意匠の先使用権が認められました。原告の別件意匠権と抵触する意匠の制作を依頼された被告は、当該意匠権を回避する代替意匠を創作しました。原告のよる本件意匠の出願日の少し前に発注があったと認定されました。
ア 被告は,平成21年7月14日,株式会社交建設計から,仙台市交通局の工事について見積依頼を受けたが(乙3),その際,使用する建材として,原告が製造していた乙1意匠の実施品(以下「乙1製品」という。)と同様のデザインの建築用パネルを指定された。乙1意匠は,平成20年6月18日,原告により登録出願され,平成21年4月24日,意匠登録されたものである(乙1)。イ 被告は,調査の結果,上記指定は,乙1意匠に係る意匠権を侵害すると判断し,乙1製品の代替製品を開発することとした。その結果,被告担当者が,3つの意匠を創作したが(乙4),そのうちの1つが,被告意匠である。ウ 上記工事の納入時期はしばらく先であったため,直ちに製造に着手しなかったところ,平成22年1月,株式会社錢高組(以下「錢高組」という。)から,相模原新築工事の引き合いがあり,乙1製品の使用の可否を問い合わせてきた。被告は,乙1製品の使用はできないと回答するとともに,乙1製品の代替製品の開発を再開し,上記3つの意匠のうち被告意匠に係る製品(被告製品)の口金を製作することとした(乙5)。被告は,有限会社藤沼工機(以下「藤沼工機」という。)に対し,口金の製作を発注し,同年3月31日までに納入を受け,検収した(乙6)。エ 被告は,被告製品を自社製品のラインナップに加えることとし,これを平成22年6月版の製品カタログに掲載し(乙7),その後,同年10月,上記相模原新築工事に使用するため,錢高組に被告製品を販売した。オ 原告は,その間,本件意匠を創作し,平成22年4月20日,登録出願し,同年12月3日,意匠登録(本件意匠登録)された(甲2)。
(2)本件意匠登録出願日における事業の準備
前記(1)によると,被告は,錢高組の実施する相模原新築工事に使用する被告製品を販売するため,その口金の製作を発注し,これを平成22年3月31日受領し,その後,被告製品を製造した上,錢高組に販売したことが認められる。したがって,遅くとも,上記口金を受領した平成22年3月31日の時点において,被告は,被告意匠を備えた被告製品の製造,販売に係る事業の即時実施の意図を有しており,その意図を客観的に認識される程度に表明したというべきである。すなわち,本件意匠登録出願日である平成22年4月20日に先立つ同年3月31日の時点で,被告意匠に係る被告製品の製造,販売に係る事業の準備をしていたと認めることができる。\n
◆判決本文