2021.07. 2
意匠法における創作容易性の判断について、意匠の類似範囲が狭い分野においては,形状のわずかな相違であっても,その中に少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠上の要素」があれば,非類似の意匠となり,しかも創作非容易と認められるべきと主張しましたが認められませんでした。
意匠法3条1項3号における類否の判断は,出願された意
匠と類似する意匠とが,出願意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき一
般需要者に対して出願意匠と類似の美感を生じさせるかどうかを基準として
なされるべきであるのに対し,同法3条2項は,物品との関係を離れた抽象
的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若し
くは色彩又はこれらの結合(公然知られた形態)を基準として,それからそ
の意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作
することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記公然知
られた形態を基準として,当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし
独創性を問題とするから(平成10年法律第51号による改正前の法3条2
項につき,最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号3
08頁,最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号
287頁参照),意匠の類似性と創作容易性とは判断主体や判断手法を全く
異にしている。
したがって,原告の上記主張は,両者の違いを無視した独自の見解といわ
ざるを得ないものであって,採用することができない。
(2) 原告は,本願分野の登録意匠について自ら作成した別掲4を用いるなどし
て,原告の挙げる7要素のうち少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠
上の要素」があれば,形状のわずかな相違であっても創作非容易と認められ
るべき旨主張する。
しかしながら,まず,別掲4の多数の登録意匠のうち,出願人及び登録日
を同じくする複数の意匠は,互いに部分意匠や関連意匠の関係にある可能性\nが高く,その場合は形状の差異がわずかであっても登録されているのは当然
のことにすぎないから,原告の分析は,その前提に問題があるといわざるを
得ない。
そして,既に述べたとおり,本願意匠は,引用意匠1の凹陥の数と位置を
引用意匠2のそれに置き換えたのにすぎず,何ら意匠としての着想の新しさ
や独創性を認めることはできないのであるから,原告のいう登録済意匠の存
在を考慮したとしても,本願意匠は創作容易であるとの結論が左右されるも
のではない。
◆判決本文