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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

使用による識別性

令和6(行ケ)10075  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月13日  知的財産高等裁判所

3条2項によって登録された商標「貴醸酒」について、3条違反、4条1項6号違反の無効理由を主張しましたが除斥期間経過済み、および理由無しと判断されました。代理人無しの本人訴訟です。

1 取消事由1(手続違背)について
原告は、特許庁の審判手続において、原告が答弁書副本を受領してから審理 終結通知の送付まで1週間もなかったとして、原告に反論の機会を与えなかっ た手続違背がある旨主張する。しかし、審判合議体には事件の審理が熟したと 判断するについて裁量権があるところ、本件の証拠を精査しても、上記の取扱 いが原告の防禦権を不当に制限することになるなどの事情は認められず、当該 裁量権の逸脱があったとは認められない。原告の主張は採用できない。
2 取消事由2(商標法4条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 証拠(甲3、4、11〜13)及び弁論の全趣旨によれば、現在の独立行政 法人酒類総合研究所の前身である国税庁醸造試験所が仕込水の全部あるいは 一部に清酒を使用して発酵させることを特徴とした清酒の製法を開発し、開 発チームの故 A 博士がこれを「貴醸酒」と名付けたものであること、その 製法は、昭和49年に特許出願がされ、昭和53年に公告されたが、現在は存 続期間が満了していること、昭和51年に、貴醸酒の製造研究と普及を目的 に、被告を含む酒造会社等5社が貴醸酒協会を設立し、国税庁醸造試験所を 管轄する大蔵省(当時)と実施許諾契約を締結していたこと、特許権の存続期 間満了後は技術指導を国税局鑑定官室が行い、貴醸酒協会は商標の管理と加 盟各社に対して販売のアドバイスを行っていることが認められる。 そうすると、「貴醸酒」が、国税庁醸造試験所において開発された、水の代 わりに清酒で仕込んだ製法により醸造された清酒の名称であり、同試験所の 故A博士によって命名されたものと認めることはできるものの、当該清酒の名称が当然に事業の名称となるものではない。実際に「貴醸酒」として清 酒を製造販売してきたのは被告を含む貴醸酒協会加盟の酒造会社等であり、 「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行政法人酒類総合 研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとし\nて使用されたとはいえず、まして、そのような表示として本件商標の指定商\n品の取引者、需要者の間で著名であったことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告は、「貴醸酒」は、新たな醸造方法の開発による醸造技術者の指導育成 を行う公益目的の事業であって、製法に関する特許権者も国税庁長官である 旨主張するが、貴醸酒を開発したのが国税庁醸造試験所であり、国税庁長官 が製法に関する特許権を有していたとしても、直ちに「貴醸酒」がその「事業」 を「表示」する標章であったということにはならない。\n原告は、本件商標についての商標登録出願は、商標法3条1項3号を理由 に拒絶されているとか、昭和51年の甲11、13の各論文には、「いわゆる 貴醸酒」と記載されており世間に知られていることを示しているなどと主張 するが、いずれも「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行 政法人酒類総合研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表\n示するものとして使用されたことを示すものとはいえず、また、そのような 表示として「清酒」の取引者、需要者の間で著名であったことを示すものとも\nいえない(「いわゆる」との表現は、その名称を取引者、需要者の中でどの程\n度の者が認識しているかを示すものではなく、また、その事業主体について は何ら示唆するものではない。)。かえって、貴醸酒の命名者を含む共同開発 者の論文には、「貴醸酒という名称は登録商標であり、一般名ではない。」(甲 11)、「貴醸酒という名称は登録商標(貴醸酒協会の会員だけが使用できる) であって、一般名でない」(甲13)との記載があり、国税庁醸造試験所において、「貴醸酒」を同試験所自身やその事業で営利を目的としないものを表示\nするものとして認識していないことが明らかであり、本件商標の登録の経緯 に鑑みても、本件商標を実際に業務に使用し識別力を取得させたのは被告を 含む酒造会社等であったものというべきである。なお、原告の指摘するとお り、これらの論文は、本件商標が設定登録を受けた昭和62年8月19日よ り前に発行されたものであるが、そのことは上記認定を左右するものではな い。
3 それ以外の原告の主張について
原告は、1)本件商標は商標法4条1項16号に該当するにもかかわらず、同 法3条2項の適用によって商標登録を認めた登録審決は誤りである、2)本件商 標は同法29条に該当するとの主張もしているが、これらは、いずれも本件の 無効審判手続において審理・判断されていないから、最高裁昭和51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨に鑑み、審決取消訴訟の対象と することはできないものというべきである。
なお、上記2)に関していえば、商標法29条は登録が有効であることを前提 に使用の制限を定めるものであって、そもそも同法46条1項の無効審判請求 の理由とはならない。

◆判決本文

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