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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商4条1項各号

令和3(行ケ)10036  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、30類に「菓子」について、商標「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」が非類似(11号)と判断し、無効理由無しとした審決を維持しました。

ア 国語辞典の記載
本件商標と引用商標(スイートパーティー)は,「スイーツ」という部分 と「スイート」という部分が異なる。 国語辞典には,「スイーツ」という語については,「【sweets】甘いもの。 ケーキ・菓子など。」を意味するものと記載されている(広辞苑第7版,乙 2)。 他方,「スイート」という語については,「【sweet】1)甘いこと,甘口。 2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」を意味するものと記載され, 「スイート」という語を用いた語として,「−・コーン【〜corn】トウモロ コシの一品種。糖分を多く含む。−・スポット【〜spot】ゴルフのクラブ・ フェースやテニスのラケットなどの,球を最も効果的に打つことができる 点。−・ハート【〜heart】恋人(特に女性)。愛人。−・ピー【〜pea】マ メ科の蔓性観賞用一年草。シチリア島原産で,江戸時代末に渡来。葉はエ ンドウに似,先端は巻ひげとなる。桃色・白色・紫色・斑などの蝶形花を つけ,花後に莢を生じる。園芸品種が多い。ジャコウエンドウ。ジャコウ レンリソウ。−・ホーム【〜home】(特に新婚の)楽しい家庭。愛の巣。−・ ポテト【〜potato】1)サツマイモのこと。2)サツマイモで作った洋風菓子。 サツマイモを蒸して裏漉しし,砂糖・卵黄・バターなどを加えて練り,オ ーブンで焼く。」が挙げられている(広辞苑第7版,乙2)。 上記の国語辞典の記載によれば,「スイーツ」と「スイート」は別の語と して一般的に認識されており,また,「スイート」という語は,「1)甘いこ と,甘口。」の他に,「2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」などの 意味を有し,「スイートハート」,「スイートホーム」など,「甘いこと」以 外の,「愛しい」,「楽しい」の意味で用いられる例があることが一般的に認 識されているものと認められる。
イ 実際の使用例
(ア) 「スイーツ」という語の使用例
インターネット上で検索結果の多い「スイーツ」という語を含む用語 の例として「人気スイーツ」があり(検索結果:約 2,060,000 件,乙1 2),「絶対おすすめ!人気スイーツベスト 20!」,「人気スイーツをお取 り寄せ」のように使用されている(乙13,14)。また,「スイーツレ シピ」という用語(検索結果:約 1,780,000 件,乙15)は,「お手軽ス イーツレシピをご紹介」,「『本格チョコ』のスイーツレシピ特集」のよう に使用されている(乙16,17)。「スイーツ食べ放題」(検索結果:約 1,440,000 件,乙18)という用語は,「種類以上のスイーツ食べ放 題!」,「平日限定スイーツ食べ放題プラン」のように使用されている(乙 19,20)。これらの用語において,「スイーツ」という語は,「ケーキ・ 菓子など」の意味で使用されている。
(イ) 「スイート」という語の使用例
「スイート」という語が食料品との関係で使用される例としては,「ス イートワイン」,「スイートチョコレート」,「スイートチリソース」など\nがあり(乙21〜乙23),「スイート」という語は「甘い,甘口」の意 味で使用されている。
(ウ) 「スイーツ」という語と「スイート」という語が同一作成者のウェ ブページで使い分けられている例
・・・
(エ) 「スイーツパーティー」という語の使用例
・・・
(キ) 以上によれば,実際の使用例において,「スイーツ」という語と「ス イート」という語は,それらが他の語と結びつく場合も含めて区別して 使用されており,「スイーツ」という語は,「甘いもの,ケーキ・菓子な ど」の意味で使用され,他方,「スイート」という語は,「甘い,甘口」 の他,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意味で用いられているも のと認められる。そして,「スイーツパーティー」という語は,スイーツ (甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それらを食べるパーティ ーの意味で用いられている。
ウ そうすると,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を二段書きにし たものであるから,「スイーツ」(甘いもの,ケーキ・菓子など)という名 詞が強調された上で,その全体から,「スイーツパーティー」という語とし て認識され,スイーツ(甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それ らを食べるパーティーという観念を生じるものと認められる。 他方,引用商標は,「スイートパーティー」又は「SWEET PART Y」という語として認識され形容詞である「スイート」「SWEET」が必 然的に名詞の「パーティー」を修飾する関係にあるから「スイート」なパ ーティーを意味し,「スイート」という語の意味のうち,パーティーを修飾 する場合に当てはまる意味は,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意 味であるから,「甘美な,快い,愛しい,楽しいパーティー」という観念を 生じるものと認められる。
・・・・
(5) 類否の判断
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観上明確に区別できるものであ ること,本件商標と引用商標は観念において明確な差異があること,本件商 標と引用商標とは称呼において類似しているものの,その類似性の程度は高 くないことを考慮すると,本件商標と引用商標は,外観,観念,称呼等によ って取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察する場合に は,同一又は類似の商品に使用された場合に,その商品の出所につき誤認混 同を生ずるおそれはないものと認められる。 したがって,本件商標を引用商標の類似商標と解することはできないとい うべきである。
3 原告の主張の検討
(1)ア 原告は,「スイーツパーティー」という語が一般的になればなるほど「ス イートパーティー」,「SWEET PARTY」は,「スイーツパーティー」 と同じような,「甘いものを対象としたパーティー」という類似する観念で 捉えられ,観念としても非常に近い,紛らわしいものとして認識されるお それは十分に生じる旨主張する(前記第3,2(3)イ(ア))。 しかし,前記2(3)のとおり,「スイーツ」という語と「スイート」という 語は,区別して観念されており,それらが他の語と結びつく場合も含めて 区別して使用されているから,「スイーツパーティー」という語が一般的に なっても,「スイートパーティー」,「SWEET PARTY」から類似す る観念が生ずるとはいえず,原告の上記主張は,採用することができない。
イ(ア) 原告は,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが混同 を生じるか否かが問題であって,「スイーツ」という語と「スイート」と いう語の違いを強調して商標の類否を判断することは重大な誤りである 旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,前記のとおり,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を 二段書きにしたものであり,しかも名詞と名詞が結合した商標であるか ら,上段の「スイーツ」を分離して観察することが可能であること,「ス\nイーツ」,「スイート」及び「パーティー」はそれぞれ独立した意味のあ る単語であって,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」は, 「パーティー」の部分において共通し,「スイーツ」,「スイート」は,「パ ーティー」という語を修飾して,どのようなパーティーであるかを示す 部分であるから,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが 混同を生じるか否かを明らかにする上で,「スイーツ」という語と「スイ ート」という語の観念等の違いの有無を検討することは必要である。
(イ) また,原告は,「スイート」という語が「すてきな」,「楽しい」,「か わいらしい」といった意味で使用されている例は乙27以外にない旨, 食品,とりわけ菓子について「スイート」という語が用いられた場合, 味覚を表す「甘い」という意味以外の理解をし,わざわざ「甘美な」,「快\nい」という意味を認識する者はいない旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,「スイート」という語が,甘美な,愛しい,楽しいという意味 で使用された例は,乙27(前記2(3)イ(カ))の他,乙8(前記2(3)イ(ウ) d),乙24,乙26(前記2(3)イ(エ)a),乙65(前記2(3)イ(オ))に ある。また,食品,とりわけ菓子について用いられる場合でも,「スイー ト」という語により修飾される語が味覚を生ずるものでない場合は,「ス イート」という語は,甘美な,愛しい,楽しいの意味で使用されるもの と推認され,前記2(3)イ(ウ)dのとおり,菓子について,「スイートなビ ジュアルが本命チョコにお勧め!」(乙8〔2頁〕)として,「スイート」 という語が,甘美な,愛しい,楽しいの意味で用いられている例もある。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)ア 原告は,本件商標及び引用商標の指定商品の需要者は,幼児,老人を含 む大衆であり,本件商標と引用商標のカタカナ表記(外観)及び称呼は,\n同行音の近似音とされる「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけで あり,本件商標を英語表記して引用商標の英語表\記と比較しても,「S」一 文字の有無が相違するだけであるから,需要者の通常の注意力を基準とす ると,本件商標と引用商標は相紛らわしく,混同のおそれがあると主張す る(前記第3,2(4)ア)。
しかし,「スイート」,「パーティー」という語は,子供を含めて一般に広 く知られた平易な語であると認められ(弁論の全趣旨),「スイーツ」,「ス イーツパーティー」という語も,子供を対象とするゲーム,玩具,絵本に ついて用いられていることからすれば(乙62〜乙64),広く知られた平 易な語であると認められるから,難解で聞き慣れない語の中の一字(一音) が相違する場合と異なり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において, 「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけであっても,その区別は可 能であるものと認められる。そして,本件商標と引用商標とで観念が明確\nに異なることは,前記2(3)ウのとおりである。したがって,需要者を考慮 しても,本件商標と引用商標は混同のおそれがあるとは認められず,原告 の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,菓子等を製造販売する訴外会社の申し入れにより商標使用許諾\n契約を締結し,訴外会社から指摘されて本件無効審判を請求したことから, 本件商標と引用商標とが相紛らわしいことは,菓子等の製造販売業者にお いて認識されていたと主張する(前記第3,2(4)イ)。 しかし,原告と訴外会社との一契約をもって,菓子等の製造業者すべて における認識を判断することは相当ではなく,また,原告が訴外会社と商 標使用許諾契約を締結するに至った経緯や訴外会社の意図は明らかでない から,菓子等の製造販売業者において,一般に,引用商標と「スイーツパ ーティー」という商品名が商標として類似していると認識していたと認め るに足りないというべきである。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10071  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月14日  知的財産高等裁判所

 無効審判の審決取消訴訟です。争点は、商標「pum’s」がpumaと類似(11号)または混同するか(15号)です。指定商品は18類「折り畳み式傘,晴雨兼用傘,ビーチパラソル,日傘」及び第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」です。知財高裁は類似・混同しないとした審決を維持しました。\n

(1) 本件商標と引用商標の類否判断について
ア 外観
(ア) 本件商標は,「pum’s」の文字を太字の斜体の書体で表し,末尾\nの「s」の文字の下端を語頭の「p」の文字の下部まで横一直線に延伸 し,下線のように表されて構\成されている。原告は,本件商標の1文字 目と4文字目は,大文字「P」「S」と認識されると主張するが,1文 字目の左側の縦棒が下に突き出しているのは小文字であるからなのは明 らかであり,4文字目も上端が他の小文字と同じ高さに位置しているか ら,大文字とは認識されない。また,原告は,本件商標の2文字目は, 右側の縦棒がないため,大文字「U」と捉えられると主張するが,2文 字目は他の小文字と同じ大きさであって,直ちに採用できない。 一方,引用商標は,「PUmA」の文字を縦線を太く垂直に,横線を 細く描く書体で表し,各文字は,小文字である「m」も含めて,同じ高\nさで構成されている。\n両者は,語頭を含めた「pum(PUm)」の文字を共通にするが, 末尾において本件商標が小文字の「s」であるのに引用商標が大文字の 「A」であるという文字の相違,アポストロフィの有無,下線のように 表されたものの有無,書体が斜体であるか否か及び文字の横線が細いか\n否かといった点において明らかに異なり,外観においては,相紛れるお それはない。
(イ) 原告は,第3の1(1)ア(ア)cのとおり,るる主張するが,前記(ア)で 認定したとおり,本件商標と引用商標の外観上の相違は明白であり,仮 に,原告が主張する個別の点につき一定の類似が認められるとしても, そのことから,外観において相紛れるおそれがあるということはできな い。 なお,念のために判断すれば,上記c(a)については,引用商標は文字 の横線が細いことが明確であるのに対し,本件商標では縦線と横線の太 さの違いは子細に見なければ看取できず,逆に,本件商標では角部の丸 みは明確であるが,引用商標では明らかでないし,同(b)については,本 件商標が斜体であるのに対し,引用商標は各文字が垂直かつ同じ高さで, 長方形の範囲に収まって全体として整然とした印象を与えるものであっ て,両者の印象が異なることは明らかであるし,同(c)については,いず れにしても本件商標における「s」の文字の下端の延伸された部分が引 用商標との相違点として着目されないということにはならないし,同? については,相違する最後の「A」と「S」の文字が相似た文字に看取 される場合があるとは認め難いし,同(e)については,特段の意味内容を 想起させない「pum」の欧文字部分が本件商標の要部であるとは到底 いえず,原告の各主張は個別にみても採用し得ない。 そうすると,本件商標と引用商標の外観は大きく異なるものであって, 前記1の引用商標の周知著名性を勘案しても,両者の外観が類似すると の原告の主張は採用できない。
イ 称呼
(ア) 本件商標からは「パムズ」,「パムス」,「プムズ」又は「プムス」 の称呼が生じるのに対し,引用商標からは「プーマ」又は「ピューマ」 の称呼が生じ,語頭の「pu」ないし「PU」を「プ」と読んだ場合に 音を共通にする場合があるとしても,いずれも3音という短い音数にお いては,2音目及び3音目における音の相違,特に,3音目の「ズ」な いし「ス」(本件商標)と「マ」(引用商標)の相違は大きいものであ って,相紛れるおそれはない。
(イ) 原告は,前記第3の1(1)ア(イ)のとおり,本件審決が,本件商標の要 部である「PUm」の欧文字部分から生ずる「プム」の称呼と引用商標 から生ずる称呼とを対比していないと主張するが,本件商標における 「pum」の欧文字部分が要部であるという主張が到底採用できないこ とは前記アのとおりである上,仮に同部分を本件商標の要部とし,これ を「プム」と称呼し,引用商標を「プーマ」と称呼したとしても,短音 と長音の違い,「ム」と「マ」の違いは,短い標章の中では大きな差異 として認識されるものというべきである。
ウ 観念
本件商標が造語であることから,特定の観念を生じないのに対し,引用 商標が周知著名であることから,「原告のブランド」との観念を生じ,両 者は明確に区別することができ,相紛れるおそれがない。
エ その他
原告は,前記第3の1(1)ア(エ)のとおり,本件商標と引用商標の需要者 である一般消費者は,衣類や靴等に商標をワンポイントマークとして小さ く表示された場合,些細な相違点に気付かないことも多いと主張する。\nしかし,商標が小さく表示された場合をことさら取り上げることの当否\nは措くとしても,そもそも本件商標と引用商標は全体的な印象においても 明らかに異なることは前記アのとおりであり,小さく表示された場合でも,\nその相違は明白であるから,原告の主張は採用できない。 また,原告は,前記第3の1(1)ア(オ)のとおり,本件消費者調査の結果を 理由に,本件商標と引用商標の類似性を主張する。 しかし,本件消費者調査は,本件商標の登録査定時よりも後に実施され たものであること,本件商標について助成想起(本件商標の指定商品〔ス ポーツ関連用品〕の出所標識という前提〔ヒント〕を与えて自由回答形式 で聴取するもの)による質問について原告を連想した15%という数値は 大きいとはいえない上,スポーツ関連用品というヒントを与えられれば, 多少とも本件商標と共通点のあるブランドを想起しようと努めると考え られることを考慮すると,この数値すらそのまま受け取ることはできない こと,本件商標と引用商標を並べた場合に両商標が類似するという回答も, このような限界のある質問の後にされたものであることを考慮すれば,本 件商標と引用商標の類似性を裏付ける資料とはいえない。したがって,こ の点に係る原告の主張も採用し得ない。
(2) 小括
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれに おいても相紛れるおそれがなく,類似しないものと認められる。 そうすると,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品が引用商標7, 8及び10の指定商品中に含まれているとしても,本件商標は,商標法4条 1項11号に該当せず,本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)につい て
(1) 混同のおそれについて
「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程\n度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他\n人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並 びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該 商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準 として,総合的に判断すべきである。 これを本件につき検討するに,前記2において判断したとおり,本件商標 と引用商標とは,引用商標の周知著名性を勘案しても,外観,称呼及び観念 のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,その類似 性は極めて低いというべきであるから,本件商標の指定商品には「運動用特 殊衣服,運動用特殊靴」が含まれており,原告の業務に係る商品との間の関 連性や,取引者や需要者の共通性が高く,また,そのような商品はいずれも 注意力が高いとはいえない一般消費者も需要者とするものであることを考慮 しても,本件商標に接する取引者及び需要者が,原告又は引用商標を連想又 は想起することはないというべきである。これに反する原告の主張は,前記 2において判断したのと同様の理由によりいずれも採用し得ない。そうする と,本件商標は,これをその指定商品に使用をしても,その取引者及び需要 者をして,当該商品が原告の商品に係るものであると誤信させるおそれがあ るものとはいえない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10032    商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 「ヒルドプレミアム」に対して、先願「ヒルドイド」の商標権者が無効審判を請求しました(4条1項11号、15号)。審決は無効理由無しと判断し、知財高裁も同様の判断をしました。「ヒルドイド」は、医薬品として周知著名だとしても、化粧品としてはそこまではいえないというものです。

 上記事実(ア)ないし(エ)によれば,本件商標の登録出願当時,原告使用商標 は,処方薬としての原告薬剤を表示する商標として,処方薬の需要者であ\nる皮膚科の医師等の医療関係者の間において,広く知られていたものと認 められる。これに対し,化粧品としての用途が,雑誌記事に取り上げられ るなどして一般に知られるようになったのは,証拠上は平成26年以降で ある上(事実(オ)),その紹介記事の内容(別紙2)をみても,「知る人ぞ 知る」という取り上げ方をされており,その時点において既に周知著名で あったとはいえない。そして,これらの記事においては原告薬剤は処方薬 であることへの注意喚起がなされていること(事実(オ)),原告が医師等に 対して美容目的での処方をしないように啓発していること(事実(カ))も踏 まえると,本件商標の登録出願(平成30年1月29日)の時点において, 化粧品の需要者である一般消費者の間で,原告使用商標が周知著名であっ たとまではいえない。
また,事実(キ)ないし(ケ)のとおり,これらの記事が出た後に,複数の事業 者からヘパリン類似物質含有商品が相次いで販売された事実,その広報宣 伝において原告薬剤を引き合いに出すものや,名称に「ヒル」又は「ヒル ド」を含むものが多くみられる事実は,化粧品の分野におけるヘパリン類 似物質含有商品という市場自体が,原告薬剤の美容目的への流用という事 態によって成立したという経緯を反映するものではあるが(例えば甲26 の1(2018(平成30)年12月6日付け「日経doors」記事)の 「『ヒルドイド』で知られる医療用保湿剤の成分,ヘパリン類似物質を配 合した市販薬とコスメが,18年秋に相次いで登場した。背景には,化粧 品代わりに求める女性が増え,健康保険財政を圧迫するまでになったとい う事情がある。」との記載),そのような経緯があるからといって,医療 用医薬品である原告薬剤の名称としての原告使用商標が,化粧品の分野に おいて周知著名性を獲得していたことになるものではない。
なお,本件アンケートにおいてヒルドイドの「認知度」が5割ないし6 割にのぼっていた(事実(コ))としても,これらの「認知度」は,皮膚の乾 燥に起因すると考えられるトラブルを抱えて何らかの皮膚薬を最近になっ て使用していた者の間でのものであるから(事実(コ)のa),原告薬剤が処 方薬の分野で5割以上の高い市場占有率を得ていること(事実(ウ))に照ら して,本件アンケートにおける「認知度」が高くなることはある程度必然 的であり,化粧品の分野における一般消費者の間での周知著名性を明らか にするものではない。
ウ 原告の主張について
原告は,上記アの各事実に基づき,原告使用商標が化粧品の分野におい ても本件商標の登録出願当時に周知著名性を獲得していた旨主張するが, これらの事実を前提としても周知著名性を認定するに足りないことは,上 記イで説示したとおりであるから,原告の主張は採用することができない。 また,原告は,ヘパリン類似物質を含有する一般用医薬品「ヒルマイル ド」につき,原告薬剤を想起している需要者が多数いること(別紙4)や, 「あのヒルドイドが店頭で新発売!」といううたい文句で販売されている ことからも,原告使用商標が広く知られている実態を見て取れる旨主張す るが,そもそも「ヒルマイルド」は被告の販売する商品ではないばかりか, 「ヒルマイルド」は「ヒル」の文字の後に「イ」の文字を含み,「ド」の 文字で終始する点において,原告使用商標との類似性は本件商標よりも更 に高いから需要者に原告薬剤を想起させたとも考えられるところであるし, 「あのヒルドイドが店頭で新発売」という文言は,医療用医薬品であって 店頭では販売されない原告薬剤の代わりとなる商品が発売されたという趣 旨に理解されるから,原告の主張は,上記イの判断を左右しない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは医薬品について周知著名と認定されています。

◆令和3(行ケ)10028

◆令和3(行ケ)10029

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令和3(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月21日  知的財産高等裁判所

 商標 「HIRUDOMILD」について、引用商標1「Hirudoid」及び引用商標2「ヒルドイド」から無効か否かが争われました。審決は非類似、出所混同無し(11,15号違反無し)と判断しましたが、知財高裁は、「HIRUDO」の文字のみを抽出できるとして、審決を取り消しました。

 ア 本件商標は,「HIRUDOMILD」の10文字の標準文字で表してなるものであり,「ヒルドマイルド」の称呼が生じるものである。\nところで,本件商標が10文字からなるものでその一部のみを観察することも想 定可能な程度の長さを有していること,その構\成中の「MILD」の文字部分は, 前記1(5)のとおり,「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。」「刺激の 少ないさま。」などを意味する英単語として広く知られ,また,会話中においても日 常的に使用されており,ひとまとまりの語句として強く認識され得るものであるこ とからすると,本件商標は,「HIRUDO」の構成部分と「MILD」の構\成部分 からなる結合商標であるとみることができる。 そして,「HIRUDO」の構成部分は,我が国において周知されているものではないから一種の造語と理解され,同構\成部分に対応する和名の「ヒルド」は,前記1(1)のとおり長期間にわたって原告商品の他には薬剤の名称には使用されておら ず,薬剤の名称としてありふれたものではないことからしても,需要者に対し,商 品の出所識別標識として強い印象を与えるといえる。これに対し,「MILD」の構成部分は,前記1(5)のとおり,薬剤の分野においては,薬の効果や刺激が弱いこと を意味するものとして理解され,その和名である「マイルド」は薬のブランド名等 とともに商品名に用いられることが相当程度にあるから,指定商品である薬剤との 関係において,自他識別機能は極めて弱いというべきであり,「MILD」の構\成部 分から出所識別標識としての称呼,観念が生じるとはいえない。 そうすると,本件商標については,「HIRUDO」の文字のみを抽出し,この部 分だけを引用商標と比較して類否を判断することも許されるというべきである。
イ したがって,本件商標については,「HIRUDOMILD」の外観及び「ヒ ルドマイルド」の称呼のほか,「HIRUDO」の外観及び「ヒルド」の称呼が生じ るものとして引用商標と比較することが相当である。なお,「HIRUDO」は特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,本件商標からは特定の観念を生じな いというべきである。もっとも,上記1(5)からすれば,「HIRUDOMILD」 が薬剤に使用された場合には,「薬効又は刺激が弱い『HIRUDO』」という観念 が生じ得ると認めるのが相当である。
(2) 引用商標について
ア 引用商標1は,「Hirudoid」の8文字のアルファベットからなるもの であり,「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
イ 引用商標2は,「ヒルドイド」の5文字の片仮名からなるもので,「ヒルドイ ド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定の意味合いを有し ない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
4 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否について検討する。
(1) 本件商標の指定商品は「薬剤」であり,引用商標1の指定商品は「薬剤(蚊 取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。)」を 含むものであって,その指定商品は同一又は類似である。
(2)ア 本件商標は,その10文字中,7文字目の「M」,9文字目の「L」を除 く「HIRUDO(Hirudo)」「I(i)」「D(d)」の8文字が,引用商標1と大文字と小文字の差はあるものの共通し,その並び順も同じである。次に,称呼 についてみると,本件商標と引用商標1は,「ヒルド」「イ」「ド」の5つの構成音が共通し,その並び順も同じであり,本件商標の方が引用商標1よりも「マ」と「ル」\nの2音多いものの,印象の強い語頭の3音と語尾の1音が同じである。そして,前 記3(1)のとおり,本件商標は,薬剤に使用された場合,「薬効又は刺激が弱いHI RUDO」を連想させるものである。 イ 本件商標の「HIRUDO」の構成部分と引用商標1を比較すると,大文字と小文字の差はあるものの,その6文字全てが引用商標1の冒頭6文字と共通し,\nその3つの構成音全てと引用商標1の語頭の3つの構\成音が共通する。「HIRU DO」及び引用商標1はいずれも特定の意味を有しない造語であり,それ自体から 特定の観念は生じない。
(3) 原告商品は医療用医薬品であるものの,その需要者は医療関係者に限られる ものではなく,その最終需要者は患者である上に,前記1(2)のように,記事やオン ラインショップ等で,市販品であるヘパリン類似物質含有製剤について「『ヒルドイ ド』で知られる医療用保湿剤の成分」を配合している旨の説明がされるほどに「ヒ ルドイド」が市販品である保湿剤の購入者に知られていたと推認されることからし ても,原告使用商標が表示された原告商品の需要者には,医師等医療関係者のみならず患者も含まれるというべきである。本件商標の付された商品は存在しないもの\nの,仮に被告が主張するように医療用医薬品のみに使用されるものであったとして も上記需要者の認定を左右しない。 その上で,取引の実情について検討するに,前記1(1)及び(2)のとおり,引用商 標1を表示した原告商品が60年以上にわたり販売されていること,原告が原告商品について一定の宣伝活動を継続していること,平成29年度には原告商品が医療\n用医薬品の年間売上げで19位となるなど非常に高い売上げを有していること,平 成26年度から平成30年度までの間のヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻 止剤の分野における原告商品の売上占有率は,徐々に減少しているものの全期間を 通じて金額にして7割,数量にしても5割を超えていたこと,平成29年頃には, アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして 女性誌等でも取り上げられ,美容目的で処方を受ける例があることが疑われるなど として問題視されるまでになっていたこと,原告が適正な処方をするよう注意喚起 した後に,原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部 外品)が複数販売されるようになり,製造者や販売店が,「ヒルドイドで有名な『ヘ パリン類似物質』を配合」などと説明するなどしていたこと及び令和3年2月から 同年3月に実施されたアンケートによると乾燥肌等に対する皮膚薬を使用又は1年 以内に使用した者の44%が「ヒルドイド」を保湿剤であると認識していたことか らすると,平成29年頃までには,需要者の相当割合の者が,「ヒルドイド」という 造語及びこれに対応する欧文字の「Hirudoid」から,「ヘパリン類似物質を 配合した保湿剤」である原告商品を想起するものと認められ,長期間をかけて形成 されたこの状況は,本件商標の出願日及び本件査定日においても継続していたもの と認めるのが相当である。 また,昭和51年から平成11年まで販売されていた「ヒルドシン」を除けば, 語頭に「ヒルド」や「HIRUDO(Hirudo)」が付された薬剤は原告商品の みであったこと,原告が原告商品について適正な処方をするよう注意喚起した後に, 原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複 数販売されるようになり,そのうち医薬部外品の一つは語頭に「ヒルド」を用いて おり,一部の購入者が原告商品の市販品であると誤解して購入するなどしていたこ と等に照らすと,本件商標の出願日及び本件査定日時点において,需要者の間では, 「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は,「ヒルドイド」及び「H IRUDOID」を意味する単語として認識されており,「ヒルド」に対応する欧文 字の「Hirudo」は「Hirudoid」を意味するものと認識されていたと 認めるのが相当であるから,「HIRUDO」と引用商標1は,いずれも「ヘパリン 類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ,観 念を共通とするものと認められる。
(4) 被告の主張について
被告は,「○○」と「○○MILD」の両方が商標登録されている例が複数ある旨 指摘するが,これらの登録例は,同一権利者による商標出願に係るものか,指定商 品が異なるか,「○○」の部分が「PRECIOUS」など特定の意味を有する単語 であるなどしていて,本件とは事案が異なる(乙1)。また,「ウフェナ」の文字を 標準文字で表してなる商標が,「ウフェナマイルド」の文字と「UFENAMILD」の文字を上下二段に表\してなる構成の引用商標と類似しないと判断した審決例(乙\n2)があるが,当該引用商標の構成が本件商標及び本件の引用商標とは異なる上,同審決においては取引の実情が考慮されていないなど本件とは事案が異なるもので\nある。 次に,被告は,語頭に「ヒルド」を付す名称の薬剤は原告商品のみではない旨主 張するが,「ヒルド」を語頭に付した名称の商品が原告商品の他に複数販売されてい る状況が長期間にわたり継続するなどして「HIRUDO」の構成部分の出所識別機能\が失われたとまで認めるべき事情はないから,これらの商品の存在は,本件商標と引用商標1の類否の判断に影響しない。
(5) 上記を総合すると,本件商標と引用商標1は,指定商品が同一で,外観,観 念,称呼に共通している部分があり,同一又は類似の商品に使用された場合に,商 品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというほかないから,両商標は類似 すると認めるのが相当である。

◆判決本文
関連事件です。商標がカタカナ表記です。

◆令和3(行ケ)10028
関連事件です。

◆令和3(行ケ)10032

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令和2(行ケ)10126  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 音商標「マツモトキヨシ」について、商標法4条1項8号に該当するとした拒絶審決が取り消されました。

 本願商標の商標法4条1項8号該当性について
原告は,1)本願商標の出願当時,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」\nという言語的要素からなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラ ッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」又は企業名としての株式会社 マツモトキヨシ,株式会社マツモトキヨシホールディングス(原告)であっ て,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名であるとはいえないから,本願 商標を構成する「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,「マツ\nモトキヨシ」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものではない, 2)したがって,本願商標は,「他人の氏名」を含む商標であるとはいえない から,本願商標が商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断は誤 りである旨主張するので,以下において判断する。
(1)商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称 等を含む商標は,その承諾を得ているものを除き,商標登録を受けること ができないと規定した趣旨は,人は,自らの承諾なしに,その氏名,名称 等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある ものと解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日 第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ) 第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号59 5頁参照)。 このような同号の趣旨に照らせば,音商標を構成する音が,一般に人の\n氏名を指し示すものとして認識される場合には,当該音商標は,「他人の 氏名」を含む商標として,その承諾を得ているものを除き,同号により商 標登録を受けることができないと解される。 また,同号は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同\n一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在すると\nしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した 者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと\n認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識 されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む 商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(2)ア これを本願商標についてみるに,前記2の認定事実によれば,1)株式 会社マツモトキヨシが昭和62年にドラッグストア「マツモトキヨシ」 の店舗展開を開始した後,平成29年1月30日に本願の出願がされる までの約30年以上にわたり,株式会社マツモトキヨシ,原告及び原告 のグループ会社が,「マツモトキヨシ」の表示をドラッグストアの店名\n又は自己の企業名として継続して使用したこと,2)同年3月31日現在 で,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗数は,全国45都道府県 で1555店舗,原告のグループ会社のメンバーズカード(ポイントカ ード)の会員数は約2440万人に達しており,また,「マツモトキヨ シ」のブランドは,インターブランド社による2016年度及び201 7年度のブランド価値評価ランキングでドラッグストアとして日本で ナンバーワンブランドの評価を獲得したこと,3)平成8年から開始され たドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルでは,女性 又は男性の声の音色,複数の声の斉唱で本願商標と同一又は類似の音を フレーズに含むコマーシャルソングが相当数使用され,テレビコマーシ\nャルが放映された以降においても,本願商標と同一又は類似の音がドラ ッグストア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用されて いたことが認められる。 これらの認定事実によれば,本願商標に関する取引の実情として,「マ ツモトキヨシ」の表示は,本願商標の出願当時(出願日平成29年1月\n30日),ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名や株式会社マツモ トキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものとして全国的に著名 であったこと,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む本願商標と 同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグストア「マツモ トキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く\n知られていたことが認められる。
イ 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願 日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中\nの「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含 む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(3)ア これに対し被告は,1)ウェブサイト(乙4ないし7)には,原告とは 他人の「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の氏名表示のひとつと\nして,「マツモトキヨシ」の片仮名が表記されており,かつ,これらの\n者は,現存していると推認できること,各地域のハローページ(乙8な いし19)には,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名として,原告 とは他人の「松本清」,「松本潔」等が掲載されており,かつ,これら の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで存在している者で あると推認できること,氏名を片仮名表記することは,各種の商取引に\nおいて,社会一般に行われていること(乙20ないし28)からすると, 本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,\n「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」 等の人の氏名を容易に連想,想起させるものであり,「マツモトキヨシ」 と読まれる人の氏名として客観的に把握されるものである,2)原告の提 出に係るテレビコマーシャルに関する証拠からは,当該テレビコマーシ ャルの規模が明らかでなく,平成19年以降の放映も確認できないから, 当該テレビコマーシャルが本願商標の音を聞いた者の認識に与える影 響は限定的であること,当該テレビコマーシャルを視聴した者は,視覚 的要素とともに「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を聴取,把 握し,記憶するものといえるので,当該テレビコマーシャルは,本願商 標に接した者が,「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を,マツ モトを姓とし,キヨシを名とする人の氏名であると認識することなく, 店舗名又は企業名としてのみ認識することの根拠たり得ないこと,原告 の挙げるブランド価値ランキングは,本願商標の音を聞いた者の認識を 直接反映したものとはいい難く,このほか,「マツモトキヨシ」という 言語的要素からなる音がドラッグストアの店名又は企業名としてのみ 認識されることを裏付ける証拠はないことからすると,1)のとおり,上 記言語的要素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」, 「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名として客観的に把握されること を否定することはできないとして,本願商標は,商標法4条1項8号の 「他人の氏名」を含む商標に当たる旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,「マツモトキヨシ」の表\n示は,本願商標の出願当時,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名 や株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものと して全国的に著名であり,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む 本願商標と同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ド ラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)\nとして広く知られていたという取引の実情を踏まえると,本願商標に接 した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素か\nらなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラッグストアの店 名としての「マツモトキヨシ」,企業名としての株式会社マツモトキヨ シ又は原告のグループ企業であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読 まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想 起するものと認められない。
また,甲43によれば,上記テレビコマーシャルの規模は首都圏を中心 にドラッグストア「マツモトキヨシ」の出店のある全国の地域に及んでい たことが認められる上,上記テレビコマーシャルの放映後も,上記テレビ コマーシャルで使用された本願商標と同一又は類似の音がドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内で使用されていたものと認めら れるから,当該テレビコマーシャルが本願商標を聞いた者の認識に与える 影響が限定的であるということはできないし,上記テレビコマーシャルが 視覚的要素を伴うことも,上記認定を左右するものではない。 さらに,前記(1)で説示したとおり,同号は,出願人の商標登録を受 ける利益と他人の氏名,名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定 であり,当該音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識されない場合 にまで,他人の氏名に係る人格的利益を常に優先させることを規定したも のと解することはできないことに鑑みると,本願商標に接した者が,「マツ モトキヨシ」の言語的要素からなる音をドラッグストアの店名又は企業名 としてのみ認識することがない以上は,本願商標が同号の「他人の氏名」 を含む商標に該当するとの解釈は妥当とはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 次に,被告は,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要\n素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松 本清司」等の人の氏名として客観的に把握され,本願商標は「他人の氏名」 を含む商標である以上,商標法4条1項8号の趣旨に照らせば,上記言語 的要素からなる音が,原告又は株式会社マツモトキヨシが経営するドラッ グストアを指し示すものとして一定程度知られていることや,特定の者の 略称として一定の著名性を有することは,本願商標の同号該当性を左右す るものではない旨主張する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本願商標は「他人の氏名」を 含む商標であるとはいえないから,被告の上記主張は,その前提を欠くも のであり,採用することができない。

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令和3(行ケ)10031  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月19日  知的財産高等裁判所

 本件商標 HIRUDOSOFT(標準文字)について、先行商標「Hirudoid」、商標「ヒルドイド」に対して、類似または混同が生ずるかが争われました(4条1項11号、同15号違反)。知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を維持しました。

前記2(1)のとおり,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼にお いて明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似である原 告使用商標も,本件商標とは非類似の商標であるといえる。
もっとも,本件商標が原告商標と非類似の商標であっても,その商品の 出所について混同を生じるおそれがある商標については,商標法4条1項 15号に規定する商標に当たる余地もあり得るので,以下,念のためこの 点についても検討する。
イ 前記2(1)アのとおり,本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品につ いては,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外 品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。 そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は 「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであっ て,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく, また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語 頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる 証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又 医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的 若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ようにその商品の出所について混同を生じる恐れがあるものと認めるこ とはできない。 なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品にも使用されることもあり 得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原 告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所 について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかで ある。

◆判決本文

こちらは関連事件です。「ヒルドソフト」(標準文字)と仮名表\示となった商標です。

◆令和3(行ケ)10030

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 図形と文字の結合商標について、同じ文字構成の先願既登録商標が存在するして、拒絶された審決の取消訴訟で、知財高裁は審決の判断を維持しました。本件商標は、カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と,その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分で構\成されてました。指定役務は「洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類・・・,寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽の小売など・・・」のファッション分野の小売りなどです。先行登録商標は、「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務が「帽子の小売等・・・」ですが、小売りサービスとしては同じ35K02の類似群コードが付与されています。

ア 本願商標
(ア) 本願商標は,カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と, その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分からなる。
(イ) 上記の図形は,その形状からすれば,カンガルーをモチーフとした 図形であると認識され得るものといえるが,やや抽象化された図形であ ることからすれば,同図形部分から特定の称呼や観念が生じるものとま ではいえない。また,上記の欧文字は,一般的な辞書等に掲載されてい る語ではなく,特段の図案化もされていないことからすれば,同欧文字 部分から特定の観念が生じるものとはいえない。 そうすると,上記の図形部分及び欧文字部分には観念上のつながりが あるとはいえないところ,本願商標全体の構成からすると,同各部分は,\n視覚上分離して看取されるものであって,分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,それぞれが要部として認識されるものといえる。
(ウ) そして,上記の欧文字部分についてみるに,同部分からは「KAN GOL」の欧文字に相応して「カンゴール」の称呼が生じるが,特定の 観念は生じないといえる。
イ 引用商標
引用商標は,「KANGOL」の欧文字を標準文字で表したものであると\nころ,本願商標の欧文字部分と同様に,引用商標からは「カンゴール」の 称呼が生じるが,特定の観念は生じないといえる。
ウ 類否判断 上記ア及びイを基に,本願商標の要部である「KANGOL」の欧文字 部分と引用商標とを比較すると,両者は,観念を比較することはできない ものの,欧文字のつづりが同じである上,本願商標の欧文字部分について 特段の図案化はされていないから,外観が極めて類似するものといえる。 また,両者からはいずれも「カンゴール」の称呼が生じるから,両者は称 呼を共通にするものといえる。 以上の事情を総合して全体的に考察すれば,本願商標の要部である「K ANGOL」の欧文字部分及び引用商標については,これらが同一又は類 似の商品又は役務に使用された場合には,その商品又は役務の出所につき 誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
・・・・
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。

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令和3(行ケ)10026  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 文字「S」を図形化し文字「SANKO」と結合させた商標について、先願商標「SANCO」と類似するとして拒絶審決がなされました。知財高裁も同様に類似すると判断しました。

結合商標の類否判断の方法について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるといえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) この点について,原告は,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することは,「商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」や,「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合」などの場合に限られるべきであると主張する。しかし,原告が挙げる上記の場合以外にも,「各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合」には,分離して観察することが許されると解するのが相当である。原告が引用する最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁も,このことを否定するものとは解されない。
(3) そして,以上の(2)で述べた事情などを総合的に考慮して,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することが許されるかどうかを判断することが相当であると解される。
2本願商標について
(1)本願商標は,朱色の半楕円と同色縞模様の半楕円を斜めに接するように組み合わせてなる図形を配した本願図形部分と,その右にやや図案化された「SANKO」の欧文字を本願図形部分と同様の朱色で横書きした本願文字部分からなるところ,図形と文字という構成要素の性質の違いや,本願図形部分の上部が本願文字部分の上部よりも少なからず上にはみ出す形となっていることのほか,本願文字部分については容易に「サンコ」又は「サンコー」という称呼を有する部分として理解されることからすると,本願図形部分と本願文字部分とは,外観上,明確に分離して看取されるものであるといえる。そうすると,本願図形部分及び本願文字部分について,それらの部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。
(2) 上記のとおり容易に特定の称呼を有する部分として理解される本願文字部分は,本願商標の構成の大きな部分(7割以上)を占めている。そして,「SANKO」の文字は,辞書等に載録のない語であるから,特定の観念を生じないものである。そうすると,本願文字部分は,需要者の印象に残りやすく,強い印象を与えるということができる。
(3) これに対し,本願図形部分については,その形状に照らし,称呼を有しない図形であるのか,一定の文字を図案化したものであるのか,一見して直ちに明確なものであるとはいい難いが,商標において,企業等の名称の文字の一部が図案化される例は少なからずあると解されることや,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分は,「S」を図案化したものであると理解することも可能であるといえ,その場合には本願図形部分から「エス」の称呼が生じ得る。もっとも,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分が「S」を図案化したものと理解される場合においては,本願文字部分の冒頭の「S」を取り出して特に図案化して配置したものにすぎず,本願文字部分と独立した意味を有するものではないとの理解がされることも多いものとみることができる。\n
(4)上記(1)〜(3)からすると,本願商標については,本願文字部分のみによって商標の類否を判断することも許されるということができる。したがって,本願商標は,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼が生じ,特定の観念を生じないものである。
3 引用商標1,2及び4について
(1) 証拠(乙3,5,6)によると,引用商標1,2及び4について,本件審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア),(イ)及び(エ)のとおりに認められる。
(2)引用商標1は,やや図案化された「SANCO」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。
(3)引用商標2及び4は,水色の雫を重ねたような図形を配し,その下にやや図案化された「SANCO」の欧文字を青色で横書きしてなるところ,引用商標2及び4を構成する図形部分と,「SANCO」の文字部分は,視覚上,明確に分離して看取されるものであり,それらが常に一体となって特定の観念を生じるものともいえないから,文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能\を果たすものといえる。したがって,引用商標2及び4は,その構成文字に相応して「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。4本願商標と引用商標1,2及び4の類否引用商標1,2及び4の「SANCO」の欧文字は,本願文字部分である「SANKO」と,外観の全体的な印象において近似するものであるといえる。そうすると,本願商標と引用商標1,2及び4は,文字部分の比較において,観念を比較できないとしても,その外観は近似し,いずれも「サンコー」又は「サンーコ」の称呼を共通にするものであるから,これらを総合的に勘案すると,両商標は互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
5 以上のとおり,本願商標は,引用商標1,2及び4と類似する商標であるところ,本願商標が引用商標1,2及び4の指定役務と同一又は類似する役務について使用をするものであることについては,当事者間に争いがない。よって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は認められない。

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令和3(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月30日  知的財産高等裁判所

 商標「パールアパタイト」を商品1類「化学品」、3類「化粧品,せっけん類・・・」に使用することが、品質誤認(商4条1項16号違反)に該当するかが争われました。知財高裁は、該当しないとした審決の判断を維持しました。

ア 「パールアパタイト」の語が,一般の辞書等に掲載されていることを認 めるに足りる証拠はない。 一方で,本件商標を構成する「パール」の文字部分は,「真珠」の意味\nを有するものと認められる(甲3,11,12)。
イ 原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていた旨主張するので,以下において判断 する。
(ア) 証拠(甲23ないし205(枝番のあるものは枝番を含む。特に断 りのない限り,以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。
a 株式会社サンギ(以下「サンギ」という。)は,平成5年2月,歯 を白くする美白効果のある歯磨き剤として,「薬用ハイドロキシアパ タイト」を含有する「アパガードM」を発売した。 「アパガードM」は,1995年(平成7年)に放映を開始した「芸 能人は歯が命」のキャッチコピーのテレビCMの効果等によって,ヒ\nット商品となり,1996年(平成8年)には,年間売上げが140 億円を記録した。 「アパガードM」の発売後,同年中には,歯磨き業界大手の他の事 業者(サンスター,ライオン)も,美白効果のある歯磨き剤として, 「ハイドロキシアパタイト」又は「フルオロアパタイト」を配合する 歯磨き剤を製造,販売するようになった(甲146ないし155)。 また,「アパガードM」は,FRIDAY,プレジデント,WED GE等の雑誌(甲175ないし181)において,「薬用ハイドロキ シアパタイト」配合のヒット商品として,取り上げられた。 このほか,「アパガードM」及びその後発品に関する記事が,平成 17年6月14日付けの読売新聞(甲160),平成21年9月14 日付け及び平成22年5月3日付けの日経流通新聞(甲169,17 0),同年6月5日付けの朝日新聞(甲171)や,週刊東洋経済, 日経ヘルス等の雑誌(甲182,183等)に掲載された。
b 「ハイドロキシアパタイト」の語の意義に関し,平成21年7月2 7日付けの朝日新聞(甲27)に,「ハイドロキシアパタイト」は, 「骨や歯,貝殻などの成分。人体への害が少なく,なじみやすいこと から,人工骨や人工歯根などの医用材料に使われている。」,平成2 2年5月29日付けの加藤歯科医院のウェブサイト(甲29)に,「ハ イドロキシアパタイトとはリン酸カルシウムでできた歯や骨を構成す\nる成分のことで,エナメル質は97%,象牙質の70%がハイドロキ シアパタイトで構成されています。」などと掲載された。\nまた,香粧品科学研究開発専門誌フレグランスジャーナル2008 年(平成20年)6月号(甲204)に,「ハイドロキシアパタイト (Ca10(PO4)6(OH) 2)は,リン酸カルシウムの一種であり,歯牙 や骨といった硬組織の主成分であって,化学合成品においても生体に 対する安全性の高い化合物である。・・・工業的には,・・・広範囲な用途に 利用されている。化学合成したハイドロキシアパタイトがそのような 用途に利用されるのは,生体硬組織と直接結合するといった高い生体 親和性やタンパク質,核酸および配糖体との吸着特性を有するためで ある。」(20頁右欄)などと掲載された。 さらに,日本化粧品工業連合会作成の医薬部外品の成分表示名称リ\nストにおいて,「成分名 ヒドロキシアパタイト」,「別名 ハイド ロキシアパタイト」,「本品は,主としてヒドロキシアパタイト(・・・)」 と記載されている(甲139,140)。
c 「アパタイト」の語の意義に関し,材料開発・応用専門誌「ニュー セラミックス」1990年(平成2年)7月号(甲59)に,「アパ タイトはアパタイト構造(六方晶系・・・)をもつ結晶群の総称であるか,\n単にアパタイトといった場合は最も代表的なリン酸カルシウムを意味\nすることが多い。水酸アパタイト(以下,単にアパタイトと略称する。) といえば,Ca10(PO4)6(OH)2 であり,生体アパタイトのモデル物 質である。フッ素アパタイトはCa10(PO4)6(PO4)F2 となる。」 (96頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2000 年6月第38号」(甲135)に,「アパタイトはM10(ZO4)6X2 の組 成を持つ結晶鉱物の総称であり,次の各元素が単独あるいは複数M, ZO4,Xの位置に入る。M:Ca,Ba,Sr,Mg,Na・・・,ZO4: PO4,AsO4・・・,X:F,OH,Cl・・・このようにアパタイト構造に\nは多くの種類の元素が入り得るために,さまざまな固溶体が生成する。」 (8頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2010年 2月第67号」(甲138)に,「アパタイトはカルシウムヒドロキ シアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2 :Hap)に代表される塩基性\n金属リン酸塩の一種である。」(22頁左欄)などと掲載されている。
d 応用化学,環境化学,触媒化学,生化学等の各種化学分野の文献等 において,「アパタイト」を含む用語が,ハイドロキシアパタイト(ヒ ドロキシアパタイト)のほかに,フッ化アパタイト二酸化チタン光触 媒(甲35),可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタンハーフメタ ル(甲39),水酸アパタイト(甲47,58,64,71,111), フッ素アパタイト(甲50),ハロゲン固溶アパタイト(甲53), Pb2+〜Ag+交換水酸アパタイト(甲56),フッ素アパタイト結 晶(甲60),チタンアパタイト(甲86),カルシウムヒドロキシ アパタイト粒子(甲88)などと使用されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実によれば,1)歯を白くする美白効果のある歯磨 き剤として広告宣伝された,「薬用ハイドロキシアパタイト」を含有す る「アパガードM」がヒット商品となり,新聞,雑誌等で取り上げられた 結果,「薬用ハイドロキシアパタイト」又は「ハイドロキシアパタイト」 の語は,一般消費者の間でも,歯や骨を構成する成分であることはある\n程度知られるようになったこと,2)「ハイドロキシアパタイト」は,Ca 10(PO4)6(OH)2 の化学式で表される,リン酸カルシウムの一種である\nこと,3)「アパタイト」は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称 であり,M,Z及びXには複数の種類の元素が入り得るため,特定の化 合物を指すものではなく,「ハイドロキシアパタイト」は,アパタイトの 一種(Mがカルシウム(Ca),Zがリン(P),Xが水酸基(OH)の もの)ではあるが,アパタイトそのものを意味するものではないことが 認められる。 加えて,「アパタイト」の文字は,その称呼から,英単語「appet ite」(「本能的欲望,(特に)食欲」)(甲17)又は「apati\nte」(「燐灰石。ハイドロキシアパタイト」)(甲16)に通じるもの である。
以上の認定事実に照らすと,前記(ア)の冒頭掲記の証拠(甲23ない し205)から,「アパタイト」の語が,本件商標の登録査定時におい て,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイド ロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されていたものと認めることはで きず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって,「アパタイト」 は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって,具体的な特定 の物質を表するものではなく,このことからしても「アパタイト」が特\n定の意味合いを理解させるものとはいえない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
ウ 前記ア及びイによれば,本件商標は,「真珠」の意味を有する「パール」 の文字と,特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」 の文字とからなる結合商標であり,その構成全体から,特定の意味合いを\n認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するもの\nと認めることはできない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
エ これに対し原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の 語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイ ドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されており,「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったことを考 慮すると,「パール」と「アパタイト」とが結合した「パールアパタイト」 の語から構成される本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキ\nシアパタイト)」という物質(化学物質)を想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するとい う商品の品質を表示する旨主張する。\nしかしながら,前記イで説示したとおり,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていたものと認めることはできない。 また,「パールアパタイト」の語は,一般の辞書等に掲載されていない 造語であって,具体的な特定の商品を示すことを認めるに足りる証拠はな いのみならず,「パールアパタイト」の語から,「真珠」そのものと「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」とを成分に含有する具体的な商品 を一般に想起することを認めるに足りる証拠はない。

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 本件商標:カンガルーの図形と文字「KANGOL」の結合商標で、指定役務が「織物及び寝具類、洋服の小売・・・など」です。 引用商標は「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務を第35類「帽子の小売・・など」です。知財高裁は、類似役務であるとした審決を維持しました。原告とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされていることも理由にならないと判断されています。\n

 ア 役務の内容及び取扱商品等
(ア) 本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも小売等役務であるから, 商品の品揃え,陳列,接客サービス等といった役務の提供の手段や,小 売又は卸売といった役務の提供の目的が共通するものといえる。 (イ) また,本願指定役務及び引用指定役務は,本願指定役務が主に織物, 衣服,身の回り品等を取扱商品とするのに対し,引用指定役務は帽子を 取扱商品とする点において異なるものの,いずれの取扱商品も衣類を中 心とするファッション商品であるといえるから,この範囲において取扱 商品が共通するものといえる。
(ウ) さらに,本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも衣類を中心と するファッション商品を取り扱う卸売業者又は小売業者が提供する役 務であるから,役務を提供する業種が共通するものといえる。 イ 役務の提供の場所 次の各事情によれば,本願指定役務及び引用指定役務は,それぞれの取 扱商品が,同一事業者の通信販売ウェブサイトにおいて,同一の事業者が 提供する一連の商品の一環として,あるいは同一のカテゴリーに属する一 連の商品の一環として販売されるなどしている実情があることが認めら れる。
(ア) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「NIKE」 ブランドの取扱商品として,パーカー,ティーシャツ,靴,バッグ等が, 帽子と共に掲載されている(乙1)。
・・・
(コ) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「mari mekko」ブランドの取扱商品として,クッション,靴下,ティーシ ャツ,エプロン,バッグ,財布,タオル等が,帽子と共に掲載されてい る(乙10)。
ウ 需要者の範囲
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。
(3) 小括 以上によれば,本願指定役務と引用指定役務は,役務が類似するものと認 められる。
3 原告の主張について
(1) 原告は,原告とカンゴール社との間で本件契約が締結され,その後,原告 とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされてきたこと を,現実的かつ具体的な取引の実情として重視すべきである旨主張する。 しかしながら,本件契約それ自体は,原告とカンゴール社との間における 個別の合意にすぎないから,同契約を締結した事実や,同契約に基づいて原 告が本願商標を継続的に使用している事実は,商標の類否判断において考慮 し得る一般的,恒常的な取引の実情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同 49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443 頁参照)には当たらないというべきである。 また,原告が提出する証拠(甲30ないし49)は,原告が,本願商標を 用いて衣類等を提供してきたことを裏付けるものであるとはいえても,帽 子(及びそれに係る役務)とそれ以外の衣類(及びそれに係る役務)とで, 原告が主張するような棲み分けがされ,それが需要者に認識されているこ とを認めるに足りるものではなく,むしろ,原告が,本願商標を用いて帽子 を販売している例さえ存在することが認められる。 したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,原告とカンゴール社との間においては,カンゴール社が所有す る複数の登録商標につき,帽子類以外の指定商品に係る商標権が原告に分 割移転された例等がある旨主張するが,たとえそうであるとしても,このよ うな個別的な事情によって商標法4条1項11号の適用が排除されるもの ではないと解するのが相当である。

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令和2(ネ)10060 商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。侵害被疑者は赤十\字が登録できない(商標法4条)ので、十字部分は要部ではないと争いましたが、知財高裁は侵害とした東京地裁の判決を維持しました。\n

(1) 十字部分の色彩等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,標章において色彩が類否に大きく影響すること,十字部分を有\nする標章は特に十字部分の色彩が類否に大きく影響することを前提として,\n被控訴人商標と控訴人標章1,3は外観,称呼,観念が異なり,類似しない と主張するが,控訴人の主張を採用することはできない。以下,詳述する。
ア 標章において色彩が類否に大きく影響するという控訴人の主張について 控訴人は,例えば,国旗において色彩が重要な要素であるように,標章 は,同一の文字や図形の結合等であっても,色彩の相違によって印象が異 なるものであり,現に,商標法70条1項は,色彩を登録商標と同一にす れば登録商標と同一の商標となる場合であっても,色彩が異なれば登録商 標に類似しない商標があることを前提としており,このことは,色彩以外 が同一であり色彩だけが異なっている商標が非類似になることを示して いるとし,そのため,商標の類否判断に色彩が大きく影響すると主張する。 しかし,国旗において色彩が重要な要素であるとしても,国旗の例が直 ちに商標に当てはまるものではない。また,標章において,文字や図形は 色彩に劣らず重要な要素であり,商標法70条1項が,色彩を登録商標と 同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの を,登録商標に類似の商標にとどまるとするのではなく,登録商標に含ま れるとしていることからすれば,文字や図形が同一であって色彩のみが異 なる商標は,登録商標と同一の商標と認められる場合が多いといえる。そ のため,控訴人の上記条項の理解は不適切であり,同条項に基づき,標章 において色彩のみが類否に大きく影響するということはできない。なお, 色彩が識別性等の観点から大きな意味を有しており,色彩のみが異なるこ とにより全く違う商標となってしまうような例外的な場合について商標 法70条1項が適用されないとする余地があるとしても,上記の認定は左 右されない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 十字部分を有する標章は特に十\字部分の色彩が類否に大きく影響すると いう控訴人の主張について 控訴人は,商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標\nについて商標登録を受けることができないと定めており,赤十字の標章及\nび名称等の使用の制限に関する法律1条は,白地に赤十字の標章若しくは\n赤十字の名称又はこれらに類似する記章若しくは名称をみだりに用いる\nことを禁じていること,緑と白で構成された十\字の標章は,安全標識とし て定められていることから,十字部分を有する標章においては特に十\字部 分の色彩が類否に大きく影響すると主張する。 しかし,赤十字の標章や安全標識について上記の事実があるとしても,\n赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ,十\字部分を含む商標の登 録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十\字部分の色彩 が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な 構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十\字部分を有す る標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということ\nはできず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人商標と控訴人標章1,3の類否について 控訴人は,被控訴人商標と控訴人標章1,3は,外観,称呼,観念が異 なり,類似しないと主張する。 しかし,原判決の説示するとおり(原判決9頁6行目ないし10頁10 行目),被控訴人商標と控訴人標章1は,外観が類似しており,いずれも 「ジュウジ」「クロス」などの同一の称呼及び「十字」「クロス」などの\n同一の観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標と控訴人標章 1は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両者は類似する と認められる。また,原判決の説示するとおり(原判決11頁5行目ない し12頁14行目),被控訴人商標と控訴人標章3は,外観が類似してお り,同一の称呼及び観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標 と控訴人標章3は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両 者は類似すると認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。
(2) 十字以外の部分等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,商標法4条1項1号が,国旗と同一又は類似の商標は商標登録 を受けることができないと定めていることからすると,被控訴人商標が登録 されているのは,スイス国旗と類似していないからであり,そうであるとす ると,被控訴人商標のうち,スイス国旗と似ている十字部分は要部ではなく,\n円弧からなるループ状図形が要部であるとした上で,被控訴人商標の円弧か らなるループ状図形の外周と控訴人各標章の正方形部分の外周は,形状,色 彩,観念が異なるとし,被控訴人商標の指定商品と同一又は類似の商品に使 用された控訴人各標章が外観,観念等によって取引者,需要者に与える印象, 記憶,連想等は,被控訴人商標とは全く異なるものであるから,被控訴人商 標と控訴人各標章は類似しないと主張する。 しかしながら,被控訴人商標が登録されているのは,スイス国旗と類似し ていないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち, 十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の\n比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。商標の類否は, 外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を 総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの であるところ,被控訴人商標と控訴人各標章は,いずれも十字部分と外周部\n分からなり,十字部分は被控訴人商標及び控訴人各標章の中心にあって目立\nつ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標\nと控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。そのため,十字\n部分以外の周囲の部分の比較により被控訴人商標と控訴人各標章は非類似で あるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。

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1審は東京地裁ですがなぜかアップされていません。 こちらは同商標権に対する不使用審決取消訴訟です。審決は不使用と認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しています。

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令和2(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 三つのハート形を一筆書き風に表した図形の下に欧文字「SMS」と記載した商標について、別の図形の下部に欧文字「SMS」と記載した商標と類似するとして、無効とされた審決が維持されました。本件と引用商標は判決文の末尾にあります。\n

 前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標の類否判断においては,それぞれ, 「SMS」の文字部分を抽出し,これらを対比することになり,称呼は同一となる。 また,本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」からは,特定の観念を生 じない。そして,各「SMS」の文字の外観については,本件商標と引用商標とでは,書体が異なるが,特段書体に特徴があるとはいえないから,この差異によって,両文 字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。また,本件商標の色彩は黒色である のに対し,引用商標3の色彩は青色を基調にして白色が混入している点で差異があ るが,このような差異は些細な差異であるから,この差異によって,両文字の外観 に異なる印象が生じるとはいえない。したがって,本件商標の「SMS」と引用商 標の各「SMS」とでは,外観も類似しているといえる。
・・・・
原告は,本件商標全体と引用商標全体を対比して,それらの類否判断をす べきであると主張するが,前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標は,いずれ も,外観上,「SMS」の文字部分と他の部分は明確に区別され,これらを分離して 観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認めら れないから,本件商標及び引用商標から「SMS」の文字部分を抽出して,類否判 断をすることは相当であり,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。 また,甲26のアンケートは,「SMSという言葉を聞いたことがありますか?」, 「SMSとは何か知っていますか?」,「いつごろからSMSについて知っています か?」の三つの質問について,それぞれ「ある,ない」,「知っている,知らない」, 「 年ごろから」との回答を求めるというアンケートであることが認められるとこ ろ,上記の質問内容からすると,同アンケートにおいて,SMSを知っているとの 回答があったとしても,その回答者が,「SMS」がどのような意味を有するものと 認識していたかは明らかではないから,同アンケートから,「SMS」が「ショート メッセージサービス」の略語を意味することが一般的に認識されていたと認めるこ とはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,商標の登録例を考慮すると,本件図形部分は,十分な出所識別力\nを有し,また,本件商標も十分な出所識別力を有すると主張する。\nしかし,本件図形部分や本件商標が十分な出所識別力を有することから直ちに,\n他の商標との類否判断において,本件文字部分を抽出することができないことには ならないから,原告の上記主張は理由がない。
(4) 原告は,「SMS」の文字を含む商標が商標登録された事例を挙げて,「S MS」の文字を含む商標の他の商標との類否判断においては,「SMS」の文字 と他の文字又は図形は一体不可分に判断されるべきであるなどと主張する。 しかし,前記1のとおり,商標の類否判断は,外観,観念,称呼等によって取引 者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,かつ,具体的な取引状況に基づ いて行うものであり,事案ごとの具体的な事実に基づく判断となるものであって, 「SMS」の文字を含む他の商標についての特許庁における類否判断の結果によっ て,本件訴訟における本件商標と引用商標の類否判断が左右されることはない。

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令和2(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月14日  知的財産高等裁判所

 商標「ざんまい」が「すしざんまい」と混同するかが争われました。指定商品・役務は「すし」「すしを主とする飲食物の提供」です。審決・判決とも「すしざんまい」は著名、混同する」と判断しました。

 本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書 してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。 「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の 意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標 の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざん\nまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認 識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示する ものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用にお\nいては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用す ることが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざ\nんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使 用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」 に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと 認めるのが相当である。
(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された 「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すし ざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり, このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より\nも大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」 の左下に位置し,縦書きのように記載されている。 そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,\n外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほ ど不可分的に結合しているものとはいえない。 そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用 商標1の構\成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対 し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるもの と認めるのが相当である。 しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分 及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「ス シザンマイ」の称呼が生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざ\nんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く 認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示す るものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である 「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する 「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんま い」の観念を生じるものと認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観 及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に 使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生 じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及 び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通 するものと認められる。
イ 以上のとおり,1)「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及 び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店\nの名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務 に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であ ったこと(前記2(2)ア),2)本件商標と引用商標1の要部である「すしざ んまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「す しざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の 観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),3)本件商標の指定商品であ る「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」 は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2(1)ア),販売の対象とな る商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通する ことを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用すると きは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表\示による商品化事業 を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのよ うに,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。 したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法 4条1項15号に該当するものと認められる。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,1)引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」 にいう「すし」と本件商標の指定商品「すし」とは,握り寿司等3種類を除 き,「すし」の内容が一致せず,需要者が異なる,2)「すし」の販売にいう「す し」は,弁当と同じような用途であるのに対し,「すしを主とする飲食物の提 供」にいう「すし」の提供は,すし職人と会話を楽しむといった別の要素が あり,極めて人間的であり,しかも,魚の鮮度が勝負であり,鮮度が比較的 短時間で落ちる商品を鮮度の良い状態で提供していること,回転ずしや着席 スタイルのすし店等でも,テイクアウトは行われているが,全体のごく一部 であり,特に着席スタイルのすし店は鮮度にこだわり,テイクアウトは拒否 されるのは周知の事実であることからすると,「すし」と「すしを主とする飲 食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有する とはいえない,3)原告の業態は,宅配寿司であり,ウェブサイト又は電話に よる注文を受けてから寿司を盛り,スピーディな配達をするというものであ るのに対し,被告の業態は,カウンター方式及び個室方式をとり,会食・接 待・結納などにも利用できる料亭をイメージした落ち着いた雰囲気の個室を 用意しており,テイクアウトはあくまで「お持ち帰り」としての利用であり, 原告の業態と被告の業態が相違するなどとして,本件商標の登録出願時及び 登録査定時において,本件商標をその指定商品「すし」に使用した場合,こ れに接する需要者が引用商標を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ように,その出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本 件商標が商標法4条1項15号に該当するものとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記2(1)イで説示したとおり,本件商標の 指定商品「すし」と引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の 提供」とは,需要者が異なるものと認めることはできない。 2)については,「すしを主とする飲食物の提供」の提供の場所を原告が主張 するような着席スタイルのすし店に限定すべき合理性はない。 3)については,原告が主張する原告の業態と被告の業態の相違は,本件商 標をその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を 営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,\nその出所について混同を生ずるおそれがあるとの前記(1)の判断を左右するも のではない。

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◆令和2(行ケ)10108

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令和3(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 「SMS」+図形商標から、「SMS」を分離観察できるかが、争われました。知財高裁(2部)は分離可能とした審決を維持しました。判決文の最後に本件および引用商標が掲載されています。\n

 (1) 本件商標は,別紙1のとおりであり(甲1),三つのハート形の図形を横に 重なるように並べた本件図形部分と,その下に配置された横書きにした「SMS」 のありふれた書体の欧文字(本件文字部分)とからなる商標である。 本件図形部分は,ハートの形を縁取った線を横に二つ描き,その二つのハートの 形の内側の二つの半円部分を用いて,中央部分に三つ目のハートの形を描いたもの で,一筆書きによって描くことができるようになっている。 本件図形部分及び本件文字部分のいずれにも色彩はなく,本件図形部分の高さは, 本件文字部分の高さの3倍弱であり,本件図形部分の横幅は,本件文字部分の横幅 の2倍弱である。
(2) 本件商標の上記(1)の外観からすると,本件商標においては,本件図形部分 と本件文字部分とを明確に区別することができ,それらの各部分を分離して観察す ることが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められな いから,本件商標から,本件文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して商 標の類否を判断することができるというべきである。 そして,本件文字部分からは,「エスエムエス」との称呼が生じるが,「SMS」 の語は,「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19),他に一般的な辞書に 掲載されている例があるとも認められないから,造語であると認められ,特定の観 念は生じないというべきである。
3 引用商標1及び2について
(1) 引用商標1及び2は,別紙2,3のとおりであり(甲2,3),オレンジ色 の小さな円をL字型に並べた形状と,同様の黄色のL字型の形状とを組み合わせた 正方形を45度傾けた形状の図形部分(引用1及び引用2図形部分)と,その右側 に配置された,横書きにした「SMS」の欧文字と横書きにした「Best ma tching Best value」の欧文字を上下二段に配置した部分(引用 1及び引用2文字部分)からなる商標である。 引用1及び引用2図形部分の高さは,「SMS」の文字部分の高さの2倍程度であ り,引用1及び引用2図形部分の横幅は,「SMS」の文字部分の横幅の6割程度で ある。また,「Best matching Best value」の文字部分は, 「SMS」の文字部分と同じ横幅で,「SMS」の文字部分に比較して,極めて小さ く書かれている。
(2) 引用商標1及び2の上記(1)の外観からすると,引用商標1及び2において は,引用1及び引用2図形部分と引用1及び引用2文字部分とを明確に区別するこ とができる。また,引用1及び引用2文字部分については,「SMS」の文字部分と, 「Best matching Best value」の文字部分は2段に分か れていて,大きさも顕著に異なるのであるから,両者を明確に区別することができ る。 したがって,引用商標1及び2において,「SMS」の文字部分が他の部分と分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは 認められないから,「SMS」の文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して 商標の類否を判断することができるというべきである。 そして,前記2(2)のとおり,「SMS」の文字部分からは,「エスエムエス」との 称呼が生じるが,特定の観念は生じないというべきである。
・・・・
原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。

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令和2(行ケ)10088  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 文字商標「ホームズくん」が、「ホームズ君」を含む図形商標と類似するとして拒絶されました。知財高裁は審決を維持しました。

 原告は,1)原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,2) 原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,3)不動産業界の取引 の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには 原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。こ の主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じる と主張しているものと解される。 しかしながら,証拠(甲34〜39,41)によれば,原告が,原告キャ ラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラク ターやその愛称である「ホームズくん」がそれなりの知名度を有するに至っ ていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類 似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活 動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20〜323) 等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において, 「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと\n取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成 立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告が「 ホームズくん」という愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一 定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい 本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮する ことが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高 裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消 訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 引用商標1の外観・観念・称呼について
(1) 引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,「ホームズ君」部分, 「耐震フォーラム」部分,引用図形部分から成る結合商標である。 ア 引用商標1は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分 及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているもの\nではない。そして,「ホームズ君」部分及び「耐震フォーラム」部分と引 用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異な っており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,「 ホームズ君」部分と「耐震フォーラム」部分とは,色彩が青色で統一され ており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になって いて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背 景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異な\nるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。 また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の 三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだ けの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,「ホー ムズ君」部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解 することも可能であるが,そうであるとしても,「ホームズ君」部分を要\n部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおり である。)。 したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。
イ そして,「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務 の出所識別標識としての機能を十\分に果たし得るものであるといえること, 「ホームズ君」部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ, 十分に認識可能\な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果た\nし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事 情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標1の要部として抽 出することは十分に可能\であるということができる。 他方「耐震フォーラム」部分を構成する「耐震」及び「フォーラム」は\nいずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合 した「耐震フォーラム」の語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論 会を指称するためしばしば使用されていること(乙9〜19(各種の専門 新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば「不動産に関す るセミナーの企画・運営」に用いられた場合には,「耐震フォーラム」部 分は,「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識さ せるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえな い。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が 家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にある「ホームズ君」 部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を 生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,「ホームズ君」 のイメージを視覚的に描き出したものであって,「ホームズ君」部分を補 完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を\n果たすとまで見ることはできない。 以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出した「ホームズ君 」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。

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令和2(行ケ)10104  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 商標「旬/JAPAN SHUN」について、先行商標「市場365/旬/SYUN RAKU ZEN」と類似するかが争われました。審決、知財高裁とも、分離解釈可能として類似すると判断しました。\n

 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された 場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称 呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その 具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行 ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁, 最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5 1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部 分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や, それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには, 商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同 38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成 3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5 009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷 判決・裁判集民事228号561頁参照)。 以下,上記の判断枠組みに沿って,本願商標及び引用商標の類否について検 討する。
2 原告の主張1(分離観察の可否)について
(1) 本願商標について
ア 商標の構成\n
(ア) 本願商標は,黒色の長方形図形を背景として,左側から順に,本願 漢字部分及び本願欧文字部分が配置された結合商標であり,両部分は, ほぼ同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。
(イ) 本願漢字部分は,「旬」の漢字1文字からなる。この文字は,赤色の 毛筆体で描かれており,本願欧文字部分の各文字の4倍程度の大きさで ある。また,本願漢字部分は,やや図案化されているものの,その程度 は低いといえる。
(ウ) 本願欧文字部分は,同じ幅で上下2段に配置された「JAPAN」 及び「SHuN」の欧文字からなり,これらの文字は,いずれも白色の 毛筆体で描かれている。また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分 の1程度の幅を占めている。
イ 分離観察の可否
(ア) 本願漢字部分は,漢字1文字が赤色で大きく描かれているのに対し, 本願欧文字部分は,上下2段に配置された複数の欧文字が白色で描かれ ており,両部分の文字の大きさや色彩,文字種,構成等は,明らかに異\nなるといえる。また,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,ほぼ同じ高 さで横一列に配置されてはいるものの,重なり合うことなく配置されて いる。そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,それぞれが独 立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるものとい える。 また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分の1程度の幅を占めて おり,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,本願漢字部分 は,その色彩や大きさからすれば,相応に目立つ態様で表示されている\nといえるから,本願商標に接した者は,本願欧文字部分のみならず,本 願漢字部分にも注意を引かれるものといえる。なお,黒色の背景部分は, 視覚上,特段の印象を与えるようなものではない。
(イ) また,本願漢字部分は,平易な漢字である「旬」の文字を表したも\nのであるから,同部分からは,「シュン」との称呼が生じるとともに,日 常用語として「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」等 (乙2)を意味する「旬」の観念が生じるものといえる。 他方で,本願欧文字部分は,上下2段に配置された「JAPAN」及 び「SHuN」の欧文字からなるものであるところ,平易な英語である 「JAPAN」の文字からは,「ジャパン」との称呼が生じるとともに, 「日本」の観念が生じるが,「SHuN」の文字は,外国語の成語である とは認められず,特定の意味合いを表す語であるとも認められないから,\n同文字からは,いわゆるローマ字読みによって「シュン」との称呼が生 じ得るとはいえるものの,特定の観念は生じないというべきである。そ うすると,本願欧文字部分からは,特定の観念が生じるものではないと いうべきである。
以上のとおり,本願漢字部分は,本願欧文字部分との間において,「S HuN」の文字部分と称呼が共通し得るのみであり,これ以外の部分と は,称呼の面からみても,観念の面からみても,共通するところはない から,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,統一性のある称呼又は観念 によって結び付けられているものではないというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願漢字部分及び本 願欧文字部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚 上分離して認識されるものといえる上,称呼又は観念上の関連性がある ものとはいえない。 そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,本願漢字部分のみ を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的 に結合しているものとは認められない。そして,前記のとおり,本願漢 字部分は,相応に目立つ態様で表示されているといえることからすれば,\n本件においては,本願商標から本願漢字部分を抽出し,同部分のみを他 人の商標と比較して類否を判断することが許されるというべきである。

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令和2(行ケ)10065 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「モンスターストライク」(標準文字)について、先行商標「MONSTER」(標準文字)、および「MONSTER ENERGY」(標準文字)から、無効主張をしました。審決・知財高裁とも無効理由なし(15号、7号)と判断しました。

 原告は,本件商標の登録出願時及び登録査定時までに,原告使用商標1が付された,別紙4の「モンスターエナジー」及び「モンスターエナジーアブソリュートリーゼロ」,原告使用商標4が付された「モンスターカオス」の3商品(原告商品)を発\n売したこと,原告から独占販売権を得たアサヒ飲料は,原告商品について 「モンスターエナジー」ブランドとニュースリリースで紹介していたこと, 原告商品は好調な売上げを記録し,本件商標の登録出願時までに先に我が 国においてエナジードリンクとして認知を得ていたレッドブルに次いで2 位の認知度を獲得したこと,原告及びアサヒ飲料は,新商品の発売,イベン ト等の開催に合わせて原告使用商標を付し,「モンスターエナジー」又は 「MONSTER ENERGY」の名称を付した賞品が当たる様々なキ ャンペーン活動を行ったほか,著名なアスリートを支援して,原告使用商 標が付された競技用スーツを着たアスリートが原告使用商標を付した競技 道具や車両で競技する姿を見てもらい,また,これらの動画をソーシャルメディアにアップするなどしたほか,イベントのスポンサーとなり,会場\n内に原告使用商標を付したブースを設けて,原告使用商標を付したスタッ フ等が来場者に原告使用商標を付した「モンスターエナジー」ドリンクを 無償で配布し,原告使用商標を付した車両を展示し,原告使用商標を付し た車両等を走行させるなどすることを通じて,キャンペーンの応募者,視 聴者や来場者に原告使用商標の浸透を図ったことが認められ,原告使用商 標は,原告商品を愛飲し,また,原告が支援する特定のアスリートに関心を 持ち,あるいは原告がスポンサーとなったイベント会場等に来場した一定 の需用者層には知られていたということはできる。
しかしながら,そもそも上記の認識の対象となったのは,あくまで原告 使用商標である。原告は,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を 表示するものとして需要者の間で広く認識されていた旨主張するが,原告及び原告から我が国において独占販売権を得たアサヒ飲料が本件商標の登\n録出願時及び登録査定時までに販売した「エナジードリンク」に付した商 標,エナジードリンクの販売のための広告及び販売促進活動において使用 した商標は,いずれも原告使用商標であり,少なくとも,「MONSTER」 の標準文字からなる引用商標1のみをその業務において使用したと認める に足りる証拠はない。また,前記認定事実によれば,原告(モンスターエナ ジージャパン合同会社)及びアサヒ飲料は,「MONSTER」あるいはそ の音訳「モンスター」ではなく,原告使用商標と「モンスターエナジー」又 は「MONSTER ENERGY」の名称を用いて,新商品の発売,販売 のための広告及び販売促進活動等を行っているのであり(なお,モンスタ ーエナジージャパン合同会社のウェブページには,一部「モンスターガー ル」,「モンスターファミリー」といった表記も見られるが,「モンスターエナジー ガール」,「モンスターエナジー ファミリー」の略称であると 容易に理解されるものでもあるし,いずれにしても「モンスター」ないし 「MONSTER」の文字を用いてこれらの活動を行ってきたとは認めら れない。),この点からも,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 が本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたといえないことが裏付\nけられる。したがって,この点に関する原告の主張は採用し得ない。 また,前記認定事実(1(4))によれば,エナジードリンクの主要な需要 者層は,30代から50代の男性が中心であり,10代から20代の男女 にも広がりつつあるが,1)エナジードリンクが何か分からないと回答した 人が16.1%,57.0%の人がエナジードリンクを購入して飲んだこと がないと回答し,2)エナジードリンクは,「飲んでいる人と飲んでいない人 と飲んでいない者の二極分化」しており,月に1日以上飲んでいる人で6 割を占め,「好調なエナジードリンクを支えているのは強烈なロイヤルカ スタマーに依るもの」と分析され,3)「61.9%がエナジードリンクの飲 用経験があり,5人に1人は「それを月に1回以上」飲用していることが分 かった」との調査結果があるように,エナジードリンクは,通常の清涼飲料 水のような幅広い需要者層が購入するものではないから,原告商品が,エ ナジードリンクとしてレッドブルに次いで2位の認知度を獲得し,当初の 目標を超える売上げを記録しているとしても,限られた需要者層が繰り返 し愛飲していることがうかがわれる。したがって,原告使用商標は,無効請 求商品の需要者である一般消費者に周知著名であったということはできな い。
以上によれば,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は,上記 のいずれの点においても周知著名性を認めることはできないし,原告使用 商標も,一般消費者に周知著名であったと認めることはできない。
・・・・
原告は,前記第3の2(1)のとおり,本件商標と引用商標の類似性の程度は高 く,本件商標に接した取引者及び需要者が原告及びその「MONSTER」ブラ ンドを直ちに想起,連想することは明らかであり,本件商標の使用は,原告が 「MONSTER」ブランドについて獲得した信用力,顧客吸引力にフリーラ イドするものといわざるを得ず,その経済的な価値を低下させるものであると して,本件商標は,公正な取引秩序の維持を目指す商標法の目的,国際信義の精 神に反するものであり,社会一般の道徳観念に反するものであるから,本件商 標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,商標法4条1項7 号に該当する旨主張する。
しかし,1)本件商標と原告使用商標は,外観,称呼及び観念のいずれにおいて も類似するものではないこと,2)原告使用商標はいずれも一般消費者に周知著 名とはいい難いこと,3)無効請求商品に本件商標が使用されたとしても,需要 者において,本件商標から原告使用商標を連想し,原告の業務に係る商品,原告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると,そ の商品の出所の混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないことは, 前記2のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものというほ かない。

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令和2(行ケ)10062  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「久保田メソッド(AKANON)」が、商標「久保田メソ\ッド」を含む結合商標から無効(4条1項11号違反)との審決が維持されました。

 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,「久保田メソッド(AKANON)」\nの文字を標準文字で表してなるところ,その構\成中前半部の「久保田メソッ\nド」の文字部分中,「久保田」については,ありふれた姓氏である久保田が まず想起され,「メソッド」が「方法,方式」の意味を有する英語「met\nhod」の片仮名表記であることはよく知られたことであるから,「久保田\nメソッド」の文字部分からは,「(ありふれた姓氏である)久保田という者\nによる方法,方式」といった意味合いを想起させる。また,構成中後半部の\n「(AKANON)」中の欧文字部分の「AKANON」は,辞書等に載録 されていない造語と認められ,ローマ字読みで「アカノン」と称呼されるも のの,これに類する語は想起されず,特定の観念を生じさせないものであり, 「久保田メソッド」の語と括弧内の「AKANON」の語との間に観念上の\n結び付きはない。また,文法上,「( )」(括弧)は,他の部分と区別し その中に他の部分の補充,注釈等を記入するための記号であり,通常,括弧 外の文字が主として,括弧内の文字が従として扱われることに照らせば,本 願商標が,「久保田メソッド」と括弧内の「AKANON」の語とに分離さ\nれて観察され,「久保田メソッド」が主として認識されることは明らかであ\nる。これに加えて,「久保田メソッド」が日本語表\記で先に配置されていて より目立ち,構成文字全体から生ずる「クボタメソ\ッドアカノン」の称呼が やや冗長であって,本件商標は「クボタメソッド」と略して称呼され得るこ\nと,「久保田メソッド」が明確な意味を有するのに対し,「AKANON」\nは造語であって特定の意味を有するものではないことから一般人にはなじみ にくいことも併せて考慮すると,本件商標中,「久保田メソッド」の部分が\n役務の出所識別標識として支配的な印象を与えていることは否定し難いとい うべきである。
そうすると,本件商標の構成中,その前半部に位置する「久保田メソ\ッド」 の部分は独立して自他役務の出所識別機能を果たし得るものと認められ,こ\nの部分を要部として抽出でき,本件商標は,その要部である「久保田メソッ\nド」の文字部分に相応して,「クボタメソッド」の称呼を生じ,「(ありふ\nれた姓氏である)久保田という者による方法,方式」といった観念を生ずる ものである。
・・・・
(3) 対比
本件商標と引用商標とをそれぞれ対比すると,本件商標の要部である「久 保田メソッド」の文字部分と引用商標1の要部である「久保田メソ\ード」及 び「KUBOTA METHOD」並びに引用商標2の要部である「クボタ メソッド」の文字部分とは,表\記方法が異なるのみであり,当該文字部分か ら生じる「クボタメソッド」又は「クボタメソ\ード」との称呼が共通し,又 は聞き誤りのおそれがあり,「(ありふれた姓氏である)久保田(クボタ) という者による方法,方式」の観念をいずれも共通にするものであるから, 本件商標と引用商標とは,互いに相紛れるおそれのある類似の商標であると 認められる。
そうすると,本件商標と引用商標1が本件商標の指定役務中,引用商標1 の指定役務とも類似する「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の教授, 電子出版物の提供」に使用された場合には,その役務の出所について混同が 生ずるおそれがあり,本件商標と引用商標2が本件商標の指定役務中,引用 商標2の指定役務とも類似する「乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は 開催」に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同が生じるお それがあるから,本件商標は,「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の 教授,乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供」 (本件指定役務)ついて,商標法4条1項11号に該当する。
2 原告の主張について
原告は,1)姓氏と方法,方式を意味する「メソッド」又は「メソ\ード」の文 字とを結び付けた商標は「役務の質」を表示するものであるから,「久保田」\nが「(ありふれた姓氏である)久保田」を示すものであろうと幼児教育の分野 における「A」を示すものであろうと,本件商標中の「久保田メソッド」の文\n字部分は,その指定役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を\n有しない,2)同様に引用商標1中の「久保田メソード」及び「KUBOTA M ETHOD」並びに引用商標2中の「クボタメソッド」の部分も,それら指定\n役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を有しない,3)本件商 標も,引用商標1及び引用商標2も,全体が不可分一体のものであるから要部 抽出はできない,仮に要部抽出をするとしても,要部は「久保田メソッド」,\n「久保田メソード」,「KUBOTA METHOD」又は「クボタメソッド」\nのいずれの文字部分でもない,4)そうすると,上記各部分を要部として抽出し て商標を対比し,本件商標と引用商標とが類似すると判断した本件審決の判断 は誤りである旨主張する。
しかしながら,姓氏と「メソッド」とを結び付けた商標が「ある者が発案し\nた方法,方式」の意味をも含む場合があるとしても,当該商標が「ある者によ る(実施される)方法,方式」の意味をも有すること自体は否定し難いから, 当該商標を直ちに「役務の質」のみを表示する商標であるなどということはで\nきない。そして,姓氏又は名称と「メソッド」の文字を繋げた構\成を有する相 当数の商標登録例が現に認められていること(甲97)からも明らかなとおり, たとえありふれた姓氏であるとしても,姓氏と「メソッド」とを結合した商標\nは,その構成から直ちに出所識別機能\を有さない商標といえるものでもない。 そして,本件において,「久保田メソッド」が,その姓氏を有する発案者及び\nその関係者以外の者にも広く用いられるなどした結果,需要者,取引者に,特 定の幼児教育方法としての役務の質を表示するものとのみ認識されるようにな\nっており,特定の役務の出所先を表示するものではないことをうかがわせる証\n拠もない。
したがって,「久保田メソッド」に自他役務の出所識別機能\がないとはいえ ないから,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,その余の点について 論じるまでもなく採用することができないものである。 なお,原告は,Aが自らの育児法を幼児教育現場の指導者の間で積極的に採 用させ,これを幼児教育の現場において広く実践させているから,「久保田メ ソッド」の商標的使用を制限することは不当であり,「久保田メソ\ッド」は独 占適応性に乏しい商標であるなど,るる主張する。しかしながら,その主張を 裏付けるに足りる証拠は提出されていない上,そもそも仮に,「久保田メソッ\nド」がAの考案に係る久保田メソッドの名称であるとすれば,原告に本件商標\nの商標権者の地位を保有させ,その名称の独占を認めることは,かえって不当 というべきであるから,いずれにせよ,上記主張を採用する余地はない。

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令和2(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月19日  知的財産高等裁判所

 商標「庵治石工衆」は,地域団体商標「庵治石」と出所混同する(15号)とした審決が維持されました。

 前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから 我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工 芸品となっていることが認められる。 一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採\n掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭 和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行 ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設 定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石(R)登録証」や「庵治石(R)プ レート」を発行したり,「庵治石(R)」のシールを付したりして,ブランドの 維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡 大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相 当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから, 経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載 され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。 これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件 審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品 に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者 又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,\n相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町 産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に\nおいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称 であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及\nび出所表示機能\を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字 で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性\nを有することはない旨を主張する。 しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花 崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種 同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示 すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
(1) 検討
前記2(1)のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町 産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字 部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。 そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分\nは,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」 程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構\成中の「庵 治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると, いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり, また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願 商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商 標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性 は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商 標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指 定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引 者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定 役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知 識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役 務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに 接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ\nる「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用 商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密\nな営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤 認を生じさせるおそれがあるものというべきである。 そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
(2)原告の主張について
原告は,1)取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地 域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引\n者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを 細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又 は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ れはない,2)仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務 識別機能及び出所表\示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな\nい部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると 認識させるものでない旨主張する。 しかしながら,上記1)の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」 及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部 とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記2)の主張の 前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原 告の上記主張は,採用することができない。

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令和2(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月20日  知的財産高等裁判所

 商標「KOREKARADA」(標準文字)が「ココカラダ」(標準文字)とは非類似,(11号)出所混同生じない(15号)とした審決が維持されました。

 以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において明らかに 相違することに照らすならば,本件商標から「今からだ」ほどの意味合い を連想,想起させ,引用商標から「ここ(この時点)からだ」ほどの意味 合いを連想,想起させる点で観念において類似する面があることを勘案し ても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリメント」に使用 したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認め ることはできないから,本件商標は,引用商標に類似する商標であるとい うことはできない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものとは認 められない。
エ これに対し,原告は,本件商標と引用商標は,外観は相違するが,称呼 が類似し,観念が同一であること,引用商標は,原告の業務に係る商品を 表示するものとして,需要者であるスポーツ愛好家の間に広く認識されて\nいるという取引の実情があることをも考慮して全体的に考察すれば,本件 商標と引用商標が本件商標の指定商品「サプリメント」に使用された場合f には,その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるから,本件 商標と引用商標は全体として類似している旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。 また,前記ウ認定のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼にお いて明らかに相違することに照らすならば,観念において類似する面があ ることを勘案しても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリ メント」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれが あるものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
・・・・
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(1) 本件商標の商標法4条1項15号該当性について
原告は,1)引用商標は,「ここからだ」,「まだまだ諦めない」という意味 も含有した造語であり,独創性があること,2)引用商標は,本件商標の登録 出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとし\nて,需要者であるスポーツ愛好家の間に周知であったこと,3)本件商標と引 用商標は,少なくとも称呼や観念において類似する面があること,4)引用商 標を付した原告の商品と本件商標を付した被告の商品は,商品の用途や目的, 成分,用法,販売方法等において共通し,同一又は密接な関連性を有するも のであり,需要者が共通すること,5)本件商標を付した被告の商品のパッケ ージは,原告の商品のパッケージと比べて,形状,図柄,キャッチコピーな どその外観において類似点が多く,広報プロモーション活動の方法も似通っ ていること,6)本件商標の指定商品「サプリメント」は,スポーツ愛好家が 日常的に摂取する性質の商品であり,その需要者が特別の専門的知識経験を 有する者ではないから,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど 高いものではないことを総合的に考慮すると,本件商標を上記指定商品に使 用したときは,その商品が原告の商品と誤認混同する可能性があり,本件商\n標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標 法4条1項15号に該当するから,これを否定した本件審決の判断は誤りで ある旨主張する。
しかしながら,前記1(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められず,また,前記1(2)ウ認 定のとおり,本件商標と引用商標は,観念において類似する面があるといえ るものの,外観及び称呼において明らかに相違する。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件商標をその指 定商品「サプリメント」について使用したときに,これに接する需要者がそ の商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるお それがあるものと認めることはできない。

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令和2(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 商標「AZURE」は,「AZULE」と類似するとした拒絶査定不服審判の審決取消訴訟です。争点は、「AZURE」から「アズレ」という称呼が生ずるか否かです。知財高裁は、審決と同様に、生ずるので類似すると判断しました。

(1) 本願商標は,「AZURE」の欧文字を表してなる。「azure」は,\n「空色,青空」の意味を有し,「アジュア」と発音される英単語として辞書 (乙2。ジーニアス英和辞典 第5版,2014年12月25日発行。)に掲 載されているが,中学生向け(乙2ないし6)や高校生向け(乙7)の学習書 で覚えておくべき単語として挙げられていないことはもちろん,TOEIC の制作機関が提供するボキャブラリーブック(乙8。国際的なビジネスの場 で一般的に使われる語彙を集めている。)でも取り扱われておらず,我が国に おいてその意味が広く一般に知られている語とは認められず,また,本願商 標の指定商品・指定役務の分野において,特定の意味合いを有する語として 知られているとの事情も見いだせない。そうすると,需要者から,一種の造語 として看取されることもあるものといえる。 それ自体あまり知られていない欧文字からなる商標は,一般的には,我が 国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の読み方に倣って称呼 されるとみるのが自然であるから,本願商標は,英語風の読み方に倣って「ア ジュア」の称呼を生ずるほか,ローマ字風の読み方に倣って「アズレ」の称呼 をも生ずると認めるのが相当である。
(2) 原告は,本願商標は,「pure」,「cure」,「secure」等 の語尾に「ure」を有する英単語と同様に,英語として自然な文字の並びで あることに加え,広く知られているマイクロソフト社のクラウドプラットフ\nォーム「Microsoft Azure」に使用されているように,我が国 において認知されている語といえるため,英語の読み方に倣って称呼される とみるのが自然であると主張する。 しかし,前記(1)で判断したところに照らせば,「azure」は,「pu re」,「cure」,「secure」等の英単語のように一般に知られて いるとは認められない。そして,マイクロソフト社のクラウドプラットフォ\nーム「Microsoft Azure」については,一般のビジネスにおい て幅広く使われていると認めるに足りる証拠はない上,「Azure」の称呼 も,「アジュア」のほか「アズレ」とされる場合,「アズール」とされる場合 もあり(乙9ないし14,26),大手企業が上記クラウドプラットフォーム を採用する場合に「アズール」と呼んでいる場合もある(乙10,11)。 また,イギリスの自動車のブランド「AZURE」も「アズール」と称呼さ れ(乙15ないし19),ステッドマン医学大辞典第5版(乙21,2002 年2月20日)では一群の異染性塩基性青色メチルチオニン又はフェノチア ジン色素を示す用語「azure」を「アズール」と称呼し,南山堂医学大辞 典第20版(乙22,2015年4月1日)は,「アズール」の語を,英語a zureに由来し,アズール顆粒やギムザ染色を示すものとして挙げている。 したがって,引用商標から「アジュア」の称呼のみが生じるとはいえず,原 告の主張は採用できない。

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