2020.12.21
令和2(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年12月15日 知的財産高等裁判所
焼く肉のタレ用のビンの一部の形状について、位置+形状を特定した本件商標は識別力無し(3条1項3号)と特許庁は判断しました。知財高裁も同じ判断をしました。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表\示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能\又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,そ
の機能又は美観上の理由から採用すると予\測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(2) 包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状\n
ア 液体状の商品の包装容器に付された形状
飲食料品を取り扱う業界において,液体状の商品を封入する包装容器は,
持ちやすさ,注ぎやすさ,飲みやすさ等の観点から,細口で縦長のものが
採択,使用されることが多い。しかし,このような商品の性質から要求さ
れる一定の制約の下においても,様々な形状の包装容器が存在し(乙1〜
乙5),これらの包装容器の表面に立体的形状による装飾を付したもの,中\nでも連続する菱形形状(ダイヤカット)を付したものが,次のとおり認め
られる。
・・・・
そうすると,液体状の商品の包装容器の上部又は下部に,連続する菱形
形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているものと認められる。
そして,そのいずれの場合においても,その包装容器の連続する菱形形状
の上又は下に,商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付され又は商
品名が目立つ態様で表示されているものと認められることや,1),2)の各
記載等に照らしてみると,菱形形状は,持ちやすさなどの機能や美観の観\n点から採用されているものと考えられる。
・・・
(イ) 焼肉のたれに係る包装容器に付された菱形形状
焼肉のたれの包装容器の表面に付す立体的装飾の一類型として連続す\nる立体的な菱形形状を用いるものが,次のとおり認められる。
1) 「コスモ食品株式会社」のウェブサイト(乙17)において,「北の
方から 焼肉のたれ 中辛350g」(1枚目),「北の方から 焼肉の
たれ 薬膳 中辛350g」(3枚目)の見出しの下,連続する縦長の
菱形の立体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で
表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
2) 「フードレーベル」のウェブサイト(乙18)において,「焼肉トラ
ジ 焼肉のたれ 240g」の見出しの下,連続する縦長の菱形の立
体的形状が下部に付され,その上に商品名等を目立つ態様で表示した\nラベルが貼付された容器の写真が掲載されている。\n
3) 「Amazon」のウェブサイト(乙19)において,「成城石井 焼
肉のたれ 350g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦長の菱形の
立体的形状が包装容器の下部に付され,その上に商品名等を目立つ態
様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲載されている。
4) 「Amazon」のウェブサイト(乙20)において,「焼肉チャン
ピオン 焼肉のたれ 240g」(1枚目)の見出しの下,連続する縦
長の菱形の立体的形状が蓋部及び下部に付され,その間の中央部分に
商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼\付された容器の写真が掲
載されている。
そうすると,焼肉のたれの包装容器の上部又は下部の表面に,連続す\nる縦長の菱形形状を付すことは,取引上普通に採択,使用されているも
のと認められる。そして,そのいずれの場合においても,その包装容器
の表面の連続する縦長の菱形形状の上又は下に,商品名等を目立つ態様\nで表示したラベルが貼\付されているものと認められること等からすれば,
これらの菱形形状も,機能や美観の観点から採用されているものと推認\nされる。
◆判決本文
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2020.09. 7
令和1(行ケ)10146 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月19日 知的財産高等裁判所
油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレンジ色にした商標(一色の色彩+位置)について、識別力無しとした審決が維持されました。指定商品は「油圧ショベル」と限定していますが、3条2項の主張も認められませんでした。
,商品の色彩は,商品の特性であるといえるから,同号所定
の「その他の特徴」に該当するものと解される。そして,商品の色彩は,古
来存在し,通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択されるも
のであり,また,商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保す\nるために必要とされるものもあることからすると,取引に際し必要適切な
表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自\n由に選択して使用できるものとすべきであり,特に,単一の色彩のみから
なる商標については,同号の上記趣旨が妥当するものと解される。
イ 次に,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標で
あっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務
であることを認識することができるもの」については,商標登録を受ける
ことができる旨を規定している。同条2項の趣旨は,同条1項3号から5
号までに該当する商標であっても,特定の者が長年その業務に係る商品又
は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結び
ついて出所表示機能\をもつに至ることが経験的に認められるので,このよ
うな場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そうすると,同条1項3号に該当する単一の色彩のみからなる商標が同
条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務で
あることを認識することができるもの」に当たるというためには,当該商
標が使用をされた結果,特定人の業務に係る商品又は役務であることを表\n示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り,その使用により自
他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり,さら
に,同条1項3号の前記趣旨に鑑みると,特定人による当該商標の独占使
用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要
すると解するのが相当である。
以上を前提に,本願商標が同条2項の「使用をされた結果需要者が何人
かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当する
かどうかについて判断する。
・・・
本願商標は,別紙1(1)及び(2)イ記載のとおり,油圧ショベルのブー
ム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ
イトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)と
する構成からなる,色彩のみからなる商標であるところ,本願商標の色\n彩は,単一の色彩であり,本願商標の色彩を付する位置は,上記部分に特
定されているが,上記部分の形状は,別紙1(1)に着色して示された図形
の形状や輪郭のものに限定されるものではない。
本願商標の色彩名の「オレンジ色」は,一般に「赤みがかった黄色」と
定義され(乙1),基本色の一つであること(乙37の4頁),JISの色
彩規格に,慣用色名として「オレンジ色」(マンセル値:5YR6.5/
13)が挙げられていること(乙2),本願商標の色彩と同じ色相が色相
環に挙げられ,近似した色見本が挙げられていること(乙3)からする
と,本願商標の色彩のオレンジ色は,ありふれた色彩であって,特異な色
彩であるとはいえない。
また,本願商標の色彩と同系色の「橙」色(マンセル値:5YR6.5
/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止・防火,健康
上有害な情報並びに緊急避難を目的として規格化された「JIS安全色」
の一つであり(乙10ないし12),ヘルメット(乙4),レインスーツ
(乙5),サイトウェア(乙9),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙
7),タワークレーン(乙8)にオレンジ色が使用されているように,オ
レンジ色は,工事現場で一般に使用されている色彩である。
さらに,オレンジ色は,黄色と赤色の中間色であって,基本色の一つで
あることから,オレンジ色の色彩名から観念される色の幅は広いもので
ある上,人の視覚によって,マンセル値で特定された本願商標のオレン
ジ色とマンセル値の異なる同系色のオレンジ色を厳密に識別することに
は限界がある(乙37,38)。
(イ) 油圧ショベルは,前記2(1)アの構造を有するところ,本願商標で特定\nされた色彩を付する位置は,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,
シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分であり,車
体色として色彩が通常施される箇所をほぼ網羅しており,色彩を付する
位置としては,ありふれたものである。
(ウ) 以上によれば,本願商標の色彩及び色彩を付する位置は,いずれもあ
りふれたものであり,本願商標の構成態様に特異性はない。\n
イ 原告による本願商標の使用態様,油圧ショベルの販売実績及び広告宣伝
(ア) 前記2(2)及び(3)の認定事実によれば,原告は,1970年(昭和4
5年)10月1日に設立されて以来,50年以上にわたり,本願商標又は
本願商標と同一の色彩が使用された油圧ショベルを全国の事業者に対し
て継続して販売してきたこと,原告の油圧ショベルの1974年(昭和
49年)から2018年(平成30年)までの年度別販売台数は,●●●
●●●●●●台であり,1981年以降のシェア(市場占有率)は概ね2
0%台であって,油圧ショベルのシェアは,原告を含む主要5社がほぼ
独占し,2005年(平成17年)から2011年(平成23年)までの
国内出荷台数のシェアでは,原告は毎年3位以内に入っていることが認
められる。
上記認定事実によれば,全国の建設工事,土木工事等の工事現場では,
多くの工事関係者等が本願商標又は本願商標の色彩が使用された原告の
油圧ショベルを頻繁に目にしていたものと認められ,これらの工事関係
者等は,原告の油圧ショベルにオレンジ色が使用されていることを認識
したものと認められる。
他方で,前記2(2)イのとおり,原告の油圧ショベルの多くには,アーム
部や車体後部に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」
又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HIT
ACHI」又は「日立」の文字の記載があることが認められ,これらの文
字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識さ\nれ得ることも否定することはできない。
(イ) 前記2(4)の認定事実によれば,原告は,1993年(平成5年)以降,
本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,
少なくとも47種類以上作成し,これらを合計26種類の新聞及び雑誌
に継続的に掲載したこと,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタロ
グ,書籍・小冊子に本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画
像を用いた広告を継続的に出稿したほか,本願商標の色彩を使用した油
圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告をGoogle等の4種類
のオンライン媒体に出稿し,このウェブ広告は,合計300万回以上表\n示されたこと,原告は,1990年(平成2年)9月から2016年(平
成28年)1月までの間にわたり,本願商標の色彩を使用した油圧ショ
ベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラックなどの建設機械
を含めて,その映像が表示されるテレビCMを放映したこと,1990\n年(平成2年)から2014年(平成26年)までの期間の原告の広告宣
伝費は,多いときで年間15億円を超え,2010年(平成22年)から
2014年(平成26年)においても年間約4億円に及んでいることが
認められる。
他方で,これらの広告(テレビCMを含む。)には,いずれも原告の社
名や「HITACHI」又は「日立」の文字が表示されていること(甲6,\n7の1,50等),原告の油圧ショベルのほか,原告の積込み機,ホイー
ルローダ,鉱山用ダンプトラックなどに本願商標の色彩を使用した建設
機械が表示されるもの(甲6の1,6の13,50の3,50の4の2,\n50の5ないし7,50の10,50の47ないし52,50の62ない
し66,50の100,50の103ないし108,50の112ないし
118,50の121,50の122,54の5),油圧ショベルのモチ
ーフがオレンジ色をした五線譜の音符として表示されるもの(甲50の\n2の2,50の14,50の15,50の34,50の35,50の36),
原告の油圧ショベルその他の建設機械が将棋の駒として表示されるもの\n(甲50の9の2,50の29,50の30,53,54の1),オレン
ジを背景にしたキリンのシルエットと同じシルエットの一つに油圧ショ
ベルが表示されるもの(甲50の8の2,50の28,50の41,50\nの111)があることに鑑みると,これらの広告は,需要者に対して,本
願商標の色彩が原告のコーポレートカラーであることを印象付けるもの
であるとしても,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強い結びつき
があることまで印象付けるものとはいえない。
(ウ) さらに,前記2(6)のとおり,本願商標の色彩と同系色であるオレンジ
色をその車体の一部に使用した油圧ショベルとして,住友建機のハイブ
リッドショベル,ボブキャット社のDXシリーズ,イワフジの林業ベー
スマシン及びその後継機,クボタの「ミニバックホー」等が販売されてい
たことに照らすと,本件審決時において,原告が油圧ショベル(ミニショ
ベルを含む。)についてオレンジ色の色彩を独占的に使用していたものと
認めることはできない。
(エ) 以上によれば,本願商標が使用された原告の油圧ショベルの販売実績,
シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色彩が原告の油圧シ
ョベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認識されているこ
とは認められるものの,他方で,本願商標は,色彩及び色彩の付する位置
がありふれたものであって,その構成態様は特異なものとはいえないこ\nと,原告の油圧ショベルの多くには,アーム部や車体後部等に著名商標
である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており,これらの
文字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識\nされ得ることも否定することはできないこと,原告による広告宣伝は,
これに接した需要者に対し,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強
い結びつきがあることまで印象付けるものとはいえないこと,原告以外
の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体
の一部に使用した油圧ショベルを販売していたことを総合考慮すると,
本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,原告によって本願商
標が使用をされた結果,本願商標のみが独立して,原告の業務に係る油
圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとま\nで認めることはできない。
ウ 本件アンケートの調査結果について
前記(1)認定のとおり,油圧ショベルの需要者は,建設業者,建設機械を
取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者,
農機及び林業機械を取り扱う販売業者等が含まれるものであるが,本件ア
ンケートは,土木建設業以外の業種等の需要者が調査対象者から除外され,
農業従事者及び林業従事者等が調査対象者に含まれていないから,本件ア
ンケートの調査結果は,油圧ショベルの需要者の一部の認識を反映したも
のにとどまっている。
また,前記2(5)アの認定事実によれば,本件アンケートのうち,本願商
標に係るアンケートの設問は,別紙1(1)アの本願商標の画像を示した上で,
「以下の画像の色彩を見て,どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ
さい。」というものであり,「回答するメーカー名は,選択式ではなく,自由
記入式」としているが,「回答するメーカー名」は複数であってもよいこと
の明記はない。他方で,前記イ(エ)のとおり,原告以外の複数の事業者が本
願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体の一部に使用した油圧
ショベルを販売していたことに照らすならば,「回答するメーカー名」は複
数であってもよいことが明記されていないことは,本願商標に係るアンケ
ートの調査結果(有効回答数168通(回収率33.9%),認知率97.
0%)にも,影響を及ぼすものといえる。
そうすると,本件アンケートの調査結果から認定できる需要者における
本願商標の認知度は限定的であるものといわざるを得ない。
エ まとめ
前記アないしウによれば,本件商標が使用された原告の油圧ショベルの
販売期間,販売実績,シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色
彩が原告の油圧ショベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認
識されていることは認められるものの,本願商標の色彩のみが独立して,
原告の販売する油圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識\nされていたものとまで認めることはできず,また,本件アンケートは,農業
従事者及び林業従事者等の認識が反映されておらず,油圧ショベルの需要
者の一部の認識を反映したものにとどまっており,本件アンケートの調査
結果から認定できる需要者における本件商標の認知度は限定的であるもの
といわざる得ないことからすれば,本件アンケートの調査結果を併せ考慮
しても,本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,本願商標は,
原告によって使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示す\nるものとして需要者の間に広く認識されていたものとまで認めることはで
きないから,本願商標は,その使用により自他商品識別機能ないし自他商\n品識別力を獲得したものと認めることはできない。
これに反する原告の主張は採用することができない。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10143 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月27日 知的財産高等裁判所
クシについての位置商標について、識別力無しとの審決がなされました。知財高裁(3部)もかかる判断を維持しました。
整髪又は調髪に用いる櫛は,理美容道具としての性格上,その機能性が重\n視されるものと考えられるところ,取引の実情においても,櫛の背骨部の位
置に一定間隔で模様,窪み又は貫通孔等を設けることにより,それらを目盛
り代わりに用いる,指のすべり止めとしての機能を果たさせる,しなりを生\nみ出し,使いやすさを向上させるなどといった,機能向上のための工夫がさ\nれ,それらの工夫が宣伝されている実情があることが認められる(乙5〜1
7)。したがって,カットコームの背面部の貫通孔も,一般的には,機能向\n上のための工夫として認識されるのが通常であり,自他商品の識別標識とし
ての特徴であると理解されるものではないといえる。
また,このことは本願商標に係る貫通孔が設けられたカットコームについ
ても同様であり,商品の紹介で強調されているのは,「硬さとしなやかさを
両立するための『エアーサスペンション機能(1センチ間隔で空いた背面の\n穴)』」などといった機能面での工夫であって,貫通孔に自他商品識別標識\nとしての機能があることは,何ら言及されていない(乙23〜25)。そう\nすると,これらの記述に接した需要者は,一般的には,上記貫通孔は,機能\n向上のための工夫として設けられているものと認識するのが通常であって,
これを自他商品の識別標識と認識するとは考え難いところである。
(4) 以上に検討したところによれば,本願商標の構成は,指定商品の需要者と\nして想定される一般消費者の注意力に照らしてみたとき,構成自体として,\n識別力を備えたものとはいえない。
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2020.07.17
令和1(行ケ)10147 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月23日 知的財産高等裁判所
色彩商標(1色)が識別力無しとして拒絶された審決が維持されました。争点は3条2項の適用です。「本願商標の使用態様」、「本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量」、「広告宣伝の方法,期間,規模」、「アンケート結果」、「原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用」、「油圧ショベルの取引の実情」が考慮されました。
本願商標が商標法3条1項3号に該当することは,当事者間に争いがないと
ころ,同条2項は,同条1項3号ないし5号に対する例外として,「使用をされた結
果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるも
の」は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該
商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独
占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別
力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人
の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開
放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商
標の登録を認めようというものと解される。
そして,使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標が使用され
た期間及び地域,商品の販売数量及び営業規模,広告宣伝がされた期間及び規模等
の使用の事情,当該商標やこれに類似した商標を採用した他の事業者の商品の存在,
商品を識別し選択する際に当該商標が果たす役割の大きさ等を総合して判断すべき
である。また,輪郭のない単一の色彩それ自体が使用により自他商品識別力を獲得
したかどうかを判断するに当たっては,指定商品を提供する事業者に対して,色彩
の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべきである。
(2) 認定事実
ア 本願商標の使用態様
原告の前身である日立製作所は,昭和40年,油圧ショベル「UH03」の外
面の塗装の色彩として,本願商標の色彩を採用した(甲46)。
原告は,昭和45年10月,日立製作所の建設機械製造部門が独立し,旧日立建
機株式会社と合併して設立された株式会社であり,遅くとも昭和49年以降,本願
商標の色彩を,油圧ショベルを始めとする各種建設機械の外面の塗装の色彩として,
現在まで継続して使用してきた(甲1の1〜44,8の1〜15,弁論の全趣旨)。
原告の販売する油圧ショベルには,オレンジ色を車体の全体に使用したもの
もあるが(甲1の13・14・17・18・20・21・36・37,7の1・4〜
7・9〜12),アーム部及び車台後部はオレンジ色であるものの,操縦席近辺や駆
動部は黒色ないし鼠色のもの(甲1の1〜12・15・16・19・22〜35・3
8〜44,5の1・5〜18,7の2・3・8・13,8の1〜15),操縦席近辺
はオレンジ色で,アーム部は黒いもの(甲2の2),アーム部はオレンジ色で,操縦
席や車台後部に緑色のラインが入ったもの(甲5の2〜4)もある。また,その多く
には,アーム部や車台後部等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACH
I」又は「日立」の文字が付されている(甲1の1〜42・44,2の2,8の1・
3・4・6〜8・10・12・13)。
原告のカタログにも,上記のとおり,オレンジ色を車体の全体に使用した油圧シ
ョベルの写真のみならず,車体の一部にのみオレンジ色を使用した油圧ショベルの
写真も掲載されており,原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」の文字が記
載されている(甲1の1〜44,2の2,8の1〜15)。
イ 本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量
原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベル
を,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在す
る事業者に対して販売し,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルは,日本全国
で使用されている(甲4の2・4,21の1〜6)。
原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用されたミニショベル
を除く油圧ショベル(6トン以上のもの。甲40)を昭和49年から平成30年ま
での間に合計●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,ミニショベル(6
トン未満のもの。甲40)を平成3年から平成30年までの間に合計●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●,それぞれ販売した(甲52の1・2)。
ミニショベルを除く油圧ショベルは,主に,原告,株式会社小松製作所,コベルコ
建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社が製造
販売しているところ,昭和49年から平成30年までの間の原告の油圧ショベルの
シェアは概ね20%である(甲44の1〜8,52の1)。また,ミニショベルにつ
いては,平成3年から平成30年までの間の原告のシェアは概ね10%前後である
(甲52の2)。
ウ 広告宣伝の方法,期間,規模
雑誌・新聞広告,ウェブ広告等の掲載
原告は,少なくとも平成5年以降,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使
用された油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,少なくとも72種類以上作成
し(甲57),これらを「日本経済新聞」,「朝日新聞」,「産経新聞」,「日刊工業新聞」,「建通新聞」,「北海道新聞」等の新聞や,「日経ビジネス」,「投資経済」,「東洋経済」,「週刊ダイヤモンド」,「週刊エコノミスト」,「日経コンストラクション」,「建設機械」,「月刊廃棄物」等の雑誌等,少なくとも29種類以上の媒体に,継続的に掲載した(甲5の1〜18,58の1,59の1・2・4〜6・8〜153)。
また,原告は,少なくとも平成20年以降,大手建設機械レンタル会社のカタロ
グや,書籍・小冊子にも,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油
圧ショベルのカラー画像を用いた広告を継続的に出稿したほか(甲59の154〜
162),平成30年6月以降,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー
画像を用いたウェブ広告を3種類作成して(甲56,57,59の164・165),
8種類のサービスに出稿しており(甲61),これらのウェブ広告は,合計で,少な
くとも4000万回以上表示された(甲56,61)。\nこの他,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベ
ルのうち,実際に市場で販売されたものの画像が,昭和54年以降,建設機械分野
の専門誌の表紙にも取り上げられた(甲7の1〜13)。\nこれらの広告においては,いずれも原告の社名や,「HITACHI」又は「日立」
の文字が記載されている。
テレビCM
原告は,少なくとも平成2年9月から平成28年1月までの間(ただし,平成1
3年下期から平成19年上期は除く。)に,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩
が使用された原告の油圧ショベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラ
ック等が映像の一部に登場するテレビCMを,繰り返し放映した。もっとも,これ
らのテレビCMには,油圧ショベル以外の建設機械に係るものが含まれ,全体の映
像も,明らかでない。
エ アンケートの結果
マーケティングリサーチ事業を専門とする楽天リサーチ株式会社(現在の名称は,
「楽天インサイト株式会社」)が原告からの依頼により,全国502か所の建設業界
の事業者を対象として,平成29年1月に実施したアンケートの結果(以下「本件
アンケート」という。)によれば,有効回答数は193件であり(回収率38.6%),
本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ
さい」との質問に対し,185件が原告と回答した(認知率95.9%)との結果と
なっている(甲19)。
本件アンケートは,原告が製造する建設機械の販売会社が顧客開拓のために独自
に調査してリストアップしている日本全国の需要者に係るデータ約●●●件から,
ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械及び環境機械等の需要者や,農業や酪
農など土木建設業者以外の業種の者を除いた約●●●件のうち,10台以上油圧シ
ョベルを保有している者を調査対象としたものである。対象者の業種は,主に土木
建設業,解体業,産業廃棄物処理業,建設機械レンタル業であるとされる(甲54)。
オ 原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用
以下のとおり,原告以外の事業者により,本願商標と類似する標章が使用されて
いたことが認められる。なお,以下の証拠には,令和2年1月頃印刷したウェブサ
イト等もあるが,これらの証拠に弁論の全趣旨を総合すれば,本件審決時(令和元
年9月19日)においても,同様に,原告以外の事業者により,本願商標と類似する
標章が使用されていたことが推認できる。
「住友建機株式会社」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「油
圧ショベル」の商品紹介のページに,アーム部がオレンジ色の油圧ショベルの写真
が掲載されている(甲77,乙13)。
「株式会社ボブキャット」の発行する「DOOSAN」のチラシ(令和2年1
月27日印刷)には,アーム部及び車体後部がオレンジ色の油圧ショベルの写真及
びアーム部及び車体上部をオレンジ色にした油圧ショベルの写真が掲載されている
(乙14)。
「イワフジ工業株式会社」のウェブサイト(令和2年1月29日印刷)及びカ
タログ(平成30年6月発行)には,「製品情報」中の「林業ベースマシン」のペー
ジに,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「CT−500C/CS 林業ベース
マシン」の写真が掲載されている(乙15,16)。
「神野農機」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「商品一覧」
の頁に,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「フルカワ ミニバックホー FX
−007」の写真が掲載されている(乙17)。
「農機新聞」(平成29年3月7日発行)には,「イベロジャパンがトラクター
用バックホー3機種発売」の見出しの記事情報において,バケット部,アーム部及
び本体がオレンジ色のバックホーの部分の写真が掲載されている(乙18)。
「DiESEL TRADiNG」のウェブサイト(令和2年1月23日印
刷)には,「建設機械在庫一覧」のページに,アーム及び車体がオレンジ色の「IH
I建機 ミニショベル」の写真が掲載されている(乙20)。
「株式会社クボタ」のウェブサイト(令和2年1月27日印刷)には,「開発
中の電動トラクタと小型建機を公開〜脱ディーゼルの進む欧州で事業性を検証し,
製品化を目指す〜」の見出しの下,「小型建機(ミニバックホー)」の試作機の写真と
して,アーム部,車体及び脚部駆動部の中心部がオレンジ色の油圧ショベルの写真
が掲載されている(乙21)。
また,「製品情報」中の「建設機械」のうち,「ミニバックホー」のページ(令和2
年1月23日印刷)に,アーム部,車体下部がオレンジ色の「林業モデル」のバック
ホーの写真(乙22)が,「ホイールローダ」のページ(令和2年2月3日印刷)に
アーム部,車体,ホイールがオレンジ色のホイールローダの写真(乙23)が,「キ
ャリア」のページ(令和2年1月23日印刷)に荷台部などがオレンジ色のキャリ
アの写真(乙24)が,「農業ソリューション製品」のページ(令和2年1月23日\n印刷)に,車体の前部,泥よけ部及び天井部がオレンジ色のトラクタの写真(乙3
3)が,それぞれ掲載されている。
「WINBULL/YAMAGUCHI」のウェブサイト(令和2年1月2
3日印刷)には,「YX−21X」の商品紹介の項に,荷台部がオレンジ色のキャリ
アの写真(乙25),「YXS−121HX」の商品紹介の項に,アーム部及び車体部
がオレンジ色の除雪機の写真(乙26)が,それぞれ掲載されている。
「トヨタL&F」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「製品情
報」ページに,ショベル部及び車体下部がオレンジ色のショベルローダの写真(乙
27),フォーク部及び車体下部がオレンジ色のフォークリフトの写真(乙28)が,
それぞれ掲載されている。
「サオリエクスポート」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,
「H7年 コベルコ ラフタークレーン RK160−2」の商品紹介の項に,ア
ーム部及び車体がオレンジ色のクレーン車の写真(乙29),「H17 イスズジャ
ストン」の商品紹介の項に,アーム部及び車体をオレンジ色の高所作業車の写真(乙
32)が,それぞれ掲載されている。
「オークフリー」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「H7年
TADANO タダノ 4.9t ラフタークレーン」の商品紹介の項に,車体上
部がオレンジ色のクレーン車の写真が掲載されている(乙30)。
「エイハンジャパン」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「高
所作業車製品案内」のページに,乗車部及び下部の車体をオレンジ色にしたマスト
式高所作業車の写真が掲載されている(乙31)。
カ 油圧ショベルの取引の実情
油圧ショベルは,ユンボ,パワーショベル,バックホー,ドラグショベル,シ
ョベルカーなど様々な名称で呼ばれる掘削機械の一種であり,日本国内で建設業に
おいて広く用いられているほか,その用途に汎用性があることから農業や林業にも
利用されている(甲38〜40,乙15〜18,22)。
油圧ショベルを製造販売する原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式
会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社は,油圧ショベルのほ
かにも,ブルドーザー,クレーン,ホイールローダー等も製造販売しており,また,
ミニショベルを製造販売する株式会社クボタ,ヤンマーホールディングス株式会社,
株式会社竹内製作所等は,農機も製造販売しているのであって,同一の事業者が,
油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や農機を製造販売している(甲42,4
4の1〜8,45)。
市場分析においても,油圧ショベルは,ブルドーザー,クレーン,ロードローラ等
とまとめて,建設機械に係る業界として扱われている(甲42)。
建設機械等の取引においては,製品の機能や信頼性を検討し,メーカー名や\n商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われている(甲21
の1〜6)。
(3) 使用による自他商品識別力について
ア 本願商標の色彩を付した油圧ショベルの販売について
前記(2)ア,イのとおり,原告は,約50年にわたり,本願商標の色彩を車体の少
なくとも一部に使用した油圧ショベルを販売しており,その販売台数及びシェアは,
ミニショベルを除く油圧ショベルが合計約●●●台で概ね20%,ミニショベルが
合計約●●台で概ね10%前後であって,それぞれ年間数千台の販売実績を上げて
いることが認められる。
しかしながら,本願商標の色彩であるオレンジ色は,「赤みを帯びた黄色」(乙1)
であり,JISの色彩規格に,慣用色名としてオレンジ色が挙げられ(乙2),本願
商標の色彩と同じ色相が色相環に挙げられ,近似した色見本が挙げられるなど(乙
3),ありふれた色である。そして,本願商標の色彩と類似した色彩である橙(マン
セル値:5YR 6.5/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止
などを目的として公表されているJIS安全色にも採用され(乙10,11),ヘル\nメット(乙4),レインスーツ(乙5),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙7),タワークレーン(乙8),現場作業着(乙9)等に利用されていることが認められ,
建設工事の現場において,一般的に使用される色彩である。
また,前記(2)アのとおり,原告の販売する油圧ショベルの多くには,本願商標の
色彩のほか,アーム部や車体等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITAC
HI」又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HITAC
HI」又は「日立」の文字の記載があること,本願商標が,単色でなく他の色彩と組
み合わせて車体の一部にのみ使用されている商品も少なくないことに照らせば,本
願商標の色彩は,これらの文字や色彩と合わせて原告の商品である油圧ショベルを
表示しているというべきである。\n以上によれば,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧シ
ョベルを販売したことにより,本願商標の色彩のみが独立して,原告の油圧ショベ
ルの出所識別標識として,日本国内における需要者の間に広く認識されていたとま
では認められない。
イ 広告宣伝について
前記(2)ウのとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した
油圧ショベル等の建設機械の画像を用いた宣伝広告を,新聞,雑誌等の各種広告媒
体によって,少なくとも20年以上にわたり行っていることが認められる。
しかしながら,これらの広告等には,いずれも,原告の社名が表示されている上,\nその多くに「HITACHI」又は「日立」の文字が併せて記載されており,本願商
標の色彩のみが独立して,原告の商品である油圧ショベルの出所を表示していると\nはいえない。
また,これらの広告等の中には,油圧ショベルのモチーフが,オレンジ色をした
五線譜上の音符や将棋の駒として表示されたり,オレンジを背景にしたキリンのシ\nルエットとして表示されたりするなど,デザインの一環として用いられ,広告内容\nが油圧ショベルと関連付けられたものではないものも存在し(甲59の2・8・9
等),このような広告は,視聴者に対し,オレンジ色が原告のコーポレートカラーで
あると印象付け,本願商標の色彩を一定程度認知させるものとはいえても,色彩と
商品の結び付きは弱く,このことから直ちに,本願商標の色彩が,原告の油圧ショ
ベルの出所識別標識として,広く認識されたとまで認めることは困難である。
以上によれば,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベル
の画像を用いた宣伝広告により,本願商標の色彩が,原告の油圧ショベルの出所識
別標識として,需要者の間に広く認識されたとまではいえない。
ウ 本件アンケートの結果
本件アンケートの調査対象は,全国の油圧ショベルの取引者及び需要者とされる
ものの,ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械等の需要者や,農業
や酪農など土木建設業者以外の業種の者が除かれている上,油圧ショベルを10台
以上保有している者のみに絞られているから,対象者は油圧ショベルの需要者の一
部に限定されている。また,対象者数は,約●●●件の需要者のうちの502件で
あり,有効回答数はその38.6%である193件にとどまる。そして,認知率9
5.9%という高い数字は,有効回答数193件に対する数字であり,対象者数5
02件に対しては36.8%にとどまる。
本件アンケートの質問方法は,本願商標の色彩の画像を見せた上で,「どのメーカ
ーの油圧ショベルかをお答えください」と尋ねるものであるところ,かかる質問は,
本願商標が出所識別標識と認識されることを前提とするものであるから,その回答
によって,本願商標が原告のみの出所識別標識と認識されていることを示している
のか,単に原告の油圧ショベルの車体色と認識するにとどまるのかを区別すること
はできない。
以上によれば,本件アンケートの結果のみから直ちに,本願商標の色彩が出所識
別標識として認識され,本願商標が付された油圧ショベルの出所が原告のみである
ことが広く認知されていたものと認めることはできない。
エ 原告以外の者による本願商標に類似する色彩の使用
前記(2)オのとおり,本件審決時(令和元年9月19日)までに,住友建機株式会
社,DOOSAN等が,車体色がオレンジ色の油圧ショベルを販売し,株式会社ク
ボタやイワフジ工業株式会社等が,車体色がオレンジ色の農機や林業用機械を販売
していたこと,また,株式会社クボタ等が,車体色がオレンジ色のホイールローダ,
ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車等の建設機械
を販売していたことが認められ,農機等を含む油圧ショベルや各種建設機械の車体
色として,複数の事業者によりオレンジ色が広く採択されていた。
そうすると,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショ
ベルを長期間にわたり相当程度販売していたとしても,油圧ショベルと需要者が共
通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農機,林業用機械の分野において,
車体色としてオレンジ色を採用する事業者が原告以外にも相当数存在していたので
あるから,原告が,他者の使用を排除して,油圧ショベルについて本願商標の色彩
を独占的に使用していたとまでは認められない。
オ 油圧ショベルの取引の実情
前記(2)カのとおり,油圧ショベルは,建設機械の一種であり,建設業のほか農業
や林業にも利用され,同一の事業者が油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や
農機を製造販売している。また,油圧ショベルを含む建設機械は,製品の機能や信\n頼性を重視し,メーカーを確認して製品の選択が行われ,価格も安価なものではな
いことから,製品を識別し購入する際に,車体色の色彩が果たす役割が大きいとは
いえない。
カ 以上のとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した
油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売するとともに,継続的に宣伝広告を行
っており,本願商標の色彩は一定の認知度を有しているとはいえるものの,その使
用や宣伝広告の態様に照らすなら,本願商標の色彩が,需要者において独立した出
所識別標識として周知されているとまではいえない。そして,本願商標は,輪郭の
ない単一の色彩で,建設現場等において一般的に採択される色彩であること,油圧
ショベル及びこれと需要者が共通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農
機,林業用機械の分野において,本願商標に類似する色彩を使用する原告以外の事
業者が相当数存在していること,油圧ショベルなど建設機械の取引においては,製
品の機能や信頼性が検討され,製品を選択し購入する際に車体色の色彩が果たす役\n割が大きいとはいえないこと,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるべ
き公益的要請もあること等も総合すれば,本願商標は,使用をされた結果自他商品
識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものとはいえな
い。
◆判決本文
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2020.06.26
令和1(行ケ)10164 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所
I+ハートマーク+JAPANの結合商標について、識別力無しとした審決が維持されました。
1 取消事由1(商標法3条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 本願商標の構成について\n
ア 本願商標は,別紙1に記載のとおり,Iハート図形とその下に「JAP
AN」の欧文字を書してなるものであり,別紙1に記載の商品を指定商品とするも
のであるところ,本願商標の構成のうち,Iハート図形が全体として,「私は〜が大\n好きです。」との意味合いを表す英語の「I LOVE 〜」を端的に表意するもの\nであること,Iハート図形とその横に又は下に何らかの文字を結合した表示が,何\nらかの文字が表すものに対して愛着の気持ち等を表\すものとして理解されることは
当事者間に争いがない。
そうすると,Iハート図形の横又は下に「地名」を結合した表示は,当該地名(国\n名や都市名等)が表す場所に対する愛着の気持ち等を表\すものとして理解されると
認められる。
イ(ア) 別紙2に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によると,別紙2のとおり,本
件審決前に,日本において,インターネットのウェブサイトのIハート図形が使用
されている表示が30件(別紙2(1)〜(10),(12)〜(19),(21)〜(32))存したもの
と認められる。
また,証拠(乙42)によると,本件審決前に,「オスミツキ商店街」のウェブサ
イトにおいて,商品「ステッカー」の表面に「I」及び「ハートマーク図形」とその下に「TOYA」の文字を表\示した画像(以下,「TOYA表示」という。)とともに,「オスミツ\nキ商店街は,支笏洞爺国立公園内・洞爺湖温泉街にある雑貨屋,HORIDAY
MARKET TOYAの公式オンラインショップです。」,「I LOVE TO
YA STICKER」,「ぜひいろんな場所にバシバシ貼って,洞爺好きをアピー\nルしてください!」との記載があったことが認められる。
(イ) 上記(ア)の各表示のうちIハート図形の横又は下に「地名」を結合し\nた表示(別紙2の(1)〜(10),(12)〜(19),(21)〜(29),(31)及びTOYA表示)は,\n結合した当該地名が表す場所に対する愛着の気持ち等を表\す表示として,又は,当\n該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表\示として,被服を取
り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用されているも
のと認められる。
また,Iハート図形の横又は下に「日本」を意味する英語である「JAPAN」
の欧文字を結合した表示(別紙2の(1)〜(10),(13)〜(19))は,日本又はスポーツ
の日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表\す表示として,\n被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって,使用さ
れていることがあると認められる。
(ウ) 証拠(甲10,21,22,乙10)及び弁論の全趣旨によると,次
の事実が認められる。
a I ハート図形の下に「NY」を結合した表示は,1970年代後半\nから,ニューヨークの観光キャンペーンに用いるために「アイラブニューヨーク」
というスローガンと共に使用され,Iハート図形の下に「NY」を結合した表示が\n付されたマグカップ,Tシャツなどのライセンス商品が販売されている。それらの
ライセンス契約による収入は年30億円にのぼるといわれている。
b Iハート図形の下に「JAPAN」を結合した表示が付されたTシ\nャツ(別紙2の(7))や,Iハート図形の下に栃木を表す「TG」を結合した表\示が
付されたTシャツ(別紙2の(31))は,Iハート図形の下に「NY」を結合した表\n示を意識して作られた商品である。
(エ) なお,被告の提出する証拠のうち,乙1,22〜28,37〜41,
43は,いずれも本件審決後に作成された書証であり,本件審決前にこれらの書証
の表示が存在していたと認めるに足りる証拠はないから,これらの証拠を認定に用\nいることはできない。また,乙2,3は,書証上,作成日が明らかでなく,本件審
決前の事情を示す表示であると認めることはできないから,これらを認定に用いる\nことはできない。
(2) 本願商標の商標法3条1項6号該当性について
前記(1)によると,本願商標は,「私は,日本が大好きです。」の意味合いとして容
易に理解されるものであり,日本においては,Iハート図形の横又は下に「地名」
を結合した表示は,結合した当該地名が表\す場所に対する愛着の気持ち等を表す表\
示又は当該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表\示として,
また,Iハート図形の横又は下に「JAPAN」を結合した表示は,日本又はスポ\nーツの日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表\す表示とし\nて,被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用
されていることが認められるから,本願商標をその指定商品に使用した場合,本願
商標に接する取引者,需要者は,これを,日本に対する愛着の気持ちや日本に属す
るものに対する応援の気持ちを表現したものあるいは日本の土産物を示すものと認\n識するにすぎないと認められる。そうすると,本願商標は,自他商品の識別力を有
さないというほかない。
したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識す
ることができない商標であるから,商標法3条1項6号に該当することになる。
(3)ア これに対し,原告は,商品販売サイトが存在することは,当該商品が一
般消費者の目に触れ,取引されていることを意味するものではない,既に商品の取
扱いが終了している商品販売サイトは「広く用いられていること」の証拠とはなら
ないと主張する。
証拠(甲25,26,40,41)及び弁論の全趣旨によると,電子商取引サイ
トである Amazon.co.jp の日本における取扱品目数は,平成27年当時で2億点(公
表値),売上高は1兆円と算出され,Yahoo!ショッピングの取扱品目数は,平成29
年当時で2億8000万点を超え,楽天市場の取扱品目数は,令和元年12月時点
で2億7000万点を超えていること,日本国内の消費者向けの電子商取引の市場
規模は,平成30年には約18兆円に達していることが認められる。
しかし,前記(1)イ(ウ)のとおり,本願商標と同様に「Iハート図形+地名」の形
をとる「Iハート図形+NY」の表示が,既に40年以上使用されている上に,日\n本国内においても,前記(1)イ(イ)のような使用例が29件存在していたことからす
ると,これらのウェブサイトにおける閲覧実績や販売実績を検討するまでもなく,
本願商標は,前記(2)のとおり,自他商品識別力を有しないものと認められる。
前記(1)イ(ア)のウェブサイトの中に,既に商品の取扱いが終了している商品販売
サイトが存するとしても,インターネットのウェブサイトにおいて,Iハート図形
の横又は下に「地名」が結合した表示が存し,その表\示が前記(1)イ(イ)で記載した
ようなものと理解されるのであるから,既に商品の取扱いが終了している商品販売
サイトがあることは,前記(2)の判断を左右するものではない。
イ 原告は,本願商標に接した需要者が,本願商標が日本代表チームなどに\n対して愛着の気持ちを表すデザインあるいは日本の土産物において客の関心をひく\nためのデザインとして認識,理解することはない旨主張する。
しかし,本願商標は,「私は,日本が大好きです」の意味合いを容易に理解させる
ものであるところ,本願商標と同様に,Iハート図形の横又は下に「JAPAN」
を結合した表示が,「応援」,「応援グッズ」,「代表\チーム」,「サッカー」,「Wカップ」,
「侍ジャパン」,「サムライジャパン」,「サッカー 野球」,「オリンピック2020」,
「日本代表を応援しよう」などと共に商品販売サイトにおいて用いられていること\n(別紙2の(1)〜(3),(12),(15)〜(17))からすると,本願商標に接した取引者,
需要者は,当該表示は日本代表\チームなどに対して愛着の気持ちを表す表\示と理解
することがあると認められる。また,本願商標と同様に,Iハート図形の横又は下
に「地名」を結合した表示が,「日本のお土産に最適」,「グアムの定番お土産」,「JTBのお土産通販サイト」,「松島お土産」,「江ノ電公認みやげ」,「栃木 お土産」
などと共に商品販売サイトにおいて用いられていること(別紙2の(6),(21),(23),
(26),(27),(31))からすると,本願商標に接した取引者,需要者は,当該表示は,\n日本の土産物として客の関心をひくための表示と理解することがあるものと認めら\nれる。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
ウ 原告は,本願商標は,赤色のハート図形を用い,Iハート図形が標章の
半分以上を占めるデザインとすることで,一見して日本に対する愛着の気持ちが瞬
時に伝わる特徴的なデザインとなっているから,本願商標を需要者が何人かの業務
に係る商品であることを認識することができない商標と評価することはできないと
主張する。
しかし,本願商標に自他商品識別力がないことは既に判示したとおりであって,
原告の主張を採用することはできない。
エ 原告は,本願商標と同種の商標が商標登録されていることから,本願商
標には自他商品識別力があると主張する。
証拠(甲36,37,39)によると,(1)指定商品を第25類(被服,ガーター,
靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運
動用特殊靴)とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,\n平成27年3月27日に商標登録されていること,(2)指定役務を第30類(菓子,
パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドックなど)
とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,平成30年6\n月15日に商標登録されていること,(3)指定役務を第35類(広告業,トレーディ
ングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言など)とし,I ハート図形
の下に「TOKYO」と記載した商標が,米国の企業を商標権者として,令和元年
7月5日に商標登録されていることが認められる。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは既に判示したとおりで
あるところ,商標法3条1項6号該当性の判断は,個別具体的に検討,判断される
ものであるから,上記(1)〜(3)の商標登録がされているからといって,本願商標に自
他商品識別力があると認めることはできない。
オ 原告は,本願商標と同一のデザインを表示した商品を多数生産,販売し\nた実績があり,今後も生産していく予定であると主張し,原告代表\者の陳述書(甲
27)には,平成27年3月以降,原告は,本願商標と同一のデザインを施したT
シャツ,靴下,トートバック,キーホルダー等のアパレル雑貨や,土産用の菓子な
ど約10万点を生産し,実店舗を中心に販売したこと,原告は,平成30年以降,
「I love JAPANプロジェクト」を始めること,本願商標と同一のデザインの商標
について商標登録を受けており,これらの商標については,他社に対して使用を許
諾し,使用許諾先では本願商標と同一のデザインの商品を6万点ほど生産中で,今
後は20万点以上の規模で生産することを計画していることなどの記載がある。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは,既に判示したとおり
であって,上記の陳述書の記載によってもこの判断は左右されない。
(4) 以上によると,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(裁量権の逸脱,濫用)について
原告は本件拒絶査定及び本件審決は平等原則に反し,裁量権の範囲を逸脱,濫用
している旨主張する。
しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは既に判示したとおりで
あり,本願商標と同種の商標が登録されている点についても,前記1(3)エのとおり
であるから,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に違
法な点はない。
◆判決本文
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2020.06.12
令和1(行ケ)10145 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所(3部)
商品「みそ」について商標「天地返し仕込」が識別力があるかが争われました。知財高裁は識別力なしとした審決を維持しました。
上記ウ(ア)によれば,味噌の製造工程においては,「天地返し」とは,味
噌の発酵・熟成の過程で味噌の上下方向の位置を入れ替えることを意味し,
味噌の熟成ムラを防いで全体の品質を均一にするなどの効果があることが
理解でき,同(5)〜(8)のとおり,「天地返し」を商品の品質を示すものとし
て表示した味噌が複数販売されている。また,上記ウ(ア)(1)(4)(5)及び(イ)に照らせば,味噌を取り扱う業界におい
ては,「仕込(み)」の語は,必ずしも,前記イ記載の辞書的意味である
「酒や味噌・醤油などの醸造で,原料を混ぜて桶などにつめること。」と
して使用されているものではなく,味噌の製造工程における作業や手間等
を表示するものとしても使用され,また,「仕込(み)」の語の前に,味噌の品質等に関する文字や原材料等を表\示する文字が結合された場合には,「仕込(み)」の部分は,「醸造された商品(味噌)」と同旨の意味合い
でも使用されているといえる。
そうすると,「天地返し仕込」の文字を指定商品である味噌に使用した
場合,取引者,需要者をして,「製造工程において上下方向の位置の入れ
替えがされた味噌」という商品の品質を表したものと認識されるものであると認められる。\n
(2) 以上に加え,上記(1)アのとおりの本願商標の構成に照らせば,本願商標は,商品の品質を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であり,商標法3条1項3号に該当するということができる。
(3) 原告の主張について
原告は,味噌の製造工程において,天地返しをして仕込むという工程は存
在しないから,「天地返し仕込」は一種の造語であり,自他識別性を有して
いるから,品質を表したものとは認識されないと主張する。しかし,「仕込」の語が味噌を取り扱う業界において,必ずしも「原料を混ぜて桶などにつめ\nること。」の意味で使用されているものではないのは上記(1)エに説示したと
おりである。また,本願商標の指定商品である味噌の需要者には一般消費者
が含まれるところ,一般消費者が,味噌の製造工程において,天地返しをす
る対象が醸造された味噌なのかその原料なのかといった点に着目するとは解
し得ない。これによれば,味噌の製造工程において,天地返しをして仕込む
という工程が存在するか否かは,上記判断を左右するものではない。
◆判決本文
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2020.04. 2
令和1(行ケ)10135 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所
「AI介護」について識別力無しとした審決が維持されました。
前記(3)のとおり,「AI」の語は,多くの新聞やウェブサイト等におい
て,「人工知能」を意味する言葉として使用されていること,その中には,「AI」の語の意味を説明せずに「AI」とのみ表\記されているものもある(甲3,4)ことからすると,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られているものと認められる。\nそして,前記(3)のとおり,介護の分野において人工知能である「AI」を活用することに関する新聞やウェブサイトの記載が多数あると認められるが,一方で,証\n拠上,介護の分野において,「AI」という語を人工知能以外の意味で使用している例があるとは認められないことからすると,介護の分野において「AI」の語を使\n用した場合は,その「AI」は,人工知能を意味するものと認識されるというべきである。\n前記(3)のとおり,新聞やウェブサイト等においては,「AI介護」の語が,AI
を活用した介護という意味で,「AI介護ソフト」の語が,AIを活用した介護のためのソ\フトウェアという意味で,「AI介護事業」の語が,AIを活用した介護事業という意味で,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語が,AIを活用した
介護用ロボットという意味でそれぞれ使用されていることからすると,「AI」の語
に名詞が続いた場合は,当該「AI」は,「AIを活用した」との趣旨で使用され,
また,そのような使用法が一般的に受け入れられているものと認められる。
以上からすると,本願商標の「AI介護」からは,AIを活用した介護という意
味合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,本願の指
定役務である「介護」の質を示すものと認識するため,本願商標は,自他役務識別
力を欠くというべきである。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ
る。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の「AI」の語は「愛」のローマ字読みであり,本願
商標からは,「愛の介護」というような意味合いを生じると主張する。
しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られていること,「愛」をローマ字読みで表\記する場合に,「I」の文字を大文字で表記することは不自然であることからすると,「AI」の語は,通常,「エーアイ」と発音され,人工知能\を意味するものと認識されるというべきであり,「愛」と認識されるとは認められない。このことは,本願の商標出願・登録情報表示において,「AI介護」の称呼を,第1に「アイカイゴ」としていることによって左右され\nない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,(1)「AI介護ロボ」,「AI介護ロボット」,「AI介護活用」,「A
I介護ソフト」及び「AI介護のウェルモ」の各語は,「AI介護」の文字を分離抽出して観察すべきではない,(2)前記(3)の新聞やウェブサイト等に記載された役務
は,商標法上の役務ではないか,本願の指定役務である「介護」には当たらず,非
類似の役務である,(3)上記新聞やウェブサイト等の記載内容は,目標を記載したも
のや開発段階のものであり,AIが介護現場で現実に使用されたことの記載ではな
い,(4)甲4,乙20〜22の見出しは,本文の記事にふさわしくないと主張する。
しかし,「AI介護ソフト」の語がAIを活用した介護のためのソ\フトウェアを
意味し,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語がAIを活用した介護用
ロボットを意味することは,前記(4)イ認定のとおりである。また,「AI介護活用」
は文字どおりAIを介護に活用するという意味である。取引者,需要者は,これら
について,「AI介護」とそれに続く「ソフト」,「ロボ」,「ロボット」又は「活用」とを分離して認識するというべきである。\nまた,「AI介護のウェルモ」の語について,取引者,需要者が,「AI介護」
と「ウェルモ」を分離して認識することは明らかである。また,商標法3条1項3
号の商標に該当するというためには,当該商標が,取引者,需要者において同号が
規定する商標に当たると認識されることで足り,当該商標が,その指定役務又は類
似する役務において実際に使用されている必要はないところ,前記(4)のとおり,「A
I介護」という語からは,AIを活用した介護という意味合いが生じ,「AI介護」
という語は,取引者,需要者において,本願の指定役務である「介護」の質を示す
ものと認識されるのであり,新聞やウェブサイト等の記載内容が,目標を記載した
ものや開発段階のものであるとしても,この認定が左右されることはない。
さらに,甲4,乙20〜22の見出しの「AI介護」の語がAIを活用した介護
という意味で用いられていることは明らかであって,そのことは本文の記載によっ
て左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,「AI」と「介護」の語は,共に,多義的であり,漠然とした
意味合いにとどまっているから,取引者,需要者である介護事業者・介護サービス
の利用者が「AI介護」の文字に接して,「AIを活用した介護」であると認識する
ことはないと主張する。
しかし,前記(4)のとおり,「AI」の語は,種々の意味を有するが,通常は,「人
工知能」を意味し,しかも,「AI」の語が「人工知能\」を意味することは一般的に
知られているといえるから,「AI」の語が漠然とした意味合いにとどまり,「AI
介護」の語を「AIを活用した介護」であると認識できないということはない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は,乙13〜17,22は,本件審決後に作成されたから,証拠と
することはできないと主張するが,乙13〜17,22の記載が公表された日は,前記(3)のとおりであり,いずれも本件審決の前であると認められるから,原告の上
記主張は理由がない。
オ 原告は,「AI」を「アイ」と称呼している出願例もあると主張する(甲
14,15)。
甲14の登録商標は,その一部に「ai」の語を,甲15の登録商標は,その一
部に「AI」の語をそれぞれ含むものであるが,本願とは異なる登録例であり,商
標の構成も本願とは大きく異なるから,本願について,「AI」は,通常「エーアイ」と発音され,人工知能\を意味するものと認識されるとの前記(4)の認定を左右し
ない。
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2020.03.30
令和1(行ケ)10119 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月11日 知的財産高等裁判所
色彩のみからなる商標について,識別力なしとして3条1項6号違反とした拒絶審決が維持されました。3条2項の適用も使用している商標とは異なるとして否定されました。
前記(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)本願商標は,橙色の単色の色彩
のみからなる商標であり,本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえ
ないこと,(2)橙色は,広告やウェブサイトのデザインにおいて,前向き
で活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており,不動産の
売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトにおいても,ロゴマー
ク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景等を装飾する色彩とし
て普通に使用されていること,(3)原告ウェブサイトのトップページにお
いても,別紙2のとおり,最上部左に位置する図形と「LIFULL H
OME’S」の文字によって構成されたロゴマーク,その他の文字,白\n抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,
バナー等の色彩として,本願商標の橙色が使用されているが,これらの
文字,図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはい
えないことを総合すると,原告ウェブサイトに接した需要者においては,
本願商標の橙色は,ウェブサイトの文字,アイコンの図形,背景等を装
飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり,本願商標
の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建
物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして認識するものと\n認めることはできない。
したがって,本願商標は,本願の指定役務との関係において,本来的
に自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を有しているものと認める\nことはできない。
イ これに対し原告は,原告ウェブサイトは,不動産総合ポータルサイトの
トップブランドとしての確固たる地位を築いており,本願の指定役務の分
野においては,周知著名であること,我が国において,全国規模で種々の
取引形態の不動産物件を掲載する一定規模以上(掲載物件数が常時100
万件以上)の不動産総合ポータルサイトとしては,原告のほか,リクルー
トグループが提供する「SUUMO(スーモ)」,大東建託が提供する「い
い部屋ネット」,オウチーノが提供する「O−uccino」,ヤフーが
提供する「ヤフー不動産」,アパマンが提供する「アパマンショップ」,
アットホームが提供する「athome(アットホーム)」があるが,各
不動産総合ポータルサイトは,それぞれイメージカラーを施しており,例
えば,原告は橙色,「SUUMO(スーモ)」は緑色,「いい部屋ネット」
は赤色,「O−uccino」はピンク色,「ヤフー不動産」は赤色,「ア
パマンショップ」は濃青色,「athome(アットホーム)」は紅赤色
といった棲み分けがされているため,不動産総合ポータルサイトに接する
取引者,需要者は,色によるポータルサイトの識別が可能な状況ができて\nおり,本願商標の橙色は,原告ウェブサイトと即座に認識,理解をすると
いう取引の実情があることを考慮すると,本願商標は,その指定役務との
関係において,本願商標の橙色が独立して,本来的に自他役務の識別機能\nないし自他役務識別力を有する旨主張する。
しかしながら,ポータルサイトとは,一般に,「インターネットを利用
する際,まず最初に閲覧されるような,利便性の高いウェブサイトの総称」
(「大辞林」第三版)であるところ,前記(1)ア認定のとおり,本願の指定
役務の需要者は,住宅やマンションなどの不動産物件の購入,賃借等を検
討している一般の消費者であり,このような需要者は,ポータルサイトで,
必要な情報に関する検索を行い,その検索結果に基づいて,不動産業者等
に対し,掲載物件についての問合せをしたり,不動産業者等から紹介を受
けるなどして,不動産取引を行うのが通常であることからすると,このよ
うな需要者は,不動産の売買,賃貸の仲介等を行う不動産取引業の需要者
と同一であるか,又は重複するものと認められる。
そして,原告が主張するように掲載物件数が常時100万件以上の不動
産総合ポータルサイトが日本全国の不動産情報を網羅しているとしても,
不動産総合ポータルサイトと他の不動産業者が開設するウェブサイトとは,
インターネット上で不動産情報を入手するための入口であるという点で共
通し,不動産関連の情報を提供するというサービスの内容が密接に関連し
ていることに照らすと,上記需要者において,これらが質的に異なるもの
と認識するものと認めることはできない。
また,不動産物件を探す者は,まず,不動産総合ポータルサイトを介し
て不動産情報にアクセスするのが取引の実情であることを認めるに足りる
証拠はない。
そうすると,仮に原告が主張するように原告ウェブサイが不動産総合ポ
ータルサイトのトップブランドとして周知著名であり,各不動産総合ポー
タルサイトがそれぞれイメージカラーを施しており,それらの色による棲
み分けがされているとしても,不動産総合ポータルサイトに接する需要者
が,色彩のみによってポータルサイトを識別可能な状況にあるものと認め\nることはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において採用することができ
ない。
(2) 使用による識別力の獲得について
ア 原告ウェブサイトにおける使用について
前記1(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年から13年間にわた
り,原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこ
とが認められる。
しかしながら,他方で,前記(1)ア(ウ)(1)ないし(3)のとおり,本願商標の
橙色は特異な色彩であるとはいえないこと,橙色は,広告やウェブサイト
のデザインにおいて,前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に
利用されており,不動産の売買,賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイ
トにおいても,ロゴマーク,その他の文字,枠,アイコン等の図形,背景
等を装飾する色彩として普通に使用されていること,原告ウェブサイトの
トップページにおける本願商標の橙色の使用態様は,上記不動産業者のウ
ェブサイトと同様に,ロゴマーク,その他の文字,白抜きの文字及びクリ
ックするボタンの背景や図形,キャラクターの絵,バナー等の色彩として
本願商標の橙色が使用されているが,これらの文字,図形等から分離して
使用されていたものといえないことに鑑みると,原告による原告ウェブサ
イトにおける本願商標の使用の結果,本件審決時(審決日令和元年7月3
1日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に係る「ポ
ータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するもの\nとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認める
ことはできない。
イ 原告のテレビCMにおける使用について
前記1(2)のとおり,原告のテレビCMが,平成26年5月から同年10
月までの間,平成27年1月から9月までの間,平成30年4月及び5月
に,全国各地の放送局で放送されたことが認められるが,一方で,甲27
に係るテレビCM以外には,それらの各放送において本願商標の橙色が具
体的にどのような態様で使用されていたのかを認めるに足りる証拠はない。
また,甲27に係るテレビCMは,キャラクターの絵,「LIFULL
HOME’S」の文字や図柄等に橙色が使用されているものであって,原
告ウェブサイトのトップページの画像自体が映し出されたものではないか
ら,上記テレビCMを視聴者が本願商標の橙色と原告ウェブサイトに係る
役務とを関連付けて理解するものとは認めることはできない。
ウ 原告の売上高について
原告は,本願商標の橙色と原告が展開する不動産情報の提供に関する事
業との間には密接かつ直接的な関係が存在するものといえるから,本願商
標の橙色の存在が原告の事業の売上げに多大な貢献をしている旨主張する。
しかしながら,本願商標の橙色と原告の事業との間には密接かつ直接的
な関係が存在することを認めるに足りる証拠はなく,原告の事業の売上高
が高額であるからいって,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務に
係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識\nされていたことの根拠になるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ アンケート調査結果について
(ア) 原告が提出するアンケート調査結果について検討するに,第1次調
査(甲30)は,「不動産・情報サイト」の名称として「LIFULL
HOME’S」や「HOME’S」と記載した228人を対象として,
本願商標の橙色を見せ,思い浮かべた不動産・住宅情報サイトの名称を
記載させるという方法によるものであるから(前記1(3)ア),その対象
者は,調査前から原告ウェブサイトの名称を認識していた者に限定され
ており,しかも,本願商標の橙色を示す前の段階で,原告ウェブサイト
の名称を示され,いわば正解をほのめかされた状態で回答しているとい
えることから,原告ウェブサイトの名称を記載する回答する者が高い確
率で現れるのは当然であるというべきである。
したがって,第1次調査の結果を採用することはできない。
(イ) 次に,第2次調査(甲33)では,回答方法として,本願商標の橙
色の画像を示して,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」,
「HOME’S(ホームズ)」,「SUUMO(スーモ)」,「at h
ome(アットホーム)」,「マイナビ賃貸」,「CHINTAI(チ
ンタイ)」,「この中にはない・わからない」の選択肢の中から,「不
動産・住宅情報サイト・アプリ」を1つ選択させるという方法によって
おり,理由を示すことなく選択する形式のため,偶然,「LIFULL
HOME’S(ライフルホームズ)」又は「HOME’S(ホームズ)」
を選択する可能性を排除できず,かつ,原告ウェブサイトの選択肢とし\nて「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」及び「HOM
E’S(ホームズ)」の2つが掲げられている以上,偶然に原告ウェブ
サイトを選択する確率は,必然的に高くなるというべきである。にもか
かわらず,「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」と回
答した者が13.2%,「HOME’S(ホームズ)」と回答した者が
41.8%と,その合計は55%とさほど高くなく,むしろ,「SUU
MO(スーモ)」と回答した者が16.3%,「at home(アッ
トホーム)」と回答した者が10.9%,「この中にはない・わからな
い」と回答した者が14.5%と,一定の割合を占めており,「SUU
MO(スーモ)」と回答した者及び「この中にはない・わからない」と
回答した者の割合は,「LIFULL HOME’S(ライフルホーム
ズ)」と回答した者の割合を上回っている。このような事情に照らせば,
第2次調査の結果を採用することはできない。
オ まとめ
以上によれば,原告は,平成18年から13年間にわたり,原告ウェブ
サイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと,原告のテレ
ビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても,本件審決時(審決日令和
元年7月31日)において,本願商標の橙色のみが独立して,原告の業務
に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表\n示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたも
のと認めることはできないから,本願商標は,その使用により自他役務の
識別機能ないし自他役務識別力を獲得したものと認めることできない。\nこれに反する原告の主張は理由がない。
◆判決本文
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2020.02.20
令和1(行ケ)10125 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年2月12日 知的財産高等裁判所
指定商品は第11類「対流形石油ストーブ」について、「三つの略輪状の炎の立体的形状」を付する位置が特定された位置商標について、識別力無しと審決が維持されました。
商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,\n用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する
物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格\nを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けるこ\nとができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売
地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表\示として誰も
がその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益
上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場
合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許\nさないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能を\nより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選
択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標\n識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形
状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能\
や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択さ\nれたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資す\nることを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用すること
を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定
の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採\n用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用\nいられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するの
が相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎
の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状
の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,
本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原
告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,か
つ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表\面凸凹部を形成するとともに耐熱
性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の\n金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発
する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る
特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状
の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部\nがレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果が
ある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合
物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せ\nしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた
沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向か
ら届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効
果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美
しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むもので
ある。」(4段落の8行〜24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には
別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるとい
う機能を有するものと認められる。\nそうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予\測される
範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願
商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標で
あると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ
る。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標と同一又は類似する商標が同業他社によって使用され
ていないことやグッドデザイン賞を獲得していることなどから,本願商標は,「独占
不許商標」や「自他商品識別力欠如商標」に該当しないと主張する。
しかし,本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当することは,前記(2)のとお
りであって,原告が主張する事実は,同号に該当するとの上記判断を左右するもの
ではない。
イ 原告は,本願商標は,物理的な形状ではなく,石油ストーブの部品の形
状でもないから,模様に近いものであり,商標法3条1項3号の「商品の形状」に
は当たらないと主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本願商標は,三つの略輪状の炎からなる立体的形状の
位置商標であることは明らかである。そして,立体的形状は,商標法3条1項3号
の「商品の形状」に当たるから,本願商標の立体的形状も同号の「商品の形状」に
当たるというべきである。
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