには三つの溝が1単位となっているように観察されるものの,引用意匠それ自体を観察する限りにおいては,全体として,三つの溝がまとまりなく,雑然と配置されている印象を与える点に特徴がある。個別的には,長傾斜溝と中傾斜溝との溝間の距離の変化が大きく,また,三つの溝につき,いずれも一方の端部が毛筆書体における横棒の入り様とした形態であって,足のかかと様に出っ張った部分があり,かつ,この部分の溝幅が広がっていることなどから,当該端部がねじれている印象を与え,さらに,長傾斜溝は他方の端部も丸みを帯びた斜辺の突端をわずかに屈曲させた形状であり,中傾斜溝は溝全体が緩やかに湾曲した形状であり,短溝は毛筆書体における横棒の入り様とした形態が溝全体の約3分の1を占め,他方の端部もわずかに丸みを帯びた斜辺状であって,統一感なくねじれた印象を与える点に特徴がある。上記のとおり,本願意匠の三つの溝は,溝縁が直線であり,端部に向けて溝幅が細くなることから,看者に対し,一方の先端がとがった細い直線により構成され,無機的であり,かつ,非常にすっきりとして,サイドウォールから赤道に向けて流れる印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。これに対し,引用意匠の三つの溝は,全体として,基本的に溝幅に変化がないことも相まって,看者に対し,同じ幅の溝が曲線的にねじ曲がった印象,例えていえば,先端の丸まった筒状の細菌あるいは細胞をまとまりなく配した印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。\n
◆判決本文