2019.12.11
令和1(行ケ)10089 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和元年11月26日 知的財産高等裁判所
知財高裁4部は、「星形の抜き穴を,薄い円形板に千鳥状の配置態様になるように19個形成する」ことは、創作性無しとの審決を維持しました
意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的モチーフとして意匠登
録出願前に日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色
彩又はこれらの結合を基準として,当業者が容易に創作をすることができ
る意匠でないことを登録要件としたものであることに照らすと,意匠登録
出願に係る意匠について,上記モチーフを基準として,その創作に当業者
の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性があるものと認められな
い場合には,当業者が容易に創作をすることができた意匠に当たるものと
して,同項の規定により意匠登録を受けることができないものと解するの
が相当である(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第
三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第8
2号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参
照)。
これを本願意匠についてみるに,前記1認定のとおり,本願意匠は,薄
い円形板に,角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を,
同一の方向性に向きを揃え,各抜き穴の中心部を結んだ線のなす角度が6
0°となるような千鳥状(「60°千鳥」)の配置態様で19個形成した
「押出し食品用の口金」の意匠であり,また,本願意匠に係る「押出し食
品用の口金」は,主にステンレス製の薄板で作成され,ハンディーマッシ
ャー(押し潰し器)等に装着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し
出すことができるものであり,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を
設けた上記調理器具に装着して使用されるものである。
しかるところ,前記(1)ア及びイの認定事実によれば,本願意匠に係る「押
出し食品用の口金板」の物品分野においては,抜き穴から食品を棒状に押
し出す調理器具に使用される金属製の円形板の口金板に設けられた,角部
に面取りを施した5つ又は6つの凸部からなる星形の抜き穴の形状は,本
願の出願当時,公然知られていたことが認められる。
加えて,前記(1)エ(エ)認定のとおり,板状の金属材料にデザイン性を持
たせるため,60°千鳥の配置態様で,複数個の「抜き孔」を設けること
は,本願の出願当時,ごく普通に行われていたことであり,当業者にとっ
てありふれた手法であったこと,19個の抜き穴を千鳥状に配置する形状
は公然知られていたこと(例えば,意匠3)に照らすと,本願意匠は,本
願の出願当時,円形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取
りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業
者にとってありふれた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを
揃えて,60°千鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないもの
といえるから,本願意匠の創作には当業者の立場からみた意匠の着想の新
しさないし独創性があるものとは認められない。
したがって,本願意匠は,本願の出願前に公然知られた形状の結合に基
づいて,当業者が容易に創作をすることができたものと認められる。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,本願意匠は,星形の抜き穴を1枚の無垢の円形板
に複数個,均等に穿設する際に,円形板と,整列した抜き穴が構成す\nる図形と,抜き穴のない周縁部分が,唯一無二の美感を与えるように,
個々の抜き穴のサイズを決定し,抜き穴の数を19個とし,これを千
鳥状に配置したものであり,本願意匠は,抜き穴のうち外側に配置され
た抜き穴が形成する正六角形と,その外側の蒲鉾状の周縁部分及び円
形板の円形の全てが,円形板の中心点を中心として均等に整然と配置
され,落ち着きと,併せてリズム感ないし安定性を表現している,こ\nれにより,本願意匠は,独特の美感をもたらし,これまでにない美感
を看者に与えるものであるから,本願意匠の創作には当業者の立場から
みた意匠の着想の新しさないし独創性があるとして,本願意匠は,本願の
出願前に公然知られた形状の結合に基づいて当業者が容易に創作をするこ
とができたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,本願意匠は,本願の出願当時,円
形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取りを施した5つの
凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業者にとってありふ
れた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを揃えて,60°千
鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないものである。
そして,前記1(2)認定のとおり,本願意匠に係る物品「押出し食品用の
口金」は,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を設けた調理器具に装
着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し出すことができるものであ
ることに照らすと,調理器具の環状縁部と当接する口金の周縁部分に抜き
穴を形成することができない余白部分が生じ得ることは,当業者であれば,
当然想定するものといえる。また,円形板の口金に,角部に面取りを施し
た5つの凸部からなる星形の抜き穴を,同一の方向性に向きを揃えて,6
0°千鳥の配置態様で19個配置する場合には,円形板の直径と円形板に
配置する星形の抜き穴に外接する円形の直径の比率,抜き穴と抜き穴の中
心間隔(ピッチ)等に応じて,口金の周縁部分の余白部分の大きさは一定
の範囲内のものに収まること,円形板の中心に星形の抜き穴を配置し,こ
れを中心点として19個の星形の抜き穴を60°千鳥に配置した場合,外
側に配置された星形の抜き穴の周縁部側の凸部先端をそれぞれ直線で結ん
だ図形は正六角形となり,この図形と円形板の外周とで形成される余白部
分が蒲鉾状となることは自明であることに照らすと,別紙第1記載の本願
意匠の余白部分の形状の創作に着想の新しさないし独創性は認められない。
◆判決本文
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2019.08. 2
平成30(行ケ)10148 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成31年4月18日 知的財産高等裁判所(2部)
審決、裁判所とも「盆茣蓙」から「卓上敷マット」への転用が創作容易(3条2項)と判断しました。
イ 次に,本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」の物品分野の当業者
が,慶弔用品の分野における意匠1及び意匠2の形態を「卓上敷マット」に転用す
ることを容易に想到するかどうかについて検討する。
(ア) 「卓上敷マット」は一般のテーブルや机に敷かれるものを含む日常生
活に用いられる物品である一方,証拠(乙2〜4,17,18)及び弁論の全趣旨
によると,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」は,現在では主として盆の時
期に精霊棚や仏壇の前に置く経机や小机の上に敷き,上に位牌やお供え物などを置
く慶弔用品の分野の物品であり,その物品分野は「卓上敷マット」とは異なるもの
である。
しかし,いずれもテーブルや机という「卓」(乙1によると,「卓」にはテーブル
や机が含まれると認められる。)の上に敷かれて使用されるものであるという点で
その用途が共通している。また,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」の形状
は,いずれも「卓上敷マット」と同じマット状であり,上に物を載置することがで
きる点においてその機能が共通している。\n
(イ) そして,証拠(乙5〜8,12〜15)及び弁論の全趣旨によると,
本願の出願日前において,「盆茣蓙」のような慶弔用品と「卓上敷マット」を含むテ
ーブル掛けなどの物品が,同一の見本市などに出品されることがあり,「卓上敷マッ
ト」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者が,「盆茣蓙」のような慶弔用品の
形態に接する機会は十分あったものと認められる。\n
(ウ) 以上を考え併せると「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品
分野の当業者は,物品分野は異なるものの,意匠1から着想を得て,真菰を並べて
形成された「卓上敷マット」を想到し,更に真菰を並べて形成された慶弔用品の「盆
茣蓙」である意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に転用す
ることを容易に想到することができたと認められる。
なお,「卓上マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野と「盆茣蓙」などの慶弔
用品の物品分野では,常に物が載置されるかどうかや一定の時期にのみ使用される
かどうかに違いがあるとしても,これらの違いは,上記認定の用途や機能の共通性\nに比べるとささいな違いというほかなく,上記判断が左右されることはない。
ウ 原告は,1)「盆茣蓙」と「卓上敷マット」とは,用途や機能が異なって\nいて非類似であること,2)意匠1や意匠2のような真菰で形成されたマットは,慶
弔用品で仏具の上に敷かれるものであるところ,日常生活で使用されている机に慶
弔用品を祀ることは,浄・不浄の概念からもあり得ないこと,3)前記ギフトショー
についての審決の論理を前提とすると,百貨店などであらゆる商品が同スペースで
展示されていることから,全てのあらゆる物品分野間で創作容易性が肯定されてし
まうこと,4)自らの商品デザインにつき異業種商品のデザインを盗用することは信
義に反すること,5)慶弔用品としての真菰で形成された「盆茣蓙」に接した取引者,
需要者は,「盆茣蓙」の上にあるお供え物に注目することなどを理由として,「盆茣
蓙」についての形態を「卓上敷マット」に転用することを考えないと主張する。
(ア) 上記1)について,前記1で説示したとおり,意匠法3条2項は,物品
との関係を離れた抽象的な公然知られたモチーフを基準として,当業者の立場から
みた意匠の着想の新しさや独創性を問題とするものであるから,物品が非類似であ
ることが直ちに創作が容易でないことに結びつくものではない。そして,本件で転
用を容易に想到できることは前記イのとおりである。
(イ) 上記2)について,原告の主張は,「盆茣蓙」が慶弔用品であって,宗教
的感情によって転用が妨げられるというものであると解されるが,証拠(乙2)に
よると,「盆茣蓙」について,かつては,「丁半博打で,壺を伏せる場所へ敷くござ」
という慶弔用品以外の用途もあったと認められる上,前記イ(ア)認定の用途や機能の\n共通性に照らすと,宗教的感情によって当業者における意匠1及び意匠2の形態の
転用が妨げられるとは解されない。
(ウ) 上記3)について,前記イの判断は,見本市などにおいて,慶弔用品と
「卓上敷マット」を含む物品が出品されていることのみを理由とするものではなく,
前記イ(ア)認定の用途や機能の共通性も理由としているから,全てのあらゆる物品分\n野間で形態の創作容易性が認定されてしまうことにはならない。
(エ) 上記4)について,本願意匠に創作容易性を認めたからといって,デザ
インの盗用を認めることにはならず,デザインの盗用とは関係がない。
(オ) 上記5)について,創作容易性の基準となるは取引者,需要者ではなく,
「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者であって,その視点
や着眼点が取引者,需要者と同じとはいえず,また,当業者において転用を容易に
想到できることは前記イのとおりである。
(カ) 以上からすると,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 相違点1,2についての判断
前記(1)のとおり,意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に
転用することは容易であると認められるから,次に,前記4で認定した意匠2と本
願意匠との相違点1,2について,創作が容易であるかについて検討する。
ア 相違点1について,証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によると,「卓
上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者にとって,「卓上敷マット」
の縦横比を必要に応じて適宜調整することはありふれた手法であると認められる。
したがって,意匠2の平面視略横長長方形の縦横比を本願意匠の縦横比に変更す
ることについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとはいえない。
イ 相違点2について,本願意匠と意匠2で用いられている編み糸の色彩自
体に違いはなく,本願意匠の構成は,意匠2の構\成から紫色の糸と赤色の糸の配置
を入れ替えたにすぎないものである。また,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨による
と,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野において,色彩を適宜変更
することはよく見られる手法であると認められる。
そうすると,意匠2の5本の編み糸のうち,紫色の糸と赤色の糸の配置を入れ替
えて本願意匠の構成にすることについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとは\nいえない。
ウ 以上からすると,本願意匠は,意匠2の形態に基づいて,当業者におい
て容易に創作できたものと認められる。
エ 原告は,本願意匠と意匠2との間には,縦横比や5本の編み糸の色彩と
いった,共通点を凌駕し得る非常に重要かつ大きな特徴的相違があるから,本願意
匠と意匠2は非類似であり,意匠2の形態に基づいたとしても,本願意匠は,当業
者において容易に創作できないと主張する。
しかし,前記1のとおり,意匠法3条2項は,公然知られたモチーフを基準とし
て,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を問題とする規定であって,
物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とする同条1項3
号とは考え方の基礎を異にするものである。したがって,意匠法3条1項3号の類
似性の判断と同条2項の創作容易性の判断とは必ずしも一致しないものである。そ
して,これまでに検討してきたところに照らすと,本願意匠と意匠2の相違点1,
2は,いずれも「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者であれ
ば容易に創作できたものであるといえ,これに反する原告の主張を採用することは
できない。
◆判決本文
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◆平成30(行ケ)10147
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2019.07. 5
平成30(行ケ)10181 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和元年7月3日 知的財産高等裁判所(1部)
部分意匠について、新規性無しの無効審判が請求されましたが、審決・裁判所とも非類似と判断しました。
本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワ
ー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けら
れており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。
そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と
の共通点及び相違点は,次のとおりである。
前記の認定(1(1)(2))によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機
器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中
心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よ
りも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,
中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面
が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。
他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられ
た後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンク
であるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィ
ンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフ
ィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1の
フィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,
i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意
匠1では約3分の1である点においても相違する。
ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は視覚を通じて起こさせる美観が
縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ)また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,1)本件
意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であ
るのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという
点,2)本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍で
あるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,
3)本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中
央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体
の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,こ
れらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1
とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
エ よって,取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内
又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準と
して,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容
易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件
の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場か
らみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第
45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和4
8年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号28
7頁参照)。
イ 検討
これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられてい
る,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認
めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容
易であるとはいえない。
また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相
違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証\n拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事
由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づ
き本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。
イ 検討
しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられている
のに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に
並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べ
ることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3
に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。
また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,1)本件意匠が,
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対
し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,2)本
件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるの
に対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,3)本件
意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の
厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体の直径
が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの
相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記(1)のとおりである。そして,タワー型
ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み
合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点4)に係る本
件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことか\nらすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至
らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
◆判決本文
本件の侵害事件です。
◆平成28(ワ)12791
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2019.04.24
平成30(行ケ)10148 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成31年4月18日 知的財産高等裁判所
意匠法3条2項が争われました。争点は、慶弔用品の分野における意匠の形態を「卓上敷マット」に転用できるか否かでした。知財高裁(2部)は、「転用できる」とした審決を維持しました。
本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」の物品分野の当業者
が,慶弔用品の分野における意匠1及び意匠2の形態を「卓上敷マット」に転用す
ることを容易に想到するかどうかについて検討する。
(ア) 「卓上敷マット」は一般のテーブルや机に敷かれるものを含む日常生
活に用いられる物品である一方,証拠(乙2〜4,17,18)及び弁論の全趣旨
によると,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」は,現在では主として盆の時
期に精霊棚や仏壇の前に置く経机や小机の上に敷き,上に位牌やお供え物などを置
く慶弔用品の分野の物品であり,その物品分野は「卓上敷マット」とは異なるもの
である。
しかし,いずれもテーブルや机という「卓」(乙1によると,「卓」にはテーブル
や机が含まれると認められる。)の上に敷かれて使用されるものであるという点で
その用途が共通している。また,意匠1の「マット」や意匠2の「盆茣蓙」の形状
は,いずれも「卓上敷マット」と同じマット状であり,上に物を載置することがで
きる点においてその機能が共通している。\n
(イ) そして,証拠(乙5〜8,12〜15)及び弁論の全趣旨によると,
本願の出願日前において,「盆茣蓙」のような慶弔用品と「卓上敷マット」を含むテ
ーブル掛けなどの物品が,同一の見本市などに出品されることがあり,「卓上敷マッ
ト」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者が,「盆茣蓙」のような慶弔用品の
形態に接する機会は十分あったものと認められる。\n
(ウ) 以上を考え併せると「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品
分野の当業者は,物品分野は異なるものの,意匠1から着想を得て,真菰を並べて
形成された「卓上敷マット」を想到し,更に真菰を並べて形成された慶弔用品の「盆
茣蓙」である意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に転用す
ることを容易に想到することができたと認められる。
なお,「卓上マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野と「盆茣蓙」などの慶弔
用品の物品分野では,常に物が載置されるかどうかや一定の時期にのみ使用される
かどうかに違いがあるとしても,これらの違いは,上記認定の用途や機能の共通性\nに比べるとささいな違いというほかなく,上記判断が左右されることはない。
ウ 原告は,1)「盆茣蓙」と「卓上敷マット」とは,用途や機能が異なって\nいて非類似であること,2)意匠1や意匠2のような真菰で形成されたマットは,慶
弔用品で仏具の上に敷かれるものであるところ,日常生活で使用されている机に慶
弔用品を祀ることは,浄・不浄の概念からもあり得ないこと,3)前記ギフトショー
についての審決の論理を前提とすると,百貨店などであらゆる商品が同スペースで
展示されていることから,全てのあらゆる物品分野間で創作容易性が肯定されてし
まうこと,4)自らの商品デザインにつき異業種商品のデザインを盗用することは信
義に反すること,5)慶弔用品としての真菰で形成された「盆茣蓙」に接した取引者,
需要者は,「盆茣蓙」の上にあるお供え物に注目することなどを理由として,「盆茣
蓙」についての形態を「卓上敷マット」に転用することを考えないと主張する。
(ア) 上記1)について,前記1で説示したとおり,意匠法3条2項は,物品
との関係を離れた抽象的な公然知られたモチーフを基準として,当業者の立場から
みた意匠の着想の新しさや独創性を問題とするものであるから,物品が非類似であ
ることが直ちに創作が容易でないことに結びつくものではない。そして,本件で転
用を容易に想到できることは前記イのとおりである。
(イ) 上記2)について,原告の主張は,「盆茣蓙」が慶弔用品であって,宗教
的感情によって転用が妨げられるというものであると解されるが,証拠(乙2)に
よると,「盆茣蓙」について,かつては,「丁半博打で,壺を伏せる場所へ敷くござ」
という慶弔用品以外の用途もあったと認められる上,前記イ(ア)認定の用途や機能の\n共通性に照らすと,宗教的感情によって当業者における意匠1及び意匠2の形態の
転用が妨げられるとは解されない。
(ウ) 上記3)について,前記イの判断は,見本市などにおいて,慶弔用品と
「卓上敷マット」を含む物品が出品されていることのみを理由とするものではなく,
前記イ(ア)認定の用途や機能の共通性も理由としているから,全てのあらゆる物品分\n野間で形態の創作容易性が認定されてしまうことにはならない。
(エ) 上記4)について,本願意匠に創作容易性を認めたからといって,デザ
インの盗用を認めることにはならず,デザインの盗用とは関係がない。
(オ) 上記5)について,創作容易性の基準となるは取引者,需要者ではなく,
「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者であって,その視点
や着眼点が取引者,需要者と同じとはいえず,また,当業者において転用を容易に
想到できることは前記イのとおりである。
(カ) 以上からすると,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 相違点1,2についての判断
前記(1)のとおり,意匠2の形態を本願意匠に係る物品である「卓上敷マット」に
転用することは容易であると認められるから,次に,前記4で認定した意匠2と本
願意匠との相違点1,2について,創作が容易であるかについて検討する。
ア 相違点1について,証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によると,「卓
上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野の当業者にとって,「卓上敷マット」
の縦横比を必要に応じて適宜調整することはありふれた手法であると認められる。
したがって,意匠2の平面視略横長長方形の縦横比を本願意匠の縦横比に変更す
ることについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとはいえない。
イ 相違点2について,本願意匠と意匠2で用いられている編み糸の色彩自
体に違いはなく,本願意匠の構成は,意匠2の構\成から紫色の糸と赤色の糸の配置
を入れ替えたにすぎないものである。また,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨による
と,「卓上敷マット」を含むテーブル掛けなどの物品分野において,色彩を適宜変更
することはよく見られる手法であると認められる。
そうすると,意匠2の5本の編み糸のうち,紫色の糸と赤色の糸の配置を入れ替
えて本願意匠の構成にすることについて,意匠の着想の新しさや独創性があるとは\nいえない。
ウ 以上からすると,本願意匠は,意匠2の形態に基づいて,当業者におい
て容易に創作できたものと認められる。
◆判決本文
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◆平成30(行ケ)10147
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