2024.11. 7
令和6(行ケ)10047 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年10月30日 知的財産高等裁判所
シンゴジラのフィギュアの立体商標について、3条2項の適用なしとした審決が取り消されました。
(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結
果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨\n主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形
態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同
一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当
たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定し
ておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的
形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前
脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体
のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を
中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとお
り、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。
しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形
状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品である
ことを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴ
ジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考
慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき
である。
(2) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映
画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26
億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年
間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、
それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、
当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品
の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状
として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、1)昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後6
0年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客
動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めて
いること、2)これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること
等が明記されていたこと、3)この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラ
ム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超
えていること、4)上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾
を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化
の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、5)原告の
シンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施
設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認
定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映
画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁
判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登
場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうし
た需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳〜69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を
示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由
回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、
極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質
問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体
的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結
果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識で
きるに至ったものと認めることができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本願商標に係る使用商品の使用期間(販売期間)が「永年」とは
いえない旨主張する。しかし、映画「シン・ゴジラ」が公開された平成28
年頃から本件審決時までの約8年間にわたって、原告が本願商標をその指
定商品に継続して使用した事実は認められるところ(上記1(5))、これ自
体、それなりの使用期間と評価することができる。
更にいえば、そもそも商標法3条2項の「使用」につき「永年」の要件が
課されているわけではないし、「需要者が何人かの業務に係る商品である
ことを認識することができる」に至ったか否かは、使用期間だけでなく、商
品の販売数量、広告宣伝の規模、話題性等も総合して判断すべきものであ
る。加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主
体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、
本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も
存在している。
こうした点を考慮すると、本願商標について、上記使用期間が「永年」と
までいえないとしても、同項該当性に係る前記判断が左右されるものでは
ない。
イ 被告は、原告主張の使用商品の販売実績についてはこれを裏付ける客観
的証拠はなく、また、これが事実としても、本願の指定商品を扱う業界にお
いてどの程度のものであるかの多寡を確認することはできない旨主張する。
しかし、甲53、77によれば、上記販売実績は、原告社内の信用性のある
データに基づき作成されたものと認められ、不合理な点は認められない。
また、被告が、本件審決が判示したように、「玩具業界全体」における使用
商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する
玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするもので
あり、採用できない。
また、被告は、使用商品は原告でなくライセンシーにより販売されてい
るにすぎないこと、「東宝」の文字を冠した使用商品でも原告以外のメーカ
ー名が表示されていること、使用商品本体への本件著作権等表\示について
は、本体の足の裏側の目立たない位置に小さく表示されているにすぎず需\n要者の注目を惹かないこと等を主張する。しかし、出願人から許諾を受け
た者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適
切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場
合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、原告
は前記1(3)ウのとおりライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用
商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所が原告である
ことを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品が原告\nの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるも
のである。
ウ 以上のほか、被告は、使用商品が掲載された雑誌の種類が少ない、書籍や
展示即売会の来場者は限定されている、ゴジラ像の恒常的設置は東京都内
の4か所にとどまる、本件アンケートには本願商標の立体的形状と原告と
の関連についての質問がないなど、原告の主張立証の逐一を論難するが、ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず、上
記(2)の判断を左右するものとはいえない。
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2024.08. 8
令和6(行ケ)10004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年5月28日 知的財産高等裁判所
商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。
上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品
等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料
を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用
されている実情があるものと認められる。
その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ
る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉
などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。
また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に
ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし
て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」
の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている
ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に
おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ
れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。
そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に
おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ
る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな
るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ
れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取
引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味
合いが認識されるものということができる。
そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、
単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ
かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、
商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標
の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商
品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を
普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、
本件審決の判断に誤りはないというべきである。
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2024.05.26
令和5(行ケ)10141 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年4月10日 知的財産高等裁判所
商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。
(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ
ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線
などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ
り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続
した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的
に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。
さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章
(「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい
て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧
表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の
前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例
1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前
の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい
るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ
る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。
このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で
あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ
ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字
の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと
認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ
ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ
てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する
一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な
取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す
るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと
異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき
ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし
て考慮すべきであると主張する。
しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文
字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か
らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ
はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので
はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。
しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供
するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、
いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字
を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出
所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。
しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし
て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると
は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS
の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通
するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識
別力を認めるべきである旨主張する。
しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で
ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行
するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ
りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を
示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審
院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。
そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については
ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が
あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に
ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ
るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐
次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等
の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。
原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言
及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定
期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物
と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ
いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、
「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、
放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5))
についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直
ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。
なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ
の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行
物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役
務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変
容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの
取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、
オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな
い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決
の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。
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2024.04.22
令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。
2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。)
前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく
は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して
おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象
外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす
る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に
おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2
6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ
ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す
るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を
有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必
要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、
商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以
外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26
年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの
ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい
う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解
釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、
別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、
B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合
せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の
「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ
ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され
ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本
における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩
の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ
ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結
合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と
いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ
るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は
いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に
おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に
関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ
く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか
な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の
主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色
の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特
定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部
輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶
色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を
あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感
じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。
また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価
する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている
が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお
りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我
が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ
サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって
いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的
な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ
るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。
また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包
装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣
伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的
に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標
は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として
用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及
び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション
ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付
した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ
ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた
り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第
16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ
ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく
ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する
のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購
入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。
そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は
広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名
な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自
体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに
認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広
告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド
商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件
包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので
あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び
指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで
あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ
ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各
アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、
本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの
商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め
られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役
務識別力の獲得を認めることはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事
由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3
条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との
関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に
関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを
示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等
についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製
造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事
例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩
及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事
例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子
(キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、
171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の
知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業
者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商
品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周
囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を
付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販
売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、
原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の
対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ
ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。
これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら
かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品
の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品
の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自
認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商
標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける
ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の
特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外
の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲
が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ
って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述
のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商
標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと
はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと
からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使
用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。
しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ
たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認
識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張
のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ
れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実
上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著
しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され
るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色
を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような
特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮
に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用
態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が
少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委
縮効果を過大に評価すべきでない。
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2024.03.27
令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年3月11日 知的財産高等裁判所
商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。
(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である
ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年
9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙
1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が
4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3)
によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて
いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認
められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、
「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ
せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ
うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。
各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗
名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4
2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有)
府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」
(乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1
3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う
店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する
「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品
(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」
が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の
獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において
判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ
れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品
の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。
また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」
に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する
旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。
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2024.03. 8
令和5(行ケ)10116 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年2月28日 知的財産高等裁判所
商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は
第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。
原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必
ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと
して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される
旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な
英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白
一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地
名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット
トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では
ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本
願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ
ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、
じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット
民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている
じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの
一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること
が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2
4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ
グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた
ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び
販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ
ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること
も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」
の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状
のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す
る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある
いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上
の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定
証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。
そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9)
からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお
いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ
タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に
掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し
て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること
は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。
しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる
場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原
告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
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◆令和5(行ケ)10114
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2024.02.19
令和5(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和6年1月30日 知的財産高等裁判所
立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。
商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する
商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用
した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力
又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう
な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した
かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、
当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣
伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要
者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上
で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを
判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり
であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商
品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。
しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ
ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ
ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが
透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の
形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ
の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在
すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ
れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの
と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ
ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標
の形状が用いられていたと認められる。
しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め
られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り
る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に
おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の
社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、
「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで
あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい
る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された
本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され
ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター
用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合
に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの
ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等
の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので
あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において
表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ
せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び
商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ
(TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ
る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。
また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から
明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い
た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す
る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.
0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上
記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の
35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30
年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願
商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ
はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った
と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 商3条1項各号
>> 識別性
>> 使用による識別性
>> 立体商標
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