意匠権侵害訴訟です。非類似と判断されました。
名札入れについては,本件意匠の上部という比較的目立つ位置に存在
し,大きさも,前面部全体の10%程度と小さいとはいえないものの,
その形状は,正面視でプレート内側に向けて浅い開口部が形成されてい
るにすぎず(甲2,3),名札入れとしてさほど特徴的なものではない
上,その機能も,当該ロッカーの使用者を提示するもので,ロッカーの\n開閉及び施錠という本件意匠に係る物品の本来的な機能とは異なる付随\n的なものであることに照らせば,他の部位に比して,需要者の注意を惹
く程度は限定されるというべきであるから,この構成が需要者の注意を\n特に惹くとは認められない。そして,このことは,本件意匠と名札入れ
の有無について相違がある意匠が本件意匠の類似意匠として登録されて
いることからも裏付けられる。
オ 以上からすると,本件意匠の要部は,その基本的構成態様を前提として,\nつまみ及びその周辺部の具体的構成態様にあると認めるのが相当である。\nそこで,以下,これを前提にして本件意匠と被告意匠との類否を検討する。
カ 前記のとおり,本件意匠と被告意匠とは,本件意匠の要部であるつまみ
及びその周辺部の具体的構成態様において差異がある。すなわち,本件意\n匠のつまみは,円筒形の基底部とそこから直径に沿って滑らかに突出する
略直方体状の操作部とが一体成形されているのに対し,被告意匠のつまみ
は,外周面に凹凸のある操作部を有する円筒形状で鍵穴を有するというよ
うに,つまみ自体の形状が大きく異なる。また,つまみ周辺部についても,
被告意匠では,円弧状の開口部,矢印,並びに閉鎖及び解放された色違い
の錠の印が存在するのに対し,本件意匠においては,つまみ基底部外周に
接する形で矢尻状の印が存在するのみであるなど,異なっている。特に,
被告意匠のつまみにおける鍵穴の長さは,つまみの直径の2分の1を上回
るものであり,それ自体目を惹くものである上,鍵穴は,鍵を挿入するこ
とにより,ダイヤル錠が施錠状態でもデッドボルトを回すことが可能とな\nるという重要な機能を果たすものであること(乙10p13,弁論の全趣\n旨)も考慮すると,需要者の注意を強く惹くものであるというべきである。
原告は,鍵穴が設けられたつまみは本件意匠出願時公知であった(甲20,
21)点を指摘するが,そうであるとしても,鍵穴のあるつまみと,鍵穴
のないつまみとを対比した場合に,鍵穴の存在が類否判断に大きな影響を
与えるとの判断は左右されない。以上より,本件意匠の要部であるつまみ
及びその周辺部における差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす
ものというべきである。
他方,本件意匠及び被告意匠の共通点は前記のとおりであるところ,そ
の基本的構成態様,手がかり部及びダイヤル操作部の共通点は,前記のと\nおりいずれも需要者の注意を惹くとは認められない。
そして,以上の点に加え,名札入れの有無及びそれに伴う手がかり部の
相違をも併せ考慮すると,本件意匠と被告意匠との差異点の印象は,共通
点の印象を凌駕し,全体として異なる美感を与えるものというべきである
から,被告意匠は,本件意匠に類似するものと認めることはできない。
◆判決本文