2018.12. 1
部分意匠について、侵害であるとして、差止、損害賠償が認められました。なお、損害額は約300万円です。これは、利益に対する貢献や寄与が低いと認定されたためです。
登録意匠と対比すべき意匠とが類似であるか否かの判断は,需要者の視
覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,
意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用
途及び使用態様,並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取
引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と
対比すべき意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視\nして,観察を行うべきである。
そして,本件意匠に係る物品の説明によれば,本件意匠に係る物品である検査用
照明器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出(検査)に用いられるもの
であるから,そのような検査を必要とする製品の製造業者等によって購入されるも
のであると推認される。したがって,意匠の類否判断における取引者・需要者は,
そのような製造業者等である。
そこで,このような需要者の観点から,本件意匠の要部について検討する。
イ 公知意匠
平成15年6月16日に発行された意匠公報(乙12)において,乙
12意匠(別紙「乙12意匠の図面」参照)が開示されていた。そして,乙12意
匠は,前記1(8)イで認定したとおり,本件意匠の基本的構成態様AないしDと同じ\n構成態様を備えているほか,本件意匠の具体的構\成態様E,H,I及びJの一部並
びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。\nそうすると,以上の構成態様は,検査用照明器具の物品分野の意匠において,本\n件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であったと認められる。
他方で,後端フィン及び中間フィンの各面が,支持軸体の通過部分以
外には貫通孔がなく,平滑であるという構成態様(同M)は,乙12意匠において\nも開示されておらず,前記1(8)で述べたとおり,検査用照明器具においてそのよう
な構成態様を備えたものは公知意匠として存在していなかった(甲14で開示され\nている意匠においても,後端フィン及び中間フィンの上側に貫通孔が設けられてい
る。)。この点,乙8意匠はタワー型のヒートシンクの意匠であり,その後端面は
平滑であるが,前記1(3)で判示したとおり,これがどのような物品の放熱部として
用いられるものかは明らかでなく,これと他の部材との位置や大きさの関係,ある
いはヒートシンクの各部分の具体的な寸法等も明らかでないし,そもそも乙8の文
献はヒートシンクに関する一般的説明をしたものにすぎないから,要部の認定に当
たって参酌すべき公知意匠というべきものとはいえない。
そして,前記1で判示したとおり,本件意匠の具体的構成態様Mは,その意匠登\n録出願前の公然知られた意匠に基づき,容易に創作することができたものとはいえ
ないから,公知意匠にない新規な創作部分であると認められる。
ウ 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等
一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得えないから,\n部分意匠においても,部分意匠に係る物品において,意匠登録を受けた部分がどの
ような機能及び用途を有するものであるかを,その類否判断やその前提となる要部\n認定の際に参酌すべき場合がある。
このような観点から検討すると,本件意匠に係る物品は検査用照明器具でありL
ED等を内蔵するところ,LEDを使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇す
ることから,その放熱(設計)の必要性が指摘されている(甲21,22,24な
いし25の2)。そして,本件意匠はその放熱部の意匠であり,特にそこに設けら
れたフィンは放熱するための部材(放熱フィン)であるから,放熱を必要とする検
査用照明器具の需要者は,放熱効率という観点から,本件意匠の部材の形態や配置
の状況に着目すると考えられ,具体的には,放熱部である後方部材が前方部材の延
伸上にあること,放熱部である後方部材が,前方部材と同程度の大きさ(径)であ
ること,複数枚のフィンが間隔を空けて配置されていること,フィンよりも支持軸
体の方が径が小さく,支持軸体の貫通孔以外のフィンの部分が放熱に寄与すること
に着目すると思われる。
また,前記1で検討した公知意匠の内容に照らすと,フィンの枚数,間隔及び厚
みを変更したり(中間フィンと後端フィンの厚みの関係も含む。),フィンに面取
りを加えたり,支持軸体の径を変更したりすることは,ありふれた手法というべき
であって,需要者がそのわずかな違いに着目するとは考えられないが,需要者が放
熱を重視する場合,少なくとも,フィンの枚数や厚み,支持軸体とフィンの径の関
係,フィンの間隔とフィンの径の関係が大きく変われば,受ける美感は異なってく
ると考えられる。
他方,乙12意匠等の公知意匠では,後端面(後端フィンの後面)から電源ケー
ブルが引き出されており,そのために後端フィンや中間フィンの上側に貫通孔が設
けられ,又は後端フィンの中心部に孔が設けられていたところ,電源ケーブルの引
き出し位置がどこであるかは,検査用照明器具としての使用態様に関わることであ
るから,後端フィン及び中間フィンについて,支持軸体の通過部分以外に貫通孔が
なく,その各面が平滑である点は,本件意匠において,公知意匠にはない,需要者
の注意を惹く点であると認められる。
エ 要部の認定
以上によれば,公知意匠との関係や,需要者が着目しその注意を惹くという
観点から,前記基本的構成態様及び具体的構\成態様を総合し,以下の点を本件意匠
の要部とするのが相当である。
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。
後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方に
延伸する支持軸体が設けられている。
支持軸体には,薄い円柱状の中間フィン2枚及び後端フィン1枚が設
けられている。
後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。
支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じであ
る。
フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度である。
中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔は
なく,その各面は平滑である。
(4) 被告製品の構成態様\n
別紙「被告製品の図面」及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成態様は,\n別紙「裁判所認定の構成態様」の「イ号物件」ないし「ヘ号物件」欄記載のとおり\nと認められる(符号は原告の主張をベースにしているが,構成態様の内容は,原告\nも異論がないとしている別紙「被告主張の構成態様」の内容等も踏まえ,一部変更,\n付加した。)。なお,「共通」とあるのは,「本件意匠」欄記載の構成態様と同じ\n構成態様であるという意味である。\n
(5) 本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の意匠との類否
ア 本件意匠の要部(前記(3) いし )と前記(4)で認定した被告製品
の構成態様とを対比すると,イ号物件ないしハ号物件については,中間フィンが3\n枚であること(同 参照),支持軸体の径がフィンの径の3分の1強であること(同
参照),フィン相互の間隔がフィンの径の約10分の1ないし約6分の1である
こと(同 参照),イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にね
って,その後面又は各面が平滑でないこと(同 参照)といった差異点があり,そ
の余は共通点であると認められる。
イ まず,中間フィンの枚数,支持軸体とフィンの径の関係,フィンの間隔
とフィンの径の関係について,大きく相違すれば異なる美感を生じさせる場合があ
ることは前述したところであるが,本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の各意匠と
の差異はわずかであり,格別異なる美感を生じさせるとまでは認められない。
ウ 本件意匠の要部(ク)については、イ号物件ないしハ号物件の中間フィンに
貫通孔はなく,その各面は平滑であるものの,後端フィンについては,ねじ穴又は
貫通孔があり,その後面又は両面が平滑でない点で相違する。
しかしながら,イ号物件及びハ号物件については,後端フィンの後面中心にねじ
穴が設けられているため,ねじ穴自体は支持軸体の中にあって,中間フィンに貫通
孔はなく,ロ号物件については,後端フィンの左右対称位置にねじ穴があって,後
端フィンは貫通しているものの,中間フィンに貫通孔は存しない(別紙「被告製品
の後端フィンの後面に設けられたねじ穴に関する意匠(構成態様)」参照)。\n需要者が検査用照明器具の商品としての特長を把握しようとする際には,正面,
あるいは斜め前方,斜め後方から見て,発光部の構造,放熱部の構\造,両者の構造\n的関係を把握しようとすると考えられ,この場合,後端フィンのみならず中間フィ
ンにも貫通孔のある乙12意匠のような製品であれば,容易に貫通孔の存在を認識
するのに対し,イ号物件ないしハ号物件の場合,正面,あるいは斜め前方から観察
した程度では,ねじ穴の存在を認識することはなく,後方から観察した場合に初め
て後端フィンのねじ穴の存在を認識すると考えられ,ねじ穴があるという機能の違\nいを認識することはあっても,格別これを美感の違いとして認識することはないと
思われる。
エ アないしウを総合すると,本件意匠の要部である前記(3)エ(ア)ないし(ク)
とイ号物件ないしハ号物件の構成態様とを対比すると,差異点は存するものの,い\nずれも細部といえる点であって,需要者に視覚を通じて起こさせる美感が異なると
いえるような大きな差異点はなく,基本的な構造としてはむしろ共通点が多いから,\nイ号物件ないしハ号物件の意匠は,いずれもこれを全体として観察した場合,本件
意匠と共通の美感を生じさせるものであって,本件意匠に類似するということがで
きる。
・・・
(3) 本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由
ア 被告は,本件意匠の被告製品の売上げ(利益)に対する貢献や寄与は低
く,その寄与率は0.2%にも満たないと主張し,推定覆滅事由の存在についても
主張している。これに対し,原告は本件意匠の寄与度は100%であると主張し,
被告の主張を争っている。
イ そこで本件意匠の寄与度ないし推定覆滅事由について検討する。
まず,本件意匠に係る物品は検査用照明器具で,本件意匠はその後方
部材の意匠であるところ,イ号物件ないしハ号物件全体の中で,上記後方部材に相
当する部分が占める割合は,正面視における面積比において,最大でも4割程度と
考えられる(乙18参照)。そして,各物件には,本件意匠に係る物品と同じく,
前方部材には光導出ポート等が設けられ,LED等が内蔵されていると考えられる
から,イ号物件ないしハ号物件全体の製造原価の中で後方部材の製造原価が占める
割合は,かなり低いと考えられる。
また,既に検討したとおり,イ号物件ないしハ号物件の意匠と本件意
匠には種々の共通点がみられるものの,これらの共通点に係る構成態様は,検査用\n照明器具の物品分野の意匠において,本件意匠の意匠登録出願前に広く知られた形
態であり,本件意匠の要部とはされない部分も多い。したがって,イ号物件ないし
ハ号物件が部分意匠である本件意匠に類似するとしても,これが需要者の購買動機
に結びつく度合いは低いといわざるを得ない。
原告は,本件意匠の実施品とされる「第2世代HLVシリーズ」の製
品の販売開始に当たって,「従来品に比べ2倍以上明るい」こと,「従来より均一
度3倍アップ,明るさも26%アップした」ことを強調し,その特徴として,「低
消費電力・低発熱で環境にやさしい」ことや,「長寿命でメンテナンスコストを削
減」したこと,「軽量・小型設計で場所を取らず省スペース」であることなど,製
品自体の性能や機能\等を強調する一方で,本件意匠には言及すらしていない(甲1
5,16)。また,原告は同製品が掲載されたカタログにおいて,高輝度スポット
照明に関し,電源ケーブルを検査用照明器具の側周面から引き出した図面を掲載し
つつも,その宣伝文句として,「明るさと均一度をアップした」ことや,「軽量・
コンパクト設計,しかも低消費電力で長寿命」であることを記載するとともに,製
品の説明において,「高コントラスト撮影が可能」,「従来比2倍の光量アップを\n実現」などと,製品自体の性能や機能\等を強調しており(甲8,乙6),甲17の
製品のカタログにおいても同様であった(甲17)。
被告も,製品のカタログにおいて,「鏡面ワークに最適 軽量・コンパクト」と
いうことや,「パッケージ・液体・印字などの透過検査に最適」であることを強調
しており(甲5),乙23添付の他のカタログにおいても同様である(乙23)。
以上によれば,検査用照明器具の需要者は,検査を必要とする製造業者等である
ことから,イ号物件ないしハ号物件を購入するに当たり,主に検査用照明器具それ
自体の性能や機能\等に着目すると認められ,本件意匠との類似性が購買の動機とな
る程度は高くないといわざるを得ない。
◆判決本文
下記に、問題の意匠が掲載されています。
◆物件目録
2018.07. 2
部分意匠について、先行意匠に類似するので無効と主張しましたが、知財高裁4部は、「無効理由無し」とした審決を維持しました。判決の最後に、図面があります。
本件登録意匠と甲1意匠とは,本件審決が認定するとおり,意匠に係る
物品が「検査用照明器具」である点で共通し,共に検査用照明器具の放熱
に係る用途及び機能を有し,正面視全幅の約1/3以上の横幅を占める大\nきさ及び範囲を占め,正面視右上に位置する点で,物品の部分の用途及び
機能並びに位置,大きさ及び範囲の点で共通する(争いがない。)。\nそこで,本件登録意匠と甲1意匠との類否について検討するに,甲18
の2(各図面は別紙5参照)及び弁論の全趣旨によれば,「横向き円柱状
の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて,最後
部のフィン部の形状について,中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)
を中間フィン部に比べて大きくし,後端面の外周角部を面取りした」構成\n態様(共通点Aに係る構成態様)は,検査用照明機器の物品分野の意匠に\nおいて,本件登録意匠の意匠登録出願前に広く知られた形態であることが
認められる。
そうすると,共通点Aに係る構成態様(全体の構\成態様)は,需要者の
注意を強く惹くものとはいえず,本件登録意匠と甲1意匠との類否判断に
及ぼす影響は小さいものといえる。また,共通点Bに係る構成態様(フィ\nン部の数が6つであること)についても,需要者が特に注目するとは認め
られず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものといえる。
一方で,本件登録意匠と甲1意匠とは,各フィン部の形状について,本
件登録意匠では,各フィン部の右側面形状が「下部を切り欠いた円形状」
であって,その切り欠き部は底面から見た最大縦幅が各フィン部の最大縦
幅の約2分の1を占める大きさであり,かつ,平面から見た各フィン部の
左側面側外周寄りに傾斜面が形成されているのに対し,甲1意匠では,各
フィン部の右側面形状が「円形状」であって,切り欠き部が存在せず,平
面から見た各フィン部に傾斜面が形成されていないという差異(差異点a
及びb)があるところ,各フィン部の形状の上記差異は,需要者が一見し
て気付く差異であって,本件登録意匠は甲1意匠と比べて別異の視覚的印
象を与えるものと認められる。
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,共通点Aに係る構成態様(全\n体の構成態様)及び共通点Bに係る構\成態様(フィン部の数)は,需要者
の注意を強く惹くものとはいえないのに対し,差異点a及びbに係る各フ
ィン部の形状の差異は,需要者が一見して気付く差異であって,本件登録
意匠と甲1意匠を別異のものと印象付けるものであること,本件登録意匠
と甲1意匠には,上記差異のほかに,差異点cないしeに係る差異もある
ことを総合すると,本件登録意匠と甲1意匠は,視覚を通じて起こさせる
美観が異なるものと認められるから,本件登録意匠は甲1意匠に類似する
ということはできない。
◆判決本文
関連事件です。
◆平成30(行ケ)10020