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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商4条1項各号

平成29(行ケ)10132  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年11月14日  知的財産高等裁判所

 商4条1項11号違反についての拒絶査定不服の審決取消事件です。特許庁審査基準では異なる類似群である理化学装置(10A01)用のソフトと限定して、商品非類似であると争いましたが、特許庁・裁判所とも、類似する商品と判断しました。\n
ウ 前記イの認定事実によると,本願商標の指定商品である「コンピュータソフ\nトウェア」と,引用商標1の指定商品である「半導体チップ,半導体素子」とは, 1)いずれも電子の作用を応用したものであり,コンピュータ等の電子機器を稼働す るために構成上不可欠なものであって,その用途及び機能\において密接な関連を有 するものであること,2)両商品を生産している事業者が相当数存在すること,3)様々 な商品を取り扱っている総合ショッピングサイトや家電量販店だけでなく,半導体 素子等を含む電子部品を専門に扱う相当数の販売店においても,両商品が販売され ていること,4)両商品の需要者は,一般の個人需要者や電子機器等の製造メーカー において共通する場合があることなどの事情に照らすと,両商品の原材料及び品質 が異なること,完成品と部品の関係にないことなどを考慮したとしても,両商品に 同一又は類似の商標が使用されるときは,同一営業主の製造又は販売に係る商品と 誤認混同するおそれがあると認められる関係にあり,商標法4条1項11号にいう 「類似する商品」に当たると解するのが相当である。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,本願商標の指定商品のうち,理化学装置の制御用コンピュータソ\nフトウェア等は,その機能・用途によれば,むしろ第9類の「理化学機械器具」に\n属する商品(専用ソフトウェア)であり,10A01の類似群コードが付される商\n品の範疇であるともいえ,その場合,引用商標1の指定商品である半導体素子等が 含まれる「電子応用機械器具」とは類似群コードが異なり,両商品は,明らかに異 なるものである旨主張する。 しかし,本願商標の指定商品は,理化学装置の制御用コンピュータソフトウェア\n等に限られるものではなく,コンピュータソフトウェア全般を指定商品とするもの\nであり,コンピュータソフトウェアと半導体素子等とが,商標法4条1項11号に\nいう「類似する商品」に当たると解するのが相当であることについては,前記ウの とおりである。
(イ) 原告は,ソフトウェア業界は,巨大企業数社と無数の零細メーカーの二極\n構造であるのに対し,半導体業界は,その製造に大規模かつ最新の設備を必要とす\nる代表的な装置産業であることから,両商品は業界自体が異なるだけでなく,生産\n部門において一致しない旨主張する。 しかし,コンピュータソフトウェアと半導体素子等との両商品を製造する事業者\nが相当数存在することについては,前記イ(イ)のとおりである。また,一般社団法 人電子情報技術産業協会(JEITA)における,コンピュータソフトウェアに関\n連するソフトウェア事業委員会を構\成する8社のうち6社は,半導体事業に関連す る半導体部会の構成企業でもあり,同協会の半導体部会と一般社団法人コンピュー\nタソフトウェア協会の両方の登録会員である企業も存在すること(甲3,7,乙3\n9の1・2)に鑑みても,両商品の生産部門は一致しないものではない。
(ウ) 原告は,コンピュータソフトウェアは,一般消費者向けに取引を展開する\nウェブサイトにおいても,「パソコンソ\フト」のジャンル名で多数取引されている のに対し,半導体素子等は,半導体を専門的に取り扱う商社等を通じて主に販売さ れるものであり,自作パソコンの製作を試みるパソ\コンマニア向けに,一部のパソ\nコンショップやネットショップで半導体素子等が販売されている事実があるとして も,半導体素子等の販売取引市場全体を見れば,ごく僅かな一部の事情を示すにす ぎない旨主張する。 しかし,様々な商品を取り扱っている総合ショッピングサイトや家電量販店だけ でなく,半導体素子等を含む電子部品を専門に扱う相当数の販売店においても,コ ンピュータソフトウェアと半導体素子等の両商品が販売されていることについては,\n前記イ(ウ)のとおりである。また,前記イ(エ)のとおり,一般の個人需要者の中に は,パソコンを自作する者のほか,所有するパソ\コンの性能を向上させること等を\n目的として,半導体素子等に含まれるCPUなどの電子部品及びコンピュータソフ\nトウェア等を購入し使用する者もいるのであって,両商品を購入する者は,自作パ ソコンを製作する一部のパソ\コンマニアに限られるものではない。さらに,一般消 費者向けに取引を展開するウェブサイトである楽天市場の「全てのカテゴリー」に おいて,引用商標1の指定商品に包含される「CPU」,「サーミスタ」,「トラ ンジスタ」及び「ダイオード」を検索すると,それぞれ,17万1333件,1万 1865件,2万1603件及び7万0232件が検出されること(乙41〜44) に鑑みても,両商品の販売部門は一致しないものではない。
(エ) 原告は,コンピュータソフトウェアは,あらゆるビジネス分野の事業者だ\nけでなく,幅広い年齢の個人利用者をその需要者とするのに対し,半導体素子等は, 半導体を組み込んだ各種産業製品を生産する事業者がその主たる需要者であり,ソ\nフトウェア独自のビジネス構造においても顕著な差異を有しており,両商品は需要\n者の範囲において比較し得ない旨主張する。 しかし,両商品の需要者は,一般の個人需要者や電子機器等の製造メーカーにお いて共通する場合があることについては,前記イ(エ)のとおりである。
(オ) 原告は,コンピュータソフトウェアはバージョンアップやアンインストー\nルを容易に行うことができ,半導体素子等にはないソフトウェア特有の特徴を備え\nていることを考慮すると,両商品は用途において顕著に異なる旨主張する。 しかし,両商品は,いずれも電子の作用を応用したものであり,コンピュータ等 の電子機器を稼働するために構成上不可欠なものであって,その用途及び機能\にお いて密接な関連を有するものであることについては,前記イ(ア)のとおりである。 コンピュータソフトウェアのインストール,バーションアップ等は,当該商品の利\n用方法における一つの特徴を述べたものにすぎない。

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平成29(行ケ)10109  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年11月14日  知的財産高等裁判所

 商標登録の無効が争われました。審決は無効理由無し、知財高裁は4条1項15号違反と判断しました。争点は「化粧品」と「男性ファッション誌」との間で、混同を生ずるおそれがあるか否かです。
(ア) 前記(1)ウのとおり,本件雑誌には,少なくとも最近約10年間にわたり, ほぼ毎号,化粧品についての記事が掲載されている。男性ファッション誌の主な対 象は服飾品であるものの,化粧品はファッション全般に関するものとして,男性フ ァッション誌の対象とされているというべきである。 したがって,男性化粧品と男性ファッション誌は,共にファッションに関するも のとして少なからぬ関連性を有するというべきである。
(イ) 男性化粧品と男性ファッション誌の需要者は,いずれも男性向けファッシ ョンに関心のある者と考えられ,共通するというべきである。男性化粧品と男性フ ァッション誌の取引者が異なるからといって,需要者の共通性は何ら否定されない。 したがって,男性化粧品と男性ファッション誌については,需要者が共通する。
(ウ) 本件商標の指定商品は,日常的に消費される性質の商品であり,その需要 者は特別の専門的知識経験を有する者ではないことからすると,これを購入するに 際して払われる注意力は,さほど高いものでないというべきである。
(3) 商標法4条1項15号該当性
以上のとおり,1)本件商標は,引用商標と外観において極めて類似し,観念及び 称呼において共通するのであって,本件商標と引用商標は,極めて類似したもので あること,2)引用商標は,独創性が高いとはいえないものの,数十年にわたり,需\n要者の間に広く認識されていること,3)本件商標の指定商品(男性用化粧品)は, 原告の業務に係る本件雑誌(男性ファッション誌)の対象として,少なからぬ関連 性を有するもので,本件雑誌と需要者が共通することその他需要者の注意力等を総 合的に考慮すれば,本件商標を指定商品に使用した場合は,これに接した需要者に 対し,引用商標を連想させて,当該商品が原告あるいは原告との間に緊密な営業上 の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主\nの業務に係る商品であると誤信され,商品の出所につき誤認を生じさせるおそれが あるものと認められる。 そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれが ある商標」に当たると解するのが相当である。
・・・
イ 被告は,本件雑誌の一部に掲載されているにすぎない化粧品について雑誌と の強い関連性を認めるのは,本件雑誌で紹介される全ての商品について雑誌との強 い関連性を認めることとなり,ひいては指定商品「雑誌」について不当に広い権利 範囲を認めることとなり,不合理であると主張する。 しかし,前記(2)ウのとおり,本件雑誌にはほぼ毎号化粧品に関する記事が掲載さ れ,化粧品自体,本件雑誌の対象であることが明らかな服飾品と少なからぬ関連性 を有するものである。そして,引用商標は長期間にわたって周知のものであること に加え,原告がコラボレーション企画等を行っていることをも併せ考慮すれば,い わゆる広義の混同が生じるおそれが認められる。 したがって,指定商品を男性用化粧品とする本件商標を15号該当とすることが 不合理であるとはいえない。

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平成29(行ケ)10128  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年10月26日  知的財産高等裁判所(2部)

 商標「軽スタ」と「軽スタジオ」が非類似とした拒絶審決が維持されました。
 「・・・他方,「スタ」という片仮名部分は,それ自体に特定の意味がないところ,これと結合する「軽」という漢字部分からは指定役務との関係で「軽自動車」が想起され ること,本件商標の査定日である平成27年11月16日以前から,「新しいまちづ くりをスタートさせるスタッフ」を意味するものとして4音の「まちスタ」が使用 されていたほか(乙9),「おはようスタジオ」というテレビ番組を「おはスタ」と 略称する(甲5の1・2)など,「スタ」が略称として用いられることが少なからず あったこと(弁論の全趣旨)からすると,本件商標の指定役務の需要者には,「スタ」 という片仮名部分も特定の単語の略称であると想起されることがあり得るというこ とができる。 しかし,「スタ」という片仮名部分が特定の単語の略称であると想起されるとして も,冒頭2字を略称にするとは限らないし,「スタ」から始まる片仮名の単語につい ては,広辞苑(第6版)掲載のものに限っても,「スター」,「スタート」,「スタイリッシュ」,「スタイル」,「スタジアム」,「スタジオ」,「スタッフ」,「スタディー」のほか(甲4),「スタミナ」,「スタメン」,「スタンダード」,「スタンド」,「スタンバイ」などがあり,いずれも「スタ」と略称される可能性があるということができる(甲5の1・2,甲6〜9,乙6〜9)。そして,本件商標の指定役務との関係や,\n「軽自動車」の略称と考えられる「軽」という漢字部分との組み合わせを考えても, 本件商標の指定役務の需要者において,これらの「スタ」から始まる多数の単語の うち,いずれかのみを強く想起するということはできない。 そうすると,本件商標に接した本件商標の指定役務の需要者は,本件商標が軽自 動車と「スタ」から始まる何らかの単語を組み合わせたものの略称と考えられるこ とまでを想起するとしても,本件商標全体から特定の観念を想起することはできな いというべきである。
3 引用商標は,前記第2の3(2)のとおり,「軽スタジオ」という漢字1字と片 仮名4字を横書きした構成からなるが,これらの文字は,同一の書体,同一の大き\nさ,同一の間隔で表されており,外観上,一体的に看取,把握されるものである。\nまた,引用商標からは,その構成文字に応じて,「ケイスタジオ」の称呼を生じ,\nこの称呼は6音であることから,一気に称呼し得るものである。 さらに,引用商標は,「軽」という漢字と「スタジオ」という片仮名から構成され\nるものであるところ,その指定役務が「自動車及びその部品の小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供,自動車リース事業の運営及び管理,自 動車の売買契約の媒介」であること,「軽」が「軽自動車」の略称として用いられて いることからすると,「軽」という漢字部分からは「軽自動車」が想起される。他方, 「スタジオ」は,1)画家,彫刻家,写真家,デザイナーなど芸術家の仕事場,2)映 画や写真の撮影所,3)音楽の録音室・練習室,4)放送局の放送室などといった意味 を有する単語であり(甲4,乙1〜5),引用商標の指定役務と直ちに結びつくもの ではないが,「軽自動車」の略称である「軽」と結合して用いられていることから, 引用商標全体からは,「軽自動車に関する役務の提供が受けられる場所」といった観 念を想起するものと認められる。
4 前記1〜3によると,本件商標と引用商標の外観は,「軽スタ」という文字部 分が共通であるものの,本件商標が3字であるのに対し,引用商標は5字であり, 離隔的観察においても,外観上の相違を十分認識することができる。\nまた,本件商標と引用商標の称呼は,「ケイスタ」が共通であるものの,本件商標 が4音であるのに対し,引用商標は6音である上,差異音である「ジオ」は,濁音 を含む明瞭に発音されるものであるから,離隔的観察においても,称呼上の相違を 十分認識することができる。\nさらに,引用商標からは,「軽自動車に関する役務の提供が受けられる場所」とい った観念が生じるが,本件商標からは,特定の観念を想起することはできないから, 本件商標と引用商標とは,観念が共通するものではない。 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観及び称呼において相紛れるおそれ はなく,観念が共通するものでもないから,これらを総合して判断すると,本件商 標は,引用商標に類似する商標に当たらない。
・・・・
なお,原告は,被告の商号が「軽スタジオ茅ヶ崎株式会社」であること,被告が 「軽スタジオ」に代えて「軽スタ」という本件商標の使用を開始したこと,その後 も被告が「軽スタ」と表記した自己のウェブサイトに誘導するために「軽スタジオ」\nというキーワードメタタグを用いていること,被告は,被告の店舗において,「軽ス タ」と「軽スタジオ」を混在して継続使用することを表明していることなどを指摘\nするが,これらは,いずれも商標権者である被告に係る個別具体的な事情であって, 本件商標の指定役務全般に係る一般的,恒常的な取引の実情ではないから,上記判 断を左右するものではない。また,被告が,「軽スタジオ」と「軽スタ」のいずれの 標章も使用してきたとしても,被告の認識が,本件商標と引用商標を離隔的に(場 所と時間を異にして)観察する需要者の認識と一致するものとする根拠はないから, この点からしても上記判断を左右するものではない。

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平成29(行ケ)10053  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年10月25日  知的財産高等裁判所(1部)

 商標登録無効審決の取消事件です。特許庁は、先願既登録商標1,2とは類似でないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。本件商標の登録日には前記先願既登録商標1,2(「チドリヤ」、「CHIDORIYA」)は存在しましたが、本件商標(漢字で「千鳥屋」)の登録日の2年後くらいに、存続期間満了で消滅していました。
 そして,本件商標が,漢字を書してなるものであるのに対し,引用商標は,片仮 名又はローマ字を書してなるものであるから,本件商標と引用商標の外観は同一で あるとはいえない。もっとも,本件商標と引用商標は,いずれも格別の特徴を有し ない文字からなる商標であり,我が国において,外来語以外でも同一語の漢字表記\nと片仮名表記又はローマ字表\記が併用されることが多く見られる事情があること, 証拠(甲34〜36)及び弁論の全趣旨によれば,「千鳥屋」をローマ字で表記する\nことも一般的に行われていることが認められることなどを考慮すると,本件指定商 品及び引用商標の指定商品の需要者にとって,文字種が異なることは,本件商標と 引用商標が別異のものであることを認識させるほどの強い印象を与えるものではな いというべきである。 次に,本件商標から,「千鳥屋」という菓子屋の屋号又は商号との観念が生じるこ とについては当事者間に争いがなく,本件商標からは,「千鳥屋」という菓子屋の屋 号又は商号との観念が生じるものと認められる。 また,証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によれば,「チドリヤ」という語は,広辞 苑等の辞書に掲載されていないものの,広辞苑第6版には,「チドリ」に関して「千 鳥」の語が掲載され,「1)多くの鳥。2)チドリ目チドリ科の鳥の総称。」などの意味 の記載と共に,「ちどり−あし【千鳥足】」,「ちどり−やき【千鳥焼】」などの例が挙げられていること,「屋」という語が,屋号又は商号を表す際に用いられるものであ\nることなどが認められる。そして,本件商標の登録査定時において,「千鳥屋」が, 九州地区,関西地区,関東地区では著名な菓子屋の屋号及び商号であり,「千鳥屋」 という屋号及び商号が全国的にその名を知られているものであることについては当 事者間に争いがなく,引用商標は,「千鳥屋」の称呼を片仮名又はローマ字で表記し\nたものといえることからすると,本件商標と同様に,引用商標から「千鳥屋」とい う菓子屋の屋号又は商号との観念が生じるものと認めるのが相当である。このこと は,検索サイトの検索結果(甲24)において,「チドリヤ」及び「CHIDOR IYA」の検索結果として,「千鳥屋」が多数検索されることや,「チドリヤ」の 文字を検索した際に,「千鳥屋」の検索の誤りであることを指摘する検索サイトが複 数あることからも裏付けられる。
ウ 本件指定商品及び引用商標の指定商品は,いずれも基本的には,さほど 高価とはいえない日常的に消費される性質の商品(食品)であり,これらは同一の 営業主により製造又は販売されることがあり,同一店舗で取り扱われることも多い ことからすると,本件指定商品については,同一営業主の製造又は販売に係る商品 と誤認され,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるといえる。このよ うに,本件指定商品と引用商標の指定商品は類似の商品であり,その取引者,需要 者には,広く一般の消費者が含まれるから,商品の同一性を識別するに際して,そ の名称,称呼の果たす役割は大きく,重要な要素となるというべきである。なお, 一般の消費者としては,商標の外観を見て商品の出所を判断することも少なくない と考えられるものの,前記認定のとおり,本件商標と引用商標の外観については別 異のものであることを認識させるほどの強い印象を与えるものではない。そうする と,本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,上記のような取引の実情 をも考慮すると,外観及び観念に比して,称呼を重視すべきであるといえる。 以上によれば,本件商標と引用商標は,称呼において同一であり,両商標からは 同一の観念を生じるものといえるから,本件指定商品の需要者にとって,引用商標 と同一の称呼を生じる本件商標を付した商品を,引用商標を付した商品と誤認混同 するおそれがあるものと認められる。

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平成29(行ケ)10094  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年10月24日  知的財産高等裁判所

 地域団体商標を観念させるとして、15号違反に基づく無効を主張しました。審決は理由無し、知財高裁は理由ありと判断しました。本件商標は「豊岡柳(2段併記)」で、地域団体商標は「豊岡杞柳細工」です。
 原告は,平成6年に,伝統的工芸品産業振興協会の伝統工芸士認定事業に 参加し,構成員10名が伝統工芸士の認定を受け,伝統的工芸品表\示事業を開始し て,伝統証紙(経済産業大臣が指定した技術・技法,原材料で製作され,産地検査 に合格した製品に貼られる,「伝統マーク」をデザインした証紙)の表\示を始めた。 そして,原告は,その頃から,原告の商標として「豊岡杞柳細工」の使用を開始し, 平成13年には,更に構成員5名が伝統工芸士の認定を受けた。(甲6の9,7,\n8,9の4)
(ウ) 平成18年4月1日,地域団体商標制度が導入されたことから,原告は, 別紙引用商標目録記載のとおり,「豊岡杞柳細工」の文字からなる引用商標を出願 し,平成19年3月9日,指定商品を兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳 細工を施したこうり,柳・籐製のかご及び柳・籐製の買い物かごとする地域団体商 標として,設定登録を受けた。(甲2) なお,地域団体商標の制度は,従前,地域の名称と商品(役務)の名称等からな る文字商標について登録を受けるには,使用により識別力を取得して商標法3条2 項の要件を満たす必要があったため,事業者の商標が全国的に相当程度知られるよ うになるまでの間は他人の便乗使用を排除できず,また,他人により使用されるこ とによって事業者の商標としての識別力の獲得がますます困難になるという問題が あったことから,地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り,地域ブラン ドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として,いわ ゆる「地域ブランド」として用いられることが多い上記文字商標について,その商 標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表\示するもの として需要者の間に広く認識されているときは,商標登録を受けることができると するものである。また,地域団体商標は,事業者を構成員に有する団体がその構\成 員に使用をさせる商標であり,商品又は役務の出所が当該団体又はその構成員であ\nることを明らかにするものである。
・・・・
(オ) 前記(イ)のとおり,「豊岡杞柳細工」は,伝統的工芸品に指定されている ため,通商産業省伝統的工芸品産業室が監修し伝統的工芸品産業振興協会が編集し て年1回発行される冊子「伝統的工芸品の本」に毎回掲載され,豊岡杞柳細工の歴 史,特徴,製法等について,原告商品の写真と一緒に紹介されている。また,前記(ウ) のとおり,引用商標は,地域団体商標として設定登録されているため,経済産業省・ 特許庁が年1回発行する冊子「地域団体商標」に毎回掲載され,引用商標の構成,\n権利者,指定商品,原告商品の写真,連絡先及び関連ホームページのアドレスなど が紹介されている。(甲6の9,21,22)
・・・
イ 前記アの認定事実によれば,豊岡杞柳細工は,豊岡地方において古くから製 作されてきたものであり,経済産業大臣により伝統的工芸品に指定され,「豊岡杞 柳細工」という引用商標が,地域団体商標として設定登録されているものである。 また,引用商標を付した原告商品は,豊岡地方に所在する店舗やミュージアム等の 施設で展示・販売されるほか,東京都内の百貨店等で展示会を開催し,インターネ ットを介した通信販売をするなどして,豊岡地方以外でも販売されている。さらに, 原告商品は,伝統的工芸品に指定され,地域団体商標の登録を受けていることから, 経済産業省がそれぞれ年1回発行する冊子に毎年掲載されているほか,多数の書籍, 雑誌,テレビ等において,豊岡地方の伝統的工芸品であることや,その歴史,製法, 特徴等が紹介されている。これらの事情を考慮すると,引用商標を付した原告商品 は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告又はその構成員の業務を\n示すものとして,需要者の間に広く認識されており,一定の周知性を有していたも のと認められる。 なお,引用商標は,地域の名称である「豊岡」と商品の普通名称である「杞柳細 工」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる地域団体商標であるから,\nその構成自体は,独創的なものとはいえない。
(4) 商品の関連性その他取引の実情
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告は,京都府に在住し,「拓心」の屋号で,かばんの企画,製造,販売 等の事業を営む者である。被告は,平成20年に,伝統的工芸品の作り手とデザイ ナーやプロデューサーなど様々な分野の専門家が交流を図り,パートナーを選択し て新商品開発研究を行って試作品を作り,発表し意見を求める展示会に参加する本\n件事業に加わり,原告のパートナーとなったが,新商品の開発には至らず,同事業 は終了した。(甲13の1〜5,23の2) しかし,被告は,杞柳細工に商品価値を見出したことから,平成22年に本件商 標を出願し,平成23年に本件商標の設定登録を受けた。そして,被告は,本件商 標を付した柳細工のかばん(バッグ,アタッシュケース等。以下,被告の販売する 上記かばんを総称して「被告商品」ということがある。)の製造を開始した。(甲 1,12,23の2・5)
(イ) 被告商品は,豊岡地方のほか,京都府に所在する被告の店舗や百貨店等で 販売されている。また,平成25年及び平成26年に,社団法人京都国際工芸セン ターにおいて,「豊岡柳KAGO展」などと題する展示会が1週間開催されるなど した。(甲23の3・4) さらに,被告商品は,被告が開設したウェブページや他のインターネットのサイ トを介するなどして,通信販売も行われている。(甲23の1)
(ウ) 被告が作成した被告商品のパンフレットや,被告商品の展示会を紹介する ウェブページには,本件商標及び被告商品の写真が掲載されている。そして,上記 パンフレット等に掲載された被告商品の写真は,原告のパンフレット等に掲載され た,原告商品である杞柳細工のかばん類や籠類と外観が類似するものも少なくない。 (甲9の1〜5,10の1〜3,23の1,23の3〜6) イ 本件商標の指定商品は,第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具 入れ,かばん金具」である。一方,前記(3)のとおり,原告商品は,引用商標の指定 商品であるこうり(第18類),かご及び買い物かご(第20類)のほかに,ハン ドバッグ,アタッシュケース等のかばん類も含むものである。 したがって,本件商標の指定商品と原告商品とは,商品の用途や目的,原材料, 販売場所等において共通し,同一又は密接な関連性を有するものであり,取引者及 び需要者が共通する。 また,前記アのとおり,被告商品のパンフレット等に掲載されている被告商品の 写真は,原告商品と外観が類似するものも少なくない。そして,本件商標の指定商 品である「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」が日常的に 使用される性質の商品であることや,その需要者が特別の専門的知識経験を有する 者ではないことからすると,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど高 いものではない。 このような被告の本件商標の使用態様及び需要者の注意力の程度に照らすと,被 告が本件商標を指定商品に使用した場合,これに接した需要者は,前記(2)のとおり 周知性を有する「豊岡杞柳細工」の表示を連想する可能\性がある。
(5) 小括
以上のとおり,1)本件商標は,外観や称呼において引用商標と相違するものの, 本件商標からは,豊岡市で生産された柳細工を施した製品という観念も生じ得るも のであり,かかる観念は,引用商標の観念と類似すること,2)引用商標の表示は,\n独創性が高いとはいえないものの,引用商標を付した原告商品は,原告の業務を示 すものとして周知性を有しており,伝統的工芸品の指定を受け,引用商標が地域団 体商標として登録されていること,3)本件商標の指定商品は,原告商品と同一又は 密接な関連性を有するもので,原告商品と取引者及び需要者が共通することその他 被告の本件商標の使用態様及び需要者の注意力等を総合的に考慮すれば,本件商標 を指定商品に使用した場合は,これに接した取引者及び需要者に対し,原告の業務 に係る「豊岡杞柳細工」の表示を連想させて,当該商品が原告の構\成員又は原告と の間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され,商品の出所につき誤認を 生じさせるとともに,地域団体商標を取得し通商産業大臣から伝統的工芸品に指定 された原告の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその\n希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。 そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれが ある商標」に当たると解するのが相当である。

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平成28(行ケ)10262  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年9月13日  知的財産高等裁判所(1部)

 ワンポイントの図形商標について、知財高裁は「著名であるので混同する」と判断し(15号違反)、混同しないとした審決を取り消しました。
 このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考える\nと,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような 態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体\nに詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に\n刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹 き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その\n全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマ ークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識され るとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的である といえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられ る。)。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合 などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性\nが高くなるものといえる。 また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ, サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ, スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要 者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということが できる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて 正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し, メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店 の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えら れる。
(6) 混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構\成を共通 にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者 が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者 であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことな どの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考 慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された 場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な 配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内 側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。 また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の 商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指\n定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具) 関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には, これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原 告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグ\nループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるもの というべきである。 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録 を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に 該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。
(7) 被告の主張について
ア 被告は,本件商標と引用商標とは,審決が認定した差異以外に,商標の 縦横比の相違,左端頂部の高さの相違,左上部の左傾斜直線の長さの相違を有する ものであり,看者に与える印象が大きく異なるというのが相当であるから,外観に おいて混同を生ずるおそれはない旨主張する。 確かに,本件商標と引用商標とを対比すると,前記のとおり,具体的な構成にお\nいていくつかの相違点が認められるものである。しかしながら,前記認定のとおり, 引用商標は,前記のような図柄であって,原告の商品を表示するものとして,いわ\nゆるスポーツ用品関連の商品分野において,高い著名性を有していたことに照らせ ば,被告が指摘するような具体的構成における差異が存在するとしても,引用商標\nと全体的な輪郭等の構成が共通していると認められる本件商標をスポーツ用品関連\nの商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には,これに接する需要者 において,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示に\nよる商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤 信するおそれがあるものというべきである。 また,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても,その全体的\nな輪郭等の構成が引用商標と客観的に類似性の高いものとなっており,これをワン\nポイントマークとして使用した場合などには,一般の消費者の注意力などをも考慮 すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは前記のとおりである。 なお,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用 したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営 業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営\n業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とする ものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における 考慮要素の一つにすぎないものである。被告が主張するような差異が存在するとし ても,その点については,本件商標の構成において格別の出所識別機能\を発揮する ものとまではいえないし,単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって, 混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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平成29(行ケ)10049  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年9月14日  知的財産高等裁判所

 4条1項7号(公序良俗)違反とした審決が取り消されました。争点は、本件商標が「上級の助産師」の意味を有しており、これを登録すると、国家資格である「助産師」の制度に対する社会的信頼を失わせるか否かです。
 本願商標のうち「Advanced Midwife」の文字部分の「A dvanced」,「Midwife」の各欧文字は,「上級の」,「助産師」をそれぞれ意味する英語である(乙3,4)から,「Advanced Midwife」の 欧文字部分からは,「上級の助産師」の意味が生じるものと認められる。また,本願 商標のうち,「アドバンス助産師」の文字部分からは,「上級の助産師」という意味 が生じるものと認められる。 そうすると,本願商標は,「上級の助産師」の意味が生じる語を日本語表記及び英\n語表記で表\示したものであって,本願商標全体としても,「上級の助産師」の意味を 生じるということができる。 ところで,1)前記1(3)のとおり,「アドバンス助産師」制度は,助産関連5団体 によって創設されたもので,「アドバンス助産師」を認証するための指標は,公益社 団法人日本看護協会が開発したものであるから,その専門的知見が反映されている ものと推認されること,2)前記1(1),(2)のとおり,原告は,専門職大学院の評価 事業のほか,助産師養成機関や助産所の第三者評価事業を行っており,助産分野の 評価を適切に行えるものと推認されること,3)前記1(6)のとおり,「アドバンス助 産師数」は,厚生労働省により周産期医療体制の現状把握のための指標例とされて いること,以上の事実からすると,「アドバンス助産師」認証制度は,一定程度の高 い助産実践能力を有する者を適切に認証する制度であると評価されるべきものと認\nめられる。また,前記1(3),(5)のとおり,「アドバンス助産師」認証制度は,平成 27年から実施され,既に1万人を超える「アドバンス助産師」が存在すること, 前記1(7)のとおり,各病院において,ウェブサイトに「アドバンス助産師」の認証 を受けた助産師が存在することを記載し,充実した周産期医療を提供できることを 広報していることからすると,「アドバンス助産師」は,国家資格である助産師資格 を有する者のうち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者を示すものであることが,\n相当程度認知されているものと認められる。 そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,「アドバンス助産師」を,助産 師のうち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者であると認識するということがで\nきるところ,その認識自体は,決して誤ったものであるということはない。
(3) 国家資格の中には,知識や技能の難易度等に応じて,同種の資格の中で段\n階的にレベル分けされているものがあることが認められる(乙21〜28)が,上 級の資格を「アドバンス」と称する国家資格があるとは認められないこと(甲28 参照)や前記のとおり「アドバンス助産師」制度が相当程度認知されていることか らすると,「アドバンス助産師」が「助産師」とは異なる国家資格であると認識され るとは認められないし,仮に,そのように認識されることがあったとしても,以上 の(1),(2)で述べたところからすると,本願商標が国家資格等の制度に対する社会 的信用を失わせる「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」というこ とはできない。

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平成29(行ケ)10030  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年7月27日  知的財産高等裁判所

 商標「オルガノサイエンス」が商標「オルガノ」と類似する(11号違反)and混同する(15号違反)と判断されました。、争点は、商標「オルガノ」が著名かです。特許庁・裁判所とも著名であると判断しました。
 以上によると,1)被告は,我が国における総合水処理エンジニアリング分野にお ける最大手企業の一つであり,その設立以来,「オルガノ」及びその英語表記である\n「ORGANO」をハウスマークとして使用していること,2)被告の事業の主力は 水処理装置事業であるが,薬品事業を含む機能商品事業の規模も大きく,被告の主\nな商品の市場占有率は高いこと,3)被告の薬品事業は,水処理薬品を中心にするも ので,水処理装置事業とは密接な関連性を有するということができること,4)被告 は20社以上からなるグループ企業を構成し,その子会社の多くは「オルガノ」の\n文字を冠する社名を用いているほか,幅広い分野で事業を営み,国際的な事業展開 も行っていること,5)被告は,たびたびメディアに取り上げられ,その事業内容が 一般に広く紹介されていること,6)被告は,新聞や雑誌において,「オルガノ」の文 字や使用商標1を使用して継続的に宣伝広告を行い,特に,新聞広告については, 長期間にわたり全国紙に題字広告を掲載するという目立つ態様のものであったこと, 以上の各事実を認めることができる。 これらの事実によると,「オルガノ」及びその英語表記である「ORGANO」の\n表示は,被告の略称又はハウスマークを表\示するものとして,本件商標の登録出願 日前から,取引者,需要者に広く知られるようになっており,それに伴い,「オルガ ノ」又はその英語表記である「ORGANO」を含む使用商標についても,同時点\nまでの間に,取引者,需要者に広く知られて周知,著名となっていたと認めるのが 相当である。 そして,使用商標は,ほぼ同大の図形部分及び「ORGANO」又は「オルガノ」 の文字部分から構成されているところ,このうち図形部分からは特段の観念や称呼\nが生じないのに対し,「ORGANO」及び「オルガノ」という文字部分は,その称 呼が被告の略称及びハウスマークと同一であり,商品及び役務の出所を取引者,需 要者に強く印象付ける部分であると考えられる。そうすると,使用商標のうち,「O RGANO」又は「オルガノ」の文字部分は,図形部分とは独立して出所識別標識 としての機能を果たすものということができる。\nしたがって,使用商標の文字部分からなる被告商標についても,被告の水処理装 置事業及びこれと密接に関係する薬品事業を表示するものとして,本件商標の登録\n出願日前から,周知,著名であり,本件商標の登録査定日においても同様であった と認められる。 原告の告の主張について これに対し,原告は,1)被告商標は,水処理装置事業の分野では周知であるとし ても,薬品の分野においては,周知,著名ではない,2)被告が行ってきた宣伝広告 は一般的な企業活動の一環にすぎず,新聞紙上に掲載した題字広告には「ORGA NO」の表示はなく,被告の取り扱う薬品類を表\示しているものもない,3)取引者, 需要者は,使用商標の「ORGANO」又は「オルガノ」の文字部分よりも水玉模 様の図形に注意をひかれる,4)被告商標は,特許情報プラットフォームの「日本国 周知,著名商標」に掲載されておらず,「ORGANO」又は「オルガノ」について の登録防護標章も存在しないなどと主張し,被告商標が周知,著名であることを争 う。
ア しかし,上記1)については,前記認定のとおり,薬品事業を含む機能商\n品事業は,その事業規模が大きく,水処理装置事業と並ぶ被告の主力事業であると いうことができる上,被告の水処理装置事業と薬品事業は密接な関連性を有してい るのであるから,被告の水処理エンジニアリング事業が広告宣伝等により取引者, 需要者に広く知られるようになるとともに,薬品事業についても,本件商標の登録 出願日前から広く取引者,需要者に知られるようになっていたと認めるのが相当で ある。
イ 上記2)については,一般的に,長期間にわたり継続的に行われる宣伝広 告は,商標が一般に広く知られる上で効果的な方法であり,特に,新聞広告は,全 国紙に題字広告を掲載するという目立つ態様の広告が長期間にわたり行われたもの であって,その間に「ORGANO」又は「オルガノ」という被告商標の表示も一\n般に広く知られるようになったものと認めるのが相当である。 原告は,上記の題字広告には「ORGANO」の表示はなく,薬品類も表\示され ていないと主張するが,前記認定のとおり,被告は,新聞広告に加えて,雑誌にお いて,「ORGANO」の文字を含む使用商標1を表示して広告宣伝を行うとともに,\nその事業内容はメディアにたびたび取り上げられて一般に広く紹介されているので あるから,題字広告に係る「オルガノ」という表示のみならず,「ORGANO」と\nいう表示についても一般に広く知られるようになったと認めるのが相当である。ま\nた,薬品事業については,上記ア判示のとおりであって,題字広告に薬品類の表示\nがないからといってこの認定が左右されることはない。
ウ 上記3)については,前記判示のとおり,使用商標のうち「ORGANO」 又は「オルガノ」の文字は,図形部分とは独立して出所識別標識としての機能を果\nたすものと認めるのが相当である。
エ 上記4)については,特許情報プラットフォームの「日本国周知,著名商 標」に被告商標が掲載されていないこと,及び,「ORGANO」又は「オルガノ」 が防護標章登録されていないことのみをもって,被告商標の周知著名性を認定する 妨げとはなるものではない。

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平成28(行ケ)10275  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年7月27日  知的財産高等裁判所(2部)

 商標「ISD個性心理学協会」について、 商標「個性心理学」、商標「個性心理學研究所」から4条1項10号などで無効と主張しました。審決・判決とも無効理由無しと判断しました。
 上記(1)の認定事実によると,「個性心理学」は,「差異心理学」ともい われるもので,心理学のうち個人差の問題を扱う領域として古くから知られており, 国内外でこれを研究対象とする研究者や研究室があったこと,国語に関する辞書や 辞典においても,「個性心理学」についての説明が掲載されていることが認められ る。 そして,これらの事実によると,「個性心理学」という語は,心理学という学問 の一分野を示す普通名称であると認めるのが相当であり,原告の創作した創造標章 であるとは認められない。
(3) これに対し,原告は,本件審決が挙げた証拠は相当過去の事情を示すもの にすぎず,比較的最近の文献で「個性心理学」について言及しているものは甲27 3のみであること,心理学の分野で用いられる用語を説明する一般的な辞典では, 「個性心理学」を説明する項目がないことなどを指摘して,「個性心理学」は普通 名称ではない旨主張し,また,仮に「個性心理学」が普通名称であったとしても, 学問や研究対象としての心理学という極めて限られた範囲のことである旨主張す る。 確かに,近時の心理学の専門的な辞典(事典)では「個性心理学」という語は取 り上げられておらず(甲213〜229),また,近時,「個性心理学」が心理学 の学会等で取り上げられ,議論されていることを示す証拠はない。 しかし,前記のとおり,「個性心理学」が,個人差の問題を扱う心理学として存 在していたことが認められ,現時点でも,国語に関する辞書や辞典にその説明が記 載されている。また,最近の心理学の専門的な辞典には,アドラーが,独自の「個 人心理学」と呼ぶ理論体系を発展させたとして,当該理論体系を心理学の一分野と して紹介するものがあり(甲220),心理学については,一個人が提唱した理論 体系を,心理学の一分野として取り扱う例があることが認められるのであって,「個 性心理学」が,近時,心理学の学会等で取り上げられ,議論されることがなかった としても,心理学の歴史における一つの理論体系としての存在が揺らぐものではな く,それだけでいわゆる死語と化したと認めることはできない。 以上によると,「個性心理学」は,現在においても心理学の一分野を示す普通名 称というべきであり,また,極めて限られた範囲内でしか通用しない用語というこ ともできない。 また,原告は,仮に,「個性心理学」が普通名称であるとすれば,「〇〇心理学」 という語は普通名称として商標登録を受けられないことになるが,実際には,「〇 〇心理学」という語は,多数の商標登録がされていると主張するが,このような他 の商標登録例は,「個性心理学」が普通名称であるとの上記認定を何ら左右するも のではない。

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平成28(行ケ)10272    商標権  行政訴訟 平成29年7月19日  知的財産高等裁判所(1部)

 商標「極肉.com」が「極」と非類似とした審決が維持されました。指定商品には肉製品が含まれています。
商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり,複数の構成部分を\n組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察するこ\nとが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる 場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較し\nて商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構\n成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配 的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識とし ての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけ\nを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものであ る(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5 年9月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日集民228 号561頁参照)。 (2) これを本件についてみると,原告が登録無効を主張する本件指定商品等と の関係では,本件商標の構成のうち「肉」の文字部分は,本件指定商品等に関する\n物又は役務の提供の用に供する物をいうものであるから,原告の主張するとおり, それ自体を単独でみれば出所識別標識としての機能は弱いものといえる。\nしかしながら,本件商標は「極肉.com」という文字で構成されるところ,こ\nのうち「極肉」という文字部分は,「.com」という文字部分の前に位置すること から,取引者又は需要者は,これをドメイン名を表示する一体のものとして理解す\nるものと認めるのが相当である。しかも,本件商標の構成のうち「極」は「肉」を\n修飾する形容詞であるから,「極肉」という文字自体,文法構造上分離するのは相当\nではなく,一体のものとして理解するのが自然である。のみならず,「極肉」という 文字は,これ自体から特定の定着した観念を生じさせるものではなく,いわば一体 となって造語を形成するものであるから,その一部のみが強く支配的な印象を与え るものとはいえない。 これらの事情の下においては,本件商標の構成のうち「極」の文字部分を抽出し,\nこの部分だけを引用商標と比較して類否を判断することは,許されないというべき である。
・・・
原告は,本件商標の構成のうち「極」の文字部分を抽出して引用商標と類否判断\nをしなかった審決の判断には,違法があると主張する。 しかしながら,結合商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標\nと比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対 し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる 場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認めら れる場合などに限り,許されるべきである。本件商標は,上記1において説示した とおり,ドメイン名としての役割上も,形容詞と名詞が結合する文法構造上も,特\n定の観念を必ずしも生じさせない造語としての性質上も,一体として理解されると いうべきであるから,上記場合などに該当しないというべきである。その他に原告 が第1準備書面及び第2準備書面で縷々主張するところを改めて検討しても,上記 判断を左右するに至らない。原告の上記主張は,上記1(1)の判例の趣旨を正解しな いものに帰し,採用することができない。

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平成28(行ケ)10270  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年6月28日  知的財産高等裁判所

 「SeaGull−LC」が「SeaGull」と類似するとした拒絶審決が維持されました。理由は、「LC」部分に識別力がないので、「SeaGull」を抽出できるというものです。
 前記のとおり,本願商標は,「SeaGull−LC」の欧文字及び記 号を標準文字で表してなる商標である。\nこのうち,記号「−」(ハイフン)は,一語が二行にまたがるときのつ なぎとして使用される場合を除き「英文等で,二語を連結して一語相当の語 と」する場合(甲29)ないし「英文などで,合成度の浅い複合語の連結, …または一語内の形態素の区切りを明確にする」(乙23)場合に使用され るものである。したがって,それ自体,本願商標の構成において,商品の出\n所識別標識としての機能を有するものでないことは明らかである。\nまた,同記号を基準とした場合の前半部分である「SeaGull」の 欧文字部分は,一般に,「海カモメ」の意味を有し,「シーガル」と発音さ れる英語「sea gull」を表したものと認識されるものといってよい。\nそうすると,当該部分につき,本願商標の指定商品「業務用電子計算機用プ ログラム」との関係で,その商品の普通名称や品質等を表示するものである\nなど,商品の出所識別標識としての機能を果たし得ないと見るべき事情は見\n当たらないというべきである。
 他方,後半部分である「LC」の欧文字部分は,それ自体独立の意味を 持った英語その他の外国語の単語ないし略語として認識されるものと見るべ き事情は見当たらない。また,証拠(乙8の1〜乙22)によれば,欧文字 2字が,商品の管理又は取引の便宜性等の事情から,商品の規格,型式又は 種別等を表示する記号又は符号として使用される例が少なからずあること,\n本願商標の指定商品を含む「電子応用機械器具及びその部品」を取り扱う分 野に特に着目しても,同じブランド名の商品につき,ブランド名に欧文字2 字を付して,当該ブランドのシリーズ商品における型式,種別等を表すもの\nとして使用される取引の実情があることが認められる。そうすると,上記 「LC」の欧文字部分は,本願商標に接した取引者,需要者にとって,独立 の意味を持つものではなく,商品の規格,型式又は種別等を表示する記号又\nは符号として認識されるものと見るのが相当である。そうである以上,当該 部分が,本願商標の指定商品との関係で,商品の出所識別標識としての機能\nを発揮するものと見ることはできない。 さらに,本願商標を構成する「SeaGull」と「LC」の各欧文字\n部分は,上記のとおり前者は英語を表したもの,後者は記号又は符号と認識\nされることから,相互に関連性を有する語ではなく,しかも,両者の間に存 する記号「−」(ハイフン)の上記機能ないし役割を踏まえるとなおさらに,\nこれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合しているとはいえない。 以上を総合すると,本願商標は「SeaGull」の欧文字と「LC」 の欧文字とを記号「−」(ハイフン)を介して結合してなるものであるとこ ろ,本願商標を構成する各部分が分離して観察することが取引上不自然であ\nると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く,むしろ,本願 商標の前半を構成する「SeaGull」と後半を構\成する「LC」の各欧 文字部分は,記号「−」(ハイフン)を介して視覚上明確に分離して観察さ れるとともに,「SeaGull」の欧文字部分は,取引者,需要者に対し, 商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきであり, 他方,「LC」の欧文字部分からは出所識別標識としての称呼,観念が生じ ないと認められる。 したがって,本願商標については,その構成部分の一部である「Sea\nGull」の欧文字部分を要部として抽出し,この部分のみを他人の商標と 比較して商標そのものの類否を判断することも許されるということができる。 そうすると,本願商標は,その構成全体から生じる「シーガルエルシー」\nの称呼のほか,要部である「SeaGull」の欧文字部分より,「シーガ ル」の称呼及び「海カモメ」の観念を生じるものというべきである。 (

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平成28(行ケ)10227  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年6月14日  知的財産高等裁判所

 商標「JIS」が4条1項6号に該当するとして拒絶審決がなされたので、出願人は取消訴訟を提起しました。裁判所は審決を維持しました。指定役務は「飲食サービスの提供」でした。同号についての審決は珍しいです。
 後掲の各証拠によれば,日本工業規格(JIS)に関して,次の事実が認 められる。
ア 日本工業規格(JIS)は,昭和24年に制定された工業標準化法に基 づき制定される国家規格であり,平成27年3月末現在で,1万0599 件の規格が制定されている(乙3)。
イ 日本工業規格(JIS)の対象は,家電製品や文房具などの生活用品か ら,化学製品や産業機械まで,あらゆる技術分野(土木及び建築,一般機 械など19分野に分類)の製品に及ぶほか,文字コードやプログラムコー ド等の情報処理に関する規格,漢字の規格(JIS漢字水準),商業施設 などで利用される案内用図記号,公共施設等向けの「ピクトグラム」(絵 文字)など,多岐にわたっている(甲1の3,乙9〜23,38,4 3)。
ウ 経済産業省等は,全国の小・中・高校生等を対象に,平成18年度から 「標準化教室」と題する出前授業を実施しており,そのテキストにおい て,日本工業規格(JIS)やその身近な活用事例等を紹介している(乙 24〜27)。 また,同省は,広く一般向けに,日本工業規格(JIS)に関する各種 のパンフレットやリーフレット等を作成し,ウェブサイトに掲載して広告 を行っている(乙24,28〜31)。 エ そのほかにも,「JIS」の語は,「ジス」と称される国家規格である 日本工業規格を表す文字として,広辞苑を含む多くの辞書や書籍(乙\n1,2,20,32〜37),ウェブサイト(乙38〜40),新聞記事 (乙41〜43)に掲載され,更に,中学校の技術・家庭の教科書等にも 掲載されている(乙44〜46)。 オ 最近においても,2020年の東京五輪の開催に向け,海外からの観光 客の受入れに備え,日本工業規格(JIS)が規定する「ピクトグラム」を 国際標準に合わせて見直すことが話題となり,新聞報道されている(乙4 7〜49)。
(2)以上のとおり,「JIS」の文字は,国家規格である日本工業規格を表す\nものとして我が国において長年にわたって利用され,その対象も多数かつ多 岐にわたり,国民生活全般に密接に関わるものであり,加えて,様々な媒体 で広く取り上げられ,広告や報道がされてきたものといえる。 してみると,「JIS」の文字(引用標章)が,日本工業規格を表す標章\nとして我が国の国民一般に広く認識されており,著名な標章といえるもので あることは明らかというべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務である「飲食サービスの提供」に当たり,そ の役務を提供する事業者やその提供を受ける需要者が,引用標章を一般に 目にするとは認められず,日本工業規格について注意を払っているという 取引の実情もないから,引用標章が当該分野に係る取引者,需要者に広く 認識されているとは認められない旨主張する。 しかし,引用標章が,我が国の国民生活全般に密接に関わるものであ り,国民一般に広く認識される標章であることは上記(2)で述べたとおりで あり,「飲食サービスの提供」の分野に係る取引者,需要者のみがその例 外とされるべき理由は何ら認められない。原告は,本願商標の指定役務で ある「飲食サービスの提供」の場面において,取引者,需要者が引用標章 を目にし,これに注意を払うという取引の実情がなければ,当該取引者,需 要者が引用標章を広く認識することはないかのごとく主張するが,当該取 引者,需要者が引用標章を認識する機会は,何も「飲食サービスの提供」の 場面に限られるものではないから,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,1)需要者が日本工業規格を認識する標章は「JISマーク」で あり,「JIS」の文字は定着していない,2)「JIS」の文字が,他の ものを表す略称として使用されている例があり,需要者は,「JIS」の\n文字から直ちに日本工業規格を認識するとはいえないとして,引用標章は 日本工業規格を表す標章として著名ではない旨主張する。\n しかし,「JISマーク」が日本工業規格を表す標章として国民に広く\n知られている事実があるとしても,そのことが,「JIS」の文字が日本 工業規格を表す標章として著名であることを否定する理由となるものでは\nない(両者が共に日本工業規格を表す標章として広く認識されることもあ\nり得る。)。むしろ,「JISマーク」が,「JIS」の文字をデザイン 化したマークであって(乙4の10頁,乙6参照),そこから「JIS」の 文字を読み取ることができることからすれば,「JISマーク」が日本工 業規格を表す標章として広く知られているとの事実は,「JIS」の文字\nも同様に日本工業規格を表す標章として広く知られていることを示すもの\nということができる。 また,原告が,「JIS」の文字が略称として使用されている例として 挙げるのは,「株式会社ジャパンインバウンドソリューションズ(Japan Inbound Solutions)の略称」(甲20),「JIS 香港日本人学校大 埔校」(甲21),「地震情報サイト JIS」(甲22)の3例であ り,いずれも一般に知られた「JIS」の使用例ではなく,引用標章に 接した国民一般がこれらの使用例を想起することは通常考え難いこと であるから,これらの使用例の存在が,引用標章の著名性を否定する理 由となるものではない。

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平成28(行ケ)10089  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年5月15日  知的財産高等裁判所

 商標法4条1項11号違反ではなく、商標法8条1項違反が争われた事例です。知財高裁は登録無効とした審決を維持しました。優先権を使った国際登録が同時期くらいになされると、このようなことはが起きるんですね。
  複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部分が それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的 に結合しているものと認められる場合には,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは, 原則として許されないが,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商\n品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ 13 る場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない と認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較\nして商標そのものの類否を判断することも許されるものと解される(最一小 判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9 月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日集民22 8号561頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,本件商標は,「FINESSENCE」とい うアルファベット10文字を横文字にして成る文字部分(本件文字部分)と, アヤメの花のような図が白抜きされた円形の図形(本件図形)を,上下二段 に組み合わせて構成されるものであるところ,その構\成態様からして,各構\n成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合しているものとは認められない。また,上記のとおり,本件文字部 分はアルファベット10文字を横書きにして成るのに対し,本件図形部分の 横幅は本件文字の3文字分(左から2文字目ないし4文字目)程度しかなく, その大きさの比からして,本件文字部分が本件商標の中心的構成部分に当た\nることは明らかである。加えて,原告も認めるとおり,本件文字部分は,そ れ自体造語であって一般的な用語ではないから,出所識別標識として強く支 配的な印象を与える部分であると認められる。 そうすると,本件商標のうち本件文字部分を要部として抽出し,同部分の みを引用商標と比較して商標の類否を判断することは許されるというべきで あり,この点において,本件審決の認定に誤りがあるとは認められない。

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平成28(行ケ)10208  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年3月23日  知的財産高等裁判所(2部)

 商標「TOMATO」と「TOMATO SYSTEM」が類似する、指定商品役務も商品と小売りサービスで類似するので、商標法4条1項11号違反とした審決が維持されました。原告が「引用商標について識別力がないので引用商標としての適格性に欠ける」という主張についても判断していますが、この主張って法的にどうなんでしょうね。
 原告は,本願商標は,1)「TOMATO」の欧文字部分だけが,独立して,見る者 の注意を惹くように構成されていない,2)「TOMATO」の欧文字部分は,出所識 別表示として強く支配的な印象を与えるものではない,3)「SYSTEM」の語に出 所識別機能がないとまではいえない,と主張する。
本願商標は,「TOMATO」と「SYSTEM」とを同じ字体で同じ大きさで横一 連にまとまりよく表記されているものではあるが,「TOMATO」と「SYSTEM」\nとの間に1文字分のスペースがあり,外観上,「TOMATOSYSTEM」なる一連 の語であるとは認められない。また,本願商標を構成する「TOMATO」及び「S\nYSTEM」の語は,いずれも,我が国において広く慣れ親しまれた英単語であると ころ,「SYSTEM」(システム)の語は,一般に「複数の要素が有機的に関係し あい,全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」を意味する語であ\nり(乙7),本願指定商品又は本願指定役務と関係する情報処理の分野では,ハー ドウェア又はソフトウェアの組合せを意味する語として用いられているから(乙8\n〜10),商品の品質又は役務の質を表したものとして,出所識別表\示としての機 能がないか又は極めて弱いということができる。一方,「TOMATO」(トマト)\nの語からは,まず,野菜のトマトが想起され,そのことは,本願指定商品又は本願 指定役務の取引者又は需要者においても同様であるところ,野菜のトマトと,本願 指定商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状等又は本願指定役務の\n提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様等との関連を想定できな\nいから,非常に強い印象を取引者又は需要者に与えるものである。したがって,本 願商標においては,「TOMATO」の欧文字部分が,取引者又は需要者に対し,商 品又は役務の出所識別標識として,強く支配的な印象を与える。そして,上記説示 から明らかなとおり,「TOMATO」と「SYSTEM」との間の観念的なつながり を見いだすことはできず,本願商標全体で特定の意味合いを想起させるということ はできない。 そうすると,本願商標の要部は「TOMATO」の部分であると認められ,これを 要部として分離抽出した審決の認定に誤りはない。 したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由1は,理由がな い。
(2) 取消事由2(引用商標の引用適格の欠如)について
原告は,欧文字を標準文字で「TOMATO」と表した引用商標1は,「極めて簡\n単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」(商標法3条1項5号),又は, 「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない 商標」(同項6号)であるから,無効であると主張する。 しかしながら,「TOMATO」からは,一般に,野菜のトマトが想起されるとこ ろ,このように明確に特定の観念を導く単語で構成された商標が,「極めて簡単で,\nかつ,ありふれた標章のみからなる商標」ということはできないから,引用商標1 が,商標法3条1項5号に規定された商標に該当することはない。また,広く用い られる語であるからといって,直ちに出所識別機能を欠くものではなく,指定商品\n又は指定役務との関係において検討されるべきものであるところ,引用商標1が, 指定役務との関係において,出所識別機能を欠くと直ちに認めることはできないか\nら,商標法3条1項6号に規定された商標に該当することもない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができず,取消事由2は,理由が ない。

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平成27(受)1876  不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴事件 平成29年2月28日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  福岡高等裁判所

 商標権に関する部分が興味深いです。周知商標に基づく無効審判請求(4条1項10号)は、5年の除斥期間があります(商47条)。よって、侵害訴訟において5年経過すると、無効抗弁(特104条の3)ができないかが論点となります。 最高裁は、原則、無効主張できないが、周知にした本人は除かれると判断しました。ただ、本件の場合、不正競争防止法における周知認定を誤っていると判断されていますので、そもそも、周知でないとの判断となるかもしれません。
 そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。 そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
・・・・
そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。 したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求 されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登 録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相 手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登\n録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標 であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利 の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当であ る。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に 係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識さ\nれている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当す ることを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいう ものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。

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◆関連判決(商標登録無効審判の取消訴訟)はこちらです。平成27年(行ケ)第10083号

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平成28(行ケ)10177  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年2月8日  知的財産高等裁判所

 商標「eTrike」から、称呼「イートライク」が生ずるのかが争われました。知財高裁は、称呼「エトライク」以外にも、称呼「イートライク」が生ずるとした審決を維持しました。
 本願商標は,別紙本願商標目録記載のとおり,「eTrike」の欧文 字を太字で一連に横書きしてなる商標であるところ,商標全体としては,辞 書等に記載された既成の語ではなく,一種の造語として認識されるものと認 められる。 したがって,本願商標からは,欧文字表記をする外国語として我が国にお\nいて最も一般的な英語の読みに従った称呼が生じるものと考えられるとこ ろ,上記一連の欧文字綴りからは,「エトライク」の称呼が自然に生じるも のといえる。
(2) 他方,本願商標は,一連表記された6つの欧文字のうち,冒頭の「e」の\n文字が小文字であり,2番目の「T」の文字のみが大文字である点に特徴が あるところ,英語では一つの語の冒頭の文字のみを大文字で表記することが\n一般的に行われていることからすれば,本願商標に接した取引者,需要者ら は,大文字の「T」以降の文字である「Trike」を一つの語としてとら え,冒頭の「e」の文字と区分して理解することも自然にあり得ることとい える。加えて,上記「Trike」及びその片仮名表記である「トライク」の\n語は,「三輪車」や「三輪の自転車またはオートバイ」を意味する既成の用 語であり(乙3,4),特に,本願商標の指定商品に含まれる「二輪自動車,三 輪自動車,自転車」に係る取引者,需要者らの間では,そのような意味を有 する用語として相応の認識が得られていると考えられること(乙3ないし1 1),他方,例えば,「Eメール」,「eコマース」,「eラーニング」な どのように,「electronic」の頭文字である「e」の文字を既成 語の冒頭に付して,電子化されたものを表す用語として用いるように,既成\n語の前に欧文字を1字置いて,様々な意味やニュアンス等を表すことが我が\n国においても一般的に行われていることといった事情に鑑みれば,本願商標 に接した上記取引者,需要者らにおいては,これを,「三輪の自転車または オートバイ」等を意味する「Trike」の冒頭に「e」の欧文字を付した 造語として認識することも自然にあり得ることであるといえる。 そして,取引者,需要者らが本願商標を上記のように認識することを前提 とすれば,本願商標の冒頭の「e」の文字からは,その自然な英語読みであ る「イー」の称呼が生じ,2文字目以降の「Trike」からは「トライク 」の称呼が生じて,全体からは,上記「Eメール」等と同様に,「イートラ イク」という一連の称呼が生じ得るものといえる。
(3) これに対し,原告は,1)本願商標は,「eTrike」の文字を一つの言 葉として全体が均整のとれた注目される図案化された商標であり,その綴り の中に配された「T」の文字は,語頭文字でもなければ,文頭文字でもない から,本願商標中の「e」と「Trike」を区切って発音することは考え られない旨,2)冒頭の「e」の文字には,長音で発声することを示す記号等 は配されていないから,そこから「イー」の称呼が生じるとはいえない旨,3) 仮に「e」と「Trike」を区切って発音するとしても,「イ」と「トラ イク」を切り離して発音することとなり,「イートライク」のように一連の 称呼は生じない旨を主張する。
しかし,本願商標が欧文字を一つの言葉のように一連表記した商標である\nことを踏まえても,冒頭の「e」の文字と2文字目以降の「Trike」の 語が区分して認識され得ることは上記(2)で述べたとおりである。原告は,本 願商標中の「T」の文字が語頭文字でも,文頭文字でもないことを指摘する が,むしろ,語頭ではなく,2文字目にある「T」が大文字とされているが ゆえに,本願商標に接した取引者,需要者らは,「T」以降の文字である「 Trike」を一つの語としてとらえ,冒頭の「e」の文字と区分して理解 すると考えられるのであるから,原告の上記指摘は当を得たものとはいえな い。 また,取引者,需要者らが本願商標の「e」の文字と「Trike」の語 を区分して認識することを前提とした場合,「e」の文字から,自然な英語 読みとして「イー」の称呼が生じ得ることは,我が国の英語の普及状況に照 らし明らかであり,そのために,必ずしも長音で発声することを示す記号等 を要するものとはいえない。 さらに,取引者,需要者らが本願商標の「e」の文字と「Trike」の 語を区分して認識したからといって,「イ」と「トライク」を切り離して発 音することが通常であるとはいえず,むしろ,わずか6つの欧文字が一連表\n記された「eTrike」の「e」と「Trike」とを殊更切り離して発 音することは不自然であって,「イートライク」の一連の称呼が自然に生じ ることは明らかといえる。

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平成28(行ケ)10164  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年1月24日  知的財産高等裁判所(第2部)

 商標「ゲンコツメンチ」が商標「ゲンコツ」と非類似とした審決が維持されました。前者の指定商品は、「メンチカツを材料として用いたパン,メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ用調味料,メンチカツ入り弁当,メンチカツ入りの調理済み丼物」後者は、「おにぎり,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ」です。
 また、本件については、被告(ローソン)は一時期、原告からライセンスを受けていたとのことです。
 (2) 本件商標は,「ゲンコツ」の文字部分と「メンチ」の文字部分がいずれも 辞書に掲載されている語であることから,その組合せであると解されるものではあ るが,文字のみの商標であって,図形などとの組合せではなく,しかも,全ての文 字が,標準文字で,一連に横書きされており,各文字は,同じ字体,大きさ及び間 隔で,一体的に表記されている。また,本件商標の全体の文字数は,7文字で,多くはないところ,その称呼は,\n「ゲ」と「メ」の母音がいずれも「エ」,その次に続く音がいずれも「ン」であり, 韻を踏んだ状態になっており,リズム感があることから,全体として,7文字であ るにしては,簡潔で歯切れのいい印象を与える。 そして,食品,特に単品で販売されることのある加工食品で,一定程度の大きさ と,丸みと厚みのある形状であり得るものについては,その大きさや形状を表すために「げんこつ」,「にじりこぶし」,「こぶし」という語を使用し,これを加工\n食品の名称と組み合わせて,商品の名称とされることがあると解されるのであって, 前記のような加工食品の取引の場面においては,「げんこつ」又は「ゲンコツ」と いう語が,商品の大きさや形状を象徴的に表す語として解されることもあるといえる。\nさらに,「挽肉にみじん切りにした玉葱などを加えて小判型などにまとめ,パン 粉の衣をつけて油で揚げた料理」を,「メンチカツ」ではなく,「ミンチカツ」と いう地域もあり(甲6,7),インターネット上においては,平成27年9月19 日の時点で,「メンチカツ」を「メンチ」と略する旨の記載もある(甲7)が,そ の他に「メンチカツ」を「メンチ」と略することを裏付ける証拠はなく,平成25 年12月頃のコンビニエンスストアのホットスナックの商品名として,「あらびき 牛肉メンチカツ」(セブン−イレブン),「ビーフメンチカツ」(ファミリーマー ト)と,「メンチカツ」を略さずに全体を取り込んだものがある一方,「メンチ」 のみを取り込んだ商品名は,被告の「ゲンコツメンチ」しか見当たらず,これらを 紹介する雑誌の記事においては,これらの商品を包括する表現として「メンチカツ」と記載されていた(甲42)。\nそうすると,メンチカツ同様に挽肉を使った料理である「ハンバーグ・ステーキ」 (挽肉に刻んだ玉葱,パン粉,卵などを加え,平たい円形にまとめて焼いた料理) (広辞苑第6版)が「ハンバーグ」と表現されているのに対し,「メンチ」の語は,挽肉にみじん切りにした玉葱などを加えて小判型などにまとめ,パン粉の衣をつけ\nて油で揚げた料理である「メンチカツ」を表す名詞として,全国の取引者,需用者に,それほど普及しているとはいえない。\n以上によれば,本件商標において,「ゲンコツ」の文字部分だけが,取引者,需 要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは いえないし,「メンチ」の文字部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生 じないともいえない。
(3) したがって,本件商標は,その外観,称呼及び観念のいずれの点において も,引用商標と相違し,取引の実情を考慮しても,引用商標とは類似しておらず, 商標法4条1項11号に該当する商標ではない。

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平成28(行ケ)10181  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成29年1月24日  知的財産高等裁判所

 商標「オルガノサイエンス」が「オルガノ」と類似するとした先の判決と同様の理由により、無効とするとの審決が維持されました(2部)。
 (4) 本件において,上記(2)イの第1判決の認定判断に照らせば,第1判決の 拘束力は,第1審決を取り消す旨の結論(主文)が導き出されるのに必要な商標法 4条1項11号該当性についての認定判断,すなわち,1)引用商標は,本件商標登 録出願時には被告及び被告の事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知 となっており,被告の事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うも のと認識されており,2)本件商標は,「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認 められ,「オルガノ」部分は上記引用商標の周知性等からすれば,その指定商品及び 指定役務の取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的 な印象を与え,「サイエンス」の部分は指定商品である化合物,薬剤類との関係で出 所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められることからして,「オルガノ」 部分を要部と解すべきであり,3)本件商標と引用商標とは,類似していると認めら れ,4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは,いずれも,「化学剤」を含ん でいる点で共通する,との認定判断について生ずるものというべきである。したが って,再度の審判手続において,審判官は,第1判決が上記のとおり認定判断した 点につき,第1判決とは別異の認定判断をすることは,取消判決の拘束力により許 されないのであるから,審決が取消判決の拘束力に従ってされた限りにおいては, 再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない。 そして,本件審決は,上記第2,3のとおり,第1判決と同様の理由により,本 件商標と引用商標とが類似し,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは,い ずれも,「化学剤」を含んでいる点で共通するから,本件商標は,商標法4条1項1 1号に違反して登録されたとしたものであり,この認定判断は,上記第1判決の拘 束力に従ったものであることが明らかである。そうすると,再度の審決取消訴訟で ある本件訴訟において,これを違法とすることはできず,原告が,審決の当該認定 判断が誤りであると主張立証することは許されない。 本件訴訟において原告の主張する取消事由を検討すると,本件商標の商標法4条 1項11号該当性を争う部分については,第1判決の拘束力が及ぶ事項につき,こ れを蒸し返すものにほかならず,そもそも審決の取消事由とはなり得ないものと認 められるから,失当である。
・・・
(2) 本件商標と使用商標との類似性の程度
ア 本件商標「オルガノサイエンス」は,「オルガノ」と「サイエンス」の結 合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の 「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の 「オルガノ」は,「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解\nされるものの,少なくとも本件商標登録出願時に広く普及していた日本語の辞書で ある広辞苑に掲載されていない(甲133)など,「サイエンス」に比べれば一般に その意味合いが十分浸透しているものではないと認められ,さらに,後記(3)アのよ うな使用商標の周知著名性及び独創性からすれば,本件商標のうち「オルガノ」部 分は,その指定商品等の取引者,需要者に対し,商品等の出所識別標識として強く 支配的な印象を与えるものと認められる。他方,「サイエンス」は,一般に知られて いる「科学」を意味し,指定商品である化合物,薬剤類との関係で,出所識別標識 としての称呼,観念が生じにくいと認められる(最高裁平成20年9月8日第2小 法廷判決,裁判集民事228号561頁参照。)。したがって,本件商標については, 前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである。
イ 本件商標の要部「オルガノ」と,使用商標とは,外観において類似し, 称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機\nの」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似してい ると認められる。

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◆関連事件です。平成26(行ケ)10268

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平成28(行ケ)10145  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年12月22日  知的財産高等裁判所

 無効審判で一部の役務について、「くれないケアセンター」と「くれない」が類似するとして無効と判断されました。知財高裁もこれを維持しました。指定商品・役務の普通名称が付加されただけでは類似と判断されたわけですが、ここ数年、ケースによって類似非類似が揺れています。
本件商標の「ケアセンター」という構成部分は,\n少なくとも本件指定役務との関係においては介護の提供場所を一般的に表示するも\nのにすぎず,当該構成部分から役務の出所識別標識としての称呼,観念は生じない\nというべきである。他方,「くれない」という構成部分は,そもそも「ケアセンター」\nという構成部分と用語として関連するものではなく,「くれない」という用語は,本\n件指定役務の内容等を具体的に表すものではないから,本件指定役務との関係では,\n需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ る。そうすると,本件商標のうち「くれない」という構成部分を抽出し,当該構\成 部分のみを引用商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきで ある。
・・・・
原告は,本件商標は「くれないケアセンター」全体が出所識別機能を有するにも\nかかわらず,「くれない」という構成部分のみを抽出して引用商標と類否判断し,こ\nれを肯定した審決の判断には誤りがあるというものである。 しかしながら,上記1において説示したとおり,結合商標の構成部分の一部を抽\n出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは, その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての 称呼,観念が生じないと認められる場合などは,許されるべきである(前掲最二小 判平成20年9月8日参照)。本件商標のうち「ケアセンター」は,本件指定役務と の関係では「介護施設」という役務の提供場所をいうにとどまり,それ自体出所識 別機能を有するものとは認められないのに対し,「くれない」は,「ケアセンター」\nという用語とは本来的に関連性がなく,需要者に対し役務の出所識別標識として強 く支配的な印象を与えることは明らかである。そうすると,本件商標のうち「くれ ない」という構成部分を抽出して商標の類否判断をすることが許されると認めるの\nが相当である。

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