2016.10. 4
容器付冷菓について、一意匠であるのか争われました。審決は一意匠でないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
イ 本願意匠における意匠に係る物品は,「容器付冷菓」(甲4)であって,
上記別表第一に列挙されている物品の区分には該当しない。そこで,願書の「意匠\nに係る物品」欄及び「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参照すべきところ,「容
器付冷菓」は,その名称からすれば,「冷菓」が主体であって,「容器」が付随し
ているものと解される。
また,本願意匠登録出願に係る「意匠に係る物品の説明」(甲4)には,「本物
品は,参考断面図に示したように,容器部内に冷菓部材を充填し,次いで前記冷菓
部材の上面全部をあん部材で覆い,次いで前記あん部材上にもち部材を点状に配設
し,これらの全体を冷凍して容器部と一体に流通に付されるものである。」と記載
されている。上記記載を参照すれば,本願意匠に係る「冷菓」は,容器部内に冷菓
部材を充填し,その上部にあん部材,もち部材を順次配設した後,これらを冷やし
固めることによって製造するものと認識される。そして,冷菓部材,あん部材及び
もち部材からなる「冷菓」は,「容器」と共に流通に付されるものである。使用の
場面においても,通常,「容器」に入ったままの「冷菓」をスプーン等ですくって
食することが想定される。よって,製造,流通,及び使用の各段階において,「冷
菓」は,「容器」に充填され冷やし固められたままの一体的状態であると認められ
る。
さらに,上記製造方法からすれば,本願意匠に係る「冷菓」を,その形態を保っ
たまま「容器」から分離することは,容易ではないものと推認される。しかも,「冷
菓」は,製造の段階から,流通,使用に至るまで「容器」から分離されることはな
いから,「冷菓」が「容器」から独立して通常の状態で取引の対象となるとはいえ
ない。
これらを総合考慮すれば,本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,社会通
念上,一つの特定の用途及び機能を有する一物品であると認められ,「冷菓」の部\n分のみが「容器」の部分とは独立した用途及び機能を有する一物品とはいえない。
ウ これに対して,被告は,1)「容器」と「冷菓」は全く用途の異なる物品
であって,「容器」は,単体の形状として独立して創作される,2)内容物としての
「冷菓」も,同じ容器でも異なる形態の冷菓が存在し得るから,冷菓の形状として,
独立して創作される,3)冷菓は食用に供されるが,食用に供されることのない「容
器」は,冷菓を構成する部材や部品に該当しない,4)実施の実情からしても,容器
製造業者が容器を製造販売し,冷菓製造業者がそれを購入することもある,5)冷菓
を納めた容器には蓋がされているから,容器はむしろ蓋と一体となって商品として
の外観形態を構成する,6)消費者が冷菓を食するときには,冷菓は容器に収容され
た別の物品として認識する,ことを理由に,容器と冷菓とは一物品ではなく,二物
品である,と主張する。
しかし,1)「容器」と「冷菓」とを分離した場合のそれぞれの用途が異なること
は,後記(4)の登録意匠例のように,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が\n一物品と認められることがあることを考慮すると,本願意匠に係る物品が一物品と
いえないことの理由にはならず,「容器」と「冷菓」とが,社会通念上一体として
一つの特定の用途及び機能を有するといえるか否かを検討すべきである。また,「容\n器」が単体の形状として独立して創作されることがあるとしても,本願意匠に係る
「冷菓」は,「容器」と独立しては製造,流通及び使用することが困難であり,し
かも,「容器付冷菓」としての物品の主体は,「冷菓」であるから,付随する「容
器」の独立性を理由として,二つの物品と認めることはできない。
2)「冷菓」が,同じ容器でも異なる形態として独立して創作されることがあると
しても,物品の一部が異なる形態として創作され得るのは通常のことであり,その
ことを理由として,本願意匠に係る物品が一物品であることを否定することはでき
ない。3)前記1)のとおり,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が一物品と認め\nられる場合,全体が同一の用途又は機能とならないことは当然であり,本願意匠に\nおいて「容器」が食用に供されないことは,「容器」が「冷菓」と共に一物品を構\n成することを否定する理由とはならない。
4)意匠に係る物品が複数の部分から構成されている場合,それぞれの部分を異な\nる業者が作成し,それらを特定の業者が組み立てることは通常あり得るし,このよ
うな物品につき,各部分を異なる者が製造販売したことにより,一物品であること
が常に否定されるものではない。
5)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上,
一つの特定の用途及び機能を有する一物品であり,しかも,「容器付冷菓」の物品\nとしての主体は,「冷菓」であるから,「冷菓」に付随するにすぎない「容器」に
蓋を設ける場合があるとしても,そのことを理由として,二つの物品と認めること
はできない。
6)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上,
一つの特定の用途及び機能を有する一物品と認められ,消費者が冷菓を食する場合\nであっても,冷菓を容器とは独立した物品と認識するとはいえない。
被告の主張には,いずれも理由がない。
◆判決本文