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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商4条1項各号

令和6(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年9月12日  知的財産高等裁判所

商標「マーくん」(標準文字)が、引用商標「Markun.」 と類似するとした審決が維持されました。、指定商品25類「野球用ユニフォーム、野球靴、運動用特殊靴、運動用特殊衣」28類「野球用具、運動用具」です。「マーくん」は特段の観念が生ぜず、また、最後のドットも「.」を「ドット」と称呼するのが一般的であるとはいえないと判断されています。

(3) 観念
ア 「マーくん」の語は、一般の辞書等に記載のある語ではない。 「マーくん」の語の意味に関して、ウィキペディアの「マーくん」の項 には、「1.プロ野球・千葉ロッテマリーンズのマスコット。」、「2.プロ 野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの投手、田中将大の愛称。」と(甲1 2)、ニコニコ大百科の「マーくん」の項に、「本記事では、日本のプロ野 球球団である『千葉ロッテマリーンズ』のマスコットについて解説。」とし た上で、「曖昧さ回避」として、「『千葉ロッテマリーンズ』のマスコット。 本項で記述。」、「『ヘタリア』の登場キャラクターであるデンマークの愛称。 →マー君」、「兵庫県出身のプロ野球選手『田中将大』の愛称『マー君』の 表記揺れ」(甲11)とそれぞれ記載されており、「マーくん」の語は、そ\nれらのとおり多義的に理解される語として認識されていることが認めら れる。
また、「マーくん」に係る千葉ロッテマリーンズのポスターについて報じ る報道(マイナビニュース)の「編集部が選ぶ関連記事」には、上記プロ 野球選手である楽天球団の田中将大投手を指す「マー君」に関連する報道 が複数(4件のうち3件)紹介されているものもある(甲222)。そして、 原告の主張に係る千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターであ る「マーくん」についても、新聞の全国紙等において、「マー君」と表記し\nて報道されている例もみられる(甲220、256〔読売新聞〕)。 これらのことは、「マーくん」といえば千葉ロッテマリーンズのキャラク ターを指すものとして広く浸透し、一般に認識されているものであれば、 容易には起こり得ないことともいえる。
これらの事情を考慮すると、「マーくん」の語は、特定の事物又は意味合 いを表すものとして一般に広く認識等されているとの事実を認めること\nはできず、本願商標からは特定の観念は生じないものというべきである。 イ 原告は、千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターに係る取引の 状況からして、本願商標からは、「千葉ロッテマリーンズのマスコットキャ ラクター」の名称(「マーくん」)の観念が生じると主張し、本願商標は観 念において引用商標と異なり、両者は類似しない旨を主張する。
しかし、「マーくん」の語から、特定の観念が生じないことについては既 に述べたとおりである。加えて、原告の提出する証拠を検討しても、「マー くん」に関連する報道における「マーくん」に係る記載は、「ロッテ球団の マスコットキャラクターのマーくん」、「千葉ロッテマリーンズのマスコッ トキャラクターのマーくん」などと、千葉ロッテマリーンズやロッテ球団 などと球団を示す語を伴って使用されていたり、「マーくん」のキャラクタ ーのイラストや着ぐるみの写真などとともに使用されているものである (甲16、18〜20、61など)。これらによれば、千葉ロッテマリーン ズの球団やそのマスコットキャラクターであることを表す語、あるいは球\n団のマスコットキャラクターの容姿(イラストや着ぐるみなど)が併記さ れていることではじめて、「マーくん」の文字が「球団のマスコットキャラ クターの名称」であると認識されるものと認められる。 また、千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラクターである「マーく ん」による、野球とは関連性が希薄な活動への参加の実績についても、千 葉県及び球団の本拠地とされる千葉マリンスタジアム(ZOZOマリンス タジアム)(乙27〜30)におけるものであって、千葉市内を中心とした 千葉県内での活動にとどまり、これらの活動を報じる各種新聞も、そのほの地域に関する記事を掲載する紙面。乙31)の記事としての掲載であり (甲38、49、52など)、ウェブサイトへの掲載も、内容のほとんどが 球団やそのマスコットキャラクターを紹介する記事であって(甲28、3 1など)、特にこれらの掲載内容が全国的に話題になったなどの事情を示 す証拠もみられないことから、千葉ロッテマリーンズに関心がない全国の 一般の消費者において、その多数がこれらの新聞記事やウェブサイトの掲 載を閲覧しているとは認め難いものである。 したがって、千葉ロッテマリーンズの公式マスコットキャラクターに関 する周知活動については、対戦相手の他球場における活動を除き、そのほ とんどは、千葉市内ないし千葉県内にとどまるものであって、その活動が 報道されている範囲についても、多くは、千葉県内ないしその周辺地域に とどまるものと認められる。
現に、千葉県佐倉市周辺等を営業エリアとする企業のブログにも、千葉 ロッテマリーンズのロゴとマスコットキャラクターの写真が掲載され、 「千葉ロッテマリーンズのマスコットに遭遇!マーくんと、リーンちゃん という名前だそうです。」(甲387の1)と記載されており、これによれ ば、千葉ロッテマリーンズのロゴとマスコット(人形)により「千葉ロッ テマリーンズのマスコット」は認識されているとしても、知っていたのは そのキャラクターであって、「マーくん」の名称であるとはいい難い上に、 そのキャラクター自体を知る主体も、千葉ロッテマリーンズに関心がある 者に限られているものと理解されるところである。 原告は、「マーくん」についての報道は、千葉県外でも広く発行される新 聞記事にも掲載されている旨を主張するが、それらも千葉県内における活 動を報じるもの(甲388)や、同県内における製品の販売を報じるもの (甲396)、キャンプでの千葉ロッテマリーンズの活動やそこに登場し たマスコットキャラクターを報道するもの(甲399)など、千葉県内関 連のニュースとして報じられているにとどまる。 したがって、本願商標から「千葉ロッテマリーンズのマスコットキャラ クター」の名称の観念が生じるとする原告の主張は採用することができない。 ウ そうすると、本件審決が本件商標から特定の観念は生じないとした認定 に誤りはない。
3 引用商標の構成等\n
(1) 外観
引用商標は、「Markun.」の文字を標準文字で表してなるものである。\n
(2) 称呼
ア 引用商標の構成中「Markun」の文字は、我が国に浸透している「M\nar」の文字を含む「マーケット」、「マーチ」、「マーブル」等の語(乙6、 7)との比較や、「kun」はローマ字読みで自然に「クン」と発音される ことからしても、「マークン」の称呼が生じるものといえる。 「Markun」の文字は、それに続く文字が省略されていることをう かがわせる事情がなく、語頭が大文字でその余は小文字であり、6文字で 構成されるその文字数や上記称呼からして完結した一語であると認めら\nれる。そして、引用商標の構成中の「.」は、その末尾に表\示されている。 これらのことから、構成中の「.」は、その位置から、アルファベットなど\nの横書の文の末尾に付する点である終止符(ピリオド)を認識させるもの(乙1)と認められる。そして、終止符(ピリオド)である「.」は、特段 の称呼を生じない。 そうすると、引用商標は、全体の構成より「マークン」の称呼が生じる\nものと認められる。
イ 原告は、引用商標の構成中の「.」を「ドット」と称呼する取引の実情が\nあるとして、これに沿う証拠を提出し、引用商標は「マークンドット」の 称呼を生ずると主張する。 しかし、既に述べたとおり、引用商標の構成からすると、構\成中の「.」 は終止符(ピリオド)を認識させ、特段の称呼を生じないものと認められ る。加えて、原告の提出する証拠は、「.」を「ドット」と読む例があると いうに止まり、「.」を「ドット」と称呼するのが一般的であることを示す ものとはいえない。むしろ、原告の提出する証拠を検討すると、「Dhya na.」ブランドについて、「メイドインジャパンのものづくりを大切にし たレディースシューズブランド『Dhyana.(ディアナドット)』」(甲342)、「R.」ブランドについて「・・・がコンセプトの『R.(アール ドット)』」(甲343)、「会社名 株式会社 be me.(ビーミードット)」(甲 356)などとわざわざ記載している例にみられるように、「ドット」を称 呼に含ませる場合には、あえてそれを表記していることからすれば、ピリ\nオドと認識される語末の「.」を、ことさら「ドット」と称呼するのは一般 的でないものと認められる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 観念
引用商標の構成中の「Markun」の文字は、一般の辞書等に載録され\nている成語とは認められず、我が国において特定の事物又は意味合いを表す\nものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないから、 そこからは特定の観念は生じない。また、ピリオドと認識される語末の「.」 も特定の観念を生じない。 したがって、引用商標は、全体として、特定の観念を生じないものと認め られる。
4 本願商標と引用商標の類否について
(1) 外観の比較
本願商標と引用商標とは、外観において、本願商標は片仮名と平仮名とか らなる構成であるのに対し、引用商標は語頭の大文字及びその余の小文字の\n欧文字並びに記号からなる構成であり、文字種を異にする点で異なるととも\nに、引用商標の末尾に位置する「.」(ピリオド)の有無において相違する。 しかし、「DUMMY−KUN」と「ダミーくん」を並記する例(乙8)、「ルイザちゃん」と「RUIZAちゃん」を並記する例(乙9)などにみら れるごとく、商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で、文字種を相互\nに変換して表記することは一般的に行われており、「マークン」、「まーくん」、\n及び「マーくん」の店舗名を、それぞれ「MARKUN」、「マークン/Ma rkun」、「Markun」などと変換して表記する(乙10〜12)など\nの取引の実情もあることが認められるところである。 そうすると、本願商標と引用商標は、いずれも標準文字で表されてなるこ\nとから、両者における上記文字種の相違は、取引者、需要者に対し、出所識 別標識としての外観上の顕著な差異として、強い印象を与えるとはいい難い ものというべきである。 引用商標の構成中の「.」(ピリオド)についても、末尾に位置しており、\n他の構成文字に比べてもかなり小さく表\記されていることからすると、外観 上の顕著な差異として特に印象的なものとはいえないというべきである。

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令和6(行ケ)10025 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

有名なランプシェードの立体商標について、当該商品を販売している会社が取得しました。これについて、当該商品のデザイナーの盗用であるとして、公序良俗違反、周知性違反を理由に無効主張をしました。審決・判決とも無効理由なしと判断しました。

1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。\n
(2) まず、原告は、被告が A 又はその相続人から本件商標に係る商 品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問 題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁 じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同 法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権 との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべき である。 A の相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契 約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない (蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及 び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。
(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であること が広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されていると ころ、被告と A 又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権 について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生 じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告による A のデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎ ない事案といわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとし た本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件商標は、 A の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張\nする。 しかし、原告は、本件商標が「 A の」業務に係る商品を表示するものであることを表\示するものとして周知であることを示す具体的な立証をしない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が A であることを示す証拠はあるが、業務の主体が A であることを 示すものではない。
(2) 原告は、 A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が 有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、 立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主 張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上 記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとお りである。)。
(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないと した本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

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令和6(行ケ)10030 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年9月11日  知的財産高等裁判所

商標「遠隔シャンパン」が商標法4条1項7号に該当するとした審決が維持されました。指定商品・役務は、審査段階では、35類「酒類の小売」、42類「プログラムの提供」もありましたが、審判請求時に9類「コンピュータプログラム」のみに限定しています。

(1) 原告は、「遠隔シャンパン」の語は、キャバレークラブ、ホストクラブな どの特定の店舗のキャスト(接待するスタッフ等)等に対して、ゲストが実 際に店舗に来店しなくても、シャンパン等をプレゼントとして贈る行為を意 味し、著名な「シャンパン」とは意味合いが異なると主張する。 しかし、原告提出の証拠(原告が提供するアプリケーションを紹介するウ ェブサイト(甲3)、検索エンジンにおける「遠隔シャンパン」の検索結果 (甲4))によっても、「遠隔シャンパン」が原告の主張する意味で用いら れる例があることは認められるが、一般的に認識されているとまでは認めら れないし、生産地域、製造方法や品質等が厳格に管理された発泡性ぶどう酒 のみに使用することができるものとしてフランスで組織的に管理されてきた 著名な「シャンパン」の名称を、それ以外の商品や役務を示す名称の一部と して利用していることに変わりはない。原告主張の「遠隔シャンパン」の意 味自体、著名性かつ顧客吸引力を有する「シャンパン」の存在を前提とする ものと解され、本願商標の構成からは、「エンカクシャンパン」以外に、カ\nタカナ部分に基づき「シャンパン」の称呼及び概念が生ずることを否定する ことはできない。 原告は、いわゆる夜の接客業において「シャンパン」という言葉には「祝 杯や祝福の象徴」という意味合いがあり、単に酒類の名称を意味するもので はないとも主張するが、原告が提出したインターネット記事(甲5)は、酒類である「シャンパン」が「祝杯や祝福の象徴とされ」ると説明しているに すぎない。その他、原告の主張を裏付ける証拠はない。
(2) 原告は、「シャンパン」の文字を含む登録商標がなお存在し、フランスの 関係機関等からの無効審判請求等がない時点において、国際信義に反すると 評価することは、抽象的な危険を理由に私人の事業活動を著しく制限するも のとなり、産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反すると主張する。 しかし、前記1の認定判断は、現時点で「シャンパン」の文字を含む登録 商標がほかに存在することや、(商標登録前であるから当然であるが)本願 商標についてフランスの関係機関等から未だ登録異議の申立てや、無効審判\n請求等がなされていないことによって左右されるものではないから、原告の 主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10128等  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年8月8日  知的財産高等裁判所

 元ライセンシーが行った商標権の取得について、一部は公序良俗違反(4条1項7号)と判断されました。A〜C事件は、商標登録を無効とした審決の各取消訴訟であり、D〜G事件は、商標登録無効審判請求を不成立とした審決の各取消訴訟です。

ア 以上のとおり、被告は、平成26年頃、サクラグループに対して本件ライセ ンス契約の解除を求め、令和2年頃には、本件ライセンス契約終了後はサクラグル ープとライセンスビジネスを継続する意思がないことを示し、全ての商標権の返還 を求めるなどした。これに対し、原告は、サクラグループから本件商標D〜Gに係 る商標権の移転を受けて、本件ライセンス契約の最終盤期である令和2年頃から、 日本、韓国、中国、台湾等で、「Mark Gonzales」、「(what it isNt)」等の文字列やエンジェルのデザインを含む商標の登録出願を多数行い、本件ライセンス契約が終 了したことが明白である令和4年1月1日以降も、ライセンシーを通じて「Mark Gonzales」やエンジェルが付された商品を販売等している。しかし、上記にみたと おり、原告は、MPSA契約によってエンジェル1、2及び本件サインの著作権を 取得したとはいえないし、本件ライセンス契約は事実上MPSA契約の内容を更改 することを含むものである。仮にMPSA契約がいまだ有効であるとしても、同契 約上、原告に許容されているのは本件アルバムの宣伝目的で、かつ、Tシャツ等へ のカバーアートの複製と被告等の氏名の使用にとどまっているのに、原告が現在行 っている「(what it isNt)」ブランドの展開は、本件アルバムの宣伝目的の範囲内や、カバーアートの複製の範囲を越えるものである。しかも、原告は、本件ライセ ンス契約の終了後、被告が自ら展開する日本国内のサブライセンシーや販売店に警 告書を送付するなどして、被告のブランド展開を阻止しようとしている。
このような令和2年以降の原告の動きからすると、原告は、本件商標A〜Cを出 願した時点(令和2年12月26日及び令和3年6月30日)において、原告等と 被告との紛争が顕在化し、本件ライセンス契約が終了した後はエンジェル1、2や 被告の名称が使用できなくなることを十分了知しながら、これらの商標の登録を得\nた後は、商標権に基づき、被告が自ら日本国内で展開するエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品の販売等の差止めを求めるなどして、原告等以外の 者がこれらの商品を販売することを妨害、阻止する不正の目的、意図を有していた と認められる。
そうすると、このような原告の本件商標A〜Cの登録出願は、商標登録出願について先願主義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護するこ とにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に 寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)に反 し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条 理上も許されないというべきであるから、本件商標A〜Cは、商標法4条1項7号 の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきで ある。
イ 原告は、MPSA契約により原告がエンジェル1、2及び本件サインの著作 権を取得したと主張するが、同主張が採用できないことは前記(1)イのとおりであ る。
原告は、エンジェル1、2及び本件サインには本件ライセンス契約が適用されな いと主張し、その理由として、1)本件アルバム制作時と本件ライセンス契約の先後 関係、2)原告とサクラグループが別法人であること、3)被告はエンジェル1、2及 び本件サインについて100%の著作権を有していないこと等を挙げる。しかし、 1)につき、既に制作されたデザイン等を後に契約の対象とすることはあり得ること であり、契約が遅れてされたからといって対象に含まれないということにはならな い。2)につき、サクラグループの代表者が原告代表\者の妻であること、原告代表者\nが本件ライセンス契約の締結に関与していることは原告自らが認めていること(原 告代表者の陳述書(甲156))、サクラグループと原告とは、互いに本件商標D〜\nGの移転を繰り返しており、被告に関するビジネスの関係では一体的に活動してい るとみられることから、原告が、形式的にサクラグループと別法人であることを理由に、本件ライセンス契約上の義務等を免れようとすることは、信義則上、許され ないというべきである。3)につき、MPSA契約によりエンジェル1、2及び本件 サインの著作権が原告に移転していないことは前記のとおりであり、原告が提出す る他の証拠等によっても、本件ライセンス契約時に、被告が、エンジェル1、2及 び本件サインの使用を許諾する権限がなかったとは認められない。
原告は、本件商標Aについて、有効に存続する既存の商標の組合せにすぎないか ら、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くということはあり得ないと主張する。 しかし、構成自体は既存の商標の組合せであっても、前記のとおり、原告は、不正\nな目的、意図をもって登録出願しているといえるから、同主張は採用できない。
原告は、契約の解釈の相違や権利関係の紛争等の私的領域の問題は、商標法4条 1項7号該当性の判断に際しては考慮されるべき事項ではないと主張する。しかし、 本件商標A〜Cに関していえば、前記のとおり、原告は、原告等と被告との紛争が 顕在化してから、本件ライセンス契約の終了を間近に控えていることを了知しなが ら、契約終了後も原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた 商品を販売することを妨害、阻止する意図をもって登録出願したといえるのであっ て、このような登録出願を新たに許容することは、商標制度について無用の混乱をもたらし、社会公共の利益にも反するというべきであるから、その背後に契約上の 解釈の相違や権利関係の紛争等、私的領域の問題があるとしても、公序良俗に反す る商標と認めることは妨げられない。
ウ したがって、本件商標A〜Cは、商標法4条1項7号に該当するというべき であるから、原告が主張する本件審決A〜Cの取消事由2には理由がない。
(3) 本件商標D〜Gについて(被告の主張する取消事由について)
ア これに対し、本件商標D〜Gについては、前記(1)イのとおり、MPSA契約 には明示されていないが、同契約の実質的当事者というべき被告は、目的が限定さ れているとはいえ、Tシャツ等にアルバムカバーアート等を複製して販売する権利 や、被告の氏名を使用する権利を原告に許諾していたのであるから、当該販売が国 内で円滑に行われるべく、原告が商標登録出願をすることを少なくとも黙認してい たと推認できるし、原告による本件商標F、Gの登録出願に承諾を与えている。そ うすると、この頃(平成14〜15年)にされたエンジェル2を構成とする本件商\n標D、E及び「MARK GONZALES」の文字列からなる本件商標F、G(指定商品は、D 及びGが第18類(かばん類等)、E及びFが第25類(洋服等))の各登録出願について、原告に不正の目的、意図等を認めることはできない。
前記(1)及び(2)のとおり、その後、本件ライセンス契約が締結され、その最終盤 期においては原告等と被告との間で紛争となり、原告が、不正の目的をもって商標 登録出願するなどの事態となったが、少なくとも、平成26年頃に被告が本件ライ センス契約上のロイヤリティの受領を拒むようになるまでは、サクラグループによ る被告に関連する商品のライセンス事業は円滑に進められていたとみられ、また、 被告も、結局は令和3年12月31日までのロイヤリティ又はロイヤリティ相当額 を受領している。そうすると、原告等と被告との紛争が深刻になったのは、被告が 原告等に対して、本件ライセンス契約を更新等する意思がないとし、全ての商標権 の返還を求めるようになった令和2年頃からというべきであり、その間、本件商標 D〜Gに関しては、登録後15年以上の間、契約に沿って、安定的に使用されてき たということができる。
そして、出願時に不正の目的、意図等が認められない商標についてライセンス契 約を締結し、その利用関係等を整理するのであれば、その契約の定めにより、契約 終了時に当該商標権をどのように取り扱うか等を規律することができるのであっ て、現実に、本件ライセンス契約11条においても、登録した権利の返却に関する 条項が設けられているところである。本来、商標法4条1項7号は、商標の構成自\n体に公序良俗違反がある場合に商標登録を認めない規定であって、商標の構成自体\nに公序良俗違反がないとして登録された商標について、例えば、社会通念の変化に よって、その構成が善良の風俗を害するおそれがある商標となるなど反公益的性格\nを帯びるようになっている場合、後発的に同号に該当し、同法46条1項6号の規定により無効とすべき場合がないとはいえない。しかし、本件商標D〜Gに関して いえば、原告等と被告との間で後発的に法的紛争が生じたのは、当事者間の契約の 解釈の相違や、商標の使用態様等によるものであって、その商標の構成自体が、社\n会的妥当性を欠くことになったものではなく、また、いまだ社会通念に照らして著 しく妥当性を欠き、反公益的性格を帯びるようになったというものでもなく、これ らは本来的には民事訴訟等により解決されるべきものである。
そうすると、本件商標D〜Gの査定登録時以降の事情を考慮したとしても、本件 商標D〜Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったということはできない。
イ 被告は、本件商標D〜Gについて本件ライセンス契約が適用され、原告はこ れらに係る商標権を被告に返還すべき義務があるのにこれを怠っていると主張す る。確かに、上記のとおり、本件ライセンス契約は、本件商標D〜Gをも念頭にお いて締結されたものと認められるが、商標権の移転登録義務があるのであれば、そ の履行を請求すべきであって、これを拒んでいるからといって登録に係る商標が公 序良俗に反するとなるものではない。
被告は、原告等が本件ライセンス契約に伴う信義則上の義務に違反して、被告の ライセンスビジネスを妨害しているとか、原告は、被告の信用等にフリーライドする目的を有していると主張する。確かに、前記のとおり、原告は、令和2年頃以降、 原告等と被告との紛争が顕在化した後、不正の目的をもって本件商標A〜Cを出願 し、原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品を販売等 することを妨害、阻止しようとし、また、本件商標D〜Gに係る商標権等により、 被告のサブライセンシーや販売店に警告書を送付した事実も認められる。しかし、 前記のとおり、本件ライセンス契約を締結した時点で、本件商標D〜Gは、関係者 間において何ら問題なく存続していたのであるから、契約終了後の帰属等について は契約で規律することができたはずであるし、不当な権利行使については、別途権 利の濫用や不正競争防止法等の規律により、またパブリシティ権の問題についても、 民事訴訟等で解決されるべき筋合いのものである。本件商標A〜Cの登録出願に不 正の目的があったからといって、原告が本件商標D〜Gについて商標権を保持し続 けることまでもが、商標法の目的に反して公正な商標秩序を乱すとか、健全な法感 情に照らし条理上も許されないということはできない。
ウ したがって、本件商標D〜Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったと いうことはできないから、被告が主張する本件審決D〜Gの取消事由には理由がない。

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令和5(行ケ)10087  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月8日  知的財産高等裁判所

商標「三金工業」(標準文字)が、引用商標「三金/Sankin」と類似するか、または、出所混同生ずるか(4条1項11号、15号)について争われました。 裁判所は、一部の指定商品・役務については、類似する、出所混同生ずると判断しました。

前記(イ)の各事実によれば、デ社は、遅くとも昭和23年の設立から 平成13年末までの約53年間「三金工業株式会社」の商号を、平成1 4年から平成28年末までの約15年間「デンツプライ三金株式会社」 の商号を、それぞれ使用し、長年にわたり歯科用材料、歯科用医療機器 等を製造販売しており、その事業実績は少なくとも業界の中堅規模以上 であったと認められる。また、デ社は、歯科医療関係者を中心とする需 要者に会社名を表示する広告宣伝を継続的に行い、「三金」、「サンキ\nン」又は「SANKIN」を商品名に含む商品についても、本件商標が 出願された平成29年まで長年にわたり継続的に製造販売され、年間数 千万円程度の純売上額を恒常的に上げていたことが認められる。 デ社の事業譲渡に係る経緯をみても、被告及びギコウ社は、デ社の歯 科技工所等の事業を譲り受ける価値があるものと判断するとともに、 「三金」、「SANKIN」の知名度、ブランド力をも評価していたと みるのが相当であり、このことは、歯科医療関係者の認識の程度を裏付 ける事情の一つといえる。 そうすると、本件商標の指定商品に含まれる歯科用材料、義歯等の取 引者、需要者である歯科医療関係者の間では、「三金」の表記及びその\n称呼の表記である「サンキン」、「SANKIN」は、デ社又はその製\n造販売する商品を表すものとして、広く認識されていたと認められる。\n
(エ) 以上の事実を前提に判断すると、本件商標は、「工業」の部分が出所 識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「三金」の部分は、 取引者、需要者のうち歯科医療関係者に対しては現に出所識別標識とし ての印象を強く与えているということができる。そうすると、当該部分 は、その他の取引者、需要者からみても同様に出所識別標識としての称 呼、観念が生じ得るものである。これらの点に鑑みると、本件商標の 「三金」と「工業」とは、分離して観察することが取引上不自然である と思われるほどに不可分的に結合していると認めることはできず、「三 金」の部分を抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも 許されると解するのが相当である。
・・・
ア 本件商標とデ社の表示との類似性の程度\n
前記1(1)イ、ウで述べた理由から、「三金」、「サンキン」及び「S ANKIN」の表示(以下「三金」等の表\示という。)は、歯科医療関係 者の間では、デ社又はその製造販売する商品を表すものとして広く認識さ\nれおり、「三金」等の表示と本件商標「三金工業」は類似し、その類似性\nの程度も相当程度高いといえる。
イ 「三金」等の表示の周知著名性及び独創性の程度\n
前記1(1)イのとおり、「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間では\n周知であったと認められるが、これ以外の取引者、需要者の間では、周知 であったとまでは認められない。また、独創性が認められないことは、デ 社及び被告が関係するもの以外にも「とんかつ三金」、「サンキン」又は 「SANKIN」の文字を図案化等した商標、「株式会社三金」、「サン キン株式会社」等の例が多数存在することからも明らかである(乙1の1 〜3)。 なお、引用商標自体については、「三金」等の表示以上の周知性、独創\n性を有するとは認められない。
ウ 本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性等
(ア) デ社は、歯科医療関係者を需要者とする歯科用材料、歯科用医療機器 等を製造販売しており(前記1(1)イ(イ))、少なくとも本件商標の指定 役務のうち「義歯の加工」については、デ社の製造販売する商品との類 似性が認められることは前記のとおりである。しかるところ、証拠(甲 116、117)及び弁論の全趣旨によれば、「金属の加工」「セラミ ックの加工」は、金属又はセラミックを材料とする歯科用材料及び歯科 用医療機器の製造と関連性が高いこと、近年、歯科用材料等を作製する ための3Dプリンターの導入が進んでおり、デ社を含む原告グループに おいても、歯科医療のために設計された3Dプリンターを利用し、自動 化した歯科治療システムを提供していることが認められるところ、この ような実情は、本件出願日である平成29年10月30日の時点でも存 在していたことが推認され、これに反する証拠はない。これを踏まえる と、本件商標の指定役務のうち後で述べる「義肢の加工」及び歯科用材 料等との類似性が認められる「義歯の加工」(前記1(2)ア)を除く各 役務(第40 「金属の加工、セラミックの加工、金属加工機械器具の 貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提 供」。以下「本件金属加工等役務」という。)は、デ社又はそのグルー プ会社の業務に係る商品又は役務と密接に関連しているものと認められ、 その取引者及び需要者も歯科医療関係者であるという共通点が認められ るというべきである。
(イ) 他方、本件商標の指定商品のうち、本件薬剤等商品以外のもの(第5 類「乳幼児用粉乳、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、 乳幼児用食品」、第10類「睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マッ サージ器、家庭用電気マッサージ器」)及び指定役務のうち「義肢の加 工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、デ社又はその グループ会社の業務に係る商品又は役務との性質、用途又は目的におけ る関連性は乏しく、取引者及び需要者の共通性も認め難い。 原告は、本件薬剤等商品以外の指定商品も医療用品又は衛生用品とい う歯科用材料及び歯科用医療機器と同じ性質を有し、同一又は類似の商 品である旨主張するが、これらの指定商品が医療又は衛生の用途で通常 用いられることを裏付ける証拠はなく、デ社その他の歯科用材料及び歯 科用医療機器を製造販売する事業者がそれらの商品を通常製造販売して いる等、商品・役務の出所の混同を生じさせるような事情も認められな い。
エ 以上の事情を総合すると、本件商標は「三金」等の表示と類似しており、\n「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間において、デ社又はその製造販\n売する商品を表すものとして広く認識されている上、デ社又はそのグルー\nプ会社の業務に係る商品又は役務は本件金属加工等役務と密接に関連して いるのであるから、本件商標を本件金属加工等役務に使用するときは、そ の取引者及び需要者である歯科医療関係者において、その役務がデ社又は 同社と緊密な関係にある事業者の業務に係る役務であると誤信されるおそ れがあるということができる。

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令和6(行ケ)10007    商標権  行政訴訟 令和6年8月5日  知的財産高等裁判所

「Jimny Fan/ジムニーファン」の2段併記の商標について、 「スズキ社のオフロード車の名称」の「Jimny(ジムニー)」に対して、類似または混同生ずるとの審決(4条1項11号、15号)が維持されました。

これを本件について見るに、確かに、Jimny商標(「Jimny (ジムニー)」)がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示\nするものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く 知られていたことは上記のとおりであり、したがって、仮に、Jimn y商標が「自動車」に使用された場合を想定すれば、商品の出所識別標 識として強く支配的な印象を与えると判断することには十分な理由があ\nるといえる。しかし、本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品 に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識 を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社 を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフ ロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行して いる事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社\nを含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場(上記 2(2)ア参照)等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助する ことはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。 このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要 者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等 が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い(そ\nのような認識を基礎づける証拠は一切提出されていない。)。
なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品 の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の「Jimny」 及び「ジムニー」の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的 な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図 していることは明らかである。)、それは「出所識別標識」とは次元の 異なる問題であり、「Jimny」及び「ジムニー」の部分を結合商標 の要部として抽出する根拠となるものではない。 本件審決が、「本願商標は、その構成中の『Jimny』の欧文字及\nび『ジムニー』の片仮名が強く支配的な印象を与えるものであり、引用 商標との類否を判断するに当たって、当該文字を本願商標の要部として 抽出し、これを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許され る」とした判断は、「商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を 与える場合」に結合商標の要部認定を認める前記最判の趣旨を正解しな いものといわざるを得ない。
・・・
(1) 上記1(2)の枠組みに従って判断するに、まず、Jimny商標がスズ キ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅\n広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたことは上記のとおり であり、また、「Jimny(ジムニー)」は普通名詞に由来しない造語と 理解されるものである。したがって、Jimny商標の周知著名性及び独創 性の程度は、いずれも高いものと評価される。
(2) そこで、次に、本願商標の指定商品(本願補正商品)とスズキ社の業務 に係る商品・役務との関連性について検討する。
ア 上記1(3)でも述べたように、自動車メーカーが自ら又は系列ディー ラー等を通じて自動車の関連グッズを販売したり付随サービスを提供し たりすることは珍しくないと解され、スズキ社においても、オフロード 車(ジムニー)そのものにとどまらない一定の商品・役務につき、周知 のJimny商標に係る信用を利用して、ジムニー関連ビジネスという べき業務を展開することは十分考えられる。\n
イ しかし、本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類「オフロー ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めて ニッチな商品であるところ、取引の実情として先に認定したとおり、ス ズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発 行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願補正商品に接し た取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系 列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識すると\nも考え難い。 加えて、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を\n10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商 標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に 伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジム ニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助していることも前 述のとおりである。
ウ 以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimn\ny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのも のにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係 る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三 者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立 たない「棲み分け」が成立していると認められる。
(3) 以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社 のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められない というべきである。よって、本願商標は、商標法4条1項15号に該当する ものではない。

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車関係の似た事件では、「スバリスト」事件がありました。

◆平成24(行ケ)10013

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令和6(行ケ)10032  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年7月31日  知的財産高等裁判所

クローバ図形と文字「アイデンタルクリニック」の結合商標について、引用商標と類似するのか(4条1項11号)が争われました。裁判所は、要部は文字部分であると判断して、類似するとした審決を維持しました。引用商標1、2は、アルファベット「I」を図形化したロゴと「「I DENTAL CLINIC」または、「アイデンタルクリック」の結合商標です。

ウ 本願文字部分について
本願文字部分中「i」の欧文字は英語アルファベットの第9字であり(乙 6、9)、「i」の欧文字部分の上に配された「アイ」の文字が、同欧文字 部分の読み仮名(ルビ)を表したものであることは明らかであるから、本願\n文字部分からは「アイデンタルクリニック」の称呼が生ずる。 そして、「デンタルクリニック」の文字が「歯科医院」の意味を有する外 来語であることは、現在の日本における英語の普及度合からみて、一般的 に理解されているものと解され(乙7、14、15)、任意の文字と合わせ て、歯科医院の名称の一部として実際に使用されている実情にある(乙8、 16)。「デンタルクリニック」の文字に関する上記使用の実情から、本願 文字部分は、歯科医院の名称を連想させるものの、本願文字部分全体とし て一般の辞書等に掲載されているものではなく、具体的な意味合いを認識 させるものであるとはいえない。また、本願商標の指定役務である「歯科医 業」等の需要者は、その役務における他のサービスと区別する目印として、 その提供者に係る歯科医院等の名称に着目してそのサービスの選択に当た ることが一般的と解され、本願商標に接する需要者は、いかなる植物を図 案化したものか自体明らかでない本願図形部分に着目するのでなく、「歯 科医院の名称」を表していると考えられる本願文字部分に、より一層着目\nし、当該文字(語句)より生ずる称呼によって、取引に当たるのが自然であ るといえる。
エ 本願商標の要部
以上に認定したところに鑑みれば、本願図形部分からは出所識別標識と しての称呼、観念が生じないと認められ、また、本願図形部分と本願文字部 分は間隔を大きく開けて配置されており、商標全体としての構成上の一体\n性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、本願文字部分 から生ずる称呼によって取引に当たる結果、本願文字部分が独立した出所 識別標識としての機能を果たすということができるから、本願文字部分が\n本願商標の要部に当たるというべきである。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、本願商標は、本願図形部分の中心部を頂点とし、本願文字部 分の最初の文字と最後の文字が他の2頂点となるような、正三角形状に 間隔を空けて配置されたものであり、外観における全体の配置の一体的 なバランスがあり、また、本願図形部分は、本願文字部分における「i」 を象形様に図形化したもので、本願図形部分に係る五つ葉のクローバー の花言葉の一つである「愛」・「愛情」と、本願文字部分における「i」 のフリガナ「アイ」とに称呼や観念における関連性があるから、本願商標 について分離観察するのは不適当である旨主張する。 しかし、本願商標に、本件図形部分の一番上でなく中心部が頂点であ る正三角形の存在を認識するような手がかりは何ら存在しない。
また、原告は、本願図形部分について、「iの上部点丸」が五つ葉のク ローバーの葉の部分、「iの下部棒」が五つ葉のクローバーの茎の部分を 表すというのであるが、本願図形部分の大きな葉の部分が「iの上部点\n丸」に当たり、これと接着して小さく横に伸びる茎の部分が「iの下部棒」に当たるというのは、「i」の欧文字の構造(上部点丸が下部棒に比\nべ小さく、両者は分離しており、下部棒が直立している。)に鑑み無理が あるというほかなく、本願図形部分が「i」の図形化であるとは認められ ない。また、五つ葉のクローバー自体一般に認識されていると認められ ないことは上述のとおりであるから、ましてその花言葉が一般に認識さ れているともいえない。原告の主張は採用できない。
(イ) また、原告は、本願文字部分のうちの「デンタルクリニック」は、本願 商標の指定役務との関係において単なる役務の提供の場所等を記述的に 表示するものであり、本願文字部分のうちの「i」は、アルファベット一\n文字で識別力がないから、それらをつなげた本願文字部分についても識 別力がなく、「iデンタルクリニック」(アイデンタルクリニック、I D ENTAL CLINIC)と称される歯科医院及びこれに類する歯科医 院は、国内に数多く存在する旨主張する。
たしかに、「iデンタルクリニック」は、歯科医院を意味する「デンタ ルクリニック」にアルファベット1字の「i」を結合させたにすぎないも のであり、それ自体として、高い識別力を発揮しているとまではいえな いと解される。しかし、「アイデンタルクリニック」の称呼を生ずる歯科 医院の使用例(甲9の2〔特に、番号21、22、32、34、36、3 7、43〜46、51、61、62、64、69〜71、74、80〕、 乙20〜22)を踏まえても、「i(アイ)デンタルクリニック」が出所 識別機能を有しないといえるほど一般的でありふれたものとまではいえ\nず、少なくとも、本願商標の要部認定という観点から、本願文字部分を要 部と認定するに妨げはないというべきである。

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令和6(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月28日  知的財産高等裁判所

商標「あらごしみかん(標準文字)」について、識別力無し(3条1項3号違反)とした審決が維持されました。指定商品は33類「「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」です。3条2項の主張も否定されました。

上記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、本願商標の指定商品 等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料 を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文\n字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用 されている実情があるものと認められる。 その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料であ る果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉 などを残した商品の事例も存在する(上記(4)ア(ア)、(エ)、(カ)ないし(ソ)など)。 また、本願商標の指定商品中の「日本酒」に含まれる商品「にごり酒」に ついては、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこし て」製造するものであること(上記(4)ア(ウ)、(オ)など)からも、「あらごし」 の語が、本願商標の指定商品を取り扱う分野において、広く親しまれている ものということができる。
さらに、本願商標の指定商品と関連する、ジュース飲料を取り扱う分野に おいて、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」の文字が使用さ れている事例(上記(4)ア(タ))もあることが認められる。 そして、上記(4)イによれば、本願商標の指定商品中の「リキュール」等に おいて、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されていることが認められ る。
本願商標は、「あらごし」の文字と、「みかん」の文字とを組み合わせてな るところ、上記のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情によ れば、本願商標をその指定商品に使用するときは、それに接する需要者、取 引者において、「粗くこしたみかん(みかんを粗くこしたもの)」ほどの意味 合いが認識されるものということができる。 そうすると、本願商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、 単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品(粗くこしたみ かんを使用した商品)」であること、すなわち、商品の品質を表してなるもの\nと理解、認識されるというべきである。
以上によれば、「あらごしみかん」の語は、本願商標の指定商品との関係で、 商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表\示であり、本願商標 の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示\nしたものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商 品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる。\nしたがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を 普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法\n3条1項3号に該当する。本願商標の商標法3条1項3号該当性について、 本件審決の判断に誤りはないというべきである。

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令和5(行ケ)10123  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月21日  知的財産高等裁判所

 原告は、被告の保有する商標「世界救世教」が公序良俗違反(4条1項7号)、公益著名商標違反(4条1項6号)、出所混同違反(4条1項15号)に該当するとの無効審判を請求しましたが、棄却されました。知財高裁に出訴しましたが,同様の判断がなされました。  原告は、宗教法人「世界救世教」で、被告は「世界救世教主之光教団」です。一時期、原告を包括宗教法人、被告を被包括宗教法人との関係でしたが、原告がこれを解消したという事情があります。

(2) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕のとおり、本件商標が商標法4条1 項7号に該当すると主張するが、この主張の根拠の一つとして、被告が、被 告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願を行ったものであ り、被告が本件商標を使用することによって被告と原告との混同が生じてい ることを挙げているので(前記第3の1〔原告の主張〕(1)、(2)、(4)エ、オ)、 まずこの点について検討する。
ア 本件商標は「世界メシア教」の文字を横書きしてなるものであり、「セカ イメシアキョウ」との称呼が生じ、「教」が宗教を意味し、宗教団体の名称 の末尾に付されることがある事実は周知であるといえるから、何らかの宗 教団体との観念が生じるといえる。 これに対し、引用標章は、「世界救世教」の文字よりなり、「セカイキュ ウセイキョウ」との称呼が生じ、何らかの宗教団体との観念が生じるとい える。
本件商標と引用標章の類否について検討する。
まず、外観に関し、両者は、「世界・・・教」という点で外観が共通する 点があるものの、本件商標は6文字で構成され、引用標章は5文字で構\成 されていて、全体の構成文字数が異なる上、本件商標の3文字目から5文\n字目の「メシア」の文字と、引用標章の3文字目及び4文字目の「救世」 の文字が相違していることから、本件商標と引用標章は全体として外観が 相違する。
また、称呼に関して、両者は「セカイ・・・キョウ」という点で称呼が 共通する点があるものの、本件商標から生じる称呼である「セカイメシア キョウ」と、引用標章から生じる呼称である「セカイキュウセイキョウ」 は、その音の数が異なる上、各呼称を構成する「メシア」の音と「キュウ\nセイ」の音が相違していることから、本件商標と引用標章は、全体として 称呼が相違する。
さらに、観念に関し、本件商標と引用標章は、いずれも何らかの宗教と の観念が生じるという点で観念において共通する点があるが、どのような 宗教であるかは本件商標及び引用標章からは明らかではなく、また本件商 標の「メシア」の語は世の人々を救う「人物」を意味する語であるのに対 し、引用標章の「救世」の語は「世の人々を苦しみの中から救うこと」と いうように「行動」を意味する語であるから、観念において類似するとは いえない。したがって、本件商標と引用標章は、外観及び称呼が異なり、観念にお いて類似するとはいえないから、その類似性の程度は低い。
イ(ア) 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)及び(2)のとおり、原告を指し 示すものとしての「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ 教」、「メシア教」との名称が社会に浸透しており、本件商標はこれらの 名称に類似していると主張する。 しかし、原告が「世界救世教」の「救世」に「メシヤ」と振り仮名を 付して「セカイメシヤキョウ」と称していたのは、Aが宗教団体として 世界救世教を設立した昭和25年から、原告が「世界救世教」を「セカイキュウセイキョウ」と呼ぶように改めた昭和32年までであり、その 期間は約7年にすぎない上、本件商標の登録出願及び登録査定の時点か ら60年以上も前のことである。 本件商標の需要者は、その指定役務との関係から、宗教に関心のある 者のみならず、広く一般の消費者と認められるところ、上記の事情から すれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世界メシヤ 教」が原告を指す名称であるとの事実が本件商標の需要者に周知であっ たとは認められない。
また、同様に、本件商標の登録出願及び登録査定の時点において、「世 界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシヤ教」が原告を指す名称であると 本件商標の需要者に周知であったとも認められない。
(イ) 原告は、原告について記載した書籍、雑誌、インターネット上の記事等 において、「世界メシア教」等の名称が原告を示すものとして表示されて\nいると主張し、複数の書籍の写し等(甲13〜17、78、80〜83、 107〜109)を証拠として提出する。 しかし、書籍、雑誌、インターネット等に宗教法人あるいは宗教団体 に関して説明した記載があったとしても、当該説明に記載された事実が 広く一般に知られた事実であると直ちに認められることにはならない。 また、原告が証拠として提出した各書籍等の内容について検討すると、 まず、甲13の添付資料とされている書籍又は印刷物は、いずれも原告 又は「世界救世教いづのめ教団」が編集したものであり、その信者を対 象として発行された書籍又は印刷物であると認められ、信者以外の者が これらの書籍又は印刷物に記載された内容を広く認識するに至ったとは 認められない。
甲14ないし16及び107ないし109の書籍等は、いずれも辞典 又は事典(インターネット上の記載を含む。)であり、「世界メシア教」、「メシヤ教」又は「メシア教」の項において、「世界救世教」の項を参照 すべき旨の記載が存在することが認められるものの、これらの記載は、 原告が過去に「世界救世教」を「セカイメシヤキョウ」と称していた事 実を踏まえたものにすぎないと考えられる。 それ以外の書籍の写し等(甲17、78、80〜83)には、「世界救 世教」が「メシア教」若しくは「世界メシヤ教」とも称されている旨の 記載、又は原告を指す名称として「メシア教」の語を用いているものと 解される記載が存在すると認められるが、これらの書籍等については、 その発行日から相当の時間が経過していると認められるか、又は書籍の 発行若しくはインターネット上の記載がされた時期が不明である。 以上を総合すると、原告が証拠として提出する上記書籍等をもって、 「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア教」 の名称が原告を指すものであると広く一般に知られているとは認められ ない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件商標の登録出願及び登録査定の時点にお いて、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、「メシア 教」との名称が原告を指すものであるとの事実が、本件商標の需要者に 周知であったとは認められない。 そうすると、「世界メシヤ教」、「世界メシア教」あるいは「メシヤ教」、 「メシア教」が原告を指す名称であることが社会一般に広く知られてい るために、本件商標をその指定役務に使用することによって、その出所 が原告であるとの混同が生じるとは認められない。
ウ 上記ア及びイによれば、本件商標をその指定役務に使用することによっ て、その出所が原告であるとの混同を生じるおそれがあるとは認められな い。 熱海新聞が、被告に関する記事において、その名称を「世界救世教」と 記載した事例(甲95)をもって、本件商標をその指定役務に使用した場 合に出所の混同が生じると認められることにはならない。 そして、本件商標をその指定役務に使用することによって上記内容の混 同を生じるおそれがあると認められないことからすれば、被告が、上記内 容の混同を生じさせる目的で本件商標の登録出願をしたとも認められな い。 前記(1)の認定事実によれば、原告が被告との包括・被包括関係を廃止し、 被告がこれを争っており、現在でも原告と被告との間の訴訟が係属してい るなど、原告と被告との間に対立関係があることが認められるが、このこ とをもって、被告が被告と原告との混同を生じさせる目的で本件商標の登 録をしたと認められることにはならない。
(3) 原告は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの主張の根拠の一つ として、被告が本件商標を使用すれば、取引者及び需要者をして、「世界メシ ア教」なる名称を有する宗教団体が存在し、その宗教団体が商品又は役務を 提供しているとの誤解を生じさせるとともに、被告がその規則に定めた名称 と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動を行うことは宗教法人法に違 反しており、本件商標の登録を認めることは被告の違法な行為を助長するも のであって、商取引の秩序を混乱させるものであることを挙げる(前記第3 の1〔原告の主張〕(3)、(4)アないしオ)。
この点について検討すると、被告が本件商標をその指定役務に使用した場 合に、本件商標の取引者及び需要者が、「世界メシア教」という名称の宗教団 体が当該役務を提供していると認識するとしても、被告とは別の「世界メシ ア教」という名称の宗教団体が存在しており、当該宗教団体が当該役務を提 供していると認識するとは認められない。仮に、被告とは別の「世界メシア 教」という名称の宗教団体が存在するとの認識を有する者がいたとしても、 そのことをもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性 を欠くものであると解されることにはならない。
また、宗教法人が、その規則において定める名称と異なる別称を用いて活 動することが宗教法人法に違反するか否かと、当該宗教法人が当該別称と同 一の文字からなる商標の登録を受けることが商標法上許容されるか否かとは、 関連性のない別個の問題であって、仮に前者が違法であると解されるとして も、そのことによって、当該別称と同一の文字からなる商標が商標法4条1 項7号に該当することにはならない。なお、文化庁による宗教法人の管理運 営に関する書籍(甲85、86)は、宗教法人の規則に定める運営方法と実 際の運営方法が一致することが必要である旨記載しているにすぎないのであ って、宗教法人の管理運営上、規則で定めた名称と活動名称が一致すること まで要求しているものではなく、現に、規則上の名称と異なる名称で活動す る宗教法人は、被告以外にも現実に複数存在することが認められる(乙7〜11)。 原告が挙げる商標審査便覧42.107.36「『会社』等の文字を有する 商標の取扱い」(甲96)については、そもそも商標審査便覧は何ら法規範性 を有するものではないが、この点を措くとしても、上記商標審査便覧42. 107.36は、その表題にあるとおり、「会社」等の文字を有する商標に関\nする基準であり、その(2)に「自己の商号と異なる商号を自己の商標として採 択・使用すること」とあるのは、会社の商号と異なるが「株式会社」などの 会社の種類を示す文字が含まれる標章を採択・使用することを指すと解され るところ、本件商標には会社や法人の種類を示す文字は含まれない。また、 上記商標審査便覧42.107.36は、会社がその商号とは異なる名称(会 社の種類を示す文字を含まない名称)を用いて活動をしている場合に、当該 名称と同一の文字からなる商標が商標法4条1項7号に該当すると述べてい るものではない。したがって、上記商標審査便覧42.107.36の記載 内容をもって、本件商標が公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠 くものであると解することはできず、本件商標が商標法4条1項7号に該当 すると解すべきということにもならない。
以上によれば、被告が「世界メシア教」の名称を用いて活動することが宗 教法人法に違反するか否かを判断するまでもなく、被告が規則において定め る名称と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動していることは、本件 商標が商標法4条1項7号に該当すると解する根拠とならないというべきで ある

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令和3(行ケ)10108  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和4年7月14日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので、アップしました。審決は、本件商標「チロリアンホルン」が引用商標「チロリアン」と類似しないと判断しました。これに対して、知財高裁は、商標「チロリアン」は周知なので、「チロリアンホルン」から、「チロリアン」の抽出が許されるとして、類似すると判断しました。

ア 本件商標は、「チロリアンホルン」の文字をゴシック体で横書きに書して なり、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とから構成される\n結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間\n隔で一連表記されており、構\成文字に相応して、「チロリアンホルン」の称 呼が生じる。
次に、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの人々。オーストリア西部 からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独 特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル地方の。チロル風の」 (広辞苑第七版)といった意味を有する語として、「ホルン」の文字部分は、 「角笛。金管楽器」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、一般 に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及 びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、\n同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、\n「チロリアン」の文字部分と「ホルン」の文字部分とを分離して観察する ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているもの とは認められない。
そして、前記1(2)認定のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登 録査定日(平成29年1月10日)当時、福岡県を中心とした九州地方に おいて、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」) のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたこ とに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合に は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名\nを示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象 を与えるものと認められる。そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して商品の出所識別標識として機能\し得るものと認められるから、本件商標か ら上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標1とを比較して商標 そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
イ これに対し、被告は、1)本件商標は、「チロリアンホルン」の文字を横書 きしてなり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔 に1行でまとまりよく表されており、その文字構\成は一連一体であること からすると、「チロリアン」の部分と「ホルン」の部分は、分離して観察す ることが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している、2)標章 「チロリアン」、「TIROLIAN」は、本件商標の登録出願時及び登録 査定時において、原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者、需要\n者の間に広く認識されていたとはいえないから、本件商標の構成中の「チ\nロリアン」の文字部分が、本件商標の指定商品の取引者、需要者に対し、 原告の商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはい えない、3)菓子「チロリアン」については、発売後ほどなくして、標章「チ ロリアン」を使用して独自に販売を行う事業主体が複数生じ、平成8年以 降は、標章「チロリアン」を使用する事業主体間で多数の紛争が生じてお り、標章「チロリアン」について統一的な管理が行われていなかったこと に照らすと、取引者、需要者は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文\n字部分が、複数の事業主体のいずれに係る表示であるかを認識することが\n困難であるから、「チロリアン」の文字部分は、原告の出所識別標識として 強く支配的な印象を与えるものに該当しない、4)菓子「チロリアン」を製 造販売する複数の事業主体について、経済的・組織的な一体性を持つグル ープといったものが形成されたことはないから、「チロリアン」の文字部分 が、上記のようなグループの識別標識として強く支配的な印象を与えると 評価する余地もない、5)「チロリアン」の文字部分に出所識別機能がない\nにもかかわらず、これがあるかのように評価して結合商標の分離観察を行 い、その結果として、標章「チロリアン」について他の事業主体に比べて 不十分な使用実績しか有しない原告に引用商標1ないし3を含む「チロリ\nアン」の登録商標を独占させるような帰結は、社会的妥当性に欠けるなど と主張して、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部として抽出す ることは許されない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、商標の各構成部分がそれを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結 合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が\n取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印 象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取\n引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商 品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商\n標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較し\nて商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当であ る。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い\n印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得る\nか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標の どのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなど\nの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断において は、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識\nし得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業\n主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認 識することまでは要しないと解するのが相当である。 被告主張の1)については、前記アのとおり、「チロリアン」の文字部分の 観念及び称呼、「ホルン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、本件商標 を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表\記されているこ とを勘案しても、本件商標において、「チロリアン」の文字部分と「ホルン」 の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ ど不可分的に結合しているものとは認められない。
被告主張の2)ないし4)は、取引者、需要者において、本件商標の構成中\nの「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等) について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部 分が原告の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるもの であるから、その前提において採用することができない。 また、被告主張の5)については、結合商標の構成部分の一部を要部とし\nて抽出することができるかどうかの判断は、上記のとおり、当該結合商標 に接した取引者、需要者の認識及び印象に係る問題であって、本件商標と の関係では、原告による標章「チロリアン」の使用実績の規模等によって その判断が左右されるものではないから、その前提において採用すること ができない。

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令和5(行ケ)10122  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年5月16日  知的財産高等裁判所

一時期、新聞で騒がれた商標です。商標「雨降」が、商標「AFIRI」から無効か(4条1項11号、同10-15号、19号、7号違反)について争われました。審決は無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。

本件商標は、「雨降」の文字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるとこ ろ、当該文字は「[あめふり]雨の降ること。雨が降っている間。」、「[うこう]雨降り。」の意味を有する語であるから、その構成文字に相応して、「アメフリ」又は「ウ\nコー」の称呼を生じ、「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ず るものである。
別紙2引用商標目録記載の商標登録第6245408号商標(以下「引用商標」 という。)は、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、当該文字は、辞書類に 載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているとも いい難いことから、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるものである。 したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「アフリ」の称呼を生じ、特定\nの観念は生じない。
本件商標と引用商標との類否について、両者は、漢字と欧文字と文字種が異なる ものであるから、外観において明確に区別できる。また、称呼については、本件商 標から生ずる「アメフリ」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、 2音目において「メ」の音の有無に差異を有するものであるが、4音と3音という 比較的短いこれらの称呼を一連に称呼するときは、互いの語調語感が異なり聞き誤 るおそれはない。そして、本件商標から生ずる「ウコー」の称呼と、引用商標から 生ずる「アフリ」の称呼とは、音構成が相違することから、両者は、称呼上、明瞭\nに聴別し得るものである。さらに、観念については、本件商標は「雨の降ること。 雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は観念 が生じないものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても 相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。したがって、本件商標は、 商標法4条1項11号に該当しない。
(2) 商標法4条1項10号及び15号該当性について
原告が、本件商標の登録の無効理由において、商標法4条1項7号、10号、1 5号及び19号に該当するとして引用する商標は、原告の業務に係る「ラーメンの 提供」に使用する「AFURI」の欧文字からなる商標(以下「使用商標」という。) である。
使用商標は、本件商標の登録出願時において既に、原告の役務を表示するものと\nして需要者の間に広く認識されていたとは認められず、また、使用商標は引用商標 と同じつづりからなるものであるから、本件商標と使用商標とは、前記(1)と同様の 理由により、非類似の商標である。 そうすると、被告が、原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして\n需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品若しく は役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものではなく、 また、被告が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者 は、当該商品が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混 同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号又は同項15号のいずれにも該 当しない。

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令和5(行ケ)10117  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月9日  知的財産高等裁判所

商標「ベスリ会/東京TMSクリニック」が引用商標「東京TMSクリニック」と類似するとした審決が維持されました。争点は、「東京TMSクリニック」が識別力があるか、分離抽出できるのかですが、知財高裁は識別力あり、分離抽出できると判断しました。

本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、前記(1)ア、イのと おり、我が国の首都を意味する「東京」、経頭蓋磁気刺激のアルファベット略語であ る「TMS」及び診療所を意味する「クリニック」の語を明朝体風の同書体、同じ 大きさ及び等間隔にて一連に書してなるものである。 ここで、「TMS」(経頭蓋磁気刺激)による治療(経頭蓋磁気刺激療法。以下「T MS治療」という。)は、成人の鬱病への新たな治療方法として、我が国において、 平成29年に適応が承認され、令和元年には保険適用が認められたものである(甲 1〜5、14、15、21)。もっとも、東京都保健医療局が提供する東京都医療機 関案内サービス「ひまわり」の検索結果(令和5年11月7日及び同月10日実施) によると、「精神科」の検索ワードにより該当する医療機関が2470件であったの に対し、「精神科」及び「TMS」の検索ワード(and検索)により該当する医療 機関は4件にとどまった(乙7、8)。また、原告が提出する証拠によっても、令和 5年12月頃時点において、東京都内でTMS治療を提供する医療機関は11か所 程度しか認められない(甲16。原告と被告補助参加人がそれぞれ設置する医療機 関を除く。)。そうすると、TMS治療が平成15年から令和5年にかけて合計23 本の雑誌記事で掲載、紹介されたことや、令和元年7月にNHKクローズアップ現 代で特集、紹介されたこと等、TMS治療について原告が主張する事情を考慮して も、本願商標の指定役務の取引者、需要者のうち、少なくとも精神疾患等を有する 患者やその関係者等は、本件出願日のみならず現在においても、「TMS」の語から、 直ちに「経頭蓋磁気刺激」や、鬱病の治療方法としての「TMS治療」を想起する とは認められない。むしろ、精神疾患等を有する患者やその関係者等が必ずしも医 学・医療用語に精通していないと推認されることや、「TMS」が日本語ではなく欧 文字(アルファベット)の並びであることからすると、これを何らかの造語と認識 する可能性が高いと認められる。\n
さらに、医療役務の提供に当たり、「クリニック」の語は、「中目黒○○クリニッ ク」のように、地名、医師の姓、主たる診療科目等の文字と組み合わせて使用され ることにより、一連の文字列として特定のクリニック(診療所)の名称を表すもの\nとして使用されている実情が認められる(甲12、16〜18、乙7〜10、16、 18、23〜46、丙5〜7)。
以上のとおり、本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分は、こ\nれを構成する文字が同書体、同じ大きさ及び等間隔で一連に書されていること、本\n願商標の指定役務の取引者、需要者の一部(精神疾患等を有する患者及びその関係 者等)は「TMS」の語から直ちに「経頭蓋磁気刺激」や「TMS治療」を想起す るとは認められず、むしろ何らかの造語と認識する可能性が高いこと、「クリニッ\nク」の語が他の語と組み合わされて特定の診療所の名称を表す取引の実情が認めら\nれること等に照らすと、単に提供される役務の場所や方法、内容等を示すにすぎな いものとはいえず、それ自体が一連となって、役務の提供主体としての診療所の名 称を表すものとして、出所識別標識としての機能\を果たすものといえる。

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令和5(行ケ)10115 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月11日  知的財産高等裁判所

商標「Nepal Tiger」が識別力なしとした審決が取り消されました。指定商品は 第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。令和5(行ケ)10116では、商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決は維持されています。

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されて いるのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売 地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表\示と して何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を 認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、 多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最 高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・集 民126号507頁)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売 地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である\nというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係 で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切\nな表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場\n合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の 取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又 は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やそ の指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成\n
本願商標は「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる商\n標である。 「Nepal Tiger」は「Nepal」の文字及び「Tiger」 の文字を組み合わせたものであって、「Nepal」は国家(ネパール)を示 す語であり、「Tiger」は「トラ」を意味する語である(乙1〜4)。
(3) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情
ア 以下の新聞記事及びウェブサイトには、ネパールで手織りのじゅうたん の生産がされていることや、我が国で開催された展示会等においてネパー ルで生産された、又はネパールから輸入された手織りのじゅうたん、ラグ が展示、販売されたことに関する記載が存在する。
・・・・
イ 以下の新聞記事、書籍及びウェブサイトには、チベットにおいてじゅう たんの生産が行われている旨の記載、チベットで生産されたじゅうたんを 「チベットじゅうたん」又は「チベタンじゅうたん」と称する旨の記載と ともに、ネパールで生産されるじゅうたんも「チベットじゅうたん」「チベ タンラグ」などと称する旨の記載、又は、チベットからネパールに亡命し た者あるいはネパールに居住するチベット難民がネパールにおいてじゅ うたんの生産を行っている旨の記載が存在する。
・・・・
ク 上記アないしキに掲げた新聞記事、書籍及びウェブサイトのいずれにも、 「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在し ない。
(4) 検討
ア 上記(3)に掲げた新聞記事、雑誌、ウェブサイトの記載によれば、以下の 事実が認められる。
(ア) ネパールにおいてじゅうたんの生産が行われていること。
(イ) チベットからネパールに移住した者、あるいはチベット難民がネパー ルにおいてじゅうたんの生産に従事しているとするウェブサイト等の 記載が複数存在すること。
(ウ) ネパールで生産されたじゅうたんを「チベットじゅうたん」あるいは これに類する「チベタンじゅうたん」「チベタンラグ」などの名称で表示\nするウェブサイト等の記載が複数存在すること。
(エ) トラの図柄が描かれたじゅうたん又はトラの形状を模したじゅうた んを紹介するに当たって「タイガー」の語を用いているウェブサイトの 記載が複数存在すること。
(オ) トラの形状を模した「チベットじゅうたん」(あるいは「チベタンじゅ うたん」「チベタンラグ」)を「チベタンタイガーラグ」又は「チベタン タイガーカーペット」との名称で表示するウェブサイト等の記載が複数\n存在すること。
(カ) ネパールで生産されたもの又はネパールから輸入したものであるト ラの形状を模したじゅうたんを紹介するウェブサイト等の記載が複数 存在すること。
イ しかし、上記(3)クのとおり、上記(3)アないしキに掲げた新聞記事、書籍 及びウェブサイトのいずれにも、「Nepal Tiger」又は「ネパー ルタイガー」との記載は存在せず、その他本件の全証拠によっても、本願 の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Ti ger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものが あるとは認められない。
したがって、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパー ルで生産された、トラの図柄を描いた、あるいはトラの形状を模した、じ ゅうたん、ラグ」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって 使用されている取引の実情が存在するとは認められず、その他の本願の指 定商品に関連して「Nepal Tiger」の語句が一体として用いら れる取引の実情が存在するとも認められない。
そして、「Nepal Tiger」は、前記(2)のとおりの意味を有する 「Nepal」の語及び「Tiger」の語を組み合わせたものであると いえるところ、「Nepal Tiger」の語句が一体のものとして辞書 等に採録されているとは認められず、トラに関する亜種の名称や通称名等 として「Nepal Tiger」、「ネパールタイガー」又は「ネパール トラ」と呼ばれるものがあるとも認められない。
そうすると、「Nepal Tiger」の語句は、通常は組み合わされ ることのない「Nepal」の語と「Tiger」の語とが組み合わされ、 まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、これ\nを一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
ウ 本願商標の指定商品は前記第2の1(1)のとおりであり、この指定商品の 内容からすれば、本願商標の取引者はじゅうたん類の製造業者及び販売業 者であり、需要者は一般の消費者であると認められる。 そして、前記イのとおり、「Nepal Tiger」の語句は、これが 本願の指定商品に関連して用いられる取引の実情があるとは認められず、 かつ、一体として組み合わされた一種の造語であるとみるのが相当である ことからすれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tige r」の語句について、指定商品に係る商品の産地、販売地又は品質を表示\nしたものであると直ちに認識するものではないというべきである。 そうすると、本願商標の取引者、需要者は、「Nepal Tiger」 の語句について「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、 あるいは、トラ形状を模したじゅうたん」、「ネパールで生産又は販売され る、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模した敷物」又は「ネ パールで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの形 状を模したラグ」を表示するものであると必ずしも認識するものではない\nから、本願商標は、その指定商品に使用された場合に、本願商標の取引者、 需要者によって、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認\n識されるものであるとは認められない。
エ 以上によれば、本願商標は、取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものとはいえず、指定商品の産地、販売地又は品質を普通 に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商\n標法3条1項3号に該当するものとは認められない。

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◆令和5(行ケ)10116

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令和5(行ケ)10131  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

商標「hololive Indonesia」について、「インドネシアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認識されるとして、4条1項16号(品質誤認)違反の拒絶理由があるとして、拒絶審決となりました。知財高裁は審決を維持しました。

(1) 商標法4条1項16号について
商標法4条1項16号の趣旨は、商標を構成する文字、図形等が直接的に\n特定の商品の特性を表示したものであるため、当該商標が特定の商品以外の\n商品に使用された場合に、取引者、需要者が商品の品質を誤認して、商品を 購入することがないように取引者、需要者の保護を図ることにある。取引者 又は需要者において、本願商標の構成から将来を含め一般に認識される特性\nを有する特定の商品と指定商品とが関連し、かつ、本願商標が表示している\n特定の商品の特性と指定商品が有する特性が異なるため、本願商標を指定商 品に使用した場合に、本願商標が使用された「商品の品質の誤認を生ずるお それ」があることになる。
(2) 本願商標について
ア 本願商標は、「hololive Indonesia」の文字を標準 文字で表してなるものであり、「hololive」の文字と「Indo\nnesia」の文字との間には、1文字分の空白があり、「hololi ve」の文字と「Indonesia」の文字を組み合わせたものと理解 される。 「hololive」の文字は辞書に載っていない造語であり、自他商 品の識別力を有するものである。「Indonesia」の部分は、我が 国における英語ないしローマ字の普及度からみて、需要者において、「イ ンドネシア」と読むこと、「東南アジア群島部にある共和国」(乙1)で あるインドネシアを欧文表記したものであることが容易に理解できるも\nのと認められる。 そして、我が国において、国名としてのインドネシアは広く知られてい る(乙2〜4)。
イ 各種ウェブサイトによれば、自他商品又は自他役務の識別力を有する文 字と、「インドネシア」あるいは「Indonesia」の文字を組み合 わせたものとして、「(Zalora Indonesia ザローラ・ インドネシア)」(乙8、ファッション)、「(Reebonz Ind onesia リーボンツ・インドネシア)」(乙8、主にバッグ、靴、 ジュエリー)、「(Ree Indonesia リー・インドネシア)」 (乙8、インドネシアのデザイナーが製作した衣料ブランドを取り扱う。)、 「マクドナルドインドネシア」(乙9、ファストフード)、「丸亀インド ネシア」(乙10、うどん)がある。そして、これらは、いずれも、イン ドネシアで生産される物又はインドネシアで提供される役務に関するも のである。
ウ 本願の指定商品及び指定役務には、例えば、第3類「化粧品」「香料」、 第9類「スマートフォン用ストラップ」「コンピュータ用ゲームソフトウ\nェア(記憶されたもの)」「コンピュータ用ゲームソフトウェア(電気通\n信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」「眼鏡の部品及び 附属品」、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品」「キ ーホルダー」「身飾品」「時計」、第16類「文房具類」、第18類「か ばん類」「傘」、第21類「貯金箱」「お守り」、第24類「布製身の回 り品」「布団」、第25類「被服」「履物」、第26類「頭飾品」、第3 5類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す る便益の提供」「おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務にお いて行われる顧客に対する便益の提供」「楽器及びレコードの小売又は卸 売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第41類「電子出 版物の提供」「インターネットを利用して行う映像の提供、映画の上映・ 制作又は配給、オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないもの に限る。)」「ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配\n給、映画の演出(広告用映画の演出を除く。)」「オンラインによるゲー ムの提供」及び第43類「飲食物の提供」等、一般消費者が需要者となる ものが含まれている。
各種ウェブサイトには、これらの指定商品又は指定役務に対応する商品 又は役務であって、インドネシアで生産等されたもの、あるいはインドネ シアに由来するものとして、例えば、化粧品、香水(乙31)、香油(乙 35)、携帯ストラップ(乙38)、コンピュータゲーム(乙32、36)、 眼鏡スタンド(乙37)、宝石(乙39)、キーホルダー(乙24)、宝 飾品(乙28)、時計(乙29)、ペンケース(乙27)、かごバッグ(乙 26)、傘(乙40)、貯金箱(乙43)、お守り石(乙41)、ブラン ケット、タペストリー、テーブルクロス(乙30)、布製インテリア(乙 42)、クッションカバー(乙44)、被服(乙25)、パンプス(乙4 6)、ヘアアクセサリー(乙47)、電気敷毛布(乙45)、置物(乙4 9)、楽器(乙48)、インドネシア制作の映画(乙34)、インドネシ ア料理(乙33)等が、我が国で販売ないし提供されていることが示され ている。
エ 以上のとおり、1)本願商標のうち「hololive」の部分は造語で あり自他商品又は自他役務の識別力を有するのに対し、「Indones ia」の部分は、一般に知られた東南アジアの共和国であるインドネシア を意味することは需要者において容易に理解できること、2)自他商品又は 自他役務の識別力を有する文字と、「インドネシア」あるいは「Indo nesia」の文字を組み合わせたものがインドネシアで生産される物又 はインドネシアで提供される役務に関して使用されていること、3)本願の 指定商品及び指定役務には一般消費者が需要者となるものが含まれ、これ に対応する商品又は役務でインドネシアで生産等されたもの、ないしはイ ンドネシアに由来するものが我が国で販売ないし提供されていることが 認められるのであって、そうすると、本願商標をその指定商品及び指定役 務について使用するときは、これに接する需要者は、その構成中の「In\ndonesia」の文字から、インドネシアで生産又は販売された商品や、 インドネシアに関する役務といった商品の品質又は役務の質を通常理解 するものというべきである。 一方、本願の指定商品及び指定役務は、インドネシアに関するものに限 定されていないから、インドネシアで生産又は販売された商品以外の商品 やインドネシアに関する役務以外の役務も含むことになる。 以上によると、本願商標をその指定商品及び指定役務中、インドネシア で生産又は販売された商品以外の商品や、インドネシアに関する役務以外 の役務に使用した場合には、商品又は役務の質の誤認を生じさせるおそれ があるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきで ある。
(3) 原告の主張について
ア 原告は、本願商標の使用に係る指定商品及び指定役務は、バーチャルア イドルであるVTuberグループ関連の商品及び役務、いわゆるキャラ クターグッズ等であり、当該グループ又はその構成員キャラクターのファ\nン以外の者が、本願商標を構成する「Indonesia」の文字が前記\nグループ及びキャラクターの活動拠点であることを知らずに、「インドネ シアで生産された商品」あるいは「インドネシアに関連する役務」等と認 識して購入することは考えられず、本願商標の使用に係る指定商品及び指 定役務は、原告のウェブサイトを中心に提供されていることからも、上記 ファン以外の者が本願商標に触れることは考えにくい旨主張する。 しかし、本願商標の指定商品及び指定役務の需要者はVTuberグ ループのファンに限られるものではなく、また、原告の主張からしても、 原告のウェブサイトのみでこれらの商品が提供されているわけではない のであって、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、本願商標は、仮想的アイドルグループの名称として使用され、 かつ、当該仮想的アイドルグループ関連の商品及び役務に使用されるもの であるところ、地域的名称を含む芸能人グループの名称の使用に係る商品\n等において、当該地域的名称は、当該商品の生産地等とは認識され得ない 旨主張する。 しかし、一般需要者において、本願商標が芸能人グループの名称である\nと認識するような事情は認められず、原告の主張は前提を欠くものである。
ウ 原告は、YouTubeにおける「hololive」、「holol ive Indonesia」及び「hololive Indones ia」に属する個々のVTuberのチャンネルの登録者は延べ806万 人以上になるから(甲14〜24)、本願商標は原告のVTuberのア バターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして需要者に広\nく認識されている旨主張する。
しかし、「hololive」のチャンネルの登録者は185万人である (甲14)ものの、その他の各チャンネル(甲15〜24)については、映 像等の多くが欧文字で投稿されていることから、登録者のうちどの程度が 日本の需要者であるのかの裏付けはないというべきで、「hololiv e」、「hololive Indonesia」が原告のVTuberの アバターであるキャラクターのグループ名称を表すものとして我が国の需\n要者に広く認識されていると認めることはできない。
エ 原告は、商標に国名が含まれる場合に直ちに誤認混同を生じると認定す る国は日本のみであり、不当である旨主張する。 しかし、本件審決は、商標に「Indonesia」の文字が含まれるこ との一事をもって本願商標が商標法4条1項16号に該当すると認めたわ けではなく、本願の指定商品及び指定役務に係る需要者の範囲とその認識 等について個別に検討・判断しているところ、その判断手法は相当である から、原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10068 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

商標「O!OiMAIN」が、マルイの商標「〇|〇|」とは非類似、混同なしと審決が、前者の非類似との判断が間違っているとして、取り消されました。

別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標は、「O」、「!」、「O」、「i」、 「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシ ック体様の黒の書体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるもので あり、これらの文字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。もっとも、\nその中の「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字は、「主要な」等の意味を有 し、我が国において日常的に広く用いられる「メイン」の語に相当する英単語であ る「MAIN」の語を構成するものであるから、この「MAIN」の語は、ひとま\nとまりの単語として強く認識されるというべきである。
(ウ) O!Oi部分
「O!Oi」が辞書等に搭載された語であり、又は一般的に用いられている語で あると認めるに足りる証拠はないから、O!Oi部分は、特定の意味合いを有しな い一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対 比において視覚的に目立つものである。そして、前記(ア)のとおり、被告が代表者\nを務めるファインドフォーム社は、その製品に「OIOI」、「OiOi」、 「O!Oi」等の標章を付して販売するなどしている。このような取引の実情(な お、「OIOI」又は「OiOi」の標章と「O!Oi」の標章とが変わりのない ものと理解し得ることについては、後記ウ(ア)のとおりである。)を併せ考慮する と、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強 く与えるものであると認めるのが相当である。
(エ) MAIN部分
「MAIN」の語は、前記(イ)のとおり、「主要な」等という意味を有する英単 語であり、かつ、それが多くの場合、形容詞として他の語を修飾するために広く用 いられている語であることは、公知の事実である。「O!Oi」の語が特定の意味 合いを有しない一種の造語であり、視覚的に目立つものであって(前記(ウ))、前 記(ア)の取引の実情において商品の出所識別標識としての印象を強く与えるような 形で使用されているのに対し、「MAIN」の語については、そのような事情は見 当たらない。すなわち、MAIN部分は、「MAIN」の語の通常の意味に照らし ても、取引の実情においても、商品の出所識別標識としての印象は、O!Oi部分 が与えるそれと比較して、相当程度に弱いというべきである。
(オ) 本件商標の分離観察の可否についての小括
以上によると、本件商標のO!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるといえ、前記(イ)の本件商標の構成を考慮\nしても、本件商標の各構成部分(O!Oi部分及びMAIN部分)は、それらを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合してい ると認められないから、本件商標については、その構成部分の一部であるO!Oi\n部分を抽出し、O!Oi部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断するこ とも許されると解するのが相当である。
ウ 本件商標のO!Oi部分と引用商標3の類否 事案に鑑み、本件商標との類否判断の対象として、引用商標3を取り上げる。
(ア) 外観
別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標のO!Oi部分は、「O」、「!」、 「O」及び「i」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシック体様の黒の書 体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの文 字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。\n別紙引用商標目録記載3のとおり、引用商標3は、「〇」、「|」、「〇」及び 「|」の各記号を同じ書体(ゴシック体様の赤の書体)、同じ大きさ及び等しい間 隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの記号は、まとまりよく一体的に構\n成されている。
ここで、引用商標3の「|」の記号は、「I」の文字を図案化したものとして、 両者は実質的には変わりのないものとの印象を与え得るものであり、また、「I」 の文字と「i」の文字は、互いにアルファベットの大文字・小文字の関係にあるに すぎないから、これらも、実質的には変わりのないものと理解され得るといえる。 さらに、証拠(甲65〜77)及び弁論の全趣旨によると、企業名、ブランド名、 サービス名、芸名等を表すロゴや文字列の中で、「I」の文字又は「i」の文字に\n代えて「!」の符号又は縦若しくは斜めの棒状の図形の下部に「●」、「■」、 「★」等の図形を配した記号を用いる例が多数あるものと認められ、「!」の符号 も、アルファベットの文字列の中に配されたときは、「I」の文字又は「i」の文 字と変わりのない文字であると理解され得るものである。加えて、「〇」の記号も、 「O」の文字を図案化したものとして、両者は実質的には変わりのないものとの印 象を与え得ること、前記説示したところを踏まえると、その取引者、需要者からみ れば、本件商標のO!Oi部分と引用商標3の字体の相違(色彩の相違を含む。) が類否判断に当たって大きな意味合いを有するものとは認め難いことを併せ考慮す ると、取引者、需要者は、本件商標のO!Oi部分を見た場合、これが「〇|〇|」 と実質的には変わりのないものを指すと理解し得るということができるから、本件 商標のO!Oi部分の構成と引用商標3の構\成との間に厳密には前記のような相違 があるとしても、隔離観察を前提とすると、両者は、外観上極めて相紛らわしいも のであると認めるのが相当である。 被告は、「F!T」等の文字列の場合と異なり、「O!Oi」の文字列について は、「!」の符号を「I」の文字等に置換して認識すべきことが強く示唆されてい ないなどと主張するが、迅速を貴ぶ商取引において、アルファベットの文字列の中 に配された「!」の符号は、その形状(縦棒上の図形とその下部に小さく点様の図 形を配してなるもの)に照らし、当該文字列からの示唆の大小にかかわらず、「I」 の文字等と変わりのないものと理解され得るというべきである。被告の主張を採用 することはできない。
(イ) 称呼
本件商標のO!Oi部分は、途中に感嘆符を含む一種の造語であるが、証拠(甲 37〜41、45、52〜54、56、58)及び弁論の全趣旨によると、O!O i部分からは、「オーアイオーアイ」又は「オアイオアイ」の称呼が生じるものと 一応認められる。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「マルイ」の称呼が生ずるものと認めるの が相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。そして、本件商標のO!O i部分と引用商標3とが、前記のとおり、外観上極めて相紛らわしいことを踏まえ ると、O!Oi部分についても「マルイ」の称呼が生じ得るというべきである。
(ウ) 観念
本件商標のO!Oi部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語である。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「丸井又はマルイのロゴマーク」などの観 念が生ずるものと認めるのが相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。 そうすると、本件商標のO!Oi部分が特定の意味合いを有しないとしても、同部 分は引用商標3と外観上極めて相紛らわしいから、同部分からは、引用商標3と同 様の観念が生じ得るものということができる。
(エ) 検討
以上のとおり、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、外観、称呼及び観念の 点で極めて相紛らわしいものであり、加えて、前記1のとおり、引用商標3と外観 上同一視し得る形状を有する原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者 の間に広く認識されていることなどを併せ考慮すると、本件商標のO!Oi部分と 引用商標3については、両者が同一の商品又は役務について使用された場合、その 商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当で ある。したがって、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、取引の実情に基づき、 外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し て全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。

◆判決本文

関連です。
こちらは商標「5252byO!Oi」と「OIOI」の類否です。こちらも商標類似と判断されました。

◆令和5(行ケ)10067

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令和5(行ケ)10112  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月14日  知的財産高等裁判所

審決(異議申立)は、販売代理店による商標取得行為が、公序良俗に反すると判断しました。指定商品は「動物用のハーネス」です。知財高裁も同様です。

ア 引用商標に関する原告の認識について
原告は、ハキハナ社の販売代理店として本件商品を含む同社の商品を販 売していたのであるから、同社が本件商品を含む同社の商品に引用商標を 使用していることを認識しながら、引用商標と構成文字を共通にする本件\n商標について、引用商標が用いられている商品と同種の商品である第18 類「愛玩動物用引きひも、愛玩動物用のハーネス」を指定商品として、商 標登録出願を行い、登録を受けたものと認められる。
イ 原告が本件商標の登録出願を行った意図及び目的について
(ア) 前記(1)の認定事実によれば、原告がハキハナ社との間で締結した本件 契約は原告に独占的販売権を与える内容ではなかったが、原告は、自ら が行った本件商品の広告宣伝や、本件商品の販売促進のための方策によ って、日本国内における本件商品の知名度が上がり、販売が増えたもの であって、このような貢献を行った原告にはハキハナ社の商品に係る独 占的販売権などの契約条件や待遇が同社から与えられるべきと考えて いたが、同社はそのような意向を有さず、原告以外の者が並行輸入によ り入手したハキハナ社の商品を日本において販売することを問題視し ない販売戦略を採っており、原告にもこれを伝えていたこと、その後、 アブレイズが原告よりも安価で本件商品を販売するようになり、原告は、 アブレイズの販売活動は、原告の宣伝活動や方策によって向上した知名 度にただ乗りするものであって、アブレイズへの対応が必要であると考 え、ハキハナ社に対し、一時的な独占的販売権を原告に与えるなどの手 段によって、原告がアブレイズに対応することに協力するよう求めたが、 ハキハナ社がこれを拒絶したこと、そのわずか数日後、原告は、ハキハ ナ社が引用商標又はこれに類似する商標につき国際商標登録出願をし ていたものの、我が国においては商標登録していないことを奇貨として、 同社に一切知らせることなく、秘密裏に本件商標の登録を出願したこと が認められる。
原告が本件商標の登録を得た後、ハキハナ社が原告との取引を打ち切 ると伝えてきた際、原告は、本件商品が日本の市場に出なくなることは 残念であるとハキハナ社に伝えている。これは、原告が、原告以外の者 による日本国内における本件商品の販売を認めないこと、すなわち、こ のような者による本件商品の販売を妨害、阻止する意向を有しているこ とを示したものといえる。 以上の事情に加え、原告が、本件商標の登録を取得したのと近接した 時期に、本件商標権に基づき、アブレイズに対して本件商品の販売を中 止するよう実際に求めたことも考慮すれば、原告は、本件商標の登録出 願の時点から、本件商標の登録を得た後、本件商標権に基づき、アブレ イズによる本件商品の販売を差し止めるとともに、将来的に、並行輸入 等で入手した本件商品等のハキハナ社の商品を日本国内で販売する者が 現れたときに、その販売活動を差し止めるなどして、原告以外の者が日 本国内においてハキハナ社の商品を販売することを妨害、阻止する意図 を有していたものと認めることができる。
(イ) 原告が本件商標の登録出願をする以前に伝えられていたハキハナ社 の意向の内容からすれば、原告は、ハキハナ社の意向に反して無断で本 件商標の登録を得れば、ハキハナ社が原告に対する信頼関係を喪失し、 原告との取引を打ち切る可能性があることを容易に認識することがで\nきたといえる。
そして、原告は、ハキハナ社から、本件商標権をわずかな費用でハキ ハナ社に譲渡することなどの条件を満たさない限り原告との取引を打ち 切る旨伝えられたが、これに対する原告の応答(前記(1)ス)は、ハキハ ナ社との契約あるいは取引の継続を模索するものではなく、原告の貢献 に報いる内容の条件を出すようハキハナ社に迫る内容であるといえ、ハ キハナ社が原告との取引を終了すると伝えてきたことに対しても、契約 や取引の継続のための交渉を行おうとしなかった。 また、本件商標は引用商標と同一の文字で構成されているから、原告\nは、原告が本件商標の登録を受けた場合、本件商標権をハキハナ社に譲 渡しなければ、同社が、本件商品など引用商標を用いた商品を日本国内 で販売することができなくなると認識していたものと認められる。 これらの事情を総合すれば、原告は、本件商標の登録出願を行った時 点で、原告が本件商標の登録を受ければハキハナ社が引用商標を用いた 本件商品等を日本国内で販売することができなくなる事態が生じ得るこ とを認識し、そのような事態が生じても構わないと考えていたと認めら\nれ、かつ、原告の本件商標の登録出願は、ハキハナ社との契約関係や取 引における原告の利益を守ることよりも、むしろ原告以外の者による本 件商品の販売を妨害、阻止することに主たる目的があったと認めること ができる。
ウ 上記ア及びイの事情を総合すると、原告は、ハキハナ社が本件商品を含 む同社の商品に引用商標を使用していることを認識し、かつ、原告が本件 商標の登録を受ければ、ハキハナ社が引用商標を用いた本件商品等を販売 することができなくなることも認識しつつ、そのような事態が生じても構\nわないと考えて、原告以外の者が日本国内で本件商品を販売することを許 容するハキハナ社の意図ないし販売戦略に反し、本件商標権に基づいてア ブレイズによる本件商品の販売を差し止め、将来的にも、並行輸入等で入 手したハキハナ社の商品を日本国内で販売しようとする者の販売活動を 妨害、阻止することを主たる目的として、本件商標の登録出願を行ったも のと認められる。
このような原告の本件商標の登録出願は、商標登録出願について先願主 義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護すること により、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の 発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同 法1条)に反し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健 全な法感情に照らし条理上も許されないというべきであるから、本件商標 は同法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商 標」に該当するというべきである。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10108  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月27日  知的財産高等裁判所

 株式会社アクネスラボが、他社が保有している二段併記商標「アクネスラボ/ACNES LABO」に対して、無効審判を請求しました。審決は、「せっけん類については無効、それ以外の商品(5類 サプリメントなど)ついては理由無し」と判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。

証拠(甲7の1〜63)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標が 登録出願される前から、使用商標を原告の製造、販売に係る「せっけん類」 及び「化粧品」に用いていることが認められる。 このうち、「せっけん類」については、本件審決が、本件商標の指定商品及 び指定役務のうち第3類「せっけん類」について、商標法4条1項10号に 該当すると判断している。 原告は、本件商標の指定商品及び指定役務のうち第5類「サプリメント」 についても、同号に該当すると主張するので、使用商標が用いられる商品が 上記のとおりであることを前提に、以下検討する。
(3) 特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」(乙 1)は、指定商品の分類において第5類とされる「サプリメント」について、 「この商品は、人体に欠乏しやすいビタミン・ミネラル・アミノ酸・不飽和 脂肪酸などを、錠剤・カプセル・飲料などの形にしたもので、『医薬品』に該 当しない商品です。」と説明している。また、内閣府消費者委員会による「消 費者の『健康食品』の利用に関する実態調査(アンケート調査)」(甲17) では、「サプリメント」は「健康食品のうち、錠剤型、カプセル型、又は粉状 のもの」と定義され、「健康食品」は「健康の保持増進に資する食品として販 売・利用される食品(野菜、果物、菓子、調理品等その他外観、形状等から 明らかに食品と認識される物を除く。)」と定義されている。
これに対し、「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」は、指 定商品の分類において第3類とされる「化粧品」について、「この商品には、 薬事法(昭和35年法律第145号)に規定する『化粧品』の大部分及び『医 薬部外品』のうち『人体に対する作用が緩和なものであって、身体を清潔に し、美化し、魅力を増し、容貌を変え又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保 つことを目的として、身体に塗擦、散布等の方法で使用するもの』が含まれ ます。『化粧品』は、女性用のみならず、男性用又は乳児用の商品も含まれま す。」と説明している。薬事法は、平成25年法律第84号によってその名称 が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」 (薬機法)に改められたところ、薬機法2条3項は、「この法律で『化粧品』 とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若 しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似す る方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和 なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三 号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部 外品を除く。」と定義している。
これらの説明及び法律上の定義によれば、「サプリメント」は、人体に欠乏 しやすいビタミン・ミネラル等の栄養素を経口投与によって体内に摂取する ための食品であり、その使用の目的は健康の保持増進にあると認められる。 これに対し、「化粧品」は、身体に対して塗擦、散布等をする方法で使用する ものであり、その使用の目的は人の身体を清潔にし、美化し、容貌を変え、 又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあると認められるから、「サプ リメント」と「化粧品」とはその使用方法及び使用目的の根本的部分におい て明確に異なっていると認められる。
(4) 「サプリメント」と「化粧品」については、これら双方を製造する会社及 び双方を販売する会社が複数存在することは認められるものの(甲13の1・ 2、14の1〜13、甲20の1〜72)、通常同一の営業主により製造又は 販売されているとの事情があるとは認められない。 また、前記(3)のとおり、「サプリメント」が経口投与によって体内に摂取す る方法で使用し、「化粧品」が身体に塗擦、散布等をする方法で使用するとい う違いがあることからすれば、「化粧品」には経口投与による体内への摂取に は適しない成分を使用することも可能であると認められ、「サプリメント」と\n「化粧品」について、同一の成分を含む商品が存在するとしても、その原材 料が通常一致するといった関係にあるとは認められない。 需要者については、それぞれの使用目的から、「サプリメント」の需要者は 健康の保持増進に関心のある一般消費者であり、「化粧品」の需要者は身体を 清潔にし、美化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つこと に関心のある一般消費者であって、これらは一部において一致すると考えら れるが、完全に一致するとは認められない。
(5) 上記(3)及び(4)の事情を総合すると、本件商標の指定商品のうち第5類「サ プリメント」と、使用商標が用いられている商品のうち「化粧品」とは、こ れらの商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は 販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められず、商標法4条1項 10号にいう「類似する商品」に当たるとは認められない。
・・・
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり、本件商標の指定商品 のうち「サプリメント」と原告が製造・販売する「化粧品」に同一又は類 似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品 又は役務と誤認が生じるから、本件商標の指定商品のうち第5類「サプリ メント」は商標法4条1項10号に該当すると主張する。 しかし、「サプリメント」と「化粧品」の両方を製造又は販売している企 業が複数存在しており(前記(4))、その中には、当該企業が運営する同一の ウェブサイトで「サプリメント」と「化粧品」を販売する企業や、「サプリ メント」と「化粧品」に同一のブランド名を付して販売している企業があ ることが認められるが(甲13の1・2、甲14の1〜13等)、「サプリ メント」と「化粧品」が通常同一の営業主により製造又は販売されている との事情があるとは認められないことは前記(4)のとおりであり、「サプリ メント」を販売する企業の多くが化粧品を製造又は販売している、あるい は「化粧品」を販売している企業の多くが「サプリメント」を販売してい るといった事情があるとも認められない。そうすると、「サプリメント」と 「化粧品」について、使用の目的及び方法の双方について相違があること (前記(3))からすれば、上記のとおり認められる事実の限度では、これら の商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主の製造又は販 売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認めるに足りない。
「サプリメント」と「化粧品」とにおいて、同一の成分を含む商品が販 売されているとしても、通常成分が一致するといった関係にあるとは認め られず、「サプリメント」は経口投与によって体内に摂取する食品であり、 「化粧品」は身体に塗擦、散布等をする方法で使用するという違いがある ことによって、含まれる成分にも差異があると考えられる。
「化粧品」の使用の目的は、前記(3)のとおり、人の身体を清潔にし、美 化し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことにあるので あり、これらを達成することによって心身の健康維持の効果があると説か れることがあるとしても、そのような効果はあくまで間接的なものである といえる。これに対し、「サプリメント」は健康の保持増進が使用の直接の 目的であるといえるから、「サプリメント」と「化粧品」で使用の目的や用 途が一致するとはいえない。
「サプリメント」の需要者と「化粧品」の需要者は、その使用の目的が 異なることからすれば、一部において一致する者があるとしても、完全に 一致しているという事情は認められない(前記(4))。
以上によれば、原告が前記第3の1〔原告の主張〕(2)のとおり主張する 事情を考慮しても、「サプリメント」と「化粧品」について、同一又は類似 の商標を使用する場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認 されるおそれがあると認められる関係があるとは認められない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10050 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年2月5日  知的財産高等裁判所

商標「美容医局」が周知であるとして商標法4条1項10号違反の無効理由ありとした審決が維持されました。

ア 被告は、平成24年8月29日、「biyou-ikyoku.com」のドメイン名を取得し、 その頃、「美容医局」の商標(引用商標)が表示された美容クリニック専門の医師転\n職サイトを開設して、本件サービスの事業を開始し、以後、現在に至るまで本件サ ービスの事業を継続している。(甲5、乙8、11)
イ 令和元年度における医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約212億円 (乙19の1中の「職業紹介事業 運営状況(令和元年度)」の16頁)であり、医 師総数に対する美容外科医及び皮膚科医の数の割合が約4.7%(=(平成30年 12月31日現在の皮膚科医数1万4244人+同日現在の美容外科数1176人 の合計1万5420人)÷同日現在の医師総数32万7210人。乙20の1の4 頁及び11頁。以下、各年の美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売 上高を推計する際の医師数は、同日現在の数字を用いる。)であることからすると、 美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億円程度と推計さ れる。(乙19の1、乙20の1) そして、令和元年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)で あるから、美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業における本件サービス のシェアは●割近いものであると推認される。(乙23の1)
ウ 同様に令和2年度の医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約227億円 (乙19の6中の「職業紹介事業 運営状況(令和2年度)」の16頁)であること から、前記美容外科医及び皮膚科医の数の割合を乗ずると、美容外科医及び皮膚科 医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億6700万円程度と推計されるところ、 令和2年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)であるから、 そのシェアは●割近いものと推認される。(乙19の6、乙23の1)
エ 平成27年度から平成30年度までの各年の医師向けの有料職業紹介事業の 総売上高は、約154億円、約174億円、約166億円、約197億円であるの に対し、平成27年から平成30年までの各年の本件サービスの売上高は●●●● 万円、●●●●万円、●●●●●●万円、●●●●●●万円であるから、本件サー ビスは、医師向けの有料職業紹介事業全体の総売上高の増加率よりも大きな増加率 をもって、売上げが上昇した。(乙19、23)
オ 平成25年から令和2年までの各年において、本件サービスに新規登録した 医師の数は、●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●● ●人、●●●●人であった(令和2年における累計●●●●人)。なお、平成30年 12月31日現在の美容外科又は皮膚科の診療科に従事する医師の数は前記のとお り合計1万5420人である。(乙20の1、乙25)
カ 被告は、本件サービスの一環として、平成24年9月に、第1回の医師転職 支援セミナーを実施した後、たびたび転職セミナーを開催し、令和2年度には「転 科不安解消セミナー」「研修医向けノウハウセミナー」など合計30回のセミナーを 実施し、令和3年度には「初期研修医のための就活ガイダンス」など合計32回の セミナーを実施した。被告は、「美容医局」に登録した美容医療関係者のためのスキ ルアップセミナー、オペ見学・解説セミナーの提供といった役務も行っている。(甲 5の2、甲15、甲18、甲51、甲62の1、2、18及び19)
キ 被告は、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク、Facebook、Twitter といっ たインターネットにおいて、引用商標を用いた本件サービスの広告を出稿しており、 令和2年5月から7月までの間に、●●●万回を超える表示がされ、●万を超える\nクリックがされた。(甲51)
ク 令和3年8月2日付けのインターネット上の「【転職のプロが教える】美容外 科おすすめ医師転職エージェントランキング」と題する記事において、本件サービ スが、美容外科・美容皮膚科転職エージェントおすすめ求人数ランキングで、全1 2エージェント中1位として掲載されている。同記事によれば、「美容医局」の求人 数3692件は、全12エージェントの合計求人数1万1682件の約31.6% を占めている。(甲13)。
(3) 前記(2)を総合すると、本件サービスは、遅くとも令和2年頃までには、美容 外科及び美容皮膚科に転職しようとする医師並びに医師を求める美容外科及び美容 皮膚科の医療施設にとって多く利用されているサービスとなっていたということが でき、本件サービスを表すものとして使用されている引用商標は、本件商標の出願\n時である令和2年7月31日及び登録査定時である令和3年6月2日において、本 件サービスを表すものとして、その需要者である美容外科医、美容皮膚科医及びそ\nの医療施設関係者の間で広く認識されていたと認めるのが相当である。
原告は、医師全体の有料職業紹介事業に対するシェアからすると、本件サービス に周知性があるとはいえないと主張するが、そもそも本件サービスの対象とする美 容外科又は美容皮膚科の医師の数の医師全体数に占める割合が前記のとおり約4. 7%にすぎないことからすると、本件サービスの医師全体の有料職業紹介事業に対 するシェアが少ないことをもって、本件商標の知名度が低いということはできない。 そして、「美容医局」との商標が本件商標の指定役務である「職業のあっせん、求人 情報の提供、人材派遣による職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」に おいて用いられる場合には、美容外科又は美容皮膚科に関係する医療関係者以外を 対象とするものとは考え難いのであるから、美容外科又は美容皮膚科に転職する可 能性のない医師までを需要者とみるのは相当ではなく、上記原告の主張は採用する\nことができない。

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令和5(ネ)10070  損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

商標権侵害事件です。原審は約1400万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様です。論点は、スイスの国旗に似ている商標として無効理由ありかどうかです。

控訴人は、本件商標はスイスの国旗に類似しており、商標法4条1項1号 違反の無効理由があると主張する。
しかし、本件商標の形状は原判決「事実及び理由」第4の1(2)のとおりで あり、やや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形(略正方形)と、これに 囲まれた略相似形であるやや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形と、そ の内部(中央)に位置する幅広の十字からなり、前者の略四角形の縁と後者\nの略四角形の縁とがなす部分(外縁部分)と、上記十字部分は、いずれも白\n色であり、後者の略四角形の内部は、上記十字部分を除き黒色であり、上記\n十字の幅は外縁部分の3倍程度である。
これに対し、スイスの国旗は、原判決「事実及び理由」第4の2のとおり、 正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字からなり、正方形\nの内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。\nしたがって、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内 部の十字部分を除いた部分が赤色である点において、本件商標と相違してお\nり、本件商標とスイスの国旗は、控訴人が指摘する共通点を考慮しても、中 心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違する。\n被控訴人が、本件商標と同様の形状であるが、地色が赤色で十字部分が白\n色の標章を使用したことがあるとしても、そのことをもって、地色が赤色で 十字部分が白色のものも本件商標に含まれることにはならず、本件商標とス\nイスの国旗がその色において共通するとはいえない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆令和3(ワ)13895

当事者が同じ関連訴訟です。

◆令和2(ネ)10060

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令和5(行ケ)10079  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月26日  知的財産高等裁判所

 商標「地球グミ」に対して、正式名称「Planet Gummi」が、「地球グミ」として周知であるとして、無効審判を請求しました。特許庁は理由無しと判断しましたが、知財高裁は、4条1項10号違反の無効理由有りと判断しました。

ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事 情が認められるというべきである。
すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球 グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、 動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日 本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及 びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同 年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」 と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開 始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販 売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者 らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、 動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。 そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、 全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、 同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー 局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして 紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商 品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球 グミ」と称する宣伝をするようになった。)。
さらに、「地球グミ」と称する原告商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年までの動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」においては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。\n
以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定 日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商 品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消 費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと 認めるのが相当である。

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令和5(行ケ)10079  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年12月26日  知的財産高等裁判所

知財高裁(2部)は、未登録周知商標に類似する商標であると認定し、無効理由無しとした審決を取り消しました。

ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事 情が認められるというべきである。 すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Tro lli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとする ものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球 グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、 動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日 本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及 びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同 年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」 と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開 始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販 売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品とな った。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者 らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、 動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。 そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、 全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、 同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキ ングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー 局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして 紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商 品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球 グミ」と称する宣伝をするようになった。)。さらに、「地球グミ」と称する原告 商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は 商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて\n紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳 から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA 109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ 部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年ま での動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」に おいては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の 俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。 以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定 日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商 品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内\n容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消 費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと 認めるのが相当である。
イ なお、被告は、引用標章1は商標として使用されていなかったと主張するが、 前記1(13)、(15)、(16)及び(25)によると、原告は、原告商品に関する広告を内容 とする情報に引用標章1を付して電磁的方法により提供していたと認められるから、 被告の主張を採用することはできない。
(2) 本件商標と引用標章1の類否
前記第2の1(5)のとおり、本件商標は、「地球グミ」の文字を標準文字で表し\nてなるものである。これに対し、前記第2の3(1)ア(ア)のとおり、引用標章1は、 「地球グミ」の文字を書してなるものである。 このように、本件商標と引用標章1は、その外観において、極めて相紛らわしい ものである。 また、本件商標及び引用標章1からは、いずれも「チキュウグミ」の称呼が生じ るから、両者は、称呼を同じくする。 さらに、前記(1)アにおいて説示したところに照らすと、「地球グミ」は、需要 者の間において原告商品を指す語であると認識されるといえるから、本件商標及び 引用標章1からは、いずれも、「地球のグミキャンディ」などの観念のほか、「原 告商品」(商品名を「Trolli Planet Gummi」、「Plane t Gummi」などとするグミキャンディ)の観念が生じるといえ、両者は、観 念を同じくする。 以上によると、本件商標は、引用標章1と称呼及び観念を同じくし、外観におい て極めて相紛らわしいから、引用標章1に類似する商標であると認めるのが相当で ある。

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