2023.12.12
令和5(行ケ)10074 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
商標「ブランディングDX」(標準文字)が、識別力無しとした審決が維持されました。
本願商標は、「ブランディングDX」の文字を標準文字で表してなると\nころ、構成中の「ブランディング」の文字は、「顧客や消費者にとって価値\nのあるブランドを構築するための活動」等の意味を有する語であり(乙1〜\n7)、「DX」の文字は、「情報通信技術の浸透に伴うビジネスや社会の構造\n的変革」、「デジタル変革」を意味する「デジタルトランスフォーメーション」
を表す語である(乙8〜10)と認められる。\nそして、日本政府によって平成30年5月に「デジタルトランスフォー
メーションに向けた研究会」が発足し、同年12月に同研究会によって「D
X推進ガイドライン」が発表されて以降、政府による「DX推進指標」が公\n表され(令和元年7月)、閣議決定された「骨太の方針」に「民間における\nDXの加速」が盛り込まれ(令和3年6月)、その頃、総務省によって「自
治体DX推進計画」が策定されるなど、様々な業務や事業活動、業種等にお
いて、デジタル技術の活用を促進することによる業務の変革(DX、デジタ
ルトランスフォーメーション(化))の取組がなされている(乙11〜22、
28、47〜50)。また、そのような取組を表す際に、「○○DX」と表\す
ことがしばしば行われている実情があり(乙13、14、21〜37)、ブ
ランディングに関わる業務においても、こうした取組に対して、端的に「ブ
ランディングDX」と称する事例がある(甲28〜40、乙43、44、4
7〜50)。
(3) そうすると、本件関連役務に関し本願商標に接した取引者・需要者は、
「ブランディング」についてのデジタル技術の活用による業務の変革である
「デジタルトランスフォーメンション」であること、すなわち「ブランディ
ングのデジタルトランスフォーメーション(化)」を表したものと認識し、\n理解するものというべきである。
よって、本願商標は、役務の特徴、質(内容)を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当す\nると解するのが相当である。
(4) これに対し、原告は、「DX」の文字の理解が浸透していないと主張す
るが、上記(2)の事実は、本件審決時までに「デジタルトランスフォーメー
ション」を意味する「DX」の取組が広く啓発され、用語例として定着・普
及していたことを示すものにほかならず、上記主張は採用できない。原告は、
アンケートにおいて「DX」や「ブランディング」の理解が広がっていない
結果が出ていると主張するが(甲3〜5、18〜20、22、23)、例え
ば甲3のアンケートでは、75%の回答者が少なくとも「DX」の言葉の意
味を理解しているとの結果が出ているなど、本件で証拠提出されたアンケー
ト結果は必ずしも原告の主張を根拠づけるものとはいえない。
また、原告は、「ブランディングDX」の用語を使用する際、「プラン」
や「ソリューション」などの言葉で意味合いを補足している例がほとんどで\nあると主張するが、そうだとしても、「DX」の用語が本件関連役務の取引
者・需要者に理解されないと解すべき根拠になるものではない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2023.11.29
令和5(行ケ)10028 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月6日 知的財産高等裁判所
商標「梅水晶」について、識別力なしとした審決が維持されました。理由は、「鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の商品として一般的名称であった」というものです。
前記(3)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、1)インターネッ
ト上の商品販売サイトにおいて、原告以外の者が製造したサメ軟骨(又はそ
の代替として用いられる鶏軟骨等)を梅肉で和えた惣菜商品に、「梅水晶」の
名称が付されて販売されていたこと、2)多数の飲食店において、サメ軟骨を
梅肉で和えた料理の名称として「梅水晶」の語が用いられ、客に提供されて
いたこと、3)料理レシピを掲載しているウェブサイトにおいて、サメ軟骨の
代わりに鶏軟骨等を用い、これを梅肉で和えた料理が「梅水晶」の名称で複
数紹介されていたことが認められる。
これらの事実によれば、本願の指定商品の需要者は、「梅水晶」の語が本願
商標の指定商品に使用された場合には、サメ軟骨又はその代替として用いら
れる鶏軟骨等を梅肉で和えた惣菜の料理名又はこのような惣菜の商品を一般
的に指す名称であると認識するものといえ、原告の製造販売する商品を認識
するとは認められない。したがって、本願商標は、本願の指定商品との関係において、自他識別力を有しておらず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ
とができない商標であると認められる。
(5) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、1)原告が原告商品の
商品名として独自に考案した「梅水晶」の名称を付し、現在まで25年以
上にわたって販売しており、原告の取引先は平成27年当時で1000社
を超え、これら多くの取引先を通じ、「梅水晶」標章を付した原告商品が全
国のホテルや飲食店に納入されていること、2)全国の原告の取引先が、「梅
水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であると認識できることを証
明する旨の書面に押印していること、3)原告商品を紹介した複数のテレビ
番組において、「梅水晶」の標章を付した原告商品の出所が原告であること
が紹介されたこと、4)「大阪府珍味協同組合」が発行した冊子「食の都 大
阪 五十年の歩み」に掲載された年表\において、平成15年の「珍味組合
員の売筋商品」の欄に「梅水晶(サブ水産)/TVでの紹介があり人気商
品となる」との記載があること、5)原告よりも規模の大きい会社で、原告
商品と競合商品を販売する二つの会社が、「梅水晶」とは異なる標章を付し
て商品を販売していることから、本願商標は、本件審決の時点で、原告の
業務に係る商品を示すものとして、原告商品を取り扱う業界の取引者、需
要者の間に広く知られるに至っていたと主張する。
しかし、原告の主張は、本願の指定商品の需要者が、ホテルや飲食店等
の事業者のみであることを前提としているところ、上記需要者には一般消
費者が含まれると解すべきことは前記(2)のとおりであり、原告の主張には
その前提に誤りがある。
また、前記1)については、「梅水晶」の名称は原告が考案し、原告がサメ
軟骨に梅肉を和えた惣菜商品に本願商標を付して販売を開始した事実が
認められるが(甲93、弁論の全趣旨)、当初は特定の商品の名称として使
用されていた語が、一定期間使用され、当該商品と同種の商品等を指す一
般名称となり、自他商品を識別する標章としての機能を喪失することはあ\nり得るのであって、上記事実があることをもって、本願商標が商標法3条
1項6号に該当すると解し得ないことにはならない。前記2)については、原告が証拠として提出している「証明願」は、一般消費者を含まず、原告の取引先である業者のみの「証明願」にすぎないから、これをもって、「梅水晶」の名称が、原告の商品の出所表示として本願の指定商品の需要者の間で、全国的に認識されるに至ったことを示すもの\nとは認められない。前記3)から5)についても、本願の指定商品の需要者の一部の認識を窺わせる事情にすぎず、一般消費者を含む本願の指定商品の需要者において、
「梅水晶」の名称が原告の商品を表示するものと一般的に認識していたこ\nとを示すものとはいえない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(4)のとおり、「楽天市場」や「アマ
ゾン」において「梅水晶」の語で検索して出てくる商品で、本願の指定商
品と関連するもののうち、原告の出所に係る商品であることが明らかなも
のが、「楽天市場」については約38%、「アマゾン」については50%に
及んでおり、本件審決が別掲1として挙げた事例は少数のデータを恣意的
に抽出したものであって、これらの事例によって一般消費者の間で「梅水
晶」の名称が付された商品が原告の出所に係るものであると理解されてい
るとは認められないと本件審決が判断したのは不当である旨主張する。
しかし、原告の主張を前提としても、「楽天市場」及び「アマゾン」にお
いて「梅水晶」の語で検索して出てくる本願の指定商品と関連する商品の
うち、原告の商品でないものが半数又はそれ以上を占めるのであって、こ
のことからすれば、本件審決が少数のデータを恣意的に抽出して不当な判
断をしたとは解されない。同様に、本判決の前記(3)において挙げた事例も、
少数のデータを恣意的に抽出したものであるとはいえず、これらの事例に
照らし、本願商標が本願の指定商品との関係において自他識別力を有して
いないと判断できることは、前記(4)のとおりである。
ウ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。
その他、原告がるる主張する事情を考慮しても、本願商標は、本願の指
定商品との関係において自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
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2023.10.23
令和5(行ケ)10038 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年10月12日 知的財産高等裁判所
43類「飲食物の提供等」について、商標「athlete Chiffon」は識別力なしとした審決が維持されました。理由は、本件商標は「運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるので、役務の質(内容)を表示したものに過ぎないというものです。\n
本願商標は、「athlete Chiffon」の文字を標準文字で表\nしてなるところ、その構成中の「athlete」の文字は、各種英和辞典\n(乙1〜4)により、「運動選手。スポーツ選手。アスリート。」等の意味
を有するものとして掲載され、その表音を片仮名で表\した「アスリート」の
文字は、国語辞典(乙5)に、「運動選手」を意味するものとして掲載され
ている。また、その構成中の「Chiffon」の文字は、各種英和辞典(乙\n1,6)に「シフォン(絹、ナイロンの透けるような布)」「絹またはナイ
ロンの軽くて柔らかい織物」を示す名詞や、「軽くてふんわりした。」「〔ケ
ーキなどが〕軽くてフワフワした」等の意味を有する形容詞として挙げられ
る「chiffon」に由来するものであり、また、その表音を片仮名で表\
した「シフォン」の文字は、国語辞典(乙7)に、「うすくやわらかい絹織
物」との意味の他、複合語として「シフォンケーキ(chiffon ca
ke)」(たまごの白身をよく泡立てて加えた、ふんわりして口どけのいい
スポンジケーキ。(用例)「紅茶―」)」が掲載されている。これらは、い\nずれも、平易な単語として一般に親しまれているものである。
(3) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲4〜9、乙8〜59)によれば、菓子や
パン類を含む飲食物や、各種の商品又は役務について、運動選手向けである
という商品又は役務の種類を表すものとして「アスリート」「athlet\ne」(欧文字は語頭もしくは全体が大文字のものを含む。以下同じ。)の文
字を語頭に配した「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等の語が、
広く使用されている実情が認められる。そうすると、当該「アスリート」の
部分は、後半に続く商品又は役務が「運動選手向け」であることを示すもの
として取引者、需要者に認識されるものといえる。
この点、原告は、「athlete」の語からは、「元気」「頑丈」「健
康」等の優れたイメージが想起され、「アスリート」の文字を語頭に配した
商品において、需要者として、運動選手以外の人も想定される旨主張する。
しかし、標章中の「アスリート」「athlete」が取引者・需要者に
「運動選手向け」の商品又は役務を示すものとして認識されるからといって、
その実際の需要者として運動選手のみが想定されることになるものではな
く、両者は次元の異なる問題である。
また、原告が援用する「アスリート」「athlete」を含む商標登録
例又は使用例(甲22、30〜54、65〜69)も、上記の認定(語頭の
「アスリート」「athlete」の語は後半に続く商品又は役務が「運動
選手向け」であることを示すものとして取引者、需要者に認識されること)
を妨げるものではない。
(4) 各種ウェブサイトや新聞記事(甲10〜12、14、75、乙60〜10
0)において、「シフォン」「chiffon」が「シフォンケーキ」の略
であることを前提に、語頭に、その提供対象を表す語を配した例(「お子様\nシフォン」「お一人さまシフォン」等)、原材料、味を表す語を配した例(「バ\nナナシフォン」「チョコシフォン」等)、行事等の名称を表す語を配した例\n(「バレンタインシフォン」「ひなまつりシフォン」等)が広く使用されて
いることが認められる。なお、前掲乙8では、パンと菓子の教室のメニュー
で、「アスリートシフォン」というシフォンケーキが提供されている。また、
各種ウェブサイトや新聞記事(甲75,79,80、乙101〜130)に
よれば、シフォンケーキ専門の飲食店や店舗の店名に「シフォン」「chi
ffon」が用いられていることが認められる。
そうすると、「シフォン」「chiffon」の語頭に、提供対象や原材
料、味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォン(シ\nフォンケーキの略称)」の種類、内容を表すものであると容易に理解される\nとみるのが相当である。
この点、原告は、多数の商標登録例やグーグルで検索された実例から、飲
食物を販売又は提供する業界でも「Chiffon」がシフォンケーキを意
味しない例が多数存在する旨主張する。
しかし、「chiffon」を含む商標又は店名を使用してシフォンケー
キ以外の飲食物を提供している実例があるからといって、飲食物の提供に係
る取引者、需要者の多くが、「chiffon」をシフォンケーキと認識す
ることに変わりはないのであって(この認定を覆す反証としては不十分であ\nる。)、原告の主張は上記認定判断を左右するものではない。
(5) 以上によれば、前半に「athlete」の文字と、後半に「Chiff
on」の文字とを表し組み合わせた「athlete Chiffon」と
の文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「運動選手向
けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、
これをその指定役務中、「運動選手向けのシフォンケーキの提供」に使用し
ても、これに接する取引者、需要者に、当該役務において提供される飲食物
が運動選手向けのシフォンケーキであること、すなわち、役務の質(内容)
を表示したものとして認識させるにとどまり、役務の質(内容)を普通に用\nいられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから、商標法3条1\n項3号に該当するといわざるを得ず、これと同旨の本件審決の判断に誤りは
ない。
なお、原告の前記第3の1(1)ウの主張(「athlete Chiffo
n」という名の実際の店でシフォンケーキ以外のスイーツも取り扱われ、ア
スリートの顧客は4分の1程度であるなど)は、上記判断を左右するもので
はない。
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2023.10.10
令和5(行ケ)1004 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所
指定商品・役務「産業用ロボット並びにその部品及び付属品」、「荷役用ロボットの貸与など」の商標「ラース/RaaS」は識別力がない(商3条1項3号)、または品質誤認が生ずる(商4条1項16号)とした審決が維持されました。
そして、証拠(乙1〜21)及び弁論の全趣旨によれば、下段の「RaaS」
の欧文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(「Robot as a S
ervice」又は「Robotics as a Service」)の
略で、「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスで
あり、ロボット本体やロボットを制御するシステムを自社でつくり運用する
のではなく、ロボット本体をレンタルし、クラウド上にある制御システムを
利用するしくみ」を意味するものとして、上段の「ラース」の文字はその読
み方として一般に用いられていること、このような意味における「ロボッ
ト・アズ・ア・サービス(RaaS)」の概念は、本願の指定商品及び指定
役務に係る物流業界、製造業界、金属加工業界、食品加工業界を含む産業界
において注目を集め、実際に、一部の業界において、「RaaS(ラース)」
と称されてロボットが提供(貸与)されていることが認められる。
そして、本願商標は、上段に「ラース」の片仮名を、下段に「RaaS」
の欧文字を二段に表してなるものであるが、特に図案化がされているもので\nもなく、普通に用いられる方法で表示されたものである。\n
(3) そうすると、「RaaS」の欧文字及びその読み方を表した「ラース」\nの片仮名を二段に表したにすぎない本願商標に接した取引者、需要者は、\n「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスのための
ロボット並びにその部品及び附属品」及び「ロボットをサービスとして提
供・利用することができるサービスのためのロボットの貸与」を意味するも
のと理解し、本願の指定商品及び指定役務との関係においては、本願商標は、
商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供する物、提供の方法を表した\nものと認識するにとどまるというべきである。
よって、本願商標は、商品の品質、用途及び役務の質、提供の用に供す
る物、提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標\nであるから、商標法3条1項3号に該当する。
(4) これに対し、原告は、「RaaS」自体に特定の意味がなく、「RaaS」
から商品又は役務の特徴等を認識できないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、本願商標を構成する「RaaS」、「ラー\nス」の文字は、ロボット・アズ・ア・サービス(ロボットをサービスとして
提供・利用することができるサービス)を意味するものとして用いられてい
ること、このような意味における「RaaS(ロボット・アズ・ア・サービ
ス)」の概念は、本願の指定商品及び指定役務に係る物流業界、製造業界、
金属加工業界、食品加工業界においても注目を集めていることが認められる
のであって、「RaaS」が頭文字の集合体であるからといって、それ自体
から特定の意味を認識させないとはいえない。
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2023.09.18
令和5(行ケ)10031 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月7日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)、商標「池上製麺所」(標準文字)が識別力無しとした審決を維持しました。
1 商標法3条は商標登録の要件を規定するものであり、同条1項柱書及び同項
4号によると、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章の\nみからなる商標」は、商標登録を受けることができないものとされている。これは、
ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章は、特定人によるそ\nの独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合、自
他商品・役務識別力を欠くと考えられることから、このような標章のみからなる商
標については、登録を許さないとしたものと解される。
そして、ありふれた氏に業種名や会社の種別、屋号に慣用的に用いられる文字等
を結合し、普通に用いられる方法で表示したものは、当該ありふれた氏を称する者\n等が取引をするに際して、商標として使用することを欲するものと考えられ、同様
に特定人による独占的使用になじまず、かつ、その表示だけでは自他識別力を欠く\nものというべきであるから、特段の事情のない限り、「ありふれた名称」に当たると
解するのが相当である。
2 本願商標は、「池上」の文字と「製麺所」の文字からなる結合商標である。以
下、各構成部分について検討する。\n
(1) 「池上」について
「池上」は、我が国において氏として約4万4100人に用いられている文字で
あり(甲16、39、乙4)、商標法3条1項4号所定の「ありふれた氏」に当たる。
原告は、「池上」は様々な意味を有する語であり、姓氏を表すと即座に認識されな\nいから「ありふれた氏」に当たらないと主張するが、前記のとおり、「池上」が我が
国において4万人以上の者に用いられている氏であることが認められる以上、「池
上」の文字が姓氏以外の意味を有することがあるからといって、それが「ありふれ
た氏」に該当しなくなるわけではない。したがって、原告の前記主張は採用するこ
とができない。
(2) 「製麺所」について
ア 後掲各証拠によると次の事実が認められる。
(ア) 「製麺所」は、「麺類を製造すること」を意味する「製麺」(乙6)に、場所を
意味する「所」が付されたもので、麺類を製造する所を意味する。
(イ) 香川県では、卸売りをする讃岐うどんの製麺所において、昼時に、セルフサー
ビスで客がうどんを湯掻いて食べるという業態のうどん店が多く存在する。これら
のうどん店は「製麺所タイプ」、「製麺所スタイル」などと呼ばれ、香川県内には、
原告が運営する「池上製麺所」の他に、「松下製麺所」、「多田製麺所」、「穴吹製麺所」、「藤村製麺所」、「日の出製麺所」、「讃岐製麺所」、「三嶋製麺所」(2か所)、「大川製麺所」、「宮川製麺所」、「上田製麺所」、「岡製麺所」、「上野製麺所」といった店名の製麺所タイプ(製麺所スタイル)のうどん店がある。(甲12、50、69、乙7、8、10、12、33〜35、45〜47、51)
(ウ) さらに、日本全国において、うどんやラーメン等の麺類を提供する飲食店にお
いて、「○○製麺所」という名称が用いられていることが認められる。香川県内で「〇
〇製麺所」の名称を用いてうどんを提供している前記うどん店以外のこれらの飲食
店の具体的な所在地及び店名は別紙「製麺所」の使用状況記載のとおりである。(甲
12、41〜47、49〜54、乙9、11、13〜32、36〜42)
イ 前記アの各事実に照らすと、「製麺所」の名称は、もともとは、麺工場などの
麺類を製造する所を指していたものであるが、製麺所において飲食物であるうどん
等を提供するという業態が一般化するなどし、さらには、少なくとも本件審決時ま
でに、全国的に、「○○製麺所」という名称のうどんやラーメン等の麺類を提供する
飲食店が少なくない数において存在するに至っているということができる。このよ
うな実態に照らすと、本件審決時においては、本願商標の指定役務である「飲食物
の提供」の取引者、需要者は、「製麺所」の名称について、麺類を製造する所を意味
するものと認識、理解するのみならず、麺類を提供する飲食店を指す店名の一部と
して慣用的に用いられているものと認識、理解すると認めるのが相当である。
ウ この点、原告は、全国のうどん店・ラーメン店の数からすると「〇〇製麺所」
の名称を用いた店舗数はごくわずかであり、「製麺所」の文字からうどんの麺やラー
メンの麺等の商品を取り扱う業種が連想されるとしても、飲食物の提供という業種
は連想されないと主張する。しかしながら、前記ア(イ)(ウ)からすると、「○○製麺所」
という名称を用いた飲食店の数がごく僅かであるとはいい難い。また、前記ア(イ)(ウ)
の各店舗のほかに、「〇〇製麺所」と近似した名称である「○○製麺」との名称を用
いるうどん店が存在することは公知の事実であり、食品の製造をする場所において、
製造した食品を用いた飲食物を提供することはよく行われることであるから、需要
者である一般消費者にとって、「製麺所」との文字から、製麺所で製造された麺を用
いた飲食店を連想することは容易であるということができる。これらの点に照らす
と、本願商標の指定役務である「飲食店の提供」の取引者及び需要者は、「製麺所」
の文字から「麺類を提供する飲食店」すなわち「飲食物の提供」の役務を想起する
というべきである。したがって、原告の前記主張を採用することはできない。
3 本願商標について
本願商標は、ありふれた氏である「池上」と、麺類を提供する飲食店を表すもの\nとして慣用的に用いられている「製麺所」を組み合わせた「池上製麺所」を標準文
字で表したものであり、「池上」氏又は「池上」の名を有する法人等が運営する麺類\nを提供する飲食店というほどの意味を有する「池上製麺所」というありふれた名称
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認められるから、\n商標法3条1項4号に該当するというべきである。
原告は、過去の審決(甲55〜58)において示されたように、名称全体として
多数存在するものでなければ「ありふれた名称」に当たらないと主張するが、商標
法3条1項4号の文言上、「ありふれた名称」であると認めるために当該名称が現に
多数存在することは要件とはされておらず、ありふれた氏である「池上」と、麺類
を提供する飲食店を示すものとして慣用的に用いられている「製麺所」とを結合し、
普通に用いられる方法で表示した本願商標は、本件全証拠によっても、我が国にお\nける飲食店の取引者、需要者が、特定人の運営する飲食店(原告店舗)を意味する
ものであることを認識することができるほどの自他識別力を有するに至ったことを
認めるに足りない。したがって、本願商標は、特定人の独占にはなじまず、自他識
別力を欠くものとして、同条1項4号の「ありふれた名称を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標」と認めるほかはない。原告の指摘する各審決は、\nいずれも本件とは指定商品及び指定役務等を異にする事案である上、当該各審決に
係る商標登録の有効性(同法46条1項1号)について裁判所の判断がされたこと
を認めるに足りる証拠はないから、本願商標が同法3条1項4号に該当する旨の前
記判断を左右するに足りるものではない。
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2023.09.18
令和5(行ケ)10029 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年8月31日 知的財産高等裁判所
知財高裁(4部)は、商標「熟成鰻」は識別力無し(3条1項3号)とした審決を維持しました。
本願商標は、別紙のとおり、縦長長方形風の枠の中に「熟成鰻」の文字を
筆文字風書体で縦書きしてなるものである。その構成中の「熟成」の文字は、広辞苑第7版(乙1)によれば、「1)十分に熟してできあがること。2)[化]物質を適当な温度に長時間放置して化学変化を行わせること。発酵の調節、コロイド粒子や沈殿の粒径の調節などにいう。時効。3)蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用によ
り、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること。なれ。」
を、デジタル大辞泉(審査手続における手続補足書〔甲5〕で引用)によれ
ば、「1 成熟して十分なころあいに達すること。「機運が熟成する」 2
魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うまみが出るこ
と。・・・3 物質を適当な温度などの条件のもとに長時間おいて、ゆっく
りと化学変化を起こさせること。」を意味する。また、広辞苑第7版(乙2)
によれば、「鰻」の文字は、「ウナギ科の硬骨魚の総称、またその一種。」
を意味するものであり、一般に親しまれた語であり、各文字の語義自体から
「熟成させた鰻」を意味するものということができる。
(3) 各種ウェブサイトによれば、「熟成」の語は、食品又はこれに関する役務
の分野では、化学変化や酵素等の作用により、風味やうまみをだすとの意味
において、魚一般について用いられているほか(乙3〜12。「熟成魚」と
の表現もある。)、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟\n成うなぎ」との端的な表現もある(乙23〜28、30、32。そのうち、\n乙23〔クラウドファンディング情報。令和3年10月26日募集開始〕、
25〔オークション結果。令和2年7月4日開始、同月5日終了〕、28〔「旨
味熟成うなぎ」を商品化したとの平成26年5月の記事が引用されている。〕
は、本件審決の日である令和5年1月30日より前に使用されたことが明ら
かである。)。さらに、「熟成鮭」、「熟成鯛」、「熟成マグロ」、「熟成鰹」など、上記意味における「熟成」と魚の名前を組み合わせた用例は枚挙に暇がない(乙
33〜42)。
(4) 以上からすると,本願商標の「熟成鰻」からは,熟成させた鰻という意味
合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,その
指定役務の質を示すものと認識するにとどまるものと解される。
これに対し、原告は、「熟成うなぎ」の「熟成」は、鰻が十分に熟してで\nきあがった状態、すなわち大きく成長した状態であること、あるいは、タレ
が熟成したこととの意味も含みうる多義的な表現である旨主張する。\nしかし、原告の主張を前提としても、「熟成鰻」が識別力を有さない記述
的表示と解さざるを得ないことに変わりはないし、これを措くとしても、「大\nきく成長した状態」を示すのであれば、「成熟」を用いることがむしろ自然
であり、また、「熟成うなぎ」の語から、そこに何ら表示されないタレの熟\n成を想起するとはいえない。原告の提出する甲15〜17その他の証拠は以
上の認定判断を覆すものではない。原告の上記主張は採用できない。
(5) 次に、「普通に用いられる方法で表示」の要件についてみるに、各種ウェ\nブサイトによれば、飲食店一般において、提供される料理の質(内容)を筆
文字風の書体をもって四角囲みで表示することが普通に行われている(乙4\n3〜50)上、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限ってみても、
筆文字風の書体を四角囲みで表示することが普通に行われているものと認\nめられる(乙51〜60)。
原告は、本願商標は書家の手になるもので唯一無二のものであり、「熟成
鰻」の文字を囲む長方形も角が丸くかすれた部分があるなど独自の部分があ
るなどと主張するが、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものでは\nない。
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2023.09.17
令和5(行ケ)10030 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年9月7日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、商標「くるんっと前髪カーラー」(標準文字)は識別力有りとした審決を、取り消しました。
前記ア(イ)及び(ウ)のとおり、「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件査定日当
時、それぞれ前記ア(イ)及び(ウ)の意味を有するものとして、我が国において高い信
頼性を有すると認められる国語辞典に掲載されていたものであるところ、弁論の全
趣旨によると、当該各語がそのような意味を有する語であることは、本件査定日当
時、本件商品に係る取引者又は需要者(以下、本件商品に係る本件査定日当時の取
引者又は需要者を「本件需要者等」という。)にとって極めて明確であったものと
認められる(以下、本件商標に接した本件需要者等の認識を検討するに当たり、
「前髪」及び「カーラー」の各語については、「額に垂れ下がる髪」、「頭髪を巻
き付けてカールさせるための円筒形の用具」などと敷えんすることはせず、これら
の語をそのまま用いることとする。)。
他方、辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例(前記ア(ア))、本件査
定日前のウェブサイト及び新聞記事における「くるんと」等の語の使用例(前記イ
及びウ)並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪に
ついて用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として
用いられている。また、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例(前記
イ)に照らすと、「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互
いに意味を異にするものとは認められない。そうすると、「前髪」の語の直前に置
かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾すること\nになる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、
通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識さ
れるものと認めるのが相当である。
なお、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例の中には、「くるんと」
等の語が、毛髪が丸く曲がった様子を示すというよりも、商品であるカーラーを回
転させる動作の様子を示す副詞として用いられていると認められるもの(1)「くる
んと巻きます」(前記イ(セ))、2)「はさんでクルンとする」(前記イ(ソ))、3)
「はさんでくるっの超簡単ステップ」(前記イ(チ))、4)「挟んでくるっとするだ
け」(前記イ(ツ)))がある。しかし、仮に、本件商標の構成中の「くるんっと」\nの語がカーラーを回転させる動作の様子を示す語として用いられていたとしても、
当該語は、カーラーを使用する者の当たり前の動作を表現するものにすぎないから、\n商標法3条1項3号該当性との関係では、商品の用途や使用の方法を普通に用いら
れる方法で表示したことになるだけであり、かつ、当該動作によりカーラーを使用\nした結果は、前髪が丸く曲がった状態のはずであるから、本件商標に接した本件需
要者等の認識が前記したもの(「くるんっと」という語は、前髪が丸く曲がった様
子を示すものであるとの認識)と異なるものになるとは思われない。
以上によると、本件査定日当時、被告商品(甲14、15の1及び2、甲42、
44)及び商品名を「前髪くるんとカーラー」とする原告の商品(乙2)を除くほ
か、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について
用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前
髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前
髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。
なお、証拠(甲14、15の1及び2、甲42、44)及び弁論の全趣旨によると、
被告は、本件査定日当時、被告商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「く\nるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪
をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていたとの事実が認め
られるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等にお
いて、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識
したとの上記認定に符合するものである。
オ 被告の主張について
被告は、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は副詞であるのに、本件商標の\n構成中にはこれを明確に受ける動詞が存在せず、本件商標が意味するところは一義\n的に特定することができるものではないと主張する。
確かに、「くるんっと」という擬態語は、文法上、用言(動詞、形容詞等)を修
飾する副詞であると考えられるにもかかわらず、本件商標の構成中の「前髪」及び\n「カーラー」の各語は、いずれも名詞であるから、「くるんっと」の語が修飾すべ
き語が本件商標の構成中には見られないことになる。しかしながら、本件需要者等\nにおいて、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語の相互の修飾関係が
文法的に正確なものでなければ、これらの語を順番に並べた語句の意味を一義的に
把握することができないということはできない。実際、ウェブサイトにおける「く
るんと」等の語の使用例の中にも、「前髪くるんっの仕方」との語句を用いた例
(前記イ(ケ))、「くるん前髪」との語句を用いた例(前記イ(シ))、「くるんがキ
マる」との語句を用いた例(前記イ(チ))、「くるん前髪」との語句を用いた例
(前記イ(ツ))等がみられるところ、これらは、いずれも文法的に正しい表現では\nないが、そのことをもって、その意味するところが不明確になるということはでき
ない。
被告は、「くるんっと前髪カーラー」の語句からは、1)「「くるんっと丸まった
弾力のある表面」を有する前髪用のカーラー」、2)「「くるんっと振り向いても」
キープされるカールを作る前髪用のカーラー」、3)「「くるんっと寝返りを打って
も」前髪のカールを作ることができるカーラー」、4)「前髪を挟んで「くるんっと
回す」カーラー」などの様々な意味合いが想起されるとも主張する。
しかしながら、このうち、前記1)から3)までのような意味合いは、理論的にはあ
り得るとしても、前記ウェブサイトの使用例その他本件に提出された全証拠によっ
ても、「前髪」や「カーラー」と一緒に使用される場合の「くるんっと」という語
は、もっぱら「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すために用いられていることが
認められ、被告が主張するような意味合いで用いられている例は見当たらない。ま
た、前記4)の意味合いについては、そのような意味合いが生じる使用例(前記イ
(セ)、(ソ)、(チ)及び(ツ))は存在するものの、前記エにおいて説示したところに照ら
すと、商標法3条1項3号該当性に関する判断を左右するに足りるものではない。
以上のとおりであるから、被告の前記各主張を採用することはできない。
(3) 本件商標の商標法3条1項3号該当性について
前記(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、
当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになる
ところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」
であるから(前記(2)ア(ウ))、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商
品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。また、\n本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の語句のみからなり、当該語句を標準文
字で表すものであって、本件商品の効能\等を普通に用いられる方法で表示するもの\nである(「くるんと」の語に促音を付加した「くるんっと」の語を用いた表現が特\n殊なものであるということはできない。)。したがって、本件商標は、本件商品の
品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなる商標であるとい
うことができるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。
被告は、本件商標は本件商品の品質等を直接的かつ具体的に表示するものとはい\nえないから、同号に掲げる商標に該当しないと主張する。しかしながら、前記(2)
において説示したところに照らすと、本件商標は、本件商品の品質、効能等を間接\n的に暗示するにとどまるものではなく、これを直接的かつ具体的に表示するもので\nあると認められるから、同主張は採用することができない。
また、被告は、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき特定の者による独占使
用を認めても何ら弊害はないと主張する。しかしながら、「くるんっと前髪カーラ
ー」が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものとして、本件商品
の品質、効能等を普通に用いられる方法で表\示する標章である以上、他の事業者に
おいて、本件商品に該当する商品の製造、販売等をするに当たり、「くるんっと前
髪カーラー」と同一又は類似の標章を用いようとすることは当然に想定されるとこ
ろであるから、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき独占使用を認めても何ら
弊害はないとの被告の主張を採用することはできない。
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2023.08.23
令和5(行ケ)10003 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
位置商標について、識別力無しとした審決が維持されました。本件商標は、靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、配置されたステッチ状の黄色の破線です。3条2項の主張も認められませんでした。原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)です。
前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以
降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約
35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。
また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が
高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブ
ーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認めら
れる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品に
ついては、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない
状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に
存在するとはいえない。
本願商標の指定商品である革靴、ブーツは、広く一般の需要者を対象とする商品
であるにもかかわらず、本件アンケート調査は、本調査としてその対象者を「店舗、
通販サイト、雑誌等で革靴やブーツを見ることがある方」であり、かつ、「1年以内
に革靴やブーツを購入した方」と限定し、これによって革靴やブーツに関心のない
層が除外されることになるが、そのような層も必要に応じて生活必需品等として革
靴やブーツを買うことが予想されることに照らすと、本件アンケート調査における\n本調査の対象者の限定については相当性の有無との問題があるものの、本件アンケ
ート調査の結果によると、本願商標の特徴を有する黒い革靴の黄色ステッチ部分の
写真を見た需要者(店舗等で靴やブーツを見ることがある者及び1年以内に革靴や
ブーツを購入した者)のうち、30.7%が原告ブランド名を想起することができ、
選択肢を示された場合には37.6%が原告ブランドを選択することができており、
これらの割合は、原告ブランド以外のブランド名を回答した者と比べても有意に多
く、最も多く回答された他のブランド名であるティンバーランド(Timberland)を回
答した者の割合(7.9%)の4倍以上である。この点につき、ブランドの数が多
く、かつ、購入する頻度の低いファッション製品の場合は、一般消費者が、商品の
形状に触れ、その形状からブランド名を想起する機会が多いとはいえないことから
すると、15%を超える認知度があれば、十分識別力があるといえるのと見解もあ\nること(甲59)を踏まえると、本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただ
し、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相
当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブラン
ド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高い
ものと認めることができる。
しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに\n用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くと
はいえない。また、前記(2)アのとおり、原告商品の多くは、アウトソール及びウェ\nルトが黒又は茶系統の色であって、黄色のステッチの視認性が高くなる態様で本願
商標が用いられており、黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、
本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認され
るところ、雑誌やブログ等の記事においても「黄色のステッチは、暗い色の革と魅
力的なコントラストを生む」(前記(2)オ(イ))、「ツヤのあるブラックレザーにマーチ
ンの象徴、イエローステッチが引き立ちます。」(同(エ))などと地の色とのコントラ
ストにより黄色のステッチが目を引くものであることを指摘するものがあることか
らして、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めるこ
とはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェ\nルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部
分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以
外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示\nすものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール\n及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通して
いたことが認められるところ(別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)及び(ツ))これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するな
どもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が\n十分にある。\nそうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知
度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用い
られる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。
なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定め
られるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が
黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及び\nウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を
評価することは相当ではない。
(4) 原告の主張について
原告は、本願商標について、1)視認性が低い態様で用いられた場合には、商標法
上の「使用」に当たらず、2)黄色の破線状の図形が需要者に特に強く識別されない
ような態様で使用する場合には商標法26条1項2号又は6号により商標権が及ば
ないから、他事業者の自由使用が殊更に制限されることはなく、むしろ、3)本願商
標の周知性からすると本願商標と類似する標章を使用した商品を販売等する行為は
不正競争防止法2条1条1号の不正競争に該当するから、本願商標を登録すること
は公正な競争秩序に資すると主張する。
しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本願商標の範囲を、黄色の破線状の図
形が需要者に特に強く識別される態様、すなわち、黒色のアウトソール及びウェル\nトとともに用いられる場合に限定して解釈することはできないのであって、本願商
標が、黄色やベージュ色のアウトソール及びウェルトとともに用いられる場合もそ\nの商標権の範囲に含まれるというほかない。また、商標法は、商標を保護すること
により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発展に寄与し、あ
わせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ(同法1条)、商
標の本質は自他識別機能にあるから、これを欠くような商標については登録が認め\nられず(同法3条1項)、自他識別機能を有していないにもかかわらず過誤等により\n登録された場合や、登録後に自他識別機能を失った場合には、その権利が制限され\nるものである(同法26条 1 項等)。本件では、商標登録出願の登録の可否が問題と
なっているところ、登録商標の範囲は願書の記載により画されるものであるから(同
法27条)、登録後に、本願商標又はそれと類似する商標を使用したとしても、商標
法上の「使用」に当たらないと解したり、同法26条1項各号に該当することなど
を理由として、商標権の権利範囲が制限され得ることをもって、登録時において商
標権の範囲を狭く解釈して登録の可否を検討するなどということは、商標の本質で
ある自他識別機能の有無を問わずに登録を認めることにもなりかねず、相当ではな\nい。
また、本願商標の周知性については前記(3)のとおりであり、アウトソール及びウ\nェルトの色を問わず、本願商標について周知性が高いとまでいうことはできない。
不競法地裁判決は、原告商品の形状のうち、「靴の外周に沿って、アッパーとウェル
トを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出\nし、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルト
とのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告
商品の形態」が、令和2年時点で不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」と\nして周知であると判断したものであって(甲113)、本願商標には含まれない特徴
である「黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭
に視認できるという形態」を含めて商品等表示に当たるものとしている。そうする\nと、仮に上記形態について商品等表示性が認められたとしても、これをもって、本\n願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当する
と認めることはできない。
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2023.06. 6
令和4(行ケ)10065 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年5月22日 知的財産高等裁判所
IOCが保有している商標「五輪」(標準文字)について、3条、4条6、7、10号違反とする無効審判が請求されました。審判請求は棄却されました。知財高裁も、審決の判断をそのまま維持しました。原告は個人です。審決によると、請求人らは、ブログ及びYouTubeチャンネルを通じて、オリンピック関連商標について多くの情報発信と意見交換をする個人とのことです。
取消事由2(商標法3条1項柱書きの要件の判断の誤り)について
原告らは、被告は、本件商標の全指定商品・役務について、「五輪」が創作・
使用されて以来現在に至る80年以上という長期間にわたり、本件商標を全く
使用していないこと、当該期間中、被告は、ほぼ間断なくオリンピック競技大
会を開催していたことを考慮すれば、被告が、本件商標の査定・審決時に事業
(オリンピック競技大会)を現に行っていることだけを根拠に、被告が当該事
業の表示として本件商標を使用する意思を有していたことを推認することがで\nきないから、本件商標が商標法3条1項柱書きの要件を具備するとした本件審
決の判断に誤りがある旨主張する。
そこで検討するに、1)被告(IOC)は、国際的な非政府の非営利団体であ
って、オリンピック競技大会を運営・統括しており、平和でよりよい世界の実
現に貢献するというオリンピックの理念であるオリンピック憲章に従い、オリ
ンピズムを普及させる役割を担っていること(甲5の4、6)、2)オリンピッ
ク競技大会は、被告によって、開催都市と開催地の国内オリンピック委員会の
協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じ
た社会一般の利益に資することを目的としていること(甲5の1、6の1)、
3)2019年2月21日付け日本経済新聞ネット版(甲10の4)には、「国
際オリンピック委員会(IOC)が、オリンピックを意味する日本語の「五輪」
について特許庁に商標登録を出願し、認められたことが21日までに分かった。
2020年東京五輪・パラリンピックを控え、公式スポンサー以外の便乗商法
を防ぐのが狙い」、「IOCは東京大会の組織委員会を通じて「日本で『五輪』
はIOCが開催するオリンピックを意味するものとして周知、著名だ。既に不
正競争防止法の保護対象となっているが商標登録で権利の所在をより明確にし、
ブランド保護を確実にしたい」、「今後、組織委はスポンサー以外の企業や団
体などが商品名やサービスとして五輪を使った場合、権利が侵害されているか
どうかを判断し、使用中止を求めるという。」との記載があることを総合する
と、被告は、「五輪」の俗称でも親しまれているオリンピック競技大会の主催
者であって、本件商標の登録査定時において、オリンピック競技大会を指称す
る「五輪」の語を使用する意思を有していたものと認められるから、「五輪」
の標準文字を書してなる本件商標は、被告との関係において、「自己の業務に
係る役務について使用をする商標」(商標法3条1項柱書き)に該当すること
が認められる。
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2023.03.21
令和4(行ケ)10089 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年1月31日 知的財産高等裁判所
赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンの色商標が、識別力無しとして拒絶されました。3条2項の適用も認められませんでした。裁判所も同じです。
2 単一の色彩のみからなる商標の商標法3条2項の該当性について
本願商標は、別紙1 及び の記載から特定される色彩のみからなるもの
であり、女性用ハイヒールの靴底部分に赤色(PANTONE 18-1663TP)とす
る構成からなるものである。\nこのように本願商標は、単一の色彩のみからなり、その色彩を付する位置
を上記部分に特定した商標である。
商標法3条1項は、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商
標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる旨を
規定し、同項3号において、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、\n用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴、数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章\nのみからなる商標」を掲げる。
同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は、このような商
標は、商品の産地、販売地、品質その他の特性を表示記述する標章であって、\n取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと
もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、
商標としての機能を果たし得ないことによるものと解される(最高裁昭和5\n3年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事1
26号507頁参照)。
そして、商品の色彩は、商品の特性であるといえるから、同号所定の「そ
の商品の・・・その他の特徴」に該当するものと解される。そして、商品の
色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択
されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的なものや商品の機能を\n確保するために必要とされるものもあることからすると、取引に際し必要適
切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、原則として何人も\n自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみから
なる商標については、同号の上記趣旨が強く妥当するものと解される。
他方で、商標法3条2項は、同条1項3号に該当する商標であっても、「使
用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識
することができるもの」については、同項の規定にかかわらず、商標登録を
受けることができる旨規定する。
商標法3条2項の趣旨は、同条1項3号に該当する商標であっても、特定
の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標が
その商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能\を持つに至り、公益上の
見地から不適当とされていた特定人による当該商標の独占的使用を例外的に
認めるということにある。
こうした商標法3条2項の趣旨に照らせば、自由選択の必要性等に基づく
公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が同条
同項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である
ことを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使
用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の
例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること
(独占適応性)を要するものと解するべきである。
なお、色彩のみからなる商標等を商標登録の保護の対象とした平成26年
法律第36号改正附則5条3項には、不正競争の目的なく登録商標又はこれ
に類似する商標を使用していた者に継続的使用権を認める旨の規定があるが、
これはあくまで「法律の施行の際に現にその商標の使用をしてその商品・・・
に係る業務を行っている範囲内において」その商品等に関する商標を使用す
る権利を認めるにすぎず、こうした改正附則の規定があるからといって、色
彩のみからなる商標登録において特定人による色彩の独占適応性を考慮する
ことを否定する理由にならないというべきである。
◆判決本文
不競法についての関連事件です。
◆令和4(ネ)10051
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2023.01.28
令和4(行ケ)10062 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和5年1月24日 知的財産高等裁判所
三菱鉛筆が「ユニ色」について色彩のみからなる商標を出願しましたが、知財高裁(2部)は識別力無しとした審決を維持しました。
前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において
取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商
品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当
程度の認知度を有しているものと認められる。
しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩
及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を
含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広
く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標の
みから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本
願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニ
シリーズであることを端的に示す「MITSU−BISHI」、「uni」、「H
i−uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が
原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。
加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛
筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需
用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は
比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブ
ランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、
uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、
本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんで
いる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。
以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからな
る本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至って
いると認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る
商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使\n用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独
占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて
判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた
結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該
当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 原告は、本願商標は原告が採択した独自の色彩であって、原告以外の善意
の取引者が偶然に使用することはあり得ないものであるから、自他商品識別標識と
して機能すると主張する。\nしかしながら、原告が単一の色彩のみからなる商標(色彩)を採択した経緯や、
当該商標と同一の商標を一定の指定商品及び指定役務について使用する者がないこ
とは、当該商標が自他商品識別標識又は自他役務識別標識として機能するか否かと\nは直接の関係がないことであるから、原告の上記主張を採用することはできない
(原告は、本願商標が自他商品識別力を欠くというためには、本件指定商品につい
て、本願商標と同一の商標が既に第三者によって当該商品の色彩として使用されて
いることが必要であるとも主張するが、独自の見解であり、採用できない。)。
(2) 原告は、1)これまで数多くの新聞、雑誌等において、本願商標に係る記事
が掲載されてきたこと、2)これまで長年にわたり、新聞、テレビ等において、本願
商標が使用された原告商品の広告が行われてきたこと、3)原告は、鉛筆の市場にお
いて極めて高い市場占有率を誇り、また、本願商標を使用した多数の原告商品が全
国の多数の店舗において販売されていること、4)別件商標1及び2について商標登
録がされていることからすると、本願商標は、著名な商標として、自他商品識別標
識として機能してきたと主張する。\nしかしながら、上記1)ないし3)の点については、前記2(2)のとおり、原告商品
が需要者の間において相当の認知度を有していることの根拠となるものではあるも
のの、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在や、本件指定商品で
ある鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の
近似色が広く使用されている実情を考慮すると、上記1)ないし3)の事実が存在する
としても、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業
務に係るものであると認識するということはできない。また、上記4)の点について
は、別件商標1及び2は、いずれも本願商標に係る色彩とそれ以外の色彩との組合
せからなるものであり、その色彩及び配色を特定してなるものであって(甲137、
138)、輪郭のない単一の色彩のみからなる本願商標とは相当に異なるものであ
るから、別件商標1及び2について商標登録がされていることは、本願商標がそれ
のみで自他商品識別力を有することの根拠になるものではない。
以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願商標は「ユニ色」として、商品が原告の業務に係るものであ
ることを直接表示するものとなっており、特別顕著なものであるから、自他商品識\n別標識として機能するものであると主張する。\n確かに、前記1(1)イのとおり、「DICカラーガイドPARTII)(第4版)第
5巻」に収録された「DIC−2251」(本願商標)については、色名が「un
i色」とされており、また、「文具のこが屋」のウェブサイトにおいても、「ユニ
ペンシルホルダー」なる商品の説明として、「本体軸部分には実際の木材を使用し、
ユニのイメージカラーである、…アレンジしたオリジナルカラー(通称「ユニ色」)
と「黒」、「金」をあしらいました。」との記載があるが(甲29)、本願商標に
係る色彩を「ユニ色」と呼称する場合があるとしても、前記2(2)において説示し
たところに照らすと、需用者において、この「ユニ色」のみで、本件指定商品であ
る鉛筆が原告の業務に係るものであると認識するとはいえないといわざるを得ない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は、本願商標が使用された商品(鉛筆)に接した需用者は商品のうち
の狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商
品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識するのであるから、このよ
うな本願商標の重要性に照らすと、本願商標は自他商品識別力を有すると主張する。
しかしながら、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字(なお、当該文
字は、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示すものであ
る。)の存在や、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及び
バーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情を考慮すると、
原告商品に触れた需用者が本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るもの
であると認識することができないことは、これまで説示してきたところであって、
このことは、原告商品(鉛筆)の表面において本願商標に係る色彩が付された面積\nが他の色彩が付された面積に比して大きいことにより左右されるものではない(な
お、証拠(甲47、48、148〜150)によると、原告商品に付された文字が
需用者の目を引くものでないということはできない。)。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 原告は、原告商品の模倣品が存在することは本願商標が自他商品識別標識
として機能してきたことを意味すると主張する。\nしかしながら、原告が主張する模倣品(甲109、110)も、鉛筆の表面に本\n願商標に係る色彩又はその近似色のみを付したものではなく、帯状の黒色を配した
り、金色様の文字を付したりしたものであるから、これらの模倣品の存在をもって、
本願商標に係る色彩のみで自他商品識別力を有するということはできない。したが
って、原告の上記主張は、採用できない。
(6) 原告は、特許庁が別件商標1の見本として、別件商標1の見本に該当しな
い鉛筆(ユニスター)を展示したことをもって、特許庁も専ら本願商標によって鉛
筆が原告の業務に係る商品であると認識している旨の主張をするが、仮に特許庁が
原告の主張するような取り違えをしたからといって、本願商標に係る色彩のみで自
他商品識別力を有するということはできない。したがって、原告の主張を採用する
ことはできない。
◆判決本文
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2023.01.12
令和4(行ケ)10068 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年12月14日 知的財産高等裁判所
商標「次世代3Dプリンタ展」(指定商品・役務は、35類、41類)が識別力あるかが争われました。知財高裁は、識別力無しとした審決を維持しました。
ア 前記1(1)からすると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」は、「次の段階」等を意味する「次世代」の語、「三次元印刷機」等を意味する「3Dプリンタ」の語及び「展覧会」ないし「展示会」の略語である「展」の語から構成されるといえる。そして、「ピカソ\展」の用例からもうかがえるように、「展」の語が、当該展示会等で取り扱われる内容やそれに係る共通の特徴を示す語を冠して「○○展」という形で使用されることがあることは、公知の事実である。
イ 前記1(1)イによると、「次世代」の語は、「次の段階」等をいう場合に特に
「技術」等に関して用いられることが多いとの事情もうかがわれるところ、同(2)ア
のように、「次世代」の語が、「3Dプリンタ」に対し、「次の段階」といった意
味を示す趣旨で付されて用いられている例があることも考慮すると、本願商標であ
る「次世代3Dプリンタ展」に接した者は、本願商標が「次世代3Dプリンタ」の
語と「展」の語とから成るものと理解するというのが自然である。
ウ 前記ア及びイの点に加え、前記1(2)イ(ア)のように、「〇〇展」の語が、「〇
〇」の部分に当該展示会の主たる展示内容(製品、技術等)やそれに係る共通の特
徴を示す語を置く形で用いられている例があり、同(イ)のように、そのような「〇〇
展」の語の使用例の中に「3Dプリンタ」と「展」から成る例があることも考慮す
ると、本願商標である「次世代3Dプリンタ展」の語については、「次の段階の3
Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする展示会」という意味合いを容易
に認識させるものであるということができる。
そうすると、本件審決時である令和4年5月19日の時点において、本願商標で
ある「次世代3Dプリンタ展」は、展示会等に係る本件役務について使用されると
きは、これに接する需要者等において、「次の段階の3Dプリンタを内容又はそれ
に係る共通の特徴とする展示会」を表したものと認識されるというべきであるから、\n役務の内容を認識させるものとして、役務の質を表示する標章に当たるということ\nができる。
エ そして、本願商標は、「次世代3Dプリンタ展」のみからなり、「次世代3
Dプリンタ展」の語を標準文字で記すという、普通に用いられる方法で表示する商\n標であるから、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
なお、以上に関し、仮に、本願商標に接した需要者等において、本願商標が「次
世代」の語と「3Dプリンタ展」の語とから成るものと理解することがあったとし
ても、その場合、「次世代3Dプリンタ展」は、本件役務について使用されるとき
は、「3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする次の段階の展示会」を
表したものと認識され、役務の質を表\示するとともに、役務の提供の態様、提供の
方法又は時期その他の特徴を表示する標章に当たるというべきであるから、本願商\n標が商標法3条1項3号に該当するとの前記判断は左右されない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、本件役務の分野において、「○○展」の語が、一般に、「特定人が
開催等する展示会等の固有の名称」として採択され、使用されていることが明らか
であると主張する。
しかし、原告の主張する使用例(別紙2)全てを前提としても、前記(1)の判断は
左右されない。前記1(1)及び(2)イ(ア)の認定事実等を踏まえると、原告が主張する
使用例についても、「○○」展という展示会等の名称のうち「○○」の部分が展示
会等の内容又はそれに係る共通の特徴を示すものである場合には、当該名称に接し
た者においては、当該展示会等の固有の名称という意味合いと同時に、当該展示会
の内容等を「○○」が示すものと認識するというべきであり、「○○展」が特定人
が開催等する展示会等の固有の名称を示すものであるということから、直ちに、当
該「○○展」が当該展示会等の内容等を示すものであるということが否定されるも
のではない。
この点、原告は、JETROのウェブサイト(甲48、59)において「○○展」
の表示が固有の展示会名称として掲載されている旨を主張するが、展示会等の内容\n等を示す語であっても個々の展示会等の名称とされている以上は上記ウェブサイト
に当該名称をもって掲載されることは当然であるといえ、上記ウェブサイトに「○
○」の部分が直ちに展示会等の内容等を十分に示す語ではない「○○展」の使用例\nとみ得るものが掲載されているとしても、そこに掲載されている他の「○○展」に
ついて「○○」の部分が展示会等の内容等を示すものであることを否定すべきもの
とはならない。したがって、原告の前記主張は、前記(1)の判断に影響しない。
イ 原告は、需要者等の認識に係る使用例(別紙3)について主張するが、前記
アで述べたところに照らし、需要者等が「○○展」の文字を特定人の展示会等を指
称する語として用いている例があるとしても、そのことは、前記(1)の判断に影響し
ない。
ウ 原告は、独占適応性に関し、展示会の業界において、本件役務の取引の実情
の下で、個別具体的な「○○展」の文字は、同種の展示会を開催等する取引者にと
って、事前の調査検討の対象として容易に使用を回避できるものであり、また実際
に他者との重複使用が回避されており、取引に際し必要適切な表示として必ずその\n使用を欲するものとはいえないと主張する。
しかし、そもそも、商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと
規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の
場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表\示記述する標章であ
って、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、\n特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないという理由も有するもの
であって(前掲最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)、単に、同種の展
示会を開催等する取引者の事前の調査検討によって他者との重複使用が回避されれ
ば足りるというものではない。加えて、展示会等の内容等を示す語を冠して「○○
展」の名称が用いられる場合、当該名称を使用する者において、複数の一般的な語
から成る名称であるため特に問題を生じないであろうと考えることは相応に合理的
であるといえ、そのような場合に、その者に、当該名称の使用例が他に存在するか
どうかについて、登録商標の有無を調査する場合と同程度の法的な調査義務を課す
ことは合理性を欠くというべきである。本件全証拠によっても、展示会に係る業界
において、一般に、「○○展」の文字の使用に当たり標章の使用と同程度の注意が
払われていると認めるには足りず、展示会等を開催等する者が同種の展示会の名称
を調査するなどしているという実態が仮にあるとしても、それは、基本的に、集客
力や独自性の発揮といった観点や、商標法3条2項により保護され得る標章の使用
を避けるといった観点から、事実上行われているとみるのが相当である。
したがって、原告の前記主張も、前記(1)の判断を左右するものではない。
エ 原告は、他に「○○展」という商標の登録例があることからして、「○○展」
との構成の商標が一律に識別性を欠くものとは解されないと主張するが、同主張は、\n前記1(1)の「次世代」や「3Dプリンタ」の語の意義や、同(2)の使用例を踏まえ
た本願商標についての前記(1)の判断に影響するものではない。
オ その余の原告の主張は、いずれも、既に認定判断したところに反するか、前
提とする事情を欠くか、あるいはそもそも前記(1)の判断に影響しないものであっ
て、いずれも同判断を左右するものではない。
◆判決本文
商標違いの関連事件です。いずれも識別力無しです。
商標「関西 次世代3Dプリンタ展」
◆令和4(行ケ)10069
商標「名古屋 次世代3Dプリンタ展」
◆令和4(行ケ)10070
商標「計測・検査・センサ展」(
◆令和4(行ケ)10071
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