商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。
ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された
場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。
しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力
を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ
れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項
1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商
標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録
を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別
機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品
又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U
ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U
JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに,
国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普
及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで
あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26
条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1
号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり,
地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。
しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が
同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと
おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic
ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が
没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲
4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使
用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。
イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶,
ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1),
甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」
の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下
に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や
ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの
と推認される。
そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一
であると認めることはできない。
よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に,
煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地
直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで
「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示
す記載はない(甲5,6)。
このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\
示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶
について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上
げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地
域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し
た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合
員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。
他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の
ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U
jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH
A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した
商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の
とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入
れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合
員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標
の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示
や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので
ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間,
販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園
による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付
ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U
jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治
茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ
る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し
ないというべきことは明らかである。
◆判決本文
空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。
ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて
意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と
して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検
討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと
いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき
ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来
る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして,
「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。
イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして
も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\
すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以
外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の
語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について
は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら
れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない
ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す
ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて
いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原
告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実
用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者
であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語
が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服
メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す
るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断
を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当
時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強
いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい
う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い
印象を与えるものであったと解される。
また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来
の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア
という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。
そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力
を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27
年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3)
ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指
すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと,
全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと,
建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空
調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい
たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな
り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを
示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原
告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」
と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特
に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE
Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌
で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同
様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ
る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ
ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア
の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動
を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成
30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」
はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する
と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本
願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告
各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法
3条2項に該当するというべきである。
◆判決本文