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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

意匠その他

令和1(ネ)2739 意匠権  民事訴訟 令和2年10月30日  大阪高等裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。1審(大阪地裁)は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。1審被告が控訴、1審原告が附帯控訴をしました。控訴審は、原告が支払い済みの分を除いた約3000万円の支払いを命じました。

 当裁判所も,控訴人及び一審被告静岡産業社の共同不法行為により被控訴人が受けた損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円であって,上記共同不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であり,その合計額は5888万7589円であるが,他方で,値下げによる損害についての賠償は認められないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(3)及び5のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」第4の8(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
そして,被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を受けたので,上記損害賠償残金は2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となった。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)2439

イ号および本件意匠は以下です。

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平成30(ワ)6029  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 データ記録機の意匠について、ケースの製造・販売が間接侵害(のみ要件)に該当すると判断され、3500万円の損害賠償が認定されました。

意匠法39条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵 害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造,販売することによりそ の製造,販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で あり,その主張立証責任は意匠権者側にあるものと解される。
(イ) 被告が平成29年6月〜令和元年6月の間に被告製品を5万2708台 販売したことは,当事者間に争いがない。
また,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,上記期間における被告製品の 合計売上額(税抜)は,合計4億5514万1899円と認められる(内訳は別紙 「損害一覧表(裁判所の認定)」の「売上額(税抜)」欄のとおり)。\nこの点,被告は,上記期間における被告製品の合計売上額につき,乙15の1の 「売単価」欄記載の額の合計額であると主張する。 しかし,「売単価」欄は,その名称から,売却単価を記載したものと理解される。 子細に見ても,型番及びJANコードを同じくする製品で,「受注数」欄記載の受注 数が異なるものであっても,「売単価」欄記載の額は原則として同一である。すな わち,例えば,型番及びJANコードが同一の伝票番号167017及び167018の各製品を 見ると,受注数は前者が1個,後者が2個とされているが,「売単価」欄記載の額 はいずれも8800円とされている(受注数が1個の場合と5個の場合でも,同様 に「売単価」欄記載の額が同額という例もある。伝票番号374934及び374935)。同 一型番の製品であっても,伝票番号168810(2万6900円)と169855(2万85 00円)のように,「売単価」欄記載の額が異なる例はあるものの,2倍以上の開 きがある例は見当たらない。 そうすると,乙15の1の「売単価」欄記載の額は,売却単価を意味するにとど まるものと理解されるのであって,その合計額をもって被告製品の合計売上額と見 ることに合理性はない。すなわち,「売単価」欄記載の額に「受注数」欄記載の受 注数を乗じた額をもって売上額と理解すべきである。この点に関する被告の主張は 採用できない。
(ウ) また,消費税法基本通達5−2−5(「例えば,次に掲げる損害賠償金 のように,その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲 渡等の対価に該当することに留意する。…(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害 者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」)に鑑みると,意匠法39 条2項の「利益の額」は,消費税(8%。以下同じ)込の売上額をもとに算定すべ きである。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 被告製品に係る経費の額
(ア) 被告製品の製造原価(仕入額)
証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の仕入額は,売上額 の算定の場合と同様に,乙15の1の「実原価」欄記載の額に「受注数」欄記載の 受注数を乗じたものの合計4億1013万5936円(税抜)と認められる。また, これに消費税を加算することとなる。これに反する被告の主張は採用できない。
(イ) 被告主張の販売手数料等
被告は,「利益の額」(意匠法39条2項)算定に当たり控除すべき経費 として,さらに,販売手数料(乙15の1の「販売手数料」欄記載のもの)を主張 する。
しかし,乙15の1の「販売手数料」欄記載の額は,いずれも「売単価」欄記載 の額の9%程度と見られ,そのような計算方法によること自体,これをもって被告 製品の製造,販売に直接関連して追加的に必要になった費用とは考え難いことをう かがわせる。また,被告が「販売手数料」の内訳として挙げるものは,システム利 用料,出店料,成約手数料,ポイント付与原資,オプション料,広告掲載料,支払 システム利用料,広告宣伝メール配信手数料,保険料,口座決済手数料,ポイント 費用,代金引換回収費用,月額登録料,カスタマーサポート費用,クレジットカー ド決済店舗管理費用,トランザクション従量課金費用,キャッシュバックキャンペ ーン費用,クーポン広告料,クリック単位課金費用等であるところ,証拠(乙22 〜33)を子細に見ると,定額のもの(例えば,乙23の「プラン共通_楽天ペイ 利用料」,「プラン共通_商品一括登録サービス」等,乙28の1の「請求書」の 「固定費用」欄記載の各項目,乙31の「出店料」,乙33の「GOODA情報掲 載」)が見受けられる。額が変動しているものも,一部に,商品カテゴリのレベル で売上と手数料率が示されているものがあるものの(乙31),これも含め,被告 製品との具体的な関係は証拠上全く不明というほかない。そうである以上,これら の費用は,いずれも,被告製品の販売に直接関連して追加的に必要となったものと はいえない。 したがって,被告主張に係る「販売手数料」を「利益の額」算定に当たって控除 すべき経費とすることはできない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 被告製品についての小計
以上より,被告製品に係る利益の額(税込)は4860万6441円と認め られる。
・・・
キ 推定覆滅事由の有無等
(ア) 「利益の額」(意匠法39条2項)とは,原則として,侵害者が得た利 益全額であり,これについて「損害の額」として推定が及ぶものの,侵害者の側で, 侵害者が得た利益の一部又は全部について,意匠権者が受けた損害との相当因果関 係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものと 解される。推定を覆滅させる事情としては,侵害者が得た利益と意匠権者が受けた 損害との相当因果関係を阻害する事情,例えば,意匠権者と侵害者の業務態様等の 相違(市場の非同一性),市場における競合品の存在,侵害者の営業努力(ブラン ド力,宣伝広告),侵害品の性能(機能\,性能等意匠以外の特徴)等が挙げられる。\n以下では,このような観点から,推定覆滅の有無及び程度について検討する。
(イ) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 検討
a まず,前記1のとおり,本件意匠は,意匠登録出願前の公知意匠に はない特徴的な構成態様(基本的構\成態様(A3)〜(C3))をその要部として有するも のであり,相応な程度の顧客吸引力を有するといってよい。このことは,本件意匠 の実施品である原告製品がグッドデザイン賞を受賞し,「造形的には,シンプルで あるが一つのコーナーを大きなアールとすることで,このシリーズの特徴となり, バランスのよいデザインとしてまとまっている。また,同社の他のシリーズとのア イデンティを感じさせるデザインである。」と評価されていること(乙11)から もうかがわれる。また,前記((イ)a,b)のとおり,被告製品及び原告製品のパッ ケージ等には,製品自体の画像が掲載されており,これに接した需要者は,自ずと 本件意匠の要部に相当する製品の正面及び平面を形成するプレートに着目すること になると推察される。
そうである以上,本件意匠は,具体的な製品イメージの形成に直接関わるもので あり,被告製品の売上に相応に貢献していると見るのが相当である。 もっとも,原告製品及び被告製品が属する商品カテゴリであるデータ記憶機 (HDD製品)においては,需要者がこれを購入するに当たり,意匠のみならずその 機能面,具体的には,用途との関連におけるデータ容量,接続予\定の機器との接続 可能性,データ転送速度,耐久性や静音性等も,重要な商品選択の要因となる(乙\n41〜43参照)。このことは,前記((イ)a及びb)認定に係る被告製品や原告製 品のパッケージ等の記載内容からもうかがわれ,むしろ,機能面での特徴がこれら\nの宣伝媒体における中心的な内容となっているといえる。顧客の商品レビュー(甲 7,23,乙18の2,18の3)の内容を見ても,製品のデザイン性に言及する ものもあるものの,機能に言及するものの方が相当多い。こうした事情に鑑みると,\n需要者は,HDDの購入に際し,デザイン性と機能とでは,第一次的には機能\を,第 二次的にデザイン性を考慮するものと見るのが適当である。 もとより,販売価格も重要な商品選択の要因であることには多言を要しないとこ ろ,需要者は,製品購入に当たり,当然,販売価格と自己の求める機能及びデザイ\nン性とのバランスを考慮することとなる。 したがって,被告製品の需要者は,第一次的には製品の機能を,第二次的にデザ\nイン性を,販売価格をも考慮に入れつつ評価し,その購入動機を形成するものと考 えられる。そうすると,被告製品やそのケースに係る被告の利益の全てが,本件意 匠と類似する意匠である被告意匠に起因するものということはできない。すなわち, 上記事情は,侵害者である被告が得た利益と意匠権者である原告が受けた損害との 相当因果関係を阻害する事情として,相当程度考慮すべきである。これに反する原 告の主張は採用できない。
b これに対し,被告は,原告製品と被告製品とでは美感及び印象が全 く異なり,代替可能性がないと主張する。\nしかし,前記1のとおり,本件意匠と被告意匠とは類似するものであり,需要者 にとって美感及び印象が全く異なるということはできないから,この主張はそもそ も前提を欠く。なお,被告は,被告製品には,原告製品と異なり白色のものもある ことを指摘するけれども,複数色で商品展開していることの販売実績への影響は具 体的に明らかでない。その点を措くとしても,前記のとおり,商品選択におけるデ ザイン性の考慮は第二次的なものと位置付けられることに鑑みると,仮に影響があ るとしても,その程度は限定的なものにとどまると思われる。 また,被告は,競合品ないし代替品となる同種のデータ記憶機が数多く販売され ていることを指摘する。
もとより,前記のとおり,第一次的には製品の機能が購入動機の形成要因となる\nことを考えると,機能面で原告製品及び被告製品と競合する他社のHDD製品が市場 に存在することは,被告製品の販売がなくなった場合に,必ずしもその売上に相当 する需要の全てが原告製品に向かうものではないことを意味する。そうである以上, この点は推定覆滅事由として考慮する必要がある。もっとも, 証拠(乙19)及び 弁論の全趣旨によれば,令和元年5月のベンダー販売実績において,原告は34社 中1位(販売数量シェア40.76%,販売金額シェア41.03%,平均単価1 万0417円)であるのに対し,被告は11位(販売数量シェア0.66%,販売 金額シェア0.62%,平均単価9841円)とされる。これを踏まえると,被告 製品に対する需要は,その販売がなくなった場合,むしろ相当程度原告製品に向か うものと考えるのが適当である。 さらに,被告は,原告製品のうち「HD-LXU3D」シリーズについて,その自動暗 号化機能の点で被告製品と需要者が異なると指摘する。しかし,当該機能\は,HDD であることを前提としたいわば付加的な機能にすぎないから,当該機能\の存在ゆえ に需要者を異にするということはおよそできない。
c 以上の事情を総合的に考慮すると,本件では,被告製品とそのケー スに係る被告の利益について,7割の限度で意匠法39条2項による推定が覆滅さ れるとするのが相当である。これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用で きない。
ク 意匠法39条2項及び3項に基づく原告の損害額
以上によれば,意匠法39条2項に基づく原告の損害額は,1469万47 17円と認められる(詳細は別紙「損害一覧表(裁判所の認定)」参照。以下同\nじ。)。 他方,推定覆滅に係る部分については,同条2項に基づく推定が覆滅されるとは いえ無許諾で実施されたことに違いはない以上,同条3項が適用されると解するの が相当である。後記((2)イ(エ))のとおり,実施料率は5%として算定すべきと考え られることから,当該覆滅部分につき,意匠の実施に対し原告が受けるべき金銭の 額(税込)は1737万9277円となる。そうすると,両者を合わせた額は,合 計3207万3994円となる。
(2) 意匠法39条3項に基づく損害について
ア 被告製品の売上額
前記((1)ア)のとおり,被告製品の売上額(税抜)は4億5514万189 9円であり,これに消費税を加算すると4億9155万3250円となる。なお, 意匠権実施許諾契約に基づき支払われる実施料も「資産の譲渡等」の対価に当たる ことを踏まえると,意匠法39条3項に基づく損害の額の算定に当たっても,消費 税を加算して算定するのが相当である。
イ 実施に対し受けるべき金銭の額
(ア) 意匠法39条3項の実施に対し受けるべき料率は,当該意匠の実際の実 施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料 の相場等も考慮に入れつつ,当該意匠自体の価値,当該意匠を当該製品に用いた場 合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権 者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合的に考慮して,合理的な料率を定めるべ きである。また,その際,必ずしも当該意匠権についての実施許諾契約における実 施料率に基づかなければならない必然性はなく,意匠権侵害をした者に対して事後 的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比 べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
(イ) 本件意匠に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる証拠は ない。
また,証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,「特許権」の技術分類を器械 とする項目(対象となる製品・技術例には「情報記憶」が含まれている。)の「ロ イヤルティ料率アンケート調査結果」として,特許の場合のロイヤルティ料率(全 体の件数は64件)は,料率4〜5%未満及び2〜3%未満がそれぞれ23.4% と最も多く,料率3〜4%未満が18.8%,料率1〜2%未満が14.1%など となっている。平均値は約3.5%,中央値は約3.3%程度と見られる。意匠権 と組み合わせた場合のロイヤルティ料率(全体の件数は25件)は,料率1〜2% 未満,2〜3%未満,4〜5%未満がそれぞれ6社と最も多く,料率3〜4%未満 が3社,5〜6%が2社,〜1%未満,6〜7%未満がそれぞれ1社であり,平均 値は約3.1%,中央値は約2.9%程度と見られる。
(ウ) 前記((1)キ(ウ)a)のとおり,被告製品の需要者は,第一次的には製品 の機能を,第二次的にデザイン性を,販売価格をも考慮に入れつつ評価し,その購\n入動機を形成するものと見られることから,本件意匠ないしこれに類似する被告意 匠を用いた場合の売上及び利益への貢献の程度についても,これを踏まえて考察す る必要がある。他方,原告製品と被告製品はいずれもHDD製品であり,原告と被告 とは直接的な競業関係にあるから,仮に原告が被告に対し本件意匠に係る実施許諾 契約を締結するならば,その実施料率は高めに設定されるのが通常と思われる。
(エ) 実施に対し受けるべき料率
上記(イ)及び(ウ)の事情に加え,意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での 仮想実施料率の考察であることを総合的に考慮すると,本件において,意匠権侵害 をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は5%を下 らないというべきである。
(オ) 被告の主張について
被告は,被告製品は原告製品を模倣したものではなく,これらが混同され るものでもないこと,原告製品と異なり開口部を備えないことを指摘して,損害の 発生はなく,仮に発生したとしても1%を上回らないなどと主張する。 しかし,開口部の有無が本件意匠と被告意匠の差異点であることを踏まえても, 本件意匠と被告意匠が類似すること(前記1)に鑑みれば,損害が発生していない ということはできず,また,開口部の有無という差異をもって,実施に対し受ける べき料率を低く見るべき事情になるともいえない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(カ) 意匠法39条3項に基づく原告の損害額
以上によれば,意匠法39条3項に基づき原告が請求し得る「受けるべき 金銭の額に相当する額」すなわち損害額は,2457万7662円と認められる。

◆判決本文

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平成30(ワ)2439  損害賠償請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年11月14日  大阪地方裁判所

 食品包装用容器の底部に関する部分意匠の侵害事件です。大阪地裁は、約6000万円の損害賠償請求を認めました。

 原告と浪漫亭との間において定められた原告製品1の単価は,平成27年4月以 前は(中略)円であったと認められるところ(甲19,20),同年5月からは(中 略)円,同年7月の途中からは(中略)円となり,被告製品1の納入が開始された 平成28年1月以降も同額を維持したものの,同年2月から販売終了までの間は(中 略)円に下落した(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。)。\nまた,原告製品2の単価は,平成27年5月以前は(中略)円であったところ(甲 19,20),同月6月以降販売終了までの間は(中略)円に下落した。 前記認定事実によれば,原告は,P1から本件見積書を提示されたことにより, 被告らの提示価格(原告製品1と競合する製品について(中略)円,原告製品2と 競合製品について(中略)円。)と対抗するため,原告製品を値下げせざるを得な くなったという事情が認められる。
しかし,前記(2)で述べたとおり,この時点では,被告製品が本件意匠権を侵害す るものとなるかは未確定であり,被告静岡産業社が本件見積書を示して浪漫亭との 取引を誘引する行為自体には違法性がなく,これにより原告が原告製品の値下げを 余儀なくされたことも,それまで原告がこの種の製品について浪漫亭との取引を独 占していたところに競業者(被告ら)が現れたため,対抗するために価格を改定し たという原告の経営判断の結果であるということができる。 そうすると,被告らの本件意匠権の侵害行為による原告の損害を算定する際に基 準となる原告製品の単価は,値下げ前の単価ではなく,侵害行為時,すなわち,平 成28年1月時点の単価(原告製品1につき(中略)円,原告製品2につき(中略) 円)であるとするのが相当である。
控除経費
(a) 控除経費として争いのない費目は,(1)原材料費,(2)梱包費及び(3)運送費であ り,それぞれ,原告製品1個当たりの額は,以下のとおりである(甲13ないし18)。

(1) 原材料費
原告製品の原材料はレジンであり,原告製品は,仕入れたレジンをシート状に加 工した後,金型成形して製造される。 よって,原告製品1の1個当たりの原材料費は,レジンの仕入費用をそこから製 造される原告製品1の数で除し,シート状に加工し金型成形する際のロス率(10%) を掛けた金額であり,(中略)円となる。
(計算式)レジン平均単価((中略)円/Kg)/1000(g当たり換算)× 1シートのグラム数(83.5cm×97.5cm×0.045cm×比重0.9 1)×ロス1.05/1シート当たりの原告製品の数24個=(中略)円 なお,原告製品2の原材料費は,(中略)円(原告製品1の原材料費に,木目状 フィルム費(中略)円を足した額)である。
(計算式)木目用フィルム仕入単価(中略)m/円×0.975m/24個=(中略)円
(2) 梱包費
原告は,原告製品1080個を1枚のビニル袋に入れ,これを段ボール1ケース に梱包しているところ,それぞれの仕入単価は(中略)円及び(中略)円である。 原告は原告製品の梱包及び運送を100%子会社に委託しているところ,同会社 が支払った費用に10%上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの梱包費は,(中略)円となる。
(計算式)((中略)円+(中略)円)/1080個×1.1=(中略)円
(3) 運送費
運送トラック1回の配送で,原告製品1080個の入った上記段ボール箱を12 6箱積載することが可能であり,1回当たりの運送費は(中略)円である。\n原告は,運送費についても上記梱包費と同様に,子会社が支払った費用に10% 上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。 よって,原告製品1個当たりの運送費は,(中略)円となる。
(計算式)(中略)円/126箱/1080個×1.1=(中略)円
(b) 被告らは,原告製品の原材料につき,シート加工賃及び金型成型加工賃を含 めた金額とすべきであると主張し,また,上記(a)の経費に加えて,原告製品の製造 のために使用されている直接労務費及び電気代を控除すべきであると主張し,これ に沿う証人P3の供述(丙3)もある。 しかし,原告は原告製品を自己の工場内で製造しているものと解されるため,シ ート加工賃及び金型成型加工賃が通常の労務費とは別に発生するとは考えられない。 また,原告の製造する食品包装用容器全体のうち原告製品の占める割合はわずか である(甲18,原告代表者本人)ことからすれば,労務費及び電気代が原告製品\nの販売数量の増加に伴って追加的に発生する変動費であるということはできない。 したがって,上記被告らの主張を採用することはできない。
まとめ
以上より,原告製品1の単位数量当たりの利益の額は(中略)円,原告製品2の 単位数量当たりの利益の額は(中略)円となる。
・・・・
ウ 被告らの主張について
推定覆滅
(a) 被告静岡産業社は,被告製品における被告意匠の占める部分は,面積比にお いて約50%であるから,寄与度を50%とするか,被告製品の販売数量のうち5 0%について推定覆滅されるべきであると主張する。 しかし,被告意匠は,被告製品において,需要者の注意を引き,美感に訴えると いう点で,最も重要な位置を占めているというべきであり,被告意匠としての面積 比が製品全体に対して約50%であるからといって,寄与度を50%としたり,5 0%の推定覆滅を認めるべきことにはならない。
(b) 被告ヨコタ東北は,被告製品には原告製品よりも価格面,ブランド力及び製 品そのものの機能において優れていたことから,被告製品全量について原告には販\n売することができないとする事情(意匠法39条1項但書)があったと主張する。 しかし,前記認定事実のとおり,原告製品及び被告製品は,いずれも浪漫亭の製 造・梱包ラインに合致するように製造され,浪漫亭のみを納入先とするものであり, 被告製品の納入開始前は原告製品のみが浪漫亭に納入されていたのであるから,被 告製品の販売がなければ,浪漫亭は同数の原告製品を購入したと考えられ,上記被 告ヨコタ東北の主張を採用することはできない。
実施能力\n
被告ヨコタ東北は,原告の実施能力につき,被告製品納入前の原告製品1の販売\n数量が,被告製品1の平均販売数量(約50万個)よりも少ないから,原告の損害 額の主張は自己の実施能力を超えると主張する。\nしかし,平成27年5月及び6月の原告製品1の販売数量はいずれも約51万個 であるし(別紙「原告製品販売数量・単価一覧表」参照。),原告は,食品用包装\n容器を多種類製造しており,その中において原告製品の占める割合はわずかである ことから,製造ラインを適宜調整することにより,被告製品の販売数量に相当する 受注に応じることは可能であったと考えられるから,被告ヨコタ東北の上記主張に\nは理由がない。
過失相殺
被告静岡産業社は,原告が被告製品の納入に気が付きながら放置したことにより, 原告の主張する損害を拡大させたとして,過失相殺の主張をするが,前記のとおり, 原告において被告らが本件意匠権を侵害していることを知りながらそれを放置した とは認められないので,被告静岡産業社の上記主張には理由がない。
エ まとめ
以上より,被告らによる本件意匠権の侵害行為により原告が被った損害額と して意匠法39条1項により推定される額は,被告製品1につき4555万067 0円,被告製品2につき397万4875円であり,合計5348万7589円(税 込。税抜4952万5545円。)となる。
(計算式)
被告製品1 (中略)個×(中略)円=4555万0670円
被告製品2 (中略)個×(中略)円= 397万4875円
被告静岡産業社は,株式会社帝国データバンクによる調査報告書(乙6)に 基づき,原告主張のとおり,原告製品の製造数量が全製品の製造数量に占める割合 が(中略)%であるとすると,原告製品の限界利益は870万円程度となるはずで あり,上記の金額は過大であると主張する。 しかし,上記調査報告書は,公開情報等に加え上記会社が独自に調査した結果を 掲載したものであるところ,上記会社は原告から売上資料等の開示を受けているわ けではないから(原告代表者本人),その情報の正確性には自ずと限界があるとい\nわざるを得ない。また,被告静岡産業社は,原告製品の1個当たりの利益額の算定 方法について,前記 具体的な問題点の指摘をせず,上記の算定結果が 不正確であることについての直接の主張・立証はない。 したがって,上記調査報告書に記載された情報のみから,上記原告の損害額(5 348万7589円)が過大であるということはできず,被告静岡産業社の上記主 張を採用することはできない。
(4) 値下げによる損害
ア 平成27年5月から同年12月までの期間について
前記(2)のとおり,被告静岡産業社がP1に対し本件見積書を提示したことは,本 件意匠権の侵害行為にもその他の不法行為にも当たらないから,平成27年5月以 降,原告が原告製品の価格を値下げしたことで生じた値下げ前の単価との差額分の 金額は,被告らの不法行為による損害であると解することはできない。 また,意匠法39条1項の算定に,平成27年4月以前よりも下落した平成28 年1月時点の原告製品の価格を用いたことは前述のとおりであるが,この下落が不 法行為によるものとは認められない以上,その差額分を民法709条による損害賠 償として,意匠法39条1項による算定額に加算することはできない。
イ 平成28年1月以降の期間について
平成28年1月以降の期間については,被告らに意匠権侵害が成立すると認 められるが,原告は,この部分について,前記検討した意匠法39条1項による損 害賠償とは別に,原告が,被告らと並行して浪漫亭に販売していた原告製品につい ても,被告らの意匠権侵害行為により値下げを余儀なくされたとして,原告が販売 した個数に値下額を乗じた額を,民法709条の損害賠償として請求する。 そこで検討するに,意匠権侵害が行われた場合に権利者に生じ得る損害とし ては,権利者側の商品の販売数量の減少や販売価格の低下による逸失利益が典型的 には想定され,本来的には,権利者において損害の発生及び額,並びに権利侵害と 損害発生との因果関係を立証しなければならないが,これらの立証が困難であるこ とから,意匠法39条は,侵害者の譲渡数量に権利者の単位数量利益を乗じた額を 権利者の損害とすること(1項),侵害者が侵害行為により受けた利益を権利者の 損害と推定すること(2項),意匠の実施に対し受けるべき金銭に相当する額を, 権利者は損害賠償として請求し得ること(3項)を定めた。 そうすると,意匠権者が,意匠権侵害による損害賠償として,自己の商品の販売 数量の減少や販売価格の低下による逸失利益を個別具体的に立証することに替えて, 意匠法39条各項が定める算定・推定規定を利用して損害賠償請求を行った場合, 前記各項に基づく請求とは別に,民法709条による損害賠償請求をすることがで きるのは,意匠権により保護されるのとは別の法益が侵害されたり,前記各項が定 める算定・推定規定では評価されていない別の損害が生じたような場合であると考 えられる(一例として弁護士費用)。
原告は,意匠法39条1項により,被告静岡産業社が浪漫亭に譲渡した被告 製品の数量に,原告の単位利益を乗じた金額を,原告の損害として請求しているの であるから,同じ期間内に,被告らが被告製品を製造・販売したことによって原告 製品の販売数量が減少した,あるいは販売価格が低下したといった逸失利益につい ては,既に評価されているというべきであり,意匠権により保護されるのとは異な る法益が侵害された,あるいは意匠法39条1項による算定では評価されていない 損害が生じたと認めるべき事情は,本件では認められない。 また,仮に意匠法39条1項による算定とは別に,民法709条による損害 賠償請求を認めるべき場合であっても,被告らの意匠権侵害行為によって原告製品 の価格が低下したとの因果関係については,原告が立証責任を負うべきものである が,平成28年1月に被告製品が浪漫亭に納入された後,原告製品1の販売価格の 低下は平成29年2月に生じているところ,この原因が何であるかは証拠上明らか ではなく,この点についての因果関係の立証がなされているとは認められない。 以上より,平成28年1月以降の原告製品の価格の低下についての,民法7 09条に基づく損害賠償請求は,理由がないというべきである。

◆判決本文

被告製品と原告意匠の対比は以下です。 

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平成29(ワ)5108  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和元年12月17日  大阪地方裁判所

 SIX PADに関する意匠権侵害事件です。大阪地裁21部は、類似しないと判断しました。意匠は特許事件のように、侵害論と損害論を分けてないのですね。損害額についての主張立証がなされています。

ア 要部認定の意義
被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基 づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物 品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感 が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。 本件意匠と被告意匠については,前記(1)で述べたとおり,多数の共通点,差異点 が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異 点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分 を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検\n討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。
イ 物品の需要者及び使用態様
本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面 電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのも のである点において共通する(各公報における「意匠に係る物品の説明」参照。)。 原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1(3))からは,原告商品は 腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定\nされており,「理想のボディライン」を作ることに主眼が置かれているという違い が見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明 のとおり,「腹部の筋肉等を引き締める」目的でトレーニング機器を使用しようと する一般消費者である。 また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該\n物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需 要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については 着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両 製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態 の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。
ウ 本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2(2)アで基本的構成態\n様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考え られるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに, 同イの具体的構成態様のうちVないしVIIIとして指摘した内容,すなわち,各パッド 片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さにつ いても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。 他方,それ以外の点,すなわち前記2(2)イの具体的構成態様のうち,IXない しXII記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に 引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。
エ 双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを 理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心\nに6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張す るのに対し,被告は,前記部分はありふれており,要部には当たらないと主張する。 まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成\nがあるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似 した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合\nいは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参 照する意義はある。
しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのでは なく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行 うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を\n引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通する いわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引\nき,要部とすべき場合もある。 すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるもの ではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与 える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対\n称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片 をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の(1)及び(2) で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片 の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないというこ とはできない。 そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,\n各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要 者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとお り,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。 仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件\n意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても 本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的 に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は 採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1(1)及び(2)で認定した本件意匠に 先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2(2)アの基本的構成がありふれたも\nのであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。 上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者\nに一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成\nが本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。
(3)類否の判断
ア 要部についての共通点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠 が共通するのは,前記(1)ア(基本的構成態様)の(1)(本体シート状,6枚のパッド 片),(2)(2列3段,左右対称),(3)(略円形上の操作部)及び(4)(パッド背面の 電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。
イ 要部についての相違点
本件意匠の要部を前記(3)ウのように解すると,要部における本件意匠と被告 意匠との差異点は,前記(1)ア(基本的構成態様)の(5)(パッド片の結合)及び(6)(左 右対称か上下対称か),並びに前記(1)イ(具体的構成態様)の(3)(上段,下段パッ ド片の形状,傾斜),(4)(中段パッド片の形状,傾斜),(5)(上下の切込みの形状, 深さ)及び(6)(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように 配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド 片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが 設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられているこ とから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合 する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりと した印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成 しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。 各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るもの\nであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそ のような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠
被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長 隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲してい る上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間 に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及 び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に 見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き 締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽 快な印象を与える。 特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が 結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の 羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよ う配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本 件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意 匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽 快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前 記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として 評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度\nには異なるということができる。
(4)争点(2)の結論
前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1(3)アの 宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者 は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可\n能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところ\nではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要 者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似し\nないというべきである。

◆判決本文

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