アップルの商標「MULTI-TOUCH」が識別性無しとした拒絶審決が維持されました。
原告は,本願商標について,「iPhone」等の製品のために原告が採用した造語であって,特定の意味を持たず,原告ないしその製品との密接な連想関係があり,一般人がタッチパネル方式の一技術名と認識しているとしても,原告の採用した造語を普通名称と誤解したのであって,当業者は原告との連想関係を認識しているなどと主張し,また,「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」については,「マルチタッチ」の語を使用する必然性はなく,他社は他の語を使用しているなどと主張する。しかしながら,表記は別として「マルチタッチ」の語が一般に広まったことについて,原告による「iPhone」や「iPod touch」の発表・発売が引き金になっていることは否めないにしても,そもそも,パソ\コンやそのディスプレイ等の商品分野において,「タッチパネル」や「タッチペン」等の語が用いられてきたように,「タッチ」の文字は,画面に接触することによる入力方式やそのような入力方式を採用した機器を意味するものとして使用されてきたのであって,このような「タッチ」と多数を意味する「マルチ」の文字を組み合わせた「マルチタッチ」が,通常の認識として,画面に数回又は複数接触することによる入力方式等を意味するものと把握される可能性があることは否定できない。加えて,上記認定のとおり,「iPhone」等の発表・発売の数年以上前から既に,複数のタッチパネル等の開発者により,公的に用いられる特許出願に係る公報において,「マルチタッチ」の文字が,複数の指でタッチパネル等の機器に触れることによる入力・操作方式を示すものとして使用されていて,特段の定義付けがなく理解されているのであるから,原告の上記主張は,採用することができない。\n
◆判決本文
立体商標について、3条1項3号の該当性については審決の判断を肯定しましたが、3条2項の該当性については、使用による特別顕著性を取得していたと判断し、拒絶審決を取り消しました。
そこで,本願商標が,商標法3条2項に該当するか否かについて,検討する。立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。・・・・上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,i)原告製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,ii)1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,iii)その結果,需要者において,本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。
◆判決本文
2011.05. 4
立体商標について、3条2項により識別性を取得したとして、拒絶した審決が取り消されました。
上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。・・・被告は,本願商標に係る香水の販売地や販売地域,販売数量や宣伝広告費が不明で,市場占有率も高くないから,香水の一般的な需要者が,本願商標が,原告の出所に係る商品であると認識し得るものではないと主張する。しかしながら,販売地域,販売数量や宣伝広告費等が明らかにされることが望ましいものの,それらが必ずしも明らかではないとしても,その形状の特徴から自他商品識別力を獲得することはあり得るし,香水は安価な日用品とは異なるものであり,香水専門誌やファッション雑誌等による宣伝広告をみた需要者は,その特徴的な容器の形状から,原告の出所に係る商品であることを認識し得るということができる。
◆判決本文
2011.05. 4
立体商標について、識別性無しとして拒絶した審決が維持されました。
商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表\示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能\ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能\を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。そうすると,客観的に見て,商品等の機能\又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能\又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。\n
◆判決本文