意匠権侵害(部分意匠)について1審の判断をそのまま維持し、差止および約300万円の損害賠償を認めました。
本件意匠に係る物品の需要者及び物品の性質,用途等
本件意匠に係る物品である検査用照明器具は,工場等において製品の
傷やマーク等の検出(検査)に用いられるものであるから,意匠の類否
判断における取引者・需要者は,製造工場等における機器等の購入担当
者,検査業務の従事者等である。この検査用照明器具は,LEDや光学
素子を内蔵して,前端部から光を照射するものであるところ,LEDを
使用すると熱を発生し,器具内の温度が上昇して,発光出力が低下する
ことから,放熱の必要性が指摘されている(甲21,22,24)。
本件意匠は,そのような検査用照明器具の放熱部の意匠であるから,
上記需要者は,放熱部材の表面積の大小や部材相互の空隙の大小から放\n熱性能の高低を推し量るという観点から,放熱部材であるフィン構\造体
の,発光部との位置関係,フィンの形状,数,大きさ(支持軸体の径との
関係),配置(フィン相互の間隔)に注目するものと考えられる。
ウ 公知意匠等の参酌
ところで,前記1(1)ウ,オに認定したとおり,本件意匠の登録出願前
までに,検査用照明器具の物品分野における放熱部の意匠として,乙7
等意匠,乙12意匠が開示されており,これらは,前記1(3),(5)で検
討したとおり,本件意匠の基本的構成態様(A〜D)と同じ構\成態様を
備えているほか,本件意匠の具体的構成態様のうちE,I及びJの各一\n部並びにF,K及びLと同じ構成態様を備えている。そうすると,これ\nらの構成態様に係る形態は,本件意匠の意匠登録出願前に公知であった\nと認められる。
また,一審原告は,本件意匠の構成態様とは,中間フィンの枚数のみ\nを異にする意匠を,本件意匠の関連意匠として,意匠登録している(前
提事実(2)イ)。
そうすると,上記イの各点のうち,フィンの枚数,厚み,縁の面取り,
フィン相互の間隔,フィンの大きさと支持軸体の径との関係(支持軸体の
太さ)については,それらにわずかな違いがあっても,需要者がその差異
に注目するとは考えられないが,これらが大きく異なれば,需要者が受
ける視覚的な印象は異なるものと考えられる。
他方で,本件意匠の後端フィン及び中間フィンの各面には,支持軸体
の通過部分以外には貫通孔がなく,平滑であるという形態(本件意匠の
具体的構成態様M)は,乙7等意匠や乙12意匠にはないものであり\n(なお,類似の物品である照明器に係る意匠である乙4意匠にもそのよ
うな形態がないことは,前記1(1)エ,(4)のとおりであるし,甲14で
開示されている意匠でも,フィン様の突状が施されているケース本体の
上側に貫通孔が設けられている。),また,前記1(6)及び(7)で検討し
たとおり,公知意匠の組み合わせに基づいて容易に創作することができ
るともいえないから,公知意匠にはない,新規な創作部分であると認め
られる。そして,電源ケーブルの引き出し位置は,検査用照明器具とし
ての使用態様に関わるから,この形態(具体的構成態様M)は,需要者\nの注意を惹くものと認められる。
これに対し,一審被告は,公知意匠として乙8意匠も参酌すべきであ
り,同意匠では,後端フィンの後端面は平滑であるから,本件意匠の具
体的構成態様Mは,新規な創作部分とはいえない等と主張する。\nしかし,前記1(1)イのとおり,そもそも,乙8意匠は,検査用照明器
具の後方部材に係る意匠ではないから,これを,本件意匠の要部認定に
おいて,公知意匠として参酌すべきものとは解されない。一審被告の主
張は採用できない。
エ 本件意匠の要部
以上を総合すれば,本件意匠の要部は,原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」のうち,次のとおり認められる。
(フィン構造体と発光部との位置関係について)\n
(ア) 前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材である。
(イ) 後方部材の中心には,検査用照明器具の前方部材の後端面より後方
に延伸する支持軸体が設けられている。
(フィンの形状,数,大きさ〔支持軸体との関係〕,配置について)
(ウ) 支持軸体には,薄い円柱状の,中間フィンが2枚と,後端フィン1
枚が取り付けられている。
(エ) 後端フィンの厚みは,中間フィンの厚みの約2倍である。
(オ) 支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
(カ) 中間フィン及び後端フィンの径は,前方部材の最大径とほぼ同じで
ある。
(キ) フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度の等間隔である。
(フィンの形状のうち貫通孔の有無について)
(ク) 中間フィン及び後端フィンには,支持軸体の通過部分以外に貫通孔
はなく,その各面は平滑である。
(4) 本件意匠とイ号意匠との類否
ア 対比
本件意匠の要部(前記(3)エ)と,これに対応するイ号意匠の構成態様\nを対比すると,1) 中間フィンの枚数は,本件意匠が2枚である(要部
(ウ))のに対し,イ号意匠では3枚であり(原判決別紙「裁判所認定の構\n成態様」イ号g1),2) 後端フィンは,本件意匠では中間フィンの約2
倍である(要部(エ))のに対し,イ号意匠では約1.3倍であり(イ号h
1),3) 支持軸体の径は,本件意匠がフィンの径の5分の1程度である
(要部(オ))のに対し,イ号意匠では3分の1強であり(イ号j1),4)
フィン相互の間隔が,本件意匠ではフィンの直径の8分の1程度である
(要部(キ))のに対し,イ号意匠では約10分の1であり(イ号e1),
5) フィンの各面の形状について,本件意匠では,貫通孔がなく平滑であ
る(要部(ク))のに対し,イ号意匠では,後端フィンの後面中心にねじ穴
が1箇所ある(イ号m1)という差異があるが,その余の点(要部(ア),
(イ),(カ))は共通すると認められる。
イ 類否判断
上記アの差異点に関して,1)の中間フィンの枚数,2)のフィンの厚み,
3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔については,需要者がそれ
らのわずかな違いに注目するとは考えられないが,これらが大きく相違
すれば,異なる印象を生じさせる場合があることは前述のとおりである。
ところで,需要者が,検査用照明器具の放熱部としてのフィン構造体\nの特徴を把握しようとする際には,正面視で,フィンの配置状況等を観
察するほか,斜め前方から(左側面視)又は斜め後方(右側面視)から見て,
フィンの形状や発光部とフィン構造体との位置関係等も観察するものと\n考えられる。
このような観察によると,2)のフィンの厚みについて,イ号意匠の後
端フィンには面取が施されている分,その厚みが中間フィンよりも厚い
という印象を与えるということができる。その一方で,本件意匠と比較
した厚みの程度の差は一見して明らかとはいえないし,1)のフィンの枚
数,3)の支持軸体の太さ,4)のフィン相互の間隔の粗密の違いも,それ
ほど目立つとはいえず,視覚的に異なる印象をもたらすとまでは認めら
れない。
また,5)のフィンの各面の形状について,イ号意匠の後端フィンの後
面のねじ穴は,支持軸体の中心に穿設されていて,中間フィンに貫通孔
はなく(原判決別紙「被告製品の後端フィンの後面に設けられたねじ穴
に関する意匠(構成態様)」参照),この穴の存在は正面視や左側面視\nでは認識できず,右側面視にて初めて認識されるところ,ねじ穴にすぎ
ないことに照らせば,需要者において,その存在に特に注意を向けると
は考えにくく,これを美感の違いとして捉えることはないものと認めら
れる。
そうすると,イ号意匠は,これを全体として観察すると,本件意匠の
要部とは複数の差異点が存するものの,それらはいずれも大きな差異と
は認められず,その他の点において共通しているということができるか
ら,本件意匠と共通の美感を起こさせるもので,本件意匠に類似すると
認められる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)12791
2019.07. 5
部分意匠について、新規性無しの無効審判が請求されましたが、審決・裁判所とも非類似と判断しました。
本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワ
ー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けら
れており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。
そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と
の共通点及び相違点は,次のとおりである。
前記の認定(1(1)(2))によれば,本件意匠と引用意匠1とは,aのうち,ともに機
器に設けられる放熱部であるという限度で重なり合うところがあり,また,bその中
心に支持軸体が設けられ,c支持軸体の中間及び後端に,薄い円柱状の,支持軸体よ
りも径の大きい,同一径のフィンが複数枚,間隔を空けて設けられ,f各フィンが,
中心軸を合致させ,互いに等しい間隔で設置されているという点,j各フィンの各面
が,支持軸体の通過部分以外は平滑である点においても共通する。
他方,aについても,本件意匠が前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられ
た後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1は汎用的なタワー型ヒートシンク
であるという点では相違し,また,eフィンの枚数について,本件意匠では中間フィ
ンと後端フィンを合わせて3枚であるのに対し,引用意匠1では4枚である点,gフ
ィンの厚みについて,本件意匠ではフィンの上下で差がないのに対し,引用意匠1の
フィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,
i本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意
匠1では約3分の1である点においても相違する。
ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は視覚を通じて起こさせる美観が
縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ)また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,1)本件
意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であ
るのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという
点,2)本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍で
あるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,
3)本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中
央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体
の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,こ
れらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1
とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
エ よって,取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内
又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準と
して,そこからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容
易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,その要件
の該当性を判断するときには,上記の公知のモチーフを基準として,当業者の立場か
らみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第
45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和4
8年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号28
7頁参照)。
イ 検討
これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられてい
る,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認
めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容
易であるとはいえない。
また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相
違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証\n拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3(引用意匠1及び同2に基づく創作容易性判断の誤り)及び取消事
由4(引用意匠1及び同3に基づく創作容易性判断の誤り)
ア 原告は,引用意匠1に同2又は同3をそれぞれ組み合わせれば,それらに基づ
き本件意匠を容易に創作することができたとも主張する。
イ 検討
しかしながら,本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられている
のに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に
並べて設けられているところ,タワー型の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べ
ることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1及び同2又は同3
に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。
また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみても,1)本件意匠が,
前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対
し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,2)本
件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるの
に対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,3)本件
意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の
厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,4)支持軸体の直径
が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの
相違点が前記の共通点を凌駕することは,前記(1)のとおりである。そして,タワー型
ヒートシンクである引用意匠1に検査用照明器具に係る引用意匠2又は同3を組み
合わせる動機付けを認めるに足りる証拠はない。また,少なくとも相違点4)に係る本
件意匠の構成が引用意匠2又は同3にあらわれているということができないことか\nらすれば,引用意匠1に引用意匠2又は同3を組み合わせてみても,本件意匠には至
らない。したがって,それらに基づき当業者において本件意匠を創作することが容易
であったとは認められない。
◆判決本文
本件の侵害事件です。
◆平成28(ワ)12791
2019.06. 7
爪切りについての意匠権侵害と不競法の品質等誤認表示が争われました。裁判所はいずれも認めました。意匠権侵害の損害額は、被告の得た利益のうち、推定覆滅事由として以下の2つを認め、利益のうち28%としました。1)部分意匠であること(70%)、2)爪切りであるので、商品のデザインを重視して商品が購入されることが多いとはいえない(40%)こと。
(5) 推定覆滅事由等
ア 被告製品1関係について
(ア) 意匠権侵害関係について
a 意匠権侵害関係については,原告実施品の販売減少による逸失利益が問題となるところ,前記認定の被告製品1の利益の額がその損害額と推定されるから,この推定に関する覆滅事由等が問題となる。
b 本件登録意匠が部分意匠であることの考慮について
本件登録意匠は部分意匠であり,意匠の対象となっているのは操作レバ
ーとカバー部である(別紙「本件登録意匠の構成」参照)のに対し,被告製品1は\n爪切り全体であるから,本件意匠権侵害行為による原告の損害額と推定されるのは,
被告製品1の販売等による利益の額のうち,本件意匠権侵害部分である操作レバー
とカバー部に相当する額である。そして,被告は,それらの爪切り全体に占める割
合について,表面積にしてせいぜい40%であるとか,その部分の製造原価は高く\nても20%程度であると主張している。
確かに,本件登録意匠の対象部分が爪切りの一部であり,表面積としてみても,\n爪切りの大半を占めるわけではないことは被告主張のとおりであるし,また爪切り
における重要部分が刃であり,爪切り全体に占める操作レバーやカバー部の製造原
価が一部にとどまることも,被告主張のとおりと推測される。
しかし,ここで被告製品1の全体に占める本件意匠権侵害部分の割合を検討する
趣旨は,被告製品1の販売利益に占める本件意匠権侵害部分の割合を明らかにする
ためであるから,その割合は,顧客吸引力の観点から,できる限り被告製品1の意
匠全体に対する本件意匠権侵害部分の貢献割合によって決めるべきものであり,被
告が主張する表面積や製造原価,特に製造原価の割合は,それを検討するための出\n発点として分かりやすいものではあっても,一要素であるにすぎない。
そこで,本件登録意匠の特徴を検討すると,本件登録意匠のうち,操作レバーの
末端部側が紡錘状となる形状を備え(別紙「本件登録意匠の構成態様」の構\成C),
カバー部も,操作レバーの末端部側よりも一回り大きい紡錘状となる形状を備え
(同構成D),操作レバーが先端部側から末端部側に至る中心面から上下に対称な\n湾曲した稜線を介して上下に傾斜して下る形状を備え(同構成E),カバー部が中\nほどの紡錘状の稜線を介して操作レバー側に窪み,その窪みにおける稜線の中央近
傍側でより深く窪んだ形状を備えている(同構成F)点は,爪切りを手に持ち,あ\nるいは置いて見たときに大きく目立つ点であり,本件の証拠に見られる他の爪切り
の意匠(甲10,61ないし64,66ないし68,乙17,28ないし31)に
は見られない特徴点で,爪切り全体の美感に与える影響が大きいと認められる。こ
のことは,原告のホームページで,原告実施品(甲56の写真参照)について,機
能性だけでなく,「やさしさを感じさせる曲面フォルム」に触れられていることや,\nグッドデザイン賞の審査委員から,「バッタの様にも見える有機的な形態が魅力の爪
切りである。その新鮮なデザインを評価したい。」と評価されていることからもうか
がわれる。そして,爪切りの先端側の形状は,それ自体には上記の他の爪切りの形
状と比べて顕著な特徴があるとはいえないが,上記の末端側に比べて細くすぼまる
形状や,各部分の大きさ(同別紙の構成H及びI)のバランスは,「バッタの様に\nも見える有機的な形態」との印象を与えるのに寄与しているといえる。
他方,被告製品1でも操作レバー及びカバー部の意匠は,本件登録意匠とほぼ同
一であり,爪切り全体の意匠としても原告実施品とほぼ同一であると認められると
ころ,操作レバー及びカバー部以外の部分(別紙「本件登録意匠の構成」の点線部\n分に相当する部分)は,爪切り全体の中で相応に大きな面積割合を占めており,そ
の形態も合わさって全体が「バッタの様にも見える有機的な形態」との印象を与え
ることにもなっているものの,その部分の形態自体には,他の爪切りとの美感上の
顕著な差は認められない。そして,別紙「被告意匠の構成」の「パッケージ」欄の\nとおり,被告製品1がドン・キホーテの店舗で販売される際には,クリアケースを
通してその平面視の状態を,末端側が若干だけ隠れた形で視認できるように陳列さ
れていたから(甲3ないし6),需要者は主として平面視の意匠を認識することにな
る。そうすると,被告製品1の意匠全体の美感に対して本件意匠権侵害部分が与え
る影響は高いというべきであり,被告が指摘する表面積や製造原価の点を考慮した\nとしても,被告製品1の意匠全体に占める本件意匠権侵害部分の割合は7割と認め
るのが相当である。
c 本件意匠権侵害関係で被告が主張する他の推定覆滅事由について
(a) 被告は,本件登録意匠と同一の基本的構成態様を有する爪切りは\n多数存在するとして乙28の1ないし3の各意匠の存在を指摘するところ,この主
張は,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力への寄与の低さをいうことにより,
被告製品1についての後記(b)以下の事情の重要性をいう趣旨であると解される。
確かに,乙28の1の意匠では,カバー部と操作レバーの末端部側がそれ以外の
部分と比べて若干ふくらんでいるように見える。しかし,本件登録意匠は,操作レ
バーの末端部側を丸みを帯びた紡錘状となる形状とすること(構成C)と併せて,\nカバー部の末端部側をそれよりも一回り大きい紡錘状となる形状とすること(同
D)によって,爪切りをたたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強
調されている。これと対比すると,乙28の1の意匠では操作レバーの末端部側は
カバー部の末端部側とほぼ同じ形態とされているにすぎず,全体として異なる美感
を有するものと認めるほかない。
また,乙28の2及び28の3については,爪切りがたたまれた場合の形態が不
明であるが,乙28の2の意匠はカバー部の末端部側がそれ以外の部分よりもすぼ
んでいるように見えるから,本件登録意匠と異なる美感を有するものといわざるを
得ない。さらに,乙28の3の意匠はカバー部が操作レバーよりも末端部側がふく
らんだ形態を有しているように見えるが,本件登録意匠の構成Bと異なり,操作レ\nバーがほぼ平坦なように見え,末端部側へ向かって緩やかに湾曲して下る形状を有
しているとは認められない。そして,上述のとおり,本件登録意匠では,爪切りを
たたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強調されているところ,そ
れには本件登録意匠の構成Bも寄与していると認められるから,同構\成を有してい
ない乙28の3の意匠と本件登録意匠の美感が共通しているとは認められない。
以上より,乙28の各意匠の存在が,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力へ
の寄与の低さを基礎付けるとはいえないから,これにより推定が覆滅されるとはい
えない。むしろ,前記bで述べたところからすると,本件登録意匠は,原告実施品
とほぼ同一の形態である被告製品1について,「バッタの様にも見える有機的な形
態」との印象を与える特徴的な意匠であるというべきである。
(b) 次に,被告は,被告製品1特有のデザインの存在を主張している。
しかし,被告が主張する被告製品1特有のデザインについて,美感に与える影響が
大きいとはいえないから,これを推定覆滅事由として考慮することはできない。
(c) もっとも,爪切りは爪を切るために使用する実用品であり日用品
であるから,需要者が購入するに当たっては,一般にその切れ味等の性能や使いや\nすさ,それらと価格とのバランスを重視するものと考えられ,商品のデザインを重
視して商品を購入することが多いとはいえない。確かに,原告実施品の場合は,複
数の百貨店や東急ハンズ等で販売され,日本製で定価が2000円(税抜)とされ
ており,爪切りの市場においては,販売価格が500円を下回る爪切りや,100
0円前後の爪切りが販売されている(乙28,29,弁論の全趣旨)のと比べると,
爪切りの販売価格としては高いから,原告実施品は,価格の高い高級品として販売
されているといえ,そのような原告実施品を購入する需要者には,品質と並んでデ
ザインを重視する者も多くいると考えられる。これに対し,被告製品1は,専らド
ン・キホーテという総合ディスカウントストアで販売されており,店頭販売価格が
1280円(税抜)と他の爪切りにも見られる価格帯であり,それが専ら売られて
いたドン・キホーテにおいても,1000円前後の爪切りやそれよりも安い爪切り
が販売されていたことが推認される(乙31は侵害行為があった時期と異なる時期
のものであるが,これによっても推認可能である。)から,このような店舗と価格で\n被告製品1を購入した需要者において,商品のデザインを重視して商品を購入する
ことが多いとは考え難い。また,爪切り市場において原告のシェアが高いとも認め
られない。
したがって,以上の点は,推定の一部覆滅事由たり得るというべきである(なお,
被告は,自身の営業努力を主張するが,被告製品1をドン・キホーテで販売できる
ようにしたという以上に,被告主張の営業努力が通常のものを超えたものであると
いうことはできない。)が,前記のとおり本件登録意匠が爪切りのデザインとして特
徴的なものであり,相応の顧客吸引力を有すると考えられること,被告製品1と原
告実施品の価格差が著しいというわけでもないこと,原告実施品の利益率が被告製
品1の利益率に比べて特に低いともうかがわれないこと(なお,被告は,原告がO
EM供給している製品については利益率が低いと主張しているが,そのような事実
を認めるに足りる証拠はない。)も考慮すると,推定覆滅率は60%と認めるのが相
当である。
d したがって,被告製品1の意匠権侵害行為に係る損害の額は,被告
製品1の利益の額の28%(0.7×0.4)となる。
・・・
(6) 原告の損害額
ア 以上の認定・判示によれば,意匠法39条2項及び不正競争防止法5条
2項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円である。
(計算式) 被告製品1に係る被告の利益●(省略)●円×0.38(意匠
権侵害行為に係る損害と14号の不正競争行為に係る損害分)+被告製品2に係る
被告の利益●(省略)●円+被告製品3に係る被告の利益●(省略)●円×0.1
≒●(省略)●円
イ また,原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に委任したとこ
ろ,被告の不法行為及び不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用は●(省
略)●万円と認めるのが相当である。
ウ 以上より,被告の不法行為及び不正競争行為による原告の損害額は,合
計76万1265円となる。
◆判決本文
◆本件意匠および被告商品
◆本件意匠および被告商品