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商3条1項各号 > 使用による識別性

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

使用による識別性

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和6(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

シンゴジラのフィギュアの立体商標について、3条2項の適用なしとした審決が取り消されました。

(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結 果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨\n主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形 態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同 一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当 たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定し ておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的 形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前 脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体 のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を 中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとお り、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。 しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形 状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴ ジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考 慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき である。
(2) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映 画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26 億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年 間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、 それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、 当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品 の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状 として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、1)昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後6 0年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客 動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めて いること、2)これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること 等が明記されていたこと、3)この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラ ム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超 えていること、4)上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾 を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化 の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、5)原告の シンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施 設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認 定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映 画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁 判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登 場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうし た需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳〜69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を 示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由 回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、 極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質 問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体 的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結 果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識で きるに至ったものと認めることができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本願商標に係る使用商品の使用期間(販売期間)が「永年」とは いえない旨主張する。しかし、映画「シン・ゴジラ」が公開された平成28 年頃から本件審決時までの約8年間にわたって、原告が本願商標をその指 定商品に継続して使用した事実は認められるところ(上記1(5))、これ自 体、それなりの使用期間と評価することができる。 更にいえば、そもそも商標法3条2項の「使用」につき「永年」の要件が 課されているわけではないし、「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったか否かは、使用期間だけでなく、商 品の販売数量、広告宣伝の規模、話題性等も総合して判断すべきものであ る。加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主 体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、 本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も 存在している。 こうした点を考慮すると、本願商標について、上記使用期間が「永年」と までいえないとしても、同項該当性に係る前記判断が左右されるものでは ない。
イ 被告は、原告主張の使用商品の販売実績についてはこれを裏付ける客観 的証拠はなく、また、これが事実としても、本願の指定商品を扱う業界にお いてどの程度のものであるかの多寡を確認することはできない旨主張する。 しかし、甲53、77によれば、上記販売実績は、原告社内の信用性のある データに基づき作成されたものと認められ、不合理な点は認められない。 また、被告が、本件審決が判示したように、「玩具業界全体」における使用 商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する 玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするもので あり、採用できない。
また、被告は、使用商品は原告でなくライセンシーにより販売されてい るにすぎないこと、「東宝」の文字を冠した使用商品でも原告以外のメーカ ー名が表示されていること、使用商品本体への本件著作権等表\示について は、本体の足の裏側の目立たない位置に小さく表示されているにすぎず需\n要者の注目を惹かないこと等を主張する。しかし、出願人から許諾を受け た者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適 切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場 合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、原告 は前記1(3)ウのとおりライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用 商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所が原告である ことを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品が原告\nの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるも のである。
ウ 以上のほか、被告は、使用商品が掲載された雑誌の種類が少ない、書籍や 展示即売会の来場者は限定されている、ゴジラ像の恒常的設置は東京都内 の4か所にとどまる、本件アンケートには本願商標の立体的形状と原告と の関連についての質問がないなど、原告の主張立証の逐一を論難するが、ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず、上 記(2)の判断を左右するものとはいえない。

◆判決本文

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令和6(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月28日  知的財産高等裁判所

商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。

上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品 等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料 を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用 されている実情があるものと認められる。 その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉 などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。 また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」 の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。 そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取 引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味 合いが認識されるものということができる。 そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、 単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、 商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標 の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商 品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を 普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、 本件審決の判断に誤りはないというべきである。

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令和5(行ケ)10141  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月10日  知的財産高等裁判所

商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。

(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線 などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続 した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的 に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。 さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章 (「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧 表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の 前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例 1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前 の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。 このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字 の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと 認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する 一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な 取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと 異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし て考慮すべきであると主張する。 しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文 字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。 しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供 するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、 いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字 を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出 所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。 しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通 するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識 別力を認めるべきである旨主張する。 しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行 するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を 示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審 院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。 そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐 次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等 の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。 原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言 及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定 期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物 と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、 「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、 放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5)) についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直 ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。 なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行 物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役 務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変 容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの 取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、 オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決 の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。

2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。) 前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象 外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2 6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を 有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必 要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、 商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以 外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26 年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解 釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、 別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、 B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合 せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の 「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本 における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩 の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結 合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に 関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の 主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色 の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特 定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部 輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶 色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感 じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。 また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価 する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我 が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的 な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。 また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包 装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣 伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的 に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標 は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として 用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及 び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付 した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第 16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購 入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。 そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は 広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名 な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自 体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに 認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広 告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド 商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件 包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び 指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各 アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、 本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの 商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役 務識別力の獲得を認めることはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事 由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3 条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との 関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に 関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを 示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等 についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製 造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事 例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩 及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事 例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子 (キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、 171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の 知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業 者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商 品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周 囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を 付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販 売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、 原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の 対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。 これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品 の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品 の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自 認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商 標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の 特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外 の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲 が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述 のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商 標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使 用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。 しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認 識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張 のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実 上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著 しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色 を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような 特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮 に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用 態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が 少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委 縮効果を過大に評価すべきでない。

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令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。

(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年 9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙 1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が 4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3) によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認 められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、 「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。 各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗 名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4 2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有) 府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」 (乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1 3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う 店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する 「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品 (「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」 が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の 獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において 判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品 の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。 また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」 に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する 旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。

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令和5(行ケ)10116  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月28日  知的財産高等裁判所

商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。

原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必 ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される 旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な 英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白 一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地 名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本 願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、 じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット 民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの 一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2 4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び 販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」 の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状 のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上 の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定 証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。 そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9) からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に 掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。 しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる 場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原 告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。

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◆令和5(行ケ)10114

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令和5(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所

立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。

商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを 認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨 を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する 商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用 した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力 又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。 そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、 当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣 伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要 者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上 で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを 判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商 品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。 しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが 透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の 形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在 すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標 の形状が用いられていたと認められる。 しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の 社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された 本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター 用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合 に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等 の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において 表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び 商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ (TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。 また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から 明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31. 0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上 記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の 35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30 年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願 商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。

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令和5(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

位置商標について、識別力無しとした審決が維持されました。本件商標は、靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、配置されたステッチ状の黄色の破線です。3条2項の主張も認められませんでした。原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)です。

前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以 降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約 35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。 また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が 高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブ ーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認めら れる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品に ついては、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない 状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に 存在するとはいえない。 本願商標の指定商品である革靴、ブーツは、広く一般の需要者を対象とする商品 であるにもかかわらず、本件アンケート調査は、本調査としてその対象者を「店舗、 通販サイト、雑誌等で革靴やブーツを見ることがある方」であり、かつ、「1年以内 に革靴やブーツを購入した方」と限定し、これによって革靴やブーツに関心のない 層が除外されることになるが、そのような層も必要に応じて生活必需品等として革 靴やブーツを買うことが予想されることに照らすと、本件アンケート調査における\n本調査の対象者の限定については相当性の有無との問題があるものの、本件アンケ ート調査の結果によると、本願商標の特徴を有する黒い革靴の黄色ステッチ部分の 写真を見た需要者(店舗等で靴やブーツを見ることがある者及び1年以内に革靴や ブーツを購入した者)のうち、30.7%が原告ブランド名を想起することができ、 選択肢を示された場合には37.6%が原告ブランドを選択することができており、 これらの割合は、原告ブランド以外のブランド名を回答した者と比べても有意に多 く、最も多く回答された他のブランド名であるティンバーランド(Timberland)を回 答した者の割合(7.9%)の4倍以上である。この点につき、ブランドの数が多 く、かつ、購入する頻度の低いファッション製品の場合は、一般消費者が、商品の 形状に触れ、その形状からブランド名を想起する機会が多いとはいえないことから すると、15%を超える認知度があれば、十分識別力があるといえるのと見解もあ\nること(甲59)を踏まえると、本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただ し、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相 当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブラン ド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高い ものと認めることができる。
しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに\n用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くと はいえない。また、前記(2)アのとおり、原告商品の多くは、アウトソール及びウェ\nルトが黒又は茶系統の色であって、黄色のステッチの視認性が高くなる態様で本願 商標が用いられており、黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、 本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認され るところ、雑誌やブログ等の記事においても「黄色のステッチは、暗い色の革と魅 力的なコントラストを生む」(前記(2)オ(イ))、「ツヤのあるブラックレザーにマーチ ンの象徴、イエローステッチが引き立ちます。」(同(エ))などと地の色とのコントラ ストにより黄色のステッチが目を引くものであることを指摘するものがあることか らして、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めるこ とはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェ\nルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部 分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以 外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示\nすものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール\n及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通して いたことが認められるところ(別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)及び(ツ))これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するな どもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が\n十分にある。\nそうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知 度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用い られる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。 なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定め られるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が 黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及び\nウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を 評価することは相当ではない。
(4) 原告の主張について
原告は、本願商標について、1)視認性が低い態様で用いられた場合には、商標法 上の「使用」に当たらず、2)黄色の破線状の図形が需要者に特に強く識別されない ような態様で使用する場合には商標法26条1項2号又は6号により商標権が及ば ないから、他事業者の自由使用が殊更に制限されることはなく、むしろ、3)本願商 標の周知性からすると本願商標と類似する標章を使用した商品を販売等する行為は 不正競争防止法2条1条1号の不正競争に該当するから、本願商標を登録すること は公正な競争秩序に資すると主張する。 しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本願商標の範囲を、黄色の破線状の図 形が需要者に特に強く識別される態様、すなわち、黒色のアウトソール及びウェル\nトとともに用いられる場合に限定して解釈することはできないのであって、本願商 標が、黄色やベージュ色のアウトソール及びウェルトとともに用いられる場合もそ\nの商標権の範囲に含まれるというほかない。また、商標法は、商標を保護すること により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発展に寄与し、あ わせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ(同法1条)、商 標の本質は自他識別機能にあるから、これを欠くような商標については登録が認め\nられず(同法3条1項)、自他識別機能を有していないにもかかわらず過誤等により\n登録された場合や、登録後に自他識別機能を失った場合には、その権利が制限され\nるものである(同法26条 1 項等)。本件では、商標登録出願の登録の可否が問題と なっているところ、登録商標の範囲は願書の記載により画されるものであるから(同 法27条)、登録後に、本願商標又はそれと類似する商標を使用したとしても、商標 法上の「使用」に当たらないと解したり、同法26条1項各号に該当することなど を理由として、商標権の権利範囲が制限され得ることをもって、登録時において商 標権の範囲を狭く解釈して登録の可否を検討するなどということは、商標の本質で ある自他識別機能の有無を問わずに登録を認めることにもなりかねず、相当ではな\nい。
また、本願商標の周知性については前記(3)のとおりであり、アウトソール及びウ\nェルトの色を問わず、本願商標について周知性が高いとまでいうことはできない。 不競法地裁判決は、原告商品の形状のうち、「靴の外周に沿って、アッパーとウェル トを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出\nし、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルト とのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告 商品の形態」が、令和2年時点で不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」と\nして周知であると判断したものであって(甲113)、本願商標には含まれない特徴 である「黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭 に視認できるという形態」を含めて商品等表示に当たるものとしている。そうする\nと、仮に上記形態について商品等表示性が認められたとしても、これをもって、本\n願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当する と認めることはできない。

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令和4(行ケ)10089  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月31日  知的財産高等裁判所

赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンの色商標が、識別力無しとして拒絶されました。3条2項の適用も認められませんでした。裁判所も同じです。

2 単一の色彩のみからなる商標の商標法3条2項の該当性について 本願商標は、別紙1 及び の記載から特定される色彩のみからなるもの であり、女性用ハイヒールの靴底部分に赤色(PANTONE 18-1663TP)とす る構成からなるものである。\nこのように本願商標は、単一の色彩のみからなり、その色彩を付する位置 を上記部分に特定した商標である。 商標法3条1項は、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商 標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる旨を 規定し、同項3号において、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、\n用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期そ の他の特徴、数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章\nのみからなる商標」を掲げる。 同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は、このような商 標は、商品の産地、販売地、品質その他の特性を表示記述する標章であって、\n取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、 商標としての機能を果たし得ないことによるものと解される(最高裁昭和5\n3年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事1 26号507頁参照)。
そして、商品の色彩は、商品の特性であるといえるから、同号所定の「そ の商品の・・・その他の特徴」に該当するものと解される。そして、商品の 色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択 されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的なものや商品の機能を\n確保するために必要とされるものもあることからすると、取引に際し必要適 切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、原則として何人も\n自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみから なる商標については、同号の上記趣旨が強く妥当するものと解される。 他方で、商標法3条2項は、同条1項3号に該当する商標であっても、「使 用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識 することができるもの」については、同項の規定にかかわらず、商標登録を 受けることができる旨規定する。 商標法3条2項の趣旨は、同条1項3号に該当する商標であっても、特定 の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標が その商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\を持つに至り、公益上の 見地から不適当とされていた特定人による当該商標の独占的使用を例外的に 認めるということにある。
こうした商標法3条2項の趣旨に照らせば、自由選択の必要性等に基づく 公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が同条 同項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である ことを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使 用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の 例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること (独占適応性)を要するものと解するべきである。
なお、色彩のみからなる商標等を商標登録の保護の対象とした平成26年 法律第36号改正附則5条3項には、不正競争の目的なく登録商標又はこれ に類似する商標を使用していた者に継続的使用権を認める旨の規定があるが、 これはあくまで「法律の施行の際に現にその商標の使用をしてその商品・・・ に係る業務を行っている範囲内において」その商品等に関する商標を使用す る権利を認めるにすぎず、こうした改正附則の規定があるからといって、色 彩のみからなる商標登録において特定人による色彩の独占適応性を考慮する ことを否定する理由にならないというべきである。

◆判決本文

不競法についての関連事件です。

◆令和4(ネ)10051

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令和4(行ケ)10062 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月24日  知的財産高等裁判所

 三菱鉛筆が「ユニ色」について色彩のみからなる商標を出願しましたが、知財高裁(2部)は識別力無しとした審決を維持しました。

前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において 取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商 品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当 程度の認知度を有しているものと認められる。 しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩 及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を 含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広 く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標の みから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本 願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニ シリーズであることを端的に示す「MITSU−BISHI」、「uni」、「H i−uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が 原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。 加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛 筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需 用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は 比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブ ランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、 uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、 本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんで いる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。 以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからな る本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至って いると認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る 商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使\n用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独 占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて 判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた 結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該 当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 原告は、本願商標は原告が採択した独自の色彩であって、原告以外の善意 の取引者が偶然に使用することはあり得ないものであるから、自他商品識別標識と して機能すると主張する。\nしかしながら、原告が単一の色彩のみからなる商標(色彩)を採択した経緯や、 当該商標と同一の商標を一定の指定商品及び指定役務について使用する者がないこ とは、当該商標が自他商品識別標識又は自他役務識別標識として機能するか否かと\nは直接の関係がないことであるから、原告の上記主張を採用することはできない (原告は、本願商標が自他商品識別力を欠くというためには、本件指定商品につい て、本願商標と同一の商標が既に第三者によって当該商品の色彩として使用されて いることが必要であるとも主張するが、独自の見解であり、採用できない。)。
(2) 原告は、1)これまで数多くの新聞、雑誌等において、本願商標に係る記事 が掲載されてきたこと、2)これまで長年にわたり、新聞、テレビ等において、本願 商標が使用された原告商品の広告が行われてきたこと、3)原告は、鉛筆の市場にお いて極めて高い市場占有率を誇り、また、本願商標を使用した多数の原告商品が全 国の多数の店舗において販売されていること、4)別件商標1及び2について商標登 録がされていることからすると、本願商標は、著名な商標として、自他商品識別標 識として機能してきたと主張する。\nしかしながら、上記1)ないし3)の点については、前記2(2)のとおり、原告商品 が需要者の間において相当の認知度を有していることの根拠となるものではあるも のの、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在や、本件指定商品で ある鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の 近似色が広く使用されている実情を考慮すると、上記1)ないし3)の事実が存在する としても、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業 務に係るものであると認識するということはできない。また、上記4)の点について は、別件商標1及び2は、いずれも本願商標に係る色彩とそれ以外の色彩との組合 せからなるものであり、その色彩及び配色を特定してなるものであって(甲137、 138)、輪郭のない単一の色彩のみからなる本願商標とは相当に異なるものであ るから、別件商標1及び2について商標登録がされていることは、本願商標がそれ のみで自他商品識別力を有することの根拠になるものではない。 以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願商標は「ユニ色」として、商品が原告の業務に係るものであ ることを直接表示するものとなっており、特別顕著なものであるから、自他商品識\n別標識として機能するものであると主張する。\n確かに、前記1(1)イのとおり、「DICカラーガイドPARTII)(第4版)第 5巻」に収録された「DIC−2251」(本願商標)については、色名が「un i色」とされており、また、「文具のこが屋」のウェブサイトにおいても、「ユニ ペンシルホルダー」なる商品の説明として、「本体軸部分には実際の木材を使用し、 ユニのイメージカラーである、…アレンジしたオリジナルカラー(通称「ユニ色」) と「黒」、「金」をあしらいました。」との記載があるが(甲29)、本願商標に 係る色彩を「ユニ色」と呼称する場合があるとしても、前記2(2)において説示し たところに照らすと、需用者において、この「ユニ色」のみで、本件指定商品であ る鉛筆が原告の業務に係るものであると認識するとはいえないといわざるを得ない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は、本願商標が使用された商品(鉛筆)に接した需用者は商品のうち の狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商 品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識するのであるから、このよ うな本願商標の重要性に照らすと、本願商標は自他商品識別力を有すると主張する。 しかしながら、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字(なお、当該文 字は、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示すものであ る。)の存在や、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及び バーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情を考慮すると、 原告商品に触れた需用者が本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るもの であると認識することができないことは、これまで説示してきたところであって、 このことは、原告商品(鉛筆)の表面において本願商標に係る色彩が付された面積\nが他の色彩が付された面積に比して大きいことにより左右されるものではない(な お、証拠(甲47、48、148〜150)によると、原告商品に付された文字が 需用者の目を引くものでないということはできない。)。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 原告は、原告商品の模倣品が存在することは本願商標が自他商品識別標識 として機能してきたことを意味すると主張する。\nしかしながら、原告が主張する模倣品(甲109、110)も、鉛筆の表面に本\n願商標に係る色彩又はその近似色のみを付したものではなく、帯状の黒色を配した り、金色様の文字を付したりしたものであるから、これらの模倣品の存在をもって、 本願商標に係る色彩のみで自他商品識別力を有するということはできない。したが って、原告の上記主張は、採用できない。
(6) 原告は、特許庁が別件商標1の見本として、別件商標1の見本に該当しな い鉛筆(ユニスター)を展示したことをもって、特許庁も専ら本願商標によって鉛 筆が原告の業務に係る商品であると認識している旨の主張をするが、仮に特許庁が 原告の主張するような取り違えをしたからといって、本願商標に係る色彩のみで自 他商品識別力を有するということはできない。したがって、原告の主張を採用する ことはできない。

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令和2(行ケ)10133  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。

 ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された 場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。 しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力 を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項 1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商 標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録 を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別 機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品 又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに, 国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普 及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26 条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1 号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり, 地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。 しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が 同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が 没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲 4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使 用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。 イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶, ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1), 甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」 の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下 に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの と推認される。 そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一 であると認めることはできない。 よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に, 煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地 直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで 「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示 す記載はない(甲5,6)。 このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\ 示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶 について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上 げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地 域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合 員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。 他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した 商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入 れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合 員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標 の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示 や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間, 販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園 による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付 ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治 茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し ないというべきことは明らかである。

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令和2(行ケ)10084  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。 ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて 意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検 討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来 る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして, 「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。 イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\ すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以 外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の 語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原 告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実 用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者 であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語 が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服 メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断 を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当 時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強 いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い 印象を与えるものであったと解される。 また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来 の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。 そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力 を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27 年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3) ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指 すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと, 全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと, 建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空 調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを 示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原 告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」 と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特 に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌 で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同 様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動 を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成 30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」 はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本 願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告 各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法 3条2項に該当するというべきである。

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令和1(行ケ)10146  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年8月19日  知的財産高等裁判所

 油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレンジ色にした商標(一色の色彩+位置)について、識別力無しとした審決が維持されました。指定商品は「油圧ショベル」と限定していますが、3条2項の主張も認められませんでした。

 ,商品の色彩は,商品の特性であるといえるから,同号所定 の「その他の特徴」に該当するものと解される。そして,商品の色彩は,古 来存在し,通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択されるも のであり,また,商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保す\nるために必要とされるものもあることからすると,取引に際し必要適切な 表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自\n由に選択して使用できるものとすべきであり,特に,単一の色彩のみから なる商標については,同号の上記趣旨が妥当するものと解される。
イ 次に,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標で あっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができるもの」については,商標登録を受ける ことができる旨を規定している。同条2項の趣旨は,同条1項3号から5 号までに該当する商標であっても,特定の者が長年その業務に係る商品又 は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結び ついて出所表示機能\をもつに至ることが経験的に認められるので,このよ うな場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。 そうすると,同条1項3号に該当する単一の色彩のみからなる商標が同 条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務で あることを認識することができるもの」に当たるというためには,当該商 標が使用をされた結果,特定人の業務に係る商品又は役務であることを表\n示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り,その使用により自 他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり,さら に,同条1項3号の前記趣旨に鑑みると,特定人による当該商標の独占使 用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要 すると解するのが相当である。 以上を前提に,本願商標が同条2項の「使用をされた結果需要者が何人 かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当する かどうかについて判断する。
・・・
本願商標は,別紙1(1)及び(2)イ記載のとおり,油圧ショベルのブー ム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ イトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)と する構成からなる,色彩のみからなる商標であるところ,本願商標の色\n彩は,単一の色彩であり,本願商標の色彩を付する位置は,上記部分に特 定されているが,上記部分の形状は,別紙1(1)に着色して示された図形 の形状や輪郭のものに限定されるものではない。 本願商標の色彩名の「オレンジ色」は,一般に「赤みがかった黄色」と 定義され(乙1),基本色の一つであること(乙37の4頁),JISの色 彩規格に,慣用色名として「オレンジ色」(マンセル値:5YR6.5/ 13)が挙げられていること(乙2),本願商標の色彩と同じ色相が色相 環に挙げられ,近似した色見本が挙げられていること(乙3)からする と,本願商標の色彩のオレンジ色は,ありふれた色彩であって,特異な色 彩であるとはいえない。
また,本願商標の色彩と同系色の「橙」色(マンセル値:5YR6.5 /14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止・防火,健康 上有害な情報並びに緊急避難を目的として規格化された「JIS安全色」 の一つであり(乙10ないし12),ヘルメット(乙4),レインスーツ (乙5),サイトウェア(乙9),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙 7),タワークレーン(乙8)にオレンジ色が使用されているように,オ レンジ色は,工事現場で一般に使用されている色彩である。 さらに,オレンジ色は,黄色と赤色の中間色であって,基本色の一つで あることから,オレンジ色の色彩名から観念される色の幅は広いもので ある上,人の視覚によって,マンセル値で特定された本願商標のオレン ジ色とマンセル値の異なる同系色のオレンジ色を厳密に識別することに は限界がある(乙37,38)。
(イ) 油圧ショベルは,前記2(1)アの構造を有するところ,本願商標で特定\nされた色彩を付する位置は,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット, シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分であり,車 体色として色彩が通常施される箇所をほぼ網羅しており,色彩を付する 位置としては,ありふれたものである。
(ウ) 以上によれば,本願商標の色彩及び色彩を付する位置は,いずれもあ りふれたものであり,本願商標の構成態様に特異性はない。\n
イ 原告による本願商標の使用態様,油圧ショベルの販売実績及び広告宣伝
(ア) 前記2(2)及び(3)の認定事実によれば,原告は,1970年(昭和4 5年)10月1日に設立されて以来,50年以上にわたり,本願商標又は 本願商標と同一の色彩が使用された油圧ショベルを全国の事業者に対し て継続して販売してきたこと,原告の油圧ショベルの1974年(昭和 49年)から2018年(平成30年)までの年度別販売台数は,●●● ●●●●●●台であり,1981年以降のシェア(市場占有率)は概ね2 0%台であって,油圧ショベルのシェアは,原告を含む主要5社がほぼ 独占し,2005年(平成17年)から2011年(平成23年)までの 国内出荷台数のシェアでは,原告は毎年3位以内に入っていることが認 められる。
上記認定事実によれば,全国の建設工事,土木工事等の工事現場では, 多くの工事関係者等が本願商標又は本願商標の色彩が使用された原告の 油圧ショベルを頻繁に目にしていたものと認められ,これらの工事関係 者等は,原告の油圧ショベルにオレンジ色が使用されていることを認識 したものと認められる。 他方で,前記2(2)イのとおり,原告の油圧ショベルの多くには,アーム 部や車体後部に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」 又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HIT ACHI」又は「日立」の文字の記載があることが認められ,これらの文 字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識さ\nれ得ることも否定することはできない。
(イ) 前記2(4)の認定事実によれば,原告は,1993年(平成5年)以降, 本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を, 少なくとも47種類以上作成し,これらを合計26種類の新聞及び雑誌 に継続的に掲載したこと,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタロ グ,書籍・小冊子に本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画 像を用いた広告を継続的に出稿したほか,本願商標の色彩を使用した油 圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告をGoogle等の4種類 のオンライン媒体に出稿し,このウェブ広告は,合計300万回以上表\n示されたこと,原告は,1990年(平成2年)9月から2016年(平 成28年)1月までの間にわたり,本願商標の色彩を使用した油圧ショ ベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラックなどの建設機械 を含めて,その映像が表示されるテレビCMを放映したこと,1990\n年(平成2年)から2014年(平成26年)までの期間の原告の広告宣 伝費は,多いときで年間15億円を超え,2010年(平成22年)から 2014年(平成26年)においても年間約4億円に及んでいることが 認められる。
他方で,これらの広告(テレビCMを含む。)には,いずれも原告の社 名や「HITACHI」又は「日立」の文字が表示されていること(甲6,\n7の1,50等),原告の油圧ショベルのほか,原告の積込み機,ホイー ルローダ,鉱山用ダンプトラックなどに本願商標の色彩を使用した建設 機械が表示されるもの(甲6の1,6の13,50の3,50の4の2,\n50の5ないし7,50の10,50の47ないし52,50の62ない し66,50の100,50の103ないし108,50の112ないし 118,50の121,50の122,54の5),油圧ショベルのモチ ーフがオレンジ色をした五線譜の音符として表示されるもの(甲50の\n2の2,50の14,50の15,50の34,50の35,50の36), 原告の油圧ショベルその他の建設機械が将棋の駒として表示されるもの\n(甲50の9の2,50の29,50の30,53,54の1),オレン ジを背景にしたキリンのシルエットと同じシルエットの一つに油圧ショ ベルが表示されるもの(甲50の8の2,50の28,50の41,50\nの111)があることに鑑みると,これらの広告は,需要者に対して,本 願商標の色彩が原告のコーポレートカラーであることを印象付けるもの であるとしても,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強い結びつき があることまで印象付けるものとはいえない。
(ウ) さらに,前記2(6)のとおり,本願商標の色彩と同系色であるオレンジ 色をその車体の一部に使用した油圧ショベルとして,住友建機のハイブ リッドショベル,ボブキャット社のDXシリーズ,イワフジの林業ベー スマシン及びその後継機,クボタの「ミニバックホー」等が販売されてい たことに照らすと,本件審決時において,原告が油圧ショベル(ミニショ ベルを含む。)についてオレンジ色の色彩を独占的に使用していたものと 認めることはできない。
(エ) 以上によれば,本願商標が使用された原告の油圧ショベルの販売実績, シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色彩が原告の油圧シ ョベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認識されているこ とは認められるものの,他方で,本願商標は,色彩及び色彩の付する位置 がありふれたものであって,その構成態様は特異なものとはいえないこ\nと,原告の油圧ショベルの多くには,アーム部や車体後部等に著名商標 である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており,これらの 文字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識\nされ得ることも否定することはできないこと,原告による広告宣伝は, これに接した需要者に対し,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強 い結びつきがあることまで印象付けるものとはいえないこと,原告以外 の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体 の一部に使用した油圧ショベルを販売していたことを総合考慮すると, 本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,原告によって本願商 標が使用をされた結果,本願商標のみが独立して,原告の業務に係る油 圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとま\nで認めることはできない。
ウ 本件アンケートの調査結果について
前記(1)認定のとおり,油圧ショベルの需要者は,建設業者,建設機械を 取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者, 農機及び林業機械を取り扱う販売業者等が含まれるものであるが,本件ア ンケートは,土木建設業以外の業種等の需要者が調査対象者から除外され, 農業従事者及び林業従事者等が調査対象者に含まれていないから,本件ア ンケートの調査結果は,油圧ショベルの需要者の一部の認識を反映したも のにとどまっている。
また,前記2(5)アの認定事実によれば,本件アンケートのうち,本願商 標に係るアンケートの設問は,別紙1(1)アの本願商標の画像を示した上で, 「以下の画像の色彩を見て,どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ さい。」というものであり,「回答するメーカー名は,選択式ではなく,自由 記入式」としているが,「回答するメーカー名」は複数であってもよいこと の明記はない。他方で,前記イ(エ)のとおり,原告以外の複数の事業者が本 願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体の一部に使用した油圧 ショベルを販売していたことに照らすならば,「回答するメーカー名」は複 数であってもよいことが明記されていないことは,本願商標に係るアンケ ートの調査結果(有効回答数168通(回収率33.9%),認知率97. 0%)にも,影響を及ぼすものといえる。 そうすると,本件アンケートの調査結果から認定できる需要者における 本願商標の認知度は限定的であるものといわざるを得ない。
エ まとめ
前記アないしウによれば,本件商標が使用された原告の油圧ショベルの 販売期間,販売実績,シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色 彩が原告の油圧ショベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認 識されていることは認められるものの,本願商標の色彩のみが独立して, 原告の販売する油圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識\nされていたものとまで認めることはできず,また,本件アンケートは,農業 従事者及び林業従事者等の認識が反映されておらず,油圧ショベルの需要 者の一部の認識を反映したものにとどまっており,本件アンケートの調査 結果から認定できる需要者における本件商標の認知度は限定的であるもの といわざる得ないことからすれば,本件アンケートの調査結果を併せ考慮 しても,本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,本願商標は, 原告によって使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示す\nるものとして需要者の間に広く認識されていたものとまで認めることはで きないから,本願商標は,その使用により自他商品識別機能ないし自他商\n品識別力を獲得したものと認めることはできない。 これに反する原告の主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10147  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年6月23日  知的財産高等裁判所

 色彩商標(1色)が識別力無しとして拒絶された審決が維持されました。争点は3条2項の適用です。「本願商標の使用態様」、「本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量」、「広告宣伝の方法,期間,規模」、「アンケート結果」、「原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用」、「油圧ショベルの取引の実情」が考慮されました。

 本願商標が商標法3条1項3号に該当することは,当事者間に争いがないと ころ,同条2項は,同条1項3号ないし5号に対する例外として,「使用をされた結 果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるも の」は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該 商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独 占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別 力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人 の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開 放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商 標の登録を認めようというものと解される。 そして,使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標が使用され た期間及び地域,商品の販売数量及び営業規模,広告宣伝がされた期間及び規模等 の使用の事情,当該商標やこれに類似した商標を採用した他の事業者の商品の存在, 商品を識別し選択する際に当該商標が果たす役割の大きさ等を総合して判断すべき である。また,輪郭のない単一の色彩それ自体が使用により自他商品識別力を獲得 したかどうかを判断するに当たっては,指定商品を提供する事業者に対して,色彩 の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべきである。
(2) 認定事実
ア 本願商標の使用態様
原告の前身である日立製作所は,昭和40年,油圧ショベル「UH03」の外 面の塗装の色彩として,本願商標の色彩を採用した(甲46)。 原告は,昭和45年10月,日立製作所の建設機械製造部門が独立し,旧日立建 機株式会社と合併して設立された株式会社であり,遅くとも昭和49年以降,本願 商標の色彩を,油圧ショベルを始めとする各種建設機械の外面の塗装の色彩として, 現在まで継続して使用してきた(甲1の1〜44,8の1〜15,弁論の全趣旨)。 原告の販売する油圧ショベルには,オレンジ色を車体の全体に使用したもの もあるが(甲1の13・14・17・18・20・21・36・37,7の1・4〜 7・9〜12),アーム部及び車台後部はオレンジ色であるものの,操縦席近辺や駆 動部は黒色ないし鼠色のもの(甲1の1〜12・15・16・19・22〜35・3 8〜44,5の1・5〜18,7の2・3・8・13,8の1〜15),操縦席近辺 はオレンジ色で,アーム部は黒いもの(甲2の2),アーム部はオレンジ色で,操縦 席や車台後部に緑色のラインが入ったもの(甲5の2〜4)もある。また,その多く には,アーム部や車台後部等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACH I」又は「日立」の文字が付されている(甲1の1〜42・44,2の2,8の1・ 3・4・6〜8・10・12・13)。 原告のカタログにも,上記のとおり,オレンジ色を車体の全体に使用した油圧シ ョベルの写真のみならず,車体の一部にのみオレンジ色を使用した油圧ショベルの 写真も掲載されており,原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」の文字が記 載されている(甲1の1〜44,2の2,8の1〜15)。
イ 本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量
原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベル を,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在す る事業者に対して販売し,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルは,日本全国 で使用されている(甲4の2・4,21の1〜6)。 原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用されたミニショベル を除く油圧ショベル(6トン以上のもの。甲40)を昭和49年から平成30年ま での間に合計●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,ミニショベル(6 トン未満のもの。甲40)を平成3年から平成30年までの間に合計●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●,それぞれ販売した(甲52の1・2)。 ミニショベルを除く油圧ショベルは,主に,原告,株式会社小松製作所,コベルコ 建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社が製造 販売しているところ,昭和49年から平成30年までの間の原告の油圧ショベルの シェアは概ね20%である(甲44の1〜8,52の1)。また,ミニショベルにつ いては,平成3年から平成30年までの間の原告のシェアは概ね10%前後である (甲52の2)。
ウ 広告宣伝の方法,期間,規模
雑誌・新聞広告,ウェブ広告等の掲載
原告は,少なくとも平成5年以降,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使 用された油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,少なくとも72種類以上作成 し(甲57),これらを「日本経済新聞」,「朝日新聞」,「産経新聞」,「日刊工業新聞」,「建通新聞」,「北海道新聞」等の新聞や,「日経ビジネス」,「投資経済」,「東洋経済」,「週刊ダイヤモンド」,「週刊エコノミスト」,「日経コンストラクション」,「建設機械」,「月刊廃棄物」等の雑誌等,少なくとも29種類以上の媒体に,継続的に掲載した(甲5の1〜18,58の1,59の1・2・4〜6・8〜153)。
また,原告は,少なくとも平成20年以降,大手建設機械レンタル会社のカタロ グや,書籍・小冊子にも,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油 圧ショベルのカラー画像を用いた広告を継続的に出稿したほか(甲59の154〜 162),平成30年6月以降,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー 画像を用いたウェブ広告を3種類作成して(甲56,57,59の164・165), 8種類のサービスに出稿しており(甲61),これらのウェブ広告は,合計で,少な くとも4000万回以上表示された(甲56,61)。\nこの他,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベ ルのうち,実際に市場で販売されたものの画像が,昭和54年以降,建設機械分野 の専門誌の表紙にも取り上げられた(甲7の1〜13)。\nこれらの広告においては,いずれも原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」 の文字が記載されている。
テレビCM
原告は,少なくとも平成2年9月から平成28年1月までの間(ただし,平成1 3年下期から平成19年上期は除く。)に,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩 が使用された原告の油圧ショベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラ ック等が映像の一部に登場するテレビCMを,繰り返し放映した。もっとも,これ らのテレビCMには,油圧ショベル以外の建設機械に係るものが含まれ,全体の映 像も,明らかでない。
エ アンケートの結果
マーケティングリサーチ事業を専門とする楽天リサーチ株式会社(現在の名称は, 「楽天インサイト株式会社」)が原告からの依頼により,全国502か所の建設業界 の事業者を対象として,平成29年1月に実施したアンケートの結果(以下「本件 アンケート」という。)によれば,有効回答数は193件であり(回収率38.6%),
本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ さい」との質問に対し,185件が原告と回答した(認知率95.9%)との結果と なっている(甲19)。 本件アンケートは,原告が製造する建設機械の販売会社が顧客開拓のために独自 に調査してリストアップしている日本全国の需要者に係るデータ約●●●件から, ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械及び環境機械等の需要者や,農業や酪 農など土木建設業者以外の業種の者を除いた約●●●件のうち,10台以上油圧シ ョベルを保有している者を調査対象としたものである。対象者の業種は,主に土木 建設業,解体業,産業廃棄物処理業,建設機械レンタル業であるとされる(甲54)。
オ 原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用
以下のとおり,原告以外の事業者により,本願商標と類似する標章が使用されて いたことが認められる。なお,以下の証拠には,令和2年1月頃印刷したウェブサ イト等もあるが,これらの証拠に弁論の全趣旨を総合すれば,本件審決時(令和元 年9月19日)においても,同様に,原告以外の事業者により,本願商標と類似する 標章が使用されていたことが推認できる。 「住友建機株式会社」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「油 圧ショベル」の商品紹介のページに,アーム部がオレンジ色の油圧ショベルの写真 が掲載されている(甲77,乙13)。 「株式会社ボブキャット」の発行する「DOOSAN」のチラシ(令和2年1 月27日印刷)には,アーム部及び車体後部がオレンジ色の油圧ショベルの写真及 びアーム部及び車体上部をオレンジ色にした油圧ショベルの写真が掲載されている (乙14)。 「イワフジ工業株式会社」のウェブサイト(令和2年1月29日印刷)及びカ タログ(平成30年6月発行)には,「製品情報」中の「林業ベースマシン」のペー ジに,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「CT−500C/CS 林業ベース マシン」の写真が掲載されている(乙15,16)。
「神野農機」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「商品一覧」 の頁に,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「フルカワ ミニバックホー FX −007」の写真が掲載されている(乙17)。
「農機新聞」(平成29年3月7日発行)には,「イベロジャパンがトラクター 用バックホー3機種発売」の見出しの記事情報において,バケット部,アーム部及 び本体がオレンジ色のバックホーの部分の写真が掲載されている(乙18)。
「DiESEL TRADiNG」のウェブサイト(令和2年1月23日印 刷)には,「建設機械在庫一覧」のページに,アーム及び車体がオレンジ色の「IH I建機 ミニショベル」の写真が掲載されている(乙20)。 「株式会社クボタ」のウェブサイト(令和2年1月27日印刷)には,「開発 中の電動トラクタと小型建機を公開〜脱ディーゼルの進む欧州で事業性を検証し, 製品化を目指す〜」の見出しの下,「小型建機(ミニバックホー)」の試作機の写真と して,アーム部,車体及び脚部駆動部の中心部がオレンジ色の油圧ショベルの写真 が掲載されている(乙21)。
また,「製品情報」中の「建設機械」のうち,「ミニバックホー」のページ(令和2 年1月23日印刷)に,アーム部,車体下部がオレンジ色の「林業モデル」のバック ホーの写真(乙22)が,「ホイールローダ」のページ(令和2年2月3日印刷)に アーム部,車体,ホイールがオレンジ色のホイールローダの写真(乙23)が,「キ ャリア」のページ(令和2年1月23日印刷)に荷台部などがオレンジ色のキャリ アの写真(乙24)が,「農業ソリューション製品」のページ(令和2年1月23日\n印刷)に,車体の前部,泥よけ部及び天井部がオレンジ色のトラクタの写真(乙3 3)が,それぞれ掲載されている。
「WINBULL/YAMAGUCHI」のウェブサイト(令和2年1月2 3日印刷)には,「YX−21X」の商品紹介の項に,荷台部がオレンジ色のキャリ アの写真(乙25),「YXS−121HX」の商品紹介の項に,アーム部及び車体部 がオレンジ色の除雪機の写真(乙26)が,それぞれ掲載されている。 「トヨタL&F」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「製品情 報」ページに,ショベル部及び車体下部がオレンジ色のショベルローダの写真(乙 27),フォーク部及び車体下部がオレンジ色のフォークリフトの写真(乙28)が, それぞれ掲載されている。
「サオリエクスポート」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「H7年 コベルコ ラフタークレーン RK160−2」の商品紹介の項に,ア ーム部及び車体がオレンジ色のクレーン車の写真(乙29),「H17 イスズジャ ストン」の商品紹介の項に,アーム部及び車体をオレンジ色の高所作業車の写真(乙 32)が,それぞれ掲載されている。
「オークフリー」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「H7年 TADANO タダノ 4.9t ラフタークレーン」の商品紹介の項に,車体上 部がオレンジ色のクレーン車の写真が掲載されている(乙30)。 「エイハンジャパン」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「高 所作業車製品案内」のページに,乗車部及び下部の車体をオレンジ色にしたマスト 式高所作業車の写真が掲載されている(乙31)。
カ 油圧ショベルの取引の実情
油圧ショベルは,ユンボ,パワーショベル,バックホー,ドラグショベル,シ ョベルカーなど様々な名称で呼ばれる掘削機械の一種であり,日本国内で建設業に おいて広く用いられているほか,その用途に汎用性があることから農業や林業にも 利用されている(甲38〜40,乙15〜18,22)。 油圧ショベルを製造販売する原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式 会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社は,油圧ショベルのほ かにも,ブルドーザー,クレーン,ホイールローダー等も製造販売しており,また, ミニショベルを製造販売する株式会社クボタ,ヤンマーホールディングス株式会社, 株式会社竹内製作所等は,農機も製造販売しているのであって,同一の事業者が, 油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や農機を製造販売している(甲42,4 4の1〜8,45)。 市場分析においても,油圧ショベルは,ブルドーザー,クレーン,ロードローラ等 とまとめて,建設機械に係る業界として扱われている(甲42)。 建設機械等の取引においては,製品の機能や信頼性を検討し,メーカー名や\n商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われている(甲21 の1〜6)。
(3) 使用による自他商品識別力について
ア 本願商標の色彩を付した油圧ショベルの販売について 前記(2)ア,イのとおり,原告は,約50年にわたり,本願商標の色彩を車体の少 なくとも一部に使用した油圧ショベルを販売しており,その販売台数及びシェアは, ミニショベルを除く油圧ショベルが合計約●●●台で概ね20%,ミニショベルが 合計約●●台で概ね10%前後であって,それぞれ年間数千台の販売実績を上げて いることが認められる。 しかしながら,本願商標の色彩であるオレンジ色は,「赤みを帯びた黄色」(乙1) であり,JISの色彩規格に,慣用色名としてオレンジ色が挙げられ(乙2),本願 商標の色彩と同じ色相が色相環に挙げられ,近似した色見本が挙げられるなど(乙 3),ありふれた色である。そして,本願商標の色彩と類似した色彩である橙(マン セル値:5YR 6.5/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止 などを目的として公表されているJIS安全色にも採用され(乙10,11),ヘル\nメット(乙4),レインスーツ(乙5),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙7),タワークレーン(乙8),現場作業着(乙9)等に利用されていることが認められ, 建設工事の現場において,一般的に使用される色彩である。 また,前記(2)アのとおり,原告の販売する油圧ショベルの多くには,本願商標の 色彩のほか,アーム部や車体等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITAC HI」又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HITAC HI」又は「日立」の文字の記載があること,本願商標が,単色でなく他の色彩と組 み合わせて車体の一部にのみ使用されている商品も少なくないことに照らせば,本 願商標の色彩は,これらの文字や色彩と合わせて原告の商品である油圧ショベルを 表示しているというべきである。\n以上によれば,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧シ ョベルを販売したことにより,本願商標の色彩のみが独立して,原告の油圧ショベ ルの出所識別標識として,日本国内における需要者の間に広く認識されていたとま では認められない。
イ 広告宣伝について
前記(2)ウのとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した 油圧ショベル等の建設機械の画像を用いた宣伝広告を,新聞,雑誌等の各種広告媒 体によって,少なくとも20年以上にわたり行っていることが認められる。 しかしながら,これらの広告等には,いずれも,原告の社名が表示されている上,\nその多くに「HITACHI」又は「日立」の文字が併せて記載されており,本願商 標の色彩のみが独立して,原告の商品である油圧ショベルの出所を表示していると\nはいえない。 また,これらの広告等の中には,油圧ショベルのモチーフが,オレンジ色をした 五線譜上の音符や将棋の駒として表示されたり,オレンジを背景にしたキリンのシ\nルエットとして表示されたりするなど,デザインの一環として用いられ,広告内容\nが油圧ショベルと関連付けられたものではないものも存在し(甲59の2・8・9 等),このような広告は,視聴者に対し,オレンジ色が原告のコーポレートカラーで あると印象付け,本願商標の色彩を一定程度認知させるものとはいえても,色彩と 商品の結び付きは弱く,このことから直ちに,本願商標の色彩が,原告の油圧ショ ベルの出所識別標識として,広く認識されたとまで認めることは困難である。 以上によれば,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベル の画像を用いた宣伝広告により,本願商標の色彩が,原告の油圧ショベルの出所識 別標識として,需要者の間に広く認識されたとまではいえない。
ウ 本件アンケートの結果
本件アンケートの調査対象は,全国の油圧ショベルの取引者及び需要者とされる ものの,ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械等の需要者や,農業 や酪農など土木建設業者以外の業種の者が除かれている上,油圧ショベルを10台 以上保有している者のみに絞られているから,対象者は油圧ショベルの需要者の一 部に限定されている。また,対象者数は,約●●●件の需要者のうちの502件で あり,有効回答数はその38.6%である193件にとどまる。そして,認知率9 5.9%という高い数字は,有効回答数193件に対する数字であり,対象者数5 02件に対しては36.8%にとどまる。 本件アンケートの質問方法は,本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカ ーの油圧ショベルかをお答えください」と尋ねるものであるところ,かかる質問は, 本願商標が出所識別標識と認識されることを前提とするものであるから,その回答 によって,本願商標が原告のみの出所識別標識と認識されていることを示している のか,単に原告の油圧ショベルの車体色と認識するにとどまるのかを区別すること はできない。 以上によれば,本件アンケートの結果のみから直ちに,本願商標の色彩が出所識 別標識として認識され,本願商標が付された油圧ショベルの出所が原告のみである ことが広く認知されていたものと認めることはできない。
エ 原告以外の者による本願商標に類似する色彩の使用 前記(2)オのとおり,本件審決時(令和元年9月19日)までに,住友建機株式会 社,DOOSAN等が,車体色がオレンジ色の油圧ショベルを販売し,株式会社ク ボタやイワフジ工業株式会社等が,車体色がオレンジ色の農機や林業用機械を販売 していたこと,また,株式会社クボタ等が,車体色がオレンジ色のホイールローダ, ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車等の建設機械 を販売していたことが認められ,農機等を含む油圧ショベルや各種建設機械の車体 色として,複数の事業者によりオレンジ色が広く採択されていた。 そうすると,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショ ベルを長期間にわたり相当程度販売していたとしても,油圧ショベルと需要者が共 通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農機,林業用機械の分野において, 車体色としてオレンジ色を採用する事業者が原告以外にも相当数存在していたので あるから,原告が,他者の使用を排除して,油圧ショベルについて本願商標の色彩 を独占的に使用していたとまでは認められない。
オ 油圧ショベルの取引の実情
前記(2)カのとおり,油圧ショベルは,建設機械の一種であり,建設業のほか農業 や林業にも利用され,同一の事業者が油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や 農機を製造販売している。また,油圧ショベルを含む建設機械は,製品の機能や信\n頼性を重視し,メーカーを確認して製品の選択が行われ,価格も安価なものではな いことから,製品を識別し購入する際に,車体色の色彩が果たす役割が大きいとは いえない。
カ 以上のとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した 油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売するとともに,継続的に宣伝広告を行 っており,本願商標の色彩は一定の認知度を有しているとはいえるものの,その使 用や宣伝広告の態様に照らすなら,本願商標の色彩が,需要者において独立した出 所識別標識として周知されているとまではいえない。そして,本願商標は,輪郭の ない単一の色彩で,建設現場等において一般的に採択される色彩であること,油圧 ショベル及びこれと需要者が共通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農 機,林業用機械の分野において,本願商標に類似する色彩を使用する原告以外の事 業者が相当数存在していること,油圧ショベルなど建設機械の取引においては,製 品の機能や信頼性が検討され,製品を選択し購入する際に車体色の色彩が果たす役\n割が大きいとはいえないこと,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるべ き公益的要請もあること等も総合すれば,本願商標は,使用をされた結果自他商品 識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものとはいえな い。

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令和1(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年3月11日  知的財産高等裁判所

 色彩のみからなる商標について,識別力なしとして3条1項6号違反とした拒絶審決が維持されました。3条2項の適用も使用している商標とは異なるとして否定されました。

 前記(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)本願商標は,橙色の単色の色彩 のみからなる商標であり,本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえ ないこと,(2)橙色は,広告やウェブサイトのデザインにおいて,前向き で活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており,不動産の 売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトにおいても,ロゴマー ク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景等を装飾する色彩とし て普通に使用されていること,(3)原告ウェブサイトのトップページにお いても,別紙2のとおり,最上部左に位置する図形と「LIFULL H OME’S」の文字によって構成されたロゴマーク,その他の文字,白\n抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵, バナー等の色彩として,本願商標の橙色が使用されているが,これらの 文字,図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはい えないことを総合すると,原告ウェブサイトに接した需要者においては, 本願商標の橙色は,ウェブサイトの文字,アイコンの図形,背景等を装 飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり,本願商標 の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建 物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして認識するものと\n認めることはできない。 したがって,本願商標は,本願の指定役務との関係において,本来的 に自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を有しているものと認める\nことはできない。
イ これに対し原告は,原告ウェブサイトは,不動産総合ポータルサイトの トップブランドとしての確固たる地位を築いており,本願の指定役務の分 野においては,周知著名であること,我が国において,全国規模で種々の 取引形態の不動産物件を掲載する一定規模以上(掲載物件数が常時100 万件以上)の不動産総合ポータルサイトとしては,原告のほか,リクルー トグループが提供する「SUUMO(スーモ)」,大東建託が提供する「い い部屋ネット」,オウチーノが提供する「O−uccino」,ヤフーが 提供する「ヤフー不動産」,アパマンが提供する「アパマンショップ」, アットホームが提供する「athome(アットホーム)」があるが,各 不動産総合ポータルサイトは,それぞれイメージカラーを施しており,例 えば,原告は橙色,「SUUMO(スーモ)」は緑色,「いい部屋ネット」 は赤色,「O−uccino」はピンク色,「ヤフー不動産」は赤色,「ア パマンショップ」は濃青色,「athome(アットホーム)」は紅赤色 といった棲み分けがされているため,不動産総合ポータルサイトに接する 取引者,需要者は,色によるポータルサイトの識別が可能な状況ができて\nおり,本願商標の橙色は,原告ウェブサイトと即座に認識,理解をすると いう取引の実情があることを考慮すると,本願商標は,その指定役務との 関係において,本願商標の橙色が独立して,本来的に自他役務の識別機能\nないし自他役務識別力を有する旨主張する。 しかしながら,ポータルサイトとは,一般に,「インターネットを利用 する際,まず最初に閲覧されるような,利便性の高いウェブサイトの総称」 (「大辞林」第三版)であるところ,前記(1)ア認定のとおり,本願の指定 役務の需要者は,住宅やマンションなどの不動産物件の購入,賃借等を検 討している一般の消費者であり,このような需要者は,ポータルサイトで, 必要な情報に関する検索を行い,その検索結果に基づいて,不動産業者等 に対し,掲載物件についての問合せをしたり,不動産業者等から紹介を受 けるなどして,不動産取引を行うのが通常であることからすると,このよ うな需要者は,不動産の売買,賃貸の仲介等を行う不動産取引業の需要者 と同一であるか,又は重複するものと認められる。 そして,原告が主張するように掲載物件数が常時100万件以上の不動 産総合ポータルサイトが日本全国の不動産情報を網羅しているとしても, 不動産総合ポータルサイトと他の不動産業者が開設するウェブサイトとは, インターネット上で不動産情報を入手するための入口であるという点で共 通し,不動産関連の情報を提供するというサービスの内容が密接に関連し ていることに照らすと,上記需要者において,これらが質的に異なるもの と認識するものと認めることはできない。 また,不動産物件を探す者は,まず,不動産総合ポータルサイトを介し て不動産情報にアクセスするのが取引の実情であることを認めるに足りる 証拠はない。 そうすると,仮に原告が主張するように原告ウェブサイが不動産総合ポ ータルサイトのトップブランドとして周知著名であり,各不動産総合ポー タルサイトがそれぞれイメージカラーを施しており,それらの色による棲 み分けがされているとしても,不動産総合ポータルサイトに接する需要者 が,色彩のみによってポータルサイトを識別可能な状況にあるものと認め\nることはできない。 したがって,原告の上記主張は,その前提において採用することができ ない。
(2) 使用による識別力の獲得について
ア 原告ウェブサイトにおける使用について
前記1(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年から13年間にわた り,原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこ とが認められる。 しかしながら,他方で,前記(1)ア(ウ)(1)ないし(3)のとおり,本願商標の 橙色は特異な色彩であるとはいえないこと,橙色は,広告やウェブサイト のデザインにおいて,前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に 利用されており,不動産の売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイ トにおいても,ロゴマーク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景 等を装飾する色彩として普通に使用されていること,原告ウェブサイトの トップページにおける本願商標の橙色の使用態様は,上記不動産業者のウ ェブサイトと同様に,ロゴマーク,その他の文字,白抜きの文字及びクリ ックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,バナー等の色彩として 本願商標の橙色が使用されているが,これらの文字,図形等から分離して 使用されていたものといえないことに鑑みると,原告による原告ウェブサ イトにおける本願商標の使用の結果,本件審決時(審決日令和元年7月3 1日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポ ータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するもの\nとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認める ことはできない。
イ 原告のテレビCMにおける使用について
前記1(2)のとおり,原告のテレビCMが,平成26年5月から同年10 月までの間,平成27年1月から9月までの間,平成30年4月及び5月 に,全国各地の放送局で放送されたことが認められるが,一方で,甲27 に係るテレビCM以外には,それらの各放送において本願商標の橙色が具 体的にどのような態様で使用されていたのかを認めるに足りる証拠はない。 また,甲27に係るテレビCMは,キャラクターの絵,「LIFULL HOME’S」の文字や図柄等に橙色が使用されているものであって,原 告ウェブサイトのトップページの画像自体が映し出されたものではないか ら,上記テレビCMを視聴者が本願商標の橙色と原告ウェブサイトに係る 役務とを関連付けて理解するものとは認めることはできない。
ウ 原告の売上高について
原告は,本願商標の橙色と原告が展開する不動産情報の提供に関する事 業との間には密接かつ直接的な関係が存在するものといえるから,本願商 標の橙色の存在が原告の事業の売上げに多大な貢献をしている旨主張する。 しかしながら,本願商標の橙色と原告の事業との間には密接かつ直接的 な関係が存在することを認めるに足りる証拠はなく,原告の事業の売上高 が高額であるからいって,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に 係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識\nされていたことの根拠になるものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ アンケート調査結果について
(ア) 原告が提出するアンケート調査結果について検討するに,第1次調 査(甲30)は,「不動産・情報サイト」の名称として「LIFULL HOME’S」や「HOME’S」と記載した228人を対象として, 本願商標の橙色を見せ,思い浮かべた不動産・住宅情報サイトの名称を 記載させるという方法によるものであるから(前記1(3)ア),その対象 者は,調査前から原告ウェブサイトの名称を認識していた者に限定され ており,しかも,本願商標の橙色を示す前の段階で,原告ウェブサイト の名称を示され,いわば正解をほのめかされた状態で回答しているとい えることから,原告ウェブサイトの名称を記載する回答する者が高い確 率で現れるのは当然であるというべきである。 したがって,第1次調査の結果を採用することはできない。
(イ) 次に,第2次調査(甲33)では,回答方法として,本願商標の橙 色の画像を示して,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」, 「HOME’S(ホームズ)」,「SUUMO(スーモ)」,「at h ome(アットホーム)」,「マイナビ賃貸」,「CHINTAI(チ ンタイ)」,「この中にはない・わからない」の選択肢の中から,「不 動産・住宅情報サイト・アプリ」を1つ選択させるという方法によって おり,理由を示すことなく選択する形式のため,偶然,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」又は「HOME’S(ホームズ)」 を選択する可能性を排除できず,かつ,原告ウェブサイトの選択肢とし\nて「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」及び「HOM E’S(ホームズ)」の2つが掲げられている以上,偶然に原告ウェブ サイトを選択する確率は,必然的に高くなるというべきである。にもか かわらず,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」と回 答した者が13.2%,「HOME’S(ホームズ)」と回答した者が 41.8%と,その合計は55%とさほど高くなく,むしろ,「SUU MO(スーモ)」と回答した者が16.3%,「at home(アッ トホーム)」と回答した者が10.9%,「この中にはない・わからな い」と回答した者が14.5%と,一定の割合を占めており,「SUU MO(スーモ)」と回答した者及び「この中にはない・わからない」と 回答した者の割合は,「LIFULL HOME’S(ライフルホーム ズ)」と回答した者の割合を上回っている。このような事情に照らせば, 第2次調査の結果を採用することはできない。
オ まとめ
以上によれば,原告は,平成18年から13年間にわたり,原告ウェブ サイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと,原告のテレ ビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても,本件審決時(審決日令和 元年7月31日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務 に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表\n示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたも のと認めることはできないから,本願商標は,その使用により自他役務の 識別機能ないし自他役務識別力を獲得したものと認めることできない。\nこれに反する原告の主張は理由がない。

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令和1(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年11月26日  知的財産高等裁判所

 立体商標について、識別力無しとの無効審判請求について、知財高裁(4部)は無効理由なしとした審決を維持しました。

 前記アの認定事実を総合すると,ヘニングセンがデザインした本件商品の立体的形状は,被告による本件商品の販売が日本で開始された1976年(昭和51年)当時,独自の特徴を有しており,しかも,本件商品が上記販売開始後本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において継続して販売され,この間本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果,本件商標の登録出願時までには,本件商品が日本国内の広範囲にわたる照明器具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られるようになり,本件商品の立体的形状は,周知著名となり,自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められる。そうすると,本件商品の立体的形状である本件商標が本件商品に長年使用された結果,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時(登録審決日・平成27年12月15日)において,被告の業務に係る商品であることを表\示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,本件商標は,商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するものと認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件商品(「PH5」)は,デンマークのデザイナーであるヘニングセンがデザインした商品として,宣伝され,評価され,販売されてきたものであるから,PH5の立体的形状である本件商標は,ヘニングセンがデザインしたランプシェードの立体的形状として周知であるにとどまり,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,周知であるということはできない旨主張する。\nしかしながら,前記(2)イ認定のとおり,被告は1976年(昭和51年)から本件商標の登録出願日(平成25年12月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において本件商品を継続して販売し,その間,本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われてきたことに照らすと,本件商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,原告の上記主張は採用することができない。\n
イ 原告は,PH5に係る商標権,著作権等の知的財産権は,ヘニングセンに帰属するから,被告は,ヘニングセン及びその相続人から,商標権の譲渡を受け,又は使用許諾を受けていなければ,本件商標の商標登録を受けることはできない,PH5のデザインは,外国において商標登録されておらず,知的財産権の権利者が死亡し,パブリックドメインとなっているから,商標登録をさせてはならず,被告の本件商標の商標登録は無効とすべ きである旨主張する。しかしながら,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については,商標登録を受けることができる旨を定めたものであるところ,原告の上記主張は,同条2項の文言の解釈に基づかないものであるから,その主張自体理由がないというべきである。

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平成31(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和元年7月3日  知的財産高等裁判所(1部)

 アルファベット2文字「EQ」について商3条1項5号には該当するとしたものの、同2項が適用されて、識別力ありとして、識別力無しとした審決を取り消しました。出願人は「メルセデス・ベンツ」を販売しているダイムラーです。

 前記(2)認定のとおり,本願商標は,世界有数の自動車メーカーである原告が, 電動車ブランドを示す商標として採択したものであること,原告は,モーターショ ーにおいて,「EQ」を新しい電動車ブランドとして公表するとともに,「EQ」ブラ\nンドのコンセプトカーを発表し,各モーターショーの展示内容等は多くの自動車専\n門雑誌や自動車関連情報のウェブサイトにおいて紹介され,雑誌の発行部数は,多 いものでは23万部に達していること,原告は,原告ウェブサイトや顧客向け定期 機関誌の記事,全国紙での新聞広告等によって,原告の電動車ブランド「EQ」につ いて宣伝を行ったことが認められる。 また,上記の雑誌等の記事の中には,原告の「EQ」ブランドの紹介に特化したも のもあること(甲29の6・10,35〜37),原告の顧客向け定期機関誌の発行 部数は,平成30年度には年間17万部に達していることも勘案するなら,著名な 自動車メーカーである原告の発表する電動車やそのブランド名に注目する取引者,\n需要者が類型的に存在することが認められる。 そして,広告宣伝の具体的態様も,前記のとおり,原告ウェブサイトやブックレ ット等では,「メルセデス・ベンツは約1年前のパリモーターショーで『コンセプト EQ』を紹介すると同時に,『EQ』という新ブランドを立ち上げることを発表した」\n(甲9の1),「メルセデスの新ブランド『EQ』が目指す,クルマと人との未来」 (甲9の2),「新たな電気自動車ブランドとして“Electric Intel ligence”を示す『EQ』が誕生します」(甲48)などと宣伝され,雑誌や ウェブサイトの記事等においても,「電気駆動のモデルに特化したメルセデス・ベン ツのサブブランド『EQ』」(甲29の9),「『EQ』は,メルセデスベンツが2016年に立ち上げた電動パワートレイン車に特化した新ブランド」(甲31),「EQブ ランド」(甲4,29の10・21,31,40等),などと紹介されており,本願商 標が原告のブランドの名称であることが強調されている。 以上によれば,本願商標については,著名な自動車メーカーである原告の発表す\nる電動車やそのブランド名に注目する者を含む,自動車に関心を持つ取引者,需要 者に対し,これが原告の新しい電動車ブランドであることを印象付ける形で,集中 的に広告宣伝が行われたということができる。加えて,本願商標は,本件審決時ま でに,出願国である英国及び欧州にて登録され,国際登録出願に基づく領域指定国 7か国にて保護が認容されており,世界的に周知されるに至っていたと認められる ことも勘案するなら,本願商標についての広告宣伝期間が,パリモーターショー2 016で初めて公表された平成28年9月29日から本件審決時(平成30年9月\n7日)までの約2年間と比較的短いことや,原告が平成29年から販売している「E Q POWER」との名称のプラグインハイブリッド車の販売台数が多いとはいえ ないこと等の事情を考慮しても,本願商標は,原告の電動車ブランドを表す商標と\nして,取引者,需要者に,本願商標から原告との関連を認識することができる程度 に周知されていたものと認められる。
(4) 被告の主張について
ア 被告は,本願商標は,電動自動車の抽象的なブランド名ではあるが,単独で 車名として採択されておらず,販売実績もない上,原告の広告宣伝活動が行われた のはわずか2年間で,一般の需要者に周知されているというには十分とはいえない\n旨主張する。 しかし,商標が,単独で車名として採択されていないとしても,原告が電動車の ブランド名として本願商標を採択し,商品のシリーズ名やブランド名として使用す るに先立って,強力な広告宣伝を行ったことにより,当該商標が,需要者にブラン ドとして認識され,識別力を獲得することはあるというべきである。 また,本願商標についての広告宣伝期間は確かに約2年間であるが,期間が短く ても,集中的に広告宣伝がされることにより,識別力を獲得できる場合はある。そ して,著名な自動車メーカーである原告の発表する電動車やそのブランド名に注目\nする取引者,需要者が類型的に存在すると認められることは前記のとおりであり, 本願商標を原告の業務に係る標章であると認識している取引者,需要者が相当程度 存在するといえるから,本願商標は,広く知られるに至ったと認めるのが相当であ る。
イ 被告は,「E」(e)及び「Q」の欧文字を組み合わせた欧文字2字は,本願の 指定商品に含まれる自動車及び二輪自動車と関連する商品分野において,原告以外 の者によっても採択,採用されているから,本件指定商品の分野において,本願商 標の原告による独占使用が事実上容認されているとまではいえないと主張する。 確かに,平成24年9月26日以前にトヨタ自動車の電動自動車「eQ」が公表\nされたことが認められる(乙7)。しかし,同標章が本件審決時において使用されて いることを認めるに足りる証拠はなく,過去に電動自動車の商品名として使用され た標章があることをもって,原告による独占使用の容認が否定されるとはいえない。 また,現代自動車の「ジェネシス」ブランドの超大型ラグジュアリーセダン「EQ 900リムジンモデル」(乙8),鄭州日産のライトトラック「EQ1060」(乙9),Laufennのプレミアム超高性能夏タイヤ「S Fit EQ」(乙12),ア ルパインのカーナビ「EX11Z−EQ」(乙13),TOWNIEの電気自転車「7 DEQ」,「3iEQ」(乙14),ALIBIの自転車「ALIBI SPORT E Q」(乙15)は,いずれも「EQ」の欧文字と他の欧文字や数字等が組み合わされ た標章であって,品番や型式を示すものと解され,英国日産自動車製造の小型乗用 車「プリメーラ」の開発コードである「EQ」(乙10)は,開発コードであるから, いずれも何人かの出所を表すものとはいえない。\nしたがって,これらの他者による「EQ」の使用を考慮しても,本願商標に登録商 標としての保護を及ぼすことを否定すべきとはいえない。
ウ よって,被告の主張はいずれも採用できない。
3 結論
以上のとおり,本願商標は,商標法3条1項5号の極めて簡単で,かつ,ありふれ た商標に該当するものの,同条2項の使用をされた結果需要者が原告の業務に係る 商品であることを認識することができるものに該当するから,商標登録をすること ができないとした本件審決には誤りがある。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10060  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成30年11月28日  知的財産高等裁判所

 パラマウントベッドの形状の立体商標の登録について、識別力無し、3条2項の適用もなしとした審決が維持されました。
(イ) 前記(1)イ(ウ)認定のとおり,マットレス付き原告ベッドは,原告ベ ッドの機能(底板の背部の背上げ機能\及び膝部の膝上げ機能,土台の傾\n斜機能)の組合せにより,本願商標と同一の形状をとることができるこ\nとからすると,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は,その 使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識する 機会があり得るものといえる。 しかしながら,本願商標は,別紙1記載のとおり,ベッドの土台が, 頭側を上にして傾斜し,ベッドの底板が,頭側を上にして足側にかけて 全体としてS字状に屈曲し,背部が立ち上がり,腰部から足部にかけて の中間の膝部が起伏し,かつ,頭側の端部がヘッドボードの上端部の右 方に近接して位置した形状であり,マットレス付き原告ベッドを本願商 標と同一の形状とするには,原告ベッドの上記機能を組み合わせて,土\n台の傾斜角度,底板の背部の立ち上げ角度及び膝部の起伏の高さなどを 調節して設定する必要があること,マットレス付き原告ベッドの利用者 は,通常は,マットレスの上に布団をかけた状態で原告ベッドを使用す ることに照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は, その使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識 する機会は多いものとは認められないし,また,その形状を認識したと しても,それが印象に残ることは少ないものと認められる。 さらに,原告は,本社及び全国8支店のショールームに原告の総合カ タログ(甲1)及び単品カタログ(甲2)を常備し,マットレス付き原 告ベッドを展示して,販売活動を行っていること(甲5,弁論の全趣旨) に照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者は,その購入の際に, 総合カタログ及び単品カタログに接することがあり得るものと認められ るが,総合カタログ及び単品カタログには,別紙1の下部の写真と同様 の構図(斜視図)の写真は掲載されていないため,総合カタログ及び単\n品カタログのみから,本願商標と同一の形状を認識することはできない。 また,上記ショールームにおいてマットレス付き原告ベッドが本願商標 と同一の形状で展示されていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の新聞 広告及び雑誌広告には,1)人が横たわっている,マットレス,枕及び掛 け布団を設置した,底板及び土台が頭側に傾斜した状態のマットレス付 きベッドを表したB商標,2)マットレス,枕及び掛け布団を設置した, 土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のマットレス付き ベッドを表したD商標,3)マットレス及び枕を設置した,土台が頭側に 傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のベッドに人が枕に頭をのせ, 背中を付けて座っているマットレス付きベッドを表したE商標の写真が\n掲載されていることは,前記ア(イ)認定のとおりである。 しかしながら,これらのB商標,D商標及びE商標の写真は,人,枕 及び掛け布団が写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標の 形状の写真と一致しないことに照らすと,B商標,D商標及びE商標を 掲載した新聞広告及び雑誌広告から,本願商標と同一の形状又は社会通 念上同一の形状を認識することはできないものと認められる。 また,同様に,マットレスの設置されていない,土台が頭側に傾斜し, 底板の背部が立ち上がった状態のベッドを表したA商標が掲載された新\n聞及び雑誌から,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識することはできないものと認められる。 次に,マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の テレビCMには,マットレスの足元側にカバーをつけたマットレス付き ベッドにおいて,土台が水平で,土台が頭側に傾斜した状態,底板及び 土台が頭側に傾斜した状態,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上 がった状態を表したF商標の画像,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が\n立ち上がった状態のマットレス付きベッドを表した標章の画像が表\示さ れていることは,前記ア(ウ)認定のとおりである。 しかしながら,これらのF商標及び上記標章の画像は,マットレスの 足元側のカバーが写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標 の形状の写真と一致しないことに照らすと,F商標及び上記標章が表示\nされたテレビCMから,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形 状を認識することはできないものと認められる。 (エ) 前記ア(エ)のとおり,本件アンケートは,福祉用具レンタル卸業者, 貸与業者及び販売業者,ケアマネージャー(介護支援専門員),福祉用 具鑑定士,福祉用具プランナー等を対象者とするものであり,介護用品 の利用者及びその家族等の一般需要者が対象者に含まれていないから, 本件アンケートの結果は,需要者(前記(ア))の認識を適切に反映した ものとは認められない。
(オ) 以上によれば,原告によるマットレス付き原告ベッドの販売(前記 ア(ア)),新聞広告,雑誌広告及びテレビCMによる広告宣伝(前記ア(イ), (ウ)),本件アンケートの結果(前記ア(エ))を総合考慮しても,本件 審決時(審決日平成30年3月22日)までに,本願商標が,マットレ ス付き原告ベッドを表示するものとして,需要者の間に広く認識される\nに至ったものと認めることはできない。 したがって,本願商標は,マットレス付き原告ベッドについて,「使 用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する ことができるもの」(商標法3条2項)に該当するものとはいえない。
ウ 原告の主張について
原告は,1)本願商標は,極めて斬新で特徴的な形状(「傾斜ベッド」と 「フットボード」の形状)を有しており,その特徴的な形状は,強く需要 者の目を引くこと,2)本願商標の使用商品(マットレス付き原告ベッド) は,発売後短期間に多数の販売実績を上げていること,3)積極的,集中的 かつ商品形状の露出を前面に押し出した効果的な本願商標の使用商品の宣 伝活動とも相まって,需要者である福祉用具レンタル事業者において,本 願商標の特徴的な形状は,印象的かつ鮮明に記憶され,その特徴的な形状 自体が原告の出所を表示する標識として認識されるに至っており,このこ\nとは,本件アンケート調査の結果によって裏打ちされていることからする と,本願商標は,本願商標の使用商品について,「使用をされた結果需要 者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」 (商標法3条2項)に該当すると主張する。
しかしながら,上記1)のうちの「傾斜ベッド」の形状とは,土台の傾斜 機能により,フットボード側が低くなった形状をいうものであるところ,\n原告が述べるように土台の傾斜機能は従来の介護用ベッドにない機能\であ るとしても,本願商標の構成全体の中で土台が傾斜した形状が強く需要者\nの印象に残るものとは認められない。また,上記1)のうちの「フットボー ド」の形状とは,樹脂製のボードを採用し,全体に丸みをつけて,ボード の上端がつかまりやすいグリップ形状となっている点及び外側に「収納カ バー」が設けられ,木目調のシートが貼ってある点をいうものであるとこ\nろ,グリップできるように,フットボードの上部左右に穴を設けた形状及 びフットボードの一部に木目調の模様がある形状は,他の介護用ベッドに おいても採用されている形状又は装飾であって(乙4ないし6,14,1 5),いずれも独特なものとはいえず,強く需要者の目を引くものとは認 められない。
そして,マットレス付き原告ベッドの販売実績及び広告宣伝,本件アン ケートの結果を総合考慮しても,本件審決時(審決日平成30年3月22 日)までに,本願商標が,マットレス付き原告ベッドを表示するものとし\nて,需要者の間に広く認識されるに至ったものと認めることはできないこ とは,前記イ(オ)で説示したとおりである。したがって,原告の上記主張は,理由がない。

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平成29(行ケ)10155  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成30年1月15日  知的財産高等裁判所

 立体商標について、識別力無し(3条1項3号)とした審決が維持されました。また、3条2項の主張も認められませんでした。
 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮\nさせたり,商品等の美観をより優れたものとする等の目的で選択されるものであっ て,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるもので\nはない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は, 多くの場合,それ自体において出所表示機能\ないし自他商品識別機能を有するもの,\nすなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,\n商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等 により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために 選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別す\nるために選択されたものと認識する場合は多くない。 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美観に資することを目的として採\n用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普 通に用いられる方法で使用する標章のみから成る商標として,商標法3条1項3号 に該当することになる。 また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に\n関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願した ことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当で ない。 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機 能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得る範囲のもので あれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきで ある。
・・・・
イ 一般的な杭の形状との対比
本願の指定商品である杭については,先端を円錐状に尖らせ,頭部の先端(打込 部)を円盤状に平らにした,長い棒状の形状から成る商品が市販されていることが 認められる(甲1,123,乙4,5,9〜19)。 この点,原告は,一般的な杭は,頭部から先端までが同一径の円管で,鉄パイプを 切断しただけの状態のものである「単管杭」であり,本願商標をこれと対比すべき 旨主張するが,かかる「単管杭」のみならず,先端を円錐状に尖らせ,頭部の先端を 円盤状に平らにした長い棒状の杭も市販されているから,原告の主張は採用できな い。
・・・・
(ウ) そうすると,本願商標に係る立体的形状は,杭の形状として,機能又は美観\nに資することを目的として採用されたものと認められ,また,需要者において,機 能又は美観に資することを目的とする形状と予\測し得る範囲のものであるから,商 品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみから成る商標として,商標 法3条1項3号に該当するというべきである。
・・・・
前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表\n示する標章のみから成る商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用 により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができ ることを規定している。 そして,立体的形状から成る商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどう かは,1)当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,2)当該商標が 使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情 を総合考慮して判断すべきである。 なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実 質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持する\nため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照ら すと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存 在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるもので あったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得する に至っているか否かを判断すべきである。
(2) 本願商標に係る商品の形状及び当該形状に類似した他の商品の存在
本願商標は,指定商品である杭の立体的形状に係るものであり,その形状は,(ア) 円柱状の中央部分から頭部と先端部に向けて,円錐状の絞り加工部分があり,(イ)頭 部側,先端部側ともに,絞り加工部分の途中に1本の外周線があり,(ウ)頭部側につ いては,外周線を越えた後も絞りは続くが,絞り切る前に,絞り加工部分より大径 のリング部分及びリング部分より小径の台形部分があり,これが頭部の末端となり, (エ)先端部についても,外周線を越えた後も絞りが続くが,絞り切る前に,絞り加工 部分より大径のリング部分及び絞りの線よりも鋭角の線による円錐部分があり,こ れが先端部の末端となるというものであるところ,前記1のとおり,円柱状の中央 部分(上記(ア)),頭部の末端の台形部分(上記(ウ)),先端部の末端の円錐部分(上 記(エ))から成る杭は,他にも市販されている。また,上記(ア),(ウ),(エ)の頭部と 先端部に向けた絞り加工や,上記(エ)の絞り加工より大径のリング部分,上記(イ)の 外周線も,機能又は美観に資することを目的とする形状と予\測し得る範囲のもので あって,本願商標は,杭の形状として通常採用されている範囲を大きく超えるもの とまではいえない。 さらに,本願商標と実質的に同一の形状から成る複数の杭が,第三者の取扱いに 係る商品として販売されていること,原告は,これに対して何らの権利行使も行っ ていないことも認められる(乙20〜22,弁論の全趣旨)。 したがって,原告商品の立体的形状自体が他の商品にない特徴的なものであると はいえない。
・・・・
以上のとおり,1)原告商品の立体的形状は,他の同種商品にはない特徴的なもの とはいえないこと,2)一定の販売実績を挙げてきたものの,そのシェアは不明であ り,実用新案権や意匠権が存在していたこと,原告商品の広告宣伝展示が継続して 行われたとしても,取引者,需要者は,併せ使用された「くい丸」の文字商標に注目 して自他商品の識別を行ってきたと認められること,これらの事情を総合すると, 原告商品の立体的形状が,文字商標から独立して,その形状のみにより自他商品識 別力を獲得するには至っていないというべきである。 したがって,本願商標は,使用をされた結果自他商品識別力を獲得し,商標法3 条2項により商標登録が認められるべきものということはできない。

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平成29(行ケ)10110  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年11月27日  知的財産高等裁判所

 商3条の識別力無しとした審決が維持されました。争点は、「MORI」の下に「MOTO」とローマ字表記することが、『森本』という氏を普通に用いられている方法で表\示しているかどうかでした。裁判所は「格別特徴的であるとまではいえない」と判断しました。
 次に,本願商標の表示方法について検討するに,本願商標は,前記のと\nおりありふれた氏である「森本」と同一の称呼観念を有する語をローマ字 表記にした上,「mori」と「moto」を上下二段に分けて配置した\nものであり,その字体も,文字の角を丸めたやや太めの書体を採用したに すぎないものである(Fontworks社のスーラEBという特定の書 体を採用した点についても,同社のウェブサイト〔乙35,36〕におい て,同書体がDTP〔デスクトップパブリッシング〕の代表的な書体であ\nり,近年多くの場所で使用されている旨謳われていることからすれば,格 別特徴的であるとはいえない。)。 商取引において,氏や名称をローマ字で表記することは,一般的に行わ\nれていることであるし,標章の構成文字を複数の段に分けることや,構\成 文字の書体をある程度デザイン化することも特段珍しいことではなく,表\n示上格別の工夫を凝らしたものであるとはいえない(これらのことは逐一 立証するまでもない公知な事実であり,被告提出の乙6ないし34からも 明らかといえる。なお,これらの書証の中には,必ずしも原告と同じ業界 でないものの例も含まれているが,複数の業界を跨いで同じような例があ るということは,それだけ一般的に行われていることを示すものといえる から,これらの証拠を総合して取引の実情を認定したとしても何ら差し支 えない。)。 したがって,上記の程度の表示態様(外観)では,いまだ「森本」の氏\nとは別の称呼観念が生じ得るほどに(すなわち,独占の弊害を生ずるおそ れがないといい得るほどに)特徴的であるということはできず,本願商標 は,外観上も,ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示する域を\n出ないものと評価するのが相当である。 よって,この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

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平成28(行ケ)10266  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年9月27日  知的財産高等裁判所(1部)

 カジノで用いるトランプ繰り出し装置の形状を立体形状とした商標出願が、識別力無し(3条1項3号違反)と判断された審決が、維持されました。3条2項の主張もなされましたが、我が国では使用されていないので否定されました。判決文の最後に形状が掲載されています。
 前記(1)によれば,本願商標の形状と一般的なカードシューの形状とは,横長の箱 状であり,上面をなだらかに傾斜させるとともに,前面を傾斜させ,半円状の開口 部が設けられているという点において共通するものであり,その共通する形状は, トランプを格納して,上から一枚ずつ取り出せるカード容器の基本的な形状であっ て,トランプ繰り出し装置という機能を効果的に発揮させるために通常採用されて\nいる形状であることが認められる。 そして,本願商標の立体的形状は,全体として曲線を輪郭として用いていること など,一定の特徴的形態を有するものであるけれども,このような曲線を輪郭とす るカードシューは,他にも存在するのであって(乙4,11),通常採用されてい る形状の範囲を超えるものとまでは認められず,本願商標に接した需要者が,商品 の美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認\nめられる。 また,本願指定商品は,「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認 識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログ\nラムを内蔵してなる」ものであるところ,前記認定のとおり,ランプやボタン等 は,電子的にトランプカードを識別認識してゲームの結果を表示する,又は電子機\n器を制御するために設けられたものであると認められる。このような電子的な機能\nを有する商品には,その機能を発揮させるために,ランプやボタン,スイッチ等を\n搭載することが通例であるといえ,本願商標のランプやボタン,スイッチ等の特徴 的形態については,本願商標に接した需要者が,商品の機能を効果的に発揮させる\nことを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認められる。\n以上によれば,本願商標の立体的形状は,客観的に見れば,機能又は美感に資す\nることを目的として採用されたものと認められ,また,需要者において,機能又は\n美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであるから,\n商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商\n標法3条1項3号に該当するものと認められる。
・・・
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,こ のような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章,あるい\nは,商品等の形状を表示する標章であって,取引に際し必要適切な表\示として何人 もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益 上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場 合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによる\nものである。また,商標法3条2項は,同条1項3号に該当する商標のように,本 来は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと もに,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであっても,\nその使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識 することができるものについては,自他商品識別力を獲得したものとして,例外的 に商標登録を受けることができる旨を定めたものである。そして,商標法は全国一 律に適用されるものであって,商標権が全国に効力の及ぶ更新登録可能な排他的な\n権利であることからすると,商標法3条2項により商標登録が認められるために は,同条1項3号に該当する商標が,現実に使用された結果,指定商品又は指定役 務の需要者の間で,特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識される\nに至ったことが必要であると解される(そうである以上,指定商品又は指定役務の 需要者は,通常,全国的に存在していることが前提となるものである。)。上記の理 は,商標法3条1項4号及び5号に該当する商標について,同条2項により商標登 録を受けることができる場合においても異なるところはないといえる。
本願商標及び使用に係る商品の構成態様
本願商標は,前記1 に認定したとおりの構成からなるものであるのに対し,証\n拠(甲1〜4,6,18,22,37,49)及び弁論の全趣旨によれば,原告 は,本願商標と類似する形状の商品「バカラ電子シュー」(本件使用商品)を製造 及び販売しているところ,本件使用商品は,「トランプに内蔵印刷されたトランプ 識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗\nを判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置」であり,本願指定商 品に属するものであること,本件使用商品と本願商標の立体的形状は,ランプの数 や曲面の形状,カード繰り出し口の形状等において若干相違するものもあり,完全 に同一の形状からなるものということはできないものの,実質的に同一性を有する ものであるといえることなどが認められる。なお,証拠(甲1,2,18,24, 37,41)及び弁論の全趣旨によれば,本件使用商品は,その上面に,看者の注 意を惹くように書された「ANGEL EYE」等の文字が記載されていることが 認められるが,商品等は,その販売等に当たって,その出所たる企業等の名称や記 号・文字等からなる標章などが付されるのが通例であることに照らすと,使用に係 る立体形状にこれらが付されているということのみで,直ちに本願商標の立体的形 状について,商標法3条2項の適用を否定することは適切ではなく,上記文字商標 等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに 至っているか否かを判断するのが相当である。  以上を前提に,本願商標について検討するに,本願商標の立体的形状と実 質的に同一の形状を有する本件使用商品が,輸出専用の商品であって我が国におい て流通していないことは,当事者間に争いがない。そして,原告が主張するよう に,本件使用商品が輸出され,又は輸出を前提としてのみ譲渡若しくはそのための 展示がされることにより,本願商標が使用されているとしても,本件使用商品の取 引に関係する者は国内の販売代理店に限定されており,本願商標を原告の出所表示\nとして認識し得る需要者は限られた範囲にとどまるから,本願指定商品の需要者が 全国的に存在していると認められない。のみならず,本件使用商品が輸出されるこ とにより,諸外国で使用されており,諸外国のカジノ関係者に知られているとして も,その周知性が我が国に及んでいると認めるに足りる証拠はないから,本願商標 が,現実に使用された結果,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として\n我が国において全国的に認識されるに至ったものと認めることはできない。 したがって,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができる ものということはできない

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平成27(行ケ)10019  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年10月29日  知的財産高等裁判所

 アルファベットの「i」一文字をデザイン化して,特定の緑色の単色で着色した商標について、識別力なしとした審決が維持されました。3条2項(使用による識別性)も否定されました。
(3) 上記認定事実からすれば,本件審決時である平成26年9月16日におい て,原告が提供する役務である上場投資信託「iShares」は,その売上高が 極めて大きいことからして,金融商品の需要者・取引者によく知られているものと 認められるが,一方,本願商標は,その使用期間が1年2か月程度と短く,新聞や 雑誌に本願商標を用いた広告(その立体的置物を含む。以下同じ。)を掲載したのは 7回にすぎず,トレードショーなどで本願商標を用いたと認められる事例は本件審 決後を含めても5回に限られ,しかも,本願商標は,原告の役務名である「iSh ares」や,原告の名称を表す「byBLACKROCK」と共に使用されるの\nが通例であり,本願商標単独で使用されるものとは認められない。 そうすると,本願商標が指定役務とされる役務に使用されたか否かの判断はひと まず措くとしても,本願商標は,その使用の結果,需要者が原告の業務に係る役務 であることを認識することができるに至ったとは認めるに足りない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の使用回数が多いとはいえなくとも,本願商標がコン セプトを感じさせるものであること,その使用者である原告が世界最大級の資産運 用会社であること,原告のiシェアーズのサービスが上場投資信託市場のトップブ ランドであることから,本願商標は取引者,需要者に広く知られている,と主張す る。 しかし,原告及び原告の提供する役務であるiシェアーズが広く知られていると しても,本願商標自体が使用されている頻度が低いのであるから,本願商標が取引 者,需要者に広く知られているとは認めることはできない。原告の主張には,理由 がない。

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平成26(行ケ)10193  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年1月29日  知的財産高等裁判所

 商標「全国共通お食事券」指定商品「第16類 印刷物」および指定役務「第36類 前払式証票の発行」が識別力無しとした審決が維持されました。使用による識別力獲得(商3条2項)の主張も認められませんでした。
 原告は,「全国共通お食事券」の語については,種々の代替可能な名称が存在することから,独占適応性を欠くとはいえない旨主張する。\nしかしながら,商標法3条1項3号の意義について前述したとおり,商品又は役務の特性を表示記述する標章は,多くの場合,当該商品又は役務に係る取引一般において,取引の内容を説明するために必要かつ適切な表\示として機能するものであるから,たとえ当該標章と同じ意味合いを生ずるなど同標章に代替し得るものが存在するとしても,同標章について特定人の独占的使用を認めれば,その他の者は同標章を使用できなくなり,このことによって,取引に支障を来し,円滑な流通が阻害されるなどという公益上の問題が生じるおそれは,依然として存在するというべきである。\nそして,前述したとおり,本願商標を構成する「全国共通お食事券」の語は,本願指定役務の質を記述する標章であるから,これに代替し得るものが存在するとしても,特定人に独占的使用を認めれば,前述した公益上の問題が生じるおそれがあることは明らかである。\nしたがって,「全国共通お食事券」の語については,代替可能な語の存否にかかわらず,独占適応性を認めることはできず,原告の前記主張は採用できない。
a 原告は,「食事券」が「食事券の発行」という役務との関係においては,「役務の提供の用に供する物の質」の表示に当たることを前提として,本件審決は,本願商標をもって,「食事券」という本願指定役務の提供の用に供する物の質の表\示として認識される旨の判断をしており,商標法3条1項3号の適用範囲に含まれない「役務の提供の用に供する物の質」の表示まで同号の範疇に取り込ん\nでいる旨主張する。 b しかしながら,「食事券の発行」という役務との関係において,「食事券」は,「発行」の対象であり,上記役務の成果に他ならない。したがって,「食事券」に係る表示は,上記役務の成果に係る表\示であるから,同役務の「質」の表示に該当するというべきである。\n本件についてみると,本願商標である「全国共通お食事券」は,「食事券」に係る表示であり,本願指定役務は,「全国の加盟店で利用可能\な」という性質を有する「食事券の発行」であるから,本願商標は,本願指定役務の質を表示するものと認められる。\n他方,商標法3条1項3号所定の「(役務の)提供の用に供する物」とは,当該役務を提供するための手段として供される物を指すものと解され,例えば,「自動車による輸送」という役務については,輸送手段であるトラックや大型車などの自動車が,「コーヒー飲料の提供」という役務については,コーヒーカップなどの容器やサイフォンなどコーヒー飲料を作る用具などが,当該役務の提供の用に供する物に該当する(甲98)。本願指定役務については,「(役務の)提供の用に供する物」の例として「食事券を作成する印刷機」などが挙げられるが,「発行」という役務の対象となる「食事券」そのものが,「提供の用に供する物」に該当すると解する余地はない。 c 以上によれば,本件審決が,本願商標をもって,本願指定役務の質を表示するものと認めたことに誤りはなく,原告の前記主張は,採用できない。
・・・・
他方において,前記2のとおり,ぐるなびのウェブサイト上に平成23年9月15日付けで「『ぐるなびギフトカード』全国共通お食事券の販売を開始」などという広告が掲載されるまでは,本件証拠上,原告以外の者が,食事券について「全国共通お食事券」の語を使用していた事実は,認められない。 イ(ア) しかしながら,原告食事券,加盟店一覧表,加盟店リスト,原告加盟店ステッカー,その他原告作成に係る販促用チラシ等の資料,広告のいずれにおいても,原告食事券を示すものとして,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,同語は,常に,「ジェフグルメカード」の語と併記されて使用されてきた。この点に関しては,原告自身,本願商標,すなわち,「全国共通お食事券」を単独で使用したことがない点については,争わない旨を述べているところである。\n加えて,前述したとおり,原告食事券を採り上げたテレビ番組等における紹介など,原告以外の主体が原告食事券に言及する場合においても,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の語と併用されてきた。
・・・
(エ) 以上に鑑みると,前述したとおり,「全国共通お食事券」の表示は,原告食事券を示すものとして単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の表\示と併用されているところ,これらに接した取引者,需要者においては,「全国共通お食事券」の表示をもって,原告食事券という特定の商品を指すものとして理解し,同表\示のみによって原告食事券の出所が原告である旨を認識することはなく,併用されている「ジェフグルメカード」に着目して,原告食事券の出所が原告である旨を認識するものというべきである。

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平成25(行ケ)10341 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 平成26年05月14日 知的財産高等裁判所 

 商標「オタク婚活」について、役務の質(内容)を表示するとして、識別性無しとした審決が維持されました。
 イ 本件商標は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなる商標であり,「オタク」のカタカナ3字と「婚活」の漢字2字とを結合して一連表記した結合商標である。本件商標からは「オタクコンカツ」の称呼が自然に生じる。本件商標を構\成する「オタク」の語については,乙1(大辞林第三版,2006年(平成18年)10月27日発行)に「俗に,特定の分野・物事を好み,関連品または関連情報の収集を積極的に行う人。狭義には,アニメーション・テレビ−ゲーム・アイドルなどのような,やや虚構性の高い世界観を好む人をさす。…一九八〇年代中ごろから使われる語」,乙2(現代用語の基礎知識,2011年(平成23年)1月1日発行)に「個人の趣味に没頭し,異常な執着を見せる人物やふるまいを指す。1980年代前半に生まれた言葉で,元はマンガやアニメなど特定の趣味について使われたが,普及の過程で意味が拡大・変容し,現在では『マニア』とほぼ同じく,さまざまな趣味について『○○オタク』と使われることも。」との記載がある。上記記載及び弁論の全趣旨によれば,本件商標の登録査定日当時,「オタク」の語は,アニメーション,テレビゲーム,アイドルなどのような特定の趣味の愛好家を示す用語として,一般に認識され,普通に用いられていたことが認められる。また,本件商標を構\成する「婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時,「結婚するための活動」を意味する語として,一般に認識され,普通に用いられていたことは,当裁判所に顕著である。そして,本件商標の登録査定日前の新聞記事情報には,主に30歳前後の人向けの結婚するための活動を「アラサー婚活」(2010年(平成22年)11月22日付け毎日新聞(乙16の1),2012年(平成24年)1月30日付け静岡新聞(乙16の2)),主に中高年層向けの結婚するための活動を「シニア婚活」(2011年(平成23年)2月4日付け,同年6月26日付け及び同月27日付け朝日新聞(乙17の1ないし3)),主に熟年と呼ばれる中高年層向けの結婚するための活動を「熟年婚活」(2009年(平成21年)7月10日付け読売新聞(乙18の1),2010年(平成22年)11月22日付け北海道新聞(乙18の2),2012年(平成24年)10月16日付け南日本新聞)などと称される例があることからすると,「婚活」の語の前に対象者の属性を表す語を結合した語は,当該対象者向けの結婚するための活動を意味する語として,本件商標の登録査定日当時,一般に理解されていたことが認められる。そうすると,本件商標を構\成する「オタク婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を意味する語として,本件商標の指定役務である「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,インターネット上でのウェブサイトを利用した異性の紹介及びこれに関する情報の提供,インターネットを利用した結婚に必要な情報の提供」に係る事業の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。以上によれば,本件商標の登録査定日当時,本件商標は,その指定役務に使用されたときは,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を支援する異性の紹介,情報の提供などといった役務の質(内容)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表\示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて,本件商標は,標準文字で構成されているから,「オタク婚活」の文字を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなるものであるというべきである。
・・・・
そこで検討するに,商標法は,商標登録の要件について,3条1項で,同項各号に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる旨定め,同条2項で,前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる旨定めている。これらの規定によれば,審査官は,商標登録出願のあった商標が商標法3条1項各号に該当するかどうかを判断し,その上で,当該商標が同項3号から5号までに該当すると判断した場合であっても,同条2項に該当すると判断したときは,登録査定(同法16条)を行うこととなるのであるから,商標登録が同法3条に違反してされたことを理由に登録異議の申立て(同法43条の2第1号)がされた場合における同法3条1項各号該当性及び同条2項該当性の判断の基準時は,いずれも,その登録査定の行政処分がされた登録査定時(同法55条の2第2項により商標登録をすべき旨の審決がされたときは,その審決時。以下同じ。)と解するのが相当である。\n

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平成24(行ケ)10352 商標登録取消決定取消請求事件  商標権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所

 商標「ほっとレモン」について、異議申立があり、審決は識別性無しと判断しました。裁判所はこれを維持しました。使用による識別性獲得(3条2項)も否定されました。
 本件文字部分のうち,片仮名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味すると理解するのが自然である(上記1(3)及び同(4)参照)。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから(上記1(6)参照),本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。この点,原告は,「ほっと」は,「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」を意味し,「温かい」を意味するものではないかのような主張をする。しかし,1)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」を総称する名称(称呼)としては,「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」があり,それ以外の名称(称呼)を一般的に確認することはできないこと,2)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」としての「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」の表記は,「ホットレモン」のみならず片仮名と平仮名の組合せである「ほっとレモン」も用いられていたこと(上記1(3)参照),3)「レモン」以外の果実等の風味を付加し,温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料水等においても,平仮名「ほっと」の文字が使用される例は,少なくないこと(上記1(4)参照)等に照らすならば,原告の上記主張を採用することはできない。すなわち,本件に現れたすべての証拠によるも,本件商標について,「熱い」,「温かい」との観念が生じることを否定する事実は認められない。

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平成24(行ケ)10346 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年06月27日 知的財産高等裁判所

 立体商標について識別性なし、使用による顕著性無しとした審決が維持されました。
 しかしながら,他のジョイントボックスの形状等を見ても,電気配線の結合部分を覆うためにボックス部分の形状が円筒形のものが多く,より詳細に観察した際には,上部に向かってやや広がっていき,最上端部には縁部が設けられているものが多数存在し,色は透明なものがある上に,本体のカバー部分内部は,結線束を入れるために空洞となっており,本体の上面縁部には,本体を造営材(固定できる部材)に固定するための固定孔が設けられ,本体下方には,汚水の排水用の突起部が存在することは,ジョイントボックスにとって一般的に採用された極めてありふれた形状であるといえる(甲1ないし7,乙1ないし5)。開口部の弁についても,使用商品にのみ取り付けられているわけではなく,他にもワンタッチでかぶせるジョイントボックスが実際に存在するから(乙4。ただし,弁は2枚である。もっとも,使用商品同様に位置としては開口部に有する。),本願商標の弁自体は機能に資する目的のための形状であるといってよい。弁自体は,電気配線の結束部分にかぶせることによって配線の結束部分が弁体を通過し,弁体が戻ろうとする働きによりジョイントボックスが固定されるという,正に機能\に資するための形状にほかならないのであって,当該形状は商品の機能向上の観点から選択されたものであり,機能\について特許を受けるのは別として,自他商品を識別するための標識としては認識し得ないものというべきである。本願商標の弁体の並びがグレープフルーツを切断したような形状を有している点も,結線束を保護するためにカバー内に固定するという機能を果たすために弁がカバー全体にわたって整然と並んでいるにすぎず,機能\に資する目的の形状であることを超えるものではない。とりわけ,結線束をカバー内に収納した後はジョイントボックスの円筒部分を上向きにして使用することが一般的であることをふまえると,設置後に特別な印象を与えるものとはいえない。審決の上記判断に誤りはなく,この判断を前提にして本願商標は法3条1項3号に該当するとした審決の判断にも誤りはない。この誤りをいう取消事由1は理由がない。
・・・
エ 使用商品の販売数量及び販売金額は,平成8年度は455万個で約7700万円に始まり,最も多いときは,平成16年度ないし平成18年度は約920万個で約1億5700万円であって,平成23年度は約675万個で約1億4800万円である(甲9,40,44)。5 使用商品の販売数量については,上記認定事実のとおり,それ相当の数量が製造,販売されていることは認められるものの,業界におけるジョイントボックスに相当する商品の総販売数量についての立証がないので,使用商品の市場シェアは明らかであるとはいえない。この点につき,原告は,木造住宅一戸当たり平均20個のジョイントボックスが使用されるとの前提で,電気事業者の証言書を提出し(甲53ないし57),使用商品は主に木造住宅に使用されると述べ,これを国土交通省資料による木造住宅着工数(平成22年度であれば46万4140戸)を基礎数値として算出すれば,使用商品の市場シェアは70%以上になるし(甲9,40),仮に誤差が±20%あったとしても市場シェアは50%を下らないことは明白であると主張する。しかしながら,使用商品に係るリーフレット(甲1,2)ですら,主たる用途が木造住宅用とは記されておらず,むしろ,雑誌の記事(甲17)には「ジョイントボックスは,木造,鉄骨住宅などの電気工事において,・・・結線部分を絶縁するときに使う。」との記載があるし,また,原告のウェブサイト(乙12)にある「よくある質問」の中にも,「Q:ナイスハットHタイプとMタイプどう違いますか?」(判決注:ナイスハットHタイプは,甲1のとおり,使用商品である。)との質問に対し,「A:Hタイプは主に木造住宅用。Mタイプは主に鉄筋・鉄骨の二重天井の先行配線用に開発しましたが,用途は同じですので状況に応じて選んで下さい。」との回答があり,これらのことからすれば,使用商品の開発時の意図はともかくとして,実際に使用される使用商品の用途が木造住宅用に限定されるものでないことは明らかである。原告は,主として木造住宅に利用されていると主張しているが,原告作成の納入実績表(甲10)の中には,工場,官庁の合同庁舎,学校,ビル,病院,ごみ焼却場といったように,明らかに木造とは考えられず,鉄筋造りでしかも巨大な建造物も含まれているのであって,鉄筋造りの建造物用を除外して市場占有率を算定することについては疑問がある。そして,鉄筋造りの巨大な建造物には大量のジョイントボックスが使用されることが想定されるから,この場合には,原告が主張するように市場占有率の誤差が10%や20%にとどまらず,原告商品の市場占有率の数値がかなり小さくなることが十\分考えられる。そうすると,需要者が本願商標につき原告商品との認識を持つことが可能という法3条2項の要件を充足することは困難である。\n

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平成24(行ケ)10359 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年05月29日 知的財産高等裁判所

 商3条2項の主張を認めなかった審決が維持されました。
 上記認定事実によれば,「マッサージクッション」の文字からなる本願商標について,「使用された結果,需要者において,原告の業務に係る商品であると認識することができるもの」と判断することはできない。その理由は,以下のとおりである。すなわち,(1) 一般の家庭用電気マッサージ器等の製造,販売に係る取引者,需要者において,「マッサージクッション」の語は,「手軽に持ち運べて,クッションとしても使えるマッサージクッション。」等の用例にみられるように,「クッション形状のマッサージ器」を意味する普通名詞として用いられている。また,各製造者等において自社製品を宣伝広告する場合,及びネット販売業者において各社の商品を紹介する際に,当該商品の出所を示す必要がある場合には,「マカロンマッサージクッション・MC−301」,「オムロン クッションマッサージャHM−341−BW ブラウン」,「クロシオ マッサージクッション シフォン チョコレート CH−301−CH」など,商標等の出所表示を付加して使用することが通例である。(2) 本件商品に関する原告の宣伝広告及びテレビ,雑誌,新聞等における商品紹介をみると,「ルルド マッサージクッション」と表示される例が多い。また,原告は,「ルルド」シリーズで本件商品を含む各種家庭用マッサージ器のほか,バランスツール,ベッド等を販売しているが,本件商品の包装箱,取扱説明書,カタログや原告のウェブサイトには,四角で囲まれた図形及び欧文字「Lourde」の組合せからなり登録商標を示す「R」を併記した「ルルド標章」も表\示されている。(3) 以上の事実経緯に照らすならば,本件商品の包装箱,取扱説明書,カタログや原告のウェブサイトにおける本件商品の表示に接した需要者は,「ルルド」ないし「ルルド マッサージクッション」等により,本件商品の出所が原告であると認識しているのであって,「マッサージクッション」のみによって,出所が原告であると認識することはないと解するのが合理的である。なお,本件商品の包装箱やカタログには,「Massage」及び「CUSHION(Cushion)」と表示されているが,包装箱やカタログにはルルド標章も付されていることや,包装箱とカタログ以外では,欧文字の表\示はほとんど使用されていないことからすると,このことから,「マッサージクッション」の表示のみで本件商品の出所を認識することができるということはできない。原告は,本件商品の販売数及び小型マッサージ機器のマーケットシェアが50パーセントを超えること等の点を主張する。しかし,そのような事実から,「マッサージクッション」の語が,使用された結果,需要者において,原告の業務に係る商品であると認識することができるものと解することは到底できず,この点の原告の主張は採用の限りでない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。以上のとおり,本願商標は商標法3条1項3号に該当し(当事者に争いがない。),同条2項に該当するとは認められない。\n

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平成24(行ケ)10285 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成25年01月24日 知的財産高等裁判所

 商標「あずきバー」について、使用による識別性が認められました。また、使用していた商品がアイス菓子で、指定商品が「あずきを加味してなる菓子」についても問題なしと判断されました。
 ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一とみられる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の販売数量又は売上高等,当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。イ これを本件についてみると,原告は,昭和47年に,「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子(本件商品)の販売を開始し,本件審決の時点に至るまで,全国の小売店等でその販売を継続しており,その販売数量も,平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本となっている。また,原告は,毎年7月1日を「井村屋あずきバーの日」と定め,平成元年以来,本件商品について中断を挟みながらも本件審決の時点に至るまでテレビコマーシャルを放映しており,その放映料は,少なくとも平成20年以降,毎年1億2000万円を超えているほか,新聞その他の媒体等を通じて全国で広告を実施している。原告は,本件商品の発売以来,本件商品の包装に原告の会社名とともに,本件ロゴ書体,これを横書きにしたもの又はこれと社会通念上同一と見られる標章を付しており,上記の宣伝広告等においても当該包装が映った写真又は映像を使用することが少なくなく,当該宣伝広告等においては,ほぼ常に原告の会社名を重ねて紹介している。このような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績により,本件審決の時点までには,「あずきバー」との語でインターネット上の検索を行うと,表示される多数のウェブページではいずれも本願商標が原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されているほか,原告とは直接の関係が認められない著者により,「あずきバーはなぜ堅い?」との表\題の書籍(平成22年7月16日刊行)が執筆・出版されるに至っている。以上のような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績並びにこれらを通じて得られた知名度によれば,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,本件商品の販売開始当時以来,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたことが容易に推認され,本件審決当時でも,本件商品を意味するものとして価格表\や取引書類等で現に広く使用されている。(以上につき,甲1〜31,33〜35,37〜57,63〜67)
ウ なお,「あずきバー」との商標は,証拠上確認できる範囲内では,原告以外に3社が自社の商品に使用しているが,いずれも,「玄米あずきバー」(乙20),「十勝あずきバー」(乙21)及び「セイヒョー金太郎あずきバー」(乙22)という各商品の名称の一部として使用されているものである。しかも,これらのうち,「セイヒョー金太郎あずきバー」も,自社名を商品に付していることで差別化を図っていることがうかがえるばかりか,「玄米あずきバー」の広告ウェブページには,「ライバルは井○屋!!」との大きな記載があり,原告と本件商品との関係を強く意識した内容となっており,このことは,とりもなおさず本件商品が原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得していることを裏付けるものであるといえる。エ 以上のとおり,本件商品は,「あずきを加味してなる菓子」に包含される商品であるところ,遅くとも本件審決の時点において,我が国の菓子の取引者,需要者の間で原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得しているものと認められ,これに伴い,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,「あずきを加味してなる菓子」(指定商品)に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められる。\n
・・・
イ 被告は,本願商標の指定商品がアイス菓子に限定されないのに,原告がアイス菓子以外の「あずきを加味してなる菓子」について本願商標を使用していないから,本願商標が実際に使用している商品と指定商品が同一ではないと主張する。しかしながら,本願商標の指定商品は,「あずきを加味してなる菓子」として特定されているところ,本件商品は,アイス菓子ではあるものの,「あずきを加味してなる菓子」であることに変わりはなく,かつ,本願商標は,前記に認定のとおり,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められるから,商標法3条2項の要件を満たすといって妨げはないのであって,上記のように特定された本願商標の指定商品を更にアイス菓子とそれ以外に区分して判断すべき理由はない。
・・・・
被告は,本願商標が「あずきを原材料とするアイス菓子」を認識させるから,それ以外の商品に使用するときにはその商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると主張する。しかしながら,ある商標が品質について誤認を生じさせるおそれがあるか否かは,当該商標の構成自体によって判断すべきところ,本願商標は,それ自体から「あずきを原材料とするアイス菓子」を直ちに認識させるものではないから,被告の上記主張は,失当である。\n

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平成24(行ケ)10156 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 「壺プリン」は識別性無し、使用による識別性も無し、とした拒絶審決が維持されました。
 上記認定のとおり,「プリン」は,柔らかく,形状を維持できないことから,通常は,容器に入れられて販売されたり,提供されたりしている。「壷」とは,一般に,「口の狭まった陶器」や「口が細くつぼまり胴のまるくふくらんだ形の容器」を指すが,プリンの容器として,壷型の容器が用いられる例は少なくなく,壷型の容器に入れられたプリンは,本件商品以外にも,多くの店舗で販売されたり,提供されたりしている。そして,このような壷型の容器に入れられたプリンには,「壷(つぼ)プリン」又は「壷(つぼ)プリン」の語を含む名称で表示された例が少なくない。壷型以外の形状の容器に入れられたプリンも販売されており,そのような場合には,プリンが入れられている容器(「バケツ」型の容器や「缶」型の容器)の名称を付して,「バケツプリン」「缶プリン」等の表\示がされた例がある。以上によると,需要者は「壷プリン」の表示から,当該商品が「壷型の容器に入れられたプリン」であると理解するものと認められる。そうすると,本願商標は,指定商品のうち「壷型の容器に入れられたプリン」に使用する場合には,商標法3条1項3号が規定する「その商品の形状(包装の形状を含む。)を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」に該当すると認められる。・・・
3 商標法3条2項該当性について(取消事由2)
(1) 前記認定事実によれば,原告は,インターネットを利用した通信販売等により,全国的に本件商品の販売を行っており,また,本件商品は,テレビや雑誌等のメディアや,各種のウェブサイトでも取り上げられ,平成20年1月頃に本件商品の販売を開始して以降,売上高を伸ばし,平成23年には合計190万個以上を販売し,7億円以上の売上高を記録している。また,「Yahoo!」と「Google」の検索サイトにおいてキーワードを「壷プリン」としてインターネット検索をすると,いずれにおいても,上位の大多数が本件商品に関するサイトであり,本件商品は,多くの需要者に認識されている商品であるといえる。しかし,前記認定のとおり,原告は,本件商品の宣伝広告に当たっては,「魔法の壷プリン」又は「神戸魔法の壷プリン」の表示を使用してきたこと,テレビや雑誌等のメディア,各種ウェブサイトでも,本件商品は,ほとんどの場合,「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」「神戸フランツの壷プリン」「神戸フランツ魔法の壷プリン」「神戸フランツ 神戸魔法の壷プリン」と表示されていることに照らすならば,「壷プリン」が使用されていると認めることはできない。ウェブサイト上には,消費者の書き込み等で,本件商品について単に「壷プリン」と記載されているものもないわけではない。しかし,その中には,「壷プリン」の記載の前後に,「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」との表\示や,販売店である「神戸フランツ」の名称が併記されているものもある。(甲73)以上によれば,需要者は,「神戸フランツ」「魔法の壷プリン」「神戸魔法の壷プリン」との表示により,商品の出所が原告であることを認識していると認められ,「壷プリン」との標章のみによって,その出所が原告であると認識していると認めることはできない。したがって,「壷プリン」のみにより,その出所が原告であることを認識できる状況に至ったと解することはできない。
(2) この点に対し,原告は,本願商標には,「フランツ」や「魔法の」「神戸魔法の」の文言が付加されているものが多いが,それぞれの表記の間には「の」が存在すること等から,「壷プリン」と「魔法」又は「神戸魔法」とは分離して観察することができると主張する。しかし,前記認定のとおり,需要者は「壷プリン」の文言から「壷型の容器に入れられたプリン」と認識することに照らすならば,「魔法の壷プリン」や「神戸魔法の壷プリン」等をもって,その出所を識別していると解することができ,「壷プリン」の文字部分のみで,その出所を識別していると解することはできない。以上のとおり,本願商標は,商標法3条2項に規定する要件を充足しているとはいえない。\n

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平成24(行ケ)10242 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所

「生(レア)クッキー」が識別性無しとして無効とした審決が維持されました。
 本件商標の指定商品は「生タイプのクッキー」である。証拠(甲24)及び弁論の全趣旨によれば,クッキーは,基本的に小麦を主原料とした焼き菓子を指すが,一部に,全く焼かないクッキーも存在することが認められる。また,本件商標の指定商品自体「生タイプの」クッキーであって,商品「クッキー」の中に,生タイプのものとそれ以外のものが存在することが窺える。
・・・
原告は,本件商標について,焼くという工程を有する商品「クッキー」に,敢えて矛盾する「生」という文字を組み合わせて,原告が創作した商標であるから,商品の品質を表示したものとはいえないと主張する。しかしながら,上記説示のとおり,クッキーには焼かないものも存在しており,本件商標の指定商品自体が「生タイプの」クッキーなのであるから,そのような指定商品に係る商標として「生」と「クッキー」の文字を組み合わせたとしても,自他識別力があるということはできない。また,証拠(甲27,28,54)によれば,本件商標の登録審決時より前に,洋菓子について,「生キャラメル」,「生ドーナツ」のように,加熱工程を有する菓子に「生」を組み合わせる例があったことが認められるのであって,焼き菓子に「生」の文字を組み合わせることに特殊性があるとはいえない。したがって,本件商標が原告の造語であるかどうかにかかわらず,原告の上記主張は採用することができない。\n

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平成23(行ケ)10359 審決取消請求事件 商標権 行政訴 平成24年10月25日 知的財産高等裁判所

 アルファベット2文字「AO」からなる商標について、識別性なし、また、使用による識別力も生じていないとして、拒絶審決が維持されました。
 以上によれば,AO 財団,及びその研究,開発,教育等の対象である骨折治療法(AO法)が,日本国内においても,需要者である医療従事者の間において広く認識され,社会的に信頼を得ていることは認められる。しかしながら,原告ないしその関係者が,本願商標である「AO」を,その指定商品ないし指定役務について商標として使用していると認めるに足りる的確な証拠はなく,本願商標が,使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとは認められない。イ これに対し,原告は,シンセス社は,AO 製品の特殊性から,本願商標を各製品に付するのではなく,AO 製品のパンフレットにAO 財団の承認を受けた旨表示しており,これによりAO 製品には,原告の業務上の信用が化体しているといえる旨主張する。しかし,上記のとおり,シンセス社は,AO 製品のパンフレットの表紙に,「SYNTHES」との欧文字及び図形からなる標章を表示し,その右横に「Instruments and implants」,「approved by the AO Foundation」と二段に分けて表記しているにすぎず(甲80,81),これをもって,本願商標である「AO」の使用ということはできず,原告の上記主張は,その主張自体失当である。なお,「AOAA Chapter Japan」,「AO trauma Japan」,「AO CMF Japan」,「AO VET Japan」なる組織(いずれもAO 財団の関係組織と推認される)のホームページないし冊子において,i)三角形(青色)と円(全体は黄色,縦横に数本の線入り)を組み合わせた図形に続けて「AOTRAUMA」の文字(「AO」は青色,「TRAUMA」は黒色)を配した標章,ii)上記図形に続けて「AO Foundation」の文字(いずれも青色)を配した標章,iii)上記図形に続けて「AO Asia Pacific」の文字(いずれも青色)を配した標章,iv)上記図形に続けて「AOCMF」の文字(「AO」は青色,「CMF」は黒色)を配した標章,v)上記図形に続けて「AOVET」の文字(「AO」は青色,「VET」は黒色)を配した標章,vi)上記図形に続けて「AO North America」(いずれも青色)の文字を配した標章が使用されていることは認められるものの(甲8〜14,24〜26,68〜71),これにより,本願商標である「AO」が,その指定商品ないし指定役務について商標として使用されていると認めることも困難である。ウ したがって,本願商標は,商標法3条2項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはない。

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平成24(行ケ)10002 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年09月13日 知的財産高等裁判所

 商標『Kawasaki』について、3条2項による登録が認められました。
 審決は,「本願商標は,『Kawasaki』の欧文字を普通に用いられる方法で表してなるにすぎず,神奈川県川崎市を表\示するものと容易に需要者に認識させるものであるから,本願商標をその指定商品について使用するときは,これに接する取引者,需要者をして,その商品が神奈川県川崎市で製造,販売されたものであること,すなわち,商品の産地,販売地を表示したものと認識させるにとどまるものである。してみれば,本願商標は,神奈川県川崎市で製造,販売された商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する旨判断したが,審決の判断は,以下のとおり,疑問がある。商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表\示としてなんぴと(何人)もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁[判例時報927号233頁]参照)。また,登録出願に係る商標が同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表\示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁[判例時報1186号131頁]参照)。上記の観点から,本願商標が,同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか否かを検討する。上記1(1) 認定の事実によれば,本願商標は,欧文字「Kawasaki」が,エーリアルブラックの書体に似た極太の書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,単なるゴシック体の表記とはいえず,見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると,本願商標は,単なる欧文字の「Kawasaki」の表\記とは趣きを異にするから,一般人に,一義的に神奈川県川崎市を連想させるような表記ということはできない。また,上記1(2) 認定の事実によれば,神奈川県川崎市を「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字により表記することがしばしば行われるとはいえるが,漢字で「川崎」と表\記される場合とは異なり,「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字に接した一般人が,通常,当該文字から同市を商品の産地,販売地として想起するとまでは認められない。さらに,上記1(3) 認定の事実によれば,本願商標のみに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査したところ,半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し,神奈川県川崎市を想起した者は総数の3.1%しかなかったこと,また,同(4) 認定の事実によれば,本願商標をアパレル商品に付した場合でも,これに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査した結果,神奈川県川崎市を想起した者は総数の10.4%しかなかったことが認められる。以上を総合すると,本願商標が指定商品に使用されたとしても,需要者又は取引者において一般的に地名である神奈川県川崎市を想起するとはいえず,当該指定商品が同市において生産され又は販売されているであろうと一般に認識することもないというべきである。
4 取消事由3(商標法3条2項該当性判断の誤り)について 上記2,3のとおり,本願商標が商標法3条1項3号,4号に該当するとの被告の主張は採用できないものであり,この点だけでも原告主張の取消事由は理由があるといえる。もっとも,上記のとおり,単なる欧文字の「Kawasaki」とは異なる特徴的な表記である本願商標の有する自他商品識別力が,同条1項3号,4号該当性の判断に影響を与えているともいえるので,仮に,3号又は4号に該当する商標であったとしても,同条2項の要件を充足し,商標登録を受けることができるかについて,念のため検討することとする。(1) 審決は,「本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって,また,商品の販売数量,シェア,広告宣伝の状況等について,本願商標の指定商品についての著名性を具体的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく,申立人の提出に係る証拠のみをもってしては,本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表\示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできない。」旨判断した。上記判断は,本願商標が商標法3条2項の要件を満たすためには,その指定商品であるアパレル関連の商品について使用された結果,著名なものとして自他商品識別力を獲得したことを要するとの前提に立つが,この前提は誤りである。すなわち,同項は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,・・・商標登録を受けることができる。」と規定し,指定商品又は指定役務に使用された結果,自他商品識別力が獲得された商標であるべきことを定めていない。また,同項の趣旨は,同条1項3号から5号までの商標は,特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\をもつに至ることが経験的に認められるので,このような場合には特別顕著性が発生したと考えて商標登録をし得ることとしたものであるから,登録出願に係る商標が,特定の者の業務に係る商品又は役務について長年使用された結果,当該商標が,その者の業務に係る商品又は役務に関連して出所表示機能\をもつに至った場合には,同条2項に該当すると解される。そして,上記の趣旨からすると,当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品又は指定役務が異なる場合に,当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所表示機能\を有すると認められるときは,同項該当性は否定されないと解すべきである。(2) 本件について検討する。
・・・
ウ 以上の事実を総合すると,原告が,本願商標を長年にわたってバイク関係やその他の多様な事業活動で使用した結果,審決時までに,本願商標は著名性を得て,バイク関係はもとより,それ以外の幅広い分野で使用された場合にも自他商品識別力を有するようになったといえる。そして,原告の子会社を通じて,本願商標を使用したアパレル関係の商品が長年販売されていることから,本願商標をアパレル関係の商品で使用された場合にも自他商品識別力を有すると認めるのが相当である。すなわち,審決時において,原告が本願商標を指定商品に使用した場合にも,取引者・需要者において何人の業務に係る商品であるかを認識することができ,本願商標は出所表示機能\を有すると認められる。(3) したがって,本願商標は,商標法3条2項に該当するものというべきであり,この点に関する審決の判断も誤りである

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平成22(行ケ)10253等 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年06月29日 知的財産高等裁判所 

 立体商標について、3条1項3号の該当性については審決の判断を肯定しましたが、3条2項の該当性については、使用による特別顕著性を取得していたと判断し、拒絶審決を取り消しました。
 そこで,本願商標が,商標法3条2項に該当するか否かについて,検討する。立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。・・・・上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,i)原告製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,ii)1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,iii)その結果,需要者において,本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。

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平成22(行ケ)10366 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年04月21日 知的財産高等裁判所

 立体商標について、3条2項により識別性を取得したとして、拒絶した審決が取り消されました。
 上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。・・・被告は,本願商標に係る香水の販売地や販売地域,販売数量や宣伝広告費が不明で,市場占有率も高くないから,香水の一般的な需要者が,本願商標が,原告の出所に係る商品であると認識し得るものではないと主張する。しかしながら,販売地域,販売数量や宣伝広告費等が明らかにされることが望ましいものの,それらが必ずしも明らかではないとしても,その形状の特徴から自他商品識別力を獲得することはあり得るし,香水は安価な日用品とは異なるものであり,香水専門誌やファッション雑誌等による宣伝広告をみた需要者は,その特徴的な容器の形状から,原告の出所に係る商品であることを認識し得るということができる。

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平成22(行ケ)10406 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成23年04月21日 知的財産高等裁判所

 立体商標について、識別性無しとして拒絶した審決が維持されました。
 商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表\示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能\ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能\を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。そうすると,客観的に見て,商品等の機能\又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能\又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。\n

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◆平成20(行ケ)10363 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成21年04月08日 知的財産高等裁判所

  「印刷物や電子出版物の取引者又は需要者において,「○○+ウォーカー(walker/Walker/WALKER)」との名称が,原告又はその関連会社の発行する出版物等に付される商標と認識されるかが争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。
  「原告は,原告が,雑誌「東京ウォーカー/Tokyo Walker」を旗艦誌とし,「情報を示す語」と「ウォーカー/Walker」を含む構成からなる商標を中心に使用することによって事業を展開しており,この原告の使用実績から,取引者及び需要者間において,原告の「○○ウォーカー/Walker」から構\成される商標は,雑誌の内容・テーマ・対象によって,「○○」が異なるということが十分に認識され,そのような商標を原告が使用してシリーズ化した商品展開やそれに関連するサービス展開を行っていることは,広く認識されている,したがって,取引者及び需要者が,「(都市名又は地域名以外の)情報を示す語+ウォーカー/walker」との雑誌等に接すれば,原告関連の商品と認識する,と主張する。しかしながら,このような「情報を示す語」との名詞等は無限といってよいほどに存在するものであるところ,原告が発行した「(都市名又は地域名以外の)情報を示す語+ウォーカー/walker」との雑誌等については,上記のとおり,そのそれぞれの発行の時期,対象地域,対象読者層,情報の内容が異なり,発行も単発的なものも少なくなかったこと,その発行時期も本件商標出願後のものが少なくないこと,後記3のとおり,現在に至るまで,原告とは無関係の第三者が,指定商品に出版物や電子出版物を含む多数の「情報を示す語+ウォーカー/walker」との商標を出願登録していることや,原告とは無関係の第三者が出版する「情報を示す語+ウォーカー/walker」の書籍等が流通していることなどからすると,本件商標の出願時である平成12年12月及び登録査定時である平成14年5月の時点において,そのような無限といってよいほどの「情報を示す語+ウォーカー/walker」との商標について,原告と関連するものであると取引者及び需要者が認識することがあったと認めることはできない。」

関連判決はこちらです
    ◆平成21(行ケ)10014号
    ◆平成21(行ケ)10013号
    ◆平成20(行ケ)10362号
    ◆平成20(行ケ)10361号
◆平成20(行ケ)10363 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成21年04月08日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10243 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所

  商標法3条2項の適用なしとした審決を取り消しました。
  「上記のような審判の手続及び効力における性質に照らすならば,審決に記載すべき理由は,?@当該事件の適用に関係する法律の根拠及びその解釈,?A当事者が提出し,又は職権で調査した証拠に基づいて認定した事実,?B認定した事実を法律に適用した場合の論理過程及び判断結果等を過不足なく記載することが不可欠である。・・・・イ 審決には,以下の点で理由不備があるというべきである。(ア) すなわち,審判手続において提出された証拠に照らすならば,本件における主要な争点は,本願商標の法3条2項の該当性の有無であると理解できる。このような場合,審判体としては,審判手続の中で,当該争点に着目した審理(適切に釈明権を行使することを含む。)を行うべきであって,審決書に,理由及び結論を記載するに当たっても,?@法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができる」との条文の文言についての審判体の解釈,?A証拠によって認定された事実の経緯,?B法律に認定事実を適用した場合に得られる結論に至るまでの論理過程を示すことが必要であるといえる。・・・審決書には,「AJ」が「ARMANI JEANS」の欧文字と共に使用されている点を形式的に挙げて,本願商標の使用に当たらないとしているのみで,「AJ」が使用されている商品等に関する証拠の評価,具体的な使用状況等に関する事実認定,法律を事実に適用した判断過程は何ら記載されておらず,本件の審判手続において,法3条2項に着目した審理を実施した形跡もない。(エ) したがって,審決には,法3条2項に該当するか否かという重要な争点についての実質的な理由が付されていないから,その余の点を判断するまでもなく,理由不備(商標法56条,特許法157条2項)の違法があるというべきである。」

◆平成19(行ケ)10243 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10127 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年11月22日 知的財産高等裁判所

   使用による識別性獲得(商標法3条2項)を使用しましたが、裁判所は、このような使用形態では出所を表示するとは認められないと判断しました。
 「前記2の認定事実によれば,本願商標は,原告が営業する全国各地における多数の「白木屋」,「笑笑」の各店舗の看板に表示して使用されており,そのため,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との表\示は,同店舗のある地域を往来する人や同店舗の利用者にとって目立つものということができる。しかし,本願商標の内容は,赤地に白抜きの文字で「新しいタイプの居酒屋」と記載してなるものであり,それ自体からは,当該商標が付された飲食店である居酒屋が既存の居酒屋とは異なる新手のものであることを需要者に説明ないしアピールするという観念を想起するにとどまり,これが直ちに特定の出所を表示したものとは通常観念され難いものといわざるを得ない。のみならず,上記看板における本願商標の使用態様は,いずれも「白木屋」,「笑笑」の店舗名に併記されたものであり,それ自体が店舗名から切り離された単独のものとして使用された例は見当たらない(上記2(2)エ)のであって,本願商標の指定役務である飲食物の提供を行う店舗等において,他店と差別化するため,「新しいタイプの○○」という文句が宣伝等に用いられることは多く見られるところであること(上記2(2)ク)をも併せ考慮すると,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との語は,一般に居酒屋である「白木屋」や「笑笑」が,メニューやサービスの内容,店舗の内装等において,既存の居酒屋と異なる新しいタイプを採用しているという役務の特徴を表した宣伝文句と理解され,本願商標はいわばキャッチフレーズとしてのみ機能\するといわざるを得ないのであるから,それ自体に独立して自他識別力があるということはできない。したがって,本願商標は法3条1項6号に該当し,商標登録を受けることができないというべきである。」

◆平成19(行ケ)10127 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年11月22日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所

  「お医者さんのひざベルト」が品質を表すとした審決が維持されました。
  また、審判段階においては全く主張しなかった商標法3条2項の適用について、審決取消訴訟で新たに主張することも認められると判断されました。
  「以上のイ〜エを総合すると,本願商標は「お医者さん」が開発・考案し た「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められるところ,「お医者さん」が開発・考案したことによって,その「ひざベルト」が,高品質の信頼性が高いものという認識が生ずるということができるから,誰が製造したかが商品の品質と密接に関連しており,本願商標を本願の指定商品である「保温用サポーター」に使用した場合は,商品の「品質」を表したものと理解されるにとどまるものというべきである。・・・商標法3条2項は上記のとおり商標法3条1項3号を前提としてこれに対する例外を規定したものであるから,審判手続段階において商標法3条2項のいわゆる特別顕著性に該当する事実について主張立証がなされていなかったとしても,その後の審決取消訴訟段階において,原告は,商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるべきでないことについての主張立証として,商標法3条2項に該当することを主張立証することができると解するのが相当である。」

◆平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10374 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所

 使用による顕著性(商標法3条2項)は認められないとした審決が維持されました。
  「上記のとおり,確かに,原告は,原告商品の販売開始時以降,原告商品及びその宣伝広告媒体で,「本生」の文字を含む標章を大量に表示してきた経緯があるものの,他方,?@原告は,原告が作成,公表したニュースリリース等ですら,原告商品を表\記する場合には,「本生」ではなく,「アサヒ本生」を用いてきたこと,?A原告商品の缶,瓶,その他の包装,商品案内,カタログ,広告等において,「本生」の文字を単独で使用する例は,ほとんどなく,「アサヒ」等の文字と併せて表記してきたこと,?B原告は,「発泡酒の本格派『生』」などの例にみられるように,むしろ,「本」及び「生」の語を原告商品の特徴を説明する目的で,宣伝広告に使用していたことなど,「本生」の文字を含む標章の使用態様に係る諸事情に照らすならば,原告商品又はその宣伝広告媒体に接した取引者・需要者は,「本生」の文字のみによって,商品の出所が原告であると認識することはなく,「アサヒビール株式会社」,「アサヒビール」又は「アサヒ」等の文字に着目して,商品の出所が原告であると認識すると解するのが自然である。すなわち,原告商品を他社商品から識別する機能を有する標章部分は,「本生」ではなく,「アサヒ」,「Asahi(アサヒ)を併記した本生」又は「アサヒ本生」にあるというべきである。そうすると,「本生」の文字が相当程度使用されてきたものであって,新聞等の記事において,原告商品を単に「本生」とのみ称呼している例が存在することを勘案したとしても,「本生」の文字は,審決の時点までに,「本生」の文字のみで需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できるほどに広く知られるに至っていたとは認められない。」

◆平成18(行ケ)10374 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ケ)10673 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成18年11月29日 知的財産高等裁判所

 使用による特別顕著性(商標法3条2項)が認められて登録された立体商標について3条2項の規定を具備していないとして無効審判が提起されました。審決は無効理由なしと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 特許法180条の2の規定(特許庁長官の意見の聴取)を言及した判決は初めてです。
  「以上のア〜ウによれば,被告の直営店舗の多くは九州北部,関東地方等に所在し,必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく,また,菓子「ひよ子」の販売形態や広告宣伝状況は,需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われているものであり,さらに,本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し,その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れないから,上記「ひよ子」の売上高の大きさ,広告宣伝等の頻繁さをもってしても,文字商標「ひよ子」についてはともかく,本件立体商標自体については,いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。したがって,本件立体商標が使用された結果,登録審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができたと認めることはできず,本件立体商標は,いわゆる「自他商品識別力」(特別顕著性)の獲得がなされていないものとして,法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を満たさないというほかない。・・・当裁判所の上記判断は,同種の形状の菓子が多数存在することのみで本件立体商標が自他商品識別力を欠くとしたものではなく,同種の形状の菓子の数,全国への分布度,その販売期間,販売規模等をも考慮して検討したものであり,また,鳥の形状を有する和菓子が伝統的に存在することにも照らし,鳥の形状が菓子として特徴的なものとはいえないこと,被告の菓子「ひよ子」の販売,広告宣伝において,菓子「ひよ子」の形状が単独で用いられているといえるものは見当たらないことをも考慮した上で,かかる状況においては,本件立体商標については全国的な周知性を獲得するに至っていないとしたものである。そして,被告に本件立体商標の使用を独占させることが,特徴的なものといえない形状につき,一定の販売期間,販売規模を有する業者を含め多数の業者のかかる形状の使用を排除する結果を招来することにも鑑みると,公益上望ましいとは言い得ないことは明らかと言わざるを得ない。これらに鑑みると,使用による出所識別力を否定できる場合が,被告のいうような事実の主張立証があった場合に限られると解さなければならない理由はないから,被告の上記主張は採用することができない。」

◆平成17(行ケ)10673 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成18年11月29日 知的財産高等裁判所

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◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10484 商標権 行政訴訟事件

 商標法3条2項の需要者について、審決の判断が維持されました。
 「同項にいう「需要者」とは,本件指定商品である「ジーンズ製のズボン」のような場合にあっては,小売業者のような取扱業者のみならず最終購買者である一般消費者をも含むと解するのが相当であるところ,前記のとおり,本件商標の登録査定がされた当時,本件商標が単独で使用された結果一般消費者まで含めた需要者において何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標となっていたとまでは認められないのであるから,本件商標が商標法3条2項に該当しないとした本件決定に誤りはないということになる。」

◆H18. 1.30 知財高裁 平成17(行ケ)10484 商標権 行政訴訟事件

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