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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商3条1項各号

令和6(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

シンゴジラのフィギュアの立体商標について、3条2項の適用なしとした審決が取り消されました。

(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結 果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨\n主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形 態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同 一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当 たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定し ておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的 形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前 脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体 のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を 中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとお り、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。 しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形 状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴ ジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考 慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき である。
(2) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映 画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26 億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年 間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、 それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、 当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品 の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状 として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、1)昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後6 0年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客 動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めて いること、2)これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること 等が明記されていたこと、3)この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラ ム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超 えていること、4)上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾 を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化 の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、5)原告の シンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施 設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認 定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映 画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁 判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登 場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうし た需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳〜69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を 示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由 回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、 極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質 問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体 的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結 果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識で きるに至ったものと認めることができる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本願商標に係る使用商品の使用期間(販売期間)が「永年」とは いえない旨主張する。しかし、映画「シン・ゴジラ」が公開された平成28 年頃から本件審決時までの約8年間にわたって、原告が本願商標をその指 定商品に継続して使用した事実は認められるところ(上記1(5))、これ自 体、それなりの使用期間と評価することができる。 更にいえば、そもそも商標法3条2項の「使用」につき「永年」の要件が 課されているわけではないし、「需要者が何人かの業務に係る商品である ことを認識することができる」に至ったか否かは、使用期間だけでなく、商 品の販売数量、広告宣伝の規模、話題性等も総合して判断すべきものであ る。加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主 体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、 本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も 存在している。 こうした点を考慮すると、本願商標について、上記使用期間が「永年」と までいえないとしても、同項該当性に係る前記判断が左右されるものでは ない。
イ 被告は、原告主張の使用商品の販売実績についてはこれを裏付ける客観 的証拠はなく、また、これが事実としても、本願の指定商品を扱う業界にお いてどの程度のものであるかの多寡を確認することはできない旨主張する。 しかし、甲53、77によれば、上記販売実績は、原告社内の信用性のある データに基づき作成されたものと認められ、不合理な点は認められない。 また、被告が、本件審決が判示したように、「玩具業界全体」における使用 商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する 玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするもので あり、採用できない。
また、被告は、使用商品は原告でなくライセンシーにより販売されてい るにすぎないこと、「東宝」の文字を冠した使用商品でも原告以外のメーカ ー名が表示されていること、使用商品本体への本件著作権等表\示について は、本体の足の裏側の目立たない位置に小さく表示されているにすぎず需\n要者の注目を惹かないこと等を主張する。しかし、出願人から許諾を受け た者による使用も、第三者による当該商標の使用態様が出願人によって適 切に管理されており、需要者が出願人の商品であると認識し得るような場 合には、商標法3条2項にいう「使用」に含まれると解すべきところ、原告 は前記1(3)ウのとおりライセンシーとの間に使用許諾契約を締結し、使用 商品の形態も含めて監修するとともに、フィギュア類の出所が原告である ことを示す適切な管理をしている。本件著作権等表示が、当該商品が原告\nの許諾に基づき製造されたことを示すことは特段の困難なく理解できるも のである。
ウ 以上のほか、被告は、使用商品が掲載された雑誌の種類が少ない、書籍や 展示即売会の来場者は限定されている、ゴジラ像の恒常的設置は東京都内 の4か所にとどまる、本件アンケートには本願商標の立体的形状と原告と の関連についての質問がないなど、原告の主張立証の逐一を論難するが、ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず、上 記(2)の判断を左右するものとはいえない。

◆判決本文

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令和6(行ケ)10027  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年8月29日  知的財産高等裁判所

商標「京都高麗人参」は識別力無しとした審決が維持されました。指定商品・役務は、サプリメントの小売などです。

上記(2)によれば、農作物、薬用作物等の名称に、それぞれ「京都米」、「東 京うど」のように、その産地の名称を冠して生産、販売をすることは、一般 に行われており(上記(2)オ)、本願の指定役務と関連するサプリメント又は健 康食品を取り扱う業界においても、その原材料を表示する際に、原材料の名\n称に、その産地の名称を冠して表示することは、薬用作物を含め、原材料の\n種類を問わず、広く行われている(上記(2)カ)。 高麗人参は、北海道、本州、四国及び九州の全国各地で生産されており(上 記(2)ア)、語頭に旧国名等の産地の名称を冠する「高麗人参」の使用も見られ るところである(上記(2)イ)。また、高麗人参を使用したサプリメント又は健 康食品においても、商品の説明等で、その原材料である「高麗人参」を表示\nする際に、長野県産等のその原材料の産地の名称も併せて表示することが行\nわれ(上記(2)ウ)、「高麗人参」は、サプリメント又は健康食品の原材料とし ても一般に使用されている(上記(2)エ)。
そうすると、本願商標の構成文字の語義に加え、上記のとおりの農作物、\n薬用作物、高麗人参及びサプリメント又は健康食品に係る取引の実情を踏ま えると、本願商標の「京都高麗人参」は、「京都産の高麗人参」の意味合いを 容易に理解させるものといえるところ、本願指定役務に係る取扱商品である 「高麗人参を含有するサプリメント」についても、その商品の効能や原材料、\n成分などは、商品選択の際に重要な要素となり得るものと認められる。 この「サプリメント」の原材料として使用されている高麗人参については、 上記のとおり全国各地で生産されていて、「信州で契約栽培された高品質の 高麗人参」(上記(2)イ(ア))のように、その生産地が商品の特性や優位性を表\nすものとして商品の説明等に使用されており(上記(2)ア、イ)、その取扱商品 である「サプリメント」においても、「高品質な大根島の高麗人参の主根のみ を粉末にした」(上記(2)ウ(ウ))等の記載にもあるように、顧客の商品選択の 便宜を図るべく、原材料その他の特徴等を説明するための用語として、「『高 麗人参』及びその産地の名称」が一般に使用されているとの実情もある(上記(2)ウ)。 また、本願指定役務中の、「高麗人参を主原料とする粉状・顆粒状・錠剤状・ 固形状・液体状又はカプセル入りの加工食料品の小売又は卸売の業務におい て行われる顧客に対する便益の提供」における「粉状・顆粒状・錠剤状・固 形状・液体状又はカプセル入りの加工食料品」は、サプリメント若しくは健 康食品又はこれと同種の商品と認められる。
そして、上記のとおり、高麗人参は、サプリメント又は健康食品の原材料 として一般に使用されているものであり、上記のウェブサイトの記載等に照 らすと、そのことは需要者においても広く知られているものと認められる。 そうすると、本願商標を、その指定役務中、「高麗人参を含有するサプリメ ントの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、高麗 人参を含有する健康食品・健康関連商品・サプリメントの販売に関する情報 の提供、高麗人参を主原料とする粉状・顆粒状・錠剤状・固形状・液体状又 はカプセル入りの加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に 対する便益の提供」に使用をしても、当該指定役務に係る需要者をして、「京 都産の高麗人参」を使用したサプリメント等を取り扱う小売又は卸売の業務 であること、すなわち、小売又は卸売の業務において取り扱われる商品の品 質、原材料を表したものと認識させるにとどまり、役務の出所を表\示するも のと認識させることはないというべきであるから、本願商標は、自他役務の 識別標識として機能し得ないものである。\n
なお、「サプリメント」は、「栄養補助食品。体に欠乏しやすいビタミン・ ミネラル・アミノ酸・不飽和脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形 にしたもの。サプリ。」(〔広辞苑第7版〕)であり、「健康食品」は、「健康の維持・増進に効果があるとされる食品。」(〔広辞苑第7版〕)であり、「加工食 品」は、「生鮮食料品などを加工した食品。食材とするものも、そのまま食べ るものもいう。」(〔広辞苑第7版〕)であって、本願商標の指定役務において、 販売に関する情報の提供の役務の対象となる「高麗人参を含有する加工食品」 には、高麗人参を含有するもので、栄養補助食品、健康の維持・増進に効果 があるとされる食品のみならず、それ以外の加工した食品も含まれると解す る余地がある。しかし、上記のとおり、農作物、薬用作物等の名称に、それ ぞれ「京都米」、「東京うど」のように、その産地の名称を冠して生産、販売 をすることは、一般に行われており(上記(2)オ)、高麗人参は、北海道、本州、 四国及び九州の全国各地で生産されており(上記(2)ア)、語頭に旧国名等の産 地の名称を冠する「高麗人参」の使用も見られる上(上記(2)イ)、高麗人参は、 古くから使用されている薬用作物であり、サプリメント、健康食品として用 いられる場合が一般的であると認められ(上記(2)エ)、上記のとおり、本願商 標が、サプリメントや健康食品を対象とする役務に使われる場合に自他役務 の識別標識として機能し得ないことも考慮すると、「加工食品」の中に、栄養\n補助食品、健康の維持・増進に効果があるとされる食品以外の加工した食品 が含まれるとしても、本願商標は、「高麗人参を含有する加工食品の販売に関 する情報の提供」という役務の需要者をして、「京都産の高麗人参」を含有す る加工食品の販売に関する情報を提供する業務であること、すなわち、取り 扱われる商品の品質、原材料を表わしたものと認識させるにとどまり、役務\nの出所を表示するものと認識させることはないというべきであるから、本願\n商標の指定役務のうち、「高麗人参を含有する加工食品の販売に関する情報 の提供」についても、本願商標は、自他役務の識別標識として機能し得ない\nものと認められる。
したがって、本願商標は、その指定役務との関係において、需要者が何人 かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であるから、 商標法3条1項6号に該当する。そうすると、本願商標の商標法3条1項6 号該当性について、本件審決の判断に誤りはないというべきである。

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令和6(行ケ)10009  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年6月18日  知的財産高等裁判所

本件商標「サプリ処方箋(標準文字)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした拒絶審決が維持されました。指定商品・役務は、9類「コンピュータプログラム等」、35類「サプリメントの小売又等」44類「栄養の指導等」です。

前記1の認定事実によれば、本願商標の構成である「サプリ処方箋」は、サ\nプリメントの略である「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせた語である。そして、本願商標の需要者は、一般の消費者であると認められるところ、 「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせたもので あることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識できる事実であるとい うことができる。 「処方箋」は「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語である。法令上も、医師が患者に対し治療上薬剤を調剤 して投与する必要があると認めた場合に、患者又は現にその看護に当たってい る者に対して処方箋を交付することとされ(医師法22条1項本文)、薬剤師は 医師等の処方箋によらなければ販売又は授与の目的で調剤してはならないとさ れており(薬剤師法23条1項)、「処方箋」の語は、医師が患者に与えるべき 薬物(医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類を指すものとして用いら れている。
しかし、一般的には、「処方箋」という語は、例えば「改革の処方箋」のよう に広く比喩的に使用される語であって(乙5)、「医師が患者に与えるべき薬物 (医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類」に限定して使用されるもの ではなく、現に、上記2(2)及び(3)の認定事実によれば、複数のウェブサイトや 新聞の記事において、医師又はそれ以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリ メントの種類や量等を提示、提供することを「サプリメントを処方」、「サプリ メントの処方」あるいは「サプリを処方」と記載した例があり、医師又はそれ 以外の者がこのようなサプリメントの種類や量等の提示、提供に際して作成す る書面を「サプリメント処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」と記載した例があると認められる。 これらの事実によれば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の 語が本願商標の指定商品及び指定役務のうち第35類役務群又は第44類役務 群に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を 記載した書類を一般的に指す名称であると認識するものといえ、原告が提供する役務を認識するとは認められない。 したがって、本願商標は、少なくとも本願の指定商品及び指定役務のうち第 35類役務群及び第44類役務群との関係において、自他識別力を有しておら ず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商 標であると認められる。
4 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(1)のとおり、本願商標の「サプリ処方箋」 の語は、本願商標の指定商品及び指定役務に関し、他で一般的に使用されて いるという実例はないことから、本願商標は造語であり、指定商品及び指定 役務との関係で識別性を有すると主張する。25 しかし、本願商標の「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語 を組み合わせたものであること及び「サプリ」が「サプリメント」の略であ ることは、本願商標の取引者又は需要者が容易に認識し得る事実であるから、 本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語句から「サプリメント 処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」を連想し、「サプリメント」の「処 方」に関する書面であると認識するということができる。そして、上記2(2) 及び(3)のとおり、複数のウェブサイトや新聞の記事において、医師又はそれ 以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供 することを「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」又は「サプリを 処方」と表現し、これに関して医師又はそれ以外の者が作成する書面を「サ\nプリメント処方箋」又は「サプリメントの処方箋」と表現している事実が認められることからすれば、本願商標の「サプリ処方箋」は、少なくとも本願\nの指定商品及び指定役務のうち、第35類役務群及び第44類役務群との関 係では、識別性を有するとは認められない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(2)のとおり、「処方箋」はサプリメントのような健康食品で用いられる書類ではなく、「サプリ」と「処方箋」とは本来 的に結びつかない用語であり、「サプリメントの処方箋」との意味が生じたと しても、需要者はこれを造語として捉えるから、本願商標には識別性が認め られると主張する。 しかし、前記1及び3のとおり、「処方箋」の語は、本来「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語であるが、 広く比喩的に用いられる語であって、現に医師以外の者が医薬品以外のもの に関して作成する書類についても使用されているものである。そして、栄養 補助食品であるサプリメントについては、医師又はそれ以外の者が、患者、 顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供することが想定され るのであって、この行為について「処方」の語を用いることがあり、かつ、 このようなサプリメントの種類、量等の提示、提供に際して作成される書類 を「処方箋」と称することがあると認められるから、「サプリ」と「処方箋」 が結びつくことのない語であるとはいえず、本願商標に識別性を認めること もできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は、前記第3〔原告の主張〕(3)のとおり、少なくとも、本願商標の指 定商品及び指定役務のうち、第35類役務群については、本願商標が使用さ れたとしても識別性が認められると主張する。 しかし、第35類役務群には、「サプリメントの小売又は卸売の業務におい て行われる顧客に対する便益の提供」の役務が含まれており、前記3の説示に照らせば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語が上記役 務に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等 を記載した書類を一般的に指す名称であると認識することは明らかであると いえ、原告が提供する役務を認識することはない。そうすると、仮に、第3 5類役務群のその余の役務の中に、「サプリ処方箋」の語が当該役務に使用された場合に、本願商標の取引者又は需要者が、患者、顧客等に適切なサプリ メントの種類や量等を記載した書類を一般的に指す名称であると認識すると はいえないものが含まれていたとしても、第35類役務群との関係において も本願商標が自他識別力を有しないとの結論は左右されない。
また、前記3のとおり、「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」、「サプリを処方」、「サプリメントの処方箋」及び「サプリメント処方箋」と の語句が、サプリメントという商品に関し、一般の消費者に含まれる患者や 顧客に適切なサプリメントの量などの情報を提供することに関連して使用さ れる例があると認められること、サプリメントは栄養補助食品であって、「加 工食料品」、「食餌療法用飲料」及び「食餌療法用食品」とは同一ではないものの、加工して製造される食品である点、あるいは栄養面に配慮した食品で ある点で類似した面を有していること、医師が上記情報提供に際して「サプ リメントの処方箋」と称される書類を作成することがあることが認められ、 これらの事実によれば、第35類役務群のその余の役務(前記第2の1(1)イ) についても、「サプリ処方箋」の語がこれに使用された場合には、本願商標の 取引者又は需要者は、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を記 載した書類を一般的に指す名称であると認識すると解され、原告が提供する 役務を認識するとは認められない。

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令和6(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月28日  知的財産高等裁判所

商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。

上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品 等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料 を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用 されている実情があるものと認められる。 その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉 などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。 また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」 の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。 そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取 引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味 合いが認識されるものということができる。 そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、 単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、 商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標 の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商 品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を 普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、 本件審決の判断に誤りはないというべきである。

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令和6(行ケ)10011  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「デジタル医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。

(1) 本願商標は、「デジタル医療モール」の文字を標準文字で表してなるも\nのであるところ、本願商標の構成中、「デジタル」の文字は「情報や命令を、\n0と1〔=スイッチオフとスイッチオン〕の信号の集まりで表現する<こと\n/もの>」、「コンピュータを(めいっぱい)使うようす」(以上、乙1) を、「医療」が「医師・看護師が患者の治療やせわをすること」(乙2)、 「モール」が「(屋根つきの)大きな商店街」など(乙3)を意味する平易 な語であるから、本願商標の構成を元に観察すれば、「デジタル」の語と\n「医療モール」の語からなると理解することも、あるいは「デジタル医療」 の語と「モール」の語からなると理解することも不可能ではない。\nしかしながら、証拠(甲17、18、25〜29、乙8〜15)によれ ば、「デジタル」の文字は、他の語と結合した「デジタル〇〇」の態様で 「デジタル技術を用いた〇〇」ほどの意味合いで汎用的に広く用いられてい ることが認められ、デジタル技術を利活用した医療や治療に関して、「デジ タルセラピー」(甲17)、「デジタル医療」(甲18、26〜29、乙8 〜11、14、15)、「デジタル治療」(甲25、乙8、12、13)、 「デジタルヘルス」(乙8)と称されている実情があることが認められる。 また、証拠(甲20〜22、乙16〜23)によれば、「医療モール」 の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている 運営形態」(甲20)といった語として広く使用されていることも認められ る。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活 用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係る サービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で 提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるも のと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した 需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務で あることを表現するための語句であると理解、認識するにとどまり、自他商\n品役務の識別標識としては認識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「デジタル医療」 と「モール」 との言葉の結合であるのか、「デジタル」と「医療モール」との言葉の結合 であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標であると する主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「デジタル〇〇」の語が、「デジタル技術を 用いた〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、「〇〇 モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった定型的 な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。そうす ると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)のとおり、 「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」という意味 合いで認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上 記主張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と 事案を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「デジタル」と「医療モール」の結合と理 解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、「デジタル技術」 というものは様々に活用されており、一義的な技術ではなく、本願商標もい ずれの技術を利用したのか明らかでないから、本願商標からは特定の観念が 生じないと主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願 商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する と主張する。この点、デジタル技術を用いて提供されるものには原告が指摘するようなIoT、ビッグデータ、AI、ICTなどの様々な技術が考えられるが、デジタ ル技術が様々に活用されているからといって、上記1(2)の認定判断が左右さ れるものではない。原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠とな るものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願 商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がない ことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有する と主張する。 しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、 上記2の認定判断を妨げるものではない。

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令和6(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「オンライン医療モール」が識別力なし(商3条1項6号)とした審決が維持されました。指定商品は9類、35類、44類です。

証拠(甲11〜13、乙10〜20)によれば、「オン ライン」の文字は、他の語と結合した「オンライン〇〇」の態様で「ネット ワーク上で提供される〇〇」、「ネットワーク上で利用できる〇〇」ほどの 意味合いで汎用的に広く用いられていることが認められ、「オンラインモー ル」(乙7)、「オンラインショッピングモール」(乙8)といった用法で 使用されていることも認められる。
特に、上記「オンラインショッピングモール」は、「様々な商品の小売 販売に係るサービスをネットワーク上の1か所のプラットフォーム上で提供 又は利用できる仕組み」といった意味で用いられているものと理解され、本 件の参考になるものといえる。
また、証拠(甲14〜16、乙21〜28)によれば、「医療モール」 の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている 運営形態」(甲14)といった語として広く使用されていることも認められ、 「オンライン上で自由診療の医療モールを作る」、「e−メディカルモール」 (いずれも甲17)といった用法で使用されていることも認められる。
(2) 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「オンライン」で行われ る仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、 ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」 といった意味合いを容易に理解、認識させるものと認められる。そして、本 願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について、 上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語\n句であると理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認 識しないといえる。
(3) これに対し、原告は、本願商標について、「オンライン医療」 と「モー ル」との言葉の結合であるのか、「オンライン」と「医療モール」との言葉 の結合であるのか、需要者によって認識が異なる言葉の結合からなる商標で あると主張する。
しかし、上記(1)のとおり、「オンライン〇〇」の語が、「ネットワーク 上で提供される〇〇」という意味で、汎用的に広く用いられているのに対し、 「〇〇モール」の語については、ショッピングモール、医療モールといった 定型的な用法を超えて広範囲な用い方をされているとまでは認められない。 そうすると、本願商標に接した需要者の一般的な理解としては、上記(2)の とおり、「オンライン」で行われる仮想的な「医療モール」という意味合い で認識するのが自然であると解され、これと異なる前提に立つ原告の上記主 張は採用できない。なお、原告が引用する知財高裁の裁判例は、本件と事案 を異にし適切でない。
2 次に、原告は、仮に本願商標を「オンライン」と「医療モール」の結合と 理解し、上記1(2)における意味合いが想起されるとしても、オンライン上で どのようなサービスが提供されるのか不明であるとして、需要者は本願商標 を造語として理解すると主張する。 この点、関係証拠によれば、オンラインで提供される医療サービスとしては 「オンライン診療」(甲11〜13、18、乙4、5、9〜15、19、20。 スマートフォンなどを使って病院の予約から決裁までをインターネットで行う\nもの。)、「遠隔健康医療相談」(甲13、乙16〜18)、「オンライン服 薬指導」(乙10)、「電子処方箋」(乙10)のほか、自由診療を提供して いる医療機関を集めて、オンラインメディカル(医療)モールを提供する(検 索・予約・決済・オンライン診療を提供する)もの(甲17)など、様々なも\nのがあることが認められる。
しかし、このようにオンラインで提供される医療サービスの内容が様々なも のであることは、上記1(2)で認定した「様々な医療機関に係るサービスを ネットワーク上の 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」 という概念と何ら矛盾するものではなく、むしろ、当該理解に沿うものである。 原告の上記主張は、本願商標を造語と理解すべき根拠となるものではない。
3 さらに原告は、本願商標である「オンライン医療モール」という語が、本 願商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有す ると主張する。
しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることがで きないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されてい ることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、 上記2の認定判断を妨げるものではない。

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令和6(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年6月3日  知的財産高等裁判所

商標「骨格診断7タイプ」 について、識別力なし(商標3条 1 項3号)とした審決が維持されました。

原告は、法3条1項柱書及び3号は条文上需要者の認識を何ら問題として いないのに、本件審決は、取引者、需要者の認識を基準として本願商標は役 務の質を表示したものと判断したとして、その誤りを主張する。\nこの点、法3条1項3号は「その役務の質を普通に用いられる方法で表示す\nる標章のみからなる商標」を商標登録できない商標として掲げているところ、 出願商標が何を表示するものであるかを客観的に把握する上では、取引者、需\n要者の認識を基準として判断せざるを得ないことは当然であり、そのような解 釈は、法1条の趣旨にも沿うものといえる。
原告は、法3条 1 項3号と、同項6号及び2項との条文の違いを上記主張の 根拠としているが、同条1項6号の「前各号に掲げるもののほか、需要者が何 人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と の文言、同条2項の「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、 使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識 することができるものについては」の文言に照らすと、同条1項3号の解釈上 も、需要者の認識が判断基準として想定されていると理解することができ、そ の趣旨をいう本件審決の判断に誤りはない。
2 原告は、1)法3条1項3号における「役務の質」は「『労働勤務』や『他人に利益があるようにする行為』の質」を指すとして、あるいは2)「質」に ついて「内容、中身」の意味を含むと解釈するのは古い時代の解釈であると して、本願商標は「役務の質」を表していないと主張する。\n
しかし、同号に掲げる商標が商標登録要件を欠くと規定されている趣旨は、 このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質等の特 性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示として何人もそ の使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公 益上適当でないなどの理由によるものである。このような趣旨に鑑みれば、 同号の「役務の質」を原告主張のように限定的に解釈すべき理由はない。 しかも、証拠によれば、本願商標「骨格診断7タイプ」がその指定役務に使 用された場合、そうした役務が労働の対価を得て有料でなされ得るもの(乙 6・骨格診断アドバイザー、乙7・骨格診断ファッションアナリスト、乙1 1・骨格診断士〔骨格診断資格〕)があることも認められ、原告の上記主張を 前提にしても、本願商標が同号にいう「役務の質」を表示するものであるとい\nえる。

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令和5(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所

腕時計の外観(オーデマ・ピゲのロイヤルオーク)を表した商標について識別力無しとした審決が維持されました。\n

ア 本願商標は、前記第2の1(1)のとおりの構成からなる商標である。\n腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を 除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、 インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、\nこれらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか\nも、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、\n本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表\されてはいる ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと 認められる。 これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。\n本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、 全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子 模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、 上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時 計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ\nランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛 け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状 に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2 9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の 形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ 及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な\nどを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、 商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か\nつ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得 る範囲のものであると認められる。 そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる 方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当 するというべきである。

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令和5(行ケ)10141  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月10日  知的財産高等裁判所

商標「知財実務オンライン」(標準文字)について、識別力無しとした審決が維持されました。

(3) 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意\n味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピュータ ーの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線 などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であ り(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続 した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的 に用いられていると認められる(乙1〜4、弁論の全趣旨)。 さらに、「〇〇オンライン」と「オンライン」の文字を末尾に配する標章 (「〇〇オンライン」標章)の一般的な実情をみると、当事者が主張におい て挙げるものに限っても、別紙2「『オンライン』を末尾に付す標章の一覧 表」に記載の用例がある。これらの用例を大別すると、1)「オンライン」の 前の文字が、提供される商品又は役務の一般的名称と理解されるもの(事例 1〜5、16,18,20〜25、27〜29)と、2)「オンライン」の前 の文字が、それ自体としても識別力を有する標章として機能すると同時に、\n「オンライン」の文字と組み合わされて全体として一つの標章ともなってい るもの(事例6〜11、14,15、26、30、34、35)に分けられ る(分類の部妙なものは例示から除いた。)。 このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、上記1)の事例で あれば、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ ンで提供するものと認識し、上記2)の事例であれば、「オンライン」の文字 の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと 認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといっ てよい。
そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する 一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な 取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供す るもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると\nともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであ\nると認められる。そして、本願指定商品役務の取引の分野において、これと 異なる取引の実情があることを窺わせる証拠はない。
(4) 上記認定と異なる原告らの主張は、以下の理由により、いずれも採用でき ない。
ア 原告らは、本願商標が第三者に使用されていない事実を取引の実情とし て考慮すべきであると主張する。 しかし、上記のとおり、本願商標は「知財実務」と「オンライン」の文 字の意義及び「オンライン」の文字を末尾に付する標章の一般的な実情か らみて、商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されると認められ、\nこの認定は、第三者が使用する事実があれば更に裏付けられるということ はできても、第三者が使用する事実がないからといって左右されるもので はない。
イ 原告らは、本願商標は商品又は役務の特徴等を間接的に表示するもので\nある、あるいは一定の意味を有しない造語であると主張する。 しかし、本願商標は「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供 するもの」として需要者に認識され、その内容に一定の幅があるとしても、 いずれにせよ商品の品質又は役務の質を表示したものと理解されることに\n変わりはなく、一定の意味を有しない造語であるとはいえない。
ウ 原告らは、商品、役務名又はブランド名の語尾に「オンライン」の文字 を付した標章は、ウェブサイトやYouTubeのチャンネルにおいて出 所識別標識として認識される態様で使用されていると主張する。 しかし、別紙2の各事例は、「オンライン」の前の文字がそれ自体とし て出所識別標識として機能しているものを除き、「オンライン」の文字を\n付すことによって出所識別標識として認識される態様で使用されていると は認められない。事例16の「神社仏閣オンライン」に係る甲3のSNS の投稿は、この認定を左右するものではない。
エ 原告らは、本願指定商品役務の性質及び取引の実情は定期刊行物と共通 するから、本願商標については定期刊行物の題号と同様に自他商品役務識 別力を認めるべきである旨主張する。 しかし、新聞、雑誌等の定期刊行物の商品については、個人の著作物で ある書籍と異なり、主として特定の新聞社・出版社が継続的に編集・発行 するものであって、その内容は新聞社・出版社ごとに異なり(題号と関わ りの薄い記事が掲載されることも含まれる。)、その題号が品質・内容を 示すものであっても出所識別標識としての機能を果たし得るという、他の\n商品と異なる取引の実情が認められるものである(原告らの引用する大審 院昭和7年6月16日判決も、これと同旨と解される。)。 そして、このような定期刊行物を電子化した電子定期刊行物については ともかく、本願指定商品役務について、定期刊行物と同様の取引の実情が あると認めるに足りる証拠はない。
例えば、オンラインによる映像等の提供を内容とする指定役務10)、11)に ついていえば、YouTubeなどに代表されるインターネット上の動画\n投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画を投稿できるものであ るから、「知的財産に関する」、「各回異なる内容のものが定期的又は逐 次的に提供される」といった限定が付されたからといって、新聞、雑誌等 の定期刊行物と同様の取引の実情があると認めることはできない。 原告らは、商標審査基準改訂における放送番組の番組名に係る議論に言 及して、「番組」に関する商品・役務のうち「各回異なる内容のものが定 期的又は逐次的に提供されること」が明確になっているものは定期刊行物 と同様であると主張するが、そもそもオンラインによる映像等の提供につ いては、映像等の内容、性質に多様なものが含まれることからすれば、 「放送番組」の一部がオンラインでも提供されている現状を考慮しても、 放送番組そのものと同様の取引の実情があるとは認められない。
また、知的財産に関する定期的に発行される電子出版物(指定商品5)) についても、このうち個人の著作する書籍に相当するものについては、直 ちに新聞、雑誌等の定期刊行物と同視することはできない。 なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びそ の伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行 物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役 務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変 容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの 取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、 オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならな い。
(5) 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決 の判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は理由がない。

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令和5(行ケ)10109  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月24日  知的財産高等裁判所

商標「奇跡のラカンカ」が識別力なしとした審決が維持されました。指定商品は、「ラカンカ」ではなく、30類「ラカンカを加味した菓子等」です。なお、審査官は、3条1項3号違反で拒絶査定にしましたが、審決では拒絶理由通知なしで、同6号違反で拒絶審決としました。手続きとしては違法だが、結果に影響がないのでそれを理由には取り消さないとしています。

本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文と しては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶 の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われてい ない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項 にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要が ある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標 登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法 の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定め\nる具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明 をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみ をもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。 この点、被告は、3条1項は出所表示機能\を欠く商標を列挙するところ、 例示的列挙である1号〜5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶と では、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定 の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条 1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事 由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言か らも明らかなように、同項6号と同項1号〜5号との間に概念上の上下関係、 包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立 法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1 項がこれらと異なることは明らかである。)。 被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な 役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公\n権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づい て行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、 拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異 なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからと いって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで 拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼 ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと 解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考 えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の 『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがっ\nて品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力\nするのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主 張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張\nはしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標 の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理 解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断 をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能\を欠く商標かど うかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき 「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判 請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。 そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内 容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与 する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認 められないというべきである。 なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付 与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理 由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、 手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考 慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するも のではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、 識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの 類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る 商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査 定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1 項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる 場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することに なり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても 防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となってい る3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号 の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被 告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないと いう前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。 以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16 条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新 たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商 標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理 由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項) される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討する ことを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記 (4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条 文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、 かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主\n張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではない と強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、 そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改め て弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、 両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。 そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由 通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ 本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限の ために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があると しても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすよう なものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手 続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりは ない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告 に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機 会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付を もって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の 機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予\n告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。 加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意 見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果 物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章である\nとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張 を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6 号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記 4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意 味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3 条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式 な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容 を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張 又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ\nれたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕 疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな いと解するのが相当である。よって、原告主張の取消事由は採用できない。
4 本願商標の3条1項6号該当性について
念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。 本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成\n中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3〜5) として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片 仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢\n果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の 中で主張しているとおりである。
そして、証拠(乙6〜35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、 「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常 識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使 用されていることが認められる。 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、 需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業\n務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した\nがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。

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令和5(行ケ)10115 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月11日  知的財産高等裁判所

商標「Nepal Tiger」が識別力なしとした審決が取り消されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。令和5(行ケ)10116では、商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決は維持されています。

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されて いるのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売 地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示と して何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を 認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、 多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最 高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集 民126号507頁)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売 地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である\nというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係 で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場\n合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の 取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又 は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やそ の指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成\n
本願商標は「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる商\n標である。 「Nepal Tiger」は「Nepal」の文字及び「Tiger」 の文字を組み合わせたものであって、「Nepal」は国家(ネパール)を示 す語であり、「Tiger」は「トラ」を意味する語である(乙1〜4)。
(3) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情
ア 以下の新聞記事及びウェブサイトには、ネパールで手織りのじゅうたん の生産がされていることや、我が国で開催された展示会等においてネパー ルで生産された、又はネパールから輸入された手織りのじゅうたん、ラグ が展示、販売されたことに関する記載が存在する。
・・・・
イ 以下の新聞記事、書籍及びウェブサイトには、チベットにおいてじゅう たんの生産が行われている旨の記載、チベットで生産されたじゅうたんを 「チベットじゅうたん」又は「チベタンじゅうたん」と称する旨の記載と ともに、ネパールで生産されるじゅうたんも「チベットじゅうたん」「チベ タンラグ」などと称する旨の記載、又は、チベットからネパールに亡命し た者あるいはネパールに居住するチベット難民がネパールにおいてじゅ うたんの生産を行っている旨の記載が存在する。
・・・・
ク 上記アないしキに掲げた新聞記事、書籍及びウェブサイトのいずれにも、 「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在し ない。
(4) 検討
ア 上記(3)に掲げた新聞記事、雑誌、ウェブサイトの記載によれば、以下の 事実が認められる。
(ア) ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われていること。
(イ) チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパー ルにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の 記載が複数存在すること。
(ウ) ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいは これに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示\nするウェブサイト等の記載が複数存在すること。
(エ) トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうた んを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの 記載が複数存在すること。
(オ) トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅ うたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタン タイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数\n存在すること。
(カ) ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるト ラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数 存在すること。
イ しかし、上記(3)クのとおり、上記(3)アないしキに掲げた新聞記事、書籍 及びウェブサイトのいずれにも、「Nepal Tiger」又は「ネパー ルタイガー」との記載は存在せず、その他本件の全証拠によっても、本願 の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Ti ger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものが あるとは認められない。
したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパー ルで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じ ゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって 使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指 定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いら れる取引の実情が存在するとも認められない。
そして、「Nepal Tiger」は、前記(2)のとおりの意味を有する 「Nepal」の語及び「Tiger」の語を組み合わせたものであると いえるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書 等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等 として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパール トラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。
そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされ ることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、 まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これ\nを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
ウ 本願商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、この指定商品の 内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業 者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。 そして、前記イのとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが 本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、 かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当である ことからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tige r」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示\nしたものであると直ちに認識するものではないというべきである。 そうすると、本願商標の取引者、需要者は、「Nepal Tiger」 の語句について「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」、「ネパールで生産又は販売され る、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物」又は「ネ パールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形 状を模したラグ」を表示するものであると必ずしも認識するものではない\nから、本願商標は、その指定商品に使用された場合に、本願商標の取引者、 需要者によって、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるとは認められない。
エ 以上によれば、本願商標は、取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものとはいえず、指定商品の産地、販売地又は品質を普通 に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商\n標法3条1項3号に該当するものとは認められない。

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令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。

2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。) 前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象 外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2 6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を 有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必 要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、 商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以 外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26 年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解 釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、 別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、 B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合 せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の 「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本 における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩 の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結 合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に 関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の 主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色 の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特 定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部 輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶 色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感 じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。 また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価 する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我 が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的 な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。 また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包 装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣 伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的 に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標 は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として 用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及 び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付 した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第 16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購 入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。 そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は 広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名 な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自 体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに 認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広 告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド 商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件 包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び 指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各 アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、 本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの 商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役 務識別力の獲得を認めることはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事 由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3 条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との 関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に 関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを 示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等 についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製 造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事 例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩 及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事 例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子 (キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、 171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の 知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業 者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商 品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周 囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を 付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販 売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、 原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の 対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。 これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品 の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品 の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自 認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商 標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の 特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外 の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲 が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述 のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商 標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使 用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。 しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認 識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張 のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実 上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著 しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色 を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような 特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮 に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用 態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が 少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委 縮効果を過大に評価すべきでない。

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令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。

(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年 9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙 1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が 4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3) によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認 められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、 「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。 各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗 名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4 2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有) 府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」 (乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1 3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う 店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する 「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品 (「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」 が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の 獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において 判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品 の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。 また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」 に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する 旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。

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令和5(行ケ)10116  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月28日  知的財産高等裁判所

商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。

原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必 ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される 旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字\nは「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な 英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白 一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件\n審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地 名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示するものではない旨主張するので、以下検討する。\nア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本 願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、 じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット 民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの 一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2 4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた\nん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び 販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe\ntan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」 の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状 のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。\n
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上 の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定 証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。 そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9) からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に 掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。 しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる 場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原 告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。

◆判決本文

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◆令和5(行ケ)10114

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令和5(行ケ)10076  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所

立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。

商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを 認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨 を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する 商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用 した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力 又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。 そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、 当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣 伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要 者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上 で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを 判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商 品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。 しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが 透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の 形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在 すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標 の形状が用いられていたと認められる。 しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の 社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された 本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター 用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合 に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等 の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において 表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び 商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ (TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。 また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から 明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31. 0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上 記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の 35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30 年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願 商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。

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令和4(ワ)9818  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月19日  大阪地方裁判所

商標「熱中対策応急キ ット」(標準文字)についての侵害訴訟です。被告は識別力無しの無効理由(商3条1項3号)、効力が及ばない範囲(商26条)を主張しました。裁判所は、識別力無しとして無効と判断しました。

2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について
(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で 表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表\示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者に よって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構\成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、こ れを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表\すものとして理解されると考 えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、 それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思う こと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわ せ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に 有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義 どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急 処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味 合いが直ちに導かれるものではない。 もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示 すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の 一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との 標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類 似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28 日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中 症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。 一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってする こと。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用い られる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告 販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令 和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策 キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に 対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の 商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対 策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対 策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有す ることが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中 症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全 部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、 標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして\n一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」 との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであ り、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件 商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の 3第1項)。

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令和5(行ケ)10083  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

 電気スイッチの図形商標について、その形状に過ぎないとして、識別力なしとした審決が維持されました。

そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、\n美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商 標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択さ\nれると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品\n等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる 方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当す\nるものと解される。
(2) 本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが 外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長 の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、 その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてな るものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気 スイッチ」に係るカタログ(甲3の1)には、「シンプルで、明瞭な要素で 構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間\nを超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、 JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。
一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイト(乙1〜8、10〜 13)によれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業 界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形\nの押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、\n表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていること\nが認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、 使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」(乙2)、「インテリア と響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんな が使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」(乙6)といった謳い文句 からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されて\nいるものと解される。
上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気 スイッチ」の用途、機能、美観から予\測できないようなものということはで きず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能\n又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのもの を認識するにすぎないというべきである。
原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定され\nる図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用する べきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商 標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指 定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識\nされると認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商 標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在す る旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するもの であるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に 係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、 需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点が あると考えられるものであり、採用できない。
さらに、原告は、前記第3の1(2)のとおり、原告の電気スイッチは、幅広 な操作スイッチを持たず、表示灯を操作スイッチの右端において上端から下\n端まで一直線に設けるという独自の構成を有し、数々の受賞歴を有し、こだ\nわりのあるユーザに高い評価を得ている旨主張するが、視覚を通じて美観を 起こさせる物品の形状等の創作を奨励、保護する意匠法による保護の対象と すべき根拠とはなっても、自他商品の識別標識としての商標を対象とする商 標法の保護とは次元が異なる問題である。
(3) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした 本件審決の判断に誤りはない。

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