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2023.06.13
◆本件意匠はこれです。
ア 本件意匠と甲1意匠とで、意匠に係る物品は、共に生活雑貨などの
家庭用品を収納する容器であって共通するところ、いずれも使用者が
家庭において日常的に使用することを主目的とするものであるから、
その需要者は、個人消費者であると認められる。
そして需要者である個人消費者は、意匠に係る物品の性質、用途及
び使用態様の観点からは、収納容器として物を収納した際の使用のし
やすさや持ち運ぶ際の便利さから、物を収納して置いた際と物を収納
せず、単体であるいは複数個を重ねて置いた際には、その美観等の観
点から、両意匠に係る物品を観察し、選択するものということができ
る。
そうすると、収納容器として物を収納した際の使用のしやすさや持
ち運ぶ際の便利さの観点からは、収納容器全体の形状等(基本的構成態様)が需要者の注意を惹く部分であるとともに、物を収納して置い\nた際や物を収納せず重ね置いた際の美観等の観点からは、収納容器と
しての外形を特徴付ける部分の形態が、最も強く需要者の注意を惹く
部分であるということができる。
そこで、これらを前提に、両意匠が需要者である個人消費者の視覚
を通じて起こさせる美観が類似するか否かについて検討する。
イ 収納容器全体の形状等について、需要者である個人消費者の観点から
みると、両意匠は、いずれも上部が開口して下端が水平面状の略逆円
錐台形状である本体部と、一対の紐状の把手部から成るものであって、
本体部の径が下方にいくにつれてしだいに小さくなっており、本体部
の上部に把手部が設けられているとの点(全体の形状、共通点1)、正
面から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広が
っており、最小横幅と縦幅は、ほぼ同じ長さであるとの点(全体の形
状、共通点2)、及び、右側面から見て、本体部の左右両端は上部にい
くにつれて逆ハ字状に広がっており、底面となす角度は約95°であ
り、最大横幅及び最小横幅の長さは、縦幅よりも小さいとの点(全体
の形状、共通点3)につきいずれも共通するところ、その態様自体は
ありふれたものであり、需要者の注意を強く惹くものとはいえない。
しかし、全体の形状のうち、把手部が本体部の長手方向の両側面に設
けられているか(本件意匠の態様c(前記(1)イ(ア)))、把手部が本体部
の短手方向の正面及び背面に設けられているか(甲1意匠の態様c(前
記(1)エ(ア)))の相違(相違点1)については、需要者である個人消費
者が収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の観点か
ら、強く注意を惹く部分であって、視覚を通じて起こさせる美観に大
きな影響を与えるものである。
また、各部の形状のうち、正面から見て、本件意匠では、本体部の上
端は倒弓状に形成されて、中央部は略平坦状に現わされており、左端
寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなって、本体部の左右両端の
上端付近との間が先尖り状に現わされている(本件意匠の態様d及び
e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲
1意匠の態様d(前記(1)エ(イ)))との相違、及び、右側面から見て、
本体部の上端はなだらかな略山状に形成されている(本件意匠の態様
e(前記(1)イ(イ)))のと、本体部の上端は水平状に現されている(甲
1意匠の態様e(前記(1)エ(イ)))との相違(相違点3)は、物を収納
して置いた際や、物を収納せず単体で、あるいは複数個重ね置いた際
の美観等の観点からは、収納容器としての外形を特徴付ける部分の形
態であり、強く需要者の注意を惹く部分であるということができると
ころ、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大きいものがある
ということができる。
さらに、把手部の態様について、本件意匠では、右側面視略U字状に
現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされ
ている(本件意匠の態様f(前記(1)イ(イ)))のに対し、甲1意匠では、
正面視略放物線状に現されており、かつ細い紐状で、軸方向に注連縄
状に現されている(甲1意匠の態様g(前記(1)エ(イ)))との相違(相
違点4)は、収納容器を持ち運ぶ際の使いやすさや、置いた際の美観の
観点から、本体部と把手部との視覚的なバランスにおいて、強く注意
を惹く部分であって、この相違点が両意匠の美観に与える影響にも大
きいものがあるということができる。
ウ 本件意匠と甲1意匠では、需要者の注意を惹く基本的構成態様のその余の相違点や、具体的構\成たる各部の形状においてその他にも異なる点があり、これらが美観に与える影響があるところではあるが、少なくと
も前記イの相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響には大きなものがあ
るということができる。
そうすると、本件意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が共通するもの
の、その形態においては、需要者に与える美感の観点から、本件意匠と
甲1意匠とは別異のものと印象付けるものであるから、本件意匠は、甲
1意匠に類似するものではない。
・・・・
(2) 本件意匠の当業者については、収納容器に係る分野における通常の知識を
有する者であると認められるところ、本件意匠と甲1意匠及び甲各意匠とを
比較すると、以下のとおりである。
なお、被告は、本件訴訟において提出された甲76号証ないし78号証は、
審決で認定された相違点に関する新たな公知意匠を追加するものであって、
それに基づく主張は直ちに排斥されるべきである旨主張する。
しかし、原告は、これらの書証に係る主張を、いずれも本件意匠の出願当
時の当業者の常識等を認定するための周知例を示す証拠に係る主張として行
っているものと解され、これらの記載内容との対比において新たな無効理由
が存することを主張するものではない。よって、これら証拠に基づく主張は、
審決取消訴訟において認められないものには当たらず、被告の主張は採用で
きない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判
決・民集34巻1号80頁参照)。
ア 甲各意匠の物品等の用途及び機能並びに形態について、以下のとおり認められる。\n
(ア) 甲15(特許庁意匠課平成22年受入れの公知資料番号第HJ22
079731号)の意匠に係る物品は「収納かご」であり、写真中にタ
オルを入れている事例が示されていることから、家庭用品を収納する容
器であると認められる。甲15意匠は、全体につき、上部が開口して下
端が水平面状の略逆円錐台形状であって、長手方向の両側面上部に一対
の把手部が設けられており、正面及び左側面から見て左右両端は上部に
いくにつれて逆ハ字状に広がっている。
(イ) 甲20(平成20年9月10日公告(公開)の中国発行の公報(CN
300826894D))の意匠に係る物品は「氷はち」であるから、氷
のほか家庭用品を入れる容器であるものと認められる。甲20意匠は、
全体につき、上部が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状である本
体部と、一対の線材の把手部から成るものであり、正面及び左側面から
見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっており、
底面となす角度は約104°である。
イ 前記1(1)エ(ア)及び(イ)及び前記ア(ア)及び(イ)によれば、家庭用品等を
入れる収納容器の物品分野において、本件意匠の全体の形状のうち、上部
が開口して下端が水平面状の略逆円錐台形状として、径を下方にいくにつ
れて次第に小さくし、長手方向の両側面上部に一対の把手部を設けること
(本件意匠の態様a及びc(前記1(1)イ(ア)))については、本件意匠の出
願前に公然知られていたものと認められる。
ウ 一方、正面から見た本体部の上端の形状につきみると、甲各意匠につき、
以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部の長
手方向を正面とする。)。
・・・
エ 前記ウ(ア)ないし(オ)によれば、これらはいずれも本体部(甲18意匠に
ついては左右側面から見た状態も含む)の上端の形状が、略ないし緩やか
な凹弧状(甲18については若干非対称)に形成されている。これらは、
本件意匠の正面から見た本体部の上端の形状のうち、上端が倒弓状に形成
され、中央部は略平坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次
第に大きくなり本体部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になって
いる形状(本件意匠の態様d(前記1(1)イ(イ)))とは異なるものであり、
こうした形状については原告の提出する甲1意匠、甲各意匠及び甲76号
証ないし78号証に示された意匠には認められないところである。
そして、前記1(4)イのとおり、この上端の形状は、収納容器としての外
観を特徴付ける部分の形態であり、最も需要者の注意を強く惹く部分であ
る。
オ 本体部開口端部及び本体部底面の外周形状につきみると、甲各意匠につ
き、以下のとおり認められる(正面については、本件意匠と同じく本体部
の長手方向を正面とする。)。
・・・
カ 前記オ(ア)ないし(エ)によれば、これらの本体部開口端部及び本体部底面
の外周形状は、不明である(甲15)か、いずれも略円形状(甲17)ない
し略楕円形状(甲21)であるか、一方が略楕円形状(甲20)であり、本
件意匠の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形
状である(本件意匠の態様a(前記1(1)イ(ア)))のとは異なるものであり、
これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号証ないし78号証に示さ
れた意匠には見られないものである。
キ 把手部の形状につきみると、甲各意匠につき、以下のとおり認められる(い
ずれも把手部が現れている面を正面とする。)。
・・・
ク 前記キ(ア)ないし(エ)によれば、これらの把手部の紐は軸方向に注連縄状
に現されているが、これらはいずれも本体部開口端部及び本体部底面の外
周形状は略長方形状で、全体に箱状である(甲8ないし10)か、略円形
状で、全体に円筒形状(甲11)であり、本件意匠の、全体に水平面状の
略逆円錐台形状であり、一対の紐状の把手部(本件意匠の態様a(前記1
(1)イ(ア)))が本体部の長手方向の両側面上部に設けられ(同c)、右側面
から見て、本体部の左右両端は上部にいくにつれて逆ハ字状に広がり、底
面となす角度は約95°で(同e(前記1(1)イ(イ)))、把手部は右側面視
略U字状に現わされており、かつ、太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に
現わされ(同f)、把手部は、本体部の最大縦幅を上から約1:2:2に、
最大横幅を左から約4:5:4に内分した中央の位置にある(同g)のと
は異なるものであり、これについては、甲1意匠、甲各意匠及び甲76号
証ないし78号証に示された意匠には見られないものである。
ケ そして、前記エ、カ及びクの、上端が倒弓状に形成され、中央部は略平
坦状に現わされて、左端寄り及び右端寄りの曲率が次第に大きくなり本体
部の左右両端の上端付近との間が先尖り状になっているとの点、本件意匠
の、本体部開口端部と本体部底面の外周形状が共に略横長トラック形状で
あるとの点、及び、把手部が、右側面視略U字状に現わされており、かつ、
太めの荒縄状で、軸方向に注連縄状に現わされているとの点は、公知の意
匠にはみられない独自のものであり、本件意匠に独特の美観をもたらすも
のということができる。
コ 以上の検討によれば、本件意匠の本体部の上端の形状、本体部開口端部
及び本体部底面の形状並びに把手部の形状は、甲1意匠、甲各意匠及び甲
76号証ないし78号証に示された意匠とは異なるものであり、これらが
ありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又は単なる寄せ集めではなく、略逆円錐台形状で、正面及び側面から見た本体部の左右\n両端が上部にいくにつれて逆ハ字状に広がっている全体の形状とまとま
り感のある一体の美観を形成している点に、着想の新しさないし独創性が
認められないものではないから、本件意匠は前記意匠から創作容易である
とはいえず、審決の判断に誤りはない。