2022.07.24
令和3(行ケ)10158 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和4年6月28日 知的財産高等裁判所
『Wayback Machine』に保存・公開されている意匠を引用意匠として拒絶審決が成されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は、本願意匠の意匠に係る物品は、『工具の落下防止コード』であり、部分意匠です。引用意匠はヨット用ハーネスライン(安全ベルト)ですが、創作容易か否かです。
ア 創作容易性の判断方法
・・・
さらに、出願された意匠が、物品等の部分について意匠登録を受けよ
うとするものである場合は、その創作非容易性の判断に当たり、「意匠登
録を受けようとする部分」の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの
結合や、用途及び機能を考慮するとともに、「意匠登録を受けようとする部分」を、当該物品等の全体の形状、模様若しくは色彩若しくはこれら\nの結合の中において、その位置、その大きさ、その範囲とすることが、
当業者にとって容易であるか否かについても考慮して判断すべきである。
そして、意匠法3条2項は、物品との関係を離れた抽象的なモチーフ
を基準として、それから当業者が容易に創作することができる意匠でな
いことを登録要件としたものであって、創作非容易というためには、物
品の同一又は類似という制限をはずし、上記周知のモチーフを基準とし
て、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性を要すると解す
べきであり(最判昭和49年3月19日同45年(行ツ)第45号民集
28巻2号308頁、最判昭和50年2月28日同48年(行ツ)第8
2号最高裁裁判集民事114号287頁参照)、本願意匠に係る物品と厳
密には同一といえなくても、それと目的又は機能を共通にし、製造又は販売等する業者が共通している物品は、本願意匠に係る物品の当業者が\nその形状等を当然に目にするものと推認されるから、同一の物品分野に
属するものとして、創作容易性を判断する際の資料となるものと解すべ
きである。
イ 本件審決における創作容易性の判断の適否
(ア) 物品分野について
a 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」は、一方を
人側に、他方を各種工具に取り付けて、人が所持する工具の落下を
防止するものであり、他方、引用意匠2に係る物品である「ハーネ
スライン」(安全ベルト)は、一方をヨットのフレーム等側に、他方
を人側に取り付けて、ヨットから人が落下するのを防止するもので
あって、落下防止を図るという目的において共通する。また、いず
れも、全体が帯状で両端に取付具を有するという形状は共通してお
り、一方の端を、落下の防止を図ろうとする目的物に取り付け、他
方の端を、固定された物の側に取り付け、固定された物から目的物
が落下するのを防止するという機能も共通する。いずれの材質・形態についても、目的物の落下を防ぐために必要十\分な強度を有し、取付けや落下の防止が確実・容易にできることが要請される。この
ように、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」と引
用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)は、目
的、機能、材質・形態に要請される事項が共通する。
b 本願意匠に係る物品等の製造販売の実態は、次のとおり認められ
る。
(a)甲1(本件審決別紙第2)、乙6の1、2によれば、「播州三木
の道具屋『アルデ』」(以下「アルデ」という。)のウェブサイトに
おいて、その一番上に「大工さんの道具箱!大工道具・金物の専
門通販なら三木金物オンラインショップ『アルデ』」との記載があ
り、「カテゴリー一覧」の中に、「鋸(のこぎり)」、「ハンマー」、
「マリン」等とともに「安全用品・ロープ」の項目があり、「安全
用品・ロープ」の項目の中に、「その他」、「墜落制止用器具」等の
項目があり、「その他」の中に引用意匠1の「【NRK】布製安全コ
ード 赤 3kg(落下防止コード)」が掲載されており、「墜落制
止用器具」の中にランヤード、安全帯などが掲載されている。
そうすると、アルデのウェブサイトでは、工具の落下防止コー
ドと、人の落下を防ぐ安全用コードが販売されていることが認め
られる。
(b)甲4(本件審決別紙第5)は、「【プロ志向】職人の為の安全帯
ハーネス・作業用品専門店 梅春 いちや 総本店」(以下「いち
や」という。)のウェブサイトであり、「CATEGORIES」(カテゴ
リーズ)の中に、「ハーネス」、「ハーネス+ランヤードセット」、
「ハーネス対応ランヤード」、「1本つり安全帯」、「ランヤード」、
「安全帯胴ベルト・付属品」等の項目があり、「安全帯胴ベルト・
付属品」の項目の中の「落下防止対策」、「安全コード」の細項目
の中に「【NRK】布製 安全コード 3kg 【セーフティコード】
落下防止コード」が掲載されている。
そうすると、いちやのウェブサイトでは、工具の落下防止コー
ドと、ハーネスやランヤードなどの人の落下を防ぐ安全用コード
が販売されていることが認められる。
(c) 乙7は、作業服・作業用品専門店「ZOOM」(以下「ZOOM」と
いう。)のウェブサイトであり、「Category」(カテゴリー)の中に、
「フルハーネス」、「安全帯」等とともに「ランヤード」、「落下防
止対策用品」の項目があり、「落下防止対策用品」の項目の中に、
工具の落下防止コードが掲載されている。
そうすると、ZOOM のウェブサイトでは、工具の落下防止コー
ドと、ハーネスや安全帯などの人の落下を防ぐ安全用コードが販
売されていることが認められる。
(d) 乙8は、「第55回全国建設業労働災害防止大会 in 横浜」、「安
全衛生保護具・測定機器・安全標識等 展示会」のパンフレット
であり、出展企業の一つである「スリーエム ジャパン(株)」の主
な取扱品目として、「工具落下防止用製品」とともに「ハーネス型
安全帯」、「ランヤード」が記載されており、工具の落下防止コー
ドと、ハーネス、安全帯、ランヤードなどの人の落下を防ぐ安全
用コードの双方を製造又は販売している会社があることが認めら
れる。
(e)甲5(本件審決別紙第6)は、株式会社 TOWA のウェブサイト
であり、「高所作業&ガラスクリーニング」、「レスキュー&タクテ
ィカル」、「マリン」の項目に分けられている。また、甲7(本件
審決別紙第8)は、株式会社 TOWA のカタログであり、「ツール
ランヤード」(落下防止用ランヤード)が掲載されていることが認
められる(「ランヤード」という用語は、人の体を支えるものを指
すために用いられる場合が多いが、甲7(本件審決別紙第8)に
示されたものは、「ツールランヤード」と記載されているので、工
具の落下防止コードであると認められる。)。
本願意匠の「工具の落下防止コード」は、高所作業やガラスク
リーニングで使われるものであり、他方、引用意匠2の「ハーネ
スライン」は、ヨット用で、マリンスポーツで使われるものであ
るところ、甲5(本件審決別紙第6)によれば、株式会社 TOWA
でヨット用ハーネスが販売されているか否かは定かでないが、高
所作業やガラスクリーニングで使われるものとマリンスポーツで
使われるものが同一の業者により販売されていることは認められ
る。
また、乙10、11によれば、コードとフック等による構成により落下防止が配慮された安全用のコードに係るものとして、工\n具の落下防止用のコードと人の落下防止用のコードが、高所作業
において同時に使用されていることが認められる。
c(a) さらに、甲9公報の【考案の詳細な説明】、【背景技術】、【00
02】には、「工具連結用索具として、従来、例えば実用新案登録
第3156504号の工具用安全策具や、特開2012−248
70号の工具用安全索具や、特開2012−200310号のラ
ンヤードなどが提案されている。これらは、いずれも作業範囲に
余裕をもって届く範囲の長さで伸縮自在なスプリングに可撓性を
有する被覆体を被せ、その両端をフックやリングに連結した構成からなっている。」と記載されている。上記「特開2012−20\n0310号のランヤード」は、人体を吊下し得る強度を有するラ
ンヤードであり(乙5)、引用意匠2の「ハーネスライン」と同様
に人の落下を防止する安全用コードであると認められる。上記甲
9公報の記載は、工具の落下防止コードである上記「実用新案登
録第3156504号の工具用安全策具」(乙3)及び上記「特開
2012−24870号の工具用安全索具」(乙4)と、人の落下
を防止するランヤードである「特開2012−200310号の
ランヤード」(乙5)を、同様の構成を有するものとして同列に記載しており、これによっても、工具の落下防止コードと、人の落\n下を防止するハーネスライン等の安全用コードが、同じ種類の物
品として認識されていることが認められる。
(b) 乙9公報の考案は、【背景技術】【0002】及び【0003】
等の記載によれば、工具用落下防止安全ロープを実施対象の一つ
にあげている安全用ロープに係る考案であることが認められ、【考
案の概要】、【考案が解決しようとする課題】、【0018】に、「図
7に示すのは、該連結部の両端がエクササイズハンドル80に設
けられる実施形態で、また、弾力ロープはそれぞれ、複数の連結
で使用される場合であり、本考案の弾力ロープの特性によって、
筋力トレーニング器具として用いられ、または、本考案の弾力ロ
ープを海上でのサーフィンボードの安全ロープ(図示省略)とし
て用いられてもよいが、弾力ロープの両端をそれぞれサーフィン
ボードとプレヤーの踝につなぐことにより、プレヤーの安全性を
守り、サーフィンボードの漂流などを防ぐ効果がある。」と記載さ
れていることから、マリンスポーツも危険を伴う分野の一つとし
て、コードとフック等による構成により落下防止が配慮された、安全用のコードに係る物品が用いられる分野の一つとして想定さ\nれていることが認められる。
d(a) 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」と引用意
匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)は、落下
を防止する対象において、工具と人体という違いがあり、対象の
重量等の違いに応じて、構成部材の寸法、材質、強度などが異なる場合があると推認される。また、本願意匠に係る物品である「工\n具の落下防止コード」は、主として高所作業において用いられる
のに対し、引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全
ベルト)はヨット用であり、マリンスポーツにおいて使用される
ものである。そのため、本願意匠に係る物品と引用意匠2に係る
物品は、厳密には同一の商品とはいい難い面がある。
(b) しかし、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」
と引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)
は、前記aのとおり、目的、機能、材質・形態に要請される事項が共通し、前記b(a)ないし(c)のとおり、工具の落下防止コードと、
人の落下を防ぐハーネスやランヤードなどの安全用コードが同じ
業者のウェブサイトで販売されていることが認められ、前記b(d)
のとおり、工具の落下防止コードと、ハーネス、安全帯、ランヤ
ードなどの人の落下を防ぐ安全用コードの双方を製造又は販売し
ている会社があることが認められる。また、前記c(a)、(b)のとお
り、工具の落下防止コードと、ハーネスライン、ランヤードなど
の人の落下を防止する安全用コードが、同じ種類の物品として認
識されていることなども認められる。
そして、前記b(e)のとおり、高所作業やガラスクリーニングで
使われるものとマリンスポーツで使われるものが同一の業者によ
り販売されていることが認められ、前記c(b)のとおり、マリンス
ポーツも危険を伴う分野の一つとして、コードとフック等による
構成により落下防止が配慮された、安全用のコードに係る物品が用いられる分野の一つとして想定されていることが認められるこ\nとからすると、用途において、高所作業とマリンスポーツという
違いがあったとしても、それ故に、本願意匠に係る物品を取り扱
う当業者が引用意匠2に係る物品を目にすることが否定されるこ
とはない。
そうすると、本願意匠に係る物品である工具の落下防止コード
を取り扱う当業者は、人の落下を防ぐ安全用コードの形状等を当
然に目にするものと認められ、人の落下を防ぐ安全用コードに属
する引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)
についても、その形状等を当然に目にするものと推認されるから、
引用意匠2に係る物品は、同一の物品分野に属するものとして、
本願意匠の創作容易性を判断する際の資料となるものと認められ
る。
e 以上によれば、本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コー
ド」と引用意匠2に係る物品である「ハーネスライン」(安全ベルト)
は同一分野の物品であるとして、引用意匠2に基づいて本願意匠の
容易想到性を判断することができるものと認めた本件審決の判断に
誤りはない。
(イ) 創作容易性について
a 引用意匠1及び参考意匠(本件審決別紙第4)は、本願意匠に係
る物品である「工具の落下防止コード」に係るものであり、本願意
匠に係る物品について当業者に該当する者は、引用意匠1及び参考
意匠を当然に目にするものと認められる。また、上記(ア)eのとお
り、引用意匠2に基づいて本願意匠の容易想到性を判断することが
できるものと認められる。
b 本願意匠に係る物品である「工具の落下防止コード」を含む安全
用のコードという物品の分野において、コードの長手方向の一端を
ナスカン状のフックとすることはごく普通に見られ、本願部分にお
けるフック部の形状も、本願意匠に係る物品と同じ物品の公知意匠
である引用意匠1に示されていた。また、安全用のコードの物品の
分野において、二又に分岐する構造のものも、公知意匠である引用意匠2に示されていた。さらに、薄いテープをDカンに巻いて帯部\nとし、フック部の先端側と略同じ長さとする態様も、帯部より先を
蛇腹タイプの波形伸縮コードとする態様も、引用意匠1及び引用意
匠2に表れていた。甲2(3枚目)、乙12によれば、引用意匠2の分岐根元部において、蛇腹タイプの波形伸縮コードは、内側に一山、\n外側に一山の波打った形態を示していることが認められる。本願意
匠に係る物品である「工具の落下防止コード」において、帯部につ
いて、引用意匠1のように糸を同色として目立たないようにしたも
のもあり、また、縫い目を有さないようにしたものも、参考意匠(本
件審決別紙第4(図5、7))(甲3)のとおり公知であった。
そうすると、引用意匠2のフック部を、引用意匠1の形状のもの
とし、帯部より先の二又に分岐した2方向のコードのうち、平たい
テープ状のコードを蛇腹タイプの波形伸縮コードとし、分岐根元部
について、上下共に内側に一山、外側に一山の波打った形態とし、
帯部を縫い目がないようにして、本願意匠を創作することは、本願
意匠に係る物品と同じ安全用のコードの分野の公知の意匠(引用意
匠2)をもとに、その構成要素の一部を、同じ物品の分野で公知であった意匠と置き換え、又は同じ物品の分野で公知であった意匠を\n寄せ集めたにすぎないものであり、そのような置き換え又は寄せ集
めに関して、当業者の立場からみて意匠の着想の新しさや独創性が
あるとは認められず、そのため、本願意匠は、その意匠の属する分
野におけるありふれた手法により創作されたものであると認めら
れる。
以上に検討したところによれば、本願意匠は、当業者が、本願意
匠の出願前に公知であった引用意匠1及び引用意匠2に基づいて
容易に創作をすることができたものであると認められ、同旨の本件
審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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◆令和3(行ケ)10159
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2021.02.25
令和2(ネ)10053 意匠権侵害行為差止請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 令和3年2月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。
本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ
ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え
る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど
ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による
商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ
れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ
スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部
について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,
ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め
られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下
方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐
体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上
端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた
ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング
が縦長略長方形状であるものと認められる。
さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上
部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出
しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜
させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ
ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め
られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す
る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ
部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ
り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知
られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ
に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや
すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き
やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出
し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か
れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右
側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ
ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2),
4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点
に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に
与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい
て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ
るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて
わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側
部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁
下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。)
に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな
る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように
設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け
た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突
出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり,
正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ
るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ
た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意
匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている
と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ
ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ
スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ
ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受
ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス
プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった
美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ
る。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和元年(ワ)第16017号
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2019.09.13
平成30(ネ)2523 意匠権侵害差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 令和元年9月5日 大阪高等裁判所
意匠権侵害(部分意匠)について1審の判断をそのまま維持し、差止および約300万円の損害賠償を認めました。
本件意匠に係る物品の需要者及び物品の性質,用途等
本件意匠に係る物品である検査用照明器具は,工場等において製品の
傷やマーク等の検出(検査)に用いられるものであるから,意匠の類否
判断における取引者・需要者は,製造工場等における機器等の購入担当
者,検査業務の従事者等である。この検査用照明器具は,LEDや光学
素子を内蔵して,前端部から光を照射するものであるところ,LEDを
使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇して,発光出力が低下する
ことから,放熱の必要性が指摘されている(甲21,22,24)。
本件意匠は,そのような検査用照明器具の放熱部の意匠であるから,
上記需要者は,放熱部材の表面積の大小や部材相互の空隙の大小から放\n熱性能の高低を推し量るという観点から,放熱部材であるフィン構\造体
の,発光部との位置関係,フィンの形状,数,大きさ(支持軸体の径との
関係),配置(フィン相互の間隔)に注目するものと考えられる。
ウ 公知意匠等の参酌
ところで,前記1(1)ウ,オに認定したとおり,本件意匠の登録出願前
までに,検査用照明器具の物品分野における放熱部の意匠として,乙7
等意匠,乙12意匠が開示されており,これらは,前記1(3),(5)で検
討したとおり,本件意匠の基本的構成態様(A〜D)と同じ構\成態様を
備えているほか,本件意匠の具体的構成態様のうちE,I及びJの各一\n部並びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。そうすると,これ\nらの構成態様に係る形態は,本件意匠の意匠登録出願前に公知であった\nと認められる。
また,一審原告は,本件意匠の構成態様とは,中間フィンの枚数のみ\nを異にする意匠を,本件意匠の関連意匠として,意匠登録している(前
提事実(2)イ)。
そうすると,上記イの各点のうち,フィンの枚数,厚み,縁の面取り,
フィン相互の間隔,フィンの大きさと支持軸体の径との関係(支持軸体の
太さ)については,それらにわずかな違いがあっても,需要者がその差異
に注目するとは考えられないが,これらが大きく異なれば,需要者が受
ける視覚的な印象は異なるものと考えられる。
他方で,本件意匠の後端フィン及び中間フィンの各面には,支持軸体
の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるという形態(本件意匠の
具体的構成態様M)は,乙7等意匠や乙12意匠にはないものであり\n(なお,類似の物品である照明器に係る意匠である乙4意匠にもそのよ
うな形態がないことは,前記1(1)エ,(4)のとおりであるし,甲14で
開示されている意匠でも,フィン様の突状が施されているケース本体の
上側に貫通孔が設けられている。),また,前記1(6)及び(7)で検討し
たとおり,公知意匠の組み合わせに基づいて容易に創作することができ
るともいえないから,公知意匠にはない,新規な創作部分であると認め
られる。そして,電源ケーブルの引き出し位置は,検査用照明器具とし
ての使用態様に関わるから,この形態(具体的構成態様M)は,需要者\nの注意を惹くものと認められる。
これに対し,一審被告は,公知意匠として乙8意匠も参酌すべきであ
り,同意匠では,後端フィンの後端面は平滑であるから,本件意匠の具
体的構成態様Mは,新規な創作部分とはいえない等と主張する。\nしかし,前記1(1)イのとおり,そもそも,乙8意匠は,検査用照明器
具の後方部材に係る意匠ではないから,これを,本件意匠の要部認定に
おいて,公知意匠として参酌すべきものとは解されない。一審被告の主
張は採用できない。
エ 本件意匠の要部
以上を総合すれば,本件意匠の要部は,原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」のうち,次のとおり認められる。
(フィン構造体と発光部との位置関係について)\n
(ア) 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。
(イ) 後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方
に延伸する支持軸体が設けられている。
(フィンの形状,数,大きさ〔支持軸体との関係〕,配置について)
(ウ) 支持軸体には,薄い円柱状の,中間フィンが2枚と,後端フィン1
枚が取り付けられている。
(エ) 後端フィンの厚みは,中間フィンの厚みの約2倍である。
(オ) 支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
(カ) 中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じで
ある。
(キ) フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度の等間隔である。
(フィンの形状のうち貫通孔の有無について)
(ク) 中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔
はなく,その各面は平滑である。
(4) 本件意匠とイ号意匠との類否
ア 対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するイ号意匠の構成態様\nを対比すると,1) 中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚である(要部
(ウ))のに対し,イ号意匠では3枚であり(原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」イ号g1),2) 後端フィンは,本件意匠では中間フィンの約2
倍である(要部(エ))のに対し,イ号意匠では約1.3倍であり(イ号h
1),3) 支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である
(要部(オ))のに対し,イ号意匠では3分の1強であり(イ号j1),4)
フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である
(要部(キ))のに対し,イ号意匠では約10分の1であり(イ号e1),
5) フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑であ
る(要部(ク))のに対し,イ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴
が1箇所ある(イ号m1)という差異があるが,その余の点(要部(ア),
(イ),(カ))は共通すると認められる。
イ 類否判断
上記アの差異点に関して,1)の中間フィンの枚数,2)のフィンの厚み,
3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔については,需要者がそれ
らのわずかな違いに注目するとは考えられないが,これらが大きく相違
すれば,異なる印象を生じさせる場合があることは前述のとおりである。
ところで,需要者が,検査用照明器具の放熱部としてのフィン構造体\nの特徴を把握しようとする際には,正面視で,フィンの配置状況等を観
察するほか,斜め前方から(左側面視)又は斜め後方(右側面視)から見て,
フィンの形状や発光部とフィン構造体との位置関係等も観察するものと\n考えられる。
このような観察によると,2)のフィンの厚みについて,イ号意匠の後
端フィンには面取が施されている分,その厚みが中間フィンよりも厚い
という印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較
した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,1)のフィンの枚
数,3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それ
ほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認めら
れない。
また,5)のフィンの各面の形状について,イ号意匠の後端フィンの後
面のねじ穴は,支持軸体の中心に穿設されていて,中間フィンに貫通孔
はなく(原判決別紙「被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴
に関する意匠(構成態様)」参照),この穴の存在は正面視や左側面視\nでは認識できず,右側面視にて初めて認識されるところ,ねじ穴にすぎ
ないことに照らせば,需要者において,その存在に特に注意を向けると
は考えにくく,これを美感の違いとして捉えることはないものと認めら
れる。
そうすると,イ号意匠は,これを全体として観察すると,本件意匠の
要部とは複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異と
は認められず,その他の点において共通しているということができるか
ら,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似すると
認められる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)12791
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2019.07. 5
平成30(行ケ)10181 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和元年7月3日 知的財産高等裁判所(1部)
部分意匠について、新規性無しの無効審判が請求されましたが、審決・裁判所とも非類似と判断しました。
本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワ
ー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けら
れており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。
そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と
の共通点及び相違点は,次のとおりである。
前記の認定(1(1)(2))によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機
器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中
心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よ
りも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,
中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面
が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。
他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられ
た後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンク
であるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィ
ンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフ
ィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1の
フィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,
i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意
匠1では約3分の1である点においても相違する。
ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は視覚を通じて起こさせる美観が
縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ)また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,1)本件
意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であ
るのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという
点,2)本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍で
あるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,
3)本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中
央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体
の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,こ
れらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1
とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
エ よって,取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内
又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準と
して,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容
易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件
の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場か
らみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第
45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和4
8年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号28
7頁参照)。
イ 検討
これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられてい
る,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認
めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容
易であるとはいえない。
また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相
違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証\n拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事
由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づ
き本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。
イ 検討
しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられている
のに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に
並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べ
ることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3
に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。
また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,1)本件意匠が,
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対
し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,2)本
件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるの
に対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,3)本件
意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の
厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体の直径
が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの
相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記(1)のとおりである。そして,タワー型
ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み
合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点4)に係る本
件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことか\nらすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至
らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
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2019.06. 7
平成29(ワ)5011 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成31年3月28日 大阪地方裁判所
爪切りについての意匠権侵害と不競法の品質等誤認表示が争われました。裁判所はいずれも認めました。意匠権侵害の損害額は、被告の得た利益のうち、推定覆滅事由として以下の2つを認め、利益のうち28%としました。1)部分意匠であること(70%)、2)爪切りであるので、商品のデザインを重視して商品が購入されることが多いとはいえない(40%)こと。
(5) 推定覆滅事由等
ア 被告製品1関係について
(ア) 意匠権侵害関係について
a 意匠権侵害関係については,原告実施品の販売減少による逸失利益が問題となるところ,前記認定の被告製品1の利益の額がその損害額と推定されるから,この推定に関する覆滅事由等が問題となる。
b 本件登録意匠が部分意匠であることの考慮について
本件登録意匠は部分意匠であり,意匠の対象となっているのは操作レバ
ーとカバー部である(別紙「本件登録意匠の構成」参照)のに対し,被告製品1は\n爪切り全体であるから,本件意匠権侵害行為による原告の損害額と推定されるのは,
被告製品1の販売等による利益の額のうち,本件意匠権侵害部分である操作レバー
とカバー部に相当する額である。そして,被告は,それらの爪切り全体に占める割
合について,表面積にしてせいぜい40%であるとか,その部分の製造原価は高く\nても20%程度であると主張している。
確かに,本件登録意匠の対象部分が爪切りの一部であり,表面積としてみても,\n爪切りの大半を占めるわけではないことは被告主張のとおりであるし,また爪切り
における重要部分が刃であり,爪切り全体に占める操作レバーやカバー部の製造原
価が一部にとどまることも,被告主張のとおりと推測される。
しかし,ここで被告製品1の全体に占める本件意匠権侵害部分の割合を検討する
趣旨は,被告製品1の販売利益に占める本件意匠権侵害部分の割合を明らかにする
ためであるから,その割合は,顧客吸引力の観点から,できる限り被告製品1の意
匠全体に対する本件意匠権侵害部分の貢献割合によって決めるべきものであり,被
告が主張する表面積や製造原価,特に製造原価の割合は,それを検討するための出\n発点として分かりやすいものではあっても,一要素であるにすぎない。
そこで,本件登録意匠の特徴を検討すると,本件登録意匠のうち,操作レバーの
末端部側が紡錘状となる形状を備え(別紙「本件登録意匠の構成態様」の構\成C),
カバー部も,操作レバーの末端部側よりも一回り大きい紡錘状となる形状を備え
(同構成D),操作レバーが先端部側から末端部側に至る中心面から上下に対称な\n湾曲した稜線を介して上下に傾斜して下る形状を備え(同構成E),カバー部が中\nほどの紡錘状の稜線を介して操作レバー側に窪み,その窪みにおける稜線の中央近
傍側でより深く窪んだ形状を備えている(同構成F)点は,爪切りを手に持ち,あ\nるいは置いて見たときに大きく目立つ点であり,本件の証拠に見られる他の爪切り
の意匠(甲10,61ないし64,66ないし68,乙17,28ないし31)に
は見られない特徴点で,爪切り全体の美感に与える影響が大きいと認められる。こ
のことは,原告のホームページで,原告実施品(甲56の写真参照)について,機
能性だけでなく,「やさしさを感じさせる曲面フォルム」に触れられていることや,\nグッドデザイン賞の審査委員から,「バッタの様にも見える有機的な形態が魅力の爪
切りである。その新鮮なデザインを評価したい。」と評価されていることからもうか
がわれる。そして,爪切りの先端側の形状は,それ自体には上記の他の爪切りの形
状と比べて顕著な特徴があるとはいえないが,上記の末端側に比べて細くすぼまる
形状や,各部分の大きさ(同別紙の構成H及びI)のバランスは,「バッタの様に\nも見える有機的な形態」との印象を与えるのに寄与しているといえる。
他方,被告製品1でも操作レバー及びカバー部の意匠は,本件登録意匠とほぼ同
一であり,爪切り全体の意匠としても原告実施品とほぼ同一であると認められると
ころ,操作レバー及びカバー部以外の部分(別紙「本件登録意匠の構成」の点線部\n分に相当する部分)は,爪切り全体の中で相応に大きな面積割合を占めており,そ
の形態も合わさって全体が「バッタの様にも見える有機的な形態」との印象を与え
ることにもなっているものの,その部分の形態自体には,他の爪切りとの美感上の
顕著な差は認められない。そして,別紙「被告意匠の構成」の「パッケージ」欄の\nとおり,被告製品1がドン・キホーテの店舗で販売される際には,クリアケースを
通してその平面視の状態を,末端側が若干だけ隠れた形で視認できるように陳列さ
れていたから(甲3ないし6),需要者は主として平面視の意匠を認識することにな
る。そうすると,被告製品1の意匠全体の美感に対して本件意匠権侵害部分が与え
る影響は高いというべきであり,被告が指摘する表面積や製造原価の点を考慮した\nとしても,被告製品1の意匠全体に占める本件意匠権侵害部分の割合は7割と認め
るのが相当である。
c 本件意匠権侵害関係で被告が主張する他の推定覆滅事由について
(a) 被告は,本件登録意匠と同一の基本的構成態様を有する爪切りは\n多数存在するとして乙28の1ないし3の各意匠の存在を指摘するところ,この主
張は,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力への寄与の低さをいうことにより,
被告製品1についての後記(b)以下の事情の重要性をいう趣旨であると解される。
確かに,乙28の1の意匠では,カバー部と操作レバーの末端部側がそれ以外の
部分と比べて若干ふくらんでいるように見える。しかし,本件登録意匠は,操作レ
バーの末端部側を丸みを帯びた紡錘状となる形状とすること(構成C)と併せて,\nカバー部の末端部側をそれよりも一回り大きい紡錘状となる形状とすること(同
D)によって,爪切りをたたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強
調されている。これと対比すると,乙28の1の意匠では操作レバーの末端部側は
カバー部の末端部側とほぼ同じ形態とされているにすぎず,全体として異なる美感
を有するものと認めるほかない。
また,乙28の2及び28の3については,爪切りがたたまれた場合の形態が不
明であるが,乙28の2の意匠はカバー部の末端部側がそれ以外の部分よりもすぼ
んでいるように見えるから,本件登録意匠と異なる美感を有するものといわざるを
得ない。さらに,乙28の3の意匠はカバー部が操作レバーよりも末端部側がふく
らんだ形態を有しているように見えるが,本件登録意匠の構成Bと異なり,操作レ\nバーがほぼ平坦なように見え,末端部側へ向かって緩やかに湾曲して下る形状を有
しているとは認められない。そして,上述のとおり,本件登録意匠では,爪切りを
たたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強調されているところ,そ
れには本件登録意匠の構成Bも寄与していると認められるから,同構\成を有してい
ない乙28の3の意匠と本件登録意匠の美感が共通しているとは認められない。
以上より,乙28の各意匠の存在が,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力へ
の寄与の低さを基礎付けるとはいえないから,これにより推定が覆滅されるとはい
えない。むしろ,前記bで述べたところからすると,本件登録意匠は,原告実施品
とほぼ同一の形態である被告製品1について,「バッタの様にも見える有機的な形
態」との印象を与える特徴的な意匠であるというべきである。
(b) 次に,被告は,被告製品1特有のデザインの存在を主張している。
しかし,被告が主張する被告製品1特有のデザインについて,美感に与える影響が
大きいとはいえないから,これを推定覆滅事由として考慮することはできない。
(c) もっとも,爪切りは爪を切るために使用する実用品であり日用品
であるから,需要者が購入するに当たっては,一般にその切れ味等の性能や使いや\nすさ,それらと価格とのバランスを重視するものと考えられ,商品のデザインを重
視して商品を購入することが多いとはいえない。確かに,原告実施品の場合は,複
数の百貨店や東急ハンズ等で販売され,日本製で定価が2000円(税抜)とされ
ており,爪切りの市場においては,販売価格が500円を下回る爪切りや,100
0円前後の爪切りが販売されている(乙28,29,弁論の全趣旨)のと比べると,
爪切りの販売価格としては高いから,原告実施品は,価格の高い高級品として販売
されているといえ,そのような原告実施品を購入する需要者には,品質と並んでデ
ザインを重視する者も多くいると考えられる。これに対し,被告製品1は,専らド
ン・キホーテという総合ディスカウントストアで販売されており,店頭販売価格が
1280円(税抜)と他の爪切りにも見られる価格帯であり,それが専ら売られて
いたドン・キホーテにおいても,1000円前後の爪切りやそれよりも安い爪切り
が販売されていたことが推認される(乙31は侵害行為があった時期と異なる時期
のものであるが,これによっても推認可能である。)から,このような店舗と価格で\n被告製品1を購入した需要者において,商品のデザインを重視して商品を購入する
ことが多いとは考え難い。また,爪切り市場において原告のシェアが高いとも認め
られない。
したがって,以上の点は,推定の一部覆滅事由たり得るというべきである(なお,
被告は,自身の営業努力を主張するが,被告製品1をドン・キホーテで販売できる
ようにしたという以上に,被告主張の営業努力が通常のものを超えたものであると
いうことはできない。)が,前記のとおり本件登録意匠が爪切りのデザインとして特
徴的なものであり,相応の顧客吸引力を有すると考えられること,被告製品1と原
告実施品の価格差が著しいというわけでもないこと,原告実施品の利益率が被告製
品1の利益率に比べて特に低いともうかがわれないこと(なお,被告は,原告がO
EM供給している製品については利益率が低いと主張しているが,そのような事実
を認めるに足りる証拠はない。)も考慮すると,推定覆滅率は60%と認めるのが相
当である。
d したがって,被告製品1の意匠権侵害行為に係る損害の額は,被告
製品1の利益の額の28%(0.7×0.4)となる。
・・・
(6) 原告の損害額
ア 以上の認定・判示によれば,意匠法39条2項及び不正競争防止法5条
2項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円である。
(計算式) 被告製品1に係る被告の利益●(省略)●円×0.38(意匠
権侵害行為に係る損害と14号の不正競争行為に係る損害分)+被告製品2に係る
被告の利益●(省略)●円+被告製品3に係る被告の利益●(省略)●円×0.1
≒●(省略)●円
イ また,原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に委任したとこ
ろ,被告の不法行為及び不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用は●(省
略)●万円と認めるのが相当である。
ウ 以上より,被告の不法行為及び不正競争行為による原告の損害額は,合
計76万1265円となる。
◆判決本文
◆本件意匠および被告商品
◆本件意匠および被告商品
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2018.12. 1
平成28(ワ)12791 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成30年11月6日 大阪地方裁判所(21民)
部分意匠について、侵害であるとして、差止、損害賠償が認められました。なお、損害額は約300万円です。これは、利益に対する貢献や寄与が低いと認定されたためです。
登録意匠と対比すべき意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視
覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,
意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用
途及び使用態様,並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取
引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と
対比すべき意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視\nして,観察を行うべきである。
そして,本件意匠に係る物品の説明によれば,本件意匠に係る物品である検査用
照明器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出(検査)に用いられるもの
であるから,そのような検査を必要とする製品の製造業者等によって購入されるも
のであると推認される。したがって,意匠の類否判断における取引者・需要者は,
そのような製造業者等である。
そこで,このような需要者の観点から,本件意匠の要部について検討する。
イ 公知意匠
平成15年6月16日に発行された意匠公報(乙12)において,乙
12意匠(別紙「乙12意匠の図面」参照)が開示されていた。そして,乙12意
匠は,前記1(8)イで認定したとおり,本件意匠の基本的構成態様AないしDと同じ\n構成態様を備えているほか,本件意匠の具体的構\成態様E,H,I及びJの一部並
びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。\nそうすると,以上の構成態様は,検査用照明器具の物品分野の意匠において,本\n件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であったと認められる。
他方で,後端フィン及び中間フィンの各面が,支持軸体の通過部分以
外には貫通孔がなく,平滑であるという構成態様(同M)は,乙12意匠において\nも開示されておらず,前記1(8)で述べたとおり,検査用照明器具においてそのよう
な構成態様を備えたものは公知意匠として存在していなかった(甲14で開示され\nている意匠においても,後端フィン及び中間フィンの上側に貫通孔が設けられてい
る。)。この点,乙8意匠はタワー型のヒートシンクの意匠であり,その後端面は
平滑であるが,前記1(3)で判示したとおり,これがどのような物品の放熱部として
用いられるものかは明らかでなく,これと他の部材との位置や大きさの関係,ある
いはヒートシンクの各部分の具体的な寸法等も明らかでないし,そもそも乙8の文
献はヒートシンクに関する一般的説明をしたものにすぎないから,要部の認定に当
たって参酌すべき公知意匠というべきものとはいえない。
そして,前記1で判示したとおり,本件意匠の具体的構成態様Mは,その意匠登\n録出願前の公然知られた意匠に基づき,容易に創作することができたものとはいえ
ないから,公知意匠にない新規な創作部分であると認められる。
ウ 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等
一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得えないから,\n部分意匠においても,部分意匠に係る物品において,意匠登録を受けた部分がどの
ような機能及び用途を有するものであるかを,その類否判断やその前提となる要部\n認定の際に参酌すべき場合がある。
このような観点から検討すると,本件意匠に係る物品は検査用照明器具でありL
ED等を内蔵するところ,LEDを使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇す
ることから,その放熱(設計)の必要性が指摘されている(甲21,22,24な
いし25の2)。そして,本件意匠はその放熱部の意匠であり,特にそこに設けら
れたフィンは放熱するための部材(放熱フィン)であるから,放熱を必要とする検
査用照明器具の需要者は,放熱効率という観点から,本件意匠の部材の形態や配置
の状況に着目すると考えられ,具体的には,放熱部である後方部材が前方部材の延
伸上にあること,放熱部である後方部材が,前方部材と同程度の大きさ(径)であ
ること,複数枚のフィンが間隔を空けて配置されていること,フィンよりも支持軸
体の方が径が小さく,支持軸体の貫通孔以外のフィンの部分が放熱に寄与すること
に着目すると思われる。
また,前記1で検討した公知意匠の内容に照らすと,フィンの枚数,間隔及び厚
みを変更したり(中間フィンと後端フィンの厚みの関係も含む。),フィンに面取
りを加えたり,支持軸体の径を変更したりすることは,ありふれた手法というべき
であって,需要者がそのわずかな違いに着目するとは考えられないが,需要者が放
熱を重視する場合,少なくとも,フィンの枚数や厚み,支持軸体とフィンの径の関
係,フィンの間隔とフィンの径の関係が大きく変われば,受ける美感は異なってく
ると考えられる。
他方,乙12意匠等の公知意匠では,後端面(後端フィンの後面)から電源ケー
ブルが引き出されており,そのために後端フィンや中間フィンの上側に貫通孔が設
けられ,又は後端フィンの中心部に孔が設けられていたところ,電源ケーブルの引
き出し位置がどこであるかは,検査用照明器具としての使用態様に関わることであ
るから,後端フィン及び中間フィンについて,支持軸体の通過部分以外に貫通孔が
なく,その各面が平滑である点は,本件意匠において,公知意匠にはない,需要者
の注意を惹く点であると認められる。
エ 要部の認定
以上によれば,公知意匠との関係や,需要者が着目しその注意を惹くという
観点から,前記基本的構成態様及び具体的構\成態様を総合し,以下の点を本件意匠
の要部とするのが相当である。
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。
後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方に
延伸する支持軸体が設けられている。
支持軸体には,薄い円柱状の中間フィン2枚及び後端フィン1枚が設
けられている。
後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。
支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じであ
る。
フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度である。
中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔は
なく,その各面は平滑である。
(4) 被告製品の構成態様\n
別紙「被告製品の図面」及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成態様は,\n別紙「裁判所認定の構成態様」の「イ号物件」ないし「ヘ号物件」欄記載のとおり\nと認められる(符号は原告の主張をベースにしているが,構成態様の内容は,原告\nも異論がないとしている別紙「被告主張の構成態様」の内容等も踏まえ,一部変更,\n付加した。)。なお,「共通」とあるのは,「本件意匠」欄記載の構成態様と同じ\n構成態様であるという意味である。\n
(5) 本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の意匠との類否
ア 本件意匠の要部(前記(3) いし )と前記(4)で認定した被告製品
の構成態様とを対比すると,イ号物件ないしハ号物件については,中間フィンが3\n枚であること(同 参照),支持軸体の径がフィンの径の3分の1強であること(同
参照),フィン相互の間隔がフィンの径の約10分の1ないし約6分の1である
こと(同 参照),イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にね
って,その後面又は各面が平滑でないこと(同 参照)といった差異点があり,そ
の余は共通点であると認められる。
イ まず,中間フィンの枚数,支持軸体とフィンの径の関係,フィンの間隔
とフィンの径の関係について,大きく相違すれば異なる美感を生じさせる場合があ
ることは前述したところであるが,本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の各意匠と
の差異はわずかであり,格別異なる美感を生じさせるとまでは認められない。
ウ 本件意匠の要部(ク)については、イ号物件ないしハ号物件の中間フィンに
貫通孔はなく,その各面は平滑であるものの,後端フィンについては,ねじ穴又は
貫通孔があり,その後面又は両面が平滑でない点で相違する。
しかしながら,イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にねじ
穴が設けられているため,ねじ穴自体は支持軸体の中にあって,中間フィンに貫通
孔はなく,ロ号物件については,後端フィンの左右対称位置にねじ穴があって,後
端フィンは貫通しているものの,中間フィンに貫通孔は存しない(別紙「被告製品
の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)」参照)。\n需要者が検査用照明器具の商品としての特長を把握しようとする際には,正面,
あるいは斜め前方,斜め後方から見て,発光部の構造,放熱部の構\造,両者の構造\n的関係を把握しようとすると考えられ,この場合,後端フィンのみならず中間フィ
ンにも貫通孔のある乙12意匠のような製品であれば,容易に貫通孔の存在を認識
するのに対し,イ号物件ないしハ号物件の場合,正面,あるいは斜め前方から観察
した程度では,ねじ穴の存在を認識することはなく,後方から観察した場合に初め
て後端フィンのねじ穴の存在を認識すると考えられ,ねじ穴があるという機能の違\nいを認識することはあっても,格別これを美感の違いとして認識することはないと
思われる。
エ アないしウを総合すると,本件意匠の要部である前記(3)エ(ア)ないし(ク)
とイ号物件ないしハ号物件の構成態様とを対比すると,差異点は存するものの,い\nずれも細部といえる点であって,需要者に視覚を通じて起こさせる美感が異なると
いえるような大きな差異点はなく,基本的な構造としてはむしろ共通点が多いから,\nイ号物件ないしハ号物件の意匠は,いずれもこれを全体として観察した場合,本件
意匠と共通の美感を生じさせるものであって,本件意匠に類似するということがで
きる。
・・・
(3) 本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由
ア 被告は,本件意匠の被告製品の売上げ(利益)に対する貢献や寄与は低
く,その寄与率は0.2%にも満たないと主張し,推定覆滅事由の存在についても
主張している。これに対し,原告は本件意匠の寄与度は100%であると主張し,
被告の主張を争っている。
イ そこで本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由について検討する。
まず,本件意匠に係る物品は検査用照明器具で,本件意匠はその後方
部材の意匠であるところ,イ号物件ないしハ号物件全体の中で,上記後方部材に相
当する部分が占める割合は,正面視における面積比において,最大でも4割程度と
考えられる(乙18参照)。そして,各物件には,本件意匠に係る物品と同じく,
前方部材には光導出ポート等が設けられ,LED等が内蔵されていると考えられる
から,イ号物件ないしハ号物件全体の製造原価の中で後方部材の製造原価が占める
割合は,かなり低いと考えられる。
また,既に検討したとおり,イ号物件ないしハ号物件の意匠と本件意
匠には種々の共通点がみられるものの,これらの共通点に係る構成態様は,検査用\n照明器具の物品分野の意匠において,本件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形
態であり,本件意匠の要部とはされない部分も多い。したがって,イ号物件ないし
ハ号物件が部分意匠である本件意匠に類似するとしても,これが需要者の購買動機
に結びつく度合いは低いといわざるを得ない。
原告は,本件意匠の実施品とされる「第2世代HLVシリーズ」の製
品の販売開始に当たって,「従来品に比べ2倍以上明るい」こと,「従来より均一
度3倍アップ,明るさも26%アップした」ことを強調し,その特徴として,「低
消費電力・低発熱で環境にやさしい」ことや,「長寿命でメンテナンスコストを削
減」したこと,「軽量・小型設計で場所を取らず省スペース」であることなど,製
品自体の性能や機能\等を強調する一方で,本件意匠には言及すらしていない(甲1
5,16)。また,原告は同製品が掲載されたカタログにおいて,高輝度スポット
照明に関し,電源ケーブルを検査用照明器具の側周面から引き出した図面を掲載し
つつも,その宣伝文句として,「明るさと均一度をアップした」ことや,「軽量・
コンパクト設計,しかも低消費電力で長寿命」であることを記載するとともに,製
品の説明において,「高コントラスト撮影が可能」,「従来比2倍の光量アップを\n実現」などと,製品自体の性能や機能\等を強調しており(甲8,乙6),甲17の
製品のカタログにおいても同様であった(甲17)。
被告も,製品のカタログにおいて,「鏡面ワークに最適 軽量・コンパクト」と
いうことや,「パッケージ・液体・印字などの透過検査に最適」であることを強調
しており(甲5),乙23添付の他のカタログにおいても同様である(乙23)。
以上によれば,検査用照明器具の需要者は,検査を必要とする製造業者等である
ことから,イ号物件ないしハ号物件を購入するに当たり,主に検査用照明器具それ
自体の性能や機能\等に着目すると認められ,本件意匠との類似性が購買の動機とな
る程度は高くないといわざるを得ない。
◆判決本文
下記に、問題の意匠が掲載されています。
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2018.07. 2
平成30(行ケ)10021 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成30年6月27日 知的財産高等裁判所
部分意匠について、先行意匠に類似するので無効と主張しましたが、知財高裁4部は、「無効理由無し」とした審決を維持しました。判決の最後に、図面があります。
本件登録意匠と甲1意匠とは,本件審決が認定するとおり,意匠に係る
物品が「検査用照明器具」である点で共通し,共に検査用照明器具の放熱
に係る用途及び機能を有し,正面視全幅の約1/3以上の横幅を占める大\nきさ及び範囲を占め,正面視右上に位置する点で,物品の部分の用途及び
機能並びに位置,大きさ及び範囲の点で共通する(争いがない。)。\nそこで,本件登録意匠と甲1意匠との類否について検討するに,甲18
の2(各図面は別紙5参照)及び弁論の全趣旨によれば,「横向き円柱状
の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて,最後
部のフィン部の形状について,中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)
を中間フィン部に比べて大きくし,後端面の外周角部を面取りした」構成\n態様(共通点Aに係る構成態様)は,検査用照明機器の物品分野の意匠に\nおいて,本件登録意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であることが
認められる。
そうすると,共通点Aに係る構成態様(全体の構\成態様)は,需要者の
注意を強く惹くものとはいえず,本件登録意匠と甲1意匠との類否判断に
及ぼす影響は小さいものといえる。また,共通点Bに係る構成態様(フィ\nン部の数が6つであること)についても,需要者が特に注目するとは認め
られず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものといえる。
一方で,本件登録意匠と甲1意匠とは,各フィン部の形状について,本
件登録意匠では,各フィン部の右側面形状が「下部を切り欠いた円形状」
であって,その切り欠き部は底面から見た最大縦幅が各フィン部の最大縦
幅の約2分の1を占める大きさであり,かつ,平面から見た各フィン部の
左側面側外周寄りに傾斜面が形成されているのに対し,甲1意匠では,各
フィン部の右側面形状が「円形状」であって,切り欠き部が存在せず,平
面から見た各フィン部に傾斜面が形成されていないという差異(差異点a
及びb)があるところ,各フィン部の形状の上記差異は,需要者が一見し
て気付く差異であって,本件登録意匠は甲1意匠と比べて別異の視覚的印
象を与えるものと認められる。
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,共通点Aに係る構成態様(全\n体の構成態様)及び共通点Bに係る構\成態様(フィン部の数)は,需要者
の注意を強く惹くものとはいえないのに対し,差異点a及びbに係る各フ
ィン部の形状の差異は,需要者が一見して気付く差異であって,本件登録
意匠と甲1意匠を別異のものと印象付けるものであること,本件登録意匠
と甲1意匠には,上記差異のほかに,差異点cないしeに係る差異もある
ことを総合すると,本件登録意匠と甲1意匠は,視覚を通じて起こさせる
美観が異なるものと認められるから,本件登録意匠は甲1意匠に類似する
ということはできない。
◆判決本文
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◆平成30(行ケ)10020
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2017.06.17
平成28(ワ)7185 意匠権侵害差止請求事件 意匠権 民事訴訟 平成29年5月18日 大阪地方裁判所
部分意匠の侵害事件において、非類似と判断されました。部分意匠については、少し違うだけでも非類似となりやすいですね。
ア 以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的
構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,\n円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有
する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。
しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点
で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部があ
る点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も円
形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において,
内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山
状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また,
本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に
形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の
上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されてい\nることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なる
ものとしている。
イ 以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいず
れも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存
在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体部を構\成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見え
る外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けるこ
とがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側
枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外
側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がよ
り看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっ
ていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,そ
れぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を
生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
◆判決本文
本件意匠・被告意匠などはこちらです。
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◆別紙2
◆別紙3
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2016.12.14
平成28(行ケ)10054 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成28年11月7日 知的財産高等裁判所
手すりの部分意匠について、創作容易であるとした審決が維持されました。判決文中に本件意匠および引用意匠が提示されています。平面部の透明度がグラデーションで変化するというものです。
(ウ) 透明の面板を手摺の構成部分に使用する場合において,下を白く着色\nして透明度を低く,上の透明度を高く,下から上にグラデーションにより透明度を
高く変化させることは,公然知られた模様又は色彩であり,これを合わせガラス面
板の模様又は色彩として手摺の構成部分である合わせガラス面板に付することは,\n当業者にとってありふれた手法であることは,前記(1)ウ(イ)のとおりである。
また,着色された部分の色調や透明度をどの程度とするか,透明度がグラデーシ
ョンにより変化している部分をどの位置にするか,透明度がグラデーションにより
変化する幅をどの程度にするかについては,構成比率を変更するものにすぎず,こ\nれらの比率を,前記第2の2の甲1の透過率を説明する参考図や使用状態を示す参
考図のようにすることは,当業者にとってありふれた設定であることも,前記(1)ウ
(イ)のとおりである。
そして,前記(イ)によれば,平板の合わせガラスを着色するに当たり,合わせガラ
スを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層のみに着色し,2枚のガラ\nス板をその全面において透明にすることは,当業者にとってありふれた手法である。
したがって,仮に,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板であ
る合わせガラスを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層に特定されて\nいることを前提としても,本件部分意匠は,意匠登録出願前に当業者が日本国内に
おいて公然知られた形状と模様又は色彩の結合に基づいて容易に創作をすることが
できたものといえ,意匠法3条2項に該当する。
◆判決本文
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2015.07.20
平成27(行ケ)10004 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成27年7月9日 知的財産高等裁判所
パチンコ、スロットマシンなど画面の意匠(部分意匠)について、創作容易でないとした審決が維持されました。
上記のとおり,差異点(エ)とは,大型数字表示部の下側から右側にかけて倒L\n字状に設けられた2〜3桁の小型数字表示部の配列の差異をいうところ,この小型\n数字表示部は,表\示画面中央上辺寄りに設けられた3桁の大型数字表示部(差異点\n(イ)),表示画面左側上辺寄りに設けられた4桁の中型数字表\示部(差異点(ウ)),
表示画面左側下辺寄りに設けられたドット表\示部と共に,本件部分意匠の美感上の
特徴の一部,すなわち,極めて目立つ大型数字表示部を上辺の中心に置き,その周\n囲に比較的小さな各種データ表示部を配置するという特徴を構\成している要素であ
る。
ところが,この差異点(エ)に係る倒L字状の数字表示部群,すなわち,小型数\n字表示部の形態は,引用部分意匠2〜5のいずれにも見られないものであり,また,\n通常の需要者の視覚を通じて生じる美感を基準とする限り,引用部分意匠1の区域
4)〜8)を倒L字状の数字表示部群ととらえることもできない。そして,この倒L字\n状の形態が,ありふれた手法に基づくものであるとか,又は特段の創意を要さない
で創作できるとは認め難い(シンプルであるからといって,直ちに,創作が容易で
あるとか,美感への影響が微弱であるとはいえない。)。
原告の主張するように,数字表示部の桁数,数字表\示部の大きさ,又は数字表示\n部の配置を多少変更させることは,個別に分断して検討すれば,それほどの創意工
夫とはいえないであろうが,これらを全体的に観察すると,大型数字表示部に隣接\nして配置された多数の数字よりなる小型数字表示部が,倒L字状のものとして,一\n体の美感を形成しているのである。
(2) 差異点(イ)について
前記のとおり,差異点(イ)とは,表示画面中央上辺寄りに設けられた3桁の大\n型数字表示部の有無をいうところ,この形態は,引用部分意匠2〜5のいずれにも\n見られない。また,この形態が,ありふれた手法に基づくものであるとか,又は特
段の創意を要さないで創作できるとは認め難い。
原告は,引用部分意匠2に差異点(イ)に係る構成が顕れている旨を主張する。\nしかしながら,本件部分意匠の大型数字表示部は,表\示画面の最上段に配置され
ているところ,引用部分意匠の3桁の大型数字表示部は,表\示画面上方寄りには配
置されているものの,最上段のドット表示部よりは下に配置されているのであり,\n大型数字表示部の配置された位置は,両者で異なるものである(このような数字表\
示部の配置の入替え〔左右上下前後反転のようなものは含まない。〕と,上記(1)に
説示した数字表示部の単なる配置の変更とは区別されなければならない。)。しかも,\n本件部分意匠では,小型数字表示部及び中型数字表\示部という二段階の対象数字表\n示部との比較において,大型数字表示部の大きさがより強調されているものである。\n数字を大きくすること自体がありふれた手法であるとしても,ありふれた手法に
基づく複数の構成要素を組み合わせることによっても新たな美感は生じ得るのであ\nり,そして,その組合せにこそ創意が発揮されるのである。したがって,意匠の構\n成要素の位置を異にする意匠から,その位置を捨象した構成要素のみを取り出して\nその創意を論じることは,相当ではない。
◆判決本文
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2015.06.10
平成26(ワ)12985 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 平成27年5月15日 東京地方裁判所
部分意匠について類似しないとの判断がなされました。
また,本件意匠に係る物品である包装用箱は,何らかの品物を箱の中に収納することにより,当該品物を持ち運ぶ際に品物の形状を損なうことなどを防いだり,複数の品物をまとめたり,品物を贈答する際の外観上の装飾等の使途及び機能を有するものと解されるところ,本件意匠に相当する部分には,略三角錐形状の単一な印象から動的な美観を生じさせる多面体としての外観上の装飾(アクセント)としての機能\を有するものと認められ,ほかに特別な使途及び機能を有するものではないものと認められる。\nそして,三角形4面で形成される略三角錐形状をした包装用箱の意匠そ
れ自体は,少なくとも本件意匠登録の出願前に日本国内において公然知られたものであること(乙1,弁論の全趣旨)に照らすと,本件意匠の要部は,組立時において天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうち1本の稜線に(構成態様B),当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の二つの二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させて略菱形状の面(アクセントパネル)を形成したこと(構\成態様C),アクセントパネルの中央部分は,三角錐形状の面よりも凹状にへこませて形成されていること(構成態様D),アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記Cの二つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1であること(構\成態様E)であると認めるのが相当である。
・・・
以上の点に関し,原告は,意匠登録第1193959号(甲8)の意匠(以下「甲8意匠」という。)を本意匠とし,意匠登録第1194201号(甲9)の意匠(以下「甲9意匠」という。)及び意匠登録第1194202号(甲10)の意匠(以下「甲10意匠」という。)を関連意匠とする意匠登録がされていること(すなわち,特許庁によって,甲8意匠と,甲9意匠及び甲10意匠とが類似する旨判断されたこと)などの事情に照らし,本件意匠と被告意匠のアクセントパネルの具体的形状の差異は意匠全体の類否判断に影響しない旨主張する。
しかし,甲8意匠及び甲10意匠において,直方体状の包装用容器の長辺のうちの1本の両端を除く部分に形成されている二つの略菱形状の凸状の面(甲8意匠では,二つの略菱形状の間が空いているが,甲10意匠では,二つの略菱形状が接している。)や,甲9意匠において,直方体状の包装用容器の長辺のうちの1本の両端を除く部分に形成されている二つの略紡錘状の凸状の面(二つの略菱形状の間が空いている。)は,本件意匠におけるアクセントパネルのように,三角錐形状の稜線に沿って設けられた凹状の面ではなく,また,当該三角錐の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本に,その天頂に位置する点から底面を形成する点に至るまでの全体にわたって,形成されているものでもない。本件意匠と被告意匠との差異点が看者に与える美観の差異の程度は,甲8意匠ないし甲10意匠における上記凸状の面の差異点が看者に与える美観の差異の程度とは,量的にも,質的にも異なるものというべきであって,原告の上記主張は,採用することができない。
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2007.02. 1
◆平成18(行ケ)10317 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成19年01月31日 知的財産高等裁判所
部分意匠の類似について波線で示された形状等を参酌して判断すべきとして、類似するとした審決が取り消されました。
「部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない。しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能\及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能\及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2(2)のとおり,意匠登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能\を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである。そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表\すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。」
◆平成18(行ケ)10317 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成19年01月31日 知的財産高等裁判所
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