商標「六本木通り特許事務所」が識別力無しとした審決が維持されました。
本願商標は,「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり,指定役務を第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」と\nするものである。
本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は,昭和59年(1984年)に,起点を東京都千代田区霞が関2丁目,終点を渋谷区渋谷2丁目とする道\n路に東京都が設定した通称名を意味する語である(乙1)。また,本願商標
の構成中の「特許事務所」の文字は,弁理士等が業務を行う事務所を意味する語であり(弁理士法76条1項参照),弁理士は,特許,実用新案,意匠,\n商標等に関する特許庁における手続等の代理又はこれらの手続に係る事項に
関する鑑定その他の事務を行うこと等をする者であり(弁理士法4条参照),
事務を行う者が所在する事務所があたかも事務を行う主体と呼ばれることは
慣用の表現であるから,「特許事務所」は,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称と認識されるものである。\nそうすると,本願商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と,
特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文
字とを結合したものと認識,理解されるものである。
(2) 本願商標の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の
代理」は,「特許に関する手続の代理」の範囲を「スタートアップ」に係る
ものに限定したものであり,語義からして「特許に関する手続の代理」に含
まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。\nまた,本願商標の構成中の「六本木通り」は,本件審決時である令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれてい\nる道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると
理解される。
そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願
商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」と
の文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の
文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これ
を「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手
続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。
以上からすると,「六本木通り特許事務所」との文字は,六本木通りに近
接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明し
ているにすぎず,本願商標の指定役務の需要者において,他人の同種役務と
識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって,その
構成自体からして,本願商標の指定役務に使用されるときには,自他役務の出所識別機能\を有しないものと認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当するものというべき
であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務の分野において「〇〇通り□□事務所」の
文字が広く採択,使用されているとの本件審決の認定は誤りである,ある
いは本願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」
という名称の法律事務所が多数あるとしても,「〇〇通り法律事務所」と
の名称に自他役務の出所識別機能がないと根拠付けることはできない旨主張する。\n
確かに,これらの主張については,当裁判所としても首肯し得る面もあ
る。しかしながら,そもそも本願商標の指定役務の分野において「〇〇通
り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの事実の有無や,本
願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」という
名称の法律事務所が多数あるとの事実の有無等が,本願商標の自他役務の
出所識別機能の有無の判断に当たって必要な前提事実となるものではないから,これらの点に関する本件審決の認定に誤りがあるとしても,その\n認定の誤りが結論を左右するものではなく,本願商標に自他役務の出所識
別機能を認めることができないことについては,前記⑵において認定判断
したとおりである。したがって,原告の上記主張は,結論を左右しない点に関する誤りを主張するにすぎず,採用し得ない。
イ 原告は,「〇〇通り□□事務所」の語は,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた意味だけを有するものではないから,本願商標も,その\n全体において造語として需要者に印象付けられる旨主張する。
一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通\n称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続
の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれ
とは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何
人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っている
ことを何ら具体的に主張立証していないから,原告の上記主張は,その前
提を欠くものというべきであって,採用することができない。
ウ 原告は,本願商標は,新規で意外性のある造語である旨主張する。
しかしながら,商標の構成についていえば,「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構\成をとる商標は多数の例が認められ(乙7ないし 51),法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得
る事務所であるから(弁護士法74条1項,3条2項参照),「法律事務
所」を「特許事務所」と言い換えて「○○通り」と「特許事務所」との組
合せとしたとしても,格別,新規なものとは認識し得ないといえ,その構成に意外性もない。また,前記のとおり,本願商標の構\成中の「六本木 通り」の文字は,35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている
道路の通称名であり,本願商標の構成中の「特許事務所」は,本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから,この両語の組\n合せから新規な意外性を生じるということもできない。
◆判決本文
商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。
ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された
場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。
しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力
を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ
れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項
1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商
標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録
を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別
機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品
又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U
ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U
JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに,
国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普
及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで
あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26
条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1
号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり,
地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。
しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が
同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと
おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic
ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が
没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲
4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使
用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。
イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶,
ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1),
甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」
の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下
に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や
ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの
と推認される。
そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一
であると認めることはできない。
よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に,
煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地
直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで
「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示
す記載はない(甲5,6)。
このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\
示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶
について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上
げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地
域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し
た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合
員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。
他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の
ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U
jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH
A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した
商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の
とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入
れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合
員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標
の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示
や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので
ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間,
販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園
による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付
ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U
jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治
茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ
る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し
ないというべきことは明らかである。
◆判決本文
空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。
ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて
意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と
して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検
討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと
いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき
ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来
る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして,
「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。
イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして
も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\
すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以
外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の
語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について
は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら
れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない
ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す
ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて
いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原
告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実
用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者
であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語
が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服
メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す
るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断
を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当
時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強
いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい
う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い
印象を与えるものであったと解される。
また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来
の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア
という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。
そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力
を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27
年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3)
ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指
すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと,
全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと,
建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空
調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい
たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな
り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを
示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原
告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」
と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特
に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE
Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌
で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同
様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ
る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ
ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア
の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動
を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成
30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」
はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する
と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本
願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告
各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法
3条2項に該当するというべきである。
◆判決本文