2020.12.31
令和2(行ケ)10055 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年11月4日 知的財産高等裁判所
商標「織部流」は周知であったとして、10号違反などが理由なしとした審決が取り消されました。
以上によると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,本
件不成立役務のうち「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」
についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であり,また,「セミ\nナーの企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶道の教授」の役務と類
似の役務,「興行の企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶会の企画・
運営又は開催」の役務と同一又は類似の役務,「電子出版物の提供」は,引用商標
に係る原告の「図書及び記録の供覧」及び「図書の貸与」の役務と類似の役務であ
ると認められるから,本件商標の本件不成立役務のうち上記各役務についても,商
標法4条1項10号に該当するものとして,登録を無効とすべきである。
なお,被告は,類似群コードについて主張するが,類似群コードは,それ自体類
似との推定に係るものにすぎない上,審査官の審査の基準であって,裁判所がこれ
に拘束されることはないから,上記判断を左右するものではない。
3 商標法4条1項7号該当性について
(1) 商標法4条1項各号は,商標登録を受けることができない商標として,相
当数の類型を規定しているのであって,同項7号において,「公の秩序又は善良の
風俗を害するおそれがある商標」がその一類型として規定されているのは,他の号
に当てはまらなくてもなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し
得ることを前提に,一般条項をもって,そのような商標の商標登録を認めないこと
としたものであると解されるから,同号の適用は,その商標の登録を社会が許容す
べきではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべきである。
(2) 既に認定判断したとおり,本件商標は,多くの指定役務について,商標法
4条1項10号に該当するものである。また,証拠(甲7,27,28)及び弁論
の全趣旨によると,被告代表者Bは,原告が家元である織部流に入門したことがあ\nると認められるから,被告代表者Bは,本件商標について商標法4条1項10号に\n該当する事由があることを認識していたものと認められる。
しかし,本件商標は,これら商標法4条1項10号に該当するものについては,
そのことを理由に無効とされるのであり,その余の指定役務である「美術品の展示」
について,本件商標の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるとい
うべき事情を認めるに足りる証拠はない。
(3) これに対し,原告は,被告及び被告代表者Bが,古田家や古田織部と何の\n関係もないにもかかわらず,茶道織部流の何百年にもわたる伝統を承継する正当な
根拠も理由もなく,あたかも自己が創設した茶道の流派であるかのように,これを
独占しようとしているなどと主張するが,上記のとおり,「美術品の展示」を除く
役務について本件商標は無効であるので,被告が茶道について織部流を独占するこ
とにはならない。
上記に関し,原告は,Lが織部流の茶会を開催しようとした際に織部流の名称の
使用の中止を求める平成30年10月26日付け「お知らせ」と題する書面(甲2
1)が届いたと主張するが,同書面の差出名義人である「A13」が被告又は被告
の意を受けた者であるとは直ちには認め難い。
また,原告は,被告代表者Bが関係した展示会や催し,同人の講演,同人の経歴\nや「織部賞」について主張するが,これらの主張は上記(2)の判断を左右するもので
はない。さらに,本件審判請求の際の被告代表者Bの陳述書(甲28)についても,\n審判において被告代表者Bが自己の言い分を記載したものにすぎず,上記(2)の判
断を左右するものではないし,原告が提出する被告代表者Bにだまされていた旨の\n記載のあるKの陳述書(甲40)や,本件審判請求において提出された同人名義の
陳述書(甲29)のほか,被告代表者Bを発行者とする「茶湯手帳」の記載(前記\n1(1)エ)も,上記(2)の判断を左右するに足りるものではなく,その他,本件商標
の登録を許容すべきでないといえるだけの反社会性があるというべき事情を認める
に足りる証拠はない。
4 小括
以上によると,本件審決のうち,「セミナーの企画・運営及び開催」,「電子出
版物の提供」,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」,「書籍の制作」及び「興
行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競
馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」の役務について
商標法4条1項10号に該当しないとした範囲で,原告の主張する取消事由には理
由があると認められる。その余の原告の主張は理由がない。
◆判決本文
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2020.12.15
令和2(行ケ)10028 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年12月9日 知的財産高等裁判所
キューピー人形の図形と、文字「キューピー」が結合した商標について、無効請求がなされ、特許庁・裁判所とも無効理由無しと判断しました。出願が大正11年なので、旧商標法(大正10年法律第99号)の無効理由です。判決文の中に、関係法令として条文が記述されています。
上記認定事実によれば,ローズ・オニールが創作したキューピー人形及び
その名称の「キューピー」が大正2年(1913年)に我が国に紹介された
後,「キューピー人形」及びその名称の「キューピー」は,本件出願前(出
願日大正11年4月1日)に,日本国内の全国にわたり,広く知られるよう
になったことが認められる。原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし
21の記述(前記第3の1(1)ア(イ))は,これを裏付けるものといえる。
しかしながら,一方で,上記認定のとおり,大正5年(1916年)以降,
ローズ・オニールが創作に関与したキューピー人形とは異なる「日本なりの
キューピー」人形や,日本文化と関わりを持たせて描かれた絵葉書,年賀状
などが発売され,また,日本的な,日本でデザインされたキューピーは,様々
な商品のブランド名,広告類のイラスト等や商品の容器等に広く使用されて
きたこと,加えて,甲6には,「その代表たるキューピーちゃんも,最初は\nドイツで作られたものだそうだが,それが日本でも作られるようになり,い
つの間にか日本的キューピーとして生れかわった。そのルーツもあまり知ら
れずに,そのくせ,最近まで,子供の頃に一度もキューピーを手にしていな
い人はなかったというぐらい大衆性が続いたのは,キューピーが子供ばかり
でなく大人にも可愛がられる何かを,強力にもっていたからだろう。」,「遠
く太平洋をへだてた島国の日本のこと,生みの親のローズさんのことも,オ
リジナルの可愛らしいイラストのキューピーもあまり知られないまま,どん
どん日本なりのキューピーが作られ,ますます広く愛されたのである。」(前
記1(3)ア(イ))との記載があることに鑑みると,キューピー人形は,本件出
願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され
ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に
使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した
絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ
れる状況にあったものと認められる。
以上によれば,原告の挙げる甲6,9ないし14,18ないし21の記述
から,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が,本件出願前に自他
商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めるこ\nとはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内におけ\nる需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。他にこれ
を認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 不正の目的について
原告は,被告の創業者のAは,本件出願前の1915年(大正4年)3月
から同年12月9日までの間米国に滞在中に,米国においてキューピー人形
及びその名称「キューピー」が広く知られていたことを了知したところ,1)
本件商標は,ローズ・オニール創作に係る人形の絵図及び人形の題号「KE
WPIE」,「キューピー」のみからなること,2)本件出願以前において,
ローズ・オニールの創作したキューピー人形の特徴を備えたキューピー人形
とその名称は,日本国内において,老若男女を問わず,全国津々浦々まで人
気があり,周知著名であったこと,3)被告は,本件商標を指定商品に使用し
た実績がないこと(甲65,66),4)被告のウェブページ(甲27の1,
2)には,Aが他人の著名標章を自己のものとして商標登録した経緯が記載
されていること,5)被告は,本件出願後に,本件商標と同様のローズ・オニ
ール創作に係る人形の絵図とローズ・オニール創作に係る人形の題号「KE
WPIE」,「キューピー」から構成されるキューピー関連商標470件に\nついて広範な指定商品において出願及び登録し,あるいは商標を譲り受けて,
他人の知的創作である「キューピー人形の絵図」,「キューピーの名称」か
らなる商標の独占を図ったことからすると,Aは,他人の標章の著名性にた
だ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとして,権利化を図るとい
う「不正の目的」をもって,本件出願を行ったものである旨主張する。
そこで検討するに,本件商標の出願時及び商標登録時において,ローズ・
オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キューピー」は,
日本国内の全国にわたり,広く知られるようになったことは認められるもの
の,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が自他商品識別機能ない\nし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めることはできず,他人
の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広\nく認識されていたものと認めることはできないことは,前記(1)で説示したと
おりである。
こうした状況のもとで,Aは,大正11年4月1日,本件商標の出願をし,
商標登録を受けたものであるから,その余の点について判断するまでもなく,
Aが本件出願に当たり,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の
知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」を有して
いたものと認めることはできない。
・・・・
(3) 国際信義違反について
原告は,1)被告の創業者のAによる本件商標の出願及び登録は,外国の著
名標章を自己のものとすることを目的とするものであり,不正の目的をもっ
てされたものである,2)A及び本件商標を承継した被告は,ローズ・オニー
ルの創作に係る人形の絵図と類似し,かつ,その創作に係る人形の名称「キ
ューピー」の創作者の母国であり,「キューピー人形」の著作物の第1発表\n国であり,意匠登録された米国において,多数のキューピー関連商標を出願,
登録し(甲36),「KEWPIE DOLL」なる商標に対して権利行使
をした(甲37),3)のみならず,被告は,米国を含めた全世界において,
本件商標と同じく,キューピー人形の絵図,「KEWPIE」,「キューピ
ー」等の文字商標を多数出願及び登録し,他人の知的創作であるキューピー
人形及びその名称の権利化を図っており,A及び被告による他人の知的創作
の剽窃行為は全世界に及んでいる,4)したがって,本件商標の出願及び登録
は,国際信義に反する旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲30,37,38)によれば,本件商標を承
継した被告は,「KEWPIE(kewpie)」の文字からなり,又は当
該文字を構成中に含む登録商標を米国において合計7件(2018年10月\n13日時点)保有しているほか,既に消滅したもの又は保留中のものを含め
て,「KEWPIE(kewpie)」の文字やキューピーの絵図等を含む
商標について,ドイツ,シンガポール,カナダ,フィリピン,オーストラリ
ア,マレーシア,フランス,デンマーク,ベトナム,インドネシア,ブルネ
イ,メキシコ,カンボジア,モンゴル,イスラエル,ラオス,チリ,アイス
ランド,ニュージーランド,欧州連合に出願等をしたこと,被告は,201
6年(平成28年)5月26日,「KEWPIE DOLL」の商標に係る
出願に対して異議の申立てをしたことが認められる。\n
しかしながら,一方で,前記(2)認定のとおり,Aが本件出願に当たり,他
人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとし
て,権利化を図るという「不正の目的」を有していたものと認めることはで
きないのみならず,被告が「KEWPIE(kewpie)」の文字からな
り,当該文字等を含む商標を米国のみならず多数の国に出願し,登録を受け
たことは,被告が我が国のみならず世界中で様々な事業を展開する上で,本
件商標と類似する商標の出願及び登録が必要であったことによるものと認め
られ,また,被告が「KEWPIE DOLL」の商標に係る出願に対して
異議の申立てをしたことも,米国で保有する「KEWPIE」の文字からな\nる商標と類似する文字が含まれているために権利行使をしたものであり,い
ずれも国際信義に照らし,不当であるということはできない。
したがって,本件商標の出願及び登録が国際信義に反するとの原告の上記
主張は理由がない。
(4) 本件商標の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルモノ」該当性について
以上によれば,Aが,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の
知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」をもって,
本件出願を行ったものと認めることはできず,また,本件商標の出願及び登
録が国際信義に反するものと認めることはできないから,本件商標権をAか
ら承継した被告が保有することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般
道徳観念に反するものと認めることはできない。
したがって,本件商標が旧商標法2条1項4号の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ
虞アルモノ」に該当するとの原告の主張は採用することができない。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は
理由がない。
3 取消事由2(本件商標の旧商標法2条1項11号該当性の判断の誤り)につ
いて
(1) 原告は,本件商標は,ローズ・オニールが創作したキューピー人形の絵図
と「KEWPIE」の欧文字とその片仮名から構成されるものであって,本\n件商標を付した商品について,需要者は,著名な「キューピー人形」,「K
EWPIE」の名称と関係があるという特定の出所を認識することにより混
同を生じさせるものであるから,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ
生セシムルノ虞アルモノ」に該当する旨主張する。
しかしながら,前記1(1)で説示したとおり,キューピー人形は,本件出
願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識され
ることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に
使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した
絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用さ
れる状況にあったものであり,本件商標の出願時及び商標登録時において,
ローズ・オニールの創作に由来するキューピー人形及びその名称の「キュー
ピー」が自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたも\nのと認めることはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日\n本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできな
いことに照らすと,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する需
要者において,特定の他人(当該他人と緊密な営業上の関係等にある営業主
を含む。)の商品の出所との同一性の誤認を生じるおそれがあったものと認
めることはできない。
したがって,本件商標は,旧商標法2条1項11号の「商品ノ混同ヲ生セ
シムルノ虞アルモノ」に該当するものと認められないから,原告の上記主張
は採用することができない。
◆判決本文
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2020.10.12
令和2(行ケ)10021 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年10月8日 知的財産高等裁判所
翻訳支援ツール及び翻訳ソフトが類似商品かが争われました。知財高裁は、類似商品であるとした審決を維持しました。
ウ そして,本願指定商品である翻訳支援ツールも,コンピュータプログラ
ムである以上,引用指定商品である「電子計算機用プログラム」に含まれ
るから(原告は,この点を争っているようであるが,引用指定商品の「電
子計算機用プログラム」は,特に限定がない以上,コンピュータプログラ
ム一般を含むものと解される。そして,翻訳支援ツールも,用途がやや特
殊であるとはいえ,コンピュータを動作させて一定の作業を行うためのプ
ログラムである以上,コンピュータプログラムにほかならないのであるか
ら,引用指定商品に含まれることを否定することはできない。),本願指定
商品と引用指定商品とは同一であるということになる。
したがって,原告の主張は,既にこの点において失当というべきである
が,当事者双方が,本願指定商品である翻訳支援ツールと引用指定商品で
ある翻訳ソフトとが類似するかどうかについて争っていることにかんが\nみ,念のため,この点についても判断することとする。
(2) 生産部門及び販売部門について
ア 上記(1)アによれば,翻訳支援ツールは,主に翻訳事業者又は翻訳者が使
用することが想定されている商品であるといえるところ,実際の取引例を
みても,翻訳事業者が生産,販売をしている例が多く見受けられる(乙2,
3,7,14)。
イ また,翻訳ソフトは,自動翻訳をすることを主な機能\とするコンピュー
タソフトウェアであること(乙6)からすれば,翻訳事業者又は翻訳者の\nみならず,他の事業者や一般の消費者も使用することが想定されている商
品であるといえるところ,実際の取引例をみても,翻訳事業者ではない一
般のソフトウェアメーカーが生産している例や,当該ソ\フトウェアメーカ
ー又は家電量販店が販売している例が多く見受けられる(乙8ないし10,
15,16)。
ウ そうすると,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,生産部門及び販売部門\nが異なることが多いものといえる。
しかしながら,他方で,上記ア及びイで挙げた取引例とは異なり,一般
のソフトウェアメーカーが翻訳支援ツールを生産,販売している例や,翻\n訳事業者が翻訳ソフトを生産,販売している例も見受けられる(乙11な\nいし13)。また,翻訳支援ツールと類似した機能を含む翻訳ソ\フトが,家
電量販店又はそのウェブサイトにおいて販売されている例も見受けられ
る(乙13,15,16)。
これらの事情を考慮すると,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトの生産部門\n及び販売部門は,必ずしも明確に区別されるものではないというべきであ
る。
エ 以上によれば,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,生産部門及び販売部\n門を共通にする場合があるといえる。
(3) 用途及び機能について\n
ア 上記(1)及び(2)によれば,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,翻訳者に\nよる翻訳作業を効率化等するためのものであるか,それとも自動翻訳をす
るものであるかという点で,主たる用途や機能が異なるものといえる。\n
イ しかしながら,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,いずれも翻訳作業を\n行うことを目的とし,コンピュータを動作させるためのプログラムである
という点においては,用途及び機能を共通にするものといえる。また,翻\n訳支援ツールは,その多くが自動翻訳の機能も有していると認められ(乙\n7,11),他方で,翻訳ソフトには,翻訳支援ツールと類似した機能\や翻
訳支援ツールと連携する機能を含むものがあると認められる(乙8,13)。\nこれらの事情を考慮すると,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトの用途や機\n能を厳密に区別するのは困難であるというべきである。\n
ウ 以上によれば,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトの用途及び機能\には,共
通する部分があるといえる。
(4) 需要者について
ア 上記(1)アによれば,翻訳支援ツールは,主に翻訳事業者又は翻訳者が使
用することが想定されている商品であるといえるから,その主な需要者は,
翻訳事業者又は翻訳者であるといえる。
イ また,上記(2)イのとおり,翻訳ソフトは,自動翻訳をすることを主な機\n能とするコンピュータソ\フトウェアであることからすれば,翻訳事業者又
は翻訳者のみならず,他の事業者や一般の消費者も使用することが想定さ
れている商品であるといえるから,その主な需要者には,広く一般の事業
者及び消費者が含まれるものといえる。
ウ そうすると,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,主な需要者が異なるこ\nとが多いものといえる。
しかしながら,上記(2)及び(3)で検討したとおり,翻訳支援ツール及び
翻訳ソフトは生産部門及び販売部門を共通にする場合があり,また,用途\n及び機能に共通する部分があるといえることからすれば,翻訳事業者又は\n翻訳者ではない一般の事業者又は消費者が翻訳支援ツールを購入するこ
ともあり得るし,これとは逆に翻訳事業者又は翻訳者が翻訳ソフトを購入\nすることもあり得るといえる。そうすると,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトの需要者については,上記の範囲で共通することがあるというべきである。\n
エ 以上によれば,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,需要者の範囲が一致\nすることがあるといえる。
(5) 小括
ア 上記(2)ないし(4)で検討したとおり,翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは,\n生産部門及び販売部門を共通にする場合があるといえること,用途及び機
能に共通する部分があるといえること,需要者の範囲が一致することがあ\nるといえることからすれば,両者に同一又は類似の商標が使用された場合
には,同一の営業主の製造又は販売に係る商品であると誤認されるおそれ
があるというべきである。
イ したがって,翻訳支援ツールである本願指定商品と翻訳ソフトを含む引\n用指定商品は,商標法4条1項11号にいう「類似する商品」に当たるも
のと認められる。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,翻訳支援ツールである本願指定商品は汎用性のある「電子計算
機用プログラム」ではなく,翻訳ソフトとは根本的に異なるものである旨\n主張する。
イ しかしながら,これまで検討したところに照らすと,翻訳支援ツールが,
自動翻訳を主な機能とするものではなく,翻訳者による翻訳作業を支援す\nるためのものであり,主に翻訳事業者又は翻訳者が使用することが想定さ
れている商品であるからといって,直ちに翻訳ソフトとの類似性が否定さ\nれるものではないというべきである。
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2020.09.29
令和1(行ケ)10171 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年9月24日 知的財産高等裁判所
知財高裁(3部)は、図形と重ねて表示した「おかめ」の文字について、図形と一体不可分とまではいえないとして、先行商標と類似すると判断しました。\n
商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された
場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か
によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称
呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ
く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その
具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行
ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,
最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5
1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部
分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ
れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,
それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,
商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同
38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成
3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5
009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷
判決・裁判集民事228号561頁参照)。
なお,出所識別標識としての印象を与える機能を,以下「識別力」という。\n
3 本願商標の要部
原告は,本願商標の構成は,不可分一体のものであって分離観察をすること\nは許されないと主張する。
そこで検討するに,まず本願商標の外観を見ると,同一の色の「甘味」の文
字部分と「おかめ」の文字部分とが,間隔を空けながらも一列に配置され,そ
の背景に,上記各文字部分と一部重なるような形で,より淡色ではあるものの,
同系統の色で表された家紋様の図形部分が配置され,一体としてまとまりのあ\nる外観を呈しているといえなくもない。しかし,その一体性はさほど強いもの
ではなく,むしろ,「甘味」の文字部分と「おかめ」の文字部分とは,字の大
きさも太さも全く異なっている上,かなり広い間隔を置いて配置されているた
め,それほど統一感があるとはいえないし,図形部分も各文字部分を有機的に
結合させるほどの機能を果たしているとは見えず,むしろ,背景の装飾といっ\nた程度の機能を果たしているのにすぎないと見える。そうであるとすると,本\n願商標の外観の構成は,分離観察を不可能\とするほどの一体性を有していると
は認められない。
原告は,「おかめ」という屋号の甘味処を経営しているところ,本願商標の
文字部分は「甘味おかめ」という屋号を示し,図形部分は,その家紋を示して
いるから,本願商標は,全体として,おかめという屋号の甘味処という観念を
有すると主張し,この主張は,本願商標が上記のような観念において不可分一
体性を有するという趣旨にも受け取れる。しかし,甘味を提供する飲食店にお
いて,屋号と家紋を一体的に組み合わせた商標を用いることが一般的に行われ
ていると認めるに足りる証拠はないし,本願商標が,原告の屋号と家紋を表し\nた商標として著名であると認めるに足りる証拠もない。そうすると,本願商標
に接した需要者が,本願商標を甘味処の屋号とその家紋を一体として表した商\n標であると観念するとはいえないから,原告の主張は失当である。そして,他
に,本願商標が,分離観察を許さないほど不可分一体であると認めるに足りる
証拠はない。
そうすると,本願商標は分離観察をすることも許されるものというべきとこ
ろ,本願商標のうち,「おかめ」の文字部分は,大きな字体の太字で書かれて
おり,目立つものである上,自他商品識別力も有するといえるから,この部分
を要部として抽出することも許されるものというべきである。
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2020.09.26
平成30(ワ)40314 商標権侵害行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和2年1月22日 東京地方裁判所
ローマ字「SAKURA」下段にひらがな「さくら」を配した商標の商標権者が
「SAKURA SKY HOTEL」、および「SAKURA」,「SKY」,「HOTEL」の三段に配した商標の被告を商標権侵害で訴えました。東京地裁(29部)は、非類似と判断しました。
原告らは,被告標章においては,被告標章図形部分が最も目を引く部分であり,
これと相まって,その直後に記載された文字部分の冒頭部分であり,かつ被告標章
図形部分と観念を共通にする「SAKURA」の文字部分が目に入りやすくなるこ
と,被告標章の「SKY」の文字部分も,高層建物の宿泊施設の名称に一般に用い
られているものであって,被告標章の「HOTEL」及び被告標章4の「KASH
IWA」の各文字部分と同様に提供される役務の性質,場所を示すものであり,自
他識別力が低いこと,被告標章2では,最も目を引く上記図形部分の真横に「SA
KURA」の文字部分が配されており,被告標章3及び4では,最も目を引く上記
図形部分の真下に「SAKURA」の文字部分が配され,それ以外の文字部分が改
行して配されていることからして,「SAKURA」の文字部分が一層目を引くこと
になることなどを指摘して,被告標章の要部は,「SAKURA」の文字部分,被告
標章図形部分又は「SAKURA」の文字部分及び被告標章図形部分である旨主張
する。
しかしながら,証拠(甲25)によっても,比較的高層の建物の宿泊施設のみな
らず,建物の階数が数階程度にとどまる低層の宿泊施設においても「スカイ」の文
字を含む名称が用いられていることが認められる上に,他に高層建物の宿泊施設の
名称において「スカイ」ないしは「SKY」の文字が用いられることが一般的であ
ることを裏付ける的確な証拠もないから,「SKY」の文字が,高層建物の宿泊施設
の名称に一般に用いられる,宿泊施設の建物の高さという提供される役務の性質を
表示するとは直ちには認め難く,被告標章の「SKY」の文字部分から出所識別標\n識としての称呼,観念が生じないということはできない。
上記の点に加え,前記 において判示したとおり,
被告標章2ないし4の要部の「SAKURA」の文字部分と「SKY」の文字部分
とが一体のものとして認識し得るものであることのほか,「SAKURA」の文字部
分と「SKY」の文字部分につき,共にほぼ同一の大きさの文字により構成され,\nかつ全体の大きさにもさほど差はないことにも照らすと,被告標章図形部分が目を
引く部分であり,「SAKURA」の文字部分が被告標章2ないし4において被告標
章図形部分の真横又は真下に配されていることをもって,「SKY」の文字部分が被
告標章2ないし4の要部に含まれないということはできない。
◆判決本文
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2020.09.26
令和2(行ケ)10014 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年9月23日 知的財産高等裁判所
商標「富富富」が商標「ふふふ」とは非類似とした審決(4条1項11号)が維持されました。
上記(1)〜(3)によると,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なってお
り,また,称呼や観念を共通にする場合があるものの,それは,本件商標を「フフ
フ」と称呼した限られた場合のみである。そして,上記のような差異があるにもか
かわらず,本件商標と引用商標が類似しているものと認めるべき取引の実情その他
の事情は認められない。
したがって,本件商標は,引用商標と類似するものとは認められない。
3 原告の主張について
(1) 原告は,本件商標と引用商標からいずれも「おいしさ」や「満足感」に関
する観念を生ずる旨主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできな
い。
ア 「ふふふ」の語について
原告は,人が食品を食べたときに軽く笑うのは,その食品に「おいしさ」や「満
足感」を感じたときであるということを,誰もが容易に想像できるから,食品分野
においては,「ふふふ」の語が,「おいしさ」や「満足感」に関する観念をも生ず
ると主張する。
しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が,特定の態様の笑い声や笑う様子
といった観念を生ずることを前提として,食品について「おいしさ」といった肯定
的な評価を示す直接的な表現として用いられている例(「食卓にふふふな時間を」\n(甲4の5),「ふふふ〜なオヤツ」(甲4の7),「ふふふなモノたち」(甲4
の8),「ふふふなレアチーズ」(甲4の9),「ふふふな食べ比べ」(甲4の1
0)といった用例)があることは認められるものの,それを超えて,「ふふふ」の
語が,食品について,「おいしさ」や「満足感」を示すものとして一般的に用いら
れているものというべき事情を認めるに足りる証拠はない。「ふふふ」の語が,食
品について,必ずしも「おいしさ」や「満足感」に関する観念を示すものと直ちに
認められない形で用いられている例(甲28〜33,36,37,42,43,4
5)や,一定の態様の「笑い声」や「笑う様子」を示すものとして用いられている
にとどまるというべき例(甲4の1〜4・11,甲12の2・4・11)も認めら
れるところである。この点,原告が証拠として提出する辞典(甲3の4・5)にお
いても,「ふふふ」の語については,「いたずらっぽく,少々ふざけて,含み笑い
をする時などの様子」(甲3の4)を示すものとされたり,「いたずらっぽい笑い,
または不敵な笑いを示すことが多い。」(甲3の5)とされたりしているのであっ
て,一般的に,必ずしも常に肯定的な意味合いを示すものとはみられない。
上記のように,食品分野においては,「ふふふ」の語が肯定的な意味合いで用い
られることが相応にあるということは認められるものの,それを超えて,「おいし
さ」や「満足感」に関する観念が一般的に生ずるとまでいうことはできない。
イ 本件商標から生ずる観念について
(ア) 原告は,本件商標の使用態様(甲5の2・3,甲6の1〜4,甲7〜
9,甲10の1・2,甲11の1・2)や被告が策定したマニュアルの記載(甲1
6)から,本件商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるものである
ことを被告が自認している旨を主張する。
しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関す
る観念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。
証拠(甲5の2・3,甲6の1〜4,甲7〜9,甲10の1・2,甲11の1・2)
から認められる本件商標の使用態様や被告の「富富富デザインマニュアル」(甲1
6)の記載を考慮しても,被告が本件商標に係る「フフフ」という称呼を,そこか
ら生ずる特定の態様の「笑い」という観念を積極的な評価と結びつける形で用いる
ことを超えて,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるよう
な形で用いているとは認められない。
(イ) 原告は,本件商標に接した需要者の認識についても主張するが,証拠
(甲11の2,甲12の1〜11)から認めることができる事実は,本件商標が「フ
フフ」の称呼を生ずることがあることと,「フフフ」の称呼を生じた場合には,本
件商標が特定の態様の「笑い」という観念を生じることがあることの各事実にとど
まり,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずると認めること
はできない。
ウ 引用商標から生ずる観念について
原告は,引用商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずる旨を主張す
るが,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関する観
念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。原
告が指摘する原告のカタログの記載(甲15)についても,あくまで「ふふふ」の
語を笑い声や笑う様子を示すものとして用いるものにすぎないということができ,
引用商標から上記観念が生ずることを上記記載が裏付けるものとはいえない。
エ したがって,本件商標と引用商標とからいずれも「おいしさ」や「満足
感」に関する観念が生ずるとの原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は,本件商標は,引用商標に富山県の「富」で当て字をしたものにす
ぎないと主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。原告の主張は,
引用商標と一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語を同一視するものであっ
て相当でない。一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語が有する意味を踏ま
えて被告がそのような称呼を有する商標を登録することが,引用商標が存すること
で直ちに妨げられるものではない。
また,本件商標と引用商標が「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互\nに変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」(商標法38条5項括
弧書き)に当たらないことも明らかである。
(3) 原告は,需要者は,本件商標と引用商標を同一のものと認識していると主
張し,事例(甲11の2,甲12の2・5・7〜9)を指摘するが,これらの事例
は,本件商標が「フフフ」という称呼又は笑い声や笑う様子と結びつけられている
ことを示すものにとどまり,本件商標と引用商標とが同一のものであるのと誤認等
がされた事実があることを示すものではなく,需要者が本件商標と引用商標を同一
のものと認識していると認めることはできない。
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2020.09.24
令和1(行ケ)10170 審決取消請求 商標権 行政訴訟 令和2年9月16日 知的財産高等裁判所
商標法4条1項11号、同15号違反の無効理由無しと判断されました。無効審判請求人(原告)はスターバックスコーヒーです。緑のドーナッツ状の中央に図形が周辺に文字があるという構成(緑色円環配置構\成)について、混同すると主張しましたが、知財高裁も特許庁と同様に混同しないと判断しました。判決文の最後に両者の商標があります。
しかるところ,1)引用商標の構成中の本件円環部分と本件図形部分と\nは分離観察し得るものであること,2)本件円環部分のうち,緑色の太い
帯状の円環内に白抜きで表された「STARBUCKS」及び「COF\nFEE」の文字部分全体から「スターバックスコーヒー」の称呼が生じ,
また,本件円環部分は外側の緑色の細い円環と内側の白色の細い円環と
によって全体の領域が明確に画されており,本件円環部分の外観は全体
として記憶に残りやすいものと認められることからすると,引用商標の
構成中の本件円環部分は全体として需要者に対して強い印象を与えるも\nのといえる。
しかしながら,他方で,原告が主張する引用商標における本件緑色円
環配置構成は,引用商標中の具体的な構\成部分そのものではなく,本件
円環部分から抽出した上位概念化した要素としての構成及び配置の態様\nをいうものであり,緑色の帯状の円環内における白抜きの文字が「ST
ARBUCKS」及び「COFFEE」の文字とは異なる文字である場
合や白抜きの図形が星印以外の図形であっても,本件緑色円環配置構成\nに含まれることになるが,引用商標に接した需要者において,このよう
な上位概念化した要素としての構成及び配置の態様をイメージし,それ\nが記憶に残るものと認めることは困難である。
(イ) そうすると,引用商標が平成23年3月末当時に著名であったから
といってそのことから直ちに引用商標における本件緑色円環配置構成が\n原告の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間に広く\n認識されていたものと認めることはできない。ましてや,上記時点から約4年後の本件商標の登録出願時(登録出願
日平成28年3月9日)及び登録査定時(登録査定日同年11月1日)
において,本件緑色円環配置構成が原告の業務に係る商品及び役務を表\
示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることは
できない。
ウ 本件アンケート調査について
(ア) 原告は,1)本件アンケート調査の調査対象者の抽出方法が適切であ
ること,2)本件アンケート調査は,週末の2日間にインターネットを通
じて行われたものであり,調査期間は特段短いものではないこと,3)本
件アンケート調査における552名というサンプル数は,アンケート調
査の信頼性を確保するのに合理的であること,4)仮に緑色の二重円環を
示して調査を行ったとしても,そこから得られる結果は引用商標を含む
原告の商標を日常生活で目にする需要者の実際の認識を反映するもので
はないから,本件緑色円環配置構成に関する需要者の認識を適切に測る\nためには,本件標章を対象に質問を行うべきであり,かつ上記注意事項
を示さなければならないから,本件アンケート調査の質問内容は適切で
あること,5)本件アンケート調査は,本件商標の登録出願時及び登録査
定時から1年後の平成29年に実施されたものであり,本件アンケート
調査の結果は,上記各時点における需要者の認識を反映したものといえ
ることからすると,本件アンケート調査は適切に実施されたものであり,
本件アンケート調査の結果は,上記各時点における本件緑色円環配置構\n成の周知著名性を示すものである旨主張する。
(イ) そこで検討するに,前記(1)イの認定事実によれば,本件アンケート
調査は,引用商標の「緑色の円環部分(ただし,文字・記号は判読不能\nに加工したもの)」である本件標章の著名性を検証することを目的とし
て,調査対象者に対し,本件標章の画像について,「ある会社」,「外
食産業に属する会社」又は「あるコーヒーショップの会社」が運営する
お店の設備やお店で販売する商品の図柄の一部を抜き出して加工したも
のである旨,元々の図柄では,円の中心部に絵があり,緑色の輪の部分
には会社名が特定できる白い文字が表示されていたが,本件標章の画像\nでは,絵の部分を白く塗りつぶし,文字部分にはモザイク処理を施し,
会社名が読み取れないようにしてある旨の説明を付して示した上で,「こ
の画像を見て,何と言う会社またはお店の名前を思い浮かべましたか。
以下の回答欄に思い浮かべた会社またはお店の名前をお書きください。
わからない場合は「わからない」とお書きください。」との質問に対す
る回答を求めたものであることが認められる。
しかるところ,前記イ(ア)のとおり,原告が主張する引用商標におけ
る本件緑色円環配置構成は,本件円環部分から抽出した上位概念化した\n要素としての構成及び配置の態様をいうものであるが,引用商標に接し\nた需要者において,このような上位概念化した要素としての構成及び配\n置の態様をイメージし,それが記憶に残るものと認めることは困難であ
ることに照らすと,本件緑色円環配置構成の認識度ひいては著名性を適\n切に調査することは,その性質上困難を伴うものといえる。
そして,本件標章は,別紙3のとおり,外側から順に緑色の細い円環,
白色の細い円環,白色のモザイク模様が付された緑色の太い帯状の円環
から構成されるドーナツ形状の図形からなるものであり,本件標章と引\n用商標における本件円環部分は,緑色の細い円環,白色の細い円環,緑
色の太い帯状の円環を有するドーナツ形状である点では共通するが,緑
色の太い帯状の円環内の構成態様及び内側の白色の細い円環の有無の点\nにおいて異なる態様の標章であることに照らすと,本件標章から本件円
環部分を想起するものと認めることはできないし,ましてや,本件標章
から本件緑色円環配置構成を認識できるものと認めることはできない。\nこの点に関し,本件アンケート調査には,本件標章について,元々の図
柄では,円の中心部に絵があり,緑色の輪の部分には会社名が特定でき
る白い文字が表示されていたが,本件標章の画像では,絵の部分を白く\n塗りつぶし,文字部分にはモザイク処理を施し,会社名が読み取れない
ようにしてある旨の説明が付されているところ,上記説明は,本件標章
に接した需要者が視覚によって認識し,又は想起することができない内
容を文章によって誘導するものであって適切なものではない。
そうすると,本件アンケート調査は,本件緑色円環配置構成の認識度\nひいては著名性を調査することを目的とする調査方法として適切である
と認めることはできないから,原告の前記主張は,理由がない。
エ まとめ
以上によれば,引用商標が,平成23年3月末当時において原告の業務
に係る商品及び役務を表示するものとして著名であり,引用商標の構\成中
の本件円環部分は全体として需要者に対して強い印象を与えるものであっ
たことは認められるが,このことと本件アンケート調査の結果から,引用
商標における本件緑色円環配置構成が,本件商標の登録出願時及び登録査\n定時において,原告の業務に係る商品及び役務を表示するものとして,需\n要者の間に広く認識されており,周知著名であったものと認めることはで
きない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2020.09.17
令和2(行ケ)10040 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年9月10日 知的財産高等裁判所
図形と文字から構成された商標について、図形部分の先行商標から類似する(4条1項11号)とした審決が維持されました。
ア 本願商標は,左側から順に,本件図形部分,THANKS部分及びAI
部分からなる結合商標であり,各構成部分は,同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。\n
イ 本件図形部分は,太さが均一でない赤色の線で描かれており,下方の1
点で交差する縦長ループを横に2つ並べたような図形である。また,本件
図形部分は,全体としてハート型様の形状となるように,2つの縦長ルー
プを一筆書きしたような図形であるとみることも可能である。
ウ THANKS部分は,「T」の欧文字,その右側に配置された同文字より
もやや高さが低い「HANKS」の欧文字,その上部に配置された小さめ
の「Related to Heart」の欧文字からなり,これらの文
字は,いずれも黒色の線で描かれている。また,THANKS部分は,本
願商標のうち3分の2程度の幅を占めている。
エ AI部分は,赤色の線で描かれた「AI」の欧文字であり,本件図形部
分とほぼ同じ幅である。また,AI部分の「A」の文字の中央の横線は,
横長の楕円形に図案化され,「AI」の文字の中段に同文字を取り巻くよう
に描かれている。もっとも,上記図案化の程度は低く,AI部分は,図形
ではなく文字として認識されるものといえる。
(3) 分離観察の可否について
ア 外観からの検討
(ア) 上記(2)のとおり,本願商標においては,左側から順に,赤色の図形
である本件図形部分,黒色の文字であるTHANKS部分及び赤色で多
少図案化された文字であるAI部分が,重なり合うことなく配置されて
いるところ,このような色彩や構成の違いからすれば,各構\成部分は,
同じ高さで横一列に配置されてはいるものの,それぞれが独立したもの
であるとの印象も与え,視覚上分離して認識され得るものといえる。
(イ) また,上記(2)のとおり,THANKS部分は,目につきやすい中央
部に相当程度の幅で表されており,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,一般に,赤色は黒色よりも注意を引きやすい色彩である\nといえることからすれば,本願商標に接した者は,THANKS部分の
みならず,赤色の本件図形部分及びAI部分にも注意を引かれるものと
いえる。
(ウ) さらに,上記(ア)及び上記(2)エのとおり,AI部分は,他の構成部分と視覚上分離して認識され得るものといえるが,他方で,図形ではな\nく文字として認識されるものといえることからすれば,THANKS部
分と併せて一連の欧文字の列として認識されることもあるといえる。
(エ) 以上の各事情を併せ考慮すると,本願商標に接した者は,各構成部分がそれぞれ独立したものと認識するか,又は図形である本件図形部分\nと文字であるTHANKSAI部分とに分けられるものと認識すると
いえる。
イ 称呼及び観念からの検討
(ア) 上記(2)イのとおり,本件図形部分は,2つの縦長ループを横に2つ
並べたか,又は全体としてハート型様の形状となるように一筆書きした
図形であるとみることができるところ,その形状や色彩を見ても,大き
な特徴がある図形であるとはいい難く,何らかの意味合いを表すものとして認識されるものとはいえないから,同部分からは,特定の観念は生\nじず,何らの称呼も生じない。
(イ) THANKS部分についてみるに,同部分のうち「THANKS」
の欧文字は,平易な英語である「thank」の複数形であり,「サンク
ス」との称呼が生じる上,その訳に従って「感謝」等の観念が生じると
いえるものの,それ以上の特定の観念が生じるものとはいえない。
また,「Related to Heart」の欧文字は,比較的平易
な英語であるといえるところ,「リレイテッドトゥーハート」との称呼が
生じる上,その訳に従って「心に関連する」といった観念が生じるとい
えるものの,それ以上の特定の観念が生じるものとはいえない。
(ウ) AI部分についてみるに,「AI」の欧文字は,人工知能を意味する略語として広く知られていることからすれば,「エーアイ」との称呼が生\nじる上,「人工知能」の観念が生じるといえるものの,それ以上の特定の観念が生じるものとはいえない。\n
(エ) 以上のとおり,本件図形部分,THANKS部分及びAI部分は,
称呼の面からみても,観念の面からみてもばらばらであり,統一性のあ
る称呼ないし観念によって結び付けられているとはいえないから,本願
商標は,称呼,観念の観点から不可分であるということもできない。
ウ まとめ
(ア) 上記ア及びイで検討したとおり,本願商標の各構成部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるも\nのといえる上,称呼,観念の観点から不可分であるともいえず,他に,
その不可分一体性を認めるべき事情も見当たらない。
そうすると,本件図形部分とその他の構成部分とは,本件図形部分のみを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分\n的に結合しているものとは認められない。
(イ) したがって,本件図形部分を分離して観察することは可能であるというべきところ,本件図形部分は,相応の特徴を備えている上,それが,\n看者の注意を引きやすい赤色で描かれた図形であることや,最も左側に
配置されていることなども併せ考慮すると,本願商標に接した者は,本
件図形部分を,単なる装飾ではなく,THANKS部分及びAI部分と
は独立したシンボルマークのようなものと認識するものといえるから,
これを要部として観察することも許されるというべきである。
(ウ) 以上検討したところによれば,本件においては,本願商標から本件
図形部分を抽出し,同部分のみを他人の商標と比較して類否を判断する
ことが許されるというべきである。
したがって,取消事由1及び2は,いずれも理由がない。
2 原告の主張について
(1) 原告は,本願商標は会社名とシンボルマークとを組み合わせた企業ロゴ
であり,需要者等はその全体を企業ロゴとして認識するか,又は会社名の表記部分に着目するのが通常であるから,全体を一体的に観察すべきである旨\n主張する。
しかしながら,いわゆる企業ロゴに接した需要者等が,図形やマーク部分
のみに注意を引かれることも当然にあり得るというべきであるから,企業ロ
ゴについて,常に全体を一体的に観察すべきであるとはいえない。また,上
記1で検討したとおり,本件図形部分は,本願商標の外観上,他の構成部分と一体のものと認識されるものではなく,また,相応に目立つ態様で表\示されているといえるのであるから,本願商標に接した者が,本件図形部分のみ
に注意を引かれることは十分にあり得るというべきである。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 原告は,THANKSAI部分の称呼及び観念に関して,同部分は原告の
グループ名「THANKSAI(サンクスアイ)」を表すものであり,同部分からは「サンクスアイ」等の称呼が生じ,また,原告グループのモットーで\nある「感謝愛」等の観念が生じる上,これに伴って,他の構成部分からも共通する観念が生じる旨主張する。\n そこで検討するに,証拠(甲3ないし7,9の1及び2,甲10,11)
及び弁論の全趣旨によれば,原告が,サンクスアイ株式会社との名称のグル
ープ会社を有し,指定商品に係る同社の事業において本願商標を使用してい
ることが認められる上,原告は,グループ全体で,「感謝」,「愛」等を企業イ
メージとして事業活動を行ってきたことがうかがわれる。
しかしながら,この点が,取引の実情として主張されているのだとすれば,
上記事情は,原告の現状の取引状況に基づく個別的な事情であって,取引状
況として考慮することが許される,その指定商品全般についての一般的,恒
常的事情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法
廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443頁参照)といえるかどうかは
疑問である。また,この点を措くとしても,THANKS部分及びAI部分
は,いずれも比較的平易な英語や広く知られた略語であるところ,本件各証
拠をもっても,本願商標の指定商品の取引者や需要者の間において,原告の
グループ名や企業イメージが広く知られていたものとまでは認められないこ
とからすれば,THANKSAI部分から直ちに原告のグループ名や企業イ
メージを表すような特定の称呼や観念が生じるものとはいえない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は,原告のグループ名を表すTHANKSAI部分の自他商品識別標識としての機能\は極めて強いのに対して,本件図形部分は,よくあるリボンモチーフを重ねてハート型様にするなどの単純な構成からなる上,同部分から特定の称呼や観念が生じないというのであれば,同部分には自他商品識\n別標識としての機能はないか,極めて弱い識別力しかない旨主張する。 しかしながら,上記(2)で検討したとおり,THANKSAI部分から直ち
に原告のグループ名や企業イメージを表すような特定の称呼や観念が生じるものとはいえないことからすれば,同部分が,本願商標の指定商品との関係\nにおいて,殊更に強い出所識別機能を有するものとはいえない。 他方で,上記1で検討したとおり,本件図形部分は,本願商標において相
応に目立つ態様で表示されているといえる上,相応の特徴を備えており,看者の注意を全く引かないほど単純な構\成であるとまではいえないことからすれば,同部分は,本願商標の指定商品との関係において,一定程度の出所識
別機能を有するものというべきである。 そうすると,他の構成部分と比較しても,本件図形部分は,本願商標の指定商品との関係において,これを要部として抽出して同部分のみを他人の商\n標と比較して類否を判断することが許される程度の出所識別機能を有するものといえる。\n
◆判決本文
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2020.08.24
令和1(行ケ)10167 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月20日 知的財産高等裁判所
デザイン化された「GUZZILLA」が、引用商標「GODZILLA」から混同生ずるか?(4条1項15号)が争われました。審判では無効理由無しと判断されましたが、知財高裁はかかる審決を取り消しました。特許庁にて判決の判断に基づく無効判断がなされ、かかる無効判断に対する審決取消訴訟です。ただ、審決取消訴訟の提起と同時に、対象となった商標権を分割し、分割後の商標2についての判断は誤りと主張しました。知財高裁は、分割の効果は将来効であり、また、権利濫用と判断しました。
商標権は,原告がした令和元年12月12日受付の申請により,\n次の(1)(2)のとおりに分割され,その登録がされた。
(1)指定商品を第7類「鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,農業用機械
器具,廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置但し,パワーショベル用の破砕機・切断機・
掴み機・穿孔機等のアタッチメントを除く」とするもの(登録第5490432号
の1。甲294。以下,分割後の商標を「本件商標1」という。)
(2)指定商品を第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等の
アタッチメント」とするもの(登録第5490432号の2。甲295。以下,この
商標を「本件商標2」という。)。
・・・・
商標権の分割は,登録しなければ,その効力を生じない(商標法35条,特許
法98条1項1号)。そして,登録によって生じる分割の効果が遡及することを定
めた規定はないから,分割の効果は,登録の時点から将来に向かって生じるものと
解するのが相当である。
この点に関し,原告は,商標法は,商標登録が無効にされるのを回避するために,
その24条2項で,商標権の消滅後においてもその分割をすることができると規定
しており,この趣旨を全うするためには,分割の効果が商標登録時まで遡及するか,
遡及したのと同等の利益が維持されるものと解さざるを得ないと主張する。
しかしながら,既に消滅し,存在しない権利関係を分割するということは,本来,
実体としてはあり得ないものである。商標法24条2項がこのようなものを認めた
のは,商標権が存続していた当時の権利行使の当否を判断する前提として,必要な
限りにおいて,分割された商標権の存在を擬制するにすぎないというべきである。
このように解したとしても,商標法24条2項の趣旨に反するものとは解されない。
3 原告の主張について
(1) 商標権の分割の効果は,前記2のとおり,登録の時点から将来に向かって生
じること,また,複数の指定商品についてされた1件の審決は,分割後のそれぞれ
の指定商品についてされたものと解すべきこと(商標法69条,46条の2参照)
からすれば,原告が商標権の分割をしたことそれ自体は,本件審決の効力を左右す
るものではなく,その登録以前にされた本件審決の判断の当否に影響することはな
いというべきである。
(2) この点を措くとしても,以下に述べるとおり,原告が本件訴訟において商標
権の分割の効果を主張して,審決の取消しを求めることは,原被告間の手続上の信
義則に反し,又は権利を濫用するものとして許されないというべきである。
なるほど商標法24条によれば,商標権の分割は,その商標権が存続している間
は当然行うことができるものと解され,その時期を制限する旨の定めはない。しか
しながら,商標法が,商標権の移転を伴わない場合も含めて,商標権を分割するこ
とを認めている趣旨は,前記2(2)のとおり,異議申立てや無効審判の請求がされた\n場合に,問題のない商品又は役務に関する商標権を分離して,権利行使を容易にす
ることができるというメリットを生かすことにある。そうであるとすれば,商標権
の無効が主張され,異議申立てや無効審判の請求がされたときは,商標権者におい\nて商標権の分割を遅滞なく行うことを期待しても,商標権者に酷であるとは解され
ない。他方で,商標権者において商標権の分割がされないまま,異議申立てや無効\n審判の手続が進行すればするほど,商標登録の無効を主張した相手方には,商標権
の分割がされることはないものとの信頼が生じることになる。
また,商標登録無効審決後に商標権が分割された場合に,分割後の指定商品ごと
に無効理由を判断し,審決の違法性を判断すべきものとすると,商標権を分割すれ
ば実質的に特許庁や裁判所の判断を繰り返し求めることが可能になり,分割の回数\nを増やすことにより,紛争解決を引き延ばすことになる。
商標権の分割をめぐるこのような当事者間の基本的な利害関係に加え,特に本件
においては,本件商標の商標権者である原告において商標権の分割がされることな
く,無効審判の手続が進行して請求不成立審決がされ,これを取り消す旨の第1次
判決がされ,原告の上訴を経て第1次判決が確定し,無効審判の審理が更にされて
本件商標の登録を無効とする旨の本件審決がされたという事実経過を経た後に,商
標権の分割がされている。また,原告は,第1次判決後に本件商標2と商標及び指
定商品を同じくする別件商標の出願をして,既にその商標登録を得ていることに照
らせば,遅くとも別件商標の出願時には本件商標の分割をすることができたもので
ある。さらに,本件商標2の指定商品は,本件商標の指定商品である商標法施行規
則別表第7類2「鉱山機械器具」,同7類3「土木機械器具」,同7類4「荷役機械\n器具」,同7類18「農業用機械器具」及び同7類27「廃棄物圧縮装置,廃棄物破
砕装置」のうち,同7類3「土木機械器具」に含まれるとされる「パワーショベル」
を用途とするアタッチメントと解されるが,同7類5「化学機械器具」に含まれる
とされる「破砕機」や同7類1「金属加工機械器具」に含まれるとされる「切断機」
等も例示するものであって,このように細分化され,本件商標の指定商品に含まれ
るか否かが直ちに明らかとはいえないものを含む商品への分割は,予測し難いもの\nである。これらの事情に鑑みると,本件商標について上記のような商標権の分割が
されることはないとの被告の信頼の程度は大きいものということができる。
よって,原告が本件訴訟において商標権の分割の効果を主張して,本件審決の取
消しを求めることは,原被告間の手続上の信義則に反し,又は権利を濫用するもの
として許されない。
◆判決本文
審決を取り消した審決取消訴訟の判決はこちら。
◆平成29(行ケ)10214
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2020.08. 7
令和2(行ケ)10006 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年7月29日 知的財産高等裁判所
ローマ字表記で氏名を含む商標について、商標法4条1項8号に該当するとした審決が維持されました。\n
(1) 証拠(乙13〜28)によると,1) 「宮下孝洋」という者が2018年
12月版(掲載情報は同年9月5日現在)及び2016年12月版(掲載情報は同
年9月7日現在)の「ハローページ(新潟県上越版)」に,2) 「宮下隆寛」という
者が2019年3月版(掲載情報は2018年11月28日現在)及び2017年
3月版(掲載情報は2016年12月1日現在)の「ハローページ(長野県飯田版)」
に,3) 「宮下貴博」という者が2019年3月版(掲載情報は2018年11月
28日現在)及び2017年3月版(掲載情報は2016年12月1日現在)の「ハ
ローページ(長野県松本版)」に,4) 「宮下孝弘」という者が2019年3月版(掲
載情報は2018年11月28日現在)及び2017年3月版(掲載情報は201
6年12月1日現在)の「ハローページ(長野県木曽版)」に,5) 「宮下高広」と
いう者が2019年9月版(掲載情報は同年6月3日現在)及び2017年9月版
(掲載情報は同年6月5日現在)の「ハローページ(長野県長野版)」に,6) 「宮
下高弘」という者と「宮下貴浩」という者がそれぞれ2019年9月版(掲載情報
は同年6月3日現在)及び2017年9月版(掲載情報は同年6月5日現在)の「ハ
ローページ(長野県上田版)」に,7) 「宮下孝弘」という者が2019年2月版(掲
載情報は2018年11月1日現在)及び2017年2月版(掲載情報は2016
年11月1日現在)の「ハローページ(小平・西東京・東村山市版)」に,8) 「宮
下貴博」という者が2018年11月版(掲載情報は同年7月26日現在)及び2
016年11月版(掲載情報は同年8月3日現在)の「ハローページ(川崎市川崎・
幸・中原区版)」に,それぞれ掲載されていることが認められ,上記各事実からする
と,上記の者は,いずれも本願商標の登録出願時から本件審決時まで現存している
ものと推認できる。そして,上記の者は,いずれもその氏名の読みを「ミヤシタタ
カヒロ」とすると考えられる。その他,ウェブページ(乙7,8,10,11,2
9〜32)からも,氏名の読みを「ミヤシタタカヒロ」とする「宮下貴博」,「宮
下敬宏」,「宮下孝洋」,「宮下孝広」又は「宮下貴浩」という者及び氏名の読み
を「ミヤシタタカヒロ」とすると考えられる「宮下隆裕」又は「宮下隆博」という
者が存することが認められ,これらの者も,本願商標の登録出願時から本件審決時
まで現存しているものと推認できる。
弁論の全趣旨によると,上記の者は,いずれも原告とは他人であると認められる
から,本願商標は,その構成のうちに「他人の氏名」を含む商標であって,かつ,\n上記他人の承諾を得ているとは認められない。
したがって,本願商標は,商標法4条1項8号に該当する。
(2)ア これに対し,原告は,商標法4条1項8号の「他人」については,承諾
を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足りる程度の著名性・希
少性等を必要とすると解すべきであると主張する。
しかし,商標法4条1項8号は,自らの承諾なしに,その氏名,名称等を商標に
使われることがないという人格的利益を保護するものである(最高裁平成15年(行
ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,
最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集
民事217号595頁参照)ところ,その規定上,「雅号」,「芸名」,「筆名」
及び「略称」については,「著名な」という限定が付されている一方で,「他人の
氏名」及び「名称」についてはそのような限定が付されていない。同号は,氏名及
び名称については著名でなくとも当然にその主体である他人を指すと認識されるこ
とから,当該他人の氏名や名称の著名性や希少性等を要件とすることなく,当該他
人の人格的利益を保護したものと解される。したがって,原告の上記主張は採用す
ることができない。
イ また,原告は,ファッションの分野においては,周知,著名なブランド
の使用者に独占排他的権利が認められてしかるべきであると主張し,1) 同程度に
周知,著名性を獲得したブランドであるにもかかわらず,他人の現存の有無といっ
た出願人(ブランド使用者)の関与し得ない要素によって承諾の要否や承諾が必要
な数が異なり,登録可能性に差異が生じる旨,2) 氏名をローマ字表記する場合は,\n承諾の対象者が広く,他人の承諾を得ることが困難であるから,氏名のローマ字表\n記が相当珍しいものでない限り,商標登録が事実上不可能となる旨,3) 上記のよ
うなブランドに係る商標は,それがファッション分野の商品に使用されると,当該
デザイナーのブランド表示として客観的に把握されるから,同じ読みの氏名の他の\n者を想起,連想させるものではなく,当該他人の人格的利益が毀損されるおそれは
ない旨を主張する。
しかし,「他人の氏名」を含む商標について原則として商標登録を受けることが
できないとし,「その他人の承諾」を得ている場合をその例外と定める商標法4条
1項8号においては,上記1)及び2)のようなことが一定程度生じることは,予定さ\nれているというほかなく,そのことを直ちに公平でないとか商標法1条の目的に反
するということはできない。また,同号が具体的な人格的利益の侵害又はそのおそ
れを要件として定めるものではないことからすると,上記3)のような場合には同号
に該当しないと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,前記(1)の
判断を左右するものではない。
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2020.08. 7
令和2(行ケ)10022 商標権 行政訴訟 令和2年7月8日 知的財産高等裁判所
商標「maharaja」の外観違いについて既登録商標と類似する(4条1項11号違反)として拒絶審決がなけれました。知財高裁は審決を維持しました。原告は、インド料理の店名として「マハラジャ」は一般的に使用されているという取引の実情があり,類否判断においては,外観上の相違が重要であると主張しました。
原告は,1)原告の調査結果によれば,インド料理等を提供する店舗におい
て,「マハラジャ」の片仮名又は「Maharaja」の英文字を構成に含\nみ,「マハラジャ」と称呼される店名の店舗が14店舗存在したこと(甲9
ないし17,21ないし25),2)2019年に開催されたさいたま市内の
複数のカレー店舗を食べ歩き,各店舗でスタンプを集めて競い合うスタンプ
ラリーのイベントの名称は,「さいたマハラジャ2019」であり(甲18),
このようなイベントの名称中に「マハラジャ 」の語が採用されたことは,「マ
ハラジャ 」の語がインド料理と強い関連性を有する単語であることが広く認
識されていることを示すものといえることからすると,インド料理等を提供
する店舗において,「マハラジャ」と称呼される店名の店舗が全国に多数あ
り,「マハラジャ」と称呼され,それによって「大王」の観念が生じる商標
が店名として一般的に使用されているという取引の実情があり,このため需
要者は,かかる商標の外観によって店舗を識別していることに鑑みれば,本
願商標と引用商標1なしい3の類否判断においては,称呼及び観念が共通し
ているとしても,外観上の相違が重要であるというべきであり,両者を本願
商標の指定役務「インド料理の提供」等に使用した場合に当該役務の出所混
同のおそれはないから,本願商標が引用商標1なしい3に類似する商標であ
るということはできない旨主張する。
ア そこで検討するに,原告提出のインド料理店のウェブページ(甲9ない
し17,21ないし25)によれば,大阪市内の「インド料理 マハラジ
ャ(Maharaja)」の店名の店舗(甲9),群馬県高崎市内の「イ
ンド料理 NEWマハラジャ」の店名の店舗(甲10),静岡県富士市内
の「インド料理 マハラジャダイニング 富士店」の店名の店舗(甲11),
東京都武蔵野市内の「マハラジャ(MAHARAJA)」の店名の店舗(甲
12),山梨県都留市内の「インドレストラン マハラジャ」の店名の店
舗(甲13),京都市内の「マハラジャ」,「MAHARAJA」の店名
の店舗(甲14,19),札幌市内の「スープカレー Maharaja
〜マハラジャ〜」の店名の店舗(甲15),静岡市内の「マハラジャダイ
ニング」「MAHARAJA」の店名の店舗(甲16),埼玉県川越市内
の「NEW MAHARAJA KAWAGOE ニューマハラジャ川越」
の店名の店舗(甲17)等「マハラジャ」と称呼される文字を店名に含む
店舗が14店舗存在することが認められる。
しかしながら,他方で,NTTタウンページにおける業種分類「インド
料理店」の2017年(平成29年)の登録件数は2162件であったこ
と(乙9)に照らすと,本件審決時において,インド料理店のウェブペー
ジに「マハラジャ」と称呼される文字を店名に含む店舗が14店舗存在す
るからといってインド料理等を提供する店舗において「マハラジャ」と称
呼される店名の店舗が全国に多数あり,「マハラジャ」と称呼される商標
が店名として一般的に使用されているという取引の実情があるものと認め
ることはできない。
また,2019年(令和元年)9月から11月にかけてさいたま市内で
「さいたマハラジャ2019」との名称の複数のカレー店舗を食べ歩き,
各店舗でスタンプを集めて競い合うスタンプラリーのイベントが開催され
たことが認められるが(甲18),このことからインド料理等を提供する
店舗において「マハラジャ」と称呼される店名の店舗が全国に多数あるこ
とを裏付けることはできない。他に原告主張の取引の実情が存在すること
を認めるに足りる証拠はない。
イ さらに,仮に原告の主張するようにインド料理等を提供する店舗におい
て「マハラジャ」と称呼される店名の店舗が全国に多数存在するとしても,
商標の構成文字は絶えず同じ態様で固定して用いるのではなく,使用場面\nに応じて書体や色彩を変更することが普通に行われていることに照らすと,
「マハラジャ」と称呼される店名の店舗が全国に多数存在するからいって,
需要者がインド料理等を提供する店舗において「マハラジャ」と称呼され
る店名に係る商標の外観によって店舗を識別している実情があるものとい
うことはできない。
◆判決本文
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2020.07.14
平成31(ネ)10024 商標権侵害行為差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で商標権侵害として約3万円の損害賠償が認められましたが、差止請求は取消審判の予告登録日には権利消滅するとして、棄却されました。知財高裁はこれを維持しました。\n
控訴人は,原告ウェブページに,原告商標が付された原告腕時計
4本の画像を掲載した旨主張する。
しかしながら,原告ウェブページの写真である甲62は,そこに
表示された4本の腕時計の画像が不鮮明であるため,同画像からは,\nこれらの腕時計の文字盤にいかなる標章が付されているのかを認識
することはできず,その他に,原告ウェブページに原告商標を付し
た腕時計が表示されていることを認めるに足りる証拠はない。\nこれに対し控訴人は,仮に上記画像のみから「moto」の文字をは
っきり認識できないとしても,同画像の右横に原告商標が大きく表\n示され,更に「moto」が控訴人の登録商標である旨の記載もあるこ
と,腕時計の文字盤に商標が付されることは極めて多いことに鑑み
れば,画像の文字盤に付された欧文字が「moto」であることを十分\nに認識できる旨主張する。
しかしながら,そもそも,原告ウェブページに表示された腕時計\nの画像は不鮮明であって,文字盤に欧文字が付されていると認識す
ることは困難であるし,腕時計の文字盤に常に商標が付されるもの
であるとも認められない。また,前記(1)ア(ア)で認定した原告ウェ
ブページにおける画像等の配置や全体の構成に照らしても,「moto」
が登録商標である旨の説明文は,その上方に近接して表示された原\n告商標について説明する文章と理解するのが自然であるから,これ
らの表示から,腕時計の画像に「moto」の標章が付されていること
を認識するものではないといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
以上によれば,要証期間内に,原告商標が付された腕時計の画像
が原告ウェブページに表示されたと認めることはできない。\n
(イ) 原告商標の表示\n
a 前記(1)ア(ア)のとおり,原告ウェブページには,腕時計の品名,
品番,値段,商品説明等についての記載や,控訴人の腕時計が将
来発売予定であること,個別の商談により購入が可能\であること
を説明する記載はない。
そして,かかる原告ウェブページの体裁,記載からは,少なく
とも平成30年3月6日頃に原告更新ウェブページが作成され,
腕時計の品名,品番,値段,商品説明等についての具体的な記載
が掲載されるまでの間は,控訴人において,同ウェブページに画
像が表示された腕時計が実際に製造され,商品として購入できる\n実態があったことを推認することはできないというべきである。
以上によれば,原告ウェブページに表示された原告商標や「moto
時計」のウェブページである旨の表示は,商品である「腕時計」\nについて使用されたものとは認められない。
b これに対し控訴人は,(1)原告ウェブページに原告腕時計の商品
名等を表示しなかったのは,原告腕時計の画像を原告ウェブペー\nジに掲載した当時は,原告腕時計の販売や取引先に対する営業活
動の開始前だったからである,(2)原告ウェブページに掲載された
原告腕時計の画像は,控訴人が君園に発注して納品を受けた腕時
計につき,中華撮影が広告用に撮影したものを使用して,原告ウ
ェブページ掲載用に作成したものであって,甲121ないし12
3は君園から受領した原告腕時計の見積書及びデザイン画像,甲
126は中華撮影から受領した原告腕時計の写真の納品書,甲1
27は原告ウェブページ用に作成した写真である旨主張し,Fの
第2次審判における証人尋問録音の反訳(乙226)及び同人の
陳述書(甲80。上記反訳と併せて,以下「Fの陳述書等」とい
う。),君園の社長の陳述書(甲194)及び中華撮影の写真家の
陳述書(甲195)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,(1)についていえば,控訴人主張の事情は,原告
更新ウェブページが作成されるまでの 1 年以上にわたり,原告ウ
ェブページに原告腕時計の品目,品番,商品説明等の一切が表示\nされていないことの説明になるものではない。また,(2)も,以下
の点に照らせば,採用できるものではない。
すなわち,甲122のデザイン画像は,腕時計本体の写真がや
や不鮮明であるのと対照的に,文字盤上の「moto」の文字又は文
字盤全体が不自然なほど鮮明で浮き上がっているように見えるも
のであり,画像データを加工等して作成された画像であることが
うかがえる。また,同画像が添付された電子メール(甲122)
には本文がなく,これらの画像の作成目的,作成方法等も証拠上
明らかでない。
そして,甲121の見積書には,「製品明細」(「ステンレス サ
ファイアガラス 日本製ムーブメント 手作箱及び説明書」),「注
意事項」(「腕時計サンプル製作」),「数量」(合計16個)等の記
載があるものの,商品の単価やサンプル製作納期の記載がないな
ど,不自然な点も少なくなく,「製品明細」に記載されたとおりの
製品が製造されたことを示す写真等の客観的な証拠もない。また,
控訴人は,甲123の見積書は,納品書兼領収書の役割を果たす
ものであって,甲121の見積書に対応するものである旨主張す
るが,甲123の見積書にも製品の単価等の記載はない。
さらに,甲126の納品書には,中華撮影が控訴人に対して単
価400台湾ドルの写真19枚を納入し,控訴人からその代金を
受領した旨の記載があるものの,納品する写真の画像等は添付さ
れていないため,これらの証拠からは,納入された写真が原告腕
時計のものであるかは明らかでない。
加えて,文字盤に「moto」の標章が付されていることが認識で
きる4本の腕時計の写真(甲127)も,その作成時期,作成経
緯は明らかでなく,これが原告ウェブページ上の腕時計の画像と
同一のものであることを裏付ける客観的な証拠はない。
以上によれば,控訴人の上記主張を採用することはできないと
いうべきである。
(ウ) 原告商標の使用の有無
前記(ア)及び(イ)によれば,控訴人が,原告ウェブページに腕時
計の画像及び原告商標の表示等を表\示したことをもって,原告商標
の使用(商標法2条3項8号)に該当すると認めることはできない。
イ A社との取引について
(ア) 控訴人は,取引先であるA社に対し,原告腕時計の写真及びサ
ンプルを送るので,同商品の販売を検討してほしい旨依頼し,平成
29年5月15日頃,原告腕時計を譲渡して,引き渡したものであ
り,同月12日付のA社宛メールには,原告商標が付された原告腕
時計1本の画像が添付されており,伝票の品名欄に「moto 腕手時
×1点 サンプル」と記載されている同日付のA社宛宅配伝票によ
り,A社宛に原告腕時計を発送したものである旨を主張し,A氏の
供述,調査嘱託の結果及びFの陳述書等中には,これに沿う部分が
ある。
しかしながら,A社宛メールに添付された腕時計の写真(甲20
2)は,文字盤部分の画像が,他の部分(時計のバンド,時計の背
景等)と比べて不鮮明であって,文字盤上の「moto」の文字及び針
のみが浮き上がるように見えるなど不自然なものであって,文字盤
部分について加工が行われたのではないかとの疑いを払拭すること
ができない。また,A社宛宅配伝票(甲203)の品名欄に「moto
腕手時×1点サンプル」の記載があるとの事実は,同宅配便によっ
て原告腕時計が配送されたことを客観的に裏付けるものではない。
加えて,A社の取扱商品,控訴人とA社との取引実績,控訴人と
A社代表者との人的関係等,控訴人とA社との関係に関する認定事\n実(前記(1)イ)に照らすと,控訴人が,控訴人との取引実績も,腕
時計の販売実績も全くないA社に対して,腕時計を販売してもらう
ためのサンプルとして原告商標を付した原告腕時計を譲渡したとの
主張には,不自然かつ不合理な点があるといわざるを得ず,せいぜ
い,控訴人と親しい関係にあるA社(又はA氏個人)に対し,腕時
計を参考送付して,商品化の可能性等について意見を求める程度の\nことがあったにすぎないものと考えられる。
以上によれば,控訴人がA社に対して原告商標を付した原告腕時
計の譲渡及び引渡しをした事実を認めることはできないし,仮に控
訴人からA社に腕時計が送付された事実があったとしても,それが
「商品」としての腕時計の送付であったと認めることは困難である。
また,上記のとおり,控訴人とA社の間で,原告商標を付した原告
腕時計に係る取引がされたものと認めることはできないことから,
A社宛メール及びA社宛宅配伝票に「moto」の表記をしたことは,\n取引書類に原告商標を付したものとはいえない。
したがって,控訴人とA社との連絡に関し,原告商標の使用(商
標法2条3項8号)を認めることはできない。
(イ) なお,控訴人は,前記(ア)のA社との取引以外にも,B社,C
社及びD社に対して原告腕時計の販売を検討してほしい旨依頼し,
原告腕時計のサンプルを送付したり,ギフト・ショーに原告商標を
付した原告腕時計を展示し,同腕時計の写真を掲載したカタログを
頒布したりしたものであり,これらの事実はいずれも要証期間後の
ものではあるが,控訴人が要証期間内に腕時計について原告商標を
使用した事実を補強するものである旨主張する。
しかしながら,控訴人の主張する上記事実は,そもそも要証期間
後の事実である上,B社,C社及びD社の実在性や控訴人との関係
も明らかでないこと等に照らし,これらの事実から,要証期間内の
控訴人による原告商標の使用の事実を推認することは到底困難であ
る。
・・・
以上によれば,要証期間内において,原告商標が腕時計について使用
されたとは認められず,原告商標の指定商品中「腕時計」は,商標登録
取消審判により取り消されるべきものということができ,実際にも,本
判決前記第2の2のとおり,第2次審判の請求に基づき,商標登録の取
消審判がされている(ただし,審決取消訴訟が係属中)状況にある。
なお,控訴人は,仮に商標登録取消審判が成立したとしても,被告商
品は,「卓上時計(置き時計)」としても使用され,また,携帯型の時計
である点において「懐中時計」と同じであるから,腕時計を除く「時計」
と同一又は類似するものといえ,差止請求が認められることに変わりは
ない旨主張する。
しかしながら,前記(引用に係る原判決第4の2(1))のとおり,被告
商品の内容や性質に照らすと,被告商品は,その指定商品の区分として
は,第9類の「情報処理用の機械器具」に該当し,第14類の「時計」
には該当しないと解するのが相当である。
また,被告商品はスマートウォッチと呼ばれる商品であるところ,前
記認定(引用に係る原判決第4の2(2)イ)の被告商品の生産,販売,原
材料,品質,用途,需要者等に関する諸事情に照らすと,被告商品が,
原告商標の指定商品「時計」のうち,「腕時計」と類似の商品であるとい
うことができるのは格別,その他の指定商品(「腕時計」を除く「時計」)
とも類似の商品であるとは認められない(なお,被告商品のユーザーガ
イドには,「卓上時計としても使えます」との記載があることは前認定の
とおりであるが,これは,卓上に置けば,事実上卓上時計としての機能\nも果たすということを述べているのにすぎないと認められるから,これ
によって卓上時計との商品としての類似性が肯定されることになるもの
ではない。)。
したがって,控訴人の上記主張は理由がなく,控訴人による差止請求
は,権利の濫用として許されないというべきである。
(4) 一方,商標法54条2項により原告商標権の指定商品中「腕時計」が
消滅する効果が発生するのは,平成29年6月23日(第2次審判の審
判請求登録日)であるところ,控訴人が損害賠償を求めている期間は,
平成28年7月から平成29年2月までであるので,損害賠償請求との
関係では,権利濫用の抗弁は失当である。」
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◆平成29(ワ)15776
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2020.06.19
令和1(行ケ)10151 審決(拒絶)取消 令和2年5月20日判決 審決取消(2部) 商標権 ((掲載省略)) 類似性(4条1項11号),商標の類似性
「CORE ML」が「CORE」類似するとした審決が取り消されました。指定商品は9類、出願人はアップルです。
前記(2)アのとおり,「CORE」の語には,「ものの中心部,中核,核心」,「建
物の中央部で,共用施設・設備スペース・構造用耐力壁などが集められたところ」,\n「地球の核」,「試錐(ボーリング)によって採取した円柱状の土壌や岩石の試料」,
「一部のオペレーションシステムでプログラムが不正に終了したとき,メモリの内
容をまるごと保存したファイル(コアファイル,コアダンプ)」,「マイクロプロ
セッサのコア」,「Intel社の商品であるCOREシリーズ」等の多様な意味
があるが,前記(2)アのとおり,多くのコンピュータ関連の用語辞典等には,「CO
RE」や「コア」の項目が掲載されていない。
上記の意味のうち,「コアファイル」,「コアダンプ」,「マイクロプロセッサ
のコア」,「Intel社の商品であるCOREシリーズ」は,コンピュータ関連
の用語であるが,「CORE」の語がコンピュータソフトウェアである本件指定商\n品に使用された場合は,コンピュータハードウェアを意味する「マイクロプロセッ
サのコア」やコンピュータハードウェアの商品名である「Intel社の商品であ
るCOREシリーズ」を意味するものとは認識されないというべきであるし,「コ
アファイル」や「コアダンプ」も一部のオペレーションシステムで用いられている
用語にすぎず,「コアファイル」や「コアダンプ」と認識されるとも認められない。
また,「CORE」の語が本件指定商品に使用された場合,「中心部,中核,核
心」などの一般の辞書に掲載されている意味のどれとも認識されないか,認識され
るとしても,せいぜい「中心部,中核,核心」という意味と認識されるにすぎない
というべきである。
イ 「ML」について
(ア) 前記(2)イの認定からすると,「ML」の語には,「マシーンラーニン
グ(Machine Learning)」,「メーリングリスト(mailin
g list)」,「マークアップ言語(MarkupLanguage)」の略語
の意味があることが認められる。
しかし,(1)本件において,一般的な辞書に,「ML」の項目が存在することの証
拠は提出されていないこと,(2)前記(2)イのとおり,「ML」の語が「マシーンラー
ニング(Machine Learning)」の略語として使用された例は一定
数存するが,それらの使用例においては,必ず,「機械学習」という語と共に使用
されていること,(3)コンピュータ関連の用語辞典の中には,「ML」の項目が存在
するものがあるものの,同項目が存在しないものもあり(「ウィキペディア」のウ
ェブサイトの「コンピュータ略語一覧」),同項目を設けている用語辞典(「IT
用語辞典e−Words」)では,「ML」は「メーリングリスト」の意味である
と説明されていることからすると,「ML」の語が何らの説明もなく使用された場
合,「マシーンラーニング(Machine Learning)」の略語を意味
すると認識されるとはいえないというべきである。また,ブランド名と「ML」を
結合し,「ML」を「Machine Learning」として用いる例がある
としても,「CORE」のみでは,本件指定商品との関係ではブランド名とは認めら
れないから,そのことを根拠に本願商標の「ML」が「Machine Lear
ning」と認識されると認めることもできない。
また,上記のとおり,コンピュータ関連の用語辞典には,「ML」を「マークア
ップ言語」を意味するものと説明しているものはないこと,本件証拠上,「ML」
の語が「マークアップ言語」の略語の意味として使用されていると認められる例は,
「SGML」,「XML」,「HTML」のみであることからすると,「CORE」の語の次に一文字開けて「ML」の語を配置した場合に,「ML」の語が「マークアップ
言語」と認識されるとはいえないというべきである。
さらに,上記のとおり,「ML」の語が「メーリングリスト(mailing l
ist)」の略語の意味を有することは「IT用語辞典e−Words」に記載さ
れているが,他に,「ML」の語が「メーリングリスト」の意味で使用されている例
を示す証拠は提出されていないことからすると,「ML」の語が「メーリングリス
ト(mailing list)」の略語の意味として認識されるということもで
きない。
(イ) 以上からすると,本件指定商品に,「CORE」の語の末尾に1文字開
けて「ML」を配した語が使用された場合,「ML」から,何らかの観念が生じると
認めることはできない。
ウ 以上のア,イで判示したところからすると,本願商標が本件指定商品に
使用された場合,「CORE」の語からは,せいぜい「中心部,中核,核心」とい
った一般的な意味が認識されるにすぎず,「CORE」の部分が出所識別標識とし
て強く支配的な印象を与えるということはできないのに対し,「ML」の語からは
特定の観念を生じることはなく,「ML」の部分が「CORE」の部分に比べて特
段出所識別標識としての機能が弱いということはできない。\nまた,本願商標の外観上も,「CORE」と「ML」は,いずれも,同じ大きさの
標準文字で構成されており,その間に1文字開いているだけであるから,別個独立\nの商標と認識されるものではない。
さらに,称呼においても,本願商標は,一連に発音されるものと認められる。
したがって,本願商標と引用商標との類否を判断するに当たっては,本願商標全
体と引用商標を対比すべきであり,本願商標から「CORE」の部分を抽出し,こ
れを引用商標と対比してその類否を判断することは許されないというべきである。
したがって,原告の主張する取消事由1は理由がある。
2 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について
本願商標からは,「コアエムエル」の称呼が生じ,引用商標1,2からは,「コア」
の称呼が生じるところ,その音数は大きく異なっていることからすると,その差異
は大きいというべきである。
また,本願商標の「CORE ML」と引用商標1の「CORE」及び引用商標
2の「コア」とは,その外観が異なる。
本願商標の「CORE ML」の「CORE」の部分と,引用商標1の「COR
E」及び引用商標2の「コア」では,「中心部,中核,核心」といった観念が生じ
る点で,観念が共通することがあるものの,上記のとおり,本願商標と引用商標1,
2とは,称呼と外観において異なっており,称呼における差異は大きいことからす
ると,本願商標は,引用商標のいずれとも類似していないというべきであり,原告
の主張する取消事由2は理由がある。
◆判決本文
令和1(行ケ)10116 審決(拒絶)取消 令和2年5月20日判決 審決取消(2部)
特許権 (回転ドラム型磁気分離装置) 新規性,進歩性,相違点の判断
相違点の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
本件補正発明では,第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を
形成するのに対し,引用発明は,上記のような流路を形成しているか否かが不明な
点
ウ これに対し,被告は,引用文献1においては,タンク17の底部が底部
材に相当し,マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形
成されるとして,相違点3は存在しないと主張する。
(ア) しかし,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,「・・・前記使
用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流
れ,・・・前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第
1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き
取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿
って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装
置。」というものであり,同記載からすると,第2の回転ドラムから第1の回転ドラ
ムに向かうクーラント液は,第 1 の回転ドラム下部に第 1 の回転ドラムと底部材と
の間に形成された流路を流れるものであって,スクレパーによって掻き取られた磁
性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。そして,このことは,
本件明細書に,「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する
底部材30に連結されており,掻き取られた不要物(磁性体)は第1の回転ドラム
13へと誘導される。」(段落【0041】),「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材に連結されていれば足りるので,第2の回転ド
ラム21側から第1の回転ドラム13に向かって下降するよう傾斜していても良
い。」(段落【0053】),「図7に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,第2の回転ドラム21の外筒29に当接するスクレパー27が,第
2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13側へ傾斜するよう設けられてい
る。」(段落【0054】),「これにより,スクレパー27で書き取られた第2の回転ドラム21に付着した不要物が,傾斜に沿って第1の回転ドラム13側へと流れに
乗って移動しやすく,第1の回転ドラム13により確実に回収することが可能とな\nる。」(段落【0055】)と記載されていることからも,裏付けられているというこ
とができる。
したがって,本件補正発明の特許請求の範囲の「流路を形成する」とは,第2の
回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液の流路を形成するものと解
すべきである。
(イ) 引用文献1には,マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当)
とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)か
らマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていな
い(甲1)から,相違点3’は存在し,被告の上記主張は理由がない。
515/089515
◆判決本文
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2020.03.26
令和1(行ケ)10111 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月11日 知的財産高等裁判所
本件商標「総本家駿河屋」が先行商標「駿河屋」と類似するかが争われました。審決は非類似と判断しましたが、知財高裁4部は先行商標「駿河屋」は周知であるとして、分離解釈すると、類似すると判断しました。
ア 引用商標1及び2は,別紙記載1及び2のとおり,「駿河屋」の漢字3
文字を横書きに書してなり,その構成文字に相応して,「スルガヤ」の称\n呼が生じる。
しかるところ,前記1の認定事実を総合すると,(1)旧駿河屋は,昭和1
9年3月に設立以来,平成26年5月29日に事業を停止するまでの約7
0年間にわたり継続して,「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」を販売し,
平成24年3月期時点では,和歌山県に15店舗,京都府に1店舗,大阪
府に3店舗の直営店,百貨店11店舗に販売店を出店し,このほか,百貨
店72店舗及び量販店等532店舗の銘店コーナ等に「駿河屋」の商標を
使用し,同3月期における直営店での売上高は約7億6568万円,百貨
店での売上高は約4億8955万円であったこと,(2)旧駿河屋が販売する
「羊羹」については,「徳川家ゆかりの伝統の味「煉羊羹」」,「駿河屋
は,紀州家御用御菓子司として和歌山に御用本店を置くようになった(現
在でも駿河屋は和歌山と伏見に総本家を置いている。)。」,「駿河屋の
「煉羊羹」は,秀吉の聚楽第茶会に諸侯の引き出ものに用いられ絶賛され
たという「伏見羊羹」を発展させたもので,試作に成功したのが慶長4年
(1599)のことである。」,「淡紅色をした「極上本煉煉羊羹」は,
みかけとちがいその歯ざわりはずっしり重く,深く厚みのある味が伝わっ
てくる。」などと刊行物(甲42の1(「日本の名菓 《和菓子》」)で
紹介されていたこと,(3)旧駿河屋は,昭和32年4月24日,旧駿河屋の
前身の個人営業の「総本家駿河屋」の分家又は「総本家駿河屋」等から暖
簾分けを受けた「別家」等とともに,会員相互の親睦を図るとともに老舗
駿河屋の伝統を守り,商号及び商標権の確保に協力し,共存共栄を図るこ
とを目的として,「駿河屋」の商号,商標の保全に必要な協定及びその他
の措置等の事業を行う「駿河屋会」を発足し,「駿河屋会」の会員は,「駿
河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売し,平成27年6月2
5日に旧駿河屋の破産手続廃止決定が確定した前後を通じて,ウェブサイ
トや取扱商品の「羊羹」の包装等に「駿河屋」の商標の使用を継続してい
ること,(4)旧駿河屋の事業停止(平成26年5月29日)から約10か月
後の平成27年3月24日,原告は,旧駿河屋の旧本店店舗において営業
を再開し,「駿河屋」の商標を使用した「羊羹」等の和菓子を販売するよ
うになり,旧本店店舗における営業再開時には「駿河屋」の再建として新
聞各誌で大きく報道されたことが認められる。
上記認定事実によれば,本件商標の登録査定時(登録査定日平成29年
4月12日)において,「駿河屋」の商標は,羊羹等の和菓子の取引者,
需要者の間において,近畿地方を中心に, 旧駿河屋又はその分家等が取り
扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブランド名として広く認識され,全\n国的にも相当程度認識されていたものと認められる。
そして,このような「駿河屋」の商標の周知性等に照らすと,「駿河屋」
の文字を横書きに書してなる引用商標1及び2から,「羊羹」等の和菓子
のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じるものと認めるのが相当で
ある。
イ これに対し被告は,(1)旧駿河屋は,「駿河屋」を単独では使用せず,「総
本家」の文字を付して「総本家駿河屋」を使用し,又は「総本家駿河屋」の
商標と同時に「駿河屋」を使用し,駿河屋会所属の分家との区別を明確に
して,出所の混同を防止してきたから,引用商標1及び2が,旧駿河屋が
取り扱う和菓子(特に「羊羹」)を表示するものとして周知著名性を獲得\nしたとはいえない,(2)仮に旧駿河屋が引用商標1及び2について周知著名
性を獲得したとしても,旧駿河屋は,破産手続廃止決定の確定により,そ
の法人格が消滅していること,駿河屋会所属の分家は,地名に「駿河屋」
の文字を付して,旧駿河屋との出所の混同を防止してきたこと,原告は,
旧駿河屋から事業譲渡を受けておらず,旧駿河屋が営業していた地で「株
式会社総本家駿河屋」の商号を使用して営業しているだけであり,旧駿河
屋の有していた引用商標1及び2についての周知著名性を引き継いでいる
わけではないことからすれば, 旧駿河屋が獲得した引用商標1及び2につ
いての周知著名性は,旧駿河屋の法人格の消滅とともに断絶している旨主
張する。
しかしながら,上記(1)の点については,前記1(4)アの認定事実によれば,
旧駿河屋がそのウェブサイトで使用していた「総本家駿河屋」の表示は,旧\n駿河屋が営業主体であることを表示したものと認識することができるが,\n一方で,旧駿河屋の販売する「羊羹」の包装資材,包装紙及び紙袋におい
ては,「駿河屋」の文字部分が,同文字部分の右肩等に小さな文字で記載
された「総本家」文字部分と外観上明確に区別される態様で示されている
から,「駿河屋」の文字部分は独立した商標として使用されているものと
認められる。
次に,上記(2)の点については,前記ア認定のとおり,「駿河屋」の商標
は,旧駿河屋のみならず,駿河屋会の会員の分家及び別家の経営する店舗
の営業活動を通じて,取引者,需要者の間において,近畿地方を中心に,
旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブラ\nンド名として広く認識され,全国的にも相当程度認識されていたものと認
められるものであり,このような「駿河屋」の商標のブランド名としての
周知性等は旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定による法人格の消滅により
直ちに失われるものとはいえない。
また,前記1(2)イのとおり,駿河屋会は,「駿河屋」の商号,商標を使
用し,煉羊羹,菓子の製造又は販売に従事する個人及びその主宰する会社
等を会員とし,会員相互の親睦を図るとともに老舗駿河屋の伝統を守り,
商号及び商標権の確保に協力し,共存共栄を図ることを目的として,「駿
河屋」の商号,商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行う
ために発足したものである上,前記1(4)の認定事実によれば,駿河屋会の
会員の分家及び別家等の取扱商品の羊羹の包装等においては,「駿河屋」
の文字部分が,同文字部分の右肩等に小さな文字で記載された「大阪」,
「伏見」,「京都駅前」又は「宇治」の文字部分と外観上明確に区別され
る態様で示されているから,「駿河屋」の文字部分は独立した商標として
使用されているものと認められる。加えて,株式会社大阪の駿河屋のウェ
ブサイトでは,「駿河屋のお菓子」の見出しの下に,「伝統の製法で作ら
れた羊羹に昔ながらの味わいが楽しめるお菓子。お菓子の老舗,駿河屋の
ラインナップです。」,「古来より受け継がれた,駿河屋羊羹の「こころ」」
などと表示していること(前記1(4)イ),株式会社京都駅前駿河屋は,そ
の店舗に「駿河屋」と記載された看板及び「SURUGAYA」と記載さ
れた看板を掲げていること(前記1(4)オ)に照らすと,駿河屋会の会員の
分家及び別家は,旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定後も,「駿河屋」の
商標を取扱商品の羊羹等の和菓子のブランド名として継続して使用してい
たことが認められる。
さらには,旧駿河屋の事業停止から約10か月後の平成27年3月24
日,原告は,旧駿河屋の旧本店店舗において営業を再開し,「駿河屋」の
商標を使用した「羊羹」等の和菓子の販売を行っていることに鑑みると,
和菓子のブランド名としての「駿河屋」の周知性等は,本件商標の登録査
定時においても維持されていたものと認められる。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 本件商標の要部抽出の可否について
ア 本件商標は,「総本家駿河屋」の標準文字から構成された,「総本家」\nの文字部分と「駿河屋」の文字部分とからなる結合商標である。
本件商標の構成文字は,外観上,同書,同大,同間隔で表\示されており,
「ソウホンケスルガヤ」の称呼も生じるが,一方で,前記(1)認定のとおり,
「駿河屋」の商標は,本件商標の登録査定日当時,羊羹等の和菓子の取引
者,需要者の間において,近畿地方を中心に, 旧駿河屋又はその分家等が
取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示するブランド名として広く認識され,\n全国的にも相当程度認識されていたものと認められるのに対し,「総本家」
の語は,「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味
する普通名詞であること(甲6)に照らすと,「総本家」の文字部分と「駿
河屋」の文字部分とは,それを分離して観察することが取引上不自然であ
ると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして,本件商標がその指定商品の「最中」に使用された場合には,本
件商標の構成中の「駿河屋」の文字部分が和菓子のブランド名として周知\nであったことから,取引者,需要者に対し,上記商品の出所識別標識とし
て強く支配的な印象を与えるものと認められる。
そうすると,本件商標の構成中「駿河屋」の文字部分を要部として抽出\nし,これと引用商標1及び2とを比較して商標そのものの類否を判断する
ことも,許されるというべきである。
イ これに対し被告は,(1)引用商標1及び2の商標登録がされた後に,指定
商品を「煉羊羹」,「菓子」等とする「駿河屋」の文字を含む9件の商標
(乙5ないし13)が商標登録されていること,(2)商品「菓子」又は「羊
羹」について,主に,地名に「駿河屋」の文字を加えた商標を多数の者が
使用しており,これらの使用者には,「京阪宇治駅前駿河屋」(乙16),
「京三条駿河屋」(乙17),「河内駿河屋」(乙18),「美濃国駿河
屋」(乙25),「京都駅前駿河屋」(乙26)のように,駿河屋会の会
員でない者も含まれていること,(3)引用商標1 及び2の商標権者である株
式会社大阪の駿河屋は「大阪の駿河屋」の商標を,有限会社伏見駿河屋は
「伏見駿河屋」の商標を,株式会社京都駅前駿河屋は「京都駅前駿河屋」
の商標を使用し,互いに出所の混同が生じないようにしていること,(4)引
用商標1及び2の商標権者は,駿河屋会以外の者による「駿河屋」の商標
の使用に対して,商標権侵害を主張することなく,長年放置してきたこと
等の取引の実情によれば,本件商標の登録査定時には,「駿河屋」という
商標だけでは,商品「和菓子」や「羊羹」について,何人の商品の出所を
示すものであるのか,需要者は,認識できない状態になっていたから,本
件商標から「駿河屋」の文字部分を要部として抽出することはできない旨
主張する。
しかしながら,前記(1)認定のとおり,「駿河屋」の商標は,本件商標の
査定日当時,羊羹等の和菓子の取引者,需要者の間において,近畿地方を
中心に, 旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に,羊羹)を表示\nするブランド名として広く認識され,全国的にも相当程度認識されていた
ものと認められる。
このことは,指定商品を「煉羊羹」,「菓子」等とする「駿河屋」の文
字を含む9件の商標が商標登録されていること(上記(1))や,株式会社大
阪の駿河屋は「大阪の駿河屋」の商標を,有限会社伏見駿河屋は「伏見駿
河屋」の商標を,株式会社京都駅前駿河屋は「京都駅前駿河屋」の商標を,
それぞれの営業を表示するものとして使用していること(上記(3))によっ
て左右されるものではない。
また,前記1(5)認定のとおり,駿河屋会の会員以外の者が「駿河屋」の
文字を使用している例もみられるが,それが多数であるとはいえない上,
羊羹等の和菓子についての具体的な使用態様も明らかでないから,上記(2)
及び(4)をもって,「駿河屋」の商標が,何人の商品の出所を示すものであ
るのか,需要者が認識できない状態になっていたということはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件商標と引用商標1及び2の類否について
本件商標の要部である「駿河屋」の文字部分(標準文字)と別紙記載1及
び2の引用商標1及び2を対比すると,字体は異なるが,「駿河屋」の文字
を書してなる点で外観が共通し,いずれも「スルガヤ」の称呼及び羊羹等の
和菓子のブランド名としての「駿河屋」の観念が生じる点で,称呼及び観念
が同一である。
そうすると,本件商標と引用商標1又は引用商標2が本件商標の指定商品
「最中」に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同が生ずる
おそれがあるものと認められるから,本件商標と引用商標1及び2は,それ
ぞれ全体として類似しているものと認められる。
したがって,本件商標は,引用商標1及び2に類似する商標であるものと
認められる。
◆判決本文
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2020.03.26
令和1(行ケ)10152 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
知財高裁(3部)は、「ベジバリア」の下部に「塩・糖・脂」と二段に記載した結合商標について、先願既登録商標「塩糖脂」と類似しないと判断し、拒絶審決を取り消しました。
本願商標は,「ベジバリア」の文字及び「塩・糖・脂」の文字を,いずれ
も標準的な書体で2段にして成る商標であり,分離して観察することが取引
上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないか
ら,「ベジバリア」の部分と「塩・糖・脂」の部分を分離して観察すること
自体は不可能とはいえない。\nしかし,「ベジバリア」の部分は,自他識別力を有すると考えられるのに
対し,「塩・糖・脂」の部分は,「・」が存在することもあって3つの文字
がそれぞれ独立し,「塩」は塩分を,「糖」は糖分を,「脂」は脂肪分を意
味する一般的,普遍的な意味を有する文字として認識されるものであるとい
える。そして,これらの文字は,それが,指定商品であるサプリメント,栄
養補助食品に用いられた場合には,当該商品が塩分,糖分及び脂肪分のコン
トロールに良い影響を与えるなどといった記述的,説明的意味を表すのにと\nどまり,取引者,需要者に特定的,限定的な印象を与える自他識別力を有す
るものではない(引用商標の「塩糖脂」は,3つの文字が一体となっている
ところから,それらが一体の文字として自他識別力を有するという余地が生
ずるが,「塩・糖・脂」の場合には,「・」により分離されているため,
「塩糖脂」と同列に論じることはできないものである。)。このことと,
「塩・糖・脂」の部分は,「ベジバリア」の部分と比べ,明らかに小さい文
字で構成されており,その分目立たなくなっていることを併せ考えれば,こ\nの部分は,自他識別標識としての称呼,観念は生じないものであるというべ
きである。
したがって,本願商標は,「ベジバリア塩・糖・脂」全体として,又は
「ベジバリア」の部分としてのみ自他識別標識としての称呼,観念が生じる
ということになる。
◆判決本文
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2020.03. 5
令和1(行ケ)10105 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年1月29日 知的財産高等裁判所
公序良俗違反(商4条1項7号)の無効理由無しとした審決が維持されました。
原告は,被告及び被告と密接な関連性を有するサクラグループは,原告及び
その取引先の業務を妨害し,本件商標の商標権を譲渡することにより不正の利
益を得る目的で,本件商標の登録出願をしたものであり,本件商標の出願経緯
等には,適正な商道徳に反し,社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く
事情があるから,本件商標は,商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風
俗を害するおそれがある商標」に該当する旨主張するので,以下において判断
する。
(1) 業務妨害等の目的について
原告は,被告又はサクラグループは,原告がした繊研新聞の記事に係るハ
ワード社に対する抗議行為に対する報復措置の一環として,原告のロゴとほ
ぼ同一のロゴをあえて使用して,原告及びその取引先の業務を妨害するとと
もに,原告のブランドにフリーライドするという不正の目的で,本件商標の
登録出願をしたものといえる,原告の上記抗議行為は正当なものであり,被
告らから報復措置を受けるいわれがないにもかかわらず,被告らが本件商標
を利用して,業務妨害行為及びフリーライド行為を行ったから,その不当性
は強度である旨主張する。
そこで検討するに,前記1の認定事実によれば,(1)原告と被告は,199
7年(平成9年)から,被告が,高島USAを通じて,「Goodwear」
の商標を付したティーシャツ(原告商品)を輸入し,日本国内で販売すると
いう取引関係にあったところ,被告が1999年(平成11年)に原告商品
に係る商標権について調査した結果,原告が日本において「Goodwea
r」の商標の商標登録を有しておらず,一方で,ビーグッド社が「good
wear」又は「Good Wear」の欧文字を含むビーグッド社商標の
商標権を有していることが判明したことを契機として,原告及び被告がそれ
ぞれビーグッド社との間でビーグッド社商標の譲渡交渉を行うようになった
後,被告がビーグッド社からビーグッド社商標の商標権の譲渡を受け,平成
12年1月6日にその移転登録が経由された後,被告が被告の販売する商品
にビーグッド社商標を使用するようになり,原告と被告との取引関係が解消
されたこと,(2)原告は,ビーグッド社商標の譲渡交渉中の平成11年7月2
日,「GoodwearUSA」の欧文字からなる商標について商標登録出願
をし,平成14年3月28日付けで,当該商標が商標法3条1項3号に該当
することを理由に拒絶査定を受けた後,平成15年4月4日,別紙2の構成\nからなる金色で縁取りをした赤色の「Goodwear」の欧文字,図形等
を含む原告登録商標の商標登録を受けたが,原告商品に使用されていた「G
oodwear」の欧文字からなる商標(甲3の1)については,商標登録
出願をしなかったこと,(3)被告の関連会社のサクラグループが本件商標の商
標登録出願をしたのは,原告と被告の上記取引関係の解消から約12年を経
過した後の平成24年3月12日であること,(4)サクラグループ及びそのラ
イセンシー又は被告は,本件商標の商標登録後,本件商標のうち,「Goo
dwear」の欧文字部分を黒色から赤色とした商標をティーシャツ等に使
用するようになったものであり,上記商標は本件商標と社会通念上同一の商
標であると認められることからすると,被告及びサクラグループは,サクラ
グループによる本件商標の登録出願時,原告との関係で,「Goodwea
r」の欧文字を含む商標の商標登録出願を差し控えるべき信義則上の義務等
を負っていたものとまで認めることはできないし,一方で,サクラグループ
及びそのライセンシー又は被告は,本件商標の商標登録後,本件商標と社会
通念上同一の商標を実際に使用しているのであるから,サクラグループによ
る本件商標の商標登録出願が原告及びその取引先の業務を妨害する目的や原
告のブランドにフリーライドする目的をもって行ったものと認めることはで
きない。
もっとも,前記1の認定事実によれば,平成22年11月18日付けの繊
研新聞において,サクラグループの取引先のハワード社が米国のカジュアル
ブランド「グッドウェア」のライセンス製造販売を始める旨の記事が掲載さ
れたことについて,原告は,上記記事中の「米国のカジュアルブランド「グ
ッドウェア」」は原告を意味するが,原告とハワード社とは取引も取引交渉
もなかったため,上記記事に誤りがあると考え,繊研新聞社に対して上記記
事の訂正を求めるとともに,原告の代理人弁護士を通じて,ハワード社に対
し,原告とサクラグループとの間には何らの契約関係もないことから,サク
ラグループの商標権に基づくライセンスを受けても,原告商品との誤認,混
同を生ずるような商品の販売は許されない旨を通知したことに端を発し,被
告の代表取締役のAが原告代表\者に対して原告と被告との交渉が決裂した場
合には原告の代理人弁護士のハワード社への通知に対する「報復措置」を行
うこと及びその「報復措置」の具体例について言及したメールを送信した後,
被告が原告登録商標について商標法53条1項に基づく不正使用取消審判
(取消2011−300044号事件)及び同法51条1項に基づく不正使
用取消審判(取消2011−300162号事件)を請求するとともに,原
告の取引先に対し,原告登録商標を取り消す旨の審決が確定すれば,現在取
り扱っている商品の法的拠り所を喪失することになるなどと警告する旨の通
知をし,さらに,サクラグループは,赤色の「Goodwear」の欧文字
と「Massachusetts」の欧文字を含む商標,赤色の「Good
wear」の欧文字と「Essex」の欧文字を含む商標及び本件商標の商
標登録出願をしたことが認められる。上記認定事実によれば,サクラグルー
プによる本件商標の商標登録出願は,原告の代理人弁護士のハワード社への
通知に対する対抗措置の一環として行われた側面があるものと認められる。
しかしながら,上記(1)ないし(4)の事情に照らすと,このような側面がある
からといって直ちにサクラグループによる本件商標の商標登録出願が原告及
びその取引先の業務の妨害や原告のブランドにフリーライドする目的をもっ
て行ったものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 不正の利益を得る目的について
原告は,原告が平成28年12月に本件商標について別件無効審判を請求
した後,被告らは,平成29年1月,原告に対し,本件商標を含むグッドウ
ェア関連商標を譲渡する意向がある旨を告げるとともに,もし譲渡交渉が成
功すれば,訴訟や刑事告訴などといった原告と被告らとの間の将来の紛争を
回避できるであろうなどと述べた上で,120万米ドルの譲渡対価を要求し
たことは,被告らが,原告が他社による保有を望まない商標(本件商標を含
む。)をあえて選択して商標登録出願をし,商標登録を受けた上で,自己に
有利な交渉材料として本件商標等を利用し,120万米ドルもの極めて高額
な譲渡対価を要求したことを示すこと,本件商標の出願時に原告と被告らと
の間では鋭い対立関係があった事情にも鑑みると,被告らは,不正の利益を
得る目的で,本件商標の登録出願をしたものであり,その不当性は強度であ
る旨主張する。
そこで検討するに,前記1(4)イ及びウ認定のとおり,被告の代表取締役の\nAは,原告が平成28年12月5日に本件商標について別件無効審判を請求
した後の平成29年1月31日,原告代表者に対し,「私たちは再び衝突し\nそうです。こちらとしては今回でこの一連の紛争を終結させたいと真に望ん
でいるので,いったん衝突に至れば,こちらは勝つためにありとあらゆる手
段(訴訟,刑事告訴等を含みます。)をとらざるを得ません。一方で,紛争
には辟易しています。最近,私は,条件が満たされるならばこちらの商標を
誰かに近々譲渡しようかと考えています。そちらはこの譲渡の件に興味をお
持ちではないでしょうか? うまくいけば,私たちは衝突の繰り返しを回避
することができます。…私たちは円満な解決を望んでおります。」などと記
載したメールを送信し,さらに,同年2月6日,原告代表者に対し,「現段\n階での私の考える解決に関してですが,過去のことについては話し合う必要
はありません。話し合うべきことは,譲渡額のみです。私たちの提示額は,
私たちの5年間の利益に基づいて算出された120万米ドルです。あなたの
お考えを聞かせてください。」などと記載したメールを送信したことが認め
られる。
上記認定事実によれば,被告は,原告に対し,被告又はサクラグループが
保有する本件商標を含む「Goodwear」の欧文字を含む商標の商標権
を120万米ドルで譲渡する旨の提案をしたことが認められるが,一方で,
(1)Aの上記各メールの文面によれば,120万米ドルの譲渡対価はあくまで
も被告側の希望額の提示であるにすぎないこと,(2)本件においては,Aが上
記提案をした後,原告に対し,本件商標を含む「Goodwear」の欧文
字を含む商標の買取りを求める更なる要求をしたことをうかがわせる証拠は
ないこと,(3)サクラグループ及びそのライセンシー又は被告は,本件商標の
商標登録後,本件商標と社会通念上同一の商標を実際に使用していること(前
記1(4)ア)に照らすと,Aが原告に対し上記提案をしたことから直ちにサク
ラグループによる本件商標の商標登録出願が不正の利益を得る目的をもって
行ったものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,被告及びサクラグループは,原告及びその取引先の業務を
妨害し,本件商標の商標権を譲渡することにより不正の利益を得る目的で,
本件商標の登録出願をしたものと認めることはできないから,本件商標の出
願経緯等に,適正な商道徳に反し,社会通念に照らして著しく社会的相当性
を欠く事情があるとの原告の前記主張は,その前提を欠くものである。
したがって,本件商標は商標法4条1項7号に該当するものと認めること
はできないから,これと同旨の本件審決の判断はその結論において誤りはな
く,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(理由不備の違法)について
(1) 原告は,本件審決は,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その
他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くもの
があったものと認めることはできないとの結論を示すにとどまり,本件商標
の出願経緯等や出願目的に関する事実認定,法律を事実に適用した判断過程
を示しておらず,重要な争点について実質的な理由を欠いているから,本件
審決には,理由不備(商標法56条,特許法157条2項)の違法がある旨
主張する。
そこで検討するに,本件審決の審決書によれば,本件審決は,(1)原告提出
の全証拠によっても,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他
不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものが
あったものと認めることはできないし,本件商標の登録後,被告が原告に対
して,何らの実質的損害がないにもかかわらず不当な要求をする警告書等を
送付したというような事実も見いだせず,原告主張のビーグッド社とのビー
グッド社商標の譲渡交渉経緯や原告登録商標に対する被告による異議申立て\nや取消審判(商標法53条1項,同法51条1項,同法50条1項)等につ
いては,いずれの商標も本件商標とは構成態様を異にするものであり,かつ,\n「Goodwear」の文字部分の識別力が弱いことも併せ考慮すれば,当
該経緯等が,本件の審理判断に影響を及ぼすものではないから,本件商標が
同法4条1項7号に該当するということはできない,(2)原告提出の証拠及び
主張を前提とすると,原告は,平成2年(1990年)頃の我が国への進出
にあたって,「Goodwear」の欧文字からなる商標を自ら登録出願す
る機会は十分にあったというべきであり,また,平成11年(1999年)\n6月後半の時期においても,原告は,速やかに「Goodwear」の欧文
字からなる商標を登録出願することができたものであるところ,被告が,そ
の時期に「Goodwear」の欧文字からなる商標の存在を認識していた
ものであるとしても,商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者
同士の私的な問題として解決すべきであり,しかも,原告は,この時期にお
いても被告に対し,原告の「Goodwear」関連の商標登録出願をしな
いことや,出願をした場合には原告へ帰属させる旨の契約や交渉等ができた
にもかかわらず,そのような措置を講じた事実は見いだせず,かつ,自ら登
録出願しなかった責めを被告に求めるべき格別な事情を見いだすこともでき
ないことからすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るよ
うな,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるというこ
とはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題
として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというよう
な事情があるということはできず,本件商標は,同号に該当しない旨判断し
たことが認められる。
◆判決本文
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2020.02. 5
令和1(行ケ)10073 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年10月23日 知的財産高等裁判所
被告からの商品を卸売りをしていた原告に対して、その商標の商標を取得することは公序良俗に反する(商4条1項7号違反)とした審決が維持されました。
商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある
商標」には,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く出願行為に係る
商標も含まれると解される。
(1) そこで,まず,原告による本件商標の登録出願が,被告との関係で義務違
反となりうるかについて検討する。
前記1(1)(2)の各事実によれば,原告と被告とは,本件商標の登録出願が行
われた平成28年10月14日時点を含めて,平成11年頃から平成29年
10月12日頃までの間,被告が,原告に対し,独占的に本件被告商品やマ
ナマリンなどを卸売りし,原告がこれを薬局薬店等に販売するという長期間
にわたる取引関係にあった。
かかる取引関係に関して,前記1(2)エのとおり,原告と被告とは,被告商
標の登録が完了した直後である平成16年3月25日,本件覚書(甲6)を
締結した。本件覚書の柱書,1条,3条の記載に照らすと,本件覚書は,被
告商標として登録された「仙三七」との商標を,本件被告商品に付して,販
売することを前提とするものであることが明らかである。また,本件覚書に
は,被告及び原告は,第三者が被告商標の権利を侵害し又は侵害しようとし
ていることを知ったときには互いに遅滞なく報告し合い協力してその排除に
努めるものとすること(第5条)や,被告及び原告は,信義に基づいて本件
覚書を履行するものとし,万一本件覚書に関して疑義が生じた場合には,被
告及び原告はお互いに誠意をもってこれを解決するものとすること(第7
条)とする合意が含まれていた。このように,被告が原告に使用許諾して
「仙三七」との商標を本件被告商品に付して販売することとされ,第三者か
らの被告商標に係る商標権の侵害に対する対策も合意された上で,7条にお
いて信義に基づいて本件覚書を履行するとされていたことに照らすと,本件
覚書において,原告自身が,三七人参を原材料とした健康食品との関連で
「仙三七」との商標を商標登録することは全く想定されていないといえる。
以上によれば,長期間にわたり,本件被告商品の卸売りを受けて,これに
被告商標と同じ「仙三七」との商標を付して販売し,利益を上げていた原告
は,被告との関係において,被告が「仙三七」との商標の商標権者として,
かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則
上の義務を負っていたものということができる。
そして,原告による本件商標の登録出願は,被告商標と同じく「仙三七」
を横書きにしてなる商標について,本件被告商品を指定商品に含むものとし
て登録出願するものである。かかる登録が認められることになると,被告
は,「仙三七」との商標の商標権者として,第三者に使用許諾をするなどし
てかかる商標を付して本件被告商品を販売することはできなくなり,重大な
営業上の不利益を受けるおそれが生じる。
以上によれば,原告の本件商標の登録出願は,上記信義則上の義務に反す
るものといわざるを得ない。
(2) 次に,原告の本件商標の登録出願の経緯及び目的についてみる。
前記1(3)イからエのとおり,原告は,上記出願の前後において,被告に対
し,被告商標が本件被告商品を指定商品に含んでいない可能性や自らが本件\n商標を登録出願することについて何ら告げることはなく,本件商標の設定登
録完了から4か月以上経過した後の平成29年8月18日付けの「申し入れ\n書」(甲7)において,初めて,本件商標の商標権者であることを明らかに
した上で,原告と被告との本件被告商品の取引終了を一方的に申し入れると\nともに,被告に対し,マナマリンの商標の譲渡やそれを条件とした三七人参
の購入などを提案したものである。
これに対し,上記「申し入れ書」の内容に照らすと,原告自身は,当該\n「申し入れ書」を送付する前に,被告以外の第三者から,本件被告商品と同\n種の競合品を購入する段取りを既に整えていたと認められる。
そして,原告は,その後の被告とのやりとりの中で,原告から被告に対す
る営業譲渡の申入れや被告商標の譲渡の依頼に応じてもらえなかったこと,\n被告の本件被告商品の仕入れ価格が高額であるために原告独自の商品を生産
することにしたことなどをも理由として挙げながら,原告としては被告の生
産する本件被告商品が原告の希望仕入れ価格に不適格であると判断し,原告
にて新しいブランドで生産から販売を開始することなどを伝えている。
このような原告の言動に照らすと,原告は,「仙三七」との商標が,本件
被告商品と同種の商品に付されることによって生じる利益を独占するべく,
被告に本件商標と競合する商標を登録出願されないように注意を払った上
で,自らは,同種商品の調達ルートを確立する一方で,被告との取引関係を
終了する準備を計画的に整えながら,本件商標の登録出願及び上記「申し入\nれ書」の送付に及んだものといえる。
(3) 以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,被告が「仙三七」との
商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義
務を負うにもかかわらず,被告商標が本件被告商品を指定商品として含まな
い可能性があることを奇貨として本件商標の登録出願を行い,本件商標を取\n得し,被告が「仙三七」のブランドで健康食品を販売することを妨げて,そ
の利益を独占する一方で,その他の商品の取引に関する交渉を有利に進める
という不当な利益を得ることを目的としたものということができる。
このような本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告による本
件商標の出願行為は,被告との間の信義則上の義務違反となるのみならず,
健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。
そうすると,このような出願行為に係る本件商標は,商標法4条1項7号
所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するも
のといえる。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,「仙三七」との商標は原告の努力等によってその信用が築き上
げられたものであり,また取引者等は本件被告商品の出所は原告であると
認識するなどとして,かかる商標は原告のものであるなどと主張する。
しかしながら,原告は,本件覚書に基づいて「仙三七」の商標の使用を
許諾され,この許諾に基づいて,本件被告商品に「仙三七」との商標を付
して,長年にわたり販売してきたものである。その過程において,原告が
努力し,また販売者として表示されたことによって「仙三七」との商標の\n出所であると取引者や需要者に認識されたとしても,それは,あくまでも
被告の許諾を基盤として形成された信用なのであるから,原告が当然に
「仙三七」との商標の権利者として扱われるべきであるとする根拠となる
ものではない。
前記のとおり,被告との関係で,原告による本件商標の出願行為が,信
義則上の義務違反となり,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠
く行為であるとの評価は,原告の主張によっても左右されない。
イ また,原告は,被告商標は本件被告商品を指定商品として含んでいなか
ったなどとして,被告は「仙三七」との商標について何らの権利ももって
いなかったなどと主張する。
確かに,被告商標について,本件被告商品を指定商品として含んでいな
かった可能性が高いことは,被告も認めるところである。\nしかしながら,本件被告商品が,被告商標の指定商品の範囲に含まれて
いなかったとしても,本件覚書を締結し,長年にわたりその有効性を前提
として取引関係にあった原告と被告の間においては,問題が生じた場合に
は,本件覚書の第7条に基づき,お互いに誠意をもって解決すべきであ
る。そして,原告としては,被告が,「仙三七」との商標の商標権者とし
て,かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない
信義則上の義務を負っていたことは前記(1)に判示したとおりであることを
も併せ考えると,原告において,抜け駆け的に本件被告商品を指定商品と
するような商標で商標登録をすることが許されるわけではない。
むしろ,本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告は,本件
被告商品を指定商品として含んでいなかった可能性や,自らが本件商標の\n登録出願をしようとしていることについては,何ら被告に告げておらず,
却って,前記1(3)アにみたとおり,平成28年9月頃(本件商標の登録出
願の直前頃と考えられる。)には,被告商標の譲渡を持ちかけて,その指
定商品に本件被告商品が含まれることを前提とするかのような言動を示し
たものである。これらの原告の行為は,被告商標の保護範囲についての被
告の誤解を解消することなく,むしろ,被告の誤解を奇貨として,被告が
本件商標と同一の商標の登録出願をすることを著しく困難にするものであ
ったと評価できる。それにもかかわらず,先願主義をそのまま適用して,
本件商標の有効性を肯定することは,当事者間の衡平を著しく欠くものと
いえるから,前述の結論は左右されない。
なお,本件覚書7条は,覚書に関する疑義が生じた場合に誠意を持って
解決するとしていることからもうかがわれるとおり,本件覚書は,被告商
標に係る商標権が本件被告商品を指定商品として含むことを保証ないし当
然の前提とするものであるとまではいえないから,仮にこの点について疑
義が生じたとしても,そのことによって,当然に本件覚書が無効となるも
のではない。
ウ また,原告は,被告に被告商標が空虚な権利であることを告げること
は,自らを縛る道具を更に継続させるのみであることは明らかであるか
ら,本件商標の登録出願を告知する義務はないなどと主張する。
しかしながら,被告商標の有効性に疑問があるというのであれば,それ
を告知することによって本件覚書を適切に機能させることが本件覚書の趣\n旨なのであるから,原告の主張は,この趣旨に反し,信義にもとるもので
あると言わなければならない。
◆判決本文
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2020.01.11
令和1(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年12月26日 知的財産高等裁判所
「EMPIRE」の文字部分の下部に二重線があり、その下部に少し小さな文字で「STEAK HOUSE」の文字部分で構成された商標(判決文中にあり)について、「EMPIRE」と類似するとした審決が維持されました。\n
ア 本願商標は,別紙のとおり,上段に,左向きの金色の牛の全身を表した\n図形を配し,当該図形部分の下方に,「EMPIRE」の黒色の欧文字と
「STEAK HOUSE」の黒色の欧文字を上下2段に横書きに書して
なり,上下2段の文字部分の間に文字部分と幅を揃えた赤色の二重線を配
してなる結合商標である。
本願商標は,牛の図形部分,「EMPIRE」の文字部分及び「STE
AK HOUSE」の文字部分の各構成部分が相互に一定の間隔を空けて,\n重なり合うことなく配置され,上記各文字部分の間に赤色の二重線が配さ
れていることから,各構成部分は,それぞれが独立したものであるとの印\n象を与え,視覚上分離して認識されるものと認められる。
イ 「EMPIRE」の文字部分は,目につきやすい中央部に,「STEA
K HOUSE」の文字部分よりも大きく表され,「EMPIRE」の文\n字部分の語頭及び語尾の「E」の文字は当該文字部分を囲って強調するよ
うに他の文字よりも大きく表されていること,「EMPIRE」の文字部\n分の下に配された赤色の二重線は,「EMPIRE」の文字部分と「ST
EAK HOUSE」の文字部分との区切り線のような印象を与えるとと
もに,「EMPIRE」の文字部分を強調する下線のような印象をも与え
ていることに鑑みると,本願商標の外観上,「EMPIRE」の文字部分
は,牛の図形部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分よりも,強
く印象づける特徴を備えている。
そして,「EMPIRE」の文字部分に相応する「empire」の語
は,「帝国」の意味を有する基本的な英単語として知られており(新英和
中辞典(第7版),広辞苑(第七版),大辞林第三版(甲2)),本願商
標の構成中「EMPIRE」の文字部分から「エンパイア」の称呼が生じ\nる。
ウ(ア) 本願商標の構成中「STEAK HOUSE」の文字部分に相応す
る「steakhouse」の語は,「ステーキ専門店」(ジーニアス
英和辞典第5版(乙2)),「ステーキハウス」(新英和中辞典(第7
版))の意味を有する英単語である。
証拠(乙3ないし25,30)によれば,(1)「レストランにおける飲
食物の提供」をする業界において,「STEAK HOUSE」又は「S
TEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,例えば,「WOLF
GANG’S STEAKHOUSE」(ウルフギャング・ステーキハ
ウス)(乙3),「BENJAMIN STEAK HOUSE」(ベ
ンジャミンステーキハウス)(乙4),「MORTON’S THE S
TEAKHOUSE」(モートンズ ザ ステーキハウス)(乙5),
「RUTH’S CHRIS STEAK HOUSE」(ルースクリ
ス ステーキハウス)(乙6),「OUTBACK STEAKHOU
SE」(アウトバックステーキハウス)(乙7),「JACK’S S
TEAK HOUSE」(ジャッキーステーキハウス)(乙8),「L
a Paysanne(ステーキハウス ラ・ペイザン)」(乙9),
「STEAK HOUSE ライおン」(乙10),「ステーキハウス
牛の松阪」(乙11),「STEAK HOUSE US・6(ステー
キハウスUS・6)」(乙12),「Steak House JOY
BULL」(ステーキハウス ジョイブル)(乙13),「ステーキハ
ウス 柳鳳」(乙14)などのように,「ステーキ専門店」を表す語と\nして用いられ,上記各店舗は,例えば,「ウルフギャング」(乙15),
「ベンジャミン」(乙15),「モートンズ」(乙16),「ルースク
リス」(乙17),「アウトバック」(乙18),「ジャッキー」(乙
19),「ラ・ペイザン」(乙20),「ライおン」(乙21),「牛
の松阪」(乙22),「US・6」(乙23),「ジョイブル」(乙2
4),「柳鳳」(乙25)などのように略称される場合があること,(2)
「日本標準産業分類」(総務省,平成25年10月改定,平成26年4
月1日施行。乙30)には,「ステーキハウス」は,「飲食サービス業」
の一業態の「7629 その他の専門料理店」として例示,分類されて
いることが認められる。
上記認定事実によれば,我が国において,「STEAK HOUSE」
又は「STEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,「ステーキ
専門店」を表す語として一般に用いられていること,上記語が「ステー\nキ専門店」の店名の一部に含まれる場合には,上記語を除いて,当該店
名が略称される場合があることも普通であることが認められる。
そうすると,「STEAK HOUSE」の語が本願の指定役務中「レ
ストランにおける飲食物の提供」に使用される場合には,「レストラン」
の業態の一つである「ステーキ専門店」を表示する語として一般に認識\nされるものと認められるから,本願商標の構成中「STEAK HOU
SE」の文字部分は,自他役務を識別する標識としての機能が微弱であ\nるというべきである。
(イ) これに対し原告は,(1)「STEAK HOUSE」の文字は,「ス
テーキ専門店」の意味を有することは否定しないが,もともとは造語で
あり,我が国では,ステーキの主流は鉄板焼きステーキであり,牛肉を
グリル板や炉で焼くレストランの業態の一つの「ステーキハウス」は,
日本全国でも数えるほどしかなく,「STEAK HOUSE」の文字
は,ごく限られた店が使用しているにすぎない,(2)「STEAK HO
USE」の文字を使用する場合であっても,ANAインターコンチネン
タルホテル東京のレストラン「THE STEAKHOUSE/ ザ・ス
テーキハウス」(甲26,27)のように,「THE」と結合して全体
として特定の店名を指標する造語の成分として使用されている,(3)世界
的に有名な米国のグルメガイド「ZAGAT」(2012年(平成24
年)ニューヨーク版。甲1)のステーキハウスカテゴリーにノミネート
されている70のレストランの中で「STEAK HOUSE」の文字
を店名に含む店は原告の店舗「EMPIRE STEAK HOUSE」
のみであるなどとして,「STEAK HOUSE」の文字を役務「飲
食物の提供」の一業態を表すものとして一般に用いられているものとは\nいえない旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,前記(ア)の認定事実に照らす
と,「ステーキ専門店」において,「STEAK HOUSE」の文字
がごく限られた店が使用しているにすぎないということはできない。
また,上記(2)及び(3)の事実があるからといって,「STEAK HO
USE」(ステーキハウス)の語が「ステーキ専門店」を表す語として\n我が国において一般に用いられていることを否定すべき理由にはならな
い。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 本願商標の構成中牛の図形部分は,別紙記載のとおり,本願商標の上段\nに位置し,下段の「EMPIRE」の文字部分及び「STEAK HOU
SE」の文字部分が占める面積と同程度の面積を有し,その金色の色彩は
黒色の上記各文字部分とコントラストをなしている。
他方で,上記牛の図形部分から特定の象徴的な態様や特定のキャラクタ
―を看取できるとまではいえないこと,飲食店などの取引においては,提\n供される料理や食材などをモチーフにした図形を看板や広告などに表示す\nることは,一般的に採択されている手法であって,ステーキハウスを含む
牛肉などに関連した料理を提供する店舗においても,食材である牛の全身
又は一部をモチーフにした図形を用いることは,広く一般的に行われてい
ること(乙31ないし40)に照らすと,本願商標に接した需要者は,上
記牛の図形部分は,「STEAK HOUSE」の文字部分と相まって「ス
テーキハウス」(ステーキ専門店)で提供される食材の牛をモチーフにし
た図形という印象を受けるものと認められる。
そうすると,本願商標の構成中牛の図形部分は,本願の指定役務中「レ\nストランにおける飲食物の提供」との関係においては,自他役務を識別す
る標識としての機能が微弱であるというべきである。\n
オ 前記ア認定のとおり,本願商標中,牛の図形部分,「EMPIRE」の
文字部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分の各構成部分は,外\n観上それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識
されるものと認められるから,上記各構成部分を分離して観察することが\n取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めら
れない。
そして,前記イないしエ認定のとおり,本願商標の構成において,目に\nつきやすい中央部に配置された「EMPIRE」の文字部分は,牛の図形
部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分よりも,外観上強く印象
づける特徴を備えており,「EMPIRE」の文字部分から「エンパイア」
の称呼及び「帝国」の観念が生じること,他方で,「STEAK HOU
SE」の文字部分及び牛の図形部分は,本願の指定役務中「レストランに
おける飲食物の提供」との関係においては,自他役務を識別する標識とし
ての機能が微弱であることに鑑みると,本願商標は,「EMPIRE」の\n文字部分が,取引者及び需要者に対して上記役務の出所識別標識として強
く支配的な印象を与えるものと認められるから,本願商標から「EMPI
RE」の文字部分を要部として抽出し,これと引用商標とを比較して商標
そのものの類否を判断することは許されるというべきである。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) これに対し原告は,本願商標のうち,「EMPIRE」の文字部分及び「S
TEAK HOUSE」の文字部分は,「EMPIRE STEAK HO
USE」の全体をもって造語としての店名を構成して識別の用に供され,「帝\n国のステーキハウス」,「帝政(時代)のステーキハウス」という観念を生
じさせ,そこから高級な,並外れたステーキハウスであることがアピールさ
れているから,本願商標から「EMPIRE」の文字部分を分離して観察す
ることは不自然であることからすれば,本願商標から「EMPIRE」の文
字部分を要部として抽出することはできないから,「EMPIRE」の文字
部分と引用商標とを比較して,商標そのものの類否を判断することは許され
ない旨主張する。
しかしながら,前記(1)ウ認定のとおり,我が国において,「STEAK
HOUSE」又は「STEAKHOUSE」(ステーキハウス)の語は,「ス
テーキ専門店」を表す語として一般に用いられていること,上記語が「ステ\nーキ専門店」の店名の一部に含まれる場合には,上記語を除いて,当該店名
が略称される場合があることも普通であることに照らすと,本願商標のうち,
「EMPIRE」の文字部分及び「STEAK HOUSE」の文字部分は,
「EMPIRE STEAK HOUSE」の全体をもって造語としての店
名を構成して識別の用に供されているものと認めることはできないから,原\n告の上記主張は,その前提において理由がない。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤りについて
(1) 前記(1)の認定事実を前提に,本願商標の要部である「EMPIRE」の
文字部分と引用商標を対比すると,引用商標は,「EMPIRE」の標準文
字からなるのに対し,本願商標の「EMPIRE」の文字部分は,語頭及び
語尾の「E」の文字は当該文字部分を囲って強調するように他の文字よりも
大きく表されている点において,両者の外観は,同一とはいえないが,紛ら\nわしいものといえること,本願商標の「EMPIRE」の文字部分と引用商
標は,「エンパイア」の称呼及び「帝国」の観念が生じる点において,称呼
及び観念が同一であること,「STEAK HOUSE」の文字部分及び牛
の図形部分は,本願の指定役務中「レストランにおける飲食物の提供」との
関係においては,自他役務を識別する標識としての機能が微弱であることに\n鑑みると,本願商標全体の外観と引用商標の外観が相違することを考慮して
も,両商標が上記役務と同一又は類似の役務に使用された場合には,その役
務の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認められるから,両
商標は全体として類似しているものと認められる。したがって,本願商標は,引用商標と類似する商標である。
(2) これに対し原告は,(1)原告の店舗「EMPIRE STEAK HOU
SE」は,2010年(平成22年)に米国のニューヨークで創業された著
名なレストランであり,引用商標の登録出願当時,ニューヨークで2店舗を
営業し,年間売上げ800万米ドルを計上し,例えば,ウォールストリート
ジャーナル,ニューヨークポスト,abcニュース,CBSニューヨークな
どの著名メデイアに取り上げられて確固たる知名度を獲得し,終始一貫して
その文字の全体「EMPIRE STEAK HOUSE」をもって識別さ
れており,決して「EMPIRE」として識別されていないこと,(2)原告が
平成29年10月17日に東京都六本木に開店した店舗「EMPIRE S
TEAK HOUSE」は,大変な注目を浴びて各種のインターネット記事
(甲7ないし21)で取り上げられ,上記記事では,「EMPIRE」ある
いは「エンパイア」と呼ばれることは一切なく,「EMPIRE STEA
K HOUSE」あるいは「エンパイアステーキハウス」と呼ばれており,
また,上記店舗は,「客単価」1万円を越える敷居の高い高級店であり,客
は,飛び込みで来店することはなく,事前に店舗のことを調べ予約してから\n来店することなどの取引の実情の下においては,上記店舗の店名を「EMP
IRE」あるいは「エンパイア」と誤解することは皆無であるという取引の
実情があることを考慮すると,本願商標と引用商標は,同一又は類似の役務
に使用された場合に,当該役務の出所について混同が生じるおそれはない旨
主張する。
しかしながら,上記(1)の点は,米国所在の原告の店舗に関する事情を述べ
るものであり,我が国における取引の実情を反映したものとはいえない。
次に,上記(2)の点については,原告が挙げるインターネットの記事(甲7
ないし21)では,「NY人気ステーキハウス上陸 「エンパイアステーキ
ハウス」の実力」(「日経トレンディネット」のホームページ。甲7),「N
Yの高級ステーキ「エンパイア ステーキ ハウス」が日本初上陸! 今秋、
六本木にオープン」(「asoview! NEWS」のホームページ。甲
9)などのように,原告の六本木の店舗「EMPIRE STEAK HO
USE」が「エンパイアステーキハウス」として紹介されていることが認め
られるが,上記記事は,本願商標を直接引用して紹介したものではないから,
本願商標に接した需要者,取引者に対し与える印象等と直接結びつくものと
はいえない。
加えて,「NY発『東京ステーキ戦争』 人気店が続々出店,熟成肉が売
り」の見出しの下,「昨年には『ベンジャミン』と『エンパイア』が相次ぎ
六本木に出店した。」(2018年9月1日付けの「FujiSankei
Business i.」。乙26),「ステーキ激戦区,六本木,熱々,
本場NY発VS.日本発,家族・友達とわいわい,気分はマンハッタン。」
の見出しの下,「六本木通りを挟んで反対側には10月,『エンパイア ス
テーキ ハウス』が上陸する。…マンハッタンのエンパイアを訪れたことが
あるNY在住の…」(2017年9月18日付け「日経MJ(流通新聞)。
乙27),「六本木ステーキ戦線に異状あり!NY発『エンパイア』上陸で
混戦模様に」(2017年9月5日付け)の見出しの下,「エンパイアは,
ジャック,ジェフ,ラスのシナナジ兄弟が2010年に立ち上げたステーキ
ハウス。」,「エンパイアが提供する価値とは…店のコンセプトは,ずばり
『NYにあるエンパイアの再現』であり,『本場のNYスタイルを楽しんで
欲しい』とのこと。」(「マイナビニュース」のウェブサイト。乙28),
「六本木が『ステーキの街』に大変身した必然」(2017年10月29日
付け)の見出しの下,「六本木,芋洗坂の中腹に10月17日に開業した『エ
ンパイアステーキハウス六本木』」,「エンパイアは今回,初めてとなる海
外進出先に六本木を選んだ。」,「ウルフギャングの後に続くのは冒頭のエ
ンパイアだけではない。」(「東洋経済ONLINE」のウェブサイト。乙
29)などと記載したインターネットの記事のように,原告の六本木の店舗
は,「エンパイア」と略称で表示される例も見受けられる。\nしたがって,上記(1)及び(2)の点は,本願商標と引用商標が同一又は類似の
役務に使用された場合に,当該役務の出所について混同が生じるおそれはな
いことを基礎付ける取引の実情に当たるものと認めることはできないから,
原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2020.01. 8
令和1(行ケ)10101 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和元年12月19日 知的財産高等裁判所
「南三陸キラキラ丼」が4条1項10号、15号、19号違反の無効理由があるのかが争われました。知財高裁4部は、いずれも無しとした審決を維持しました。
前記(1)アないしウの認定事実を総合すると,(1)南三陸町飲食店組合の組
合員であるホテル及び飲食店6店舗(原告及び被告を含む。)は,平成2
1年12月から「南三陸キラキラいくら丼」の標章を使用し,イクラを中
心の食材とした南三陸産の具材を含む丼物の提供を開始した後,南三陸キ
ラキラ丼シリーズ第2弾として「南三陸キラキラ春つげ丼」の標章を使用
し,春が旬の地元の魚介類や野菜を中心の食材とした丼物の提供を,南三
陸キラキラ丼シリーズ第3弾として「南三陸キラキラうに丼」の標章を使
用し,ウニを中心の食材とした南三陸産の具材を含む丼物の提供を,南三
陸キラキラ丼シリーズ第4弾として「南三陸キラキラ秋旨丼」の標章を使
用し,地元の魚介類と米を中心の食材とした丼物の提供を,提供店を網羅
した共通のパンフレットを作成したり,共同で試食会を行うなど共同で
広告宣伝をしながら,順次行うことによって,南三陸産の具材を含む丼物
の提供を南三陸キラキラ丼シリーズとして観光キャンペーン化し,同月か
ら平成22年12月末までの約1年間で合計約4万5000食を売り上
げ,この間提供店は,6店舗から8店舗に増加したが,いずれも南三陸町
飲食店組合の組合員であったこと,(2)提供店は,共通の問合せ先を南三陸
町観光協会内の「南三陸時間旅行サポートセンター」とするなど南三陸町
観光協会から支援を受けながら,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペー
ン活動を行い,そのキャンペーン活動は,南三陸町のウェブサイト,南三
陸町観光協会作成のパンフレット,「宮城・仙台」の観光キャンペーン
のガイドブック等に掲載され,新聞等の報道や旅行雑誌等による広告宣
伝が行われ,その報道等の中には,南三陸町飲食店組合の取組として紹介
されているものが見られたこと,(3)平成23年3月11日の東日本大震災
により,南三陸町は被災し,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活
動は一時中断したが,平成24年2月25日の仮設商店街のオープンに合
わせて,南三陸町飲食店組合の組合員である同仮設商店街で営業を再開し
た店舗及び「南三陸ホテル観洋」など9店舗で,「復活 南三陸キラキラ
丼」と称して,南三陸産の具材を含む丼物の提供を行うようになり,その
キャンペーン活動が震災によって大きな被害を受けたと広く知られていた
南三陸地域の復興と関連付けて,新聞やテレビ放送等により報道されたこ
とが認められる。
上記認定事実によれば,本件商標の登録出願時(平成24年11月29
日)までに,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動及びその報道,
広告宣伝等により,南三陸キラキラ丼シリーズの丼物は南三陸産の具材を
含む丼物として知名度が高まり,南三陸キラキラ丼の標章は,本件商標の
登録出願時には,少なくとも宮城県及びその近隣県において,南三陸町飲
食店組合の組合員の取扱いに係る丼物の提供を表示するものとして,需要\n者の間に広く認識されていたことが認められる。
そして,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動は,当初は南三
陸町飲食店組合の組合員の有志の団体による取組として始まったが,南三
陸町観光協会から支援を受けて進められ,南三陸キラキラ丼シリーズの丼
物の提供店は震災の前後を通じていずれも南三陸町飲食店組合の組合員で
あったことなどから,次第に,南三陸町飲食店組合の取組として受け止め
られるようになり,遅くとも本件商標の登録出願時には,南三陸町飲食店
組合は,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動を組合の事業活動
として位置づけていたものと認められるから,本件商標の登録出願時点に
おける「南三陸キラキラ丼」の標章の使用主体は,南三陸町飲食店組合で
あったものと認めるのが相当である。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ(ア) これに対し原告は,「南三陸キラキラ丼」の標章は,「原告の発案
したキャンペーンに賛同して参加した南三陸町内のホテルや飲食店の集
まり」によって使用された結果,本件商標の登録出願時には,少なくと
も宮城県及びその近隣県において,上記南三陸町内のホテルや飲食店の
集まりの取扱いに係る丼物の提供を表すものとして周知性を獲得したも\nのであるから,上記南三陸町内のホテルや飲食店の集まりが,本件商標
の登録出願時点における「南三陸キラキラ丼」の標章の使用主体である
旨主張する。
そこで検討するに,原告の経営する「南三陸ホテル観洋」が平成21
年11月から,「南三陸キラキラいくら丼と鮑踊り焼プラン」という名
称の一泊二食付き宿泊プランの提供を開始した後に,原告を含む南三陸
町飲食店組合の組合員である6店舗が同年12月から「南三陸キラキラ
いくら丼」の提供を開始したこと(前記(1)イ(ア)),原告は,その頃か
ら本件商標の登録出願時まで,原告が運営する「南三陸ホテル観洋」の
ウェブサイト等で「南三陸キラキラ丼」シリーズのキャンペーン等に関
する広告宣伝を行ってきたこと(甲2,8,9,16,22の1ないし
3,23の1ないし19,25の1ないし5),2010年(平成22
年)5月16日付けの三陸新報(甲7)に,「好評「キラキラ丼シリー
ズ」南三陸町」の見出しの下に,「南三陸町飲食店組合の有志が地域産
食材を使って提供している「南三陸キラキラ丼シリーズが好評だ。…テ
レビ局の取材も相次いでおり,“日本一の丼のまち”を目指す取り組み
がこれからのまちづくりにどう生かされるのか。地域活性化の鍵を握っ
ている。」,「「キラキラ丼」シリーズの“火付け役”となったのは,
南三陸ホテル観洋の女将・Aさん。」などと記載した記事が掲載された
ことからすると,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペーン活動の立ち
上げ当初には,原告の積極的な関与があったことがうかがわれる。
しかしながら,これらの事実から直ちに「南三陸キラキラ丼」の標章
が本件商標の登録出願時において需要者の間で「原告の発案したキャン
ペーンに賛同して参加した南三陸町内のホテルや飲食店の集まり」の
取扱いに係る丼物の提供を表すものとして広く認識されていたものと\n認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また,原告は,関連訴訟判決が「南三陸キラキラ丼」の標章(「引
用商標2」)の使用主体として認定した「南三陸町地域を中心とする
飲食店の団体」には,「南三陸町飲食店組合」だけでなく,「南三陸
町観光協会」,「南三陸商工会」,「南三陸志津川復興名店運営組合」
等の複数の団体が存在するから,「南三陸町飲食店組合」が使用主体で
あるとした本件審決の判断は,確定した関連訴訟判決とも矛盾・抵触す
るものであって,誤りである旨主張する。
しかしながら,関連訴訟判決は,「南三陸キラキラ丼」の標章を用い
た使用主体を,その時期に応じて,第一段階から第三段階に分けて検討
し,そのいずれについても,同一の団体が使用主体である旨を認定した
ものであるが,原告が主張する複数の団体のうち,「飲食店」の団体は,
南三陸町飲食店組合のみである。
加えて,前記ア認定のとおり,南三陸キラキラ丼シリーズのキャンペ
ーン活動は,当初は南三陸町飲食店組合の組合員の有志の団体による取
組として始まったものが,そのキャンペーン活動が進められる中で,次
第に,南三陸町飲食店組合の取組として受け止められるようになり,遅
くとも本件商標の登録出願時には,南三陸町飲食店組合は,南三陸キラ
キラ丼シリーズのキャンペーン活動を組合の事業活動として位置づけて
いたものと認められるから,関連訴訟判決がいう「南三陸町地域を中心
とする飲食店の団体」は,本件商標の登録出願時点においては,南三陸
町飲食店組合を指すものとみても不合理ではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告と南三陸町飲食店組合を同一人として取り扱うのが相当であるとし
た判断の誤りについて
ア 前記(1)ア(イ)及びウの認定事実によれば,南三陸町飲食店組合は,南三
陸町の地域に住所を有し,料理店,その他飲食店の許可を受けた者を組合
員とし,組合員相互の信頼と親睦の上に経営の安定,公衆衛生の向上に努
め職域を通じて社会に奉仕することを目的とする組合であって,法人格を
有していないが,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成\n員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,代表の方法,総会の運営,\n財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものと認められる
から,権利能力のない社団(権利能\力なき社団)であることが認められる。
そして,前記(1)ウ及びエ(ウ)の認定事実によれば,(1)平成24年10月
26日開催の南三陸町飲食店組合の執行部会議において,南三陸町飲食店
組合が「南三陸キラキラ丼」の標章の商標登録を受けることの提案に関し,
南三陸商工会及び宮城県商工会連合会を通じて紹介を受けた宮城県発明協
会の担当者から,南三陸町飲食店組合は任意団体であるため,商標登録出
願は代表者個人で行うこと,出願及び登録費用などについての説明を受け,\nさらに,同年11月13日の会議において,上記担当者から,商標登録制
度の概要等について説明を受けるなどした後,同月16日の会議において,
当時の組合長であった被告個人名義で本件商標の商標登録出願を行うこと
が決められたこと,(2)被告は,同月29日,本件商標の商標登録出願をし,
平成25年5月2日,その商標登録を受けたが,その商標登録出願に際し,
本件商標が南三陸町飲食店組合の業務に係る商品又は役務に使用すること
を証明するための書類として被告と南三陸町飲食店組合との関係等を示し
た被告作成の上申書(甲32の2)及び南三陸商工会E会長作成の平成2\n4年11月28日付けの「南三陸町飲食店組合「南三陸キラキラ丼」の取
組と経緯について(ご説明)」と題する書面(甲32の3)を提出したこ
と,(3)平成25年5月17日開催の南三陸町飲食店組合の平成25年度通
常総会において,「南三陸キラキラ丼」について本件商標の商標登録が完
了したことなどの事業報告が行われ,承認されるとともに,「商標登録の
仕様基準」の作成に伴う規約の一部改正の承認の件が議案として提出され,
規約の一部改正について承認された後,同年6月4日に開催された南三陸
町飲食店組合の臨時総会において,仕様基準が承認されたこと,(4)上記仕
様基準には,本件商標について,登録名義人である組合長が退任した場合
には,新たに選任された組合長名義で登録の変更等の申請を行うことの定\nめがあることが認められる。
上記認定事実によれば,被告は,権利能力のない社団である南三陸町飲\n食店組合の代表者として,南三陸町飲食店組合のために本件商標の商標登\n録出願をし,その登録を受けたこと,南三陸町飲食店組合は,本件商標の
商標登録出願及びその商標登録について,総会の決議で承認していること
が認められるから,本件商標権は,実質的には南三陸町飲食店組合が有し
ているものと認められる。
そうすると,本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関しては,被
告と南三陸町飲食店組合とは同一人とみなして取り扱うのが相当であるか
ら,前記(2)ア認定の使用主体を南三陸町飲食店組合とする「南三陸キラキ
ラ丼」の標章は,本件商標との関係では,「他人」の「業務に係る商品若
しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又\nはこれに類似する商標」に該当するものと認めることはできない。
したがって,本件商標は,その余の点について判断するまでもなく,商
標法4条1項10号に該当しない。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,(1)商標法上,法人格を有することが商標登録を受け
るための要件とされており(7条参照),権利能力なき社団が商標登録を\n受けることは認められていないから,被告が「南三陸町飲食店組合」の組
合長であるからといって,被告個人の本件商標の商標登録の効力が,権利
能力なき社団である「南三陸町飲食店組合」の構\成員に及ぶことはあり得
ないこと,(2)本件商標の商標登録出願前に,被告の個人名義で本件商標の
商標登録出願を行うことについての総会決議や本件商標の仕様内容,使
用方法,使用できる者の範囲,企画,広報,予算などの取決めがされて\nおらず,被告は,独断で本件商標の商標登録を受け,事後的な報告をし
たというのが実態であること,(3)被告が南三陸町飲食店組合の代表者を\n退任した後においても,未だに被告個人名義で本件商標の商標権を保有
していることからすると,被告は,南三陸町飲食店組合を代表して本件商\n標の商標登録出願をし,その登録を受けたということはできず,南三陸町
飲食店組合の一構成員である被告が個人として本件商標の商標登録出願を\nし,その登録を受けたというべきである旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,商標法上,法人格を有すること
が商標登録を受けるための要件とされており,権利能力のない社団が商標\n登録を受けることは認められていないが,権利能力のない社団の意思決定\nに基づいてその代表者の個人名義で商標登録出願をし,商標登録を受け,\nその登録商標を権利能力のない社団の財産として管理することは許容され\nるものと解される。この場合,実体的には,当該登録商標の商標権は,権
利能力のない社団の構\成員全員に総有的に帰属し,実質的には,当該社団
が有しているとみることができるから,当該登録商標の商標登録の効力が,
権利能力のない社団の構\成員に及ばないとはいえず,本件商標も,これと
同様である。
次に,上記(2)の点については,本件商標については,南三陸町飲食店組
合の執行部会議等による協議を経た上で,本件商標の商標登録出願に至っ
たものであり,その商標登録後ではあるが,南三陸町飲食店組合の総会決
議で承認されていること,南三陸町飲食店組合は,本件商標の商標登録後,
総会決議で,本件商標の仕様基準を定めていることに照らすと,被告が,
独断で本件商標の商標登録を受けたということはできない。
さらに,上記(3)の点については,被告と南三陸町飲食店組合は,被告と
南三陸町飲食店組合のF組合長間の令和元年9月26日付け確認書に基づ
いて,本件訴訟が終了するまでの間,本件商標の登録名義を被告名義とし
ておくことを合意し,被告は,南三陸町飲食店組合に対し,本件訴訟終了
後,本件商標の登録名義を同訴訟終了時の同組合の組合長個人名に移転す
ることを約していること(前記(1)エ(ウ))に照らすと,被告が南三陸町
飲食店組合の組合長を退任した後に本件商標の商標権の移転登録をして
いないからといって,被告が南三陸町飲食店組合を代表して本件商標の商\n標登録出願をしたとの認定を覆すことはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
判決中の拒絶審決が維持された審取は下記です。
◆平成28(行ケ)10245
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