2024.11. 7
令和6(行ケ)10047 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年10月30日 知的財産高等裁判所
シンゴジラのフィギュアの立体商標について、3条2項の適用なしとした審決が取り消されました。
(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結
果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨\n主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形
態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同
一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当
たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定し
ておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的
形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前
脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体
のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を
中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとお
り、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。
しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形
状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品である
ことを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴ
ジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考
慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき
である。
(2) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映
画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26
億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年
間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、
それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、
当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品
の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状
として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、1)昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後6
0年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客
動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めて
いること、2)これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること
等が明記されていたこと、3)この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラ
ム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超
えていること、4)上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾
を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化
の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、5)原告の
シンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施
設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認
定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映
画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁
判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登
場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうし
た需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳〜69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を
示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由
回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、
極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質
問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体
的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結
果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識で
きるに至ったものと認めることができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本願商標に係る使用商品の使用期間(販売期間)が「永年」とは
いえない旨主張する。しかし、映画「シン・ゴジラ」が公開された平成28
年頃から本件審決時までの約8年間にわたって、原告が本願商標をその指
定商品に継続して使用した事実は認められるところ(上記1(5))、これ自
体、それなりの使用期間と評価することができる。
更にいえば、そもそも商標法3条2項の「使用」につき「永年」の要件が
課されているわけではないし、「需要者が何人かの業務に係る商品である
ことを認識することができる」に至ったか否かは、使用期間だけでなく、商
品の販売数量、広告宣伝の規模、話題性等も総合して判断すべきものであ
る。加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主
体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、
本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も
存在している。
こうした点を考慮すると、本願商標について、上記使用期間が「永年」と
までいえないとしても、同項該当性に係る前記判断が左右されるものでは
ない。
イ 被告は、原告主張の使用商品の販売実績についてはこれを裏付ける客観
的証拠はなく、また、これが事実としても、本願の指定商品を扱う業界にお
いてどの程度のものであるかの多寡を確認することはできない旨主張する。
しかし、甲53、77によれば、上記販売実績は、原告社内の信用性のある
データに基づき作成されたものと認められ、不合理な点は認められない。
また、被告が、本件審決が判示したように、「玩具業界全体」における使用
商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する
玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするもので
あり、採用できない。
また、被告は、使用商品は原告でなくライセンシーにより販売されてい
るにすぎないこと、「東宝」の文字を冠した使用商品でも原告以外のメーカ
ー名が表示されていること、使用商品本体への本件著作権等表\示について
は、本体の足の裏側の目立たない位置に小さく表示されているにすぎず需\n要者の注目を惹かないこと等を主張する。しかし、出願人から許諾を受け
た者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適
切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場
合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、原告
は前記1(3)ウのとおりライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用
商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所が原告である
ことを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品が原告\nの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるも
のである。
ウ 以上のほか、被告は、使用商品が掲載された雑誌の種類が少ない、書籍や
展示即売会の来場者は限定されている、ゴジラ像の恒常的設置は東京都内
の4か所にとどまる、本件アンケートには本願商標の立体的形状と原告と
の関連についての質問がないなど、原告の主張立証の逐一を論難するが、ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず、上
記(2)の判断を左右するものとはいえない。
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2024.10.22
令和6(行ケ)10027 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年8月29日 知的財産高等裁判所
商標「京都高麗人参」は識別力無しとした審決が維持されました。指定商品・役務は、サプリメントの小売などです。
上記(2)によれば、農作物、薬用作物等の名称に、それぞれ「京都米」、「東
京うど」のように、その産地の名称を冠して生産、販売をすることは、一般
に行われており(上記(2)オ)、本願の指定役務と関連するサプリメント又は健
康食品を取り扱う業界においても、その原材料を表示する際に、原材料の名\n称に、その産地の名称を冠して表示することは、薬用作物を含め、原材料の\n種類を問わず、広く行われている(上記(2)カ)。
高麗人参は、北海道、本州、四国及び九州の全国各地で生産されており(上
記(2)ア)、語頭に旧国名等の産地の名称を冠する「高麗人参」の使用も見られ
るところである(上記(2)イ)。また、高麗人参を使用したサプリメント又は健
康食品においても、商品の説明等で、その原材料である「高麗人参」を表示\nする際に、長野県産等のその原材料の産地の名称も併せて表示することが行\nわれ(上記(2)ウ)、「高麗人参」は、サプリメント又は健康食品の原材料とし
ても一般に使用されている(上記(2)エ)。
そうすると、本願商標の構成文字の語義に加え、上記のとおりの農作物、\n薬用作物、高麗人参及びサプリメント又は健康食品に係る取引の実情を踏ま
えると、本願商標の「京都高麗人参」は、「京都産の高麗人参」の意味合いを
容易に理解させるものといえるところ、本願指定役務に係る取扱商品である
「高麗人参を含有するサプリメント」についても、その商品の効能や原材料、\n成分などは、商品選択の際に重要な要素となり得るものと認められる。
この「サプリメント」の原材料として使用されている高麗人参については、
上記のとおり全国各地で生産されていて、「信州で契約栽培された高品質の
高麗人参」(上記(2)イ(ア))のように、その生産地が商品の特性や優位性を表\nすものとして商品の説明等に使用されており(上記(2)ア、イ)、その取扱商品
である「サプリメント」においても、「高品質な大根島の高麗人参の主根のみ
を粉末にした」(上記(2)ウ(ウ))等の記載にもあるように、顧客の商品選択の
便宜を図るべく、原材料その他の特徴等を説明するための用語として、「『高
麗人参』及びその産地の名称」が一般に使用されているとの実情もある(上記(2)ウ)。
また、本願指定役務中の、「高麗人参を主原料とする粉状・顆粒状・錠剤状・
固形状・液体状又はカプセル入りの加工食料品の小売又は卸売の業務におい
て行われる顧客に対する便益の提供」における「粉状・顆粒状・錠剤状・固
形状・液体状又はカプセル入りの加工食料品」は、サプリメント若しくは健
康食品又はこれと同種の商品と認められる。
そして、上記のとおり、高麗人参は、サプリメント又は健康食品の原材料
として一般に使用されているものであり、上記のウェブサイトの記載等に照
らすと、そのことは需要者においても広く知られているものと認められる。
そうすると、本願商標を、その指定役務中、「高麗人参を含有するサプリメ
ントの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、高麗
人参を含有する健康食品・健康関連商品・サプリメントの販売に関する情報
の提供、高麗人参を主原料とする粉状・顆粒状・錠剤状・固形状・液体状又
はカプセル入りの加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に
対する便益の提供」に使用をしても、当該指定役務に係る需要者をして、「京
都産の高麗人参」を使用したサプリメント等を取り扱う小売又は卸売の業務
であること、すなわち、小売又は卸売の業務において取り扱われる商品の品
質、原材料を表したものと認識させるにとどまり、役務の出所を表\示するも
のと認識させることはないというべきであるから、本願商標は、自他役務の
識別標識として機能し得ないものである。\n
なお、「サプリメント」は、「栄養補助食品。体に欠乏しやすいビタミン・
ミネラル・アミノ酸・不飽和脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形
にしたもの。サプリ。」(〔広辞苑第7版〕)であり、「健康食品」は、「健康の維持・増進に効果があるとされる食品。」(〔広辞苑第7版〕)であり、「加工食
品」は、「生鮮食料品などを加工した食品。食材とするものも、そのまま食べ
るものもいう。」(〔広辞苑第7版〕)であって、本願商標の指定役務において、
販売に関する情報の提供の役務の対象となる「高麗人参を含有する加工食品」
には、高麗人参を含有するもので、栄養補助食品、健康の維持・増進に効果
があるとされる食品のみならず、それ以外の加工した食品も含まれると解す
る余地がある。しかし、上記のとおり、農作物、薬用作物等の名称に、それ
ぞれ「京都米」、「東京うど」のように、その産地の名称を冠して生産、販売
をすることは、一般に行われており(上記(2)オ)、高麗人参は、北海道、本州、
四国及び九州の全国各地で生産されており(上記(2)ア)、語頭に旧国名等の産
地の名称を冠する「高麗人参」の使用も見られる上(上記(2)イ)、高麗人参は、
古くから使用されている薬用作物であり、サプリメント、健康食品として用
いられる場合が一般的であると認められ(上記(2)エ)、上記のとおり、本願商
標が、サプリメントや健康食品を対象とする役務に使われる場合に自他役務
の識別標識として機能し得ないことも考慮すると、「加工食品」の中に、栄養\n補助食品、健康の維持・増進に効果があるとされる食品以外の加工した食品
が含まれるとしても、本願商標は、「高麗人参を含有する加工食品の販売に関
する情報の提供」という役務の需要者をして、「京都産の高麗人参」を含有す
る加工食品の販売に関する情報を提供する業務であること、すなわち、取り
扱われる商品の品質、原材料を表わしたものと認識させるにとどまり、役務\nの出所を表示するものと認識させることはないというべきであるから、本願\n商標の指定役務のうち、「高麗人参を含有する加工食品の販売に関する情報
の提供」についても、本願商標は、自他役務の識別標識として機能し得ない\nものと認められる。
したがって、本願商標は、その指定役務との関係において、需要者が何人
かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であるから、
商標法3条1項6号に該当する。そうすると、本願商標の商標法3条1項6
号該当性について、本件審決の判断に誤りはないというべきである。
◆判決本文
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2024.09. 2
令和6(行ケ)10009 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年6月18日 知的財産高等裁判所
本件商標「サプリ処方箋(標準文字)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした拒絶審決が維持されました。指定商品・役務は、9類「コンピュータプログラム等」、35類「サプリメントの小売又等」44類「栄養の指導等」です。
前記1の認定事実によれば、本願商標の構成である「サプリ処方箋」は、サ\nプリメントの略である「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせた語である。そして、本願商標の需要者は、一般の消費者であると認められるところ、
「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせたもので
あることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識できる事実であるとい
うことができる。
「処方箋」は「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語である。法令上も、医師が患者に対し治療上薬剤を調剤
して投与する必要があると認めた場合に、患者又は現にその看護に当たってい
る者に対して処方箋を交付することとされ(医師法22条1項本文)、薬剤師は
医師等の処方箋によらなければ販売又は授与の目的で調剤してはならないとさ
れており(薬剤師法23条1項)、「処方箋」の語は、医師が患者に与えるべき
薬物(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類を指すものとして用いら
れている。
しかし、一般的には、「処方箋」という語は、例えば「改革の処方箋」のよう
に広く比喩的に使用される語であって(乙5)、「医師が患者に与えるべき薬物
(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類」に限定して使用されるもの
ではなく、現に、上記2(2)及び(3)の認定事実によれば、複数のウェブサイトや
新聞の記事において、医師又はそれ以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリ
メントの種類や量等を提示、提供することを「サプリメントを処方」、「サプリ
メントの処方」あるいは「サプリを処方」と記載した例があり、医師又はそれ
以外の者がこのようなサプリメントの種類や量等の提示、提供に際して作成す
る書面を「サプリメント処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」と記載した例があると認められる。
これらの事実によれば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の
語が本願商標の指定商品及び指定役務のうち第35類役務群又は第44類役務
群に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を
記載した書類を一般的に指す名称であると認識するものといえ、原告が提供する役務を認識するとは認められない。
したがって、本願商標は、少なくとも本願の指定商品及び指定役務のうち第
35類役務群及び第44類役務群との関係において、自他識別力を有しておら
ず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商
標であると認められる。
4 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(1)のとおり、本願商標の「サプリ処方箋」
の語は、本願商標の指定商品及び指定役務に関し、他で一般的に使用されて
いるという実例はないことから、本願商標は造語であり、指定商品及び指定
役務との関係で識別性を有すると主張する。25
しかし、本願商標の「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語
を組み合わせたものであること及び「サプリ」が「サプリメント」の略であ
ることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識し得る事実であるから、
本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語句から「サプリメント
処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」を連想し、「サプリメント」の「処
方」に関する書面であると認識するということができる。そして、上記2(2)
及び(3)のとおり、複数のウェブサイトや新聞の記事において、医師又はそれ
以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供
することを「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」又は「サプリを
処方」と表現し、これに関して医師又はそれ以外の者が作成する書面を「サ\nプリメント処方箋」又は「サプリメントの処方箋」と表現している事実が認められることからすれば、本願商標の「サプリ処方箋」は、少なくとも本願\nの指定商品及び指定役務のうち、第35類役務群及び第44類役務群との関
係では、識別性を有するとは認められない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(2)のとおり、「処方箋」はサプリメントのような健康食品で用いられる書類ではなく、「サプリ」と「処方箋」とは本来
的に結びつかない用語であり、「サプリメントの処方箋」との意味が生じたと
しても、需要者はこれを造語として捉えるから、本願商標には識別性が認め
られると主張する。
しかし、前記1及び3のとおり、「処方箋」の語は、本来「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語であるが、
広く比喩的に用いられる語であって、現に医師以外の者が医薬品以外のもの
に関して作成する書類についても使用されているものである。そして、栄養
補助食品であるサプリメントについては、医師又はそれ以外の者が、患者、
顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供することが想定され
るのであって、この行為について「処方」の語を用いることがあり、かつ、
このようなサプリメントの種類、量等の提示、提供に際して作成される書類
を「処方箋」と称することがあると認められるから、「サプリ」と「処方箋」
が結びつくことのない語であるとはいえず、本願商標に識別性を認めること
もできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(3)のとおり、少なくとも、本願商標の指
定商品及び指定役務のうち、第35類役務群については、本願商標が使用さ
れたとしても識別性が認められると主張する。
しかし、第35類役務群には、「サプリメントの小売又は卸売の業務におい
て行われる顧客に対する便益の提供」の役務が含まれており、前記3の説示に照らせば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語が上記役
務に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等
を記載した書類を一般的に指す名称であると認識することは明らかであると
いえ、原告が提供する役務を認識することはない。そうすると、仮に、第3
5類役務群のその余の役務の中に、「サプリ処方箋」の語が当該役務に使用された場合に、本願商標の取引者又は需要者が、患者、顧客等に適切なサプリ
メントの種類や量等を記載した書類を一般的に指す名称であると認識すると
はいえないものが含まれていたとしても、第35類役務群との関係において
も本願商標が自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
また、前記3のとおり、「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」、「サプリを処方」、「サプリメントの処方箋」及び「サプリメント処方箋」と
の語句が、サプリメントという商品に関し、一般の消費者に含まれる患者や
顧客に適切なサプリメントの量などの情報を提供することに関連して使用さ
れる例があると認められること、サプリメントは栄養補助食品であって、「加
工食料品」、「食餌療法用飲料」及び「食餌療法用食品」とは同一ではないものの、加工して製造される食品である点、あるいは栄養面に配慮した食品で
ある点で類似した面を有していること、医師が上記情報提供に際して「サプ
リメントの処方箋」と称される書類を作成することがあることが認められ、
これらの事実によれば、第35類役務群のその余の役務(前記第2の1(1)イ)
についても、「サプリ処方箋」の語がこれに使用された場合には、本願商標の
取引者又は需要者は、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を記
載した書類を一般的に指す名称であると認識すると解され、原告が提供する
役務を認識するとは認められない。
◆判決本文
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2024.08. 8
令和6(行ケ)10004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年5月28日 知的財産高等裁判所
商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。
上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品
等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料
を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用
されている実情があるものと認められる。
その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ
る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉
などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。
また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に
ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし
て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」
の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている
ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に
おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ
れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。
そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に
おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ
る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな
るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ
れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取
引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味
合いが認識されるものということができる。
そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、
単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ
かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、
商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標
の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商
品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を
普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、
本件審決の判断に誤りはないというべきである。
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2024.07.21
令和6(行ケ)10011 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「デジタル医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。
(1) 本願商標は、「デジタル医療モール」の文字を標準文字で表してなるも\nのであるところ、本願商標の構成中、「デジタル」の文字は「情報や命令を、\n0と1〔=スイッチオフとスイッチオン〕の信号の集まりで表現する<こと\n/もの>」、「コンピュータを(めいっぱい)使うようす」(以上、乙1)
を、「医療」が「医師・看護師が患者の治療やせわをすること」(乙2)、
「モール」が「(屋根つきの)大きな商店街」など(乙3)を意味する平易
な語であるから、本願商標の構成を元に観察すれば、「デジタル」の語と\n「医療モール」の語からなると理解することも、あるいは「デジタル医療」
の語と「モール」の語からなると理解することも不可能ではない。\nしかしながら、証拠(甲17、18、25〜29、乙8〜15)によれ
ば、「デジタル」の文字は、他の語と結合した「デジタル〇〇」の態様で
「デジタル技術を用いた〇〇」ほどの意味合いで汎用的に広く用いられてい
ることが認められ、デジタル技術を利活用した医療や治療に関して、「デジ
タルセラピー」(甲17)、「デジタル医療」(甲18、26〜29、乙8
〜11、14、15)、「デジタル治療」(甲25、乙8、12、13)、
「デジタルヘルス」(乙8)と称されている実情があることが認められる。
また、証拠(甲20〜22、乙16〜23)によれば、「医療モール」
の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている
運営形態」(甲20)といった語として広く使用されていることも認められ
る。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活
用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係る
サービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で
提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるも
のと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した
需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務で
あることを表現するための語句であると理解、認識するにとどまり、自他商\n品役務の識別標識としては認識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「デジタル医療」 と「モール」
との言葉の結合であるのか、「デジタル」と「医療モール」との言葉の結合
であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標であると
する主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「デジタル〇〇」の語が、「デジタル技術を
用いた〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、「〇〇
モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった定型的
な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。そうす
ると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)のとおり、
「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」という意味
合いで認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上
記主張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と
事案を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「デジタル」と「医療モール」の結合と理
解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、「デジタル技術」
というものは様々に活用されており、一義的な技術ではなく、本願商標もい
ずれの技術を利用したのか明らかでないから、本願商標からは特定の観念が
生じないと主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ
ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ
れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな
るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願
商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない
ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する
と主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ
ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ
れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな
るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願
商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない
ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する
と主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで
きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい
ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、
上記2の認定判断を妨げるものではない。
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2024.07.21
令和6(行ケ)10010 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「オンライン医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。
証拠(甲11〜13、乙10〜20)によれば、「オン
ライン」の文字は、他の語と結合した「オンライン〇〇」の態様で「ネット
ワーク上で提供される〇〇」、「ネットワーク上で利用できる〇〇」ほどの
意味合いで汎用的に広く用いられていることが認められ、「オンラインモー
ル」(乙7)、「オンラインショッピングモール」(乙8)といった用法で
使用されていることも認められる。
特に、上記「オンラインショッピングモール」は、「様々な商品の小売
販売に係るサービスをネットワーク上の1か所のプラットフォーム上で提供
又は利用できる仕組み」といった意味で用いられているものと理解され、本
件の参考になるものといえる。
また、証拠(甲14〜16、乙21〜28)によれば、「医療モール」
の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている
運営形態」(甲14)といった語として広く使用されていることも認められ、
「オンライン上で自由診療の医療モールを作る」、「e−メディカルモール」
(いずれも甲17)といった用法で使用されていることも認められる。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「オンライン」で行われ
る仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、
ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」
といった意味合いを容易に理解、認識させるものと認められる。そして、本
願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について、
上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語\n句であると理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認
識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「オンライン医療」 と「モー
ル」との言葉の結合であるのか、「オンライン」と「医療モール」との言葉
の結合であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標で
あると主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「オンライン〇〇」の語が、「ネットワーク
上で提供される〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、
「〇〇モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった
定型的な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。
そうすると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)の
とおり、「オンライン」で行われる仮想的な「医療モール」という意味合い
で認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上記主
張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と事案
を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「オンライン」と「医療モール」の結合と
理解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、オンライン上で
どのようなサービスが提供されるのか不明であるとして、需要者は本願商標
を造語として理解すると主張する。
この点、関係証拠によれば、オンラインで提供される医療サービスとしては
「オンライン診療」(甲11〜13、18、乙4、5、9〜15、19、20。
スマートフォンなどを使って病院の予約から決裁までをインターネットで行う\nもの。)、「遠隔健康医療相談」(甲13、乙16〜18)、「オンライン服
薬指導」(乙10)、「電子処方箋」(乙10)のほか、自由診療を提供して
いる医療機関を集めて、オンラインメディカル(医療)モールを提供する(検
索・予約・決済・オンライン診療を提供する)もの(甲17)など、様々なも\nのがあることが認められる。
しかし、このようにオンラインで提供される医療サービスの内容が様々なも
のであることは、上記1(2)で認定した「様々な医療機関に係るサービスを
ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」
という概念と何ら矛盾するものではなく、むしろ、当該理解に沿うものである。
原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠となるものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「オンライン医療モール」という語が、本
願商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有す
ると主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで
きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい
ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、
上記2の認定判断を妨げるものではない。
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2024.06. 9
令和6(行ケ)10003 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年6月3日 知的財産高等裁判所
商標「骨格診断7タイプ」 について、識別力なし(商標3条 1 項3号)とした審決が維持されました。
原告は、法3条1項柱書及び3号は条文上需要者の認識を何ら問題として
いないのに、本件審決は、取引者、需要者の認識を基準として本願商標は役
務の質を表示したものと判断したとして、その誤りを主張する。\nこの点、法3条1項3号は「その役務の質を普通に用いられる方法で表示す\nる標章のみからなる商標」を商標登録できない商標として掲げているところ、
出願商標が何を表示するものであるかを客観的に把握する上では、取引者、需\n要者の認識を基準として判断せざるを得ないことは当然であり、そのような解
釈は、法1条の趣旨にも沿うものといえる。
原告は、法3条 1 項3号と、同項6号及び2項との条文の違いを上記主張の
根拠としているが、同条1項6号の「前各号に掲げるもののほか、需要者が何
人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と
の文言、同条2項の「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、
使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができるものについては」の文言に照らすと、同条1項3号の解釈上
も、需要者の認識が判断基準として想定されていると理解することができ、そ
の趣旨をいう本件審決の判断に誤りはない。
2 原告は、1)法3条1項3号における「役務の質」は「『労働勤務』や『他人に利益があるようにする行為』の質」を指すとして、あるいは2)「質」に
ついて「内容、中身」の意味を含むと解釈するのは古い時代の解釈であると
して、本願商標は「役務の質」を表していないと主張する。\n
しかし、同号に掲げる商標が商標登録要件を欠くと規定されている趣旨は、
このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質等の特
性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示として何人もそ
の使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公
益上適当でないなどの理由によるものである。このような趣旨に鑑みれば、
同号の「役務の質」を原告主張のように限定的に解釈すべき理由はない。
しかも、証拠によれば、本願商標「骨格診断7タイプ」がその指定役務に使
用された場合、そうした役務が労働の対価を得て有料でなされ得るもの(乙
6・骨格診断アドバイザー、乙7・骨格診断ファッションアナリスト、乙1
1・骨格診断士〔骨格診断資格〕)があることも認められ、原告の上記主張を
前提にしても、本願商標が同号にいう「役務の質」を表示するものであるとい\nえる。
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2024.05.26
令和5(行ケ)10119 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月28日 知的財産高等裁判所
腕時計の外観(オーデマ・ピゲのロイヤルオーク)を表した商標について識別力無しとした審決が維持されました。\n
ア 本願商標は、前記第2の1(1)のとおりの構成からなる商標である。\n腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど
というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を
除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、
インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、\nこれらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか\nも、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て
において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、\n本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表\されてはいる
ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと
認められる。
これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。\n本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ
の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ
り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、
全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子
模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、
上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時
計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ\nランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える
ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛
け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め
られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状
に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると
いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2
9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の
形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ
及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な\nどを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、
商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か\nつ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい
て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得
る範囲のものであると認められる。
そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる
方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当
するというべきである。
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2024.05.26
令和5(行ケ)10141 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月10日 知的財産高等裁判所
商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。
(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ
ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線
などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ
り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続
した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的
に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。
さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章
(「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい
て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧
表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の
前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例
1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前
の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい
るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ
る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。
このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で
あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ
ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字
の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと
認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ
ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ
てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する
一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な
取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す
るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと
異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき
ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし
て考慮すべきであると主張する。
しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文
字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か
らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ
はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので
はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。
しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供
するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、
いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字
を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出
所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。
しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし
て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると
は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS
の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通
するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識
別力を認めるべきである旨主張する。
しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で
ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行
するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ
りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を
示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審
院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。
そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については
ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が
あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に
ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ
るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐
次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等
の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。
原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言
及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定
期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物
と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ
いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、
「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、
放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5))
についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直
ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。
なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ
の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行
物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役
務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変
容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの
取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、
オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな
い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決
の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。
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2024.05.22
令和5(行ケ)10109 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月24日 知的財産高等裁判所
商標「奇跡のラカンカ」が識別力なしとした審決が維持されました。指定商品は、「ラカンカ」ではなく、30類「ラカンカを加味した菓子等」です。なお、審査官は、3条1項3号違反で拒絶査定にしましたが、審決では拒絶理由通知なしで、同6号違反で拒絶審決としました。手続きとしては違法だが、結果に影響がないのでそれを理由には取り消さないとしています。
本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文と
しては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶
の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われてい
ない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項
にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要が
ある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に
おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標
登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法
の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定め\nる具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明
をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみ
をもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。
この点、被告は、3条1項は出所表示機能\を欠く商標を列挙するところ、
例示的列挙である1号〜5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶と
では、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定
の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条
1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事
由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言か
らも明らかなように、同項6号と同項1号〜5号との間に概念上の上下関係、
包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立
法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1
項がこれらと異なることは明らかである。)。
被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な
役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公\n権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づい
て行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、
拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異
なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからと
いって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで
拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼
ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ
る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと
解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考
えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の
『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがっ\nて品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力\nするのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主
張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張\nはしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標
の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理
解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断
をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能\を欠く商標かど
うかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき
「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判
請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。
そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内
容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与
する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認
められないというべきである。
なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付
与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理
由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、
手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考
慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するも
のではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、
識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの
類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る
商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査
定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1
項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる
場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することに
なり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても
防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となってい
る3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号
の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被
告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないと
いう前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。
以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16
条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新
たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商
標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理
由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項)
される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討する
ことを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記
(4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条
文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、
かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主\n張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではない
と強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、
そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改め
て弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、
両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。
そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由
通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ
本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限の
ために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があると
しても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすよう
なものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手
続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりは
ない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告
に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機
会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付を
もって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の
機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予\n告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。
加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意
見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果
物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章である\nとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張
を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6
号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記
4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意
味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3
条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式
な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容
を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と
なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張
又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ\nれたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕
疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな
いと解するのが相当である。よって、原告主張の取消事由は採用できない。
4 本願商標の3条1項6号該当性について
念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。
本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成\n中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3〜5)
として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片
仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢\n果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の
中で主張しているとおりである。
そして、証拠(乙6〜35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、
「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常
識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて
おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使
用されていることが認められる。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、
需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない
ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業\n務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した\nがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する
ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。
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2024.04.30
令和5(行ケ)10115 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月11日 知的財産高等裁判所
商標「Nepal Tiger」が識別力なしとした審決が取り消されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。令和5(行ケ)10116では、商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決は維持されています。
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されて
いるのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売
地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示と
して何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を
認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、
多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最
高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集
民126号507頁)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売
地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である\nというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係
で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場\n合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の
取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又
は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やそ
の指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成\n
本願商標は「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる商\n標である。
「Nepal Tiger」は「Nepal」の文字及び「Tiger」
の文字を組み合わせたものであって、「Nepal」は国家(ネパール)を示
す語であり、「Tiger」は「トラ」を意味する語である(乙1〜4)。
(3) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情
ア 以下の新聞記事及びウェブサイトには、ネパールで手織りのじゅうたん
の生産がされていることや、我が国で開催された展示会等においてネパー
ルで生産された、又はネパールから輸入された手織りのじゅうたん、ラグ
が展示、販売されたことに関する記載が存在する。
・・・・
イ 以下の新聞記事、書籍及びウェブサイトには、チベットにおいてじゅう
たんの生産が行われている旨の記載、チベットで生産されたじゅうたんを
「チベットじゅうたん」又は「チベタンじゅうたん」と称する旨の記載と
ともに、ネパールで生産されるじゅうたんも「チベットじゅうたん」「チベ
タンラグ」などと称する旨の記載、又は、チベットからネパールに亡命し
た者あるいはネパールに居住するチベット難民がネパールにおいてじゅ
うたんの生産を行っている旨の記載が存在する。
・・・・
ク 上記アないしキに掲げた新聞記事、書籍及びウェブサイトのいずれにも、
「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在し
ない。
(4) 検討
ア 上記(3)に掲げた新聞記事、雑誌、ウェブサイトの記載によれば、以下の
事実が認められる。
(ア) ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われていること。
(イ) チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパー
ルにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の
記載が複数存在すること。
(ウ) ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいは
これに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示\nするウェブサイト等の記載が複数存在すること。
(エ) トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうた
んを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの
記載が複数存在すること。
(オ) トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅ
うたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタン
タイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数\n存在すること。
(カ) ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるト
ラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数
存在すること。
イ しかし、上記(3)クのとおり、上記(3)アないしキに掲げた新聞記事、書籍
及びウェブサイトのいずれにも、「Nepal Tiger」又は「ネパー
ルタイガー」との記載は存在せず、その他本件の全証拠によっても、本願
の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Ti
ger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものが
あるとは認められない。
したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパー
ルで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じ
ゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって
使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指
定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いら
れる取引の実情が存在するとも認められない。
そして、「Nepal Tiger」は、前記(2)のとおりの意味を有する
「Nepal」の語及び「Tiger」の語を組み合わせたものであると
いえるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書
等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等
として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパール
トラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。
そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされ
ることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、
まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これ\nを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
ウ 本願商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、この指定商品の
内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業
者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。
そして、前記イのとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが
本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、
かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当である
ことからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tige
r」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示\nしたものであると直ちに認識するものではないというべきである。
そうすると、本願商標の取引者、需要者は、「Nepal Tiger」
の語句について「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」、「ネパールで生産又は販売され
る、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物」又は「ネ
パールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形
状を模したラグ」を表示するものであると必ずしも認識するものではない\nから、本願商標は、その指定商品に使用された場合に、本願商標の取引者、
需要者によって、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるとは認められない。
エ 以上によれば、本願商標は、取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものとはいえず、指定商品の産地、販売地又は品質を普通
に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商\n標法3条1項3号に該当するものとは認められない。
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2024.04.22
令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。
2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。)
前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく
は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して
おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象
外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす
る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に
おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2
6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ
ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す
るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を
有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必
要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、
商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以
外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26
年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの
ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい
う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解
釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、
別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、
B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合
せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の
「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ
ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され
ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本
における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩
の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ
ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結
合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と
いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ
るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は
いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に
おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に
関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ
く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか
な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の
主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色
の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特
定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部
輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶
色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を
あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感
じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。
また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価
する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている
が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお
りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我
が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ
サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって
いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的
な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ
るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。
また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包
装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣
伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的
に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標
は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として
用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及
び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション
ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付
した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ
ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた
り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第
16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ
ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく
ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する
のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購
入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。
そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は
広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名
な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自
体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに
認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広
告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド
商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件
包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので
あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び
指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで
あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ
ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各
アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、
本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの
商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め
られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役
務識別力の獲得を認めることはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事
由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3
条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との
関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に
関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを
示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等
についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製
造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事
例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩
及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事
例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子
(キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、
171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の
知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業
者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商
品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周
囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を
付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販
売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、
原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の
対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ
ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。
これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら
かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品
の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品
の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自
認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商
標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける
ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の
特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外
の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲
が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ
って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述
のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商
標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと
はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと
からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使
用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。
しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ
たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認
識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張
のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ
れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実
上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著
しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され
るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色
を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような
特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮
に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用
態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が
少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委
縮効果を過大に評価すべきでない。
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2024.03.27
令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。
(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である
ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年
9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙
1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が
4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3)
によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて
いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認
められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、
「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ
せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ
うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。
各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗
名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4
2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有)
府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」
(乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1
3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う
店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する
「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品
(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」
が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の
獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において
判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ
れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品
の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。
また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」
に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する
旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。
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2024.03. 8
令和5(行ケ)10116 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年2月28日 知的財産高等裁判所
商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は
第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。
原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必
ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと
して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される
旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な
英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白
一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地
名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット
トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では
ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本
願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ
ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、
じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット
民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている
じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの
一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること
が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2
4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ
グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた
ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び
販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ
ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること
も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」
の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状
のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す
る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある
いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上
の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定
証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。
そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9)
からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお
いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ
タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に
掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し
て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること
は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。
しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる
場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原
告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
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◆令和5(行ケ)10114
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2024.02.19
令和5(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年1月30日 知的財産高等裁判所
立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。
商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する
商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用
した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力
又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう
な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した
かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、
当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣
伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要
者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上
で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを
判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり
であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商
品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。
しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ
ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ
ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが
透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の
形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ
の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在
すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ
れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの
と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ
ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標
の形状が用いられていたと認められる。
しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め
られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り
る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に
おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の
社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、
「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで
あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい
る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された
本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され
ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター
用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合
に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの
ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等
の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので
あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において
表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ
せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び
商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ
(TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ
る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。
また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から
明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い
た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す
る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.
0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上
記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の
35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30
年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願
商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ
はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った
と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。
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2024.02. 9
令和4(ワ)9818 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和5年12月19日 大阪地方裁判所
商標「熱中対策応急キ ット」(標準文字)についての侵害訴訟です。被告は識別力無しの無効理由(商3条1項3号)、効力が及ばない範囲(商26条)を主張しました。裁判所は、識別力無しとして無効と判断しました。
2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について
(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で
表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表\示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者に
よって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構\成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、こ
れを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表\すものとして理解されると考
えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、
それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思う
こと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわ
せ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に
有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義
どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急
処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味
合いが直ちに導かれるものではない。
もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示
すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の
一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との
標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類
似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28
日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中
症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。
一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってする
こと。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用い
られる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告
販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令
和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策
キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に
対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の
商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対
策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対
策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有す
ることが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中
症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全
部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、
標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして\n一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」
との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであ
り、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件
商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の
3第1項)。
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2024.01.19
令和5(行ケ)10083 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
電気スイッチの図形商標について、その形状に過ぎないとして、識別力なしとした審決が維持されました。
そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、\n美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商
標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択さ\nれると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品\n等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当す\nるものと解される。
(2) 本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが
外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長
の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、
その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてな
るものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気
スイッチ」に係るカタログ(甲3の1)には、「シンプルで、明瞭な要素で
構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間\nを超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、
JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。
一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイト(乙1〜8、10〜
13)によれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業
界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形\nの押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、\n表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていること\nが認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、
使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」(乙2)、「インテリア
と響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんな
が使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」(乙6)といった謳い文句
からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されて\nいるものと解される。
上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気
スイッチ」の用途、機能、美観から予\測できないようなものということはで
きず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能\n又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのもの
を認識するにすぎないというべきである。
原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定され\nる図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用する
べきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商
標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指
定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識\nされると認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商
標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在す
る旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するもの
であるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に
係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、
需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点が
あると考えられるものであり、採用できない。
さらに、原告は、前記第3の1(2)のとおり、原告の電気スイッチは、幅広
な操作スイッチを持たず、表示灯を操作スイッチの右端において上端から下\n端まで一直線に設けるという独自の構成を有し、数々の受賞歴を有し、こだ\nわりのあるユーザに高い評価を得ている旨主張するが、視覚を通じて美観を
起こさせる物品の形状等の創作を奨励、保護する意匠法による保護の対象と
すべき根拠とはなっても、自他商品の識別標識としての商標を対象とする商
標法の保護とは次元が異なる問題である。
(3) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした
本件審決の判断に誤りはない。
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2023.12.12
令和5(行ケ)10074 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
商標「ブランディングDX」(標準文字)が、識別力無しとした審決が維持されました。
本願商標は、「ブランディングDX」の文字を標準文字で表してなると\nころ、構成中の「ブランディング」の文字は、「顧客や消費者にとって価値\nのあるブランドを構築するための活動」等の意味を有する語であり(乙1〜\n7)、「DX」の文字は、「情報通信技術の浸透に伴うビジネスや社会の構造\n的変革」、「デジタル変革」を意味する「デジタルトランスフォーメーション」
を表す語である(乙8〜10)と認められる。\nそして、日本政府によって平成30年5月に「デジタルトランスフォー
メーションに向けた研究会」が発足し、同年12月に同研究会によって「D
X推進ガイドライン」が発表されて以降、政府による「DX推進指標」が公\n表され(令和元年7月)、閣議決定された「骨太の方針」に「民間における\nDXの加速」が盛り込まれ(令和3年6月)、その頃、総務省によって「自
治体DX推進計画」が策定されるなど、様々な業務や事業活動、業種等にお
いて、デジタル技術の活用を促進することによる業務の変革(DX、デジタ
ルトランスフォーメーション(化))の取組がなされている(乙11〜22、
28、47〜50)。また、そのような取組を表す際に、「○○DX」と表\す
ことがしばしば行われている実情があり(乙13、14、21〜37)、ブ
ランディングに関わる業務においても、こうした取組に対して、端的に「ブ
ランディングDX」と称する事例がある(甲28〜40、乙43、44、4
7〜50)。
(3) そうすると、本件関連役務に関し本願商標に接した取引者・需要者は、
「ブランディング」についてのデジタル技術の活用による業務の変革である
「デジタルトランスフォーメンション」であること、すなわち「ブランディ
ングのデジタルトランスフォーメーション(化)」を表したものと認識し、\n理解するものというべきである。
よって、本願商標は、役務の特徴、質(内容)を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当す\nると解するのが相当である。
(4) これに対し、原告は、「DX」の文字の理解が浸透していないと主張す
るが、上記(2)の事実は、本件審決時までに「デジタルトランスフォーメー
ション」を意味する「DX」の取組が広く啓発され、用語例として定着・普
及していたことを示すものにほかならず、上記主張は採用できない。原告は、
アンケートにおいて「DX」や「ブランディング」の理解が広がっていない
結果が出ていると主張するが(甲3〜5、18〜20、22、23)、例え
ば甲3のアンケートでは、75%の回答者が少なくとも「DX」の言葉の意
味を理解しているとの結果が出ているなど、本件で証拠提出されたアンケー
ト結果は必ずしも原告の主張を根拠づけるものとはいえない。
また、原告は、「ブランディングDX」の用語を使用する際、「プラン」
や「ソリューション」などの言葉で意味合いを補足している例がほとんどで\nあると主張するが、そうだとしても、「DX」の用語が本件関連役務の取引
者・需要者に理解されないと解すべき根拠になるものではない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはない。
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2023.11.29
令和5(行ケ)10028 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月6日 知的財産高等裁判所
商標「梅水晶」について、識別力なしとした審決が維持されました。理由は、「鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の商品として一般的名称であった」というものです。
前記(3)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、1)インターネッ
ト上の商品販売サイトにおいて、原告以外の者が製造したサメ軟骨(又はそ
の代替として用いられる鶏軟骨等)を梅肉で和えた惣菜商品に、「梅水晶」の
名称が付されて販売されていたこと、2)多数の飲食店において、サメ軟骨を
梅肉で和えた料理の名称として「梅水晶」の語が用いられ、客に提供されて
いたこと、3)料理レシピを掲載しているウェブサイトにおいて、サメ軟骨の
代わりに鶏軟骨等を用い、これを梅肉で和えた料理が「梅水晶」の名称で複
数紹介されていたことが認められる。
これらの事実によれば、本願の指定商品の需要者は、「梅水晶」の語が本願
商標の指定商品に使用された場合には、サメ軟骨又はその代替として用いら
れる鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の料理名又はこのような惣菜の商品を一般
的に指す名称であると認識するものといえ、原告の製造販売する商品を認識
するとは認められない。したがって、本願商標は、本願の指定商品との関係において、自他識別力を有しておらず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ
とができない商標であると認められる。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、1)原告が原告商品の
商品名として独自に考案した「梅水晶」の名称を付し、現在まで25年以
上にわたって販売しており、原告の取引先は平成27年当時で1000社
を超え、これら多くの取引先を通じ、「梅水晶」標章を付した原告商品が全
国のホテルや飲食店に納入されていること、2)全国の原告の取引先が、「梅
水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であると認識できることを証
明する旨の書面に押印していること、3)原告商品を紹介した複数のテレビ
番組において、「梅水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であること
が紹介されたこと、4)「大阪府珍味協同組合」が発行した冊子「食の都 大
阪 五十年の歩み」に掲載された年表\において、平成15年の「珍味組合
員の売筋商品」の欄に「梅水晶(サブ水産)/TVでの紹介があり人気商
品となる」との記載があること、5)原告よりも規模の大きい会社で、原告
商品と競合商品を販売する二つの会社が、「梅水晶」とは異なる標章を付し
て商品を販売していることから、本願商標は、本件審決の時点で、原告の
業務に係る商品を示すものとして、原告商品を取り扱う業界の取引者、需
要者の間に広く知られるに至っていたと主張する。
しかし、原告の主張は、本願の指定商品の需要者が、ホテルや飲食店等
の事業者のみであることを前提としているところ、上記需要者には一般消
費者が含まれると解すべきことは前記(2)のとおりであり、原告の主張には
その前提に誤りがある。
また、前記1)については、「梅水晶」の名称は原告が考案し、原告がサメ
軟骨に梅肉を和えた惣菜商品に本願商標を付して販売を開始した事実が
認められるが(甲93、弁論の全趣旨)、当初は特定の商品の名称として使
用されていた語が、一定期間使用され、当該商品と同種の商品等を指す一
般名称となり、自他商品を識別する標章としての機能を喪失することはあ\nり得るのであって、上記事実があることをもって、本願商標が商標法3条
1項6号に該当すると解し得ないことにはならない。前記2)については、原告が証拠として提出している「証明願」は、一般消費者を含まず、原告の取引先である業者のみの「証明願」にすぎないから、これをもって、「梅水晶」の名称が、原告の商品の出所表示として本願の指定商品の需要者の間で、全国的に認識されるに至ったことを示すもの\nとは認められない。前記3)から5)についても、本願の指定商品の需要者の一部の認識を窺わせる事情にすぎず、一般消費者を含む本願の指定商品の需要者において、
「梅水晶」の名称が原告の商品を表示するものと一般的に認識していたこ\nとを示すものとはいえない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(4)のとおり、「楽天市場」や「アマ
ゾン」において「梅水晶」の語で検索して出てくる商品で、本願の指定商
品と関連するもののうち、原告の出所に係る商品であることが明らかなも
のが、「楽天市場」については約38%、「アマゾン」については50%に
及んでおり、本件審決が別掲1として挙げた事例は少数のデータを恣意的
に抽出したものであって、これらの事例によって一般消費者の間で「梅水
晶」の名称が付された商品が原告の出所に係るものであると理解されてい
るとは認められないと本件審決が判断したのは不当である旨主張する。
しかし、原告の主張を前提としても、「楽天市場」及び「アマゾン」にお
いて「梅水晶」の語で検索して出てくる本願の指定商品と関連する商品の
うち、原告の商品でないものが半数又はそれ以上を占めるのであって、こ
のことからすれば、本件審決が少数のデータを恣意的に抽出して不当な判
断をしたとは解されない。同様に、本判決の前記(3)において挙げた事例も、
少数のデータを恣意的に抽出したものであるとはいえず、これらの事例に
照らし、本願商標が本願の指定商品との関係において自他識別力を有して
いないと判断できることは、前記(4)のとおりである。
ウ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。
その他、原告がるる主張する事情を考慮しても、本願商標は、本願の指
定商品との関係において自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
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2023.10.23
令和5(行ケ)10038 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年10月12日 知的財産高等裁判所
43類「飲食物の提供等」について、商標「athlete Chiffon」は識別力なしとした審決が維持されました。理由は、本件商標は「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるので、役務の質(内容)を表示したものに過ぎないというものです。\n
本願商標は、「athlete Chiffon」の文字を標準文字で表\nしてなるところ、その構成中の「athlete」の文字は、各種英和辞典\n(乙1〜4)により、「運動選手。スポーツ選手。アスリート。」等の意味
を有するものとして掲載され、その表音を片仮名で表\した「アスリート」の
文字は、国語辞典(乙5)に、「運動選手」を意味するものとして掲載され
ている。また、その構成中の「Chiffon」の文字は、各種英和辞典(乙\n1,6)に「シフォン(絹、ナイロンの透けるような布)」「絹またはナイ
ロンの軽くて柔らかい織物」を示す名詞や、「軽くてふんわりした。」「〔ケ
ーキなどが〕軽くてフワフワした」等の意味を有する形容詞として挙げられ
る「chiffon」に由来するものであり、また、その表音を片仮名で表\
した「シフォン」の文字は、国語辞典(乙7)に、「うすくやわらかい絹織
物」との意味の他、複合語として「シフォンケーキ(chiffon ca
ke)」(たまごの白身をよく泡立てて加えた、ふんわりして口どけのいい
スポンジケーキ。(用例)「紅茶―」)」が掲載されている。これらは、い\nずれも、平易な単語として一般に親しまれているものである。
(3) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲4〜9、乙8〜59)によれば、菓子や
パン類を含む飲食物や、各種の商品又は役務について、運動選手向けである
という商品又は役務の種類を表すものとして「アスリート」「athlet\ne」(欧文字は語頭もしくは全体が大文字のものを含む。以下同じ。)の文
字を語頭に配した「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、
広く使用されている実情が認められる。そうすると、当該「アスリート」の
部分は、後半に続く商品又は役務が「運動選手向け」であることを示すもの
として取引者、需要者に認識されるものといえる。
この点、原告は、「athlete」の語からは、「元気」「頑丈」「健
康」等の優れたイメージが想起され、「アスリート」の文字を語頭に配した
商品において、需要者として、運動選手以外の人も想定される旨主張する。
しかし、標章中の「アスリート」「athlete」が取引者・需要者に
「運動選手向け」の商品又は役務を示すものとして認識されるからといって、
その実際の需要者として運動選手のみが想定されることになるものではな
く、両者は次元の異なる問題である。
また、原告が援用する「アスリート」「athlete」を含む商標登録
例又は使用例(甲22、30〜54、65〜69)も、上記の認定(語頭の
「アスリート」「athlete」の語は後半に続く商品又は役務が「運動
選手向け」であることを示すものとして取引者、需要者に認識されること)
を妨げるものではない。
(4) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲10〜12、14、75、乙60〜10
0)において、「シフォン」「chiffon」が「シフォンケーキ」の略
であることを前提に、語頭に、その提供対象を表す語を配した例(「お子様\nシフォン」「お一人さまシフォン」等)、原材料、味を表す語を配した例(「バ\nナナシフォン」「チョコシフォン」等)、行事等の名称を表す語を配した例\n(「バレンタインシフォン」「ひなまつりシフォン」等)が広く使用されて
いることが認められる。なお、前掲乙8では、パンと菓子の教室のメニュー
で、「アスリートシフォン」というシフォンケーキが提供されている。また、
各種ウェブサイトや新聞記事(甲75,79,80、乙101〜130)に
よれば、シフォンケーキ専門の飲食店や店舗の店名に「シフォン」「chi
ffon」が用いられていることが認められる。
そうすると、「シフォン」「chiffon」の語頭に、提供対象や原材
料、味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォン(シ\nフォンケーキの略称)」の種類、内容を表すものであると容易に理解される\nとみるのが相当である。
この点、原告は、多数の商標登録例やグーグルで検索された実例から、飲
食物を販売又は提供する業界でも「Chiffon」がシフォンケーキを意
味しない例が多数存在する旨主張する。
しかし、「chiffon」を含む商標又は店名を使用してシフォンケー
キ以外の飲食物を提供している実例があるからといって、飲食物の提供に係
る取引者、需要者の多くが、「chiffon」をシフォンケーキと認識す
ることに変わりはないのであって(この認定を覆す反証としては不十分であ\nる。)、原告の主張は上記認定判断を左右するものではない。
(5) 以上によれば、前半に「athlete」の文字と、後半に「Chiff
on」の文字とを表し組み合わせた「athlete Chiffon」と
の文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向
けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、
これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用し
ても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物
が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容)
を表示したものとして認識させるにとどまり、役務の質(内容)を普通に用\nいられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから、商標法3条1\n項3号に該当するといわざるを得ず、これと同旨の本件審決の判断に誤りは
ない。
なお、原告の前記第3の1(1)ウの主張(「athlete Chiffo
n」という名の実際の店でシフォンケーキ以外のスイーツも取り扱われ、ア
スリートの顧客は4分の1程度であるなど)は、上記判断を左右するもので
はない。
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2023.10.10
令和5(行ケ)1004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所
指定商品・役務「産業用ロボット並びにその部品及び付属品」、「荷役用ロボットの貸与など」の商標「ラース/RaaS」は識別力がない(商3条1項3号)、または品質誤認が生ずる(商4条1項16号)とした審決が維持されました。
そして、証拠(乙1〜21)及び弁論の全趣旨によれば、下段の「RaaS」
の欧文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(「Robot as a S
ervice」又は「Robotics as a Service」)の
略で、「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスで
あり、ロボット本体やロボットを制御するシステムを自社でつくり運用する
のではなく、ロボット本体をレンタルし、クラウド上にある制御システムを
利用するしくみ」を意味するものとして、上段の「ラース」の文字はその読
み方として一般に用いられていること、このような意味における「ロボッ
ト・アズ・ア・サービス(RaaS)」の概念は、本願の指定商品及び指定
役務に係る物流業界、製造業界、金属加工業界、食品加工業界を含む産業界
において注目を集め、実際に、一部の業界において、「RaaS(ラース)」
と称されてロボットが提供(貸与)されていることが認められる。
そして、本願商標は、上段に「ラース」の片仮名を、下段に「RaaS」
の欧文字を二段に表してなるものであるが、特に図案化がされているもので\nもなく、普通に用いられる方法で表示されたものである。\n
(3) そうすると、「RaaS」の欧文字及びその読み方を表した「ラース」\nの片仮名を二段に表したにすぎない本願商標に接した取引者、需要者は、\n「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスのための
ロボット並びにその部品及び附属品」及び「ロボットをサービスとして提
供・利用することができるサービスのためのロボットの貸与」を意味するも
のと理解し、本願の指定商品及び指定役務との関係においては、本願商標は、
商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供する物、提供の方法を表した\nものと認識するにとどまるというべきである。
よって、本願商標は、商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供す
る物、提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標\nであるから、商標法3条1項3号に該当する。
(4) これに対し、原告は、「RaaS」自体に特定の意味がなく、「RaaS」
から商品又は役務の特徴等を認識できないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、本願商標を構成する「RaaS」、「ラー\nス」の文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(ロボットをサービスとして
提供・利用することができるサービス)を意味するものとして用いられてい
ること、このような意味における「RaaS(ロボット・アズ・ア・サービ
ス)」の概念は、本願の指定商品及び指定役務に係る物流業界、製造業界、
金属加工業界、食品加工業界においても注目を集めていることが認められる
のであって、「RaaS」が頭文字の集合体であるからといって、それ自体
から特定の意味を認識させないとはいえない。
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2023.09.18
令和5(行ケ)10031 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月7日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)、商標「池上製麺所」(標準文字)が識別力無しとした審決を維持しました。
1 商標法3条は商標登録の要件を規定するものであり、同条1項柱書及び同項
4号によると、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章の\nみからなる商標」は、商標登録を受けることができないものとされている。これは、
ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章は、特定人によるそ\nの独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合、自
他商品・役務識別力を欠くと考えられることから、このような標章のみからなる商
標については、登録を許さないとしたものと解される。
そして、ありふれた氏に業種名や会社の種別、屋号に慣用的に用いられる文字等
を結合し、普通に用いられる方法で表示したものは、当該ありふれた氏を称する者\n等が取引をするに際して、商標として使用することを欲するものと考えられ、同様
に特定人による独占的使用になじまず、かつ、その表示だけでは自他識別力を欠く\nものというべきであるから、特段の事情のない限り、「ありふれた名称」に当たると
解するのが相当である。
2 本願商標は、「池上」の文字と「製麺所」の文字からなる結合商標である。以
下、各構成部分について検討する。\n
(1) 「池上」について
「池上」は、我が国において氏として約4万4100人に用いられている文字で
あり(甲16、39、乙4)、商標法3条1項4号所定の「ありふれた氏」に当たる。
原告は、「池上」は様々な意味を有する語であり、姓氏を表すと即座に認識されな\nいから「ありふれた氏」に当たらないと主張するが、前記のとおり、「池上」が我が
国において4万人以上の者に用いられている氏であることが認められる以上、「池
上」の文字が姓氏以外の意味を有することがあるからといって、それが「ありふれ
た氏」に該当しなくなるわけではない。したがって、原告の前記主張は採用するこ
とができない。
(2) 「製麺所」について
ア 後掲各証拠によると次の事実が認められる。
(ア) 「製麺所」は、「麺類を製造すること」を意味する「製麺」(乙6)に、場所を
意味する「所」が付されたもので、麺類を製造する所を意味する。
(イ) 香川県では、卸売りをする讃岐うどんの製麺所において、昼時に、セルフサー
ビスで客がうどんを湯掻いて食べるという業態のうどん店が多く存在する。これら
のうどん店は「製麺所タイプ」、「製麺所スタイル」などと呼ばれ、香川県内には、
原告が運営する「池上製麺所」の他に、「松下製麺所」、「多田製麺所」、「穴吹製麺所」、「藤村製麺所」、「日の出製麺所」、「讃岐製麺所」、「三嶋製麺所」(2か所)、「大川製麺所」、「宮川製麺所」、「上田製麺所」、「岡製麺所」、「上野製麺所」といった店名の製麺所タイプ(製麺所スタイル)のうどん店がある。(甲12、50、69、乙7、8、10、12、33〜35、45〜47、51)
(ウ) さらに、日本全国において、うどんやラーメン等の麺類を提供する飲食店にお
いて、「○○製麺所」という名称が用いられていることが認められる。香川県内で「〇
〇製麺所」の名称を用いてうどんを提供している前記うどん店以外のこれらの飲食
店の具体的な所在地及び店名は別紙「製麺所」の使用状況記載のとおりである。(甲
12、41〜47、49〜54、乙9、11、13〜32、36〜42)
イ 前記アの各事実に照らすと、「製麺所」の名称は、もともとは、麺工場などの
麺類を製造する所を指していたものであるが、製麺所において飲食物であるうどん
等を提供するという業態が一般化するなどし、さらには、少なくとも本件審決時ま
でに、全国的に、「○○製麺所」という名称のうどんやラーメン等の麺類を提供する
飲食店が少なくない数において存在するに至っているということができる。このよ
うな実態に照らすと、本件審決時においては、本願商標の指定役務である「飲食物
の提供」の取引者、需要者は、「製麺所」の名称について、麺類を製造する所を意味
するものと認識、理解するのみならず、麺類を提供する飲食店を指す店名の一部と
して慣用的に用いられているものと認識、理解すると認めるのが相当である。
ウ この点、原告は、全国のうどん店・ラーメン店の数からすると「〇〇製麺所」
の名称を用いた店舗数はごくわずかであり、「製麺所」の文字からうどんの麺やラー
メンの麺等の商品を取り扱う業種が連想されるとしても、飲食物の提供という業種
は連想されないと主張する。しかしながら、前記ア(イ)(ウ)からすると、「○○製麺所」
という名称を用いた飲食店の数がごく僅かであるとはいい難い。また、前記ア(イ)(ウ)
の各店舗のほかに、「〇〇製麺所」と近似した名称である「○○製麺」との名称を用
いるうどん店が存在することは公知の事実であり、食品の製造をする場所において、
製造した食品を用いた飲食物を提供することはよく行われることであるから、需要
者である一般消費者にとって、「製麺所」との文字から、製麺所で製造された麺を用
いた飲食店を連想することは容易であるということができる。これらの点に照らす
と、本願商標の指定役務である「飲食店の提供」の取引者及び需要者は、「製麺所」
の文字から「麺類を提供する飲食店」すなわち「飲食物の提供」の役務を想起する
というべきである。したがって、原告の前記主張を採用することはできない。
3 本願商標について
本願商標は、ありふれた氏である「池上」と、麺類を提供する飲食店を表すもの\nとして慣用的に用いられている「製麺所」を組み合わせた「池上製麺所」を標準文
字で表したものであり、「池上」氏又は「池上」の名を有する法人等が運営する麺類\nを提供する飲食店というほどの意味を有する「池上製麺所」というありふれた名称
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認められるから、\n商標法3条1項4号に該当するというべきである。
原告は、過去の審決(甲55〜58)において示されたように、名称全体として
多数存在するものでなければ「ありふれた名称」に当たらないと主張するが、商標
法3条1項4号の文言上、「ありふれた名称」であると認めるために当該名称が現に
多数存在することは要件とはされておらず、ありふれた氏である「池上」と、麺類
を提供する飲食店を示すものとして慣用的に用いられている「製麺所」とを結合し、
普通に用いられる方法で表示した本願商標は、本件全証拠によっても、我が国にお\nける飲食店の取引者、需要者が、特定人の運営する飲食店(原告店舗)を意味する
ものであることを認識することができるほどの自他識別力を有するに至ったことを
認めるに足りない。したがって、本願商標は、特定人の独占にはなじまず、自他識
別力を欠くものとして、同条1項4号の「ありふれた名称を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標」と認めるほかはない。原告の指摘する各審決は、\nいずれも本件とは指定商品及び指定役務等を異にする事案である上、当該各審決に
係る商標登録の有効性(同法46条1項1号)について裁判所の判断がされたこと
を認めるに足りる証拠はないから、本願商標が同法3条1項4号に該当する旨の前
記判断を左右するに足りるものではない。
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2023.09.18
令和5(行ケ)10029 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年8月31日 知的財産高等裁判所
知財高裁(4部)は、商標「熟成鰻」は識別力無し(3条1項3号)とした審決を維持しました。
本願商標は、別紙のとおり、縦長長方形風の枠の中に「熟成鰻」の文字を
筆文字風書体で縦書きしてなるものである。その構成中の「熟成」の文字は、広辞苑第7版(乙1)によれば、「1)十分に熟してできあがること。2)[化]物質を適当な温度に長時間放置して化学変化を行わせること。発酵の調節、コロイド粒子や沈殿の粒径の調節などにいう。時効。3)蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用によ
り、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること。なれ。」
を、デジタル大辞泉(審査手続における手続補足書〔甲5〕で引用)によれ
ば、「1 成熟して十分なころあいに達すること。「機運が熟成する」 2
魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うまみが出るこ
と。・・・3 物質を適当な温度などの条件のもとに長時間おいて、ゆっく
りと化学変化を起こさせること。」を意味する。また、広辞苑第7版(乙2)
によれば、「鰻」の文字は、「ウナギ科の硬骨魚の総称、またその一種。」
を意味するものであり、一般に親しまれた語であり、各文字の語義自体から
「熟成させた鰻」を意味するものということができる。
(3) 各種ウェブサイトによれば、「熟成」の語は、食品又はこれに関する役務
の分野では、化学変化や酵素等の作用により、風味やうまみをだすとの意味
において、魚一般について用いられているほか(乙3〜12。「熟成魚」と
の表現もある。)、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟\n成うなぎ」との端的な表現もある(乙23〜28、30、32。そのうち、\n乙23〔クラウドファンディング情報。令和3年10月26日募集開始〕、
25〔オークション結果。令和2年7月4日開始、同月5日終了〕、28〔「旨
味熟成うなぎ」を商品化したとの平成26年5月の記事が引用されている。〕
は、本件審決の日である令和5年1月30日より前に使用されたことが明ら
かである。)。さらに、「熟成鮭」、「熟成鯛」、「熟成マグロ」、「熟成鰹」など、上記意味における「熟成」と魚の名前を組み合わせた用例は枚挙に暇がない(乙
33〜42)。
(4) 以上からすると,本願商標の「熟成鰻」からは,熟成させた鰻という意味
合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,その
指定役務の質を示すものと認識するにとどまるものと解される。
これに対し、原告は、「熟成うなぎ」の「熟成」は、鰻が十分に熟してで\nきあがった状態、すなわち大きく成長した状態であること、あるいは、タレ
が熟成したこととの意味も含みうる多義的な表現である旨主張する。\nしかし、原告の主張を前提としても、「熟成鰻」が識別力を有さない記述
的表示と解さざるを得ないことに変わりはないし、これを措くとしても、「大\nきく成長した状態」を示すのであれば、「成熟」を用いることがむしろ自然
であり、また、「熟成うなぎ」の語から、そこに何ら表示されないタレの熟\n成を想起するとはいえない。原告の提出する甲15〜17その他の証拠は以
上の認定判断を覆すものではない。原告の上記主張は採用できない。
(5) 次に、「普通に用いられる方法で表示」の要件についてみるに、各種ウェ\nブサイトによれば、飲食店一般において、提供される料理の質(内容)を筆
文字風の書体をもって四角囲みで表示することが普通に行われている(乙4\n3〜50)上、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限ってみても、
筆文字風の書体を四角囲みで表示することが普通に行われているものと認\nめられる(乙51〜60)。
原告は、本願商標は書家の手になるもので唯一無二のものであり、「熟成
鰻」の文字を囲む長方形も角が丸くかすれた部分があるなど独自の部分があ
るなどと主張するが、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものでは\nない。
◆判決本文
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2023.09.17
令和5(行ケ)10030 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月7日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、商標「くるんっと前髪カーラー」(標準文字)は識別力有りとした審決を、取り消しました。
前記ア(イ)及び(ウ)のとおり、「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件査定日当
時、それぞれ前記ア(イ)及び(ウ)の意味を有するものとして、我が国において高い信
頼性を有すると認められる国語辞典に掲載されていたものであるところ、弁論の全
趣旨によると、当該各語がそのような意味を有する語であることは、本件査定日当
時、本件商品に係る取引者又は需要者(以下、本件商品に係る本件査定日当時の取
引者又は需要者を「本件需要者等」という。)にとって極めて明確であったものと
認められる(以下、本件商標に接した本件需要者等の認識を検討するに当たり、
「前髪」及び「カーラー」の各語については、「額に垂れ下がる髪」、「頭髪を巻
き付けてカールさせるための円筒形の用具」などと敷えんすることはせず、これら
の語をそのまま用いることとする。)。
他方、辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例(前記ア(ア))、本件査
定日前のウェブサイト及び新聞記事における「くるんと」等の語の使用例(前記イ
及びウ)並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪に
ついて用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として
用いられている。また、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例(前記
イ)に照らすと、「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互
いに意味を異にするものとは認められない。そうすると、「前髪」の語の直前に置
かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾すること\nになる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、
通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識さ
れるものと認めるのが相当である。
なお、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例の中には、「くるんと」
等の語が、毛髪が丸く曲がった様子を示すというよりも、商品であるカーラーを回
転させる動作の様子を示す副詞として用いられていると認められるもの(1)「くる
んと巻きます」(前記イ(セ))、2)「はさんでクルンとする」(前記イ(ソ))、3)
「はさんでくるっの超簡単ステップ」(前記イ(チ))、4)「挟んでくるっとするだ
け」(前記イ(ツ)))がある。しかし、仮に、本件商標の構成中の「くるんっと」\nの語がカーラーを回転させる動作の様子を示す語として用いられていたとしても、
当該語は、カーラーを使用する者の当たり前の動作を表現するものにすぎないから、\n商標法3条1項3号該当性との関係では、商品の用途や使用の方法を普通に用いら
れる方法で表示したことになるだけであり、かつ、当該動作によりカーラーを使用\nした結果は、前髪が丸く曲がった状態のはずであるから、本件商標に接した本件需
要者等の認識が前記したもの(「くるんっと」という語は、前髪が丸く曲がった様
子を示すものであるとの認識)と異なるものになるとは思われない。
以上によると、本件査定日当時、被告商品(甲14、15の1及び2、甲42、
44)及び商品名を「前髪くるんとカーラー」とする原告の商品(乙2)を除くほ
か、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について
用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前
髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前
髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。
なお、証拠(甲14、15の1及び2、甲42、44)及び弁論の全趣旨によると、
被告は、本件査定日当時、被告商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「く\nるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪
をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていたとの事実が認め
られるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等にお
いて、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識
したとの上記認定に符合するものである。
オ 被告の主張について
被告は、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は副詞であるのに、本件商標の\n構成中にはこれを明確に受ける動詞が存在せず、本件商標が意味するところは一義\n的に特定することができるものではないと主張する。
確かに、「くるんっと」という擬態語は、文法上、用言(動詞、形容詞等)を修
飾する副詞であると考えられるにもかかわらず、本件商標の構成中の「前髪」及び\n「カーラー」の各語は、いずれも名詞であるから、「くるんっと」の語が修飾すべ
き語が本件商標の構成中には見られないことになる。しかしながら、本件需要者等\nにおいて、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語の相互の修飾関係が
文法的に正確なものでなければ、これらの語を順番に並べた語句の意味を一義的に
把握することができないということはできない。実際、ウェブサイトにおける「く
るんと」等の語の使用例の中にも、「前髪くるんっの仕方」との語句を用いた例
(前記イ(ケ))、「くるん前髪」との語句を用いた例(前記イ(シ))、「くるんがキ
マる」との語句を用いた例(前記イ(チ))、「くるん前髪」との語句を用いた例
(前記イ(ツ))等がみられるところ、これらは、いずれも文法的に正しい表現では\nないが、そのことをもって、その意味するところが不明確になるということはでき
ない。
被告は、「くるんっと前髪カーラー」の語句からは、1)「「くるんっと丸まった
弾力のある表面」を有する前髪用のカーラー」、2)「「くるんっと振り向いても」
キープされるカールを作る前髪用のカーラー」、3)「「くるんっと寝返りを打って
も」前髪のカールを作ることができるカーラー」、4)「前髪を挟んで「くるんっと
回す」カーラー」などの様々な意味合いが想起されるとも主張する。
しかしながら、このうち、前記1)から3)までのような意味合いは、理論的にはあ
り得るとしても、前記ウェブサイトの使用例その他本件に提出された全証拠によっ
ても、「前髪」や「カーラー」と一緒に使用される場合の「くるんっと」という語
は、もっぱら「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すために用いられていることが
認められ、被告が主張するような意味合いで用いられている例は見当たらない。ま
た、前記4)の意味合いについては、そのような意味合いが生じる使用例(前記イ
(セ)、(ソ)、(チ)及び(ツ))は存在するものの、前記エにおいて説示したところに照ら
すと、商標法3条1項3号該当性に関する判断を左右するに足りるものではない。
以上のとおりであるから、被告の前記各主張を採用することはできない。
(3) 本件商標の商標法3条1項3号該当性について
前記(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、
当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになる
ところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」
であるから(前記(2)ア(ウ))、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商
品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。また、\n本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の語句のみからなり、当該語句を標準文
字で表すものであって、本件商品の効能\等を普通に用いられる方法で表示するもの\nである(「くるんと」の語に促音を付加した「くるんっと」の語を用いた表現が特\n殊なものであるということはできない。)。したがって、本件商標は、本件商品の
品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であるとい
うことができるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。
被告は、本件商標は本件商品の品質等を直接的かつ具体的に表示するものとはい\nえないから、同号に掲げる商標に該当しないと主張する。しかしながら、前記(2)
において説示したところに照らすと、本件商標は、本件商品の品質、効能等を間接\n的に暗示するにとどまるものではなく、これを直接的かつ具体的に表示するもので\nあると認められるから、同主張は採用することができない。
また、被告は、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき特定の者による独占使
用を認めても何ら弊害はないと主張する。しかしながら、「くるんっと前髪カーラ
ー」が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものとして、本件商品
の品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章である以上、他の事業者に
おいて、本件商品に該当する商品の製造、販売等をするに当たり、「くるんっと前
髪カーラー」と同一又は類似の標章を用いようとすることは当然に想定されるとこ
ろであるから、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき独占使用を認めても何ら
弊害はないとの被告の主張を採用することはできない。
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2023.08.23
令和5(行ケ)10003 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
位置商標について、識別力無しとした審決が維持されました。本件商標は、靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、配置されたステッチ状の黄色の破線です。3条2項の主張も認められませんでした。原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)です。
前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以
降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約
35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。
また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が
高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブ
ーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認めら
れる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品に
ついては、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない
状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に
存在するとはいえない。
本願商標の指定商品である革靴、ブーツは、広く一般の需要者を対象とする商品
であるにもかかわらず、本件アンケート調査は、本調査としてその対象者を「店舗、
通販サイト、雑誌等で革靴やブーツを見ることがある方」であり、かつ、「1年以内
に革靴やブーツを購入した方」と限定し、これによって革靴やブーツに関心のない
層が除外されることになるが、そのような層も必要に応じて生活必需品等として革
靴やブーツを買うことが予想されることに照らすと、本件アンケート調査における\n本調査の対象者の限定については相当性の有無との問題があるものの、本件アンケ
ート調査の結果によると、本願商標の特徴を有する黒い革靴の黄色ステッチ部分の
写真を見た需要者(店舗等で靴やブーツを見ることがある者及び1年以内に革靴や
ブーツを購入した者)のうち、30.7%が原告ブランド名を想起することができ、
選択肢を示された場合には37.6%が原告ブランドを選択することができており、
これらの割合は、原告ブランド以外のブランド名を回答した者と比べても有意に多
く、最も多く回答された他のブランド名であるティンバーランド(Timberland)を回
答した者の割合(7.9%)の4倍以上である。この点につき、ブランドの数が多
く、かつ、購入する頻度の低いファッション製品の場合は、一般消費者が、商品の
形状に触れ、その形状からブランド名を想起する機会が多いとはいえないことから
すると、15%を超える認知度があれば、十分識別力があるといえるのと見解もあ\nること(甲59)を踏まえると、本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただ
し、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相
当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブラン
ド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高い
ものと認めることができる。
しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに\n用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くと
はいえない。また、前記(2)アのとおり、原告商品の多くは、アウトソール及びウェ\nルトが黒又は茶系統の色であって、黄色のステッチの視認性が高くなる態様で本願
商標が用いられており、黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、
本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認され
るところ、雑誌やブログ等の記事においても「黄色のステッチは、暗い色の革と魅
力的なコントラストを生む」(前記(2)オ(イ))、「ツヤのあるブラックレザーにマーチ
ンの象徴、イエローステッチが引き立ちます。」(同(エ))などと地の色とのコントラ
ストにより黄色のステッチが目を引くものであることを指摘するものがあることか
らして、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めるこ
とはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェ\nルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部
分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以
外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示\nすものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール\n及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通して
いたことが認められるところ(別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)及び(ツ))これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するな
どもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が\n十分にある。\nそうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知
度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用い
られる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。
なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定め
られるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が
黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及び\nウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を
評価することは相当ではない。
(4) 原告の主張について
原告は、本願商標について、1)視認性が低い態様で用いられた場合には、商標法
上の「使用」に当たらず、2)黄色の破線状の図形が需要者に特に強く識別されない
ような態様で使用する場合には商標法26条1項2号又は6号により商標権が及ば
ないから、他事業者の自由使用が殊更に制限されることはなく、むしろ、3)本願商
標の周知性からすると本願商標と類似する標章を使用した商品を販売等する行為は
不正競争防止法2条1条1号の不正競争に該当するから、本願商標を登録すること
は公正な競争秩序に資すると主張する。
しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本願商標の範囲を、黄色の破線状の図
形が需要者に特に強く識別される態様、すなわち、黒色のアウトソール及びウェル\nトとともに用いられる場合に限定して解釈することはできないのであって、本願商
標が、黄色やベージュ色のアウトソール及びウェルトとともに用いられる場合もそ\nの商標権の範囲に含まれるというほかない。また、商標法は、商標を保護すること
により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発展に寄与し、あ
わせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ(同法1条)、商
標の本質は自他識別機能にあるから、これを欠くような商標については登録が認め\nられず(同法3条1項)、自他識別機能を有していないにもかかわらず過誤等により\n登録された場合や、登録後に自他識別機能を失った場合には、その権利が制限され\nるものである(同法26条 1 項等)。本件では、商標登録出願の登録の可否が問題と
なっているところ、登録商標の範囲は願書の記載により画されるものであるから(同
法27条)、登録後に、本願商標又はそれと類似する商標を使用したとしても、商標
法上の「使用」に当たらないと解したり、同法26条1項各号に該当することなど
を理由として、商標権の権利範囲が制限され得ることをもって、登録時において商
標権の範囲を狭く解釈して登録の可否を検討するなどということは、商標の本質で
ある自他識別機能の有無を問わずに登録を認めることにもなりかねず、相当ではな\nい。
また、本願商標の周知性については前記(3)のとおりであり、アウトソール及びウ\nェルトの色を問わず、本願商標について周知性が高いとまでいうことはできない。
不競法地裁判決は、原告商品の形状のうち、「靴の外周に沿って、アッパーとウェル
トを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出\nし、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルト
とのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告
商品の形態」が、令和2年時点で不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」と\nして周知であると判断したものであって(甲113)、本願商標には含まれない特徴
である「黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭
に視認できるという形態」を含めて商品等表示に当たるものとしている。そうする\nと、仮に上記形態について商品等表示性が認められたとしても、これをもって、本\n願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当する
と認めることはできない。
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2023.06. 6
令和4(行ケ)10065 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年5月22日 知的財産高等裁判所
IOCが保有している商標「五輪」(標準文字)について、3条、4条6、7、10号違反とする無効審判が請求されました。審判請求は棄却されました。知財高裁も、審決の判断をそのまま維持しました。原告は個人です。審決によると、請求人らは、ブログ及びYouTubeチャンネルを通じて、オリンピック関連商標について多くの情報発信と意見交換をする個人とのことです。
取消事由2(商標法3条1項柱書きの要件の判断の誤り)について
原告らは、被告は、本件商標の全指定商品・役務について、「五輪」が創作・
使用されて以来現在に至る80年以上という長期間にわたり、本件商標を全く
使用していないこと、当該期間中、被告は、ほぼ間断なくオリンピック競技大
会を開催していたことを考慮すれば、被告が、本件商標の査定・審決時に事業
(オリンピック競技大会)を現に行っていることだけを根拠に、被告が当該事
業の表示として本件商標を使用する意思を有していたことを推認することがで\nきないから、本件商標が商標法3条1項柱書きの要件を具備するとした本件審
決の判断に誤りがある旨主張する。
そこで検討するに、1)被告(IOC)は、国際的な非政府の非営利団体であ
って、オリンピック競技大会を運営・統括しており、平和でよりよい世界の実
現に貢献するというオリンピックの理念であるオリンピック憲章に従い、オリ
ンピズムを普及させる役割を担っていること(甲5の4、6)、2)オリンピッ
ク競技大会は、被告によって、開催都市と開催地の国内オリンピック委員会の
協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じ
た社会一般の利益に資することを目的としていること(甲5の1、6の1)、
3)2019年2月21日付け日本経済新聞ネット版(甲10の4)には、「国
際オリンピック委員会(IOC)が、オリンピックを意味する日本語の「五輪」
について特許庁に商標登録を出願し、認められたことが21日までに分かった。
2020年東京五輪・パラリンピックを控え、公式スポンサー以外の便乗商法
を防ぐのが狙い」、「IOCは東京大会の組織委員会を通じて「日本で『五輪』
はIOCが開催するオリンピックを意味するものとして周知、著名だ。既に不
正競争防止法の保護対象となっているが商標登録で権利の所在をより明確にし、
ブランド保護を確実にしたい」、「今後、組織委はスポンサー以外の企業や団
体などが商品名やサービスとして五輪を使った場合、権利が侵害されているか
どうかを判断し、使用中止を求めるという。」との記載があることを総合する
と、被告は、「五輪」の俗称でも親しまれているオリンピック競技大会の主催
者であって、本件商標の登録査定時において、オリンピック競技大会を指称す
る「五輪」の語を使用する意思を有していたものと認められるから、「五輪」
の標準文字を書してなる本件商標は、被告との関係において、「自己の業務に
係る役務について使用をする商標」(商標法3条1項柱書き)に該当すること
が認められる。
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2023.03.21
令和4(行ケ)10089 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年1月31日 知的財産高等裁判所
赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンの色商標が、識別力無しとして拒絶されました。3条2項の適用も認められませんでした。裁判所も同じです。
2 単一の色彩のみからなる商標の商標法3条2項の該当性について
本願商標は、別紙1 及び の記載から特定される色彩のみからなるもの
であり、女性用ハイヒールの靴底部分に赤色(PANTONE 18-1663TP)とす
る構成からなるものである。\nこのように本願商標は、単一の色彩のみからなり、その色彩を付する位置
を上記部分に特定した商標である。
商標法3条1項は、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商
標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる旨を
規定し、同項3号において、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、\n用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴、数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章\nのみからなる商標」を掲げる。
同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は、このような商
標は、商品の産地、販売地、品質その他の特性を表示記述する標章であって、\n取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと
もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、
商標としての機能を果たし得ないことによるものと解される(最高裁昭和5\n3年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事1
26号507頁参照)。
そして、商品の色彩は、商品の特性であるといえるから、同号所定の「そ
の商品の・・・その他の特徴」に該当するものと解される。そして、商品の
色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択
されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的なものや商品の機能を\n確保するために必要とされるものもあることからすると、取引に際し必要適
切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、原則として何人も\n自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみから
なる商標については、同号の上記趣旨が強く妥当するものと解される。
他方で、商標法3条2項は、同条1項3号に該当する商標であっても、「使
用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができるもの」については、同項の規定にかかわらず、商標登録を
受けることができる旨規定する。
商標法3条2項の趣旨は、同条1項3号に該当する商標であっても、特定
の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標が
その商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\を持つに至り、公益上の
見地から不適当とされていた特定人による当該商標の独占的使用を例外的に
認めるということにある。
こうした商標法3条2項の趣旨に照らせば、自由選択の必要性等に基づく
公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が同条
同項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である
ことを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使
用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の
例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること
(独占適応性)を要するものと解するべきである。
なお、色彩のみからなる商標等を商標登録の保護の対象とした平成26年
法律第36号改正附則5条3項には、不正競争の目的なく登録商標又はこれ
に類似する商標を使用していた者に継続的使用権を認める旨の規定があるが、
これはあくまで「法律の施行の際に現にその商標の使用をしてその商品・・・
に係る業務を行っている範囲内において」その商品等に関する商標を使用す
る権利を認めるにすぎず、こうした改正附則の規定があるからといって、色
彩のみからなる商標登録において特定人による色彩の独占適応性を考慮する
ことを否定する理由にならないというべきである。
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不競法についての関連事件です。
◆令和4(ネ)10051
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2023.01.28
令和4(行ケ)10062 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年1月24日 知的財産高等裁判所
三菱鉛筆が「ユニ色」について色彩のみからなる商標を出願しましたが、知財高裁(2部)は識別力無しとした審決を維持しました。
前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において
取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商
品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当
程度の認知度を有しているものと認められる。
しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩
及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を
含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広
く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標の
みから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本
願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニ
シリーズであることを端的に示す「MITSU−BISHI」、「uni」、「H
i−uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が
原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。
加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛
筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需
用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は
比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブ
ランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、
uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、
本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんで
いる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。
以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからな
る本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至って
いると認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る
商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使\n用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独
占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて
判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた
結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該
当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 原告は、本願商標は原告が採択した独自の色彩であって、原告以外の善意
の取引者が偶然に使用することはあり得ないものであるから、自他商品識別標識と
して機能すると主張する。\nしかしながら、原告が単一の色彩のみからなる商標(色彩)を採択した経緯や、
当該商標と同一の商標を一定の指定商品及び指定役務について使用する者がないこ
とは、当該商標が自他商品識別標識又は自他役務識別標識として機能するか否かと\nは直接の関係がないことであるから、原告の上記主張を採用することはできない
(原告は、本願商標が自他商品識別力を欠くというためには、本件指定商品につい
て、本願商標と同一の商標が既に第三者によって当該商品の色彩として使用されて
いることが必要であるとも主張するが、独自の見解であり、採用できない。)。
(2) 原告は、1)これまで数多くの新聞、雑誌等において、本願商標に係る記事
が掲載されてきたこと、2)これまで長年にわたり、新聞、テレビ等において、本願
商標が使用された原告商品の広告が行われてきたこと、3)原告は、鉛筆の市場にお
いて極めて高い市場占有率を誇り、また、本願商標を使用した多数の原告商品が全
国の多数の店舗において販売されていること、4)別件商標1及び2について商標登
録がされていることからすると、本願商標は、著名な商標として、自他商品識別標
識として機能してきたと主張する。\nしかしながら、上記1)ないし3)の点については、前記2(2)のとおり、原告商品
が需要者の間において相当の認知度を有していることの根拠となるものではあるも
のの、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在や、本件指定商品で
ある鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の
近似色が広く使用されている実情を考慮すると、上記1)ないし3)の事実が存在する
としても、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業
務に係るものであると認識するということはできない。また、上記4)の点について
は、別件商標1及び2は、いずれも本願商標に係る色彩とそれ以外の色彩との組合
せからなるものであり、その色彩及び配色を特定してなるものであって(甲137、
138)、輪郭のない単一の色彩のみからなる本願商標とは相当に異なるものであ
るから、別件商標1及び2について商標登録がされていることは、本願商標がそれ
のみで自他商品識別力を有することの根拠になるものではない。
以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願商標は「ユニ色」として、商品が原告の業務に係るものであ
ることを直接表示するものとなっており、特別顕著なものであるから、自他商品識\n別標識として機能するものであると主張する。\n確かに、前記1(1)イのとおり、「DICカラーガイドPARTII)(第4版)第
5巻」に収録された「DIC−2251」(本願商標)については、色名が「un
i色」とされており、また、「文具のこが屋」のウェブサイトにおいても、「ユニ
ペンシルホルダー」なる商品の説明として、「本体軸部分には実際の木材を使用し、
ユニのイメージカラーである、…アレンジしたオリジナルカラー(通称「ユニ色」)
と「黒」、「金」をあしらいました。」との記載があるが(甲29)、本願商標に
係る色彩を「ユニ色」と呼称する場合があるとしても、前記2(2)において説示し
たところに照らすと、需用者において、この「ユニ色」のみで、本件指定商品であ
る鉛筆が原告の業務に係るものであると認識するとはいえないといわざるを得ない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は、本願商標が使用された商品(鉛筆)に接した需用者は商品のうち
の狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商
品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識するのであるから、このよ
うな本願商標の重要性に照らすと、本願商標は自他商品識別力を有すると主張する。
しかしながら、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字(なお、当該文
字は、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示すものであ
る。)の存在や、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及び
バーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情を考慮すると、
原告商品に触れた需用者が本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るもの
であると認識することができないことは、これまで説示してきたところであって、
このことは、原告商品(鉛筆)の表面において本願商標に係る色彩が付された面積\nが他の色彩が付された面積に比して大きいことにより左右されるものではない(な
お、証拠(甲47、48、148〜150)によると、原告商品に付された文字が
需用者の目を引くものでないということはできない。)。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 原告は、原告商品の模倣品が存在することは本願商標が自他商品識別標識
として機能してきたことを意味すると主張する。\nしかしながら、原告が主張する模倣品(甲109、110)も、鉛筆の表面に本\n願商標に係る色彩又はその近似色のみを付したものではなく、帯状の黒色を配した
り、金色様の文字を付したりしたものであるから、これらの模倣品の存在をもって、
本願商標に係る色彩のみで自他商品識別力を有するということはできない。したが
って、原告の上記主張は、採用できない。
(6) 原告は、特許庁が別件商標1の見本として、別件商標1の見本に該当しな
い鉛筆(ユニスター)を展示したことをもって、特許庁も専ら本願商標によって鉛
筆が原告の業務に係る商品であると認識している旨の主張をするが、仮に特許庁が
原告の主張するような取り違えをしたからといって、本願商標に係る色彩のみで自
他商品識別力を有するということはできない。したがって、原告の主張を採用する
ことはできない。
◆判決本文
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2023.01.12
令和4(行ケ)10068 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年12月14日 知的財産高等裁判所
商標「次世代3Dプリンタ展」(指定商品・役務は、35類、41類)が識別力あるかが争われました。知財高裁は、識別力無しとした審決を維持しました。
ア 前記1(1)からすると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」は、「次の段階」等を意味する「次世代」の語、「三次元印刷機」等を意味する「3Dプリンタ」の語及び「展覧会」ないし「展示会」の略語である「展」の語から構成されるといえる。そして、「ピカソ\展」の用例からもうかがえるように、「展」の語が、当該展示会等で取り扱われる内容やそれに係る共通の特徴を示す語を冠して「○○展」という形で使用されることがあることは、公知の事実である。
イ 前記1(1)イによると、「次世代」の語は、「次の段階」等をいう場合に特に
「技術」等に関して用いられることが多いとの事情もうかがわれるところ、同(2)ア
のように、「次世代」の語が、「3Dプリンタ」に対し、「次の段階」といった意
味を示す趣旨で付されて用いられている例があることも考慮すると、本願商標であ
る「次世代3Dプリンタ展」に接した者は、本願商標が「次世代3Dプリンタ」の
語と「展」の語とから成るものと理解するというのが自然である。
ウ 前記ア及びイの点に加え、前記1(2)イ(ア)のように、「〇〇展」の語が、「〇
〇」の部分に当該展示会の主たる展示内容(製品、技術等)やそれに係る共通の特
徴を示す語を置く形で用いられている例があり、同(イ)のように、そのような「〇〇
展」の語の使用例の中に「3Dプリンタ」と「展」から成る例があることも考慮す
ると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」の語については、「次の段階の3
Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする展示会」という意味合いを容易
に認識させるものであるということができる。
そうすると、本件審決時である令和4年5月19日の時点において、本願商標で
ある「次世代3Dプリンタ展」は、展示会等に係る本件役務について使用されると
きは、これに接する需要者等において、「次の段階の3Dプリンタを内容又はそれ
に係る共通の特徴とする展示会」を表したものと認識されるというべきであるから、\n役務の内容を認識させるものとして、役務の質を表示する標章に当たるということ\nができる。
エ そして、本願商標は、「次世代3Dプリンタ展」のみからなり、「次世代3
Dプリンタ展」の語を標準文字で記すという、普通に用いられる方法で表示する商\n標であるから、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
なお、以上に関し、仮に、本願商標に接した需要者等において、本願商標が「次
世代」の語と「3Dプリンタ展」の語とから成るものと理解することがあったとし
ても、その場合、「次世代3Dプリンタ展」は、本件役務について使用されるとき
は、「3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする次の段階の展示会」を
表したものと認識され、役務の質を表\示するとともに、役務の提供の態様、提供の
方法又は時期その他の特徴を表示する標章に当たるというべきであるから、本願商\n標が商標法3条1項3号に該当するとの前記判断は左右されない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、本件役務の分野において、「○○展」の語が、一般に、「特定人が
開催等する展示会等の固有の名称」として採択され、使用されていることが明らか
であると主張する。
しかし、原告の主張する使用例(別紙2)全てを前提としても、前記(1)の判断は
左右されない。前記1(1)及び(2)イ(ア)の認定事実等を踏まえると、原告が主張する
使用例についても、「○○」展という展示会等の名称のうち「○○」の部分が展示
会等の内容又はそれに係る共通の特徴を示すものである場合には、当該名称に接し
た者においては、当該展示会等の固有の名称という意味合いと同時に、当該展示会
の内容等を「○○」が示すものと認識するというべきであり、「○○展」が特定人
が開催等する展示会等の固有の名称を示すものであるということから、直ちに、当
該「○○展」が当該展示会等の内容等を示すものであるということが否定されるも
のではない。
この点、原告は、JETROのウェブサイト(甲48、59)において「○○展」
の表示が固有の展示会名称として掲載されている旨を主張するが、展示会等の内容\n等を示す語であっても個々の展示会等の名称とされている以上は上記ウェブサイト
に当該名称をもって掲載されることは当然であるといえ、上記ウェブサイトに「○
○」の部分が直ちに展示会等の内容等を十分に示す語ではない「○○展」の使用例\nとみ得るものが掲載されているとしても、そこに掲載されている他の「○○展」に
ついて「○○」の部分が展示会等の内容等を示すものであることを否定すべきもの
とはならない。したがって、原告の前記主張は、前記(1)の判断に影響しない。
イ 原告は、需要者等の認識に係る使用例(別紙3)について主張するが、前記
アで述べたところに照らし、需要者等が「○○展」の文字を特定人の展示会等を指
称する語として用いている例があるとしても、そのことは、前記(1)の判断に影響し
ない。
ウ 原告は、独占適応性に関し、展示会の業界において、本件役務の取引の実情
の下で、個別具体的な「○○展」の文字は、同種の展示会を開催等する取引者にと
って、事前の調査検討の対象として容易に使用を回避できるものであり、また実際
に他者との重複使用が回避されており、取引に際し必要適切な表示として必ずその\n使用を欲するものとはいえないと主張する。
しかし、そもそも、商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと
規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の
場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表\示記述する標章であ
って、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないという理由も有するもの
であって(前掲最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)、単に、同種の展
示会を開催等する取引者の事前の調査検討によって他者との重複使用が回避されれ
ば足りるというものではない。加えて、展示会等の内容等を示す語を冠して「○○
展」の名称が用いられる場合、当該名称を使用する者において、複数の一般的な語
から成る名称であるため特に問題を生じないであろうと考えることは相応に合理的
であるといえ、そのような場合に、その者に、当該名称の使用例が他に存在するか
どうかについて、登録商標の有無を調査する場合と同程度の法的な調査義務を課す
ことは合理性を欠くというべきである。本件全証拠によっても、展示会に係る業界
において、一般に、「○○展」の文字の使用に当たり標章の使用と同程度の注意が
払われていると認めるには足りず、展示会等を開催等する者が同種の展示会の名称
を調査するなどしているという実態が仮にあるとしても、それは、基本的に、集客
力や独自性の発揮といった観点や、商標法3条2項により保護され得る標章の使用
を避けるといった観点から、事実上行われているとみるのが相当である。
したがって、原告の前記主張も、前記(1)の判断を左右するものではない。
エ 原告は、他に「○○展」という商標の登録例があることからして、「○○展」
との構成の商標が一律に識別性を欠くものとは解されないと主張するが、同主張は、\n前記1(1)の「次世代」や「3Dプリンタ」の語の意義や、同(2)の使用例を踏まえ
た本願商標についての前記(1)の判断に影響するものではない。
オ その余の原告の主張は、いずれも、既に認定判断したところに反するか、前
提とする事情を欠くか、あるいはそもそも前記(1)の判断に影響しないものであっ
て、いずれも同判断を左右するものではない。
◆判決本文
商標違いの関連事件です。いずれも識別力無しです。
商標「関西 次世代3Dプリンタ展」
◆令和4(行ケ)10069
商標「名古屋 次世代3Dプリンタ展」
◆令和4(行ケ)10070
商標「計測・検査・センサ展」(
◆令和4(行ケ)10071
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2022.07. 4
令和3(行ケ)10100 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年5月19日 知的財産高等裁判所
知財高裁(1部)は、41類「知識の教授」などについて、商標「Scrum Master」は識別力無しと判断しました。異議・無効審判では識別力ありと判断されていました。
前記(1)の認定事実によれば、1)「Scrum(スクラム)」の語は、本件商
標の登録査定前に発行、作成されたコンピュータ、IT関連の事典、用語集
等において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つと説明されていること(前記(1)ア)、2)「Scrum Master(スクラムマスター)」の語
は、本件商標の登録査定前に作成されたウェブサイト上の辞典等において、
アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の名称として説明されていること(同イ)、3)「Scrum」の提唱者が執
筆した「スクラムガイド」において「スクラムマスター」の定義が説明され
ていること(同ウ)、4)本件商標の登録査定前に発行されたコンピュータやI
T関連の複数の書籍、雑誌、ウェブサイトやブログにおいて、「アジャイルソフトウェア開発」や「Scrum(スクラム)」をテーマとした記事等に「S\ncrum Master(スクラムマスター)」についての記載があること
(同エないしカ)、5)平成21年から平成30年4月までの間に複数の団体
が、スクラムマスターの研修を複数回実施していること(同キ)、6)本件商標
の登録査定前に発行・作成された雑誌やウェブサイト等に「Scrum M
aster(スクラムマスター)」の認定制度、研修やセミナー等に関する記
載があること(同ク)が認められる。
以上の1)ないし6)を総合すれば、本件商標の登録査定時において、「Scr
um」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表\すものとして認識され、また、「Scrum M
aster」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められる。
2 本件商標の商標法3条1項3号該当性について
(1) 商標法3条1項3号が、「その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、
効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」について商標登録の要件を欠くと規定しているのは、このような商標は、指定役務との関
係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表\示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人\nもその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるの
は公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場
合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。
そうすると、商標が、指定役務について役務の質を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標であるというためには、商標が指定役務との関係で役務の質を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であ\nり、当該商標が当該指定役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、
将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、必ずしも当該商標が現実に当該指定役務に使用されて\nいることを要しないと解される。以上を前提に、本件商標の本件指定役務との関係における同号該当性について判断する。
(2) 本件商標は、「Scrum Master」の文字を標準文字で表してなり、「Scrum」の語及び「Master」の語から構\成される結合商標である。本件商標から「スクラムマスター」の称呼が生じる。
前記1(2)認定のとおり、本件商標の登録査定時において、「Scrum」の
語は、コンピュータ、IT関連の分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つを表\すものとして認識され、また、「Scrum Maste
r」の語は、同分野において、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められる。
また、「マスター」(master)の語は、一般に、「あるじ。長。支配者」、
「修得すること。熟達すること」等(広辞苑第7版。甲391の2の2)の
意味を有することからすると、「Scrum Master」の語からは、ア
ジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得した者、「Scrum」に熟達した者などの観念をも生ずるものと認められる。\nそうすると、本件商標が本件指定役務に含まれる「教育訓練、研修会及び
セミナー等」に使用された場合には、取引者、需要者は、当該教育訓練等が
アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得することや、「Scrum」における特定の役割に関する教育訓練等であることを\n示したものと理解するものといえるから、本件商標は、かかる役務の質(内
容)を表示したものとして一般に認識されるものと認めるのが相当である。そして、本件商標は、標準文字で構\成されており、「Scrum Mast
er」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるといえるから、本件商標は、本件指定役務の質(内容)を普通に用いられ\nる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に該当するものと認められる。\n
(3) この点に関し本件審決は、「Scrum Master(スクラムマスタ
ー)」に特化した研修やセミナー等に関する証拠は限定的である上、その具体
的な内容についての説明や当該研修やセミナー等の開催規模や開催頻度等の
具体的な証拠はなく、また、「Scrum Master(スクラムマスター)」
の認定制度の有資格者数もさほど多いとはいえないから、本件商標は、その
指定商品及び指定役務中、第41類の教育訓練、研修会及びセミナー等に関
する役務との関係においては、「Scrum Master(スクラムマスタ
ー)」を内容とする役務であることを理解させるものとはいい難いと述べた
上で、本件商標である「Scrum Master」の文字が、商品の品質
及び役務の質等を直接的に表すものとして一般に使用されているとまではいえず、また、本件商標に接する取引者、需要者が、本件商標を商品の品質及\nび役務の質等として認識するとみるべき特段の事情も見いだせないとして、
本件商標は、本件指定役務を含む本件商品・役務以外の指定商品及び指定役
務について商標法3条1項3号に該当しない旨判断した。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、本件商標が、本件指定役務につ
いて役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件商標が本件指定役務との関係で役務の質を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本件商標が本件指定役務に使用された場合に、本件商標の取引者、需要者によって、将来を含め、役\n務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、必ずしも本件商標が現実に本件指定役務に使用されていることを要し\nないと解されるから、本件審決の上記判断は、その前提において誤りがある。
3 被告の主張について
被告は、1)商標法3条1項3号の趣旨によれば、同号により不登録とされる
商標は、「将来必ず一般的に使用されるもの」に限定されるところ、本件商標が
「将来必ず一般的に使用されるもの」であることについての立証はなく、また、
本件商標は、その登録査定時において、使用実績は僅かであり、周知性は全く
なく、一般に認識されておらず、むしろ無名である、2)スクラムマスターのセミ
ナー・研修の受講・参加、資格・認定取得が、本件商標の登録査定前に多数なさ
れていた事実は認められず、「スクラムマスター」は、資格として世間一般に認
知されておらず、セミナーの開催数や資格者数もごく僅かである、3)本件商標
は、「Scrum」の語と「Master」の語を単に結合しただけの造語であ
り、本件商標から、特段の観念は想起されない、4)証拠上「スクラムマスター」
の語の使用が確認される最も早い時期である平成16年10月から被告が本件
商標の登録出願をした平成29年6月までの12年8か月の間、原告らが本件
商標の登録出願をしなかったという事実は、誰もその使用を欲することがなか
ったことの証左であり、本件商標は「何人もその使用を欲する」ような商標に
該当しないとして、本件商標は、本件指定役務について同号に該当しない旨主
張する。
しかしながら、1)ないし3)については、前記2(1)及び(2)で説示したとおり、
本件商標が、本件指定役務について同号に該当するというためには、本件商標
が本件指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本件商標が本件指定役務に使用された場合に、本件商標の取引者、需要者によって、将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものであって、被告がいうように「将来必ず一\n般的に使用されるもの」に限定されるものではなく、また、必ずしも本件商標
が現実に本件指定役務に使用されていることを要しないと解されるから、その
使用実績の程度や周知性の有無が問題となるものではない。
さらに、前記1(2)で説示したとおり、本件商標の登録査定時において、「Sc
rum Master」の語は、コンピュータ、IT関連の分野において、ア
ジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」における役割の一つを表\すものとして認識されていたものと認められ、また、「Scrum M
aster」の語からは、アジャイルソフトウェア開発の手法の一つである「Scrum」を修得した者、「Scrum」に熟達した者などの観念をも生ずるも\nのと認められるから(前記2(2))、本件指定役務の需要者において、本件商標が
一般に認識されず、無名であったとはいえないし、本件商標から、特段の観念
が想起されないとはいえない。4)については、ある用語の使用を必要とすることと、その用語について商標登録出願をすることとは別の問題であり、原告らが本件商標の登録出願をしなかったことをもって、本件商標が「何人も使用を欲する」ような商標に該当し
ないものとはいえない。
◆判決本文
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2022.06.30
令和4(行ケ)10002 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年6月16日 知的財産高等裁判所
商標「温石灸」の識別力について、知財高裁は識別力なしとした審決を維持しました。
原告は、原告が「温石灸」の語を使用して行っている施術は、平成26
年に施術を開始した、温石及びもぐさの両方を用いるオリジナルの施術で
あり、「温石灸」の語は、「温石をもぐさの上に置いて行う施術」との意味
合いを有する造語であるから、本願商標の指定役務との関係で出所識別機
能を有する旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1))。
そこで検討するに、証拠(甲9、10、33)及び弁論の全趣旨によれ
ば、原告は、平成26年10月頃から、温めた石をもぐさの上に置いて患
部を温める施術を「温石灸」との名称で行っていること、原告がこのよう
な内容の施術を「温石灸」との名称で行うことを許諾したのは、「MoMo
Soはり灸院」のみであることが認められる。
しかしながら、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かは、本
件審決がされた時点における取引の実情を考慮して判断すべきものであ
るところ、上記(4)で検討したとおり、本件審決がされた当時の本件業界に
おいて、温石を用いた施術が、火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用
いることにより、灸に類似する効果を得ることができる施術として、「温石
灸」との名称でも広く行われている実情があったといえることからすれば、
原告がそれ以前から温石及びもぐさの両方を用いる施術を「温石灸」と称
して行っているなどの事情があるからといって、前記の結論が左右される
ものではないというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、本件業界において「温石」又は「温石灸」の語が使用されてい
る例について、「温石」が「温めた石」ほどの意味合いを有するとしても、
施術において「温石」をどのように用いるかや、「温石」と肌にのせたもぐ
さに火を点じて焼く施術である「灸」との関係性が明らかではないから、
使用されている「温石灸」の語から直接的かつ具体的な施術の方法及び内
容(効能)等が想起されるものではない旨主張する(前記第3の1〔原告\nの主張〕(2))。しかしながら、原告が指摘するとおり、商標法3条1項3号に該当する
というためには、当該商標から具体的な役務の質(内容)が認識されるこ
とが必要であると解されるものの、上記(4)で検討したとおり、本件審決が
された当時の取引の実情を考慮すると、「温石灸」の語は、「火をつけたも
ぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施術」を表すものと容\n易に理解されるものであったというべきである。そうすると、「温石灸」の
語からは、施術に用いる道具、施術の方法及び施術によって得られる効果
がいずれも容易に理解されるものといえるから、本願商標の取引者、需要
者は、「温石灸」の語から役務の質(内容)を具体的に認識することができ
るものといえる。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件業界において行われている「温石灸」の施術について、1)
「灸」の語の一般的な意味とは異なる内容の施術であり、かつ、様々な施
術の方法及び内容(効能)等を含むものであること、2)「温石」や「温石
療法」等とも表示することができるから、「温石灸」の語は役務の質を表\示
記述するものとして取引に際し必要適切な表示であるとはいえないこと、\n3)全国に存在する「はり及びきゅうを行う施術所」の数からすれば、「温石
灸」の語を使用する事業者はごくわずかであることを理由に、本件業界に
おいて「温石灸」が施術されている例があることをもって、「温石灸」の語
が示す役務の内容が一般に理解されるものとはいえない旨主張する(前記
第3の1〔原告の主張〕(3))。
しかしながら、上記1)については、上記(4)で検討したとおり、本件業界
において一般に行われている「温石灸」の施術は、火をつけたもぐさを使
用しない点において、本来的な意味における灸とは異なるものではあるも
のの、火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用いることにより、灸に類
似する効果を得ることができる施術として行われていることなどからす
れば、「温石灸」の語は、このような内容の施術を表すものとして容易に理\n解されるものといえる。
また、上記2)については、上記(4)で検討したとおり、本件審決がされた
当時の本件業界において、温石を用いた施術は、「温石療法」や「温石」等
と呼ばれ、灸とは区別されて取り扱われている実情があったといえるもの
の、他方で、必ずしも灸と厳格に区別されていたものではなく、灸に類似
する効果を得ることができる施術として、「温石灸」との名称でも広く行わ
れている実情があったといえることからすれば、温石を用いた施術が「温
石療法」や「温石」等とも表示されているからといって、「温石灸」の語が、\n役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表\示であるこ
とが否定されるものではないというべきである。
さらに、上記3)については、上記(4)で検討したところに照らせば、全国
に存在する「はり及びきゅうを行う施術所」の数のみを根拠として、前記
のとおりの取引の実情があったことを否定することはできないというべ
きである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は、材料等の名称を冠した従来の「味噌灸」等と原告が行っている
「温石灸」とでは施術内容が全く異なるものであり、「温石灸」の語を従来
の「味噌灸」等の語と同様の意味で捉えると、施術の方法及び内容(効能)\n等が理解し難いものとなるから、「味噌灸」等と称する灸が存在するからと
いって、「温石灸」の語が、特定の役務の質・内容を直接的かつ具体的に示
すものであるとはいえない旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(4))。
しかしながら、本件において検討すべきであるのは、本件審決がされた
当時の本件業界において使用されていた「温石灸」の語から認識される内
容であるから、原告が行っている「温石灸」の具体的な施術内容が考慮さ
れるものではないというべきである。そして、上記(4)で検討したとおり、
本件審決がされた当時の本件業界において、温石を用いた施術は、施術の
道具として温めた石を用いる灸と同種の施術であることから、「味噌灸」等
と同様に、「温石灸」とも称されるようになったものであり、「温石灸」の
語は、「火をつけたもぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施
術」を表す語として容易に理解されるものであったというべきである。\nしたがって、原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、本件テレビ番組において「温石灸」と称された施術は、従来か
ら広く使用されてきた「温石」又は「温石療法」と同義のものとして紹介
されたものにすぎないから、そのような内容の放送がされ、本件業界の関
係者がこれに否定的な意見を述べなかったとの事実をもって、「温石灸」の
語が、灸(施術)の一種を表したものとして、特定の役務の質・内容を示\nすものとして理解されたものとみるのは相当でない旨主張する(前記第3
の1〔原告の主張〕(5))。
しかしながら、上記(4)で検討したところに照らせば、原告が指摘すると
ころによって、前記の結論が左右されるものではないというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2022.02. 8
令和3(行ケ)10113 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年1月25日 知的財産高等裁判所
商標「睡眠コンサルタント」が識別力無し(3条1項3号)とした拒絶審決が維持されました。
(3) 上記認定事実によれば,「睡眠コンサルタント」が,「睡眠の事柄につい
て相談・助言・指導を行う専門家」の意味合いを容易に認識させることは,
その構成から明らかである。そして,上記認定事実によれば,「睡眠コンサ\nルタント」と称する資格又は「睡眠コンサルタント」の文字を含む名称を冠
する資格を与える団体が存在し,当該団体が睡眠に関する専門的な知識の教
授等を行っている例が複数あること(上記ア〜エ),これらの団体により認
定資格を得た者が「睡眠コンサルタント」と名乗り,睡眠に関する知識の教
授,及び睡眠に関するセミナーの企画・運営又は開催を行っている例が複数
あること(上記オ〜ク),それ以外にも,睡眠に関する専門的な知識を有す
る「睡眠コンサルタント」と称する者が,睡眠に関する知識の教授,及び睡
眠に関するセミナーの企画・運営又は開催等を行っている例が複数あること
(上記ケ〜タ)が認められる。また,知識の教授及びセミナーの企画・運営
又は開催を行う業界において,講義及びセミナー等の内容に関する書籍(テ
キスト,問題集等)及びビデオ等が制作されている実情があることは,顕著
な事実である。
以上からすると,本願商標は,本願指定役務である「技芸・スポーツ又は
知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制
作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用
のものを除く。)」との関係で,本件審決がされた令和3年7月26日の時
点において,「睡眠に関する専門的な知識を有する者による,睡眠に関する
役務である」という役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり,本願商標の取引者,需要者によって本願商標が本願指定役務\nに使用された場合に,役務の質を表示したものと一般に認識されるものであ\nるから,本願商標は,本願指定役務について役務の質を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなる商標であると認めるのが相当である。\nしたがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。これと同旨の
本件審決の認定判断に誤りはない。
・・・
原告は,「○○〇コンサルタント」という商標の登録例が多数あること,専門分野を表す「〇〇〇」の次に「専門家」を意味する言葉を付加した商標の登録例も多数あることを挙げて,これらの登録例と構\成を同じくする本願商標は登録されて然るべきである旨主張する。しかしながら,商標登録の可否は,商標の構成,指定役務,取引の実情等を踏まえて,具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断すべきものであって,原告が指摘するような他の商標登録事例が多数あるからといって本願商標の登録の可否が影響を受けるものではないから,本願商標が本願指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であることを否定する理由にはならない。
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2021.04.30
令和2(行ケ)10125 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年4月27日 知的財産高等裁判所
商標「六本木通り特許事務所」が識別力無しとした審決が維持されました。
本願商標は,「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり,指定役務を第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」と\nするものである。
本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は,昭和59年(1984年)に,起点を東京都千代田区霞が関2丁目,終点を渋谷区渋谷2丁目とする道\n路に東京都が設定した通称名を意味する語である(乙1)。また,本願商標
の構成中の「特許事務所」の文字は,弁理士等が業務を行う事務所を意味する語であり(弁理士法76条1項参照),弁理士は,特許,実用新案,意匠,\n商標等に関する特許庁における手続等の代理又はこれらの手続に係る事項に
関する鑑定その他の事務を行うこと等をする者であり(弁理士法4条参照),
事務を行う者が所在する事務所があたかも事務を行う主体と呼ばれることは
慣用の表現であるから,「特許事務所」は,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称と認識されるものである。\nそうすると,本願商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と,
特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文
字とを結合したものと認識,理解されるものである。
(2) 本願商標の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の
代理」は,「特許に関する手続の代理」の範囲を「スタートアップ」に係る
ものに限定したものであり,語義からして「特許に関する手続の代理」に含
まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。\nまた,本願商標の構成中の「六本木通り」は,本件審決時である令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれてい\nる道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると
理解される。
そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願
商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」と
の文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の
文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これ
を「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手
続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。
以上からすると,「六本木通り特許事務所」との文字は,六本木通りに近
接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明し
ているにすぎず,本願商標の指定役務の需要者において,他人の同種役務と
識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって,その
構成自体からして,本願商標の指定役務に使用されるときには,自他役務の出所識別機能\を有しないものと認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当するものというべき
であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務の分野において「〇〇通り□□事務所」の
文字が広く採択,使用されているとの本件審決の認定は誤りである,ある
いは本願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」
という名称の法律事務所が多数あるとしても,「〇〇通り法律事務所」と
の名称に自他役務の出所識別機能がないと根拠付けることはできない旨主張する。\n
確かに,これらの主張については,当裁判所としても首肯し得る面もあ
る。しかしながら,そもそも本願商標の指定役務の分野において「〇〇通
り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの事実の有無や,本
願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」という
名称の法律事務所が多数あるとの事実の有無等が,本願商標の自他役務の
出所識別機能の有無の判断に当たって必要な前提事実となるものではないから,これらの点に関する本件審決の認定に誤りがあるとしても,その\n認定の誤りが結論を左右するものではなく,本願商標に自他役務の出所識
別機能を認めることができないことについては,前記⑵において認定判断
したとおりである。したがって,原告の上記主張は,結論を左右しない点に関する誤りを主張するにすぎず,採用し得ない。
イ 原告は,「〇〇通り□□事務所」の語は,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた意味だけを有するものではないから,本願商標も,その\n全体において造語として需要者に印象付けられる旨主張する。
一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通\n称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続
の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれ
とは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何
人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っている
ことを何ら具体的に主張立証していないから,原告の上記主張は,その前
提を欠くものというべきであって,採用することができない。
ウ 原告は,本願商標は,新規で意外性のある造語である旨主張する。
しかしながら,商標の構成についていえば,「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構\成をとる商標は多数の例が認められ(乙7ないし 51),法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得
る事務所であるから(弁護士法74条1項,3条2項参照),「法律事務
所」を「特許事務所」と言い換えて「○○通り」と「特許事務所」との組
合せとしたとしても,格別,新規なものとは認識し得ないといえ,その構成に意外性もない。また,前記のとおり,本願商標の構\成中の「六本木 通り」の文字は,35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている
道路の通称名であり,本願商標の構成中の「特許事務所」は,本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから,この両語の組\n合せから新規な意外性を生じるということもできない。
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2021.04.20
令和2(行ケ)10133 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年3月30日 知的財産高等裁判所
商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。
ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された
場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。
しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力
を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ
れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項
1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商
標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録
を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別
機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品
又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U
ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U
JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに,
国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普
及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで
あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26
条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1
号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり,
地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。
しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が
同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと
おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic
ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が
没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲
4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使
用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。
イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶,
ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1),
甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」
の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下
に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や
ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの
と推認される。
そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一
であると認めることはできない。
よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に,
煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地
直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで
「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示
す記載はない(甲5,6)。
このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\
示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶
について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上
げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地
域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し
た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合
員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。
他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の
ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U
jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH
A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した
商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の
とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入
れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合
員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標
の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示
や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので
ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間,
販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園
による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付
ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U
jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治
茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ
る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し
ないというべきことは明らかである。
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2021.04.13
令和2(行ケ)10084 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年2月25日 知的財産高等裁判所
空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。
ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて
意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と
して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検
討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと
いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき
ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来
る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして,
「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。
イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして
も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\
すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以
外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の
語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について
は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら
れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない
ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す
ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて
いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原
告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実
用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者
であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語
が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服
メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す
るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断
を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当
時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強
いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい
う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い
印象を与えるものであったと解される。
また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来
の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア
という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。
そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力
を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27
年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3)
ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指
すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと,
全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと,
建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空
調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい
たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな
り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを
示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原
告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」
と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特
に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE
Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌
で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同
様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ
る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ
ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア
の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動
を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成
30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」
はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する
と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本
願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告
各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法
3条2項に該当するというべきである。
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2020.12.21
令和2(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年12月15日 知的財産高等裁判所
焼く肉のタレ用のビンの一部の形状について、位置+形状を特定した本件商標は識別力無し(3条1項3号)と特許庁は判断しました。知財高裁も同じ判断をしました。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表\示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能\又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,そ
の機能又は美観上の理由から採用すると予\測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(2) 包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状\n
ア 液体状の商品の包装容器に付された形状
飲食料品を取り扱う業界において,液体状の商品を封入する包装容器は,
持ちやすさ,注ぎやすさ,飲みやすさ等の観点から,細口で縦長のものが
採択,使用されることが多い。しかし,このような商品の性質から要求さ
れる一定の制約の下においても,様々な形状の包装容器が存在し(乙1〜
乙5),これらの包装容器の表面に立体的形状による装飾を付したもの,中\nでも連続する菱形形状(ダイヤカット)を付したものが,次のとおり認め
られる。
・・・・
そうすると,液体状の商品の包装容器の上部又は下部に,連続する菱形
形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているものと認められる。
そして,そのいずれの場合においても,その包装容器の連続する菱形形状
の上又は下に,商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付され又は商
品名が目立つ態様で表示されているものと認められることや,1),2)の各
記載等に照らしてみると,菱形形状は,持ちやすさなどの機能や美観の観\n点から採用されているものと考えられる。
・・・
(イ) 焼肉のたれに係る包装容器に付された菱形形状
焼肉のたれの包装容器の表面に付す立体的装飾の一類型として連続す\nる立体的な菱形形状を用いるものが,次のとおり認められる。
1) 「コスモ食品株式会社」のウェブサイト(乙17)において,「北の
方から 焼肉のたれ 中辛350g」(1枚目),「北の方から 焼肉の
たれ 薬膳 中辛350g」(3枚目)の見出しの下,連続する縦長の
菱形の立体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で
表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
2) 「フードレーベル」のウェブサイト(乙18)において,「焼肉トラ
ジ 焼肉のたれ 240g」の見出しの下,連続する縦長の菱形の立
体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で表示した\nラベルが貼付された容器の写真が掲載されている。\n
3) 「Amazon」のウェブサイト(乙19)において,「成城石井 焼
肉のたれ 350g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦長の菱形の
立体的形状が包装容器の下部に付され,その上に商品名等を目立つ態
様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
4) 「Amazon」のウェブサイト(乙20)において,「焼肉チャン
ピオン 焼肉のたれ 240g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦
長の菱形の立体的形状が蓋部及び下部に付され,その間の中央部分に
商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲
載されている。
そうすると,焼肉のたれの包装容器の上部又は下部の表面に,連続す\nる縦長の菱形形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているも
のと認められる。そして,そのいずれの場合においても,その包装容器
の表面の連続する縦長の菱形形状の上又は下に,商品名等を目立つ態様\nで表示したラベルが貼\付されているものと認められること等からすれば,
これらの菱形形状も,機能や美観の観点から採用されているものと推認\nされる。
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2020.09. 7
令和1(行ケ)10146 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月19日 知的財産高等裁判所
油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレンジ色にした商標(一色の色彩+位置)について、識別力無しとした審決が維持されました。指定商品は「油圧ショベル」と限定していますが、3条2項の主張も認められませんでした。
,商品の色彩は,商品の特性であるといえるから,同号所定
の「その他の特徴」に該当するものと解される。そして,商品の色彩は,古
来存在し,通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択されるも
のであり,また,商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保す\nるために必要とされるものもあることからすると,取引に際し必要適切な
表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自\n由に選択して使用できるものとすべきであり,特に,単一の色彩のみから
なる商標については,同号の上記趣旨が妥当するものと解される。
イ 次に,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標で
あっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができるもの」については,商標登録を受ける
ことができる旨を規定している。同条2項の趣旨は,同条1項3号から5
号までに該当する商標であっても,特定の者が長年その業務に係る商品又
は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結び
ついて出所表示機能\をもつに至ることが経験的に認められるので,このよ
うな場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そうすると,同条1項3号に該当する単一の色彩のみからなる商標が同
条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務で
あることを認識することができるもの」に当たるというためには,当該商
標が使用をされた結果,特定人の業務に係る商品又は役務であることを表\n示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り,その使用により自
他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり,さら
に,同条1項3号の前記趣旨に鑑みると,特定人による当該商標の独占使
用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要
すると解するのが相当である。
以上を前提に,本願商標が同条2項の「使用をされた結果需要者が何人
かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当する
かどうかについて判断する。
・・・
本願商標は,別紙1(1)及び(2)イ記載のとおり,油圧ショベルのブー
ム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ
イトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)と
する構成からなる,色彩のみからなる商標であるところ,本願商標の色\n彩は,単一の色彩であり,本願商標の色彩を付する位置は,上記部分に特
定されているが,上記部分の形状は,別紙1(1)に着色して示された図形
の形状や輪郭のものに限定されるものではない。
本願商標の色彩名の「オレンジ色」は,一般に「赤みがかった黄色」と
定義され(乙1),基本色の一つであること(乙37の4頁),JISの色
彩規格に,慣用色名として「オレンジ色」(マンセル値:5YR6.5/
13)が挙げられていること(乙2),本願商標の色彩と同じ色相が色相
環に挙げられ,近似した色見本が挙げられていること(乙3)からする
と,本願商標の色彩のオレンジ色は,ありふれた色彩であって,特異な色
彩であるとはいえない。
また,本願商標の色彩と同系色の「橙」色(マンセル値:5YR6.5
/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止・防火,健康
上有害な情報並びに緊急避難を目的として規格化された「JIS安全色」
の一つであり(乙10ないし12),ヘルメット(乙4),レインスーツ
(乙5),サイトウェア(乙9),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙
7),タワークレーン(乙8)にオレンジ色が使用されているように,オ
レンジ色は,工事現場で一般に使用されている色彩である。
さらに,オレンジ色は,黄色と赤色の中間色であって,基本色の一つで
あることから,オレンジ色の色彩名から観念される色の幅は広いもので
ある上,人の視覚によって,マンセル値で特定された本願商標のオレン
ジ色とマンセル値の異なる同系色のオレンジ色を厳密に識別することに
は限界がある(乙37,38)。
(イ) 油圧ショベルは,前記2(1)アの構造を有するところ,本願商標で特定\nされた色彩を付する位置は,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,
シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分であり,車
体色として色彩が通常施される箇所をほぼ網羅しており,色彩を付する
位置としては,ありふれたものである。
(ウ) 以上によれば,本願商標の色彩及び色彩を付する位置は,いずれもあ
りふれたものであり,本願商標の構成態様に特異性はない。\n
イ 原告による本願商標の使用態様,油圧ショベルの販売実績及び広告宣伝
(ア) 前記2(2)及び(3)の認定事実によれば,原告は,1970年(昭和4
5年)10月1日に設立されて以来,50年以上にわたり,本願商標又は
本願商標と同一の色彩が使用された油圧ショベルを全国の事業者に対し
て継続して販売してきたこと,原告の油圧ショベルの1974年(昭和
49年)から2018年(平成30年)までの年度別販売台数は,●●●
●●●●●●台であり,1981年以降のシェア(市場占有率)は概ね2
0%台であって,油圧ショベルのシェアは,原告を含む主要5社がほぼ
独占し,2005年(平成17年)から2011年(平成23年)までの
国内出荷台数のシェアでは,原告は毎年3位以内に入っていることが認
められる。
上記認定事実によれば,全国の建設工事,土木工事等の工事現場では,
多くの工事関係者等が本願商標又は本願商標の色彩が使用された原告の
油圧ショベルを頻繁に目にしていたものと認められ,これらの工事関係
者等は,原告の油圧ショベルにオレンジ色が使用されていることを認識
したものと認められる。
他方で,前記2(2)イのとおり,原告の油圧ショベルの多くには,アーム
部や車体後部に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」
又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HIT
ACHI」又は「日立」の文字の記載があることが認められ,これらの文
字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識さ\nれ得ることも否定することはできない。
(イ) 前記2(4)の認定事実によれば,原告は,1993年(平成5年)以降,
本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,
少なくとも47種類以上作成し,これらを合計26種類の新聞及び雑誌
に継続的に掲載したこと,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタロ
グ,書籍・小冊子に本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画
像を用いた広告を継続的に出稿したほか,本願商標の色彩を使用した油
圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告をGoogle等の4種類
のオンライン媒体に出稿し,このウェブ広告は,合計300万回以上表\n示されたこと,原告は,1990年(平成2年)9月から2016年(平
成28年)1月までの間にわたり,本願商標の色彩を使用した油圧ショ
ベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラックなどの建設機械
を含めて,その映像が表示されるテレビCMを放映したこと,1990\n年(平成2年)から2014年(平成26年)までの期間の原告の広告宣
伝費は,多いときで年間15億円を超え,2010年(平成22年)から
2014年(平成26年)においても年間約4億円に及んでいることが
認められる。
他方で,これらの広告(テレビCMを含む。)には,いずれも原告の社
名や「HITACHI」又は「日立」の文字が表示されていること(甲6,\n7の1,50等),原告の油圧ショベルのほか,原告の積込み機,ホイー
ルローダ,鉱山用ダンプトラックなどに本願商標の色彩を使用した建設
機械が表示されるもの(甲6の1,6の13,50の3,50の4の2,\n50の5ないし7,50の10,50の47ないし52,50の62ない
し66,50の100,50の103ないし108,50の112ないし
118,50の121,50の122,54の5),油圧ショベルのモチ
ーフがオレンジ色をした五線譜の音符として表示されるもの(甲50の\n2の2,50の14,50の15,50の34,50の35,50の36),
原告の油圧ショベルその他の建設機械が将棋の駒として表示されるもの\n(甲50の9の2,50の29,50の30,53,54の1),オレン
ジを背景にしたキリンのシルエットと同じシルエットの一つに油圧ショ
ベルが表示されるもの(甲50の8の2,50の28,50の41,50\nの111)があることに鑑みると,これらの広告は,需要者に対して,本
願商標の色彩が原告のコーポレートカラーであることを印象付けるもの
であるとしても,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強い結びつき
があることまで印象付けるものとはいえない。
(ウ) さらに,前記2(6)のとおり,本願商標の色彩と同系色であるオレンジ
色をその車体の一部に使用した油圧ショベルとして,住友建機のハイブ
リッドショベル,ボブキャット社のDXシリーズ,イワフジの林業ベー
スマシン及びその後継機,クボタの「ミニバックホー」等が販売されてい
たことに照らすと,本件審決時において,原告が油圧ショベル(ミニショ
ベルを含む。)についてオレンジ色の色彩を独占的に使用していたものと
認めることはできない。
(エ) 以上によれば,本願商標が使用された原告の油圧ショベルの販売実績,
シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色彩が原告の油圧シ
ョベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認識されているこ
とは認められるものの,他方で,本願商標は,色彩及び色彩の付する位置
がありふれたものであって,その構成態様は特異なものとはいえないこ\nと,原告の油圧ショベルの多くには,アーム部や車体後部等に著名商標
である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており,これらの
文字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識\nされ得ることも否定することはできないこと,原告による広告宣伝は,
これに接した需要者に対し,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強
い結びつきがあることまで印象付けるものとはいえないこと,原告以外
の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体
の一部に使用した油圧ショベルを販売していたことを総合考慮すると,
本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,原告によって本願商
標が使用をされた結果,本願商標のみが独立して,原告の業務に係る油
圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとま\nで認めることはできない。
ウ 本件アンケートの調査結果について
前記(1)認定のとおり,油圧ショベルの需要者は,建設業者,建設機械を
取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者,
農機及び林業機械を取り扱う販売業者等が含まれるものであるが,本件ア
ンケートは,土木建設業以外の業種等の需要者が調査対象者から除外され,
農業従事者及び林業従事者等が調査対象者に含まれていないから,本件ア
ンケートの調査結果は,油圧ショベルの需要者の一部の認識を反映したも
のにとどまっている。
また,前記2(5)アの認定事実によれば,本件アンケートのうち,本願商
標に係るアンケートの設問は,別紙1(1)アの本願商標の画像を示した上で,
「以下の画像の色彩を見て,どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ
さい。」というものであり,「回答するメーカー名は,選択式ではなく,自由
記入式」としているが,「回答するメーカー名」は複数であってもよいこと
の明記はない。他方で,前記イ(エ)のとおり,原告以外の複数の事業者が本
願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体の一部に使用した油圧
ショベルを販売していたことに照らすならば,「回答するメーカー名」は複
数であってもよいことが明記されていないことは,本願商標に係るアンケ
ートの調査結果(有効回答数168通(回収率33.9%),認知率97.
0%)にも,影響を及ぼすものといえる。
そうすると,本件アンケートの調査結果から認定できる需要者における
本願商標の認知度は限定的であるものといわざるを得ない。
エ まとめ
前記アないしウによれば,本件商標が使用された原告の油圧ショベルの
販売期間,販売実績,シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色
彩が原告の油圧ショベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認
識されていることは認められるものの,本願商標の色彩のみが独立して,
原告の販売する油圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識\nされていたものとまで認めることはできず,また,本件アンケートは,農業
従事者及び林業従事者等の認識が反映されておらず,油圧ショベルの需要
者の一部の認識を反映したものにとどまっており,本件アンケートの調査
結果から認定できる需要者における本件商標の認知度は限定的であるもの
といわざる得ないことからすれば,本件アンケートの調査結果を併せ考慮
しても,本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,本願商標は,
原告によって使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示す\nるものとして需要者の間に広く認識されていたものとまで認めることはで
きないから,本願商標は,その使用により自他商品識別機能ないし自他商\n品識別力を獲得したものと認めることはできない。
これに反する原告の主張は採用することができない。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10143 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月27日 知的財産高等裁判所
クシについての位置商標について、識別力無しとの審決がなされました。知財高裁(3部)もかかる判断を維持しました。
整髪又は調髪に用いる櫛は,理美容道具としての性格上,その機能性が重\n視されるものと考えられるところ,取引の実情においても,櫛の背骨部の位
置に一定間隔で模様,窪み又は貫通孔等を設けることにより,それらを目盛
り代わりに用いる,指のすべり止めとしての機能を果たさせる,しなりを生\nみ出し,使いやすさを向上させるなどといった,機能向上のための工夫がさ\nれ,それらの工夫が宣伝されている実情があることが認められる(乙5〜1
7)。したがって,カットコームの背面部の貫通孔も,一般的には,機能向\n上のための工夫として認識されるのが通常であり,自他商品の識別標識とし
ての特徴であると理解されるものではないといえる。
また,このことは本願商標に係る貫通孔が設けられたカットコームについ
ても同様であり,商品の紹介で強調されているのは,「硬さとしなやかさを
両立するための『エアーサスペンション機能(1センチ間隔で空いた背面の\n穴)』」などといった機能面での工夫であって,貫通孔に自他商品識別標識\nとしての機能があることは,何ら言及されていない(乙23〜25)。そう\nすると,これらの記述に接した需要者は,一般的には,上記貫通孔は,機能\n向上のための工夫として設けられているものと認識するのが通常であって,
これを自他商品の識別標識と認識するとは考え難いところである。
(4) 以上に検討したところによれば,本願商標の構成は,指定商品の需要者と\nして想定される一般消費者の注意力に照らしてみたとき,構成自体として,\n識別力を備えたものとはいえない。
◆判決本文
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2020.07.17
令和1(行ケ)10147 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月23日 知的財産高等裁判所
色彩商標(1色)が識別力無しとして拒絶された審決が維持されました。争点は3条2項の適用です。「本願商標の使用態様」、「本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量」、「広告宣伝の方法,期間,規模」、「アンケート結果」、「原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用」、「油圧ショベルの取引の実情」が考慮されました。
本願商標が商標法3条1項3号に該当することは,当事者間に争いがないと
ころ,同条2項は,同条1項3号ないし5号に対する例外として,「使用をされた結
果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるも
の」は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該
商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独
占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別
力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人
の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開
放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商
標の登録を認めようというものと解される。
そして,使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標が使用され
た期間及び地域,商品の販売数量及び営業規模,広告宣伝がされた期間及び規模等
の使用の事情,当該商標やこれに類似した商標を採用した他の事業者の商品の存在,
商品を識別し選択する際に当該商標が果たす役割の大きさ等を総合して判断すべき
である。また,輪郭のない単一の色彩それ自体が使用により自他商品識別力を獲得
したかどうかを判断するに当たっては,指定商品を提供する事業者に対して,色彩
の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべきである。
(2) 認定事実
ア 本願商標の使用態様
原告の前身である日立製作所は,昭和40年,油圧ショベル「UH03」の外
面の塗装の色彩として,本願商標の色彩を採用した(甲46)。
原告は,昭和45年10月,日立製作所の建設機械製造部門が独立し,旧日立建
機株式会社と合併して設立された株式会社であり,遅くとも昭和49年以降,本願
商標の色彩を,油圧ショベルを始めとする各種建設機械の外面の塗装の色彩として,
現在まで継続して使用してきた(甲1の1〜44,8の1〜15,弁論の全趣旨)。
原告の販売する油圧ショベルには,オレンジ色を車体の全体に使用したもの
もあるが(甲1の13・14・17・18・20・21・36・37,7の1・4〜
7・9〜12),アーム部及び車台後部はオレンジ色であるものの,操縦席近辺や駆
動部は黒色ないし鼠色のもの(甲1の1〜12・15・16・19・22〜35・3
8〜44,5の1・5〜18,7の2・3・8・13,8の1〜15),操縦席近辺
はオレンジ色で,アーム部は黒いもの(甲2の2),アーム部はオレンジ色で,操縦
席や車台後部に緑色のラインが入ったもの(甲5の2〜4)もある。また,その多く
には,アーム部や車台後部等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACH
I」又は「日立」の文字が付されている(甲1の1〜42・44,2の2,8の1・
3・4・6〜8・10・12・13)。
原告のカタログにも,上記のとおり,オレンジ色を車体の全体に使用した油圧シ
ョベルの写真のみならず,車体の一部にのみオレンジ色を使用した油圧ショベルの
写真も掲載されており,原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」の文字が記
載されている(甲1の1〜44,2の2,8の1〜15)。
イ 本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量
原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベル
を,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在す
る事業者に対して販売し,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルは,日本全国
で使用されている(甲4の2・4,21の1〜6)。
原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用されたミニショベル
を除く油圧ショベル(6トン以上のもの。甲40)を昭和49年から平成30年ま
での間に合計●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,ミニショベル(6
トン未満のもの。甲40)を平成3年から平成30年までの間に合計●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●,それぞれ販売した(甲52の1・2)。
ミニショベルを除く油圧ショベルは,主に,原告,株式会社小松製作所,コベルコ
建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社が製造
販売しているところ,昭和49年から平成30年までの間の原告の油圧ショベルの
シェアは概ね20%である(甲44の1〜8,52の1)。また,ミニショベルにつ
いては,平成3年から平成30年までの間の原告のシェアは概ね10%前後である
(甲52の2)。
ウ 広告宣伝の方法,期間,規模
雑誌・新聞広告,ウェブ広告等の掲載
原告は,少なくとも平成5年以降,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使
用された油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,少なくとも72種類以上作成
し(甲57),これらを「日本経済新聞」,「朝日新聞」,「産経新聞」,「日刊工業新聞」,「建通新聞」,「北海道新聞」等の新聞や,「日経ビジネス」,「投資経済」,「東洋経済」,「週刊ダイヤモンド」,「週刊エコノミスト」,「日経コンストラクション」,「建設機械」,「月刊廃棄物」等の雑誌等,少なくとも29種類以上の媒体に,継続的に掲載した(甲5の1〜18,58の1,59の1・2・4〜6・8〜153)。
また,原告は,少なくとも平成20年以降,大手建設機械レンタル会社のカタロ
グや,書籍・小冊子にも,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油
圧ショベルのカラー画像を用いた広告を継続的に出稿したほか(甲59の154〜
162),平成30年6月以降,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー
画像を用いたウェブ広告を3種類作成して(甲56,57,59の164・165),
8種類のサービスに出稿しており(甲61),これらのウェブ広告は,合計で,少な
くとも4000万回以上表示された(甲56,61)。\nこの他,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベ
ルのうち,実際に市場で販売されたものの画像が,昭和54年以降,建設機械分野
の専門誌の表紙にも取り上げられた(甲7の1〜13)。\nこれらの広告においては,いずれも原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」
の文字が記載されている。
テレビCM
原告は,少なくとも平成2年9月から平成28年1月までの間(ただし,平成1
3年下期から平成19年上期は除く。)に,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩
が使用された原告の油圧ショベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラ
ック等が映像の一部に登場するテレビCMを,繰り返し放映した。もっとも,これ
らのテレビCMには,油圧ショベル以外の建設機械に係るものが含まれ,全体の映
像も,明らかでない。
エ アンケートの結果
マーケティングリサーチ事業を専門とする楽天リサーチ株式会社(現在の名称は,
「楽天インサイト株式会社」)が原告からの依頼により,全国502か所の建設業界
の事業者を対象として,平成29年1月に実施したアンケートの結果(以下「本件
アンケート」という。)によれば,有効回答数は193件であり(回収率38.6%),
本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ
さい」との質問に対し,185件が原告と回答した(認知率95.9%)との結果と
なっている(甲19)。
本件アンケートは,原告が製造する建設機械の販売会社が顧客開拓のために独自
に調査してリストアップしている日本全国の需要者に係るデータ約●●●件から,
ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械及び環境機械等の需要者や,農業や酪
農など土木建設業者以外の業種の者を除いた約●●●件のうち,10台以上油圧シ
ョベルを保有している者を調査対象としたものである。対象者の業種は,主に土木
建設業,解体業,産業廃棄物処理業,建設機械レンタル業であるとされる(甲54)。
オ 原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用
以下のとおり,原告以外の事業者により,本願商標と類似する標章が使用されて
いたことが認められる。なお,以下の証拠には,令和2年1月頃印刷したウェブサ
イト等もあるが,これらの証拠に弁論の全趣旨を総合すれば,本件審決時(令和元
年9月19日)においても,同様に,原告以外の事業者により,本願商標と類似する
標章が使用されていたことが推認できる。
「住友建機株式会社」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「油
圧ショベル」の商品紹介のページに,アーム部がオレンジ色の油圧ショベルの写真
が掲載されている(甲77,乙13)。
「株式会社ボブキャット」の発行する「DOOSAN」のチラシ(令和2年1
月27日印刷)には,アーム部及び車体後部がオレンジ色の油圧ショベルの写真及
びアーム部及び車体上部をオレンジ色にした油圧ショベルの写真が掲載されている
(乙14)。
「イワフジ工業株式会社」のウェブサイト(令和2年1月29日印刷)及びカ
タログ(平成30年6月発行)には,「製品情報」中の「林業ベースマシン」のペー
ジに,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「CT−500C/CS 林業ベース
マシン」の写真が掲載されている(乙15,16)。
「神野農機」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「商品一覧」
の頁に,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「フルカワ ミニバックホー FX
−007」の写真が掲載されている(乙17)。
「農機新聞」(平成29年3月7日発行)には,「イベロジャパンがトラクター
用バックホー3機種発売」の見出しの記事情報において,バケット部,アーム部及
び本体がオレンジ色のバックホーの部分の写真が掲載されている(乙18)。
「DiESEL TRADiNG」のウェブサイト(令和2年1月23日印
刷)には,「建設機械在庫一覧」のページに,アーム及び車体がオレンジ色の「IH
I建機 ミニショベル」の写真が掲載されている(乙20)。
「株式会社クボタ」のウェブサイト(令和2年1月27日印刷)には,「開発
中の電動トラクタと小型建機を公開〜脱ディーゼルの進む欧州で事業性を検証し,
製品化を目指す〜」の見出しの下,「小型建機(ミニバックホー)」の試作機の写真と
して,アーム部,車体及び脚部駆動部の中心部がオレンジ色の油圧ショベルの写真
が掲載されている(乙21)。
また,「製品情報」中の「建設機械」のうち,「ミニバックホー」のページ(令和2
年1月23日印刷)に,アーム部,車体下部がオレンジ色の「林業モデル」のバック
ホーの写真(乙22)が,「ホイールローダ」のページ(令和2年2月3日印刷)に
アーム部,車体,ホイールがオレンジ色のホイールローダの写真(乙23)が,「キ
ャリア」のページ(令和2年1月23日印刷)に荷台部などがオレンジ色のキャリ
アの写真(乙24)が,「農業ソリューション製品」のページ(令和2年1月23日\n印刷)に,車体の前部,泥よけ部及び天井部がオレンジ色のトラクタの写真(乙3
3)が,それぞれ掲載されている。
「WINBULL/YAMAGUCHI」のウェブサイト(令和2年1月2
3日印刷)には,「YX−21X」の商品紹介の項に,荷台部がオレンジ色のキャリ
アの写真(乙25),「YXS−121HX」の商品紹介の項に,アーム部及び車体部
がオレンジ色の除雪機の写真(乙26)が,それぞれ掲載されている。
「トヨタL&F」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「製品情
報」ページに,ショベル部及び車体下部がオレンジ色のショベルローダの写真(乙
27),フォーク部及び車体下部がオレンジ色のフォークリフトの写真(乙28)が,
それぞれ掲載されている。
「サオリエクスポート」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,
「H7年 コベルコ ラフタークレーン RK160−2」の商品紹介の項に,ア
ーム部及び車体がオレンジ色のクレーン車の写真(乙29),「H17 イスズジャ
ストン」の商品紹介の項に,アーム部及び車体をオレンジ色の高所作業車の写真(乙
32)が,それぞれ掲載されている。
「オークフリー」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「H7年
TADANO タダノ 4.9t ラフタークレーン」の商品紹介の項に,車体上
部がオレンジ色のクレーン車の写真が掲載されている(乙30)。
「エイハンジャパン」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「高
所作業車製品案内」のページに,乗車部及び下部の車体をオレンジ色にしたマスト
式高所作業車の写真が掲載されている(乙31)。
カ 油圧ショベルの取引の実情
油圧ショベルは,ユンボ,パワーショベル,バックホー,ドラグショベル,シ
ョベルカーなど様々な名称で呼ばれる掘削機械の一種であり,日本国内で建設業に
おいて広く用いられているほか,その用途に汎用性があることから農業や林業にも
利用されている(甲38〜40,乙15〜18,22)。
油圧ショベルを製造販売する原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式
会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社は,油圧ショベルのほ
かにも,ブルドーザー,クレーン,ホイールローダー等も製造販売しており,また,
ミニショベルを製造販売する株式会社クボタ,ヤンマーホールディングス株式会社,
株式会社竹内製作所等は,農機も製造販売しているのであって,同一の事業者が,
油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や農機を製造販売している(甲42,4
4の1〜8,45)。
市場分析においても,油圧ショベルは,ブルドーザー,クレーン,ロードローラ等
とまとめて,建設機械に係る業界として扱われている(甲42)。
建設機械等の取引においては,製品の機能や信頼性を検討し,メーカー名や\n商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われている(甲21
の1〜6)。
(3) 使用による自他商品識別力について
ア 本願商標の色彩を付した油圧ショベルの販売について
前記(2)ア,イのとおり,原告は,約50年にわたり,本願商標の色彩を車体の少
なくとも一部に使用した油圧ショベルを販売しており,その販売台数及びシェアは,
ミニショベルを除く油圧ショベルが合計約●●●台で概ね20%,ミニショベルが
合計約●●台で概ね10%前後であって,それぞれ年間数千台の販売実績を上げて
いることが認められる。
しかしながら,本願商標の色彩であるオレンジ色は,「赤みを帯びた黄色」(乙1)
であり,JISの色彩規格に,慣用色名としてオレンジ色が挙げられ(乙2),本願
商標の色彩と同じ色相が色相環に挙げられ,近似した色見本が挙げられるなど(乙
3),ありふれた色である。そして,本願商標の色彩と類似した色彩である橙(マン
セル値:5YR 6.5/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止
などを目的として公表されているJIS安全色にも採用され(乙10,11),ヘル\nメット(乙4),レインスーツ(乙5),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙7),タワークレーン(乙8),現場作業着(乙9)等に利用されていることが認められ,
建設工事の現場において,一般的に使用される色彩である。
また,前記(2)アのとおり,原告の販売する油圧ショベルの多くには,本願商標の
色彩のほか,アーム部や車体等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITAC
HI」又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HITAC
HI」又は「日立」の文字の記載があること,本願商標が,単色でなく他の色彩と組
み合わせて車体の一部にのみ使用されている商品も少なくないことに照らせば,本
願商標の色彩は,これらの文字や色彩と合わせて原告の商品である油圧ショベルを
表示しているというべきである。\n以上によれば,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧シ
ョベルを販売したことにより,本願商標の色彩のみが独立して,原告の油圧ショベ
ルの出所識別標識として,日本国内における需要者の間に広く認識されていたとま
では認められない。
イ 広告宣伝について
前記(2)ウのとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した
油圧ショベル等の建設機械の画像を用いた宣伝広告を,新聞,雑誌等の各種広告媒
体によって,少なくとも20年以上にわたり行っていることが認められる。
しかしながら,これらの広告等には,いずれも,原告の社名が表示されている上,\nその多くに「HITACHI」又は「日立」の文字が併せて記載されており,本願商
標の色彩のみが独立して,原告の商品である油圧ショベルの出所を表示していると\nはいえない。
また,これらの広告等の中には,油圧ショベルのモチーフが,オレンジ色をした
五線譜上の音符や将棋の駒として表示されたり,オレンジを背景にしたキリンのシ\nルエットとして表示されたりするなど,デザインの一環として用いられ,広告内容\nが油圧ショベルと関連付けられたものではないものも存在し(甲59の2・8・9
等),このような広告は,視聴者に対し,オレンジ色が原告のコーポレートカラーで
あると印象付け,本願商標の色彩を一定程度認知させるものとはいえても,色彩と
商品の結び付きは弱く,このことから直ちに,本願商標の色彩が,原告の油圧ショ
ベルの出所識別標識として,広く認識されたとまで認めることは困難である。
以上によれば,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベル
の画像を用いた宣伝広告により,本願商標の色彩が,原告の油圧ショベルの出所識
別標識として,需要者の間に広く認識されたとまではいえない。
ウ 本件アンケートの結果
本件アンケートの調査対象は,全国の油圧ショベルの取引者及び需要者とされる
ものの,ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械等の需要者や,農業
や酪農など土木建設業者以外の業種の者が除かれている上,油圧ショベルを10台
以上保有している者のみに絞られているから,対象者は油圧ショベルの需要者の一
部に限定されている。また,対象者数は,約●●●件の需要者のうちの502件で
あり,有効回答数はその38.6%である193件にとどまる。そして,認知率9
5.9%という高い数字は,有効回答数193件に対する数字であり,対象者数5
02件に対しては36.8%にとどまる。
本件アンケートの質問方法は,本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカ
ーの油圧ショベルかをお答えください」と尋ねるものであるところ,かかる質問は,
本願商標が出所識別標識と認識されることを前提とするものであるから,その回答
によって,本願商標が原告のみの出所識別標識と認識されていることを示している
のか,単に原告の油圧ショベルの車体色と認識するにとどまるのかを区別すること
はできない。
以上によれば,本件アンケートの結果のみから直ちに,本願商標の色彩が出所識
別標識として認識され,本願商標が付された油圧ショベルの出所が原告のみである
ことが広く認知されていたものと認めることはできない。
エ 原告以外の者による本願商標に類似する色彩の使用
前記(2)オのとおり,本件審決時(令和元年9月19日)までに,住友建機株式会
社,DOOSAN等が,車体色がオレンジ色の油圧ショベルを販売し,株式会社ク
ボタやイワフジ工業株式会社等が,車体色がオレンジ色の農機や林業用機械を販売
していたこと,また,株式会社クボタ等が,車体色がオレンジ色のホイールローダ,
ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車等の建設機械
を販売していたことが認められ,農機等を含む油圧ショベルや各種建設機械の車体
色として,複数の事業者によりオレンジ色が広く採択されていた。
そうすると,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショ
ベルを長期間にわたり相当程度販売していたとしても,油圧ショベルと需要者が共
通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農機,林業用機械の分野において,
車体色としてオレンジ色を採用する事業者が原告以外にも相当数存在していたので
あるから,原告が,他者の使用を排除して,油圧ショベルについて本願商標の色彩
を独占的に使用していたとまでは認められない。
オ 油圧ショベルの取引の実情
前記(2)カのとおり,油圧ショベルは,建設機械の一種であり,建設業のほか農業
や林業にも利用され,同一の事業者が油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や
農機を製造販売している。また,油圧ショベルを含む建設機械は,製品の機能や信\n頼性を重視し,メーカーを確認して製品の選択が行われ,価格も安価なものではな
いことから,製品を識別し購入する際に,車体色の色彩が果たす役割が大きいとは
いえない。
カ 以上のとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した
油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売するとともに,継続的に宣伝広告を行
っており,本願商標の色彩は一定の認知度を有しているとはいえるものの,その使
用や宣伝広告の態様に照らすなら,本願商標の色彩が,需要者において独立した出
所識別標識として周知されているとまではいえない。そして,本願商標は,輪郭の
ない単一の色彩で,建設現場等において一般的に採択される色彩であること,油圧
ショベル及びこれと需要者が共通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農
機,林業用機械の分野において,本願商標に類似する色彩を使用する原告以外の事
業者が相当数存在していること,油圧ショベルなど建設機械の取引においては,製
品の機能や信頼性が検討され,製品を選択し購入する際に車体色の色彩が果たす役\n割が大きいとはいえないこと,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるべ
き公益的要請もあること等も総合すれば,本願商標は,使用をされた結果自他商品
識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものとはいえな
い。
◆判決本文
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2020.06.26
令和1(行ケ)10164 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所
I+ハートマーク+JAPANの結合商標について、識別力無しとした審決が維持されました。
1 取消事由1(商標法3条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 本願商標の構成について\n
ア 本願商標は,別紙1に記載のとおり,Iハート図形とその下に「JAP
AN」の欧文字を書してなるものであり,別紙1に記載の商品を指定商品とするも
のであるところ,本願商標の構成のうち,Iハート図形が全体として,「私は〜が大\n好きです。」との意味合いを表す英語の「I LOVE 〜」を端的に表意するもの\nであること,Iハート図形とその横に又は下に何らかの文字を結合した表示が,何\nらかの文字が表すものに対して愛着の気持ち等を表\すものとして理解されることは
当事者間に争いがない。
そうすると,Iハート図形の横又は下に「地名」を結合した表示は,当該地名(国\n名や都市名等)が表す場所に対する愛着の気持ち等を表\すものとして理解されると
認められる。
イ(ア) 別紙2に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によると,別紙2のとおり,本
件審決前に,日本において,インターネットのウェブサイトのIハート図形が使用
されている表示が30件(別紙2(1)〜(10),(12)〜(19),(21)〜(32))存したもの
と認められる。
また,証拠(乙42)によると,本件審決前に,「オスミツキ商店街」のウェブサ
イトにおいて,商品「ステッカー」の表面に「I」及び「ハートマーク図形」とその下に「TOYA」の文字を表\示した画像(以下,「TOYA表示」という。)とともに,「オスミツ\nキ商店街は,支笏洞爺国立公園内・洞爺湖温泉街にある雑貨屋,HORIDAY
MARKET TOYAの公式オンラインショップです。」,「I LOVE TO
YA STICKER」,「ぜひいろんな場所にバシバシ貼って,洞爺好きをアピー\nルしてください!」との記載があったことが認められる。
(イ) 上記(ア)の各表示のうちIハート図形の横又は下に「地名」を結合し\nた表示(別紙2の(1)〜(10),(12)〜(19),(21)〜(29),(31)及びTOYA表示)は,\n結合した当該地名が表す場所に対する愛着の気持ち等を表\す表示として,又は,当\n該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表\示として,被服を取
り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用されているも
のと認められる。
また,Iハート図形の横又は下に「日本」を意味する英語である「JAPAN」
の欧文字を結合した表示(別紙2の(1)〜(10),(13)〜(19))は,日本又はスポーツ
の日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表\す表示として,\n被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって,使用さ
れていることがあると認められる。
(ウ) 証拠(甲10,21,22,乙10)及び弁論の全趣旨によると,次
の事実が認められる。
a I ハート図形の下に「NY」を結合した表示は,1970年代後半\nから,ニューヨークの観光キャンペーンに用いるために「アイラブニューヨーク」
というスローガンと共に使用され,Iハート図形の下に「NY」を結合した表示が\n付されたマグカップ,Tシャツなどのライセンス商品が販売されている。それらの
ライセンス契約による収入は年30億円にのぼるといわれている。
b Iハート図形の下に「JAPAN」を結合した表示が付されたTシ\nャツ(別紙2の(7))や,Iハート図形の下に栃木を表す「TG」を結合した表\示が
付されたTシャツ(別紙2の(31))は,Iハート図形の下に「NY」を結合した表\n示を意識して作られた商品である。
(エ) なお,被告の提出する証拠のうち,乙1,22〜28,37〜41,
43は,いずれも本件審決後に作成された書証であり,本件審決前にこれらの書証
の表示が存在していたと認めるに足りる証拠はないから,これらの証拠を認定に用\nいることはできない。また,乙2,3は,書証上,作成日が明らかでなく,本件審
決前の事情を示す表示であると認めることはできないから,これらを認定に用いる\nことはできない。
(2) 本願商標の商標法3条1項6号該当性について
前記(1)によると,本願商標は,「私は,日本が大好きです。」の意味合いとして容
易に理解されるものであり,日本においては,Iハート図形の横又は下に「地名」
を結合した表示は,結合した当該地名が表\す場所に対する愛着の気持ち等を表す表\
示又は当該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表\示として,
また,Iハート図形の横又は下に「JAPAN」を結合した表示は,日本又はスポ\nーツの日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表\す表示とし\nて,被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用
されていることが認められるから,本願商標をその指定商品に使用した場合,本願
商標に接する取引者,需要者は,これを,日本に対する愛着の気持ちや日本に属す
るものに対する応援の気持ちを表現したものあるいは日本の土産物を示すものと認\n識するにすぎないと認められる。そうすると,本願商標は,自他商品の識別力を有
さないというほかない。
したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識す
ることができない商標であるから,商標法3条1項6号に該当することになる。
(3)ア これに対し,原告は,商品販売サイトが存在することは,当該商品が一
般消費者の目に触れ,取引されていることを意味するものではない,既に商品の取
扱いが終了している商品販売サイトは「広く用いられていること」の証拠とはなら
ないと主張する。
証拠(甲25,26,40,41)及び弁論の全趣旨によると,電子商取引サイ
トである Amazon.co.jp の日本における取扱品目数は,平成27年当時で2億点(公
表値),売上高は1兆円と算出され,Yahoo!ショッピングの取扱品目数は,平成29
年当時で2億8000万点を超え,楽天市場の取扱品目数は,令和元年12月時点
で2億7000万点を超えていること,日本国内の消費者向けの電子商取引の市場
規模は,平成30年には約18兆円に達していることが認められる。
しかし,前記(1)イ(ウ)のとおり,本願商標と同様に「Iハート図形+地名」の形
をとる「Iハート図形+NY」の表示が,既に40年以上使用されている上に,日\n本国内においても,前記(1)イ(イ)のような使用例が29件存在していたことからす
ると,これらのウェブサイトにおける閲覧実績や販売実績を検討するまでもなく,
本願商標は,前記(2)のとおり,自他商品識別力を有しないものと認められる。
前記(1)イ(ア)のウェブサイトの中に,既に商品の取扱いが終了している商品販売
サイトが存するとしても,インターネットのウェブサイトにおいて,Iハート図形
の横又は下に「地名」が結合した表示が存し,その表\示が前記(1)イ(イ)で記載した
ようなものと理解されるのであるから,既に商品の取扱いが終了している商品販売
サイトがあることは,前記(2)の判断を左右するものではない。
イ 原告は,本願商標に接した需要者が,本願商標が日本代表チームなどに\n対して愛着の気持ちを表すデザインあるいは日本の土産物において客の関心をひく\nためのデザインとして認識,理解することはない旨主張する。
しかし,本願商標は,「私は,日本が大好きです」の意味合いを容易に理解させる
ものであるところ,本願商標と同様に,Iハート図形の横又は下に「JAPAN」
を結合した表示が,「応援」,「応援グッズ」,「代表\チーム」,「サッカー」,「Wカップ」,
「侍ジャパン」,「サムライジャパン」,「サッカー 野球」,「オリンピック2020」,
「日本代表を応援しよう」などと共に商品販売サイトにおいて用いられていること\n(別紙2の(1)〜(3),(12),(15)〜(17))からすると,本願商標に接した取引者,
需要者は,当該表示は日本代表\チームなどに対して愛着の気持ちを表す表\示と理解
することがあると認められる。また,本願商標と同様に,Iハート図形の横又は下
に「地名」を結合した表示が,「日本のお土産に最適」,「グアムの定番お土産」,「JTBのお土産通販サイト」,「松島お土産」,「江ノ電公認みやげ」,「栃木 お土産」
などと共に商品販売サイトにおいて用いられていること(別紙2の(6),(21),(23),
(26),(27),(31))からすると,本願商標に接した取引者,需要者は,当該表示は,\n日本の土産物として客の関心をひくための表示と理解することがあるものと認めら\nれる。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
ウ 原告は,本願商標は,赤色のハート図形を用い,Iハート図形が標章の
半分以上を占めるデザインとすることで,一見して日本に対する愛着の気持ちが瞬
時に伝わる特徴的なデザインとなっているから,本願商標を需要者が何人かの業務
に係る商品であることを認識することができない商標と評価することはできないと
主張する。
しかし,本願商標に自他商品識別力がないことは既に判示したとおりであって,
原告の主張を採用することはできない。
エ 原告は,本願商標と同種の商標が商標登録されていることから,本願商
標には自他商品識別力があると主張する。
証拠(甲36,37,39)によると,(1)指定商品を第25類(被服,ガーター,
靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運
動用特殊靴)とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,\n平成27年3月27日に商標登録されていること,(2)指定役務を第30類(菓子,
パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドックなど)
とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,平成30年6\n月15日に商標登録されていること,(3)指定役務を第35類(広告業,トレーディ
ングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言など)とし,I ハート図形
の下に「TOKYO」と記載した商標が,米国の企業を商標権者として,令和元年
7月5日に商標登録されていることが認められる。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは既に判示したとおりで
あるところ,商標法3条1項6号該当性の判断は,個別具体的に検討,判断される
ものであるから,上記(1)〜(3)の商標登録がされているからといって,本願商標に自
他商品識別力があると認めることはできない。
オ 原告は,本願商標と同一のデザインを表示した商品を多数生産,販売し\nた実績があり,今後も生産していく予定であると主張し,原告代表\者の陳述書(甲
27)には,平成27年3月以降,原告は,本願商標と同一のデザインを施したT
シャツ,靴下,トートバック,キーホルダー等のアパレル雑貨や,土産用の菓子な
ど約10万点を生産し,実店舗を中心に販売したこと,原告は,平成30年以降,
「I love JAPANプロジェクト」を始めること,本願商標と同一のデザインの商標
について商標登録を受けており,これらの商標については,他社に対して使用を許
諾し,使用許諾先では本願商標と同一のデザインの商品を6万点ほど生産中で,今
後は20万点以上の規模で生産することを計画していることなどの記載がある。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは,既に判示したとおり
であって,上記の陳述書の記載によってもこの判断は左右されない。
(4) 以上によると,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(裁量権の逸脱,濫用)について
原告は本件拒絶査定及び本件審決は平等原則に反し,裁量権の範囲を逸脱,濫用
している旨主張する。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは既に判示したとおりで
あり,本願商標と同種の商標が登録されている点についても,前記1(3)エのとおり
であるから,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に違
法な点はない。
◆判決本文
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2020.06.12
令和1(行ケ)10145 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所(3部)
商品「みそ」について商標「天地返し仕込」が識別力があるかが争われました。知財高裁は識別力なしとした審決を維持しました。
上記ウ(ア)によれば,味噌の製造工程においては,「天地返し」とは,味
噌の発酵・熟成の過程で味噌の上下方向の位置を入れ替えることを意味し,
味噌の熟成ムラを防いで全体の品質を均一にするなどの効果があることが
理解でき,同(5)〜(8)のとおり,「天地返し」を商品の品質を示すものとし
て表示した味噌が複数販売されている。また,上記ウ(ア)(1)(4)(5)及び(イ)に照らせば,味噌を取り扱う業界におい
ては,「仕込(み)」の語は,必ずしも,前記イ記載の辞書的意味である
「酒や味噌・醤油などの醸造で,原料を混ぜて桶などにつめること。」と
して使用されているものではなく,味噌の製造工程における作業や手間等
を表示するものとしても使用され,また,「仕込(み)」の語の前に,味噌の品質等に関する文字や原材料等を表\示する文字が結合された場合には,「仕込(み)」の部分は,「醸造された商品(味噌)」と同旨の意味合い
でも使用されているといえる。
そうすると,「天地返し仕込」の文字を指定商品である味噌に使用した
場合,取引者,需要者をして,「製造工程において上下方向の位置の入れ
替えがされた味噌」という商品の品質を表したものと認識されるものであると認められる。\n
(2) 以上に加え,上記(1)アのとおりの本願商標の構成に照らせば,本願商標は,商品の品質を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であり,商標法3条1項3号に該当するということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,味噌の製造工程において,天地返しをして仕込むという工程は存
在しないから,「天地返し仕込」は一種の造語であり,自他識別性を有して
いるから,品質を表したものとは認識されないと主張する。しかし,「仕込」の語が味噌を取り扱う業界において,必ずしも「原料を混ぜて桶などにつめ\nること。」の意味で使用されているものではないのは上記(1)エに説示したと
おりである。また,本願商標の指定商品である味噌の需要者には一般消費者
が含まれるところ,一般消費者が,味噌の製造工程において,天地返しをす
る対象が醸造された味噌なのかその原料なのかといった点に着目するとは解
し得ない。これによれば,味噌の製造工程において,天地返しをして仕込む
という工程が存在するか否かは,上記判断を左右するものではない。
◆判決本文
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2020.04. 2
令和1(行ケ)10135 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所
「AI介護」について識別力無しとした審決が維持されました。
前記(3)のとおり,「AI」の語は,多くの新聞やウェブサイト等におい
て,「人工知能」を意味する言葉として使用されていること,その中には,「AI」の語の意味を説明せずに「AI」とのみ表\記されているものもある(甲3,4)ことからすると,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られているものと認められる。\nそして,前記(3)のとおり,介護の分野において人工知能である「AI」を活用することに関する新聞やウェブサイトの記載が多数あると認められるが,一方で,証\n拠上,介護の分野において,「AI」という語を人工知能以外の意味で使用している例があるとは認められないことからすると,介護の分野において「AI」の語を使\n用した場合は,その「AI」は,人工知能を意味するものと認識されるというべきである。\n前記(3)のとおり,新聞やウェブサイト等においては,「AI介護」の語が,AI
を活用した介護という意味で,「AI介護ソフト」の語が,AIを活用した介護のためのソ\フトウェアという意味で,「AI介護事業」の語が,AIを活用した介護事業という意味で,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語が,AIを活用した
介護用ロボットという意味でそれぞれ使用されていることからすると,「AI」の語
に名詞が続いた場合は,当該「AI」は,「AIを活用した」との趣旨で使用され,
また,そのような使用法が一般的に受け入れられているものと認められる。
以上からすると,本願商標の「AI介護」からは,AIを活用した介護という意
味合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,本願の指
定役務である「介護」の質を示すものと認識するため,本願商標は,自他役務識別
力を欠くというべきである。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ
る。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の「AI」の語は「愛」のローマ字読みであり,本願
商標からは,「愛の介護」というような意味合いを生じると主張する。
しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られていること,「愛」をローマ字読みで表\記する場合に,「I」の文字を大文字で表記することは不自然であることからすると,「AI」の語は,通常,「エーアイ」と発音され,人工知能\を意味するものと認識されるというべきであり,「愛」と認識されるとは認められない。このことは,本願の商標出願・登録情報表示において,「AI介護」の称呼を,第1に「アイカイゴ」としていることによって左右され\nない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,(1)「AI介護ロボ」,「AI介護ロボット」,「AI介護活用」,「A
I介護ソフト」及び「AI介護のウェルモ」の各語は,「AI介護」の文字を分離抽出して観察すべきではない,(2)前記(3)の新聞やウェブサイト等に記載された役務
は,商標法上の役務ではないか,本願の指定役務である「介護」には当たらず,非
類似の役務である,(3)上記新聞やウェブサイト等の記載内容は,目標を記載したも
のや開発段階のものであり,AIが介護現場で現実に使用されたことの記載ではな
い,(4)甲4,乙20〜22の見出しは,本文の記事にふさわしくないと主張する。
しかし,「AI介護ソフト」の語がAIを活用した介護のためのソ\フトウェアを
意味し,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語がAIを活用した介護用
ロボットを意味することは,前記(4)イ認定のとおりである。また,「AI介護活用」
は文字どおりAIを介護に活用するという意味である。取引者,需要者は,これら
について,「AI介護」とそれに続く「ソフト」,「ロボ」,「ロボット」又は「活用」とを分離して認識するというべきである。\nまた,「AI介護のウェルモ」の語について,取引者,需要者が,「AI介護」
と「ウェルモ」を分離して認識することは明らかである。また,商標法3条1項3
号の商標に該当するというためには,当該商標が,取引者,需要者において同号が
規定する商標に当たると認識されることで足り,当該商標が,その指定役務又は類
似する役務において実際に使用されている必要はないところ,前記(4)のとおり,「A
I介護」という語からは,AIを活用した介護という意味合いが生じ,「AI介護」
という語は,取引者,需要者において,本願の指定役務である「介護」の質を示す
ものと認識されるのであり,新聞やウェブサイト等の記載内容が,目標を記載した
ものや開発段階のものであるとしても,この認定が左右されることはない。
さらに,甲4,乙20〜22の見出しの「AI介護」の語がAIを活用した介護
という意味で用いられていることは明らかであって,そのことは本文の記載によっ
て左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,「AI」と「介護」の語は,共に,多義的であり,漠然とした
意味合いにとどまっているから,取引者,需要者である介護事業者・介護サービス
の利用者が「AI介護」の文字に接して,「AIを活用した介護」であると認識する
ことはないと主張する。
しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,種々の意味を有するが,通常は,「人
工知能」を意味し,しかも,「AI」の語が「人工知能\」を意味することは一般的に
知られているといえるから,「AI」の語が漠然とした意味合いにとどまり,「AI
介護」の語を「AIを活用した介護」であると認識できないということはない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,乙13〜17,22は,本件審決後に作成されたから,証拠と
することはできないと主張するが,乙13〜17,22の記載が公表された日は,前記(3)のとおりであり,いずれも本件審決の前であると認められるから,原告の上
記主張は理由がない。
オ 原告は,「AI」を「アイ」と称呼している出願例もあると主張する(甲
14,15)。
甲14の登録商標は,その一部に「ai」の語を,甲15の登録商標は,その一
部に「AI」の語をそれぞれ含むものであるが,本願とは異なる登録例であり,商
標の構成も本願とは大きく異なるから,本願について,「AI」は,通常「エーアイ」と発音され,人工知能\を意味するものと認識されるとの前記(4)の認定を左右し
ない。
◆判決本文
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2020.03.30
令和1(行ケ)10119 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月11日 知的財産高等裁判所
色彩のみからなる商標について,識別力なしとして3条1項6号違反とした拒絶審決が維持されました。3条2項の適用も使用している商標とは異なるとして否定されました。
前記(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)本願商標は,橙色の単色の色彩
のみからなる商標であり,本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえ
ないこと,(2)橙色は,広告やウェブサイトのデザインにおいて,前向き
で活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており,不動産の
売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトにおいても,ロゴマー
ク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景等を装飾する色彩とし
て普通に使用されていること,(3)原告ウェブサイトのトップページにお
いても,別紙2のとおり,最上部左に位置する図形と「LIFULL H
OME’S」の文字によって構成されたロゴマーク,その他の文字,白\n抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,
バナー等の色彩として,本願商標の橙色が使用されているが,これらの
文字,図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはい
えないことを総合すると,原告ウェブサイトに接した需要者においては,
本願商標の橙色は,ウェブサイトの文字,アイコンの図形,背景等を装
飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり,本願商標
の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建
物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして認識するものと\n認めることはできない。
したがって,本願商標は,本願の指定役務との関係において,本来的
に自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を有しているものと認める\nことはできない。
イ これに対し原告は,原告ウェブサイトは,不動産総合ポータルサイトの
トップブランドとしての確固たる地位を築いており,本願の指定役務の分
野においては,周知著名であること,我が国において,全国規模で種々の
取引形態の不動産物件を掲載する一定規模以上(掲載物件数が常時100
万件以上)の不動産総合ポータルサイトとしては,原告のほか,リクルー
トグループが提供する「SUUMO(スーモ)」,大東建託が提供する「い
い部屋ネット」,オウチーノが提供する「O−uccino」,ヤフーが
提供する「ヤフー不動産」,アパマンが提供する「アパマンショップ」,
アットホームが提供する「athome(アットホーム)」があるが,各
不動産総合ポータルサイトは,それぞれイメージカラーを施しており,例
えば,原告は橙色,「SUUMO(スーモ)」は緑色,「いい部屋ネット」
は赤色,「O−uccino」はピンク色,「ヤフー不動産」は赤色,「ア
パマンショップ」は濃青色,「athome(アットホーム)」は紅赤色
といった棲み分けがされているため,不動産総合ポータルサイトに接する
取引者,需要者は,色によるポータルサイトの識別が可能な状況ができて\nおり,本願商標の橙色は,原告ウェブサイトと即座に認識,理解をすると
いう取引の実情があることを考慮すると,本願商標は,その指定役務との
関係において,本願商標の橙色が独立して,本来的に自他役務の識別機能\nないし自他役務識別力を有する旨主張する。
しかしながら,ポータルサイトとは,一般に,「インターネットを利用
する際,まず最初に閲覧されるような,利便性の高いウェブサイトの総称」
(「大辞林」第三版)であるところ,前記(1)ア認定のとおり,本願の指定
役務の需要者は,住宅やマンションなどの不動産物件の購入,賃借等を検
討している一般の消費者であり,このような需要者は,ポータルサイトで,
必要な情報に関する検索を行い,その検索結果に基づいて,不動産業者等
に対し,掲載物件についての問合せをしたり,不動産業者等から紹介を受
けるなどして,不動産取引を行うのが通常であることからすると,このよ
うな需要者は,不動産の売買,賃貸の仲介等を行う不動産取引業の需要者
と同一であるか,又は重複するものと認められる。
そして,原告が主張するように掲載物件数が常時100万件以上の不動
産総合ポータルサイトが日本全国の不動産情報を網羅しているとしても,
不動産総合ポータルサイトと他の不動産業者が開設するウェブサイトとは,
インターネット上で不動産情報を入手するための入口であるという点で共
通し,不動産関連の情報を提供するというサービスの内容が密接に関連し
ていることに照らすと,上記需要者において,これらが質的に異なるもの
と認識するものと認めることはできない。
また,不動産物件を探す者は,まず,不動産総合ポータルサイトを介し
て不動産情報にアクセスするのが取引の実情であることを認めるに足りる
証拠はない。
そうすると,仮に原告が主張するように原告ウェブサイが不動産総合ポ
ータルサイトのトップブランドとして周知著名であり,各不動産総合ポー
タルサイトがそれぞれイメージカラーを施しており,それらの色による棲
み分けがされているとしても,不動産総合ポータルサイトに接する需要者
が,色彩のみによってポータルサイトを識別可能な状況にあるものと認め\nることはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において採用することができ
ない。
(2) 使用による識別力の獲得について
ア 原告ウェブサイトにおける使用について
前記1(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年から13年間にわた
り,原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこ
とが認められる。
しかしながら,他方で,前記(1)ア(ウ)(1)ないし(3)のとおり,本願商標の
橙色は特異な色彩であるとはいえないこと,橙色は,広告やウェブサイト
のデザインにおいて,前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に
利用されており,不動産の売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイ
トにおいても,ロゴマーク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景
等を装飾する色彩として普通に使用されていること,原告ウェブサイトの
トップページにおける本願商標の橙色の使用態様は,上記不動産業者のウ
ェブサイトと同様に,ロゴマーク,その他の文字,白抜きの文字及びクリ
ックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,バナー等の色彩として
本願商標の橙色が使用されているが,これらの文字,図形等から分離して
使用されていたものといえないことに鑑みると,原告による原告ウェブサ
イトにおける本願商標の使用の結果,本件審決時(審決日令和元年7月3
1日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポ
ータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するもの\nとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認める
ことはできない。
イ 原告のテレビCMにおける使用について
前記1(2)のとおり,原告のテレビCMが,平成26年5月から同年10
月までの間,平成27年1月から9月までの間,平成30年4月及び5月
に,全国各地の放送局で放送されたことが認められるが,一方で,甲27
に係るテレビCM以外には,それらの各放送において本願商標の橙色が具
体的にどのような態様で使用されていたのかを認めるに足りる証拠はない。
また,甲27に係るテレビCMは,キャラクターの絵,「LIFULL
HOME’S」の文字や図柄等に橙色が使用されているものであって,原
告ウェブサイトのトップページの画像自体が映し出されたものではないか
ら,上記テレビCMを視聴者が本願商標の橙色と原告ウェブサイトに係る
役務とを関連付けて理解するものとは認めることはできない。
ウ 原告の売上高について
原告は,本願商標の橙色と原告が展開する不動産情報の提供に関する事
業との間には密接かつ直接的な関係が存在するものといえるから,本願商
標の橙色の存在が原告の事業の売上げに多大な貢献をしている旨主張する。
しかしながら,本願商標の橙色と原告の事業との間には密接かつ直接的
な関係が存在することを認めるに足りる証拠はなく,原告の事業の売上高
が高額であるからいって,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に
係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識\nされていたことの根拠になるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ アンケート調査結果について
(ア) 原告が提出するアンケート調査結果について検討するに,第1次調
査(甲30)は,「不動産・情報サイト」の名称として「LIFULL
HOME’S」や「HOME’S」と記載した228人を対象として,
本願商標の橙色を見せ,思い浮かべた不動産・住宅情報サイトの名称を
記載させるという方法によるものであるから(前記1(3)ア),その対象
者は,調査前から原告ウェブサイトの名称を認識していた者に限定され
ており,しかも,本願商標の橙色を示す前の段階で,原告ウェブサイト
の名称を示され,いわば正解をほのめかされた状態で回答しているとい
えることから,原告ウェブサイトの名称を記載する回答する者が高い確
率で現れるのは当然であるというべきである。
したがって,第1次調査の結果を採用することはできない。
(イ) 次に,第2次調査(甲33)では,回答方法として,本願商標の橙
色の画像を示して,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」,
「HOME’S(ホームズ)」,「SUUMO(スーモ)」,「at h
ome(アットホーム)」,「マイナビ賃貸」,「CHINTAI(チ
ンタイ)」,「この中にはない・わからない」の選択肢の中から,「不
動産・住宅情報サイト・アプリ」を1つ選択させるという方法によって
おり,理由を示すことなく選択する形式のため,偶然,「LIFULL
HOME’S(ライフルホームズ)」又は「HOME’S(ホームズ)」
を選択する可能性を排除できず,かつ,原告ウェブサイトの選択肢とし\nて「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」及び「HOM
E’S(ホームズ)」の2つが掲げられている以上,偶然に原告ウェブ
サイトを選択する確率は,必然的に高くなるというべきである。にもか
かわらず,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」と回
答した者が13.2%,「HOME’S(ホームズ)」と回答した者が
41.8%と,その合計は55%とさほど高くなく,むしろ,「SUU
MO(スーモ)」と回答した者が16.3%,「at home(アッ
トホーム)」と回答した者が10.9%,「この中にはない・わからな
い」と回答した者が14.5%と,一定の割合を占めており,「SUU
MO(スーモ)」と回答した者及び「この中にはない・わからない」と
回答した者の割合は,「LIFULL HOME’S(ライフルホーム
ズ)」と回答した者の割合を上回っている。このような事情に照らせば,
第2次調査の結果を採用することはできない。
オ まとめ
以上によれば,原告は,平成18年から13年間にわたり,原告ウェブ
サイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと,原告のテレ
ビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても,本件審決時(審決日令和
元年7月31日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務
に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表\n示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたも
のと認めることはできないから,本願商標は,その使用により自他役務の
識別機能ないし自他役務識別力を獲得したものと認めることできない。\nこれに反する原告の主張は理由がない。
◆判決本文
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2020.02.20
令和1(行ケ)10125 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年2月12日 知的財産高等裁判所
指定商品は第11類「対流形石油ストーブ」について、「三つの略輪状の炎の立体的形状」を付する位置が特定された位置商標について、識別力無しと審決が維持されました。
商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,\n用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する
物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格\nを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けるこ\nとができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売
地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表\示として誰も
がその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益
上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場
合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許\nさないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能を\nより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選
択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標\n識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形
状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\
や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択さ\nれたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資す\nることを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用すること
を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定
の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採\n用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用\nいられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するの
が相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎
の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状
の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,
本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原
告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,か
つ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表\面凸凹部を形成するとともに耐熱
性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の\n金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発
する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る
特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状
の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部\nがレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果が
ある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合
物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せ\nしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた
沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向か
ら届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効
果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美
しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むもので
ある。」(4段落の8行〜24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には
別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるとい
う機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予\測される
範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願
商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標で
あると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ
る。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標と同一又は類似する商標が同業他社によって使用され
ていないことやグッドデザイン賞を獲得していることなどから,本願商標は,「独占
不許商標」や「自他商品識別力欠如商標」に該当しないと主張する。
しかし,本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当することは,前記(2)のとお
りであって,原告が主張する事実は,同号に該当するとの上記判断を左右するもの
ではない。
イ 原告は,本願商標は,物理的な形状ではなく,石油ストーブの部品の形
状でもないから,模様に近いものであり,商標法3条1項3号の「商品の形状」に
は当たらないと主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本願商標は,三つの略輪状の炎からなる立体的形状の
位置商標であることは明らかである。そして,立体的形状は,商標法3条1項3号
の「商品の形状」に当たるから,本願商標の立体的形状も同号の「商品の形状」に
当たるというべきである。
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2019.12. 3
令和1(行ケ)10086 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年11月26日 知的財産高等裁判所
立体商標について、識別力無しとの無効審判請求について、知財高裁(4部)は無効理由なしとした審決を維持しました。
前記アの認定事実を総合すると,ヘニングセンがデザインした本件商品の立体的形状は,被告による本件商品の販売が日本で開始された1976年(昭和51年)当時,独自の特徴を有しており,しかも,本件商品が上記販売開始後本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において継続して販売され,この間本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果,本件商標の登録出願時までには,本件商品が日本国内の広範囲にわたる照明器具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られるようになり,本件商品の立体的形状は,周知著名となり,自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められる。そうすると,本件商品の立体的形状である本件商標が本件商品に長年使用された結果,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時(登録審決日・平成27年12月15日)において,被告の業務に係る商品であることを表\示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,本件商標は,商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するものと認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件商品(「PH5」)は,デンマークのデザイナーであるヘニングセンがデザインした商品として,宣伝され,評価され,販売されてきたものであるから,PH5の立体的形状である本件商標は,ヘニングセンがデザインしたランプシェードの立体的形状として周知であるにとどまり,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,周知であるということはできない旨主張する。\nしかしながら,前記(2)イ認定のとおり,被告は1976年(昭和51年)から本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において本件商品を継続して販売し,その間,本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われてきたことに照らすと,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,原告の上記主張は採用することができない。\n
イ 原告は,PH5に係る商標権,著作権等の知的財産権は,ヘニングセンに帰属するから,被告は,ヘニングセン及びその相続人から,商標権の譲渡を受け,又は使用許諾を受けていなければ,本件商標の商標登録を受けることはできない,PH5のデザインは,外国において商標登録されておらず,知的財産権の権利者が死亡し,パブリックドメインとなっているから,商標登録をさせてはならず,被告の本件商標の商標登録は無効とすべ
きである旨主張する。しかしながら,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については,商標登録を受けることができる旨を定めたものであるところ,原告の上記主張は,同条2項の文言の解釈に基づかないものであるから,その主張自体理由がないというべきである。
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>> 商4条1項各号
>> 立体商標
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2019.07. 5
平成31(行ケ)10004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年7月3日 知的財産高等裁判所(1部)
アルファベット2文字「EQ」について商3条1項5号には該当するとしたものの、同2項が適用されて、識別力ありとして、識別力無しとした審決を取り消しました。出願人は「メルセデス・ベンツ」を販売しているダイムラーです。
前記(2)認定のとおり,本願商標は,世界有数の自動車メーカーである原告が,
電動車ブランドを示す商標として採択したものであること,原告は,モーターショ
ーにおいて,「EQ」を新しい電動車ブランドとして公表するとともに,「EQ」ブラ\nンドのコンセプトカーを発表し,各モーターショーの展示内容等は多くの自動車専\n門雑誌や自動車関連情報のウェブサイトにおいて紹介され,雑誌の発行部数は,多
いものでは23万部に達していること,原告は,原告ウェブサイトや顧客向け定期
機関誌の記事,全国紙での新聞広告等によって,原告の電動車ブランド「EQ」につ
いて宣伝を行ったことが認められる。
また,上記の雑誌等の記事の中には,原告の「EQ」ブランドの紹介に特化したも
のもあること(甲29の6・10,35〜37),原告の顧客向け定期機関誌の発行
部数は,平成30年度には年間17万部に達していることも勘案するなら,著名な
自動車メーカーである原告の発表する電動車やそのブランド名に注目する取引者,\n需要者が類型的に存在することが認められる。
そして,広告宣伝の具体的態様も,前記のとおり,原告ウェブサイトやブックレ
ット等では,「メルセデス・ベンツは約1年前のパリモーターショーで『コンセプト
EQ』を紹介すると同時に,『EQ』という新ブランドを立ち上げることを発表した」\n(甲9の1),「メルセデスの新ブランド『EQ』が目指す,クルマと人との未来」
(甲9の2),「新たな電気自動車ブランドとして“Electric Intel
ligence”を示す『EQ』が誕生します」(甲48)などと宣伝され,雑誌や
ウェブサイトの記事等においても,「電気駆動のモデルに特化したメルセデス・ベン
ツのサブブランド『EQ』」(甲29の9),「『EQ』は,メルセデスベンツが2016年に立ち上げた電動パワートレイン車に特化した新ブランド」(甲31),「EQブ
ランド」(甲4,29の10・21,31,40等),などと紹介されており,本願商
標が原告のブランドの名称であることが強調されている。
以上によれば,本願商標については,著名な自動車メーカーである原告の発表す\nる電動車やそのブランド名に注目する者を含む,自動車に関心を持つ取引者,需要
者に対し,これが原告の新しい電動車ブランドであることを印象付ける形で,集中
的に広告宣伝が行われたということができる。加えて,本願商標は,本件審決時ま
でに,出願国である英国及び欧州にて登録され,国際登録出願に基づく領域指定国
7か国にて保護が認容されており,世界的に周知されるに至っていたと認められる
ことも勘案するなら,本願商標についての広告宣伝期間が,パリモーターショー2
016で初めて公表された平成28年9月29日から本件審決時(平成30年9月\n7日)までの約2年間と比較的短いことや,原告が平成29年から販売している「E
Q POWER」との名称のプラグインハイブリッド車の販売台数が多いとはいえ
ないこと等の事情を考慮しても,本願商標は,原告の電動車ブランドを表す商標と\nして,取引者,需要者に,本願商標から原告との関連を認識することができる程度
に周知されていたものと認められる。
(4) 被告の主張について
ア 被告は,本願商標は,電動自動車の抽象的なブランド名ではあるが,単独で
車名として採択されておらず,販売実績もない上,原告の広告宣伝活動が行われた
のはわずか2年間で,一般の需要者に周知されているというには十分とはいえない\n旨主張する。
しかし,商標が,単独で車名として採択されていないとしても,原告が電動車の
ブランド名として本願商標を採択し,商品のシリーズ名やブランド名として使用す
るに先立って,強力な広告宣伝を行ったことにより,当該商標が,需要者にブラン
ドとして認識され,識別力を獲得することはあるというべきである。
また,本願商標についての広告宣伝期間は確かに約2年間であるが,期間が短く
ても,集中的に広告宣伝がされることにより,識別力を獲得できる場合はある。そ
して,著名な自動車メーカーである原告の発表する電動車やそのブランド名に注目\nする取引者,需要者が類型的に存在すると認められることは前記のとおりであり,
本願商標を原告の業務に係る標章であると認識している取引者,需要者が相当程度
存在するといえるから,本願商標は,広く知られるに至ったと認めるのが相当であ
る。
イ 被告は,「E」(e)及び「Q」の欧文字を組み合わせた欧文字2字は,本願の
指定商品に含まれる自動車及び二輪自動車と関連する商品分野において,原告以外
の者によっても採択,採用されているから,本件指定商品の分野において,本願商
標の原告による独占使用が事実上容認されているとまではいえないと主張する。
確かに,平成24年9月26日以前にトヨタ自動車の電動自動車「eQ」が公表\nされたことが認められる(乙7)。しかし,同標章が本件審決時において使用されて
いることを認めるに足りる証拠はなく,過去に電動自動車の商品名として使用され
た標章があることをもって,原告による独占使用の容認が否定されるとはいえない。
また,現代自動車の「ジェネシス」ブランドの超大型ラグジュアリーセダン「EQ
900リムジンモデル」(乙8),鄭州日産のライトトラック「EQ1060」(乙9),Laufennのプレミアム超高性能夏タイヤ「S Fit EQ」(乙12),ア
ルパインのカーナビ「EX11Z−EQ」(乙13),TOWNIEの電気自転車「7
DEQ」,「3iEQ」(乙14),ALIBIの自転車「ALIBI SPORT E
Q」(乙15)は,いずれも「EQ」の欧文字と他の欧文字や数字等が組み合わされ
た標章であって,品番や型式を示すものと解され,英国日産自動車製造の小型乗用
車「プリメーラ」の開発コードである「EQ」(乙10)は,開発コードであるから,
いずれも何人かの出所を表すものとはいえない。\nしたがって,これらの他者による「EQ」の使用を考慮しても,本願商標に登録商
標としての保護を及ぼすことを否定すべきとはいえない。
ウ よって,被告の主張はいずれも採用できない。
3 結論
以上のとおり,本願商標は,商標法3条1項5号の極めて簡単で,かつ,ありふれ
た商標に該当するものの,同条2項の使用をされた結果需要者が原告の業務に係る
商品であることを認識することができるものに該当するから,商標登録をすること
ができないとした本件審決には誤りがある。
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2019.06. 6
平成30(行ケ)10176 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年5月30日 知的財産高等裁判所
「再起動器を含む電源制御装置」を含む商標(商標「リブーター」)について、審決は無効理由なしと判断しましたが、知財高裁(2部)は、再起動機能有するものは識別力無し、それ以外は品質誤認(4条1項16号違反)と判断しました。
審決は、”「リブーター」は,特定の商品の名称を表すものとして一般に広く使用されているといった事実は認められないから,「リブーター」の文字が,本件商標の指定商品を取り扱う業界において,商品の品質等を具体的に表\すものとして取引上普通に使用されていると認めることはできない”と判断していました。
前記1のとおり,「リブート」は,「reboot」という英語を片仮名で
表した語であるところ,「reboot」は,再起動するという意味の動詞であり(当\n裁判所に顕著な事実),また,「リブート」は,コンピュータなどを再起動すること
を意味する語として,各種の用語辞典(用語事典)に掲載されており,さらに,多
くの雑誌やウェブサイト,さらには公開特許公報にも,上記の意味で使用されてい
ることからすると,「リブート」という語は,再起動することを意味する普通名称で
あると認められる。そして,前記1(4)で認定した事実からすると,情報・通信の技
術分野では,英語を片仮名で表した言葉が非常に多く存在すること,一般的に,英\n語の動詞の語尾に「er」,「or」等を付することにより,当該動詞が表す動作を\n行う装置等を意味する名詞となり,「エディタ」,「エンコーダ」,「カウンタ」,「デコーダ」,「プリンタ」,「プロセッサ」等,動詞を名詞化した語も多数存在することが認められるから,情報・通信の技術分野に属する者は,「リブーター」から,「re
boot」の語尾に「er」を付した語である「rebooter」を容易に思い
浮かべるものと認められる。
さらに,前記1(2),(3)で認定した各事実からすると,コンピュータやルーター
等の機器を再起動する装置の需要があり,実際にそのような装置が販売されている
ことが認められるところ,前記1(2)のとおり,このような再起動装置を「リブータ
ー」又は「リブータ」と呼ぶ例があることが認められる。これに対し,本件証拠上,
「リブーター」の語が,他の意味を有するものとして使用されているという事実は
認められない。なお,前記1(4)ウ,エで認定したウェブサイトの記載によると,情報・通信の技術分野においては,英語を片仮名表記した場合は,語尾の長音符号を省く慣例があるものと認められるから,語尾の長音符号を有するか否かで別の語になるというこ\nとはできず,上記の「リブータ」も「リブーター」も同一の語であるということが
できる。
以上からすると,情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」
及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるもの\nというべきである。
したがって,「リブーター」は,再起動装置の品質,用途を普通に用いられる方法
で表示する語と認められるから,指定商品が再起動装置又は再起動機能\を有する電
源制御装置である場合は,本件商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するとい
うべきである。
一方,再起動機能を有さない電源制御装置が指定商品である場合は,本件商標は,\n同号の商標には該当しない。
(2)ア これに対し,被告は,「チーター」を,「cheat」に「er」を加え
た言葉とはいえず,これと同様に,「リブーター」を,「reboot」に「er」
を加えた言葉と解することはできないと主張する。
しかし,動物である「チーター」の英語は,「cheetah」であるから,語尾
に「er」を加えた言葉ということはできない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ また,被告は,甲4文献及び甲6サイトでは,リブーターの機能等の説\n明もされており,このことは,リブーターという語のみからは,その機能等が理解\nできないことを意味する旨の主張をする。
しかし,前記(1)で判示したとおり,情報・通信の技術分野においては,リブータ
ーという語は,再起動する機能を有する装置と理解されるのであり,このことは,\n甲4文献や甲6サイトの記載によって左右されないというべきであるから,被告の
上記主張は理由がない。
ウ なお,被告は,甲38文献に記載された「リブーター」は何を意味する
か理解できないと主張するが,前記1(2)カで認定した甲38文献の記載からすると,
同文献におけるリブーターは,再起動の機能を有する装置であると理解でき,少な\nくとも,再起動の機能を有さない他の装置を意味するものとは認識できないから,\n「リブーター」が再起動装置とは異なる別の物を意味する語として使用されている
ということはない。
・・・
(1) 前記2のとおり,情報・通信の技術分野においては,通常,「reboot
er」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解され\nるところ,再起動機能を有さない電源制御装置に,「リブーター」という語を使用す\nると,需要者,取引者は,当該電源制御装置が再起動機能を有しているものと誤解\nするおそれがあるというべきである。
したがって,指定商品が再起動機能を有さない電源制御装置である場合は,本件\n商標は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり,商標法4条1項16号の商標に
該当するというべきである。
本件商標は以下の通り
商標 リブーター(標準文字)
登録番号 第5590686号
出願日 平成25年2月8日
登録日 平成25年6月14日
指定商品
第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電気通信機械器具,測定機械器具,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電子応用機械器具及びその部品」
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2019.04. 3
平成30(ワ)4954 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 平成31年3月14日 大阪地方裁判所
図形+「TeaCoffee」の結合商標についての商標権侵害事件です。被告は、TeaCoffeeと文字部分のみ使用していました。大阪地裁は、文字部分だけでは識別力無しとして、非類似と判断しました。
原告商標の文字部分,すなわち「TeaCoffee」の語は,頭文字の「T」の文字
だけでなく,「C」の文字も大文字で表記されており(甲2),「Tea」は「茶,紅
茶」を,「Coffee」は「コーヒー」を意味する英単語としていずれも日本社会にお
いてよく知られていることに照らせば,取引者,需要者は,これを「Tea」と
「Coffee」の2語を接続した語と認識すると認められる。
b ところで,前記(ア)aで認定した別紙「複数の原材料を組み合わせた飲料の
商品名等一覧表」のとおり,複数の原材料を組み合わせた飲料の商品名等について\nは,原材料を構成する物の名前を接続した語とする例が数多く見られる。そして,\nその中には,「ミルクコーヒー」,「Cafe au Lait」,「ミルクティー」,「レモ
ンティー」等のように,既に一つの日本語として定着している語がある。また,特
定の業者ではなく缶飲料やペットボトル飲料を販売する大手各社が,紅茶とその他
の原材料を組み合わせた飲料として「アップルティー」,「梅ティー」,「レッド
グレープティー」等,抹茶と牛乳を組み合わせた飲料として「抹茶ラテ」,ほうじ
茶と牛乳を組み合わせた飲料として「ほうじ茶ラテ」等,その他として「ゆずはち
みつ」,「はちみつレモン」等のように,様々な組合せの語を使用している。また,
飲料の名前から生じる認識を検討するに当たっては,このような大手各社が販売す
る飲料だけでなく,「最新アイスドリンク」(乙32,33),「New Arrange
Drink」(乙33)などとして,実際に創作的か否かはともかく,創作的な飲料を
提供しようとしていることがうかがわれるカフェのメニューで使用されている例も
参考になり得るところ,同別紙のとおり,「ハニーレモンティーソーダ」,「ピー\nチゼリーティ−」,「アイスマンゴーティー」があるほか,「抹茶ミルク」,「ゆ
ず緑茶」,「ほうじ茶ジンジャエール」,「ソイマンゴー」,「バナナ酢ミルク」\n等のように,メニュー名自体は,原材料を構成する物の名前を単に接続した語が使\n用されている。
これらの多数の例において,各原材料の語自体は,食用又は飲用に供される物の
名前として一般に認識されている語であるから,上記の各商品名等に接した取引者,
需要者は,それらの語の間に,「と」,「+」,「×」などといった,ある物にあ
る物を加えるとか,ある物とある物を掛け合わせるといった際に用いられる文字や
記号が使用されていなくても,それらの飲料がそれらの原材料を組み合わせた飲料
であると認識すると推認される。
c 以上は,飲料一般についてのものであるが,茶(日本茶,紅茶)とコーヒー
を組み合わせた飲料等については,別紙「茶とコーヒーを組み合わせた飲料等の販
売開始時期や商品名等一覧表」記載のとおり,原告商品が販売される以前からその\nような商品やメニューが少なからず存在し,その中には,「お茶コーヒー」(同別
紙の番号1),「抹茶カフェオレ」(同3),「コーヒーほうじ茶」(同6。ティ
ーバッグの形で販売されていた〔乙17〕。),「グリーンティーコーヒー」(同
9),「ほうじ茶カプチーノ〜黒蜜添え〜」(同10),「抹茶カプチーノ」(同
13),「ほうじ茶カプチーノ」(同13),「ほうじ茶珈琲」(同18。ティー
バッグの形で販売されていた〔乙16〕。)という,茶を意味する語とコーヒー等
を意味する語を接続しただけの商品名等のものがあったほか,料理レシピとしても,
「緑茶コーヒー」(同14,17)という,茶を意味する語とコーヒーを意味する
語を接続しただけの名前のものがあったと認められる。しかも,このような茶とコ
ーヒーを組み合わせた飲料等は,1)大手缶コーヒー業者である日本コカ・コーラ社
(同5,8)やJT社(同7),2)大手コンビニエンスストアチェーンであるファ
ミリーマート(同9),3)コーヒー等のドリップバッグ商品の通信販売業者である
ブルックス(同12),4)カフェ店であるカフェ・ド・クリエ(同10)という,
飲料等の販売形態を細分化して見れば業界を異にする,それぞれの業界において著
名な業者等から,販売されていただけでなく,日本コカ・コーラ社からは第1弾商
品が販売された約6か月後に第2弾商品を販売されるほどのものであった。
これらからすると,「TeaCoffee」との表記に接した需要者,取引者が,それが\n複数の原材料を組み合わせた他の飲料の商品名等と同様に,「Tea」と「Coffee」
を組み合わせた飲料等を意味すると認識することに妨げはなく,そのように認識す
ると認めるのが相当である。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,お茶入りコーヒーについて「TeaCoffee」というネーミングはされ
ておらず,取引者,需要者に「Tea」のような「Coffee」であるのか,「Tea」と
「Coffee」を融合させたものであるのかなどという想像を膨らませるものであるか
ら,自他商品識別力を有すると主張する。
確かに,原告商品が販売される前から存在した茶とコーヒーを組み合わせた飲料
等の販売等に当たっては,茶とコーヒーを組み合わせることが新しい試みであると
いう趣旨の宣伝文句が常套文句になっており,被告商品の販売が開始される際にも
「コーヒーと茶葉の新しい組み合わせ!」などという宣伝文句を用いられているこ
と(甲5)に照らせば,被告が被告商品の販売を開始するまでの時点(平成30年
4月)においても,茶とコーヒーを組み合わせた飲料等は定番のものになっていな
かったと認められる。また,本件において,原告商品が発売されるまでに,茶とコ
ーヒーを組み合わせた飲料等について「TeaCoffee」という名前が使用された例が
あるとは認められない。したがって,「TeaCoffee」という名前が,茶とコ
料名を接続した商品名等とすることが一般によく見られるものであることからする
と,取引者,需要者がそのような商品名等に接した場合には,そのような原材料の
組合せが飲料等として想定し得ないものでない限り,その飲料等がそれらの原材料
を組み合わせたものであると認識することは自然なことである。そして,茶とコー
ヒーの組合せが飲料等として想定し得ないものとはいえない上,それらを組み合わ
せた飲料等において,その組合せの新規さをうたいつつ,その商品名等として
「茶」を表す語と「コーヒー」を表\す語を接続したものが多数見られてきたのも,
その商品名等によってその飲料等がそれらの原材料を組み合わせたものであると認
識されることを多くの業者が前提としてきたことによるものと解される。
したがって,お茶入りコーヒーのネーミングとして「TeaCoffee」が一般的でな
いという原告の主張を前提としても,「TeaCoffee」との語は,原告商標の指定商
品について使用するときには,商品の品質(内容)又は原材料を直接的に示すにす
ぎないものとして,自他商品識別力を有しないと認めるのが相当である。
・・・・
(d) このように原告商標の文字部分(「TeaCoffee」)は,それと同じ称呼がさ
れ得る「teacoffee」,「TEACOFFEE」及び「ティーコーヒー」を含めて見ても,そ
もそも使用されている頻度が低い上に,使用されても,自他商品識別標識であると
認識され得る別の表示(京茶珈琲)とともに使用されていたり,記述的表\示である
と認識され得ることにつながりかねない表示(TEA×COFFEE)とともに使用されて
いたりするなど,自他商品識別標識であるとは認識されにくい形で使用されてきた
ことが多いといえる。
以上の点を踏まえると,「TeaCoffee」の語が,原告による原告商品の販売に伴
って原告商品を指すものとして自他商品識別力を獲得するに至ったとは認められな
い。
ウ 以上からすると,「TeaCoffee」の語は,被告が使用する標章の使用時点に
おいて,原告商標の指定商品である「茶,コーヒー,茶入りコーヒー,コーヒー
豆」に使用されるときには,茶とコーヒーを組み合わせた飲料等の商品の品質(内
容)又はその原材料を記述的に表示しているものとして,取引者,需要者によって\n一般に認識されるものであって,自他商品識別力を欠くものというべきである。し
たがって,原告商標の構成中,「TeaCoffee」の文字部分については,原告商標の
要部ということはできないから,原告商標については,「TeaCoffee」の文字部分
と図形部分から成る全体の構成が一体となって,初めて自他商品識別力を有するに\n至っているものというべきである。
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2019.03.12
平成30(行ケ)10143 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成31年2月27日 知的財産高等裁判所(1部)
商標「LOG」について、審決は識別力ありと認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。指定役務は「建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介」及び第37類「建設工事,建築工事に関する助言」です。
商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「役務の…質,提供の用に
供する物…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当する\nというためには,需要者又は取引者によって,当該商標が,当該指定役務の質又は
提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得ることをもって足\nりるというべきである。そこで,本件商標の査定時において,本件商標が,本件役務の需要者又は取引者によって,本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得るか否かについて検討する。\n
(2) 「LOG」の使用状況
ア 役務の主体を表示するものとしての使用\n
証拠(各項末尾掲載のもの)によれば,本件商標の査定日以前において,次のと
おり,役務を提供する主体の名称の一部に,「LOG」が使用されていたことが認
められる。
・・・
イ 役務の客体を表示するものとしての使用\n証拠(各項末尾掲載のもの)によれば,本件商標の査定日以前において,次のと
おり,役務の提供の用に供する物の名称の一部に,「LOG」が使用されていたこ
とが認められる。
・・・・
オ 以上によれば,本件役務に関する分野では,本件商標の査定日以前において,
役務の提供の用に供する物の内容について,それが丸太で構成される建物等である\nことを表示するために,その役務の主体や客体の名称の一部に,「LOG」と社会\n通念上同一と認められる「Log」「log」が数多く使用されるとともに,丸太
で構成される建物等に関するものであることを表\示するために,「Log」が他の
単語と組み合わさって使用されていたということができる。
・・・・
ウ 「丸太」を想起する過程
被告は,「LOG」が「丸太」の意味を認識させるのは,「ハウス」といった特定
の言葉と結合し,あるいは関連付けられた場合のみであり,「LOG」から「丸太」
の意味が一義的に想起されるものではないなどと主張する。
しかし,本件役務の提供の用に供する物は建物それ自体であり,かつ,前記(2)
ないし(4)で認定したとおり,本件役務の分野において,「LOG」,「ログ」などが,
丸太で構成される建物等と関連付けられて使用されている事実は多数に及ぶもので\nある。そうすると,「LOG」が建物に関する単語と結合し,又は建物に関連付けられているか否かにかかわらず,「LOG」自体が,本件役務によって提供される
建物の種別について,丸太で構成される建物等という一定の内容を示しているであ\nろうと需要者又は取引者に明らかに認識させるというべきである。たとえ,「LO
G」が,建物に関する単語と結合し,又は建物に関連付けられることで,丸太で構\n成される建物等を想起させることがあったとしても,「LOG」のみからも,本件
役務によって提供される建物の種別について,本件役務の需要者又は取引者に一定
の内容を想起させるものである。
したがって,「LOG」から「丸太」の意味が一義的に想起されないなどの被告
の前記主張は,結論に影響するものではない。
(7)小括
このように,本件商標の査定時において,「LOG」は,本件役務の提供の用に
供する建物の種別について,ログハウス,ログキャビンなどの丸太で構成される建\n物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを,本件役務の\n需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる。したがって,本
件商標は,その査定時において,本件役務の需要者又は取引者によって,本件役務
の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得る。\nよって,「LOG」は本件役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる
方法で表示するものというべきであるから,「LOG」のみからなる本件商標は,\n本件役務との関係において,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
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2018.12. 1
平成30(行ケ)10060 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成30年11月28日 知的財産高等裁判所
パラマウントベッドの形状の立体商標の登録について、識別力無し、3条2項の適用もなしとした審決が維持されました。
(イ) 前記(1)イ(ウ)認定のとおり,マットレス付き原告ベッドは,原告ベ
ッドの機能(底板の背部の背上げ機能\及び膝部の膝上げ機能,土台の傾\n斜機能)の組合せにより,本願商標と同一の形状をとることができるこ\nとからすると,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は,その
使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識する
機会があり得るものといえる。
しかしながら,本願商標は,別紙1記載のとおり,ベッドの土台が,
頭側を上にして傾斜し,ベッドの底板が,頭側を上にして足側にかけて
全体としてS字状に屈曲し,背部が立ち上がり,腰部から足部にかけて
の中間の膝部が起伏し,かつ,頭側の端部がヘッドボードの上端部の右
方に近接して位置した形状であり,マットレス付き原告ベッドを本願商
標と同一の形状とするには,原告ベッドの上記機能を組み合わせて,土\n台の傾斜角度,底板の背部の立ち上げ角度及び膝部の起伏の高さなどを
調節して設定する必要があること,マットレス付き原告ベッドの利用者
は,通常は,マットレスの上に布団をかけた状態で原告ベッドを使用す
ることに照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は,
その使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識
する機会は多いものとは認められないし,また,その形状を認識したと
しても,それが印象に残ることは少ないものと認められる。
さらに,原告は,本社及び全国8支店のショールームに原告の総合カ
タログ(甲1)及び単品カタログ(甲2)を常備し,マットレス付き原
告ベッドを展示して,販売活動を行っていること(甲5,弁論の全趣旨)
に照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者は,その購入の際に,
総合カタログ及び単品カタログに接することがあり得るものと認められ
るが,総合カタログ及び単品カタログには,別紙1の下部の写真と同様
の構図(斜視図)の写真は掲載されていないため,総合カタログ及び単\n品カタログのみから,本願商標と同一の形状を認識することはできない。
また,上記ショールームにおいてマットレス付き原告ベッドが本願商標
と同一の形状で展示されていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の新聞
広告及び雑誌広告には,1)人が横たわっている,マットレス,枕及び掛
け布団を設置した,底板及び土台が頭側に傾斜した状態のマットレス付
きベッドを表したB商標,2)マットレス,枕及び掛け布団を設置した,
土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のマットレス付き
ベッドを表したD商標,3)マットレス及び枕を設置した,土台が頭側に
傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のベッドに人が枕に頭をのせ,
背中を付けて座っているマットレス付きベッドを表したE商標の写真が\n掲載されていることは,前記ア(イ)認定のとおりである。
しかしながら,これらのB商標,D商標及びE商標の写真は,人,枕
及び掛け布団が写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標の
形状の写真と一致しないことに照らすと,B商標,D商標及びE商標を
掲載した新聞広告及び雑誌広告から,本願商標と同一の形状又は社会通
念上同一の形状を認識することはできないものと認められる。
また,同様に,マットレスの設置されていない,土台が頭側に傾斜し,
底板の背部が立ち上がった状態のベッドを表したA商標が掲載された新\n聞及び雑誌から,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識することはできないものと認められる。
次に,マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の
テレビCMには,マットレスの足元側にカバーをつけたマットレス付き
ベッドにおいて,土台が水平で,土台が頭側に傾斜した状態,底板及び
土台が頭側に傾斜した状態,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上
がった状態を表したF商標の画像,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が\n立ち上がった状態のマットレス付きベッドを表した標章の画像が表\示さ
れていることは,前記ア(ウ)認定のとおりである。
しかしながら,これらのF商標及び上記標章の画像は,マットレスの
足元側のカバーが写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標
の形状の写真と一致しないことに照らすと,F商標及び上記標章が表示\nされたテレビCMから,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形
状を認識することはできないものと認められる。
(エ) 前記ア(エ)のとおり,本件アンケートは,福祉用具レンタル卸業者,
貸与業者及び販売業者,ケアマネージャー(介護支援専門員),福祉用
具鑑定士,福祉用具プランナー等を対象者とするものであり,介護用品
の利用者及びその家族等の一般需要者が対象者に含まれていないから,
本件アンケートの結果は,需要者(前記(ア))の認識を適切に反映した
ものとは認められない。
(オ) 以上によれば,原告によるマットレス付き原告ベッドの販売(前記
ア(ア)),新聞広告,雑誌広告及びテレビCMによる広告宣伝(前記ア(イ),
(ウ)),本件アンケートの結果(前記ア(エ))を総合考慮しても,本件
審決時(審決日平成30年3月22日)までに,本願商標が,マットレ
ス付き原告ベッドを表示するものとして,需要者の間に広く認識される\nに至ったものと認めることはできない。
したがって,本願商標は,マットレス付き原告ベッドについて,「使
用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する
ことができるもの」(商標法3条2項)に該当するものとはいえない。
ウ 原告の主張について
原告は,1)本願商標は,極めて斬新で特徴的な形状(「傾斜ベッド」と
「フットボード」の形状)を有しており,その特徴的な形状は,強く需要
者の目を引くこと,2)本願商標の使用商品(マットレス付き原告ベッド)
は,発売後短期間に多数の販売実績を上げていること,3)積極的,集中的
かつ商品形状の露出を前面に押し出した効果的な本願商標の使用商品の宣
伝活動とも相まって,需要者である福祉用具レンタル事業者において,本
願商標の特徴的な形状は,印象的かつ鮮明に記憶され,その特徴的な形状
自体が原告の出所を表示する標識として認識されるに至っており,このこ\nとは,本件アンケート調査の結果によって裏打ちされていることからする
と,本願商標は,本願商標の使用商品について,「使用をされた結果需要
者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」
(商標法3条2項)に該当すると主張する。
しかしながら,上記1)のうちの「傾斜ベッド」の形状とは,土台の傾斜
機能により,フットボード側が低くなった形状をいうものであるところ,\n原告が述べるように土台の傾斜機能は従来の介護用ベッドにない機能\であ
るとしても,本願商標の構成全体の中で土台が傾斜した形状が強く需要者\nの印象に残るものとは認められない。また,上記1)のうちの「フットボー
ド」の形状とは,樹脂製のボードを採用し,全体に丸みをつけて,ボード
の上端がつかまりやすいグリップ形状となっている点及び外側に「収納カ
バー」が設けられ,木目調のシートが貼ってある点をいうものであるとこ\nろ,グリップできるように,フットボードの上部左右に穴を設けた形状及
びフットボードの一部に木目調の模様がある形状は,他の介護用ベッドに
おいても採用されている形状又は装飾であって(乙4ないし6,14,1
5),いずれも独特なものとはいえず,強く需要者の目を引くものとは認
められない。
そして,マットレス付き原告ベッドの販売実績及び広告宣伝,本件アン
ケートの結果を総合考慮しても,本件審決時(審決日平成30年3月22
日)までに,本願商標が,マットレス付き原告ベッドを表示するものとし\nて,需要者の間に広く認識されるに至ったものと認めることはできないこ
とは,前記イ(オ)で説示したとおりである。したがって,原告の上記主張は,理由がない。
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2018.03.29
平成29(行ケ)10170 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成30年3月22日 知的財産高等裁判所
3文字アルファベットの商標「PPF」が識別力あるかが争われました。審決では無効理由無しでしたが知財高裁はこれを取り消しました。審決は、”「PPF」の文字からなる本件商標は、上記2のとおり、本件商標の登録出願日前の使用に係る情報は、わずかに3件のみであり、多くの者が品質等を表示する語として取引に使用しているということはできないものであるから、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能\を十分に果たし得るものというべきである。”と判断していました。結論が変わったのは、追加の証拠を出したんでしょうね。審決では証拠が甲22までしかないようですが、取消訴訟では甲55まであります。
上記(2)ア及びオによれば,外国における本件商品の主要メーカーのウェ
ブサイトでは,本件商品を指す用語として「paint protection film」及び
「PPF」の語が特段の注記もなく使用されており,自社商品を識別する
ために,3M社は「Scotchgard」,Avery Dennison社は「AWF
1500シリーズ」,XPEL社は「XPEL ULTIMATE」等といった独自の商標を
用いていることが認められる。さらに,インターネット上の百科事典とい
えるウィキペディア(英語版)には,「Paint protection film」の項目に,
「PPF」の語と共に本件商品の説明が記載されている(なお,ウィキペ
ディアは,誰もが自由に記事を執筆できるものであるが,正確性を担保す
るための一定の仕組みが構築されているし(甲45の2から45の4),\n本件において問題となっている項目の記載内容は,本件商品の主要メーカ
ー等のウェブサイトにおける記載と整合しているから,信用するに足りる
ものというべきである。)。これらの事実によれば,英語圏においては,
本件商標の登録査定当時,「paint protection film」の語は本件商品の一
般的名称として,「PPF」の語はその略称(「paint protection film」
の各単語の頭文字を組み合わせたものであることは明らかである。)とし
て,それぞれ使用されていたと認めるのが相当である。
ウ そして,上記(2)イからエにおいて認定したとおり,本件商品の国内メー
カーや施工業者のウェブサイト,雑誌の記事及び広告,ブログの投稿記事
において,本件商品が,アメリカ発の先端的商品としてしばしば紹介され,
かつ,その記事の中で,本件商品を指す用語として,「ペイントプロテク
ションフィルム」,「PPF」,「ペイント・プロテクション・フィルム
(PPF)」の各語が繰り返し使用されていたことも明らかである。
そうすると,本件商品の取引者や需要者は,本件商標登録査定当時,(2)
イからエに認定したような国内の記事を通じて,あるいは,(2)アに認定し
た国外の商品紹介記事等に直接接することによって(アにおいて認定した
とおり,本件商品の需要者は,高級車や外国車を保有する消費者であるか
ら,車やその美観の維持等について関心や意識が高いことが予想され,ま\nた,取引者は,そのような需要者を相手とする業者であることを考えると,
国内の記事に関心を持った需要者や取引者が,国外の情報をも得ようとす
ることは十分に考えられるところであるし,現に,そのようなことが起こ\nっていたことがうかがわれる。),「ペイントプロテクションフィルム」
は,車の保護フィルムである本件商品一般を指す言葉であり,「PPF」
はその略称であると認識していたものと認められる。
エ この点,ゲンロク平成27年9月号から平成28年3月号にかけて掲載
された被告の広告には,いわゆるチェックマークと「Yes!PPF P
AINT PROTECTION FILM」を組み合わせて意匠化した
ロゴと,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF:ピーピーエフ)」
の語が記載されているところ(甲57の10から57の12),これらの
広告のみを見る限りにおいては,「PPF」の語が,被告の販売・施工す
る自動車用車体・ガラス保護フィルムの出所識別標識として使用されてい
るとみる余地もある。
しかし,これらの広告は,本件商標の登録査定日の約半年前からされた
ものにすぎず,それ以前からされている他者による「PPF」の語の使用
状況に鑑みると,本件商品の取引者及び需要者においては,「PPF」の
語が本件商品の一般的な略称として用いられていたとの判断を左右するに
足りないというべきである。
オ 以上によれば,本件商品の取引者及び需要者は,本件商標の登録査定時
において,「PPF」の語を本件商品の一般的な略称と認識していたと認
めるのが相当である。
◆判決本文
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2018.01.19
平成29(行ケ)10155 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成30年1月15日 知的財産高等裁判所
立体商標について、識別力無し(3条1項3号)とした審決が維持されました。また、3条2項の主張も認められませんでした。
商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮\nさせたり,商品等の美観をより優れたものとする等の目的で選択されるものであっ
て,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるもので\nはない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,
多くの場合,それ自体において出所表示機能\ないし自他商品識別機能を有するもの,\nすなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,\n商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等
により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために
選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別す\nるために選択されたものと認識する場合は多くない。
そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美観に資することを目的として採\n用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普
通に用いられる方法で使用する標章のみから成る商標として,商標法3条1項3号
に該当することになる。
また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に\n関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願した
ことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当で
ない。
よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機
能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得る範囲のもので
あれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきで
ある。
・・・・
イ 一般的な杭の形状との対比
本願の指定商品である杭については,先端を円錐状に尖らせ,頭部の先端(打込
部)を円盤状に平らにした,長い棒状の形状から成る商品が市販されていることが
認められる(甲1,123,乙4,5,9〜19)。
この点,原告は,一般的な杭は,頭部から先端までが同一径の円管で,鉄パイプを
切断しただけの状態のものである「単管杭」であり,本願商標をこれと対比すべき
旨主張するが,かかる「単管杭」のみならず,先端を円錐状に尖らせ,頭部の先端を
円盤状に平らにした長い棒状の杭も市販されているから,原告の主張は採用できな
い。
・・・・
(ウ) そうすると,本願商標に係る立体的形状は,杭の形状として,機能又は美観\nに資することを目的として採用されたものと認められ,また,需要者において,機
能又は美観に資することを目的とする形状と予\測し得る範囲のものであるから,商
品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみから成る商標として,商標
法3条1項3号に該当するというべきである。
・・・・
前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表\n示する標章のみから成る商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用
により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができ
ることを規定している。
そして,立体的形状から成る商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどう
かは,1)当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,2)当該商標が
使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情
を総合考慮して判断すべきである。
なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実
質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持する\nため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照ら
すと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存
在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるもので
あったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得する
に至っているか否かを判断すべきである。
(2) 本願商標に係る商品の形状及び当該形状に類似した他の商品の存在
本願商標は,指定商品である杭の立体的形状に係るものであり,その形状は,(ア)
円柱状の中央部分から頭部と先端部に向けて,円錐状の絞り加工部分があり,(イ)頭
部側,先端部側ともに,絞り加工部分の途中に1本の外周線があり,(ウ)頭部側につ
いては,外周線を越えた後も絞りは続くが,絞り切る前に,絞り加工部分より大径
のリング部分及びリング部分より小径の台形部分があり,これが頭部の末端となり,
(エ)先端部についても,外周線を越えた後も絞りが続くが,絞り切る前に,絞り加工
部分より大径のリング部分及び絞りの線よりも鋭角の線による円錐部分があり,こ
れが先端部の末端となるというものであるところ,前記1のとおり,円柱状の中央
部分(上記(ア)),頭部の末端の台形部分(上記(ウ)),先端部の末端の円錐部分(上
記(エ))から成る杭は,他にも市販されている。また,上記(ア),(ウ),(エ)の頭部と
先端部に向けた絞り加工や,上記(エ)の絞り加工より大径のリング部分,上記(イ)の
外周線も,機能又は美観に資することを目的とする形状と予\測し得る範囲のもので
あって,本願商標は,杭の形状として通常採用されている範囲を大きく超えるもの
とまではいえない。
さらに,本願商標と実質的に同一の形状から成る複数の杭が,第三者の取扱いに
係る商品として販売されていること,原告は,これに対して何らの権利行使も行っ
ていないことも認められる(乙20〜22,弁論の全趣旨)。
したがって,原告商品の立体的形状自体が他の商品にない特徴的なものであると
はいえない。
・・・・
以上のとおり,1)原告商品の立体的形状は,他の同種商品にはない特徴的なもの
とはいえないこと,2)一定の販売実績を挙げてきたものの,そのシェアは不明であ
り,実用新案権や意匠権が存在していたこと,原告商品の広告宣伝展示が継続して
行われたとしても,取引者,需要者は,併せ使用された「くい丸」の文字商標に注目
して自他商品の識別を行ってきたと認められること,これらの事情を総合すると,
原告商品の立体的形状が,文字商標から独立して,その形状のみにより自他商品識
別力を獲得するには至っていないというべきである。
したがって,本願商標は,使用をされた結果自他商品識別力を獲得し,商標法3
条2項により商標登録が認められるべきものということはできない。
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2017.12.13
平成29(行ケ)10110 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成29年11月27日 知的財産高等裁判所
商3条の識別力無しとした審決が維持されました。争点は、「MORI」の下に「MOTO」とローマ字表記することが、『森本』という氏を普通に用いられている方法で表\示しているかどうかでした。裁判所は「格別特徴的であるとまではいえない」と判断しました。
次に,本願商標の表示方法について検討するに,本願商標は,前記のと\nおりありふれた氏である「森本」と同一の称呼観念を有する語をローマ字
表記にした上,「mori」と「moto」を上下二段に分けて配置した\nものであり,その字体も,文字の角を丸めたやや太めの書体を採用したに
すぎないものである(Fontworks社のスーラEBという特定の書
体を採用した点についても,同社のウェブサイト〔乙35,36〕におい
て,同書体がDTP〔デスクトップパブリッシング〕の代表的な書体であ\nり,近年多くの場所で使用されている旨謳われていることからすれば,格
別特徴的であるとはいえない。)。
商取引において,氏や名称をローマ字で表記することは,一般的に行わ\nれていることであるし,標章の構成文字を複数の段に分けることや,構\成
文字の書体をある程度デザイン化することも特段珍しいことではなく,表\n示上格別の工夫を凝らしたものであるとはいえない(これらのことは逐一
立証するまでもない公知な事実であり,被告提出の乙6ないし34からも
明らかといえる。なお,これらの書証の中には,必ずしも原告と同じ業界
でないものの例も含まれているが,複数の業界を跨いで同じような例があ
るということは,それだけ一般的に行われていることを示すものといえる
から,これらの証拠を総合して取引の実情を認定したとしても何ら差し支
えない。)。
したがって,上記の程度の表示態様(外観)では,いまだ「森本」の氏\nとは別の称呼観念が生じ得るほどに(すなわち,独占の弊害を生ずるおそ
れがないといい得るほどに)特徴的であるということはできず,本願商標
は,外観上も,ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示する域を\n出ないものと評価するのが相当である。
よって,この点に関する審決の認定判断に誤りはない。
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2017.10. 7
平成28(行ケ)10266 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成29年9月27日 知的財産高等裁判所(1部)
カジノで用いるトランプ繰り出し装置の形状を立体形状とした商標出願が、識別力無し(3条1項3号違反)と判断された審決が、維持されました。3条2項の主張もなされましたが、我が国では使用されていないので否定されました。判決文の最後に形状が掲載されています。
前記(1)によれば,本願商標の形状と一般的なカードシューの形状とは,横長の箱
状であり,上面をなだらかに傾斜させるとともに,前面を傾斜させ,半円状の開口
部が設けられているという点において共通するものであり,その共通する形状は,
トランプを格納して,上から一枚ずつ取り出せるカード容器の基本的な形状であっ
て,トランプ繰り出し装置という機能を効果的に発揮させるために通常採用されて\nいる形状であることが認められる。
そして,本願商標の立体的形状は,全体として曲線を輪郭として用いていること
など,一定の特徴的形態を有するものであるけれども,このような曲線を輪郭とす
るカードシューは,他にも存在するのであって(乙4,11),通常採用されてい
る形状の範囲を超えるものとまでは認められず,本願商標に接した需要者が,商品
の美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認\nめられる。
また,本願指定商品は,「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認
識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログ\nラムを内蔵してなる」ものであるところ,前記認定のとおり,ランプやボタン等
は,電子的にトランプカードを識別認識してゲームの結果を表示する,又は電子機\n器を制御するために設けられたものであると認められる。このような電子的な機能\nを有する商品には,その機能を発揮させるために,ランプやボタン,スイッチ等を\n搭載することが通例であるといえ,本願商標のランプやボタン,スイッチ等の特徴
的形態については,本願商標に接した需要者が,商品の機能を効果的に発揮させる\nことを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認められる。\n以上によれば,本願商標の立体的形状は,客観的に見れば,機能又は美感に資す\nることを目的として採用されたものと認められ,また,需要者において,機能又は\n美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであるから,\n商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商\n標法3条1項3号に該当するものと認められる。
・・・
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,こ
のような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章,あるい\nは,商品等の形状を表示する標章であって,取引に際し必要適切な表\示として何人
もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益
上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場
合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによる\nものである。また,商標法3条2項は,同条1項3号に該当する商標のように,本
来は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと
もに,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであっても,\nその使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができるものについては,自他商品識別力を獲得したものとして,例外的
に商標登録を受けることができる旨を定めたものである。そして,商標法は全国一
律に適用されるものであって,商標権が全国に効力の及ぶ更新登録可能な排他的な\n権利であることからすると,商標法3条2項により商標登録が認められるために
は,同条1項3号に該当する商標が,現実に使用された結果,指定商品又は指定役
務の需要者の間で,特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識される\nに至ったことが必要であると解される(そうである以上,指定商品又は指定役務の
需要者は,通常,全国的に存在していることが前提となるものである。)。上記の理
は,商標法3条1項4号及び5号に該当する商標について,同条2項により商標登
録を受けることができる場合においても異なるところはないといえる。
本願商標及び使用に係る商品の構成態様
本願商標は,前記1 に認定したとおりの構成からなるものであるのに対し,証\n拠(甲1〜4,6,18,22,37,49)及び弁論の全趣旨によれば,原告
は,本願商標と類似する形状の商品「バカラ電子シュー」(本件使用商品)を製造
及び販売しているところ,本件使用商品は,「トランプに内蔵印刷されたトランプ
識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗\nを判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置」であり,本願指定商
品に属するものであること,本件使用商品と本願商標の立体的形状は,ランプの数
や曲面の形状,カード繰り出し口の形状等において若干相違するものもあり,完全
に同一の形状からなるものということはできないものの,実質的に同一性を有する
ものであるといえることなどが認められる。なお,証拠(甲1,2,18,24,
37,41)及び弁論の全趣旨によれば,本件使用商品は,その上面に,看者の注
意を惹くように書された「ANGEL EYE」等の文字が記載されていることが
認められるが,商品等は,その販売等に当たって,その出所たる企業等の名称や記
号・文字等からなる標章などが付されるのが通例であることに照らすと,使用に係
る立体形状にこれらが付されているということのみで,直ちに本願商標の立体的形
状について,商標法3条2項の適用を否定することは適切ではなく,上記文字商標
等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに
至っているか否かを判断するのが相当である。
以上を前提に,本願商標について検討するに,本願商標の立体的形状と実
質的に同一の形状を有する本件使用商品が,輸出専用の商品であって我が国におい
て流通していないことは,当事者間に争いがない。そして,原告が主張するよう
に,本件使用商品が輸出され,又は輸出を前提としてのみ譲渡若しくはそのための
展示がされることにより,本願商標が使用されているとしても,本件使用商品の取
引に関係する者は国内の販売代理店に限定されており,本願商標を原告の出所表示\nとして認識し得る需要者は限られた範囲にとどまるから,本願指定商品の需要者が
全国的に存在していると認められない。のみならず,本件使用商品が輸出されるこ
とにより,諸外国で使用されており,諸外国のカジノ関係者に知られているとして
も,その周知性が我が国に及んでいると認めるに足りる証拠はないから,本願商標
が,現実に使用された結果,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として\n我が国において全国的に認識されるに至ったものと認めることはできない。
したがって,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができる
ものということはできない
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2017.07.14
平成28(行ケ)10252 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成29年6月28日 知的財産高等裁判所
審決は「AKA」が「関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach)」の略であって,整形外科等の役務との関係において「関節運動学を基礎にして開発された治療法,治療技術」を表すものとして、識別力無し、と判断しました。また、それ以外の役務については、識別力および品質誤認の問題なしと判断しました。知財高裁は審決を維持しました。
原告は,本件指定役務中,「医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,
調剤」が同一の類似群コードを付されていることを根拠に,同一類似群コー
ド中の一つの役務で普通名称となっている「AKA」(本件商標)は,同一
類似群コードの他の類似の役務との関係でも質表示となるものと扱われるべ\nきであるから,本件商標は,本件指定役務中,「医業,医療情報の提供」の
みならず,「健康診断,歯科医業,調剤」についても,法3条1項3号に該
当し,同項6号,4条1項16号にも該当すると主張する。
しかしながら,そもそも類似群コードを定める「類似商品・役務審査基準」
は,特許庁における商標登録出願の審査事務等の便宜と統一のために作られ
た内規にすぎず,法規としての効力を有するものではない。したがって,同
一の類似群コードに属するとの形式的事実のみから,直ちに,本件商標が「医
業,医療情報の提供」と同様に「健康診断,歯科医業,調剤」の各役務との
関係においても,質表示に当たるとか,自他役務識別力がないとの結論を導\nくことはできず,かかる結論を導くには,本件商標が上記の各役務との関係
で質表示に当たることその他自他役務識別力がないことを認めるに足りる具\n体的事由の主張立証が必要となるというべきである。
しかるところ,原告は,上記のとおり,同一の類似群コードに属するとの
事実を主張するのみで,上記の具体的事由について何ら主張立証しないので
あるから,これでは,本件商標が上記の各役務との関係で質表示に当たるこ\nとその他の事由により自他役務識別力がないと認めることはできないし,同
様に役務の質の誤認を生ずるおそれがあるということもできない。
よって,理由aは採用できない。
◆判決本文
◆関連事件です。平成28(行ケ)10253
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2017.06. 9
平成28(行ケ)10191 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成29年5月17日 知的財産高等裁判所
商標「音楽マンション」は、商標としての識別力ありとした審決(無効請求棄却)が維持されました。
(1) 本件商標は,「音楽マンション」という文字から構成されているところ,音楽という文字とマンションという文字をそれぞれ分離してみれば,前者が「音によ\nる芸術」を意味し,後者が「中高層の集合住宅」を意味するところ,両者を一体と
してみた場合には,その文字に即応して,音楽に何らかの関連を有する集合住宅と
いう程度の極めて抽象的な観念が生じるものの,これには,音楽が聴取できる集合
住宅,音楽が演奏できる集合住宅,音楽家や音楽愛好家たちが居住する集合住宅な
どの様々な意味合いが含まれるから,特定の観念を生じさせるものではない。そう
すると,「音楽マンション」という文字は,原告が使用する「ミュージション」と同
様に,需要者はこれを造語として理解するというのが自然であり,本件商標の指定
役務において,特定の役務を示すものとは認められない。したがって,「音楽マンシ
ョン」という文字は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができないものとはいえない。
もっとも,原告は,「音楽マンション」という文字がマンションの一定の質,特徴
等を表す用語として使用されていると主張するため,「音楽マンション」という文字が使用されている実情等を踏まえ,以下検討する。
(2) 前記認定事実によれば,原告は,平成12年3月,「音楽マンション川越」,
「ミュージション川越」などと称して,遮音性に優れたマンションを建設し,同マ
ンションは,同年10月13日,「川越の音楽マンション」としてグッドデザイン賞
を受賞したこと,上記マンションは,「新建築」という雑誌,日経産業新聞,日本経
済新聞において「川越の音楽マンション」,「ミュージション川越」として紹介され
たこと,原告は,平成15年2月に「ミュージション志木」という名称で遮音性に
優れたマンション(以下,「上記マンション」と併せて単に「原告マンション」とい
う。)を建設したこと,その後も,「Forbes」,「PIPERS」,「音響技術」,「DIME」,「Home Theater」という各雑誌,全国賃貸住宅新聞,原告代表者執筆に係る「満室賃貸革命」という書籍が,原告マンションを「音楽マンション」として紹介したこと,原告マンションを紹介する以外に,「音楽マンション」という文字を使用したものは,平成元年4月10日の朝日新聞夕刊(大阪)の見出し(「女子学生に音楽マンション」,\n「女子学生用の音楽マンション」としたもの),又は平成16年4月13日の住宅新
報のコラム欄の文章にとどまること,上記住宅新報のコラム欄には,マンションの
コンセプト化が進んでいるという例示として「音楽マンション」という文字が使用
されたにとどまり,これを具体的に説明する文章がなく,上記「音楽マンション」
という文字が特定の意味で使用されたとはいえないこと,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,「音楽マンション」という文字が「音楽の演奏が可能なマンション」というマンションの特定の質を表\す意味で使用された事例は,平成元年4月10日の朝日新聞夕刊(大阪)の見出しに「女子学生に音楽マンション」,「女子学生用の音楽マンション」と使用された一例(甲1の1及び2)にとどまり,そのほかは,いずれも原告が建設した特定のマンションを示すもの,又は上記住宅新報において使用され,特定の質を意味するか不明なものにすぎず,「音楽マンション」という文字が,個別具体的なマンションの意味を超えて,マンションの一定の質,特徴等を表すものとして一般に使用されていたものとは認められない。かえって,原告自身も,前記第2の3によれば,平成14年8月30日,「音楽マ\nンション」につき商標登録出願をしたものの,平成15年5月6日付けで拒絶理由
通知を受けたことから(甲7の1),同年6月23日,意見書を提出しているところ,
同意見書において,「音楽」と「マンション」を並べても「音楽の演奏が可能なマンション」という意味合いが生ずることはなく,上記朝日新聞夕刊(大阪)に掲載さ\nれた「女子学生に音楽マンション」という見出しについても,「音楽」には防音,演
奏という意味を含まないため,上記見出しはどのようなマンションであるかを理解
することができず,「音楽マンション」という文字がマンションの品質に係る役務で
あると認識されることはない旨主張していたことが認められる(甲7の4)。
そうすると,「音楽マンション」という文字は,これが使用されている実情等を踏
まえても,特定の観念を生じさせるものとは認められず,本件商標の指定役務にお
いて,特定の役務を示すものとはいえないから,需要者が何人かの業務に係る商品
又は役務であることを認識することができないものとはいえない。
したがって,本件商標は,商標法3条1項6号に該当するものとは認められない。
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2017.02.28
平成28(行ケ)10178 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成29年2月23日 知的財産高等裁判所(2部)
商標「NYLON」(指定役務35類「被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」)は、識別力が無いとした審決が維持されました。
本願商標は,前記第2の1のとおり,欧文字の大文字「NYLON」を横書
きしたものである。その書体は,原告も自認するとおり,「Futura」と称する
書体を太字で表したものと酷似したものであるが,「Futura」と称する書体は,\nセリフ(文字の線の端につけられる線・飾り)のない書体であるサンセリフ書体の
一種であり,フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「サンセ
リフ」の項において,ジオメトリック・サンセリフ(直線や円弧など,幾何学的な
図形により骨格が形成されているサンセリフ体)の例の筆頭として取り上げられて
いるほか,写真・イラスト,動画素材等のダウンロード素材を販売するウェブサイ
トにおいて,定番フォントの1つとされている(乙4,5,7)。また,文字からな
る標章を太字で表すことも,一般的に行われていることである(乙5〜11)。そし\nて,本願商標は,この書体により概ね同じ大きさで書かれた文字を,概ね等間隔に,
横一列に配置したものである。
そうすると,本願商標は,欧文字の大文字「NYLON」を,一般に知られてい
る書体により,ありふれた大きさと配置で横書きしたにとどまるものであるから,
これに接する需要者をして,外観上,特徴あるものとして強く印象付けられるとは
いえず,欧文字の大文字「NYLON」を普通に用いられる方法で表示する標章の\nみからなる商標と認識されるにとどまるものと認められる。
・・・・
原告は,「NYLON」は,商品の原材料の表示の一部として用いられるこ\nとはあるが,単独で被服,履物,かばん類及び袋物の原材料を表示することはなく,\n本願商標の文字書体により原材料を表示したものもない一方,本願商標は,店舗の\n看板等において単独で使用するものであるから,これに接した需要者は,本願商標
の使用態様を見て,商品の原材料を表示したものではなく,店舗の名称と認識する\nことが可能であると主張する。\nしかしながら,欧文字の大文字「NYLON」が,「ナイロン」,「Nylon」,
「nylon」と同様に,商品の原材料(素材)がナイロンであることを示すため
に用いられていることは,前記2(1)のとおりであり,法令上も,「NYLON」は,
ナイロン繊維を示す表示として「ナイロン」と選択的に用いることが許容されてい\nる。また,本願商標の書体は,一般に知られている書体にとどまり,当該書体によ
り商品の原材料(素材)を表示することが不自然なものとはいえないから,当該書\n体により商品の原材料(素材)を表示した証拠が提出されていないことをもって,\n本願商標に接した需要者が商品の原材料(素材)を表したものと認識し得ない根拠\nとすることはできない。
さらに,本願商標が設定登録された場合,その使用態様は,原告主張のような小
売店舗の看板等において単独で使用する態様に制限されるものではなく,本願役務には,顧客の商品選択が容易となるように,取扱商品の原材料(素材)その他の特
長等を説明することも含まれることからすれば,本願商標をその指定役務の取扱商
品と共に使用する態様も想定されるのであって,本願商標の使用態様を単独で使用
する態様に限定して検討することは相当でない。
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2016.10.14
平成28(行ケ)10109 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成28年10月12日 知的財産高等裁判所
欧文字「HOKOTABAUM」をゴジック体の太字で表した商標について、識別力なしと判断した審決が維持されました。
そして,証拠(乙1〜14)によれば,菓子業界においては,取扱商品としてバ
ウムクーヘンを表示するに際し,「URUOIBAUM」,「HITOTSUGI\nBAUM」,「PREMIUM BAUM」,「This IZU BAUM」,「KO
YAMA´S BAUM」,「WHISKY BAUM」,「WHITE BAUM」,
「EUCALY BAUM」,「ねこバウム」,「TERABAUM」などと,「BA
UM」との文字部分,又はその片仮名表記である「バウム」との文字部分と,その\n他の文字部分を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。
そうすると,本願商標のうち「BAUM」の部分は,需要者又は取引者にバウム
クーヘンを認識させるということができる。
ウ また,本願商標には,「HOKOTA」の欧文字が含まれている。
そして,「HOKOTA」の文字部分は,「ほこた」との称呼が自然に生じるとこ
ろ,証拠(乙15〜17)によれば,「ほこた」との称呼を有する地方自治体であ
る鉾田市が茨城県に所在することが認められる。また,証拠(乙18〜25)によ
れば,鉾田市を表示するに際し,「HOKOTA」又は「Hokota」との欧文\n字を用いることが少なからずあると認められる。
そうすると,本願商標のうち「HOKOTA」の部分は,需要者又は取引者に茨
城県所在の鉾田市を認識させるということができる。
エ 以上のとおり,本願商標は,需要者又は取引者に,「BAUM」の部分は,
バウムクーヘンを認識させ,「HOKOTA」の部分は,鉾田市を認識させるもの
である。
そして,証拠(乙26〜33)によれば,菓子業界においては,取扱商品を表示\nするに際し,「遠野バウム」,「広島バウム」,「箕面バウム」,「琉球バウム」,「原宿バウム」,「御影バウム」と,その商品の生産又は販売がされる地域名と商品名であ
る「バウム」を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。
したがって,本願商標が指定商品に使用された場合,本願商標は,その全体から,
鉾田市を産地又は販売地とするバウムクーヘンという意味を有するものとして,需
要者又は取引者に認識されるものということができる。
(2) 普通に用いられる方法について
本願商標は,「HOKOTABAUM」という欧文字を,ゴジック体の太字で表\nし,さらに,全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させている。
そして,商取引において標章のデザイン化は一般に広く行われるものであるほか,
証拠(乙5〜9,11)によれば,菓子業界においては,欧文字で表した標章を,\n全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させることもあると認められる。
そうすると,本願商標は,特殊なものとはいえず,「HOKOTABAUM」の
欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということができ\nる。
・・・・
原告は,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は取引
者に認識されているとはいえない旨主張する。
しかし,前記のとおり,商標法3条1項3号にいう商標に該当するというために
は,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は\n販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商
標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識され\nることをもって足りるというべきである。
したがって,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は
取引者に認識されているか否かは,本願商標の商標法3条1項3号号該当性の判断
を左右するものではない。
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2016.04.25
平成27(行ケ)10232 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成28年4月14日 知的財産高等裁判所
商標「メロンマルゴトクリームソーダ」が識別力なしとして拒絶されました。指定商品は32類「メロンを用いたクリームソーダ」です。
前記(3)に認定した事実によれば,本件審決日当時,果実を利用した飲料
や菓子等の取引分野において,「まるごと」の語の前又は後に果実を表す語\nを結合した場合,あるいは「まるごと」の語を果実を形容する語として用い
た場合には,「まるごと」の語は,当該果実の果肉や果汁が残さず用いられ
ていることや,当該果実がその形状のまま用いられていること(当該果実が
切り分けられたりすることなく用いられる場合のほか,その外皮部分が容器
等として用いられる場合を含む。)を表す語として,一般に理解されていた\nことが認められる。
そして,本願指定商品である「メロンを用いたクリームソーダ」の取引者,\n需要者には,かかる飲食物の提供者である飲食店や,その提供を受ける一般
消費者等が含まれると考えられるところ,前記⑵のような本願商標を構成す\nる「メロン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語の意義に加え,\n「まるごと」の語が果実を表す語と結合した場合や当該果実を形容する語と\nして用いられた場合の,上記のとおりの一般的な理解の内容に照らすと,本
願商標を構成する「メロンまるごとクリームソ\ーダ」の語は,本件審決日当
時,かかる取引者,需要者によって,「メロンの果肉や果汁が残さず用いら
れたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いた\nアイスクリームソーダ」を意味するものとして,一般に認識されるものであ\nったと認められる。
そうすると,本願商標は,本件審決日当時,本願指定商品である「メロン
を用いたクリームソーダ」に使用されたときは,当該「メロンを用いたクリ\nームソーダ」が「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソ\
ーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソー\nダ」であるという,本願指定商品の品質を表示するものとして,取引者,需\n要者によって一般に認識されるものであり,かつ,取引に際し必要適切な表\n示として何人もその使用を欲するものであったと認められるものであるから,
特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他商
品識別力を欠くものというべきである。
加えて,本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太で\nやや縦長のポップ調の書体で表してなるものであるが,この書体自体は既存\nのものであるし,文字の太さや縦長の形状であることについても,それ自体
はありふれたものの域を出るものではないから,「メロンまるごとクリーム
ソーダ」の文字を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなるもので
あって,特別に自他商品識別力を有するような特殊な構成を有しているとも\n認められない。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められ
る。
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2016.04.20
平成27(行ケ)10217 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成28年3月31日 知的財産高等裁判所
地域団体商標「小鯛ささ漬」は識別力なしとした審決が維持されました。
「小鯛ささ漬」の語は,一般的な辞典には固有名詞等として登載されている
ものとは認められない(乙3,弁論の全趣旨)。インターネット上では,「小鯛ささ
漬」の語は,原告の構成員が販売する商品の商品名として使用されているほか(甲\n12,乙41),「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」の語については,少なくとも,以下のような使用例がある。
(ア) 兵庫県所在の「C商店」のウェブサイトにおいて,「選りすぐりの逸品」の
項に,商品名「小鯛の笹漬」が,「あじの笹漬」「さよりの笹漬」と並んで,笹の葉
の上に魚の切り身を載せた写真とともに表示され,「C商店の名でご支持いただいて\nいる小鯛の笹漬」,「水揚げされたばかりの小鯛などの魚を新鮮さそのままに素早く
加工。昔ながらの製法で作る笹漬は全て手作業です」との説明文が掲載されている
(乙11)。
・・・
オ 上記アないしウによれば,小さな鯛を意味する「小鯛」と,魚の一般的調理
法を示す語である「ささ漬」を組み合わせた「小鯛ささ漬」は,一般的に,「小さな
鯛を三枚におろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの」の意味合いを有す
る複合語として,容易に理解されるものであるといえる。上記エのとおり,「小鯛さ
さ漬」と同一又は実質的に同一の語が,各地方で生産,販売される上記調理法によ
って調理された小鯛を示す名称として一般的に使用されていることも,同語がその
ような意味合いに理解されることを裏付けるものである。
(2) そうすると,本願商標を,その指定商品である「レンコダイのささ漬」に使
用する場合には,これに接する取引者・需要者は,一般的に,「小さな鯛を三枚にお
ろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの。」という原材料,生産方法を記述
したものとして理解,認識するといえる。
したがって,本願商標は,その指定商品の原材料,生産方法を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなるものであるから,法3条1項3号に該当する。\n
・・・
また,確かに,「小鯛のささ漬け」というものは,福井県若狭地方の伝統料理,
名産品の一つであることが認められる(甲3,7,8,乙53。なお,これらの文
献では,名産品としては,「小鯛ささ漬」ではなく,「小鯛のささ漬」〔甲3〕,「小鯛のささ漬け」〔甲7,乙53〕という表示が用いられているものが多い。)。しかし,\n「小鯛のささ漬け」というものが若狭地方の名産品,伝統料理であり,そのような
認識を取引者,需要者が有するとしても,前記1(1)のとおり,「小鯛ささ漬」の語
が,魚の種類と,魚についての一般的な調理法を示す「ささ漬」という一般的な語
を組み合わせたものにすぎず,また,若狭地方以外で生産,販売されている同調理
法によって調理された小鯛についても「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」という名称が一般的に使用されていることからすれば,「小鯛ささ漬」
の語が直ちに「福井県若狭地方の名産品」のみを意味するものと取引者,需要者が
理解するとは認められず,本願商標が,指定商品の原材料,生産方法を普通に用い
られる方法で表示する標章のみからなるものであることを否定する理由とならない。\nしたがって,原告の主張は理由がない。
(2)ア 原告は,ある商標がある特定地域の名産であって,他に同じものを名産と
する地域がなく,かつ,当該名産の名称が当該地域で特定の事業者又は団体構成員\nによって実質的に独占されているのであれば,その名称は「名産品であることによ
って,その名称が自他商品の識別標識」となり得る,審決のような理由で「小鯛さ
さ漬」のような地域名産品が商標法による保護を受けることができないとすれば,
商標法の趣旨に反するなどと主張する。
しかし,原告の主張するとおりの事実があれば,当該商標が自他商品の識別標識
となり得るとしても,それは,法3条2項の該当性の問題と解すべきことは,前記
(1)アのとおりである。そして,一般に,地域名産品の名称については,同項による
商標登録のほか,同法7条の2による地域団体商標の商標登録が考えられるのであ
って,本願商標が法3条1項3号に該当するからといって,商標法の趣旨に反する
などということはできない(なお,本件においては,原告は,法3条2項に基づく
主張をしないことを明らかにしていることは前記第2の4のとおりであり,原告の
構成員による本願商標の使用実績等についての主張立証もしようとしていない。)。\n
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2015.12. 5
平成27(行ケ)10152 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所
「肉ソムリエ」は指定商品・役務との関係で識別力を有しない(3条1項3号)とした審決が維持されました。
原告は,本件審決は,本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有す
る者」程の意味合いを容易に想起させると認定し,これを前提に,本願商標
は商標法3条1項3号に該当する旨判断したが,商標の同号該当性は,取引
者,需要者が,当該商標から,直ちに一義的に指定役務の内容を理解,認識
するにすぎないか否かによって判断されるものであり,比較の対象となるの
は「指定役務」と「標章」のみであるから,本願商標が上記のような意味合
いを想起させるか否かは,同号該当性の判断に当たって無関係であり,本件
審決の上記判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1(1)で説示したとおり,本願商標が,本願指定役務
について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標\n(商標法3条1項3号)であるというためには,本件審決時において,本願
商標が本願指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際\nし必要適切な表示であり,本願商標の取引者,需要者によって本願商標が本\n願指定役務に使用された場合に,将来を含め,役務の質を表示したものと一\n般に認識されるものであれば足りると解されるものであって,取引者,需要
者が,「指定役務」と「標章」のみを比較の対象として,当該商標から,直
ちに一義的に指定役務の内容を理解,認識するにすぎないか否かによって当
該商標の同号該当性が判断されるものであるとはいえないから,原告の上記
主張は,その前提において,採用することができない。
(2) 原告は,1)本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有する者」程の
意味合いを容易に想起させるとの本件審決の認定,2)本願指定役務中「肉の
選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する知識」
は,「肉(食肉)に関する専門知識」の範疇に属するとの本件審決の認定は,
いずれも誤りであるから,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの本
件審決の判断は,その前提となる事実認定に誤りがある旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 上記1)について
原告は,本件審決は,本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有す
る者」程の意味合いを容易に想起させることの根拠となる事情として,本
願商標の構成中の「肉」の文字部分は,「食用とする鳥獣のにく」を意味\nすること,「ソムリエ」の文字は,ワイン以外の分野においても専門的な\n知識を有する者を「○○ソムリエ」(「○○」は商品名)と称して使用さ\nれており,さらに,食品に関する資格やその検定を取り扱う業界において
も,近年,特定の食品分野における一定の専門知識を有する者であること
を証する資格の名称を表すものとして,「○○ソ\ムリエ」(「○○」は食
品名)の語が広く採択されていることを挙げるが,いずれも失当である旨
主張する。
(ア) しかしながら,本願指定役務は,肉(食肉)の分野に関する役務で
あるから,その取引者,需要者が,本願商標の「肉」の文字部分から一
般に食肉を想起することは明らかである。
(イ) また,前記1(2)及び(3)認定のとおり,本願商標を構成する「肉ソ\
ムリエ」の語は,本件審決日当時,取引者,需要者によって,「肉(食
肉)に関する専門的知識を有する者」を意味する語として,一般に認識
されるものであったことが認められる。
この点に関し,原告は,本願商標のように「○○ソムリエ」という構\
成からなる登録商標は,200件近く存在し,特に,「魚ソムリエ」や\n「野菜ソムリエ」については,魚や野菜等に関する知識の教授,資格検\n定試験の実施,資格の認定・授与などを指定役務として商標登録されて
いることは,需要者が,かかる商標から一義的に直ちに指定役務の内容
を理解,認識するわけではないことを裏付けるものである旨主張する。
しかしながら,商標の商標登録の可否は,商標の構成,指定商品又は\n指定役務,取引の実情等を踏まえて,当該商標毎に個別に判断されるも
のであり,原告が指摘するような商標登録事例があるからといって,そ
のことから直ちにそれらの商標とは構成,指定役務の異なる本願商標が,\n取引者,需要者によって,「肉(食肉)に関する専門的知識を有する
者」を意味する語として,一般に認識されるものであったことを否定す
ることはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の上記1)の主張は理由がない。
イ 上記2)について
原告は,肉の調理方法や肉と他の食材との組み合わせについては,専門
性が必要なのは調理や栄養についてであり,「肉」に関する専門知識の範
疇に含まれないから,本願指定役務中「肉の選択方法・肉の調理方法・肉
と他の食材との組み合わせなどに関する知識」は,「肉(食肉)に関する
専門知識」の範疇に属するとの本件審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,「肉ソムリエ」における「肉」が食肉を一般に想起する\nものであり,「ソムリエ」が「客の好みや料理に合わせてワインを選ぶ\n人」(乙4)を想起させるものである以上,その専門的知識は肉の調理方
法や肉と他の食材との組み合わせにも及ぶことが当然に想起されるところ
であり,原告の上記2)の主張は採用することができない。
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2015.11. 6
平成27(行ケ)10019 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年10月29日 知的財産高等裁判所
アルファベットの「i」一文字をデザイン化して,特定の緑色の単色で着色した商標について、識別力なしとした審決が維持されました。3条2項(使用による識別性)も否定されました。
(3) 上記認定事実からすれば,本件審決時である平成26年9月16日におい
て,原告が提供する役務である上場投資信託「iShares」は,その売上高が
極めて大きいことからして,金融商品の需要者・取引者によく知られているものと
認められるが,一方,本願商標は,その使用期間が1年2か月程度と短く,新聞や
雑誌に本願商標を用いた広告(その立体的置物を含む。以下同じ。)を掲載したのは
7回にすぎず,トレードショーなどで本願商標を用いたと認められる事例は本件審
決後を含めても5回に限られ,しかも,本願商標は,原告の役務名である「iSh
ares」や,原告の名称を表す「byBLACKROCK」と共に使用されるの\nが通例であり,本願商標単独で使用されるものとは認められない。
そうすると,本願商標が指定役務とされる役務に使用されたか否かの判断はひと
まず措くとしても,本願商標は,その使用の結果,需要者が原告の業務に係る役務
であることを認識することができるに至ったとは認めるに足りない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の使用回数が多いとはいえなくとも,本願商標がコン
セプトを感じさせるものであること,その使用者である原告が世界最大級の資産運
用会社であること,原告のiシェアーズのサービスが上場投資信託市場のトップブ
ランドであることから,本願商標は取引者,需要者に広く知られている,と主張す
る。
しかし,原告及び原告の提供する役務であるiシェアーズが広く知られていると
しても,本願商標自体が使用されている頻度が低いのであるから,本願商標が取引
者,需要者に広く知られているとは認めることはできない。原告の主張には,理由
がない。
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2015.10.23
平成27(行ケ)10107 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年10月21日 知的財産高等裁判所
指定商品「サプリメント」について、商標「ノンマルチビタミン」は、識別性なし(商3条1項3号違反)と判断されました。
これを本件についてみるに,本願商標は,「ノンマルチビタミン」の片
仮名文字を標準文字で横書きに書してなる商標であり,各構成文字が同じ\n大きさ,等間隔で表されており,外観上一体のものとして把握されるか\nら,本願商標からは「ノンマルチビタミン」の一連の称呼が生じる。
本願商標を構成する「ノン」の語に関し,コンサイスカタカナ語辞典第\n4版(平成22年2月10日発行。乙1の1)には,接頭語として,「
非,無,不,などの意味を表す。」,広辞苑第六版(平成20年1月11\n日発行。乙1の2)には,「(接頭語的に)「非」「無」などの意。」と
の記載がある。加えて,コンサイスカタカナ語辞典第4版には,「ノン」を
用いた用例として,「ノンシュガー」が「(一般に)砂糖の入っていない
こと。」,「ノンアルコール」が「アルコールを含まないもの。」,「ノ
ンオイル」が「食品で,油分・油脂を含んでいないこと」をそれぞれ意味
する旨の記載がある。
・・・
(イ) 前記(ア)によれば,本件審決日当時,本願商標の指定商品である「
サプリメント」の分野において,「マルチビタミン」の語がおおよそ1
0種類ないし13種類といったような複数のビタミンを配合(含有)し
たサプリメントを示す用語として用いられていたことが認められる。
ウ 前記ア及びイによれば,本件審決日当時,本願商標は,その言語構成に\n照らし,「複数のビタミンを含まない」との意味合いを一般に想起させる
ものであって,その指定商品「サプリメント」の取引者や需要者である一
般消費者によって,上記の意味合いを表す語として認識されるものであっ\nたものと認められる。
そうすると,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含ま
ないサプリメント」,すなわち,「1種類のビタミンを成分とするサプリ
メント」又は「1種類のビタミン及びビタミン以外の成分からなるサプリ
メント」に使用されたときは,「複数のビタミンを含まないサプリメント」と
いう商品の内容(品質)を表示するものとして,取引者,需要者によって\n一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示であるものと\n認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でな
いとともに,自他商品識別力を欠くものというべきである。
加えて,本願商標は,標準文字で構成されているから,「ノンマルチビ\nタミン」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもの\nであるといえる。
したがって,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含ま
ないサプリメント」に使用されたときは,商標法3条1項3号に該当する
ものと認められる。
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2015.10. 2
平成27(行ケ)10061 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年9月16日 知的財産高等裁判所
商標「納棺士」について、「納棺師」が周知であることから、識別性力なしとの審決が維持されました。
「納棺師」の語が,納棺の際に執り行われる儀式を
専業的に提供する者を表す語として,葬儀業者,斎場,テレビ番組「NH\nKスペシャル」等のウェブサイトや,新聞,書籍等でも使用されているこ
とが認められる。
他方で,本願商標を構成する「納棺士」の語よりも,広く世の中に知られており,「納棺士」の語は納棺の業務を行う者を表\す語として定着しているとはいえないことからすると,本願商標は,本件役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる\n商標とはいえないから,商標法3条1項3号に該当しない旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 「士」の語には「兵卒の指揮をつかさどる人。また,軍人。兵。」,「近
世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。」との意味もあり(前記(1
)イ(ア)),このような意味で用いられ,語尾に「士」が付される場合とし
ては,「勇士,武士,兵士」のような例はあるが,「弁護士,弁理士,税
理士,栄養士,消防士,航海士,機関士」などのように,その業務や役割
などを表す語に続けて付される場合には,「一定の資格・役割をもった者。」\nとの意味に理解されるのが通常であるから,「納棺」という業務や役割を
表す語に続けて付された「士」の語についても,これと同様に,「一定の\n資格・役割をもった者。」との意味に理解されるものであり,武士の意味
合いを強く発揮し得るものということはできない。
イ 「コトバンク」のウェブサイト(甲31)に,「知恵蔵2015の解説」
として,「納棺師」の語について,「亡くなった人の体を清め,死装束を
着せ,きれいに化粧して棺に納める仕事。葬儀というしめやかな儀式にか
かわる職業のため,あまり知られていなかったが,納棺師を描いた映画「お
くりびと」が第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことで,一躍,
注目を浴びる職業となった。」との記事が掲載され,「webilo」の
ウェブサイト(甲32)に,「納棺師」の見出し語について,「納棺師(の
うかんし)は,死者を棺に納めるために必要な作業と関連商品の販売を行
う職業人である。」との掲載があるほか,証拠(甲9ないし30,33な
いし40)によれば,「納棺師」の語が,納棺の際に執り行われる儀式を
専業的に提供する者を表す語として,葬儀業者,斎場,テレビ番組「NH\nKスペシャル」等のウェブサイトや,新聞,書籍等でも使用されているこ
とが認められる。
他方で,本願商標を構成する「納棺士」の語についても,本件審決日当\n時,その言語構成に照らし,「死者を棺に納める資格ないし役割をもった\n者」との意味合いを一般に想起させるものであり,葬儀業者,遺族等によ
って,納棺の際に執り行われる儀式を専業的に提供する者を表す語として\n認識されるものであったものと認められることは,前記(1)イ(ウ)に認定の
とおりであるから,本願商標は,本件役務である「納棺,納棺に関する相
談,遺体への死化粧の施術」に使用されたときは,その役務が「死者を棺
に納める資格ないし役割をもった者」によって提供されるという役務の質
を表示するものとして,取引者,需要者である葬儀業者,遺族等によって\n一般に認識されるものであり,取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものであったものと認められる。
◆判決本文
◆関連判断です。こちらは「湯灌士」です。平成27(行ケ)10062
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2015.09.18
平成27(行ケ)10085 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年9月17日 知的財産高等裁判所
商標「雪中熟成」は識別性無しと判断されました。
前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「雪中熟成」の語\nは,本件審決当時,「雪の中で熟成すること」等の意味合いを有する語として,
本件指定商品の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認
められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定商品に使用された
ときは,「雪の中で熟成された商品」といった商品の品質又は生産の方法を表示\nするものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,特定人
によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるものであり,自
他商品の識別力を欠くものというべきである。
そして,本願商標は,前記2(1)のとおり,「雪中熟成」の文字を普通に用い
られる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。\n以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,アルコール及び味噌については,発酵食品はその性質上,発酵を
促すために適当な温度の下に貯蔵し,熟成させることが一般的に行われ,果物や
野菜についても,0℃に近い環境下で自身の持つアミノ酸を糖分に分解し凍結し
ないようにするために糖度が増すことが知られており,牛肉についても,近年「熟
成肉」の名称でもてはやされている実情があるのに対して,本件指定商品である
水産物は,一般には鮮度が最も重要視される類の商品であって,牛肉等の畜肉と
比較して,鮮度が落ちやすく,腐りやすい特性を持つことから,その熟成につい
ては,塩・粕・みそ漬け等の調味や乾燥等の調理を加えて熟成することが一般に
行われ,その熟成が管理された冷蔵庫・冷蔵施設等において低温の下で行われて
いるのであって,発酵食品や果物・野菜・食肉は,本件指定商品である加工水産
物,食用魚介類とは性質及び特性が全く異なる商品であるから,「需要者を共通
にする」という理由で,あたかも本件指定商品の取引の実情としてしんしゃくす
ることは許されない旨主張する。
しかし,前記2(4)のとおり,果物,野菜,食肉,味噌,アルコール飲料等の
飲食料品関連の業界分野と,本件指定商品である「加工水産物,食用魚介類(生
きているものを除く。)」を取り扱う業界分野とは,いずれも飲食料品ないし生
鮮食料品を取り扱う業界分野であることから,その取引者,需要者を共通にする
場合も多いことが推認できる。アルコール飲料及び味噌について,発酵を促すた
めに適当な温度の下で一定期間熟成させることが一般的に行われ,果物や野菜に
ついて,0℃に近い環境下で保存することによって糖度が増すことが知られ,牛
肉について「熟成肉」の名称で一定期間熟成させたものが知られていて,これに
対して,本件指定商品が一般には鮮度が最も重要視される類の商品であるからと
いって,各業界分野において取引者,需要者を共通にする場合が多いとの上記推
認が覆るものではない。
◆判決本文
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2015.03. 2
平成26(行ケ)10089 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年2月25日 知的財産高等裁判所
「IGZO(標準文字)」が識別力無しとして無効であるとした審決が維持されました。
ア 本件商標は,「IGZO」を標準文字で表してなるものである。そして,上記2の認定事実によれば,1)「IGZO」の語は,平成7年に,新規な物質として公表された「In(インジウム),Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)及びO(酸素)からなる酸化物」(本件酸化物)を指す語として紹介され,使用されるようになったこと,2)平成16年頃からは,本件酸化物についての研究,開発がディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界の企業等で活発に行われるようになり,平成22年1月に東京工業大学で開催された国際ワークショップには,国内の多数の企業関係者が出席し,本件酸化物(半導体)に関する研究内容を紹介したこと,3)本件商標の登録査定時には,既に,多数の大手企業が,本件酸化物に関する研究開発を実施し,1000件以上の本件酸化物に関する特許出願をしていたのみならず,本件酸化物(材料)自体の製造や,本件酸化物を用いた半導体素子を製造する設備
の展示会等での展示や受注,本件酸化物を使用した技術の開発,実用化に向けた試作等を行っていたものであり,ディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界に属する企業等において,半導体材料としての本件酸化物への関心が高まっていたこと,4)具体的には,本件酸化物を使用したTFTは,当時,液晶テレビ,スマートフォン等の製造に使用される液晶パネルや有機ELパネルの機能を大幅に向上させることが可能\なものとして注目されるとともに,多くの新しい特徴を持つ期待の新材料として,ディスプレイの分野だけではなく,太陽電池,不揮発性メモリー,紫外線センサーの分野での利用も見込まれていたほか,電子荷札(ICタグ)に使用するRFID(無線自動識別)チップ,パワー半導体,小型の電子ペーパーなどの携帯端末における利用の技術開発も進んでおり,本件酸化物を用いた半導体素子の応用開発,研究がされ,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待されていたこと,5)このような本件酸化物の研究開発の進展,広がりに伴って,本件酸化物を指す語としての「IGZO」の語も,本件商標の登録査定時には,既に上記のとおり幅広い企業の特許出願書類中において使用されるようになっていたのみならず,上記企業による製品の開発状況等を報道する新聞,雑誌や企業広報等においても,本件酸化物を指す語として「IGZO」の語が使用されるようになっていたことが認められる。
以上によれば「IGZO」の語は,本件商標の登録査定時には,技術者だけではなく,ディスプレイや半導体を用いる分野のエレクトロニクス業界に属する企業等の事業者において,新規な半導体材料である「インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(本件酸化物)」を意味する語として,広く認識されていたものといえる。
イ そして,本件商標(IGZO)が,その指定商品である「液晶テレビジョン受信機」(本件商標4),「ノートブック型コンピュータ」(本件商標5),「ノートブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ」(本件商標6),「タブレット型携帯情報端末」(本件商標7),「スマートフォン」(本件商標8),「携帯電話機」(本件商標9)について用いられた場合,これらの指定商品は,
いずれもその構成部品の一つとしてディスプレイパネルを含むのが通常であり,また,ディスプレイパネルの性能\が商品の品質に重要な影響を及ぼすものであるから,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,また,需要者の一部にも含まれる者である事業者は,本件商標の表示する本件酸化物が,各指定商品のディスプレイパネルに使用されているものと一般に認識するものといえる。したがって,本件商標4ないし9は,取引者及び需要者が,本件商標4ないし9の指定商品が,商標の表\示するもの(本件酸化物)を原材料の一つとしているであろうと一般に認識するものであるから,指定商品との関係で自他商品識別力を有するということができない。
また,本件商標1の指定商品は,「1)携帯電話機,スマートフォン,タブレット型携帯情報端末,液晶テレビジョン受信機を除く電気通信機械器具及び2)タブレット型携帯情報端末,コンピュータ,ノートブック型コンピュータを除く電子応用機械器具」,本件商標2の指定商品は,「1)電子応用機械器具の部品,2)電池,3)配電用又は制御用の機械器具」であるところ,これらの指定商品に係る商品には広範囲の機械器具やその部品が含まれ得る。例えば,本件商標1の指定商品のうち,上記1)の電気通信機械器具に係る商品には,電気通信機械器具の部品であるディスプレイパネル自体が含まれるほか,ディスプレイパネルがその構成部品の一つとして通常含まれるデジタルカメラやビデオカメラ,半導体素子がその構\成部品の一つとして通常含まれる無線通信機械器具等も含まれ,上記2)の「電子応用機械器具」に係る商品には,電子計算機用ディスプレイ装置が含まれるほか,半導体素子がその構成部品の一つとして通常含まれる電子式卓上計算機,電子辞書等も含まれる。また,本件商標2の指定商品のうち,上記1)の「電子応用機械器具の部品」に係る商品には,トランジスタを含む半導体素子や電子回路自体が含まれ,上記2)の「電池」に係る商品には,ディスプレイパネルを構成部品の一部とすることがある蓄電池が含まれ,上記3)の「配電用又は制御用の機械器具」には,ディスプレイパネルや制御のための半導体素子がその構成部品の一部として通常含まれる配電盤が含まれる。\n
さらに,前記認定事実のとおり,本件商標の登録査定時において,本件酸化物が,現代の多くの電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料で,かつ,その性能\が従来の材料にはないものとして,ディスプレイに限らず,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待され,注目されていたこと,本件酸化物を用いた半導体素子はその用途が研究開発中の新規なものであり,エレクトロニクス業界に属する事業者にとっても具体的な電子デバイスへの適用の仕方は特定されていなかったことからすれば,本件商標を,本件商標1及び2の指定商品の器具等について使用すれば,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,需要者の一部にも含まれる者(なお,本件商標2の指定商品のうち,「配電用又は制御用の機械器具」の主たる需要者は,一般消費者ではなく,事業者であることは原告も自認しており,その余の同商標の指定商品及び本件商標1の指定商品に係る商品にも,事業者が主たる需要者となることが明らかな商品が多数含まれている。)である事業者によって,当該商品が本件商標の表\示する材料(本件酸化物)をその原材料として含んでいるのであろうと一般に認識され得るものといえる。そうすると,本件商標1及び2も,それらの指定商品との関係で自他商品識別力を有するということはできない。
ウ さらに,前記のとおり,本件酸化物が,現代の電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料であり,かつ,その性能\が,ディスプレイパネルを代表とする幅広い範囲の電子デバイスの性能\を向上させ得るものとして期待,注目されており,ディスプレイ分野や半導体分野に関連するエレクトロニクス業界の幅広い企業等において実用化に向けた研究開発がされていたことからすれば,本件商標は,ディスプレイパネルや半導体素子が原材料として認識され得る本件各商標の指定商品に係る商品の取引に際して,必要適切な表示として,何人もその使用を欲するものであるといえるから,特定人によるその独占使用を認めることが公益上適当であるともいえない。\n
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2015.02. 8
平成26(行ケ)10152 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年1月28日 知的財産高等裁判所
商標「湘南二宮オリーブ」は識別力無しとした審決が、維持されました。
本願商標は,「湘南二宮オリーブ」の文字を標準文字で表してなり,その指定商品は「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」である。「湘南」は,神奈川県南部の,三浦半島から伊豆半島に至る相模湾沿岸地域の意味を有する語として,広く知られていること(乙2の1・2),湘南地方内の特定の地域を表\すために「湘南」の文字と湘南地方に位置する地名を組み合わせて表示することも多く行われており(乙3ないし7),同地方内の神奈川県中郡にある「二宮町」を\n
表すものとして,「湘南二宮」との表\示も多く使用されていること(甲30,31,乙9ないし14)からすれば,本願商標のうち「湘南二宮」の部分は,「湘南地方の二宮町」を表したものと理解される。\nまた,本願商標のうち「オリーブ」の部分は,指定商品を含むオリーブオイルとの関係では,果実の「オリーブ」であることを意味し,オリーブオイルの原材料を表したもの,と広く理解される語である。\n以上の事実に加えて,オリーブオイルを含む食用油の分野では,他の多くの食品分野と同様に,その原材料がどのようなものであるかについての需要者の関心が高く,食用油の原材料や原材料の産地を,商品名の一部としたり,商品説明に記載しているという取引の実情が認められること(乙16ないし21,弁論の全趣旨)からすれば,本願商標である「湘南二宮オリーブ」を指定商品に使用しても,取引者及び需要者は,本願商標の表示は「湘南二宮産のオリーブ」を意味し,当該指定商品が「湘南地方の二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」であることを表\したにすぎないものと理解するのが自然である。
したがって,本願商標は,その指定商品との関係では,商標法3条1項3号所定の「商品の・・品質,原材料・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。\n
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2015.02. 8
平成26(行ケ)10193 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成27年1月29日 知的財産高等裁判所
商標「全国共通お食事券」指定商品「第16類 印刷物」および指定役務「第36類 前払式証票の発行」が識別力無しとした審決が維持されました。使用による識別力獲得(商3条2項)の主張も認められませんでした。
原告は,「全国共通お食事券」の語については,種々の代替可能な名称が存在することから,独占適応性を欠くとはいえない旨主張する。\nしかしながら,商標法3条1項3号の意義について前述したとおり,商品又は役務の特性を表示記述する標章は,多くの場合,当該商品又は役務に係る取引一般において,取引の内容を説明するために必要かつ適切な表\示として機能するものであるから,たとえ当該標章と同じ意味合いを生ずるなど同標章に代替し得るものが存在するとしても,同標章について特定人の独占的使用を認めれば,その他の者は同標章を使用できなくなり,このことによって,取引に支障を来し,円滑な流通が阻害されるなどという公益上の問題が生じるおそれは,依然として存在するというべきである。\nそして,前述したとおり,本願商標を構成する「全国共通お食事券」の語は,本願指定役務の質を記述する標章であるから,これに代替し得るものが存在するとしても,特定人に独占的使用を認めれば,前述した公益上の問題が生じるおそれがあることは明らかである。\nしたがって,「全国共通お食事券」の語については,代替可能な語の存否にかかわらず,独占適応性を認めることはできず,原告の前記主張は採用できない。
a 原告は,「食事券」が「食事券の発行」という役務との関係においては,「役務の提供の用に供する物の質」の表示に当たることを前提として,本件審決は,本願商標をもって,「食事券」という本願指定役務の提供の用に供する物の質の表\示として認識される旨の判断をしており,商標法3条1項3号の適用範囲に含まれない「役務の提供の用に供する物の質」の表示まで同号の範疇に取り込ん\nでいる旨主張する。
b しかしながら,「食事券の発行」という役務との関係において,「食事券」は,「発行」の対象であり,上記役務の成果に他ならない。したがって,「食事券」に係る表示は,上記役務の成果に係る表\示であるから,同役務の「質」の表示に該当するというべきである。\n本件についてみると,本願商標である「全国共通お食事券」は,「食事券」に係る表示であり,本願指定役務は,「全国の加盟店で利用可能\な」という性質を有する「食事券の発行」であるから,本願商標は,本願指定役務の質を表示するものと認められる。\n他方,商標法3条1項3号所定の「(役務の)提供の用に供する物」とは,当該役務を提供するための手段として供される物を指すものと解され,例えば,「自動車による輸送」という役務については,輸送手段であるトラックや大型車などの自動車が,「コーヒー飲料の提供」という役務については,コーヒーカップなどの容器やサイフォンなどコーヒー飲料を作る用具などが,当該役務の提供の用に供する物に該当する(甲98)。本願指定役務については,「(役務の)提供の用に供する物」の例として「食事券を作成する印刷機」などが挙げられるが,「発行」という役務の対象となる「食事券」そのものが,「提供の用に供する物」に該当すると解する余地はない。
c 以上によれば,本件審決が,本願商標をもって,本願指定役務の質を表示するものと認めたことに誤りはなく,原告の前記主張は,採用できない。
・・・・
他方において,前記2のとおり,ぐるなびのウェブサイト上に平成23年9月15日付けで「『ぐるなびギフトカード』全国共通お食事券の販売を開始」などという広告が掲載されるまでは,本件証拠上,原告以外の者が,食事券について「全国共通お食事券」の語を使用していた事実は,認められない。
イ(ア) しかしながら,原告食事券,加盟店一覧表,加盟店リスト,原告加盟店ステッカー,その他原告作成に係る販促用チラシ等の資料,広告のいずれにおいても,原告食事券を示すものとして,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,同語は,常に,「ジェフグルメカード」の語と併記されて使用されてきた。この点に関しては,原告自身,本願商標,すなわち,「全国共通お食事券」を単独で使用したことがない点については,争わない旨を述べているところである。\n加えて,前述したとおり,原告食事券を採り上げたテレビ番組等における紹介など,原告以外の主体が原告食事券に言及する場合においても,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の語と併用されてきた。
・・・
(エ) 以上に鑑みると,前述したとおり,「全国共通お食事券」の表示は,原告食事券を示すものとして単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の表\示と併用されているところ,これらに接した取引者,需要者においては,「全国共通お食事券」の表示をもって,原告食事券という特定の商品を指すものとして理解し,同表\示のみによって原告食事券の出所が原告である旨を認識することはなく,併用されている「ジェフグルメカード」に着目して,原告食事券の出所が原告である旨を認識するものというべきである。
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2014.10.29
平成26(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年10月22日 知的財産高等裁判所
識別性無しとした審決が維持されました。争われた商標は「新型ビタミンC」です。
本願商標は,「新型ビタミンC」の文字を標準文字で横書きに表してなるものであり,「新型」の文字と「ビタミンC」の文字とを組み合わせた構\成からなることは明らかである。そして,「新型」(従来のものとはかわって,新しく考案された型や形式。乙1参照)も「ビタミンC」(人体に不可欠な微量栄養素であるビタミンの一種でCと名付けられており,水溶性で,新鮮な野菜・果実・緑茶などに多く含まれるもの。乙2参照)も一般に広く知られている平易な語であり,「新型ビタミンC」の文字は,「従来のものとはかわって,新しく考案された型のビタミンC」程度の意味合いを表す複合語として容易に認識されるものである。そうすると,本願商標を,その指定商品である「サプリメント」に使用する場合には,これに接する取引者,需要者は,「従来のものとは違う新しく考案されたビタミンCを主成分としたサプリメント」であると理解し,当該商品の品質を表\したものとして認識するといえる。したがって,本願商標は,その指定商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもの(本願商標は標準文字で構\成される。)であるから,商標法3条1項3号に該当する。
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2014.08.11
平成26(行ケ)10056 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成26年8月6日 知的財産高等裁判所
赤色の文字を白色で縁取りした太文字体で,これに陰影を付してなる商標「ネットワークおまかせサポート」について、3条1項3号違反とした審決が維持されました。
本件指定役務中には,コンピューターやモバイル等の「電子応用機械器具の修理又は保守,電気通信機械器具の修理又は保守」が含まれると解されるから,本件指定役務には「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」が含まれるということができる。
ア そして,上記「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」の役務と関連の深いコンピューターやモバイル等の電子応用機械器具・電気通信機械器具などを取り扱う業界分野においては,本件審決時(平成26年1月20日)までに,インターネットのホームページにおいて,本願商標を構成する文字のうち,「ネットワーク」と「サポート」の文字からなる「ネットワークサポート」の語について,コンピューターネットワークシステムの障害箇所や問題点を解決するサポートサービス(乙7),コンピューターネットワークの構\築やトラブルなど情報システムの幅広い問題に対応するサポートサービス(乙11)等の意味合いを有するものとして用いられていることが認められる。
具体的には,・・・など,「ネットワークサポート」の語が前記意味合いを有するものとして用いられている。
イ また,前記アと同じく「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」の役務と関連の深いコンピューターやモバイル等の電子応用機械器具・電気通信機械器具などを取り扱う業界分野においては,本件審決時(平成26年1月20日)までに,平成22年の技術情報誌や,インターネットのホームペー
ジにおいて,本願商標を構成する文字のうち,「おまかせ」と「サポート」の文字からなる「おまかせサポート」の語については,顧客のコンピューターネットワーク接続等を遠隔(リモート)サポートや出張サポートにより解決するサポートサービス(乙13),サポートスタッフが顧客のパソ\コンを直接操作して問題解決するインターネットを通した遠隔サポートサービス(乙14),操作方法の問い合わせ対応,障害発生の原因究明・対処,その他付随する相談等のサービス(乙16),コンピューターネットワークにおける顧客の困りごとにワンストップで対応するサービス(乙18)など,コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービスの意味合いを有するものとして用いられていることが認められる。
具体的には, ・・・・など,「おまかせサポート」の語が前記意味合いを有するものとして用いられている。
また,本願商標は・・・,赤色の文字を白色で縁取りした太文字体で表した文字に陰影を付するデザインは,当該文字を目立たせ,これに接する需要者等の注目を引くためのものであるが,かかるデザインは,ごく普通に用いられる一般的な表\現方法であって,特殊な態様で表示されているものというほどの特徴はない。\n
・・・したがって,本願商標の態様は,普通に用いられる形態であるということができる。
・・・
前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「ネットワークおまかせサポート」の語は,本件審決当時,「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービス」程の意味合いを有する語として,本件指定役務のうち「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」に係る事業の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定役務のうち「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」の役務に使用されたときは,「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービス」といった役務の質(内容)を表\示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務の識別力を欠くものというべきである。\n・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。
・・・
前記1で説示したとおり,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件審決時において,本願商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,その指定役務に使用された場合に,将来を含め,指定役務の取引者,需要者によって役務の上記特性を表\示したものと一般に認識されるものであれば足り,それが取引上現実に使用されていた事実があったことまで必要とするものではないというべきである。
・・・
イ 原告は,本願商標が,一連一体に横書きされ一体不可分に構成された造語であって,造語である「ネットワークおまかせサポート」からは特定の観念が生じることはなく,かつ,商標の識別力の存否は商標の全体を観察して判断すべきであるにもかかわらず,本件審決が本願商標をあえて「ネットワーク」の構\成,「ネットワークサポート」の構成及び「おまかせサポート」の構\成に分離させた上で,それぞれの語から生じる意味合いから全体の意味合いを認定して,本願商標は自他役務の識別力がないと判断したことは誤りである旨主張する。
しかし,本願商標の「ネットワークおまかせサポート」の語は,
仮にそれ自体としては一体不可分の造語であるとしても,それを構成する各単語の語義並びに本件指定役務に関連するコンピューターやモバイル等の電子応用機械器具・電気通信機械器具などを取り扱う業界分野における「ネットワークサポート」及び「おまかせサポート」の文字の使用状況などを勘案すれば,前記の意味合いを有する複合語として認識されるものである。\nしたがって,原告の上記主張は採用することができない。
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2014.08. 4
平成25(行ケ)10332 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成26年6月30日 知的財産高等裁判所
商標「浅間山」が識別力無し(商3条1項3号)とした審決が維持されました。
観光地では各種の土産物や特産品が生産,販売されるが,その際,商品の種類にかかわらず,当地又は近隣の観光名所の名称を付して商品を生産,販売したり,当該観光名所ないしその近郊を商品ないし主原材料の産地として宣伝したりすることは,一般的に行われている。実際,長野県・群馬県境にある浅間山の山麓及び周辺地域で生産された商品等を提供,販売する飲食店や販売店は,当該商品等の販売や宣伝に当たって,商品ないし主原材料の産地を表すものとして「浅間山」の名称を使用している(乙16ないし21)。本願指定商品である地ビールやミネラルウォーター,その他の清涼飲料水についても,同様である(乙22ないし25)。そして,山岳名を使用して,その山麓や周辺地域の商品の販売や宣伝が行われているのは,群馬県吾妻郡嬬恋村と長野県北佐久郡軽井沢町・同郡御代田町にまたがる浅間山地域に限られない(乙26ないし37)。そうすると,本願指定商品の種類,性質からして,その取引者,需要者は一般の消費者であると考えられるところ,これらの者が本願商標を付した商品に接した場合,長野県・群馬県境にある浅間山の周辺地域で製造された商品と認識するにとどまるというべきである。他方,本願商標は「浅間山」の文字を標準文字により表\してなるから,「普通の用いられる方法」で表示されている。したがって,本願商標は,単に,商品の産地,販売地を表\示するにすぎないことになるから,商標法3条1項3号に該当すると認められる。よって,審決の結論に誤りはない。
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2014.07. 4
平成25(行ケ)10332 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成26年06月30日 知的財産高等裁判所
商標「浅間山」が産地を示すので識別力なしとした審決が維持されました。
商標登録出願に係る商標が,商標法3条1項3号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表\示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁)。よって,審決時において,本願商標が,指定商品の産地又は販売地を表\すものと取引者,需要者に認識されている場合はもとより,指定商品そのものの産地又は販売地として取引者,需要者に認識されていなくても,指定商品に付したときにその産地又は販売地を表すものと認識される場合には,その商標は商標法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
・・・・
観光地では各種の土産物や特産品が生産,販売されるが,その際,商品の種類にかかわらず,当地又は近隣の観光名所の名称を付して商品を生産,販売したり,当該観光名所ないしその近郊を商品ないし主原材料の産地として宣伝したりすることは,一般的に行われている。実際,長野県・群馬県境にある浅間山の山麓及び周辺地域で生産された商品等を提供,販売する飲食店や販売店は,当該商品等の販売や宣伝に当たって,商品ないし主原材料の産地を表すものとして「浅間山」の名称を使用している(乙16ないし21)。本願指定商品である地ビールやミネラルウォーター,その他の清涼飲料水についても,同様である(乙22ないし25)。そして,山岳名を使用して,その山麓や周辺地域の商品の販売や宣伝が行われているのは,群馬県吾妻郡嬬恋村と長野県北佐久郡軽井沢町・同郡御代田町にまたがる浅間山地域に限られない(乙26ないし37)。そうすると,本願指定商品の種類,性質からして,その取引者,需要者は一般の消費者であると考えられるところ,これらの者が本願商標を付した商品に接した場合,長野県・群馬県境にある浅間山の周辺地域で製造された商品と認識するにとどまるというべきである。他方,本願商標は「浅間山」の文字を標準文字により表\してなるから,「普通の用いられる方法」で表示されている。したがって,本願商標は,単に,商品の産地,販売地を表\示するにすぎないことになるから,商標法3条1項3号に該当すると認められる。よって,審決の結論に誤りはない。
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2014.05.16
平成25(行ケ)10341 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 平成26年05月14日 知的財産高等裁判所
商標「オタク婚活」について、役務の質(内容)を表示するとして、識別性無しとした審決が維持されました。
イ 本件商標は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなる商標であり,「オタク」のカタカナ3字と「婚活」の漢字2字とを結合して一連表記した結合商標である。本件商標からは「オタクコンカツ」の称呼が自然に生じる。本件商標を構\成する「オタク」の語については,乙1(大辞林第三版,2006年(平成18年)10月27日発行)に「俗に,特定の分野・物事を好み,関連品または関連情報の収集を積極的に行う人。狭義には,アニメーション・テレビ−ゲーム・アイドルなどのような,やや虚構性の高い世界観を好む人をさす。…一九八〇年代中ごろから使われる語」,乙2(現代用語の基礎知識,2011年(平成23年)1月1日発行)に「個人の趣味に没頭し,異常な執着を見せる人物やふるまいを指す。1980年代前半に生まれた言葉で,元はマンガやアニメなど特定の趣味について使われたが,普及の過程で意味が拡大・変容し,現在では『マニア』とほぼ同じく,さまざまな趣味について『○○オタク』と使われることも。」との記載がある。上記記載及び弁論の全趣旨によれば,本件商標の登録査定日当時,「オタク」の語は,アニメーション,テレビゲーム,アイドルなどのような特定の趣味の愛好家を示す用語として,一般に認識され,普通に用いられていたことが認められる。また,本件商標を構\成する「婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時,「結婚するための活動」を意味する語として,一般に認識され,普通に用いられていたことは,当裁判所に顕著である。そして,本件商標の登録査定日前の新聞記事情報には,主に30歳前後の人向けの結婚するための活動を「アラサー婚活」(2010年(平成22年)11月22日付け毎日新聞(乙16の1),2012年(平成24年)1月30日付け静岡新聞(乙16の2)),主に中高年層向けの結婚するための活動を「シニア婚活」(2011年(平成23年)2月4日付け,同年6月26日付け及び同月27日付け朝日新聞(乙17の1ないし3)),主に熟年と呼ばれる中高年層向けの結婚するための活動を「熟年婚活」(2009年(平成21年)7月10日付け読売新聞(乙18の1),2010年(平成22年)11月22日付け北海道新聞(乙18の2),2012年(平成24年)10月16日付け南日本新聞)などと称される例があることからすると,「婚活」の語の前に対象者の属性を表す語を結合した語は,当該対象者向けの結婚するための活動を意味する語として,本件商標の登録査定日当時,一般に理解されていたことが認められる。そうすると,本件商標を構\成する「オタク婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を意味する語として,本件商標の指定役務である「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,インターネット上でのウェブサイトを利用した異性の紹介及びこれに関する情報の提供,インターネットを利用した結婚に必要な情報の提供」に係る事業の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。以上によれば,本件商標の登録査定日当時,本件商標は,その指定役務に使用されたときは,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を支援する異性の紹介,情報の提供などといった役務の質(内容)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表\示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて,本件商標は,標準文字で構成されているから,「オタク婚活」の文字を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなるものであるというべきである。
・・・・
そこで検討するに,商標法は,商標登録の要件について,3条1項で,同項各号に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる旨定め,同条2項で,前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる旨定めている。これらの規定によれば,審査官は,商標登録出願のあった商標が商標法3条1項各号に該当するかどうかを判断し,その上で,当該商標が同項3号から5号までに該当すると判断した場合であっても,同条2項に該当すると判断したときは,登録査定(同法16条)を行うこととなるのであるから,商標登録が同法3条に違反してされたことを理由に登録異議の申立て(同法43条の2第1号)がされた場合における同法3条1項各号該当性及び同条2項該当性の判断の基準時は,いずれも,その登録査定の行政処分がされた登録査定時(同法55条の2第2項により商標登録をすべき旨の審決がされたときは,その審決時。以下同じ。)と解するのが相当である。\n
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2014.03.11
平成24(ワ)1855 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 平成26年03月06日 大阪地方裁判所
ロゴ化「南京町」の商標権が、他の書体まで及ぶのかが争われました。裁判所は、本件では、特殊書体のみ識別性ありと判断しました。
原告は,被告標章と原告商標とが類似であることの前提として,原告商標の書体に格別の意味はなく,標準文字で表現される「南京町」も,原告を指すものとして自他識別力がある旨を主張する。しかしながら,前記(1)によると,原告商標のロゴデザイン(字体)を捨象して,標準文字「南京町」としてみた場合には,単に神戸市中央区の元町通と栄町通の区域(いわゆる中華街)を指称するものとして,原告設立以前から長年にわたって使用されてきた一般的な名称であるといわざるを得ず,自他識別標識として機能するということはできない(商標法3条1項3号,4号に該当し,登録要件を欠くことに帰する。)。そうすると,原告商標は,特徴的な字体を含む外観を一体としてみた場合にのみ出所識別標識として機能\するものであり,その範囲でのみ商標権としての効力を有するというべきである。
イ また,原告は,組合法に基づいて設立された,商店街の振興等を目的とする法人であるところ,原告自身は,原告商標の指定商品等を製造販売等する事業者ではなく,中央区の元町通と栄町通の区域に所在する事業者すべてが原告の組合員であるといった事情も認められない。むしろ,証拠(原告代表者本人)によると,原告の定款上の地区内には約140店の店舗があるが,うち,原告に加入するのは81店舗にすぎない。さらに,証拠(甲69ないし76)のほか,本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても,原告商標の指定商品の需要者として想定される一般消費者において,「南京町」の語自体が原告を指すものとして,周知性を獲得したとは認められない。原告が,その定款上の地区の復興,環境整備等に尽力したことをもって,そのような周知性の獲得の根拠とすることもできない。したがって,原告の主張する事情を考慮しても,「南京町」の語自体は一定の区域を指称する一般的な名称であり,原告商標の識別力は,特徴的な字体を含む外観にあるとの前記アの判断は左右されない。
ウ 原告は,上記(2)イ(イ)に関して,他の商店街振興組合が有する,標準文字に近い「黒門市場」,「錦市場」,「近江町市場」が,自他識別標識として機能することを前提に特許庁において商標権として認められていることを主張するが(甲35ないし40参照),「市場」については,卸売がされる場所,あるいは小売店の集合としての意味を有するのに対し,「町」は,前述のとおり,市街地の一区域等を表\すのであって,単純に同視することはできないし,当該商標の対象とする商品役務の具体的な取引態様の実情を捨象して,商標登録要件やその権利範囲を論ずることはできないから,採用できない。
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2014.01.10
平成25(行ケ)10162 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年12月26日 知的財産高等裁判所
指定商品の需要者である一般消費者が普段接することのない専門的な文献を根拠として,「loop wheel」から巻き上げ機を想起させるとは認められないとして、無効理由無しとした審決が維持されました。
商標法3条1項3号の商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質その他の商品の特性を記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事226号507頁参照)。そうすると,本件商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件商標の登録査定日である平成24年5月30日の時点において,本件商標がその指定商品との関係で商品の品質を記述するものとして取引に際し必要適切な表\示であり,一般的に使用され得るものである必要があり,そのような商標であるというためには,本件商標の指定商品の取引者,需要者によって本件商標がその指定商品に使用された場合に商品の品質を表示したものと一般に認識されるものでなければならないと解される。
イ(ア) そこで検討するに,前記(1)イの認定事実によれば,別表の(ア)ないし(ト)に係る繊維関連の専門書,辞書及び辞典類には,「ループ・ホイール」は,巻き上げ機であるループ・ホイール編み機の部品の名称を意味すること,巻き上げ機と吊り編み機とは,いずれも「円形の編み機」の範疇に属するが,具体的な構造,編地の巻取方法が異なる別個の編み機であること,「巻き上げ機」の英語表\記は,「loop wheel machine」であることが記載されているものと認められる。そうすると,上記繊維関連の専門書,辞書及び辞典類の記載から,「ループ・ホイール」,「loop wheel」の語は,巻き上げ機であるループ・ホイール編み機の部品を意味するものと認識され,ひいては,巻き上げ機そのものを想起させるものといえる。しかしながら,上記繊維関連の専門書,辞書及び辞典類は,本件商標の指定商品の「織物(「畳べり地」を除く。)」又は「メリヤス生地」の需要者である一般消費者が普段接することのない専門的な文献であり,上記記載を根拠として,一般消費者に「ループ・ホイール」,「loop wheel」の語から巻き上げ機を想起させるものとまで認めることはできない。他方で,上記繊維関連の専門書,辞書及び辞典類の記載から,「ループ・ホイール」,「loop wheel」の語が,吊り編み機を意味することや,「巻き上げ機」と「吊り編み機」を包含する上位概念としての「編み機」の名称を示す一般的な用語であることが認識されるものとまでは認められない。
・・・したがって,別表の(シ),(ソ),(チ),(ツ),(ト)に係る上記各英語表記から,「ループ・ホイール」,「loop wheel」の語が,吊り編み機を意味することや,「巻き上げ機」と「吊り編み機」を包含する上位概念としての「編み機」の名称を示す一般的な用語であることが認識されるとはいえない。
・・・
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,前記(1)イないしエの「LOOPWHEEL」等の語に関する繊維関連の専門書,辞書及び辞典類の記載,インターネットにおける使用例及び雑誌の記載等から,本件商標の登録査定日である平成24年5月30日の時点において,本件商標の指定商品の取引者,需要者によって「LOOPWHEEL」の語が「巻き上げ機」又は「吊り編み機」を意味するものと一般に認識されるものであったとは認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件商標の登録査定日の時点において,本件商標に接する取引者,需要者によって,本件商標が「巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた生地を使った被服」あるいは「巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた被服」程度の意味合いを認識させ,指定商品の「織物(「畳べり地」を除く。)」又は「メリヤス生地」の品質を表示したものとして認識されるものであったとは認められない。ウ 以上によれば,本件商標の登録査定時において,本件商標が指定商品の「織物(「畳べり地」を除く。)」又は「メリヤス生地」との関係で商品の品質を記述するものとして取引に際し必要適切な表示であって,一般的に使用され得るものであるとは認められないから,本件商標がその登録査定時において,商標法3条1項3号に該当する商標であったと認めることはできない。\n
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2013.12.26
平成25(行ケ)10158 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年12月17日 知的財産高等裁判所
商標「LADY GAGA」を指定商品「レコードなど」に使用する場合、識別性が無いとした審決が維持されました。出願人はアーチスト自身の会社ですので、4条1項8号は問題になっていません。
以上によれば,「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)は,アメリカ合衆国出身の女性歌手として,我が国を含め世界的に広く知られており,「LADY GAGA」の欧文字からなる本願商標に接する者は,上記歌手名を表示したものと容易に認識することが認められる。そうすると,本願商標を,その指定商品中,本件商品である「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,当該商品に係る収録曲を歌唱する者,又は映像に出演し歌唱している者を表\示したもの,すなわち,その商品の品質(内容)を表示したものと認識するから,本願商標は,自他商品の識別標識としての機能\を果たし得ない。したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。また,本願商標を,本件商品である「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」のうち「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しない品質(内容)の商品に使用した場合,「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しているとの誤解を与える可能性があり,商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。したがって,本願商標は,商標法4条1項16号に該当する。\n
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2013.12. 7
平成25(行ケ)10254 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年11月27日 知的財産高等裁判所
商標「お客様第一主義の」が識別力なしとした審決が維持されました。
本願商標「お客様第一主義の」(標準文字)は,「お客様第一主義」と「の」の各文字から構成される商標である。本願商標中「お客様第一主義」との文字部分は,顧客(役務の提供先)を大切にし,満足度を高めるとの基本理念や姿勢等を表\\した語であると理解される。同文字部分は,自己を犠牲にしてまで,顧客に尽くすとの印象を与える語であることから,別紙2「『お客様第一主義』の使用事例」のとおり,宣伝,広告等において数多く用いられている。また,本願商標中「の」との文字部分は,前の語句の内容を後続する名詞等に繋げ,後続する名詞等の内容を限定する働きを有する助詞と解される。また,後続する名詞等が省略される場合においては,名詞等の意味を漠然と示唆する代用語として使われることもある(乙31参照)。イ そうすると,本願商標は,指定役務に使用する場合,これに接する需要者は,顧客を大切にするとの基本理念や姿勢等を表わした語であり,場合によっては,宣伝・広告的な意図をも含んだ語であると認識するものと認められ,これを超えて,何人かの業務に係る役務表\\示であると認識することはないと認められ,自他役務識別力を有しない商標と解するのが相当である。なお,本願商標は,商標法3条1項3号に該当すると解する余地もなくはないが,本願商標には「の」の文字部分が含まれ,同文字部分は,普通に用いられる方法で表示する標章とは必ずしもいえないことに照らすと,「お客様第一主義の」からなる本願商標は,同項同号所定の,普通に用いられる方法で表\\示する標章「のみ」から構成される商標とまではいえない。\n
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2013.12. 7
平成25(行ケ)10188 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年11月27日 知的財産高等裁判所
商標「美ら島」は識別性なしと判断されました。
「美ら島」は,沖縄の方言で「美しい島」を意味する語であるが,食品等を中心とする商品等の宣伝広告及び紹介記事において,商品の原産地等が「沖縄」であることを指すものとして,「美ら島」が使用される例が数多く存在すること,また,各種記念行事,時事の報道,特産品,観光名所を報道・紹介等する新聞記事等において,「美ら島」が「沖縄」の県名ないし地域を指すものして使用される例も数多く存在すること等から,「美ら島」は,「沖縄」の県名ないし地域を指す語として,広く認識されるに至ったということができる。そうすると,「美ら島」との本願商標に接した取引者・需要者は,本願商標を沖縄を意味するものと理解すると解するのが相当である。
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2013.11.20
平成25(行ケ)10142 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年11月14日 知的財産高等裁判所
商標「エコライフ」が識別性無しとした拒絶審決が維持されました。
「エコライフ」の語は,インターネットや新聞記事等において,「日常生活をする上で環境にやさしい暮らし方」(乙10),「環境に配慮した生活」(乙11),「環境に優しい生活を実施していくこと」(乙16),「地球環境に優しい暮らしを心がけるライフスタイルのこと」(乙15),「環境への負荷を減らし,環境保全を心がけた暮らし(ライフスタイル)」(乙9)等の意味合いを有するものとして用いられている。・・・ 以上のとおり,「ECOLIFE」の称呼である「エコライフ」の語について,エコ(eco)の語が「環境に優しい…」程度の意味を表すものとして,普通名詞である「ライフ」の前に置かれ当該普通名詞と組み合わせて使用されている。
2 商標法3条1項6号の該当性
(1) 前記認定事実によれば,本願商標は,「環境に優しい生活」を表す広く一般的・日常的に使用される成語として認識される「エコライフ」と称呼される「ECOLIFE」の欧文字を標準文字で表\してなるものであり,「エコライフ」の語は,本件指定役務と関連の深い建物の建築,管理又は売買等の分野においては,「太陽光発電パネルや断熱性能の高い建築や二酸化炭素(CO2)排出量の削減等,環境に配慮した建物」といった特定の意味合いを表\すものとして一般的に使用されていることが認められるから,本願商標を本件指定役務に使用する場合には,これに接する取引者,需要者に,上記意味合いを有する「エコライフ」を目的とする建物の管理,貸借の代理又は媒介,貸与,売買,売買の代理又は媒介,鑑定評価,情報の提供に係る役務であることを表したものと認識させるにすぎず,自他役務の識別標識としての機能\を有しないものというべきである。以上のとおり,本願商標は,これを本件指定役務に使用する場合には,自他役務の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないから,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」として,商標法3条1項6号に該当する。\n
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2013.10. 8
平成25(行ケ)10060 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年09月30日 知的財産高等裁判所
商標「RAGAZZA」について、識別性ありとした審決が維持されました。
本件商標「RAGGAZZA」は,特定の意味を有しない語であるから,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標に該当することはない。また,本件商標「RAGGAZZA」は,イタリア語「RAGAZZA」に近似した文字から構成されることから,本件商標から,「RAGAZZA」の文字を想起させることがあり得たとしても,本件証拠によれば,そもそも「RAGAZZA」の意味を認識,理解できる需要者は,多いとは認められない。さらに,仮に,本件商標から,イタリア語「RAGAZZA」の意味である「少女,(未婚の)若い女性,娘,女の子,恋人,彼女,子供」を想起する需要者がいたとしても,それらの意味と本件商標の指定商品との関係を考慮すると,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であると判断することもできない。\n
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2013.09. 5
平成24(行ケ)10352 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所
商標「ほっとレモン」について、異議申立があり、審決は識別性無しと判断しました。裁判所はこれを維持しました。使用による識別性獲得(3条2項)も否定されました。
本件文字部分のうち,片仮名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味すると理解するのが自然である(上記1(3)及び同(4)参照)。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから(上記1(6)参照),本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。この点,原告は,「ほっと」は,「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」を意味し,「温かい」を意味するものではないかのような主張をする。しかし,1)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」を総称する名称(称呼)としては,「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」があり,それ以外の名称(称呼)を一般的に確認することはできないこと,2)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」としての「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」の表記は,「ホットレモン」のみならず片仮名と平仮名の組合せである「ほっとレモン」も用いられていたこと(上記1(3)参照),3)「レモン」以外の果実等の風味を付加し,温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料水等においても,平仮名「ほっと」の文字が使用される例は,少なくないこと(上記1(4)参照)等に照らすならば,原告の上記主張を採用することはできない。すなわち,本件に現れたすべての証拠によるも,本件商標について,「熱い」,「温かい」との観念が生じることを否定する事実は認められない。
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2013.07. 5
平成24(行ケ)10346 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年06月27日 知的財産高等裁判所
立体商標について識別性なし、使用による顕著性無しとした審決が維持されました。
しかしながら,他のジョイントボックスの形状等を見ても,電気配線の結合部分を覆うためにボックス部分の形状が円筒形のものが多く,より詳細に観察した際には,上部に向かってやや広がっていき,最上端部には縁部が設けられているものが多数存在し,色は透明なものがある上に,本体のカバー部分内部は,結線束を入れるために空洞となっており,本体の上面縁部には,本体を造営材(固定できる部材)に固定するための固定孔が設けられ,本体下方には,汚水の排水用の突起部が存在することは,ジョイントボックスにとって一般的に採用された極めてありふれた形状であるといえる(甲1ないし7,乙1ないし5)。開口部の弁についても,使用商品にのみ取り付けられているわけではなく,他にもワンタッチでかぶせるジョイントボックスが実際に存在するから(乙4。ただし,弁は2枚である。もっとも,使用商品同様に位置としては開口部に有する。),本願商標の弁自体は機能に資する目的のための形状であるといってよい。弁自体は,電気配線の結束部分にかぶせることによって配線の結束部分が弁体を通過し,弁体が戻ろうとする働きによりジョイントボックスが固定されるという,正に機能\に資するための形状にほかならないのであって,当該形状は商品の機能向上の観点から選択されたものであり,機能\について特許を受けるのは別として,自他商品を識別するための標識としては認識し得ないものというべきである。本願商標の弁体の並びがグレープフルーツを切断したような形状を有している点も,結線束を保護するためにカバー内に固定するという機能を果たすために弁がカバー全体にわたって整然と並んでいるにすぎず,機能\に資する目的の形状であることを超えるものではない。とりわけ,結線束をカバー内に収納した後はジョイントボックスの円筒部分を上向きにして使用することが一般的であることをふまえると,設置後に特別な印象を与えるものとはいえない。審決の上記判断に誤りはなく,この判断を前提にして本願商標は法3条1項3号に該当するとした審決の判断にも誤りはない。この誤りをいう取消事由1は理由がない。
・・・
エ 使用商品の販売数量及び販売金額は,平成8年度は455万個で約7700万円に始まり,最も多いときは,平成16年度ないし平成18年度は約920万個で約1億5700万円であって,平成23年度は約675万個で約1億4800万円である(甲9,40,44)。5 使用商品の販売数量については,上記認定事実のとおり,それ相当の数量が製造,販売されていることは認められるものの,業界におけるジョイントボックスに相当する商品の総販売数量についての立証がないので,使用商品の市場シェアは明らかであるとはいえない。この点につき,原告は,木造住宅一戸当たり平均20個のジョイントボックスが使用されるとの前提で,電気事業者の証言書を提出し(甲53ないし57),使用商品は主に木造住宅に使用されると述べ,これを国土交通省資料による木造住宅着工数(平成22年度であれば46万4140戸)を基礎数値として算出すれば,使用商品の市場シェアは70%以上になるし(甲9,40),仮に誤差が±20%あったとしても市場シェアは50%を下らないことは明白であると主張する。しかしながら,使用商品に係るリーフレット(甲1,2)ですら,主たる用途が木造住宅用とは記されておらず,むしろ,雑誌の記事(甲17)には「ジョイントボックスは,木造,鉄骨住宅などの電気工事において,・・・結線部分を絶縁するときに使う。」との記載があるし,また,原告のウェブサイト(乙12)にある「よくある質問」の中にも,「Q:ナイスハットHタイプとMタイプどう違いますか?」(判決注:ナイスハットHタイプは,甲1のとおり,使用商品である。)との質問に対し,「A:Hタイプは主に木造住宅用。Mタイプは主に鉄筋・鉄骨の二重天井の先行配線用に開発しましたが,用途は同じですので状況に応じて選んで下さい。」との回答があり,これらのことからすれば,使用商品の開発時の意図はともかくとして,実際に使用される使用商品の用途が木造住宅用に限定されるものでないことは明らかである。原告は,主として木造住宅に利用されていると主張しているが,原告作成の納入実績表(甲10)の中には,工場,官庁の合同庁舎,学校,ビル,病院,ごみ焼却場といったように,明らかに木造とは考えられず,鉄筋造りでしかも巨大な建造物も含まれているのであって,鉄筋造りの建造物用を除外して市場占有率を算定することについては疑問がある。そして,鉄筋造りの巨大な建造物には大量のジョイントボックスが使用されることが想定されるから,この場合には,原告が主張するように市場占有率の誤差が10%や20%にとどまらず,原告商品の市場占有率の数値がかなり小さくなることが十\分考えられる。そうすると,需要者が本願商標につき原告商品との認識を持つことが可能という法3条2項の要件を充足することは困難である。\n
◆判決本文
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2013.06. 3
平成24(行ケ)10359 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年05月29日 知的財産高等裁判所
商3条2項の主張を認めなかった審決が維持されました。
上記認定事実によれば,「マッサージクッション」の文字からなる本願商標について,「使用された結果,需要者において,原告の業務に係る商品であると認識することができるもの」と判断することはできない。その理由は,以下のとおりである。すなわち,(1) 一般の家庭用電気マッサージ器等の製造,販売に係る取引者,需要者において,「マッサージクッション」の語は,「手軽に持ち運べて,クッションとしても使えるマッサージクッション。」等の用例にみられるように,「クッション形状のマッサージ器」を意味する普通名詞として用いられている。また,各製造者等において自社製品を宣伝広告する場合,及びネット販売業者において各社の商品を紹介する際に,当該商品の出所を示す必要がある場合には,「マカロンマッサージクッション・MC−301」,「オムロン クッションマッサージャHM−341−BW ブラウン」,「クロシオ マッサージクッション シフォン チョコレート CH−301−CH」など,商標等の出所表示を付加して使用することが通例である。(2) 本件商品に関する原告の宣伝広告及びテレビ,雑誌,新聞等における商品紹介をみると,「ルルド マッサージクッション」と表示される例が多い。また,原告は,「ルルド」シリーズで本件商品を含む各種家庭用マッサージ器のほか,バランスツール,ベッド等を販売しているが,本件商品の包装箱,取扱説明書,カタログや原告のウェブサイトには,四角で囲まれた図形及び欧文字「Lourde」の組合せからなり登録商標を示す「R」を併記した「ルルド標章」も表\示されている。(3) 以上の事実経緯に照らすならば,本件商品の包装箱,取扱説明書,カタログや原告のウェブサイトにおける本件商品の表示に接した需要者は,「ルルド」ないし「ルルド マッサージクッション」等により,本件商品の出所が原告であると認識しているのであって,「マッサージクッション」のみによって,出所が原告であると認識することはないと解するのが合理的である。なお,本件商品の包装箱やカタログには,「Massage」及び「CUSHION(Cushion)」と表示されているが,包装箱やカタログにはルルド標章も付されていることや,包装箱とカタログ以外では,欧文字の表\示はほとんど使用されていないことからすると,このことから,「マッサージクッション」の表示のみで本件商品の出所を認識することができるということはできない。原告は,本件商品の販売数及び小型マッサージ機器のマーケットシェアが50パーセントを超えること等の点を主張する。しかし,そのような事実から,「マッサージクッション」の語が,使用された結果,需要者において,原告の業務に係る商品であると認識することができるものと解することは到底できず,この点の原告の主張は採用の限りでない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。以上のとおり,本願商標は商標法3条1項3号に該当し(当事者に争いがない。),同条2項に該当するとは認められない。\n
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2013.04.25
平成24(行ケ)10317 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年04月24日 知的財産高等裁判所
指定商品・サービスとの関係で、商標「MOKUMEGANEKOUBOU」は、3条1項3号違反である(識別性なし)とした審決が維持されました。
認定した事実に基づいて,商標法3条1項6号への該当性について判断する。(1)以上の事実認定を踏まえると,本願商標に接した需要者は,指定商品及び指定役務(14類「キーホルダー,宝石箱,記念カップ,記念たて,身飾品,イヤリング,ペンダント,指輪,宝石ブローチ,宝玉及びその模造品」,40類「金属の加工,身飾品の加工」)との関係では,本願商標から,「木目金・杢目金(色の異なる金属を幾重にも重ね合わせたものを彫って鍛えた金属工芸品)の仕事場」程の意味を想起すると解するのが自然である。そうすると,本願商標は,指定商品及び指定役務の内容を説明する語によって構成された商標であると解されるから,商標法3条1項6号所定の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することはできない商標」に該当するというべきである\n
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2013.01.29
平成24(行ケ)10285 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年01月24日 知的財産高等裁判所
商標「あずきバー」について、使用による識別性が認められました。また、使用していた商品がアイス菓子で、指定商品が「あずきを加味してなる菓子」についても問題なしと判断されました。
ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一とみられる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の販売数量又は売上高等,当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。イ これを本件についてみると,原告は,昭和47年に,「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子(本件商品)の販売を開始し,本件審決の時点に至るまで,全国の小売店等でその販売を継続しており,その販売数量も,平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本となっている。また,原告は,毎年7月1日を「井村屋あずきバーの日」と定め,平成元年以来,本件商品について中断を挟みながらも本件審決の時点に至るまでテレビコマーシャルを放映しており,その放映料は,少なくとも平成20年以降,毎年1億2000万円を超えているほか,新聞その他の媒体等を通じて全国で広告を実施している。原告は,本件商品の発売以来,本件商品の包装に原告の会社名とともに,本件ロゴ書体,これを横書きにしたもの又はこれと社会通念上同一と見られる標章を付しており,上記の宣伝広告等においても当該包装が映った写真又は映像を使用することが少なくなく,当該宣伝広告等においては,ほぼ常に原告の会社名を重ねて紹介している。このような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績により,本件審決の時点までには,「あずきバー」との語でインターネット上の検索を行うと,表示される多数のウェブページではいずれも本願商標が原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されているほか,原告とは直接の関係が認められない著者により,「あずきバーはなぜ堅い?」との表\題の書籍(平成22年7月16日刊行)が執筆・出版されるに至っている。以上のような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績並びにこれらを通じて得られた知名度によれば,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,本件商品の販売開始当時以来,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたことが容易に推認され,本件審決当時でも,本件商品を意味するものとして価格表\や取引書類等で現に広く使用されている。(以上につき,甲1〜31,33〜35,37〜57,63〜67)
ウ なお,「あずきバー」との商標は,証拠上確認できる範囲内では,原告以外に3社が自社の商品に使用しているが,いずれも,「玄米あずきバー」(乙20),「十勝あずきバー」(乙21)及び「セイヒョー金太郎あずきバー」(乙22)という各商品の名称の一部として使用されているものである。しかも,これらのうち,「セイヒョー金太郎あずきバー」も,自社名を商品に付していることで差別化を図っていることがうかがえるばかりか,「玄米あずきバー」の広告ウェブページには,「ライバルは井○屋!!」との大きな記載があり,原告と本件商品との関係を強く意識した内容となっており,このことは,とりもなおさず本件商品が原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得していることを裏付けるものであるといえる。エ 以上のとおり,本件商品は,「あずきを加味してなる菓子」に包含される商品であるところ,遅くとも本件審決の時点において,我が国の菓子の取引者,需要者の間で原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得しているものと認められ,これに伴い,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,「あずきを加味してなる菓子」(指定商品)に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められる。\n
・・・
イ 被告は,本願商標の指定商品がアイス菓子に限定されないのに,原告がアイス菓子以外の「あずきを加味してなる菓子」について本願商標を使用していないから,本願商標が実際に使用している商品と指定商品が同一ではないと主張する。しかしながら,本願商標の指定商品は,「あずきを加味してなる菓子」として特定されているところ,本件商品は,アイス菓子ではあるものの,「あずきを加味してなる菓子」であることに変わりはなく,かつ,本願商標は,前記に認定のとおり,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められるから,商標法3条2項の要件を満たすといって妨げはないのであって,上記のように特定された本願商標の指定商品を更にアイス菓子とそれ以外に区分して判断すべき理由はない。
・・・・
被告は,本願商標が「あずきを原材料とするアイス菓子」を認識させるから,それ以外の商品に使用するときにはその商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると主張する。しかしながら,ある商標が品質について誤認を生じさせるおそれがあるか否かは,当該商標の構成自体によって判断すべきところ,本願商標は,それ自体から「あずきを原材料とするアイス菓子」を直ちに認識させるものではないから,被告の上記主張は,失当である。\n
◆判決本文
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2013.01.18
平成24(行ケ)10323 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年01月10日 知的財産高等裁判所
識別性無しとした審決が維持されました。
本願商標は,指定商品「スプレー式の薬剤」において,右手にスプレーを持ち,首筋から背中にかけてスプレーを噴霧して,薬剤を使用している人物の様子を表した図形である。前記(3)認定のとおり,薬剤及び薬剤と需要者の共通性が高い化粧品や衛生用品等の分野において,その商品の用途や使用方法等を説明するために,商品の包装用箱等に商品を身体の特定の部位に使用している人物を示す図を用いることは,広く一般的に行われており,このことはスプレー式の商品についても同様である。そうすると,本願商標をスプレー式の薬剤に使用する場合に,商品の用途や使用方法等を説明するための記述的な表示と理解されることがあり得るから,そもそも,本願商標が自他商品の識別標識として機能\するとは限らない。イ スプレー式の薬剤を使用している様子を図示する方法は,多様にあり,人物の描写,背中等身体の部位の見せ方,スプレーの噴射方法等において差異があり得るものの,現に,背中に生じるニキビ用の薬用化粧品について,手にスプレーを持ち,首筋から背中にかけてスプレーを噴霧して,薬剤を使用している人物の様子を表した図形からなるものが存在することは,前記(3)ア認定のとおりである。そのうち,背中に生じるニキビ用の薬用化粧品である「アクネスラボ ボディローション」の包装用箱に付された図形は,本願商標と同様に,人物の顔の表情は見えず,胸から上の上半身を背中側から表\し,その首筋から背中にかけて手に持ったスプレーを噴霧する様子が描かれており,スプレーを持つ手が右手か左手かが異なり,顔の一部が切れている等の相違はあるものの,本願商標に類似するものである(乙31)。また,背中に生じるニキビ用の薬用化粧品である「プロフェール 薬用ゴールデンスムーサー」の容器に付された図形は,人物の頭部の下方部分から,腰より上の上半身を,背中側から表し,その肩から下の背中にかけて手に持ったスプレーを噴霧する様子が描かれており,スプレーの持ち方や表\現された身体の部位等が異なるものの,全体として,本願商標に類似するものである(乙32)。ウ 以上のように,スプレー式の薬剤及び薬剤と需要者の共通性が高い化粧品や衛生用品等の分野において,その商品の用途や使用方法等を説明するために,商品の包装用箱等に,商品を身体の特定の部位に使用している人物を示す図を用いることは,広く一般的に行われていること,上記のような図は,現に,背中に生じるニキビ用の薬用化粧品について,本願商標に類似の図形からなるものが存在するなど,一般的に使用される標章であることに照らすと,本願商標は,「スプレー式の薬剤」について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,自他商品の識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるといわざるを得ない。\n
◆判決本文
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2012.12.23
平成24(行ケ)10281 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所
指定商品「電気通信機械器具の,自己修復機能を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理するための商品を除く)」,商標「セルフリペア」について、識別性なしとした拒絶審決が維持されました。
本件審決当時,本願商標の指定商品が属する電気通信機械器具の分野においては,それ自体が自動的に修繕・修復される自己修復機能という品質を有する部品及び附属品が公知であったところ,本願商標の指定商品は,「電気通信機械器具の,自己修復機能\を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理するための商品を除く)」であって,まさに自己修復機能という品質を有する部品及び附属品であるから,本願商標が指定商品に使用された場合,これに接した当該分野の取引者,需要者は,「セルフリペア」という語から想起される意味合いのうち,物それ自体が自動的に修繕・修復されること(自己修復)というものを想起し,これが当該部品及び附属品の自己修復機能\という品質を表しているものと認識すると認められる。そして,本願商標は,「セルフリペア」という標準文字からなるものであるにすぎないから,指定商品の品質を普通に用いられる方法で表\示したものというほかなく,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
◆判決本文
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2012.12. 5
平成24(行ケ)10156 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所
「壺プリン」は識別性無し、使用による識別性も無し、とした拒絶審決が維持されました。
上記認定のとおり,「プリン」は,柔らかく,形状を維持できないことから,通常は,容器に入れられて販売されたり,提供されたりしている。「壷」とは,一般に,「口の狭まった陶器」や「口が細くつぼまり胴のまるくふくらんだ形の容器」を指すが,プリンの容器として,壷型の容器が用いられる例は少なくなく,壷型の容器に入れられたプリンは,本件商品以外にも,多くの店舗で販売されたり,提供されたりしている。そして,このような壷型の容器に入れられたプリンには,「壷(つぼ)プリン」又は「壷(つぼ)プリン」の語を含む名称で表示された例が少なくない。壷型以外の形状の容器に入れられたプリンも販売されており,そのような場合には,プリンが入れられている容器(「バケツ」型の容器や「缶」型の容器)の名称を付して,「バケツプリン」「缶プリン」等の表\示がされた例がある。以上によると,需要者は「壷プリン」の表示から,当該商品が「壷型の容器に入れられたプリン」であると理解するものと認められる。そうすると,本願商標は,指定商品のうち「壷型の容器に入れられたプリン」に使用する場合には,商標法3条1項3号が規定する「その商品の形状(包装の形状を含む。)を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」に該当すると認められる。・・・
3 商標法3条2項該当性について(取消事由2)
(1) 前記認定事実によれば,原告は,インターネットを利用した通信販売等により,全国的に本件商品の販売を行っており,また,本件商品は,テレビや雑誌等のメディアや,各種のウェブサイトでも取り上げられ,平成20年1月頃に本件商品の販売を開始して以降,売上高を伸ばし,平成23年には合計190万個以上を販売し,7億円以上の売上高を記録している。また,「Yahoo!」と「Google」の検索サイトにおいてキーワードを「壷プリン」としてインターネット検索をすると,いずれにおいても,上位の大多数が本件商品に関するサイトであり,本件商品は,多くの需要者に認識されている商品であるといえる。しかし,前記認定のとおり,原告は,本件商品の宣伝広告に当たっては,「魔法の壷プリン」又は「神戸魔法の壷プリン」の表示を使用してきたこと,テレビや雑誌等のメディア,各種ウェブサイトでも,本件商品は,ほとんどの場合,「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」「神戸フランツの壷プリン」「神戸フランツ魔法の壷プリン」「神戸フランツ 神戸魔法の壷プリン」と表示されていることに照らすならば,「壷プリン」が使用されていると認めることはできない。ウェブサイト上には,消費者の書き込み等で,本件商品について単に「壷プリン」と記載されているものもないわけではない。しかし,その中には,「壷プリン」の記載の前後に,「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」との表\示や,販売店である「神戸フランツ」の名称が併記されているものもある。(甲73)以上によれば,需要者は,「神戸フランツ」「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」との表示により,商品の出所が原告であることを認識していると認められ,「壷プリン」との標章のみによって,その出所が原告であると認識していると認めることはできない。したがって,「壷プリン」のみにより,その出所が原告であることを認識できる状況に至ったと解することはできない。
(2) この点に対し,原告は,本願商標には,「フランツ」や「魔法の」「神戸魔法の」の文言が付加されているものが多いが,それぞれの表記の間には「の」が存在すること等から,「壷プリン」と「魔法」又は「神戸魔法」とは分離して観察することができると主張する。しかし,前記認定のとおり,需要者は「壷プリン」の文言から「壷型の容器に入れられたプリン」と認識することに照らすならば,「魔法の壷プリン」や「神戸魔法の壷プリン」等をもって,その出所を識別していると解することができ,「壷プリン」の文字部分のみで,その出所を識別していると解することはできない。以上のとおり,本願商標は,商標法3条2項に規定する要件を充足しているとはいえない。\n
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2012.11.16
平成24(行ケ)10242 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所
「生(レア)クッキー」が識別性無しとして無効とした審決が維持されました。
本件商標の指定商品は「生タイプのクッキー」である。証拠(甲24)及び弁論の全趣旨によれば,クッキーは,基本的に小麦を主原料とした焼き菓子を指すが,一部に,全く焼かないクッキーも存在することが認められる。また,本件商標の指定商品自体「生タイプの」クッキーであって,商品「クッキー」の中に,生タイプのものとそれ以外のものが存在することが窺える。
・・・
原告は,本件商標について,焼くという工程を有する商品「クッキー」に,敢えて矛盾する「生」という文字を組み合わせて,原告が創作した商標であるから,商品の品質を表示したものとはいえないと主張する。しかしながら,上記説示のとおり,クッキーには焼かないものも存在しており,本件商標の指定商品自体が「生タイプの」クッキーなのであるから,そのような指定商品に係る商標として「生」と「クッキー」の文字を組み合わせたとしても,自他識別力があるということはできない。また,証拠(甲27,28,54)によれば,本件商標の登録審決時より前に,洋菓子について,「生キャラメル」,「生ドーナツ」のように,加熱工程を有する菓子に「生」を組み合わせる例があったことが認められるのであって,焼き菓子に「生」の文字を組み合わせることに特殊性があるとはいえない。したがって,本件商標が原告の造語であるかどうかにかかわらず,原告の上記主張は採用することができない。\n
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2012.11. 3
平成23(行ケ)10359 審決取消請求事件 商標権 行政訴 平成24年10月25日 知的財産高等裁判所
アルファベット2文字「AO」からなる商標について、識別性なし、また、使用による識別力も生じていないとして、拒絶審決が維持されました。
以上によれば,AO 財団,及びその研究,開発,教育等の対象である骨折治療法(AO法)が,日本国内においても,需要者である医療従事者の間において広く認識され,社会的に信頼を得ていることは認められる。しかしながら,原告ないしその関係者が,本願商標である「AO」を,その指定商品ないし指定役務について商標として使用していると認めるに足りる的確な証拠はなく,本願商標が,使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとは認められない。イ これに対し,原告は,シンセス社は,AO 製品の特殊性から,本願商標を各製品に付するのではなく,AO 製品のパンフレットにAO 財団の承認を受けた旨表示しており,これによりAO 製品には,原告の業務上の信用が化体しているといえる旨主張する。しかし,上記のとおり,シンセス社は,AO 製品のパンフレットの表紙に,「SYNTHES」との欧文字及び図形からなる標章を表示し,その右横に「Instruments and implants」,「approved by the AO Foundation」と二段に分けて表記しているにすぎず(甲80,81),これをもって,本願商標である「AO」の使用ということはできず,原告の上記主張は,その主張自体失当である。なお,「AOAA Chapter Japan」,「AO trauma Japan」,「AO CMF Japan」,「AO VET Japan」なる組織(いずれもAO 財団の関係組織と推認される)のホームページないし冊子において,i)三角形(青色)と円(全体は黄色,縦横に数本の線入り)を組み合わせた図形に続けて「AOTRAUMA」の文字(「AO」は青色,「TRAUMA」は黒色)を配した標章,ii)上記図形に続けて「AO Foundation」の文字(いずれも青色)を配した標章,iii)上記図形に続けて「AO Asia Pacific」の文字(いずれも青色)を配した標章,iv)上記図形に続けて「AOCMF」の文字(「AO」は青色,「CMF」は黒色)を配した標章,v)上記図形に続けて「AOVET」の文字(「AO」は青色,「VET」は黒色)を配した標章,vi)上記図形に続けて「AO North America」(いずれも青色)の文字を配した標章が使用されていることは認められるものの(甲8〜14,24〜26,68〜71),これにより,本願商標である「AO」が,その指定商品ないし指定役務について商標として使用されていると認めることも困難である。ウ したがって,本願商標は,商標法3条2項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2012.10. 8
平成24(行ケ)10002 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年09月13日 知的財産高等裁判所
商標『Kawasaki』について、3条2項による登録が認められました。
審決は,「本願商標は,『Kawasaki』の欧文字を普通に用いられる方法で表してなるにすぎず,神奈川県川崎市を表\示するものと容易に需要者に認識させるものであるから,本願商標をその指定商品について使用するときは,これに接する取引者,需要者をして,その商品が神奈川県川崎市で製造,販売されたものであること,すなわち,商品の産地,販売地を表示したものと認識させるにとどまるものである。してみれば,本願商標は,神奈川県川崎市で製造,販売された商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する旨判断したが,審決の判断は,以下のとおり,疑問がある。商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表\示としてなんぴと(何人)もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁[判例時報927号233頁]参照)。また,登録出願に係る商標が同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表\示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁[判例時報1186号131頁]参照)。上記の観点から,本願商標が,同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか否かを検討する。上記1(1) 認定の事実によれば,本願商標は,欧文字「Kawasaki」が,エーリアルブラックの書体に似た極太の書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,単なるゴシック体の表記とはいえず,見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると,本願商標は,単なる欧文字の「Kawasaki」の表\記とは趣きを異にするから,一般人に,一義的に神奈川県川崎市を連想させるような表記ということはできない。また,上記1(2) 認定の事実によれば,神奈川県川崎市を「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字により表記することがしばしば行われるとはいえるが,漢字で「川崎」と表\記される場合とは異なり,「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字に接した一般人が,通常,当該文字から同市を商品の産地,販売地として想起するとまでは認められない。さらに,上記1(3) 認定の事実によれば,本願商標のみに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査したところ,半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し,神奈川県川崎市を想起した者は総数の3.1%しかなかったこと,また,同(4) 認定の事実によれば,本願商標をアパレル商品に付した場合でも,これに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査した結果,神奈川県川崎市を想起した者は総数の10.4%しかなかったことが認められる。以上を総合すると,本願商標が指定商品に使用されたとしても,需要者又は取引者において一般的に地名である神奈川県川崎市を想起するとはいえず,当該指定商品が同市において生産され又は販売されているであろうと一般に認識することもないというべきである。
4 取消事由3(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
上記2,3のとおり,本願商標が商標法3条1項3号,4号に該当するとの被告の主張は採用できないものであり,この点だけでも原告主張の取消事由は理由があるといえる。もっとも,上記のとおり,単なる欧文字の「Kawasaki」とは異なる特徴的な表記である本願商標の有する自他商品識別力が,同条1項3号,4号該当性の判断に影響を与えているともいえるので,仮に,3号又は4号に該当する商標であったとしても,同条2項の要件を充足し,商標登録を受けることができるかについて,念のため検討することとする。(1) 審決は,「本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって,また,商品の販売数量,シェア,広告宣伝の状況等について,本願商標の指定商品についての著名性を具体的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく,申立人の提出に係る証拠のみをもってしては,本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表\示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできない。」旨判断した。上記判断は,本願商標が商標法3条2項の要件を満たすためには,その指定商品であるアパレル関連の商品について使用された結果,著名なものとして自他商品識別力を獲得したことを要するとの前提に立つが,この前提は誤りである。すなわち,同項は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,・・・商標登録を受けることができる。」と規定し,指定商品又は指定役務に使用された結果,自他商品識別力が獲得された商標であるべきことを定めていない。また,同項の趣旨は,同条1項3号から5号までの商標は,特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\をもつに至ることが経験的に認められるので,このような場合には特別顕著性が発生したと考えて商標登録をし得ることとしたものであるから,登録出願に係る商標が,特定の者の業務に係る商品又は役務について長年使用された結果,当該商標が,その者の業務に係る商品又は役務に関連して出所表示機能\をもつに至った場合には,同条2項に該当すると解される。そして,上記の趣旨からすると,当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品又は指定役務が異なる場合に,当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所表示機能\を有すると認められるときは,同項該当性は否定されないと解すべきである。(2) 本件について検討する。
・・・
ウ 以上の事実を総合すると,原告が,本願商標を長年にわたってバイク関係やその他の多様な事業活動で使用した結果,審決時までに,本願商標は著名性を得て,バイク関係はもとより,それ以外の幅広い分野で使用された場合にも自他商品識別力を有するようになったといえる。そして,原告の子会社を通じて,本願商標を使用したアパレル関係の商品が長年販売されていることから,本願商標をアパレル関係の商品で使用された場合にも自他商品識別力を有すると認めるのが相当である。すなわち,審決時において,原告が本願商標を指定商品に使用した場合にも,取引者・需要者において何人の業務に係る商品であるかを認識することができ,本願商標は出所表示機能\を有すると認められる。(3) したがって,本願商標は,商標法3条2項に該当するものというべきであり,この点に関する審決の判断も誤りである
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2012.03. 6
平成22(ワ)11604 損害賠償 商標権 平成24年02月28日 東京地方裁判所
商標権侵害に対して、商3条1項違反の無効主張に基づく権利濫用の抗弁がなされました。権利者は、商47条の除斥期間の適用があると反論してますが、これも排斥されました。
以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,商標法3条1項柱書きが定める商標の登録要件を欠くものであるから,本件商標の商標登録には同項柱書きに違反する無効理由(商標法46条1項1号)がある。(2) 権利濫用の成否についてア 上記(1)で述べたとおり,本件商標は,その商標登録当時,出願人たる原告において,自己の業務に現に使用していたとは認められず,かつ,自己の業務に使用する意思があったとも認められないものであって,その商標登録に商標法3条1項柱書きに違反する無効理由があることは明らかである。加えて,前記(1)イ(イ)で検討したところによれば,本件商標の商標登録後においても,原告が,本件商標を「墓地又は納骨堂の提供」の役務に係る業務において現に使用した事実は認められず,また,将来において本件商標を使用する具体的な計画があることも認められないものであるから,本件商標には,原告の信用が化体されているとはいえない。これらの事情に鑑みれば,原告の本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使を容認することは,商標法の趣旨・目的,とりわけ,いわゆる登録主義の法制下においての濫用的な商標登録を排除し,登録商標制度の健全な運営を確保するという同法3条1項柱書きの規定趣旨に反する結果をもたらすものといえるから,原告の被告らに対する本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使は,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
イ これに対し,原告は,本件商標については,商標法47条1項所定の除斥期間の経過により商標登録無効審判の請求をすることができず,したがって,被告らは,本件商標の商標登録が無効であることを理由とする権利行使制限の抗弁(商標法39条,特許法104条の3第1項)を主張することができないにもかかわらず,本件商標の商標登録に無効理由があることを根拠として権利濫用の主張を認めることは,上記除斥期間を定めた商標法47条1項の趣旨を没却することとなり,許されない旨を主張する。しかしながら,商標法47条1項の規定は,商標登録を対世的かつ遡及的に無効とするための無効審判請求との関係において,その請求のないまま一定の期間が平穏に経過した場合に,現存の法律状態を尊重し維持するために,商標登録についての瑕疵が消滅したものと扱う趣旨の規定であると解されるところ,商標権者の特定の相手方に対する具体的な商標権の行使が権利の濫用に当たるか否かの判断は,商標法47条1項の規定が対象とする無効審判請求の可否の問題とは異なる場面の問題である。上記権利濫用の成否は,当事者間において具体的に認められる諸般の事情を考慮して,当該権利行使を認めることが正義に反するか否かの観点から総合的に判断されるべきものであって,ここで考慮され得る事情については,特段の制限が加えられるべきものではない。したがって,商標権の行使が権利濫用に当たるか否かの判断に当たっては,当該商標の商標登録に無効理由が存在するとの事情を考慮し得るというべきであり,当該無効理由につき商標法47条1項の除斥期間が経過しているからといって,このような考慮が許されないものとされるべき理由はなく,このことが同項の趣旨を没却するなどといえないことは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。
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2012.02.13
平成23(行ケ)10223 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年02月09日 知的財産高等裁判所
審判では、「戸建マンション」が、識別力なしとして、拒絶されました。知財高裁もこれを維持しました。
前記(1)アの新聞記事及びインターネット情報によれば,本願の指定役務である建物に関連する役務を提供する業界においては,プライバシーを確保する目的で住戸の独立性を高めたり,戸建のような住居配置で優れた独立性と採光・通風を確保し,また専用の庭,駐車場及び門扉を設置するなどの工夫を施すことによって,戸建てに近い居住性,建築形態を採るマンションが多数取引されている実情にあることが認められる。また,前記(1)イの新聞記事及びインターネット情報によれば,「戸建てマンション」,「戸建型マンション」,「戸建て感覚マンション」及び「戸建て風マンション」の語が,建物に関連する役務を提供する業界において実際に使用されていることが認められる。上記事実によれば,本願商標「戸建マンション」は,上記「戸建てマンション」,「戸建型マンション」,「戸建て感覚マンション」及び「戸建て風マンション」と実質的に同一の語であると認められ,また,戸建てに近い居住性,建築形態を採る戸建てのようなマンションが多数取引されている実情をも併せ考慮すると,それらの語は,「戸建て住宅の機能・特長を併せ持ったマンション」という意味合いを有すると認められる。そうすると,本願商標は,これに接する取引者・需要者をして,「戸建て住宅の機能\・特長を併せ持ったマンション」という意味合いを有する合成語として容易に認識,理解させるとみるのが相当である。したがって,本願商標は,これをその指定役務である建物に関連する役務に使用しても,単に役務の質(内容)等を表示するにすぎず,自他役務の識別標識としての機能\を果たさないものであり,また,前記「戸建マンション」に係る建物に関連する役務以外の役務に使用するときは,役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるといわざるを得ない。
以上のとおり,結局,本願商標は自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものというべきであって,商標法3条1項3号の「その役務の質を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」に該当し,また,本願商標を前記役務以外の役務に使用するときは,役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるから,同法4条1項16号の「役務の質の誤認を生じるおそれがある商標」に該当するといわざるを得ない。
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2011.12.19
平成23(行ケ)10207 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年12月15日 知的財産高等裁判所
アップルの商標「MULTI-TOUCH」が識別性無しとした拒絶審決が維持されました。
原告は,本願商標について,「iPhone」等の製品のために原告が採用した造語であって,特定の意味を持たず,原告ないしその製品との密接な連想関係があり,一般人がタッチパネル方式の一技術名と認識しているとしても,原告の採用した造語を普通名称と誤解したのであって,当業者は原告との連想関係を認識しているなどと主張し,また,「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」については,「マルチタッチ」の語を使用する必然性はなく,他社は他の語を使用しているなどと主張する。しかしながら,表記は別として「マルチタッチ」の語が一般に広まったことについて,原告による「iPhone」や「iPod touch」の発表・発売が引き金になっていることは否めないにしても,そもそも,パソ\コンやそのディスプレイ等の商品分野において,「タッチパネル」や「タッチペン」等の語が用いられてきたように,「タッチ」の文字は,画面に接触することによる入力方式やそのような入力方式を採用した機器を意味するものとして使用されてきたのであって,このような「タッチ」と多数を意味する「マルチ」の文字を組み合わせた「マルチタッチ」が,通常の認識として,画面に数回又は複数接触することによる入力方式等を意味するものと把握される可能性があることは否定できない。加えて,上記認定のとおり,「iPhone」等の発表・発売の数年以上前から既に,複数のタッチパネル等の開発者により,公的に用いられる特許出願に係る公報において,「マルチタッチ」の文字が,複数の指でタッチパネル等の機器に触れることによる入力・操作方式を示すものとして使用されていて,特段の定義付けがなく理解されているのであるから,原告の上記主張は,採用することができない。\n
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2011.06.30
平成22(行ケ)10253等 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年06月29日 知的財産高等裁判所
立体商標について、3条1項3号の該当性については審決の判断を肯定しましたが、3条2項の該当性については、使用による特別顕著性を取得していたと判断し、拒絶審決を取り消しました。
そこで,本願商標が,商標法3条2項に該当するか否かについて,検討する。立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。・・・・上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,i)原告製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,ii)1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,iii)その結果,需要者において,本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。
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2011.05. 4
平成22(行ケ)10366 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年04月21日 知的財産高等裁判所
立体商標について、3条2項により識別性を取得したとして、拒絶した審決が取り消されました。
上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。・・・被告は,本願商標に係る香水の販売地や販売地域,販売数量や宣伝広告費が不明で,市場占有率も高くないから,香水の一般的な需要者が,本願商標が,原告の出所に係る商品であると認識し得るものではないと主張する。しかしながら,販売地域,販売数量や宣伝広告費等が明らかにされることが望ましいものの,それらが必ずしも明らかではないとしても,その形状の特徴から自他商品識別力を獲得することはあり得るし,香水は安価な日用品とは異なるものであり,香水専門誌やファッション雑誌等による宣伝広告をみた需要者は,その特徴的な容器の形状から,原告の出所に係る商品であることを認識し得るということができる。
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2011.05. 4
平成22(行ケ)10406 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年04月21日 知的財産高等裁判所
立体商標について、識別性無しとして拒絶した審決が維持されました。
商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表\示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能\ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能\を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。そうすると,客観的に見て,商品等の機能\又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能\又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。\n
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2010.11.18
平成21(行ケ)10433 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年11月15日 知的財産高等裁判所
「喜多方ラーメン」について地域団体商標の要件は満たしていないとした審決が維持されました。
地域団体商標(7条の2第1項)の対象となる商標は,元々地域における商品の生産者や役務の提供者等が広く使用を欲するものであり一事業者による独占に適さない等の理由から,従前3条1項に該当するとして登録が認められなかったものである。そこで,商標法は,当該商標の使用を欲する事業者が団体の構成員となって使用をする途が可能\な限り妨げられないように措置して,地域団体商標の制度を設けたものであるから,地域団体商標の商標登録を受けようとする者は,当該商標の使用を欲する事業者(当該商標を現在使用している者又は将来使用を欲する者)が,団体の構成員となって使用をする途が可能\な限り妨げられないよう,特段の制限なくその団体に自由に加入しうるようにする必要がある。また,地域団体商標の制度趣旨が,地域振興にあることからすると,地域全体として,当該商標を保護していくという条件をも満たす団体である必要性があり,当該団体には,当該商標の使用者(ないし将来使用を欲する者)の大多数が加入していることが本来求められるべきである。ところが,当該団体の構成員が,当該商標を使用する者の一部にすぎないような場合には,需要者が当該団体又はその構\成員の業務に係る商品又は役務であることを期待して購入した商品や提供を受けた役務が,当該団体の構成員以外の者の取扱いに係る商品又は役務である場合があることから,商取引における混乱を生じさせるおそれがある。そうすると,需要者保護の観点からも,当該商標の登録を受けようとする者が,当該商標の使用を欲する事業の大多数が加入している団体であることが要求される。イそして,前記要請を満たす団体であって,当該団体又はその構\成員が当該商標を使用した結果,当該団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表\示するものとして需要者の間に広く認識されているときは,当該商標について地域団体商標として登録を受けることができる。(2)ア「協同組合蔵のまち喜多方老麺会会員名簿」(甲86)によれば,平成19年1月1日当時に原告に加入していた喜多方市内のラーメン店は46店であり,「喜多方市内のラーメン店」(甲91)によれば,喜多方市内のラーメン店(通し番号で合計124店)で閉店等していない店舗のうち,原告に加入しているものは47店,原告に加入しているか明らかでないものは48店であり,原告の会員名簿(甲98)によれば,原告に加入している喜多方市内のラーメン店は43店であり,「喜多方市内のラーメン店」(甲100)によれば,喜多方市内のラーメン店(通し番号で合計125店)で閉店等していない店舗のうち,原告に加入しているものは44店,原告に加入しているか明らかでないものは48店である。そうすると,審決がされた時点において,喜多方市内でラーメンを提供する店のうち原告の構成員であるものは,半数に満たない。しかも,雑誌等で紹介されたり,インターネットの人気店ランキングで上位を占める喜多方市内のラーメン店や,喜多方市内で提供されるラーメンの普及や上記ラーメンの知名度の向上に貢献したラーメン店や,喜多方市外でも知名度の高い喜多方市内のラーメン店には,原告の構\成員でない店舗が含まれている。そうすると,このような加入実績しか有しない原告に本願商標の使用を独占させるときは,事業者相互間でも,需要者との間でも,混乱を生じるおそれがあるから,本願商標の登録は適切でない。
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2010.05. 1
平成21(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年04月28日 知的財産高等裁判所
非類似であるとして無効理由無しとした審決が、取り消されました。
本件商標は,「アスリートレーベル」の片仮名文字から成る結合商標である。本件商標を構成する「アスリート」は「運動選手,競技者」等,「レーベル」は「ラベル」と同義で「貼\\り紙,広告や標識のために貼る小さな紙片」等を意味する普通名詞である(岩波書店「広辞苑〔第6版〕」,三省堂「大辞林〔第2版〕」)。そして,前記(2)認定のとおり,本件商標の一部を構成する「アスリート」の部分が,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し,原告の商品を示すものとして周知性を獲得し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標のうち「アスリート」の部分だけを,原告の使用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものというべきである。イそうすると,本件商標からは,「アスリートレーベル」全体としてのみならず,「アスリート」の部分からも称呼,観念が生じるということができる。そして,後者の「アスリート」は,原告の使用商標のうち「アスリート」と同一の片仮名文字から成るものであり,両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ,「運動選手,競技者」という同一の観念が生じるから,その外観を考慮しても,両者は類似する。したがって,本件商標「アスリートレーベル」が医療用腕環に使用されるときは,本件商標中の「アスリート」は,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において,周知の原告の使用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。ウしかるところ,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。エよって,本件商標から生じる称呼,観念の1つである「アスリート」と原告の使用商標とが類似する以上,本件商標は,原告の使用商標と類似するものである。\n
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2010.03.31
平成21(行ケ)10228 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟平成22年03月29日 知的財産高等裁判所
コーヒーの産地表示か否かが争われました。裁判所は、3条1項3号、4条1項16号違反とした審決を一部の指定商品について取り消しました。
前記(1)認定の事実によれば,i)我が国においては,「YIRGACHEFFE」又は「イルガッチェフェ」(前記(1)のとおり「YIRGACHEFFE」の日本語表記にはいろいろなものがあるが,いずれも「YIRGACHEFFE」の日本語表\\記であると認められるので,以下それらを総称して「イルガッチェフェ」を用いる。)は,これが「コーヒー,コーヒー豆」に用いられる場合,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類を指すものとして用いられることが多いこと,ii)我が国において,「イルガッチェフェ」が,エチオピアにおけるコーヒー豆の産地として用いられる場合があるが,その場合でも,上記銘柄又は種類としての「YIRGACHEFFE」又は「イルガッチェフェ」の産地として用いられていることが多いこと(「イルガッチェフェ」が「シダモ」の産地として用いられることもあったと認められるが,そのような例が多いとは認められない。),iii)上記銘柄又は種類としての「YIRGACHEFFE」又は「イルガッチェフェ」は,エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることが認められる(なお,前記(1)の事実の中には,本件商標の登録査定日以後の事実が含まれているが,本件商標の登録査定日後1年以内の事実であり,本件商標の登録査定日前の事実と相まって,上記認定に用いることができると認める。)。以上の事実に,証拠(甲6〜8,21の1・2,23の1〜8,24の1・2,25〜27,44〜46,乙36の2,37,41,42)によれば,エチオピアの「イルガッチェフェ」(「YIRGACHEFFE」)という地名は,我が国の学校教育において使用されている地図(小学校,中学校,高校)はもとより,一般の地図にも掲載されておらず,辞書・事典類にも「イルガッチェフェ」(「YIRGACHEFFE」)の項目はないことが認められるから,一般に我が国においては,エチオピアの「イルガッチェフェ」(「YIRGACHEFFE」)という地名の認知度は低いものと認められることを総合すると,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,コーヒー豆の産地そのものというよりは,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類,すなわち,エチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方イルガッチェフェ地域産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーを指すものと認識すると認められる。そうすると,本件商標は,自他識別力を有するものであるということができる。また,前記(1)認定の事実によれば,上記銘柄又は種類としての「YIRGACHEFFE」又は「イルガッチェフェ」は,いろいろな業者によって使用されているのであるが,それがエチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方イルガッチェフェ地域産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り,原告による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることになるから,商標権者が原告である限り,その独占使用を認めるのを公益上適当としないということもできない。ウ したがって,本件商標登録が商標法3条1項3号が規定する「商品の産地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するということはできないから,取消事由1は理由がある。・・・・前記3(1)ア認定のとおり,エチオピア国において産地によってコーヒーの風味が異なることからすると,産地に由来する本件商標をエチオピアのシダモ地方イルガッチェフェ地域産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあるというべきである。そして,審決書記載のとおり,特許庁における平成20年10月28日の第1回口頭審理の結果によれば,指定商品中の「コーヒー」は「焙煎後のコーヒー豆及びそれを更に加工した粉状,顆粒状又は液状にした商品(コーヒー製品)」のことであり,「コーヒー豆」は「焙煎前のコーヒー豆」のことである。したがって,本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとの審決の判断に誤りがあるということはできない。また,このように解することが,前記3(2)エ(ア)bのTRIPs協定の規定にも適合するというべきである。・・・・商標法46条1項ただし書は,商標登録の無効審判請求について,「商標登録に係る指定商品又は指定役務が2以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定していることからすると,商標登録の無効審判請求は,指定商品又は指定役務ごとにすることができるところ,ここでいう「指定商品又は指定役務」は,出願人が願書で記載した「指定商品又は指定役務」に限られることなく,実質的に解すべきである。本件においては,既に述べたとおり,「エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」とそれ以外の「コーヒー豆,コーヒー」では,商標法4条1項16号該当性において違いがあり,「指定商品」としても異なると解することができる。したがって,「エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に係る部分には無効事由はないが,それ以外の部分には無効事由があるとの判断をすることができるというべきである。
◆判決本文
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◆平成21(行ケ)10227
◆平成21(行ケ)10226
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2010.01.28
平成21(行ケ)10270 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年01月27日 知的財産高等裁判所
商標法3条1項6号違反とした審決が維持されました。
このように,本願商標は,高級ブランドの既製服の店を表す普通名詞として認識される「BOUTIQUE」の欧文字にありふれた数字「9」を併せて,その間に1文字分のスペースを空けて,標準文字で表\記したものである。本願商標の指定商品は,前記第2の1(1)のとおりであり,その多くが「BOUTIQUE(ブティック)」において販売されている商品であるから,「BOUTIQUE」をその指定商品に使用したとしても,この部分から自他商品の識別標識としての称呼,観念が生じるとは認め難い。他方,1文字の数字の「9」は,それのみでは,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章」(商標法3条1項5号参照)といわざるを得ないものである。そうすると,本願商標を「BOUTIQUE」,「ブティック」において販売されている商品に使用する場合に,自他商品の識別標識としての機能を有するものとはいえない。イ 以上のとおり,本願商標「BOUTIQUE 9」をその指定商品に使用する場合には,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであるから,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」として,商標法3条1項6号に該当する。\n
◆判決本文
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2009.07.28
◆平成21(行ケ)10023 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年07月21日 知的財産高等裁判所
指定商品「キムチ」について商標「こくうま」が識別力あるかが争われました。
裁判所は、識別力ありとした審決を維持しました。
「以上の事実関係に基づき,本件商標は,その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に当たるかどうかについて判断する。ア 本件商標は,「こくうま」と平仮名で縦に記載したものであるところ,本件商標の登録査定日(平成18年11月30日)以前に「こくうま」の語が国語辞典に掲載されていたことを認めるに足りる証拠はないから,「こくうま」の語は,日本語として一般的に用いられている語とまでいうことはできず,食品の品質等を暗示ないしは間接的に表\示するものとはいえても,直接的に表示したものとまでいうことはできない。また,前記(1)認定のとおり,本件商標の登録査定日(平成18年11月30日)より前から,「こくうま」の表記は,ラーメン,カレー,コーヒー,惣菜の素などに用いられているものの,「こくうま」の表\記がキムチに用いられた例が被告商品以外に存したとは認められない。前記(1)認定のとおり,原告は,本件商標の登録査定日より前から,「こく旨」,「KOKUUMA」の表記を含む商品名のキムチを販売しており,キムチについて「コクうま」との表\現を用いた新聞記事も存したが,これらの表記は,いずれも本件商標とは異なっているし,原告商品の販売数量等も明らかでなく,また,これら以外に「こくうま」の称呼を有する表\記がキムチに用いられた例が存したとは認められない。さらに,前記(1)認定のとおり,本件商標の登録査定日より前から,キムチの「コク」や「うまみ」について述べた書籍が存するが,それらも「こくうま」との表記を用いているものではないし,被告発行のパンフレット「『こくうま』熟うま辛キムチシリーズ商品概要」(甲64)の記載も,コクのあるキムチが好まれていることを示すものにすぎない。以上を総合すると,本件商標を「キムチ」に用いた場合,需要者・取引者には,「こくがあってうまい」というキムチの品質それ自体を表\示するものと認識されるとまでいうことはできないから,本件商標が,その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に当たるとは認められない。イ この点について,原告は,平成19年12月5日には,「こくうま」,「コクうま」及び「こく旨」の各商標の商標登録出願について,特許庁は,「取引者,需要者に,『こく(コク)があってうまい(旨い)商品』であることを理解させるにとどまり,単に商品の品質を普通に用いられる方法で表\示するにすぎないもの」と認定した拒絶理由通知を発しており(甲12の1〜3),この商標登録出願については拒絶査定が確定しているから,食品業界に属する当業者によって容認されているといえる,と主張する。しかし,これらは,本件商標とは異なる商標登録出願についての特許庁の認定であって,商品区分も第30類で本件商標(第29類)とは異なっているから,上記アの認定を左右するものではないし,この商標登録出願について拒絶査定が確定しているからといって,この特許庁の認定が食品業界において本件商標の指定商品である「キムチ」につき一般に容認されているとまでいうことはできない。」
◆平成21(行ケ)10023 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年07月21日 知的財産高等裁判所
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2009.03.26
◆平成20(行ケ)10371 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年03月24日 知的財産高等裁判所
商標「アイピーファーム」は商標法3条1項6号違反とした審決が維持されました。
「「アイピー」についてみるに,甲第36及び第37号証によると,「知的
財産」を意味する英語の「Intellectual Property」が「IP」と略して使用されることが認められるところ,このことは,本件商標に係る指定役務の需要者の多くにとってはよく知られた事柄であるというべきである。次に「ファーム」についてみるに,・・・と記載されているとおり,「FIRM」が会社等の人的組織を意味する語であり,「FARM」が農場や農園を意味する語であると認められるところ,これらの語はいずれも現代の我が国において広く知られているものと認められる。そうすると,本件商標に係る指定役務の需要者が本件商標(アイピーファーム)に接すれば,まず,「アイピー」から「IP」,すなわち,「知的財産」を想起するものと認められる。そして,その後に続く「ファーム」からは,上記のとおり,「FIRM」だけでなく,「FARM」も想起され得るが,これらの語の意味を知っている本件商標の指定役務に係る上記需要者にとって,「知的財産」と「FARM(農場)」を結びつけることが一般的であるとは考えにくい反面,「LAW FIRM」(法律事務所)の用例が相当程度浸透していることをも考慮すると,本件商標に係る指定役務の需要者は,「アイピー」に続く「ファーム」から,主として「FIRM」を想起するものと認められる。そうすると,例えば,上記「LAW FIRM」の語から法律事務所,すなわち,法律関係業務を取り扱う事務所の観念が生ずるように,本件商標(アイピーファーム)からは「IP FIRM」,すなわち,「知的財産関係業務を取り扱う事務所」の観念を生ずるものと認められる。したがって,本件商標の表記は,その指定役務の需要者にとって,その指定役務に係る業務の内容を表\したものにほかならないというべきである。」
◆平成20(行ケ)10371 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年03月24日 知的財産高等裁判所
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2007.12.14
◆平成18(ワ)8621 商標権侵害差止等請求事件 商標権民事訴訟 平成19年12月13日 大阪地方裁判所
侵害訴訟にて、「マイクロクロス」に商標法3条1項3号の無効理由があるかが争われました。
「これらの状況からすると,マイクロファイバーという超極細繊維は,開発されてから相当の年月が経過したとはいえ,なお一般消費者に対しては構造や性質の説明をしてその効用を訴えることを要する状態にあるということができ,ポリエステルとかナイロンといった通常の合成繊維のように特段の説明を要しないほどに一般消費者の間に浸透した繊維素材になっているとはいえない。まして,「マイクロファイバー」という語については,その語が単独で使用される例よりも,内容を端的に表\す「超極細繊維」の語とともに,又はその語のみが使用される例の方が多く,やはり超極細繊維の名称として一般消費者の間に浸透しているとはいえない。「マイクロファイバー」自体の以上のような浸透度に加え,前記のとおり「マイクロ」の語が単に「極小・微小」を意味する語として一般に知られていること,また「マイクロ○○」という語が「マイクロファイバー製の○○」を示す名称として使用される例も証拠上見られないこと,マイクロファイバー製の布製品でも「マイクロ」が付されない商品があること,本件登録商標は冗長ではなく,かつ「マイクロ」「クロス」と「クロ」が連続して小気味良く一気に発音しやすいため全体として一体感が強いことも併せ考慮すると,本件登録商標「マイクロクロス」から「マイクロ」の部分のみを取り出して,それが「マイクロファイバー」の更にその一部である「マイクロ」に当たるものであって,かつ素材としてのマイクロファイバーを意味する趣旨であると一般に認識されるとは認められない。したがって,本件登録商標の登録査定時及び本訴口頭弁論終結時において,本件登録商標の指定商品の需要者において,本件登録商標「マイクロクロス」から「マイクロファイバー製の布・布地・織物」の観念が生じると認めることもできない。もっとも,マイクロファイバー製の布製品について,「マイクロタオル」や「マイクロふきん」といった商品名の商品が散見されることは先に認定したとおりではある。しかし,上記のようなマイクロファイバー自体の一般消費者への浸透度を考慮すると,それらの商品名に接した一般消費者において,「マイクロ○○」といえば一般にはマイクロファイバー製のものであるとの認識が生じるとも認め難いから,そのような例があるからといって,上記認定を覆すものではない。」
◆平成18(ワ)8621 商標権侵害差止等請求事件 商標権民事訴訟 平成19年12月13日 大阪地方裁判所
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2007.07.27
◆平成18(ワ)28323 損害賠償等請求事件 商標権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所
「自然健康館」「スーパーフコイダン」の2段併記の商標について、「スーパーフコダイン」には識別性がないと判断しました。
「既に述べたとおり「フコイダン」は,海藻類の成分を抽出して作られた健康食品の原材料を表示する用語である。そして,いわゆる健康食品において,「スーパー」は,商品の誇称表\示として一般的に使用されている用語である。したがって,本件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」の分野では,「スーパーフコイダン」という用語は,高品質の「フコイダン」,すなわち,高品質な,海草類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって,それ自体では出所識別力を有せず,本件商標の要部とはなり得ないというべきである。そして,「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らせば,本件商標は,「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであり,「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解するのが相当である。原告は,自然健康館は小さめに記載され,また,製造元を示すにすぎないので,要部となり得ないと主張する。しかし,既に述べたとおり「スーパーフコイダン」単独では要部となり得ないのであるから,製造元を示す「自然健康館」と「スーパーフコイダン」との表\示が相まって出所識別力を発揮するものと認めるのが相当である。原告の上記主張は採用することができない。」
◆平成18(ワ)28323 損害賠償等請求事件 商標権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所
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2007.04. 3
◆平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
「お医者さんのひざベルト」が品質を表すとした審決が維持されました。
また、審判段階においては全く主張しなかった商標法3条2項の適用について、審決取消訴訟で新たに主張することも認められると判断されました。
「以上のイ〜エを総合すると,本願商標は「お医者さん」が開発・考案し
た「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められるところ,「お医者さん」が開発・考案したことによって,その「ひざベルト」が,高品質の信頼性が高いものという認識が生ずるということができるから,誰が製造したかが商品の品質と密接に関連しており,本願商標を本願の指定商品である「保温用サポーター」に使用した場合は,商品の「品質」を表したものと理解されるにとどまるものというべきである。・・・商標法3条2項は上記のとおり商標法3条1項3号を前提としてこれに対する例外を規定したものであるから,審判手続段階において商標法3条2項のいわゆる特別顕著性に該当する事実について主張立証がなされていなかったとしても,その後の審決取消訴訟段階において,原告は,商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるべきでないことについての主張立証として,商標法3条2項に該当することを主張立証することができると解するのが相当である。」
◆平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
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2006.06.23
◆平成17(行ケ)10821 審決取消請求事件 平成18年06月20日 知的財産高等裁判所
指定商品をメロンとする商標「アンデス」が自他商品識別力がない(3条1項3号)として拒絶した審決が維持されました。
「"アンデス"との語は,メロンの品種名として,取引者,需要者を含め,一般に広く知られているものであるから,本願商標を指定商品である「メロン」に使用する場合は,当該商品の品質(当該品種に応じた品質)を表示するものとして認識されるものであり,後記(2)で説示するとおり,本願商標が自他商品識別機能を有するものとも認められないから,これを特定人に独占使用させることは公益上適当でないものと認めるのが相当である。」
◆平成17(行ケ)10821 審決取消請求事件 平成18年06月20日 知的財産高等裁判所
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2006.04. 3
◆H18. 3. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10651 商標権 行政訴訟事件
UVminiという商標が識別力がないとした審決を取り消しました。
「このように,欧文字2字からなる極めて簡単な構成であっても,それ自体で,周知の一定の観念を有している場合には,直ちに,自他商品識別機能\ないし出所表示機能\を有し得ないとすることはできないものというべきである。本件についてみると,「UV」の語は,「紫外線」の意味を有するものとして周知であるから,仮に,これを商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用される場合があるとしても,取引者,需要者が「紫外線」に関連する商品であろうと考える可能\性が高く,「UV」の語をもって,単なる商品の品番,型番等を表す記号又は符号であるとするのは,誤りである。したがって,「UV」の表\示が,商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用されているものであるから,自他商品識別機能\ないし出所表示機能\を有するものとして働くことはないとする被告の上記主張は,失当である。」
◆H18. 3. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10651 商標権 行政訴訟事件
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2006.02. 2
◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10631 商標権 行政訴訟事件
標章「L−IP」が商標法3条1項5号に該当するかが争われました。
本願商標を構成する「L」と「IP」との間には「−」が存在するため,視覚上,本願商標が「−」の前後で「L」と「IP」に分離して看取され,本願商標を一連に称呼する場合には,「エル,アイピー」又は「エルアイピー」と称呼するものと認められる。また,本願商標の公開商標公報等に「リップ」の称呼が参考情報として記載されていることを認めるに足りる証拠もない。そうすると,「くちびる」を意味する英単語「Lip」が中学程度で取得すべき基本語であること(甲2)を考慮してもなお,本願商標の構成ないし文字配列から「リップ」の称呼が生じたり,又は英単語「Lip」の観念を想起するものと認めることはできず,本願商標の構成全体をもって特定の語義を観念し又は想起することは困難であるというべきである。
◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10631 商標権 行政訴訟事件
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2006.02. 2
◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10484 商標権 行政訴訟事件
商標法3条2項の需要者について、審決の判断が維持されました。
「同項にいう「需要者」とは,本件指定商品である「ジーンズ製のズボン」のような場合にあっては,小売業者のような取扱業者のみならず最終購買者である一般消費者をも含むと解するのが相当であるところ,前記のとおり,本件商標の登録査定がされた当時,本件商標が単独で使用された結果一般消費者まで含めた需要者において何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標となっていたとまでは認められないのであるから,本件商標が商標法3条2項に該当しないとした本件決定に誤りはないということになる。」
◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10484 商標権 行政訴訟事件
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2005.06.13
◆H17. 6. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10342 商標権 行政訴訟事件
「FLAVAN」が商標法3条1項3号、4条1項16号に該当するかが争われました。
裁判所は、「登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,必ずしも当該商標がその指定商品の品質又は原材料を表すものとして,取引者,需要者に広く認識されていることを要せず,将来において,需要者,取引者にその商品の原材料又は品質を表\すものと認識される可能性があれば足りると解すべきである。原告の提出する証拠は,「FLAVAN」又は「フラバン」が,本件審決時点で本件取引者・需要者の間で,本願指定商品の原材料であると広く認識されていないことを示すにすぎず,本願商標が将来においてその指定商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能\性があることを否定するに足るものということはできない」として、拒絶審決を維持しました。
◆H17. 6. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10342 商標権 行政訴訟事件
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2003.10.17
◆H15.10.15 東京高裁 平成15(行ケ)102 商標権 行政訴訟事件
商品又は商品の包装の形状にかかる立体商標について、識別性があるかについて判断されました。審決、判決とも否定しました。
判決は、「商品等の形状は、本来、当該商品の機能を保持するための一定の制約を受けながらも、その機能\をより一層効果的に発揮させるため、あるいは、看者に及ぼす美感をより一層高めるために採択されるものであり、商品の出所を表示したり、自他商品を識別する標識としての役割を担うものではないところ、当該商品の取引者・需要者も同様の認識を有するものというべきである。したがって、商品等の形状は、商品等の通常の機能\又は美感と関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り、自他商品の識別標識となり得るものと解すべきである。また、商品等の形状を普通に用いられる方法で表\示するのみであって、通常の機能又は美感とは関わりのない特異な形状あるいは装飾的な形状ではない商品等の形状についてまで、特定人にその独占的使用を認め、更新を続ける限り永続的に保護を及ぼすことは、公益にも反するものといわなければならない。」と述べました。
◆H15.10.15 東京高裁 平成15(行ケ)102 商標権 行政訴訟事件
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2003.09. 2
◆H15. 8.29 東京高裁 平成14(行ケ)581 商標権 行政訴訟事件
ウイスキーの瓶の形状が立体商標として識別性を有しているかが争われました。
裁判所は、3条1項3号の記述的商標に該当すると判断し、さらに、3条2項の使用による識別性も認めませんでした。理由は、「使用に係る商標と同一でない」というものです。具体的には、以下のように述べました。「本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶とは,その立体的形状は同一と認められる範囲内のものであると認められるものの,両者は,立体的形状よりも看者の注意をひく程度が著しく強く商品の自他商品識別力が強い平面標章部分の有無において異なっているから,全体的な構成を比較対照すると,同一性を有しないというべきである。」
◆H15. 8.29 東京高裁 平成14(行ケ)581 商標権 行政訴訟事件
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