2022.03.31
令和3(ネ)10075 意匠権侵害差止等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟 令和4年3月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないとした1審判断が維持されました。
控訴人は,ダイセン又はWuxi社が本件出願前意匠の存在について悪意
であったから,本件出願前意匠に類似する原告意匠についても悪意であった
といえ,原告意匠と類似する被告製品の意匠についてダイセンに先使用権は
成立しない旨主張する。
しかしながら,当時ダイセンの営業部長であったCの陳述書(乙38)に
よれば,ダイセン及びWuxi社は,被告製品の開発に当たって,本件出願
前意匠に接する機会はなく,既に市販されていた洗面台用ごみ受けの構成\n(原判決別紙公知意匠目録1ないし3)を参考としつつ,打合せの最中に,
つまみ部分があったほうが取り外しやすいという意見が出たことから,取り
外しの便宜のためにつまみ部を付加することにしたことが認められる。かか
る開発の経緯は,排水口のごみ受けの分野全般において,円状のフィルタの
周囲につまみ部を設ける構成が珍しくなかったこと(同目録4〜13)に照\nらしても,何ら不自然ではない。
他方,前記第3の2(1)の控訴人の主張が事実であったとしても,被告製品
の開発の過程でWuxi社が本件出願前意匠に接し得たことをうかがわせる
事情(例えば,Wuxi社と控訴人の中国の協力会社との間に人的つながり
や地理的近接性があったこと等)は,本件証拠上全くうかがわれない。控訴
人の主張は,ほぼ同じ時期に,同じ中国で製品の開発が行われていたという
だけの事実に基づいて,Wuxi社は本件出願前意匠の存在を知ったはずだ
とするものであり,到底採用することができない。
(2) 以上によれば,本件出願前意匠と原告意匠との同一性や,原告意匠と被告
製品の意匠との類似性を問うまでもなく,ダイセン又はWuxi社は,意匠
登録出願に係る意匠(原告意匠)「を知らないで」被告製品の意匠を創作し
たと認められるから,この点において先使用権の成立要件は充足されている。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2(ワ)11491
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2022.03.30
令和1(ワ)10829 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 令和4年2月10日 大阪地方裁判所
頭部マッサージ具の意匠権侵害事件です。大阪地裁(26部)は、約700万円の損害賠償を認めました。39条2項と3項の重畳的に適用についても認められています。
(イ) 本件意匠1の実施品である原告製品1は、使用者がその柄を握り、枝部の先
端の涙滴状部を頭部(頭皮)に当てた状態で、枝部から涙滴状部にかけて力を加え
て動かしながら、頭部をマッサージするものである。
(ウ) このような頭部マッサージ具の購入に当たり、需要者は、通常、店舗であれ
ば店頭に置かれた商品そのものないし商品パッケージに付された商品画像等を、イ
ンターネット上であれば EC サイト等に掲載された商品画像等を視認する。
原告製品1のパッケージ(以下「本件パッケージ1」という。)は、台紙上に製
品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆う
ものである。台紙の表面(商品側)には、「頭のラインに沿って/頭皮をかき上げ\n/キュっと引き締め」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)という説明文と、
使用者が原告製品1の柄を持ち、その涙滴状部を頭皮に当てている画像(以下「本
件画像1−1」という。)及び人物の頭部を他者が両手の手指を広げてマッサージ
するイメージ画像と、涙滴状部を頭皮に当て枝部の先端方向に動かしてマッサージ
することをうかがわせるイラスト(以下「本件イラスト1」という。)等が掲載さ
れている。本件画像1−1及び本件イラスト1に掲載された原告製品1の画像等は、
いずれも、正面側を斜め上方向から見たものである。また、台紙の裏側には、「使
用方法」として「突起部分をヘッドラインに沿って頭皮に当て、押しながらかき上
げてください。」との説明文(以下「本件説明文1」という。)や、本件画像1−
1と同様のイラスト及び本件イラスト1が掲載されている。(乙1)
他方、原告サイトの原告製品1の紹介ページ(乙12)には、上部に商品画像と
して本件パッケージ1の画像及び以下の画像から説明文や矢印等を除いた商品自体
のみの画像の2つの画像のうち1画像が拡大表示可能\とされているほか、「ヘッド
ラインタイプ/頭のラインに沿って/頭皮をかき上げてキュッ」という説明文、本
件画像1−1と同様の画像に人物の頭部に使用方向を示す矢印が三本描かれている
画像、本件イラスト1及び本件説明文1が掲載されているほか、次の画像(以下
「本件画像1−2」という。)が掲載されている。
(エ) 需要者が注意を惹かれる部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品1の使用に当たり、頭部マッサージ
の効果に直截的に影響を与える部分である枝部の本数、頭皮に直接当たる部分であ
る枝部の先端の形状、柄から涙滴状部に力を伝える部分である枝部の形状に主に注
目すると考えられる。他方、各涙滴状部間の距離については、さほど注意を惹かれ
ないと思われる。
また、性質上頭部マッサージを現に実施している間に原告製品1を直接視認する
ことは困難と思われるものの、事前ないし事後の時点では、これを正面側ないし正
面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多いものと考
えられる。他方、原告製品1の購入に当たっては、需要者は、これを正面側ないし
正面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多く、左右
各側面側、平面側及び背面側から視認する機会は乏しいと考えられる。
イ 本件公知意匠1について
(ア) 証拠(乙2、3)によれば、本件公知意匠1は、いずれも本件出願日1
(平成20年3月6日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ) 乙2意匠
証拠(甲17、乙2、15、24)及び弁論の全趣旨によれば、乙2意匠は、次
のとおりのものと認められる。
乙2意匠は、いわゆる「孫の手」であり、背中を掻いたり、身体を叩いたりする
目的で使用される物品に係る意匠である。この種の商品は、頭部を掻いたり叩いた
りする方法で頭部に刺激を与える目的で使用される場合もある。そのため、乙2意
匠は、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。
もっとも、乙2意匠は、正面視において、柄の先端に接続された板状の部材が、
接続部側と先端側との間の中央付近で湾曲し、湾曲した先の先端側部分が平行な5
本の枝部に枝分かれしているものである。乙2意匠における「基端」を柄の先端と
の接続部と捉えるならば、枝部は、熊手状に湾曲させて形成されてはいるものの、
基端からは分岐しておらず、また、各枝部は丸棒状ではなく板状に形成されている。
他方、板状の部材の接続部側と先端側との間の中央付近の湾曲部付近を「基端」と
捉えるならば、乙2意匠の枝部は、基端から5本に分岐し、熊手状に湾曲させて形
成されたものとはいえるものの、各枝部が丸棒状ではなく板状に形成されているこ
とは、同様である。
さらに、「基端」をいずれと捉えるかにかかわらず、各枝部の先端部は、丸みの
ある形状とされてはいるものの厚みに変化はなく、涙滴状部に相当するものはない。
各枝部間の距離も、各枝部の先端部の幅に比してかなり狭い。
(ウ) 乙3意匠
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、乙3意匠は次のとおりのものであると
認められる。
乙3意匠は、人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに
使用される物品に係る意匠である。これも、乙2意匠と同様に、本件意匠1の属す
る分野と同一の分野に属しないものとはいえない。
乙3意匠は、人の手をそのまま模した形状であり、その指部をもって「基端から
5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることは、一応可能である。もっとも、乙3\n文献を見る限り、指部(枝部)は、基端から先端まで熊手状に湾曲しているとはい
えず、また、その先端に涙滴状部が形成されていない。さらに、乙3意匠が本件意
匠1の具体的構成要件 C1-3〜E1-3 に相当する構成を有するとも認められない。\n
(エ) 以上のとおり、本件公知意匠1のうち、乙2意匠は、5本に分岐した枝部が
形成されている点及び枝部が熊手状に湾曲させて形成されている点で、また、乙3
意匠は、「基端から5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることが可能な部分があ\nる点で、それぞれ本件意匠1と共通する部分があるといえるにとどまる。もっとも、
その共通するといえる部分の具体的形状は、本件意匠1とは大きく異なる。
そうである以上、本件公知意匠1は、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構\
成態様いずれとの関係でも、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできない。
その他本件意匠1の要部を判断するにあたり参考とすべき公知意匠は、証拠上見当
たらない。
ウ 本件後願意匠
登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、
登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは、原則として相当でない。また、
この点を措くとしても、証拠(乙4)によれば、乙4意匠は、涙滴状部に金属球を
有する点で本件意匠1の形状と明確に異なること、証拠(乙5)によれば、乙5意
匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部が全体として人の手指の指部を想起さ
せる形状となっており、その先端に涙滴状部がない点で本件意匠1の形状と明確に
異なることなどから、本件後願意匠は、翻って本件意匠1の要部を判断するものと
して参考となり得るものではない。
エ 小括
以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠1の要部は、基本的構成態様 A1-3
及び B1-3 並びに具体的構成態様 D1-3 であると見るのが相当である。
・・・
イ 差異点について
(ア) 差異点 A について
差異点 A は、平面視における枝部の湾曲の程度と、これによる左右各側面視にお
ける涙滴状部の配置に係るものである。需要者が原告製品1及び被告製品1を平面
側及び左右の側面側から視認する機会が乏しいこと等を踏まえれば、差異点 A は、
本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(イ) 差異点 B 及び C について
差異点 B は、正面視における一番外側の枝部の湾曲の形状に係るもの、差異点 C
は、等間隔に配置された涙滴状部間の距離に係るものである。
これらの差異点は、いずれも、原告製品1及び被告製品1を正面側から視認する
ことにより認識し得るものであり、需要者はこれを目にする機会が多いといえる。
もっとも、上記各差異点は、中央の枝部がほぼ直線状に伸び、外側にいくにつれて
枝部の湾曲の程度が大きくなるという共通点 B や、枝部の先端の涙滴状部が等間隔
に配置されているという共通点 C がある中で、一番外側の枝部の先端近くの形状や、
涙滴状部間の距離がいささか異なるというにとどまり、顕著に特徴的なものとまで
はいえず、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異で
はない。
ウ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠1と被告意匠1は、その骨格的な構\n成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わ
せたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通
性を凌駕するほどのものということはできない。
・・・・
) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく
推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分
に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同
条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張
は採用できない。
・・・
b 検討
被告製品1と原告製品1は、共に頭部マッサージ具である。原告製品1は枝部の
先端に形成された涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げる
といった使用方法が想定されている(乙1)のに対し、被告製品1は、枝部の先端
に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えるといった使用方法が
想定されている(甲3、4、乙29)。このように、両製品は、具体的な使用方法
は異にするものの、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮等のマッサージ対象部
位に押し当ててマッサージを行うものである点で、その基本的な用途を同じくす
る。両製品の販売価格には2倍以上の差があるものの、具体的な価格差は610円
(税抜)であり、「プチプラ」のもともとの意義はともかく、市場において「プチ
プラ」と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーにいずれも分類されることがある
以上、両製品は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。
また、被告は、被告各製品を被告店舗等のみで販売しているものの、被告店舗の
出店先の商業施設に原告の製品を取り扱う店舗も出店している例が多数ある。こう
した商業施設では、需要者は、商業施設内の各店舗を巡って目的に適う同種製品を
比較検討して購入することが可能であり、実際上も、このような行動はしばしば見\n受けられる。さらに、被告製品1が販売されている EC サイトは被告サイトのみで
あるとしても、被告店舗等で被告製品1に触れた需要者が、他の EC サイトで頭部
マッサージ具を検索することは容易であり、これもしばしば見受けられる行動とい
えるのであって、その結果、複数の EC サイトにおいて販売されている原告製品1
が検索結果として表示されることも容易に推察される。\nこのような事情を踏まえれば、業務態様ないし販売チャンネルのあり方における
原告と被告との違いや被告製品1と原告製品1との価格差は、損害額の推定を覆滅
すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。
これに対し、被告は、被告店舗での取扱商品の多様さや、商品ラインナップにお
ける被告製品1の位置付けなどから、需要者は、被告店舗を訪れて被告製品1に触
れた際に始めて被告製品1の存在を知り、そのまま衝動的に購入する場合が多く、
被告製品1が存在しなければそもそも頭部マッサージ具の需要が発生しないか、需
要者が当初より被告製品1を購入する意思をもって被告サイトで被告製品1を購入
しているため、被告製品1が販売されなくともその分の需要が原告製品1に吸収さ
れるとはいえないなどと主張する。しかし、そのような需要者の購買行動等があり
得るとしても、被告製品1の需要者の全てないし多くがそのように行動すると考え
るべき根拠はない。被告製品1が廉価なことを踏まえても、価格のみならずその機
能やデザイン等を含む総合的な評価に基づいて、同種製品と比較検討の上で購入に\n至る需要者も一定数存在すると考えるのが、むしろ経験則に合致する。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
(ウ) 競合品の存在
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様並びに原告製品1及び被告製品1の具体\n的な使用態様等を踏まえると、乙28の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙「被告
主張の競合品一覧(本件意匠1)」のうち、少なくとも1)、2)、4)〜6)、9)、10)、
15)、20)、21)は、原告製品1及び被告製品1の競合品と認められる。
そうすると、被告製品1が市場に存在しない場合、被告製品1に係る需要の全て
が原告製品1に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得
た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額
の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(エ) 被告の営業努力等
証拠(甲41、乙45〜49)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、約6年の間
に全国的に被告店舗を多数展開し(令和3年5月時点で62店舗)、複数のウェブ
サイトで人気の生活雑貨店として取り上げられていることが認められることなどを
踏まえると、被告ブランドは一定程度需要者に認知されているとうかがわれる。
もっとも、被告自身、被告製品1につき被告の主力商品として販売されていたも
のではないと主張していることに加え、被告製品1に特化した宣伝広告等がされた
ことを認めるに足りる証拠もないこと、廉価な生活雑貨品という被告製品1の性格
等を踏まえると、被告製品1を購入する需要者にとって、被告ブランドの取扱商品
であることが主な購入の理由ないし動機となっているとは考え難い。
その他被告の格別な営業努力が被告製品1の売上増加に貢献していると見るべき
具体的な事情はない。
したがって、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえない
か、いえるとしてもその程度は限られる。
(オ) 侵害品の性能\n
前記((イ)b)のとおり、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭
皮に押し当て、微細な振動を与えることにより頭皮をマッサージする効果を奏する
商品であり、涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるとい
った使用方法が想定されている原告製品1とは、その具体的な使用方法において異
なる。この使用方法の相違は、実用品である頭部マッサージ具の機能に関わるもの\nである。実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者\nの商品選択において重要な要因として位置付けられる。このことは、被告が商品デ
ザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求していることがうか
がわれること(甲81〜83)などを考慮しても異ならない。
したがって、原告製品1と被告製品1の具体的な使用方法の相違すなわち機能面\nの相違は、損害額の推定を相当程度覆滅すべき事情といえる。
(カ) 覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品1に係る原告の損害額の
推定につき、4割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及
び被告の各主張はいずれも採用できない。
そうすると、被告の本件意匠権1侵害による原告の損害額は、●(省略)●円
(=●(省略)●*(1-0.4))となる。
オ 法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
(ア) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく
推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分
に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同
条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張
は採用できない。
(イ) 実施に対し受けるべき金銭の額
「意匠の実施に対し受けるべき金銭の額」(法39条3項)すなわち意匠の実施
に対し受けるべき料率は、当該意匠の実際の実施許諾契約における実施料率や、そ
れが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、当該意
匠自体の価値、当該意匠を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の
態様、意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
を総合的に考慮して、合理的な料率を定めるべきである。また、その際、必ずしも
当該意匠権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必
然性はなく、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受
けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
また、不当利得返還請求に関し、当該「受けるべき金銭の額に相当する額」は、
本来、意匠権者がその登録意匠の実施に当たり意匠権者に対して支払うべきであっ
た実施料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録意匠を実施した場
合は、その実施により、侵害者は同額の利得を得、意匠権者は同額の損失を受けた
ものと評価することができる。したがって、法39条3項の「受けるべき金銭の額
に相当する額」が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損
失の額に相当すると認めるのが相当である。
(ウ) まず、本件意匠権1に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる
証拠はなく、その他原告が本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結する場合に定め
る実施料率をうかがわせる事情はない。
また、「実施料率〔第5版〕技術契約のためのデータブック」(甲59)によれ
ば、「プラスチック製品」の技術分野(その対象には、「プラスチック板・棒・管
・継手・異形押出製品製造技術、・・・その他のプラスチック製品製造技術」であり、
「その他のプラスチック製品」とは「プラスチック製台所用品・浴室用品等」であ
るが、「プラスチック製の家具(29)・ブラシ(31)・履物(27)等」は含まれ
ない。)における外国技術導入契約の実施料(許諾製品の出来高にリンクした料率
表示であったもの)につき、平成4年度〜平成10年度の外国技術導入契約(イニ\nシャルロイヤリティがないもの。63件)の場合、平均値は3.9%、中央値は3
%であった(なお、甲59には、このほかに技術分野を「ゴム製品」とする項も存
するが、その対象は、タイヤ・チューブ製造技術、ゴム製・プラスチック製履物・
同付属品製造技術等であり、被告製品1の分野と類似するものがないから、これを
参考とするのは相当でない。)。また、「ロイヤルティ料率データハンドブック〜
特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(甲60)によれば、「個
人用品または家庭用品」の技術分類における実施料率(13件)は、平均が3.5
%、標準偏差1.6%、最大値7.5%、最小値0.5%であり、「健康;人命救
助;娯楽」の技術分類(54件)では、平均5.3%、標準偏差3.2%、最大値
14.5%、最小値0.5%である。
さらに、前記(エ(イ)b、エ(オ))のとおり、被告製品1の需要者は、製品の機能\nを中心に、デザイン及び価格性を総合的に考慮した上で商品選択を行うものと見ら
れることから、本件意匠1ないしこれに類似する被告意匠1を用いた場合の売上及
び利益への貢献の程度の評価にあたっても、これを踏まえる必要がある。
加えて、原告製品1と被告製品1はいずれも頭部マッサージ具であることに加
え、原告と被告は、取扱い商品や販売店舗の出店先が相当程度に重複していること
から、高い程度で競合関係にあるといえる。このため、仮に原告が被告に対し本件
意匠権1に係る実施許諾契約を締結するならば、その実施料は高めに設定されるの
が通常であると考えられる。しかも、証拠(甲64〜69)及び弁論の全趣旨によ
れば、原告は、自己の保有する登録意匠に係る侵害品の防止に積極的に努めている
ことがうかがわれる。
以上の事情に加え、意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での仮想実施料率の
考察であることを総合的に考慮すると、本件意匠権1を侵害した者に対して事後的
に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は5%を下らないというべきであ
る。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)●
円(≒●(省略)●*0.4*0.05)となる。
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2022.01.18
令和3(行ケ)10067 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 令和4年1月12日 知的財産高等裁判所
物品の認定があやまっているとして、類似するとした審決を取り消しました。本件意匠にかかる物品は「インジェクターカートリッジ」であり、「インジェクターカートリッジ」とは,「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味する。と、引用意匠の「注射器用シリンジ」とは非類似物品と判断されました。\n
1 本件審決は,本願意匠が引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当する
から意匠登録を受けることができないと判断した。
そこで検討するに,意匠は物品と一体をなすものであるから,登録出願前に日本
国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外
国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを
理由として,意匠法3条1項により登録を拒絶するためには,まずその意匠にかか
る物品が同一又は類似であることを必要とし,更に,意匠自体においても同一又は
類似と認められるものでなければならない(最高裁判所昭和45年(行ツ)第45
号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。
そうすると,物品の同一性又は類似性の認定に誤りがある場合には,意匠法3条
1項該当性の判断に誤りがあるというべきである。
2(1) 原告は,本件審決が,本願意匠に係る物品について「医療用注射器の外筒」
と認定したことが誤りであると主張し,これに対し被告は,1)本件審決は,本件願
書等の記載から本願意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有す\nるもの」と認定したところ,この判断に誤りはなく,2)原告が,本件意見書や本件
審判請求書で本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」
であって「物品が共通する」などと主張していたことは上記1)の認定を裏付けるも
のであり,原告が,本訴において,本件審決以前にしていた主張と異なる主張をす
ることは禁反言により許されないなどと主張している。
(2) そこで検討するに,本件意見書や本件審判請求書において,原告は,本願意
匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共
通する」などと主張していたことが認められるが(乙5,7),意匠登録出願につい
ての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条),
出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くも
のではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟
である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の
意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における
主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もない
ことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって,
禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張
と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。
また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることによ
り,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとし
ても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,お
よそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護
を与えるべきではないなどということはできない。
(3) さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範
囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから
(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集3
0巻2号79頁参照),各当事者は,審判手続において具体的に争われていない拒絶
理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶
理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を
受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器
等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である\n「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒
絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない
事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。
(4) そこで,以下,原告が,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が異なると主
張していることを前提として,本願意匠に係る物品について検討する。
3(1) 意匠法24条1項は「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した
図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意
匠に基いて定めなければならない。」と規定する。
また,旧法6条1項3号は,意匠登録出願の際に提出すべき書類に,「意匠に係る
物品」を記載すべき旨規定し,意匠法施行規則別表第一には意匠に係る物品の欄に\n記載すべき区分が定められているが,同表には「インジェクターカートリッジ」と\nの区分の記載はない(乙2,3,15。なお,同表には,「インジェクター」を含む\n区分の記載もなく,「カートリッジ」を含むものとしては「レコードプレーヤー用カ
ートリッジ」の区分の記載があるのみである。)。同表の備考二には,「この表\の下欄
に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,
その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の「意匠に係
る物品」の欄に記載しなければならない。」と記載されている。そして,同規則様式
第2備考39には「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品\nについて意匠登録出願をするときは,「【意匠に係る物品の説明】」の欄にその物品の
使用の目的,使用の状態等物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」
と記載されている。
(2) 前記(1)の各規定を踏まえ,本件願書等の記載から,本願意匠の意匠に係る物
品が何であるか検討する。本件願書等(乙1)の記載をみると,【意匠に係る物品】
として「インジェクターカートリッジ」とあるほか,【意匠の説明】及び図面はいず
れも別紙第1記載のとおりであって,本件願書等には【意匠に係る物品の説明】の
欄はなく,その余の欄にも意匠に係る物品の説明は記載されていない。本件願書等
における物品を示唆する記載は「インジェクターカートリッジ」との文言及び図面
のみである。
(3) そこで,「インジェクターカートリッジ」との文言について検討すると,これ
は,「インジェクター」と「カードリッジ」という2つの単語が組み合わされたもの
と認められる。
ア 「インジェクター」についてみると,新英和大辞典第六版(乙9)には,外
来語である「インジェクター」のもとの英単語である「injector」について,「注射
する人,注入器,注射器」という意味が記載されており,証拠(甲7,15)によ
ると,本件優先日より前に,糖尿病の注射治療に用いる注射薬として「オートイン
ジェクター」と呼ばれる,ボタンを押すだけであらかじめ充填されている1回分の
薬液が自動的に注入されるGLP−1受容体作動薬の注入器及び「アポカインイン
ジェクター」との名称の電動式医療品注入器(原告の主張する自動注射器を意味す
るものと推認される。)が既に存在していたことが認められる。加えて,原告及び被
告ともに,インジェクターが「注射器」を意味するものと認識している。そうする
と,本件において,「インジェクター」は注射器を意味すると推察される。
イ 「カートリッジ」についてみると,外来語である「カートリッジ」のもとの
英単語である「cartridge」について,新英和大辞典第六版(乙9)には,「弾薬筒,
薬筒,薬包,実包」「(機械・器具などの一部に取換えのできるように工夫された液
体・ガスなどの)小容器」,ウィズダム英和辞典(甲8)には「交換[詰め替え]用容
器」,New Oxford American Dictionary(甲9)には「巻かれた写真用フィルム,イ
ンク,その他の物又は物質を内包する容器であり,装置の中に挿入するべくデザイ
ンされたもの」との意味がそれぞれ記載されている。そして,証拠(甲13)によ
ると,本件優先日より前に,専用注入器に装着して使用する「カートリッジ製剤」
と呼ばれるインスリン製剤が存在していたことが認められる。また,本件優先日よ
り前に公開されていた特許公報(甲12,28〜32)には,自動注射器,注射器
装置,ばね駆動式の注射装置,ペン型注射器及び医療用自動注射装置に用いられる,
薬を充填した小容器を意味する「カートリッジ」に関する記載(その中には,薬剤
カートリッジ,薬物充填カートリッジなどと記載されている部分もある。)があるこ
とが認められる。そうすると,「カートリッジ」は交換用の液体・ガスなどを充填し
た小容器を意味するものと推測される。なお,上記各証拠に照らす限り,「カートリ
ッジ」が文言上,「外筒」を意味するものと認めることはできない。
ウ 次に,「インジェクターカートリッジ」の語句について検討するに,被告は,
本件願書の【意匠に係る物品】の記載は「インジェクターカートリッジ」であり,
「インジェクター用カートリッジ」ではないなどとも主張するが,証拠(甲17〜
20,22,23)によると,「カートリッジ」の文言は,「トナーカートリッジ」
「インクカートリッジ」のようにカートリッジ自体についてその内容物を意味する
文言とともに用いられる場合がある一方で,浄水器に用いられるカートリッジにつ
いて「浄水器用カートリッジ」とする登録意匠と「浄水器カートリッジ」とする登
録意匠とが存在し,「浄水器カートリッジ」が浄水器用のカートリッジを意味する場
合があることが認められ,「インジェクターカートリッジ」という文言をもって,イ
ンジェクター用のカートリッジを意味するものと理解することも不自然ではない。
そして,本願意匠の意匠に係る物品として,出願人である原告が,注射器を意味す
る「インジェクター」のみにとどめず,あえて「インジェクターカートリッジ」と
したものであることを併せ考慮すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射
器用のカートリッジ」を意味すると認めるのが相当である。
エ 前記ア〜ウを総合すると,「インジェクターカートリッジ」は,「注射器用の
交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味すると認めるのが相当である。\n
(4) そうすると,本願意匠の意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び
機能を有するもの」とした本件審決の認定には誤りがあるというほかない。もっと\nも,本件願書等には,「インジェクター」(注射器)が「自動注射器」を意味するこ
とまでを示唆する記載はなく,本件優先日当時において,一般に,「インジェクター
カートリッジ」が自動注射器用のカートリッジを意味していたと認めるに足りる証
拠もないから,本願意匠の意匠に係る物品は,自動注射器に限ることなく,「『注射
器』用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」であると認めるのが相当で\nある。
(5) 被告は,本件審決は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するインジェ\nクターカートリッジ」であると認定したのであって「医療用注射器の外筒」と認定
したものではないから原告の主張は前提を欠くなどと主張するが,物品の同一性及
び類似性は,物品の用途及び機能等を比較して実質的に判断すべきところ,本件審\n決の認定は「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」というものであっ\nて実質的に上記原告の主張のとおり「医療用注射器の外筒」と認定したものといえ
る。被告の上記主張は形式にすぎ,本質を看過したもので相当ではない。
また,被告は, 本件願書に【意匠に係る物品の説明】の欄を設けて物品の理解を
助ける説明を記載し,参考図を提出する必要があったと主張しているところ,前記
3(1)のとおり,意匠法施行規則別表第一には「インジェクターカートリッジ」との\n区分の記載はなく,また,「インジェクターカートリッジ」が一般用語とはいえない
ことからすれば,被告の主張するように【意匠に係る物品の説明】を記載するのが
適当であったとはいえるものの,このことから,本願意匠に係る物品が「医療用注
射器の外筒の用途及び機能を有するもの」であると直ちに認定できるものではなく,\n上記被告の主張は,本願意匠に係る物品についての上記認定に影響しない。
4 他方,本件審決は,別紙第2記載の注射器の意匠のうち,「注射器用シリンジ」
の意匠を引用意匠としているところ,当該部分に係る物品は,注射器用外筒の用途
及び機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通しない。
5 したがって,本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠
の同一性の認定には誤りがあるから,取消事由1(本願意匠に係る物品の認定及び
本願意匠と引用意匠の物品の同一性(類似性)の認定の誤り)には理由がある。
◆判決本文
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2022.01. 5
令和2(ワ)10386 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 令和3年11月25日 大阪地方裁判所
意匠権侵害、不競法2条1項3号の商品形態模倣が争点です。大阪地裁は意匠は類似していない・模倣でもないと判断しました。
ウ 原告商品1−1と被告商品との共通点及び差異点
原告商品1−1と被告商品の各形態を対比すると,原告商品1−1の基本的形態
の全て及び具体的形態 T1-1-3 と,被告意匠の基本的形態の全て及び具体的形態 t3 が
共通点であり,それ以外の形態が差異点であると認められる。
すなわち,原告商品1−1と被告商品の各形態とは,差異点2)’,3)’,5)’〜12)’の
ほか,具体的形態 S1-1-3 と s3 につき,原告商品1−1では,中空部中央に位置する
円形板から細い48本の直線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ
面一に形成されている(S1-1-3)のに対し,被告商品では,中空部中央に位置する円
形板から細い36本の湾曲線状のファンガードが放射状に円筒状中空部下面とほぼ
面一に形成されている(s3)点で相違する(差異点 C)。
エ 検討
原告商品1−1と被告商品の各形態の差異点のうち,差異点2)’,3)’,6)’〜10)'及
び C は,原告意匠と被告意匠の差異点2),3),6)〜10)及び A と同じである。そうで
ある以上,少なくとも差異点3)’,6)’,8)’,9)’及び C については,原告意匠と被告意匠とが差異点3),6),8),9)及び A により異なる美感を生じるのと同様に,原告
商品1−1と被告商品の各形態につき,需要者に異なる美感を生じさせるものとい
える。また,これらの差異点の存在にもかかわらずなお両商品の形態が酷似し,実
質的に同一というべき事情は見当たらない。
したがって,原告商品1−1と被告商品の各形態は実質的に同一であるとは認められないから,被告商品は,原告商品1−1の形態を模倣したものということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
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2022.01. 3
令和2(ワ)11491 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟 令和3年9月15日 東京地方裁判所
先使用権ありとして意匠権侵害は成立しないと判断されました。
ア 原告意匠の出願日は令和元年8月20日であるところ,上記(2)におい
て判示した被告製品の開発経緯によれば,被告製品を開発・製造して被告
に販売したダイセンは,Wuxi社及びCNTA社との間で洗面台用排水
口フィルターの新製品の開発を進め,平成31年4月にWuxi社から抜
き型図面(乙20)を受け取り,これに基づき試作品を作成した上で,被
告に対して新製品販売の提案を行い,被告製品の意匠は令和元年7月に被
告に採用されて,被告製品の製造・販売に至ったものと認められる。
イ ダイセンがWuxi社から受領した上記抜き型図面の構成は,上記(1)
イの被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備
えたものであり,被告製品の意匠と同一又は類似するということができる。
そして,同図面に基づいて作成されたと推認される被告製品の試作品(乙
23の2の1の下段,乙23の2の2,乙23の4)も同様に被告製品の
意匠の基本的構成態様及び具体的構\成態様をいずれも備え,被告製品の意
匠が被告に採用された後に,ダイセンの担当課長がCNTA社の担当者に
送信した電子メール(乙27)の本文に挿入された試作品の画像も同各態
様を備えていたものと認められる。
そうすると,原告意匠と同一又は類似する意匠は,平成31年4月にダ
イセンがWuxi社から知得し,仮にそうではないとしても,ダイセンが
被告と打合せを重ねる中で原告意匠の出願日までの間に創作したもので
あり,その意匠は平成31年4月から被告製品の意匠の採用時まで,一貫
して,上記(1)イの基本的構成態様及び具体的構\成態様を備えていたもの
というべきである。
ウ 意匠法29条は「現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意
匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は,そ
の実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において,その意
匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するところ,
上記(2)のとおり,ダイセンは,令和元年8月2日には被告から2万個の被
告製品の製造を受注していたことに照らすと,原告意匠の出願日(同月2
0日)には原告意匠又はこれに類する意匠の実施である事業を開始してい
たというべきである。
加えて,ダイセンが,原告意匠の出願日当時,原告意匠について知って
いたことを示す証拠はない。
エ 以上によれば,原告意匠と被告製品の意匠が類似しているとしても,ダ
イセンは,原告意匠を知らないで自ら原告意匠又はこれに類似する意匠を
創作し,又は同意匠の創作をした者から知得して,原告意匠登録出願の際,
現に日本国内において原告意匠又はこれに類似する意匠の実施である事
業をしていたということができるので,意匠法29条に基づき,原告意匠
権について通常実施権を有するものというべきである。そうすると,被告
が,原告意匠権について通常実施権を有するダイセンから被告製品を仕入
れて販売等する行為が原告意匠権を侵害するということはできない。
(4) 原告の主張について
ア 抜き型図面(乙20)について
(ア) 原告は,抜き型図面は,作成日付が印字されておらず,手書き部分は
後日追記された可能性があるため,同図面が原告意匠の登録出願前に作\n成されたかどうか不明であると主張する。
しかし,ダイセンが平成31年4月11日にWuxi社及びCNTA
社と打合せを行った際の商談記録表(乙21)には,「シートサイズ:\nφ40mm(穴/12mm)×厚さ5mm,取っ手/8mm(45゜C))」,
「抜き型の形状は4月13日までに協議した上で決定させる。」,「別
紙参照:抜き型図面データ」との記載がある。同記録表はその内容,形\n式等に照らして,その「作成日」(同月17日)に作成されたものと信
用し得るところ,同記録表の上記記載に加えて,令和元年6月5日付け\nの電子メールに添付されていた乙23の2の1上段の画像データが乙
20の抜き型図面と同一であり,同図面にはその寸法が記載されている
ことなども考慮すると,平成31年4月11日の上記打合せにおいて同
抜き型図面が配布されたと認めるのが相当である。
原告は,同抜き型画面には「4/13 最終案」との手書きの書込み
があるのに対し,乙23の2の1上段の画像データには同様の書込みが
ないと主張するが,同画像データは,乙20の抜き型図面の図面部分の
みを画像データとしたものとも考えられることからすると,同画像デー
タに書込みがないことをもって,「4/13 最終案」との上記書込み
が原告と被告間の紛争が生じてからされたものであるということはで
きない。
(イ) また,原告は,Wuxi社が,抜き型図面のCADファイルをわざわ
ざ印刷した上で,紙媒体を日本まで郵送したというのは不自然であると
主張する。
この点,Wuxi社が抜き型図面の元データを印刷して紙媒体として
配布した経緯は明らかではないが,データの流用,改変の防止などの観
点から,CADデータを印刷し,精度を落とした上で,取引先との打合
せにおいて配布したとしても不自然ということはできない。
(ウ) さらに,原告は,乙20の抜き型図面の元データに作為が加わる可能\n性は否定できないと主張するが,乙20の画像データに作為が加えられ
たことを具体的に示す証拠は存在しない。
イ 令和元年6月5日付け電子メール(乙23の1)に添付された図面及び
写真データ(乙23の2の1)について
(ア) 原告は,乙23の2の1の画像データ及び製品比較表(乙23の4)\nの画像データのプロパティ(乙34,36の2)は容易に変更すること
ができるので,その信用性には疑問があると主張するが,同プロパティ
が変更されたことを具体的に示す証拠は存在しない。
(イ) 原告は,被告の主張によると乙23の2の1上段の画像データが作成
されたのは抜き型図面の作成後ということになるが,通常,データを作
成してから印刷するはずであるから,被告の主張は不自然であると主張
する。
しかし,被告の主張するとおり,本件では,Wuxi社が,自らの保
有するデータに基づき,紙媒体の抜き型図面を作成してダイセンに交付
し,その後にダイセンが紙媒体の同図面から必要な部分をデータ化して
乙23の2の1上段の画像データを作成したものと認めるのが相当であ
る。そうすると,抜き型図面の作成時期が乙23の2の1上段の画像デ
ータの作成時期より早いのは当然であるというべきである。
ウ 製品比較表(乙23の4)について\n
(ア) 原告は,乙36の2のプロパティの作成日時は「2014/12/1
7」と本件よりはるかに過去のものになっており,また,最終更新日も
記載されておらず,同プロパティにある「最終印刷日」もいずれの画面
を印刷したのか不明であると主張する。
しかし,同プロパティの「作成日時」の記載は,同表の元になったフ\nォーマットの作成日時を示すものであると考えられ,製品比較表の作成\n日を示すものということはできない。
また,同プロパティによれば,その最終更新日は令和元年6月5日午
前9時41分であり,最終印刷日は同日午前9時40分であると認めら
れ,印刷対象は同表であると認められる。そうすると,同プロパティの\n最終更新日や印刷対象が不明であるということはできない。
同プロパティに表示された最終更新日や最終印刷日は,令和元年5月\n27日の商談記録表(乙22)に「類似商品が販売されていないか,確\n認の依頼を受ける。比較資料を作成し,提出するとした。」との記載が
あり,その次の打合せが同年6月12日に行われていること(乙24)
とも整合するものであり,信用することができるというべきである。
(イ) 原告は,製品比較表の表\示と乙36の1のデータファイルの画像とは
異なると主張するが,乙36の1は画面の一部をスクロールしたために
その一部が表示されていないものにすぎず,製品比較表\(乙23の4)
と乙36の1のデータファイルとは同一のものであると認められる。
(ウ) 原告は,製品比較表は乙23の2の1下段の画像データを利用してい\nるので製品比較表のデータファイルの最終印刷日(令和元年6月5日午\n前9時40分)が乙23の2の1の画像データの作成日時(同日午前1
1時14分。乙34)より早いのは不自然であると主張する。
しかし,被告の主張する「乙23の2の1の画像データの作成日時」
は,乙23の2の1の画像データを貼り付けたエクセルファイルをPD\nFファイルに変換した日時にすぎないものと認められる(乙34)から,
被告が,試作品の画像データを作成した上で,これを利用して製品比較
表を作成し,その後同データと抜き型図面の画像データを併せて乙23\nの2の1のPDFファイルを作成したとも考えられる。そうすると,製
品比較表のデータファイルの最終印刷日が被告製品の試作品の写真の\n画像データを貼り付けたPDFファイルの作成日時より早いとしても\n不自然ということはできない。
エ 令和元年7月31日付け電子メール(乙27)について
原告は,電子メールの改ざんや編集は容易であって,ダイセンにも乙2
7の電子メールを改ざんする動機があったと主張するが,同メールの記載
やその本文に挿入された試作品の画像データが改ざんされたことを具体
的に示す証拠は存在しない。
オ 被告製品の意匠の完成時期について
原告は,令和元年8月2日の打合せに係る商談記録表(乙29)に「デ\nザイン案を提出したが,NGとのことであった。」と記載されていること
をもって,この時点においてデザインが完成していなかったと主張する。
しかし,1)同年7月22日に行われた被告とダイセンの商談記録表には\n「当初の提案形状のままで,商品化を依頼した」との記載があること,2)
同月30日付けでキャンドゥから採用通知書がダイセンに送付されてい
ること(乙26),3)ダイセンの担当課長のCNTA社の担当者宛の電子
メール(乙27)に「下記のフィルターで,採用決定しました。」と記載
され,その直下に被告製品の試作品の画像が挿入されていることによれば,
乙29の商談記録表における「デザイン」とは被告商品の形状に関するデ\nザインではなく,上記電子メールに「作成中」であると記載されている被
告製品の化粧袋のデザインであると解するのが相当である。
そうすると,同年8月2日時点において被告製品のデザインが完成して
いなかったとの原告の主張は採用し得ない。
◆判決本文
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